霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二〇章 千代(ちよ)の声(こゑ)〔一七八七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第70巻 山河草木 酉の巻 篇:第3篇 理想新政 よみ(新仮名遣い):りそうしんせい
章:第20章 千代の声 よみ(新仮名遣い):ちよのこえ 通し章番号:1787
口述日:1925(大正14)年08月25日(旧07月6日) 口述場所:丹後由良 秋田別荘 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年10月16日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
太子は、レール、マークが千草姫襲撃に失敗して捕らわれたことを知り、自ら彼らを助けに行こうとするが、妹の王女に止められる。
そこへ、マーク、レールの妻が、マークとレールが入獄したと聞いて、離縁状を届けにやってくる。
妻たちが去っていくと、入れ違いに、釈放されたマークとレール、そして照国別、照公が帰ってくる。
一同は、いよいよ教政改革の時がきたと判断し、新内局組織の協議会を開いた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2018-12-28 16:16:51 文字数:4467 OBC :rm7020
愛善世界社版:251頁 八幡書店版:第12輯 482頁 修補版: 校定版:258頁 普及版:128頁 初版: ページ備考:
001 シグレ町(ちやう)のレール、002マークの留守宅(るすたく)には003チウイン太子(たいし)、004チンレイ、005テイラ、006ハリスの四(よ)人(にん)が淋(さび)しく頭(あたま)を鳩(あつ)めて密談(みつだん)をやつてゐる。
007テイラ『もし太子(たいし)様(さま)、008レールさまやマークさまは、009到頭(たうとう)やりそこなつて捕(とら)はれたさうぢや御座(ござ)りませぬか。010妾(わらは)は水汲(みづく)みに参(まゐ)りました際(さい)、011そこに落(お)ちてゐた号外(がうぐわい)を見(み)て吃驚(びつくり)しましたよ』
012チウ『ナニ、013やりそこなつたかな。014ヤアこいつア困(こま)つたな。015かうしては居(を)られまい。016ジヤンクの処(ところ)へでも行(い)つて二人(ふたり)を救(すく)ひ出(だ)す工夫(くふう)でもせなくちやなるまい』
017テイ『およしなさいませ、018剣呑(けんのん)ですよ。019金毛(きんまう)九尾(きうび)の悪狐(あくこ)の憑依(ひようい)した千草姫(ちぐさひめ)ですもの、020どんな難題(なんだい)をつけて、021又(また)もや太子(たいし)様(さま)を牢獄(らうごく)に投(な)げ込(こ)み命(いのち)をとるか知(し)れませぬから』
022チウ『それだと云(い)つて、023国家(こくか)の志士(しし)を見殺(みごろ)しにする訳(わけ)には行(ゆ)かぬぢやないか。024余(よ)は之(これ)から、025どうなつても構(かま)はぬ。026二人(ふたり)の遭難(さうなん)を坐視(ざし)するには忍(しの)びない。027一(ひと)つあらゆる手段(しゆだん)を尽(つく)して助(たす)けて見(み)ようと思(おも)ふのだ。028どうか君(きみ)等(たち)三(さん)人(にん)は外(そと)に出(で)ぬやうにして待(ま)つてゐてくれ』
029チンレイ『お兄様(あにさま)、030千金(せんきん)の御(おん)身(み)を以(もつ)て軽挙(けいきよ)妄動(まうどう)はお止(よ)しなさいませ。031万一(まんいち)御(お)身(み)の上(うへ)に危険(きけん)が迫(せま)り、032お命(いのち)でも失(うしな)ひ遊(あそ)ばすやうな事(こと)があつては、033それこそトルマン国(ごく)は常暗(とこやみ)になつて了(しま)ひますわ。034これ丈(だ)け人心(じんしん)騒々(さうざう)しく、035豺狼(さいらう)虎竜(こりう)の跋扈(ばつこ)跳梁(てうりやう)する世(よ)の中(なか)、036何(なに)程(ほど)太子(たいし)様(さま)の権威(けんゐ)だつて、037どうする事(こと)も出来(でき)ますまい。