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霊界物語
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
第70巻(酉の巻)
序文
総説
第1篇 花鳥山月
第1章 信人権
第2章 折衝戦
第3章 恋戦連笑
第4章 共倒れ
第5章 花鳥山
第6章 鬼遊婆
第7章 妻生
第8章 大勝
第2篇 千種蛮態
第9章 針魔の森
第10章 二教聯合
第11章 血臭姫
第12章 大魅勒
第13章 喃悶題
第14章 賓民窟
第15章 地位転変
第3篇 理想新政
第16章 天降里
第17章 春の光
第18章 鳳恋
第19章 梅花団
第20章 千代の声
第21章 三婚
第22章 優秀美
附 記念撮影
余白歌
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霊界物語
>
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
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第70巻(酉の巻)
> 第1篇 花鳥山月 > 第3章 恋戦連笑
<<< 折衝戦
(B)
(N)
共倒れ >>>
第三章
恋戦
(
れんせん
)
連笑
(
れんせう
)
〔一七七〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第70巻 山河草木 酉の巻
篇:
第1篇 花鳥山月
よみ(新仮名遣い):
かちょうさんげつ
章:
第3章 恋戦連笑
よみ(新仮名遣い):
れんせんれんしょう
通し章番号:
1770
口述日:
1925(大正14)年08月23日(旧07月4日)
口述場所:
丹後由良 秋田別荘
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年10月16日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
千草姫はキューバーに惚れたふりをして、逆に彼を虜としてしまう。海千山千のキューバーも、千草姫の美貌にしてやられてしまった。
千草姫は腕を握る振りをして、柔道の技で脈どころを握り締め、キューバーを気絶させてしまう。城の外からはときの声が聞こえてくる。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm7003
愛善世界社版:
34頁
八幡書店版:
第12輯 402頁
修補版:
校定版:
34頁
普及版:
18頁
初版:
ページ備考:
001
千草姫
(
ちぐさひめ
)
はキユーバーを
一室
(
いつしつ
)
に
伴
(
ともな
)
ひ
行
(
ゆ
)
き、
002
あらゆる
媚
(
こび
)
を
呈
(
てい
)
し
彼
(
かれ
)
の
心胆
(
しんたん
)
を
蕩
(
とろ
)
かし、
003
凡
(
すべ
)
ての
秘密
(
ひみつ
)
の
泥
(
どろ
)
を
吐
(
は
)
かしめむと
百方
(
ひやくぱう
)
尽力
(
じんりよく
)
してゐた。
004
キユーバーは
千草姫
(
ちぐさひめ
)
の
美貌
(
びばう
)
を
見
(
み
)
て
天津
(
あまつ
)
乙女
(
をとめ
)
かエンゼルか、
005
ネルソンパテーか
楊貴妃
(
やうきひ
)
か、
006
小野
(
をの
)
の
小町
(
こまち
)
か
照手姫
(
てるてひめ
)
か、
007
平和
(
へいわ
)
の
女神
(
めがみ
)
かとドングリ
目
(
め
)
を
細
(
ほそ
)
うし
008
眉毛
(
まゆげ
)
や
目尻
(
めじり
)
を
七時
(
しちじ
)
二十五
(
にじふご
)
分
(
ふん
)
過
(
すぎ
)
にさげおろし、
009
口角
(
こうかく
)
よりねばつたものをツーツーと、
010
ほし
下
(
くだ
)
しの
芸当
(
げいたう
)
を
演
(
えん
)
じ、
011
ハンカチーフにてソツト
拭
(
ぬぐ
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
012
茹章魚
(
ゆでたこ
)
のやうになつてその
美貌
(
びばう
)
に
見惚
(
みと
)
れてゐる。
013
もう、
014
かうなる
上
(
うへ
)
は
千草姫
(
ちぐさひめ
)
の
一顰
(
いつぴん
)
一笑
(
いつせう
)
はキユーバーの
命
(
いのち
)
さへも
左右
(
さいう
)
する
力
(
ちから
)
があつた。
015
キユーバーは
自分
(
じぶん
)
の
目的
(
もくてき
)
や
大足別
(
おほだるわけ
)
との
経緯
(
いきさつ
)
もスツカリ
忘
(
わす
)
れて、
016
只
(
ただ
)
宇宙間
(
うちうかん
)
、
017
神
(
かみ
)
もなく
仏
(
ほとけ
)
もなく、
018
大黒主
(
おほくろぬし
)
もなく、
019
天
(
てん
)
も
地
(
ち
)
もなく、
020
只
(
ただ
)
、
021
目
(
め
)
にとまるものは、
022
艶麗
(
えんれい
)
なる
千草姫
(
ちぐさひめ
)
、
023
耳
(
みみ
)
に
聞
(
きこ
)
ゆるものは
姫
(
ひめ
)
のなまめかしい
玉
(
たま
)
の
声
(
こゑ
)
のみとなつて
了
(
しま
)
つた。
024
千草姫
(
ちぐさひめ
)
『もうし、
025
救世主
(
きうせいしゆ
)
様
(
さま
)
、
026
貴方
(
あなた
)
は
何
(
なん
)
とした
立派
(
りつぱ
)
なお
方
(
かた
)
で
御座
(
ござ
