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霊界物語
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
第67巻(午の巻)
序文
総説
第1篇 美山梅光
第1章 梅の花香
第2章 思想の波
第3章 美人の腕
第4章 笑の座
第5章 浪の皷
第2篇 春湖波紋
第6章 浮島の怪猫
第7章 武力鞘
第8章 糸の縺れ
第9章 ダリヤの香
第10章 スガの長者
第3篇 多羅煩獄
第11章 暗狐苦
第12章 太子微行
第13章 山中の火光
第14章 獣念気
第15章 貂心暴
第16章 酒艶の月
第17章 晨の驚愕
第4篇 山色連天
第18章 月下の露
第19章 絵姿
第20章 曲津の陋呵
第21章 針灸思想
第22章 憧憬の美
余白歌
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第67巻(午の巻)
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<<< 思想の波
(B)
(N)
笑の座 >>>
第三章
美人
(
びじん
)
の
腕
(
うで
)
〔一七〇五〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第67巻 山河草木 午の巻
篇:
第1篇 美山梅光
よみ(新仮名遣い):
びざんばいこう
章:
第3章 美人の腕
よみ(新仮名遣い):
びじんのうで
通し章番号:
1705
口述日:
1924(大正13)年12月19日(旧11月23日)
口述場所:
教主殿
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1926(大正15)年8月19日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
オリオン座(オレオン星座)
データ凡例:
データ最終更新日:
2018-05-02 15:18:12
OBC :
rm6703
愛善世界社版:
30頁
八幡書店版:
第12輯 40頁
修補版:
校定版:
30頁
普及版:
68頁
初版:
ページ備考:
001
満天
(
まんてん
)
の
星光
(
せいくわう
)
燦爛
(
さんらん
)
としてハルの
湖面
(
こめん
)
に
金砂
(
きんしや
)
銀砂
(
ぎんしや
)
を
沈
(
しづ
)
めし
如
(
ごと
)
く、
002
月
(
つき
)
の
光
(
ひかり
)
はなけれども
名
(
な
)
に
背
(
お
)
ふ
大湖水
(
だいこすい
)
の
空
(
そら
)
は
赤
(
あか
)
く、
003
銀河
(
ぎんが
)
はオーラ
山
(
さん
)
の
頂
(
いただ
)
きより、
004
バルガン
城
(
じやう
)
の
空
(
そら
)
に
向
(
むか
)
つて
清
(
きよ
)
く
流
(
なが
)
れて
居
(
ゐ
)
る。
005
東天
(
とうてん
)
を
仰
(
あふ
)
ぎ
見
(
み
)
れば
006
スバル
星
(
せい
)
はオレオン
星座
(
せいざ
)
を
重
(
おも
)
たげに
牽引
(
けんいん
)
して
頭上
(
づじやう
)
高
(
たか
)
く
進
(
すす
)
んで
来
(
く
)
るやうに
見
(
み
)
える。
007
太白星
(
たいはくせい
)
は
今
(
いま
)
やオーラ
山
(
さん
)
の
山頂
(
さんちやう
)
の
老木
(
らうぼく
)
の
木蔭
(
こかげ
)
を
宿
(
やど
)
として、
008
木
(
こ
)
の
葉
(
は
)
をすかしてピカリピカリと
覗
(
のぞ
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
009
帆
(
ほ
)
は
痩
(
や
)
せて
音
(
おと
)
もなく
船
(
ふね
)
の
歩
(
あゆ
)
みもいと
遅
(
おそ
)
く
010
殆
(
ほとん
)
ど
停船
(
ていせん
)
せしかと
思
(
おも
)
ふ
許
(
ばか
)
りの
静
(
しづ
)
けさである。
011
湖中
(
こちう
)
に
散在
(
さんざい
