霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一三章 喃悶題(なんもんだい)〔一七八〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第70巻 山河草木 酉の巻 篇:第2篇 千種蛮態 よみ(新仮名遣い):せんしゅばんたい
章:第13章 喃悶題 よみ(新仮名遣い):なんもんだい 通し章番号:1780
口述日:1925(大正14)年08月24日(旧07月5日) 口述場所:丹後由良 秋田別荘 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年10月16日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
千草姫は自分の部屋に、故・左守の妻モクレン、娘のテイラ、故・右守の娘ハリスを集め、ご馳走を振舞っている。
千草姫は、3人に自分は今日から三千世界の救世主、底津岩根の大みろくの霊体、第一霊国の天人、日の出神の生宮であると宣言する。
3人はあまりのことに顔を見合わせるが、千草姫は一人一人詰問をはじめる。
3人とも、自分の主君である王妃の言葉とて、否みがたく、絶対服従を誓ってしまう。
千草姫は、テイラにキューバーの捜索を命じ、ハリスには自分の邪魔をする太子を誘惑するように命じ、散会する。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-06-25 20:26:58 文字数:5547 OBC :rm7013
愛善世界社版:162頁 八幡書店版:第12輯 449頁 修補版: 校定版:165頁 普及版:81頁 初版: ページ備考:
001 千草姫(ちぐさひめ)は左守司(さもりのかみ)の妻(つま)モクレン同(おな)じく娘(むすめ)テイラ姫(ひめ)、002右守(うもり)の娘(むすめ)ハリスを膝下(しつか)近(ちか)く呼(よ)び寄(よ)せ、003薬籠中(やくろうちう)のものとなしおかむと、004あらゆる歓待(くわんたい)を尽(つく)してゐる。005モクレン、006テイラ、007ハリスの三(さん)人(にん)は恐(おそ)る恐(おそ)る千草姫(ちぐさひめ)の御殿(ごてん)に卓(テーブル)を囲(かこ)んで千草姫(ちぐさひめ)が心(こころ)からの馳走(ちそう)を頂(いただ)いてゐた。008千草姫(ちぐさひめ)は一同(いちどう)に向(むか)ひ、
009『これ、010モクレンさま、011其方(そなた)は国家(こくか)の為(ため)に一命(いちめい)を捨(す)てた左守(さもり)様(さま)の奥様(おくさま)だから、012女(をんな)とは云(い)へトルマン国(ごく)にとつては国家(こくか)の柱石(ちうせき)、013誰(たれ)よりも彼(か)よりも大切(たいせつ)にせなくてはならない方(かた)だから、014今後(こんご)も国家(こくか)のため妾(わたし)と共(とも)に十分(じふぶん)の力(ちから)を尽(つく)して下(くだ)さいや』
015モクレン『ハイ、016有(あ)り難(がた)き姫(ひめ)様(さま)のお言葉(ことば)では御座(ござ)りまするが、017お見(み)かけ通(どほ)り、018最早(もはや)老齢(らうれい)、019何(なん)の用(よう)にも立(た)ちませぬのでお恥(はづか)しう御座(ござ)ります』
020千草(ちぐさ)『これこれそりや何(なに)を又(また)、021気(き)の弱(よわ)い事(こと)を云(い)ふのだい。022お前(まへ)さまもトルマン国(ごく)に於(おい)て第一人者(だいいちにんしや)たる左守司(さもりのかみ)の未亡人(みばうじん)ぢやないか。023夫(をつと)が討死(うちじに)された以上(いじやう)は、024賢母(けんぼ)良妻(りやうさい)の実(じつ)を挙(あ)げ、025夫(をつと)にまさる活動(くわつどう)をせなくちや済(す)みますまい。026これから此(この)千草姫(ちぐさひめ)が其方(そなた)に対(たい)し、027無限(むげん)の神徳(しんとく)を与(あた)へるから力(ちから)一杯(いつぱい)千草姫(ちぐさひめ)の為(ため)活動(くわつどう)して下(くだ)さい。028それが、029つまり王(わう)様(さま)の為(ため)ともなり、030又(また)トルマン国(ごく)一般(いつぱん)のためともなるのだからなア』
