霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第六章 鬼遊婆(きいうば)〔一七七三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第70巻 山河草木 酉の巻 篇:第1篇 花鳥山月 よみ(新仮名遣い):かちょうさんげつ
章:第6章 鬼遊婆 よみ(新仮名遣い):きゆうば 通し章番号:1773
口述日:1925(大正14)年08月23日(旧07月4日) 口述場所:丹後由良 秋田別荘 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年10月16日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
場面は変わって、気味の悪い黄昏時の情景。一面の枯草に血生臭い風。烏は鳴き、不気味な虫が草原一面に人の血を吸おうと潜んでいる。
そこへ高姫がやってくる。高姫は、三年間、中有界にとめおかれて、修行を命ぜられていたのであった。高姫は一人の亡者を弟子に連れ、自分は現界に立ち働いているつもりで、道行く人をウラナイ教にひっぱりこもうと待ち構えていたのであった。
弟子のトンボはあまりの閑古鳥と高姫の人使いの荒さに文句を言い、逃げようとしたところをつかまれて、ばったり倒れてしまった。
そこへやってきたのは、八衢に彷徨っているキューバーであった。高姫はこれ幸いとキューバーに宣伝をはじめ、自分のあばら家に引っ張り込もうとする。
キューバーは宿を探していたところへ、渡りに舟と、高姫についていく。トンボは、二人がどんな相談を始めるやら窺いに、高姫の破れ屋に足音を忍ばせてつけていく。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:5340 OBC :rm7006
愛善世界社版:72頁 八幡書店版:第12輯 416頁 修補版: 校定版:73頁 普及版:38頁 初版: ページ備考:
001 黄昏時(たそがれどき)に頭(あたま)から壺(つぼ)をかぶつたやうな空(そら)の色(いろ)、002何(なん)とも知(し)れぬ血腥(ちなまぐ)さい、003腸(はらわた)の抉(えぐ)れる如(や)うな風(かぜ)がピユーピユーと吹(ふ)いてゐる。004痩(やせ)こけた烏(からす)が二三羽(にさんば)、005羽衣(はごろも)を脱(ぬ)いだ柿(かき)の木(き)の枝(えだ)に梢(こずゑ)諸共(もろとも)空腹(すきばら)を抱(かか)へて慄(ふる)ふてゐる。
006 地上(ちじやう)は枯草(かれくさ)が一面(いちめん)に生(お)ひ立(た)ち、007処(ところ)まんだら赤(あか)い生地(きぢ)を現(あら)はしてゐる。008何(なん)とも知(し)れぬ、009いやらしい虫(むし)が枯草(かれくさ)を一面(いちめん)に取(と)りかこみ、010人(ひと)の香(にほひ)がすると一斉(いつせい)に集(あつ)まり来(きた)り、011人間(にんげん)の体(からだ)を吸(す)はうとして待(ま)ちかまへてゐる。012そこへ現(あら)はれて来(き)たのは、013三(さん)年間(ねんかん)中有界(ちううかい)にとめおかれ、014修業(しうぎやう)を命(めい)ぜられたウラナイ教(けう)の高姫(たかひめ)であつた。
015 高姫(たかひめ)は新規(しんき)の亡者(まうじや)を一人(ひとり)伴(ともな)ひ乍(なが)ら、016自分(じぶん)はヤツパリ現界(げんかい)に立(たち)働(はたら)いてゐるつもりで、017野分(のわけ)に吹(ふ)かれ乍(なが)ら、018東海道(とうかいだう)五十三(ごじふさん)次(つぎ)のやうな弊衣(へいい)を身(み)に纒(まと)ひ、019新弟子(しんでし)のトンボと一緒(いつしよ)に道(みち)行(ゆ)く人(ひと)を引張(ひつぱり)込(こ)まむと待(まち)構(かま)へて居(ゐ)た。
