霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
×
設定
URL:
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
話者名の追加表示 [?]セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。[×閉じる]
表示できる章
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
行間
ルビの表示


アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注[※]用語解説 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

脚注[*]編集用 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

外字の外周色 [?]一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。[×閉じる]
現在のページには外字は使われていません

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。

第四章 笑(わらひ)の座(ざ)〔一七〇六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第67巻 山河草木 午の巻 篇:第1篇 美山梅光 よみ(新仮名遣い):びざんばいこう
章:第4章 笑の座 よみ(新仮名遣い):わらいのざ 通し章番号:1706
口述日:1924(大正13)年12月27日(旧12月2日) 口述場所:祥雲閣 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年8月19日
概要: 舞台:波切丸の船上 あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2026-08-06 15:11:58 文字数:6377 OBC :rm6704
愛善世界社版:41頁 八幡書店版:第12輯 44頁 修補版: 校定版:41頁 普及版:68頁 初版: ページ備考:
派生[?]この文献を底本として書かれたと思われる文献です。[×閉じる]:出口王仁三郎著作集 > 第二巻 変革と平和 > 第三部 『霊界物語』の思想 > 笑の座
001 湖神(こしん)白馬(はくば)の鬣(たてがみ)を揮(ふる)つて、002激浪(げきらう)怒濤(どたう)を起(おこ)し、003殆(ほとん)ど天(てん)をも呑(の)まむとする勢(いきほひ)なりし湖上(こじやう)の荒(すさ)びも、004癲癇(てんかん)が治(をさ)まつたやうに、005まるつきり嘘(うそ)をついた様(やう)にケロリと静(しづ)まつて、006水面(すいめん)は恰(あたか)も畳(たたみ)の目(め)の如(ごと)く、007縮緬皺(ちりめんじわ)をよせてゐる。008島影(しまかげ)を漕(こぎ)出(だ)した波切丸(なみきりまる)は、009欵乃(ふなうた)豊(ゆた)かに舳(へさき)を南方(なんぱう)に向(む)けていざり出(だ)した。
010 此(この)地方(ちはう)の風習(ふうしふ)として、011人々(ひとびと)何(いづ)れも閑散(かんさん)な時(とき)には無聊(むれう)を慰(なぐさ)むる為(ため)に、012笑(わら)ひの座(ざ)といふものが催(もよほ)される事(こと)がある。013笑(わら)ひの座(ざ)に参加(さんか)する者(もの)は、014何(いづ)れも黒(くろ)い布(ぬの)で面部(めんぶ)を包(つつ)み、015何人(なにびと)か分(わか)らぬやうにしておいて、016上(うへ)は王公(わうこう)より下(しも)は下女(げぢよ)下男(げなん)の噂(うはさ)や017国家(こくか)の現状(げんじやう)や人情(にんじやう)の機微(きび)などを話(はな)し、018面白(おもしろ)く可笑(をか)しく、019罵詈(ばり)嘲笑(てうせう)を逞(たくま)しうして、020笑(わら)ひこけ、021互(たがひ)に修身(しうしん)斉家(せいか)の羅針盤(らしんばん)とするのである。022流石(さすが)権力(けんりよく)旺盛(わうせい)なる大黒主(おほくろぬし)と雖(いへど)も、023此(この)笑(わら)ひの座(ざ)のみには一指(いつし)を染(そ)むる事(こと)も出来(でき)なかつた。024笑(わら)ひの座(ざ)は庶民(しよみん)が国政(こくせい)に参与(さんよ)する事(こと)のない代(かは)りに、025其(その)不平(ふへい)や鬱憤(うつぷん)を洩(も)らし、026或(あるひ)は政治(せいぢ)の善悪(ぜんあく)正邪(せいじや)や、027国家(こくか)の利害(りがい)得失(とくしつ)迄(まで)も、028怯(お)めず臆(おく)せず何人(なにびと)の前(まへ)にても喋々(てふてふ)喃々(なんなん)と吐露(とろ)することを、029不文律(ふぶんりつ)的(てき)に許(ゆる)されてゐたのである。