031モク『ハイ、032有(あ)り難(がた)う御座(ござ)ります。033妾(わらは)のやうな年(とし)をとつた老耄(おいぼれ)、034何(なん)の用(よう)にも立(た)ちますまいが、035姫(ひめ)様(さま)の御用(ごよう)とあれば否(いな)む訳(わけ)には行(ゆ)きませぬ。036何(なん)なりと御用(ごよう)仰(おほせ)付(つ)け下(くだ)さいますれば力(ちから)のあらむ限(かぎ)り、037屹度(きつと)おつとめ致(いた)しませう』
038千草(ちぐさ)『イヤ、039満足(まんぞく)々々(まんぞく)、040それでこそ左守(さもり)の妻(つま)モクレン殿(どの)、041この千草姫(ちぐさひめ)は今(いま)迄(まで)の千草(ちぐさ)とは聊(いささ)か変(かは)つてゐますから、042その考(かんが)へでゐて下(くだ)さいや。043決(けつ)して此(この)千草姫(ちぐさひめ)は発狂(はつきやう)はして居(を)りませぬ。044愈(いよいよ)今日(こんにち)より三千(さんぜん)世界(せかい)の救世主(きうせいしゆ)、045底津(そこつ)岩根(いはね)の大(おほ)みろくの霊体(れいたい)、046第一(だいいち)霊国(れいごく)の天人(てんにん)、047日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)で御座(ござ)るぞや。048今日(けふ)迄(まで)はトルマン国(ごく)ガーデン王(わう)の王妃(わうひ)として内政(ないせい)に干与(かんよ)致(いた)して居(を)つたが、049最早(もはや)左様(さやう)な小(ちひ)さい事(こと)は出来(でき)ませぬ。050天(てん)の根本(こつぽん)の根本(こつぽん)の大(おほ)みろくの霊体(れいたい)として、051此(この)地上(ちじやう)に現(あら)はれた以上(いじやう)は、052七千(しちせん)余国(よこく)の月(つき)の国(くに)は申(まを)すに及(およ)ばず、053三千(さんぜん)世界(せかい)を立替(たてかへ)立直(たてなほ)し遊(あそ)ばす日(ひ)の出神(でのかみ)の活動(くわつどう)。054其方(そなた)も余程(よほど)しつかりして下(くだ)さらぬと、055此(この)世(よ)の大望(たいまう)、056立替(たてかへ)立直(たてなほ)しがおそくなりますからな』
057 千草姫(ちぐさひめ)の此(この)意外(いぐわい)の言(げん)にモクレンも、058テイラも、059ハリスも呆(あき)れはて、060互(たがひ)に顔(かほ)を見合(みあは)せて舌(した)を捲(ま)き、061目(め)を瞠(みは)つた。
062千草(ちぐさ)『これ、063ハリス、064お前(まへ)は今(いま)舌(した)を捲(ま)いてゐたぢやないか。065妾(わらは)の云(い)ふ事(こと)が、066それほど可笑(をか)しいのか。067なぜ真面目(まじめ)に神(かみ)の申(まを)す事(こと)をお聞(き)きなさらぬのだい』
068ハリス『ハイ、069誠(まこと)に畏(おそ)れ入(い)りまして御座(ござ)ります。070王妃(わうひ)様(さま)と許(ばか)り今(いま)の今(いま)迄(まで)存(ぞん)じましたのに、071途方(とはう)もない大(おほ)きい大(おほ)みろく様(さま)の御(ご)霊体(れいたい)とやら、072心(こころ)小(ちひ)さき吾々(われわれ)には真偽(しんぎ)に迷(まよ)ひ、073茫然(ばうぜん)と致(いた)しました』
074千草(ちぐさ)『オツホヽヽヽ、075そらさうだろう。076三千(さんぜん)世界(せかい)の救世主(きうせいしゆ)と、077トルマン国(ごく)の右守司(うもりのかみ)の娘(むすめ)とを比較(ひかく)すれば、078象(ざう)と黴菌(ばいきん)とよりまだ懸隔(けんかく)があるのだから、079分(わか)らぬのも無理(むり)はない。080然(しか)し乍(なが)ら此(この)千草姫(ちぐさひめ)を何(なん)と思(おも)ひますか、081よもや狂人(きちがひ)とは思(おも)はないでせうな』
