霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一七章 晨(あした)の驚愕(きやうがく)〔一七一九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第67巻 山河草木 午の巻 篇:第3篇 多羅煩獄 よみ(新仮名遣い):たらはんごく
章:第17章 晨の驚愕 よみ(新仮名遣い):あしたのきょうがく 通し章番号:1719
口述日:1924(大正13)年12月28日(旧12月3日) 口述場所:祥雲閣 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年8月19日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
朝目が覚めると、シャカンナ、玄真坊、コルトンの3人はダリヤとバルギーが逃げ出したことを知る。
玄真坊は山賊たちを使って、2人の行方を探らんと、岩窟を出て行く。
シャカンナは、玄真坊がもうここへは戻らないだろうと考えた。そして、玄真坊、あるいはダリヤがこの岩窟の隠れ家の場所をタラハン国に漏らし、軍隊が攻めてくることを恐れた。
シャカンナは建物に火をつけ、200人の山賊の部下を打ち捨てて、娘のスバールとコルトンを連れ、さらに山奥の隠れ家へと移っていった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2018-05-15 14:44:26 文字数:4441 OBC :rm6717
愛善世界社版:221頁 八幡書店版:第12輯 112頁 修補版: 校定版:224頁 普及版:68頁 初版: ページ備考:
001 十四日(いざよひ)の月(つき)は空(そら)に白(しら)けて星影(ほしかげ)薄(うす)く、002カアカアと鳴(な)く烏(からす)の声(こゑ)に東(あづま)の空(そら)は白(しら)み初(そ)めた。003コルトンはふつと目(め)を醒(さ)まし四辺(あたり)を見(み)れば緋縮緬(ひぢりめん)を白(しろ)い薄絹(うすぎぬ)で包(つつ)んだやうなダリヤ姫(ひめ)の影(かげ)もなく、004羅漢面(らかんづら)の醜男(ぶをとこ)バルギーの姿(すがた)も見(み)えない。005はて不思議(ふしぎ)だと訝(いぶ)かしみ乍(なが)ら、006大親分(おほおやぶん)シャカンナの寝顔(ねがほ)を見(み)れば額(ひたひ)にモーイヌと片仮名(かたかな)で記(しる)してある。007玄真坊(げんしんばう)はと振(ふ)り返(かへ)つて額(ひたひ)を見(み)ればこれ又(また)ネンネコと女(をんな)の筆蹟(ひつせき)で記(しる)してある。008コルトンは直(ただ)ちに玄真坊(げんしんばう)を揺(ゆ)り起(おこ)し、
009コル『もしもし、010天真坊(てんしんばう)様(さま)、011奥(おく)さまが見(み)えなくなりました。012何卒(どうぞ)起(お)きて下(くだ)さい。013……親分(おやぶん)様(さま)、014大変(たいへん)です早(はや)く起(お)きて下(くだ)さい。015大騒動(おほさうどう)が起(おこ)りましたよ』
016玄(げん)『何(なに)、017奥(おく)が見(み)えなくなつたと云(い)ふのか、018そりや大変(たいへん)だ。019大方(おほかた)パサパーナにでも行(い)つて居(ゐ)るのぢやないか、020よく調(しら)べて来(こ)い』
021コル『それでも親分(おやぶん)様(さま)の顔(かほ)には022モーイヌと女(をんな)の筆蹟(ひつせき)で記(しる)して有(あ)り、023貴方(あなた)のお顔(かほ)にはネンネコと書(か)いてありますよ』