030 日(ひ)は麗(うらら)かに、031風(かぜ)暖(あたた)かく、032波(なみ)は静(しづか)に、033舟(ふね)の歩(あゆ)みもはかばかしからず、034遥(はるか)の湖面(こめん)には陽炎(かげろふ)が日光(につくわう)に瞬(またた)いてゐる。035其(その)有様(ありさま)は恰(あたか)も湖面(こめん)の縮緬皺(ちりめんじわ)が空中(くうちう)に反映(はんえい)したかのやうに思(おも)はれた。036さも恐(おそ)ろしかりし海賊(かいぞく)の難(なん)や暴風(ばうふう)怒濤(どたう)の悩(なや)み、037殆(ほとん)ど難破(なんぱ)に瀕(ひん)したる波切丸(なみきりまる)の暗礁(あんせう)の難(なん)を免(まぬが)れたる嬉(うれ)しさに、038何(いづ)れも天地(てんち)の神(かみ)を礼拝(らいはい)し、039感謝(かんしや)の辞(じ)を捧(ささ)ぐる事(こと)半時(はんとき)許(ばか)り、040其(その)あとは三々(さんさん)伍々(ごご)デッキの上(うへ)に円(ゑん)を描(ゑが)いて、041笑(わら)ひの座(ざ)が開(ひら)かれた。
042甲(かふ)『諸君(しよくん)、043何(ど)うです、044此(この)穏(おだや)かな湖面(こめん)を眺(なが)めて、045旅情(りよじやう)を慰(なぐさ)むる為(ため)に、046天下(てんか)御免(ごめん)の笑(わら)ひの座(ざ)を催(もよほ)したら何(ど)うでせう』
047乙(おつ)『イヤそりや面白(おもしろ)いでせう。048チツト許(ばか)り、049言論(げんろん)機関(きくわん)たる天(あま)の瓊矛(ぬほこ)を運用(うんよう)させても宜(よろ)しからうかと考(かんが)へてゐた所(ところ)です。050何(なに)か面白(おもしろ)い話(はなし)を聞(き)きたいものですなア』
051甲(かふ)『皆(みな)さま、052黒布(くろぬの)をお被(かぶ)りなさい。053之(これ)も此(この)国(くに)の神世(かみよ)から定(き)まつた不文律(ふぶんりつ)ですから。054其(その)代(かは)りに目(め)の前(まへ)にゐる貴方(あなた)方(がた)の悪口(あくこう)雑言(ざふごん)を云(い)ふかも知(し)れませぬが……笑(わら)ひの座(ざ)の規則(きそく)として御(ご)立腹(りつぷく)のなき様(やう)に予(あらかじ)め願(ねが)つておきますよ、055アハヽヽヽ』
056乙(おつ)『サアサア自分(じぶん)の顔(かほ)のしみは見(み)えないものだから、057俺(おれ)は偉(えら)い偉(えら)い、058世間(せけん)の奴(やつ)は馬鹿(ばか)だとか、059間抜(まぬけ)だとか、060腰抜(こしぬけ)だとか思(おも)つてゐるものです。061自分(じぶん)が自分(じぶん)を理解(りかい)する様(やう)になれば、062人間(にんげん)も一人前(いちにんまへ)の人格者(じんかくしや)ですが、063燈台(とうだい)下(もと)暗(くら)しとか云(い)つて、064自分(じぶん)の事(こと)は解(わか)らないものですからな。065どうか忌憚(きたん)なく、066お気付(きづき)になつた事(こと)は批評(ひひやう)して下(くだ)さい。067それが私(わたし)に取(と)つて処世(しよせい)上(じやう)の唯一(ゆゐいつ)の力(ちから)となりますから』
068甲(かふ)『宜(よろ)しい、069倒徳利(こけどつくり)の詰(つめ)が取(と)れた以上(いじやう)は、070味(あぢ)の悪(わる)い濁酒(どぶざけ)を吐(はき)出(だ)して、071諸君(しよくん)を酔生(すゐせい)夢死(むし)せしむる様(やう)な迷論(めいろん)濁説(だくせつ)が際限(さいげん)もなく迸出(へいしゆつ)するかも知(し)れませぬよ』
072乙(おつ)『サアサア是非(ぜひ)願(ねが)ひませう。073自分(じぶん)の頭(あたま)や顔面(がんめん)が見(み)え、074又(また)自分(じぶん)の首(くび)や背中(せなか)が見(み)える様(やう)な人間(にんげん)ならば、075自己(じこ)の欠点(けつてん)が判然(はんぜん)と解(わか)るでせうが、076不完全(ふくわんぜん)に造(つく)られた吾々(われわれ)人間(にんげん)は、077到底(たうてい)暗黒面(あんこくめん)のあるのは、078止(や)むを得(え)ないです。079其(その)暗黒面(あんこくめん)を親(した)しき友(とも)から、080破羅(はら)剔抉(てきけつ)して注意(ちうい)を与(あた)へて貰(もら)ふ事(こと)は、081無上(むじやう)の幸福(かうふく)でせう。082併(しか)しお前(まへ)さまの暗黒面(あんこくめん)も素破(すつぱ)抜(ぬ)きますが、083御(ご)承知(しようち)でせうな』
