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霊界物語
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
第67巻(午の巻)
序文
総説
第1篇 美山梅光
第1章 梅の花香
第2章 思想の波
第3章 美人の腕
第4章 笑の座
第5章 浪の皷
第2篇 春湖波紋
第6章 浮島の怪猫
第7章 武力鞘
第8章 糸の縺れ
第9章 ダリヤの香
第10章 スガの長者
第3篇 多羅煩獄
第11章 暗狐苦
第12章 太子微行
第13章 山中の火光
第14章 獣念気
第15章 貂心暴
第16章 酒艶の月
第17章 晨の驚愕
第4篇 山色連天
第18章 月下の露
第19章 絵姿
第20章 曲津の陋呵
第21章 針灸思想
第22章 憧憬の美
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霊界物語
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山河草木(第61~72巻、入蒙記)
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第67巻(午の巻)
> 第4篇 山色連天 > 第20章 曲津の陋呵
<<< 絵姿
(B)
(N)
針灸思想 >>>
第二〇章
曲津
(
まつ
)
の
陋呵
(
ろうか
)
〔一七二二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第67巻 山河草木 午の巻
篇:
第4篇 山色連天
よみ(新仮名遣い):
さんしょくれんてん
章:
第20章 曲津の陋呵
よみ(新仮名遣い):
まつのろうか
通し章番号:
1722
口述日:
1924(大正13)年12月29日(旧12月4日)
口述場所:
祥雲閣
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1926(大正15)年8月19日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
一方、タラハン城内では、王、左守、右守をはじめとする重臣たちが、太子とアリナの行方不明について評定をしていた。
左守ガンヂーは息子アリナの不徳を詫びるが、王も、太子が日ごろ城内の生活に不満を抱いている様を嘆き、かつての自分と王妃の失政を悔いる。
右守は、今回の事件は左守の倅アリナに責任があり、その親たるガンヂーともども処分を受けなければならないと主張する。
左守は責任を感じて自殺しようとするが、王女バンナに止められる。
右守は、実は左守を追い落として自分が左守の地位につき、太子を廃して王女に自分の弟エールを娶わせ、政権を握ろうとの魂胆であった。
右守は自分の野望を遂げんと、太子が日ごろ王制を嫌っていることを挙げ、王制を廃して共和制を敷こうと提案する。
しかしながらこの発言は王を始め重臣たちを怒らせてしまい、左守は怒りのあまり右守に切りつける。
左守は重臣のハルチンに止められ、その間に右守は逃げ去ってしまう。右守は城から逃げ出すときに、ちょうど帰ってきたアリナとぶつかって階段を転げ落ち、足を折りながら家へ逃げ去った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2018-05-24 00:09:06
OBC :
rm6720
愛善世界社版:
264頁
八幡書店版:
第12輯 128頁
修補版:
校定版:
267頁
普及版:
68頁
初版:
ページ備考:
001
タラハン
城内
(
じやうない
)
カラピン
王
(
わう
)
の
御前
(
みまへ
)
に
左守
(
さもり
)
002
右守
(
うもり
)
を
初
(
はじ
)
めとし、
003
数多
(
あまた
)
の
重臣
(
ぢうしん
)
が
薬鑵頭
(
やくわんあたま
)
に
湯気
(
ゆげ
)
を
立
(
た
)
て
太子
(
たいし
)
が
知
(
し
)
らぬ
間
(
ま
)
に
殿内
(
でんない
)
より
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
し、
004
踪跡
(
そうせき
)
をくらました
大椿事
(
だいちんじ
)
につき、
005
いろいろと
干
(
ひ
)
からびた
頭
(
あたま
)
から
下
(
くだ
)
らぬ
智慧
(
ちゑ
)
を
絞
(
しぼ
)
り
出
(
だ
)
して
006
小田原
(
をだはら
)
評定
(
ひやうぢやう
)
が
初
(
はじ
)
まつて
居
(
ゐ
)
る。
007
カラピン
王
(
わう
)
『
時
(
とき
)
に
左守
(
さもり
)
殿
(
どの
)
、
008
日頃
(
ひごろ
)
憂鬱
(
いううつ
)
に
沈
(
しづ
)
んだ
吾
(
わが
)
太子
(
たいし
)
は
今日
(
けふ
)
で
三日
(
みつか
)
になつても、
009
まだ
帰
(
かへ
)
つて
来
(
こ
)
ないのは、
010
どうしたものだらう。
011
何
(
なに
)
か、
012
いい
考
(
かんが
)
へはつかないかのう』
013
左守
(
さもり
)
(ガンヂー)
『ハイ、
014
誠
(
まこと
)
に
恐
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
つた
次第
(
しだい
)
で
厶
(
ござ
)
ります。
015
殿中
(
でんちう
)
監督
(
かんとく
)
の
任
(
にん
)
にあり
乍
(
なが
)
ら、
016
此
(
この
)
老臣
(
らうしん
)
、
017
大王
(
だいわう
)
に
対
(
たい
)
し
奉
(
たてまつ
)
り、
018
死
(
し
)
を
以
(
もつ
)
て
謝
(
しや
)
するより
外
(
ほか
)
に
道
(
みち
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬ』