)
りませう。
027
何程
(
なにほど
)
盤古
(
ばんこ
)
神王
(
しんのう
)
様
(
さま
)
が
御
(
ご
)
神力
(
しんりき
)
があると
申
(
まを
)
しても、
028
大国彦
(
おほくにひこ
)
様
(
さま
)
がお
偉
(
えら
)
いと
云
(
い
)
つても、
029
已
(
すで
)
に
既
(
すで
)
に
過去
(
くわこ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
で
御座
(
ござ
)
ります。
030
どんなに
手
(
て
)
を
合
(
あは
)
せても、
031
ウンともスンとも
云
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さいませぬ。
032
それに
何
(
なん
)
ぞや、
033
天来
(
てんらい
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
の
君
(
きみ
)
に
親
(
した
)
しくお
目
(
め
)
にかかり、
034
天
(
てん
)
の
御声
(
みこゑ
)
をそのまま
聞
(
き
)
かして
頂
(
いただ
)
く
妾
(
わらは
)
は、
035
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
幸福
(
かうふく
)
でせう。
036
貴方
(
あなた
)
の
御
(
お
)
姿
(
すがた
)
を
霊的
(
れいてき
)
に
窺
(
うかが
)
はして
貰
(
もら
)
ひますれば、
037
玲瓏
(
れいろう
)
玉
(
たま
)
の
如
(
ごと
)
く、
038
金剛石
(
こんがうせき
)
の
如
(
ごと
)
く
039
御
(
お
)
身体
(
からだ
)
一面
(
いちめん
)
にキラキラと
輝
(
かがや
)
いてゐます。
040
妾
(
わらは
)
は
目
(
め
)
も
眩
(
くら
)
みさうで
御座
(
ござ
)
りますわ。
041
そして
貴方
(
あなた
)
の
玉
(
たま
)
の
御声
(
みこゑ
)
、
042
一言
(
ひとこと
)
聞
(
き
)
いても
皆
(
みな
)
、
043
妾
(
わらは
)
の
肉
(
にく
)
と
力
(
ちから
)
になつて
了
(
しま
)
ふのですもの。
044
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
立派
(
りつぱ
)
な
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
現
(
あら
)
はれなされたものでせう。
045
どうかキユーバー
様
(
さま
)
、
046
この
結構
(
けつこう
)
な
玉
(
たま
)
のお
声
(
こゑ
)
を
047
妾
(
わらは
)
以外
(
いぐわい
)
のものに
聞
(
き
)
かして
貰
(
もら
)
つちやいやですよ。
048
この
結構
(
けつこう
)
なお
姿
(
すがた
)
を
世界
(
せかい
)
の
人間
(
にんげん
)
の
目
(
め
)
に
入
(
い
)
れちや
困
(
こま
)
りますよ。
049
アーア
儘
(
まま
)
になるなら
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
人間
(
にんげん
)
を
皆
(
みな
)
盲
(
めくら
)
にして
了
(
しま
)
ひたいわ。
050
そして
世界中
(
せかいぢう
)
の
人間
(
にんげん
)
の
耳
(
みみ
)
を
木耳
(
きくらげ
)
にし
度
(
た
)
う
御座
(
ござ
)
りますわ。
051
ねーあなた、
052
恋
(
こひ
)
しきキユーバー
様
(
さま
)
』
053
とあらむ
限
(
かぎ
)
りの
追従
(
つゐしやう
)
を
並
(
なら
)
べたて、
054
蕩
(
とろ
)
けた
奴
(
やつ
)
を
尚々
(
なほなほ
)
蕩
(
とろ
)
かさうとする。
055
恰
(
あたか
)
も
骨
(
ほね
)
のない
章魚
(
たこ
)
に
蕎麦粉
(
そばこ
)
をかけたやうにズルズルになつて
了
(
しま
)
ひ
056
口
(
くち
)
から
涎
(
よだれ
)
を
出
(
だ
)
す、
057
オチコから
はな
を
垂
(
た
)
れる、
058
千草姫
(
ちぐさひめ
)
の
玉
(
たま
)
の
肌
(
はだ
)
に
触
(
ふ
)
れぬ
中
(
うち
)
から、
059
キユーバーは
五
(
いつ
)
つの
穴
(
あな
)
から
体
(
からだ
)
の
肥汁
(
こえしる
)
を
搾取
(
さくしゆ
)
され、
060
秋
(
あき
)
の
夕暮
(
ゆふぐれ
)
れの
霜
(
しも
)
をあびたバツタのやうになつて
了
(
しま
)
つた。
061
キユーバー『これ
千草姫
(
ちぐさひめ
)
、
062
俺
(
おれ
)
を、
063
どうしてくれるのだ。
064
これでもスコブツエン
宗
(
しう
)
の
教祖
(
けうそ
)
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
片腕
(
かたうで
)
、
065
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
を
一目
(
ひとめ
)
に
見透
(
みすか
)
すマハトマの
聖雄
(
せいゆう
)
だ。
066
俺
(
おれ
)
の
骨
(
ほね
)
迄
(
まで
)
筋
(
すぢ
)
迄
(
まで
)
グニヤグニヤにして