)
する
大小
(
だいせう
)
無数
(
むすう
)
の
島嶼
(
たうしよ
)
は、
012
パインの
木
(
き
)
に
包
(
つつ
)
まれてこんもりと
静
(
しづ
)
かに
浮
(
うか
)
んで
居
(
ゐ
)
る。
013
時々
(
ときどき
)
赤児
(
あかご
)
の
泣
(
な
)
くやうな
海鳥
(
うみどり
)
の
声
(
こゑ
)
、
014
アンボイナの
翅
(
はね
)
の
羽
(
は
)
たたきのみ
一同
(
いちどう
)
の
耳朶
(
じだ
)
を
打
(
う
)
つ。
015
天
(
てん
)
は
静寂
(
せいじやく
)
にして
声
(
こゑ
)
無
(
な
)
く、
016
海面
(
かいめん
)
穏
(
おだや
)
かにして
呼吸
(
こきふ
)
せず
017
恰
(
あたか
)
も
活力
(
くわつりよく
)
を
失
(
うしな
)
ひし
睡
(
ねむ
)
れる
海
(
うみ
)
を
往
(
ゆ
)
く
心地
(
ここち
)
。
018
船客
(
せんきやく
)
一同
(
いちどう
)
は
甲板
(
かんばん
)
に
出
(
い
)
で
夜露
(
よつゆ
)
を
浴
(
あ
)
びながら、
019
彼方
(
あなた
)
此方
(
こなた
)
に
煙管
(
きせる
)
の
雁首
(
がんくび
)
から
微
(
かすか
)
な
火
(
ひ
)
の
粉
(
こ
)
を
飛
(
と
)
ばして
居
(
ゐ
)
る。
020
此
(
この
)
時
(
とき
)
八挺艪
(
はつちやうろ
)
を
漕
(
こ
)
ぎ
乍
(
なが
)
ら、
021
矢
(
や
)
の
如
(
ごと
)
く
波切丸
(
なみきりまる
)
に
向
(
むか
)
つて
猛犬
(
まうけん
)
の
如
(
ごと
)
く
噛
(
か
)
みついて
来
(
き
)
た
一艘
(
いつさう
)
の
船
(
ふね
)
には、
022
十四五
(
じふしご
)
人
(
にん
)
の
海賊
(
かいぞく
)
が
乗
(
の
)
つて
居
(
ゐ
)
た。
023
忽
(
たちま
)
ち
舷
(
ふなばた
)
に
縄梯子
(
なはばしご
)
をヒラリと
投
(
な
)
げかけ、
024
アハヤと
云
(
い
)
ふ
間
(
ま
)
もなく
大刀
(
だいたう
)
を
提
(
ひつさ
)
げ
上
(
のぼ
)
つて
来
(
き
)
たのは
025
此
(
この
)
湖上
(
こじやう
)
にて
鬼賊
(
きぞく
)
と
恐
(
おそ
)
れられて
居
(
ゐ
)
るコーズと
云
(
い
)
ふ
頭目
(
とうもく
)
であつた。
026
彼
(
かれ
)
は
甲板
(
かんばん
)
に
立
(
た
)
ちはだかり、
027
十四五
(
じふしご
)
人
(
にん
)
の
部下
(
ぶか
)
と
共
(
とも
)
に
抜刀
(
ばつたう
)
の
儘
(
まま
)
、
028
呶鳴
(
どな
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
029
コーズ『
此
(
この
)
方
(
はう
)
はハルの
湖水
(
こすい
)
の
主人公
(
しゆじんこう
)
、
030
海賊
(
かいぞく
)
の
頭目
(
とうもく
)
コーズの
君
(
きみ
)
だ。
031
最早
(
もはや
)
俺
(
おれ
)
の
現
(
あら
)
はれた
以上
(
いじやう
)
は
文句
(
もんく
)
はいらぬ。
032
持物
(
もちもの
)
一切
(
いつさい
)
何奴
(
どいつ
)
も
此奴
(
こいつ
)
も
貴賤
(
きせん
)
貧富
(
ひんぷ
)
の
区別
(
くべつ
)
なく、
033
吾
(
わが
)
前
(
まへ
)
に
献上
(
けんじやう
)
せよ。
034
四
(
し
)
の
五
(
ご
)
の
申
(
まを
)
して
拒
(
こば
)
むにおいては
035
汝
(
なんぢ
)
が
素首
(
そつくび
)
一々
(
いちいち
)
引
(
ひ
)
きちぎり、
0351
縄
(
なは
)
をとほして
数珠
(
じゆず
)
を
作
(
つく
)
り
036
ハルナの
都
(
みやこ
)
の
大雲山
(
だいうんざん
)
に
献納
(
けんなふ
)
してやる。
037