020トンボ『もし生宮(いきみや)様(さま)、021もういい加減(かげん)に帰(かへ)らうぢやありませぬか。022何(なん)だか此(この)街道(かいだう)は淋(さび)しくて淋(さび)しくて犬(いぬ)の子(こ)一匹(いつぴき)通(とほ)らぬぢやありませぬか。023何時(いつ)まで蜘蛛(くも)が巣(す)をかけて蝉(せみ)がとまるのを待(ま)つやうにして居(を)つても、024蝉(せみ)が来(こ)なくちや駄目(だめ)でせう』
025高姫(たかひめ)『これ、026トンボ、027お前(まへ)は何(なん)と云(い)ふ気(き)の弱(よわ)い事(こと)を云(い)ふのだい。028仮令(たとへ)人間(にんげん)が通(とほ)らなくても、029此(この)生宮(いきみや)が此処(ここ)に出張(しゆつちやう)して居(を)れば、030沢山(たくさん)の霊(みたま)が通(とほ)つて大弥勒(おほみろく)の生宮(いきみや)の御(ご)神徳(しんとく)に触(ふ)れ、031御光(ごくわう)に照(てら)され、032百(ひやく)人(にん)が百(ひやく)人(にん)乍(なが)ら、033お蔭(かげ)を頂(いただ)いて天国(てんごく)へ上(のぼ)るのだぞえ。034それだから肉体人(にくたいじん)が来(こ)なくても、035霊界人(れいかいじん)が来(き)さへすればいいのだ。036お前(まへ)の俗眼(ぞくがん)では一人(ひとり)も人間(にんげん)が来(こ)ないやうに見(み)えるだらうが、037此(この)生宮(いきみや)の目(め)には、038今朝(けさ)から八万(はちまん)人(にん)許(ばか)り来(き)たのだよ。039それはそれは忙(いそが)しい事(こと)だよ。040お前(まへ)も肉体(にくたい)が曇(くも)つてゐるので、041あれ丈(だ)けの亡者(まうじや)が一人(ひとり)も目(め)につかぬのは無理(むり)もない。042然(しか)し乍(なが)ら今朝(けさ)から通(とほ)つた八万(はちまん)人(にん)の亡者(まうじや)が、043お前(まへ)の顔(かほ)を見(み)て羨(うらや)ましさうにしてゐたよ』
044ト『何故(なぜ)又(また)私(わたし)のやうな不幸者(ふしあわせもの)を羨(うらや)ましさうにして通(とほ)るのでせうか。045サツパリ合点(がてん)が行(ゆ)きませぬがな』
046高(たか)『それだからお前(まへ)は盲(めくら)と云(い)ふのだ。047目(め)が見(み)えぬと黄金(こがね)の台(うてな)に坐(すわ)つて居(を)つても、048泥(どろ)の中(なか)に突込(つきこ)まれて居(を)るやうな気(き)がするものだよ。049結構(けつこう)な結構(けつこう)な三千(さんぜん)世界(せかい)の救世主(きうせいしゆ)、050底津(そこつ)岩根(いはね)の大弥勒(おほみろく)、051日(ひ)の出神(でのかみ)の直々(ぢきぢき)の御用(ごよう)をさして頂(いただ)き乍(なが)ら、052何(なん)と云(い)ふ勿体(もつたい)ないお前(まへ)は量見(れうけん)だえ。053お前(まへ)のやうな結構(けつこう)な御用(ごよう)をさして貰(もら)ふものは、054何処(どこ)にあるものか。055それだから八万(はちまん)人(にん)の精霊(せいれい)が羨(うらや)ましさうにして通(とほ)つたのだよ』
056ト『ヘーン、057妙(めう)ですな』
058高(たか)『これ、059トンボ、060トンボーもない事(こと)を云(い)ひなさるな。061「ヘーン、062妙(めう)ですな」とは何(なん)だい。063この生宮(いきみや)さまをお前(まへ)さまは馬鹿(ばか)にして居(を)るのだな。064そんな量見(れうけん)で生宮(いきみや)の御用(ごよう)をして居(を)ると神罰(しんばつ)が立所(たちどころ)に当(あた)つて、065頭(あたま)を下(した)にし、066足(あし)を上(うへ)にしてトンボ返(がへ)りをせねばならぬぞや。067チツト心得(こころえ)なされ』