024玄(げん)『ヤ、025如何(いかに)もシャカンナの額(ひたひ)にはモーイヌ、026お前(まへ)の額(ひたひ)にもサル、027カヘルと書(か)いてある。028俺(おれ)の顔(かほ)にネンネコ、029ハテな。030よく寝(ね)て居(ゐ)る間(ま)に此処(ここ)をサル、031イヌ、032カヘルと云(い)ふ謎(なぞ)だな。033これや、034大変(たいへん)だ。035彼奴(あいつ)を逃(に)がしては、036岩窟(がんくつ)の一大事(いちだいじ)だ。037秘密(ひみつ)の漏洩(ろうえい)する畏(おそ)れがある。038オイ、039コルトン、040乾児(こぶん)共(ども)を督励(とくれい)して後(あと)を追(おつ)かけて呉(く)れ』
041コル『ハイ承知(しようち)致(いた)しました。042大親分(おほおやぶん)さま、043貴方(あなた)どう考(かんが)へられますか』
044シャ『彼奴(あいつ)に逃(に)げられては俺(おれ)も些(ちつ)と面喰(めんくら)はざるを得(え)ない。045なぜ貴様(きさま)監督(かんとく)をして居(ゐ)ないのだ。046アタ卑(いや)しい047酒(さけ)を喰(くら)ひやがつて同(おな)じ様(やう)に寝(ね)ると云(い)ふ事(こと)があるものか』
048 コルトンは頭(あたま)を掻(か)き乍(なが)ら、049さも云(い)ひ悪(にく)さうに、
050コル『ヘイ、051御存(ごぞん)じの通(とほ)り僕(ぼく)、052拙者(せつしや)、053此(この)方(はう)、054私(わたくし)、055やつがれは酒(さけ)の嫌(きら)いな下戸(げこ)で厶(ござ)いますが、056あの奇麗(きれい)な奇麗(きれい)な天真坊(てんしんぼう)の奥様(おくさま)ダリヤ姫(ひめ)様(さま)が、057コルトンさまコルトンさまと妙(めう)な目(め)をして笑顔(ゑがほ)を作(つく)り桃色(ももいろ)の頬辺(ほほぺた)に笑(ゑみ)を湛(たた)へ、058白(しろ)い綺麗(きれい)な象牙(ざうげ)細工(ざいく)のやうな、059お手々(てて)で……コルトンさま、060さア一杯(いつぱい)お過(す)ごしなさい……と仰有(おつしや)つて下(くだ)さつたものですから061ヘヽヽヽイ、062つい……その調子(てうし)に乗(の)つて男振(をとこぶり)を見(み)せてやらうと思(おも)ふて、063つい、064ぐいぐいとやりました、065いや呑(の)みました。066さうしたら前後(ぜんご)も知(し)らずに酔(よ)ひ潰(つぶ)れて寝(ね)て了(しま)つたのです。067どうぞ御(ご)勘弁(かんべん)、068御(ご)了簡(れうけん)、069御(ご)赦免(しやめん)を070どうぞ一重(ひとへ)に二重(ふたへ)に宜敷(よろし)くお願(ねが)ひ申(まをし)上(あ)げます。071慎(つつし)んで歎願(たんぐわん)致(いた)します』
072シャ『エヽ、073貴様(きさま)はまだ酔(よ)つて居(ゐ)るのか、074何(なに)を云(い)ふのだ。075一体(いつたい)姫(ひめ)をどうしたのだ』
076コル『エー何(ど)うも斯(か)うもありませぬ。077何(ど)うしたか解(わか)るやうなら、078決(けつ)して取(と)り逃(のが)しは致(いた)しませぬ。079何(なん)でもバルギーと手(て)に手(て)を取(と)つて、080遁走(とんそう)して逃(に)げ出(だ)したかも知(し)れませぬよ』
081玄(げん)『チエ、082エエ扨(さ)ても気(き)の利(き)かぬ野郎(やらう)だな。083サア早(はや)く乾児(こぶん)共(ども)を叩(たた)き起(おこ)し084四方(しはう)に手配(てくば)りをなし、085ダリヤ姫(ひめ)を連(つ)れて帰(かへ)つて呉(く)れ』
