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霊界物語
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
第67巻(午の巻)
序文
総説
第1篇 美山梅光
第1章 梅の花香
第2章 思想の波
第3章 美人の腕
第4章 笑の座
第5章 浪の皷
第2篇 春湖波紋
第6章 浮島の怪猫
第7章 武力鞘
第8章 糸の縺れ
第9章 ダリヤの香
第10章 スガの長者
第3篇 多羅煩獄
第11章 暗狐苦
第12章 太子微行
第13章 山中の火光
第14章 獣念気
第15章 貂心暴
第16章 酒艶の月
第17章 晨の驚愕
第4篇 山色連天
第18章 月下の露
第19章 絵姿
第20章 曲津の陋呵
第21章 針灸思想
第22章 憧憬の美
余白歌
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山河草木(第61~72巻、入蒙記)
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第67巻(午の巻)
> 第2篇 春湖波紋 > 第8章 糸の縺れ
<<< 武力鞘
(B)
(N)
ダリヤの香 >>>
第八章
糸
(
いと
)
の
縺
(
もつ
)
れ〔一七一〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第67巻 山河草木 午の巻
篇:
第2篇 春湖波紋
よみ(新仮名遣い):
しゅんこはもん
章:
第8章 糸の縺れ
よみ(新仮名遣い):
いとのもつれ
通し章番号:
1710
口述日:
1924(大正13)年12月27日(旧12月2日)
口述場所:
祥雲閣
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1926(大正15)年8月19日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2019-05-08 04:47:46
OBC :
rm6708
愛善世界社版:
105頁
八幡書店版:
第12輯 68頁
修補版:
校定版:
106頁
普及版:
68頁
初版:
ページ備考:
001
海賊
(
かいぞく
)
の
頭目
(
とうもく
)
コーズは
数十
(
すうじふ
)
人
(
にん
)
の
手下
(
てした
)
と
共
(
とも
)
に
002
甲板
(
かんばん
)
上
(
じやう
)
に
雑談
(
ざつだん
)
に
耽
(
ふけ
)
つて
居
(
ゐ
)
た
船客
(
せんきやく
)
を
一々
(
いちいち
)
赤裸
(
まつぱだか
)
となし
003
勢
(
いきほひ
)
に
乗
(
じやう
)
じて
階段
(
かいだん
)
を
下
(
くだ
)
り
004
船室
(
せんしつ
)
にバラバラと
侵入
(
しんにふ
)
して
来
(
き
)
た。
005
さうして
数多
(
あまた
)
の
船客
(
せんきやく
)
に
向
(
むか
)
ひ
大刀
(
だいたう
)
を
引
(
ひ
)
き
抜
(
ぬ
)
いたまま、
006
例
(
れい
)
の
脅
(
おど
)
し
文句
(
もんく
)
を
並
(
なら
)
べ、
007
コーズ『
持物
(
もちもの
)
一切
(
いつさい
)
を
提供
(
ていきよう
)
せよ。
008
否応
(
いやおう
)
申
(
まを
)
すに
於
(
おい
)
ては
009
何奴
(
どいつ
)
も、
0091
此奴
(
こいつ
)
も
刃
(
やいば
)
の
錆
(
さび
)
だ』
010
と
脅迫
(
けふはく
)
して
居
(
を
)
る。
011
老若
(
らうにやく
)
男女
(
なんによ
)
は
悲鳴
(
ひめい
)
をあげて
泣
(
な
)
き
叫
(
さけ
)
び
乍
(
なが
)
ら
012
右往
(
うわう
)
左往
(
さわう
)
に
逃
(
に
)
げ
廻
(
まは
)
る。
013
船室内
(
せんしつない
)
は
俄
(
にはか
)
の
大暴風
(
だいばうふう
)
に
見舞
(
みま
)
はれて
014
秋
(
あき
)
の
木
(
こ
)
の
葉
(
は
)
の
散
(
ち
)
り
乱
(
みだ
)
るるが
如
(
ごと
)
き
光景
(
くわうけい
)
となつて
来
(
き
)
た。
015
特別室
(
とくべつしつ
)
に
睡
(
ねむ
)
つて
居
(
ゐ
)
たシーゴーは
怪
(
あや
)
しの
物音
(
ものおと
)
に
目
(
め
)
を
覚
(
さま
)
し、
016
よくよく
見
(
み
)
れば
海賊
(
かいぞく
)
の
張本
(
ちやうほん
)
コーズが
数十
(
すうじふ
)
人
(
にん
)
の
部下
(
てした
)
と
共
(
とも
)
に
017
今
(
いま
)
や
哀
(
あは
)
れな
船客
(
せんきやく
)
に
掠奪
(
りやくだつ
)
の
手
(
て
)
を
恣
(
ほしいまま
)
にして
居
(
ゐ
)
る
真最中
(
まつさいちう
)
であつた。
018
シーゴーは
大喝
(
たいかつ
)
一声
(
いつせい
)
、
019
シーゴー
『オイ、
020
コラツ。
021
貴様
(
きさま
)
はコーズぢやないか。
022
此
(
この
)
船
(
ふね
)
に
俺
(
おれ
)
が
居
(
を
)
る
限
(
かぎ
)
り
掠奪
(
りやくだつ
)
は
許
(
ゆる
)
さないぞ。
023
サア
掠奪品
(
りやくだつひん
)
をスツカリとお
客人
(
きやくじん
)
に
返戻
(
へんれい
)
してお
断
(
ことわ
)
りを
申
(
まを
)
せ』
024
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
にコーズは
怪
(
あや
)
しみ
乍
(
なが
)
らよくよく
其
(
その
)
面体
(
めんてい
)
を
見
(
み
)
れば
025
日頃
(
ひごろ
)
大親分
(
おほおやぶん
)
と
頼
(
たの
)
