霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第三章 高魔腹(たかまはら)〔一二九七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第50巻 真善美愛 丑の巻 篇:第1篇 和光同塵 よみ(新仮名遣い):わこうどうじん
章:第3章 高魔腹 よみ(新仮名遣い):たかまはら 通し章番号:1297
口述日:1923(大正12)年01月20日(旧12月4日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年12月7日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
初稚姫は祠の森の神殿に参拝し、遠征の守りを祈願すると高姫の居間へ引き帰した。高姫は遠く従って初稚姫の後ろ姿を打ち眺め、どこともなしにその神格の完備せるに驚き舌を巻いた。
高姫は、初稚姫の神格に感じて心の底より尊敬したが、どことなく恐怖心にもかられ、かつやや嫉妬の念も兆したのである。
高姫の身体にて沈黙していた金毛九尾の悪狐は高姫の嫉妬心が兆したのをさいわい、たちまちささやいた。あの初稚姫は稚桜姫命の再来であれば、到底我々は匹敵できない、師と仰いで共に神業に参加すべきだ、とうまく取り入ってきた。高姫は初稚姫に対する態度を一変した。
初稚姫は、高姫には金毛九尾の悪孤の霊が憑依していることに気づきながらも、もし自分が真相を現せば悪孤は高姫の肉体をたちまち亡ぼすかもしれず、また逃げ出して別の肉体に居住し世の中を惑乱するかもしれない、と洞察した。
そして、少しでも長く高姫の肉体に残留させるように仕向け、しばらくは自分は猫をかぶって交際し、高姫とこの地獄的精霊とを天国に救ってやろうと決心した。
高姫の精霊は、自分は悪神の張本の金毛九尾の悪孤であることを初稚姫に自ら明かした。そして、高姫の肉体にある間に感化されて改心し、悪神の企みはすっかり白状されたため、高姫は精霊と共にこの祠の森で人民の因縁をよく調べる役目に従事しているのだ、と語りだした。
そして、自分がここで信者を改める役を正式に認めるよう、三五教に働きかけてほしいと虫のよいことを頼みかけた。
初稚姫は高姫の精霊の企みを見抜き、ここは下手に出て自分にはそのような権限はなく、むしろ神徳高い高姫にご教授を願いたいと言って一切の光明を包み、普通人のようになってしまった。高姫はニタリと打ち笑い、自分についてここで修業するようにと言い聞かせた。
そして自分が杢助の後妻に収まったことを明かし、初稚姫を娘扱いしだした。初稚姫も高姫と夫婦になったのは兇霊であることを知っていたが、そらとぼけて高姫の話にのり、義理の娘のふりを通した。高姫は、初稚姫に請われて、杢助を探しに森林の中へ出て行った。
高姫の精霊は、初稚姫の芝居に築かず、初稚姫が素直に義理の娘として高姫に敬意を表していると思いこみ、気高いところがあって賢いあの娘をなつかせておけば、三五教の中での自分の地位も高まる、と皮算用をしている。
精霊がその企みを声に出して囁いたので、高姫は、そのようなことを声に出して誰かに聞かれたらどうする、と精霊をたしなめた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-07-09 14:19:22 文字数:4863 OBC :rm5003
愛善世界社版:33頁 八幡書店版:第9輯 160頁 修補版: 校定版:35頁 普及版:19頁 初版: ページ備考:
001 初稚姫(はつわかひめ)は祠(ほこら)の森(もり)の神殿(しんでん)に参拝(さんぱい)し、002長途(ちやうと)の遠征(ゑんせい)を守(まも)らせ給(たま)へと祈願(きぐわん)をこらし、003再(ふたた)び高姫(たかひめ)の居間(ゐま)へ引返(ひきかへ)した。004高姫(たかひめ)は遠(とほ)く従(したが)うて神殿(しんでん)近(ちか)く進(すす)み、005初稚姫(はつわかひめ)の後姿(うしろすがた)を打眺(うちなが)め、006何処(どこ)ともなしに其(その)神格(しんかく)の完備(くわんび)せるに打驚(うちおどろ)き舌(した)をまいた。007そして高姫(たかひめ)は其(その)神格(しんかく)に感(かん)じ、008心(こころ)の底(そこ)より初稚姫(はつわかひめ)を神(かみ)の如(ごと)く尊敬(そんけい)した。009併(しか)し乍(なが)ら何処(どこ)ともなく恐怖心(きようふしん)に駆(か)られ、010且(かつ)其(その)神格(しんかく)の偉大(ゐだい)なるに稍(やや)嫉妬(しつと)の念(ねん)を兆(きざ)したのである。011今(いま)まで初稚姫(はつわかひめ)の大神格(だいしんかく)に圧倒(あつたう)され、012暫(しば)し高姫(たかひめ)の身体内(しんたいない)に潜(ひそ)みて沈黙(ちんもく)を守(まも)つて居(ゐ)た金毛(きんまう)九尾(きうび)の悪狐(あくこ)は、013高姫(たかひめ)が少(すこ)しく嫉妬心(しつとしん)の兆(きざ)したのを幸(さいは)ひ、014其(その)虚(きよ)に入(い)り忽(たちま)ち囁(ささや)いて云(い)ふ。
015悪狐『吾(われ)は汝(なんぢ)の略(ほぼ)知(し)る如(ごと)く、016神代(かみよ)に於(おい)て常世姫(とこよひめの)命(みこと)に憑依(ひようい)し罪悪(ざいあく)の限(かぎ)りを尽(つく)した金毛(きんまう)九尾(きうび)白面(はくめん)の悪狐(あくこ)である。017併(しか)しながら時節(じせつ)来(きた)りてミロクの大神(おほかみ)、018地上(ちじやう)に降臨(かうりん)し給(たま)ひし上(うへ)は、019吾(われ)等(ら)は何時(いつ)迄(まで)も悪(あく)を続(つづ)ける訳(わけ)には行(ゆ)かぬ。020吾(われ)は悪(あく)の張本人(ちやうほんにん)なれば世(よ)の中(なか)一切(いつさい)の悪神(あくがみ)の企(たく)みは皆(みな)知(し)つてゐる。021悪(あく)に強(つよ)ければ善(ぜん)にも強(つよ)い。022吾(われ)は金毛(きんまう)九尾(きうび)白面(はくめん)の悪狐(あくこ)だ。023そして汝(なんぢ)は常世姫(とこよひめの)命(みこと)の身魂(みたま)の再来(さいらい)だ。024もう斯(か)うなる上(うへ)は一切(いつさい)万事(ばんじ)を打(う)ち明(あ)けて、025悪(あく)の企(たく)みを瑞(みづ)の御霊(みたま)の大神(おほかみ)にお知(し)らせ申(まを)さねばならぬ。026就(つ)いてはあの初稚姫(はつわかひめ)は稚桜姫(わかざくらひめの)命(みこと)の再来(さいらい)なれば、027到底(たうてい)汝(なんぢ)等(ら)の匹敵(ひつてき)すべき神人(しんじん)ではない。028寧(むし)ろ吾(われ)よりトコトン改心(かいしん)を致(いた)すべければ、029汝(なんぢ)も彼(か)の初稚姫(はつわかひめ)を師(し)と仰(あふ)ぎ、030共(とも)に神業(しんげふ)に参加(さんか)すべし』
