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霊界物語
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
第67巻(午の巻)
序文
総説
第1篇 美山梅光
第1章 梅の花香
第2章 思想の波
第3章 美人の腕
第4章 笑の座
第5章 浪の皷
第2篇 春湖波紋
第6章 浮島の怪猫
第7章 武力鞘
第8章 糸の縺れ
第9章 ダリヤの香
第10章 スガの長者
第3篇 多羅煩獄
第11章 暗狐苦
第12章 太子微行
第13章 山中の火光
第14章 獣念気
第15章 貂心暴
第16章 酒艶の月
第17章 晨の驚愕
第4篇 山色連天
第18章 月下の露
第19章 絵姿
第20章 曲津の陋呵
第21章 針灸思想
第22章 憧憬の美
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第67巻(午の巻)
> 第3篇 多羅煩獄 > 第13章 山中の火光
<<< 太子微行
(B)
(N)
獣念気 >>>
第一三章
山中
(
さんちう
)
の
火光
(
くわくわう
)
〔一七一五〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第67巻 山河草木 午の巻
篇:
第3篇 多羅煩獄
よみ(新仮名遣い):
たらはんごく
章:
第13章 山中の火光
よみ(新仮名遣い):
さんちゅうのかこう
通し章番号:
1715
口述日:
1924(大正13)年12月28日(旧12月3日)
口述場所:
祥雲閣
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1926(大正15)年8月19日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
すばらしい光景を眺めつつ山に分け入ったが、日は暮れてつきが辺りを照らし出した。一行はトリデ山の山頂へとたどり着いた。
太子はすばらしい景色をたたえる歌を詠み、宮中へ帰りたくない意思を表す。
夜半にもかかわらず、太子はさらにあてどもなく歩を進め、アリナはそれを追っていく。やがて二人は疲れて寝てしまう。
次の日、目が覚めるともう午後であった。太子もようやく帰途を思うが、もはや道を見つけることができない。
太子はたとえこのまま山の中に迷おうとも、人間らしい生活をしたい、と言い出し、アリナと無銭旅行を願う。
アリナはあくまで帰城を促す。
結局、アリナが杖を倒し、倒れた方向へ進んでいくこととなる。
また日が暮れ始め、猛獣の声が響く。アリナはおびえるが、太子は平気である。
ところへ、太子は火の光がまたたいているのを見つける。人家があるものと、二人はそちらを指して進んでゆく。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm6713
愛善世界社版:
164頁
八幡書店版:
第12輯 90頁
修補版:
校定版:
166頁
普及版:
68頁
初版:
ページ備考:
001
太子
(
たいし
)
は
物
(
もの
)
珍
(
めづ
)
らしげに
四方
(
よも
)
の
広原
(
くわうげん
)
を
瞰下
(
みおろ
)
し
乍
(
なが
)
ら、
002
尾上
(
をのへ
)
の
風
(
かぜ
)
に
吹
(
ふ
)
かれつつ、
003
心
(
こころ
)
の
向
(
むか
)
ふ
儘
(
まま
)
ドンドンと
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
004
日
(
ひ
)
は
西山
(
せいざん
)
にズツポリと
沈
(
しづ
)
んで、
005
ソロソロ
暗
(
やみ
)
の
帳
(
とばり
)
が
下
(
お
)
りて
来
(
き
)
た。
006
百鳥
(
ももどり
)
は
老木
(
おいき
)
の
梢
(
こずゑ
)
に
宿
(
やど
)
を
求
(
もと
)
めてチユンチユンと
鈴
(
すず
)
のやうな
声
(
こゑ
)
で
囀
(
さへづ
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
007
折
(
をり
)
から
昇
(
のぼ
)
る
月光
(
げつくわう
)
は
殊更
(
ことさら
)
美
(
うるは
)
しく、
008
一点
(
いつてん
)
の
雲翳
(
うんえい
)
もなき
大空
(
たいくう
)
を、
009
隈
(
くま
)
なく
照
(
て
)
らして
居
(
ゐ
)
る。
010
此処
(
ここ
)
はタラハン
国
(
ごく
)
にて
有名
(
いうめい
)
なるトリデ
山
(
やま
)
と
云
(
い
)
ふ。
011
太子
(
たいし
)
はトリデ
山
(
やま
)
の
頂上
(
ちやうじやう
)
に
突立
(
つつた
)
つた
大岩石
(
だいがんせき
)
の
上
(
うへ
)
に
安坐
(
あんざ
)
しながら、
012
空
(
そら
)
の
景色
(
けしき
)
を
眺
(
なが
)
めて、
013
其
(
その
)
雄大
(
ゆうだい
)
なる
自然
(
しぜん
)
の
姿
(
すがた
)
に
憧憬
(
どうけい
)
して
居
(
ゐ
)
る。
014
太子
(
たいし
)
『
如意
(
によい