086コル『ヘン、087偉(えら)さうに云(い)ふない。088お前(まへ)と俺(おれ)とは同役(どうやく)ぢやないか。089自分(じぶん)の嬶(かか)が逐電(ちくでん)して飛(と)び出(だ)したと云(い)ふて、090さう俺(おれ)にケンケンと云(い)ふものぢやないわ。091嬶(かか)が探(さが)して欲(ほ)しけれや、092……どうか兄弟(きやうだい)捜索(そうさく)して探(さが)しに行(い)つて呉(く)れないか……と、093御(ご)依頼(いらい)して頼(たの)まないのだ。094俺(おれ)は、095此(この)方(はう)は、096拙者(せつしや)は、097僕(ぼく)はお前(まへ)の命令(めいれい)の云(い)ひつけは聞(き)いて承(うけたま)はる権利(けんり)義務(ぎむ)が無(な)いのだ。098俺(おれ)は、099僕(ぼく)は、100拙者(せつしや)は大親分(おほおやぶん)の命令(めいれい)の云(い)ひつけを聞(き)いて活動(くわつどう)して働(はたら)くのみだ。101大親分(おほおやぶん)の命令(めいれい)の云(い)ひつけさへあれば何時(いつ)何時(なんどき)でも、102尻(しり)をからげて出発(しゆつぱつ)して出(で)かけるのだ。103ヘン、104偉(えら)さうに云(い)ふない。105頓馬(とんま)野郎(やらう)奴(め)、106嬶(かか)取(と)られの腰抜(こしぬ)け奴(め)、107阿呆(あはう)、108馬鹿(ばか)、109頓痴気(とんちき)野郎(やらう)』
110シャ『オイ、111コルトン、112貴様(きさま)は未(ま)だ酔(よひ)が醒(さ)めて居(ゐ)ないと見(み)える。113併(しか)し乍(なが)ら114かうしては居(ゐ)られまい。115早(はや)く部下(ぶか)を叩(たた)き起(おこ)し、116捜索(そうさく)だ捜索(そうさく)だ』
117コル『もし親分(おやぶん)、118親方(おやかた)、119旦那(だんな)、120大頭目(だいとうもく)、121それ程(ほど)御(ご)心配(しんぱい)にや及(およ)びますまい。122親分(おやぶん)の女房(にようばう)の嬶(かか)が逃走(たうそう)して逃(に)げたのぢやあるまいし、123嬶(かか)の所在(ありか)を捜索(そうさく)して探(さが)すのは、124天帝(てんてい)の化神(けしん)、125天来(てんらい)の救世主(きうせいしゆ)、126天真坊(てんしんばう)さまの双肩(さうけん)の両肩(りやうかた)にふりかかつて居(ゐ)る責任(せきにん)でせう』
127シャ『チヨツ、128仕方(しかた)のない野郎(やらう)だな。129それだから常(つね)から酒(さけ)を喰(くら)ふなと云(い)ふのだ。130貴様(きさま)は酒(さけ)を呑(の)まないと云(い)ふから131抜擢(ばつてき)して重(おも)く用(もち)ゐて居(ゐ)たのに何(なん)の態(ざま)だ。132ダリヤ姫(ひめ)の手(て)で額(ひたひ)にサル、133カヘルと云(い)ふ字(じ)を書(か)かれる迄(まで)知(し)らずに寝(ね)ると云(い)ふ事(こと)があるか、134馬鹿(ばか)』
135コル『馬鹿(ばか)でも何(なん)でもよろしい、136あんな美人(びじん)に優(やさ)しう云(ゐ)ふて貰(もら)へば137男子(だんし)たるもの天下(てんか)の馬鹿(ばか)にならざるを得(え)ぬぢやありませぬか。138それよりも親分(おやぶん)、139お前(まへ)さまの額部(がくぶ)の額口(ひたひぐち)にモーイヌとダリヤさまの筆蹟(ひつせき)で大書(たいしよ)して書(か)いてありますぜ。140そんな悪戯(いたづら)をしられても分(わか)らぬ所(ところ)迄(まで)、141なぜ親方(おやかた)も熟睡(じゆくすゐ)して睡(ねむ)つて居(ゐ)るのですか。