038今(いま)の重僧(ぢうそう)共(ども)は我利(がり)我欲(がよく)の外(ほか)に何(なに)も念(ねん)は御座(ござ)りませぬ。039千草姫(ちぐさひめ)の化物(ばけもの)に誑惑(きやうわく)され、040金(きん)の轡(くつわ)をはまされてゐる悪人(あくにん)許(ばか)りでありますから、041太子(たいし)様(さま)だとて、042吾(わが)身(み)の栄達(えいたつ)の為(ため)には容赦(ようしや)は致(いた)しませぬよ。043教務(けうむ)総監(そうかん)のジヤンクさまでも動(うご)かさうとしてゐるのですもの。044そんな剣呑(けんのん)な処(ところ)へ、045お越(こ)しになつてはいけませぬ。046これ許(ばか)りは思(おも)ひ止(とま)つて下(くだ)さい』
047と太子(たいし)の袖(そで)に縋(すが)りつき涕泣(ていきふ)する。
048チウ『ヤ、049困(こま)つたな。050そんなら暫(しばら)くお前(まへ)の意見(いけん)に任(まか)して待(ま)つ事(こと)としようかい』
051 斯(か)く云(い)ふ所(ところ)へ二三(にさん)人(にん)の男(をとこ)ドヤドヤと入(い)り来(きた)り、052ソツと門口(かどぐち)を覗(のぞ)き乍(なが)ら、
053男(をとこ)『ヤア、054誰(たれ)か来(き)てゐるやうだ、055オイ誰(たれ)だい。056レール、057マークの大将(たいしやう)は不幸(ふかう)にして捕(つか)まつたやうだが、058お前(まへ)は誰(たれ)だい』
059チウ『ヤア兄弟(きやうだい)か、060マア這入(はい)り給(たま)へ。061実(じつ)は俺(おれ)もなア、062親分(おやぶん)が捕(つか)まつたと聞(き)いて、063向上会(かうじやうくわい)員(ゐん)と共(とも)に、064様子(やうす)を考(かんが)へに来(き)た所(ところ)、065誰(たれ)も連中(れんぢう)が来(き)てゐないので、066留守(るす)師団長(しだんちやう)をやつてゐたのだ。067お前(まへ)は誰(たれ)だつたいな』
068男(をとこ)『俺(おれ)かい、069俺(おれ)やタールにハール、070ケースの三(さん)人(にん)だ。071号外(がうぐわい)を見(み)てこいつは大変(たいへん)だと思(おも)ひ、072誰(たれ)か見舞(みま)ひに来(き)てゐるに違(ちが)ひないと、073取(と)るものも取(と)り敢(あへ)ず駆(か)けつけて来(き)たのだが、074お前(まへ)は一体(いつたい)誰(たれ)だつたいのう』
075チウ『俺(おれ)かい、076俺(おれ)はレールの兄貴(あにき)の秘蔵(ひざう)の弟(おとうと)だ。077お前(まへ)等(たち)の名(な)は常(つね)から聞(き)いてゐたが、078俺(おれ)は特別(とくべつ)の任務(にんむ)を預(あづか)つてゐたから、079お前(まへ)達(たち)に隠(かく)してゐたのだ。080かうなれば黙(だま)つて居(を)る訳(わけ)には行(ゆ)かぬが、081何(なん)とか運動(うんどう)をやつてるだらうね』
082タール『ヤア実(じつ)は号外(がうぐわい)を見(み)るより、083同志(どうし)がクルスの森(もり)に集(あつ)まり、084親分(おやぶん)を何(なん)とかして取返(とりかへ)さうと相談(さうだん)してる最中(さいちう)に、085数百(すうひやく)の番僧隊(ばんそうたい)がうせやがつて、086十重(とへ)二十重(はたへ)に取(と)り囲(かこ)んだものだから、087どうする事(こと)も出来(でき)ず、088同志(どうし)は四方(しはう)に散乱(さんらん)して了(しま)つたのだ。089本当(ほんたう)に俺(おれ)等(たち)の運動(うんどう)に対(たい)しては、090親分(おやぶん)の入獄(にふごく)は泣(な)き面(づら)に蜂(はち)だ。091痩児(やせご)に蓮根(はすね)だ。092どうにもかうにも、093今(いま)の処(ところ)手(て)のつけやうが無(な)いわい。094オイ、095兄貴(あにき)、096何(なに)かいい考(かんが)へはなからうかな』