どうだ
返答
(
へんたふ
)
を
聞
(
き
)
かせ』
038
と
傍若
(
ばうじやく
)
無人
(
ぶじん
)
に
強託
(
がうたく
)
を
並
(
なら
)
べ
出
(
だ
)
した。
039
一同
(
いちどう
)
の
乗客
(
じやうきやく
)
は、
040
慄
(
ふる
)
ひ
戦
(
をのの
)
いて
船底
(
せんてい
)
に
潜
(
ひそ
)
むもの、
041
或
(
あるひ
)
は
悲鳴
(
ひめい
)
を
上
(
あ
)
げてデツキの
上
(
うへ
)
を
右往
(
うわう
)
左往
(
さわう
)
するもの、
042
声
(
こゑ
)
さへも
打
(
う
)
ち
立
(
た
)
てず
打
(
う
)
ち
慄
(
ふる
)
ふもの、
043
見
(
み
)
るも
悲惨
(
ひさん
)
の
光景
(
くわうけい
)
であつた。
044
コーズは
部下
(
ぶか
)
に
命
(
めい
)
じ
乗客
(
じやうきやく
)
を
一々
(
いちいち
)
赤裸体
(
まつぱだか
)
となし
045
用意
(
ようい
)
の
綱
(
つな
)
を
取
(
と
)
り
出
(
だ
)
し、
0451
掠奪品
(
りやくだつひん
)
を
一纒
(
ひとまと
)
めとなし
046
吾
(
わが
)
船
(
ふね
)
に
今
(
いま
)
や
投
(
な
)
げ
込
(
こ
)
まむとする
一刹那
(
いつせつな
)
、
047
船底
(
せんてい
)
より
ヌツ
と
表
(
あら
)
はれて
来
(
き
)
た
名人
(
めいじん
)
の
画伯
(
ぐわはく
)
が
描
(
ゑが
)
いたやうな
天成
(
てんせい
)
の
美人
(
びじん
)
、
048
丹花
(
たんくわ
)
の
唇
(
くちびる
)
を
慄
(
ふる
)
はせながら、
049
生蝋
(
きらふ
)
の
如
(
ごと
)
き
白
(
しろ
)
き
腕
(
かひな
)
を
薄暗
(
うすやみ
)
の
中
(
なか
)
に
輝
(
かがや
)
かせつつ、
050
女
(
をんな
)
(ヨリコ姫)
『
汝
(
なんぢ
)
はハルの
湖水
(
こすい
)
の
主
(
あるじ
)
と
聞
(
きこ
)
えたるコーズと
覚
(
おぼ
)
えたり。
051
懲
(
こら
)
しめくれむ』
052
と
云
(
い
)
ふより
早
(
はや
)
く、
053
仁王
(
にわう
)
の
如
(
ごと
)
き
荒男
(
あらをとこ
)
の
襟髪
(
えりがみ
)
を
掴
(
つか
)
んで、
054
エイと
一声
(
いつせい
)
海上
(
かいじやう
)
めがけて
投
(
な
)
げ
込
(
こ
)
めば
055
不意
(
ふい
)
を
打
(
う
)
たれて、
056
遉
(
さすが
)
のコーズも
空中
(
くうちう
)
を
二三回
(
にさんくわい
)
上手
(
じやうず
)
に
回転
(
くわいてん
)
し
乍
(
なが
)
ら、
057
自分
(
じぶん
)
の
船
(
ふね
)
にドスンと
落
(
お
)
ちて
尻餅
(
しりもち
)
をついた。
058
他
(
た
)
の
乾児
(
こぶん
)
共
(
ども
)
は
驚
(
おどろ
)
いて
前後
(
ぜんご
)
左右
(
さいう
)
に
逃
(
に
)
げ
廻
(
まは
)
るを、
059
……エヽ
木葉
(
こわつぱ
)
共
(
ども
)
面倒
(
めんだう
)
なり……と
将棋倒
(
しやうぎだふし
)
に
掴
(
つか
)
んでは
投
(
な
)
げ、
060
掴
(
つか
)
んでは
投
(
な
)
げ、
061
瞬
(
またた
)
く
中
(
うち
)
にデッキの
大掃除
(
おほさうぢ
)
を
終
(
をは
)
つて
了
(
しま
)
つた。
062
美人
(
びじん
)
は
白
(
しろ
)
き
歯
(
は
)
を
現
(
あら
)
はし
乍
(
なが
)
らさも
愉快
(
ゆくわい
)
げに『オホヽヽヽ』と
微
(
かすか
)
に
笑
(
わら
)
ひ、
063
悠々
(
いういう
)
として
階段
(
かいだん
)
を
下
(
くだ
)
り、
064
何
(
なに
)
喰
(
く
)
はぬ
顔
(
かほ
)
をして
吾
(
わが
)
寝室
(
ねま
)
に
入
(
い
)
り、
