霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一七章 春(はる)の光(ひかり)〔一七八四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第70巻 山河草木 酉の巻 篇:第3篇 理想新政 よみ(新仮名遣い):りそうしんせい
章:第17章 春の光 よみ(新仮名遣い):はるのひかり 通し章番号:1784
口述日:1925(大正14)年08月25日(旧07月6日) 口述場所:丹後由良 秋田別荘 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年10月16日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
千草姫はキューバーの行方が依然としてわからないため、ますます逆上し、照国別、照公に残虐な扱いをするように獄卒に命じた。また、これまでの旧臣を殲滅しようと計ったりと、無道の行いがはなはだしくなってきた。
このさまを見て太子は、レール、マークに命じて、千草姫がハリマの森に参拝する所を襲って滅ぼそうと画策した。
レール、マークは千草姫を襲撃するが果たせず、捕縛されて牢獄に投げ込まれてしまった。牢獄で二人は、照国別、照公と出会う。
レール、マーク、照国別、照公の4人は、今の時勢を歌に歌って牢獄の時を過ごす。
と、そこへ一人の牢番がやってくる。実はその牢番は照国別の弟子、春公であった。春公は葵の沼で(第40巻第19章参照)師一行からはぐれた後、トルマン城下にやってきて、看守に身を変えて様子を探っていたところであった。
春公のおかげで、千草姫の通達も効をなさず、照国別たちは無事に過ごせることとなっていたのであった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2018-05-09 03:54:42 文字数:4213 OBC :rm7017
愛善世界社版:214頁 八幡書店版:第12輯 469頁 修補版: 校定版:220頁 普及版:109頁 初版: ページ備考:
001 千草姫(ちぐさひめ)は、002恋(こひ)しさ懐(なつか)しさ、003夢寐(むび)にも忘(わす)れぬキユーバーの所在(ありか)が分(わか)らぬので、004精神(せいしん)益々(ますます)混乱(こんらん)し、005照国別(てるくにわけ)、006照公(てるこう)の神司(かむづかさ)を神勅(しんちよく)と称(しよう)して007無念(むねん)晴(ば)らしの為(た)め無理(むり)やりに牢獄(らうごく)に王(わう)の命令(めいれい)を藉(か)りて投(とう)ぜしめ、008所在(あらゆる)残虐(ざんぎやく)の手(て)を加(くは)ふべく獄卒(ごくそつ)に厳命(げんめい)を下(くだ)した。009又(また)チウイン太子(たいし)、010チンレイを修行(しうぎやう)の為(た)めと称(しよう)して城内(じやうない)より放逐(はうちく)し、011テイラには、012キユーバーの所在(ありか)を求(もと)むべく厳命(げんめい)し、013ハリスを好餌(かうじ)をもつて過(あやま)たしめ、014今(いま)迄(まで)の旧臣(きうしん)系統(けいとう)を殲滅(せんめつ)せむ事(こと)を計(はか)るなぞ、015実(じつ)に悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)の魔王(まわう)となつて了(しま)つた。016千草姫(ちぐさひめ)は忽(たちま)ち金毛(きんまう)九尾(きうび)の悪狐(あくこ)に精霊(せいれい)を占領(せんりやう)され、017ガーデン王(わう)は八岐(やまた)大蛇(をろち)の片割(かたわれ)に其(その)心魂(しんこん)を占領(せんりやう)され、018千草姫(ちぐさひめ)の頤使(いし)に甘(あま)んじ、019キユーバーを救(すく)ひ出(だ)さむと八方(はつぱう)に手(て)を廻(まは)し、020極力(きよくりよく)捜索(そうさく)に全力(ぜんりよく)を注(そそ)ぐ事(こと)となつた。