霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二章 折衝戦(せつしようせん)〔一七六九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第70巻 山河草木 酉の巻 篇:第1篇 花鳥山月 よみ(新仮名遣い):かちょうさんげつ
章:第2章 折衝戦 よみ(新仮名遣い):せっしょうせん 通し章番号:1769
口述日:1925(大正14)年08月23日(旧07月4日) 口述場所:丹後由良 秋田別荘 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年10月16日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
キューバーは、大足別の使者と称してトルマン城にやってきて、スコブツエン宗に国を挙げて改宗しなければ、軍隊を差し向ける、と脅す。
王をはじめ左守フーラン・右守スマンヂーら重臣が集まり、善後策を協議していた。
王妃千草姫・右守は慎重派であったが、主戦派の王と左守は慎重論を受け入れない。右守はかえって王妃と不義の疑いを受けてしまう。そして王と左守は戦の準備を始めてしまったのであった。
キューバーは護衛を引き連れて城の奥に入り来たり、返答を強要する。千草姫はキューバーをなだめ置いて時間を稼ぎ、一方右守は再び王と左守に慎重論を採るよう、説得に走る。
しかし、右守は王の逆鱗に触れ、手打ちとなり絶命してしまう。
千草姫は形成不穏を感じ、キューバーを釘付けにするためにキューバーを密室に伴った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:4850 OBC :rm7002
愛善世界社版:22頁 八幡書店版:第12輯 397頁 修補版: 校定版:22頁 普及版:11頁 初版: ページ備考:
001 トルマン城(じやう)の会議室(くわいぎしつ)には、002王(わう)のガーデンを始(はじ)め、003王妃(わうひ)千草(ちぐさ)、004左守司(さもりのかみ)フーラン、005右守司(うもりのかみ)スマンヂーの首脳部(しゆなうぶ)が首(くび)を鳩(あつ)めてヒソビソ重要(ぢうえう)会議(くわいぎ)を開(ひら)いてゐる。
006ガーデン『エー、007左守(さもり)、008右守(うもり)の両人(りやうにん)、009突然(とつぜん)重大(ぢうだい)問題(もんだい)が勃発(ぼつぱつ)したので、010汝(なんぢ)等(ら)両人(りやうにん)を急使(きふし)を以(もつ)て引寄(ひきよ)せたのだが、011其(その)方(はう)の智慧(ちゑ)を貸(か)して貰(もら)ひたい。012トルマン国(ごく)にとつては国家(こくか)興亡(こうばう)の一大事(いちだいじ)だから……』
013 左守(さもり)右守(うもり)は一度(いちど)にハツと頭(かうべ)を下(さ)げ、014畏(かしこ)まつて、015王(わう)の第二(だいに)の発言(はつげん)を待(ま)つてゐる。016王(わう)は目(め)をしばたたき乍(なが)ら、
017『外(ほか)でもないが、018昨夜(さくよ)半(なか)頃(ごろ)頻(しき)りに門戸(もんこ)を叩(たた)く者(もの)あり。019門番(もんばん)のタマ、020タルの両人(りやうにん)よりの急使(きふし)に仍(よ)り、021寝所(しんじよ)を立出(たちい)で、022応接間(おうせつま)に至(いた)り見(み)れば、023大足別(おほだるわけ)将軍(しやうぐん)の使者(ししや)と称(しよう)し、024此(この)頃(ごろ)淫祠(いんし)邪教(じやけう)を、025吾(わが)国内(こくない)に布教(ふけう)宣伝(せんでん)致(いた)し居(を)るスコブツエン宗(しう)のキユーバーと申(まを)す妖僧(えうそう)、026吾(わが)面前(めんぜん)をも憚(はばか)らず威丈高(ゐだけだか)となり、027……貴国(きこく)は従来(じゆうらい)ウラル教(けう)を奉(ほう)じ、028国政(こくせい)の補助(ほじよ)となし居(を)らるる由(よし)、029最早(もはや)命脈(めいみやく)の絶(た)えたるウラル教(けう)を以(もつ)て、030人心(じんしん)を収(をさ)めむとするは危険(きけん)此(この)上(うへ)なかるべし。