142天真(てんしん)さまだつてさうぢやないか。143あんな美人(びじん)のシャンの奥(おく)、144女房(にようばう)の嬶(かか)を持(も)ち乍(なが)ら心(こころ)をゆるし安心(あんしん)して脂下(やにさが)つて惚(のろ)けて居(ゐ)るものだから、145アタ阿呆(あはう)らしい、146馬鹿(ばか)らしい、147ネンネコなんどと落書(らくがき)され、148まるで顔面(がんめん)の顔(かほ)は幼稚園(えうちえん)の生徒(せいと)の草紙(さうし)見(み)たやうなものだ。149些(ちつ)と確(しつか)りなさいませ』
150玄(げん)『エヽ仕方(しかた)がない、151かうなれや自分(じぶん)もグヅグヅしては居(を)れまい。152サアこれから御(おん)大(たい)自(みづか)ら捜索(そうさく)と出(で)かけよう。153シャカンナ殿(どの)、154何(ど)うか部下(てした)をお貸(か)し下(くだ)さい』
155コル『それや、天真(てんしん)さま156御尤(ごもつとも)です。157肝腎(かんじん)の奥(おく)、158女房(にようばう)の嬶(かか)が韜晦(とうくわい)して姿(すがた)を隠(かく)して居(ゐ)るのに、159さう依然(いぜん)とじつとしては居(を)れますまい。160サア私(わたし)も手伝(てつだ)ひますからダリヤさまの所在(ありか)を捜索(そうさく)に出(で)かけませう。161あの優(やさ)しい顔(かほ)を、162僕(ぼく)、163俺(おれ)、164私(わたし)だつて今一度(いまいちど)拝顔(はいがん)して拝(をが)みたいからな、165イヒヽヽヽ』
166 シャカンナは部下(ぶか)の集(あつ)まつて居(ゐ)るバラック建(だて)の土間(どま)に這入(はい)つて見(み)ると、167何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も落花(らくくわう)狼藉(らうぜき)、168徳利(とくり)を枕(まくら)にして居(ゐ)るもの、169盃(さかづき)を噛(か)んで喰(く)はへて寝(ね)て居(ゐ)るもの、170オチコやポホラを丸出(まるだ)しにしてふん延(の)びて居(ゐ)るもの、171全然(まるきり)小供(こども)の玩具箱(おもちやばこ)をぶち開(あ)けたやうな光景(くわうけい)である。172シャカンナは大喝(だいかつ)一声(いつせい)173やや怒気(どき)を含(ふく)み乍(なが)ら、
174シャ『これや、175何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も起(お)きぬか。176もう夜(よ)が明(あ)けて居(ゐ)るぢやないか。177この有様(ありさま)は何(なん)だ。178お館(やかた)には大変(たいへん)な事(こと)が突発(とつぱつ)して居(ゐ)るぞ。179早(はや)く目(め)を醒(さ)まして180起(お)きた起(お)きた』
181 コルトンは言葉(ことば)の尾(を)について威猛高(ゐたけだか)になり、182肩(かた)迄(まで)四角(しかく)にして、183未(ま)だ昨夜(ゆうべ)の酒気(しゆき)が残(のこ)つて舌(した)の根(ね)が自由(じいう)に運転(うんてん)し兼(か)ねる奴(やつ)を無理(むり)に使(つか)ひながら、