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
玉
(
たま
)
をかざして
大空
(
おほぞら
)
を
015
昇
(
のぼ
)
る
月
(
つき
)
こそ
憧
(
あこが
)
れの
国
(
くに
)
。
016
宝石
(
はうせき
)
を
撒
(
ま
)
きちらしたる
大空
(
おほぞら
)
は
017
神
(
かみ
)
の
力
(
ちから
)
の
現
(
あら
)
はれなるらむ。
018
尾上
(
をのへ
)
をば
渡
(
わた
)
る
松風
(
まつかぜ
)
音
(
ね
)
も
清
(
きよ
)
く
019
なにか
神秘
(
しんぴ
)
を
語
(
かた
)
るべらなり。
020
瞰下
(
みおろ
)
せば
四方
(
よも
)
の
原野
(
げんや
)
は
月光
(
つきかげ
)
の
021
露
(
つゆ
)
を
浴
(
あ
)
びつつ
妙
(
たへ
)
に
光
(
ひか
)
れる。
022
今
(
いま
)
吾
(
われ
)
はトリデの
山
(
やま
)
の
山
(
やま
)
の
上
(
へ
)
に
023
千代
(
ちよ
)
の
命
(
いのち
)
の
清水
(
しみづ
)
汲
(
く
)
むなり。
024
月
(
つき
)
の
露
(
つゆ
)
吾
(
わが
)
身魂
(
みたま
)
をば
霑
(
うるほ
)
して
025
甦
(
よみがへ
)
りたる
心地
(
ここち
)
せしかな』
026
アリナ『
若君
(
わかぎみ
)
の
御後
(
みあと
)
に
従
(
したが
)
ひ
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
027
トリデの
山
(
やま
)
は
殊
(
こと
)
に
麗
(
うるは
)
し。
028
若君
(
わかぎみ
)
のたたせたまへる
此
(
この
)
巌
(
いはほ
)
029
千代
(
ちよ
)
に
動
(
うご
)
かぬ
名
(
な
)
をば
残
(
のこ
)
さむ。
030
吾
(
わが
)
父
(
ちち
)
はさぞ
今
(
いま
)
頃
(
ごろ
)
は
若君
(
わかぎみ
)
の
031
所在
(
ありか
)
たづねて
騒
(
さわ
)
ぎをるらむ。
032
大君
(
おほぎみ
)
のいづの
御心
(
みこころ
)
思
(
おも
)
ひやり
033
父
(
ちち
)
を
思
(
おも
)
ひて
涙
(
なみだ
)
にしたる』
034
太子
(
たいし
)
『
天地
(
あめつち
)
の
生
(
いけ
)
る
姿
(
すがた
)
を
眺
(
なが
)
めては
035
死
(
し
)
せる
館
(
やかた
)
へ
帰
(
かへ
)
りたくなし。
036
吾
(
わが
)
宿
(
やど
)
に
立
(
た
)
ち
帰
(
かへ
)
りなば
父君
(
ちちぎみ
)
の
037
隔
(
へだ
)
ての
垣
(
かき
)
は
高
(
たか
)
くなるべし。
038
花
(
はな
)
香
(
にほ
)
ひ
木
(
こ
)
の
実
(
み
)
は
豊
(
ゆた
)
に
実
(
みの
)
るなる
039
此
(
この
)
神山
(
かみやま
)
に
住
(
す
)
みたくぞ
思
(
おも
)
ふ』
040
太子
(
たいし
)
は
夜半
(
やはん
)
にも
係
(
かか
)
はらず
又
(
また
)
もや
立
(
た
)
つて
月
(
つき
)
の
光
(
ひかり
)
を
頼
(
たよ
)
りに
谷
(
たに
)
に
下
(
くだ
)
り
041
或
(
あるひ
)
は
峰
(
みね
)
を
越
(
こ
)
え
042
何処
(
どこ
)
を
当
(
あて
)
ともなく
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
043
アリナは
是非
(
ぜひ
)
なく
小声
(
こごゑ
)
で
呟
(
つぶや
)
き
乍
(
なが
)
ら、
044
太子
(
たいし
)
の
姿
(
すがた
)
を
見失
(
みうしな
)
はじと
五六歩
(
ごろくぽ
)
の
間隔
(
かんかく
)
を
保
(
たも
)
つて
従
(
したが
)
ひ
行
(
ゆ
)
く。
045
十五夜
(
じふごや
)
の
月
(
つき
)
は
早
(
はや
)
くも
高山
(
たかやま
)
にかくれて
大
(
おほ
)
きな
山影
(
やまかげ
)
が
襲
(
おそ
)
うて
来
(
き
)
た。
046
二人
(
ふたり
)
は
数
(
すう
)
里
(
り
)
の
山野
(
さんや
)
をパンも
持
(
も
)
たずに
果物
(
くだもの
)
に
喉
(
のど
)
を
霑
(
うるほ
)
はしながら、
047
当所
(
あてど
)
もなくやつて
来
(
き
)
たので
身体
(
しんたい
)
縄
(
なは
)
の
如
(
ごと
)
く
疲
(
つか
)
れ、
048
密樹
(
みつじゆ
)
の
下
(
した
)
に
横
(
よこ
)
たはつたまま
熟睡
(
じゆくすゐ
)
して
仕舞
(
しま
)
つた。
049
二人
(
ふたり
)
の
自然
(
しぜん
)
に
目
(
め
)
の
醒
(
さ
)
めた
頃
(
ころ
)
は
翌日
(
よくじつ
)
の
午後
(
ごご
)
の
八
(
や
)
つ
時
(
どき
)
であつた。
050
太子
(
たいし
)
は
目
(
め
)
を