031此(この)度(たび)大足別(おほだるわけ)将軍(しやうぐん)、032大黒主(おほくろぬし)の大命(たいめい)を奉(ほう)じ、033印度(いんど)七千(しちせん)余国(よこく)をスコブツエン宗(しう)に改宗(かいしう)せしむとの御(ご)上意(じやうい)、034天下(てんか)万民(ばんみん)を塗炭(とたん)の苦(く)より救(すく)ひ、035安養(あんやう)浄土(じやうど)に蘇生(そせい)せしめむとの有難(ありがた)き御心(みこころ)なれば、036謹(つつし)んでお受(う)けなされ。037万一(まんいち)違背(ゐはい)に及(およ)ばば、038仁義(じんぎ)の軍(ぐん)は忽(たちま)ち虎狼(こらう)の爪牙(さうが)を現(あら)はし、039トルマン城(じやう)を屠(ほふ)り、040王(わう)を始(はじ)め、041一般(いつぱん)民衆(みんしう)の目(め)をさまし呉(く)れむ。042王(わう)の御(ご)答弁(たふべん)如何(いかん)に依(よ)つて、043国家(こくか)の安危(あんき)の分(わか)るる所(ところ)、044速(すみやか)に返答(へんたふ)召(め)され……との強談(がうだん)、045其(その)暴状(ばうじやう)は言語(げんご)に絶(ぜつ)し、046立腹(りつぷく)の余(あま)り卒倒(そつたう)せむ許(ばか)りに存(ぞん)じたが、047いや待(ま)て少時(しばし)、0471何(なん)とか斯(か)とか此(この)場(ば)の言葉(ことば)を濁(にご)し、048汝(なんぢ)重臣(ぢうしん)共(ども)に親(した)しく協議(けふぎ)を遂(と)げ、049其(その)上(うへ)諾否(だくひ)を決(けつ)せむと、050キユーバーに向(むか)ひ、051三日間(みつかかん)の猶予(いうよ)を与(あた)ふべく申(まをし)渡(わた)せし所(ところ)、052彼(かれ)妖僧(えうそう)の勢(いきほひ)、053仲々(なかなか)猛烈(まうれつ)にして、054首(くび)を左右(さいう)に振(ふ)り、055……只今(ただいま)返答(へんたふ)承(うけたま)はらむ……との厳談(げんだん)、056仮(かり)にも一国(いつこく)の主権者(しゆけんしや)が、057僅(わづか)一人(ひとり)の妖僧(えうそう)に圧迫(あつぱく)さるべき理由(りいう)なし。058さり乍(なが)ら、059只(ただ)一言(いちごん)の下(もと)に叱咤(しつた)せむか、060彼(かれ)は時(とき)を移(うつ)さず、061大足別(おほだるわけ)の軍(ぐん)を率(ひき)ゐて当城(たうじやう)を十重(とへ)二十重(はたへ)に取囲(とりかこ)まむず鼻息(はないき)062残念(ざんねん)乍(なが)ら、0621千言(せんげん)万語(ばんご)を費(つひや)し、063一(いち)日(にち)の猶予(いうよ)を請(こ)ひ、064返答(へんたふ)すべき事(こと)に致(いた)しておいた。065左守(さもり)066右守(うもり)殿(どの)、067如何(いかが)致(いた)さば可(よ)からうかな』
068左守(さもり)『何事(なにごと)かと存(ぞん)じ、069取(と)る物(もの)も取(と)り敢(あへ)ず、070登城(とじやう)致(いた)し、071承(うけたま)はれば容易(ようい)ならざる出来事(できごと)で御座(ござ)ります。072仮(かり)にも一天(いつてん)万乗(ばんじやう)の国王(こくわう)殿下(でんか)に対(たい)し、073素性(すじやう)も分(わか)らぬ怪僧(くわいそう)の暴言(ばうげん)、074聞捨(ききすて)なり申(まを)さぬ。075最早(もはや)此(この)上(うへ)は折衝(せつしやう)も答弁(たふべん)も無用(むよう)で御座(ござ)ります。076速(すみやか)に国内(こくない)の兵(へい)を集(あつ)め、077大足別(おほだるわけ)の軍勢(ぐんぜい)を殲滅(せんめつ)致(いた)し、078国家(こくか)の災(わざはひ)を艾除(がいぢよ)致(いた)したく存(ぞん)じます』