了
(
しま
)
ふとは、
067
本当
(
ほんたう
)
に
凄
(
すご
)
い
腕前
(
うでまへ
)
ぢやないか』
068
千草
(
ちぐさ
)
『ホヽヽヽヽヽ、
069
あの、
070
マア、
071
キユーバー
様
(
さま
)
の
仰有
(
おつしや
)
いますこと。
072
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
片腕
(
かたうで
)
だとか、
073
救世主
(
きうせいしゆ
)
だとか、
074
そんな
ちよろこい
霊
(
みたま
)
では、
075
貴方
(
あなた
)
は
御座
(
ござ
)
りませぬわ。
076
棚機姫
(
たなばたひめ
)
の
化身
(
けしん
)
として、
077
玉
(
たま
)
の
御舟
(
みふね
)
黄金
(
こがね
)
の
楫
(
かぢ
)
を
操
(
あやつ
)
り
078
トルマン
国
(
ごく
)
へ、
0781
天降
(
あまくだ
)
つて
来
(
き
)
たこの
千草姫
(
ちぐさひめ
)
を、
079
マルツキリ
蒟蒻
(
こんにやく
)
のやうにして
了
(
しま
)
ふと
云
(
い
)
ふ、
080
貴方
(
あなた
)
は
凄
(
すご
)
い
御
(
お
)
腕前
(
うでまへ
)
、
081
否
(
いな
)
立派
(
りつぱ
)
な
男前
(
をとこまへ
)
、
082
女殺
(
をんなごろ
)
しの
罪
(
つみ
)
なお
方
(
かた
)
、
083
妾
(
わらは
)
は
昼
(
ひる
)
とも
夜
(
よる
)
とも、
084
西
(
にし
)
とも
東
(
ひがし
)
とも
判別
(
はんべつ
)
がつかなくなりました。
085
惚
(
ほ
)
れた
弱味
(
よわみ
)
か
知
(
し
)
れませぬが、
086
貴方
(
あなた
)
の
鼻息
(
はないき
)
の
出
(
で
)
やうによつて
妾
(
わらは
)
の
生命
(
いのち
)
に
消長
(
せうちやう
)
があるのですもの。
087
妾
(
わらは
)
が
可愛
(
かあい
)
いと
思召
(
おぼしめ
)
すなら、
088
どうぞ
長生
(
ながいき
)
をさして
下
(
くだ
)
さいや。
089
刃物
(
はもの
)
持
(
も
)
たずの
人殺
(
ひとごろ
)
しは
嫌
(
いや
)
ですよ。
090
スコブツエン
宗
(
しう
)
の
法力
(
ほふりき
)
によつて、
091
貴方
(
あなた
)
と
一緒
(
いつしよ
)
に
千
(
せん
)
年
(
ねん
)
も
万
(
まん
)
年
(
ねん
)
も
不老
(
ふらう
)
不死
(
ふし
)
で
暮
(
くら
)
したう
御座
(
ござ
)
りますわ』
092
キユ『エツヘヽヽヽヽヽ、
0921
よしよし、
093
お
前
(
まへ
)
と
俺
(
おれ
)
とさへ
幸福
(
かうふく
)
にあれば、
094
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
暗
(
やみ
)
にならうと、
095
潰
(
つぶ
)
れやうと、
096
そんな
事
(
こと
)
は
頓着
(
とんちやく
)
ないわ。
097
天下
(
てんか
)
無双
(
むさう
)
の
美人
(
びじん
)
だと
思
(
おも
)
つてゐたらその
筈
(
はず
)
、
098
お
前
(
まへ
)
は
棚機姫
(
たなばたひめ
)
の
天降
(
あまくだ
)
りだつたのか。
099
いかにも、
100
どこともなしに
気品
(
きひん
)
の
高
(
たか
)
いスタイルだ。
101
天下
(
てんか
)
の
幸福
(
かうふく
)
をお
前
(
まへ
)
と
俺
(
おれ
)
と
二人
(
ふたり
)
して
独占
(
どくせん
)
すればいいぢやないか。
102
もう、
103
かうなれば
大黒主
(
おほくろぬし
)
もヘツタクレもない。
104
俺
(
おれ
)
の
決心
(
けつしん
)
は
動
(
うご
)
かないから
安心
(
あんしん
)
してくれ。
105
千草姫
(
ちぐさひめ
)
、
106
あまり
俺
(
おれ
)
だつて
憎
(
にく
)
うはあるまいがな、
107
エツヘヽヽヽヽヽ』
108
千草
(
ちぐさ
)
『オツホヽヽヽヽヽ』
109
と
高
(
たか
)
く
笑
(
わら
)
ひ、
110
『
此
(
この
)
夫
(
をつと
)
にして
此
(
この
)
妻
(
つま
)
あり、
111
お
日
(
ひ
)
さまにお
月
(
つき
)
さま、
112
お
天道
(
てんだう
)
さまにお
地球
(
つち
)
さま。
113
キユーバーさまに
千草姫
(
ちぐさひめ
)
。
114
猫
(
ねこ
)
に
鰹節
(
かつをぶし
)
。
115
これ
丈
(
だ
)
けよう
揃
(
そろ
)
ふた
夫婦
(
ふうふ
)
が
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
に
御座
(
ござ
)
りませうかね』
116
キユ『アツハヽヽヽヽヽ、
117
此奴
(
こいつ
)
は
面白
(
おもしろ
)
い。
118
人間
(
にんげん
)
も
一生
(
いつしやう
)
に
一度
(
いちど
)
は
幸運
(
かううん
)
に
出会
(
でくは
)
すと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だ。
119
此
(
この
)
キユーバーも
大神
(
おほかみ
)
の
御
(
ご
)
利益
(
りやく
)
によつて
初
(
はじ
)
めての
安心
(
あんしん
)
立命
(
りつめい
)