184コル『これや、185何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も何(なに)をして居(ゐ)るのか。186いつ迄(まで)睡眠(すゐみん)して睡(ねむ)つて居(ゐ)るのか。187この態(ざま)は何(なん)だ。188早(はや)く起床(きしやう)して起(お)きぬか。189困(こま)つた野郎(やらう)だな。190もはや暁天(げうてん)の夜明(よあ)けだぞ。191昨夜(ゆうべ)お出(いで)になつた天真坊(てんしんばう)の天帝(てんてい)の化身(けしん)の奥(おく)、192女房(にようばう)の嬶(かか)が逃走(たうそう)して逃(に)げ出(だ)し、193行方(ゆくへ)不明(ふめい)に分(わか)らなくなつたのだ。194サア早(はや)く早(はや)く用意(ようい)々々(ようい)』
195 此(この)声(こゑ)に何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も、196鼈(すつぽん)に尻(けつ)をいかれたやうな、197寝(ね)て居(ゐ)る間(ま)に睾丸(きんたま)を抜(ぬ)かれたやうな妙(めう)な面付(つらつき)をして、198アヽヽヽと焜爐(こんろ)のやうな口(くち)を開(あ)けて猫(ねこ)のやうな手水(てうづ)をつかつたり、199狼狽(うろた)へて徳利(とくり)を抱(かか)へ外(そと)へ飛(と)び出(だ)す奴(やつ)、200着物(きもの)を逆(さか)さまに着(き)て狼狽(うろた)へる奴(やつ)、201何(なん)とも形容(けいよう)し難(がた)い光景(くわうけい)であつた。
202 玄真坊(げんしんばう)は二百(にひやく)の部下(ぶか)を借(か)り受(う)け四方(しはう)八方(はつぱう)に手配(てくば)りし乍(なが)ら、203ダリヤ姫(ひめ)の行方(ゆくへ)を捜索(そうさく)すべく顔(かほ)に血(ち)を漲(みなぎ)らして出(い)でて行(ゆ)く。204後(あと)にはシャカンナと、205今年(こんねん)十五(じふご)才(さい)になつた娘(むすめ)のスバール姫(ひめ)とコルトンの三(さん)人(にん)であつた。
206シャ『オイ、207コルトン、208過(す)ぎ去(さ)つた事(こと)は何(なに)程(ほど)小言(こごと)を云(い)つても詮(せん)無(な)い事(こと)だが、209約(つ)まらぬ事(こと)を仕出(しで)かしたぢやないか。210さうして、211バルギーはお前(まへ)どうなつたと思(おも)ふ。212彼奴(あいつ)反逆心(はんぎやくしん)を起(おこ)してダリヤを何処(どこ)かへ連(つ)れ出(だ)し、213自分(じぶん)が天真坊(てんしんぼう)の女房(にようばう)を横取(よこどり)する考(かんが)へであるまいか喃(のう)』
214コル『ヤ、215親方(おやかた)様(さま)、216決(けつ)して御(ご)心配(しんぱい)の御(お)心遣(こころづかひ)は要(い)りませぬ。217何(なに)程(ほど)ナイスの美人(びじん)のシャンのダリヤ姫(ひめ)だつて、218あんなヒヨツトコ面(づら)には恋慕(れんぼ)して惚(ほ)れる気遣(きづかひ)はありませぬよ。219又(また)仮(か)りに、220よしんばバルギーが恋慕(れんぼ)して惚(ほれ)た所(ところ)で、221ダリヤ姫(ひめ)は諾(うん)と首(くび)を縦(たて)に振(ふ)つて承諾(しようだく)して靡(なび)く気遣(きづかひ)はありませぬ。222必(かなら)ず屹度(きつと)要(えう)するに約(つ)まり即(すなは)ちダリヤ姫(ひめ)に甘(うま)く誑(だま)され、223荷物(にもつ)でも持(も)たされて随行(ずいかう)してお伴(とも)に行(ゆ)きよつたのですよ。224何(なん)だか彼女(あいつ)の視線(しせん)の目遣(めつか)いが可怪(をか)しいと思(おも)つて居(を)りました』
