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霊界物語
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
第67巻(午の巻)
序文
総説
第1篇 美山梅光
第1章 梅の花香
第2章 思想の波
第3章 美人の腕
第4章 笑の座
第5章 浪の皷
第2篇 春湖波紋
第6章 浮島の怪猫
第7章 武力鞘
第8章 糸の縺れ
第9章 ダリヤの香
第10章 スガの長者
第3篇 多羅煩獄
第11章 暗狐苦
第12章 太子微行
第13章 山中の火光
第14章 獣念気
第15章 貂心暴
第16章 酒艶の月
第17章 晨の驚愕
第4篇 山色連天
第18章 月下の露
第19章 絵姿
第20章 曲津の陋呵
第21章 針灸思想
第22章 憧憬の美
余白歌
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霊界物語
>
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
>
第67巻(午の巻)
> 第2篇 春湖波紋 > 第9章 ダリヤの香
<<< 糸の縺れ
(B)
(N)
スガの長者 >>>
第九章 ダリヤの
香
(
か
)
〔一七一一〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第67巻 山河草木 午の巻
篇:
第2篇 春湖波紋
よみ(新仮名遣い):
しゅんこはもん
章:
第9章 ダリヤの香
よみ(新仮名遣い):
だりやのか
通し章番号:
1711
口述日:
1924(大正13)年12月27日(旧12月2日)
口述場所:
祥雲閣
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1926(大正15)年8月19日
概要:
舞台:
波切丸
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
ダリヤがアリーの部下、コークスに操を破られそうになる。
そこへ通りかかったアリーはコークスを殺し、ダリヤを助ける。
この件を機に、親の仇とダリヤを殺そうとしていたアリーは改心する。
そこへ、妹のダリヤを探していた兄のイルクが宣伝歌を歌いながら通りかかる。
イルクは、船上にて梅公の教えを聞き、三五教に改心していた。
その歌により、ダリヤは自分を心配して危険を冒して捜索に来た兄の心を知る。
腹違いの兄弟たちが和解して大団円。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2018-05-13 18:29:07
OBC :
rm6709
愛善世界社版:
119頁
八幡書店版:
第12輯 73頁
修補版:
校定版:
121頁
普及版:
68頁
初版:
ページ備考:
001
ダリヤは
船底
(
せんてい
)
の
密室
(
みつしつ
)
に
監禁
(
かんきん
)
され、
002
此
(
この
)
船
(
ふね
)
がスガの
港
(
みなと
)
へ
着
(
つ
)
く
迄
(
まで
)
には、
003
アリーが
暴虐
(
ばうぎやく
)
の
手
(
て
)
にかかつて
死
(
し
)
ぬるものと
決心
(
けつしん
)
してゐた。
004
そして
健気
(
けなげ
)
にも
辞世
(
じせい
)
の
歌
(
うた
)
等
(
など
)
を
詠
(
よ
)
んで、
005
死期
(
しき
)
の
至
(
いた
)
るを
待
(
ま
)
つてゐた。
006
そこへコツコツと
忍
(
しの
)
び
足
(
あし
)
に
錠前
(
ぢやうまへ
)
をねぢあけて
這入
(
はい
)
つて
来
(
き
)
たのは
007
自分
(
じぶん
)
が
小舟
(
こぶね
)
に
乗
(
の
)
つて
離
(
はな
)
れ
島
(
じま
)
へ
遊
(
あそ
)
びに
行
(
い
)
つた
帰
(
かへ
)
りがけ、
008
かつさらはれたコークスであつた。
009
コークスは
小声
(
こごゑ
)
になつて、
010
コークス
『コレ、
011
ダリヤさま、
012
お
前
(
まへ
)
さまは
此
(
この
)
船
(
ふね
)
が
遅
(
おそ
)
く
共
(
とも
)
、
013
明日
(
あす
)
の
日
(
ひ
)
の
暮
(
くれ
)
にはスガの
港
(
みなと
)
へ
着
(
つ
)
くのだから、
014
今夜中
(
こんやぢう
)
に
殺
(
ころ
)
されますよ。
015
どうです、
016
私
(
わたし
)
が
小舟
(
こぶね
)
を
卸
(
おろ
)
して、
0161
お
前
(
まへ
)
さまを
乗
(
の
)
せ
017
離
(
はな
)
れ
島
(
じま
)
へ
漕
(
こ
)
ぎつけて
助
(
たす
)
けて
上
(
あ
)
げようと
思
(
おも
)
つてゐるのだから、
018
物
(
もの
)
も
相談
(
さうだん
)
だが、
019
私
(
わし
)
の
女房
(
にようばう
)
になつて
下
(
くだ
)
さるでせうなア』
020
と
糞蛙
(
くそがへる
)
が
泣
(
な
)
きそこねたやうな
面
(
つら
)
から、
021
臭
(
くさ
)
い
臭
(
くさ
)
いドブ
酒
(
ざけ
)
の
息
(
いき
)
を
吹
(
ふき
)
かけ
乍
(
なが
)
ら
口説
(
くど
)
きかけた。
022
ダリヤは
柳眉
(
りうび
)
を
逆立
(
さかだ
)
て、
023
蜂
(
はち
)
を
払
(
はら
)
ふ
様
(
やう
)
な
