霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二二章 憧憬(どうけい)の美(び)〔一七二四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第67巻 山河草木 午の巻 篇:第4篇 山色連天 よみ(新仮名遣い):さんしょくれんてん
章:第22章 憧憬の美 よみ(新仮名遣い):どうけいのび 通し章番号:1724
口述日:1924(大正13)年12月29日(旧12月4日) 口述場所:祥雲閣 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年8月19日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
太子は城に戻ってからは、スバール姫の絵姿を床の間にかけ、憧憬していた。
重臣のタルチンがやってきて、アリナの新思想を責め、遠ざけようと諫言する。
太子は、現重臣たちの考え方こそ国家滅亡の考えと断じる。また、重臣たちが権勢や富貴におもね、栄利栄達のみに心を砕いていることを指摘し、逆にタルチンを責める。
そこへ、謹慎を解かれたアリナがやってくる。アリナは、父の左守がついに考えを変え、太子とアリナの考え方に反対しないと誓った、と太子、タルチンに謹慎中の出来事を語った。
タルチンは、左守が考え方を変えたと聞いて、途端に太子への諫言を撤回する。
実は左守は考えを変えてはおらず、アリナがタルチンを試したのであった。
太子はスバール姫への恋心をアリナに打ち明け、相談する。アリナはスバール姫を城内に迎え入れる画策をする。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2018-05-24 00:17:31 文字数:4474 OBC :rm6722
愛善世界社版:285頁 八幡書店版:第12輯 137頁 修補版: 校定版:288頁 普及版:68頁 初版: ページ備考:
001 太子(たいし)は吾(わが)館(やかた)の奥(おく)深(ふか)く潜(ひそ)み乍(なが)ら、002スバール姫(ひめ)の画姿(ゑすがた)を床(とこ)の間(ま)に掛(か)け、003朝夕(あさゆふ)天真(てんしん)の美貌(びばう)に憧憬(どうけい)し、004思(おも)ひを遠(とほ)く朝倉谷(あさくらだに)の賤(しづ)が伏家(ふせや)に通(かよ)はせてゐた。005寵臣(ちようしん)のアリナは三十(さんじふ)日(にち)の監禁(かんきん)を命(めい)ぜられ、006話相手(はなしあひて)もなく、007実(じつ)に淋(さび)しき思(おも)ひに悩(なや)んでゐたが、008スバール嬢(ぢやう)の画姿(ゑすがた)を見(み)ては、009煩悶(はんもん)苦悩(くなう)の炎(ほのほ)を消(け)してゐた。
010スダルマン太子『併(しか)し今日(けふ)は最早(もはや)アリナが赦(ゆる)されて自由(じいう)の身(み)となる当日(たうじつ)だ。011彼(かれ)も会(あ)ひたいだらう。012自分(じぶん)も早(はや)くアリナに会(あ)ひたいものだ』
013と独語(ひとりごち)つつ、014憂愁(いうしう)に沈(しづ)んでゐる。015そこへ重臣(ぢうしん)のハルチンは恐(おそ)る恐(おそ)る罷(まか)り出(い)で、
016ハル『太子(たいし)殿下(でんか)には相変(あひかは)らせられず、017御(ご)壮健(さうけん)なる神顔(しんがん)を拝(はい)し奉(たてまつ)り、018ハルチン身(み)に取(と)り恐悦(きようえつ)至極(しごく)に存(ぞん)じます』