むシーゴーであつた。
026
此
(
この
)
コーズはシーゴーの
部下
(
ぶか
)
で
別働隊
(
べつどうたい
)
となり、
027
軍用品
(
ぐんようひん
)
調達
(
てうたつ
)
の
為
(
た
)
めに
大活動
(
だいくわつどう
)
をつづけて
居
(
ゐ
)
たのである。
028
さうして
海賊
(
かいぞく
)
が
最
(
もつと
)
も
安全
(
あんぜん
)
で、
029
且
(
か
)
つ
収獲
(
しうくわく
)
の
多
(
おほ
)
い
事
(
こと
)
を
知
(
し
)
つたので
030
沢山
(
たくさん
)
の
海賊
(
かいぞく
)
を
部下
(
ぶか
)
に
従
(
したが
)
へ、
031
羽振
(
はぶり
)
を
利
(
き
)
かして
居
(
ゐ
)
たのである。
032
オーラ
山
(
さん
)
に
立
(
た
)
て
籠
(
こも
)
つて
三千
(
さんぜん
)
の
部下
(
ぶか
)
を
支配
(
しはい
)
して
居
(
ゐ
)
ると
思
(
おも
)
つたシーゴーが、
033
今
(
いま
)
此
(
この
)
船
(
ふね
)
に
乗
(
の
)
つて
居
(
ゐ
)
たのに
驚
(
おどろ
)
き、
034
大刀
(
だいたう
)
を
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
投
(
な
)
げ
捨
(
す
)
て
恭
(
うやうや
)
しく
両手
(
りやうて
)
をついて、
035
コーズ
『これはこれは
大親分
(
おほおやぶん
)
シーゴー
様
(
さま
)
で
厶
(
ござ
)
いましたか。
036
思
(
おも
)
はぬ
所
(
ところ
)
でお
目
(
め
)
にかかりました。
037
私
(
わたし
)
は
親分
(
おやぶん
)
の
為
(
ため
)
に
斯
(
かく
)
の
如
(
ごと
)
く
危険
(
きけん
)
を
冒
(
をか
)
して
大活動
(
だいくわつどう
)
をやつて
居
(
を
)
るのに、
038
何故
(
なぜ
)
お
止
(
と
)
めなさいますか』
039
シー『
貴様
(
きさま
)
の
不審
(
ふしん
)
を
打
(
う
)
つのは
尤
(
もつと
)
もだが
040
俺
(
おれ
)
は
最早
(
もはや
)
堅気
(
かたぎ
)
になつたのだ。
041
今日
(
けふ
)
のシーゴーは
先日
(
せんじつ
)
のシーゴーではない。
042
正真
(
しやうしん
)
正銘
(
しやうめい
)
の
真人間
(
まにんげん
)
だ。
043
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御子
(
みこ
)
だ。
044
神
(
かみ
)
の
精霊
(
せいれい
)
の
宿
(
やど
)
り
給
(
たま
)
ふ
生宮
(
いきみや
)
だ。
045
貴様
(
きさま
)
もよい
加減
(
かげん
)
に
足
(
あし
)
を
洗
(
あら
)
つて
俺
(
おれ
)
と
同様
(
どうやう
)
に
善心
(
ぜんしん
)
に
立
(
た
)
ち
帰
(
かへ
)
り、
046
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
の
罪業
(
ざいごふ
)
を
謝
(
しや
)
するために
047
粉骨
(
ふんこつ
)
砕心
(
さいしん
)
天下
(
てんか
)
救済
(
きうさい
)
の
大神業
(
だいしんげふ
)
に
帰順
(
きじゆん
)
してはどうだ。
048
人間
(
にんげん
)
と
生
(
うま
)
れて
山賊
(
さんぞく
)
又
(
また
)
は
海賊
(
かいぞく
)
をやる
位
(
くらゐ
)
不利益
(
ふりえき
)
な、
049
そして
引
(
ひ
)
き
合
(
あ
)
はない
危険
(
きけん
)
な
商売
(
しやうばい
)
はないぢやないか』
050
コーズは
大口
(
おほぐち
)
を
開
(
あ
)
けて
高笑
(
たかわら
)
い、
051
コーズ
『アハヽヽヽ。
052
ても
扨
(
さ
)
ても
異
(
い
)
な
事
(
こと
)
を
承
(
うけたま
)
はるものかな。
053
一旦
(
いつたん
)
男子
(
だんし
)
が
決心
(
けつしん
)
した
事業
(
じげふ
)
に
対
(
たい
)
し
中途
(
ちうと
)
に
屁古垂
(
へこた
)
れるとは、
054
てもさても
親分
(
おやぶん
)
に
似合
(
にあは
)
ぬお
言葉
(
ことば
)
、
055
最早
(
もはや
)
今日
(
けふ
)
となつてはシーゴー
殿
(
どの
)
は
足
(
あし
)
を
洗
(
あら
)
ひ
真人間
(
まにんげん
)
になられたとの
事
(
こと
)
、
056
このコーズは
断
(
だん
)
じて
道
(
みち
)
は
変
(
か
)
へませぬ。
057
かうなる
上
(
うへ
)
は
貴方
(
あなた
)
と
私
(
わたし
)
は
親分
(
おやぶん
)
乾児
(
こぶん
)
の
関係
(
くわんけい
)
も
自然
(
しぜん
)
と
消
(
き
)
えた
道理
(
だうり
)
だ。
058
お
前
(
まへ
)
さまの
言葉
(
ことば
)
に
服従
(
ふくじゆう
)
する
義務
(
ぎむ
)
は
毛頭
(
まうとう
)
ない
筈
(
はず
)
だ。
059
コーズはコーズとしての
商売
(
しやうばい
)
を
勉強
(
べんきやう
)
せなくてはならない。
060
どうか
邪魔
(
じやま
)
をして
下
(
くだ
)
さるな。
061
オイ
部下
(
てした
)
共
(
ども
)
、
062
何
(
なに
)
を
躊躇
(
ちうちよ
)
逡巡
(
しゆんじゆん
)
して
居
(
ゐ
)
るか。
063
片
(
かた
)
つ
端
(
ぱし
)
から
何奴
(
どいつ
)
も
此奴
(
こいつ
)
も
剥
(
む
)
いてしまへ』
064
と
下知
(
げち
)
すれば、
065
部下
(
ぶか
)