082ハリ『勿体(もつたい)ない姫(ひめ)様(さま)を、083どうして狂人(きちがひ)と見(み)られませう』
084千草(ちぐさ)『そんなら、085其方(そなた)此(この)肉宮(にくみや)を、086どう考(かんが)へるか』
087と矢(や)つぎ早(ば)やに問(と)ひつめられ、
088ハリ『ハイ、089到底(たうてい)黴菌(ばいきん)の分際(ぶんざい)として宇宙大(うちうだい)の神(かみ)様(さま)のこと、090御(ご)神徳(しんとく)高(たか)き王妃(わうひ)様(さま)の御(おん)身(み)の上(うへ)が分(わか)つて堪(たま)りませうか。091只(ただ)有難(ありがた)し勿体(もつたい)なしと申(まを)すより外(ほか)に言葉(ことば)は御座(ござ)りませぬ』
092千草(ちぐさ)『なるほどなるほど、093そら、0931さうだ。094お前(まへ)の云(い)ふ通(とほ)り、095神(かみ)の事(こと)は人間(にんげん)の分際(ぶんざい)で分(わか)りさうな事(こと)はないからな。096この千草姫(ちぐさひめ)をみろくの太柱(ふとばしら)、097日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)と信(しん)じた以上(いじやう)は、098何事(なにごと)でも絶対(ぜつたい)服従(ふくじう)を誓(ちか)ふでせうな』
099ハリ『ハイ、100絶対(ぜつたい)服従(ふくじう)を誓(ちか)ひます。101生宮(いきみや)様(さま)のお言葉(ことば)ならば、102仮令(たとへ)山(やま)を逆様(さかさま)に登(のぼ)れと仰有(おつしや)つても登(のぼ)つて見(み)せませう』
103千草(ちぐさ)『ホヽヽヽ流石(さすが)は右守(うもり)の忘(わす)れ形見(がたみ)だけあつて偉(えら)いものだな。104これから此(この)生宮(いきみや)が三千(さんぜん)世界(せかい)の救世主(きうせいしゆ)と現(あら)はれるについて、105其方(そなた)を立派(りつぱ)な三千(さんぜん)世界(せかい)に又(また)とない結構(けつこう)なお方(かた)とし、106万古(まんご)末代(まつだい)名(な)の残(のこ)る御用(ごよう)を仰(おほせ)付(つ)ける程(ほど)に……』
107ハリ『ハイ、108有難(ありがた)う御座(ござ)ります。109何分(なにぶん)よろしくお願(ねが)ひ申(まを)しまする』
110千草(ちぐさ)『ウン、111よしよし、112大(おほ)みろくの太柱(ふとばしら)、113確(たしか)に承知(しようち)致(いた)したぞや。114次(つぎ)には左守(さもり)の娘(むすめ)テイラ殿(どの)は此(この)生宮(いきみや)を何(なん)と心得(こころえ)て御座(ござ)るか、115御(ご)意見(いけん)を承(うけたま)はり度(た)いものだな』
116テイラ『ハイ、117妾(わらは)は、118どう致(いた)しましても、119ガーデン王(わう)の王妃(わうひ)様(さま)とより思(おも)ふ事(こと)が出来(でき)ませぬ。120日(ひ)の出神(でのかみ)とか底津(そこつ)岩根(いはね)のみろくとか仰有(おつしや)りましたが、121今日(こんにち)迄(まで)一度(いちど)も承(うけたま)はつた事(こと)が御座(ござ)りませぬので、122心(こころ)の中(うち)にて真偽(しんぎ)の判別(はんべつ)に迷(まよ)うて居(を)ります』
123千草(ちぐさ)『人間(にんげん)の分際(ぶんざい)として畏(おそ)れ多(おほ)くも神(かみ)に対(たい)し、124真偽(しんぎ)の判別(はんべつ)に迷(まよ)ふとは、125何(なん)たる不遜(ふそん)の言葉(ことば)ぞや。126一寸先(いつすんさき)も分(わか)らぬ人間(にんげん)が三千(さんぜん)世界(せかい)を一目(ひとめ)に見通(みとほ)す日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)を審神(さには)致(いた)す等(など)とは以(もつ)ての外(ほか)の悪行(あくぎやう)、127左様(さやう)な不心得(ふこころえ)な量見(りやうけん)では、128左守(さもり)の娘(むすめ)とは云(い)はせませぬぞや』