031と甘(うま)く高姫(たかひめ)を誑惑(きやうわく)してしまつた。032高姫(たかひめ)は兇霊(きようれい)の言(げん)を深(ふか)く信(しん)じて初稚姫(はつわかひめ)に対(たい)する態度(たいど)を一変(いつぺん)した。033初稚姫(はつわかひめ)は神殿(しんでん)の拝礼(はいれい)を終(をは)り、034階段(かいだん)を下(くだ)りながら心(こころ)私(ひそ)かに思(おも)ふやう、
035初稚姫『彼(かれ)高姫(たかひめ)には金毛(きんまう)九尾(きうび)の悪狐(あくこ)の霊(れい)憑依(ひようい)せり。036而(しか)して彼(かれ)悪霊(あくれい)は形体(けいたい)を有(いう)するものなれば、037吾(わが)真相(しんさう)を現(あら)はさば忽(たちま)ち彼(かれ)が肉体(にくたい)を亡(ほろ)ぼすか、038但(ただし)は遁走(とんそう)して又(また)もや相応(さうおう)の肉体(にくたい)に住居(ぢゆうきよ)を構(かま)へ世(よ)を惑乱(わくらん)するに至(いた)らむ。039如(し)かず吾(われ)は和光(わくわう)同塵(どうぢん)の態度(たいど)を極力(きよくりよく)維持(ゐぢ)し、040彼(か)の悪霊(あくれい)を高姫(たかひめ)の肉体(にくたい)に長(なが)く残留(ざんりう)せしめ、041彼(かれ)が根本(こんぽん)より改心(かいしん)すれば重畳(ちようでふ)なれども、042万一(まんいち)改心(かいしん)せずとも高姫(たかひめ)の肉体中(にくたいちう)に秘(ひ)め置(お)かば、043彼(かれ)精霊(せいれい)は外(ほか)に出(い)づる虞(おそれ)なし。044要(えう)するに高姫(たかひめ)の肉体(にくたい)は天下(てんか)を乱(みだ)す悪霊(あくれい)をつなぐ処(ところ)の牢獄(らうごく)と見(み)ればいい。045もとより徹底(てつてい)的(てき)兇霊(きようれい)なれば、046神(かみ)の光明(くわうみやう)に照(てら)されなば、047兇霊(きようれい)は忽(たちま)ち自暴(じばう)自棄(じき)となり、048益々(ますます)神業(しんげふ)の妨害(ばうがい)をなすべし。049如(し)かず、050神慮(しんりよ)に背(そむ)くかは知(し)らざれども、051暫(しばら)く吾(われ)は猫(ねこ)を被(かぶ)つて彼(かれ)と交際(かうさい)し、052何時(いつ)とはなしに高姫(たかひめ)と精霊(せいれい)とを天国(てんごく)に救(すく)ひやらむ』
053と決心(けつしん)し、054大神(おほかみ)に念(ねん)じながら素知(そし)らぬ顔(かほ)にて高姫(たかひめ)の居間(ゐま)に帰(かへ)つて来(き)た。055精霊(せいれい)は高姫(たかひめ)の口舌(こうぜつ)を使用(しよう)して、056いとやさしげに言葉(ことば)を飾(かざ)つて云(い)ふやう、
057高姫(悪狐)『変性(へんじやう)男子(なんし)の御(おん)身魂(みたま)初稚姫(はつわかひめ)様(さま)、058よくも御(ご)降臨(かうりん)下(くだ)さいました。059私(わたくし)は三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)、060御存(ごぞん)じの高姫(たかひめ)で厶(ござ)ります。061大神(おほかみ)様(さま)の御(ご)都合(つがふ)により悪神(あくがみ)の張本(ちやうほん)金毛(きんまう)九尾(きうび)の悪狐(あくこ)が私(わたし)の肉体(にくたい)に潜(ひそ)み入(い)り、062私(わたくし)の真心(まごころ)に感化(かんくわ)されて漸(やうや)く改心(かいしん)を致(いた)しまして、063今(いま)迄(まで)の悪(あく)をスツクリ白状(はくじやう)致(いた)しました。