霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二一章 針灸(しんきゆう)思想(しさう)〔一七二三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第67巻 山河草木 午の巻 篇:第4篇 山色連天 よみ(新仮名遣い):さんしょくれんてん
章:第21章 針灸思想 よみ(新仮名遣い):しんきゅうしそう 通し章番号:1723
口述日:1924(大正13)年12月29日(旧12月4日) 口述場所:祥雲閣 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年8月19日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
今回の事件で、アリナは一ケ月の謹慎を命じられる。父のガンヂーも城内を騒がせた責任を感じ、自ら謹慎を守っていた。
ガンヂーは今回の騒ぎを引き起こした息子の不思慮を責める。
アリナは、城内を騒がせ驚かせたことについて自分の罪を認めるが、父が刃傷沙汰を起こした事を逆に責める。
ガンヂーは、刃傷沙汰は右守の不忠を誅せんとしたのであり、太子の思想を蝕むアリナの方が国家にとって脅威であると責める。
アリナは父の過去の所業を挙げ、現在のタラハン国衰退の原因としてガンヂーを責める。
ガンヂーは父の権威を嵩に着るが、アリナは自分が太子の寵臣であり、左守である父でさえも自由にすることはできないと反論する。
アリナは言論の自由、個人の人格をたてとし、個性を十分発達させることが天地の分霊としての働きを十二分に発揮させることである、と論を展開する。
ガンヂーはあくまで圧迫こそが政治・支配の鉄則であると主張する。国家を一つにまとめあげるためには、王家を中心にして国民を団結させる必要がある、と説くが、アリナはあくまで譲らない。
ガンヂーは息子の態度を嘆き、国家の滅亡を心配する。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:4435 OBC :rm6721
愛善世界社版:275頁 八幡書店版:第12輯 133頁 修補版: 校定版:278頁 普及版:68頁 初版: ページ備考:
001 左守(さもり)の悴(せがれ)アリナは、002評議(ひやうぎ)の結果(けつくわ)一(いつ)ケ月(げつ)の謹慎(きんしん)を命(めい)ぜられ、003父(ちち)の館(やかた)に閉(と)ぢ籠(こ)められて居(ゐ)た。004左守司(さもりつかさ)のガンヂーも別(べつ)に王(わう)からの咎(とが)めはなけれども、005殿中(でんちう)を騒(さわが)し右守(うもり)と刃傷(にんじやう)した其(その)責任(せきにん)を負(お)ひ、006自(みづか)ら門(もん)を閉(と)ぢ謹慎(きんしん)を守(まも)つて居(ゐ)た。
007ガンヂー『オイ悴(せがれ)、008貴様(きさま)は何(なん)と云(い)ふ不埒(ふらち)な事(こと)を致(いた)したのだ。009貴様(きさま)がいつも太子(たいし)の君(きみ)を煽(おだ)て上(あ)げ、010共産(きようさん)主義(しゆぎ)だとか、011人類(じんるい)愛善(あいぜん)だとか、012ハイカラ的(てき)の新思想(しんしさう)を吹(ふ)き込(こ)むものだから、013あんな御(ご)精神(せいしん)におなり遊(あそ)ばされ、014万代(ばんだい)不易(ふえき)の王統(わうとう)を継(つ)ぐ事(こと)をお嫌(きら)いなされ、015殿内(でんない)を飛(と)び出(だ)し、016上(うへ)は大王(だいわう)殿下(でんか)を始(はじ)め奉(たてまつ)り、017此(この)父(ちち)や老臣(らうしん)共(ども)に心配(しんぱい)をかけ018上下(じやうげ)を騒(さわ)がした其(その)罪(つみ)は仲々(なかなか)浅(あさ)くはないぞ。019是(これ)から心(こころ)を改(あらた)むればよし、020今(いま)迄(まで)の量見(りやうけん)で居(ゐ)るならば太子(たいし)のお側付(そばづき)は許(ゆる)されない。021さうして吾(わが)家(や)にも置(お)く事(こと)は出来(でき)ない。022些(ちつ)とは親(おや)の心(こころ)にもなつて見(み)て呉(く)れ。023王(わう)様(さま)の宸襟(しんきん)を悩(なや)まし奉(たてまつ)り、024老臣(らうしん)共(ども)に心配(しんぱい)をさせ、025殿内(でんない)を騒(さわ)がしたぢやないか』
