霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第八章 大勝(たいしよう)〔一七七五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第70巻 山河草木 酉の巻 篇:第1篇 花鳥山月 よみ(新仮名遣い):かちょうさんげつ
章:第8章 大勝 よみ(新仮名遣い):たいしょう 通し章番号:1775
口述日:1925(大正14)年08月23日(旧07月4日) 口述場所:丹後由良 秋田別荘 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年10月16日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
太子チウインは王女チンレイ、右守の娘ハリス将軍、勇将ジャンクを従え、三五教の宣伝使照国別・照公とともに、二千五百騎を駆って、トルマン城を包囲する大足別軍を殲滅しようと、進軍してきた。
大足別は援軍が来たのを見て驚き、もはやキューバーの安否を省みず城を攻め落とすよう、命令を下した。
戦いの中、左守は奮戦の末、敵のために命を落としてしまった。大足別は左守軍の敗北につけこんで城門まで攻め寄せ、トルマン城は危機に陥る。
すると城門に千草姫・キューバーが現れ、城はすでに奪い取ったと大足別に告げる。この虚報に大足別は軍を返して、援軍を迎撃する。しかし、背後からガーデン王の守城軍が攻撃し、大足別軍ははさみ打ちにあって敗走する。
王は勝利の舞を舞うが、敗走した大足別軍が市街に火を放ち、人々の悲惨の声が聞こえてくる。照国別をこの様をみるや、まっしぐらに物見櫓に駆け上り、照公とともに天の数歌、続いて天津祝詞を奏上した。すると火災はたちまちにして静まった。
二人の活躍に、王をはじめ一同は手を打って歓喜した。
左守・右守は特別に王家の墓所に葬り、国家の守護神として祠を建て、永遠に祭祀することとなった。また、王は、照国別・照公の仁義・神徳に感じて、三五の大神を鎮祭することを誓った。
一方、王は居間にいた千草姫とキューバーを詰問するが、その場は千草姫の弁解を信じ、キューバーは許されることとなった。
キューバーは大足別が敗走したことにより、自分の立場を心配するが、千草姫=高姫は、逆にトルマン国の乗っ取り、ひいてはインドの全土の征服をもくろむ。
千草姫は後からやってきた王子、王女、ハリスらも煙に巻いてしまい、キューバーを擁護する。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:4571 OBC :rm7008
愛善世界社版:96頁 八幡書店版:第12輯 425頁 修補版: 校定版:98頁 普及版:50頁 初版: ページ備考:
001 トルマン国(ごく)の太子(たいし)チウインは002王女(わうぢよ)チンレイ、0021及(およ)びハリスの女将軍(ぢよしやうぐん)を別将(べつしやう)となし、003武勇(ぶゆう)のほまれ高(たか)きジヤンクを第一軍(だいいちぐん)の司令官(しれいくわん)と仰(あふ)ぎ、004三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)照国別(てるくにわけ)及(および)照公司(てるこうつかさ)を殿(しんがり)となし、005鉦皷(しやうこ)をうちならし、006旗差物(はたさしもの)賑々(にぎにぎ)しく、007二千(にせん)五百(ごひやく)騎(き)を従(したが)へ、008吾(わが)居城(きよじやう)を攻(せめ)囲(かこ)む大足別(おほだるわけ)の大軍(たいぐん)を殲滅(せんめつ)すべく軍歌(ぐんか)を唄(うた)ひ乍(なが)ら、009夜(よ)を日(ひ)に次(つ)いで帰(かへ)り来(く)る。010山河(さんか)草木(さうもく)威風(ゐふう)になびき、011禽獣(きんじう)虫魚(ちうぎよ)に至(いた)る迄(まで)、012其(その)威徳(ゐとく)を讃美(さんび)せざるはなかつた。013チウイン太子(たいし)は馬上(ばじやう)豊(ゆたか)に進軍歌(しんぐんか)を唄(うた)ふ。