065
腕
(
うで
)
を
枕
(
まくら
)
に
熟睡
(
じゆくすゐ
)
の
夢
(
ゆめ
)
に
入
(
い
)
つた。
066
乗客
(
じやうきやく
)
一同
(
いちどう
)
は
怪
(
あや
)
しき
女
(
をんな
)
のどこともなく
現
(
あら
)
はれて、
067
悪漢
(
わるもの
)
を
海中
(
かいちう
)
に
投
(
な
)
げ
込
(
こ
)
みし
噂
(
うはさ
)
のみにて
喧々
(
けんけん
)
囂々
(
がうがう
)
と
囁
(
ささや
)
き
合
(
あ
)
ふのみであつた。
068
梅公
(
うめこう
)
はウツラウツラ
睡
(
ねむ
)
りつつありしが、
069
人々
(
ひとびと
)
の
囁
(
ささや
)
く
声
(
こゑ
)
にフツと
目
(
め
)
を
醒
(
さ
)
まし、
070
何事
(
なにごと
)
ならむと
耳
(
みみ
)
を
澄
(
す
)
まして
聞
(
き
)
き
居
(
ゐ
)
れば、
071
諸人
(
もろびと
)
の
声
(
こゑ
)
…
助
(
たす
)
けの
神
(
かみ
)
が
現
(
あら
)
はれた…とか、
072
…
海
(
うみ
)
の
竜神
(
りうじん
)
の
化身
(
けしん
)
が
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
を
救
(
すく
)
つて
呉
(
く
)
れたのだ…とか、
073
…オーラ
山
(
さん
)
の
天狗
(
てんぐ
)
の
娘
(
むすめ
)
だ…とか、
074
…
海
(
うみ
)
の
女
(
をんな
)
だ…とか、
075
種々
(
いろいろ
)
雑多
(
ざつた
)
の
憶測
(
おくそく
)
を
逞
(
たくま
)
しふして
居
(
ゐ
)
る。
076
船長
(
せんちやう
)
はやつと
安心
(
あんしん
)
せしものの
如
(
ごと
)
く、
077
怖
(
おそ
)
る
怖
(
おそ
)
るデッキの
上
(
うへ
)
から
海面
(
かいめん
)
を
見渡
(
みわた
)
せば、
078
コーズの
船
(
ふね
)
は
見
(
み
)
えねども
079
遥
(
はるか
)
に
遠
(
とほ
)
き
島影
(
しまかげ
)
に
十数艘
(
じふすうさう
)
の
賊船
(
ぞくせん
)
が
波切丸
(
なみきりまる
)
の
前途
(
ぜんと
)
を
要
(
えう
)
し、
080
手具脛
(
てぐすね
)
引
(
ひ
)
いて
待
(
ま
)
つものの
如
(
ごと
)
く
思
(
おも
)
はれてならなかつた。
081
船長
(
せんちやう
)
のアリーは
双手
(
もろて
)
を
組
(
く
)
んで
思
(
おも
)
ふやう……
今
(
いま
)
の
船路
(
せんろ
)
を
取
(
と
)
らば
必
(
かなら
)
ずやコーズの
手下
(
てした
)
の
奴
(
やつ
)
に
再
(
ふたた
)
び
脅
(
おびや
)
かされむ。
082
迂回
(
うくわい
)
ではあるが、
083
船首
(
せんしゆ
)
を
東
(
ひがし
)
に
転
(
てん
)
じ、
084
岸辺
(
きしべ
)
に
近
(
ちか
)
づきつつ
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
かむものと……、
085
部下
(
ぶか
)
の
水夫
(
すいふ
)
に
令
(
れい
)
を
下
(
くだ
)
し、
086
艪
(
ろ
)
を
操
(
あやつ
)
り、
087
櫂
(
かい
)
を
漕
(
こ
)
ぎ
乍
(
なが
)
ら
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に、
088
鏡
(
かがみ
)
の
如
(
ごと
)
き
海面
(
かいめん
)
に
俄
(
にはか
)
の
波紋
(
はもん
)
を
描
(
ゑが
)
きつつ、
089
力
(
ちから
)
限
(
かぎ
)
りに
駆
(
かけ
)
出
(
だ
)
した。
090
船
(
ふね
)
は
忽
(
たちま
)
ち
暗礁
(
あんせう
)
に
乗
(
の
)
り
上
(
あ
)
げ、
091
船底
(
せんてい
)
はガラガラガラ バチバチバチと