026アリナ『ハイ、027如何(いか)にも父上(ちちうへ)のお言葉(ことば)の通(とほ)り、028大王(だいわう)様(さま)に御(ご)心配(しんぱい)をかけ、029老臣(らうしん)を驚(おどろ)かせ殿内(でんない)を騒(さわ)がしましたのは事実(じじつ)で厶(ござ)います。030併(しか)し私(わたし)は同(おな)じ殿内(でんない)を騒(さわ)がしても031父上(ちちうへ)のやうな、0311刃傷(にんじやう)などの乱暴(らんばう)は致(いた)しませぬ。032お父(とう)さま、033私(わたし)に御(ご)意見(いけん)下(くだ)さるのならば、034先(ま)づ貴方(あなた)のお尻(しり)を拭(ぬぐ)ひ、035自分(じぶん)の顔(かほ)に留(と)まつた蜂(はち)を払(はら)ひ、036真面目(まじめ)になつて御(ご)教訓(けうくん)を願(ねが)ひます。037此(この)親(おや)にして此(この)子(こ)あり、038親子(おやこ)が一致(いつち)して、039大王(だいわう)殿下(でんか)の宸襟(しんきん)を悩(なや)まし奉(たてまつ)り殿内(でんない)を騒(さわ)がしたのも、040何(なに)かの因縁(いんねん)で厶(ござ)いませうよ』
041ガン『エヽ、042ツベコベと訳(わけ)も知(し)らずに屁理窟(へりくつ)を云(い)ふな。043お前(まへ)と俺(おれ)とは同(おな)じ殿内(でんない)を騒(さわ)がしたにしても訳(わけ)が違(ちが)ふのだ。044天地(てんち)霄壤(せうじやう)、045黒白(こくびやく)、046月鼈(げつべつ)の差違(さゐ)が有(あ)るのだ。047彼(か)れ右守(うもり)のサクレンス奴(め)、048王家(わうけ)の専制(せんせい)政治(せいぢ)を廃(はい)し、049共和(きようわ)政治(せいぢ)を立(た)てようなどと、050大(だい)それた国賊(こくぞく)的(てき)機略(きりやく)を弄(ろう)し、051殿下(でんか)の宸襟(しんきん)を悩(なや)ませ奉(たてまつ)つたによつて、052俺(おれ)は命(いのち)を的(まと)に奸賊(かんぞく)を誅伐(ちうばつ)せむと彼(かれ)右守(うもり)に斬(き)りつけたのだ。053貴様(きさま)のやうに、054大切(たいせつ)な太子(たいし)に種々(いろいろ)のハイカラ的(てき)思想(しさう)を注入(ちうにふ)し、055太子(たいし)の精神(せいしん)を惑乱(わくらん)し、056遂(つひ)には国家(こくか)の一大事(いちだいじ)を惹起(じやくき)せむとするやうな悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)の行為(かうゐ)とは比(くら)べものにならぬのだ。057確(しつか)りと性念(しやうねん)を据(す)ゑて父(ちち)の言葉(ことば)を聞(き)いたらよからうぞ。058大王(だいわう)様(さま)は金枝(きんし)玉葉(ぎよくえふ)の御(おん)身(み)をもつて、059汝(なんぢ)一人(ひとり)の為(ため)に有(あ)るにあられぬ御(ご)苦心(くしん)遊(あそ)ばして厶(ござ)るのだ。060その悴(せがれ)の父(ちち)たるこのガンヂーが、061どうしてノメノメと生(いき)て居(を)られやうか。062お前(まへ)がどうしても悔(く)い改(あらた)めて、063太子(たいし)の御心(みこころ)を翻(ひるがへ)さぬに於(おい)ては、064もはや此(この)父(ちち)は自害(じがい)して申(まを)し訳(わけ)を立(た)てねばならぬ羽目(はめ)となつて居(ゐ)るのだ。065不忠(ふちう)不義(ふぎ)の極悪人(ごくあくにん)とは貴様(きさま)の事(こと)だ。066どうしてまアこんな極悪人(ごくあくにん)が俺(おれ)の胤(たね)から生(うま)れたものだらうなア』