019太(たい)『ヤア、020其方(そなた)はハルチンか。021先日(せんじつ)殿内(でんない)に於(おい)て大椿事(だいちんじ)突発(とつぱつ)の際(さい)、022其方(そなた)は危険(きけん)を冒(をか)して左守(さもり)を抱(だ)きとめ、023右守(うもり)の難(なん)を救(すく)つたとか云(い)ふ事(こと)、024実(じつ)に神妙(しんめう)の至(いた)りだ。025近(ちか)く寄(よ)つて何(なに)か面白(おもしろ)い快活(くわいくわつ)な話(はなし)を聞(き)かしてくれないか』
026ハル『ハイ恐(おそ)れ入(い)り奉(たてまつ)ります。027微臣(びしん)は微臣(びしん)として尽(つく)すべき道(みち)を尽(つく)した迄(まで)で厶(ござ)いますから、028御(お)褒(ほ)めの言葉(ことば)を頂(いただ)いては汗顔(かんがん)の至(いた)りに堪(た)へませぬ。029一度(いちど)御(おん)伺(うかが)ひ申(まをし)上(あ)げたいと存(ぞん)じましたが、030余(あま)り恐(おそ)れ多(おほ)いと存(ぞん)じまして、031今日(けふ)迄(まで)控(ひか)えて居(を)りました。032殿下(でんか)には左守(さもり)の悴(せがれ)アリナを殊(こと)の外(ほか)御(ご)寵愛(ちようあい)遊(あそ)ばされ、033昼夜(ちうや)の区別(くべつ)なく、034お側(そば)に侍(はべ)らせ玉(たま)ひ、035誠(まこと)に結構(けつこう)至極(しごく)の至(いた)りに厶(ござ)りますが、036併(しか)し乍(なが)ら一人(ひとり)の家来(けらい)許(ばか)りを御(ご)信用(しんよう)なさいますと、037大変(たいへん)な過(あやま)ちが出来(でき)まするから、038そこは賢明(けんめい)なる殿下(でんか)の御(ご)聖慮(せいりよ)を以(もつ)て、039他(た)の臣下(しんか)をもどうか御(お)近(ちか)よせ下(くだ)さいまする様(やう)、040御(お)願(ねが)ひ申(まをし)上(あ)げまする』
041太(たい)『アハヽヽ、042沢山(たくさん)な臣下(しんか)はウヨウヨとして居(ゐ)るが、043余(よ)の気(き)に入(い)る人間(にんげん)らしい臣下(しんか)がないので、044止(や)むを得(え)ず、0441淋(さび)しい乍(なが)らも、045アリナを近付(ちかづ)けてゐるのだ。046お前(まへ)はアリナの人物(じんぶつ)を何(なん)と思(おも)うてゐるか。047忌憚(きたん)なく余(よ)の前(まへ)に感想(かんさう)を吐露(とろ)しろ』
048ハル『ハイ、049殿下(でんか)の御(ご)寵臣(ちようしん)を彼(かれ)此(こ)れ申(まをし)上(あ)げまするは、050臣下(しんか)の身分(みぶん)として恐懼(きようく)に堪(た)へませぬ。051どうか之(これ)許(ばか)りは御(お)赦(ゆる)し願(ねが)ひたいもので厶(ござ)います』
052太(たい)『ナニ、053そんな躊躇(ちうちよ)が要(い)るものか。054お前(まへ)の思(おも)つてる丈(だけ)の事(こと)をいつてみてくれ。055余(よ)もアリナの行動(かうどう)に対(たい)し、056其方(そなた)の意見(いけん)を聞(き)いて、057不都合(ふつがふ)と認(みと)めた時(とき)は、058今後(こんご)の出入(でいり)を差(さし)とめる積(つもり)だから』
059ハルチン『ハイ、060流石(さすが)は御(ご)賢明(けんめい)なる太子(たいし)様(さま)、061それでこそタラハンの国家(こくか)は万代(ばんだい)不易(ふえき)、062微臣(びしん)の私(わたし)も旱天(かんてん)に雨(あめ)を得(え)たる如(ごと)く、063喜(よろこ)びに堪(た)へませぬ。064然(しか)らば申(まをし)上(あ)げますが、065かれアリナは父(ちち)にも似合(にあ)はぬ生意気(なまいき)な男(をとこ)で、066何事(なにごと)も文化(ぶんくわ)々々(ぶんくわ)と申(まを)して新(あたら)しがり、067国家(こくか)の基礎(きそ)が危(あやふ)くならうが、068王家(わうけ)がどうならうがチツともかまはない不忠(ふちゆう)不義(ふぎ)の悪魔(あくま)で厶(ござ)います。