019
王
(
わう
)
『
其方
(
そち
)
の
悴
(
せがれ
)
も、
020
まだ
帰
(
かへ
)
つて
来
(
こ
)
ぬか。
021
余
(
よ
)
は
思
(
おも
)
ふに、
022
日頃
(
ひごろ
)
太子
(
たいし
)
の
気
(
き
)
に
入
(
い
)
り、
023
其方
(
そち
)
が
悴
(
せがれ
)
とどつかの
山奥
(
やまおく
)
へ
踏
(
ふ
)
み
迷
(
まよ
)
ふてゐるのではあるまいかのう』
024
左
(
さ
)
『
不束
(
ふつつか
)
な
悴
(
せがれ
)
奴
(
め
)
、
025
太子
(
たいし
)
様
(
さま
)
のお
言葉
(
ことば
)
に
甘
(
あま
)
へ、
026
いつも
恐
(
おそ
)
れ
多
(
おほ
)
くも
友人
(
いうじん
)
気取
(
きど
)
りになつて
振
(
ふ
)
れ
舞
(
ま
)
ひます。
027
その
不遜
(
ふそん
)
な
行為
(
かうゐ
)
を、
028
臣
(
しん
)
は
常
(
つね
)
に
憂
(
うれ
)
ひ、
029
いろいろと
折檻
(
せつかん
)
も
致
(
いた
)
し
警告
(
けいこく
)
も
与
(
あた
)
へて
居
(
を
)
りますが、
030
二
(
ふた
)
つ
目
(
め
)
には
薬鑵頭
(
やくわんあたま
)
だの、
031
骨董品
(
こつとうひん
)
だの、
032
床
(
とこ
)
の
置物
(
おきもの
)
だのと、
033
罵詈
(
ばり
)
嘲笑
(
てうせう
)
を
逞
(
たくま
)
しふし、
034
太子
(
たいし
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
寵愛
(
ちようあい
)
を
傘
(
かさ
)
に
着
(
き
)
て
親
(
おや
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
きませぬ。
035
誠
(
まこと
)
に
困
(
こま
)
つた
不忠
(
ふちう
)
不義
(
ふぎ
)
の
痴者
(
しれもの
)
で
厶
(
ござ
)
います。
036
もし
今度
(
こんど
)
幸
(
さいは
)
ひに
悴
(
せがれ
)
が
帰
(
かへ
)
りますれば
密室
(
みつしつ
)
に
監禁
(
かんきん
)
し、
037
よく
物
(
もの
)
の
道理
(
だうり
)
を
説
(
と
)
き
聞
(
き
)
かせ、
038
それでも
聞
(
き
)
き
入
(
い
)
れねば
039
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
の
悴
(
せがれ
)
なれども
王家
(
わうけ
)
のため、
0391
国家
(
こくか
)
のため、
040
臣
(
しん
)
が
手
(
て
)
にかけて、
0401
悴
(
せがれ
)
が
命
(
いのち
)
を
絶
(
た
)
ち、
041
国
(
くに
)
の
災
(
わざはひ
)
を
除
(
のぞ
)
く
覚悟
(
かくご
)
で
厶
(
ござ
)
います。
042
どうか
暫
(
しばら
)
く
御
(
ご
)
猶予
(
いうよ
)
を
願
(
ねが
)
ひます。
043
何
(
いづ
)
れ
其
(
その
)
中
(
うち
)
には
無事
(
ぶじ
)
御
(
ご
)
帰城
(
きじやう
)
遊
(
あそ
)
ばすで
厶
(
ござ
)
いませうから』
044
王
(
わう
)
『ヤ、
045
そちの
悴
(
せがれ
)
も
新教育
(
しんけういく
)
とやらを
受
(
う
)
け、
046
余程
(
よほど
)
性質
(
たち
)
が
悪
(
わる
)
くなつて
来
(
き
)
たやうだ。
047
然
(
しか
)
し、
048
吾
(
わが
)
太子
(
たいし
)
も
太子
(
たいし
)
だ。
049
平民
(
へいみん
)
主義
(
しゆぎ
)
だとか、
050
平等
(
べうどう
)
主義
(
しゆぎ
)
だとか、
051
国体
(
こくたい
)
に
合
(
あは
)
ない
囈言
(
たはごと
)
を
申
(
まを
)
し、
052
貴族
(
きぞく
)
生活
(
せいくわつ
)
が
気
(
き
)
に
入
(
い
)
らぬ
等
(
など
)
と
駄々
(
だだ
)
をこね、
053
日夜
(
にちや
)
不足
(
ふそく
)
さうな
面貌
(
めんばう
)
を
現
(
あら
)
はし、
054
吾
(
わが
)
注意
(
ちうい
)
を
馬耳
(
ばじ
)
東風
(
とうふう
)
と
聞
(
き
)
き
流
(
なが
)
し、
055
手
(
て
)
におへない
人物
(
じんぶつ
)
となつて
了
(
しま
)
つた。
056
之
(
これ
)
も
全
(
まつた
)
く
余
(
よ
)
が
一
(
いち
)
時
(
じ
)
悪霊
(
あくれい
)
に
魂
(
たましひ
)
を
魅
(
み
)
せられ
057
天地
(
てんち
)
に
容
(
い
)
れざる
残虐
(
ざんぎやく
)
の
罪
(
つみ
)
を
犯
(
をか
)
したその
報
(
むく
)
いで、
058
老後
(
らうご
)
の
身
(
み
)
を
以
(
もつ
)
て、
059
あるにあられぬ
心
(
こころ
)
の
苦労
(
くらう
)
をさせられてゐるのだらう。
060
アヽどうなり
行
(
ゆ
)
くも
宿世
(
すぐせ
)
の
因縁
(
いんねん
)
だ。
061
もう
左守
(
さもり
)
殿
(
どの
)
、
062
あまり
頭
(
あたま
)
を
痛
(
いた
)
めて
呉
(
く
)
れな。
063
余
(
よ
)
も
太子
(
たいし
)
の
事
(
こと
)
は
只今
(
ただいま
)
限
(
かぎ
)
り
断念
(
だんねん
)
する』
064
左
(
さ
)
『
恐
(
おそ
)
れ
多
(
おほ
)
き
殿下
(
でんか