129テイ『ハイ、130畏(おそ)れ入(い)りました。131あまり俄(にはか)の事(こと)で吃驚(びつくり)致(いた)しまして、132ツヒ粗相(そさう)を申(まを)しました。133どうぞ広(ひろ)き御心(みこころ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)しを願(ねが)ひ上(あ)げまする』
134千草(ちぐさ)『ウンさう柔順(おとなし)く事(こと)が分(わか)ればそれでよい。135この生宮(いきみや)の正体(しやうたい)が分(わか)らぬのが本当(ほんたう)だ。136何(なん)と云(い)つても三千(さんぜん)世界(せかい)を救(すく)ふ為(ため)に、137いろいろ雑多(ざつた)とヘグレてヘグレて来(き)た此(この)方(はう)、138それぢやによつてヘグレのヘグレのヘグレ武者(むしや)、139ヘグレ神社(じんしや)の大神(おほかみ)と、140神界(しんかい)では申(まを)すのぢやぞえ』
141テイ『ハイ、142有難(ありがた)う御座(ござ)ります』
143千草(ちぐさ)『何(なに)が有難(ありがた)いのだ。144妾(わらは)の言葉(ことば)が承知(しようち)が行(い)つたのか。145只(ただ)王妃(わうひ)様(さま)だから何事(なにごと)も御(ご)無理(むり)御尤(ごもつと)も、146ヘイヘイハイハイと、147面従(めんじゆう)してさへ居(を)ればいいと云(い)ふやうなズルイ考(かんが)へは駄目(だめ)ですよ。148人民(じんみん)の心(こころ)のドン底(ぞこ)まで見(み)えすく生神(いきがみ)だから』
149テイ『左様(さやう)で御座(ござ)ります。150妾(わらは)は決(けつ)して疑(うたが)ひは致(いた)しませぬ。151只(ただ)神(かみ)様(さま)の御心(みこころ)のまにまに御用(ごよう)に仕(つか)へ奉(まつ)る丈(だ)けで御座(ござ)ります』
152千草(ちぐさ)『なるほど、153流石(さすが)は左守(さもり)の忘(わす)れ形見(がたみ)だけあつて、154よく物(もの)が分(わか)るわい。155屹度(きつと)此(この)千草姫(ちぐさひめ)の肉宮(にくみや)に対(たい)して一言(いちごん)たりとも反(そむ)きは致(いた)しますまいな。156絶対(ぜつたい)服従(ふくじゆう)を誓(ちか)ふでせうな』
157テイ『ハイ、158何事(なにごと)も主人(しゆじん)の申(まを)し付(つ)け、159絶対(ぜつたい)服従(ふくじゆう)を致(いた)しませう』
160千草(ちぐさ)『これこれ161それや何(なに)を云(い)ふのぢやいな。162この生宮(いきみや)を人間(にんげん)としての御(ご)挨拶(あいさつ)は痛(いた)み入(い)る。163主人(しゆじん)の命令(めいれい)等(など)とは怪(け)しからぬ、164生宮(いきみや)様(さま)の御(ご)命令(めいれい)だと何故(なぜ)申(まを)さないのか』
165テイ『ハイ、166粗相(そさう)申(まを)しました。167生宮(いきみや)様(さま)の御(ご)命令(めいれい)ならば、168如何(いか)なる御用(ごよう)でも厭(いと)ひませぬ。169仮令(たとへ)火(ひ)の中(なか)、170水(みづ)の底(そこ)でも、171喜(よろこ)んで御用(ごよう)を承(うけたま)はりませう』
172千草(ちぐさ)『ホヽヽヽヤレヤレ嬉(うれ)しや嬉(うれ)しや、173日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)174満足(まんぞく)致(いた)したぞや。175命令(めいれい)とあれば山(やま)を逆様(さかさま)に歩(ある)くハリス姫(ひめ)、176火(ひ)の中(なか)、177水(みづ)の底(そこ)へでも喜(よろこ)んで飛(とび)込(こ)むと云(い)ふテイラ殿(どの)、178これ丈(だ)けの決死隊(けつしたい)が出来(でき)た上(うへ)は、179此(この)日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)も大磐石(だいばんじやく)。180それに就(つ)いてはモクレン殿(どの)は如何(いかが)の御(ご)量見(りやうけん)か、181キツパリ、182それが承(うけたま)はり度(た)い』