一同
(
いちどう
)
は
先
(
さき
)
を
争
(
あらそ
)
うて
又
(
また
)
もや
掠奪
(
りやくだつ
)
を
擅
(
ほしいまま
)
にせむとする。
066
老弱
(
らうじやく
)
男女
(
なんによ
)
はまたもや
悲鳴
(
ひめい
)
をあげて
泣
(
な
)
き
叫
(
さけ
)
ぶ。
067
其
(
その
)
惨状
(
さんじやう
)
目
(
め
)
も
当
(
あ
)
てられぬ
計
(
ばか
)
りなりける。
068
シー『これやコーズ、
069
どうしても
俺
(
おれ
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
をきかぬのか。
070
いや
改心
(
かいしん
)
せぬのか。
071
天道
(
てんだう
)
は
恐
(
おそろ
)
しくないのか』
072
コー『エヽ
構
(
かま
)
うて
呉
(
く
)
れない。
073
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
は
三千
(
さんぜん
)
の
部下
(
ぶか
)
を
有
(
いう
)
する
大親分
(
おほおやぶん
)
だと
思
(
おも
)
つて
074
尊敬
(
そんけい
)
もし
服従
(
ふくじゆう
)
もして
居
(
ゐ
)
たのだが、
075
何
(
なに
)
に
感
(
かん
)
じてか
男
(
をとこ
)
らしくもない
076
俄
(
にはか
)
に
屁古垂
(
へこた
)
れよつて
菩提心
(
ぼだいしん
)
を
起
(
おこ
)
すやうな
奴
(
やつ
)
は、
077
吾々
(
われわれ
)
盗賊
(
たうぞく
)
社会
(
しやくわい
)
の
恥辱
(
ちじよく
)
だ。
078
貴様
(
きさま
)
も
序
(
ついで
)
に
剥
(
む
)
いてやるから
覚悟
(
かくご
)
をせい』
079
シー『アツハヽヽヽ、
080
猪口才
(
ちよこざい
)
千万
(
せんばん
)
な。
081
それ
程
(
ほど
)
剥
(
む
)
きたければ
剥
(
む
)
かしてやらう。
082
サアどつからなと
剥
(
む
)
け。
083
其
(
その
)
代
(
かは
)
りに
一
(
ひと
)
つより
無
(
な
)
い
命
(
いのち
)
を
要心
(
えうじん
)
せよ』
084
コー『
何
(
なに
)
減
(
へ
)
らず
口
(
ぐち
)
を
叩
(
たた
)
きやがる。
085
貴様
(
きさま
)
の
部下
(
ぶか
)
になつて
居
(
ゐ
)
た
最初
(
さいしよ
)
には
僅
(
わづか
)
に
四五
(
しご
)
人
(
にん
)
の
部下
(
ぶか
)
しか
無
(
な
)
かつたが、
086
今日
(
こんにち
)
はハルの
湖
(
うみ
)
に
出没
(
しゆつぼつ
)
する
五百
(
ごひやく
)
人
(
にん
)
の
海賊
(
かいぞく
)
の
大親分
(
おほおやぶん
)
だぞ。
087
サア
神妙
(
しんめう
)
に
裸
(
はだか
)
になつて
持物
(
もちもの
)
一切
(
いつさい
)
をコーズさまに
引
(
ひ
)
きつげ。
088
腰抜
(
こしぬけ
)
野郎
(
やらう
)
奴
(
め
)
』
089
かかる
折
(
をり
)
しも、
090
特等室
(
とくとうしつ
)
の
一隅
(
いちぐう
)
より
天地
(
てんち
)
も
割
(
わ
)
るる
計
(
ばか
)
りの
生言霊
(
いくことたま
)
が
聞
(
きこ
)
え
来
(
き
)
たる。
091
梅公
『
一
(
ひと
)
二
(
ふた
)
三
(
み
)
四
(
よ
)
五
(
いつ
)
六
(
むゆ
)
七
(
なな
)
八
(
や
)
九
(
ここの
)
十
(
たり
)
百
(
もも
)
千
(
ち
)
万
(
よろづ
)
ウーウーウーウー』
092
此
(
この
)
言霊
(
ことたま
)
に
不意
(
ふい
)
を
打
(
う
)
たれたコーズは
真青
(
まつさを
)
となつて
093
数十
(
すうじふ
)
の
味方
(
みかた
)
と
共
(
とも
)
に
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
し
094
甲板
(
かんばん
)
に
架
(
か
)
け
渡
(
わた
)
した
縄梯子
(
なはばしご
)
を
伝
(
つた
)
つて
吾
(
わが
)
船
(
ふね
)
に
飛
(
と
)
び
乗
(
の
)
り、
095
命
(
いのち
)
辛々
(
からがら
)
湖面
(
こめん
)
に
俄
(
にはか
)
に
波
(
なみ
)
を
打
(
う
)
たせながら、
096
八挺艪
(
はつちやうろ
)
を
漕
(
こ
)
いで
雲
(
くも
)
を
霞
(
かす
)
みと
逃
(
に
)
げて
行
(
ゆ
)
く。
097
シーゴーは……
一般
(
いつぱん
)
の
船客
(
せんきやく
)
に
098
怪我
(
けが
)
はなかつたか……
099
持物
(
もちもの
)
は
安全
(
あんぜん
)
か……と
一々
(
いちいち
)
尋
(
たづ
)
ね
廻
(
まは
)
り、
100
幸
(
さいはひ
)
一物
(
いちぶつ
)
をも
紛失
(
ふんしつ
)
して
居
(
ゐ
)
ないのに
安心
(
あんしん
)
し、
101
拍手
(
はくしゆ
)
再拝
(
さいはい
)
して
神恩
(
しんおん
)
を
感謝
(
かんしや
)
せり。
102
茲
(
ここ
)
に
梅公
(
うめこう
)
、
103
ヨリコ
姫
(
ひめ
)
、
104
花香姫
(
はなかひめ
)
はニコニコしながら
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
105
船客
(
せんきやく
)
一同
(
いちどう
)
の
遭難
(
さうなん
)
を
慰問
(
ゐもん
)
したるが、
106
船客
(
せんきやく
)
一同
(
いちどう
)
はシーゴー
其
(
その
)
他
(
た
)
を