)
のお
言葉
(
ことば
)
、
065
臣下
(
しんか
)
の
吾々
(
われわれ
)
、
066
何
(
なん
)
と
申
(
まを
)
してお
詫
(
わび
)
をすれば
宜
(
よ
)
いやら、
067
実
(
じつ
)
に
恐懼
(
きようく
)
の
至
(
いた
)
りで
厶
(
ござ
)
います』
068
王
(
わう
)
『
右守
(
うもり
)
殿
(
どの
)
、
069
太子
(
たいし
)
が
帰
(
かへ
)
らぬとすれば、
070
何
(
なん
)
とか
善後策
(
ぜんごさく
)
を
講
(
かう
)
じなくてはなるまい。
071
其方
(
そち
)
の
意見
(
いけん
)
を
聞
(
き
)
き
度
(
た
)
いものだ。
072
かかる
一大事
(
いちだいじ
)
の
場合
(
ばあひ
)
、
073
少
(
すこ
)
しも
遠慮
(
ゑんりよ
)
は
要
(
い
)
らないから、
074
其方
(
そなた
)
が
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
を
忌憚
(
きたん
)
なく
打明
(
うちあ
)
けて
呉
(
く
)
れよ』
075
右守
(
うもり
)
(サクレンス)
『ハイ
恐
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
りまして
厶
(
ござ
)
います。
076
太子
(
たいし
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
出奔
(
しゆつぽん
)
以来
(
いらい
)
、
077
家中
(
かちう
)
の
面々
(
めんめん
)
を
四方
(
しはう
)
八方
(
はつぱう
)
に
派
(
は
)
し、
078
殿下
(
でんか
)
の
御
(
お
)
行衛
(
ゆくゑ
)
を
捜索
(
そうさく
)
致
(
いた
)
させましたが、
079
今
(
いま
)
に
何
(
なん
)
の
吉報
(
きつぱう
)
も
得
(
え
)
ませぬ。
080
今日
(
けふ
)
で
三日
(
みつか
)
三夜
(
みよさ
)
、
081
此
(
この
)
右守
(
うもり
)
も
心
(
こころ
)
を
痛
(
いた
)
め、
0811
胸
(
むね
)
をなやまし、
082
食事
(
しよくじ
)
も
碌
(
ろく
)
にとれませぬ。
083
翻
(
ひるがへ
)
つて
国内
(
こくない
)
の
事情
(
じじやう
)
を
顧
(
かへり
)
みれば、
084
到
(
いた
)
る
所
(
ところ
)
に
民衆
(
みんしう
)
不平
(
ふへい
)
の
声
(
こゑ
)
、
085
いつ
大事
(
だいじ
)
が
勃発
(
ぼつぱつ
)
するかも
知
(
し
)
れない
形勢
(
けいせい
)
になつて
居
(
を
)
ります。
086
加
(
くは
)
ふるにバラモン
軍
(
ぐん
)
が
襲来
(
しふらい
)
するとの
噂
(
うはさ
)
喧
(
かまび
)
すしく、
087
人心
(
じんしん
)
恟々
(
きようきよう
)
として
山川
(
さんせん
)
草木
(
さうもく
)
色
(
いろ
)
を
失
(
うしな
)
ひ、
088
将
(
まさ
)
に
阿鼻
(
あび
)
叫喚
(
けうくわん
)
地獄
(
ぢごく
)
を
現出
(
げんしゆつ
)
せむとするの
形勢
(
けいせい
)
で
厶
(
ござ
)
います。
089
斯
(
か
)
くの
如
(
ごと
)
く
国家
(
こくか
)
多事
(
たじ
)
多難
(
たなん
)
の
際
(
さい
)
に
太子
(
たいし
)
の
君
(
きみ
)
が
御
(
ご
)
出奔
(
しゆつぽん
)
遊
(
あそ
)
ばされた
事
(
こと
)
は
090
我
(
わが
)
国家
(
こくか
)
にとつては、
091
痩児
(
やせご
)
に
蓮根
(
はすね
)
と
申
(
まを
)
さうか、
092
泣面
(
なきづら
)
に
蜂
(
はち
)
と
申
(
まを
)
さうか、
093
実
(
じつ
)
に
恐
(
おそ
)
れ
多
(
おほ
)
き
次第
(
しだい
)
で
厶
(
ござ
)
います。
094
風前
(
ふうぜん
)
の
燈火
(
ともしび
)
にも
等
(
ひと
)
しきタラハン
国
(
ごく
)
の
形勢
(
けいせい
)
、
095
国家
(
こくか
)
を
未倒
(
みたう
)
に
救
(
すく
)
ひ、
096
大廈
(
たいか
)
の
崩
(
くづ
)
れむとするを
支
(
ささ
)
ふるのは、
097
倒底
(
たうてい
)
一木
(
いちぼく
)
一柱
(
いつちう
)
のよくすべき
所
(
ところ
)
では
厶
(
ござ
)
いませぬ。
098
何分
(
なにぶん
)
にも
此
(
この
)
際
(
さい
)
には
上下
(
しやうか
)
一致
(
いつち
)
、
099
億兆
(
おくてう
)
一心
(
いつしん
)
、
100
あらむ
限
(
かぎ
)
りの
誠心
(
まごころ
)
を
捧
(
ささ
)
げて
国難
(
こくなん
)
に
殉
(
じゆん
)
ずる
覚悟
(
かくご
)
が
吾々
(
われわれ
)
初
(
はじ
)
め、
101
なくては
叶
(
かな
)
ひませぬ。
102
かかる
危急
(
ききう
)
存亡
(
そんばう
)
の
際
(
さい
)
に、
103
太子
(
たいし
)
の
君
(
きみ
)
を
唆
(
そその
)
かし
奉
(
たてまつ
)
り、
104
殿内
(
でんない
)
より
誘
(
おび
)
き
出
(
だ
)
したる
左守
(
さもり
)
殿
(
どの
)
の
悴
(
せがれ
)
アリナこそは
105
天地
(
てんち
)
も
赦
(
ゆる
)
さぬ
大逆
(
だいぎやく
)
無道
(
ぶだう
)
の
悪臣
(
あくしん
)
で
厶
(
ござ
)
る。
106
まづ
国家
(
こくか
)
民心
(
みんしん
)