021されどもチウイン太子(たいし)が、022荒井(あらゐ)ケ嶽(だけ)の岩窟(がんくつ)に閉(と)ぢ込(こ)めておいた事(こと)は、023遉(さすが)の日(ひ)の出神(でのかみ)の肉宮(にくみや)も悟(さと)る事(こと)を得(え)なかつた。024千草姫(ちぐさひめ)はハリマの森(もり)に、025キユーバーの一(いち)日(にち)も早(はや)く帰(かへ)り来(きた)らむ事(こと)を祈願(きぐわん)する為(た)め、026数多(あまた)の従臣(じゆうしん)を従(したが)へ警戒(けいかい)厳(きび)しく輿(こし)に乗(の)つて、027朝夕(てうせき)二回(にくわい)参拝(さんぱい)を励(はげ)む事(こと)となつた。028マーク、029レールの両人(りやうにん)はチウイン太子(たいし)から、030千草姫(ちぐさひめ)の肉体(にくたい)は既(すで)に他界(たかい)し、031金毛(きんまう)九尾(きうび)の悪霊(あくれい)と入(い)り代(かは)つて居(ゐ)る事(こと)を懇々(こんこん)と説(と)き聞(き)かされ、032且(か)つ又(また)新聞(しんぶん)の号外(がうぐわい)によつて、033照国別(てるくにわけ)、034照公(てるこう)が牢獄(らうごく)に投(な)げ込(こ)まれ、035日夜(にちや)残虐(ざんぎやく)の手(て)に見舞(みま)はれ、036生命(せいめい)の危険(きけん)を感(かん)じ、037もはや立(た)つても居(ゐ)ても居(を)られなくなつたので、038レール、039マークの両人(りやうにん)に耳打(みみう)ちし、040千草姫(ちぐさひめ)が参拝(さんぱい)の途中(とちう)を待(ま)ち伏(ぶ)せ、041石礫(いしつぶて)をもつて彼(かれ)を亡(ほろ)ぼさむ事(こと)を命(めい)じた。042両人(りやうにん)は喜(よろこ)び勇(いさ)み、043一身(いつしん)を国家(こくか)の為(た)めに捨(す)つるは今(いま)此(この)時(とき)と石礫(いしつぶて)を懐(ふところ)にし、044千草姫(ちぐさひめ)の輿(こし)の通過(つうくわ)を今(いま)や遅(おそ)しと待(ま)つて居(ゐ)た。045千草姫(ちぐさひめ)は首尾(しゆび)よく参拝(さんぱい)を終(をは)り、046七八町(しちはつちやう)許(ばか)り、047数多(あまた)の番僧(ばんそう)や徒士(とし)に守(まも)られ帰(かへ)つて来(く)ると、048路地口(ろぢぐち)より躍(をど)り出(い)でたる二人(ふたり)の兇漢(きようかん)、049忽(たちま)ち輿(こし)を目(め)がけて石礫(いしつぶて)を二個(にこ)迄(まで)投(な)げつけた。050石礫(いしつぶて)はどうしたものか手(て)が狂(くる)つて命中(めいちう)せず、051輿(こし)は其(その)儘(まま)城内(じやうない)さして悠然(いうぜん)と帰(かへ)りゆく。052二人(ふたり)は忽(たちま)ち其(その)場(ば)で番僧(ばんそう)に捕縛(ほばく)され、053一応(いちおう)小本山(せうほんざん)で取調(とりしら)べの上(うへ)、054重大(ぢうだい)犯人(はんにん)として城外(じやうぐわい)の牢獄(らうごく)に投(な)げ込(こ)まるる事(こと)となつた。055相当(さうたう)に広(ひろ)い牢獄(らうごく)も満員(まんゐん)売切(うりき)れの盛況(せいきやう)で、056定員(ていゐん)二(に)人(にん)の牢獄(らうごく)へ投(とう)ぜらるる事(こと)となつた。057この監房(かんばう)には照国別(てるくにわけ)、058照公(てるこう)の両人(りやうにん)が手(て)を縛(しば)られた儘(まま)収容(しうよう)されて居(ゐ)る。059レールは照国別(てるくにわけ)を見(み)て、