生神
(
いきがみ
)
の
如
(
ごと
)
くに
尊敬
(
そんけい
)
し、
107
大難
(
だいなん
)
を
救
(
すく
)
はれし
事
(
こと
)
を
涙
(
なみだ
)
と
共
(
とも
)
に
感謝
(
かんしや
)
する。
108
シー『ハルの
湖
(
うみ
)
往来
(
ゆきき
)
の
人
(
ひと
)
を
脅
(
おびや
)
かす
109
曲
(
まが
)
のコーズは
脆
(
もろ
)
くも
逃
(
に
)
げける。
110
吾
(
わが
)
霊
(
たま
)
に
神
(
かみ
)
の
御光
(
みひかり
)
幸
(
さち
)
はいて
111
人
(
ひと
)
の
艱
(
なやみ
)
を
救
(
すく
)
はせたまひぬ。
112
あゝ
神
(
かみ
)
よ
守
(
まも
)
らせ
給
(
たま
)
へ
此
(
この
)
船
(
ふね
)
を
113
スガの
港
(
みなと
)
の
埠頭
(
はと
)
につく
迄
(
まで
)
。
114
梅公
(
うめこう
)
の
神
(
かみ
)
の
司
(
つかさ
)
の
言霊
(
ことたま
)
に
115
脆
(
もろ
)
く
失
(
う
)
せけり
百
(
もも
)
の
醜神
(
しこがみ
)
』
116
梅公
(
うめこう
)
『ありがたし
吾
(
わが
)
言霊
(
ことたま
)
の
幸
(
さち
)
はひは
117
瑞
(
みづ
)
の
御霊
(
みたま
)
の
助
(
たす
)
けなりけり。
118
天地
(
あめつち
)
の
神
(
かみ
)
の
心
(
こころ
)
に
叶
(
かな
)
ひなば
119
何
(
なに
)
をか
恐
(
おそ
)
れむ
醜
(
しこ
)
の
荒浪
(
あらなみ
)
』
120
ヨリコ
姫
(
ひめ
)
『
君
(
きみ
)
こそは
神
(
かみ
)
にますらむ
曲神
(
まがかみ
)
も
121
ただ
一言
(
ひとこと
)
に
逃
(
に
)
げ
失
(
う
)
せにけり。
122
吾
(
われ
)
は
今
(
いま
)
かかる
尊
(
たつと
)
き
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
に
123
従
(
したが
)
ひて
往
(
ゆ
)
く
事
(
こと
)
の
嬉
(
うれ
)
しさ。
124
目
(
ま
)
の
当
(
あた
)
り
生言霊
(
いくことたま
)
の
神力
(
しんりき
)
を
125
拝
(
をが
)
みまつりて
心
(
こころ
)
も
勇
(
いさ
)
む』
126
花香姫
(
はなかひめ
)
『
勇
(
いさ
)
ましき
吾
(
わが
)
背
(
せ
)
の
君
(
きみ
)
の
言霊
(
ことたま
)
に
127
滅
(
ほろ
)
び
失
(
う
)
せけり
醜
(
しこ
)
の
曲霊
(
まがひ
)
も。
128
かく
許
(
ばか
)
り
神
(
かみ
)
の
御稜威
(
みいづ
)
の
高
(
たか
)
きをば
129
悟
(
さと
)
り
得
(
え
)
ざりし
吾
(
われ
)
の
愚
(
おろ
)
かさ。
130
今
(
いま
)
はただ
尊
(
たふと
)
き
神
(
かみ
)
の
御教
(
みをしへ
)
に
131
身
(
み
)
も
霊魂
(
たましひ
)
も
任
(
まか
)
さむとぞ
思
(
おも
)
ふ』
132
かかる
所
(
ところ
)
へ
甲板
(
かんばん
)
に
縛
(
しば
)
られて
居
(
ゐ
)
たバラックは
133
赤裸
(
まつぱだか
)
の
儘
(
まま
)
、
1331
階段
(
かいだん
)
を
下
(
お
)
り
来
(
きた
)
つて、
134
バラック
『もし
誰
(
たれ
)
か
甲板
(
かんばん
)
に
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいませぬか。
135
誰
(
たれ
)
も
彼
(
か
)
も
赤裸
(
まつぱだか
)
に
繋
(
つな
)
がれて
居
(
ゐ
)
ます。
136
私
(
わたし
)
はやうやく
綱
(
つな
)
を
切
(
き
)
つて
此所
(
ここ
)
に
参
(
まゐ
)
りましたが、
137
何
(
なに
)
か
刃物
(
はもの
)
がなけねば
138
丸結
(
まるむす
)
びにして
厶
(
ござ
)
いますから
解
(
ほど
)
く
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ませぬ』
139
シーゴー『
何
(
なに
)
、
140
デッキの
上
(
うへ
)
にも
船客
(
せんきやく
)
が
縛
(
しば
)
られて
居
(
ゐ
)
ると
云
(
い
)
ふのか。
141
それや
可愛
(
かはい
)
さうだ。
142
ヨシヨシ
今
(
いま
)
俺
(
おれ
)
が
助
(
たす
)
けてやる』
143
と
云
(
い
)
ふより
早
(
はや
)
くバラックと
共
(
とも
)
に
甲板
(
かんばん
)
に
立
(
た
)
ち
出
(
いで
)
て
見
(
み
)
れば、
144
数十
(
すうじふ
)
人
(
にん
)
の
船客
(
せんきやく
)
は
手足
(
てあし
)
を
厳
(
きび
)
しく
縛
(
いまし
)
められ、
145
所々
(
ところどころ
)
にカスリ
傷
(
きず
)
を
負
(
お
)
い、
146
呻吟
(
しんぎん
)
して
居
(
ゐ
)
た。
147
シーゴーは
手早
(
てばや
)
く
懐剣
(
くわいけん
)
の
鞘
(
さや
)
を
払
(
はら
)
つて
一人
(
ひとり
)
も
残
(
のこ
)
らず、
148
縛
(
いましめ
)
の
縄
(
なは
)
を
切
(
き
)
り
放
(
はな
)
ち、
149
衣服
(
いふく
)
持物
(
もちもの
)
等
(
など
)
を
念入
(
ねんいり
)
に
取調
(
とりしら
)
べて
各自
(
めいめい
)
に
渡
(
わた
)
してやつた。
150
一同
(
いちどう
)
の
船客
(
せんきやく
)