摩
(
こす
)
りながら、
051
太
(
たい
)
『オイ、
052
アリナ、
053
一体
(
いつたい
)
此処
(
ここ
)
は
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
所
(
ところ
)
だ。
054
余
(
あま
)
り
疲
(
つか
)
れたと
見
(
み
)
えて
前後
(
ぜんご
)
も
知
(
し
)
らず
寝忘
(
ねわす
)
れ、
055
最早
(
もはや
)
翌日
(
よくじつ
)
の
八
(
や
)
つ
時
(
どき
)
らしいぢやないか。
056
お
父上
(
ちちうへ
)
や
左守
(
さもり
)
、
057
右守
(
うもり
)
は
嘸
(
さぞ
)
余
(
よ
)
の
姿
(
すがた
)
の
見
(
み
)
えないのに
驚
(
おどろ
)
いて
騒
(
さわ
)
ぎ
立
(
た
)
てて
居
(
ゐ
)
ることだらう。
058
一先
(
ひとま
)
づ
帰
(
かへ
)
つてやらうぢやないか』
059
ア『ハイ、
060
畏
(
かしこ
)
まりました。
061
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
帰
(
かへ
)
らねばなりますまい。
062
さうして
殿中
(
でんちう
)
へ
帰
(
かへ
)
れば、
063
きつと
大君
(
おほぎみ
)
様
(
さま
)
や
吾
(
わが
)
父
(
ちち
)
なぞの
怒
(
いか
)
りに
触
(
ふ
)
れる
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
いませうが、
064
責任
(
せきにん
)
は
私
(
わたし
)
が
一切
(
いつさい
)
負
(
お
)
ひますから、
065
どうぞお
帰
(
かへ
)
り
下
(
くだ
)
さいませ』
066
太
(
たい
)
『
何
(
なに
)
、
067
責任
(
せきにん
)
をお
前
(
まへ
)
に
負
(
お
)
はしては
余
(
よ
)
が
済
(
す
)
まない。
068
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
余
(
よ
)
は
一国
(
いつこく
)
の
太子
(
たいし
)
だ。
069
父上
(
ちちうへ
)
には
余
(
よ
)
から
好
(
よ
)
きやうにお
詫
(
わび
)
をして
置
(
お
)
く。
070
そしてお
前
(
まへ
)
の
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
にお
咎
(
とが
)
めの
来
(
こ
)
ないやう
命
(
いのち
)
にかけても
弁解
(
べんかい
)
してやるから
安心
(
あんしん
)
せよ』
071
ア『
殿下
(
でんか
)
に
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
をかけては
済
(
す
)
みませぬ。
072
皆
(
みな
)
私
(
わたし
)
が
悪
(
わる
)
いので
厶
(
ござ
)
いますから、
073
サア
参
(
まゐ
)
りませう』
074
と
今度
(
こんど
)
はアリナが
案内役
(
あんないやく
)
となつて
帰路
(
きろ
)
についた。
075
何
(
ど
)
う
道
(
みち
)
を
踏
(
ふ
)
み
迷
(
まよ
)
ふたものか、
076
往
(
ゆ
)
けども
往
(
ゆ
)
けども
帰
(
かへ
)
り
道
(
みち
)
が
分
(
わか
)
らない。
077
山
(
やま
)
は
幾千百
(
いくせんひやく
)
ともなく
彼方
(
あなた
)
此方
(
こなた
)
に
聳
(
そび
)
へ
078
谷底
(
たにぞこ
)
を
見
(
み
)
れば
蒼味
(
あをみ
)
だつた
水
(
みづ
)
が
緩
(
ゆる
)
やかに
流
(
なが
)
れて
居
(
ゐ
)
る。
079
ア『
殿下
(
でんか
)
080
大変
(
たいへん
)
な
所
(
ところ
)
へ
参
(
まゐ
)
りました。
081
私
(
わたし
)
も
此
(
この
)
辺
(
へん
)
の
山路
(
やまみち
)
は
初
(
はじ
)
めてで
厶
(
ござ
)
いますので、
082
何方
(
どちら
)
へ
歩
(
あゆ
)
んだら
帰
(
かへ
)
れるやら、
083
見当
(
けんたう
)
が
取
(
と
)
れませぬ。
084
誠
(
まこと
)
に
済
(
す
)
まない
事
(
こと
)
を
致
(
いた
)
しました』
085
太
(
たい
)
『
何
(
なに
)
、
086
心配
(
しんぱい
)
するな。
087
道
(
みち
)
が
分
(
わか
)
らねば
山
(
やま
)
住居
(
ずまゐ
)
をすりやそれで
好
(
よ
)
いぢやないか。
088
余程
(
よほど
)
空腹
(
くうふく
)
にはなつたが、
089
余
(
よ
)
とお
前
(
まへ
)
と
二人
(
ふたり
)
の
食料
(
しよくれう
)
位
(
ぐらゐ
)
は
木
(
こ
)
の
実
(
み
)
を
取
(
と
)
つて
食
(
く
)
つて
居
(
ゐ
)
ても
続
(
つづ
)
くだらう、
090
何事
(
なにごと