097チウ『待(ま)て待(ま)て、098さう慌(あわ)てた処(ところ)で仕方(しかた)がない。099今(いま)は役僧(やくそう)共(ども)の頭(あたま)が非常(ひじやう)に鋭敏(えいびん)になつてゐるから、100大(おほ)きな声(こゑ)で物(もの)一(ひと)つ云(い)ふ事(こと)も出来(でき)ない。101暫(しばら)く成行(なりゆき)に任(まか)し、102時(とき)を得(え)て奪(うば)ひ返(かへ)すより外(ほか)に方法(はうはふ)はなからうぞ。103マアゆつくりし給(たま)へ』
104タ『オイ、105ハール、106ケース、107兄貴(あにき)があゝ云(い)ふから、108兎(と)も角(かく)一服(いつぷく)しようぢやないか』
109『ウン、110よからう』
111と二人(ふたり)はタールの後(あと)について狭(せま)い床(とこ)かばちに腰(こし)を下(おろ)した。
112タ『ヤア、113然(しか)もナイスが三(さん)人(にん)も居(ゐ)るぢやないか。114オイ兄貴(あにき)、115うまい事(こと)してやがるな。116一人(ひとり)寄(よ)つて三(さん)人(にん)も占領(せんりやう)するとは、117本当(ほんたう)に凄(すご)い腕前(うでまへ)ぢやないか。118吾々(われわれ)の主義(しゆぎ)から云(い)つても、119こんな不道理(ふだうり)の事(こと)ア出来(でき)ない。120どうだ婦人(ふじん)国有論(こくいうろん)の実行(じつかう)をやらうぢやないか』
121チウ『馬鹿(ばか)云(い)ふな。122この三(さん)人(にん)は皆(みな)婦人(ふじん)向上会(かうじやうくわい)員(ゐん)だ。123婦人(ふじん)参政権(さんせいけん)獲得(くわくとく)運動(うんどう)の張本人(ちやうほんにん)だよ。124レール、125マークの両人(りやうにん)が遭難(さうなん)を聞(き)いて、126親切(しんせつ)に尋(たづ)ねて来(き)てくれたのだ』
127タ『成程(なるほど)128そらさうだらう。129これこれ御(ご)婦人(ふじん)、130此(この)際(さい)しつかり御(ご)活動(くわつどう)願(ねが)ひますぜ。131然(しか)し何時(いつ)バラスパイが追跡(ついせき)して来(く)るかも知(し)れぬから、132永居(ながゐ)は恐(おそ)れだ。133兄貴(あにき)又(また)ゆつくりお目(め)にかからう。134左様(さやう)なら』
135と足早(あしばや)に暗(やみ)の路地(ろぢ)に姿(すがた)を消(け)した。
136 その夜(よ)は積(つ)んだり崩(くづ)したり、137いろいろと小声(こごゑ)で話(はな)し乍(なが)ら眠(ねむ)つて了(しま)ひ、138翌朝(よくてう)早(はや)うから三(さん)人(にん)の女(をんな)が炊事(すゐじ)をしたり、139そこらを掃(は)いたりやつて居(ゐ)ると、140乳飲児(ちのみご)を背(せ)に負(お)うた二人(ふたり)の女(をんな)が、141相当(さうたう)な衣服(いふく)を身(み)に纏(まと)ひ乍(なが)ら142門口(かどぐち)に立(た)ち、
143女(をんな)『もし、144一寸(ちよつと)お尋(たづ)ね申(まを)しますが、145レール、146マークの宅(たく)は当家(たうけ)ぢや御座(ござ)りませぬか』
147テイラ『ハイ、148左様(さやう)で御座(ござ)ります。149誰方(どなた)か知(し)りませぬが、150先(ま)づ御(お)這入(はい)り下(くだ)さいませ』
151女(をんな)『妾(わたし)はクロイの里(さと)のマサ子(こ)、152カル子(こ)と申(まを)すもので御座(ござ)ります。153レールさまやマークさまが、154小本山(せうほんざん)の役僧(やくそう)に捕(つかま)へられ、155入獄(にふごく)をなさつたと聞(き)きまして、156取(と)るものも取(と)り敢(あへ)ず遙々(はるばる)と尋(たづ)ねて参(まゐ)りました。157どうで御座(ござ)りませうかな。158早速(さつそく)には帰(かへ)つて御座(ござ)るやうな事(こと)はありますまいか』
159テイ『貴女(あなた)は、160さうすると、161マサ子(こ)さま、162カル子(こ)さまと仰有(おつしや)いましたが、163レールさま、164マークさまの奥(おく)さまぢや御座(ござ)りませぬか』