064就(つ)いては凡(すべ)ての悪神(あくがみ)の企(たく)みは何(なに)も彼(か)も存(ぞん)じて居(ゐ)ると申(まを)して居(を)りますから、065私(わたくし)が守護神(しゆごじん)と共(とも)に此(この)祠(ほこら)の森(もり)に大門(おほもん)を造(つく)り、066凡(すべ)ての人民(じんみん)の因縁(いんねん)をよく調(しら)べ改心(かいしん)をさせた上(うへ)、067斎苑(いそ)の館(やかた)へ送(おく)る考(かんが)へで厶(ござ)ります。068何卒(なにとぞ)此(この)事(こと)をお許(ゆる)し下(くだ)さいます様(やう)に、069変性(へんじやう)男子(なんし)の御霊(みたま)様(さま)、070お願(ねが)ひ申(まを)します。071そして一方(いつぱう)には変性(へんじやう)男子(なんし)の系統(ひつぽう)なる義理(ぎり)天上(てんじやう)日出(ひのでの)神(かみ)が、072厳(いづ)の御霊(みたま)の御(ご)命令(めいれい)によりまして世界中(せかいぢう)を調(しら)べに歩(ある)き、073世(よ)の初(はじ)まりの根本(こつぽん)の根本(こつぽん)の成(な)り立(た)ちから、074人民(じんみん)の大先祖(おほせんぞ)の因縁(いんねん)、075大黒主(おほくろぬし)の身魂(みたま)は如何(いか)なる因縁(いんねん)があるか、076竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)のお働(はたら)きは如何(いか)なるものかと云(い)ふ事(こと)を知(し)らしたいので厶(ござ)ります。077今(いま)の三五教(あななひけう)には宣伝使(せんでんし)は沢山(たくさん)厶(ござ)りますが、078皆(みな)智慧(ちゑ)、079学(がく)で神界(しんかい)の事(こと)を考(かんが)へようと致(いた)すので厶(ござ)りますから何(なに)も分(わか)りませぬ。080貴女(あなた)は変性(へんじやう)男子(なんし)の生粋(きつすゐ)の大和(やまと)魂(だましひ)の善(ぜん)の神(かみ)様(さま)で厶(ござ)りますから、081何(なに)も彼(か)も三千(さんぜん)世界(せかい)の事(こと)は御存(ごぞん)じで厶(ござ)りますが、082外(ほか)の守護神(しゆごじん)や宣伝使(せんでんし)や信者(しんじや)はサツパリ駄目(だめ)で厶(ござ)ります。083それ故(ゆゑ)此処(ここ)に大門(おほもん)を拵(こしら)へ、084私(わたし)が一々(いちいち)因縁(いんねん)をあらため、085斎苑(いそ)の館(やかた)へ参拝(さんぱい)さす御(おん)役(やく)にして下(くだ)さいませぬか』
086と兇霊(きようれい)はうまく高姫(たかひめ)に化(ば)けて虫(むし)のよい事(こと)を頼(たの)みかけた。087初稚姫(はつわかひめ)は彼(かれ)が奸計(かんけい)を残(のこ)らず看破(かんぱ)した。088されど前述(ぜんじゆつ)の如(ごと)く初稚姫(はつわかひめ)は此(この)悪霊(あくれい)を審判(さには)する事(こと)を避(さ)けられたのである。
089初稚姫『貴女(あなた)は信心(しんじん)堅固(けんご)にして霊界(れいかい)によくお通(つう)じ遊(あそ)ばした方(かた)と見(み)えますな。090妾(わらは)は賤(いや)しき杢助(もくすけ)の娘(むすめ)と生(うま)れ、091まだ年(とし)も若(わか)く、092社会(しやくわい)的(てき)の経験(けいけん)さへも積(つ)んでゐない愚者(おろかもの)で厶(ござ)りますから、093到底(たうてい)霊界(れいかい)の消息(せうそく)等(など)は分(わか)りませぬ。094就(つ)いては貴女(あなた)に対(たい)し左様(さやう)の事(こと)をお許(ゆる)し申(まを)すなどとは以(もつ)ての外(ほか)の事(こと)で厶(ござ)ります。