014『トルマン国(ごく)は昔(むかし)より
015尊(たふと)き神(かみ)の造(つく)らしし
016地上(ちじやう)に於(お)ける天国(てんごく)ぞ
017吾(わが)王室(わうしつ)の祖先(そせん)等(ら)は
018民(たみ)の心(こころ)を心(こころ)とし
019神(かみ)の教(をしへ)を万民(ばんみん)に
020伝(つた)へ諭(さと)して世(よ)の中(なか)を
021いと平(たひら)けく安(やす)らけく
022治(をさ)め給(たま)ひし尊(たふと)さよ
023中(なか)つ御代(みよ)よりバラモンの
024悪(あし)き教(をしへ)のまじろひて
025愛国心(あいこくしん)は日(ひ)に月(つき)に
026春(はる)の氷(こほり)と消(き)えてゆく
027父(ちち)ガーデンもいつしかに
028時代(じだい)の風(かぜ)にもまれまし
029ウラルの神(かみ)の御教(みをしへ)を
030軽(かろ)んじ玉(たま)ふ世(よ)となりて
031政治(せいぢ)は益々(ますます)紊(みだ)れゆき
032民(たみ)の悲鳴(なげき)はかまびすく
033千鳥(ちどり)の如(ごと)く聞(きこ)え来(く)る
034アヽ吾々(われわれ)は如何(いか)にせむ
035倦(う)みつかれたる人心(じんしん)を
036雄々(をを)しき清(きよ)き雄心(をごころ)に
037復活(ふくくわつ)せしめ吾(わが)国(くに)を
038いと平(たひら)けく安(やす)らけく
039昔(むかし)の神代(かみよ)の其(その)儘(まま)に
040ねぢ直(なほ)さむと真心(まごころ)を
041尽(つく)して神(かみ)を祈(いの)る折(をり)
042バラモン教(けう)の別派(べつぱ)なる
043スコブツエン宗(しう)が渡(わた)り来(き)て
044吾(わ)が国民(こくみん)の魂(たましひ)を
045狂(くる)ひ惑(まど)はせ邪教(じやけう)をば
046植(うゑ)つけたるぞ忌々(ゆゆ)しけれ
047大黒主(おほくろぬし)の勢力(せいりよく)を
048大看板(だいかんばん)と押(おし)立(た)てて
049吾(わが)王室(わうしつ)に迫(せま)り来(く)る
050心(こころ)汚(きたな)きキユーバーを
051打(う)ち懲(こら)しつつバラモンの
052大足別(おほだるわけ)が軍勢(ぐんぜい)を
053神(かみ)の威徳(ゐとく)に打(うち)破(やぶ)り
054凱歌(がいか)を挙(あ)げて本城(ほんじやう)を
055安全(あんぜん)無事(ぶじ)に治(をさ)む迄(まで)
056死(し)す共(とも)動(うご)かぬ吾(わが)心(こころ)
057勇(いさ)めよ勇(いさ)め振(ふる)ひ起(た)て
058三千(さんぜん)余(よ)騎(き)の吾(わが)兵士(へいし)
059吾(わ)れには神(かみ)の助(たす)けあり
060産土山(うぶすなやま)の斎苑(いそ)館(やかた)
061輝(かがや)き給(たま)ふ素盞嗚(すさのを)の
062神(かみ)の尊(みこと)の御(おん)使(つかひ)
063照国別(てるくにわけ)の宣伝使(せんでんし)
064照公司(てるこうつかさ)と諸共(もろとも)に
065吾(われ)等(ら)が軍(いくさ)を助(たす)けまし
066天下(てんか)無敵(むてき)の言霊(ことたま)を
067打(うち)出(だ)し給(たま)へば敵軍(てきぐん)は
068風(かぜ)に木(こ)の葉(は)の散(ち)る如(ごと)く
069敗走(はいそう)せむは目(ま)のあたり
070進(すす)めよ進(すす)めいざ進(すす)め
071大足別(おほだるわけ)の亡(ほろ)ぶ迄(まで)