084甲(かふ)『それは相身互(あひみたがひ)です。085そんなら私(わたし)から発火(はつくわ)しませう。086……エー、087貴方(あなた)此(この)頃(ごろ)大黒主(おほくろぬし)様(さま)から大変(たいへん)な偉(えら)い職名(しよくめい)を与(あた)へられたといふ事(こと)だが一体(いつたい)どんな御(ご)気分(きぶん)がしますか、088竹寺官(ちくじくわん)と云(い)へば腰弁(こしべん)とは違(ちが)つて、089役所(やくしよ)へ通(かよ)ふのにも馬(うま)とか車(くるま)とか相当(さうたう)な準備(じゆんび)も要(い)るでせう。090随分(ずいぶん)愉快(ゆくわい)でせうな』
091乙(おつ)『実(じつ)は某役所(ぼうやくしよ)の執事(しつじ)に栄進(えいしん)したのです。092然(しか)し乍(なが)ら赤門(あかもん)を出(で)てから官海(くわんかい)に遊泳(いうえい)すること殆(ほと)んど十五(じふご)年(ねん)、093どうやらかうやら執事(しつじ)まで昇(のぼ)つたのです。094吾々(われわれ)の学友(がくいう)は大抵(たいてい)小名(せうみやう)から大名(だいみやう)、095納言級(なごんきふ)に昇(のぼ)つた連中(れんちう)もありますが、096私(わたし)は阿諛(あゆ)諂佞(てんねい)とか追従(つゐしよう)とか低頭(ていとう)平身(へいしん)などの行為(かうゐ)が嫌(きら)いなので、097相当(さうたう)の実力(じつりよく)を持(も)ち乍(なが)ら漸(やうや)く某役所(ぼうやくしよ)の執事(しつじ)になつた位(ぐらゐ)なものです。098本当(ほんたう)に十五(じふご)年間(ねんかん)も孜々(しし)兀々(こつこつ)として役所(やくしよ)の門(もん)を潜(くぐ)り、099今(いま)に借家(しやくや)住居(ずまゐ)をして色々(いろいろ)の雅号(ががう)を頂(いただ)いた所(ところ)で一銭(いつせん)の金(かね)が月給(げつきふ)の外(ほか)に湧(わ)いて来(く)るでもなし、100一握(ひとにぎり)の米(こめ)が生(うま)れるでもなし、101丸(まる)つきり高等(かうとう)ルンペンの様(やう)なものです。102それでも公式(こうしき)の場所(ばしよ)へは他(た)の連中(れんちう)が嬉(うれ)しさうに雅号(ががう)のついたレツテルをぶらさげて行(ゆ)きよるものだから、103私(わたし)も心(こころ)に染(そ)まないけれど、104何(なん)だかひけを取(と)るやうな気分(きぶん)がするので、105嫌々(いやいや)乍(なが)らレツテルをはつて行(ゆ)くのですよ。106アハヽヽヽヽ』
107甲(かふ)『嫌(いや)なものを張(は)つて行(ゆ)くと云(い)はれましたが、108然(しか)し貴方(あなた)の本心(ほんしん)としてはまつたく嫌(いや)で叶(かな)はないのぢやありますまい。109嫌(いや)な嫌(いや)な毛虫(けむし)が胸(むね)にくつついてゐたら誰(たれ)しも之(これ)を払(はら)ひ落(おと)すでせう。110そこが貴方(あなた)の闇黒面(あんこくめん)で、111所謂(いはゆる)偽善(ぎぜん)と云(い)ふものです。112爵位(しやくゐ)何物(なにもの)ぞ、113権勢(けんせい)何物(なにもの)ぞ、114富貴(ふうき)何(なに)ものぞ、115只(ただ)吾々(われわれ)は天下(てんか)の志士(しし)だと人(ひと)に思(おも)はせたい為(ため)の飾(かざ)り言葉(ことば)でせう。116虚礼(きよれい)虚飾(きよしよく)を以(も)つて唯一(ゆゐいつ)の処生法(しよせいはふ)と為(な)し、117交際(かうさい)上(じやう)の武器(ぶき)と信(しん)じてゐられるのでせう。118さういふお方(かた)が上流(じやうりう)に浮游(ふいう)してゐる間(あひだ)は、119神(かみ)様(さま)の神政(しんせい)成就(じやうじゆ)も到底(たうてい)駄目(だめ)でせう。120私(わたし)は米搗(こめつき)ばつたといふものを見(み)る度(たび)に、121何(なん)となく嫌忌(けんき)の情(じやう)が胸(むね)に湧(わ)いて来(く)るのです。122併(しか)し過言(くわごん)は御免(ごめん)を蒙(かうむ)つておきませう。123何(なん)と云(い)つても笑(わら)ひの座(ざ)の席(せき)での言葉(ことば)で厶(ござ)いますからな』
124乙(おつ)『ヤ、125貴方(あなた)も中々(なかなか)の批評家(ひひやうか)ですね。126実(じつ)は私(わたし)も米搗(こめつき)ばつたにはなり度(た)くないのです。127これを辞(や)めれば忽(たちま)ち妻子(さいし)が路頭(ろとう)に迷(まよ)ひ、128生存難(せいぞんなん)におびやかされるから長者(ちやうじや)に膝(ひざ)を屈(くつ)し腰(こし)を曲(ま)げ、129ばつたや蓄音機(ちくおんき)の悲境(ひきやう)に沈淪(ちんりん)しながらも陰忍(いんにん)自重(じちよう)して、130あたら月日(つきひ)を送(おく)つてゐるのです。131今日(こんにち)の米搗(こめつき)ぐらゐ卑劣(ひれつ)な、132暗愚(あんぐ)な狭量(けふりやう)な、133そして高慢心(かうまんしん)の強(つよ)い代物(しろもの)はありませぬわ。