067アリ『アハヽヽヽ。068お父(とう)さま好(よ)く自分(じぶん)の今(いま)迄(まで)の行動(かうどう)を顧(かへり)みて御覧(ごらん)なさい。069さう、070堂々(だうだう)と私(わたし)に向(むか)つて、071御(ご)意見(いけん)は出来(でき)ますまい。072お父(とう)さまは私(わたし)が幼年(えうねん)の時(とき)迄(まで)は、073右守(うもり)の司(かみ)と仕(つか)へてゐらつしやつたのでせう。074其(その)時(とき)に忠誠(ちうせい)無比(むひ)のシャカンナと云(い)ふ左守(さもり)の司様(かみさま)が国政(こくせい)を料理(れうり)して厶(ござ)つたでせう。075亡(な)くなられた王妃(わうひ)様(さま)は悪魔(あくま)に魅(みい)られ、076日(ひ)に夜(よ)に残虐性(ざんぎやくせい)が募(つの)り、077遂(つひ)には無辜(むこ)の民(たみ)を虐(しひた)げ、078憐(あは)れなる妊婦(にんぷ)の腹(はら)を割(さ)いて胎児(たいじ)を剔(え)ぐり出(だ)し、079丸煮(まるに)にして食膳(しよくぜん)に上(の)ぼせ舌皷(したつづみ)を打(う)つて厶(ござ)つたにも拘(かかは)らず、080死(し)を決(けつ)して直諫(ちよくかん)し奉(たてまつ)る事(こと)も知(し)らず、081却(かへ)つて王妃(わうひ)に媚(こ)び諂(へつら)ひ、082残忍性(ざんにんせい)をしてますます増長(ぞうちやう)せしめられたぢや厶(ござ)いませぬか。083国民(こくみん)の怨嗟(ゑんさ)の白羽(しらは)の矢(や)が王妃(わうひ)の狩(かり)の遊(あそ)びの砌(みぎり)、084天(てん)の一方(いつぱう)より飛(と)び来(きた)つて王妃(わうひ)の額(ひたひ)を射(い)ぬき其(その)場(ば)で絶命(ぜつめい)し、085国民(こくみん)は是(これ)を聞(き)いて却(かへ)つて喜(よろこ)んで密(ひそ)かに祝賀会(しゆくがくわい)を開(ひら)いた事(こと)があるぢや厶(ござ)いませぬか。086それ程(ほど)国民(こくみん)の怨嗟(ゑんさ)の的(まと)となつて居(ゐ)る王妃(わうひ)を嗾(そその)かした上(うへ)、087大王(だいわう)様(さま)に迄(まで)いろいろの悪(わる)い智慧(ちゑ)を吹(ふ)き込(こ)み……天誅(てんちう)の白羽(しらは)の矢(や)を左守(さもり)の部下(ぶか)が射放(いはな)つたものだ……などと無実(むじつ)の罪(つみ)を着(き)せ、088大王(だいわう)の手(て)をかつて左守(さもり)の妻(つま)ハリスタ姫(ひめ)を斬(き)り殺(ころ)し、089なほ飽(あ)き足(た)らず左守(さもり)の命(いのち)を取(と)らむとして果(はた)さず、090遂(つひ)に自分(じぶん)が取(と)つて代(かは)つて洒々(しやあしやあ)然(ぜん)として左守(さもり)の職(しよく)につかれたぢやありませぬか。091夫(それ)さへあるに左守家(さもりけ)の巨万(きよまん)の財産(ざいさん)を全部(ぜんぶ)没収(ぼつしう)し、092自分(じぶん)が国民(こくみん)に信用(しんよう)を繋(つな)がんが為(ため)に頭(あたま)の揉(も)めない、093腹(はら)の痛(いた)まない、094彼(かれ)の財産(ざいさん)を国民(こくみん)に与(あた)へ、095善(ぜん)の仮面(かめん)を被(かぶ)り、096悪行(あくかう)を遂行(すゐかう)した極(ごく)重悪人(ぢうあくにん)ぢや厶(ござ)いませぬか。097お父(とう)さまの為(ため)にシャカンナは可憐(かれん)な娘(むすめ)と共(とも)に天下(てんか)漂浪(へうらう)の旅(たび)に出(い)で、098今(いま)に其(その)行方(ゆくへ)さへ知(し)れないと云(い)ふぢやありませぬか。