069殿下(でんか)が何時(いつ)迄(まで)も彼(かれ)が如(ごと)き者(もの)を近(ちか)よせ、070御(ご)信用(しんよう)遊(あそ)ばしては、071王家(わうけ)の為(ため)、072国家(こくか)の為(ため)、073一大事(いちだいじ)が突発(とつぱつ)せないとも限(かぎ)りますまい。074どうか賢明(けんめい)なる聖慮(せいりよ)に見直(みなほ)し下(くだ)さいまして、075臣(しん)が言葉(ことば)も少(すこ)しは御(ご)採用(さいよう)下(くだ)されませ。076王家(わうけ)の為(ため)、077国家(こくか)の為(ため)、078已(や)むを得(え)ず死(し)を決(けつ)して、079此(この)ハルチンは殿下(でんか)の御(お)怒(いか)りを存(ぞん)じ乍(なが)ら直諫(ちよくかん)に参(まゐ)りました』
080太(たい)『ウーム、081さうか、082アリナと云(い)ふ奴(やつ)、083それ程(ほど)お前(まへ)の目(め)から悪人(あくにん)と見(み)えるかのう。084時代(じだい)に目醒(めざめ)た新(あたら)しき主義(しゆぎ)を唱(とな)へる者(もの)が、085王家(わうけ)国家(こくか)を亡(ほろ)ぼすとは、086チツと受取(うけと)れぬではないか。087今日(こんにち)の世(よ)の中(なか)は、0871今(いま)迄(まで)の如(ごと)く、088強圧(きやうあつ)的(てき)専制(せんせい)的(てき)方法(はうはふ)を以(もつ)て人民(じんみん)を治(をさ)めることは出来(でき)ないよ。089時代(じだい)に順応(じゆんおう)して夫(それ)相当(さうたう)の政治(せいぢ)を行(おこな)はねば、090却(かへつ)て国家(こくか)は危(あやふ)いだらう』
091ハル『殿下(でんか)の御(ご)令旨(れいし)、092御尤(ごもつと)もでは厶(ござ)いますが、093大王(だいわう)殿下(でんか)の御(ご)心配(しんぱい)も、094重臣(ぢうしん)一同(いちどう)の徹夜(てつや)の煩悶(はんもん)も、095元(もと)を糺(ただ)せば、096彼(か)れ青二才(あをにさい)が殿下(でんか)に媚(こ)びへつらひ、097尊貴(そんき)の御(おん)身(み)をば、0971恐(おそ)れ多(おほ)くも、098猛獣(まうじう)猛(たけ)る山野(さんや)におびき出(だ)し奉(たてまつ)り、099いろいろの苦労(くらう)をさせましたからで厶(ござ)います。100かかる不忠(ふちゆう)不義(ふぎ)の逆臣(ぎやくしん)を、101御(お)側(そば)近(ちか)くおよせなさつては、102お為(ため)になりますまい。103どうぞ之(これ)許(ばか)りは御(お)考(かんが)へを願(ねが)ひたいもので、104厶(ござ)います』
105太(たい)『アヽ父上(ちちうへ)といひ、106左守(さもり)、107右守(うもり)と云(い)ひ、108お前(まへ)といひ、109能(よ)くもマア亡国(ばうこく)の因虫(いんちう)がタラハン城(じやう)にはびこつたものだのう。110イヤ余(よ)は左様(さやう)な言葉(ことば)は聞(き)きたくない。111それよりもお前(まへ)は左守(さもり)112右守(うもり)の頑迷(ぐわんめい)連(れん)に盲従(まうじゆう)して、113国家(こくか)滅亡(めつぼう)の為(ため)に精々(せいぜい)力(ちから)を尽(つく)すがよからうぞ』
114ハル『これは又(また)、115殿下(でんか)のお言葉(ことば)とも覚(おぼ)えませぬ。116国家(こくか)滅亡(めつぼう)の為(ため)に力(ちから)を尽(つく)せよとは、117臣下(しんか)の心胸(しんきよう)をお察(さつ)し下(くだ)さらぬのにも、118程(ほど)があるぢや厶(ござ)りませぬか。119私(わたし)は殿下(でんか)のお言葉(ことば)を耳(みみ)にしてお怨(うら)み申(まを)します』
