霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第三章 美人(びじん)の腕(うで)〔一七〇五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第67巻 山河草木 午の巻 篇:第1篇 美山梅光 よみ(新仮名遣い):びざんばいこう
章:第3章 美人の腕 よみ(新仮名遣い):びじんのうで 通し章番号:1705
口述日:1924(大正13)年12月19日(旧11月23日) 口述場所:教主殿 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年8月19日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ:オリオン座(オレオン星座) データ凡例: データ最終更新日:2026-07-30 22:14:37 文字数:3379 OBC :rm6703
愛善世界社版:30頁 八幡書店版:第12輯 40頁 修補版: 校定版:30頁 普及版:68頁 初版: ページ備考:
001 満天(まんてん)の星光(せいくわう)燦爛(さんらん)としてハルの湖面(こめん)に金砂(きんしや)銀砂(ぎんしや)を沈(しづ)めし如(ごと)く、002月(つき)の光(ひかり)はなけれども名(な)に背(お)ふ大湖水(だいこすい)の空(そら)は赤(あか)く、003銀河(ぎんが)はオーラ山(さん)の頂(いただ)きより、004バルガン城(じやう)の空(そら)に向(むか)つて清(きよ)く流(なが)れて居(ゐ)る。005東天(とうてん)を仰(あふ)ぎ見(み)れば006スバル星(せい)はオレオン星座(せいざ)を重(おも)たげに牽引(けんいん)して頭上(づじやう)高(たか)く進(すす)んで来(く)るやうに見(み)える。007太白星(たいはくせい)は今(いま)やオーラ山(さん)の山頂(さんちやう)の老木(らうぼく)の木蔭(こかげ)を宿(やど)として、008木(こ)の葉(は)をすかしてピカリピカリと覗(のぞ)いて居(ゐ)る。009帆(ほ)は痩(や)せて音(おと)もなく船(ふね)の歩(あゆ)みもいと遅(おそ)く010殆(ほとん)ど停船(ていせん)せしかと思(おも)ふ許(ばか)りの静(しづ)けさである。011湖中(こちう)に散在(さんざい)する大小(だいせう)無数(むすう)の島嶼(たうしよ)は、012パインの木(き)に包(つつ)まれてこんもりと静(しづ)かに浮(うか)んで居(ゐ)る。013時々(ときどき)赤児(あかご)の泣(な)くやうな海鳥(うみどり)の声(こゑ)、014アンボイナの翅(はね)の羽(は)たたきのみ一同(いちどう)の耳朶(じだ)を打(う)つ。015天(てん)は静寂(せいじやく)にして声(こゑ)無(な)く、016海面(かいめん)穏(おだや)かにして呼吸(こきふ)せず017恰(あたか)も活力(くわつりよく)を失(うしな)ひし睡(ねむ)れる海(うみ)を往(ゆ)く心地(ここち)。018船客(せんきやく)一同(いちどう)は甲板(かんばん)に出(い)で夜露(よつゆ)を浴(あ)びながら、019彼方(あなた)此方(こなた)に煙管(きせる)の雁首(がんくび)から微(かすか)な火(ひ)の粉(こ)を飛(と)ばして居(ゐ)る。020此(この)時(とき)八挺艪(はつちやうろ)を漕(こ)ぎ乍(なが)ら、021矢(や)の如(ごと)く波切丸(なみきりまる)に向(むか)つて猛犬(まうけん)の如(ごと)く噛(か)みついて来(き)た一艘(いつさう)の船(ふね)には、022十四五(じふしご)人(にん)の海賊(かいぞく)が乗(の)つて居(ゐ)た。