を
治
(
をさ
)
むるには
親疎
(
しんそ
)
の
情
(
じやう
)
を
去
(
さ
)
り、
107
上下
(
じやうげ
)
の
区別
(
くべつ
)
を
撤廃
(
てつぱい
)
し、
108
真
(
しん
)
を
真
(
しん
)
とし、
109
偽
(
ぎ
)
を
偽
(
ぎ
)
とし、
110
悪
(
あく
)
を
悪
(
あく
)
とし、
111
公平
(
こうへい
)
無私
(
むし
)
的
(
てき
)
態度
(
たいど
)
を
以
(
もつ
)
て
賞罰
(
しやうばつ
)
を
明
(
あきら
)
かにし、
112
天下
(
てんか
)
に
善政
(
ぜんせい
)
の
模範
(
もはん
)
を
示
(
しめ
)
さなくてはなりますまい。
113
恐
(
おそ
)
れ
乍
(
なが
)
ら、
114
臣
(
しん
)
は
先
(
ま
)
づ
第一
(
だいいち
)
着手
(
ちやくしゆ
)
として、
115
左守
(
さもり
)
の
悴
(
せがれ
)
アリナの
処分
(
しよぶん
)
をなさねばならないだらうと
考
(
かんが
)
へます。
116
ついてはその
父
(
ちち
)
たる
左守
(
さもり
)
殿
(
どの
)
は
此
(
この
)
際
(
さい
)
責任
(
せきにん
)
を
感知
(
かんち
)
し、
117
闕下
(
けつか
)
に
罪
(
つみ
)
を
謝
(
しや
)
し、
118
下
(
しも
)
は
国民
(
こくみん
)
に
対
(
たい
)
する
言
(
い
)
ひ
訳
(
わけ
)
の
為
(
た
)
め、
119
進
(
すす
)
んで
骸骨
(
がいこつ
)
をお
乞
(
こ
)
ひなさるが
時宜
(
じぎ
)
に
適
(
てき
)
したる
最善
(
さいぜん
)
の
処為
(
しよゐ
)
と
考
(
かんが
)
へます。
120
否
(
いな
)
、
121
国法
(
こくはふ
)
の
教
(
をし
)
ふる
所
(
ところ
)
と
確信
(
かくしん
)
致
(
いた
)
します。
122
殿下
(
でんか
)
、
123
何卒
(
なにとぞ
)
賢明
(
けんめい
)
なる
御
(
ご
)
英断
(
えいだん
)
を
以
(
もつ
)
て、
124
官規
(
くわんき
)
を
振粛
(
しんしゆく
)
し
頑迷
(
ぐわんめい
)
無恥
(
むち
)
の
官吏
(
くわんり
)
を
退
(
しりぞ
)
け、
125
以
(
もつ
)
て
国民
(
こくみん
)
に
殿下
(
でんか
)
の
名君
(
めいくん
)
たる
事
(
こと
)
を
周知
(
しうち
)
せしめ
度
(
た
)
く
存
(
ぞん
)
じまする』
126
王
(
わう
)
『イヤ、
127
右守
(
うもり
)
の
言
(
げん
)
も
一応
(
いちおう
)
尤
(
もつと
)
もだが
128
今日
(
けふ
)
は
未
(
ま
)
だ
太子
(
たいし
)
の
行衛
(
ゆくゑ
)
も
分
(
わか
)
らず、
129
又
(
また
)
アリナの
所在
(
ありか
)
も
分
(
わか
)
らぬ
混沌
(
こんとん
)
の
際
(
さい
)
だから、
130
左守
(
さもり
)
の
処分
(
しよぶん
)
は、
131
さう
急
(
いそ
)
ぐには
及
(
およ
)
ぶまい』
132
右
(
う
)
『
殿下
(
でんか
)
の
仰
(
おほ
)
せでは
厶
(
ござ
)
いまするが、
133
国家
(
こくか
)
危急
(
ききふ
)
存亡
(
そんばう
)
の
際
(
さい
)
、
134
さやうな
緩慢
(
くわんまん
)
の
御
(
ご
)
処置
(
しよち
)
は
却
(
かへつ
)
て
国家
(
こくか
)
を
危
(
あやふ
)
くするものと
考
(
かんが
)
へます。
135
何卒
(
なにとぞ
)
御
(
ご
)
英断
(
えいだん
)
を
以
(
もつ
)
て
疾風
(
しつぷう
)
迅雷
(
じんらい
)
的
(
てき
)
に
解決
(
かいけつ
)
し、
136
快刀
(
くわいたう
)
乱麻
(
らんま
)
を
断
(
た
)
つの
快挙
(
くわいきよ
)
に
出
(
いで
)
られむ
事
(
こと
)
を
137
右守
(
うもり
)
、
138
謹
(
つつし
)
んで
言上
(
ごんじやう
)
仕
(
つかまつ
)
ります』
139
王
(
わう
)
『
汝
(
なんぢ
)
右守
(
うもり
)
のサクレンス、
140
汝
(
なんぢ
)
は
王家
(
わうけ
)
を
思
(
おも
)
ひ
国家
(
こくか
)
を
思
(
おも
)
ふ、
141
その
熱誠
(
ねつせい
)
は
実
(
じつ
)
に
余
(
よ
)
は
嘉賞
(
かしやう
)
する。
142
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
我
(
わが
)
国家
(
こくか
)
は
余
(
よ
)
に
及
(
およ
)
んで
十五代
(
じふごだい
)
、
143
王統
(
わうとう
)
連綿
(
れんめん
)
として
何
(
なん
)
の
瑕瑾
(
かきん
)
もなく、
144
国民
(
こくみん
)
尊敬
(
そんけい
)
の
中心
(
ちうしん
)
となり、
145
仮令
(
たとへ
)
小
(
せう
)
なりと
雖
(
いへど
)
タラハンの
国家
(
こくか
)
を
維持
(
ゐぢ
)
して
来
(
き
)
たものだ。
146
然
(
しか
)
るに
今
(
いま
)
太子
(
たいし
)
が
貴族
(
きぞく
)
生活
(
せいくわつ
)
を
嫌
(
きら
)
ひ、
147
殿内
(
でんない
)
を
飛
(
と
)
び
出
(
だ
)
すやうになつては、
148
最早
(
もはや
)
王政
(
わうせい
)
も
専制
(
せんせい
)
政治
(
せいぢ
)
も
到底
(
たうてい
)
永続
(
えいぞく
)
する
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ない。