素振
(
そぶり
)
をして、
024
ダリヤ
『エー、
025
汚
(
けが
)
らはしい。
026
今
(
いま
)
更
(
さら
)
親切
(
しんせつ
)
ごかしに
妾
(
わたし
)
を
助
(
たす
)
け
出
(
だ
)
し、
027
それを
恩
(
おん
)
に
着
(
き
)
せて、
028
女房
(
にようばう
)
になつてくれなどと、
029
ようマアそんな
厚
(
あつ
)
かましい
事
(
こと
)
が
云
(
い
)
へましたなア。
030
妾
(
わたし
)
がこんな
破目
(
はめ
)
に
陥
(
おちい
)
つたのも、
031
皆
(
みな
)
お
前
(
まへ
)
さまのなす
業
(
わざ
)
ぢやないか。
032
いはばお
前
(
まへ
)
さまは
妾
(
わたし
)
の
敵
(
かたき
)
だ。
033
妾
(
わたし
)
の
命
(
いのち
)
をおとすのも、
034
お
前
(
まへ
)
さまの
為
(
ため
)
ぢやないか。
035
何程
(
なにほど
)
命
(
いのち
)
が
惜
(
を
)
しいと
云
(
い
)
つても、
036
そんな
悪党
(
あくたう
)
な
卑劣
(
ひれつ
)
な
泥棒
(
どろばう
)
根性
(
こんじやう
)
のお
前
(
まへ
)
さま
等
(
ら
)
に
靡
(
なび
)
くものがありますか。
037
エ、
038
汚
(
けが
)
らはしい、
039
とつとと、
040
サア
彼方
(
あつち
)
へ
行
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
041
胸
(
むね
)
がムカムカして
来
(
き
)
ましたよ。
042
一体
(
いつたい
)
お
前
(
まへ
)
さまの
名
(
な
)
は
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふのだい。
043
冥途
(
めいど
)
の
土産
(
みやげ
)
に
聞
(
き
)
いておきたいからなア』
044
コークス『
俺
(
おれ
)
はな、
045
アリー
親分
(
おやぶん
)
の
片腕
(
かたうで
)
と
聞
(
きこ
)
えたるコークスといふ
哥兄
(
にい
)
さまだ。
046
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
命
(
いのち
)
が
資本
(
もとで
)
だから、
047
そんな
悪
(
わる
)
い
了見
(
れうけん
)
を
出
(
だ
)
さずに、
048
俺
(
わし
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
いた
方
(
はう
)
が
可
(
よ
)
からうぜ。
049
何程
(
なにほど
)
名花
(
めいくわ
)
だつて、
050
梢
(
こずゑ
)
から
散
(
ち
)
りおつれば
三文
(
さんもん
)
の
価値
(
かち
)
もない。
051
お
前
(
まへ
)
さまの
容貌
(
ようぼう
)
は
天下
(
てんか
)
に
稀
(
まれ
)
なる
美貌
(
びぼう
)
だ。
052
丹花
(
たんくわ
)
の
唇
(
くちびる
)
053
柳
(
やなぎ
)
の
眉
(
まゆ
)
054
日月
(
じつげつ
)
の
眼
(
まなこ
)
、
055
縦
(
たて
)
からみても
横
(
よこ
)
から
見
(
み
)
ても
惚々
(
ほれぼれ
)
するスタイルぢやないか。
056
此
(
この
)
名花
(
めいくわ
)
をムザムザと
散
(
ち
)
らすのは
国家
(
こくか
)
の
為
(
ため
)
に
大
(
だい
)
なる
損害
(
そんがい
)
だ。
057
否
(
いな
)
天下
(
てんか
)
の
美人
(
びじん
)
を
可惜
(
あたら
)
地上
(
ちじやう
)
に
失
(
うしな
)
ふといふものだ。
058
俺
(
おれ
)
は
天下
(
てんか
)
の
為
(
ため
)
に、
059
お
前
(
まへ
)
の
今晩
(
こんばん
)
散
(
ち
)
る
事
(
こと
)
を
惜
(
をし
)
むのだ。
060
どうだ、
061
物
(
もの
)
も
相談
(
さうだん
)
だが、
062
私
(
わし
)
と
一緒
(
いつしよ
)
に
逃
(
にげ
)
出
(
だ
)
す
気
(
き
)
はないか。
063
そして
私
(
わし
)
と
夫婦
(
ふうふ
)
になつて
睦
(
むつま
)
じう
暮
(
くら
)
したら
何
(
ど
)
うだい。
064
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
此
(
この
)
顔
(
かほ
)
はヒヨツトコでも、
065
メツカチでも、
066
云
(
い
)
ふにいはれぬ
味
(
あぢ
)
が、
067
どつかには
含
(
ふく
)
んでゐますよ。
068
あの
鯣
(
するめ
)
をみなさい。
069
干
(
ひ
)
つからびた
皺苦茶
(
しわくちや
)
だらけ、
070
みつともない
姿
(
すがた
)
をしてゐるが、
071
しがん
でみると
随分
(
ずいぶん
)
甘
(
うま
)
い
味
(
あぢ
)
がしますよ。
072
何
(
なん
)
とも
云
(
い
)
へぬ
風味
(
ふうみ
)
が
含
(
ふく
)
まれてゐる。
073
それを
一寸
(
ちよつと
)
遠火
(
とほび
)
に
焼
(
や
)
くと、
074
尚
(
なほ
)
更
(
さら
)
味
(
あぢ
)
がよくなる。