072妖僧(えうそう)キユーバーの倒(たふ)る迄(まで)』
073と声(こゑ)も涼(すず)しく鉦皷(しやうこ)法螺貝(ほらがひ)の音(ね)に和(わ)して、074鶴翼(くわくよく)の陣(ぢん)をはり乍(なが)ら、075目(め)も届(とど)かぬ大原野(だいげんや)をチクリチクリと引網(ひきあみ)の如(ごと)く、076トルマン城(じやう)を中心(ちうしん)に押寄(おしよ)せ来(きた)る。
077 照国別(てるくにわけ)は殿(しんがり)を勤(つと)め乍(なが)ら、078数百(すうひやく)の兵(へい)を引連(ひきつ)れ、079別(べつ)に一隊(いつたい)を造(つく)り、080進軍歌(しんぐんか)を歌(うた)ひつつ進(すす)み寄(よ)る。
081『三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)
082吾(われ)は照国別(てるくにわけ)司(つかさ)
083人(ひと)の命(いのち)を奪(うば)ひ合(あ)ふ
084戦(いくさ)に臨(のぞ)むは本意(ほい)ならず
085さはさり乍(なが)ら今(いま)になり
086トルマン国(ごく)の窮状(きうじやう)を
087見(み)すてて通(とほ)るも大神(おほかみ)の
088道(みち)に仕(つか)ふる吾(われ)として
089心苦(こころぐる)しき此(この)場合(ばあひ)
090止(や)むを得(え)ざれば御軍(みいくさ)に
091加(くは)はり乍(なが)ら後陣(こうぢん)を
092仕(つか)へまつりて進(すす)み行(ゆ)く
093あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
094神(かみ)は吾(われ)等(ら)と共(とも)にあり
095吾(われ)等(ら)は神(かみ)の子(こ)神(かみ)の宮(みや)
096素(もと)より刃(やいば)に血汐(ちしほ)ぬり
097敵(てき)を斃(たふ)さむ心(こころ)なし
098只(ただ)惟神(かむながら)々々(かむながら)
099神(かみ)の恵(めぐみ)の露(つゆ)の玉(たま)
100清(きよ)き心(こころ)の大砲(おほづつ)に
101つめ込(こ)み敵(てき)に相向(あひむか)ひ
102仁慈(じんじ)の鞭(むち)を下(くだ)すのみ
103進(すす)めよ進(すす)め吾(わが)兵士(へいし)
104トルマン城(じやう)は近(ちか)づきぬ
105ガーデン王(わう)や左守司(さもりがみ)
106今(いま)や防(ふせ)ぐに全心(ぜんしん)を
107傾注(けいちう)しつつ吾(わが)軍(ぐん)の
108至(いた)るを待(ま)たせ玉(たま)ふらむ
109チウイン太子(たいし)の前軍(ぜんぐん)は
110何(いづ)れも神命(しんめい)に従(したが)ひて
111左右(さいう)の指(ゆび)の其(その)如(ごと)く
112自由(じいう)自在(じざい)に活動(くわつどう)し
113容易(ようい)に敵(てき)を国外(こくぐわい)に
114放逐(はうちく)せむは目(ま)のあたり
115必(かなら)ず驚(おどろ)く事(こと)勿(なか)れ
116勇(いさ)めよ勇(いさ)め皆(みな)勇(いさ)め
117勝利(しようり)の都(みやこ)は近(ちか)づきぬ
118進(すす)めよ進(すす)めいざ進(すす)め
119大足別(おほだるわけ)が神軍(しんぐん)に
120白旗(はくき)を掲(かか)げ真心(まごころ)の
121あらむ限(かぎ)りを現(あら)はして
122正(ただ)しき神(かみ)の御教(みをしへ)に
123心(こころ)の底(そこ)より服(まつろ)ひて
124前非(ぜんび)を悔(く)ゆるそれ迄(まで)は
125汝(なんぢ)等(ら)一歩(いつぽ)も退(しりぞ)くな
126神国(しんこく)成就(じやうじゆ)の先(さき)がけぞ
127七千(しちせん)余国(よこく)の月(つき)の国(くに)