079王(わう)『成程(なるほど)、080汝(なんぢ)が言(げん)、081余(よ)の意(い)に叶(かな)へたり。082サア、083一刻(いつこく)も早(はや)く募兵(ぼへい)の用意(ようい)を致(いた)せ。084城内(じやうない)の兵士(へいし)にも厳命(げんめい)を下(くだ)し、085防備(ばうび)の用意(ようい)に取(とり)かからしめよ』
086左守(さもり)『ハイ、087殿下(でんか)の御(ご)上意(じやうい)、088謹(つつし)んで御(お)受(う)け致(いた)します。089右守(うもり)殿(どの)、090貴殿(きでん)は一刻(いつこく)も早(はや)く国内(こくない)に伝令使(でんれいし)を派(は)し、091国家(こくか)の危急(ききふ)を救(すく)ふべく軍隊(ぐんたい)をお集(あつ)めなさい』
092右守(うもり)『これはこれは左守(さもり)殿(どの)のお言葉(ことば)とも覚(おぼ)えぬ。093左様(さやう)な無謀(むぼう)な戦(たたかひ)を致(いた)して、094天壤(てんじやう)無窮(むきう)のトルマン国(ごく)を亡(ほろ)ぼす左守(さもり)殿(どの)の拙策(せつさく)。095最早(もはや)かくなる上(うへ)は、096暫時(ざんじ)キユーバーの意見(いけん)に従(したが)ひ、097王家(わうけ)を始(はじ)め、098国民(こくみん)一般(いつぱん)、099彼(かれ)が唱(とな)ふる宗旨(しうし)に帰順(きじゆん)せば、100天下(てんか)は無事(ぶじ)泰平(たいへい)、101国民(こくみん)は塗炭(とたん)の苦(く)より免(まぬが)れ、102仁君(じんくん)と仰(あふ)がれ給(たま)ふで御座(ござ)らう。103万々一(まんまんいち)雲霞(うんか)の如(ごと)き大軍(たいぐん)を向方(むかふ)へ廻(まは)し、104全敗(ぜんぱい)の憂目(うきめ)に会(あ)はば105万劫(まんご)末代(まつだい)取返(とりかへ)しのつかざる大失敗(だいしつぱい)で御座(ござ)らう。106殿下(でんか)を始(はじ)め左守(さもり)殿(どの)、107此所(ここ)をトクとお考(かんが)へ下(くだ)され。108王家(わうけ)の為(ため)、109国家(こくか)の為(ため)、110右守(うもり)身命(しんめい)を賭(と)して諫言(かんげん)仕(つかまつ)ります』
111王(わう)『此(この)場(ば)に及(およ)んで、112卑怯(ひけふ)未練(みれん)な右守(うもり)の言条(いひでう)、113国帑(こくど)を消費(せうひ)して、114平素(へいそ)軍隊(ぐんたい)を養(やしな)ひおきしは何(なん)の為(ため)だ。115かかる国難(こくなん)に際(さい)し、116挙国(きよこく)一致(いつち)的(てき)活動(くわつどう)をなし、117外敵(ぐわいてき)を防(ふせ)ぐべき用意(ようい)の為(ため)ではないか。118かかる卑怯(ひけふ)未練(みれん)な魂(たましひ)を以(もつ)て、119優勝(いうしよう)劣敗(れつぱい)の現代(げんだい)、120殊(こと)に七千(しちせん)余国(よこく)の国王(こくわう)は各(おのおの)軍備(ぐんび)を整(ととの)へ、121虎視(こし)耽々(たんたん)として、122国防(こくばう)に余念(よねん)なき此(この)際(さい)、123祖先(そせん)伝来(でんらい)のウラルの神(かみ)の教(をしへ)を放擲(はうてき)する如(ごと)きは124神(かみ)の威厳(ゐげん)を損(そこな)ひ破(やぶ)り、125御(ご)無礼(ぶれい)此(この)上(うへ)なく、126却(かへつ)て国家(こくか)の滅亡(めつぼう)を早(はや)めるであらう。127此(この)トルマン国(ごく)はウラルの神(かみ)の厚(あつ)き守護(しゆご)あり、128何(なに)を苦(くるし)んで、129かかる妖教(えうけう)に腰(こし)を曲(ま)げむ。130しつかりと性根(しやうね)を据(す)えて、131所存(しよぞん)の臍(ほぞ)を固(かた)めよ』