)
も
惟神
(
かむながら
)
に
任
(
まか
)
すがよからうぞ』
091
ア『ハイ、
092
併
(
しか
)
し
斯様
(
かやう
)
な
山奥
(
やまおく
)
のしかも
深
(
ふか
)
い
谷間
(
たにあひ
)
に
迷
(
まよ
)
ひ
込
(
こ
)
みましては
方角
(
はうがく
)
も
碌
(
ろく
)
に
分
(
わか
)
りませぬ。
093
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
094
この
杖
(
つゑ
)
を
立
(
た
)
てて
見
(
み
)
て
095
杖
(
つゑ
)
のこけた
方
(
はう
)
に
進
(
すす
)
む
事
(
こと
)
に
致
(
いた
)
しませうか』
096
太
(
たい
)
『ウン、
097
それも
一策
(
いつさく
)
だらう。
098
何
(
なに
)
心配
(
しんぱい
)
することが
要
(
い
)
るものか。
099
山
(
やま
)
は
青
(
あを
)
く
谷水
(
たにみづ
)
は
清
(
きよ
)
く
100
鳥
(
とり
)
は
歌
(
うた
)
ひ、
1001
新緑
(
しんりよく
)
は
茂
(
しげ
)
り、
101
珍
(
めづ
)
らしき
花
(
はな
)
は
彼方
(
あなた
)
此方
(
こなた
)
に
艶
(
えん
)
を
競
(
きそ
)
い
芳香
(
はうかう
)
を
薫
(
くん
)
じ、
102
陽気
(
やうき
)
は
温
(
あたた
)
かく、
103
こんな
愉快
(
ゆくわい
)
の
事
(
こと
)
はないぢやないか。
104
余
(
よ
)
は
一層
(
いつそう
)
105
十日
(
とをか
)
も
二十日
(
はつか
)
も
山
(
やま
)
の
中
(
なか
)
に
迷
(
まよ
)
ふて
見
(
み
)
たいわ、
106
アハヽヽヽ』
107
ア『
何
(
なん
)
と
殿下
(
でんか
)
はお
気楽
(
きらく
)
で
厶
(
ござ
)
いますな。
108
私
(
わたし
)
のやうな
小心者
(
せうしんもの
)
はもはや
耐
(
た
)
へ
切
(
き
)
れなくなつて
参
(
まゐ
)
りました』
109
太
(
たい
)
『ハヽヽヽヽ。
110
随分
(
ずいぶん
)
弱音
(
よわね
)
を
吹
(
ふ
)
く
男
(
をとこ
)
だな。
111
彼
(
あ
)
の
草木
(
さうもく
)
を
見
(
み
)
よ。
112
こんな
嶮
(
けは
)
しい
山
(
やま
)
に
荒
(
あら
)
い
風
(
かぜ
)
に
揉
(
も
)
まれ
乍
(
なが
)
ら、
113
泰然
(
たいぜん
)
自若
(
じじやく
)
として
非時
(
ときじく
)
花
(
はな
)
を
開
(
ひら
)
き
実
(
み
)
を
結
(
むす
)
び、
114
天然
(
てんねん
)
を
楽
(
たの
)
しんで
居
(
ゐ
)
るぢやないか。
115
鳥
(
とり
)
は
気楽
(
きらく
)
に
春
(
はる
)
を
歌
(
うた
)
ひ
116
山猿
(
やまざる
)
はあのとほり
梢
(
こずゑ
)
に
集
(
あつ
)
まつて
嬉
(
うれ
)
し
気
(
げ
)
に
遊
(
あそ
)
び
戯
(
たはむ
)
れて
居
(
ゐ
)
る。
117
仮令
(
たとへ
)
小
(
せう
)
なりと
雖
(
いへど
)
も
吾々
(
われわれ
)
は
人間
(
にんげん
)
ぢやないか。
118
どこに
居
(
を
)
つても
生活
(
せいくわつ
)
の
出来
(
でき
)
ない
道理
(
だうり
)
はない。
119
神
(
かみ
)
の
恩恵
(
おんけい
)
の
懐中
(
ふところ
)
に
抱
(
いだ
)
かれ、
120
自然
(
しぜん
)
と
親
(
した
)
しく
交
(
まじ
)
はり、
121
天地
(
てんち
)
を
父母
(
ふぼ
)
として、
122
誰人
(
たれ
)
に
遠慮
(
ゑんりよ
)
もなく
気兼
(
きがね
)
もなく、
123
かうして
居
(
ゐ
)
る
吾々
(
われわれ
)
は
実
(
じつ
)
に
幸福
(
かうふく
)
な
境遇
(
きやうぐう
)
に
置
(
お
)
かれて
居
(
ゐ
)
るぢやないか。
124
何
(
なに
)
を
悔
(
くや
)
むのだ。
125
その
心配
(
しんぱい
)
さうな
顔
(
かほ
)
は
何事
(
なにごと
)
ぞ。
126
ちつと
気
(
き
)
を
取
(
と
)
り
直
(
なほ
)
し
元気
(
げんき
)
をつけて
勇
(
いさ
)
んだらどうだ。
127
万物
(
ばんぶつ
)
の
霊長
(
れいちやう
)
天地
(
てんち
)
の
花
(
はな
)
と
誇
(
ほこ
)
つて
居
(
ゐ
)
る
人間
(
にんげん
)
の
身
(
み
)
として
128
山河
(
さんか
)
草木
(
さうもく
)
禽獣
(
きんじう
)
に
対
(
たい
)
し
恥
(
はづ
)
かしくは
思
(
おも
)
はないか』
129
ア『
殿下
(
でんか
)
の
大胆
(
だいたん
)
不敵
(
ふてき
)
なるお
言葉
(
ことば
)
には
130
小心者
(
せうしんもの
)
のアリナも
驚倒
(
きやうたう
)
するより
外
(
ほか
