霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一章 天馬(てんば)行空(かうくう)〔一九三三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第77巻 天祥地瑞 辰の巻 篇:第1篇 万里の海原 よみ(新仮名遣い):までのうなばら
章:第1章 天馬行空 よみ(新仮名遣い):てんばこうくう 通し章番号:1933
口述日:1933(昭和8)年12月12日(旧10月25日) 口述場所:大阪分院蒼雲閣 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1934(昭和9)年3月30日
概要: 舞台:東河の岸辺 あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
八十曲津の神たちは、真賀の湖水の計略を朝香比女に破られ、あべこべにその多くが魚貝に姿を変えられてしまい、国津神たちの食料と定められてしまった。そのため何としても比女を陥れようと、高地秀山の峰より流れる東河の岸辺に、無数の大蛇となって、比女を待ち構えていた。
朝香比女はつらつらと透かして見れば、東河の水面一帯に大蛇が横たわり、その鱗に月光が輝いているのが見えた。
従者の狭野彦は、そうとは気づかず、麗しき河の流れと思って歎美の歌を歌い、瀬踏みをしようとした。
朝香比女はそれを厳しく押し止め、言霊歌によってその危険を明らかにし、知らせた。すると、四方八方よりウーウーウーとウ声の言霊が響き渡り、川面に群がり塞いでいた幾千万の大蛇は、次第次第に姿を細め、消えてしまった。
狭野彦は驚いて、朝香比女の言霊の威力をたたえる歌を歌った。
朝香比女はそれに答えて、大河の水が強く馬では渡りかねるので、大空を駆けて河を渡ろう、と歌った。
狭野彦は驚いて、国津神である自分が、どうやって空を飛べるのですか、と歌で問うた。すると、空中に歌で答える神があり、鋭敏鳴出(うなりづ)の神であると名乗り現れた。
高地秀宮の神司である鋭敏鳴出の神は、ひそかに朝香比女に随行してその行く手を守っていたのであった。朝香比女は感謝の歌で迎えた。鋭敏鳴出の神は、曲津神の砦が多くあることを注意すると、再び姿を消した。
朝香比女は、タトツテチの言霊によって自分と狭野彦の馬に翼を生じさせ、いとも簡単に広河の激流を渡った。狭野彦は天津神の活動を目の当たりにし、驚嘆の歌を歌った。
朝香比女は鋭敏鳴出の神の加護を感謝し、一方狭野彦は、天津神の功徳に心を勇み立たせ、二人は霞が立ち込める国稚原を進んで行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:3612 OBC :rm7701
愛善世界社版: 八幡書店版:第13輯 587頁 修補版: 校定版:3頁 普及版: 初版: ページ備考:
001高地秀(たかちほ)山(やま)の聖場(せいぢやう)に
002八柱神(やはしらがみ)と仕(つか)へたる
003朝香(あさか)の比女(ひめ)は唯(ただ)一騎(いつき)
004諸神(ももがみ)等(たち)の諫言(かんげん)を
005耳(みみ)にもかけず雄々(をを)しくも
006曲津(まがつ)の猛(たけ)る大野原(おほのはら)
007果(はて)しもしらに縹渺(へうべう)と
008雲霧(くもきり)わけて種々(くさぐさ)の
009艱(なや)みの坂(さか)を越(こ)えながら
010由緒(ゆゐしよ)の深(ふか)き栄城山(さかきやま)
011尾(を)の上(へ)に登(のぼ)り顕津男(あきつを)の
012神(かみ)の遺跡(ゐせき)を追懐(つゐくわい)し
013主(ス)の大神(おほかみ)の大宮(おほみや)に
014神言(かみごと)宣(の)らせやうやうに
015栄城(さかき)の山(やま)に仕(つか)へたる
016諸神(ももがみ)等(たち)に暇(いとま)乞(ご)ひ
017又(また)もや独(ひと)り大野原(おほのはら)
018駒(こま)に鞭(むち)うち出(い)でたまふ
019日(ひ)も黄昏(たそがれ)になりし時(とき)
020八十(やそ)の曲津見(まがつみ)驚(おどろ)きて