075
どうだい、
076
此
(
この
)
コークスの
意
(
い
)
に
従
(
したが
)
ふ
気
(
き
)
はないかな。
077
お
前
(
まへ
)
さまも
命
(
いのち
)
の
瀬戸際
(
せとぎは
)
に
立
(
た
)
つてゐるのだから、
078
些
(
ちつ
)
と
許
(
ばか
)
り
男
(
をとこ
)
が
悪
(
わる
)
うても
辛抱
(
しんばう
)
するのだな。
079
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
辛抱
(
しんばう
)
は
金
(
かね
)
だから、
080
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
は
云
(
い
)
はない。
081
お
前
(
まへ
)
の
為
(
ため
)
だ。
082
一
(
ひと
)
つは
俺
(
おれ
)
の
為
(
ため
)
だ。
083
いいか、
084
些
(
ちつ
)
とは
道理
(
だうり
)
が
分
(
わか
)
つたかい』
085
ダリヤ『ホヽヽヽヽ、
086
いかにもコークスといふ
丈
(
だけ
)
で、
087
黒
(
くろ
)
い
顔
(
かほ
)
だこと。
088
お
前
(
まへ
)
さまは
舟
(
ふね
)
の
燃料
(
ねんれう
)
になるのが
天職
(
てんしよく
)
だよ。
089
天成
(
てんせい
)
の
美人
(
びじん
)
ダリヤ
姫
(
ひめ
)
に
向
(
むか
)
つて、
090
恋
(
こひ
)
の
鮒
(
ふな
)
のと、
091
しなだれかかるのは
身分
(
みぶん
)
不相応
(
ふさうおう
)
といふもの。
092
可
(
い
)
いかげんに
断念
(
だんねん
)
したが
可
(
よ
)
からうぞや。
093
あたイケ
好
(
す
)
かない、
094
ケチな
野郎
(
やらう
)
だな』
095
コー『オイオイ、
096
ダリヤ
姫
(
ひめ
)
。
097
さう
芋虫
(
いもむし
)
のやうにピンピンはねるものぢやない。
098
人
(
ひと
)
は
愛情
(
あいじやう
)
がなくては、
099
木石
(
ぼくせき
)
も
同様
(
どうやう
)
だ。
100
折角
(
せつかく
)
人間
(
にんげん
)
に
生
(
うま
)
れて、
101
木石
(
ぼくせき
)
に
等
(
ひと
)
しい
冷血漢
(
れいけつかん
)
になつちや、
102
最早
(
もはや
)
人間
(
にんげん
)
の
資格
(
しかく
)
はありませぬよ。
103
お
前
(
まへ
)
さまも
人間
(
にんげん
)
らしい。
104
女
(
をんな
)
らしい
返答
(
へんたふ
)
をしたら
何
(
ど
)
うだい』
105
ダリ『ホヽヽヽ、
106
人間
(
にんげん
)
に
対
(
たい
)
しては
人間
(
にんげん
)
らしい
事
(
こと
)
をいひ、
107
獣
(
けだもの
)
に
対
(
たい
)
しては
獣
(
けだもの
)
らしいことをいふのが
天地
(
てんち
)
の
道理
(
だうり
)
でせう。
108
それが
相応
(
さうおう
)
の
理
(
り
)
による
惟神
(
かむながら
)
のお
道
(
みち
)
ですよ。
109
お
前
(
まへ
)
さま、
110
それでも
普通
(
ふつう
)
の
人間
(
にんげん
)
だと
思
(
おも
)
つてゐるのかい』
111
コー『オイ、
112
あまツちよ。
113
失敬
(
しつけい
)
な
事
(
こと
)
をいふな。
114
今
(
いま
)
首
(
くび
)
のとぶ
分際
(
ぶんざい
)
でゐ
乍
(
なが
)
ら、
115
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
業託
(
ごふたく
)
を
吐
(
ほざ
)
くのだ。
116
人間
(
にんげん
)
を
超越
(
てうゑつ
)
して、
117
三間
(
さんげん
)
四間
(
しけん
)
権現
(
ごんげん
)
さまの
生
(
うま
)
れ
代
(
かは
)
りだ。
118
余
(
あま
)
り
見違
(
みちがひ
)
をすると、
119
お
為
(
ため
)
にならないぞ。
120
此
(
この
)
鉄棒
(
てつぼう
)
が
一
(
ひと
)
つ、
121
お
前
(
まへ
)
の
横
(
よこ
)
ツ
面
(
つら
)
へお
見舞
(
みまひ
)
申
(
まを
)
すが
最後
(
さいご
)
、
122
キヤツと
一声
(
ひとこゑ
)
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
別
(
わか
)
れだ。
123
好
(
す
)
きでもない
冥土
(
めいど
)
へ
死出
(
しで
)
の
旅
(
たび
)
と
出
(
で
)
かけにやならぬぞ。
124
オイそんな
馬鹿
(
ばか
)
な
考
(
かんが
)
へをすてて、
125
俺
(
おれ
)
の
言
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
り、
126
そツと
此処
(
ここ
)
を
脱
(
ぬ
)
け
出
(
だ
)
さうぢやないか。
127
そして、
128
俺
(
おれ
)
の
女房
(
にようばう
)
になる
成
(
な
)
らんは
後
(
あと
)
の
事
(
こと
)
だ。
129
ぐづぐづしとるとお
前
(
まへ
)
の
命
(
いのち
)
が
失
(
な
)
くなつちや、
130
さつきも