120太(たい)『ハヽヽ、121お恨(うら)み申(まを)すのは相身互(あひみたがひ)だ。122余(よ)は国家(こくか)を泰山(たいざん)の安(やす)きにおき、123国民(こくみん)をして平和(へいわ)な幸福(かうふく)な生活(せいくわつ)を送(おく)らしめ、124地上(ちじやう)に天国(てんごく)の楽園(らくゑん)を移(うつ)さむが為(ため)、125昼夜(ちうや)肝胆(かんたん)を砕(くだ)いてゐるのだ。126何(いづ)れの臣下(しんか)も権勢(けんせい)に阿(おもね)り、127富貴(ふうき)に媚(こ)び、128自己(じこ)の名利(めいり)栄達(えいたつ)のみに全心(ぜんしん)を傾注(けいちう)し、129王家(わうけ)の為(ため)、130国家(こくか)の為(ため)と、131表面(へうめん)立派(りつぱ)に唱(とな)へ乍(なが)ら、132其(その)内心(ないしん)をエッキス光線(くわうせん)に照(てら)してみれば、133何(いづ)れも自己愛(じこあい)の外(ほか)に何物(なにもの)もない。134実(じつ)にかかる臣下(しんか)を持(も)つて、135政治(せいぢ)をとられてゐるタラハン国家(こくか)は、136危(あやふ)い哉(かな)である。137余(よ)は一(いち)人(にん)も知己(ちき)もなく、138師匠(ししやう)もない。139日夜(にちや)寂寥(せきれう)の空気(くうき)に身辺(しんぺん)を包(つつ)まれ、140失望(しつばう)落胆(らくたん)の淵(ふち)に漂(ただよ)うてゐるのだ。141諺(ことわざ)にも……溺(おぼ)れ死(し)せむとする者(もの)は、142一茎(いつけい)の藁(わら)にも縋(すが)る……とかや、143吾(わが)心中(しんちう)を洞察(どうさつ)した左守(さもり)の一子(いつし)アリナのみを唯一(ゆゐいつ)の友(とも)となし、144力(ちから)となして、145どうか国家(こくか)を未倒(みたう)に救(すく)はむと、146昼夜(ちうや)焦慮(せうりよ)してゐるのだ。147アリナを排斥(はいせき)するのは即(すなは)ち余(よ)を排斥(はいせき)するも同然(どうぜん)だ。148余(よ)を苦(くるし)めたく思(おも)はば、149アリナを汝(なんぢ)等(ら)重役(ぢうやく)共(ども)が鳩首(きうしゆ)凝議(ぎようぎ)して、150如何(いか)なる圧迫(あつぱく)なりと、151排斥(はいせき)なりと加(くは)へたが可(よ)からう』
152ハル『殿下(でんか)には重臣(ぢうしん)の中(うち)に於(おい)て、153一(いち)人(にん)も真(しん)に王家(わうけ)を思(おも)ひ国家(こくか)を愛(あい)する者(もの)はなく、154何(いづ)れも自己愛(じこあい)の奴隷(どれい)のやうに仰(おほ)せられましたが、155それは余(あま)り殺生(せつしやう)と申(まを)すもの。156王家(わうけ)を思(おも)ひ、157国家(こくか)の前途(ぜんと)を憂(うれ)ふればこそ、158吾々(われわれ)臣下(しんか)共(ども)は、159夜(よ)の目(め)も寝(ね)ずに心(こころ)を痛(いた)めてゐるのでは厶(ござ)いませぬか。160少(すこ)しは御(ご)推量(すいりやう)を願(ねが)はしく存(ぞん)じます』
161太(たい)『お前(まへ)達(たち)の王家(わうけ)国家(こくか)を思(おも)ふといふのは、162要(えう)するに自己(じこ)保護(ほご)の為(ため)だ。163何者(なにもの)かの外敵(ぐわいてき)に我(わが)国(くに)を亡(ほろ)ぼされ、164王家(わうけ)も共(とも)にスラブの様(やう)に亡(ほろ)んだ時(とき)は、165只(ただ)一(いち)人(にん)余(よ)が身辺(しんぺん)を保護(ほご)する者(もの)はあるまい。166細々(こまごま)乍(なが)らも、167国(くに)の主(あるぢ)、168王族(わうぞく)として君臨(くんりん)してゐるのだから、169お前(まへ)達(たち)も王家(わうけ)を利用(りよう)して種々(いろいろ)の便宜(べんぎ)を得(う)る為(ため)だらう。170王家(わうけ)の亡(ほろ)ぶのは即(すなは)ち汝(なんぢ)等(ら)の亡(ほろ)ぶのだ。171それだから、172王家(わうけ)だ、173国家(こくか)だと、174忠義面(ちうぎづら)して騒(さわ)いでゐるのだ。175アハヽヽヽ』