225シャ『オイ、226もう斯(か)うなつちや此処(ここ)に居(を)る事(こと)は出来(でき)ない。227まさかの時(とき)の用意(ようい)としてあの山奥(やまおく)に建(た)ておいたあの庵(いほり)に行(い)つて匿(かく)れようではないか。228天真坊(てんしんばう)だつてあの女(をんな)の居(ゐ)ない限(かぎ)り、229此処(ここ)へ帰(かへ)つて来(く)る気遣(きづかひ)はない。230さうすりや、231よしやダリヤが云(い)はないだつても天真坊(てんしんぼう)が云(い)ふに定(きま)つて居(ゐ)る。232さうして沢山(たくさん)の乾児(こぶん)が居(ゐ)ても碌(ろく)な奴(やつ)は一人(ひとり)も無(な)い。233中(なか)にも少(すこ)しましなのは貴様(きさま)とバルギー位(ぐらゐ)の者(もの)だが、234それでさへ、235こんなへまをやるのだから236俺(おれ)の大望(たいまう)も到底(たうてい)成功(せいこう)しない。237グヅグヅして居(ゐ)るとカラピン王(わう)の耳(みみ)に入(い)り238俺(おれ)の命(いのち)迄(まで)取(と)りに来(く)るかも知(し)れない。239サア此(こ)のバラック式(しき)の建物(たてもの)に火(ひ)をつけて焼払(やきはら)ひ、240貴様(きさま)と俺(おれ)とこの娘(こ)の三(さん)人(にん)、241三(さん)里(り)山奥(やまおく)の隠家(かくれが)に行(ゆ)かう』
242コル『ハイ、243大変(たいへん)な事(こと)に成(な)つたものですな。244併(しか)し天真坊(てんしんぼう)は天真坊(てんしんぼう)として自由(じいう)行動(かうどう)の勝手(かつて)なやり方(かた)をするとした所(ところ)で、245彼奴(あいつ)は放任(はうにん)して打(う)つちやつておけば宜敷(よろし)いが、246二百(にひやく)人(にん)の部下(ぶか)の手下(てした)共(ども)は忽(たちま)ち路頭(ろとう)に迷(まよ)ふぢやありませぬか。247親分(おやぶん)は部下(ぶか)の生命(せいめい)の命(いのち)を守(まも)つてやる決心(けつしん)のお心(こころ)は無(な)いのですか』
248シャ『もはや今日(こんにち)となつては可愛(かあい)さうでも仕方(しかた)が無(な)い。249第一(だいいち)俺(おれ)の生命(いのち)が危(あやふ)くなる。250サア貴様(きさま)と俺(おれ)と娘(むすめ)と三(さん)人(にん)此(この)館(やかた)に火(ひ)をつけて此処(ここ)を逃(に)げ出(だ)さう。251さうすれば、252仮令(たとへ)カラピン王(わう)が沢山(たくさん)の兵(へい)を持(も)つて攻(せ)めて来(き)ても拍子(ひやうし)ぬけがして、253「ヤア山賊(さんぞく)は何処(どこ)かへ逃(に)げた」位(ぐらゐ)で帰(かへ)るだらう。254乾児(こぶん)の奴(やつ)等(ら)も帰(かへ)つて見(み)た所(ところ)で住家(すみか)が無(な)ければ255自然(しぜん)に何処(どこ)かへ散(ち)るだらう』
256コル『親分(おやぶん)、257仮令(たとへ)家屋(かをく)の家(いへ)は焼棄(せうき)して焼(や)いて了(しま)つた所(ところ)で、258岩窟(いはや)の岩窟(がんくつ)が残(のこ)つて居(ゐ)る以上(いじやう)は、259又(また)乾児(こぶん)の奴(やつ)等(ら)が帰(かへ)つて来(き)て住居(ぢうきよ)して住(す)むかも知(し)れませぬ。260岩屋(いはや)の岩窟(がんくつ)を破壊(はくわい)して叩(たた)き破(やぶ)る訳(わけ)にも行(ゆ)きますまい。261焼棄(せうき)して焼(や)く訳(わけ)にも行(ゆ)きますまい。262此(この)点(てん)は如何(いかが)してどうしたらよいのでせう』