134何(なに)か可(よ)い商売(しやうばい)でもあつたら、135男(をとこ)らしく辞職(じしよく)をしてみたいのです。136そして辞表(じへう)を長官(ちやうくわん)の面前(めんぜん)へ投(な)げつけてやりたいと、137切歯(せつし)扼腕(やくわん)慷慨(かうがい)悲憤(ひふん)の涙(なみだ)にくれることは幾度(いくたび)だか知(し)れませぬよ。138卑劣(ひれつ)な、139暗愚(あんぐ)な、140おべつか主義(しゆぎ)の小人物(せうじんぶつ)はドシドシ執事(しつじ)にもなり、141小名(せうみやう)にもなり、142大名(だいみやう)にもなつて、143時(とき)めき渡(わた)ることが出来(でき)ますが、144私(わたし)のやうな硬骨漢(かうこつかん)になると、145上流(じやうりう)の奴(やつ)、146彼奴(あいつ)ア頑迷(ぐわんめい)だとか、147剛腹(がうふく)だとか、148融通(ゆうづう)が利(き)かないとか、149野心家(やしんか)だとか、150過激(くわげき)主義(しゆぎ)だとか、151反抗(はんかう)主義(しゆぎ)だとか、152生意気(なまいき)だとか、153猪口才(ちよこざい)だとか、154何(なん)とかかんとか、155種々(しゆじゆ)の称号(しやうがう)をつけて、156頭(あたま)を抑(おさ)へるのみならず、157グヅグヅしてゐると寒海(かんかい)から放(ほ)り出(だ)されて了(しま)ふのですから、158人生(じんせい)、159米搗虫(こめつきむし)位(ぐらゐ)惨(みじ)めな者(もの)はありませぬよ。160実(じつ)に悲哀(ひあい)極(きは)まる者(もの)は官吏(くわんり)生活(せいくわつ)ですよ。161ハヽヽヽ』
162甲(かふ)『全体(ぜんたい)、163月(つき)の国(くに)の人間(にんげん)は、164国(くに)は大(おほ)きうても、165小人物(せうじんぶつ)許(ばか)りで、166到底(たうてい)世界(せかい)強国(きやうこく)の班(はん)に列(れつ)するの光栄(くわうえい)を永続(えいぞく)することは不可能(ふかのう)でせう。167外交(ぐわいかう)はカラツキシなつてゐないし、168強国(きやうこく)の鼻息(はないき)を伺(うかが)ふこと計(ばか)りに汲々乎(きふきふこ)とし、169内政(ないせい)は人民(じんみん)の自由(じいう)意志(いし)を圧迫(あつぱく)し、170少(すこ)しく骨(ほね)のある人間(にんげん)は、171何(なん)とかカンとかいつては、172牢獄(らうごく)へブチ込(こ)み、173天人若(アマンジヤク)斗(ばか)りを登用(とうよう)して顕要(けんえう)の地位(ちゐ)に就(つ)かしめ、174己(おの)れに諛(こ)び諂(へつ)らふ者(もの)のみ抜擢(ばつてき)して、175愚者(ぐしや)、176卑劣漢(ひれつかん)のみが高(たか)いところに蠢動(しゆんどう)してゐるのだから、177到底(たうてい)国家(こくか)の存立(そんりつ)も覚束(おぼつか)ないではありませぬか。178今(いま)の時(とき)に当(あた)つて、179本当(ほんたう)に国家(こくか)を思(おも)ふ英雄(えいゆう)豪傑(がうけつ)、180又(また)は愛善(あいぜん)の徳(とく)にみちた大真人(だいしんじん)が現(あら)はれなくちや駄目(だめ)でせうよ』
181乙(おつ)『さうですなア、182私(わたくし)の考(かんが)へでは、183茲(ここ)二三(にさん)年(ねん)の間(あひだ)には、184月(つき)の国(くに)の大国難(だいこくなん)が襲来(しふらい)するだらうと思(おも)ひます。185大番頭(おほばんとう)も、186其(その)他(た)の納言(なごん)も、187どうも怪(あや)しい怪(あや)しいと何時(いつ)も芝生(しばふ)に頭(あたま)を鳩(あつ)めて、188青息(あをいき)吐息(といき)で相談(さうだん)をやつてゐますが、189何(いづ)れも策(さく)の施(ほどこ)しやうがないと云(い)つて居(を)ります。190何(なん)といつても今(いま)の世情(せじやう)は、191宗教(しうけう)を邪魔物(じやまもの)扱(あつか)ひし、192物質(ぶつしつ)本能(ほんのう)主義(しゆぎ)を極端(きよくたん)に発揮(はつき)し、193何事(なにごと)も世(よ)の中(なか)は黄金(わうごん)さへあれば解決(かいけつ)がつく様(やう)に誤解(ごかい)してゐたものですから、194従(したが)つて国民(こくみん)教育(けういく)も全部(ぜんぶ)物質(ぶつしつ)主義(しゆぎ)に傾(かたむ)き、195国民(こくみん)信仰(しんかう)の基礎(きそ)がぐらついて、196殆(ほとん)ど精神(せいしん)的(てき)破産(はさん)に瀕(ひん)してゐるのですから、197到底(たうてい)此(この)頽勢(たいせい)を挽回(ばんくわい)する望(のぞ)みはありますまい。