023忽(たちま)ち舷(ふなばた)に縄梯子(なはばしご)をヒラリと投(な)げかけ、024アハヤと云(い)ふ間(ま)もなく大刀(だいたう)を提(ひつさ)げ上(のぼ)つて来(き)たのは025此(この)湖上(こじやう)にて鬼賊(きぞく)と恐(おそ)れられて居(ゐ)るコーズと云(い)ふ頭目(とうもく)であつた。026彼(かれ)は甲板(かんばん)に立(た)ちはだかり、027十四五(じふしご)人(にん)の部下(ぶか)と共(とも)に抜刀(ばつたう)の儘(まま)、028呶鳴(どな)つて居(ゐ)る。
029コーズ『此(この)方(はう)はハルの湖水(こすい)の主人公(しゆじんこう)、030海賊(かいぞく)の頭目(とうもく)コーズの君(きみ)だ。031最早(もはや)俺(おれ)の現(あら)はれた以上(いじやう)は文句(もんく)はいらぬ。032持物(もちもの)一切(いつさい)何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も貴賤(きせん)貧富(ひんぷ)の区別(くべつ)なく、033吾(わが)前(まへ)に献上(けんじやう)せよ。034四(し)の五(ご)の申(まを)して拒(こば)むにおいては035汝(なんぢ)が素首(そつくび)一々(いちいち)引(ひ)きちぎり、0351縄(なは)をとほして数珠(じゆず)を作(つく)り036ハルナの都(みやこ)の大雲山(だいうんざん)に献納(けんなふ)してやる。037どうだ返答(へんたふ)を聞(き)かせ』
038と傍若(ばうじやく)無人(ぶじん)に強託(がうたく)を並(なら)べ出(だ)した。039一同(いちどう)の乗客(じやうきやく)は、040慄(ふる)ひ戦(をのの)いて船底(せんてい)に潜(ひそ)むもの、041或(あるひ)は悲鳴(ひめい)を上(あ)げてデツキの上(うへ)を右往(うわう)左往(さわう)するもの、042声(こゑ)さへも打(う)ち立(た)てず打(う)ち慄(ふる)ふもの、043見(み)るも悲惨(ひさん)の光景(くわうけい)であつた。044コーズは部下(ぶか)に命(めい)じ乗客(じやうきやく)を一々(いちいち)赤裸体(まつぱだか)となし045用意(ようい)の綱(つな)を取(と)り出(だ)し、0451掠奪品(りやくだつひん)を一纒(ひとまと)めとなし046吾(わが)船(ふね)に今(いま)や投(な)げ込(こ)まむとする一刹那(いつせつな)、047船底(せんてい)よりヌツと表(あら)はれて来(き)た名人(めいじん)の画伯(ぐわはく)が描(ゑが)いたやうな天成(てんせい)の美人(びじん)、048丹花(たんくわ)の唇(くちびる)を慄(ふる)はせながら、049生蝋(きらふ)の如(ごと)き白(しろ)き腕(かひな)を薄暗(うすやみ)の中(なか)に輝(かがや)かせつつ、
050女(をんな)(ヨリコ姫)『汝(なんぢ)はハルの湖水(こすい)の主(あるじ)と聞(きこ)えたるコーズと覚(おぼ)えたり。051懲(こら)しめくれむ』
052と云(い)ふより早(はや)く、053仁王(にわう)の如(ごと)き荒男(あらをとこ)の襟髪(えりがみ)を掴(つか)んで、054エイと一声(いつせい)海上(かいじやう)めがけて投(な)げ込(こ)めば055不意(ふい)を打(う)たれて、056遉(さすが)のコーズも空中(くうちう)を二三回(にさんくわい)上手(じやうず)に回転(くわいてん)し乍(なが)ら、057自分(じぶん)の船(ふね)にドスンと落(お)ちて尻餅(しりもち)をついた。