128奪(うば)ひ取(と)らむとバラモンの
129大黒主(おほくろぬし)は企(たく)めども
130吾(わが)神軍(しんぐん)のある限(かぎ)り
131いかで一指(いつし)をそめ得(え)むや
132あゝ勇(いさ)ましし勇(いさ)ましし
133吹(ふ)き来(く)る風(かぜ)はあらくとも
134トルマン川(がは)は深(ふか)くとも
135神(かみ)の守(まも)りのある上(うへ)は
136一騎(いつき)半騎(はんき)も過(あやま)たず
137無事(ぶじ)安泰(あんたい)に敵軍(てきぐん)の
138後(うしろ)を首尾(しゆび)よく突(つ)くを得(え)む
139進(すす)めよ進(すす)めいざ進(すす)め
140敵(てき)の姿(すがた)もみえかけた
141一斉(いつせい)射撃(しやげき)も目(ま)のあたり
142あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
143三五教(あななひけう)を守(まも)ります
144国治立(くにはるたち)の大御神(おほみかみ)
145神(かむ)素盞嗚(すさのを)の大神(おほかみ)の
146御前(みまへ)に照国別(てるくにわけ)司(つかさ)
147畏(かしこ)み畏(かしこ)み願(ねぎ)まつる』
148 かく歌(うた)ひ乍(なが)ら、149士卒(しそつ)を励(はげ)まし、150前後(ぜんご)に心(こころ)を配(くば)り、151チクリチクリと前進(ぜんしん)する。152大足別(おほだるわけ)は物見台(ものみだい)より此(この)体(てい)を見(み)て大(おほい)に驚(おどろ)き、
153『あれは確(たしか)に援軍(ゑんぐん)ならむ、154最早(もはや)斯(か)くなりし上(うへ)は、155キユーバー一人(ひとり)の為(ため)に時期(じき)をおくらせ、156敵(てき)の術中(じゆつちう)に陥(おちい)らむ事(こと)最(もつと)も心苦(こころぐる)し、157一(いち)時(じ)も早(はや)く本城(ほんじやう)を乗(の)り取(と)り、158援軍(ゑんぐん)の来(きた)らば城廓(じやうくわく)を盾(たて)に一人(ひとり)も残(のこ)らず鏖殺(おうさつ)しくれむ、159攻撃(こうげき)するは今(いま)なり』
160と俄(にはか)に部下(ぶか)に厳令(げんれい)を下(くだ)し、161一斉(いつせい)に筒先(つつさき)揃(そろ)へて、162トルマン城(じやう)さして潮(うしほ)の如(ごと)く押(おし)寄(よ)せた。
163 俄(にはか)に聞(きこ)ゆる鬨(とき)の声(こゑ)、164大砲(おほづつ)小銃(こづつ)の音(おと)、165待(ま)ち構(かま)へたるガーデン王(わう)、166左守司(さもりのかみ)は五百(ごひやく)の城兵(じやうへい)を指揮(しき)し、167力(ちから)限(かぎ)りに挑(いど)み戦(たたか)ふ。168左守(さもり)は頭(かしら)に霜(しも)を頂(いただ)き乍(なが)ら、169城門(じやうもん)をかけ出(だ)し、170三百(さんびやく)の手兵(しゆへい)を以(もつ)て、171敵(てき)の陣中(ぢんちう)に打(うち)入(い)り、172奪戦(ふんせん)苦闘(くとう)の結果(けつくわ)武運(ぶうん)つきて、173馬上(ばじやう)より転落(てんらく)し、174敵(てき)の為(ため)に七十(しちじふ)年(ねん)を一期(いちご)として、175帰(かへ)らぬ旅路(たびぢ)に就(つ)いた。176大足別(おほだるわけ)は勝(かち)に乗(じやう)じて表門(おもてもん)に押(おし)寄(よ)せ、177今(いま)や殆(ほとん)ど落城(らくじやう)せむとする時(とき)しも、178千草姫(ちぐさひめ)、179キユーバーの二人(ふたり)は薙刀(なぎなた)を引抱(ひつかか)へ、180表門(おもてもん)に躍(をど)り出(い)で、181大足別(おほだるわけ)を見(み)るよりキユーバーは声(こゑ)を励(はげ)まし、