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬ。
131
何
(
なん
)
とした
殿下
(
でんか
)
は
大
(
だい
)
人格者
(
じんかくしや
)
で
厶
(
ござ
)
いませう。
132
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
殿中
(
でんちう
)
雲
(
くも
)
深
(
ふか
)
き
所
(
ところ
)
にお
育
(
そだ
)
ち
遊
(
あそ
)
ばし
133
隙間
(
すきま
)
の
風
(
かぜ
)
にも
当
(
あ
)
てられぬ
高貴
(
かうき
)
の
御
(
ご
)
生活
(
せいくわつ
)
、
134
蒲柳
(
ほりう
)
の
御
(
ご
)
体質
(
たいしつ
)
、
135
荒風
(
あらかぜ
)
に
一度
(
いちど
)
お
当
(
あた
)
り
遊
(
あそ
)
ばしても
忽
(
たちま
)
ち
病気
(
びやうき
)
にお
悩
(
なや
)
み
遊
(
あそ
)
ばすかと、
136
内々
(
ないない
)
心配
(
しんぱい
)
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
りましたに、
137
只今
(
ただいま
)
の
殿下
(
でんか
)
のお
元気
(
げんき
)
138
勇壮
(
ゆうさう
)
活溌
(
くわつぱつ
)
なる
御
(
ご
)
精神
(
せいしん
)
には、
139
アリナも
舌
(
した
)
を
巻
(
ま
)
きました。
140
「
王侯
(
わうこう
)
に
種
(
たね
)
なし」と
云
(
い
)
ふ
諺
(
ことわざ
)
は
殿下
(
でんか
)
によつて
全然
(
ぜんぜん
)
裏切
(
うらぎ
)
られて
了
(
しま
)
ひました。
141
三五教
(
あななひけう
)
の
御教
(
みをしへ
)
にも「
誠
(
まこと
)
の
種
(
たね
)
を
吟味
(
ぎんみ
)
致
(
いた
)
すは
今度
(
こんど
)
の
事
(
こと
)
ぞよ。
142
種
(
たね
)
さへよければ、
143
どんな
立派
(
りつぱ
)
な
御用
(
ごよう
)
でも
出来
(
でき
)
るぞよ。
144
今度
(
こんど
)
は
元
(
もと
)
の
種
(
たね
)
を
世
(
よ
)
に
現
(
あら
)
はして
神政
(
しんせい
)
成就
(
じやうじゆ
)
の
御用
(
ごよう
)
に
使
(
つか
)
ふぞよ」と
出
(
で
)
て
居
(
ゐ
)
ますが、
145
如何
(
いか
)
にも
其
(
その
)
通
(
とほ
)
りだと
思
(
おも
)
ひます。
146
殿下
(
でんか
)
は
決
(
けつ
)
してただ
人
(
びと
)
ではありませぬ。
147
末
(
すゑ
)
には
屹度
(
きつと
)
印度
(
いんど
)
七千
(
しちせん
)
余国
(
よこく
)
の
王者
(
わうじや
)
となられるでせう。
148
嗚呼
(
ああ
)
私
(
わたし
)
は
何
(
なん
)
の
幸福
(
かうふく
)
で
斯様
(
かやう
)
な
立派
(
りつぱ
)
な
殿下
(
でんか
)
のお
側付
(
そばづき
)
に
選
(
えら
)
ばれたのでせうか』
149
太
(
たい
)
『アハヽヽヽヽ、
150
オイ、
151
アリナ、
152
仕様
(
しやう
)
もない
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふて
呉
(
く
)
れるな。
153
余
(
よ
)
は
印度
(
いんど
)
の
王者
(
わうじや
)
などは
眼中
(
がんちう
)
にないのだ。
154
それよりも
宇宙
(
うちう
)
の
断片
(
だんぺん
)
一介
(
いつかい
)
の
人間
(
にんげん
)
となつて
普
(
あまね
)
く
天下
(
てんか
)
を
遍歴
(
へんれき
)
し、
155
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
に
天地
(
てんち
)
の
恩恵
(
おんけい
)
に
親
(
した
)
しみ、
156
人間
(
にんげん
)
らしい
生活
(
せいくわつ
)
が
送
(
おく
)
つて
見度
(
みた
)
いのだ。
157
天
(
てん
)
から
生
(
いき
)
た
精霊
(
せいれい
)
を
与
(
あた
)
へられたる
人間
(
にんげん
)
として
158
人形
(
にんぎやう
)
のやうに
簾
(
みす
)
を
垂
(
た
)
れ
有象
(
うざう
)
無象
(
むざう
)
に
祭
(
まつ
)
り
込
(
こ
)
まれ、
159
尊敬
(
そんけい
)
され、
160
礼拝
(
らいはい
)
されて、
161
それが
何
(
なに
)
嬉
(
うれ
)
しい。
162
何
(
なん
)
の
名誉
(
めいよ
)
になるか。
163
虚偽
(
きよぎ
)
虚飾
(
きよしよく
)
をもつて
充
(
みた
)
されたる
現代
(
げんだい
)
の
人間
(
にんげん
)
のやり
方
(
かた
)
には
余
(
よ
)
は
飽
(
あ
)
き
果
(
は
)
てて
居
(
ゐ
)
る。
164
決
(
けつ
)
して
再
(
ふたた