云
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
り
地上
(
ちじやう
)
の
損害
(
そんがい
)
だからな』
131
ダリ『ホヽヽヽヽ、
132
大
(
おほ
)
きにお
世話
(
せわ
)
さま。
133
妾
(
わたし
)
はアリーさまのお
手
(
て
)
にかかつて
殺
(
ころ
)
されるのを
無上
(
むじやう
)
の
光栄
(
くわうえい
)
としてゐますよ。
134
同
(
おな
)
じ
殺
(
ころ
)
されるにしても、
135
お
前
(
まへ
)
さまのやうな、
136
人間
(
にんげん
)
だか
狸
(
たぬき
)
だか
鼬鼠
(
いたち
)
だか
正体
(
しやうたい
)
の
分
(
わか
)
らぬ
妖怪
(
えうくわい
)
野郎
(
やらう
)
に、
137
仮令
(
たとへ
)
殺
(
ころ
)
されなくつても、
138
ゴテゴテ
云
(
い
)
はれるのが
苦
(
くる
)
しい。
139
況
(
いは
)
んや
夫婦
(
ふうふ
)
にならうの、
140
助
(
たす
)
けてやらうのと、
141
何
(
なん
)
といふ
高慢
(
かうまん
)
をつくのだい。
142
サアサア
早
(
はや
)
くお
帰
(
かへ
)
りお
帰
(
かへ
)
り。
143
こんな
所
(
とこ
)
を
船長
(
せんちやう
)
に
見付
(
みつ
)
けられたが
最後
(
さいご
)
、
144
お
前
(
まへ
)
さまの
笠
(
かさ
)
の
台
(
だい
)
が
宙空
(
ちうくう
)
に
飛
(
と
)
びますよ』
145
コー『
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
はお
前
(
まへ
)
さまと
一緒
(
いつしよ
)
に
殺
(
ころ
)
されたら
得心
(
とくしん
)
だ。
146
やがて
船長
(
せんちやう
)
が、
147
お
前
(
まへ
)
さまを
殺
(
ころ
)
しに
来
(
く
)
るだらうから、
148
どうか、
149
お
前
(
まへ
)
さま
一緒
(
いつしよ
)
に
死
(
し
)
んで
下
(
くだ
)
さらないか。
150
せめても、
151
それを
心
(
こころ
)
の
慰安
(
ゐあん
)
として、
152
どこ
迄
(
まで
)
も
冥土
(
めいど
)
のお
伴
(
とも
)
をする
積
(
つもり
)
だから』
153
ダリ『エ、
154
頭
(
あたま
)
が
痛
(
いた
)
い、
155
厭
(
いや
)
な
事
(
こと
)
をいふ
野郎
(
やらう
)
だな。
156
サアサア
早
(
はや
)
く
出
(
で
)
て
下
(
くだ
)
さい。
157
シーツ シーツ シーツ。
158
一昨日
(
をととひ
)
来
(
こ
)
ひ
一昨日
(
をととひ
)
来
(
こ
)
ひ。
159
ぐづぐづしてゐなさると
線香
(
せんかう
)
を
立
(
た
)
てますよ』
160
コー『
丸
(
まる
)
切
(
き
)
り、
161
人
(
ひと
)
を
青大将
(
あをだいしやう
)
か
蜘蛛
(
くも
)
のやうに
思
(
おも
)
つてゐるのだな。
162
箒
(
はうき
)
を
逆
(
さか
)
さまに
立
(
た
)
てて
頬冠
(
ほほかぶ
)
りをさしたつて、
163
いつかないつかな
164
此
(
この
)
コークスは
動
(
うご
)
かないのだ。
165
お
前
(
まへ
)
さまも
可
(
い
)
いかげん
我
(
が
)
を
折
(
を
)
つて、
166
ウンと
一口
(
ひとくち
)
言
(
い
)
はツしヤい。
167
ウンといふ
一声
(
ひとこゑ
)
がお
前
(
まへ
)
さまの
運
(
うん
)
の
定
(
さだ
)
め
時
(
どき
)
だ』
168
ダリ『
誰
(
たれ
)
がお
前
(
まへ
)
さま
等
(
ら
)
に
向
(
むか
)
つて、
169
ウンだのスンだのいふ
馬鹿
(
ばか
)
がありますか。
170
チツトお
前
(
まへ
)
さまの
顔
(
かほ
)
と
相談
(
さうだん
)
しなさい。
171
否
(
いな
)
知恵
(
ちゑ
)
と
相談
(
さうだん
)
なさつたが
可
(
よ
)
からう。
172
何程
(
なんぼ
)
お
前
(
まへ
)
さまが
手折
(
たを
)
らうと
思
(
おも
)
つたつて、
173
高嶺
(
たかね
)
に
咲
(
さ
)
いた
松
(
まつ
)
の
花
(
はな
)
だ
程
(
ほど
)
に、
174
スツパリと
諦
(
あきら
)
めて、
175
釜
(
かま
)
たきなつとやりなさい。
176
お
前
(
まへ
)
さまの
顔
(
かほ
)
は
猿
(
さる
)
によく
似
(
に
)
てゐる。
177
猿猴
(
ゑんこう
)
が
水
(
みづ
)
にうつつた
月
(
つき
)
を
掴
(
つか
)
まうとするやうな
非望
(
ひばう
)
を
止
(
や
)
めて、
178
船長殿
(
せんちやうどの
)
に
忠実
(
ちうじつ
)
にお
仕
(
つか
)
へなさい。
179
そしたら
又
(
また
)
正
(
しやう
)
月
(
ぐわつ
)
になつたら、
180
おくびなりの
餅
(
もち
)
の
一切
(
ひとき
)
れや
二切
(
ふたき
)
れは
食
(
く
)
はして
貰
(
もら
)
はうとママですよ、
181
ホヽヽヽ』
182
コークスは
到底
(
たうてい
)
言論
(
げんろん
)
ではダメだ、
183