182『大足別(おほだるわけ)、183暫(しばら)くまたれよ、184キユーバー司(つかさ)茲(ここ)に在(あ)り。185千草姫(ちぐさひめ)の応援(おうゑん)あらば急(いそ)ぎ玉(たま)ふな、186本城(ほんじやう)は已(すで)に吾(わが)手(て)に入(い)れり』
187と馬上(ばじやう)より大声(たいせい)叱咤(しつた)すれば、188大足別(おほだるわけ)は身(み)をかわし城門(じやうもん)を背(せ)にして、189攻(せ)め来(きた)る応援軍(おうゑんぐん)を相手(あひて)に防(ふせ)ぎ戦(たたか)ふ。190城内(じやうない)よりはガーデン王(わう)の兵(へい)数百(すうひやく)人(にん)、191砲(つつ)を揃(そろ)へて一斉(いつせい)に射撃(しやげき)を開始(かいし)し、192大足別(おほだるわけ)は前後(ぜんご)左右(さいう)に敵(てき)を受(う)け、193四方(しはう)八方(はつぱう)に194馬(うま)をすて、1941武器(ぶき)をすて、195命(いのち)からがら散乱(さんらん)した。196此(この)戦(たたかひ)に仍(よ)つて、197死(し)する者(もの)バラモン軍(ぐん)に十八(じふはち)人(にん)、198城内(じやうない)には二人(ふたり)の死者(ししや)を出(だ)したのみであつた。199チウイン太子(たいし)は敵(てき)の脆(もろ)くも逃(にげ)行(ゆ)く体(てい)を見(み)て、200此(この)際(さい)敵兵(てきへい)を追撃(つゐげき)し、201一(いち)人(にん)も残(のこ)らず屠(ほふ)りくれむと息(いき)まくを、202照国別(てるくにわけ)の忠告(ちうこく)によつて之(これ)を中止(ちうし)し、203凱歌(がいか)を奏(そう)して正々(せいせい)堂々(だうだう)、204トルマン城(じやう)に凱旋(がいせん)することとなりぬ。205ガーデン王(わう)は物見櫓(ものみやぐら)に打(うち)登(のぼ)り、206城内(じやうない)の強者(つはもの)を指揮(しき)してゐたが、207敵(てき)の無残(むざん)な敗走(はいそう)と、208チウイン太子(たいし)の雄々(をを)しき活動振(くわつどうぶり)に勇(いさ)み立(た)ち、209軍扇(ぐんせん)を開(ひら)いて櫓(やぐら)の上(うへ)にて自(みづか)ら歌(うた)ひ乍(なが)ら、210凱旋(がいせん)の祝気分(いはひきぶん)で舞(ま)ふてゐる。
211王(わう)『トルマン国(ごく)を包(つつ)みたる
212醜(しこ)の黒雲(くろくも)今(いま)晴(は)れて
213天津(あまつ)日嗣(ひつぎ)は空(そら)高(たか)く
214輝(かがや)き玉(たま)ふ目出度(めでた)さよ
215地上(ちじやう)遥(はるか)に見(み)わたせば
216都(みやこ)のまはりに敵影(てきえい)の
217一人(ひとり)も無(な)きぞ目出度(めでた)けれ
218之(これ)も全(まつた)く皇神(すめかみ)の
219御国(みくに)を守(まも)り玉(たま)はむと
220助(たす)け玉(たま)ひしものならむ
221いざ之(これ)よりは天地(あめつち)の
222神(かみ)を敬(うやま)ひ国民(くにたみ)の
223模範(もはん)となりて浦安(うらやす)の
224昔(むかし)の神代(かみよ)を建設(けんせつ)し
225大黒主(おほくろぬし)の心胆(しんたん)を
226脅(おびや)かしつつ又(また)しても
227吾(わが)神国(しんこく)に相対(あひたい)し
228敵対(てきたい)行為(かうゐ)を断念(だんねん)すべく
229守(まも)らせ玉(たま)へウラル教(けう)
230開(ひら)き玉(たま)ひし大神(おほかみ)の
231御前(みまへ)に祈(いの)り奉(たてまつ)る』