060『ヤ貴方(あなた)は照国別(てるくにわけ)の宣伝使(せんでんし)様(さま)ぢや御座(ござ)いませぬか。061どうして又(また)この様(やう)な所(ところ)へ入(い)れられなさつたのです』
062照国別(てるくにわけ)『別(べつ)にこれと云(い)ふ悪(わる)い事(こと)はした覚(おぼ)えがありませぬが、063国王(こくわう)の厳命(げんめい)だと云(い)つて、064吾々(われわれ)両人(りやうにん)は厳(きび)しく手足(てあし)を縛(いましめ)られた上(うへ)、065昨夜(さくや)から投(ほ)り込(こ)まれて居(を)ります。066何(いづ)れ嫌疑(けんぎ)が晴(は)れ、067晴天(せいてん)白日(はくじつ)の身(み)となつて近(ちか)い中(うち)に出獄(しゆつごく)し得(う)るだらうと思(おも)つて居(ゐ)ます』
068レ『ハテ、069怪(け)しからぬ事(こと)をやるものだ。070太子(たいし)様(さま)に承(うけたま)はれば、071貴方(あなた)様(さま)は今度(こんど)の軍(いくさ)を応援(おうゑん)下(くだ)さつた殊勲(しゆくん)の第一人者(だいいちにんしや)と聞(き)いて居(を)りますのに、072姐己(だつき)の千草姫(ちぐさひめ)、073いよいよもつて怪(け)しからぬ事(こと)をやりよつたのでせう』
074照国(てるくに)『何(なに)、075チウイン太子(たいし)に縁故(えんこ)のある方(かた)ですか』
076レ『ハイ、077実(じつ)は私(わたし)の宅(たく)に太子(たいし)、078王女(わうぢよ)様(さま)を初(はじ)め左守(さもり)、079右守(うもり)のお嬢(ぢやう)さま迄(まで)忍(しの)んでおられます。080此(この)頃(ごろ)は千草姫(ちぐさひめ)に金毛(きんまう)九尾(きうび)の悪狐(あくこ)が憑依(ひようい)し、081功臣(こうしん)を退(しりぞ)け所在(あらゆる)暴虐(ばうぎやく)の手(て)を加(くは)へむと致(いた)しますので、082城下(じやうか)の人気(にんき)は鼎(かなへ)の湧(わ)くが如(ごと)く、083いつ大騒動(おほさうどう)が勃発(ぼつぱつ)するか分(わか)らぬやうになつて来(き)ました。084チウイン太子(たいし)様(さま)は非常(ひじやう)に此(この)事(こと)を御(ご)心配(しんぱい)遊(あそ)ばし、085教政(けうせい)の改革(かいかく)を断行(だんかう)すべく、086今(いま)や大衆(たいしう)の代表者(だいへうしや)を集(あつ)め御(ご)計画中(けいくわくちう)で御座(ござ)います。087やがて貴方(あなた)も無事(ぶじ)出獄(しゆつごく)が出来(でき)るでせう』
088照国(てるくに)『成程(なるほど)089承(うけたま)はればチウイン太子(たいし)様(さま)の聰明(そうめい)なる、090きつと教政(けうせい)の改革(かいかく)を遊(あそ)ばすでせう。091あの千草姫(ちぐさひめ)は、092決(けつ)して本(ほん)ものぢや御座(ござ)いませぬ。093御(ご)本人(ほんにん)の霊(れい)は既(すで)に既(すで)に脱殻(ぬけがら)となり、094金毛(きんまう)九尾(きうび)の悪狐(あくこ)が巣食(すぐ)つて居(ゐ)るのですから、095此(この)儘(まま)にしておかうものならトルマン国(ごく)は混乱(こんらん)の巷(ちまた)となり、096刹帝利(せつていり)家(け)の滅亡(めつぼう)は免(まぬが)れますまい。097てもさても困(こま)つた事(こと)が出来(でき)たものですなあ。098時(とき)に貴方(あなた)は何(なん)の嫌疑(けんぎ)によつてかやうな処(ところ)へ入(い)れられたのですか』