021比女(ひめ)の前途(ぜんと)をさやらむと
022曲(まが)の力(ちから)のありたけを
023尽(つく)して広(ひろ)き沼(ぬま)となり
024横(よこた)はれるぞ忌(いま)はしき
025朝香(あさか)の比女(ひめ)はこれを見(み)て
026天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し
027生言霊(いくことたま)を発射(はつしや)して
028沼(ぬま)と変(かは)りし曲津見(まがつみ)を
029永遠(えいゑん)無窮(むきう)に封(ふう)じこめ
030曲(まが)の化身(けしん)の大巌(おほいは)を
031忽(たちま)ち舟(ふね)と変(へん)ぜしめ
032駒(こま)諸共(もろとも)に悠々(いういう)と
033月(つき)照(て)りかがよふ夜(よる)の湖(うみ)
034彼方(あなた)の岸(きし)に着(つ)きたまひ
035再(ふたた)び御舟(みふね)は巌(いは)となり
036名(な)さへ目出度(めでた)き御舟巌(みふねいは)
037南(みなみ)の岸辺(きしべ)にそばだてり
038頃(ころ)しもあれや東(ひむがし)の
039空(そら)はやうやく東雲(しのの)めて
040遠(とほ)く聞(きこ)ゆる家鶏(かけ)の声(こゑ)
041国津神(くにつかみ)等(たち)の住(す)む家(いへ)の
042近(ちか)づきけりと勇(いさ)み立(た)ち
043沼(ぬま)を変(へん)じて湖(うみ)となし
044真賀(まが)の湖水(こすゐ)と名(な)づけつつ
045岸辺(きしべ)を鞭(むち)うち進(すす)みます
046雄姿(ゆうし)水面(みのも)にさかさまに
047駒(こま)諸共(もろとも)に写(うつ)らひて
048其(その)雅(みやび)なる御姿(みすがた)は
049名画(めいぐわ)もかくやと思(おも)はれぬ
050朝香(あさか)の比女(ひめ)は勇(いさ)み立(た)ち
051大野(おほの)の奥(おく)に霞(かす)みたる
052丘(をか)の麓(ふもと)に駒(こま)打(う)たせ
053急(いそ)ぎたまへば狭野(さぬ)の里(さと)
054ここに住(す)まへる諸々(もろもろ)の
055国津神(くにつかみ)等(たち)諸共(もろとも)に
056天津空(あまつそら)より比女神(ひめがみ)の
057降(くだ)らせたまふと喜(よろこ)びて
058誠(まこと)の限(かぎ)りを尽(つく)しつつ
059いと懇(ねもごろ)に迎(むか)へけり
060朝香(あさか)の比女(ひめ)は駿馬(はやこま)の
061背(せな)より下(くだ)らせたまひつつ
062国津神(くにつかみ)等(たち)に生活(せいくわつ)の
063道(みち)伝(つた)へまし火(ひ)を切(き)りて
064すべてのものを焼(や)きて食(く)ふ
065火食(くわしよく)の道(みち)を伝(つた)へまし
066国津神(くにつかみ)等(たち)の酋長(かしら)なる
067狭野彦(さぬひこ)一人(ひとり)を伴(ともな)ひて
068再(ふたた)び広(ひろ)き荒野原(あらのはら)
069雲霧(くもきり)わけて出(い)でませば
070前途(ぜんと)を擁(よう)して横(よこた)はる
071東(あづま)の河(かは)の河岸(かはぎし)に
072黄昏(たそが)るる頃(ころ)やすやすと
073辿(たど)りたまへば新月(しんげつ)の
074光(ひかり)は空(そら)にきらりきらり
075輝(かがや)きわたり比女神(ひめがみ)の
076前途(ぜんと)を守(まも)らせたまふなり
077ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
078恩頼(みたまのふゆ)こそ畏(かしこ)けれ。