058他(た)の乾児(こぶん)共(ども)は驚(おどろ)いて前後(ぜんご)左右(さいう)に逃(に)げ廻(まは)るを、059……エヽ木葉(こわつぱ)共(ども)面倒(めんだう)なり……と将棋倒(しやうぎだふし)に掴(つか)んでは投(な)げ、060掴(つか)んでは投(な)げ、061瞬(またた)く中(うち)にデッキの大掃除(おほさうぢ)を終(をは)つて了(しま)つた。062美人(びじん)は白(しろ)き歯(は)を現(あら)はし乍(なが)らさも愉快(ゆくわい)げに『オホヽヽヽ』と微(かすか)に笑(わら)ひ、063悠々(いういう)として階段(かいだん)を下(くだ)り、064何(なに)喰(く)はぬ顔(かほ)をして吾(わが)寝室(ねま)に入(い)り、065腕(うで)を枕(まくら)に熟睡(じゆくすゐ)の夢(ゆめ)に入(い)つた。066乗客(じやうきやく)一同(いちどう)は怪(あや)しき女(をんな)のどこともなく現(あら)はれて、067悪漢(わるもの)を海中(かいちう)に投(な)げ込(こ)みし噂(うはさ)のみにて喧々(けんけん)囂々(がうがう)と囁(ささや)き合(あ)ふのみであつた。068梅公(うめこう)はウツラウツラ睡(ねむ)りつつありしが、069人々(ひとびと)の囁(ささや)く声(こゑ)にフツと目(め)を醒(さ)まし、070何事(なにごと)ならむと耳(みみ)を澄(す)まして聞(き)き居(ゐ)れば、071諸人(もろびと)の声(こゑ)…助(たす)けの神(かみ)が現(あら)はれた…とか、072…海(うみ)の竜神(りうじん)の化身(けしん)が吾(われ)等(ら)を救(すく)つて呉(く)れたのだ…とか、073…オーラ山(さん)の天狗(てんぐ)の娘(むすめ)だ…とか、074…海(うみ)の女(をんな)だ…とか、075種々(いろいろ)雑多(ざつた)の憶測(おくそく)を逞(たくま)しふして居(ゐ)る。076船長(せんちやう)はやつと安心(あんしん)せしものの如(ごと)く、077怖(おそ)る怖(おそ)るデッキの上(うへ)から海面(かいめん)を見渡(みわた)せば、078コーズの船(ふね)は見(み)えねども079遥(はるか)に遠(とほ)き島影(しまかげ)に十数艘(じふすうさう)の賊船(ぞくせん)が波切丸(なみきりまる)の前途(ぜんと)を要(えう)し、080手具脛(てぐすね)引(ひ)いて待(ま)つものの如(ごと)く思(おも)はれてならなかつた。081船長(せんちやう)のアリーは双手(もろて)を組(く)んで思(おも)ふやう……今(いま)の船路(せんろ)を取(と)らば必(かなら)ずやコーズの手下(てした)の奴(やつ)に再(ふたた)び脅(おびや)かされむ。082迂回(うくわい)ではあるが、083船首(せんしゆ)を東(ひがし)に転(てん)じ、084岸辺(きしべ)に近(ちか)づきつつ進(すす)み行(ゆ)かむものと……、085部下(ぶか)の水夫(すいふ)に令(れい)を下(くだ)し、086艪(ろ)を操(あやつ)り、087櫂(かい)を漕(こ)ぎ乍(なが)ら一生(いつしやう)懸命(けんめい)に、088鏡(かがみ)の如(ごと)き海面(かいめん)に俄(にはか)の波紋(はもん)を描(ゑが)きつつ、089力(ちから)限(かぎ)りに駆(かけ)出(だ)した。090船(ふね)は忽(たちま)ち暗礁(あんせう)に乗(の)り上(あ)げ、091船底(せんてい)はガラガラガラ バチバチバチと怪(あや)しき音(おと)を立(た)て船客(せんきやく)一同(いちどう)の肝(きも)を潰(つぶ)した。092忽(たちま)ち阿鼻(あび)叫喚(けうくわん)、093助(たす)けて呉(く)れい助(たす)けて呉(く)れいと悲鳴(ひめい)の声(こゑ)、094船(ふね)の全面(ぜんめん)より聞(きこ)え来(く)る。095梅公(うめこう)は忽(たちま)ち舷頭(げんとう)に立(た)ち現(あら)はれ、096天(あま)の数歌(かずうた)を奏上(そうじやう)し、097音吐(おんと)朗々(らうらう)として神(かみ)に対(たい)して救助(きうじよ)祈願(きぐわん)の歌(うた)を奉(たてまつ)つた。