怪
(
あや
)
しき
音
(
おと
)
を
立
(
た
)
て
船客
(
せんきやく
)
一同
(
いちどう
)
の
肝
(
きも
)
を
潰
(
つぶ
)
した。
092
忽
(
たちま
)
ち
阿鼻
(
あび
)
叫喚
(
けうくわん
)
、
093
助
(
たす
)
けて
呉
(
く
)
れい
助
(
たす
)
けて
呉
(
く
)
れいと
悲鳴
(
ひめい
)
の
声
(
こゑ
)
、
094
船
(
ふね
)
の
全面
(
ぜんめん
)
より
聞
(
きこ
)
え
来
(
く
)
る。
095
梅公
(
うめこう
)
は
忽
(
たちま
)
ち
舷頭
(
げんとう
)
に
立
(
た
)
ち
現
(
あら
)
はれ、
096
天
(
あま
)
の
数歌
(
かずうた
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し、
097
音吐
(
おんと
)
朗々
(
らうらう
)
として
神
(
かみ
)
に
対
(
たい
)
して
救助
(
きうじよ
)
祈願
(
きぐわん
)
の
歌
(
うた
)
を
奉
(
たてまつ
)
つた。
098
梅公
『
浪
(
なみ
)
も
静
(
しづか
)
なハルの
湖
(
うみ
)
099
御空
(
みそら
)
は
清
(
きよ
)
く
水
(
みづ
)
清
(
きよ
)
く
100
天
(
あま
)
の
河原
(
かはら
)
を
空
(
そら
)
に
見
(
み
)
て
101
漕
(
こ
)
ぎゆく
御船
(
みふね
)
は
棚機
(
たなばた
)
の
102
神
(
かみ
)
を
斎
(
いつ
)
きし
玉船
(
たまぶね
)
ぞ
103
守
(
まも
)
らせたまへ
和田
(
わだ
)
の
原
(
はら
)
104
所領
(
うしは
)
ぎたまふ
竜神
(
たつがみ
)
よ
105
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
は
睡
(
ねむ
)
りに
入
(
い
)
りながら
106
花
(
はな
)
咲
(
さ
)
き
匂
(
にほ
)
ふ
天国
(
てんごく
)
の
107
清
(
きよ
)
き
御園
(
みその
)
に
遊
(
あそ
)
びつつ
108
皇
(
すめ
)
大神
(
おほかみ
)
の
御
(
おん
)
前
(
まへ
)
に
109
魂
(
みたま
)
を
清
(
きよ
)
むる
神
(
かみ
)
の
御子
(
みこ
)
110
波切丸
(
なみきりまる
)
に
身
(
み
)
を
任
(
まか
)
せ
111
果
(
はて
)
しも
知
(
し
)
らぬ
雲
(
くも
)
の
上
(
うへ
)
112
諸人
(
もろびと
)
共
(
とも
)
に
進
(
すす
)
むなり
113
大空
(
おほぞら
)
渡
(
わた
)
る
此
(
この
)
船
(
ふね
)
に
114
暗礁
(
あんせう
)
の
艱
(
なや
)
みのあるべきか
115
如何
(
いか
)
なる
神
(
かみ
)
の
計
(
はか
)
らひか
116
はかりかぬれど
皇神
(
すめかみ
)
の
117
教
(
をしへ
)
を
伝
(
つた
)
ふる
宣伝使
(
せんでんし
)
118
天降
(
あも
)
りて
守
(
まも
)
りある
上
(
うへ
)
は
119
如何
(
いか
)
なる
曲
(
まが
)
のさやるべき
120
神
(
かみ
)
の
救
(
すく
)
ひの
船
(
ふね
)
にのり
121
救
(
すく
)
ひの
道
(
みち
)
を
伝
(
つた
)
へ
行
(
ゆ
)
く
122
天地
(
てんち
)
の
神
(
かみ
)
の
御
(
おん
)
為
(
ため
)
に
123
誠
(
まこと
)
を
尽
(
つく
)
す
梅公
(
うめこう
)
が
124
今日
(
けふ
)
の
難
(
なや
)
みをみそなはし
125
吾
(
わが
)
言霊
(
ことたま
)
の
勢
(
いきほひ
)
に
126
天津空
(
あまつそら
)
より
科戸辺
(
しなどべ
)
の
127
神
(
かみ
)
の
伊吹
(
いぶき
)
を
投
(
な
)
げたまひ
128
湖
(
うみ
)
の
睡
(
ねむり
)
を
醒
(
さ
)
まさせて
129