095何(いづ)れ神(かみ)様(さま)が貴女(あなた)の御(ご)神力(しんりき)をお認(みと)め遊(あそ)ばしたならば、096屹度(きつと)瑞(みづ)の御霊(みたま)の大神(おほかみ)様(さま)からお許(ゆる)しが厶(ござ)りませう。097妾(わらは)には左様(さやう)な権限(けんげん)は少(すこ)しも厶(ござ)りませぬから、098左様(さやう)な事(こと)を仰有(おつしや)らない様(やう)にお願(ねが)ひ致(いた)します。099何卒(なにとぞ)至(いた)らぬ妾(わらは)、100神徳(しんとく)高(たか)き貴女(あなた)様(さま)より御(ご)教授(けうじゆ)を御(お)願(ねが)ひ致(いた)したいもので厶(ござ)ります』
101と一切(いつさい)の光明(くわうみやう)を包(つつ)み、102普通人(ふつうじん)の如(ごと)くなつて了(しま)つた。103高姫(たかひめ)はニタリと打笑(うちわら)ひ、
104高姫『アー、105さうだらうさうだらう、106それが正直(しやうぢき)の処(ところ)だ。107まだ年(とし)も若(わか)い癖(くせ)に宣伝使(せんでんし)に歩(ある)かすとは、108瑞(みづ)の御霊(みたま)様(さま)も余程(よつぽど)物好(ものず)きな珍(めづ)らし物(もの)喰(ぐ)ひだな。109どれどれ此(この)高姫(たかひめ)がここで根本(こつぽん)の根本(こつぽん)の因縁(いんねん)を説(と)いて聞(き)かしますから十分(じふぶん)修行(しゆぎやう)をなさいませ。110それでなければ、111訳(わけ)も分(わか)らずに宣伝(せんでん)に歩(ある)いたり、112大黒主(おほくろぬし)を言向和(ことむけやは)すなどとは、113以(もつ)ての外(ほか)の無謀(むぼう)のやり方(かた)で厶(ござ)りますからな』
114初稚姫『何分(なにぶん)、115至(いた)らぬ妾(わらは)、116老練(らうれん)な貴女(あなた)様(さま)の御(ご)薫陶(くんたう)をお願(ねが)ひしたいもので厶(ござ)ります』
117高姫『ハイ、118よしよし、119お前(まへ)は水晶魂(すいしやうだま)だ。120本当(ほんたう)に素直(すなほ)な可愛(かあい)い娘(こ)だな。121これから此(この)小母(をば)さまの云(い)ふ事(こと)を聞(き)くのだよ。122否(いな)小母(をば)さまではない、123絶(き)つてもきれぬ母子(おやこ)だから、124そのつもりでつき合(あ)つて下(くだ)さいねー』
125 初稚姫(はつわかひめ)は心(こころ)に打笑(うちわら)ひながら故意(わざ)と空惚(そらとぼ)けて、
126初稚姫『小母(をば)様(さま)、127今(いま)貴女(あなた)は妾(わらは)ときつてもきれぬ母子(おやこ)だと仰有(おつしや)いましたが、128それは身魂(みたま)の母子(おやこ)で厶(ござ)りますか。129チツとも愚鈍(ぐどん)の妾(わらは)には合点(がてん)が参(まゐ)りませぬワ』
130高姫『身魂(みたま)の母子(おやこ)は申(まを)すに及(およ)ばぬ、131お前(まへ)さまは杢助(もくすけ)さまの大切(たいせつ)の娘(むすめ)だらう。132其(その)杢助(もくすけ)さまは此(この)度(たび)神(かみ)様(さま)の因縁(いんねん)によつて常世姫(とこよひめの)命(みこと)の改心(かいしん)した善(ぜん)の折(をり)の生粋(きつすゐ)の肉宮(にくみや)の此(この)高姫(たかひめ)の夫(をつと)とおなり遊(あそ)ばしたのだよ。