232 斯(か)くする折(をり)しも、233大足別(おほだるわけ)は道々(みちみち)市街(しがい)に火(ひ)を放(はな)ちたりと見(み)え、234夕暮(ゆふぐれ)の空(そら)、235朱(しゆ)を濺(そそ)ぐ迄(まで)、236炎(ほのほ)各所(かくしよ)にあがり、237遠近(をちこち)より悲惨(ひさん)の声(こゑ)聞(きこ)え来(く)る。238此(この)時(とき)恰(あたか)も照国別(てるくにわけ)は門内(もんない)にありしが、239之(これ)を見(み)るよりまつしぐらに物見櫓(ものみやぐら)にかけ上(のぼ)り、240照公(てるこう)と共(とも)に天(あま)の数歌(かずうた)を奏上(そうじやう)し、241天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)するや、242四方(しはう)に起(おこ)りし火災(くわさい)は忽(たちま)ち水(みづ)を打(う)ちし如(ごと)く治(をさ)まり、243再(ふたた)び聞(きこ)ゆる歓喜(くわんき)の声(こゑ)に、244ガーデン王(わう)も太子(たいし)も王女(わうぢよ)もハリスも手(て)を打(う)つて感喜(かんき)した。245王(わう)は部下(ぶか)に令(れい)を下(くだ)し、246左守(さもり)247右守(うもり)の遺骸(なきがら)を王室(わうしつ)の墓所(はかしよ)に特別(とくべつ)を以(もつ)て葬(はうむ)り、248国家(こくか)の守護神(しゆごじん)として祠(ほこら)を建(た)て、249永遠(えいゑん)に祭祀(さいし)する事(こと)とした。250又(また)チウイン太子(たいし)の奏上(そうじやう)に依(よ)り、251照国別(てるくにわけ)、252照公司(てるこうつかさ)の仁義(じんぎ)の応援(おうゑん)と、253大神(おほかみ)の神徳(しんとく)とを聞(き)き、254感謝(かんしや)の余(あま)り、255三五(あななひ)の大神(おほかみ)を鎮祭(ちんさい)せむ事(こと)を誓(ちか)ふに至(いた)つた。256王(わう)は戦塵(せんぢん)治(をさ)まり、257一先(ひとま)づ大神(おほかみ)に感謝(かんしや)し乍(なが)ら、258後(あと)の始末(しまつ)をチウイン太子(たいし)及(および)ジヤンク其(その)他(た)の重臣(ぢうしん)に命(めい)じおき、259休養(きうやう)せむと千草姫(ちぐさひめ)の居間(ゐま)に帰(かへ)り見(み)れば、260千草姫(ちぐさひめ)はキユーバーと共(とも)に、261莞爾(くわんじ)として相向(あひむか)ひ祝(いはひ)の盃(さかづき)をくみかはして居(ゐ)る。262王(わう)は見(み)るよりクワツと怒(いか)り、
263『不義者(ふぎもの)見(み)つけた、264そこ動(うご)くな』
265と手槍(てやり)を以(もつ)て立(たち)向(むか)へば266千草姫(ちぐさひめ)は王(わう)の手(て)に取(とり)付(つ)き、
267『王(わう)様(さま)、268少時(しばし)お待(ま)ち下(くだ)さいませ。269此(この)神柱(かむばしら)は決(けつ)して国(くに)に仇(あだ)する悪人(あくにん)では御座(ござ)いませぬ。270大足別(おほだるわけ)に脅迫(けうはく)され、271心(こころ)にあらぬ詐(いつは)りを申(まを)し立(た)て、272此(この)城内(じやうない)に忍(しの)び込(こ)み、273妾(わらは)に事情(じじやう)を打(うち)明(あか)し、274救(すく)ひを求(もと)めて居(ゐ)る者(もの)で御座(ござ)います。275今(いま)此(この)キユーバーをして、276神主(かむぬし)となし大神(おほかみ)に国家(こくか)安泰(あんたい)の祈願(きぐわん)をし、277凱旋(がいせん)の御(おん)礼(れい)を申(まをし)上(あ)げ、278直会(なほらひ)の神酒(みき)を頂(いただ)かせて居(を)つた処(ところ)で御座(ござ)います。279必(かなら)ず必(かなら)ず誤解(ごかい)のなき様(やう)御(お)願(ねが)ひ申(まを)し上(あ)げます』