099貴方(あなた)の前(まへ)にては誰(たれ)も彼(かれ)も阿諛(あゆ)諂侫(てんねい)追従(つゐしよう)の有(あ)らむ限(かぎ)りを尽(つく)し、100お髯(ひげ)の塵(ちり)を払(はら)はむとする役人(やくにん)許(ばか)りで厶(ござ)いますが、101彼(かれ)等(ら)は面従(めんじう)腹背(ふくはい)、102蔭(かげ)では、103いづれも後(うしろ)向(む)いては舌(した)を出(だ)し104言葉(ことば)を極(きは)めてお父(とう)さまの悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)を罵(ののし)り、105且(か)つ憎(にく)んで居(を)りますよ。106タラハン国(ごく)が今日(こんにち)の如(ごと)く乱(みだ)れかかつて来(き)たのも皆(みな)、107お父(とう)さまの責任(せきにん)ですよ。108圧制(あつせい)と強圧(きやうあつ)と専制(せんせい)に便利(べんり)な時代(じだい)不相応(ふさうおう)の法律(はふりつ)を作(つく)り、109軍隊(ぐんたい)や警察(けいさつ)や監獄(かんごく)の力(ちから)で、110今(いま)迄(まで)お父(とう)さまは国民(こくみん)の頭(あたま)を抑(おさ)へつけ、111思想(しさう)を圧迫(あつぱく)し、112あらむ限(かぎ)りの吾儘(わがまま)勝手(かつて)を振舞(ふるま)つて来(き)たぢやありませぬか。113お父(とう)さまの悪徳(あくとく)が子供(こども)に報(むく)いて遂(つひ)に累(わづらい)を王家(わうけ)に及(およ)ぼし、114今日(こんにち)の悲惨(ひさん)の有様(ありさま)になつたのぢや厶(ござ)いませぬか。115お父(とう)さまこそ私(わたし)の意見(いけん)を聞(き)いて翻然(ほんぜん)と悔(く)い、116忠誠(ちうせい)の赤心(まごころ)と愛善(あいぜん)の行(おこな)ひに立(た)ちかへつて貰(もら)ひたいものです。117私(わたし)はお父(とう)さまの口(くち)から御(ご)意見(いけん)を聞(き)くのは、118恰度(ちやうど)地獄(ぢごく)の鬼(おに)が擦鉦(すりがね)を叩(たた)いて念仏(ねんぶつ)を唱(とな)へて居(ゐ)るやうで滑稽(こつけい)で耐(たま)りませぬわ。119いや寧(むし)ろ抱腹(はうふく)絶倒(ぜつたう)の至(いた)りで厶(ござ)います、120アハヽヽヽ』
121ガン『これや悴(せがれ)、122何(なん)と云(い)ふ口巾(くちはば)の広(ひろ)い事(こと)を申(まを)すか。123苟(かりそめ)にも子(こ)として父(ちち)の行為(かうゐ)を云々(うんぬん)し、124くだらぬ意見口(いけんぐち)を叩(たた)くと云(い)ふ事(こと)は、125天地(てんち)転倒(てんだう)も甚(はなは)だしいではないか。126「親(おや)と主人(しゆじん)は無理(むり)を云(い)ふものと思(おも)へ」との格言(かくげん)を何(なん)と心得(こころえ)て居(ゐ)るか。127何(なん)と云(い)ふても親父(おやぢ)ぢやないか。128善悪(ぜんあく)正邪(せいじや)に拘(かかは)らず、129親(おや)に反抗(はんかう)する奴(やつ)は天下(てんか)の不孝者(ふかうもの)だ。130貴様(きさま)も最早(もはや)十八(じふはち)、131些(ちつ)とは孝行(かうかう)と云(い)ふ事(こと)を知(し)れ。132否(いな)忠義(ちうぎ)の道(みち)を弁(わきま)へねばなるまいぞ』