149
仮令
(
たとへ
)
太子
(
たいし
)
が
帰城
(
きじやう
)
するにしても、
150
彼
(
かれ
)
は
余
(
よ
)
が
後
(
あと
)
をついでタラハン
国
(
ごく
)
に
君臨
(
くんりん
)
する
事
(
こと
)
は
好
(
この
)
まないだらう。
151
一層
(
いつそ
)
の
事
(
こと
)
、
152
王女
(
わうぢよ
)
のバンナを
後継者
(
こうけいしや
)
となし、
153
適当
(
てきたう
)
なる
養子
(
やうし
)
を
入
(
い
)
れて、
154
王家
(
わうけ
)
を
継承
(
けいしよう
)
させ
度
(
た
)
いと
思
(
おも
)
ふが、
155
左守
(
さもり
)
、
156
右守
(
うもり
)
その
他
(
た
)
の
重臣
(
ぢうしん
)
共
(
ども
)
は、
157
どう
考
(
かんが
)
へるかな』
158
左
(
さ
)
『
殿下
(
でんか
)
の
宸襟
(
しんきん
)
を
悩
(
なや
)
ませ
奉
(
たてまつ
)
り、
159
臣
(
しん
)
として、
160
ノメノメ
生命
(
いのち
)
を
長
(
なが
)
らへ
161
殿下
(
でんか
)
の
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
を
坐視
(
ざし
)
し
奉
(
たてまつ
)
るに
忍
(
しの
)
びませぬ。
162
右守
(
うもり
)
の
云
(
い
)
はるる
通
(
とほ
)
り、
163
実
(
じつ
)
に
臣
(
しん
)
と
云
(
い
)
ひ
悴
(
せがれ
)
と
云
(
い
)
ひ、
164
王家
(
わうけ
)
の
仇
(
あだ
)
国家
(
こくか
)
の
潰滅者
(
くわいめつしや
)
で
厶
(
ござ
)
いますれば
165
申訳
(
まをしわけ
)
のため、
1651
今
(
いま
)
御前
(
ごぜん
)
に
於
(
おい
)
て
皺
(
しわ
)
ツ
腹
(
ぱら
)
をかき
切
(
き
)
り、
166
万死
(
ばんし
)
の
罪
(
つみ
)
を
謝
(
しや
)
し
奉
(
まつ
)
ります。
167
右守
(
うもり
)
殿
(
どの
)
、
168
何卒
(
なにとぞ
)
国家
(
こくか
)
の
為
(
ため
)
忠勤
(
ちうきん
)
を
励
(
はげ
)
んで
下
(
くだ
)
さい。
169
殿下
(
でんか
)
、
170
左様
(
さやう
)
ならば』
171
と
云
(
い
)
ふより
早
(
はや
)
く
用意
(
ようい
)
の
短刀
(
たんたう
)
、
172
鞘
(
さや
)
を
払
(
はら
)
つて
左
(
ひだり
)
の
脇腹
(
わきばら
)
につき
立
(
た
)
てむとする
一刹那
(
いつせつな
)
、
173
王女
(
わうぢよ
)
バンナ
姫
(
ひめ
)
は
慌
(
あわ
)
ただしく、
174
簾
(
みす
)
の
中
(
なか
)
より
走
(
はし
)
り
出
(
い
)
で、
175
王女
(
わうぢよ
)
『
左守
(
さもり
)
ガンヂー
早
(
はや
)
まるな。
176
今
(
いま
)
死
(
し
)
ぬる
命
(
いのち
)
を
永
(
なが
)
らへ、
177
王家
(
わうけ
)
のため
国家
(
こくか
)
のために
何故
(
なぜ
)
誠
(
まこと
)
を
尽
(
つく
)
さないのか。
178
死
(
し
)
んで
忠義
(
ちうぎ
)
になると
思
(
おも
)
ふか。
179
言
(
い
)
ひ
訳
(
わけ
)
が
立
(
た
)
つと
思
(
おも
)
ふか。
180
血迷
(
ちまよ
)
ふにも
程
(
ほど
)
があるぞや』
181
と
鶴
(
つる
)
の
一声
(
ひとこゑ
)
、
182
左守
(
さもり
)
はハツト
許
(
ばか
)
りに
両手
(
りやうて
)
をつき、
183
白髪頭
(
しらがあたま
)
を
床
(
ゆか
)
にすりつけ
乍
(
なが
)
ら
声
(
こゑ
)
を
振
(
ふる
)
はせ
涙
(
なみだ
)
を
絞
(
しぼ
)
り、
184
述
(
の
)
ぶる
言葉
(
ことば
)
もきれぎれに、
185
左
(
さ
)
『ハイ、
186
誠
(
まこと
)
に
無作法
(
ぶさはふ
)
な
狼狽
(
うろた
)
へた
様
(
さま
)
をお
目
(
め
)
にかけまして
申訳
(
まをしわけ
)
が
厶
(
ござ
)
いませぬ。
187
何卒
(
なにとぞ
)
、
188
御
(
ご
)
宥恕
(
いうじよ
)
を
願
(
ねが
)
ひ
奉
(
たてまつ
)
ります』
189
右
(
う
)
『アハヽヽヽ、
190
左守
(
さもり
)
殿
(
どの
)
、
191
御
(
ご
)
卑怯
(
ひけふ
)
では
厶
(
ござ
)
らぬか。
192
一旦
(
いつたん
)
男子
(
だんし
)
が
決死
(
けつし
)
の
覚悟
(
かくご
)
、
193
仮令
(
たとへ
)
王女
(
わうぢよ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
言葉
(
ことば
)
なればとて
194
卑怯
(
ひけふ
)
末練
(
みれん
)
にも
死
(
し
)
を
惜
(
をし
)
み、
195
生
(
せい
)
の
執着
(
しふちやく
)
に
憧
(
あこが
)
れ
給
(
たま
)
ふか。
196
左様
(
さやう
)
な
女々
(
めめ
)
しき
魂
(
たましひ
)
を
以
(
もつ
)
て、
197
よくも
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
左守
(
さもり
)
の
職
(
しよく
)
が
勤
(
つと
)
まりましたな。
198
チツトは
恥
(
はぢ
)
を
知
(
し
)
りなされ』
199
と
悪逆
(