直接
(
ちよくせつ
)
行動
(
かうどう
)
に
限
(
かぎ
)
ると
決心
(
けつしん
)
したものか、
184
猛虎
(
まうこ
)
の
勢
(
いきほひ
)
を
出
(
だ
)
して、
185
矢庭
(
やには
)
にダリヤを
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
捻
(
ね
)
ぢ
伏
(
ふ
)
せ、
186
「オチコ、
187
ウツトコ、
188
ハテナ」を
決行
(
けつかう
)
せむとした。
189
ダリヤは
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
の
声
(
こゑ
)
を
絞
(
しぼ
)
つて「アレー
助
(
たす
)
けてくれ
助
(
たす
)
けてくれ」と
身
(
み
)
をもだえ
乍
(
なが
)
ら、
190
生命
(
いのち
)
限
(
かぎ
)
りに
叫
(
さけ
)
んだ。
191
船長
(
せんちやう
)
のアリーは、
192
折節
(
をりふし
)
監禁室
(
かんきんしつ
)
の
前
(
まへ
)
を
通
(
とほ
)
り、
193
怪
(
あや
)
しき
声
(
こゑ
)
がすると
思
(
おも
)
つてドアに
手
(
て
)
をかくれば、
194
何者
(
なにもの
)
かが
已
(
すで
)
に
入
(
はい
)
つてるとみえ、
195
かぎもかけずにパツと
開
(
あ
)
いた。
196
みれば
右
(
みぎ
)
の
有様
(
ありさま
)
である。
197
アリーは
懐剣
(
くわいけん
)
を
閃
(
ひらめ
)
かして、
1971
後
(
うしろ
)
からコークスの
背部
(
はいぶ
)
を
骨
(
ほね
)
も
通
(
とほ
)
れとつきさした。
198
コークスはアツと
悲鳴
(
ひめい
)
をあげ、
199
空
(
くう
)
を
掴
(
つか
)
んで
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
黒血
(
くろち
)
を
吐
(
は
)
いて
倒
(
たふ
)
れて
了
(
しま
)
つた。
200
アリ『ダリヤさま、
201
危
(
あやふ
)
い
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
いましたな』
202
ダリ『ハイ、
203
誰
(
たれ
)
かと
思
(
おも
)
へば
船長
(
せんちやう
)
さまで
厶
(
ござ
)
いましたか。
204
よう
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいました。
205
あなたの
折角
(
せつかく
)
のお
楽
(
たの
)
しみを、
206
此奴
(
こやつ
)
が
横領
(
わうりやう
)
せむとし、
207
乱暴
(
らんばう
)
に
及
(
およ
)
んだ
所
(
ところ
)
、
208
折
(
をり
)
よく
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいまして、
209
先
(
ま
)
づあなたの
為
(
ため
)
には
好都合
(
かうつがふ
)
で
厶
(
ござ
)
いましたね。
210
私
(
わたし
)
は
貴方
(
あなた
)
のお
手
(
て
)
にかかつて
死
(
し
)
なねばならぬ
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
でございますから、
211
あなたが、
212
私
(
わたし
)
を
嬲
(
なぶり
)
殺
(
ごろし
)
にして、
213
お
楽
(
たの
)
しみなさるのを、
214
私
(
わたし
)
も
楽
(
たの
)
しみにしてまつてゐたのでございますよ』
215
アリ『ダリヤさま、
216
私
(
わたし
)
も
心機
(
しんき
)
一転
(
いつてん
)
しました。
217
どうぞ
卑怯者
(
ひけふもの
)
と
笑
(
わら
)
つて
下
(
くだ
)
さいますな。
218
デッキの
上
(
うへ
)
でも
上
(
あが
)
つて、
219
星影
(
ほしかげ
)
でも
見
(
み
)
て
楽
(
たのし
)
みませう』
220
ダリ『これは
又
(
また
)
御
(
ご
)
卑怯
(
ひけふ
)
な、
221
なぜ
一旦
(
いつたん
)
決心
(
けつしん
)
した
事
(
こと
)
を
掌
(
てのひら
)
を
返
(
かへ
)
す
如
(
ごと
)
くにお
変
(
か
)
へなさつたのですか。
222
妾
(
わたし
)
は
不賛成
(
ふさんせい
)
です。
223
サア、
224
どうぞ、
225
始
(
はじ
)
めの
御
(
ご
)
意見
(
いけん
)
の
通
(
とほ
)
り、
226
スツパリと
殺
(
ころ
)
して
下
(
くだ
)
さいませ。
227
妾
(
わたし
)
も
一旦
(
いつたん
)
死
(
し
)
を
決
(
けつ
)
した
以上
(
いじやう
)
は、
228
初心
(
しよしん
)
を
曲
(
ま
)
げるのは
心
(
うら
)
恥
(
はづか
)
しう
存
(
ぞん
)
じます。
229
貴方
(
あなた
)
が
妾
(
わたし
)
を
殺
(
ころ
)
さないのならば、
230
妾
(
わたし
)
の
方
(
はう
)
から
自刃
(
じじん
)
して
果
(
は
)
てます』
231
と
云
(
い
)
ふより
早
(
はや
)
く、
232
アリーの
懐剣
(
くわいけん
)