海馬
(
かいば
)
は
鬣
(
たてがみ
)
打
(
う
)
ち
振
(
ふる
)
ひ
130
海底
(
うなそこ
)
深
(
ふか
)
く
潜
(
ひそ
)
みたる
131
竜神
(
りうじん
)
たちは
立
(
た
)
ち
上
(
あが
)
り
132
激浪
(
げきらう
)
怒濤
(
どたう
)
を
呼
(
よ
)
び
起
(
おこ
)
し
133
隠
(
かく
)
れし
岩
(
いは
)
に
乗
(
の
)
りあげし
134
これの
御船
(
みふね
)
を
中天
(
ちうてん
)
に
135
捲
(
ま
)
き
上
(
あ
)
げ
乍
(
なが
)
ら
暗礁
(
あんせう
)
の
136
難
(
なん
)
より
救
(
すく
)
ひたまへかし
137
仮令
(
たとへ
)
海賊
(
かいぞく
)
幾万
(
いくまん
)
の
138
部下
(
てした
)
を
従
(
したが
)
へ
攻
(
せ
)
め
来
(
く
)
とも
139
吾
(
われ
)
には
神
(
かみ
)
の
守
(
まも
)
りあり
140
さはさりながら
諸人
(
もろびと
)
は
141
不浄
(
ふじやう
)
の
人
(
ひと
)
の
混
(
まじ
)
はりて
142
神
(
かみ
)
の
怒
(
いか
)
りを
招
(
まね
)
くらむ
143
あゝ
皇神
(
すめかみ
)
よ
皇神
(
すめかみ
)
よ
144
吾
(
わが
)
玉
(
たま
)
の
緒
(
を
)
の
命
(
いのち
)
をば
145
召
(
め
)
させたまふもいとはまじ
146
諸人
(
もろびと
)
等
(
たち
)
の
命
(
いのち
)
をば
147
救
(
すく
)
はせたまへ
惟神
(
かむながら
)
148
三五教
(
あななひけう
)
の
梅公
(
うめこう
)
が
149
一生
(
いつしやう
)
一度
(
いちど
)
の
御
(
おん
)
願
(
ねが
)
ひ
150
謹
(
つつし
)
み
畏
(
かしこ
)
み
願
(
ね
)
ぎまつる
151
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
152
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
倍
(
はへ
)
ましませよ
153
大日
(
おほひ
)
は
照
(
て
)
るとも
曇
(
くも
)
るとも
154
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つとも
虧
(
か
)
くるとも
155
海
(
うみ
)
はあせなむ
世
(
よ
)
ありとも
156
皇
(
すめ
)
大神
(
おほかみ
)
の
御
(
おん
)
為
(
た
)
めに
157
珍
(
うづ
)
の
御霊
(
みたま
)
を
世
(
よ
)
に
照
(
てら
)
し
158
千代
(
ちよ
)
万代
(
よろづよ
)
も
限
(
かぎ
)
りなく
159
現幽神
(
げんいうしん
)
の
三界
(
さんかい
)
に
160
出入
(
しゆつにふ
)
なして
神
(
かみ
)
の
子
(
こ
)
の
161
吾
(
われ
)
は
命
(
いのち
)
を
守
(
まも
)
るべし
162
召
(
め
)
させたまへよ
吾
(
わが
)
身体
(
からだ
)
163
肉
(
にく
)
の
命
(
いのち
)
は
滅
(
ほろ
)
ぶとも
164
御魂
(
みたま
)
の
命
(
いのち
)
のある
限
(
かぎ
)
り
165
神
(
かみ
)
の
依
(
よ
)
さしの
神業
(
かむわざ
)
を
166
謹
(
つつし
)
み
仕
(
つか
)
へまつるべし
167
救
(
すく
)
はせたまへ
諸人
(
もろびと
)
を
168
浮
(
うか
)
ばせたまへ
此
(
この
)
船
(
ふね
)
を』
169
と
声
(
こゑ
)
高々
(
たかだか
)
と
謡
(
うた
)
ふ
折
(
をり
)
しも、
170
東北
(
とうほく
)
の
天
(
てん
)
に
一塊
(
いつくわい
)
の
黒雲
(
こくうん
)
起
(
おこ
)
り、
171
見
(
み
)
る
見
(
み
)
る
拡張
(
くわくちやう
)
して
満天
(