198今(いま)に世界(せかい)は七大(しちだい)強国(きやうこく)となり、199十数(じふすう)年(ねん)の後(のち)には、200世界(せかい)は二大(にだい)強国(きやうこく)に分(わか)れると云(い)ふ趨勢(すうせい)ですが、201どうかして印度(つき)の国(くに)も、202二大(にだい)強国(きやうこく)の一(ひとつ)に入(い)りたいものですが、203今日(こんにち)の頭株(あたまかぶ)の施政(しせい)方針(はうしん)では、204亡国(ばうこく)より道(みち)はありませぬ。205物価(ぶつか)は高(たか)く、206官吏(くわんり)は多(おほ)く、207比較(ひかく)的(てき)人民(じんみん)も多(おほ)くして、208生存難(せいぞんなん)は日(ひ)に日(ひ)に至(いた)り、209強盗(がうたう)殺人(さつじん)騒擾(さうぜう)なども、210無道(むだう)的(てき)行為(かうゐ)は到(いた)る処(ところ)に瀕発(ひんぱつ)し、211仁義(じんぎ)道徳(だうとく)地(ち)に堕(お)ち、212人心(じんしん)は虎狼(こらう)の如(ごと)く相荒(あひすさ)び、213親子(おやこ)兄弟(きやうだい)の間(あひだ)も利害(りがい)のためには仇敵(きうてき)も只(ただ)ならざる人情(にんじやう)、214教育(けういく)の力(ちから)も宗教(しうけう)の力(ちから)も、215サツパリ零(ぜろ)です。216否(いな)宗教(しうけう)は益々(ますます)悪人(あくにん)を養成(やうせい)し、217経済学(けいざいがく)は国家(こくか)民人(みんじん)を貧窮(ひんきう)に陥(おとしい)れ、218法律(はふりつ)は善人(ぜんにん)を疎外(そぐわい)し、219智者(ちしや)を採用(さいよう)し、220医学(いがく)は人(ひと)の生命(せいめい)を縮(ちぢ)め、221道徳(だうとく)は悪人(あくにん)が虚偽(きよぎ)的(てき)生活(せいくわつ)の要具(えうぐ)となり、222商業(しやうげふ)は公然(こうぜん)の詐偽師(さぎし)となり、223一(いつ)として国家(こくか)を維持(ゐぢ)し国力(こくりよく)を進展(しんてん)せしむるものは見当(みあた)りませぬ。224それだから私(わたし)も一(ひと)つ奮発(ふんぱつ)して、225国家(こくか)の滅亡(めつぼう)を未然(みぜん)に防(ふせ)ぎ度(た)いと焦慮(せうりよ)して居(を)りますが、226何分(なにぶん)衣食住(いしよくぢう)に追(お)はれてゐるものですから手(て)の出(だ)し様(やう)がありませぬ。227米搗虫(こめつきむし)の地位(ちゐ)を利用(りよう)して賄賂(わいろ)でもどしどし取(と)れば、228又(また)寒海(かんかい)を辞(じ)した時(とき)、229社会(しやくわい)に活動(くわつどう)するの余祐(よゆう)も出来(でき)るでせうが、230それは私(わたし)には到底(たうてい)出来(でき)ない芸当(げいたう)です。231とやせむかくやせむと国家(こくか)の前途(ぜんと)を思(おも)ひ、232日夜(にちや)肺肝(はいかん)を砕(くだ)いてをりますが、233心(こころ)許(ばか)り焦(あせ)つて、234其(その)実行(じつかう)の緒(いとぐち)につく事(こと)が出来(でき)ないのは遺憾(ゐかん)千万(せんばん)で厶(ござ)います』
235甲(かふ)『今(いま)貴方(あなた)は、236官(くわん)を辞(じ)したら、237衣食住(いしよくぢう)に忽(たちま)ち困(こま)るから、238国家(こくか)の大事(だいじ)を前途(ぜんと)に控(ひか)へ乍(なが)ら、239活動(くわつどう)することが出来(でき)ないといはれましたが、240それは貴方(あなた)の薄志(はくし)弱行(じやくかう)といふものです。241徒(いたづ)らに切歯(せつし)扼腕(やくわん)慷慨(かうがい)悲憤(ひふん)の涙(なみだ)にくれてゐた所(ところ)で、242社会(しやくわい)に対(たい)して寸効(すんかう)も上(あが)らないでせう。243納言(なごん)になる丈(だけ)の腕(うで)を持(も)つた貴方(あなた)なれば、244民間(みんかん)に下(くだ)つて何(なに)事業(じげふ)をせられても屹度(きつと)相当(さうたう)の収益(しうえき)もあり、245又(また)成功(せいこう)もするでせう。246人(ひと)は断(だん)の一字(いちじ)が肝腎(かんじん)ですよ。247空中(くうちう)を翔(かけ)る鳥(とり)でさへも、248何(なん)の貯(たくは)へもして居(を)りませぬが、249天地(てんち)の神(かみ)は、250彼(かれ)等(ら)を安全(あんぜん)に養(やしな)つてゐるだありませぬか。251窮屈(きうくつ)な不快(ふくわい)な寒吏(かんり)生活(せいくわつ)を罷(や)めて、252正々(せいせい)堂々(だうだう)と自由(じいう)自在(じざい)に、253何(なに)か事業(じげふ)をおやりなさつたら何(ど)うです。254活動(くわつどう)は屹度(きつと)衣食住(いしよくぢう)を生(う)み出(だ)すものです。255何(なに)を苦(くる)しんで官費(くわんぴ)に可惜(あたら)貴重(きちよう)な生命(せいめい)を固持(こじ)する必要(ひつえう)がありますか』