099レ『吾々(われわれ)両人(りやうにん)は向上(かうじやう)運動(うんどう)の主張者(しゆちやうしや)兼(けん)宗教(しうけう)改革(かいかく)運動(うんどう)の代表者(だいへうしや)で御座(ござ)いますが、100チウイン太子(たいし)の内命(ないめい)により、101姐己(だつき)の千草姫(ちぐさひめ)をベツトすべく、102石礫(いしつぶて)をもつて車(くるま)の辻(つじ)の路地(ろぢ)にまちうけ、103輿(こし)を目(め)がけて石礫(いしつぶて)を二個(にこ)迄(まで)投(な)げつけた処(ところ)、104不幸(ふかう)にして命中(めいちう)せず、105残念(ざんねん)乍(なが)ら、106目的(もくてき)が達成(たつせい)せないのみか、107脆(もろ)くも番僧(ばんそう)にふん縛(じば)られ、108重大(ぢうだい)犯人(はんにん)として、1081此所(ここ)へ送(おく)られたのです。109何(いづ)れ吾々(われわれ)は助(たす)かりますまいが、110運(うん)を天(てん)に委(まか)して刹那心(せつなしん)を楽(たの)しんで居(を)ります。111何(いづ)れ人間(にんげん)は一度(いちど)は死(し)なねばならぬものですから、112国士(こくし)として大衆(たいしう)の代表(だいへう)として殺(ころ)されるのは満足(まんぞく)です』
113照国(てるくに)『ヤア、114御(ご)精神(せいしん)を承(うけたま)はり、115感服(かんぷく)致(いた)しました。116どうです、117これから歌(うた)でも謡(うた)つて、118面白(おもしろ)くもない時間(じかん)を費(つひや)さうぢやありませぬか』
119レ『ヤ、120それはいい所(ところ)へ気(き)がつきました。121四(よ)人(にん)がかはるがはる歌(うた)ひませう。122先(ま)づ宣伝使(せんでんし)から口切(くちきり)をお願(ねが)ひ致(いた)しませうかな』
123照国(てるくに)『然(しか)らばお先(さき)へ失礼(しつれい)』
124と言(い)ひ乍(なが)ら四辺(あたり)に目(め)を配(くば)り、125獄卒(ごくそつ)の近(ちか)くに居(ゐ)ないのを見(み)て、
126照国(てるくに)『ここはいづこぞ月(つき)の国(くに)
127トルマン国(ごく)の城外(じやうぐわい)に
128淋(さび)しく立(た)てる牢獄(らうごく)ぞ
129数多(あまた)の罪人(ざいにん)ひしひしと
130いづれの牢獄(ひとや)も充満(じゆうまん)し
131トルマン国(ごく)の滅亡(めつぼう)を
132叫(さけ)び居(ゐ)るこそ歎(うたて)けれ
133抑々(そもそも)これのトルマンは
134ウラルの神(かみ)の開(ひら)きたる
135月(つき)第一(だいいち)の神国(しんこく)ぞ
136物質(ぶつしつ)文明(ぶんめい)の魔(ま)の風(かぜ)に
137吹(ふ)き立(た)てられて大衆(たいしう)の
138頭(かしら)に立(た)ちて御教(みをしへ)を
139布(し)く神柱(かむばしら)初(はじ)めとし
140それに随(したが)ふ従僧(じゆうそう)は
141敬神(けいしん)尊祖(そんそ)愛国(あいこく)の
142誠(まこと)の道(みち)を忘却(ばうきやく)し
143唯(ただ)自己愛(じこあい)に耽溺(たんでき)し
144下(しも)大衆(たいしう)の平安(へいあん)を
145残(のこ)る隈(くま)なく脅(おびや)かし
146肉(にく)をばけずり骨(ほね)をそぎ
147国(くに)の力(ちから)は日(ひ)に月(つき)に
148日向(ひなた)に氷(こほり)と消(き)えてゆく
149かかる所(ところ)へバラモンの
150大足別(おほだるわけ)の軍勢(ぐんぜい)は
151妖僧(えうそう)キユーバーを先頭(せんとう)に
152此(この)神国(しんこく)を奪(うば)はむと
153三千(さんぜん)余(よ)騎(き)を従(したが)へて
154勢(いきほひ)猛(たけ)く攻(せ)め来(きた)る
155此(この)国難(こくなん)を見(み)るよりも
156チウイン太子(たいし)は逸早(いちはや)く
157全国内(ぜんこくない)の兵員(へいゐん)を
158一度(いちど)に召集(せうしふ)遊(あそ)ばして