を
得
(
え
)
た。
120
其方
(
そなた
)
は
俺
(
おれ
)
に
対
(
たい
)
して
大
(
だい
)
救世主
(
きうせうしゆ
)
だ。
121
弥勒
(
みろく
)
如来
(
によらい
)
だ、
122
メシヤだ、
123
キリストだ、
124
瑞
(
みづ
)
の
御霊
(
みたま
)
だ。
125
お
前
(
まへ
)
をおいて
救世主
(
きうせいしゆ
)
が
何処
(
どこ
)
にあらう。
126
お
前
(
まへ
)
と
俺
(
おれ
)
と
二柱
(
ふたはしら
)
、
127
天上
(
てんじやう
)
高
(
たか
)
く
舞
(
ま
)
ひ
上
(
のぼ
)
り、
128
天
(
あめ
)
の
浮橋
(
うきはし
)
に
乗
(
の
)
り、
129
大海原
(
おほうなばら
)
に
漂
(
ただよ
)
へる
国々
(
くにぐに
)
の
民
(
たみ
)
を
安養
(
あんやう
)
浄土
(
じやうど
)
に
助
(
たす
)
けてやらうぢやないか。
130
どうだ
姫
(
ひめ
)
、
131
よもや
異存
(
いぞん
)
はあるまいな』
132
千草
(
ちぐさ
)
『いやですよ。
133
最前
(
さいぜん
)
も
云
(
い
)
つたぢやありませぬか。
134
貴方
(
あなた
)
の
姿
(
すがた
)
は
妾
(
わらは
)
以外
(
いぐわい
)
に
見
(
み
)
せるのは
嫌
(
いや
)
ですよ。
135
玉
(
たま
)
の
御声
(
みこゑ
)
は
妾
(
わらは
)
以外
(
いぐわい
)
に
聞
(
き
)
かしちや
嫌
(
いや
)
ですよ。
136
貴方
(
あなた
)
は
気
(
き
)
の
多
(
おほ
)
いお
方
(
かた
)
だから、
137
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
蒼生
(
さうせい
)
にまで、
138
この
尊
(
たふと
)
いお
姿
(
すがた
)
を
拝
(
をが
)
ましてやり、
139
そして
慄
(
ふる
)
いつき
度
(
た
)
い
程
(
ほど
)
味
(
あぢ
)
のある、
140
天人
(
てんにん
)
の
音楽
(
おんがく
)
にも
勝
(
まさ
)
る
玉
(
たま
)
の
御声
(
みこゑ
)
を、
141
万人
(
ばんにん
)
にお
聞
(
き
)
かせ
遊
(
あそ
)
ばすお
考
(
かんが
)
へでせうが、
142
その
御声
(
みこゑ
)
は
妾
(
わらは
)
一人
(
ひとり
)
が
聞
(
き
)
かして
頂
(
いただ
)
く
約束
(
やくそく
)
ぢや
御座
(
ござ
)
りませぬか』
143
キユ『これ、
144
千草姫
(
ちぐさひめ
)
、
145
お
前
(
まへ
)
も
仲々
(
なかなか
)
したたか
者
(
もの
)
だな。
146
やさしい
顔
(
かほ
)
をして
居
(
を
)
つて、
147
あまり
欲
(
よく
)
が
深過
(
ふかすぎ
)
るぢやないか。
148
このキユーバーは
天下
(
てんか
)
万民
(
ばんみん
)
を
救
(
すく
)
ふため
天降
(
あまくだ
)
つて
来
(
き
)
たのだ。
149
それでは、
150
少
(
すこ
)
し
天
(
てん
)
の
使命
(
しめい
)
に
反
(
そむ
)
くと
云
(
い
)
ふものだがな』
151
千草姫
(
ちぐさひめ
)
は
故意
(
わざ
)
とプリンと
背
(
せな
)
を
向
(
む
)
け、
152
『ヘン
勝手
(
かつて
)
にして
下
(
くだ
)
さいませ。
153
妾
(
わらは
)
は、
154
もう
死
(
しに
)
ますから、
155
(
泣声
(
なきごゑ
)
)オーンオーンオーンオーンオーン』
156
キユ『これこれ
千草姫
(
ちぐさひめ
)
殿
(
どの
)
、
157
さう
怒
(
おこ
)
つて
貰
(
もら
)
つちや
困
(
こま
)
る。
158
お
前
(
まへ
)
の
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
云
(
い
)
つたのぢやなし、
159
マア、
160
トツクリと
俺
(
おれ
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
いてくれ。
161
世界
(
せかい
)
万民
(
ばんみん
)
に
対
(
たい
)
して
愛
(
あい
)
を
注
(
そそ
)
がうと
云
(
い
)
ふのぢやないからな』
162
千草
(
ちぐさ
)
『エー、
163
知
(
し
)
りませぬ。
164
妾
(
わらは
)
のやうなお
多福
(
たふく
)
は
到底
(
たうてい
)
、
165
お
気
(
き
)
に
入
(
い
)
りますまい。
166
ウオーンウオーンウオーン』
167
キユ『アツハヽヽヽヽヽ、
168
丁度
(
ちやうど
)
芋虫
(
いもむし
)
のやうだ。
169
プリンプリンと
右
(
みぎ
)
と
左
(
ひだり
)
へ、
170
お
頭
(
つむり
)
をお
振
(
ふ
)
り
遊
(
あそ
)
ばすわい。
171
これ
姫
(
ひめ
)
さま、
172
さう
悪
(
わる
)
く
思
(
おも
)
つちやいけない。
173
マア、
174
トツクリと
俺
(
おれ
)
の
腹
(
はら
)
の
底
(
そこ
)
を
聞
(
き
)
いて
下
(
くだ
)
さい』
175
千草姫
(
ちぐさひめ
)
は
又
(
また
)
もやプリンと
体
(
からだ
)
を
廻
(
まは
)
し、
176
ペタリと
地上
(
ぢべた
)
に
倒
(
たふ