183モク『仰(おほ)せ迄(まで)もなく絶対(ぜつたい)服従(ふくじゆう)を誓(ちか)ひます』
184千草(ちぐさ)『絶対(ぜつたい)服従(ふくじゆう)では、185余(あま)り答弁(たふべん)がボツとしてゐるぢやないか。186火(ひ)の中(なか)を潜(くぐ)るとか187水(みづ)の底(そこ)を潜(くぐ)るとか188山(やま)を逆様(さかさま)に登(のぼ)るとか189何(なん)とか的確(てきかく)な返答(へんたふ)がありさうなものぢやなア』
190モク『ハイ、191左様(さやう)ならば、192妾(わらは)は御(ご)命令(めいれい)とあらば神(かみ)の贄(いけにえ)となつて暖(あたた)かい血潮(ちしほ)を奉(たてまつ)りませう』
193千草(ちぐさ)『ウン、194よしよし、195其方(そなた)こそ秀逸(しういつ)だ。196流石(さすが)は左守司(さもりのかみ)の未亡人(みばうじん)、197千草姫(ちぐさひめ)、198否々(いやいや)日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)、199感(かん)じ入(い)りましたぞや。200サア早速(さつそく)、201かう話(はなし)が纏(まと)まれば、202今(いま)この生宮(いきみや)がテイラ、203ハリスの両人(りやうにん)に御用(ごよう)を申(まをし)付(つ)ける』
204 テイラ、205ハリス両人(りやうにん)は一度(いちど)に『ハツ』と頭(かしら)を下(さ)げ、
206『如何(いか)なる御(ご)命令(めいれい)なりとも謹(つつし)んで御(お)受(う)け仕(つかまつ)ります』
207千草(ちぐさ)『ホヽヽ流石(さすが)は賢女(けんぢよ)だ。208然(しか)らば早速(さつそく)御用(ごよう)を申(まを)し付(つ)ける。209其方(そなた)も聞(き)いてゐる通(とほ)り、210スコブツエン宗(しう)の名僧(めいそう)キユーバー殿(どの)の行衛(ゆくへ)を、211テイラ殿(どの)は探(さが)して来(き)て下(くだ)さい』
212テイ『何(いづ)れへ参(まゐ)りましたら宜(よろ)しう御座(ござ)りますか。213どうか神(かみ)様(さま)、214お指図(さしづ)を下(くだ)さりませ』
215千草(ちぐさ)『探(さが)しに行(ゆ)くやうなものに、216方角(はうがく)が分(わか)る道理(だうり)があらうか。217どちらに行(ゆ)けばよいか分(わか)らぬから、218捜索(そうさく)に出(で)ようと申(まを)すのだ』
219テイ『ハイ、220畏(かしこ)まりました。221然(しか)らば、222これから直様(すぐさま)、223御(お)所在(ありか)を尋(たづ)ねて参(まゐ)りませう。224どうか王(わう)様(さま)にも太子(たいし)様(さま)にも、225宜(よろ)しく御(ご)承諾(しようだく)を願(ねが)つて下(くだ)さいませよ』
226千草(ちぐさ)『これ、227テイラ、228何(なん)と云(い)ふ分(わか)らぬ事(こと)を申(まを)すのだえ。229王(わう)様(さま)は僅(わづ)かなトルマン国(ごく)の主権者(しゆけんじや)、230三十万(さんじふまん)人(にん)の父上(ちちうへ)ぢやぞえ。231太子(たいし)は又(また)、232その後継(あとつぎ)、233今(いま)は何(なん)の権威(けんゐ)もない部屋住(へやずみ)ぢやぞや。234五十六(ごじふろく)億(おく)七千万(しちせんまん)人(にん)の霊(みたま)を救(すく)ふ三千(さんぜん)世界(せかい)の生宮(いきみや)の言葉(ことば)を何(なん)と心得(こころえ)なさる』
235テイ『ハイ、236畏(おそ)れ入(い)りました』
237と此(この)場(ば)を匆々(さうさう)に立(た)ち、
238『皆様(みなさま)、239左様(さやう)ならば』
240と挨拶(あいさつ)を残(のこ)し出(で)て行(ゆ)かむとする。241母(はは)モクレンは、