)
び
殿中
(
でんちう
)
に
帰
(
かへ
)
るやうな
馬鹿
(
ばか
)
な
真似
(
まね
)
はすまい。
165
草
(
くさ
)
を
組
(
く
)
んで
蓑
(
みの
)
となし、
166
木
(
こ
)
の
葉
(
は
)
を
編
(
あ
)
んで
笠
(
かさ
)
となし、
167
是
(
これ
)
からお
前
(
まへ
)
と
無銭
(
むせん
)
旅行
(
りよかう
)
と
出
(
で
)
かけたらどうだ。
168
そこ
迄
(
まで
)
お
前
(
まへ
)
の
誠意
(
せいい
)
があるか、
169
それを
聞
(
き
)
かして
貰
(
もら
)
いたいものだ。
170
お
前
(
まへ
)
もそれだけの
苦労
(
くらう
)
は
能
(
よ
)
うせないと
云
(
い
)
ふであらう』
171
ア『どんな
苦労
(
くらう
)
でも
殿下
(
でんか
)
とならば
致
(
いた
)
しますが、
172
雲上
(
うんじやう
)
の
御
(
おん
)
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
をもつて、
173
物好
(
ものずき
)
にも
乞食
(
こじき
)
の
真似
(
まね
)
をして
無銭
(
むせん
)
旅行
(
りよかう
)
などとは
御
(
ご
)
酔興
(
すゐきよう
)
にも
程
(
ほど
)
があります。
174
決
(
けつ
)
して
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
は
申
(
まをし
)
上
(
あげ
)
ませぬ。
175
どうか
冷静
(
れいせい
)
にお
考
(
かんが
)
へ
下
(
くだ
)
さいませ。
176
タラハン
国
(
ごく
)
の
人情
(
にんじやう
)
や
177
大王
(
だいわう
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
心中
(
しんちう
)
や
臣下
(
しんか
)
の
胸中
(
きようちう
)
も
些
(
すこ
)
しは
顧慮
(
こりよ
)
下
(
くだ
)
さいまして、
178
一
(
ひと
)
先
(
ま
)
づ
御
(
ご
)
帰城
(
きじやう
)
を
願
(
ねが
)
ひます』
179
太
(
たい
)
『
余
(
よ
)
は
決
(
けつ
)
して
帰城
(
きじやう
)
しないとは
云
(
い
)
はないよ。
180
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
帰
(
かへ
)
らうと
思
(
おも
)
へば
思
(
おも
)
ふ
程
(
ほど
)
、
181
山
(
やま
)
深
(
ふか
)
く
迷
(
まよ
)
ひ
込
(
こ
)
み
帰
(
かへ
)
り
途
(
みち
)
が
分
(
わか
)
らぬぢやないか。
182
それだから
余
(
よ
)
は、
183
これも
全
(
まつた
)
く
天
(
てん
)
の
命
(
めい
)
と
信
(
しん
)
じ
184
無銭
(
むせん
)
旅行
(
りよかう
)
の
覚悟
(
かくご
)
を
定
(
き
)
めたのだ。
185
アハヽヽヽヽヽ、
186
どこ
迄
(
まで
)
も
気
(
き
)
の
弱
(
よわ
)
い
男
(
をとこ
)
だなア』
187
ア『いや
私
(
わたし
)
も
殿下
(
でんか
)
の
雄々
(
をを
)
しき
御
(
お
)
志
(
こころざし
)
に
励
(
はげ
)
まされ
188
一切
(
いつさい
)
万事
(
ばんじ
)
を
天地
(
てんち
)
神明
(
しんめい
)
に
任
(
まか
)
せました。
189
無事
(
ぶじ
)
に
殿中
(
でんちう
)
に
帰
(
かへ
)
り
得
(
う
)
るのも、
190
又
(
また
)
山
(
やま
)
深
(
ふか
)
く
迷
(
まよ
)
ひ
込
(
こ
)
み、
191
虎
(
とら
)
狼
(
おほかみ
)
の
餌食
(
ゑじき
)
となるのも
天命
(
てんめい
)
と
心得
(
こころえ
)
ます。
192
サア
杖
(
つゑ
)
のこけた
方
(
はう
)
に
進
(
すす
)
んで
見
(
み
)
ませう』
193
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
194
携
(
たづさ
)
へ
来
(
きた
)
りし
杖
(
つゑ
)
を
真直
(
まつすぐ
)
に
立
(
た
)
てパツと
手
(
て
)
を
放
(
はな
)
した。
195
杖
(
つゑ
)
はアリナが
立
(
た
)
つて
居
(
ゐ
)
る
左
(
ひだり
)
の
方
(
はう
)
へパタリとこけた。
196
ア『
殿下
(
でんか
)
197
此
(
こ
)
の
通
(
とほ
)
りで
厶
(
ござ
)
います。
198
左
(
ひだり
)
の
方
(
はう
)
へ
参
(
まゐ
)
りませう。
199
これも
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
知
(
し
)
らせで
厶
(
ござ
)
いませうから』
200
太
(
たい
)
『よし、
201
杖
(
つゑ
)
の
倒
(
こ
)
けた
方
(