あくぎやく
)
無道
(
ぶだう
)
の
右守
(
うもり
)
のサクレンスは
200
左守
(
さもり
)
の
自殺
(
じさつ
)
を
慫慂
(
しやうよう
)
してゐる。
201
彼
(
かれ
)
は
十
(
じふ
)
年
(
ねん
)
以前
(
いぜん
)
迄
(
まで
)
は
左守
(
さもり
)
のガンヂーが
右守
(
うもり
)
として
仕
(
つか
)
へてゐた
頃
(
ころ
)
、
202
家令
(
かれい
)
に
抜擢
(
ばつてき
)
され、
203
右守
(
うもり
)
が
左守
(
さもり
)
に
栄進
(
えいしん
)
すると
共
(
とも
)
に
204
自分
(
じぶん
)
も
抜擢
(
ばつてき
)
されて
右守
(
うもり
)
の
重職
(
ぢうしよく
)
に
就
(
つ
)
いたのである。
205
今日
(
こんにち
)
の
地位
(
ちゐ
)
を
得
(
え
)
たのは、
206
全
(
まつた
)
く
現
(
げん
)
左守
(
さもり
)
の
斡旋
(
あつせん
)
によるものであつた。
207
然
(
しか
)
るに
心
(
こころ
)
汚
(
きたな
)
き
右守
(
うもり
)
は
208
大恩
(
だいおん
)
あるガンヂーを
邪魔物
(
じやまもの
)
扱
(
あつかひ
)
になし、
209
今度
(
こんど
)
の
失敗
(
しつぱい
)
につけ
込
(
こ
)
み
左守
(
さもり
)
に
詰腹
(
つめばら
)
を
切
(
き
)
らせ、
210
自分
(
じぶん
)
がとつて
左守
(
さもり
)
に
代
(
かは
)
り
国政
(
こくせい
)
を
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
に
攪
(
か
)
き
乱
(
みだ
)
し、
211
時節
(
じせつ
)
を
待
(
ま
)
つて
王女
(
わうぢよ
)
バンナ
姫
(
ひめ
)
に
自分
(
じぶん
)
の
弟
(
おとうと
)
エールを
娶
(
めあ
)
はせ
212
吾
(
わが
)
一族
(
いちぞく
)
を
以
(
もつ
)
て
国家
(
こくか
)
を
左右
(
さいう
)
し、
213
自分
(
じぶん
)
は
外戚
(
ぐわいせき
)
となつて
権勢
(
けんせい
)
を
天下
(
てんか
)
に
輝
(
かがや
)
かし、
214
日頃
(
ひごろ
)
の
非望
(
ひばう
)
を
達
(
たつ
)
せむと
企
(
くはだ
)
てたのである。
215
カラピン
王
(
わう
)
は
右守
(
うもり
)
のサクレンスに
右
(
みぎ
)
の
如
(
ごと
)
き
野心
(
やしん
)
あるとは
夢
(
ゆめ
)
にも
知
(
し
)
らず、
216
危機
(
きき
)
一髪
(
いつぱつ
)
の
際
(
さい
)
、
217
国家
(
こくか
)
を
救
(
すく
)
ふは
数多
(
あまた
)
の
重臣
(
ぢうしん
)
の
中
(
うち
)
、
218
此
(
この
)
右守
(
うもり
)
の
外
(
ほか
)
なしと、
219
益々
(
ますます
)
信任
(
しんにん
)
の
度
(
ど
)
を
厚
(
あつ
)
うした。
220
されども
流石
(
さすが
)
に
吾
(
わが
)
弟
(
おとうと
)
のエールを
王位
(
わうゐ
)
に
上
(
のぼ
)
せ、
221
バンナ
姫
(
ひめ
)
と
相並
(
あひなら
)
んで
王家
(
わうけ
)
を
継
(
つ
)
がせ、
222
万機
(
ばんき
)
の
政治
(
せいぢ
)
を
総統
(
そうとう
)
させる
事
(
こと
)
は
口
(
くち
)
には
出
(
だ
)
し
得
(
え
)
なかつた。
223
そこで
彼
(
かれ
)
は、
224
ワザとに
次
(
つぎ
)
のやうな
事
(
こと
)
を
御前
(
ごぜん
)
会議
(
くわいぎ
)
の
席
(
せき
)
で
喋々
(
てふてふ
)
喃々
(
なんなん
)
と
喋
(
しやべ
)
りたて、
225
王
(
わう
)
を
初
(
はじ
)
め
重臣
(
ぢうしん
)
共
(
ども
)
の
腹
(
はら
)
を
探
(
さぐ
)
らうとした。
226
右
(
う
)
『
殿下
(
でんか
)
に
申
(
まをし
)
上
(
あ
)
げます。
227
「
今日
(
こんにち
)
は
国家
(
こくか
)
のため
遠慮
(
ゑんりよ
)
会釈
(
ゑしやく
)
もなく
言上
(
ごんじやう
)
せよ」との
御
(
ご
)
令旨
(
れいし
)
、
228
参考
(
さんかう
)
のために、
229
殿下
(
でんか
)
を
初
(
はじ
)
め
一同
(
いちどう
)
の
重役
(
ぢうやく
)
達
(
たち
)
に
吾
(
わが
)
意見
(
いけん
)
を
吐露
(
とろ
)
致
(
いた
)
します。
230
御
(
ご
)
採用
(
さいよう
)
下
(
くだ
)
さらうと、
231
下
(
くだ
)
さるまいと、
232
それは
少
(
すこ
)
しも
臣
(
しん
)
の
意
(
い
)
に
介
(
かい
)
する
所
(
ところ
)
では
厶
(
ござ
)
いませぬ。
233
倩々
(
つらつら
)
天下
(
てんか
)
の
情勢
(
じやうせい
)
を
考
(
かんが
)
へまするのに、
234
世界
(
せかい
)
の
王国
(
わうこく
)
は
次第
(
しだい
)
々々
(
しだい
)
に
倒
(
たふ
)
れ、
235
何
(
いづ
)
れも
民衆
(
みんしう
)
政治
(
せいぢ
)
、
236
共和
(
きようわ
)
政体
(
せいたい
)
と
代
(
かは
)
り
行
(
ゆ
)
く
現代
(
げんだい
)
の
趨勢
(
すうせい
)
で
厶
(
ござ
)
います。
237
加
(
くは
)
ふるに
肝腎要
(
かんじんかなめ
)
の
太子
(
たいし
)
の
君
(
きみ
)
は
平民
(
へいみん
)
主義
(
しゆぎ
)
がお