133アリ『お父(とう)さま、134貴方(あなた)は親(おや)と云(い)ふ名(な)の下(もと)に私(わたし)を圧迫(あつぱく)するのですか。135吾(わが)子(こ)になればどんな無理(むり)難題(なんだい)を吹(ふ)きかけても、136それで道理(だうり)が立(た)つと思(おも)ひますか。137そんな古(ふる)い道徳(だうとく)主義(しゆぎ)は三百(さんびやく)年(ねん)も過去(くわこ)の事(こと)ですよ。138こんな流儀(りうぎ)で国政(こくせい)に当(あた)られては、139数多(あまた)の役人(やくにん)や国民(こくみん)共(ども)の迷惑(めいわく)が思(おも)ひやられます。140私(わたし)はお父(とう)さまの所謂(いはゆる)、141不孝者(ふかうもの)、142不忠者(ふちうもの)になり度(た)う厶(ござ)います。143……大孝(だいかう)は不孝(ふかう)に似(に)たり。144大忠(だいちう)は大逆(だいぎやく)に似(に)たり。1441……と古(いにしへ)の聖人(せいじん)も云(い)つたぢや厶(ござ)いませぬか。145大義(たいぎ)親(しん)を滅(めつ)するとか云(い)ふ諺(ことわざ)も厶(ござ)います。146私(わたし)は大義(たいぎ)明分(めいぶん)の為(ため)には親(おや)を捨(す)てます。147何時(いつ)迄(まで)も其(その)精神(せいしん)をお変(か)へ下(くだ)さらぬ以上(いじやう)は、148親(おや)でも無(な)ければ子(こ)でもありませぬ。149私(わたし)の方(はう)から貴方(あなた)に向(むか)つて勘当(かんだう)を致(いた)しますよ』
150ガン『これ悴(せがれ)、151云(い)はしておけば何処(どこ)迄(まで)もつけ上(あが)り親(おや)を親(おや)とも思(おも)はぬ其(その)暴言(ばうげん)、152手打(てう)ちに致(いた)して呉(く)れるぞ』
153アリ『お父(とう)さま、154よいかげんに血迷(ちまよ)つておきなさいませ。155何(なに)を狼狽(らうばい)して居(を)られるのです。156アリナの身体(からだ)は最早(もはや)貴方(あなた)の自由(じいう)にはなりませぬ。157私(わたし)の身体(からだ)は太子(たいし)様(さま)の杖柱(つゑはしら)とお頼(たの)み遊(あそ)ばす、158タラハン城(じやう)に無(な)くてはならない国宝(こくほう)ですよ。159もしお手打(てうち)に遊(あそ)ばす御(ご)所存(しよぞん)ならば、160大王(だいわう)殿下(でんか)及(およ)び太子(たいし)殿下(でんか)のお許(ゆる)しを得(え)た上(うへ)になさいませ。161太子(たいし)殿下(でんか)の寵臣(ちようしん)を、162何(なに)程(ほど)左守(さもり)だつて自由(じいう)にする事(こと)は出来(でき)ますまい。163それこそ貴方(あなた)は不忠(ふちゆう)不義(ふぎ)の大逆賊(だいぎやくぞく)となるでせう』
164ガン『不忠(ふちゆう)不義(ふぎ)とは何(なん)たる暴言(ぼうげん)ぞ。165貴様(きさま)こそ万代(ばんだい)不易(ふえき)の王家(わうけ)を覆(くつが)へさむとする悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)の曲者(くせもの)だ。166不忠(ふちゆう)不義(ふぎ)の逆賊(ぎやくぞく)だ。167共産(きやうさん)主義(しゆぎ)や平民(へいみん)主義(しゆぎ)を太子(たいし)殿下(でんか)に日夜(にちや)吹(ふ)き込(こ)んだ売国奴(ばいこくど)め、168黙言(だまり)おろう』
169アリ『お父(とう)さま、170天帝(てんてい)より賦与(ふよ)された私(わたし)の言論(げんろん)機関(きくわん)を行使(かうし)するのは171私(わたし)の自由(じいう)の権利(けんり)で厶(ござ)います。172今日(こんにち)の不完全(ふくわんぜん)極(きは)まる貴方(あなた)の作(つく)つた法律(はふりつ)でさへも173言論(げんろん)集会(しふくわい)の自由(じいう)を認(みと)めて居(ゐ)るぢや厶(ござ)いませぬか。174左様(さやう)な解(わか)らぬ事(こと)を仰有(おつしや)いましては175耄碌爺(まうろくおやぢ)と云(い)はれても弁解(べんかい)の辞(じ)はありますまい。176矛盾(むじゆん)混沌(こんとん)、177自家(じか)撞着(どうちやく)も茲(ここ)に至(いた)つて極(きは)まれりと云(い)ふべしです。