をもぎ
取
(
と
)
り、
233
吾
(
わが
)
喉
(
のど
)
につきあてむとする
一刹那
(
いつせつな
)
、
234
アリーは
驚
(
おどろ
)
いて、
235
其
(
そ
)
の
手
(
て
)
に
飛付
(
とびつ
)
き、
236
短刀
(
たんたう
)
をもぎとつた。
237
其
(
その
)
はづみに、
238
アリーは
自分
(
じぶん
)
の
親指
(
おやゆび
)
を
一本
(
いつぽん
)
おとして
了
(
しま
)
つた。
239
ダリヤは
驚
(
おどろ
)
いて
其
(
その
)
指
(
ゆび
)
を
拾
(
ひろ
)
ひあげ、
240
アリーの
手
(
て
)
にひつつけ、
241
自分
(
じぶん
)
の
下帯
(
したおび
)
を
解
(
と
)
いて、
242
クルクルと
繃帯
(
ほうたい
)
した。
243
鮮血
(
せんけつ
)
淋漓
(
りんり
)
として
銅
(
あかがね
)
張
(
ば
)
りの
船底
(
せんてい
)
を
染
(
そめ
)
た。
244
ドアの
開
(
あ
)
いた
口
(
くち
)
から、
245
さも
流暢
(
りうちやう
)
な
歌
(
うた
)
の
声
(
こゑ
)
が
聞
(
きこ
)
えて
来
(
き
)
た。
246
アリー、
247
ダリヤの
二人
(
ふたり
)
は
耳
(
みみ
)
をすまして、
248
ゆかしげに
其
(
その
)
歌
(
うた
)
を
聞
(
き
)
いてゐる。
249
イルク
『ハルの
湖水
(
こすい
)
の
小波
(
さざなみ
)
よする
250
スガの
港
(
みなと
)
の
片
(
かた
)
ほとり
251
薬
(
くすり
)
を
四方
(
よも
)
にひさぎつつ
252
彼方
(
あなた
)
此方
(
こなた
)
とかけめぐり
253
妹
(
いもうと
)
の
所在
(
ありか
)
を
尋
(
たづ
)
ねむと
254
神
(
かみ
)
に
願
(
ねがひ
)
をかけまくも
255
畏
(
かしこ
)
き
恵
(
めぐみ
)
の
御
(
おん
)
露
(
つゆ
)
に
256
浴
(
よく
)
せむものとハルの
湖
(
うみ
)
257
彼方
(
あなた
)
此方
(
こなた
)
とかけめぐり
258
何
(
いづ
)
れの
船
(
ふね
)
を
調
(
しら
)
べても
259
恋
(
こひ
)
しきいとしき
吾
(
わが
)
妹
(
いもうと
)
の
260
影
(
かげ
)
だに
見
(
み
)
えぬ
悲
(
かな
)
しさに
261
天
(
てん
)
に
哭
(
こく
)
し
地
(
ち
)
に
歎
(
なげ
)
き
262
波切丸
(
なみきりまる
)
の
甲板
(
かんばん
)
に
263
涙
(
なみだ
)
を
絞
(
しぼ
)
る
折
(
をり
)
もあれ
264
三五教
(
あななひけう
)
の
神司
(
かむつかさ
)
265
梅公別
(
うめこうわけ
)
の
神徳
(
しんとく
)
に
266
今
(
いま
)
は
包
(
つつ
)
まれ
吾
(
わが
)
母
(
はは
)
や
267
行方
(
ゆくへ
)
も
知
(
し
)
れぬ
妹
(
いもうと
)
の
268
只
(
ただ
)
冥福
(
めいふく
)
を
祈
(
いの
)
りつつ
269
家
(
いへ
)
に
帰
(
かへ
)
れば
改
(
あらた
)
めて
270
三五教
(
あななひけう
)
の
大神
(
おほかみ
)
を
271
斎
(
いつき
)
まつりて
遠近
(
をちこち
)
の
272
世人
(
よびと
)
救
(
すく
)
はむ
吾
(
わが
)
覚悟
(
かくご
)
273
うべなひ
給
(
たま
)
へ
惟神
(
かむながら
)
274
皇
(
すめ
)
大神
(
おほかみ
)
の
御
(
おん
)
前
(
まへ
)
に
275
畏
(
かしこ
)
み
敬
(
うやま
)
ひねぎまつる
276
大日
(
おほひ
)
は
照
(
て
)
る
共
(
とも
)
曇
(
くも
)
る
共
(
とも
)
277
月
(
つき
)
はみつとも
虧
(
か
)
くる
共
(
とも
)
278
救
(
すく
)
ひの
神
(
かみ
)
に
身
(
み
)
を
任
(
まか
)
せ
279
救
(
すく
)
ひの
船
(
ふね
)
に
乗
(
の
)
せられて
280
浮世
(
うきよ
)
を
渡
(
わた
)
る
身
(
み
)
にしあれば
281
如何
(
いか
)
なる
悩
(
なや
)
みの
来
(
きた
)
る
共
(
とも
)
282
恐
(
おそ
)
るる
事
(
こと
)
のあるべきや
283
あゝさり
乍
(
なが
)
ら
妹
(
いもうと
)
は
284
ウラルの
神
(
かみ
)
の
御教
(
みをしへ
)
を
285
朝
(
あさ
)
な
夕
(
ゆふ
)
なに
諾
(
うべ
)
なひて
286
身
(
み
)
の
幸
(
さち
)
はひを
祈
(
いの
)
りしが
287
いかなる
魔神
(
まがみ
)
の
計
(
はか
)
らひか
288
島
(
しま
)
の
遊
(
あそ
)
びの
帰
(
かへ
)
り
路
(
ぢ
)
に
289
心
(
こころ
)
も
荒
(
あら
)
き
海賊
(
かいぞく
)
の
290
群
(
むれ
)
におそはれ
其
(
その
)
行方
(
ゆくへ
)
291
命
(
いのち
)
のほども
計
(
はか
)
られず
292
悲
(
かな
)
しき
破目
(
はめ
)
と
成
(
なり
)
果
(
は
)
てぬ
293
日頃
(
ひごろ
)
信
(
しん
)
ずるウラル
教
(
けう
)
の