079 八十(やそ)曲津見(まがつみ)は、080真賀(まが)の湖水(こすゐ)の計略(けいりやく)に破(やぶ)れ、081部下(ぶか)の曲津見(まがつみ)は、082朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)の生言霊(いくことたま)に封(ふう)じ込(こ)められて、083大部分(だいぶぶん)魚貝(ぎよかひ)と身(み)を変(へん)じ、084永遠(えいゑん)に湖底(こてい)の住所(ぢうしよ)を与(あた)へられ、085国津神(くにつかみ)等(たち)の日常(にちじやう)の食物(しよくもつ)と定(さだ)められければ、086八十(やそ)曲津見(まがつみ)は憤慨(ふんがい)の極(きよく)、087無念(むねん)骨髄(こつずゐ)に徹(てつ)し、088如何(いか)にもして比女神(ひめがみ)の前途(ぜんと)に遮(さや)り、089災禍(わざはひ)を加(くは)へむと千思(せんし)万慮(ばんりよ)の結果(けつくわ)、090高地秀(たかちほ)山(やま)の峰(みね)より落(お)つる東河(あづまがは)の岸辺(きしべ)より、091無数(むすう)の大蛇(をろち)となりて比女神(ひめがみ)を艱(なや)ましまつるべく、092手具脛(てぐすね)ひいて待(ま)ち居(ゐ)たるなりけり。
093 東河(あづまがは)の激流(げきりう)は折(をり)から輝(かがや)く新月(しんげつ)の光(ひかり)に照(て)らされて数多(あまた)の星(ほし)を流(なが)せしごとく、094浪頭(なみがしら)はキララキララと光(ひか)り輝(かがや)き渡(わた)る美(うるは)しき流(なが)れなり。
095 比女神(ひめがみ)はつらつら透(す)かし見給(みたま)へば、096東河(あづまがは)の水面(すゐめん)一帯(いつたい)に大蛇(をろち)横(よこた)はり、097浪頭(なみがしら)に星(ほし)の輝(かがや)くよと見(み)えしは何(いづ)れも大蛇(をろち)の鱗(うろこ)なりける。098鱗(うろこ)の一枚(いちまい)々々(いちまい)に月光(つきかげ)輝(かがや)き得(え)も言(い)はれぬ美(うるは)しき光(ひかり)の流(なが)れなりけり。099狭野彦(さぬひこ)は大蛇(をろち)の横(よこた)はり鱗(うろこ)の光(ひか)れりとは夢(ゆめ)にも知(し)らず、100さも美(うるは)しき流(なが)れやと歎美(たんび)しながら歌(うた)を詠(よ)む。
101『美(うるは)しき東(あづま)の河(かは)の流(なが)れかな
102浪(なみ)のまにまに月(つき)かがよへり
103比女神(ひめがみ)の御共(みとも)に仕(つか)へまつりてゆ
104かく美(うるは)しき夜河(よかは)を見(み)るも
105たうたうと流(なが)るる東(あづま)の大河(おほかは)の
106夜(よる)の眺(なが)めはまたと世(よ)になし
107駿馬(はやこま)の背(せ)に跨(またが)りてこの流(なが)れ
108渡(わた)ると思(おも)へば心(こころ)清(すが)しも』
109 「いざさらば、110狭野彦(さぬひこ)瀬踏(せぶ)みを致(いた)さむ」と駒(こま)に鞭(むち)うち出(い)で立(た)たむとするを、111朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)は厳(きび)しく止(とど)めて、112御歌(みうた)もて知(し)らせ給(たま)ふ。
113『狭野彦(さぬひこ)の眼(まなこ)は広(ひろ)き河浪(かはなみ)の
114月(つき)にさゆると見(み)ゆるなるらむ
115河浪(かはなみ)と見(み)ゆるは何(いづ)れも曲津見(まがつみ)の
116変化(へんげ)の蛇(へび)の鱗(うろこ)なるぞや
117数限(かずかぎ)りなき蛇(へび)の鱗(うろこ)に大空(おほぞら)の
118月(つき)のかがやく光(ひかり)と知(し)らずや
119此(この)河(かは)に駒(こま)を入(い)るれば忽(たちま)ちに
120大蛇(をろち)の餌食(ゑじき)となりて亡(ほろ)びむ
121一(ひと)二(ふた)三(み)四(よ)五(いつ)六(むゆ)七(なな)八(や)九(ここの)十(たり)
122百(もも)千(ち)万(よろづ)千万(ちよろづ)の
123神(かみ)等(たち)ここに出(い)でまして
124八十(やそ)の曲津(まがつ)の曲業(まがわざ)を
125科戸(しなど)の風(かぜ)に吹(ふ)き散(ち)らし
126追(お)ひやらひませ惟神(かむながら)
127朝香(あさか)の比女(ひめ)が誠心(まごころ)を
128捧(ささ)げて祈(いの)り奉(たてまつ)る』