256乙(おつ)『お説(せつ)は一応(いちおう)御尤(ごもつと)もですが、257吾々(われわれ)は悲(かな)しいことには父母(ふぼ)の膝(ひざ)をかぢつて、258小学(せうがく)、259中学(ちうがく)、260大学(だいがく)と一通(ひととほ)りの学問(がくもん)の経路(けいろ)を越(こ)え、261学窓(がくさう)生活(せいくわつ)のみに日(ひ)を送(おく)り社会(しやくわい)一般(いつぱん)の事情(じじやう)に通(つう)ぜず、262又(また)苦労(くらう)をしたこともなし、263今(いま)となつては乗馬(じやうめ)おろしの様(やう)なもので、264寒海(かんかい)を離(はな)れたならば、265何一(なにひと)つ社会(しやくわい)に立(た)つて働(はたら)く仕事(しごと)がありませぬ。266新聞(しんぶん)記者(きしや)にでもなるか、267或(あるひ)は三百(さんびやく)代言(だいげん)の毛(け)の生(は)えた如(や)うな者(もの)になるより行(や)り場(ば)のない厄介者(やくかいもの)ですからな』
268甲(かふ)『凡(すべ)て人民(じんみん)の風上(かざかみ)に立(た)つ役人(やくにん)たる者(もの)は、269何(なに)から何(なに)迄(まで)、270之(これ)が一(ひと)つ出来(でき)ないといふ事(こと)のない所(ところ)迄(まで)、271経験(けいけん)を積(つ)まねばならず、272又(また)人情(にんじやう)にも通(つう)じてゐなくてはならない筈(はず)だのに、273今日(こんにち)の官吏(くわんり)なる者(もの)は、274凡(すべ)て社会(しやくわい)と没交渉(ぼつかうせふ)で、275何一(なにひと)つの芸能(げいのう)もなく、276無味(むみ)乾燥(かんさう)な法律学(はふりつがく)のみに頭(あたま)を固(かた)めてゐるのだから、277風流(ふうりう)とか温雅(をんが)とか、278思(おも)いやりとかの美徳(びとく)が備(そなは)つてゐない。279そんな連中(れんちう)が世話(せわ)の衝(しよう)に当(あた)つてゐるのだから、280民衆(みんしう)が号泣(がうきふ)の声(こゑ)も塗炭(とたん)の苦(くる)しみも目(め)に入(い)らず耳(みみ)に聞(きこ)えず、281世(よ)は益々(ますます)悪化(あくくわ)する許(ばか)り、282之(これ)では一(ひと)つ天地(てんち)の神(かみ)の大活動(だいくわつどう)を待(ま)たねば、283到底(たうてい)暗黒(あんこく)社会(しやくわい)の黎明(れいめい)を期待(きたい)することは難(むつか)しいでせう。284あゝ困(こま)つた世態(せたい)になつたものだなア』
285乙(おつ)『仮(かり)に私(わたし)が官(くわん)を辞(じ)し、286民間(みんかん)に降(くだ)るとすれば、287どうでせう、288何(なに)職業(しよくげふ)を選(えら)むべきでせうか。289どうか一(ひと)つ智恵(ちゑ)を貸(か)して頂(いただ)きたいものですな』
290甲(かふ)『貴方(あなた)到底(たうてい)駄目(だめ)でせう。291人(ひと)に智恵(ちゑ)を借(か)つてやるよなことでは、292何(なに)事業(じげふ)だつて、293成功(せいこう)するものだありませぬよ。294自分(じぶん)が自分(じぶん)を了解(れうかい)してゐられないのだから、295……先(ま)づ……斯(か)ういふと失礼(しつれい)だが……貴方(あなた)の適業(てきげふ)と云(い)へば山賊(さんぞく)でせう』
296乙(おつ)『これは怪(け)しからぬ。297私(わたし)がそれ程(ほど)悪人(あくにん)に見(み)えますか。298私(わたし)も印度(いんど)男子(だんし)です。299腐(くさ)つても鯛(たい)、300苟(いやしく)も納言(なごん)の地位(ちゐ)に登(のぼ)つた紳士(しんし)の身(み)であり乍(なが)ら、301山賊(さんぞく)が適任(てきにん)とは、302余(あま)り御(ご)過言(くわごん)ではありますまいか』
303甲(かふ)『ハヽヽ、304納言(なごん)となれば何(いづ)れ数百(すうひやく)人(にん)の小泥棒(こどろぼう)を監督(かんとく)してゐられたでせう。305さうすれば貴方(あなた)は今日(こんにち)迄(まで)、306立派(りつぱ)な役人(やくにん)と表面(へうめん)上(じやう)見(み)えて居(を)つても、3061寒賊(かんぞく)の親分(おやぶん)だ、307寒賊(かんぞく)が山賊(さんぞく)になるのは、308適材(てきざい)を適所(てきしよ)に用(もち)ふるといふものです。309あのオーラ山(さん)のヨリコ姫(ひめ)、310シーゴー、311玄真坊(げんしんばう)などを御覧(ごらん)なさい。312堂々(だうだう)と山寨(さんさい)に立籠(たてこも)り、313三千(さんぜん)の部下(ぶか)を指揮(しき)し、314王者然(わうじやぜん)と控(ひか)へてゐたではありませぬか。