165マサ子(こ)『ハイ、166妾(わたし)はレールの女房(にようばう)で御座(ござ)ります。167この方(かた)はマークさまの奥(おく)さまで御座(ござ)りますよ。168向上(かうじやう)運動(うんどう)とか何(なん)とか云(い)つて奇妙(きめう)な事(こと)を主人(しゆじん)がやるものですから、169妾(わたし)の所(ところ)まで番僧(ばんそう)が張(は)つて居(を)りますの。170本当(ほんたう)に困(こま)つて了(しま)ひますわ』
171チウ『ヤー奥(おく)さまで御座(ござ)りますか。172サア、173どうか此方(こちら)へお掛(か)け下(くだ)さいませ。174別(べつ)に、175さう御(ご)心配(しんぱい)にも及(およ)びますまい。176やがて許(ゆる)されて帰(かへ)つて来(こ)られるでせう』
177マサ子(こ)『ハイ、178有難(ありがた)う御座(ござ)ります。179本当(ほんたう)に妾(わたし)二人(ふたり)は不運(ふうん)なもので御座(ござ)ります。180何程(なにほど)意見(いけん)を致(いた)しましても、181女(をんな)の知(し)る事(こと)でないと、182一言(ひとこと)にはねつけ、183一言(いちごん)も女房(にようばう)の云(い)ふ事(こと)を聞(き)いて呉(く)れないものですから、184たうとうこんな災難(さいなん)にあつたので御座(ござ)ります。185親類(しんるゐ)や兄弟(きやうだい)からも喧(やかま)しく申(まを)しまして、186縁(えん)を切(き)つて帰(かへ)つて来(こ)い帰(かへ)つて来(こ)いと勧(すす)めるのですけれど、187二人(ふたり)の仲(なか)に、188切(き)つても切(き)れぬ鎹(かすがひ)が出来(でき)ましたので、189可愛(かあい)い子供(こども)を継母(ままはは)の手(て)に渡(わた)すのもいぢらしいと思(おも)ひ、190泣(な)きの涙(なみだ)で今日(こんにち)迄(まで)辛抱(しんばう)して来(き)ましたが、191もう堪(た)へ切(き)れませぬ。192それでキツパリ縁(えん)を絶(き)つて貰(もら)ひ度(た)いと思(おも)ひまして尋(たづ)ねて来(き)たので御座(ござ)ります』
193チウ『女房(にようばう)が夫(をつと)に離縁(りえん)を請求(せいきう)するとは、194如何(いか)なる事情(じじやう)があるにもせよ、195不貞(ふてい)の甚(はなはだ)しきものだ。196今時(いまどき)の女性(ぢよせい)は、197どれもこれも、198我利(われよ)しだから、199困(こま)つたものだな』
200マサ子(こ)『そりや一応(いちおう)御尤(ごもつと)もで御座(ござ)りますが、201こんな夫(をつと)に添(そ)うて居(を)りましては、202此(この)世(よ)の中(なか)で安心(あんしん)して暮(くら)すことが出来(でき)ませぬわ。203貴方(あなた)は矢張(やつぱり)レールのお仲間(なかま)で御座(ござ)りますか』
204チウ『ハア、205さうです。206兄貴(あにき)がかまつたものだから、207是非(ぜひ)なく嬶(かか)と一緒(いつしよ)に、208この牙城(がじやう)を守(まも)つて居(を)ります。209随分(ずいぶん)留守(るす)師団長(しだんちやう)も、210いい加減(かげん)なものですよ』
211カル子(こ)『綺麗(きれい)な御(ご)婦人(ふじん)が、212しかも三(さん)人(にん)居(ゐ)らつしやいますが、213此(この)二人(ふたり)はどうやら、214レールさまとマークの愛(あい)してゐられる御(ご)婦人(ふじん)でせう。215本当(ほんたう)に妻子(さいし)に対(たい)し、216あるにあられぬ心配(しんぱい)をかけておき乍(なが)ら、217何(なん)と云(い)ふ酷(ひど)い人(ひと)だらう。218マサ子(こ)さま、219もう駄目(だめ)ですよ。220スツパリと断念(だんねん)しようぢや御座(ござ)りませぬか』
221マサ『本当(ほんたう)にさうですな。222こんな白首(しらくび)があるものですから妻子(さいし)を顧(かへり)みず、223こんな所(ところ)に好(す)きすつぽうな暮(くら)しをやつてゐるのですよ。224エーもう穢(けがらは)しうなつて来(き)ました。225サア帰(かへ)りませう』