294
神
(
かみ
)
を
祈
(
いの
)
りて
妹
(
いもうと
)
の
295
なやみを
救
(
すく
)
ひ
助
(
たす
)
けむと
296
家
(
いへ
)
のなりはひ
打
(
うち
)
すてて
297
彼方
(
あなた
)
此方
(
こなた
)
とさまよへる
298
吾
(
わが
)
心根
(
こころね
)
を
知
(
し
)
らせたい
299
何処
(
いづこ
)
の
人
(
ひと
)
の
憐
(
あはれ
)
みを
300
うけて
命
(
いのち
)
を
保
(
たも
)
つやら
301
但
(
ただ
)
しはあの
世
(
よ
)
に
落
(
おち
)
ゆきしか
302
心
(
こころ
)
許
(
もと
)
なき
吾
(
わが
)
思
(
おも
)
ひ
303
恵
(
めぐ
)
ませ
給
(
たま
)
へ
大御神
(
おほみかみ
)
304
救
(
すく
)
はせ
給
(
たま
)
へ
三五
(
あななひ
)
の
305
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのを
)
の
大神
(
おほかみ
)
の
306
御前
(
みまへ
)
にすがり
奉
(
たてまつ
)
る』
307
と
歌
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
308
チクリチクリと
此方
(
こなた
)
に
向
(
むか
)
つて
近
(
ちか
)
より
来
(
きた
)
る。
309
ダリヤ
姫
(
ひめ
)
はどこやらに
聞覚
(
ききおぼえ
)
のある
声
(
こゑ
)
だなア……とアリーの
負傷
(
ふしやう
)
を
介抱
(
かいはう
)
し
乍
(
なが
)
ら、
310
耳
(
みみ
)
を
傾
(
かたむ
)
けてゐたが、
311
いよいよ
兄
(
あに
)
のイルクと
確信
(
かくしん
)
し、
312
監禁室
(
かんきんしつ
)
の
中
(
なか
)
から、
313
細
(
ほそ
)
い
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
して、
314
ダリ『モシ
315
貴方
(
あなた
)
はお
兄
(
あに
)
イさまぢや
厶
(
ござ
)
いませぬか。
316
妾
(
わたし
)
はダリヤで
厶
(
ござ
)
いますが』
317
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
にイルクは
狂喜
(
きやうき
)
し
乍
(
なが
)
ら、
318
ドアのすきから
室内
(
しつない
)
を
覗
(
のぞ
)
き
込
(
こ
)
み、
319
アツと
云
(
い
)
つたきり
少時
(
しばし
)
は
声
(
こゑ
)
さへ
発
(
はつ
)
し
得
(
え
)
なかつた。
320
ダリ『お
兄
(
あに
)
いさま、
321
最前
(
さいぜん
)
のお
歌
(
うた
)
を
聞
(
き
)
きますれば、
322
不束
(
ふつつか
)
な
妹
(
いもうと
)
をすて
給
(
たま
)
はず、
323
家業
(
かげふ
)
を
他所
(
よそ
)
にして、
324
妾
(
わたし
)
の
所在
(
ありか
)
を
捜
(
さが
)
してゐて
下
(
くだ
)
さつたさうですが、
325
そんな
親切
(
しんせつ
)
なお
心
(
こころ
)
とは
知
(
し
)
らず、
326
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
腹違
(
はらちがひ
)
の
兄
(
あに
)
さまの
様
(
やう
)
に
思
(
おも
)
ひ、
327
おろそかに
致
(
いた
)
してゐました
妾
(
わたし
)
の
罪
(
つみ
)
を
許
(
ゆる
)
して
下
(
くだ
)
さい。
328
そんな
清
(
きよ
)
い
美
(
うる
)
はしいお
心
(
こころ
)
を
知
(
し
)
らず、
329
僻
(
ひがみ
)
根性
(
こんじやう
)
を
出
(
だ
)
して、
330
お
恨
(
うら
)
み
申
(
まを
)
し、
331
いつも
憂
(
うさ
)
はらしに
島
(
しま
)
へ
遊覧
(
いうらん
)
に
行
(
い
)
つた、
3311
その
帰
(
かへ
)
りに、
332
冥罰
(
めいばつ
)
が
当
(
あた
)
つて、
3321
海賊
(
かいぞく
)
に
捉
(
とら
)
へられ、
333
かやうな
所
(
ところ
)
に
押込
(
おしこ
)
められ、
334
ここに
殺
(
ころ
)
されてるコークスといふ
悪性
(
あくしやう
)
男
(
をとこ
)
に
操
(
みさを
)
を
破
(
やぶ
)
られむとしてる
所
(
ところ
)
を、
335
此
(
この
)
船長
(
せんちやう
)
さまに
救
(
すく
)
はれた
所
(
ところ
)
で
厶
(
ござ
)
います。
336
どうぞ
兄
(
にい
)
さまから
船長
(
せんちやう
)
様
(
さま
)
へ、
337
宜
(
よろ
)
しく
御
(
お
)
礼
(
れい
)
を
云
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ』
338
イルク『あゝさうであつたか、
339
怖
(
こは
)
い
所
(
ところ
)
だつたな。
340
イヤ
船長
(
せんちやう
)
さま、
341
どうも
妹
(
いもうと
)
が
大
(
いか
)
い
御
(
お
)
世話
(
せわ
)
になりました。
342