はシーゴーを
神
(
かみ
)
の
如
(
ごと
)
く
尊敬
(
そんけい
)
し、
151
感
(
かん
)
極
(
きは
)
まりて
嗚咽
(
をえつ
)
するものさへあつた。
152
船長室
(
せんちやうしつ
)
には
船長
(
せんちやう
)
のアリーと
一人
(
ひとり
)
の
美人
(
びじん
)
が
何事
(
なにごと
)
か
泌々
(
ひそびそ
)
と
掛
(
か
)
け
合
(
あ
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
153
アリー『
其
(
その
)
方
(
はう
)
はどうしても
吾輩
(
わがはい
)
の
妻
(
つま
)
になつてくれないのか。
154
生殺
(
せいさつ
)
与奪
(
よだつ
)
の
権
(
けん
)
を
握
(
にぎ
)
つた
此
(
この
)
俺
(
おれ
)
に
背
(
そむ
)
けば、
155
お
前
(
まへ
)
の
為
(
ため
)
にはならないぞ。
156
性念
(
しやうねん
)
を
据
(
す
)
ゑてキツパリと
返答
(
へんたふ
)
をしろ』
157
ダリヤ『ハイ、
158
何
(
なん
)
と
仰
(
あふ
)
せられましても
私
(
わたし
)
は
親
(
おや
)
の
許
(
ゆる
)
しのない
以上
(
いじやう
)
は
御意
(
ぎよい
)
に
応
(
おう
)
ずる
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ませぬ。
159
況
(
ま
)
して
私
(
わたし
)
は
母
(
はは
)
に
早
(
はや
)
く
別
(
わか
)
れ
今
(
いま
)
は
父
(
ちち
)
一人
(
ひとり
)
[
※
ダリヤ姫の母アンナは三年前に死んだ。第72巻第9章#a085参照
]
。
160
私
(
わたし
)
の
帰
(
かへ
)
るのを
今
(
いま
)
か
今
(
いま
)
かと
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
るで
厶
(
ござ
)
いませうから、
161
何卒
(
なにとぞ
)
これ
許
(
ばか
)
りはお
許
(
ゆる
)
しを
願
(
ねが
)
ひ
度
(
た
)
いものです』
162
アリー『お
前
(
まへ
)
は
俺
(
おれ
)
を
普通
(
ふつう
)
の
船長
(
せんちやう
)
と
思
(
おも
)
ふて
居
(
を
)
るか。
163
俺
(
おれ
)
は
表面
(
へうめん
)
波切丸
(
なみきりまる
)
の
船長
(
せんちやう
)
となつて
居
(
ゐ
)
るものの、
164
実
(
じつ
)
は
海賊
(
かいぞく
)
だ。
165
お
前
(
まへ
)
を
部下
(
ぶか
)
のコークスに
掻
(
か
)
つ
攫
(
さら
)
はしたのは
大
(
おほ
)
いに
目的
(
もくてき
)
があつての
事
(
こと
)
だ。
166
お
前
(
まへ
)
の
父
(
ちち
)
はアリスと
云
(
い
)
つたであろう。
167
スガの
港
(
みなと
)
の
薬種
(
やくしゆ
)
問屋
(
どいや
)
であらうがな』
168
ダリヤ『どうして
又
(
また
)
169
貴方
(
あなた
)
はそんな
詳
(
くは
)
しい
事
(
こと
)
を
御存
(
ごぞん
)
じで
厶
(
ござ
)
いますか』
170
アリー『
知
(
し
)
るも
知
(
し
)
らぬもあるものか。
171
お
前
(
まへ
)
の
父
(
ちち
)
は
吾
(
わが
)
父母
(
ふぼ
)
の
仇
(
かたき
)
だ。
172
不倶
(
ふぐ
)
戴天
(
たいてん
)
の
仇
(
あだ
)
とつけ
狙
(
ねら
)
ひ、
173
どうかお
前
(
まへ
)
の
父
(
ちち
)
の
命
(
いのち
)
を
取
(
と
)
つて
親
(
おや
)
の
仇
(
あだ
)
を
報
(
むく
)
ひたいのだが、
174
余
(
あま
)
り
警戒
(
けいかい
)
が
厳
(
きび
)
しき
為
(
た
)
め
近寄
(
ちかよ
)
る
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ず、
175
遂
(
つひ
)
には
海賊
(
かいぞく
)
となり、
176
船長
(
せんちやう
)
と
化
(
ば
)
け
済
(
す
)
まして、
177
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
父子
(
おやこ
)
がこの
湖
(
うみ
)
を
渡
(
わた
)
る
時
(
とき
)
を
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
たのだ。
178
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
悪運
(
あくうん
)
の
強
(
つよ
)
い
其方
(
そなた
)
の
父
(
ちち
)
アリスは
179
吾
(
わが
)
船
(
ふね
)
に
未
(
いま
)
だ
一度
(
いちど
)
も
乗
(
の
)
り
込
(
こ
)
んだ
事
(
こと
)
がないので
仇討
(
あだうち
)
の
望
(
のぞみ
)
も
達
(
たつ
)
せず、
180
怏々
(
おうおう
)
として
日夜
(
にちや
)
煩悶
(
はんもん
)
して
居
(
ゐ
)
たのだ。
181
お
前
(
まへ
)
の
母
(
はは
)
と
云
(
い
)
ふのはアンナと
云
(
い
)
つたであらうがな』
182
ダリヤ『ハイ
左様
(
さやう
)
で
厶
(
ござ
)
いました。
183
どうして
又
(
また
)
私
(
わたし
)
の
父
(
ちち
)
が
貴方
(
あなた
)
様
(
さま
)
の
親
(
おや
)
の
仇
(
あだ
)
で
厶
(
ござ
)
いますか。
184
詳
(
くはし
)
い
事
(
こと
)
をお
聞
(
き
)
かせ
下
(