好
(
す
)
きでもあり、
238
常
(
つね
)
に
共産
(
きやうさん
)
主義
(
しゆぎ
)
を
唱道
(
しやうだう
)
されてゐるやうで
厶
(
ござ
)
います。
239
開国
(
かいこく
)
以来
(
いらい
)
、
240
十五代
(
じふごだい
)
継続
(
けいぞく
)
遊
(
あそ
)
ばした
此
(
この
)
王家
(
わうけ
)
をして
万代
(
ばんだい
)
不易
(
ふえき
)
の
基礎
(
きそ
)
を
固
(
かた
)
め
241
王家
(
わうけ
)
の
繁栄
(
はんゑい
)
は
日月
(
じつげつ
)
と
共
(
とも
)
に
永遠
(
えいゑん
)
無窮
(
むきう
)
に、
242
月
(
つき
)
の
国
(
くに
)
の
一角
(
いつかく
)
に
光
(
ひか
)
り
輝
(
かがや
)
くべく
日夜
(
にちや
)
祈願
(
きぐわん
)
をこらしてゐましたが、
243
最早
(
もはや
)
今日
(
こんにち
)
となつては、
244
どうも
覚束
(
おぼつか
)
ないやうな
気分
(
きぶん
)
が
致
(
いた
)
します。
245
殿下
(
でんか
)
を
初
(
はじ
)
め
奉
(
まつ
)
り、
246
諸君
(
しよくん
)
の
御
(
ご
)
意見
(
いけん
)
は
如何
(
いかが
)
で
厶
(
ござ
)
いませうかな』
247
此
(
この
)
意外
(
いぐわい
)
なる
言葉
(
ことば
)
に
王
(
わう
)
を
初
(
はじ
)
め
左守
(
さもり
)
、
248
その
他
(
た
)
の
重臣
(
ぢうしん
)
は
水
(
みづ
)
を
打
(
う
)
つたる
如
(
ごと
)
く
黙然
(
もくねん
)
として
249
大
(
おほ
)
きな
息
(
いき
)
さへせなかつた。
250
暫
(
しばら
)
くあつてカラピン
王
(
わう
)
は
顔面
(
がんめん
)
筋肉
(
きんにく
)
を
緊張
(
きんちやう
)
させ
乍
(
なが
)
ら、
251
王
(
わう
)
『
意外
(
いぐわい
)
千万
(
せんばん
)
なる
右守
(
うもり
)
が
言葉
(
ことば
)
、
252
天
(
てん
)
の
命
(
めい
)
を
受
(
う
)
けて
君臨
(
くんりん
)
したる
我
(
わが
)
王室
(
わうしつ
)
を
廃
(
はい
)
し、
253
共和
(
きようわ
)
政治
(
せいぢ
)
を
布
(
し
)
かう
等
(
など
)
とは
不臣
(
ふしん
)
不忠
(
ふちう
)
の
至
(
いた
)
りだ。
254
右守
(
うもり
)
、
255
汝
(
なんぢ
)
も
時代
(
じだい
)
の
悪風潮
(
あくふうてう
)
に
感染
(
かんせん
)
し、
256
良心
(
りやうしん
)
の
基礎
(
どだい
)
がぐらつき
出
(
だ
)
したと
見
(
み
)
える。
257
左様
(
さやう
)
な
精神
(
せいしん
)
で、
258
どうして
我
(
わが
)
国家
(
こくか
)
を
支
(
ささ
)
へる
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
るか。
259
よく
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
よ』
260
此
(
この
)
言葉
(
ことば
)
に
並
(
なみ
)
ゐる
老臣
(
らうしん
)
等
(
たち
)
は
稍
(
やや
)
愁眉
(
しうび
)
を
開
(
ひら
)
き、
261
一斉
(
いつせい
)
に
口
(
くち
)
を
揃
(
そろ
)
へて
王
(
わう
)
の
宣言
(
せんげん
)
に
賛意
(
さんい
)
を
表
(
へう
)
した。
262
左守
(
さもり
)
は
憤然
(
ふんぜん
)
として
立
(
たち
)
上
(
あが
)
り
両眼
(
りやうがん
)
に
涙
(
なみだ
)
を
浮
(
うか
)
べ
乍
(
なが
)
ら、
263
右守
(
うもり
)
の
側
(
そば
)
近
(
ちか
)
くニジリ
寄
(
よ
)
り
短刀
(
たんたう
)
の
柄
(
つか
)
に
手
(
て
)
をかけ、
264
声
(
こゑ
)
を
慄
(
ふる
)
はせ
乍
(
なが
)
ら、
265
左
(
さ
)
『
汝
(
なんぢ
)
右守
(
うもり
)
のサクレンス、
266
徒
(
いたづら
)
に
侫弁
(
ねいべん
)
を
揮
(
ふる
)
ひ、
267
表
(
おもて
)
に
忠臣
(
ちうしん
)
義士
(
ぎし
)
を
粧
(
よそほ
)
ひ、
268
心
(
こころ
)
に
豺狼
(
さいらう
)
の
爪牙
(
さうが
)
を
蔵
(
ざう
)
する
悪逆
(
あくぎやく
)
無道
(
ぶだう
)
不忠
(
ふちう
)
不義
(
ふぎ
)
の
曲者
(
くせもの
)
奴
(
め
)
、
269
万代
(
ばんだい
)
不易
(
ふえき
)
の
王政
(
わうせい
)
を
撤回
(
てつくわい
)
し
共和
(
きようわ
)
政体
(
せいたい
)
に
変革
(
へんかく
)
せむとは
何
(
なん
)
の
囈言
(
たわごと
)
、
270
不臣
(
ふしん
)
不忠
(
ふちう
)
の
至
(
いた
)
り、
271
もう
此
(
この
)
上
(
うへ
)
は
左守
(
さもり
)
が
死物狂
(
しにものぐる
)
ひ、
272
汝
(
なんぢ
)
が
一命
(
いちめい
)
を
断
(
た
)
つて
国家
(
こくか
)
の
禍根
(
くわこん
)
を
絶滅
(
ぜつめつ
)
せむ、
273
覚悟
(
かくご
)
致
(
いた
)
せ』
274
と
云
(
い
)
ふより
早
(
はや
)
く
右守
(
うもり
)
に
向
(
むか
)
つて
飛
(
と
)
びつかむとする。
275
王女
(
わうぢよ
)
のバンナは
又
(
また
)
もや
声
(
こゑ