315表面(へうめん)納言(なごん)などと、316こけ威(おど)しの看板(かんばん)を掲(かか)げ、317レツテルを吊(つ)らくつて人民(じんみん)の膏血(かうけつ)を絞(しぼ)り、318賄賂(わいろ)をとり、319弱者(じやくしや)を苦(くる)しめ、320強者(きやうしや)の鼻息(はないき)を窺(うかが)ひ、321且(か)[*底本では「旦」だが誤字だと思われる。校正本では手書き。]つ上長(じやうちやう)の機嫌(きげん)を取(と)り、322女性(ぢよせい)的(てき)卑劣(ひれつ)極(きは)まる偽善(ぎぜん)的(てき)泥棒(どろぼう)を行(や)つて居(ゐ)るよりも、323シーゴーの様(やう)に堂々(だうだう)と泥棒(どろばう)の看板(かんばん)を掲(かか)げてやつてる方(はう)が、324余程(よほど)男(をとこ)らしいだありませぬか。325今日(こんにち)の世(よ)の中(なか)は上(うへ)から下(した)迄(まで)泥棒(どろばう)斗(ばか)りです。326況(ま)して泥棒(どろばう)をせない官吏(くわんり)は一人(ひとり)もないでせう。327人権(じんけん)蹂躙(じうりん)の張本(ちやうほん)、328圧迫(あつぱく)の権化(ごんげ)、329鬼(おに)の再来(さいらい)、330幽霊(いうれい)の再生(さいせい)、331骸骨(がいこつ)の躍動(やくどう)、332女房(にようばう)の機嫌(きげん)取(と)り、333寒商(かんしやう)の番頭(ばんとう)などをやつてゐるよりも、334幾数倍(いくすうばい)か山賊(さんぞく)の方(はう)が男性(だんせい)的(てき)でせう、335ハヽヽヽヽ。336イヤ失礼(しつれい)、337天性(てんせい)の皮肉屋(ひにくや)、338悪口屋(あくこうや)ですから、339何(ど)うぞ大目(おほめ)にみて下(くだ)さい……イヤ大耳(おほみみ)に聞(き)いて下(くだ)さい』
340 シーゴーは二人(ふたり)の話(はなし)を、341背(せ)をそむけ乍(なが)ら、342耳(みみ)をすまして聞(き)いてゐた。343そして時々(ときどき)微笑(びせう)したり、344溜息(ためいき)をついたり、345或(ある)時(とき)は肩(かた)をそびやかしたり、346平手(ひらて)で額口(ひたひぐち)を打(う)つたり、347両方(りやうはう)の手(て)で顔(かほ)を拭(ぬぐ)ふたり、348頭(あたま)を掻(か)いたりしてゐた。349そして彼(かれ)シーゴーは自分(じぶん)が今(いま)迄(まで)、350オーラ山(さん)でヨリコ姫(ひめ)を謀師(ぼうし)とし、351山賊(さんぞく)の大頭目(だいとうもく)として豺狼(さいらう)の如(ごと)き悪人輩(あくにんばら)を使役(しえき)してゐたのは、352余(あま)り良心(りやうしん)に恥(は)づる行動(かうどう)でもなかつた、353印度(いんど)男子(だんし)の典型(てんけい)は俺(おれ)だ、354如何(いか)にも寒狸(かんり)といふ奴(やつ)、355卑怯(ひけふ)未練(みれん)な小泥棒(こどろぼう)だ、356到底(たうてい)俺(おれ)の敵(てき)ではない。357ヤツパリ俺(おれ)は偉(えら)いワイ、358三五教(あななひけう)の梅公(うめこう)さまの威徳(ゐとく)に打(うた)れて、359神(かみ)の道(みち)に改悛(かいしゆん)帰順(きじゆん)を表(へう)したものの、360今(いま)となつて考(かんが)へてみれば実(じつ)に惜(を)しいことをした。361最早(もはや)六日(むゆか)の菖蒲(あやめ)十日(とをか)の菊(きく)だ。362併(しかし)乍(なが)ら俺(おれ)が偉(えら)いのではない、363ヨリコ姫(ひめ)女帝(によてい)の縦横(じうわう)の智略(ちりやく)、364権謀(けんぼう)術数(じゆつすう)的(てき)妙案(めうあん)奇策(きさく)が与(あづか)つて力(ちから)あつたのだ。365ヨリコさま女帝(によてい)も此(この)話(はなし)は耳(みみ)に入(い)つただろ、366どうか自分(じぶん)と同様(どうやう)に心(こころ)を翻(ひるが)へして呉(く)れないか知(し)らん。367大黒主(おほくろぬし)だつて大泥棒(おほどろばう)だ、368勝(か)てば善神(ぜんしん)、369負(ま)くれば悪神(あくがみ)だ。370善悪(ぜんあく)正邪(せいじや)は要(えう)するに優勝(いうしよう)劣敗(れつぱい)の称号(しやうがう)だ。371なまじひ、372菩提心(ぼだいしん)を起(おこ)し、373宗教(しうけう)なんかに溺没(できぼつ)したのは一生(いつしやう)の不覚(ふかく)だつた。374今(いま)の話(はなし)で聞(き)くと、375宗教家(しうけうか)だつてヤツパリ一種(いつしゆ)の泥棒(どろばう)だ。376世(よ)の中(なか)に顔(かほ)だとか、377恥(はぢ)だとかいつて気(き)にかけてるよな小人物(せうじんぶつ)では、378生存(せいぞん)競争(きやうそう)の激烈(げきれつ)なる現代(げんだい)に立(た)つて、379生存(せいぞん)するこた出来(でき)ない。380あゝ何(ど)うしたら可(よ)からうかな。381一旦(いつたん)男(をとこ)の口(くち)から神仏(しんぶつ)に誓(ちか)つて悔(く)い改(あらた)めますと云(い)つた以上(いじやう)、382此(この)宣誓(せんせい)を撤回(てつくわい)する訳(わけ)にもいかない。383それでは男子(だんし)たるの資格(しかく)はゼロになつて了(しま)ふ……と吐息(といき)をついてゐる。384ヨリコ姫(ひめ)は微笑(びせう)を泛(うか)べ乍(なが)ら、385シーゴーの前(まへ)に進(すす)み来(きた)り、