くだ
)
さいませ』
185
アリー『
俺
(
おれ
)
は
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
お
前
(
まへ
)
を
女房
(
にようばう
)
にしたくはない、
186
何故
(
なぜ
)
ならば
父
(
ちち
)
の
仇
(
かたき
)
の
娘
(
むすめ
)
と
一所
(
いつしよ
)
に
暮
(
くら
)
すのは
良心
(
りやうしん
)
がとがめ、
187
かつ
親
(
おや
)
の
霊
(
れい
)
に
対
(
たい
)
して
済
(
す
)
まないからだ。
188
夫
(
それ
)
よりもお
前
(
まへ
)
の
首
(
くび
)
を
取
(
と
)
つて
父
(
ちち
)
の
墓前
(
ぼぜん
)
に
供
(
そな
)
へ、
189
父
(
ちち
)
の
修羅
(
しゆら
)
の
妄執
(
まうしふ
)
を
晴
(
はら
)
しさへすれば
俺
(
おれ
)
はそれで
満足
(
まんぞく
)
だ。
190
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らお
前
(
まへ
)
の
命
(
いのち
)
を
取
(
と
)
るに
先立
(
さきだ
)
つて
深
(
ふか
)
い
因縁
(
いんねん
)
を
聞
(
き
)
かして
置
(
お
)
かう。
191
恨
(
うら
)
んで
呉
(
く
)
れな。
192
実
(
じつ
)
はかうだ、
193
俺
(
おれ
)
の
父
(
ちち
)
は
極貧
(
ごくまづ
)
しい
生活
(
せいくわつ
)
をして
居
(
ゐ
)
たアリスタンと
云
(
い
)
ふ
売薬
(
ばいやく
)
の
行商人
(
ぎやうしやうにん
)
であつたが、
194
俺
(
おれ
)
の
母
(
はは
)
即
(
すなは
)
ちお
前
(
まへ
)
を
生
(
う
)
んだ
母
(
はは
)
のアンナは
195
吾
(
わが
)
父
(
ちち
)
の
恋女房
(
こひにようばう
)
であつた。
196
お
前
(
まへ
)
の
父
(
ちち
)
が
吾
(
わが
)
父
(
ちち
)
の
留守宅
(
るすたく
)
へやつて
来
(
き
)
て、
197
色々
(
いろいろ
)
雑多
(
ざつた
)
と
手段
(
しゆだん
)
を
廻
(
めぐら
)
し、
198
吾
(
わが
)
母
(
はは
)
を
連
(
つ
)
れ
帰
(
かへ
)
つて
蔵
(
くら
)
の
中
(
なか
)
へ
閉
(
と
)
ぢ
込
(
こ
)
めおき、
199
否応
(
いやおう
)
いはさず、
200
無理
(
むり
)
往生
(
わうじやう
)
に
女房
(
にようばう
)
となし、
201
その
中
(
なか
)
に
生
(
うま
)
れたのがお
前
(
まへ
)
だ。
202
父
(
ちち
)
は
女房
(
にようばう
)
を
取
(
と
)
られた
残念
(
ざんねん
)
さに
203
此
(
この
)
湖
(
みづうみ
)
に
身
(
み
)
を
投
(
な
)
げて
死
(
し
)
んだのだ。
204
曰
(
い
)
はばお
前
(
まへ
)
は
胤異
(
たねちがい
)
の
兄妹
(
きやうだい
)
だ。
205
併
(
しか
)
しながら
吾
(
わが
)
母
(
はは
)
のアンナはお
前
(
まへ
)
の
父
(
ちち
)
に
愛情
(
あいじやう
)
を
濺
(
そそ
)
いで
居
(
ゐ
)
なかつた。
206
お
前
(
まへ
)
には
母
(
はは
)
の
愛情
(
あいじやう
)
が
注
(
そそ
)
がれ
居
(
ゐ
)
るのぢや
無
(
な
)
い。
207
狂暴
(
きやうばう
)
なる
父
(
ちち
)
の
悪血
(
あくち
)
が
固
(
かたま
)
つて
吾
(
わが
)
母
(
はは
)
の
体内
(
たいない
)
に
因果
(
いんぐわ
)
の
種
(
たね
)
が
宿
(
やど
)
つたのだ。
208
お
前
(
まへ
)
の
其
(
その
)
美
(
うつく
)
しい
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
る
毎
(
ごと
)
にお
前
(
まへ
)
の
父
(
ちち
)
を
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
し、
209
どうしても
殺
(
ころ
)
さねば
承知
(
しようち
)
ならないのだから、
210
殺
(
ころ
)
す
俺
(
おれ
)
も、
211
殺
(
ころ
)
されるお
前
(
まへ
)
も
因果
(
いんぐわ
)
だ、
212
諦
(
あきら
)
めてくれ。
213
俺
(
おれ
)
は
父
(
ちち
)
に
対
(
たい
)
する
義務
(
ぎむ
)
がすまないからなあ、
214
哀
(
あは
)
れと
思
(
おも
)
はないではないが、
215
心
(
こころ
)
を
鬼
(
おに
)
にしてお
前
(
まへ
)
の
生命
(
いのち
)
を
取
(
と
)
るのだから』
216
ダリヤは
船長
(
せんちやう
)
の
物語
(
ものがたり
)
を
聞
(
き
)
いて
大
(
おほい
)
に
驚
(
おどろ
)
き、
217
溜息
(
ためいき
)
をつき
乍
(
なが
)
ら、
218
ダリヤ『アリー
様
(
さま
)
、
219
貴方
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
立腹
(
りつぷく
)
は
御尤
(
ごもつとも
)
で
厶
(
ござ
)
います。
220
どうか
私
(
わたし
)
を
殺
(
ころ
)
して
下
(
くだ
)
さいませ、
221
さうしてお
父上
(
ちちうへ
)
に
孝養
(
かうやう
)
をおつくし
下
(
くだ
)
さいませ。
222
同
(
おな
)
じ
腹
(
はら
)
から
生
(
うま
)
れた
兄
(
あに
)
に
殺
(
ころ
)
されると
思
(
おも
)
へば、
223