176 斯(か)かる所(ところ)へ、177アリナは三十(さんじふ)日(にち)の監禁(かんきん)を赦(ゆる)され、178意気(いき)揚々(やうやう)として案内(あんない)もなく、179太子(たいし)の居間(ゐま)へ這入(はい)つて来(き)た。180太子(たいし)は見(み)るより、
181太(たい)『ヤ、182アリナか、183よう来(き)てくれた。184三十(さんじふ)日(にち)の監禁(かんきん)も随分(ずいぶん)困(こま)つただらうね』
185 アリナは両手(りやうて)をつき乍(なが)ら、
186アリ『殿下(でんか)には何時(いつ)も変(かは)らせられず、187御(ご)壮健(さうけん)なお顔(かほ)を拝(はい)し、188歓喜(くわんき)にたへませぬ。189三十(さんじふ)日(にち)の間(あひだ)監禁(かんきん)され、190親(した)しく父(ちち)と意見(いけん)の交換(かうくわん)をする便宜(べんぎ)を得(え)まして、191大変(たいへん)好都合(かうつがふ)で厶(ござ)いました。192さすが頑迷(ぐわんめい)固陋(ころう)の父(ちち)も前非(ぜんぴ)を悔(く)い、193漸(やうや)く時勢(じせい)に目(め)が醒(さ)め、194殿下(でんか)の御(ご)心中(しんちう)を察(さつ)し参(まゐ)らせ、195今後(こんご)は何事(なにごと)も殿下(でんか)のなさる事(こと)については、196容喙(ようかい)しないと誓(ちか)ひまして厶(ござ)います』
197太(たい)『ハヽヽヽ、198さうか、199そりやお手柄(てがら)だつた。200マア結構(けつこう)々々(けつこう)、201今(いま)此処(ここ)に一人(ひとり)の頑迷屋(ぐわんめいや)がやつて来(き)てな、202いろいろと下(くだ)らぬ事(こと)を言(い)つてくれるので、203実(じつ)ア困(こま)つてゐた所(ところ)だ。204併(しか)し乍(なが)ら此(この)ハルチンはお前(まへ)の父(ちち)が殿中(でんちう)で騒(さわ)いだ時(とき)、205後(うしろ)からだきとめて、206大事(だいじ)を防(ふせ)いだ殊勲者(しゆくんしや)だから、207お前(まへ)も褒(ほ)めてやらねばなるまいぞ』
208アリ『ヤ、209ハルチン様(さま)、210お久(ひさ)し振(ぶり)で厶(ござ)います。211先日(せんじつ)は父(ちち)が、212大変(たいへん)な御(ご)厄介(やつかい)になつた相(さう)です。213お蔭(かげ)さまで、214大事(だいじ)を未然(みぜん)に防(ふせ)ぎ、215右守(うもり)の司(つかさ)も、216惜(をし)い命(いのち)を救(すく)はれたといふもの、217右守(うもり)は貴宅(きたく)へ御(お)礼(れい)に上(あが)つたでせうな』
218太(たい)『余(よ)が山野(さんや)の遊(あそ)びから帰(かへ)つて来(き)た時(とき)、219右守(うもり)は血相(けつさう)を変(か)へて、220表門(おもてもん)へ飛(とび)出(だ)す際(さい)、221アリナにつき当(あた)り、222階段(かいだん)から転(ころ)げ落(お)ち脛(すね)をくぢいて、223這々(ほうほう)の体(てい)で帰(かへ)つた時(とき)は、224随分(ずいぶん)気(き)の毒(どく)だつた。225一度(いちど)見舞(みまひ)に誰(たれ)かを遣(つか)はしたいのだけれど、226余(よ)も余(あま)り心(こころ)が塞(ふさ)いでゐたので、227つい手遅(ておく)れしたのだ。228オイ、229ハルチン、230お前(まへ)は右守(うもり)の司(つかさ)に会(あ)うたら、231余(よ)が宜(よろ)しくいつてゐたと伝(つた)へてくれ』