263シャ『後(あと)は野(の)となれ山(やま)となれだ。264サア一(いち)時(じ)も早(はや)く265吾(わが)身(み)が危(あぶ)ない、266此処(ここ)を立(た)ち去(さ)らう。267オイ、268スバール嬢(ぢやう)、269お父(とう)さまは270いつもの隠(かく)れ家(が)へ転宅(てんたく)するから271お前(まへ)もその用意(ようい)をせい』
272スバール『お父(とう)さま、273妾(わたし)いつ迄(まで)も此処(ここ)に居(を)り度(た)いのよ。274山水(さんすい)の景色(けしき)が好(よ)いからねえ』
275シャ『ウン』
276コル『これこれお嬢様(ぢやうさま)、277千騎(せんき)一騎(いつき)の此(この)場合(ばあひ)、278そんな緩慢(くわんまん)な緩(ゆつく)りした事(こと)を云(い)つて貰(もら)つちや誠(まこと)に困難(こんなん)して困(こま)りますよ。279一(いち)時(じ)も早(はや)く此(この)場(ば)を出立(しゆつたつ)して立(た)ち出(い)でる事(こと)にしませう。280向(むか)ふの朝倉谷(あさくらだに)に往(ゆ)けば、281此処(ここ)よりも幾層倍(いくそうばい)勝(ま)して風景(ふうけい)の景色(けしき)が宜敷(よろし)い。282サア参(まゐ)りませう』
283スバ『お父(とう)さま、284どうしても行(ゆ)かなくちやならないの。285私(わたし)もう暫(しばら)く此処(ここ)に居(を)り度(た)いのだけどなア。286もう十日(とをか)もすればダリヤの花(はな)が咲(さ)くのだもの。287あの美(うつく)しいダリヤの花(はな)の唇(くちびる)に吸(す)ひ付(つ)いて遊(あそ)びたいのよ』
288コル『エヽお嬢(ぢやう)さま、289何(なん)と云(い)ふ気楽(きらく)な事(こと)を仰有(おつしや)るのだ。290グヅグヅして居(ゐ)ると吾々(われわれ)三(さん)人(にん)の生命(せいめい)の命(いのち)が無(な)くなつて了(しま)ひますがな』
291スバ『何故(なぜ)夫(それ)程(ほど)292お父(とう)さまやお前(まへ)は怖(こは)がるの、293二百(にひやく)人(にん)の乾児(こぶん)が居(ゐ)るぢやないか。294何(なに)が来(き)たつて是(これ)丈(だ)け居(を)れば防(ふせ)げるぢやないか。295あんな山奥(やまおく)の小(ちひ)さい庵(いほり)へ行(い)つて住(す)むのは嫌(いや)だわ』
296コル『家(いへ)が小(ちひ)さうて嫌(いや)なら、297大(おほ)きな家屋(かをく)の家(いへ)を、298僕(ぼく)、299私(わたし)、300拙者(せつしや)が建築(けんちく)して建(た)てて上(あ)げますわな』
301スバ『そんなら302一寸(ちよつと)まアお父(とう)さまと一緒(いつしよ)に行(い)つて見(み)ませう。303嫌(いや)になつたら又(また)此処(ここ)へ帰(かへ)つて来(き)ますよ』
304コル『ヤア、305占(しめ)た。306親分(おやぶん)さま、307もう大丈夫(だいぢやうぶ)です。308お嬢(ぢやう)さまの娘(むすめ)さまが行(ゆ)くと仰有(おつしや)いました。309どうぞ歓喜(くわんき)して喜(よろこ)んで下(くだ)さい』
310 これより手近(てぢか)の必要品(ひつえうひん)を取(とり)纏(まと)め、311コルトンは大風呂敷(おほぶろしき)に包(つつ)んで背(せ)に負(お)ひ乍(なが)ら312主従(しゆじゆう)三(さん)人(にん)嶮(けは)しき谷川(たにがは)の辺(ほとり)を辿(たど)つて、313三(さん)里(り)山奥(やまおく)の茅屋(ばうをく)に隠(かく)れる事(こと)となつた。
314(大正一三・一二・三 新一二・二八 於祥雲閣 加藤明子録)
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