129 かく歌(うた)はせ給(たま)ふや、130四方(しはう)八方(はつぱう)より、131ウーウーウーとウ声(ごゑ)の言霊(ことたま)響(ひび)き渡(わた)り、132大河(おほかは)の面(おも)を群(むら)がり塞(ふさ)ぎたる幾千万(いくせんまん)の大蛇(をろち)は次第(しだい)々々(しだい)に姿(すがた)を細(ほそ)め、133見(み)る見(み)る影(かげ)も形(かたち)も消(き)えうせて、134青(あを)みだちたる水(みづ)滔々(たうたう)と月(つき)に照(て)らされ深(ふか)く広(ひろ)く流(なが)れゐる。135狭野彦(さぬひこ)は驚(おどろ)きて、
136『朝香(あさか)比女(ひめ)神(かみ)の神言(みこと)の珍(めづら)しき
137智慧(てり)に大蛇(をろち)は看破(みやぶ)られける
138かくのごと尊(たふと)き神(かみ)とは知(し)らずして
139御供(みとも)に仕(つか)へし吾(われ)恥(は)づかしも
140曲津見(まがつみ)は数万(すまん)の大蛇(をろち)と身(み)を変(へん)じ
141禍(わざはひ)せむと待(ま)ち居(ゐ)たるはや
142吾(われ)は今(いま)この河岸(かはぎし)に黄昏(たそが)れて
143八十(やそ)の曲津(まがつ)の曲業(まがわざ)を見(み)し
144曲神(まがかみ)の八十(やそ)のたくみは賢(さか)しくも
145真言(まこと)の神(かみ)には叶(かな)はざりける
146大河(おほかは)の流(なが)れと見(み)しは曲津見(まがつみ)の
147大蛇(をろち)に化(ば)けし姿(すがた)なりける
148かくならば吾(われ)は恐(おそ)れじ朝香(あさか)比女(ひめ)の
149神(かみ)にしたがひ河(かは)渡(わた)るとも
150駿馬(はやこま)の勢(いきほひ)如何(いか)に強(つよ)くとも
151御稜威(みいづ)ならではこの河(かは)渡(わた)れじ』
152 朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)は御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
153『高地秀(たかちほ)の峰(みね)より落(お)つる東河(あづまがは)の
154水瀬(みなせ)は強(つよ)く駒(こま)は進(すす)まず
155神力(しんりき)はいかに強(つよ)くも東(ひむがし)の
156この大河(おほかは)は駒(こま)なやむなり
157吾(われ)は今(いま)生言霊(いくことたま)の光(ひかり)にて
158大空(おほぞら)かけり河(かは)渡(わた)らむと思(おも)ふ』
159 狭野彦(さぬひこ)は歌(うた)ふ。
160『如何(いか)にして御空(みそら)をかけり渡(わた)りますか
161吾(われ)国津(くにつ)神(かみ)は詮術(せんすべ)なしも
162公(きみ)こそは天津(あまつ)神(かみ)なり大空(おほぞら)を
163渡(わた)らせたまふはさぞ安(やす)からむ
164国津(くにつ)神(かみ)狭野彦(さぬひこ)われは肉体(にくたい)の
165重(おも)きを如何(いか)に空(そら)渡(わた)るべき』
166『朝香(あさか)比女(ひめ)神(かみ)の御尾前(みをさき)守(まも)りつつ
167しのびしのびて御供(みとも)につかへぬ
168今(いま)宣(の)りしウ声(ごゑ)の清(きよ)き言霊(ことたま)は
169鋭敏鳴出(うなりづ)の神(かみ)のすさびなりしよ』
170と空中(くうちう)に御声(みこゑ)聞(きこ)えて間(ま)もあらず、171霧(きり)の中(なか)より白馬(しらこま)に跨(またが)り、172朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)の御前(みまへ)に悠々(いういう)と下(くだ)り給(たま)ひし神(かみ)あり。173よくよく見(み)れば御(おん)言霊(ことたま)にたがはず、174高地秀(たかちほ)の宮(みや)の神司(かむつかさ)と任(ま)けられし英雄神(えいゆうしん)鋭敏鳴出(うなりづ)の神(かみ)の雄姿(ゆうし)なりける。
175 朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)は一目(ひとめ)見(み)るより、