068ト『私(わたし)やこの間(あひだ)から、069余(あま)り辛(つら)いのと馬鹿(ばか)らしいので実(じつ)の所(ところ)は生宮(いきみや)様(さま)の隙(すき)を窺(うかが)ひ、070うまくトンボ(遁亡(とんぼう))しようかと考(かんが)へて居(を)りましたが、071私(わたし)を羨(うらや)むやうな人物(じんぶつ)が八万(はちまん)人(にん)も一(いち)日(にち)に通(とほ)るかと思(おも)へば、072何処(どこ)に行(い)つても同(おな)じ事(こと)だ。073生宮(いきみや)様(さま)のお側(そば)にマアしばらく御用(ごよう)をさして頂(いただ)きませう』
074高(たか)『これ、075トンボ、076そら何(なに)を云(い)ふぢやいな。077暫(しばら)く御用(ごよう)をさして頂(いただ)くとは罰当(ばちあた)り奴(め)、078そんな量見(れうけん)で居(を)るやうなガラクタなら、079今日(けふ)から暇(ひま)をやる。080サア、081トツトと帰(かへ)つておくれ。082お前(まへ)が居(を)らなくても肉体(にくたい)は女(をんな)だから炊事(すゐじ)万端(ばんたん)お手(て)のものだよ。083無用(むよう)の長物(ちやうぶつ)、084ウドの大木(たいぼく)、085体見(がらみ)倒(だふ)しの頓馬(とんま)野郎(やらう)だな。086之(これ)からトンボと云(い)ふ名(な)を改名(かいめい)して、087トンマ野郎(やらう)と云(い)ふてやらう。088それがお前(まへ)の性(しやう)に合(あ)うてるだろ』
089ト『生宮(いきみや)様(さま)090トンマ野郎(やらう)とは、0901ひどいぢや御座(ござ)いませぬか』
091高(たか)『ヘン、092三千(さんぜん)世界(せかい)の救世主(きうせいしゆ)、093底津(そこつ)岩根(いはね)の大弥勒(おほみろく)、094第一(だいいち)霊国(れいごく)の天人(てんにん)、095日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)のお側(そば)に御用(ごよう)さして頂(いただ)いて居(を)るのぢやないか、096何程(なにほど)賢(かしこ)い立派(りつぱ)な人間(にんげん)でも、097此(この)生宮(いきみや)の目(め)から見(み)れば、098何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も皆(みな)トンマ野郎(やらう)だよ。099大学(だいがく)の博士(はかせ)だつてトンマ野郎(やらう)だ。100総理(そうり)大臣(だいじん)や衆議院(しうぎゐん)議員(ぎゐん)になるやうな奴(やつ)は101尚々(なほなほ)トンマ野郎(やらう)の腰抜(こしぬけ)野郎(やらう)だ。102お前(まへ)も総理(そうり)大臣(だいじん)や博士(はかせ)と同(おな)じ称号(しようがう)を生宮(いきみや)から与(あた)へられたのだから、103有難(ありがた)く感謝(かんしや)しなさい』
104ト『生宮(いきみや)さま、105それでもあまりぢや御座(ござ)りませぬか。106どうか元(もと)の通(とほ)りトンボと仰有(おつしや)つて下(くだ)さいな』
107高(たか)『さうだ。108そんならお前(まへ)はドン臭(くさ)い男(をとこ)だから、109ドンボと呼(よ)んで上(あ)げよう。110トンマ野郎(やらう)とは少(すこ)しマシだからな。111底津(そこつ)岩根(いはね)の大弥勒(おほみろく)様(さま)、112第一(だいいち)霊国(れいごく)の天人(てんにん)、113日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)ぢやぞえ』
114ト『もしもし生宮(いきみや)さま、115もうその長(なが)たらしいお名前(なまへ)は聞(き)きたんのう致(いた)しました。116どうぞ簡単(かんたん)に云(い)つて下(くだ)さいな。117法性寺(ほふじやうじ)入道(にふだう)と間違(まちが)ひますがな』