226と早(はや)くも立去(たちさ)らむとする。
227チウ『もしもし奥(おく)さま、228そら違(ちが)ひますよ。229さう、230誤解(ごかい)されちやレールさまや、231マークさまに気(き)の毒(どく)ですわ。232之(これ)には深(ふか)い訳(わけ)があります。233さう怒(おこ)らずに一応(いちおう)私(わたし)の云(い)ふ事(こと)をお聞(き)き下(くだ)さい』
234マサ『エーエー何(なん)と仰有(おつしや)つても、235私(わたし)の耳(みみ)には這入(はい)りませぬ。236現在(げんざい)白首(しらくび)を見(み)せつけ乍(なが)ら百万遍(ひやくまんべん)の弁解(べんかい)をなさつても、237私(わたし)の耳(みみ)へは到底(たうてい)這入(はい)りませぬ。238こんな事(こと)だらうと思(おも)ひ、239マサカの時(とき)の用意(ようい)にと、240カル子(こ)さまと相談(さうだん)の上(うへ)に、241親(おや)兄弟(きやうだい)の承諾(しやうだく)を得(え)て、242ここに離縁状(りえんじやう)を持(も)つて参(まゐ)りました。243レール、244マークの両人(りやうにん)は囚(とら)はれの身(み)の上(うへ)ですから、245直接(ちよくせつ)に渡(わた)すことは出来(でき)ませぬから、246兄弟分(きやうだいぶん)の貴方(あなた)に確(たしか)に渡(わた)しますから、247どうか面会(めんくわい)においでになつても、248「マサ子(こ)やカル子(こ)の事(こと)はフツツリ思(おも)ひ切(き)つて下(くだ)さい。249以後(いご)関係(くわんけい)はありませぬから、250児(こ)は貴方(あなた)の出獄(しゆつごく)迄(まで)預(あづか)つておきます」と、251伝(つた)へて下(くだ)さい。252エー残念(ざんねん)やな残念(ざんねん)やな』
253と二通(につう)の離縁状(りえんじやう)を投(な)げつけ地団駄(ぢだんだ)踏(ふ)み乍(なが)ら、254路地口(ろぢぐち)を一生(いつしやう)懸命(けんめい)雲(くも)を霞(かすみ)と帰(かへ)り行(ゆ)く。
255チウ『ハツハヽヽヽ、256テイラさま、257ハリスさま、258お目出度(めでた)う。259到頭(たうとう)レール、260マークさまの奥(おく)さまにして了(しま)はれたぢやないか。261満足(まんぞく)でせうね』
262 二人(ふたり)は顔(かほ)を真赤(まつか)に染(そ)め、
263『太子(たいし)様(さま)、264腹(はら)の悪(わる)い、265揶揄(からかい)もいい加減(かげん)にして下(くだ)さいな。266ホヽヽヽヽヽ』
267チウ『ヤ、268此奴(こいつ)は冗談(じようだん)だ。269ハヽヽヽヽヽ』
270と笑(わら)ふ折(をり)しも、271鈴(りん)の音(ね)けたたましく仁恵令(じんけいれい)の行(おこな)はれ、272囚人(しうじん)は全部(ぜんぶ)解放(かいはう)されたと云(い)ふ一葉(いちえふ)の号外(がうぐわい)が舞(ま)ひ込(こ)んで来(き)た。273四(よ)人(にん)は此(この)号外(がうぐわい)を見(み)るより思(おも)はず知(し)らず手(て)を拍(う)つて、274天地(てんち)の神(かみ)に感謝(かんしや)した。
275 チウインにも三(さん)人(にん)の女(をんな)の目(め)にも嬉(うれ)し涙(なみだ)が滲(にぢ)んでゐた。276そこへイソイソとしてレール、277マークの二人(ふたり)が帰(かへ)つて来(き)た。
278チウ『ヤア、279兄貴(あにき)、280よう帰(かへ)つて来(き)てくれた。281今(いま)も今(いま)とて大変(たいへん)に心配(しんぱい)をしてゐた処(ところ)だ。282随分(ずいぶん)困(こま)つただらうな』
283レ『ヤア有難(ありがた)う。284おかげで解放(かいはう)されました』
285マ『どうも御(ご)心配(しんぱい)をかけて済(す)みませぬ。286ツイやり損(そん)じたものですから、287あんな失敗(しつぱい)をしたのですよ。288時(とき)に珍(めづ)らしいお方(かた)を連(つら)つて帰(かへ)りました。289お目(め)にかけませうか。290路地(ろぢ)の入口(いりぐち)に待(ま)つて居(を)られますから』