)
れ、
177
左右
(
さいう
)
の
袂
(
たもと
)
で
顔
(
かほ
)
を
被
(
おほ
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
178
『ハイ
芋虫
(
いもむし
)
で
御座
(
ござ
)
ります。
179
芋虫
(
いもむし
)
は
芋助
(
いもすけ
)
の
厄介
(
やくかい
)
になればよいのです。
180
分相応
(
ぶんさうおう
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が
御座
(
ござ
)
りますからね、
181
アーンアーンアーンアーン』
182
キユ『
何
(
なん
)
とマア、
183
ヒステリックだな。
184
芋虫
(
いもむし
)
と
云
(
い
)
つたのが、
185
それ
程
(
ほど
)
お
気
(
き
)
に
触
(
さは
)
つたのか』
186
千草
(
ちぐさ
)
『ハイ
妾
(
わらは
)
は
芋虫
(
いもむし
)
で
御座
(
ござ
)
りませう。
187
貴方
(
あなた
)
の
目
(
め
)
から
御覧
(
ごらん
)
になつたら、
188
雪隠虫
(
せんちむし
)
のやうに
見
(
み
)
えませう。
189
エーくやしい、
190
アーンアーンアーンアーンもう
知
(
し
)
りませぬ
知
(
し
)
りませぬ。
191
妾
(
わらは
)
のやうな
者
(
もの
)
は
此
(
この
)
世
(
よ
)
にをりさへせなかつたら、
192
いいんですわ。
193
気
(
き
)
の
多
(
おほ
)
い
貴方
(
あなた
)
のやうなお
方
(
かた
)
に
恋慕
(
れんぼ
)
して、
194
悩殺
(
なうさつ
)
されるよりも、
195
体
(
てい
)
よう
舌
(
した
)
をかんで
死
(
し
)
んだがましで
御座
(
ござ
)
りますわい、
196
ウオーン ウオーン』
197
キユ『コーレ、
198
姫
(
ひめ
)
さま、
199
トツクリと
聞
(
き
)
いて
下
(
くだ
)
さい。
200
このキユーバーを
可愛
(
かあい
)
いと
思召
(
おぼしめ
)
すなら、
201
さう
気
(
き
)
をもまさずにおいて
下
(
くだ
)
さい。
202
どうやら
俺
(
おれ
)
の
方
(
はう
)
が
悩殺
(
なうさつ
)
されさうになつて
来
(
き
)
た。
203
エー、
204
泣
(
な
)
き
度
(
た
)
くなつて
来
(
き
)
た。
205
一
(
ひと
)
つ
惚
(
ほ
)
れ
泣
(
な
)
きを
思
(
おも
)
ふ
存分
(
ぞんぶん
)
し
度
(
た
)
いと
思
(
おも
)
つたのに、
206
姫
(
ひめ
)
から
先鞭
(
せんべん
)
をつけられたので
大変
(
たいへん
)
な
損
(
そん
)
をした。
207
此方
(
こちら
)
から
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
を
取
(
と
)
らにやならぬやうになつて
来
(
き
)
たわい。
208
アーア、
209
恋
(
こひ
)
も
仲々
(
なかなか
)
並
(
なみ
)
や
大抵
(
たいてい
)
で
成立
(
せいりつ
)
しないものだな』
210
千草
(
ちぐさ
)
『キユーバーさま、
211
貴方
(
あなた
)
本当
(
ほんたう
)
にひどい
人
(
ひと
)
ですわ。
212
妾
(
わらは
)
を
泣
(
な
)
かして
泣
(
な
)
かして
焦
(
こが
)
れ
死
(
じに
)
さそうと
思
(
おも
)
つてゐなさるのでせう。
213
サアどうぞ
殺
(
ころ
)
して
下
(
くだ
)
さい。
214
頭
(
あたま
)
の
先
(
さき
)
から
爪
(
つめ
)
の
先
(
さき
)
迄
(
まで
)
、
215
貴方
(
あなた
)
に
任
(
まか
)
したのですから、
216
もうかうなりやお
屁
(
なら
)
一
(
ひと
)
つ
弾
(
だん
)
じる
勇気
(
ゆうき
)
も
御座
(
ござ
)
りませぬわ』
217
キユ『
俺
(
おれ
)
だつて、
218
お
前
(
まへ
)
のために
鰻
(
うなぎ
)
の
蒲焼
(
かばやき
)
ぢやないが、
219
背骨
(
せぼね
)
を
断
(
た
)
ち
割
(
わ
)
られて
了
(
しま
)
つたやうだ。
220
これ
丈
(
だ
)
けの
心
(
こころ
)
尽
(
づく
)
しをチツともお
前
(
まへ
)
は
汲
(
く
)
みとつてくれないのか』
221
千草
(
ちぐさ
)
『ヱー
残念
(
ざんねん
)
やな
残念
(
ざんねん
)
やな。
222
貴方
(
あなた
)
こそ、
223
妾
(
わらは
)
の
心
(
こころ
)
を
汲
(
く
)
みとつて
下
(
くだ
)
さらないのだもの』
224
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
らキユーバーの
顔
(
かほ
)
を
目
(
め
)
がけて
一寸
(
いつすん
)
斗
(
ばか
)
りも
伸
(
の
)
ばした
爪
(
つめ
)
を、
225
無遠慮
(
ぶゑんりよ
)
に
額
(
ひたひ
)
から
胸先
(
むなさき
)
かけて、
226
ゲリゲリと
二三
(
にさん
)
べん
掻
(
か
)
き
下
(
お
)
ろした。
227
キユ『アイタツタヽヽヽヽヽ、
228
これ
姫
(
ひめ
)
、
229
無茶
(
むちや
)
をすない。
230
顔
(
かほ
)
一面
(
いちめん
)
に
蚯蚓
(
みみづ