098梅公『浪(なみ)も静(しづか)なハルの湖(うみ)
099御空(みそら)は清(きよ)く水(みづ)清(きよ)く
100天(あま)の河原(かはら)を空(そら)に見(み)て
101漕(こ)ぎゆく御船(みふね)は棚機(たなばた)の
102神(かみ)を斎(いつ)きし玉船(たまぶね)ぞ
103守(まも)らせたまへ和田(わだ)の原(はら)
104所領(うしは)ぎたまふ竜神(たつがみ)よ
105吾(われ)等(ら)は睡(ねむ)りに入(い)りながら
106花(はな)咲(さ)き匂(にほ)ふ天国(てんごく)の
107清(きよ)き御園(みその)に遊(あそ)びつつ
108皇(すめ)大神(おほかみ)の御(おん)前(まへ)に
109魂(みたま)を清(きよ)むる神(かみ)の御子(みこ)
110波切丸(なみきりまる)に身(み)を任(まか)せ
111果(はて)しも知(し)らぬ雲(くも)の上(うへ)
112諸人(もろびと)共(とも)に進(すす)むなり
113大空(おほぞら)渡(わた)る此(この)船(ふね)に
114暗礁(あんせう)の艱(なや)みのあるべきか
115如何(いか)なる神(かみ)の計(はか)らひか
116はかりかぬれど皇神(すめかみ)の
117教(をしへ)を伝(つた)ふる宣伝使(せんでんし)
118天降(あも)りて守(まも)りある上(うへ)は
119如何(いか)なる曲(まが)のさやるべき
120神(かみ)の救(すく)ひの船(ふね)にのり
121救(すく)ひの道(みち)を伝(つた)へ行(ゆ)く
122天地(てんち)の神(かみ)の御(おん)為(ため)に
123誠(まこと)を尽(つく)す梅公(うめこう)が
124今日(けふ)の難(なや)みをみそなはし
125吾(わが)言霊(ことたま)の勢(いきほひ)に
126天津空(あまつそら)より科戸辺(しなどべ)の
127神(かみ)の伊吹(いぶき)を投(な)げたまひ
128湖(うみ)の睡(ねむり)を醒(さ)まさせて
129海馬(かいば)は鬣(たてがみ)打(う)ち振(ふる)ひ
130海底(うなそこ)深(ふか)く潜(ひそ)みたる
131竜神(りうじん)たちは立(た)ち上(あが)り
132激浪(げきらう)怒濤(どたう)を呼(よ)び起(おこ)し
133隠(かく)れし岩(いは)に乗(の)りあげし
134これの御船(みふね)を中天(ちうてん)に
135捲(ま)き上(あ)げ乍(なが)ら暗礁(あんせう)の
136難(なん)より救(すく)ひたまへかし
137仮令(たとへ)海賊(かいぞく)幾万(いくまん)の
138部下(てした)を従(したが)へ攻(せ)め来(く)とも
139吾(われ)には神(かみ)の守(まも)りあり
140さはさりながら諸人(もろびと)は
141不浄(ふじやう)の人(ひと)の混(まじ)はりて
142神(かみ)の怒(いか)りを招(まね)くらむ
143あゝ皇神(すめかみ)よ皇神(すめかみ)よ
144吾(わが)玉(たま)の緒(を)の命(いのち)をば
145召(め)させたまふもいとはまじ
146諸人(もろびと)等(たち)の命(いのち)をば
147救(すく)はせたまへ惟神(かむながら)
148三五教(あななひけう)の梅公(うめこう)が
149一生(いつしやう)一度(いちど)の御(おん)願(ねが)ひ