280と落涙(らくるゐ)し乍(なが)ら言葉(ことば)さかしく弁解(べんかい)する。281ガーデン王(わう)も忠実(ちうじつ)なる姫(ひめ)の言葉(ことば)を疑(うたが)ふに由(よし)なく、282其(その)儘(まま)差許(さしゆる)す事(こと)となり、283己(おの)が居間(ゐま)へと帰(かへ)りゆく。284高姫(たかひめ)の霊(れい)と憑(うつ)り変(かは)つた千草姫(ちぐさひめ)はキユーバーに向(むか)ひ、
285『コレ、286キユーバーさま、287貴方(あなた)は本当(ほんたう)に危(あぶ)ない事(こと)で御座(ござ)いましたよ。288妾(わらは)も王(わう)様(さま)のお出(いで)になつた時(とき)は何(ど)うなる事(こと)やらと、289大変(たいへん)に心(こころ)をもみました』
290 キユーバーは慄(ふる)ひ乍(なが)ら、
291『全(まつた)くだ、292お前(まへ)の為(ため)に大切(たいせつ)な命(いのち)が助(たす)かつたのだ。293併(しか)し乍(なが)らどうだらう、294大足別(おほだるわけ)将軍(しやうぐん)は脆(もろ)くも敗走(はいそう)した様子(やうす)だし、295遠(とほ)からず私(わし)は当城(たうじやう)を追出(おひだ)さるるに違(ちが)ひない。296さうなれば恋(こひ)しいお前(まへ)と添(そ)ふ事(こと)が出来(でき)ぬ。297何(なん)とかして夜陰(やいん)に乗(じやう)じ、298此(この)城内(じやうない)を脱(ぬ)け出(だ)す心(こころ)はないか』
299千草(ちぐさ)『ホヽヽヽヽ、300キユーバー様(さま)の気(き)の弱(よわ)い事(こと)、301そんな御(ご)心配(しんぱい)がいりませうか。302王(わう)様(さま)は私(わたくし)の美貌(びばう)にゾツコン惚(ほれ)込(こ)んでゐられますよ。303貴方(あなた)は何処(どこ)までも救世主(きうせいしゆ)と名乗(なの)つて、304神(かみ)さまいぢりをしてゐて下(くだ)さいませ。305何程(なにほど)王(わう)様(さま)が御(ご)立腹(りつぷく)遊(あそ)ばさうが、306重臣(ぢうしん)が何(なん)と申(まを)さうが、307千草姫(ちぐさひめ)此(この)世(よ)にあらむ限(かぎ)りは、308貴方(あなた)様(さま)に指(ゆび)一本(いつぽん)さえさせませぬ。309暫(しばら)くは両人(りやうにん)共(とも)猫(ねこ)をかぶり、310時期(じき)の至(いた)るを待(ま)つて此(この)王城(わうじやう)を奪(うば)ひ、311七千(しちせん)余国(よこく)の覇者(はじや)とならうでは御座(ござ)いませぬか』
312キユ『成(な)る程(ほど)、313其奴(そいつ)ア面白(おもしろ)からう。314そんなら姫(ひめ)の仰(おほ)せに任(まか)せ、315此(この)城内(じやうない)に永久(えいきう)に止(とど)まる事(こと)としよう』
316千草(ちぐさ)『ハ、317さうなさいませ』
318 斯(か)く話(はな)す時(とき)しもチウイン太子(たいし)は軍功(ぐんこう)を誇(ほこ)り顔(がほ)に、319王女(わうぢよ)チンレイ及(および)右守(うもり)の娘(むすめ)ハリスと共(とも)にドアを開(ひら)いて入(いり)来(きた)り、
320『母上(ははうへ)様(さま)、321御(ご)無事(ぶじ)で御(お)目出(めで)たう御座(ござ)います。322おかげを以(もつ)て敵軍(てきぐん)を撃退(げきたい)致(いた)しました。323どうかお喜(よろこ)び下(くだ)さいませ』