まんてん
)
の
星光
(
せいくわう
)
を
呑
(
の
)
み、
172
次
(
つ
)
いでハルの
湖
(
うみ
)
を
呑
(
の
)
んでしまつた。
173
轟々
(
ぐわうぐわう
)
たる
颶風
(
ぐふう
)
の
響
(
ひび
)
き、
174
波濤
(
はたう
)
の
音
(
おと
)
、
175
忽
(
たちま
)
ち
波切丸
(
なみきりまる
)
は、
176
木
(
こ
)
の
葉
(
は
)
の
如
(
ごと
)
く、
177
高
(
たか
)
まる
浪
(
なみ
)
に
中空
(
ちうくう
)
に
捲
(
ま
)
き
上
(
あ
)
げられ、
178
其
(
その
)
刹那
(
せつな
)
、
179
船底
(
せんてい
)
は
暗礁
(
あんせう
)
を
離
(
はな
)
れて
浪
(
なみ
)
に
半
(
なかば
)
呑
(
の
)
まれつつ、
180
可
(
か
)
なり
大
(
おほ
)
きい
島影
(
しまかげ
)
に
期
(
き
)
せずして
運
(
はこ
)
ばれた。
181
浪
(
なみ
)
静
(
しづ
)
かなる
風裏
(
かざうら
)
の
島影
(
しまかげ
)
に
船
(
ふね
)
を
浮
(
うか
)
べてホツと
一息
(
ひといき
)
する
間
(
ま
)
もなく、
182
忽
(
たちま
)
ち
満天
(
まんてん
)
拭
(
ぬぐ
)
ふが
如
(
ごと
)
く
晴
(
は
)
れ
渡
(
わた
)
り
風
(
かぜ
)
凪
(
な
)
ぎ
浪
(
なみ
)
静
(
しづ
)
まりて、
183
余
(
あま
)
りの
変化
(
へんくわ
)
の
早
(
はや
)
さに
夢
(
ゆめ
)
かと
許
(
ばか
)
り
驚
(
おどろ
)
かぬはなかつた。
184
惟神
(
かむながら
)
神
(
かみ
)
の
伊吹
(
いぶき
)
の
御恵
(
みめぐみ
)
に
185
玉
(
たま
)
の
御船
(
みふね
)
は
救
(
すく
)
はれにけり。
186
吾
(
わが
)
魂
(
たま
)
は
中空
(
ちうくう
)
に
飛
(
と
)
び
吾
(
わが
)
船
(
ふね
)
は
187
浪
(
なみ
)
の
谷間
(
たにま
)
に
浮
(
う
)
き
沈
(
しづ
)
みせり。
188
真心
(
まごころ
)
を
籠
(
こ
)
めて
祈
(
いの
)
りし
甲斐
(
かひ
)
ありて
189
一息
(
ひといき
)
つきぬ
波切
(
なみきり
)
の
船
(
ふね
)
。
190
曲神
(
まがかみ
)
はいづこを
指
(
さ
)
して
逃
(
に
)
げにけむ
191
大海原
(
おほうなばら
)
に
影
(
かげ
)
だに
見
(
み
)
せず。
192
天
(
てん
)
を
呑
(
の
)
み
島
(
しま
)
をも
呑
(
の
)
みし
暗
(
やみ
)
の
幕
(
まく
)
193
跡
(
あと
)
かたもなく
晴
(
は
)
れし
嬉
(
うれ
)
しさ。
194
百鳥
(
ももどり
)
の
声
(
こゑ
)
も
漸
(
やうや
)
く
聞
(
きこ
)
えけり
195
浪
(
なみ
)
の
響
(
ひびき
)
の
治
(
をさ
)
まりてより。
196
青
(
あを
)
ざめし
人
(
ひと
)
の
顔
(
かんばせ
)
やうやくに
197
みかえし
初
(
そ
)
めし
夜
(
よる
)
の
湖
(
うみ
)
かな。
198
天
(
てん
)
はさけ
地
(
ち
)
は
破
(
やぶ
)
れむと
怪
(
あや
)
しみし
199
荒風
(
あらかぜ
)
浪
(
なみ
)
もおさめます
神
(
かみ
)
。
200
くしびなる
神
(
かみ
)
の
力
(
ちから
)
を
見
(
み
)
るにつけ
201
人
(
ひと
)
の
力
(
ちから
)
の
小
(
ちひ
)
さきを
恥
(
は
)
づ。
202
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
はバルガン
城
(
じやう
)
に
打
(
う
)
ち
向
(
むか
)
ひ
203
メラオンナにて
吾
(
われ
)
待
(
ま
)
たすらむ。
204
シャカンメラ
鬣
(
たてがみ
)
振
(
ふる
)
ひ
吾
(
わが
)
船
(