118高(たか)『こりや、119トンマ野郎(やらう)、120そらナーン吐(ぬ)かしてけつかるのだ。121トンマ野郎(やらう)が嫌(いや)なら、122ドンマ野郎(やらう)にして上(あ)げよう。123ああア、124何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も碌(ろく)な奴(やつ)は一匹(いつぴき)も居(ゐ)やアしないわ。125アゝゝゝゝ呆(あき)れた。126開(あ)いた口(くち)が早速(さつそく)には塞(ふさ)がりませぬわい、127イヽヽヽヽ何時(いつ)迄(まで)経(た)つても何時(いつ)迄(まで)経(た)つても生宮(いきみや)の申(まを)すことが分(わか)らず、128改心(かいしん)が出来(でき)ず、129イケ好(す)かない野郎(やらう)だな。130ウヽヽヽヽ煩(うる)さい程(ほど)、131口(くち)が酸(すつぱ)くなる程(ほど)、132毎日(まいにち)日々(ひにち)烏(からす)の啼(な)かぬ日(ひ)があつてもコケコーが歌(うた)はぬ朝(あさ)があるとも、133撓(たゆ)まず屈(くつ)せず御(お)説教(せつけう)してやるのに、134エヽヽヽヽ会得(ゑとく)が行(ゆ)かぬとは何(なん)と云(い)ふ135オヽヽヽヽおそろしう大馬鹿(おほばか)だろ。136カヽヽヽヽ噛(か)んでくくめるやうに、137日夜(にちや)の生宮(いきみや)の説教(せつけう)も、138馬(うま)の耳(みみ)に風(かぜ)吹(ふ)く如(ごと)く、139キヽヽヽヽ聞(き)いては呉(く)れず、140キマリの悪(わる)い面付(つらつき)をして、141クヽヽヽヽ喰(く)ひ物(もの)許(ばか)り目(め)をつけ、142苦労(くらう)許(ばか)り人(ひと)にかけやがつて、143ケヽヽヽヽ怪(け)しからぬ怪体(けつたい)な獣(けもの)だよ。144コヽヽヽヽこんな事(こと)でどうして此(この)法城(ほふじやう)が保(たも)てると思(おも)ふかい。145サヽヽヽヽ扨(さて)も扨(さて)も困(こま)つた、146シヽヽヽヽしぶとい代物(しろもの)だな。147死(しに)損(ぞこな)ひの腰抜(こしぬ)けと云(い)ふのはお前(まへ)の事(こと)だぞえ。148スヽヽヽヽ少(すこ)しは生宮(いきみや)の心(こころ)も推量(すいりやう)し、149進(すす)んで神国(しんこく)成就(じやうじゆ)の為(ため)に大活動(だいくわつどう)をしたらどうだい。150セヽヽヽヽ雪隠(せつちん)で饅頭(まんぢゆう)喰(く)たやうな面(つら)して此(この)生宮(いきみや)の脛(すね)を噛(かじ)り、151トンマ野郎(やらう)が気(き)に喰(く)はぬなどと何(なに)を云(い)ふのだ。152ソヽヽヽヽそんな奴根性(どこんじやう)を持(も)つてゐる粗末(そまつ)の代物(しろもの)を、153高(たか)い米(こめ)を喰(く)はして養(やしな)ふてゐる此(この)生宮(いきみや)も、154並大抵(なみたいてい)の事(こと)ぢやないぞえ。155タヽヽヽヽ誰(たれ)がこんなトンマ野郎(やらう)を、156仮令(たとへ)三日(みつか)でも世話(せわ)するものが御座(ござ)りませうかい』
157ト『チヽヽヽヽチツト無理(むり)ぢや御座(ござ)りませぬか、158畜生(ちくしやう)か何(なん)ぞのやうに、159トンマ野郎(やらう)だのドンマだのと、160あまりひどいです。161ツヽヽヽヽ月(つき)に一(いつ)ぺん位(くらゐ)、162蛙(かへる)の附焼(つけやき)位(ぐらゐ)頂(いただ)いて、163どうして荒男(あらをとこ)の体(からだ)が保(たも)てませう。164テヽヽヽヽ手(て)も足(あし)も此(この)通(とほ)り筋張(すぢば)つて来(き)ました。