176『汝(なれ)こそは高地秀(たかちほ)の宮(みや)の神司(かむづかさ)
177われを守(まも)りし功(いさを)をよろこぶ
178狭葦河(さゐかは)の曲津(まが)のなやみを言向(ことむ)けし
179著(しる)き功(いさを)は汝(な)が神(かみ)守(も)りけむ
180曲神(まがかみ)の醜(しこ)の奸計(たくみ)は破(やぶ)れけり
181鋭敏鳴出(うなりづ)汝(なれ)の生言霊(いくことたま)に
182いざさらば此(この)広河(ひろかは)を向(むか)つ岸(ぎし)に
183進(すす)みて月(つき)の下(した)びをすすまむ』
184 鋭敏鳴出(うなりづ)の神(かみ)は御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
185『朝香(あさか)比女(ひめ)神(かみ)の神言(みこと)の危(あやふ)さを
186悟(さと)りて吾(われ)は追(お)ひしきにけり
187主(ス)の神(かみ)の神言(みこと)畏(かしこ)み御尾前(みをさき)を
188かくれて吾(われ)は守(まも)り居(ゐ)しはや
189西方(にしかた)の国土(くに)は遥(はろ)けしこの前(さき)に
190曲津(まが)の砦(とりで)は許々多(ここだ)ありつつ
191曲神(まがかみ)の醜(しこ)の砦(とりで)を悉(ことごと)く
192はふり行(ゆ)きませ西方(にしかた)の国土(くに)へ
193いざさらば吾(われ)は姿(すがた)を隠(かく)すべし
194道(みち)の隈手(くまで)もやすくましませ』
195 かく歌(うた)ひ給(たま)ふと見(み)るや、196鋭敏鳴出(うなりづ)の神(かみ)の御姿(みすがた)は、197忽(たちま)ち煙(けむり)となりて消(き)え失(う)せにける。
198 狭野彦(さぬひこ)は驚(おどろ)きて、
199『天界(かみくに)は怪(あや)しき事(こと)の重(かさ)なれる
200国土(くに)と思(おも)へど驚(おどろ)きにけり
201久方(ひさかた)の天津神(あまつかみ)等(たち)の活動(はたらき)を
202見(み)つつ吾(わが)魂(たま)ゆるぎ初(そ)めけり』
203 朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)は御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
204『狭野彦(さぬひこ)の驚(おどろ)きうべなり国津(くにつ)神(かみ)の
205夢(ゆめ)にも知(し)らぬ神業(みわざ)の国土(くに)は
206国土(くに)を生(う)み国魂神(くにたまがみ)を生(う)みてゆく
207神(かみ)の神業(みわざ)はことさら怪(あや)しき
208国津(くにつ)神(かみ)の眼(まなこ)ゆ見(み)れば吾(われ)も亦(また)
209怪(あや)しき神(かみ)の群(むれ)にぞありける』
210 かく歌(うた)ひ終(をは)り、
211『吾(わが)乗(の)れる駒(こま)よ狭野彦(さぬひこ)の駒(こま)よ
212翼(つばさ)生(はや)せよ大(おほい)なる翼(つばさ)を
213生(は)えよ生(は)えよ大(おほい)なる翼(つばさ)
214此(この)駿馬(はやこま)の天馬(てんば)となりて
215空(そら)をゆくまで』
216と幾度(いくたび)も繰(く)り返(かへ)したまひ、
 
217『タトツテチ、218ハホフヘヒ』
 
219と声(こゑ)爽(さは)やかに宣(の)らせたまへば、220不思議(ふしぎ)やこの駒(こま)は大(おほい)なる翼(つばさ)を生(はや)しける。
221 比女神(ひめがみ)は狭野彦(さぬひこ)と共(とも)に駒(こま)に跨(またが)り給(たま)へば、222天馬(てんば)は巨大(きよだい)なる翼(つばさ)を空中(くうちう)に摶(う)ちながら、223見(み)も届(とど)かぬ広河(ひろかは)の激流(げきりう)を遥(はる)か眼下(がんか)に眺(なが)めつつ、224月(つき)の光(ひかり)は翼(つばさ)をキラキラと光(ひか)らし、225得(え)も言(い)はれぬ愉快(ゆくわい)さに満(みた)されて、226向(むか)つ岸辺(きしべ)に難(なん)なく着(つ)かせ給(たま)ひける。227狭野彦(さぬひこ)は驚歎(きやうたん)措(お)く能(あた)はず、