150謹(つつし)み畏(かしこ)み願(ね)ぎまつる
151あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
152御霊(みたま)幸(さち)倍(はへ)ましませよ
153大日(おほひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
154月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
155海(うみ)はあせなむ世(よ)ありとも
156皇(すめ)大神(おほかみ)の御(おん)為(た)めに
157珍(うづ)の御霊(みたま)を世(よ)に照(てら)し
158千代(ちよ)万代(よろづよ)も限(かぎ)りなく
159現幽神(げんいうしん)の三界(さんかい)に
160出入(しゆつにふ)なして神(かみ)の子(こ)の
161吾(われ)は命(いのち)を守(まも)るべし
162召(め)させたまへよ吾(わが)身体(からだ)
163肉(にく)の命(いのち)は滅(ほろ)ぶとも
164御魂(みたま)の命(いのち)のある限(かぎ)り
165神(かみ)の依(よ)さしの神業(かむわざ)を
166謹(つつし)み仕(つか)へまつるべし
167救(すく)はせたまへ諸人(もろびと)を
168浮(うか)ばせたまへ此(この)船(ふね)を』
169と声(こゑ)高々(たかだか)と謡(うた)ふ折(をり)しも、170東北(とうほく)の天(てん)に一塊(いつくわい)の黒雲(こくうん)起(おこ)り、171見(み)る見(み)る拡張(くわくちやう)して満天(まんてん)の星光(せいくわう)を呑(の)み、172次(つ)いでハルの湖(うみ)を呑(の)んでしまつた。173轟々(ぐわうぐわう)たる颶風(ぐふう)の響(ひび)き、174波濤(はたう)の音(おと)、175忽(たちま)ち波切丸(なみきりまる)は、176木(こ)の葉(は)の如(ごと)く、177高(たか)まる浪(なみ)に中空(ちうくう)に捲(ま)き上(あ)げられ、178其(その)刹那(せつな)、179船底(せんてい)は暗礁(あんせう)を離(はな)れて浪(なみ)に半(なかば)呑(の)まれつつ、180可(か)なり大(おほ)きい島影(しまかげ)に期(き)せずして運(はこ)ばれた。181浪(なみ)静(しづ)かなる風裏(かざうら)の島影(しまかげ)に船(ふね)を浮(うか)べてホツと一息(ひといき)する間(ま)もなく、182忽(たちま)ち満天(まんてん)拭(ぬぐ)ふが如(ごと)く晴(は)れ渡(わた)り風(かぜ)凪(な)ぎ浪(なみ)静(しづ)まりて、183余(あま)りの変化(へんくわ)の早(はや)さに夢(ゆめ)かと許(ばか)り驚(おどろ)かぬはなかつた。
184惟神(かむながら)神(かみ)の伊吹(いぶき)の御恵(みめぐみ)に
185玉(たま)の御船(みふね)は救(すく)はれにけり。
186吾(わが)魂(たま)は中空(ちうくう)に飛(と)び吾(わが)船(ふね)は
187浪(なみ)の谷間(たにま)に浮(う)き沈(しづ)みせり。
188真心(まごころ)を籠(こ)めて祈(いの)りし甲斐(かひ)ありて
189一息(ひといき)つきぬ波切(なみきり)の船(ふね)。
190曲神(まがかみ)はいづこを指(さ)して逃(に)げにけむ
191大海原(おほうなばら)に影(かげ)だに見(み)せず。
192天(てん)を呑(の)み島(しま)をも呑(の)みし暗(やみ)の幕(まく)
193跡(あと)かたもなく晴(は)れし嬉(うれ)しさ。
194百鳥(ももどり)の声(こゑ)も漸(やうや)く聞(きこ)えけり