178貴方(あなた)は一体(いつたい)個人(こじん)の人格(じんかく)を無視(むし)せむとして居(ゐ)られますが、179国民(こくみん)としても、180個人(こじん)としても其(その)個性(こせい)を十分(じふぶん)発達(はつたつ)させ、181天地(てんち)の分霊(わけみたま)としての働(はたら)きを十二分(じふにぶん)に発揮(はつき)させ、182其(その)自由(じいう)の権(けん)を十分(じふぶん)行使(かうし)させねばならぬぢやありませぬか。183夫(そ)れだのに、184貴方(あなた)は圧迫(あつぱく)や威喝(ゐかつ)をもつて之(これ)を妨(さまた)げむとするのは185時代(じだい)に疎(うと)い癲狂(てんきやう)痴呆者(ちはうしや)と云(い)はねばなりますまい』
186ガン『お前(まへ)は年(とし)が若(わか)いから政治(せいぢ)の枢機(すうき)に参加(さんか)した事(こと)が無(な)いから、187左様(さやう)な小理窟(こりくつ)をこねるのだ。188併(しか)し乍(なが)ら理論(りろん)と実際(じつさい)とは大(おほい)に違(ちが)ふものだ。189今(いま)頃(ごろ)の政治家(せいぢか)を見(み)よ、190野(や)にある時(とき)は時(とき)の政府(せいふ)の施設(しせつ)に対(たい)し、191どうのかうのと極力(きよくりよく)反対(はんたい)を試(こころ)み、192民衆(みんしう)を煽(おだ)て上(あ)げ遂(つひ)に政府(せいふ)を乗(の)つ取(と)り、193扨(さ)て国政(こくせい)を執(と)つて見(み)ると俄然(がぜん)と調子(てうし)が変(かは)つて来(き)て、194野(や)にあつて咆哮(はうかう)した主義(しゆぎ)主張(しゆちやう)もケロリと捨(す)て、195否(いな)放擲(はうてき)せなくてはならぬやうになるものだ。196それだから世(よ)の中(なか)は議論(ぎろん)と実際(じつさい)とは大(おほい)に径庭(けいてい)のあるものだ。197其(その)間(かん)の消息(せうそく)も知(し)らずに、1971青二才(あをにさい)の分際(ぶんざい)として198小田(をだ)の蛙(かわづ)の鳴(な)くやうにゴタゴタ云(い)ふても納(をさ)まらないぞ。199総(すべ)て政治(せいぢ)の秘訣(ひけつ)は圧迫(あつぱく)に限(かぎ)るのだ』
200アリ『どこ迄(まで)もお父(とう)さまは解(わか)らないのですな。201理窟(りくつ)はどんなにでもつくものですよ。202専制(せんせい)と圧迫(あつぱく)を唯一(ゆゐいつ)の武器(ぶき)として治(をさ)めて居(ゐ)たスラブはどうです。203チヤイナはどうですか。204既(すで)に已(すで)に滅亡(めつぼう)したではありませぬか。205世界(せかい)各国(かくこく)競(きそ)ふて共和(きようわ)主義(しゆぎ)をもつて治国(ちこく)の主義(しゆぎ)となし、206次(つぎ)から次(つぎ)へと王政(わうせい)が亡(ほろ)びてゆく趨勢(すうせい)を見(み)ても、207時代(じだい)の潮流(てうりう)は共和(きようわ)主義(しゆぎ)に向(むか)つて、208急速力(きふそくりよく)を以(も)つて進(すす)んで居(ゐ)るぢやありませぬか、209個人(こじん)、2091個人(こじん)を無視(むし)するやうで、210どうして国家(こくか)を治(をさ)める事(こと)が出来(でき)ませうか。211賢明(けんめい)なる太子(たいし)殿下(でんか)は早(はや)くも此(この)点(てん)に気付(きづ)かれ、212王位(わうゐ)を去(さ)つて庶民(しよみん)となり、213個人(こじん)として214人間(にんげん)らしい生活(せいくわつ)をやつて見度(みた)いと望(のぞ)んでゐらつしやるのですよ。215もうお父(とう)さま、216貴方(あなた)も好(よ)い加減(かげん)に骸骨(がいこつ)をお乞(こ)ひなさい。217貴方(あなた)が一(いち)日(にち)国政(こくせい)を料理(れうり)さるればさるるだけ、218それだけ国家(こくか)は滅亡(めつぼう)に向(むか)ふのです。219国民(こくみん)の多(おほ)くは……頑迷(ぐわんめい)固陋(ころう)の左守(さもり)が220一(いち)日(にち)も早(はや)く、2201此(この)世(よ)を去(さ)れば221一(いち)日(にち)丈(だけ)国家(こくか)の利益(りえき)だ……と云(い)ふて居(を)りますよ』