ふね
)
に
205
かみつきし
時
(
とき
)
吾
(
われ
)
もふるひぬ。
206
鬣
(
たてがみ
)
を
振
(
ふる
)
つて
立
(
た
)
てるシャカンメラ
207
大海原
(
おほうなばら
)
の
底
(
そこ
)
に
入
(
い
)
りけむ。
208
うたかたの
泡
(
あわ
)
と
消
(
き
)
えたるシャカンメラ
209
御船
(
みふね
)
を
守
(
まも
)
れ
神
(
かみ
)
の
国
(
くに
)
まで
210
何処
(
どこ
)
ともなく
柔
(
やさ
)
しき
女
(
をんな
)
の
唄
(
うた
)
ふ
声
(
こゑ
)
。
211
ヨリコ姫
『ハルの
湖
(
うみ
)
往
(
ゆ
)
き
来
(
き
)
の
人
(
ひと
)
を
悩
(
なや
)
ませる
212
曲
(
まが
)
を
払
(
はら
)
ひし
時
(
とき
)
の
嬉
(
うれ
)
しさ。
213
皇神
(
すめかみ
)
の
珍
(
うづ
)
の
力
(
ちから
)
にヨリコ
姫
(
ひめ
)
214
いま
初
(
はじ
)
めてぞ
人
(
ひと
)
を
助
(
たす
)
けし。
215
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
は
醜
(
しこ
)
の
醜業
(
しこわざ
)
のみなして
216
罪
(
つみ
)
を
造
(
つく
)
りし
事
(
こと
)
の
悔
(
くや
)
しさ。
217
罪
(
つみ
)
深
(
ふか
)
き
吾
(
われ
)
ある
故
(
ゆゑ
)
に
海
(
うみ
)
の
神
(
かみ
)
は
218
いましめ
給
(
たま
)
ふかと
驚
(
おどろ
)
きてけり。
219
梅公
(
うめこう
)
の
珍
(
うづ
)
の
司
(
つかさ
)
の
言霊
(
ことたま
)
に
220
奇
(
くし
)
の
御救
(
みすく
)
ひ
現
(
あら
)
はれにけり。
221
惟神
(
かむながら
)
いざ
今日
(
けふ
)
よりは
大道
(
おほみち
)
に
222
進
(
すす
)
まむ
身
(
み
)
こそ
楽
(
たの
)
しかりけり』
223
海賊
(
かいぞく
)
の
難
(
なん
)
を
避
(
さ
)
けむとして
誤
(
あやま
)
つて
暗礁
(
あんせう
)
に
乗
(
の
)
り
上
(
あ
)
げたる
波切丸
(
なみきりまる
)
も、
224
梅公
(
うめこう
)
が
熱誠
(
ねつせい
)
を
籠
(
こ
)
めたる
祈願
(
きぐわん
)
と
言霊
(
ことたま
)
に、
225
神
(
かみ
)
も
愍
(
あは
)
れみたまひしか
226
海浪
(
かいらう
)
躍動
(
やくどう
)
して
固着
(
こちやく
)
せる
船底
(
せんてい
)
を
浮
(
う
)
け
放
(
はな
)
し、
227
漸
(
やうや
)
く
沈没
(
ちんぼつ
)
破壊
(
はくわい
)
の
難
(
なん
)
を
免
(
まぬ
)
がれしめ
給
(
たま
)
ひぬ。
228
船長
(
せんちやう
)
を
初
(
はじ
)
め
乗客
(
じやうきやく
)
一同
(
いちどう
)
は
229
梅公
(
うめこう
)
の
前
(
まへ
)
に
跪
(
ひざまづ
)
いて
其
(
その
)
神徳
(
しんとく
)
を
讃
(
ほ
)
め
称
(
たた
)
へ、
230
且
(
か
)
つ
大神
(
おほかみ
)
に
感謝
(
かんしや
)
の
誠
(
まこと
)
を
捧
(
ささ
)
げた。
231
漸
(
やうや
)
くにして
夜
(
よ
)
はホンノリと
明
(
あ
)
け
放
(
はな
)
れ
232
再
(
ふたた
)
び
魚鱗
(
ぎよりん
)
の
浪
(
なみ
)
を
湛
(
たた
)
へたる
蒼味
(
あをみ
)
だつた
水面
(
すいめん
)
を
南
(
みなみ
)
に
南
(
みなみ
)
に
辷
(
すべ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
233
(
大正一三・一一・二三
新一二・一九
於教主殿
加藤明子
録)
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