159討伐軍(たうばつぐん)を組織(そしき)なし
160在野(ざいや)の英雄(えいゆう)ジヤンクをば
161抜擢(ばつてき)なして重用(ぢうよう)し
162照国別(てるくにわけ)の神軍(しんぐん)を
163加(くは)へてここに堂々(だうだう)と
164敵(てき)の後(うしろ)をつきければ
165大足別(おほだるわけ)は前後(まへうしろ)
166敵(てき)の砲火(はうくわ)をあびながら
167軍馬(ぐんば)や武器(ぶき)を遺棄(ゐき)しつつ
168所在(あらゆる)民家(みんか)に火(ひ)を放(はな)ち
169雲(くも)を霞(かすみ)と逃(に)げ散(ち)りぬ
170この戦(たたか)ひに左守司(さもりがみ)
171右守(うもり)も共(とも)に陣没(ぢんぼつ)し
172トルマン城(じやう)は柱石(ちうせき)を
173今(いま)や全(まつた)く失(うしな)ひて
174教務(けうむ)の運用(うんよう)中絶(ちうぜつ)し
175国民(こくみん)不安(ふあん)の気(き)に打(う)たれ
176人心(じんしん)恟々(きようきよう)たりし折(をり)
177千草(ちぐさ)の姫(ひめ)は忽(たちま)ちに
178天命(てんめい)尽(つ)きて他界(たかい)され
179其(その)肉体(にくたい)に常世国(とこよくに)
180生(うま)れ出(い)でたる悪狐(あくこ)奴(め)が
181巣喰(すぐ)ひて王(わう)を誑惑(きようわく)し
182総(すべ)ての智者(ちしや)や忠義(ちうぎ)もの
183一人(ひとり)も残(のこ)らず排斥(はいせき)し
184この神国(しんこく)を魔(ま)の国(くに)と
185乱(みだ)さむものと企(たく)むこそ
186実(げ)にも忌々(ゆゆ)しき次第(しだい)なり
187吾(われ)等(ら)は神(かみ)の命(めい)をうけ
188世界(せかい)の所在(あらゆる)国々(くにぐに)の
189難(なやみ)を救(すく)ひ助(たす)けむと
190産土山(うぶすなやま)の聖場(せいぢやう)を
191立(た)ちて漸(やうや)く来(き)て見(み)れば
192思(おも)ひもよらぬ此(この)難(なや)み
193実(げ)に口惜(くちをし)き次第(しだい)なり
194左(さ)はさりながら吾々(われわれ)は
195尊(たふと)き神(かみ)の守(まも)りあり
196大空(おほぞら)つとふ望(もち)の月(つき)
197一(いつ)たん黒雲(くろくも)包(つつ)むとも
198忽(たちま)ち科戸(しなど)の風(かぜ)吹(ふ)かば
199もろくも雲(くも)は散(ち)りはてて
200再(ふたた)びもとの満月(まんげつ)と
201輝(かがや)き渡(わた)り下界(げかい)をば
202隈(くま)なく照(てら)さむ吾(わが)御霊(みたま)
203必(かなら)ず案(あん)じたまふまじ
204汝(なんぢ)も国家(こくか)大衆(たいしう)の
205危急(ききふ)を救(すく)ふ其(その)為(た)めに
206神(かみ)に等(ひと)しき行動(かうどう)を
207取(と)らせたまひしものならば
208天地(てんち)の神(かみ)は何(なん)として
209汝(なれ)等(ら)二人(ふたり)を見捨(みす)てむや
210一旦(いつたん)雲(くも)はかかれども
211やがては天地(あめつち)晴明(せいめい)の
212日月(じつげつ)下界(げかい)を照(て)らす如(ごと)
213難(なや)みは晴(は)れて万民(ばんみん)の
214救(すく)ひの主(ぬし)と仰(あふ)がれて
215時(とき)めきたまふは目(ま)の前(あた)り
216勇(いさ)ませ玉(たま)へ惟神(かむながら)
217神(かみ)に誓(ちか)ひて神司(かむづかさ)
218茲(ここ)に言挙(ことあ)げ奉(たてまつ)る
219朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