)
をかけ、
276
王女
(
わうぢよ
)
『
左守
(
さもり
)
、
277
暫
(
しば
)
らく
待
(
ま
)
て、
278
王
(
わう
)
様
(
さま
)
の
御前
(
ごぜん
)
であらうぞ。
279
殿中
(
でんちう
)
の
刃物
(
はもの
)
三昧
(
ざんまい
)
は
国法
(
こくはふ
)
の
厳禁
(
げんきん
)
する
所
(
ところ
)
、
280
血迷
(
ちまよ
)
ふたか、
281
狼狽
(
うろた
)
へたか。
282
左守
(
さもり
)
、
283
冷静
(
れいせい
)
に
善悪
(
ぜんあく
)
理非
(
りひ
)
を
弁
(
わきま
)
へよ』
284
左守
(
さもり
)
は
声
(
こゑ
)
を
励
(
はげ
)
まして、
285
左
(
さ
)
『
王女
(
わうぢよ
)
様
(
さま
)
の
厳命
(
げんめい
)
なれども、
286
もとより
不忠
(
ふちう
)
不義
(
ふぎ
)
なる
此
(
この
)
左守
(
さもり
)
、
287
死
(
し
)
して
万死
(
ばんし
)
の
罪
(
つみ
)
を
謝
(
しや
)
し
奉
(
まつ
)
る。
288
ついては
御
(
ご
)
法度
(
はつと
)
を
破
(
やぶ
)
る
恐
(
おそ
)
れは
厶
(
ござ
)
いませうが、
289
此
(
この
)
右守
(
うもり
)
を
残
(
のこ
)
しておかば
王家
(
わうけ
)
を
亡
(
ほろ
)
ぼし
国家
(
こくか
)
を
亡
(
ほろ
)
ぼす
大逆者
(
だいぎやくしや
)
で
厶
(
ござ
)
れば、
290
右守
(
うもり
)
の
命
(
いのち
)
を
絶
(
た
)
つ
考
(
かんが
)
へで
厶
(
ござ
)
います。
291
何卒
(
なにとぞ
)
此
(
この
)
儀
(
ぎ
)
はお
許
(
ゆる
)
し
下
(
くだ
)
さいませ』
292
と
又
(
また
)
もや
斬
(
き
)
つてかかる。
293
右守
(
うもり
)
は
打
(
うち
)
驚
(
おどろ
)
き
松
(
まつ
)
の
廊下
(
らうか
)
の
師直
(
もろなほ
)
よろしく、
294
右守
『
左守
(
さもり
)
殿
(
どの
)
、
295
殿中
(
でんちう
)
で
厶
(
ござ
)
る
殿中
(
でんちう
)
で
厶
(
ござ
)
る』
296
と
連呼
(
れんこ
)
し
乍
(
なが
)
ら
彼方
(
かなた
)
此方
(
こなた
)
へ
逃
(
に
)
げまはる。
297
重臣
(
ぢうしん
)
のハルチンは
加古川
(
かこがは
)
本蔵
(
ほんざう
)
よろしく、
298
左守
(
さもり
)
の
後
(
うしろ
)
よりグツと
強力
(
がうりき
)
に
任
(
まか
)
せて
抱
(
だ
)
きかかへ
羽抱絞
(
はがいじ
)
めにして
了
(
しま
)
つた。
299
左守
(
さもり
)
は、
300
左
(
さ
)
『エー、
301
放
(
はな
)
せ、
302
邪魔
(
じやま
)
召
(
め
)
さるな。
303
王家
(
わうけ
)
の
一大事
(
いちだいじ
)
だ。
304
国家
(
こくか
)
の
禍根
(
くわこん
)
を
払
(
はら
)
ふのは
此
(
この
)
時
(
とき
)
で
厶
(
ござ
)
る』
305
とあせれど
藻掻
(
もが
)
けど、
306
強力
(
がうりき
)
のハルチンに
抱
(
だ
)
きつかれ
307
無念
(
むねん
)
の
歯噛
(
はが
)
みし
乍
(
なが
)
らバタリと
短刀
(
たんたう
)
を
床上
(
しやうじやう
)
に
落
(
おと
)
した。
308
右守
(
うもり
)
は
此
(
この
)
隙
(
すき
)
に
乗
(
じやう
)
じて
雲
(
くも
)
を
霞
(
かすみ
)
と
卑怯
(
ひけふ
)
未練
(
みれん
)
にも
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
して
了
(
しま
)
つた。
309
かく
騒
(
さわ
)
ぎの
最中
(
さいちう
)
へ
太子
(
たいし
)
の
君
(
きみ
)
はアリナと
共
(
とも
)
に
悠然
(
いうぜん
)
として
城門
(
じやうもん
)
を
潜
(
くぐ
)
つた。
310
今
(
いま
)
や
生命
(
いのち
)
からがら
髪
(
かみ
)
振
(
ふ
)
り
乱
(
みだ
)
し、
311
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
して
来
(
き
)
た
右守
(
うもり
)
のサクレンスは
狼狽
(
らうばい
)
の
余
(
あま
)
り
門口
(
もんぐち
)
にてアリナの
胸
(
むね
)
にドンと
許
(
ばか
)
りつきあたり、
312
二人
(
ふたり
)
は
共
(
とも
)
に
門前
(
もんぜん
)
の
階段
(
かいだん
)
から、
313
二三間
(
にさんげん
)
許
(
ばか
)
り
下
(
した
)
の
街道
(
かいだう
)
へ
転
(
ころ
)
げ
落
(
お
)
ちた。
314
幸
(
さいは
)
ひにアリナは
何
(
なん
)
の
負傷
(
ふしやう
)
もせなかつたが、
315
右守
(
うもり
)
のサクレンスは
脛
(
すね
)
を
折
(
を
)
りノタノタと
四這
(
よつば
)
ひとなり
316
生命
(
いのち
)
カラガラ
吾
(
わが
)
家
(
や
)
を
指
(
さ
)
して
猫
(
ねこ
)
に
追
(
お
)
はれた
鼠
(
ねずみ
)
よろしく
逃
(
にげ
)
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
317
(
大正一三・一二・四
新一二・二九
於祥雲閣
北村隆光
録)
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