242『これテイラ姫(ひめ)、243生宮(いきみや)様(さま)の御(ご)命令(めいれい)とは云(い)ひ乍(なが)ら、244其方(そなた)も矢張(やはり)ガーデン王(わう)に仕(つか)へ奉(まつ)る左守(さもり)の娘(むすめ)なれば、245一応(いちおう)王(わう)様(さま)に御(ご)挨拶(あいさつ)申(まを)し上(あ)げた上(うへ)、246キユーバー殿(どの)の捜索(そうさく)においでなさるがよからう。247母(はは)として一言(いちごん)、248注意(ちうい)致(いた)しますぞや』
249千草(ちぐさ)『これこれモクレン、250何(なん)と云(い)ふ分(わか)らぬ事(こと)を申(まを)すのだい。251テイラは此(この)生宮(いきみや)の申(まを)す事(こと)を絶対(ぜつたい)服従(ふくじゆう)致(いた)すと云(い)つたではないか』
252モク『ハイ、253誠(まこと)に済(す)まない事(こと)を申(まを)しました。254テイラ、255早(はや)く、256サア、257おいでなさい』
258と云(い)ひ乍(なが)ら、259「王(わう)様(さま)に一応(いちおう)申(まを)し上(あ)げよ」と、260口(くち)には出(だ)さねど目(め)を以(もつ)て之(これ)を伝(つた)へた。
261 テイラは母(はは)モクレンの心(こころ)を汲(く)みとり、262さあらぬ態(てい)にて、
263『左様(さやう)ならば愈(いよいよ)捜索(そうさく)に参(まゐ)ります。264生宮(いきみや)様(さま)、265御(ご)安心(あんしん)下(くだ)さいませ』
266と早(はや)くも此(この)場(ば)を立去(たちさ)つた。
267千草(ちぐさ)『オツホヽヽヽ、268ヤア、269流石(さすが)は偉(えら)いテイラ殿(どの)。270これモクレン、271お喜(よろこ)びなさい。272底津(そこつ)岩根(いはね)の大(おほ)みろくの太柱(ふとばしら)、273日(ひ)の出神(でのかみ)の御用(ごよう)を第一番(だいいちばん)に致(いた)したのは、274其方(そなた)の娘(むすめ)テイラで御座(ござ)るぞや。275サア早(はや)く神(かみ)様(さま)にお礼(れい)を申(まを)しや』
276 モクレンは仕方(しかた)なしに両掌(りやうて)を合(あは)せ、277天(てん)に向(むか)つて暗祈(あんき)黙祷(もくたう)してゐる。
278千草(ちぐさ)『コレコレ、279あまり訳(わけ)が分(わか)らなさすぎるぢやないか。280モクレン281其方(そなた)は、2811どこを拝(をが)んで居(を)るのぢや。282空虚(くうきよ)なる大空(おほぞら)を拝(をが)んで何(なん)になる。283天(てん)にまします大(おほ)みろくの神(かみ)は今(いま)や地上(ちじやう)に降臨(かうりん)し、284此処(ここ)に御座(ござ)るぢやないか。285神(かみ)を拝(をが)めと申(まを)すのは此(この)生宮(いきみや)を拝(をが)めと云(い)ふのだよ。286ても扨(さて)も、287訳(わけ)の分(わか)らぬ代物(しろもの)だなア』
288 モクレンは心(こころ)の中(うち)にて、289「エーこの狂人(きちがひ)女郎(めらう)、290何(なに)を吐(ぬか)しやがる。291馬鹿(ばか)らしい」とは思(おも)へども、292そこが主従(しゆじゆう)の悲(かな)しさ、293色(いろ)にも出(だ)さず、
294『ハイ、295左様(さやう)で御座(ござ)りましたか。296何分(なにぶん)愚鈍(ぐどん)の妾(わらは)、297現在(げんざい)目(め)の前(まへ)に結構(けつこう)な神(かみ)様(さま)が御(ご)出現(しゆつげん)遊(あそ)ばして御座(ござ)るのに気(き)がつかないとは、298何(なん)と云(い)ふ馬鹿(ばか)だらうかと、299吾(われ)乍(なが)ら呆(あき)れはてて御座(ござ)ります。300然(しか)らば御免(ごめん)下(くだ)さいませ、301生宮(いきみや)様(さま)』
302と三拝(さんぱい)九拝(きうはい)、303拍手(はくしゆ)した。
304 千草姫(ちぐさひめ)は益々(ますます)得意(とくい)になり、305ツンとあげ面(づら)をさらし乍(なが)ら、