386『村肝(むらきも)の心(こころ)の空(そら)に雲(くも)立(た)ちて
387月日(つきひ)は暗(やみ)に包(つつ)まれにける。
388右(みぎ)やせむ左(ひだり)やせむとシーゴーが
389動(うご)く心(こころ)の浅(あさ)ましきかな。
390男子(をのこ)てふものの心(こころ)の弱(よわ)きをば
391今(いま)目(ま)のあたり見(み)るぞうたてき。
392惟神(かむながら)神(かみ)のまにまに進(すす)みゆけ
393救(すく)ひの舟(ふね)に乗(の)りし身(み)なれば』
394シーゴー『煩悩(ぼんなう)の犬(いぬ)に追(お)はれて吾(われ)は今(いま)
395あはや地獄(ぢごく)に堕(お)ちなむとせり。
396うるはしき汝(なれ)が言霊(ことたま)聞(き)くにつけ
397胸(むね)の雲霧(くもきり)晴(は)れわたりける』
398ヨリコ『み救(すく)ひの神船(みふね)に乗(の)りし吾々(われわれ)は
399神(かみ)のまにまに世(よ)を渡(わた)りなむ』
400 ヨリコ姫(ひめ)はシーゴーの手(て)を執(と)り、401船舷(ふなばた)に立(た)ち、402東方(とうはう)に向(むか)つて折柄(をりから)昇(のぼ)る旭(あさひ)を拝(はい)し、403梅公(うめこう)に導(みちび)かれて宣伝(せんでん)の旅(たび)に着(つ)きたる事(こと)を感謝(かんしや)し、404且(かつ)天地(てんち)に向(むか)つて次(つぎ)の如(ごと)き誓(ちか)ひを立(た)てた。
 
405『一(いち)、406愛善(あいぜん)の徳(とく)と信真(しんしん)の光(ひかり)に充(み)ち智慧(ちゑ)証覚(しようかく)の源泉(げんせん)に坐(ま)す407天地(てんち)の太祖(たいそ)大国常立(おほくにとこたちの)大神(おほかみ)の御(ご)神格(しんかく)に帰依(きえ)し奉(まつ)り、408天下(てんか)の蒼生(さうせい)と共(とも)に無上(むじやう)惟神(かむながら)の大道(だいだう)を歩(あゆ)まむことを祈願(きぐわん)し奉(たてまつ)る。
409二(に)、410大祖神(だいそしん)の宣示(せんじ)し給(たま)ひし惟神(かむながら)の大道(だいだう)を遵奉(じゆんぽう)し、411愛善(あいぜん)信真(しんしん)の諸光徳(しよくわうとく)に住(ぢう)し、412大海(だいかい)の如(ごと)き智慧(ちゑ)証覚(しようかく)の内流(ないりう)を拝(はい)し、413天下(てんか)の蒼生(さうせい)と共(とも)に斯(こ)の大道(だいだう)を遵奉(じゆんぽう)し、414三界(さんかい)を通(つう)じて神子(しんし)たるの本分(ほんぶん)を完全(くわんぜん)に保持(ほぢ)し、415神(かみ)の任(よ)さしの神業(かむわざ)に奉仕(ほうし)せむ事(こと)を祈願(きぐわん)し奉(たてまつ)る。
416三(さん)、417天下(てんか)の蒼生(さうせい)を愛撫(あいぶ)し、418神業(しんげふ)を完成(くわんせい)し、419厳瑞(げんずゐ)二霊(にれい)の大神格(だいしんかく)を一身(いつしん)に蒐(あつ)め、420神世(しんせい)復古(ふくこ)万有愛(ばんいうあい)の実行(じつかう)に就(つ)かせ給(たま)ふ伊都能売(いづのめの)神柱(かむばしら)の神格(しんかく)に帰依(きえ)し、421絶対(ぜつたい)的(てき)服従(ふくじゆう)の至誠(しせい)を以(もつ)て神業(しんげふ)に参加(さんか)し、422大神(おほかみ)の聖慮(せいりよ)に叶(かな)ひ奉(まつ)り、423一切(いつさい)無碍(むげ)の神教(しんけう)を普(あまね)く四海(しかい)に宣伝(せんでん)し、424斯道(しだう)の大本(たいほん)を以(もつ)て暗黒(あんこく)無明(むみやう)の現代(げんだい)を照暉(せうき)し、425神(かみ)の御子(みこ)たるの本分(ほんぶん)を竭(つく)し奉(まつ)らむ事(こと)を誓(ちか)ひ奉(たてまつ)り、426罪悪(ざいあく)の身(み)を清(きよ)め免(ゆ)るし給(たま)ひて、427神業(しんげふ)の一端(いつたん)に使役(しえき)されむことを祈願(きぐわん)し奉(たてまつ)る』
428(大正一三・一二・二 新一二・二七 於祥雲閣 松村真澄録)
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【メールアドレス】
合言葉「みろく」を入力して下さい→