)
脹
(
ば
)
れが
出来
(
でき
)
るぢやないか。
231
こんな
事
(
こと
)
されちや
外分
(
ぐわいぶん
)
が
悪
(
わる
)
くて、
232
外出
(
ぐわいしゆつ
)
出来
(
でき
)
はせぬわ』
233
千草
(
ちぐさ
)
『そりやさうですとも。
234
外
(
ほか
)
の
女
(
をんな
)
に
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
せないやうに
意茶
(
いちや
)
つき
喧嘩
(
げんくわ
)
の
印
(
しるし
)
を、
235
尊
(
たふと
)
き
尊
(
たふと
)
き
可愛
(
かあい
)
いお
顔
(
かほ
)
につけておいたのですもの。
236
これでも
妾
(
わらは
)
の
心底
(
しんてい
)
が
分
(
わか
)
りませぬか』
237
キユ『アハヽヽヽヽヽ、
238
アイタツタヽヽヽ、
239
笑
(
わら
)
ふと
顔
(
かほ
)
の
筋
(
すぢ
)
が
引張
(
ひつぱ
)
つて、
240
アツハヽヽヽヽ、
241
アイタツタヽヽヽヽヽ、
242
ひどい
事
(
こと
)
をする
女
(
をんな
)
だな、
243
お
前
(
まへ
)
は』
244
千草
(
ちぐさ
)
『そらさうでせうとも。
245
相見互
(
あひみたが
)
ひですわ。
246
妾
(
わらは
)
の
命
(
いのち
)
を
貴方
(
あなた
)
に
捧
(
ささ
)
げたのですもの、
247
貴方
(
あなた
)
だつて
妾
(
わらは
)
に
生命
(
いのち
)
を
呉
(
く
)
れるでせう。
248
薄皮
(
うすかは
)
位
(
くらゐ
)
むいたつてそれが
何
(
なん
)
です。
249
小指
(
こゆび
)
一本
(
いつぽん
)
貰
(
もら
)
ひませうか』
250
キユ『そりや
小指
(
こゆび
)
の
一本
(
いつぽん
)
位
(
くらゐ
)
お
前
(
まへ
)
の
為
(
ため
)
にや、
251
やらぬ
事
(
こと
)
はないが、
252
神
(
かみ
)
さまから
与
(
あた
)
へられた
完全
(
くわんぜん
)
の
体
(
からだ
)
を
傷
(
きず
)
つけるには
及
(
およ
)
ばぬぢやないか。
253
それよりも
俺
(
おれ
)
の
魂
(
たましひ
)
を
受取
(
うけと
)
つてくれ。
254
魂
(
たましひ
)
が
肝腎
(
かんじん
)
だからのう』
255
千草
(
ちぐさ
)
『
貴方
(
あなた
)
の
魂
(
たましひ
)
をやらうと
仰有
(
おつしや
)
つたが、
256
どうしたら
下
(
くだ
)
さいますか』
257
キユ『
俺
(
おれ
)
の
魂
(
たましひ
)
と
云
(
い
)
ふのは
真心
(
まごころ
)
だ。
258
言心行
(
げんしんかう
)
の
一致
(
いつち
)
だ』
259
千草
(
ちぐさ
)
『そんなら、
260
どうか
真心
(
まごころ
)
を
表
(
あら
)
はす
為
(
ため
)
に、
261
何
(
なん
)
でも
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
、
262
聞
(
き
)
いて
下
(
くだ
)
さるでせうな』
263
キユ『ウン、
264
聞
(
き
)
いてやる。
265
お
前
(
まへ
)
の
為
(
ため
)
にや、
266
生命
(
いのち
)
でも
何時
(
いつ
)
でもやるのだ』
267
千草
(
ちぐさ
)
は
嬉
(
うれ
)
しさうな
顔
(
かほ
)
してニタニタ
笑
(
わら
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
268
『キユーバー
様
(
さま
)
、
269
貴方
(
あなた
)
の
真心
(
まごころ
)
が
分
(
わか
)
りました。
270
嬉
(
うれ
)
しう
御座
(
ござ
)
りますわ。
271
これで
暗
(
やみ
)
が
晴
(
は
)
れました』
272
と
何
(
なん
)
とも
云
(
い
)
へぬ
愛嬌
(
あいけう
)
の
滴
(
したた
)
る、
2721
眼光
(
まなざし
)
に
露
(
つゆ
)
を
含
(
ふく
)
んでキユーバーを
注視
(
ちうし
)
した。
273
キユーバーはこのニコリと
笑
(
わら
)
つた
千草姫
(
ちぐさひめ
)
の
顔
(
かほ
)
に
益
(
ますま
)
す
夢現
(
ゆめうつつ
)
となり、
274
垂涎
(
すゐえん
)
滝
(
たき
)
の
如
(
ごと
)
く『エツヘヽヽヽヽ』と
顔
(
かほ
)
の
紐
(
ひも
)
まで
解
(
ほど
)
いて、
275
清水焼
(
きよみづやき
)
の
布袋
(
ほてい
)
の
出来損
(
できそこな
)
ひのやうな
面
(
かほ
)
になつて
了
(
しま
)
つた。
276
千草
(
ちぐさ
)
『サア、
277
キユーバー
様
(
さま
)
、
278
今
(
いま
)
妾
(
わらは
)
に
何時
(
いつ
)
でも
命
(
いのち
)
をやらうと
仰有
(
おつしや
)
いましたね』
279
キユ『ウン、
280
確
(
たしか
)
に
云
(
い
)
ふた。
281
俺
(
おれ
)
も
男
(
をとこ
)
だ、
282
やると
云
(
い
)
ふたらやる。
283
お
前
(
まへ
)
の
事
(
こと
)
だつたら
何
(
なん
)
でも
聞
(
き
)
いてやる。
284
仮令
(
たとへ
)
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