133杢助(もくすけ)様(さま)だつて、134此(この)高姫(たかひめ)だつて、135よい年(とし)をしてから若(わか)いものか何(なん)ぞの様(やう)に夫婦(ふうふ)になつたり、136そんな見(み)つともない事(こと)はしたくはない。137胸(むね)に焼鉄(やきがね)をあてる様(やう)に思(おも)うてゐるのだが、138これも神(かみ)様(さま)のため、139万民(ばんみん)を救(すく)ふため、140千座(ちくら)の置戸(おきど)を負(お)うて御(ご)神業(しんげふ)に参加(さんか)してるのだよ。141訳(わけ)の分(わか)らぬ人民(じんみん)がいろいろと申(まを)すであらうなれど、142人民(じんみん)の申(まを)す事(こと)に心(こころ)を悩(なや)まして居(を)りたらミロク神政(しんせい)の御用(ごよう)が勤(つと)まりませぬ。143訳(わけ)知(し)らぬ人民(じんみん)は、144杢助(もくすけ)、145高姫(たかひめ)の結婚(けつこん)を何(なん)となつと申(まを)して笑(わら)へば笑(わら)へ、146誹(そし)らば誹(そし)れ、147神(かみ)のお仕組(しぐみ)一厘(いちりん)の秘密(ひみつ)が如何(どう)して一寸先(いつすんさき)も見(み)えない人民(じんみん)に分(わか)るものか、148と云(い)ふ磐石(ばんじやく)の如(ごと)き決心(けつしん)を以(もつ)てここに夫婦(ふうふ)の約束(やくそく)を結(むす)んだのだから、149初稚(はつわか)さま、150貴女(あなた)もそのお積(つも)りで、151私(わたし)を母(はは)と思(おも)つて下(くだ)さいや。152私(わたし)も貴女(あなた)を大切(たいせつ)の大切(たいせつ)の御(おん)子(こ)と致(いた)して敬(うやま)ひますから、153母(おや)となり子(こ)となるのも昔(むかし)の昔(むかし)のさる昔(むかし)、154も一(ひと)つ昔(むかし)のまだ昔(むかし)の天地(てんち)開闢(かいびやく)の初(はじ)めから大神(おほかみ)様(さま)より定(さだ)められた因縁(いんねん)ぢやによつて、155何卒(どうぞ)その覚悟(かくご)でゐて下(くだ)され。156何事(なにごと)にも素直(すなほ)なお賢(かしこ)いお前(まへ)さまだから、157此(この)高姫(たかひめ)の生宮(いきみや)の申(まを)す事(こと)、158よく呑込(のみこ)めたでせうなア』
159 初稚姫(はつわかひめ)は杢助(もくすけ)の本物(ほんもの)でなく、160獅子(しし)と虎(とら)との中間(ちうかん)動物(どうぶつ)なる兇霊(きようれい)に騙(だま)されてゐる事(こと)はよく看破(かんぱ)して居(ゐ)た。161されど故意(わざ)と空惚(そらとぼ)けて、
162初稚姫『高姫(たかひめ)さま、163私(わたし)の父(ちち)が何時(いつ)そんな事(こと)を貴女(あなた)と約束(やくそく)致(いた)しましたのですか、164私(わたし)今(いま)が初耳(はつみみ)ですわ。165まアまアまア不思議(ふしぎ)な御縁(ごえん)で厶(ござ)りますこと。166さうしてお父(とう)さまは何処(どこ)へ行(ゆ)かれましたの』
167高姫『一寸(ちよつと)此(この)森(もり)の中(なか)へ散歩(さんぽ)にお出(い)でになつたと見(み)えます。168杢助(もくすけ)様(さま)は森(もり)の散歩(さんぽ)が大変(たいへん)にお好(す)きだと見(み)えましてね。169お前(まへ)さまが此処(ここ)へ訪(たづ)ねて来(こ)られた事(こと)をお聞(き)きになつたら、170嘸(さぞ)喜(よろこ)ばれるでせう』