132右(う)『君(きみ)の仰(あふ)せでは御座(ござ)いまするが、133此(この)際(さい)余程(よほど)冷静(れいせい)にお考(かんが)へを願(ねが)はねばなりませぬ。134取返(とりかへ)しのつかぬ事(こと)で御座(ござ)いますから』
135王(わう)『然(しか)らば汝(なんぢ)の意見(いけん)は、136何(ど)うせうと云(い)ふのだ、137腹蔵(ふくざう)なく申(まを)して見(み)よ』
138右(う)『ハイ、139恐(おそ)れ乍(なが)ら申(まをし)上(あ)げます。140敵(てき)は目(め)に余(あま)る大軍(たいぐん)、141城下(じやうか)近(ちか)く押寄(おしよ)せ来(きた)る此(この)際(さい)、142遅(おく)れ走(ば)せに軍隊(ぐんたい)を召集(せうしふ)すればとて、143何(なん)の役(やく)に立(た)ちませうぞ。144城内(じやうない)の守兵(しゆへい)は僅(わづか)に五百(ごひやく)人(にん)、145敵(てき)の総勢(そうぜい)三千騎(さんぜんき)、146国内(こくない)全部(ぜんぶ)の兵員(へいゐん)を集(あつ)めた所(ところ)で、147漸(やうや)く二千(にせん)五百(ごひやく)人(にん)では御座(ござ)らぬか。148五百(ごひやく)人(にん)の兵(へい)を以(もつ)て三千(さんぜん)人(にん)の精鋭(せいえい)に当(あた)るは、149恰(あたか)も蟷螂(たうらう)の斧(をの)を揮(ふる)つて竜車(りうしや)に向(むか)ふがごときもので御座(ござ)ります。150国内(こくない)の総動員(そうどうゐん)を行(おこな)ひ、151いよいよ戦闘(せんとう)準備(じゆんび)の整(ととの)ふ迄(まで)には、152何程(なにほど)早(はや)く共(とも)三日間(みつかかん)の時日(じじつ)を要(えう)します。153さすれば、154既(すで)に既(すで)に戦争(せんそう)の済(す)んだ後(あと)、155六菖(ろくしやう)十菊(じつきく)の無駄(むだ)な仕業(しわざ)と存(ぞん)じます。156かかる見易(みやす)き道理(だうり)を無視(むし)し戦(たたか)ふに於(おい)ては、157国家(こくか)の滅亡(めつぼう)、158風前(ふうぜん)の灯火(ともしび)よりも危(あやふ)う御座(ござ)います。159何卒(なにとぞ)此(この)際(さい)右守(うもり)の進言(しんげん)を御(ご)採用(さいよう)下(くだ)さらば、160国家(こくか)の為(ため)、161実(じつ)に幸福(かうふく)と存(ぞん)じます』
162千草姫(ちぐさひめ)『王(わう)様(さま)を始(はじ)め左守(さもり)右守(うもり)殿(どの)の御(ご)意見(いけん)を承(うけたま)はれば、163何(いづ)れも御尤(ごもつと)も千万(せんばん)、164併(しか)し乍(なが)ら妾(わらは)は右守(うもり)の説(せつ)を以(もつ)て、165最(もつと)も時宜(じぎ)に適(てき)した方法(はうはふ)と考(かんが)へまする。166殿下(でんか)何卒(なにとぞ)、167右守(うもり)の説(せつ)を御(ご)採用(さいよう)あらむ事(こと)を御(お)願(ねが)ひ致(いた)しまする』
168王(わう)『馬鹿(ばか)を申(まを)せ、169其方(そち)迄(まで)が夫(をつと)の説(せつ)を抹殺(まつさつ)せむと致(いた)すか。170其方(そち)の平素(へいそ)の挙動(きよどう)は腋(ふ)に落(お)ちぬと思(おも)つてゐた。171国家(こくか)滅亡(めつぼう)の原因(げんいん)は女性(ぢよせい)にありといふ事(こと)だ。172殷(いん)の紂王(ちゆうわう)が国(くに)を失(うしな)ふたのも矢張(やはり)女性(ぢよせい)の横暴(わうばう)からだ。173女童(をんなわらべ)の知(し)る事(こと)でない、174下(さ)がり居(を)らうツ』