220月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
221印度(いんど)の海(うみ)はあするとも
222千草(ちぐさ)の姫(ひめ)は滅(ほろ)ぶとも
223誠(まこと)一(ひと)つの汝(なんぢ)等(ら)は
224必(かなら)ず神(かみ)の御恵(みめぐみ)に
225トルマン国(ごく)の御柱(みはしら)と
226輝(かがや)きたまふも近(ちか)からむ
227吾(われ)等(ら)二人(ふたり)も牢獄(らうごく)に
228苦(くる)しき日夜(にちや)を送(おく)れども
229恵(めぐみ)の神(かみ)は日(ひ)ならずに
230現(あらは)れたまひて速(すみや)かに
231安(やす)く救(すく)はせたまふべし
232あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
233御霊(みたま)の恩頼(ふゆ)を願(ね)ぎまつる』
234 照公(てるこう)は又(また)歌(うた)ふ。
235『吾(われ)は照公(てるこう)神司(かむづかさ)
236吾(わが)師(し)の君(きみ)に従(したが)ひて
237トルマン国(ごく)に来(き)て見(み)れば
238思(おも)ひもよらぬ大騒動(おほさうどう)
239此(この)国難(こくなん)を救(すく)はむと
240大和心(やまとごころ)をふり起(おこ)し
241神(かみ)の司(つかさ)は忽(たちま)ちに
242軍(いくさ)の司(つかさ)と早(はや)がはり
243チウイン太子(たいし)と諸共(もろとも)に
244命(いのち)を的(まと)に戦(たたか)へば
245神(かみ)の守(まも)りは著(いちじる)く
246トルマン国(ごく)を覆(おほ)ひたる
247醜(しこ)の黒雲(くろくも)忽(たちま)ちに
248隈(くま)なく晴(は)れて日月(じつげつ)の
249光(ひかり)も清(きよ)く照(て)りにけり
250然(しか)るに何(なん)ぞ計(はか)らむや
251神(かみ)に等(ひと)しき勲功(いさをし)を
252樹(た)てし吾々(われわれ)両人(りやうにん)を
253金毛(きんまう)九尾(きうび)の悪魔(あくま)等(ら)の
254千草(ちぐさ)の姫(ひめ)やガーデンの
255王(きみ)の御霊(みたま)を誑惑(きやうわく)し
256かかる汚(きたな)き牢獄(らうごく)に
257所在(あらゆる)恥辱(ちじよく)を与(あた)へつつ
258閉(と)ぢ込(こ)めおくぞ歎(うた)てけれ
259照公(てるこう)は仮令(たとへ)死(し)する共(とも)
260誠(まこと)の道(みち)に尽(つく)すもの
261些(すこ)しも厭(いと)ひはせぬけれど
262一大(いちだい)使命(しめい)を帯(おび)たまふ
263吾(わが)師(し)の君(きみ)を苦(くる)します
264此(この)残念(ざんねん)を如何(いか)にして
265晴(は)らさむよしもなきままに
266心(こころ)をこめて大神(おほかみ)の
267御救(みすく)ひ祈(いの)り声(こゑ)あげて
268血(ち)をはく思(おも)ひの吾(われ)の胸(むね)
269推量(すいりやう)あれよ御(ご)両人(りやうにん)
270神(かみ)の救(すく)ひの一(いち)日(にち)も
271早(はや)くあれよと願(ね)ぎまつる
272救(すく)ひの神(かみ)の一(いち)日(にち)も
273早(はや)く現(あら)はれ玉(たま)へよと
274畏(かしこ)み畏(かしこ)み願(ね)ぎまつる
275あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
276御霊(みたま)幸倍(さちはへ)ましませよ』
277レール『吾(われ)は今(いま)牢獄(ひとや)の内(うち)にありながら
278忘(わす)れざりけり国(くに)の行末(ゆくすゑ)』
279マーク『玉(たま)の緒(を)のよしや命(いのち)は捨(す)つるとも