222ガン『お前(まへ)は個人(こじん)々々(こじん)と云(い)ふて盛(さかん)に個人(こじん)主義(しゆぎ)をまくし立(た)てるが、223個人(こじん)主義(しゆぎ)が発達(はつたつ)すればする程(ほど)専制(せんせい)政治(せいぢ)が必要(ひつえう)ぢやないか。224完全(くわんぜん)なる個人(こじん)主義(しゆぎ)が発達(はつたつ)し、225生活(せいくわつ)し得(う)る力(ちから)が出来(でき)た所(ところ)で、226ほんの小(ちい)つぽけな砂(すな)のやうなものだ。227二十万(にじふまん)の国民(こくみん)が、228二十万(にじふまん)粒(つぶ)の砂(すな)になつたやうなものだ。229個々(ここ)別々(べつべつ)になつた砂(すな)は何(なに)程(ほど)堅固(けんご)でも団結力(だんけつりよく)は有(あ)るまい。230個人(こじん)としてはよからうが、231国家(こくか)及(および)団体(だんたい)としては実(じつ)につまらぬものぢや。232そこで、233カラピン王家(わうけ)と云(い)ふ大(おほ)きな革袋(かはぶくろ)が必要(ひつえう)なのだ。234この革袋(かはぶくろ)に二十万(にじふまん)粒(りう)の砂(すな)を入(い)れ袋(ふくろ)の口(くち)を固(かた)く縛(しば)り235横槌(よこづち)などで強(つよ)く叩(たた)きつけてこそ初(はじ)めて一(ひと)つの国家(こくか)団体(だんたい)が固(かた)まるのぢやないか。236革包(かはづつみ)の破(やぶ)れた袋(ふくろ)は所謂(いはゆる)支離(しり)滅裂(めつれつ)何(なん)の力(ちから)もない。237それを貴様(きさま)は破(やぶ)らうとする極(ごく)重悪人(ぢうあくにん)だ。238賢明(けんめい)なる殿下(でんか)のそれ位(くらゐ)の道理(だうり)のお解(わか)りにならない筈(はず)は無(な)いのだが、239貴様(きさま)が常(つね)に悪(わる)い思想(しさう)を吹(ふ)き込(こ)むものだから、240あのやうな悪(わる)い精神(せいしん)におなりなされたのだ。241云(い)はば貴様(きさま)はタラハン国(ごく)を覆(くつが)へす悪魔(あくま)の張本(ちやうほん)だ。242あゝもう仕方(しかた)がない。243死(し)ぬにも死(し)なれず、244悴(せがれ)は何(なに)程(ほど)説(と)き聞(き)かしても頑迷(ぐわんめい)不霊(ふれい)にして時代(じだい)を解(かい)せず、245政治(せいぢ)を知(し)らず、246何(なん)とした苦(くる)しい立場(たちば)であらう』
247アリ『お父(とう)様(さま)、248煩悶(はんもん)苦悩(くなう)の今日(こんにち)の境遇(きやうぐう)、249私(わたし)も同情(どうじやう)致(いた)しますが、250併(しか)し乍(なが)ら心(こころ)の持(も)ちやう一(ひと)つで厶(ござ)いますよ。251些(ちつ)と郊外(かうぐわい)の散歩(さんぽ)でもして、252天地(てんち)の芸術(げいじゆつ)を御覧(ごらん)なさいませ、253さうすれば些(ちつ)とは胸(むね)も開(ひら)けて新(あたら)しい思想(しさう)が生(うま)れて来(く)るでせう』
254 左守(さもり)は青息(あをいき)吐息(といき)しながら、
255『あゝあゝ兎(と)やせむ角(かく)や線香(せんかう)の煙(けむり)となつて、256タラハンの国家(こくか)は滅(ほろ)ぶのかなア』
257(大正一三・一二・四 新一二・二九 於祥雲閣 加藤明子録)
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