306『ヤア、307善哉(ぜんざい)々々(ぜんざい)。308其方(そなた)こそ此(この)生宮(いきみや)を神(かみ)として認(みと)めた第一人者(だいいちにんしや)ぢや、309必(かなら)ず必(かなら)ず信仰(しんかう)をかへてはなりませぬぞや。310サア、311かうきまつた上(うへ)はモクレン殿(どの)は暇(いとま)を遣(つか)はす。312随意(ずいい)に吾(わが)家(や)にかへり休息(きうそく)なされ。313これからハリスに向(むか)つて折入(をりい)つて特別(とくべつ)の御用(ごよう)がある、314吾(わが)居間(ゐま)においでなさい。315結構(けつこう)な結構(けつこう)な三千(さんぜん)世界(せかい)に又(また)とない弥勒(みろく)成就(じやうじゆ)の御用(ごよう)を仰(おほせ)付(つ)けますぞや』
316ハリ『ハイ、317仰(おほ)せに従(したが)ひ参(まゐ)ります』
318と千草姫(ちぐさひめ)の居間(ゐま)に伴(ともな)はれ行(ゆ)く。319千草姫(ちぐさひめ)はドアの戸(と)を堅(かた)く締(し)め四方(しはう)の窓(まど)を閉(と)ぢ、320声(こゑ)をひそめて、
321『これ、322ハリス殿(どの)、323この生宮(いきみや)が特別(とくべつ)の大々々(だいだいだい)の秘密(ひみつ)の御用(ごよう)を仰(おほせ)付(つ)けるからお聞(き)きなさい』
324ハリ『ハイ、325謹(つつし)んで承(うけたま)はりませう。326如何(いか)なる御用(ごよう)なりとも身(み)に叶(かな)ふ事(こと)ならば』
327千草(ちぐさ)『ヤア、328ハリス殿(どの)外(ほか)でもない。329其方(そなた)はトルマン国(ごく)きつての美貌(びばう)と聞(き)く、330その美貌(びばう)を楯(たて)として、331太子(たいし)チウインの心(こころ)を奪(うば)ひ、332彼(かれ)を恋(こひ)の淵(ふち)に陥(おとしい)れくれるならば、333其方(そなた)をチウイン太子(たいし)の妃(きさき)となし、334このトルマン城(じやう)の花(はな)と致(いた)すであらう。335どうだ嬉(うれ)しいか、336よもや不足(ふそく)はあるまいがな』
337ハリ『何事(なにごと)かと存(ぞん)じますれば御(ご)勿体(もつたい)ない。338左様(さやう)な御(ご)命令(めいれい)、339どうして臣下(しんか)の身(み)を以(もつ)て、340畏(おそ)れ多(おほ)くも太子(たいし)様(さま)に、341左様(さやう)に大(だい)それた事(こと)が女(をんな)の身(み)として申(まを)されませう。342第一(だいいち)身分(みぶん)に懸隔(けんかく)が御座(ござ)りまする。343又(また)妾(わらは)は右守司(うもりのかみ)の一人娘(ひとりむすめ)、344右守家(うもりけ)を継(つ)がねばなりませぬ。345どうぞこれ許(ばか)りは偏(ひとへ)に御(ご)容赦(ようしや)を願(ねが)ひ奉(たてまつ)りまする』
346千草(ちぐさ)『これこれハリス、347そんな遠慮(ゑんりよ)はチツとも要(い)らぬ。348右守家(うもりけ)の血統(ちすぢ)は天(てん)にも地(ち)にもお前(まへ)只(ただ)一人(ひとり)、349成程(なるほど)後(あと)を継(つ)がねばならうまい。350それなれば尚更(なほさら)、351其方(そなた)にとつては、352打(う)つてすげたやうな話(はなし)ではないか。353チウインをうまく恋(こひ)に引入(ひきい)れたならば、354其方(そなた)の夫(をつと)につかはす程(ほど)に。355何(なん)と嬉(うれ)しからうがな』
356ハリ『畏(おそ)れ多(おほ)くもトルマン国(ごく)の継承者(けいしようしや)たる太子(たいし)様(さま)を右守(うもり)の家(いへ)に下(くだ)さるとは、357天地(てんち)顛倒(てんたう)も同様(どうやう)、358ガーデン王(わう)様(さま)が決(けつ)して許(ゆる)しは致(いた)されますまい。359又(また)太子(たいし)様(さま)とて顕要(けんえう)の地位(ちゐ)を捨(す)て、360臣下(しんか)の家(いへ)に養子(やうし)におなり遊(あそ)ばすやうな道理(だうり)は御座(ござ)りませぬ。361仮令(たとへ)右守家(うもりけ)は妾(わらは)一代(いちだい)にて血統(ちすぢ)がきれませうとも、362王家(わうけ)には替(か)へられませぬ。363この儀(ぎ)許(ばか)りは平(ひら)に御(ご)容赦(ようしや)を願(ねが)ひ奉(たてまつ)りまする』