はう
)
を
杖
(
つゑ
)
とも
力
(
ちから
)
とも
頼
(
たの
)
んでモウ
一息
(
ひといき
)
跋渉
(
ばつせう
)
して
見
(
み
)
よう。
202
ヤア
面白
(
おもしろ
)
い
面白
(
おもしろ
)
い』
203
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
204
太子
(
たいし
)
は
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
つて
山
(
やま
)
の
中腹
(
ちうふく
)
を
左
(
ひだり
)
へ
左
(
ひだり
)
へと
忙
(
いそが
)
はしげに
走
(
はし
)
り
往
(
ゆ
)
く。
205
往
(
ゆ
)
けども
往
(
ゆ
)
けども
山
(
やま
)
又
(
また
)
山
(
やま
)
の
方角
(
はうがく
)
も
分
(
わか
)
らばこそ、
206
其
(
その
)
日
(
ひ
)
もズツポリと
暮
(
く
)
れて
仕舞
(
しま
)
つた。
207
主従
(
しゆじゆう
)
二人
(
ふたり
)
は
木
(
こ
)
の
葉
(
は
)
を
折
(
を
)
つて
敷物
(
しきもの
)
となし、
208
空腹
(
くうふく
)
をかかへ
乍
(
なが
)
ら
夜
(
よ
)
の
明
(
あ
)
けるを
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
た。
209
前方
(
ぜんぱう
)
の
谷間
(
たにま
)
よりライオンの
声
(
こゑ
)
210
峰
(
みね
)
の
木霊
(
こだま
)
を
響
(
ひび
)
かして
物凄
(
ものすご
)
く
聞
(
きこ
)
えて
来
(
く
)
る。
211
アリナはこの
物凄
(
ものすご
)
き
獅子
(
しし
)
の
声
(
こゑ
)
に
戦慄
(
せんりつ
)
し
212
唇
(
くちびる
)
を
紫色
(
むらさきいろ
)
に
染
(
そ
)
め、
213
蒼白色
(
さうはくしよく
)
の
顔
(
かほ
)
を
月光
(
げつくわう
)
に
曝
(
さら
)
し
慄
(
ふる
)
ひ
戦
(
をのの
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
214
ア『モヽ
若
(
も
)
し、
215
デヽ
殿下
(
でんか
)
、
216
タヽ
大変
(
たいへん
)
な
事
(
こと
)
になつて
参
(
まゐ
)
りました。
217
コヽ
今夜
(
こんや
)
ドヽどうやら
喰
(
く
)
はれて
了
(
しま
)
ふかもシヽ
知
(
し
)
れませぬ。
218
是
(
これ
)
と
云
(
い
)
ふのも
全
(
まつた
)
く
私
(
わたし
)
が
悪
(
わる
)
いので
厶
(
ござ
)
います。
219
デヽ
殿下
(
でんか
)
の
御
(
おん
)
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
に
難儀
(
なんぎ
)
のかかるやうな
事
(
こと
)
があつては
220
大王
(
だいわう
)
様
(
さま
)
や、
221
数多
(
あまた
)
の
御
(
ご
)
家来衆
(
けらいしう
)
や、
222
又
(
また
)
国民
(
こくみん
)
に
対
(
たい
)
してもモヽ
申
(
まをし
)
訳
(
わけ
)
が
厶
(
ござ
)
いませぬ。
223
ドヽどうか
私
(
わたし
)
の
大罪
(
だいざい
)
をお
許
(
ゆる
)
し
下
(
くだ
)
さいませ』
224
と
早
(
はや
)
くも
泣
(
な
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
225
スダルマン
太子
(
たいし
)
は
平然
(
へいぜん
)
として
些
(
すこ
)
しも
騒
(
さわ
)
がず、
226
太
(
たい
)
『アハヽヽヽ、
227
オイ、
228
アリナ、
229
其
(
その
)
態
(
ざま
)
はなんだ。
230
獅子
(
しし
)
がそれ
程
(
ほど
)
怖
(
こは
)
いのか。
231
あいつは
獣類
(
けだもの
)
ぢやないか。
232
神
(
かみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
とも
云
(
い
)
ふべき
人間
(
にんげん
)
が、
233
獅子
(
しし
)
や
虎
(
とら
)
や
狼
(
おほかみ
)
位
(
ぐらい
)
に
怖
(
おそ
)
れ
戦
(
をのの
)
くとは
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
だ。
234
獅子
(
しし
)
の
奴
(
やつ
)
、
235
余
(
よ
)
の
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
て
反対
(
はんたい
)
に
戦
(
をのの
)
き
怖
(
おそ
)
れ
悲鳴
(
ひめい
)
を
挙
(
あ
)
げて
居
(
ゐ
)
るのだよ。
236
天地
(
あめつち
)
の
神
(
かみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
出
(
い
)
でましを
237
眺
(
なが
)
めて
獅子
(
しし
)
の
吼
(
ほ
)
ゆるなるらむ。
238
獅子
(
しし
)
熊
(
くま
)
も
虎
(
とら
)
狼
(
おほかみ
)
もなにかあらむ
239
神
(
かみ
)
の
御子
(
みこ
)
たる
人
(
ひと
)
の
身
(
み
)
なれば。
240
天地
(
あめつち
)
の
深
(
ふか
)
き
恵
(
めぐみ
)
を
稟
(
う
)
けながら
241
何
(
なに
)
を
恐
(
おそ
)
るか
獣
(
けもの
)
の
声
(
こゑ
)
に』
242
アリナ『
若君
(
わかぎみ
)
と
共
(
とも
)
にありなば
獅子
(
しし
)
熊
(
くま
)
の
243
健
(
たけ
)
びも
怖
(
こは
)
しと
思
(
おも
)
はざりけり。
244
さりながら
獅子
(
しし
)
の
咆哮
(
はうかう
)
聞
(
き
)
く
毎
(
ごと
)
に
245
身
(
み
)
は
自
(
おのづか
)
ら
打
(
う
)
ち
慄
(
ふる
)
ふなり』
246
猛獣
(
まうじう
)
の
声
(
こゑ
)
は
四方
(
しはう
)
八方
(
はつぱう
)
より
百雷
(
ひやくらい
)
の
如
(
ごと
)
く
聞
(
きこ
)
え
来
(
きた
)
る。
247
左手
(
ゆんで
)
の
谷底
(
たにぞこ
)
を
見
(
み
)
れば
珍
(
めづ
)
らしや、
248
一炷
(
いつしゆ
)
の
火光
(
くわくわう
)
が
木
(
こ
)
の
間
(
ま
)
を
透
(
す
)
かして
瞬
(
またた
)
いて
居
(
ゐ
)
た。
249
太子
(
たいし
)
は
目敏
(
めざと
)
くもこれを
見
(
み
)
て、
250
アリナの
背
(
せな
)
を
二
(
ふた
)
つ
三
(
み
)
つ
平手
(
ひらて
)
で
叩
(
たた
)
き
乍
(
なが
)
ら、
251
太
(
たい
)
『オイ、
252
弱虫
(
よわむし
)
の
隊長
(
たいちやう
)
、
253
アリナの
先生
(
せんせい
)
、
254
安心
(
あんしん
)
せよ。
255
あの
火光
(
くわくわう
)
を
見
(
み
)
よ。
256
決
(
けつ
)
して
妖怪
(
えうくわい
)
の
火
(
ひ
)
でもあるまい。
257
あれは
確
(
たしか
)
に
陽光
(
やうくわう
)
だ。
258
どうやら
人間
(
にんげん
)
が
住
(
すま
)
ひをして
居
(
ゐ
)
るらしい。
259
あの
火光
(
くわくわう
)
を
目当
(
めあて
)
に
人家
(
じんか
)
を
尋
(
たづ
)
ね
飲食
(
おんじき
)
にありつかうぢやないか』
260
アリナは
太子
(
たいし
)
の
言葉
(
ことば
)
に
頭
(
かしら
)
を
上
(
あ
)
げ
指
(
ゆび
)
さす
方
(
はう
)
を
瞰下
(
みおろ
)
せば
261
如何
(
いか
)
にも
力強
(
ちからづよ
)
い
火
(
ひ
)
の
光
(
ひかり
)
が
瞬
(
またた
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
262
俄
(
にはか
)
に
元気
(
げんき
)
恢復
(
くわいふく
)
し、
263
声
(
こゑ
)
も
勇
(
いさ
)
ましく、
264
ア『ヤ、
265
如何
(
いか
)
にも
殿下
(
でんか
)
の
仰
(
おほせ
)
の
通
(
とほ
)
り
火光
(
くわくわう
)
が
見
(
み
)
えます。
266
全
(
まつた
)
く
天
(
てん
)
の
御恵
(
みめぐみ
)
で
厶
(
ござ
)
いませう。
267
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
くあの
火
(
ひ
)
を
目当
(
めあて
)
に
下
(
くだ
)
りませう。
268
サア
私
(
わたし
)
が
蜘蛛
(
くも
)
の
巣
(
す
)
開
(
びら
)
きを
致
(
いた
)
しますから、
269
どうか
後
(
あと
)
について
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいませ』
270
太
(
たい
)
『ウンよし、
271
お
前
(
まへ
)
も
俄
(
にはか
)
に
強
(
つよ
)
くなつたやうだ。
272
俺
(
おれ
)
もそれで
心強
(
こころづよ
)
くなつた』
273
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
274
灌木
(
くわんぼく
)
茂
(
しげ
)
る
木
(
こ
)
の
間
(
ま
)
を
分
(
わ
)
けて
下
(
くだ
)
り
往
(
ゆ
)
く。
275
(
大正一三・一二・三
新一二・二八
於祥雲閣
加藤明子
録)
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【第13章 山中の火光|第67巻|山河草木|霊界物語|/rm6713】
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