175と百雷(ひやくらい)の一(いち)時(じ)に落下(らくか)したる如(ごと)き怒声(どせい)、176千草姫(ちぐさひめ)は縮(ちぢ)み上(あが)つて顔色(がんしよく)蒼白(さうはく)となり、177其(その)場(ば)に慄(ふる)ひつつ倒(たふ)れて了(しま)つた。178王(わう)は此(この)有様(ありさま)を目(め)にもかけず、179尚(なほ)も言葉(ことば)を続(つづ)けて、
180『ヤ、181左守(さもり)、182最早(もはや)かうなる上(うへ)は、183余(よ)と汝(なんぢ)と両人(りやうにん)力(ちから)を併(あは)せ、184外敵(ぐわいてき)を殲滅(せんめつ)致(いた)さう。185余(よ)は之(これ)より陣頭(ぢんとう)に立(た)ち、186三軍(さんぐん)を指揮(しき)するであらう。187サ、188左守(さもり)、189其(その)準備(じゆんび)に取(とり)かかれよ』
190左(さ)『年(とし)は寄(と)つても、191武術(ぶじゆつ)を以(もつ)て鍛(きた)へた此(この)腕(うで)つ節(ぷし)、192仮令(たとへ)大足別(おほだるわけ)の軍勢(ぐんぜい)、193百万騎(ひやくまんき)を以(もつ)て押(おし)寄(よ)せ来(きた)る共(とも)、1931何(なに)かあらむ、194盤古(ばんこ)神王(しんのう)の御(ご)神力(しんりき)を頭(かしら)に頂(いただ)き、195八岐(やまた)大蛇(をろち)の悪魔(あくま)の守(まも)る大足別(おほだるわけ)が軍勢(ぐんぜい)を、196千変(せんぺん)万化(ばんくわ)の秘術(ひじゆつ)を以(もつ)て駆(か)け悩(なや)まし、197奇兵(きへい)を放(はな)つて殲滅(せんめつ)し呉(く)れむ。198いざ右守(うもり)殿(どの)、199用意(ようい)を召(め)され』
200右(う)『これは心得(こころえ)ぬ、2001御(ご)両所(りやうしよ)のお言葉(ことば)、201薪(たきぎ)に油(あぶら)を注(そそ)ぎ、202之(これ)を抱(いだ)いて火中(くわちう)に投(とう)ずる如(ごと)き危険(きけん)極(きは)まる無謀(むぼう)の抗戦(かうせん)、203いかでか功(こう)を奏(そう)せむ。204先(ま)づ先(ま)づ思(おも)ひ止(とど)まらせ給(たま)へ』
205王(わう)『左守(さもり)、206右守(うもり)の如(ごと)き逆臣(ぎやくしん)を相手(あひて)に致(いた)すな。207千草姫(ちぐさひめ)は平素(へいそ)余(よ)が目(め)をぬすみ、208右守(うもり)と……を結(むす)んでゐるといふ事(こと)は、209某々(ぼうぼう)等(ら)の注進(ちうしん)によつて、210一(いち)年(ねん)以前(いぜん)より余(よ)は承知(しようち)してゐる。211かかる逆賊(ぎやくぞく)を城内(じやうない)に放養(はうやう)するは、212恰(あたか)も虎(とら)の子(こ)を養(やしな)ふに等(ひと)しからむ。213一(いち)時(じ)も早(はや)く縛(しば)り上(あ)げよ』
214千草(ちぐさ)『王(わう)様(さま)のお情(なさけ)ないお言葉(ことば)、215決(けつ)して決(けつ)して妾(わらは)は左様(さやう)な疑(うたがひ)を受(う)けやうとは夢(ゆめ)にも存(ぞん)じませぬ。216良薬(りやうやく)は口(くち)に苦(にが)く、217忠言(ちうげん)は耳(みみ)に逆(さから)ふとかや。218右守(うもり)殿(どの)は王家(わうけ)の為(ため)国家(こくか)の為(ため)、219命(いのち)を捧(ささ)げて居(を)りまする。220時代(じだい)の推移(すいい)を明知(めいち)し、221政治(せいぢ)の大本(たいほん)を弁(わきま)へ居(を)る者(もの)は、222右守(うもり)をおいて外(ほか)には御座(ござ)いませぬ。223今日(こんにち)の世(よ)の中(なか)は、224余程(よほど)変(かは)つて居(を)りまする。225徒(いたづら)に旧套(きうたう)を墨守(ぼくしゆ)し、2251国家(こくか)を立(た)てむとするは愚(ぐ)の骨頂(こつちやう)で御座(ござ)います。