228『吾(わが)駒(こま)は翼(つばさ)生(はや)せて鳥(とり)となり
229御空(みそら)を翔(か)けて河(かは)わたりせり
230比女神(ひめがみ)の生言霊(いくことたま)の功績(いさをし)に
231わが乗(の)る駒(こま)は鳥(とり)となりけり
232比女神(ひめがみ)の駒(こま)は天馬(てんば)となりかはり
233御空(みそら)に清(きよ)くかがやきたまひし
234天国(てんごく)の旅(たび)なる吾(われ)の楽(たの)しさを
235語(かた)り伝(つた)へむ国津神(くにつかみ)等(たち)に
236鋭敏鳴出(うなりづ)の神(かみ)現(あ)れまして河(かは)の瀬(せ)に
237満(み)つる大蛇(をろち)を退(しりぞ)けたまへり
238比女神(ひめがみ)の影(かげ)につき添(そ)ふ鋭敏鳴出(うなりづ)の
239神(かみ)の功(いさを)の尊(たふと)きろかも』
240 朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)は御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
241『鋭敏鳴出(うなりづ)の神(かみ)の功(いさを)に守(まも)られて
242吾(われ)つつがなく此処(ここ)に来(こ)しはや
243吾(わが)駒(こま)に翼(つばさ)生(お)ひしも鋭敏鳴出(うなりづ)の
244神(かみ)のかくれし功(いさを)なりける
245鋭敏鳴出(うなりづ)の神(かみ)の功(いさを)を今更(いまさら)に
246われは悟(さと)りて恥(は)づかしみ思(おも)ふ
247今(いま)よりは主(ス)の大神(おほかみ)の神宣(みことのり)
248力(ちから)と頼(たの)みて荒野(あらの)を進(すす)まむ
249国津(くにつ)神(かみ)狭野彦(さぬひこ)伴(ともな)ひ吾(わが)伊行(いゆ)く
250旅(たび)の行手(ゆくて)を案(あん)じつつ居(ゐ)る
251天津(あまつ)神(かみ)は御空(みそら)をゆけど国津(くにつ)神(かみ)は
252荒金(あらがね)の地(つち)ふみゆく身(み)なれば
253吾(わが)駒(こま)の翼(つばさ)はいつか消(き)え失(う)せて
254野辺(のべ)の草葉(くさば)に嘶(いなな)き初(そ)めたり
255狭野彦(さぬひこ)の駒(こま)も翼(つばさ)をひそめつつ
256息(いき)をやすめて草(くさ)はみて居(を)り
257東(ひむがし)の河(かは)は漸(やうや)く渡(わた)りぬれど
258わが行(ゆ)くさきに海原(うなばら)横(よこ)たふ
259この海(うみ)は魔(ま)の大海(おほうみ)とたたへられ
260八十(やそ)曲津見(まがつみ)の群(むら)がれると聞(き)く
261吾(わが)伊行(いゆ)く道(みち)の曲津見(まがつみ)悉(ことごと)く
262言向(ことむ)け和(やは)して岐美許(きみがり)進(すす)まむ
263初夏(はつなつ)の風(かぜ)は吹(ふ)けどもどことなく
264この国原(くにはら)はうすら寒(さむ)きも』
265 狭野彦(さぬひこ)は歌(うた)ふ。
266『どこまでも比女神(ひめがみ)の御供(みとも)に仕(つか)へむと
267心(こころ)の駒(こま)の勇(いさ)みたつかも
268いかならむ曲津見(まがみ)の禍(わざはひ)さやるとも
269吾(われ)は恐(おそ)れじ比女神(ひめがみ)の功(いさを)に』
270 かく狭野彦(さぬひこ)は、271朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)の神徳(しんとく)を讃美(さんび)しながら、272駒(こま)に跨(またが)り御後(みあと)より果(はて)しなく霞(かすみ)立(た)ち籠(こ)むる稚国原(わかくにはら)を進(すす)み行(ゆ)く。
 
273(昭和八・一二・一二 旧一〇・二五 於大阪分院蒼雲閣 加藤明子謹録)
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