324千草(ちぐさ)『ヤ、325其方(そなた)は太子(たいし)、326天晴(あつぱ)れお手柄(てがら)お手柄(てがら)。327其方(そなた)こそトルマン国(ごく)の柱石(ちうせき)、328ガーデン王(わう)の嗣子(しし)として恥(はづか)しからぬ偉丈夫(ゐぢやうぶ)だ。329サア草臥(くたびれ)ただらう、330ゆつくり休(やす)んで下(くだ)さい。331其方(そなた)はチンレイ、332ハリス、333能(よ)くマア女(をんな)の身(み)を以(もつ)て凛々(りり)しい武者振(むしやぶり)、334母(はは)も感(かん)じ入(い)りました』
335 太子(たいし)は妖僧(えうそう)キユーバーを見(み)て目(め)を丸(まる)くし乍(なが)ら、
336『母上(ははうへ)様(さま)、337此処(ここ)にゐる坊主(ばうず)はスコブツエン宗(しう)の邪教(じやけう)を開(ひら)き、338大足別(おほだるわけ)の軍勢(ぐんぜい)を導(みちび)いたる悪僧(あくそう)では御座(ござ)いませぬか。339かかる魔者(まもの)を何故(なにゆゑ)御(お)居間(ゐま)に侍(はべ)らせ、340優待(いうたい)遊(あそ)ばすのですか。341チウイン、342其(その)意(い)を得(え)ませぬ』
343千草(ちぐさ)『如何(いか)にも此(この)方(かた)はキユーバー様(さま)に違(ちが)ひない。344併(しか)し乍(なが)ら、345大足別(おほだるわけ)が手先(てさき)となり当城(たうじやう)へ談判(だんぱん)にお越(こし)になつたのも、346止(や)むを得(え)ぬ事情(じじやう)あつての事(こと)、347此(この)母(はは)がとつくとキユーバー様(さま)の心底(しんてい)を調(しら)べ、348大足別(おほだるわけ)の秘密(ひみつ)を探(さぐ)り、349キユーバー様(さま)の応援(おうゑん)によりて無事(ぶじ)に敵(てき)を撃退(げきたい)する事(こと)を得(え)たのだ。350此(この)母(はは)が保証(ほしよう)するから、351必(かなら)ず必(かなら)ず疑(うたが)うてはなりませぬぞ。352チンレイもハリスも必(かなら)ず誤解(ごかい)しちやなりませぬ。353母(はは)が証拠(しようこ)だから……』
354ハリス『ハイ、355畏(おそ)れ入(い)りまして御座(ござ)います。356太子(たいし)様(さま)、357王女(わうぢよ)様(さま)は申(まを)すに及(およ)ばず、358妾(わらは)の如(ごと)き孱弱(かよわ)き女(をんな)の身(み)として戦陣(せんぢん)に立(た)ち、359勝利(しようり)を得(え)たのも神(かみ)様(さま)の御(お)蔭(かげ)、360キユーバー様(さま)の御(ご)尽力(じんりよく)の致(いた)すところで御座(ござ)いませう。361併(しか)し乍(なが)ら吾(わが)父(ちち)右守(うもり)は如何(いかが)なりまして御座(ござ)りまするか』
362千草(ちぐさ)『右守(うもり)殿(どの)は国家(こくか)の為(ため)犠牲者(ぎせいしや)となつて国替(くにがへ)遊(あそ)ばしたよ。363キツト神(かみ)様(さま)に導(みちび)かれ、364天国(てんごく)にお出(いで)になつてゐるだらう。365必(かなら)ず必(かなら)ず心配(しんぱい)致(いた)されな。366千草姫(ちぐさひめ)が其女(そなた)の身(み)は引(ひき)うけて世話(せわ)を致(いた)すから……』
367 ハリスは『ハイ』と言(い)つたきり、368父(ちち)の死(し)を聞(き)いて驚愕(きやうがく)し、369其(その)場(ば)に気絶(きぜつ)して了(しま)つた。370チウイン太子(たいし)は水(みづ)よ薬(くすり)よと種々(しゆじゆ)手(て)を尽(つく)し、371漸(やうや)くにして息(いき)ふき返(かへ)さしめ、372吾(わが)居間(ゐま)をさしてチンレイと共(とも)に伴(つ)れ帰(かへ)り行(ゆ)く。
373(大正一四・八・二三 旧七・四 於丹後由良秋田別荘 松村真澄録)
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