226何者(なにもの)の誣言(ぶげん)かは存(ぞん)じませぬが、227妾(わらは)に対(たい)して不義(ふぎ)の行為(かうゐ)あるが如(ごと)く内奏(ないそう)致(いた)すとは、228言語(ごんご)道断(だうだん)、229不忠(ふちう)不義(ふぎ)の曲者(くせもの)、230かかる乱臣(らんしん)賊子(ぞくし)の言(げん)に御(お)耳(みみ)を傾(かたむ)け給(たま)はず、231妾(わらは)が進言(しんげん)を冷静(れいせい)に御(お)考(かんが)へ下(くだ)さいませ。232最早(もはや)かくなる上(うへ)は周章(しうしやう)狼狽(らうばい)も何(なん)の効果(かうくわ)もありますまい。233落(お)ちついた上(うへ)にも落(おち)ついて、234国家(こくか)百(ひやく)年(ねん)の大計(たいけい)をめぐらさねばなりますまい』
235王(わう)『汝(なんぢ)こそ、236金毛(きんまう)九尾(きうび)の霊(れい)に魅(み)せられたる亡国(ばうこく)の張本人(ちやうほんにん)だ。237綸言(りんげん)汗(あせ)の如(ごと)し、238一度(ひとたび)出(い)でては再(ふたた)び復(かへ)らず。239汝(なんぢ)が如(ごと)き亡国(ばうこく)の世迷言(よまひごと)、240聞(き)く耳(みみ)持(も)たぬ』
241と立(たち)上(あが)り、242弓矢(ゆみや)を執(と)つて、243左守(さもり)と共(とも)に立出(たちい)でむとする。244斯(か)かる所(ところ)へ、245スコブツエン宗(しう)の妖僧(えうそう)キユーバーは数十(すうじふ)人(にん)の武装(ぶさう)せる兵士(へいし)に守(まも)られ乍(なが)ら、246悠々(いういう)と現(あら)はれ来(きた)り、
247『スコブツエン宗(しう)の大棟梁(だいとうりやう)キユーバー、248大黒主(おほくろぬし)の命(めい)により、249大足別(おほだるわけ)の軍(ぐん)を率(ひき)ゐて向(むか)ふたり、250速(すみやか)に返答(へんたふ)致(いた)せツ』
251と呼(よば)はつてゐる。252千草姫(ちぐさひめ)、253右守司(うもりのかみ)は矢庭(やには)に玄関(げんくわん)に走(はし)り出(い)で、
254千草(ちぐさ)『これはこれは、255御(ご)神徳(しんとく)高(たか)き救世主(きうせいしゆ)様(さま)、256よくこそお越(こ)し下(くだ)さいました。257仁慈(じんじ)無限(むげん)の大黒主(おほくろぬし)の思召(おぼしめし)、258何条(なんでう)以(もつ)て反(そむ)きませう。259祖先(そせん)以来(いらい)のウラル教(けう)を、2591放擲(はうてき)し、260貴僧(きそう)のお言葉(ことば)に従(したが)ひ、261スコブツエン宗(しう)に国内(こくない)挙(こぞ)つてなりませう。262どうか軍隊(ぐんたい)を以(もつ)て向(むか)はせらるるは穏(おだや)かならぬ御(お)仕打(しうち)、263兵(へい)を引上(ひきあ)げ下(くだ)さいませ。264妾(わらは)が身命(しんめい)を賭(と)して、265御(お)請合(うけあひ)申(まをし)上(あ)げます』
266キユ『アハヽヽヽヽヽ、267流石(さすが)頑強(ぐわんきやう)なガーデン王(わう)も往生(わうじやう)致(いた)したか、268左守(さもり)はどうだ。269異存(いぞん)は無(な)からうか、270両人(りやうにん)の確(たしか)なる降服状(かうふくじやう)を渡(わた)して貰(もら)ひたい。271さもなくば大黒主(おほくろぬし)様(さま)272大足別(おほだるわけ)に対(たい)しても、273愚僧(ぐそう)の言訳(いひわけ)が立(た)ち申(まを)さぬ。274サ、275早(はや)く屈服状(くつぷくじやう)を御(お)渡(わた)し召(め)され』