命令
(
めいれい
)
に
反
(
そむ
)
いてもお
前
(
まへ
)
の
命令
(
めいれい
)
には
反
(
そむ
)
かぬからのう』
285
千草
(
ちぐさ
)
『アヽそれ
聞
(
き
)
いて
安心
(
あんしん
)
しました。
286
サア
早速
(
さつそく
)
命
(
いのち
)
を
頂戴
(
ちやうだい
)
しませう』
287
と
懐剣
(
くわいけん
)
をスラリと
引
(
ひき
)
抜
(
ぬ
)
き
身構
(
みがま
)
へする。
288
流石
(
さすが
)
惚
(
のろ
)
けきつたキユーバーも
短刀
(
たんたう
)
を
見
(
み
)
るや、
289
本当
(
ほんたう
)
に
命
(
いのち
)
をとられるのかと
蒼
(
あを
)
くなり
慄
(
ふる
)
い
声
(
ごゑ
)
を
出
(
だ
)
し
乍
(
なが
)
ら、
290
キユ『
待
(
ま
)
つた
待
(
ま
)
つた、
291
ソウ
気
(
き
)
の
早
(
はや
)
い、
292
お
前
(
まへ
)
に
命
(
いのち
)
をやつてどうするのだ。
293
俺
(
おれ
)
が
死
(
し
)
んだら
俺
(
おれ
)
の
綺麗
(
きれい
)
な
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
る
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ず、
294
俺
(
おれ
)
の
玉
(
たま
)
の
声
(
こゑ
)
を
聞
(
き
)
く
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ぬぢやないか。
295
恋
(
こひ
)
に
逆上
(
のぼ
)
せるのもいいが、
296
そこまで
行
(
い
)
つちやいけないよ、
297
マア、
298
チツト
気
(
き
)
を
落
(
お
)
ちつけたらどうだ』
299
千草
(
ちぐさ
)
『
恋愛
(
れんあい
)
の
真
(
しん
)
の
味
(
あぢは
)
ひは
生命
(
せいめい
)
を
捨
(
す
)
てる
処
(
ところ
)
にあるのですよ。
300
涙
(
なみだ
)
から
真
(
しん
)
の
恋愛
(
れんあい
)
が
生
(
うま
)
れるのですもの、
301
貴方
(
あなた
)
は
命
(
いのち
)
をやらうと
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
302
何故
(
なぜ
)
実行
(
じつかう
)
をして
下
(
くだ
)
さらないのですか。
303
言心行
(
げんしんかう
)
一致
(
いつち
)
と
申
(
まを
)
されましたが、
304
ヤツパリ
妾
(
わらは
)
を、
305
かよわき
女
(
をんな
)
だと
思
(
おも
)
つて、
306
お
嬲
(
なぶり
)
遊
(
あそ
)
ばしたのですか、
307
エー
悔
(
くや
)
しい
悔
(
くや
)
しい、
308
残念
(
ざんねん
)
やな
残念
(
ざんねん
)
やな』
309
と
短刀
(
たんたう
)
を、
310
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
捨
(
す
)
てて
泣
(
な
)
き
伏
(
ふ
)
す。
311
キユーバーはヤツト
安心
(
あんしん
)
し、
312
胸
(
むね
)
を
撫
(
な
)
で
下
(
お
)
ろし
乍
(
なが
)
ら、
313
『アツハヽヽヽヽヽ、
314
面白
(
おもしろ
)
い
面白
(
おもしろ
)
い、
315
恋愛
(
れんあい
)
もここ
迄
(
まで
)
出
(
で
)
て
来
(
こ
)
ぬと、
316
神聖味
(
しんせいみ
)
が
分
(
わか
)
らぬわい。
317
何
(
なん
)
と
可愛
(
かあい
)
いものだな』
318
千草
(
ちぐさ
)
『
貴方
(
あなた
)
は
妾
(
わらは
)
を
騙
(
だま
)
してそれ
程
(
ほど
)
面白
(
おもしろ
)
う
御座
(
ござ
)
りますか。
319
そら、
320
さうでせう。
321
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
女
(
をんな
)
を
皆
(
みな
)
、
322
済度
(
さいど
)
しようと
仰有
(
おつしや
)
るやうな
気
(
き
)
の
多
(
おほ
)
いお
方
(
かた
)
ですもの。
323
言心行
(
げんしんかう
)
一致
(
いつち
)
が
聞
(
き
)
いて
呆
(
あき
)
れますわ』
324
キユ『
今
(
いま
)
の
人間
(
にんげん
)
は
心
(
こころ
)
に
思
(
おも
)
はぬ
事
(
こと
)
でも
口
(
くち
)
で
云
(
い
)
ふぢやないか。
325
このキユーバーは
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
だ。
326
決
(
けつ
)
して
心
(
こころ
)
にない
事
(
こと
)
は
云
(
い
)
はない。
327
今
(
いま
)
の
人間
(
にんげん
)
は
口
(
くち
)
と
心
(
こころ
)
と
行
(
おこな
)
ひが
一致
(
いつち
)
せぬのみか、
328
心
(
こころ
)
と
口
(
くち
)
とが
一致
(
いつち
)
してゐない。
329
俺
(
おれ
)
は
心
(
こころ
)
に
思
(
おも
)
ふた
事
(
こと
)
を
口
(
くち
)
へ
出
(
だ
)
して、
330
お
前
(