何
(
なに
)
からお
礼
(
れい
)
を
申
(
まを
)
してよいやら、
343
余
(
あま
)
り
有難
(
ありがた
)
くつて、
344
お
礼
(
れい
)
の
言葉
(
ことば
)
も
存
(
ぞん
)
じませぬ』
345
アリ『イヤ
決
(
けつ
)
して、
346
私
(
わたし
)
はダリヤを
助
(
たす
)
けるやうな
良
(
い
)
い
心
(
こころ
)
は
有
(
も
)
つてゐなかつたのですが、
347
何
(
なん
)
だか
不思議
(
ふしぎ
)
なもので、
348
つい
助
(
たす
)
ける
気
(
き
)
になつたのですよ。
349
貴方
(
あなた
)
のお
父
(
とう
)
さまは、
350
私
(
わたし
)
の
仇敵
(
あだかたき
)
、
351
何
(
なん
)
とかして
仇
(
かたき
)
を
打
(
う
)
ちたいと
思
(
おも
)
ひ、
352
たうとう
海賊
(
かいぞく
)
になつて
敵討
(
かたきうち
)
の
時機
(
じき
)
を
狙
(
ねら
)
つてゐたのです。
353
然
(
しか
)
る
処
(
ところ
)
手下
(
てした
)
のコークスが
貴方
(
あなた
)
の
妹
(
いもうと
)
を
甘
(
うま
)
く
生捕
(
いけど
)
つて
来
(
き
)
てくれたので、
354
せめては
此
(
この
)
娘
(
むすめ
)
を
殺
(
ころ
)
し、
355
亡父
(
ぼうふ
)
の
霊魂
(
れいこん
)
を
聊
(
いささ
)
か
慰
(
なぐさ
)
めたいと
思
(
おも
)
ひ、
356
ダリヤさまを
殺
(
ころ
)
す
計画
(
けいくわく
)
をきめたのですが、
357
余
(
あま
)
り
立派
(
りつぱ
)
なお
志
(
こころざし
)
と
其
(
その
)
落
(
おち
)
ついた
挙動
(
きよどう
)
に
感服
(
かんぷく
)
し、
358
今
(
いま
)
は
全
(
まつた
)
く
恨
(
うらみ
)
も
何
(
なに
)
もサラリと
晴
(
は
)
れて、
359
却
(
かへ
)
つてダリヤさまのお
味方
(
みかた
)
をするやうになつたのです。
360
それのみならず、
361
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り、
362
拇指
(
おやゆび
)
を
切
(
きり
)
落
(
おと
)
し、
363
困
(
こま
)
つてゐた
所
(
ところ
)
、
364
ダリヤさまの
介抱
(
かいはう
)
で
漸
(
やうや
)
くウヅキも
止
(
と
)
まり、
365
却
(
かへつ
)
て
御
(
お
)
礼
(
れい
)
は
私
(
わたし
)
の
方
(
はう
)
から
申
(
まをし
)
上
(
あ
)
げねばならないのです』
366
と
自分
(
じぶん
)
の
母
(
はは
)
のアンナが、
367
イルクの
父
(
ちち
)
に
無理
(
むり
)
往生
(
わうじやう
)
に
操
(
みさを
)
を
破
(
やぶ
)
らせられ、
368
泣
(
な
)
きの
涙
(
なみだ
)
で
女房
(
にようばう
)
になつたことや、
369
又
(
また
)
自分
(
じぶん
)
の
父
(
ちち
)
が
之
(
これ
)
を
恨
(
うら
)
んでハルの
湖
(
うみ
)
に
身
(
み
)
を
投
(
な
)
げて
死
(
し
)
んだことなどを、
370
涙
(
なみだ
)
と
共
(
とも
)
に
物語
(
ものがた
)
つた。
371
イルクは
始終
(
しじう
)
の
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
いて、
372
深
(
ふか
)
い
吐息
(
といき
)
をつき
乍
(
なが
)
ら
黙然
(
もくぜん
)
として
二人
(
ふたり
)
の
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
つめてゐた。
373
之
(
これ
)
よりアリーは
梅公
(
うめこう
)
の
懇篤
(
こんとく
)
なる
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
を
受
(
う
)
け、
374
悪心
(
あくしん
)
を
翻
(
ひるがへ
)
し、
375
海賊
(
かいぞく
)
をサラリと
止
(
や
)
め、
376
此
(
この
)
湖水
(
こすい
)
を
渡航
(
とかう
)
する
船客
(
せんきやく
)
の
守
(
まも
)
り
神
(
がみ
)
となつて、
377
其
(
その
)
美名
(
びめい
)
を
永
(
なが
)
く
世
(
よ
)
に
謳
(
うた
)
はれた。
378
翌日
(
よくじつ
)
の
夕暮
(
ゆふぐれ
)
頃
(
ごろ
)
、
379
波切丸
(
なみきりまる
)
は
無事
(
ぶじ
)
にスガの
港
(
みなと
)
へ
横着
(
よこづ
)
けとなりにけり。
380
(
大正一三・一二・二
新一二・二七
於祥雲閣
松村真澄
録)
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(B)
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【第9章 ダリヤの香|第67巻|山河草木|霊界物語|/rm6709】
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