232ハル『ハイ、233仁慈(じんじ)の籠(こも)つた殿下(でんか)のお言葉(ことば)、234右守(うもり)の司(つかさ)も、235さぞ喜(よろこ)ばれるで厶(ござ)いませう。236時(とき)にアリナさま、237今(いま)承(うけたま)はれば、238お父上(ちちうへ)は殿下(でんか)の御心(みこころ)に従(したが)ふ、239何事(なにごと)も干渉(かんせう)はせないと仰有(おつしや)つた様(やう)で厶(ござ)いますが、240それは実際(じつさい)で厶(ござ)いますか』
241アリ『実際(じつさい)も実際(じつさい)、242極(ごく)真面目(まじめ)に言(い)つてゐましたよ。243其(その)代(かは)り、244三十(さんじふ)日(にち)の間(あひだ)、245僕(ぼく)も随分(ずいぶん)舌(した)の根(ね)がただれる所(ところ)迄(まで)奮闘(ふんとう)しました。246流石(さすが)の頑固爺(ぐわんこおやぢ)も、247たうとう兜(かぶと)を脱(ぬ)いで、248少(すこ)し許(ばか)り霊(みたま)の錆(さび)が除(と)れ、249黎明(れいめい)の曙光(しよくわう)を認(みと)めたやうです。250親爺(おやぢ)が第一(だいいち)改心(かいしん)してくれないと、251タラハンの国家(こくか)が持(も)てないですからなア』
252ハル『ア、253左様(さやう)で厶(ござ)いますか。254左守(さもり)の司(つかさ)様(さま)がお考(かんが)へは日月(じつげつ)の光明(くわうみやう)も同様(どうやう)で厶(ござ)います。255然(しか)らば私(わたし)も之(これ)から殿下(でんか)の御(ご)意志(いし)に服従(ふくじゆう)致(いた)しますれば、256何卒(なにとぞ)今(いま)迄(まで)の御(ご)無礼(ぶれい)をお赦(ゆる)し下(くだ)さいませ』
257と権勢(けんせい)に媚(こ)びへつらひ、258自己(じこ)の栄達(えいたつ)のみを念(ねん)としてゐるハルチンは、259如才(じよさい)のない事(こと)を云(い)つてゐる。
260太(たい)『ハヽヽ今(いま)迄(まで)余(よ)を殿下(でんか)々々(でんか)と尊敬(そんけい)してゐたが、261今(いま)のハルチンの言葉(ことば)の端(はし)から考(かんが)へてみると、262余(よ)に対(たい)しては絶対(ぜつたい)信用(しんよう)をおいてゐなかつたのだなア。263それがハルチンの偽(いつは)らざる告白(こくはく)だらう。264否(いな)ハルチンのみならず、265一般(いつぱん)の重臣(ぢうしん)共(ども)は同(おな)じ考(かんが)へを持(も)つてゐたのだらう。266それだから余(よ)は気(き)に入(い)らなかつたのだ。267ハルチンも如才(じよさい)のない男(をとこ)だのう。268余(よ)はアリナに相談(さうだん)があるから、269又(また)今度(こんど)会(あ)はう、270速(すみやか)に帰(かへ)つてくれ』
271ハル『ハイ、272御意(ぎよい)に従(したが)ひ罷(まか)り下(さが)るで厶(ござ)いませう。273何分(なにぶん)にも宜(よろ)しく御(お)願(ねがひ)申(まを)します』
274と米搗(こめつ)き螽斯(ばつた)宜(よろ)しく、275此(この)場(ば)を辞(じ)して帰(かへ)り行(ゆ)く。
276太(たい)『アハヽヽ、277到頭(たうとう)、278偽善者(ぎぜんしや)が一(いち)人(にん)、279退却(たいきやく)しよつた。280サア之(これ)から余(よ)とお前(まへ)と水入(みづい)らずだ。281何(なに)か面白(おもしろ)い感想(かんさう)は無(な)いかな』
282アリ『ハイ、283別(べつ)に変(かは)つた感想(かんさう)も浮(うか)びませぬが、284あの頑固爺(ぐわんこおやぢ)奴(め)、285何(なん)と云(い)つても目(め)が醒(さ)めないのです。286頑固党(ぐわんこたう)のハルチンが御前(ごぜん)に控(ひか)へて居(を)りましたので、287ワザとにあんな事(こと)云(い)つて気(き)を引(ひ)いてみたので厶(ござ)います。288中々(なかなか)何(ど)うして何(ど)うして289頑固爺(ぐわんこおやぢ)の頭(あたま)は駄目(だめ)で厶(ござ)いますよ』