276 斯(か)く話(はな)してゐる内(うち)に、277ガーデン王(わう)、278左守(さもり)は兵営(へいえい)に走(はし)り行(ゆ)き、2781数多(あまた)の将士(しやうし)に厳命(げんめい)を伝(つた)へ、279敵(てき)を撃退(げきたい)すべく準備(じゆんび)に取(とり)かかつてゐた。280キユーバーは王(わう)を始(はじ)め左守(さもり)は奥殿(おくでん)に戦慄(せんりつ)し、281蚤(のみ)の如(ごと)く虱(しらみ)の如(ごと)く寝所(しんじよ)に忍(しの)んでゐるものとのみ慢心(まんしん)して気(き)を許(ゆる)し、282降服状(かうふくじやう)を受取(うけと)らむと応接(おうせつ)の間(ま)にどつかと尻(しり)を卸(おろ)し、283椅子(いす)にかかり茶(ちや)を啜(すす)りつつ、
284『アハヽヽヽ、285これこれ千草姫(ちぐさひめ)殿(どの)、286右守(うもり)殿(どの)、287大黒主(おほくろぬし)の御(ご)威勢(ゐせい)は大(たい)したもので御座(ござ)らうがな。288其方(そなた)の計(はか)らひ一(ひと)つによつて、289此(この)トルマン城(じやう)も無事(ぶじ)に助(たす)かり、290耄碌爺(まうろくぢぢ)のガーデン王(わう)も、291左守(さもり)のフーランも先(ま)づ之(これ)で首(くび)がつなげると云(い)ふもの、292まづまづお目出(めで)たう存(ぞん)ずる』
293 千草姫(ちぐさひめ)は王(わう)や左守(さもり)の主戦論(しゆせんろん)者(しや)たる事(こと)を悟(さと)られては一大事(いちだいじ)、294何(なん)とかして二人(ふたり)の我(が)が折(を)れる様(やう)と、295心中(しんちう)深(ふか)く祈(いの)りつつ、296素知(そし)らぬ顔(かほ)にて、
297『キユーバー様(さま)、298貴方(あなた)はトルマン国(ごく)に対(たい)し、299救世(きうせい)の恩人(おんじん)、300億万(おくまん)年(ねん)の後(のち)迄(まで)も此(この)御恩(ごおん)は決(けつ)して忘(わす)れませぬ。301これこれ右守(うもり)殿(どの)、302王(わう)様(さま)始(はじ)め左守(さもり)其(その)他(た)の重臣(ぢうしん)に、303此(この)由(よし)を御(お)伝(つた)へ下(くだ)さい。304キユーバー様(さま)は妾(わらは)が御(ご)接待(せつたい)申(まを)して居(ゐ)るから……』
305 右守(うもり)は千草姫(ちぐさひめ)の心(こころ)を推知(すいち)し、306此(この)間(あひだ)に王(わう)及(および)左守(さもり)の心(こころ)を和(やは)らげ、307後(あと)は兎(と)も角(かく)此(この)場合(ばあひ)キユーバーを欺(あざむ)いて、308帰順(きじゆん)した如(ごと)くに見(み)せかけ、309徐(おもむろ)に策(さく)をめぐらさむと、310王(わう)の居間(ゐま)に入(い)つて見(み)れば藻脱(もぬ)けの殻(から)、311コラ大変(たいへん)と、3111軍務署(ぐんむしよ)へかけつけて見(み)れば、312既(すで)に城内(じやうない)の兵士(へいし)は武装(ぶさう)を整(ととの)へ、313王(わう)も亦(また)甲冑(かつちう)をよろひ、314槍(やり)を杖(つゑ)について、315今(いま)や、316一斉(いつせい)に総攻撃(そうこうげき)に出(い)でむとする間際(まぎは)であつた。
317右守(うもり)『若(も)し若(も)し殿下(でんか)、318話(はなし)は甘(うま)く纒(まと)まりました。319どうか暫(しばら)く御(お)待(ま)ち下(くだ)さいませ』
320王(わう)『キユーバーが降服(かうふく)致(いた)したのか、321如何(どう)纒(まと)まつたのだ』
322右守(うもり)『ハイ、323キユーバーは数十(すうじふ)の精兵(せいへい)を引連(ひきつ)れ、324厳然(げんぜん)と控(ひか)へて居(を)りまする。325それにも拘(かかは)らず、326大足別(おほだるわけ)の大軍(たいぐん)は今(いま)や返答(へんたふ)次第(しだい)によつて、327本城(ほんじやう)を屠(ほふ)らむとして居(を)りまする。328一(いち)時(じ)敵(てき)を欺(あざむ)いて、329油断(ゆだん)させ、330其(その)間(ま)に国内(こくない)の総動員(そうどうゐん)を行(おこな)ひ、331城(しろ)の内外(ないぐわい)より挟(はさみ)撃(うち)にするのが、332軍術(ぐんじゆつ)の奥(おく)の手(て)と存(ぞん)じ、333詐(いつは)つてスコブツエン宗(しう)に降伏(かうふく)致(いた)しておきました。334何卒(なにとぞ)々々(なにとぞ)武装(ぶさう)を解(と)き、335左守(さもり)殿(どの)と共(とも)にキユーバーにお会(あ)ひ下(くだ)さいませ』