280如何(いか)で惜(をし)まむ国(くに)の為(た)めには』
281照国別(てるくにわけ)『いさぎよしレール、マークの赤心(まごころ)を
282聞(き)くにつけても涙(なみだ)こぼるる』
283照公(てるこう)『梅公(うめこう)の珍(うづ)の司(つかさ)は今(いま)いづこ
284聞(き)かま欲(ほ)しやと朝夕(あさゆふ)祈(いの)るも』
285照国別(てるくにわけ)『梅公(うめこう)の珍(うづ)の司(つかさ)は吾々(われわれ)を
286救(すく)はむ為(た)めに近(ちか)く来(きた)らむ』
287 かかる所(ところ)へ一人(ひとり)の牢番(らうばん)、288靴音(くつおと)高(たか)く入(い)り来(きた)り、289四辺(あたり)を見廻(みまは)し、2891人(ひと)無(な)きを見(み)て安心(あんしん)せしものの如(ごと)く、
290『もし師(し)の君様(きみさま)、291私(わたくし)は春公(はるこう)で御座(ござ)います。292葵(あふひ)の沼(ぬま)に於(おい)てお姿(すがた)を見失(みうしな)ひ、293このトルマン城下(じやうか)へ参(まゐ)りました処(ところ)、294何(なん)の手掛(てがか)りもなく、295師(し)の君(きみ)一行(いつかう)の所在(ありか)が分(わか)りませぬので、296看守(かんしゆ)を出願(しゆつぐわん)し、297やつと十日(とをか)以前(いぜん)に合格(がふかく)し、298かかる卑(いや)しき獄卒(ごくそつ)を勤(つと)めて居(を)ります。299どうか御(ご)心配(しんぱい)下(くだ)さいますな。300時期(じき)を考(かんが)へて屹度(きつと)お助(たす)け致(いた)します。301王(わう)様(さま)からの厳命(げんめい)で、302「湯(ゆ)も水(みづ)も与(あた)へな、303食料(しよくれう)は日(ひ)に一回(いつくわい)に致(いた)せ、304彼(かれ)等(ら)が自然(しぜん)に餓死(がし)する迄(まで)捨(す)ておけ」との小(せう)ラマへの達(たつ)しが参(まゐ)つたさうで御座(ござ)います。305併(しか)し乍(なが)ら私(わたくし)が当番(たうばん)に当(あた)つて居(を)ります以上(いじやう)、306決(けつ)して御(ご)心配(しんぱい)下(くだ)さいますな』
307照国(てるくに)『ヤ、308お前(まへ)は春公(はるこう)だつたか、309これも全(まつた)く神(かみ)様(さま)が、310かかる事(こと)の出(い)で来(きた)るべきを前知(ぜんち)したまひ、311お前(まへ)を牢番(らうばん)にするやう取計(とりはか)らつて下(くだ)さつたのだらう。312春公(はるこう)313覚(さと)られないやうに気(き)をつけよ』
314春(はる)『ハイ、315心得(こころえ)まして御座(ござ)います。316どうか御(ご)一同(いちどう)様(さま)317御(ご)安心(あんしん)下(くだ)さいませ』
318 ラマが巡視(じゆんし)に来(き)たと見(み)え、319靴音(くつおと)がギウギウと高(たか)く聞(きこ)えて来(く)る。320春公(はるこう)は、
321『オイ、322未決囚(みけつしう)共(ども)、323静(しづか)に致(いた)さねば厳(きび)しき懲戒(ちようかい)を加(くは)へるぞ』
324と云(い)ひ乍(なが)ら、325ラマに最敬礼(さいけいれい)をやつて居(ゐ)る。326高壁(たかべい)の外(そと)には新聞(しんぶん)号外(がうぐわい)の配達(はいたつ)のリンが耳騒(みみさわ)がしく響(ひび)いて居(ゐ)る。327デカタン高原(かうげん)の名物(めいぶつ)、328大暴風(だいばうふう)は牢獄(らうごく)の桁(けた)をギクギク揺(ゆす)つて通(とほ)る。
329(大正一四・八・二五 旧七・六 於由良海岸秋田別荘 加藤明子録)
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