291チウ『珍(めづ)らしい方(かた)とは、292オイ君(きみ)、293誰(たれ)だい』
294レ『貴方(あなた)の神軍(しんぐん)を救(たす)けられたと云(い)ふ、295三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)様(さま)ですよ。296不思議(ふしぎ)の縁(えん)で同(おな)じ牢獄(らうや)へ打込(うちこ)まれて居(を)つたのです』
297チウ『何(なに)、298宣伝使(せんでんし)、299ヤアそりや、300かうしては居(を)られぬ。301ドレ、302僕(ぼく)が御(ご)挨拶(あいさつ)に行(ゆ)かう』
303と云(い)ひ乍(なが)ら、304レール、305マークに案内(あんない)させ、306路地口(ろぢぐち)に出(で)て見(み)れば、307照国別(てるくにわけ)、308照公(てるこう)の二人(ふたり)がニコニコとして立(た)つてゐる。
309チウ『ヤア、310宣伝使(せんでんし)様(さま)、311誠(まこと)にお気(き)の毒(どく)な事(こと)で御座(ござ)りました。312何分(なにぶん)継母(けいぼ)に曲神(まががみ)が憑依(ひようい)して居(を)りますものですから、313清浄(しやうじやう)潔白(けつぱく)な貴方(あなた)様(さま)を、3131あのやうな穢(むさくる)しい牢獄(らうごく)に投(なげ)込(こ)んだもので御座(ござ)りませう。314どうぞ私(わたし)に免(めん)じ、315量見(りやうけん)してやつて下(くだ)さいませ』
316照国別(てるくにわけ)『イヤ、317貴方(あなた)はチウイン太子(たいし)様(さま)、318国家(こくか)の為(た)め、319尊貴(そんき)の御(おん)身(み)を落(おと)し、3191御(ご)尽力(じんりよく)の段(だん)、320実(じつ)に感謝(かんしや)に堪(た)へませぬ。321何事(なにごと)も皆(みな)神(かみ)様(さま)の御(ご)経綸(けいりん)ですから、322そんなお気遣(きづか)ひは御(ご)無用(むよう)にして下(くだ)さい』
323照公(てるこう)『太子(たいし)様(さま)、324愈(いよいよ)教政(けうせい)改革(かいかく)の機運(きうん)が廻(めぐ)つて来(き)たやうで御座(ござ)りますわ。325お喜(よろこ)び下(くだ)さいませ。326最早(もはや)、327斯様(かやう)な貧民窟(ひんみんくつ)にお暮(くら)し遊(あそ)ばす時期(じき)は済(す)みました。328どうか堂々(だうだう)と名乗(なの)りをあげ、329教政(けうせい)改革(かいかく)にお当(あた)り下(くだ)さいませ。330私(わたくし)は師(し)の君(きみ)と共(とも)に、331有(あ)らむ限(かぎ)りのお助(たす)けを致(いた)し度(た)い考(かんが)へで御座(ござ)ります』
332チウ『ヤ、333如何(いか)にも、334お説(せつ)の通(とほ)りいよいよ時節(じせつ)が到来(たうらい)したやうに思(おも)ふ。335サア、336レール、337マーク両人(りやうにん)、338ここで一(ひと)つ臨時(りんじ)会議(くわいぎ)でも開(ひら)いて、339仮内局(かりないきよく)を組織(そしき)しようぢやないか』
340レ『兎(と)も角(かく)、341ここでは都合(つがふ)が悪(わる)う御座(ござ)りませう。342九尺(くしやく)二間(にけん)の御殿(ごてん)まで参(まゐ)りませう、343アハヽヽヽ』
344と笑(わら)ひ乍(なが)ら帰(かへ)り来(きた)り、345ここに男女(だんぢよ)六(ろく)人(にん)[※六人ではなく八人のはず。次の章では八人と書いてある。チウイン太子、チンレイ、テイラ、ハリス、レール、マーク、照国別、照公の八人。]は頭(かうべ)を鳩(あつ)めて、346新内局(しんないきよく)組織(そしき)の協議会(けふぎくわい)を開(ひら)いた。347雀(すずめ)の声(こゑ)も今日(けふ)は何(なん)となく勇(いさ)ましく千代(ちよ)々々(ちよ)と聞(きこ)え来(く)る。
348(大正一四・八・二五 旧七・六 於由良秋田別荘 北村隆光録)
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