364千草(ちぐさ)『これこれハリス殿(どの)、365其方(そなた)は此(この)生宮(いきみや)の命令(めいれい)ならば、366山(やま)でも逆様(さかさま)に登(のぼ)ると云(い)つたぢやないか。367その舌(した)の根(ね)の乾(かわ)かぬ中(うち)、368掌(てのひら)かへしたやうな其方(そなた)の変心(へんしん)、369千草姫(ちぐさひめ)の生宮(いきみや)、370左様(さやう)な事(こと)で承知(しようち)は致(いた)さぬぞや』
371ハリ『ハイ、372是非(ぜひ)は御座(ござ)りませぬ。373万々一(まんまんいち)妾(わらは)の力(ちから)によつて太子(たいし)様(さま)を恋(こひ)に陥(おと)し奉(まつ)つた上(うへ)は、374王家(わうけ)の御(お)世継(よつぎ)は、375どうなさいますか。376それが妾(わらは)は心配(しんぱい)でなりませぬ』
377千草(ちぐさ)『ホヽヽヽ、378成程(なるほど)一応(いちおう)尤(もつと)もだ尤(もつと)もだ。379人間心(にんげんごころ)としては、380実(じつ)に申(まをし)分(ぶん)のないお前(まへ)の真心(まごころ)、381感(かん)じ入(い)りました。382然(しか)し乍(なが)ら三千(さんぜん)世界(せかい)を自由(じいう)に致(いた)す底津(そこつ)岩根(いはね)の大(おほ)みろくの太柱(ふとばしら)、383現(あら)はれた以上(いじやう)は霊(みたま)の親子(おやこ)たるものを御(お)世継(よつぎ)に致(いた)す考(かんが)へだ。384左様(さやう)な事(こと)に心配(しんぱい)はチツとも要(い)らない。385其方(そなた)の霊(みたま)はチウイン太子(たいし)と夫婦(ふうふ)の霊(みたま)だによつて、386日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)が神界(しんかい)に於(おい)て調(しら)べて調(しら)べて調(しら)べ上(あ)げた上(うへ)、387かう申(まを)してゐるのだから、388力(ちから)一杯(いつぱい)活動(くわつどう)して下(くだ)さい。389屹度(きつと)成功(せいこう)疑(うたが)ひなしぢやぞえ』
390 ハリスは太子(たいし)と共(とも)に大軍(たいぐん)を率(ひき)ゐ、391敵軍(てきぐん)を駆(か)け悩(なや)ましたる女武者(をんなむしや)である。392さうして太子(たいし)の容色(ようしよく)や胆力(たんりよく)には心(こころ)の底(そこ)から感服(かんぷく)してゐた。393然(しか)し乍(なが)ら夫(をつと)に持(も)たう、394妻(つま)にならう等(など)との野心(やしん)はチツトも持(も)つてゐないのであるが、395千草姫(ちぐさひめ)の言葉(ことば)に否(いな)みかね、396一先(ひとま)づ此(こ)の場(ば)を逃(のが)れむものと、397心(こころ)にもなき言辞(げんじ)を弄(ろう)し、398暫時(ざんじ)千草姫(ちぐさひめ)の意(い)を迎(むか)へ、399嬉(うれ)しさうな顔(かほ)をして見(み)せたのである。400千草姫(ちぐさひめ)は満足(まんぞく)の態(てい)にて、
401千草(ちぐさ)『ヤア、402ハリス殿(どの)、403あつぱれ あつぱれ、404必(かなら)ず成功(せいこう)祈(いの)るぞや。405これさへ承諾(しようだく)した上(うへ)は、406最早(もはや)今日(こんにち)は之(これ)で御(ご)用済(ようず)みだ。407これから家(うち)へ帰(かへ)り、408あらむ限(かぎ)りの盛装(せいさう)をなし、409紅(べに)、410白粉(おしろい)、411油(あぶら)を惜(を)しまず、412抜目(ぬけめ)なく立働(たちはたら)く準備(じゆんび)をなさい』
413 ハリスは『ハイ、414有難(ありがた)う』と丁寧(ていねい)に挨拶(あいさつ)をなし此(この)場(ば)を匆々(さうさう)立(た)ちて行(ゆ)く。
415(大正一四・八・二四 旧七・五 於由良海岸秋田別荘 北村隆光録)
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