336 王(わう)はクワツと怒(いか)り、
337『不忠(ふちう)不義(ふぎ)の曲者(くせもの)右守(うもり)奴(め)、338吾(わが)許(ゆる)しも無(な)く勝手(かつて)に左様(さやう)な国辱(こくじよく)的(てき)行動(かうどう)をなすとは、339鬼畜(きちく)に等(ひと)しき其(その)方(はう)、340最早(もはや)勘忍(かんにん)ならぬ、341覚悟(かくご)せよ』
342と言(い)ふより早(はや)く、343槍(やり)をしごいて、344右守(うもり)の脇腹(わきばら)に骨(ほね)も徹(とほ)れとつつ込(こ)めば、345何条(なんでう)以(もつ)て堪(たま)るべき、346右守(うもり)は其(その)場(ば)にドツと倒(たふ)れ伏(ふ)し、347虚空(こくう)を掴(つか)んで息(いき)絶(た)えて了(しま)つた。
348王(わう)『アハヽヽヽヽ、349首途(かどで)の血祭(ちまつり)に国賊(こくぞく)を誅(ちう)したのは幸先(さいさき)よし。350サ、351之(これ)より千草姫(ちぐさひめ)、352キユーバーの両人(りやうにん)を血祭(ちまつり)にせむ』
353と云(い)ひ乍(なが)ら、354左守(さもり)に軍隊(ぐんたい)を監督(かんとく)させおき、355自(みづか)ら数十(すうじふ)名(めい)の精兵(せいへい)を従(したが)へ、356応接間(おうせつま)を指(さ)して勢(いきほひ)猛(たけ)く出(い)でて行(ゆ)く。
357 千草姫(ちぐさひめ)は何(なん)となく、358形勢(けいせい)不穏(ふおん)の気(き)がしたので、359キユーバーに対(たい)し、3591秋波(しうは)を送(おく)り乍(なが)ら、360密室(みつしつ)に伴(ともな)ひ、361ドアの錠(ぢやう)を中(なか)から卸(おろ)し、362声(こゑ)を忍(しの)ばせ乍(なが)ら、363王(わう)始(はじ)め左守(さもり)の強硬(きやうかう)なる意思(いし)を伝(つた)へ、364キユーバーの身(み)の危険(きけん)なる事(こと)を告(つ)げた。365千草姫(ちぐさひめ)は決(けつ)して右守司(うもりのかみ)と醜関係(しうくわんけい)を結(むす)んでゐなかつた。366只(ただ)国家(こくか)を思(おも)ふ一念(いちねん)より、367時代(じだい)を解(かい)する彼(かれ)を厚(あつ)く信(しん)じてゐたのみである。368智慧(ちゑ)深(ふか)き千草姫(ちぐさひめ)は369仮令(たとへ)一(いち)時(じ)キユーバーを亡(ほろ)ぼす共(とも)、370後(あと)には大足別(おほだるわけ)控(ひか)へ居(を)れば、371最後(さいご)の勝利(しようり)は覚束(おぼつか)なし。372若(し)かず373キユーバーの歓心(くわんしん)を買(か)ひおき、374国家(こくか)の安泰(あんたい)を守(まも)らむには……と、375自分(じぶん)が国内(こくない)切(き)つての絶世(ぜつせい)の美人(びじん)たるを幸(さいは)ひ、376彼(かれ)を薬籠中(やくろうちう)の者(もの)として了(しま)つたのである。377暴悪(ばうあく)無道(ぶだう)のキユーバーも千草姫(ちぐさひめ)の一瞥(いちべつ)に会(あ)ふて骨(ほね)迄(まで)和(やは)らぎ、378まんまと姫(ひめ)の術中(じゆつちう)に陥(おちい)つたのは幸(かう)か不幸(ふかう)か、379神(かみ)の審判(さばき)を以(もつ)て処決(しよけつ)さるるであらう。
380(大正一四・八・二三 旧七・四 於丹後由良秋田別荘 松村真澄録)
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