165丸(まる)ツきり扇(あふぎ)の骨(ほね)に濡(ぬ)れ紙(がみ)を張(は)つたやうな手(て)の甲(かふ)になつて了(しま)つたぢや御座(ござ)りませぬか。166トヽヽヽヽトンボだつて、167どうして貴女(あなた)と共(とも)に、168活動(くわつどう)が出来(でき)ませうぞ。169チツとは私(わたし)の身(み)の上(うへ)も憐(あは)れんで下(くだ)さい。170貴女(あなた)計(ばか)り美味(うま)い物(もの)を喰(く)て、171いつも私(わたし)には芋(いも)の皮(かは)や大根(だいこん)の鬚(ひげ)や172水菜(みづな)の赤葉(あかば)許(ばか)り、1721当(あ)てがつて居(を)るぢやありませぬか』
173高(たか)『ナヽヽヽヽ何(なに)を云(い)ふのぢやいな。174勿体(もつたい)ない、175その心(こころ)では罰(ばち)が当(あた)るぞや、176ニヽヽヽヽ西(にし)も東(ひがし)も南(みなみ)も北(きた)も此(この)通(とほ)り曇(くも)り切(き)つた世(よ)の中(なか)、177お土(つち)の上(うへ)に、178何(なに)を蒔(ま)いても此(この)通(とほ)り、179菜葉(なつぱ)一(ひと)つ満足(まんぞく)に出来(でき)ない暗(くら)がりの世(よ)ぢやないか。180赤(あか)ツ葉(ぱ)の一(ひと)つも頂(いただ)いたら結構(けつこう)ぢやと思(おも)つて喜(よろこ)びなさい。181こんな寒(さむ)い風(かぜ)の吹(ふ)く世(よ)の中(なか)に、182夜分(やぶん)はヌヽヽヽヽぬつくりと温(ぬく)い茶(ちや)を呑(の)んで、183煎餅(せんべい)布団(ぶとん)の中(なか)へ、184潜(もぐ)り込(こ)んで居(を)れるぢやないか。185ネヽヽヽヽ年(ねん)が年中(ねんぢう)何一(なにひと)つ、186これと云(い)ふ働(はたら)きもせず、187ノヽヽヽヽノラクラと野良(のら)仕事(しごと)さしても188烏(からす)の威(おど)しのやうに、1881立(た)つて許(ばか)り居(を)るなり、189ラヽヽヽヽ埒(らつち)もない皺枯声(しわがれごゑ)を出(だ)して190頭(あたま)の痛(いた)むやうな歌(うた)を唄(うた)ひ、191リヽヽヽヽ悧巧(りかう)さうにトンマ野郎(やらう)と云(い)うて呉(く)れな等(など)とは192お尻(けつ)が呆(あき)れますぞや。193ルヽヽヽヽ流浪(るらう)して行(ゆ)く処(ところ)がないから使(つか)つて下(くだ)さい、194と泣(な)いて頼(たの)んだぢやないか、195レヽヽヽヽ礼(れい)を云(い)ふ事(こと)を忘(わす)れて、196不足(ふそく)許(ばか)り申(まを)すとはホントにホントによい罰当(ばちあた)りだよ。197お前(まへ)は神(かみ)様(さま)の警(いまし)めで、198ロヽヽヽヽ牢獄(らうごく)へ突込(つつこ)まれてゐるのだ。199然(しか)し乍(なが)らお前(まへ)の肉体(にくたい)は此(この)生宮(いきみや)が構(かま)ふてゐるが、200その魂(たましひ)は、201喰(く)ひ度(た)い喰(く)ひ度(た)い遊(あそ)び度(た)い遊(あそ)び度(た)いと云(い)ふ、202大牢(たいらう)に這入(はい)つてゐるのだよ、203フツフヽヽヽヽ』
204ト『ワヽヽヽヽ笑(わら)うて下(くだ)さるな。205私(わたし)はお前(まへ)さまの云(い)ふやうな勘(かん)の悪(わる)い人間(にんげん)ぢや御座(ござ)りませぬぞや。206これでも一(いち)時(じ)はバラモン軍(ぐん)のリユーチナント迄(まで)勤(つと)めて来(き)た武士(もののふ)ですよ。207ヰヽヽヽヽ何時(いつ)までもお前(まへ)さまの側(そば)へ居(を)らうとは思(おも)ひませぬから、208ウヽヽヽヽ煩(うる)さうても、209売口(うれくち)がある迄(まで)辛抱(しんばう)してやつてゐるのですよ。210ヱヽヽヽヽえぐたらしい事(こと)を朝(あさ)から晩(ばん)まで聞(き)かされて、211なんぼ軍人(ぐんじん)だつてお尻(けつ)が呆(あき)れますよ。212私(わたし)はもう貴女(あなた)のお供(とも)は之(これ)でヲヽヽヽヽをしまひですよ』