まへ
)
に
云
(
い
)
つたのだから
言心
(
げんしん
)
一致
(
いつち
)
だよ、
331
ハツハヽヽヽヽヽ』
332
千草
(
ちぐさ
)
『
言心
(
げんしん
)
一致
(
いつち
)
なんて、
333
そんな
誤魔化
(
ごまか
)
しは
喰
(
く
)
ひませぬ。
334
も
一
(
ひと
)
つの
行
(
おこな
)
ひの
実行
(
じつかう
)
を
見
(
み
)
せて
下
(
くだ
)
さい』
335
キユ『なんとむつかしい
註文
(
ちうもん
)
だな。
336
さうむつかしう
云
(
い
)
はなくても、
337
いいぢやないか。
338
俺
(
おれ
)
の
心
(
こころ
)
を
買
(
か
)
つてくれ。
339
千
(
せん
)
年
(
ねん
)
も
万
(
まん
)
年
(
ねん
)
も、
340
生
(
いき
)
永
(
なが
)
らへてお
前
(
まへ
)
を
楽
(
たのし
)
ましてやらうと
思
(
おも
)
つてこそ
命
(
いのち
)
を
惜
(
をし
)
むのだ。
341
これもヤツパリお
前
(
まへ
)
の
為
(
ため
)
だ』
342
千草
(
ちぐさ
)
は
故意
(
わざ
)
とニコニコし
乍
(
なが
)
ら、
343
千草
(
ちぐさ
)
『ア、
344
それで
分
(
わか
)
りました。
345
どうか、
346
エターナルに
可愛
(
かあい
)
がつて
頂戴
(
ちやうだい
)
ね。
347
外
(
ほか
)
に
心
(
こころ
)
を
移
(
うつ
)
すことは、
348
いやですよ』
349
キユ『ハツハヽヽヽヽヽ、
350
ヤア
之
(
これ
)
で
先
(
ま
)
づ
先
(
ま
)
づ
平和
(
へいわ
)
克復
(
こくふく
)
だ。
351
象牙
(
ざうげ
)
細工
(
ざいく
)
のやうな
白
(
しろ
)
いお
手
(
てて
)
に
瑪瑙
(
めなう
)
の
爪
(
つめ
)
、
352
縦
(
たて
)
から
見
(
み
)
ても
横
(
よこ
)
から
見
(
み
)
ても、
353
ホントに
棚機姫
(
たなばたひめ
)
に
間違
(
まちがひ
)
ないわ。
354
オイ
姫
(
ひめ
)
、
355
どうか
一
(
ひと
)
つ
握手
(
あくしゆ
)
してくれないか』
356
千草
(
ちぐさ
)
『ハイ、
357
お
安
(
やす
)
い
事
(
こと
)
で
御座
(
ござ
)
ります』
358
と
毛
(
け
)
ダラケの
岩
(
いは
)
のやうな
真黒気
(
まつくろけ
)
の
手
(
て
)
をソツと
握
(
にぎ
)
る。
359
キユ『オイ、
360
姫
(
ひめ
)
、
361
モチト
確
(
しつか
)
り
握
(
にぎ
)
つてくれ。
362
どうも
頼
(
たよ
)
りないぢやないか。
363
そんなやさしい
握
(
にぎ
)
り
方
(
かた
)
では、
364
どうしても
恋愛
(
れんあい
)
の
程度
(
ていど
)
が
分
(
わか
)
らないわ』
365
千草
(
ちぐさ
)
『ハイ、
366
そんな
事
(
こと
)
仰有
(
おつしや
)
いますと、
367
お
手
(
てて
)
が
砕
(
くだ
)
ける
程
(
ほど
)
握
(
にぎ
)
りますよ』
368
キユ『ヨーシ
俺
(
おれ
)
の
息
(
いき
)
がとまる
所
(
ところ
)
迄
(
まで
)
握
(
にぎ
)
つてくれ、
369
ハツハヽヽヽヽヽ』
370
と
又
(
また
)
もや
口
(
くち
)
から
粘液性
(
ねんえきせい
)
の、
371
きつい
糸
(
いと
)
を
垂
(
た
)
らしてゐる。
372
千草姫
(
ちぐさひめ
)
は
柔道
(
じうだう
)
の
手
(
て
)
を
以
(
もつ
)
て
脈処
(
みやくどころ
)
を
力
(
ちから
)
限
(
かぎ
)
りにグツと
握
(
にぎ
)
り
〆
(
しめ
)
た。
373
キユーバーはウンと
一声
(
ひとこゑ
)
真蒼
(
まつさを
)
になつて、
374
その
場
(
ば
)
に
平太
(
へたつ
)
て
了
(
しま
)
つた。
375
千草姫
(
ちぐさひめ
)
はニツコと
笑
(
わら
)
ひ、
376
『ホヽヽヽヽヽ、
377
この
悪魔
(
あくま
)
奴
(
め
)
、
378
かうして
置
(
お
)
けば
暫
(
しば
)
らく
安心
(
あんしん
)
だ。
379
たうとう
気絶
(
きぜつ
)
した
様
(
やう
)
だわい、
380
ホツホヽヽヽヽヽ』
381
城
(
しろ
)
の
内外
(
ないぐわい
)
には
激戦
(
げきせん
)
が
初
(
はじ
)
まつてゐると
見
(
み
)
え、
382
ドンドンキヤアキヤア、
383
と
陣馬
(
ぢんば
)
の
犇
(
ひしめ
)
く
声
(
こゑ
)
、
384
飛道具
(
とびだうぐ
)
の
音
(
おと
)
、
385
刻一刻
(
こくいつこく
)
と
高
(
たか
)
まり
来
(
きた
)
る。
386
(
大正一四・八・二三
旧七・四
於由良秋田別荘
北村隆光
録)
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(B)
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第70巻(酉の巻)
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【第3章 恋戦連笑|第70巻|山河草木|霊界物語|/rm7003】
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