私
(
わたし
)
も
得心
(
とくしん
)
して、
224
成仏
(
じやうぶつ
)
致
(
いた
)
します。
225
南無
(
なむ
)
阿弥陀仏
(
あみだぶつ
)
』
226
と、
227
両掌
(
りやうて
)
を
合
(
あは
)
せ
紅涙
(
こうるい
)
滴々
(
てきてき
)
として
祈願
(
きぐわん
)
して
居
(
ゐ
)
る
其
(
その
)
不愍
(
ふびん
)
さ。
228
遉
(
さすが
)
のアリーも
可憐
(
かれん
)
なる
妹
(
いもうと
)
の
姿
(
すがた
)
を
眺
(
なが
)
めては
首
(
くび
)
切
(
き
)
りおとす
勇気
(
ゆうき
)
もなく、
229
燃
(
も
)
へさかる
胸
(
むね
)
の
炎
(
ほのほ
)
を
消
(
け
)
しかねて
230
両手
(
りやうて
)
を
組
(
く
)
み
吐息
(
といき
)
をついて
居
(
ゐ
)
る。
231
ダリヤ『
咲
(
さ
)
き
匂
(
にほ
)
ふダリヤの
花
(
はな
)
も
木枯
(
こがらし
)
の
232
冷
(
つめた
)
き
風
(
かぜ
)
に
散
(
ち
)
るぞ
悲
(
かな
)
しき』
233
アリー『あゝお
前
(
まへ
)
の
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
るにつけ、
234
又
(
また
)
其
(
その
)
決心
(
けつしん
)
を
聞
(
き
)
くにつけ
235
日頃
(
ひごろ
)
仇
(
かたき
)
とつけ
狙
(
ねら
)
ふた
俺
(
おれ
)
の
心
(
こころ
)
も
折
(
を
)
れ、
236
刃
(
やいば
)
を
下
(
おろ
)
す
勇気
(
ゆうき
)
も
無
(
な
)
くなつた。
237
然
(
しか
)
しお
前
(
まへ
)
と
俺
(
おれ
)
とは
腹
(
はら
)
は
一
(
ひと
)
つでも
霊
(
たま
)
は
一
(
ひと
)
つでない。
238
愛情
(
あいじやう
)
無
(
な
)
き
母
(
はは
)
の
体内
(
たいない
)
には
愛情
(
あいじやう
)
のない
霊
(
れい
)
と
肉
(
にく
)
とが
宿
(
やど
)
つて
居
(
を
)
る。
239
お
前
(
まへ
)
はお
前
(
まへ
)
の
父
(
ちち
)
の
片身
(
へんしん
)
だ。
240
どうしてもお
前
(
まへ
)
を
討
(
う
)
たねばならぬ、
241
どうか
勘忍
(
かんにん
)
して
呉
(
く
)
れ。
242
併
(
しかし
)
乍
(
ながら
)
今日
(
けふ
)
はどうもお
前
(
まへ
)
を
打
(
う
)
つ
勇気
(
ゆうき
)
が
出
(
で
)
て
来
(
こ
)
ない、
243
いつもの
密室
(
みつしつ
)
に
暫
(
しばら
)
く
監禁
(
かんきん
)
して
置
(
お
)
くから、
244
決
(
けつ
)
して
自害
(
じがい
)
などしてはならないぞ、
245
俺
(
おれ
)
の
手
(
て
)
にかかつて
死
(
し
)
んで
呉
(
く
)
れ』
246
ダリヤ『ハイ、
247
どうぞ
貴方
(
あなた
)
のお
好
(
すき
)
になさいませ。
248
私
(
わたし
)
は
最早
(
もはや
)
命
(
いのち
)
は
惜
(
を
)
しみませぬ。
249
父
(
ちち
)
はスガの
港
(
みなと
)
に
私
(
わたし
)
の
帰
(
かへ
)
りを
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
ませうが、
250
そんな
悪魔
(
あくま
)
と
聞
(
き
)
いては、
251
もはや
父
(
ちち
)
の
家
(
いへ
)
に
帰
(
かへ
)
る
心
(
こころ
)
も
起
(
おこ
)
りませぬ。
252
又
(
また
)
貴方
(
あなた
)
のお
心
(
こころ
)
を
聞
(
き
)
いては、
253
潔
(
いさぎ
)
よう
貴方
(
あなた
)
のお
手
(
て
)
にかかつて
死
(
しに
)
たうございます。
254
たとへ
母
(
はは
)
の
血
(
ち
)
と
霊
(
れい
)
とが
私
(
わたし
)
の
体内
(
たいない
)
に
宿
(
やど
)
つて
居
(
ゐ
)
無
(
な
)
いとしても、
255
貴方
(
あなた
)
は
私
(
わたし
)
の
兄上
(
あにうへ
)
に
違
(
ちが
)
いありませぬ』
256
かくする
内
(
うち
)
に
夜
(
よ
)
の
帳
(
とばり
)
は
下
(
おろ
)
された。
257
アリーはダリヤの
手
(
て
)
を
曳
(
ひ
)
いて
密
(
ひそ
)
かに
密室
(
みつしつ
)
に
導
(
みちび
)
き
入
(
い
)
れ
258
堅
(
かた
)
く
錠前
(
ぢやうまへ
)
をおろしておいた。
259
ダリヤは
密室
(
みつしつ
)
に
繋
(
つな
)
がれ
死
(
し
)
を
覚悟
(
かくご
)
し
260
健気
(
けなげ
)
にも
辞世
(
じせい
)
の
歌
(
うた
)
を
声
(
こゑ
)
も
静
(
しづか
)
に
歌
(
うた
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
261
『あゝ
味気
(
あぢき
)
なき
人
(
ひと
)
の
世
(
よ
)
や
262
天地
(
あめつち
)
の
間
(
あひ
)
に
人
(
ひと
)
と
生
(
うま
)
れ
出
(
い
)
でて
263
二八
(
にはち
)
の
今日
(
けふ
)
の
春
(
はる
)
迄
(
まで
)
も
264
蝶
(
てふ
)
よ
花
(
はな
)
よと
育
(
はぐ
)
くまれ
265
スガの
港
(
みなと
)
の
名花
(
めいくわ
)
ぞと
266
謳
(
うた
)
はれ
居
(
ゐ
)
たる
吾
(
わが
)
身
(
み
)
にも
267
夜嵐
(
よあらし
)
の
襲
(