213と逃(に)げ出(だ)さうとする。214高姫(たかひめ)は後(あと)から痩(やせ)こけた手(て)をグツと出(だ)し、215襟首(えりくび)を掴(つか)み二足(ふたあし)三足(みあし)後(うしろ)に引(ひ)き乍(なが)ら、
216高(たか)『こりや灸箸(やいとばし)、217麻幹(をがら)人足(にんそく)、218逃(に)げるなら逃(に)げて見(み)い。219燈心(とうしん)の幽霊(いうれい)見(み)たやうな腕(うで)をしやがつて、220線香(せんかう)の様(やう)な足(あし)をして、221かれいのやうな薄(うす)つぺたい体(からだ)をして、222生宮(いきみや)様(さま)に口答(くちごた)へするとは以(もつ)ての外(ほか)だ。223サア動(うご)くなら動(うご)いて見(み)よれ』
224ト『イヤもう、225えらい灸(やいと)を据(す)ゑられました。226どうぞかれいこれ云(い)はずに許(ゆる)して下(くだ)さい。227許(ゆる)して下(くだ)さらなもう仕方(しかた)が無(な)い。228あの谷川(たにがは)へとうしん(投身(とうしん))と出掛(でか)けます』
229高(たか)『エーしやれ処(どころ)かい』
230とパツと手(て)を放(はな)した途端(とたん)にヒヨロ ヒヨロ ヒヨロと餓鬼(がき)の如(ごと)くヒヨロつき、231枯(か)れた萱草(かやぐさ)の中(なか)にパタリと倒(こ)けて了(しま)つた。
232高(たか)『ホヽヽヽヽ生宮(いきみや)様(さま)にかかつたら、233バラモンのリユーチナントも脆(もろ)いものだな。234サアサア之(これ)から館(やかた)へ帰(かへ)り、235夕御飯(ゆふごはん)の用意(ようい)でも致(いた)しませう』
236とダン尻(じり)を中空(ちうくう)にたわつかせ乍(なが)ら帰(かへ)らむとする。237時(とき)しもあれ、238珍(めづ)らしくも歌(うた)の声(こゑ)が聞(きこ)えて来(き)た。239高姫(たかひめ)は此(この)声(こゑ)を聞(き)くや否(いな)や、240操(あやつ)り人形(にんぎやう)の如(ごと)くクレリと体(たい)を交(かは)し、
241『ヤア来(き)た来(き)た、242これから私(わし)の正念場(しやうねんば)だ』
243と大地(だいち)に二三回(にさんくわい)も石搗(いしつ)きを始(はじ)めて勇(いさ)んでゐる。
244『梵天(ぼんてん)帝釈(たいしやく)自在天(じざいてん)
245大国彦(おほくにひこ)の大神(おほかみ)は
246三千(さんぜん)世界(せかい)の救世主(きうせいしゆ)
247神(かみ)や仏(ほとけ)は云(い)ふも更(さら)
248青人草(あをひとぐさ)や草木(くさき)まで
249恵(めぐみ)の露(つゆ)を垂(た)れ給(たま)ひ
250救(すく)はせ給(たま)ふ尊(たふと)さよ
251大黒主(おほくろぬし)の大棟梁(だいとうりやう)
252清(きよ)き教(をしへ)を受(う)け給(たま)ひ
253七千(しちせん)余国(よこく)の月(つき)の国(くに)
254一(ひと)つに丸(まる)めて治(をさ)めむと
255バラモン教(けう)を遠近(をちこち)に
256開(ひら)き給(たま)へど如何(いか)にせむ
257三五教(あななひけう)やウラル教(けう)
258勢(いきほ)ひ仲々(なかなか)強(つよ)くして
259誠(まこと)の神(かみ)の御教(みをしへ)を
260蹂躙(じうりん)するこそ是非(ぜひ)なけれ
261未(いま)だ時節(じせつ)の到(いた)らぬか
262これ程(ほど)尊(たふと)い御教(みをしへ)も
263数多(あまた)の人(ひと)に仰(あふ)がれず
264誹毀(ひき)讒謗(ざんばう)の的(まと)となり
265日(ひ)に夜(よ)に教(をしへ)は淋(さび)れ行(ゆ)く
266大黒主(おほくろぬし)の権力(けんりよく)に