195浪(なみ)の響(ひびき)の治(をさ)まりてより。
196青(あを)ざめし人(ひと)の顔(かんばせ)やうやくに
197みかえし初(そ)めし夜(よる)の湖(うみ)かな。
198天(てん)はさけ地(ち)は破(やぶ)れむと怪(あや)しみし
199荒風(あらかぜ)浪(なみ)もおさめます神(かみ)。
200くしびなる神(かみ)の力(ちから)を見(み)るにつけ
201人(ひと)の力(ちから)の小(ちひ)さきを恥(は)づ。
202師(し)の君(きみ)はバルガン城(じやう)に打(う)ち向(むか)ひ
203メラオンナ[※「メラオンナ」はモンゴル語で「乗馬」を意味する。オニペディア参照]にて吾(われ)待(ま)たすらむ。
204シャカンメラ[※「シャカンメラ」はモンゴル語で「乗馬」を意味する。オニペディア参照]鬣(たてがみ)振(ふる)ひ吾(わが)船(ふね)に
205かみつきし時(とき)吾(われ)もふるひぬ。
206鬣(たてがみ)を振(ふる)つて立(た)てるシャカンメラ
207大海原(おほうなばら)の底(そこ)に入(い)りけむ。
208うたかたの泡(あわ)と消(き)えたるシャカンメラ
209御船(みふね)を守(まも)れ神(かみ)の国(くに)まで
210 何処(どこ)ともなく柔(やさ)しき女(をんな)の唄(うた)ふ声(こゑ)。
211ヨリコ姫『ハルの湖(うみ)往(ゆ)き来(き)の人(ひと)を悩(なや)ませる
212曲(まが)を払(はら)ひし時(とき)の嬉(うれ)しさ。
213皇神(すめかみ)の珍(うづ)の力(ちから)にヨリコ姫(ひめ)
214いま初(はじ)めてぞ人(ひと)を助(たす)けし。
215今(いま)迄(まで)は醜(しこ)の醜業(しこわざ)のみなして
216罪(つみ)を造(つく)りし事(こと)の悔(くや)しさ。
217罪(つみ)深(ふか)き吾(われ)ある故(ゆゑ)に海(うみ)の神(かみ)は
218いましめ給(たま)ふかと驚(おどろ)きてけり。
219梅公(うめこう)の珍(うづ)の司(つかさ)の言霊(ことたま)に
220奇(くし)の御救(みすく)ひ現(あら)はれにけり。
221惟神(かむながら)いざ今日(けふ)よりは大道(おほみち)に
222進(すす)まむ身(み)こそ楽(たの)しかりけり』
223 海賊(かいぞく)の難(なん)を避(さ)けむとして誤(あやま)つて暗礁(あんせう)に乗(の)り上(あ)げたる波切丸(なみきりまる)も、224梅公(うめこう)が熱誠(ねつせい)を籠(こ)めたる祈願(きぐわん)と言霊(ことたま)に、225神(かみ)も愍(あは)れみたまひしか226海浪(かいらう)躍動(やくどう)して固着(こちやく)せる船底(せんてい)を浮(う)け放(はな)し、227漸(やうや)く沈没(ちんぼつ)破壊(はくわい)の難(なん)を免(まぬ)がれしめ給(たま)ひぬ。228船長(せんちやう)を初(はじ)め乗客(じやうきやく)一同(いちどう)は229梅公(うめこう)の前(まへ)に跪(ひざまづ)いて其(その)神徳(しんとく)を讃(ほ)め称(たた)へ、230且(か)つ大神(おほかみ)に感謝(かんしや)の誠(まこと)を捧(ささ)げた。231漸(やうや)くにして夜(よ)はホンノリと明(あ)け放(はな)れ232再(ふたた)び魚鱗(ぎよりん)の浪(なみ)を湛(たた)へたる蒼味(あをみ)だつた水面(すいめん)を南(みなみ)に南(みなみ)に辷(すべ)り行(ゆ)く。
233(大正一三・一一・二三 新一二・一九 於教主殿 加藤明子録)
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