おそ
)
ひ
来
(
く
)
るものか
268
あゝ
懐
(
なつか
)
しき
吾
(
わが
)
母上
(
ははうへ
)
は
269
アリーが
父
(
ちち
)
のいとも
愛
(
あい
)
せる
恋人
(
こひびと
)
なりしと
270
初
(
はじ
)
めて
聞
(
き
)
きし
身
(
み
)
の
驚
(
おどろ
)
き
271
また
吾
(
わが
)
父上
(
ちちうへ
)
の
富
(
とみ
)
の
力
(
ちから
)
に
任
(
まか
)
かせつつ
272
道
(
みち
)
ならぬ
道
(
みち
)
を
歩
(
あゆ
)
ませ
給
(
たま
)
ひ
273
人妻
(
ひとづま
)
を
手
(
て
)
に
入
(
い
)
れて
274
恋
(
こひ
)
てふ
心
(
こころ
)
の
曲者
(
くせもの
)
に
275
囚
(
とらは
)
れ
給
(
たま
)
ひし
悲
(
かな
)
しさよ
276
父
(
ちち
)
と
父
(
ちち
)
とは
敵同志
(
てきどうし
)
277
一人
(
ひとり
)
の
母
(
はは
)
の
胎内
(
たいない
)
ゆ
278
生
(
うま
)
れ
出
(
い
)
でたる
兄妹
(
おとどい
)
は
279
又
(
また
)
もや
浮世
(
うきよ
)
の
敵
(
てき
)
と
敵
(
てき
)
280
如何
(
いか
)
なる
宿世
(
すぐせ
)
の
悪業
(
あくごふ
)
が
281
吾
(
わが
)
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
に
廻
(
めぐ
)
り
来
(
こ
)
しぞ
282
思
(
おも
)
へば
思
(
おも
)
へば
味気
(
あぢき
)
なき
283
浮世
(
うきよ
)
の
雲
(
くも
)
をいかにして
284
払
(
はら
)
はむ
由
(
よし
)
も
泣
(
な
)
くばかり
285
継母
(
けいぼ
)
の
腹
(
はら
)
より
生
(
うま
)
れたる
286
吾
(
わが
)
兄
(
あに
)
一人
(
ひとり
)
在
(
ま
)
しませど
287
何
(
なん
)
とはなしに
睦
(
むつま
)
じからず
288
妾
(
わらは
)
は
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
吾
(
わが
)
兄
(
あに
)
の
289
吾
(
われ
)
に
対
(
たい
)
する
情
(
つれ
)
なさを
290
怪
(
あや
)
しみ
居
(
ゐ
)
たりしが
291
今
(
いま
)
やアリーの
物語
(
ものがたり
)
292
聞
(
き
)
くに
及
(
およ
)
びて
吾
(
わが
)
兄
(
あに
)
は
293
吾
(
わが
)
父上
(
ちちうへ
)
の
先妻
(
せんさい
)
が
294
腹
(
はら
)
に
宿
(
やど
)
りし
珍
(
うづ
)
の
子
(
こ
)
と
295
悟
(
さと
)
りし
上
(
うへ
)
は
是非
(
ぜひ
)
もなや
296
最早
(
もはや
)
此
(
この
)
世
(
よ
)
に
生
(
いき
)
ながらへて
297
何
(
なに
)
をか
楽
(
たの
)
しまむ
298
同
(
おな
)
じ
母
(
はは
)
から
生
(
うま
)
れたる
299
アリーの
君
(
きみ
)
の
手
(
て
)
にかかり
300
情
(
つれ
)
なき
浮世
(
うきよ
)
を
後
(
あと
)
にして
301
恋
(
こひ
)
しき
父
(
ちち
)
と
母上
(
ははうへ
)
の
302
居
(
ゐ
)
ます
霊界
(
みくに
)
に
進
(
すす
)
むべし
303
吾
(
わが
)
垂乳根
(
たらちね
)
の
母上
(
ははうへ
)
は
304
先
(
さき
)
の
夫
(
をつと
)
と
諸共
(
もろとも
)
に
305
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
を
待
(
ま
)
たせたまふべし
306
血潮
(
ちしほ
)
の
因縁
(
いんねん
)
はなけれども
307
母
(
はは
)
の
夫
(
をつと
)
となりましし
308
アリーの
父
(
ちち
)
は
吾
(
わが
)
義父
(
ちち
)
ぞ
309
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
310
神
(
かみ
)
の
光
(
ひかり
)
に
照
(
て
)
らされて
311
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
も
剣
(
つるぎ
)
の
山
(
やま
)
も
312
安
(
やす
)
く
越
(
こ
)
えさせ
給
(
たま
)
へかし
313
六道
(
ろくだう
)
の
辻
(
つじ
)
天
(
あめ
)
の
八衢
(
やちまた
)
の
314
関所
(
せきしよ
)
も
無事
(
ぶじ
)
に
過
(
よぎ
)
りて
315
恋
(
こひ
)
しき
父母
(
ちちはは
)
の
坐
(
ま
)
します
316
天津
(
あまつ
)
御国
(
みくに
)
に
至
(
いた
)
らせ
給
(
たま
)
へ
317
偏
(
ひとへ
)
に
祈
(
いの
)
り
奉
(
たてまつ
)
る
318
偏
(
ひとへ
)
に
念
(
ねん
)
じ
奉
(
たてまつ
)
る』
319
と
祈願
(
きぐわん
)
を
籠
(
こ
)
むる
時
(
とき
)
しもあれ、
320
密
(
ひそ
)
かに
錠前
(
ぢやうまへ
)
をコトリコトリと
捻
(
ね
)
じあけて
321
覆面
(
ふくめん
)
頭巾
(
づきん
)
の
儘
(
まま
)
忍
(
しの
)
び
入
(
い
)
る
一人
(
ひとり
)
の
男
(
をとこ
)
有
(
あ
)
りけり。
322
(
大正一三・一二・二
新一二・二七
於祥雲閣
加藤明子
録)
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