267押(お)されて表面(へうめん)バラモンの
268信者(しんじや)に化(ば)けて居(を)るなれど
269心(こころ)の中(うち)はウラル教(けう)
270三五教(あななひけう)の奴(やつ)許(ばか)り
271こんな事(こと)ではならないと
272大黒主(おほくろぬし)の御(ご)心配(しんぱい)
273強圧(きやうあつ)的(てき)に軍隊(ぐんたい)を
274用(もち)ゐて信徒(しんと)を召集(せうしふ)し
275否(いや)が応(おう)でもバラモンの
276教(をしへ)に靡(なび)かせくれんづと
277大足別(おほだるわけ)の将軍(しやうぐん)に
278三千(さんぜん)余(よ)騎(き)の兵士(つはもの)を
279引率(いんそつ)させてデカタンの
280大高原(だいかうげん)に進軍(しんぐん)し
281トルマン国(ごく)を屠(ほふ)らむと
282吾(われ)にスコブツエン宗(しう)を
283開(ひら)かせ給(たま)へどその実(じつ)は
284異名(いめい)同宗(どうしう)バラモンの
285教(をしへ)に少(すこ)しも変(かは)らない
286只々(ただただ)相違(さうゐ)の一点(いつてん)は
287バラモン教(けう)より劇烈(げきれつ)な
288信徒(しんと)に修行(しゆぎやう)を強(し)ゆるのみ
289こんな事(こと)でもしておかにや
290虎狼(こらう)に等(ひと)しい人心(じんしん)を
291緩和(くわんわ)し御国(みくに)を保(たも)つこと
292容易(ようい)に出来(でき)るものでない
293かてて加(くは)へて此(この)頃(ごろ)は
294思想(しさう)日(ひ)に夜(よ)に混乱(こんらん)し
295アナアキズムやソシヤリズムが
296到(いた)る処(ところ)に出没(しゆつぼつ)し
297大黒主(おほくろぬし)の此(この)天下(てんか)
298愈(いよいよ)危(あやふ)くなつて来(き)た
299吾(われ)は此(この)間(ま)に教線(けうせん)を
300七千(しちせん)余国(よこく)に拡張(くわくちやう)し
301大黒主(おほくろぬし)の失脚(しつきやく)を
302見届(みとど)け済(す)まして月(つき)の国(くに)
303いや永遠(とこしへ)に統治(とうち)なし
304神力(しんりき)無双(むさう)の英雄(えいゆう)と
305世(よ)に謳(うた)はれむ面白(おもしろ)や
306神(かみ)は吾(われ)等(ら)と共(とも)にあり
307吾(われ)こそ神(かみ)の化身(けしん)ぞや
308神(かみ)に刃向(はむ)かふ奴輩(やつばら)は
309何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も容赦(ようしや)なく
310亡(ほろ)ぼし呉(く)れむ吾(わが)宗旨(しうし)
311アヽ面白(おもしろ)や面白(おもしろ)や
312いかなる神(かみ)の教(をしへ)をも
313言向(ことむけ)和(やは)し大野原(おほのはら)
314風(かぜ)に草木(くさき)の靡(なび)く如(ごと)
315振舞(ふるま)ひ呉(く)れむ吾(わが)力(ちから)
316吾(われ)等(ら)は神(かみ)の化身(けしん)なり
317吾(われ)等(ら)は力(ちから)の根元(こんげん)ぞ
318来(きた)れよ来(きた)れ四方(よも)の国(くに)
319鳥(とり)獣(けだもの)の分(わか)ちなく
320キユーバーが配下(はいか)としてやらう
321イツヒヽヽヽイツヒヽヽヽ
322実(げ)に面白(おもしろ)くなつて来(き)た
323天(てん)は曇(くも)りて光(ひかり)なく
324地上(ちじやう)は冷(ひ)えて草木(くさき)さへ
325皆(みな)枯(か)れ萎(しぼ)む世(よ)の中(なか)に
326スコブツエン宗(しう)只(ただ)独(ひと)り
327旭日(あさひ)の天(てん)に昇(のぼ)るごと
328日々(ひにち)毎日(まいにち)栄(さか)え行(ゆ)く