290太(たい)『アハヽヽ、291お前(まへ)も面白(おもしろ)い芸当(げいたう)をうつ男(をとこ)だな。292ハルチンが掌(てのひら)を返(かへ)した様(やう)に賛成(さんせい)した時(とき)の可笑(をか)しさ。293余(よ)も大(おほい)に人情(にんじやう)の機微(きび)に付(つ)いて研究(けんきう)をしたよ。294時(とき)にアリナ、295此(この)画像(ぐわざう)を見(み)よ。296何時(いつ)も此(この)掛物(かけもの)から浮出(うきだ)して来(き)て余(よ)に物(もの)を言(い)ふやうだ。297お前(まへ)が監禁中(かんきんちう)は此(この)画像(ぐわざう)を唯一(ゆゐいつ)の伴侶(はんりよ)として、298煩悶(はんもん)の焔(ほのほ)を消(け)してゐたのだ。299実(じつ)に麗(うるは)しい者(もの)ぢやないか』
300アリ『殿下(でんか)、301それ程(ほど)スバール嬢(ぢやう)がお気(き)に召(め)しましたか』
302太(たい)『ウン、303ズツと気(き)に入(い)つた。304寝(ね)ても醒(さ)めてもスバール嬢(ぢやう)の姿(すがた)が吾(わが)目(め)にちらつき、305恥(はづ)かし乍(なが)ら、306硬骨(かうこつ)無情(むじやう)の余(よ)も恋(こひ)といふ曲者(くせもの)に捉(とら)はれたやうだ。307何(なに)程(ほど)画姿(ゑすがた)をみてゐても、308殿下(でんか)とも何(なん)とも云(い)つてくれない。309何(なん)とかしてモ一度(いちど)実物(じつぶつ)に会(あ)つてみたいものだが、310此(この)頃(ごろ)の厳重(げんぢう)な警戒線(けいかいせん)は、3101到底(たうてい)破(やぶ)る事(こと)は出来(でき)まい。311之(これ)許(ばか)りが実(じつ)は煩悶(はんもん)の種(たね)だ。312察(さつ)してくれ』
313アリ『殿下(でんか)、314それ程(ほど)迄(まで)思召(おぼしめ)しますなら、315私(わたし)が彼(か)れシャカンナを説(と)き伏(ふ)せ、316スバール姫(ひめ)をタラハン市(し)迄(まで)、317迎(むか)へて来(き)ませうか』
318太(たい)『さうして貰(もら)へば有難(ありがた)いが、319併(しか)し何(ど)うして殿中(でんちう)へ入(い)れることが出来(でき)ようぞ』
320アリ『到底(たうてい)今日(こんにち)の場合(ばあひ)、321殿中(でんちう)へお呼(よ)び寄(よ)せになる事(こと)はチツと困難(こんなん)で厶(ござ)いませうが、322日頃(ひごろ)殿中(でんちう)へお出入(でいり)を致(いた)す、323生花(いけばな)の宗匠(そうしやう)タールチンを、324黄金(わうごん)の轡(くつわ)をはめて買収(ばいしう)し、325彼(かれ)が離室(はなれ)にスバール嬢(ぢやう)様(さま)をかくまわせ、326隙(すき)を窺(うかが)つて殿中(でんちう)を脱(ぬ)け出(いだ)し、327時々(ときどき)お会(あ)ひ遊(あそ)ばして、328御(お)楽(たのし)みなされては如何(いかが)で厶(ござ)いませうか』
329太(たい)『そんなら能(よ)きに取計(とりはから)つてくれ。330どうにも斯(か)うにも、331余(よ)は堪(た)へ切(き)れなくなつて来(き)たのだ』
332アリ『キツと目的(もくてき)を達(たつ)して帰(かへ)ります。333どうか凱旋(がいせん)の時(とき)をお待(ま)ち下(くだ)さいませ』
334(大正一三・一二・四 新一二・二九 於祥雲閣 松村真澄録)
335(昭和一〇・六・二三 王仁校正)
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