329ウツフヽヽヽヽウツフヽヽヽヽ』
330と大法螺(おほぼら)を吹(ふ)き立(た)て乍(なが)ら四辻(よつつじ)迄(まで)やつて来(き)た。331高姫(たかひめ)はキユーバーの姿(すがた)を見(み)るより、332カン走(ばし)つた声(こゑ)にて、
333『これこれ遍路(へんろ)さま、334一寸(ちよつと)待(ま)つて下(くだ)さい。335お前(まへ)は一寸(ちよつと)見(み)ても、336物(もの)の分(わか)りさうな立派(りつぱ)な男(をとこ)らしい。337私(わたし)は三千(さんぜん)世界(せかい)の救世主(きうせいしゆ)、338大(おほ)みろくの太柱(ふとばしら)、339第一(だいいち)霊国(れいごく)の天人(てんにん)、340日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)ぢやぞえ。341サア一寸(ちよつと)、342私(わたし)の館(やかた)迄(まで)来(き)て下(くだ)さい。343結構(けつこう)な結構(けつこう)なお話(はなし)を聞(き)かして上(あ)げませうぞや』
344キユーバー『何(なに)、345お前(まへ)が救世主(きうせいしゆ)と云(い)ふのか、346フヽヽヽフーン、347はてな』
348高(たか)『これ、349遍路(へんろ)さま、350何(なに)がフヽヽヽフンだい。351はてな……処(どころ)か、352これから世(よ)の初(はじ)まり、353弥勒(みろく)出現(しゆつげん)、354神代(かみよ)の樹立(じゆりつ)、355世(よ)の終(しま)ひの世(よ)の始(はじ)まりぢやぞえ』
356キユ『ハヽヽヽヽヽ何(なん)と面白(おもしろ)い婆(ばあ)さまだな。357幸(さいは)ひ日(ひ)の暮(くれ)の事(こと)でもあり、358そこらに宿(やど)もなし、359一(ひと)つ宿(と)めて頂(いただ)かうかな』
360高(たか)『サアサア宿(とま)つて下(くだ)さい。361結構(けつこう)な結構(けつこう)なお話(はなし)をして上(あ)げますぞや、362ホヽヽヽヽヽ。363トンボの奴(やつ)到頭(たうとう)草(くさ)の中(なか)へ埋(うづ)もつて了(しま)ひよつた。364あんな奴(やつ)アどうならふと構(かま)ふ事(こと)はない。365生宮(いきみや)様(さま)に対(たい)して理窟(りくつ)許(ばか)り吐(ほざ)くのだもの。366何(なん)と世(よ)の中(なか)は妙(めう)なものだな。367一人(ひとり)の奴(やつ)が愛想(あいさう)づかして逃(に)げたと思(おも)へば、368チヤーンと神(かみ)様(さま)は代(かは)りを拵(こしら)へて下(くだ)さる。369この遍路(へんろ)は、370どうやら生宮(いきみや)の片腕(かたうで)になるかも知(し)れぬぞ。371ホヽヽヽヽヽ』
372 トンボは最前(さいぜん)から草(くさ)の中(なか)に身(み)を隠(かく)して高姫(たかひめ)の様子(やうす)を考(かんが)へてゐたが、373……こんな奴(やつ)に来(こ)られちや自分(じぶん)はもう足上(あしあが)りだ。374然(しか)し乍(なが)ら高姫(たかひめ)の奴(やつ)、375あんな男(をとこ)を引張(ひつぱ)り込(こ)んで、376どんな相談(さうだん)をしとるか知(し)れぬ。377今晩(こんばん)は兎(と)も角(かく)、378館(やかた)の外(そと)から二人(ふたり)の話(はなし)を聞(き)いてやらねばなるまい…………と思案(しあん)を定(さだ)め、379両人(りやうにん)が岩山(いはやま)の麓(ふもと)の破(やぶ)れ家(や)へ帰(かへ)つて行(ゆ)く後(うしろ)から、380闇(やみ)を幸(さいは)ひ足音(あしおと)を忍(しの)ばせついて行(ゆ)く。
381(大正一四・八・二三 旧七・四 於由良秋田別荘 北村隆光録)
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