171初稚姫『はて、172妙(めう)な事(こと)だわ。173妾(わらは)のお父(とう)さまは斎苑(いそ)の館(やかた)の総務(そうむ)を勤(つと)めて居(ゐ)らつしやるのだから、174ここへお越(こ)し遊(あそ)ばす道理(だうり)はありませぬがな』
175高姫『これ初(はつ)ちやま、176お前(まへ)の、177さう疑(うたが)ふのも尤(もつと)もだ。178実(じつ)の処(ところ)は杢助(もくすけ)さまは、179あの我(が)の強(つよ)い東野別(あづまのわけ)の東助(とうすけ)さまと云(い)ふ副教主(ふくけうしゆ)との間(あひだ)に事務(じむ)上(じやう)の衝突(しようとつ)が起(おこ)り、180それがために斎苑(いそ)の館(やかた)を追(お)ひ出(だ)されなさつたのですよ。181東助(とうすけ)の野郎(やらう)、182正直(しやうぢき)一途(いちづ)の英雄(えいゆう)豪傑(がうけつ)、183三羽烏(さんばがらす)の御(ご)一人(いちにん)なる杢助(もくすけ)さまを追(お)ひ出(だ)すとは以(もつ)ての外(ほか)の悪人(あくにん)ぢやありませぬか。184あの東助(とうすけ)はやがて今(いま)迄(まで)目(め)の上(うへ)の瘤(こぶ)の様(やう)に困(こま)つてゐた杢助(もくすけ)さまを首尾(しゆび)よく追(お)ひ出(だ)し、185斎苑(いそ)の館(やかた)の全権(ぜんけん)を掌握(しやうあく)し、186終(つひ)には八島主(やしまぬし)の教主(けうしゆ)さまをおつ放(ぽ)り出(だ)し、187自分(じぶん)が其(その)後釜(あとがま)にすわると云(い)ふ野心(やしん)を抱(いだ)いてをるのですよ。188それでお前(まへ)と私(わし)が此処(ここ)で一肌(ひとはだ)脱(ぬ)いで、189斎苑(いそ)の館(やかた)へ参(まゐ)る信者(しんじや)を小口(こぐち)から虱殺(しらみごろ)しに調(しら)べ、190斎苑(いそ)の館(やかた)へやらぬ様(やう)にせねばなりませぬ。191私(わし)がここで杢助(もくすけ)さまと大門開(おほもんびら)きをしたのは、192杢助(もくすけ)さまや八島主(やしまぬし)の教主(けうしゆ)がお困(こま)りになつた時(とき)、193お助(たす)け申(まを)すやうにチヤンと仕組(しぐみ)をしてゐるのだから、194お前(まへ)さまも何処(どこ)へも行(ゆ)かず、195此処(ここ)に居(を)つて親子(おやこ)三(さん)人(にん)御用(ごよう)を致(いた)さうぢやありませぬか』
196初稚姫『それは又(また)不思議(ふしぎ)な事(こと)を承(うけたま)はります。197東助(とうすけ)様(さま)はそんなお方(かた)ぢやない様(やう)に思(おも)ひますがな』
198高姫『それが善(ぜん)の仮面(かめん)を被(かぶ)つてゐる悪魔(あくま)ですよ。199屹度(きつと)悪人(あくにん)は悪相(あくさう)を以(もつ)て現(あら)はれるものぢやありませぬ。200所在(あらゆる)虚偽(きよぎ)と偽善(ぎぜん)を以(もつ)て人民(じんみん)を詐(いつは)り、201虚栄(きよえい)的(てき)権威(けんゐ)に甘(あま)んじてゐるものですよ。202これ初稚(はつわか)さま、203油断(ゆだん)してはなりませぬぞや。204此(この)高姫(たかひめ)は海千(うみせん)川千(かはせん)山千(やません)の修業(しゆげふ)をした善(ぜん)にも強(つよ)い、205悪(あく)にも強(つよ)い、206そして悪(あく)の企(たく)みは何(なに)も彼(か)も看破(かんぱ)してゐるのだから、207一分(いちぶ)一厘(いちりん)間違(まちが)ひはありませぬよ』
208初稚姫『あの東助(とうすけ)さまは小母(をば)さまの若(わか)い時(とき)のお馴染(なじみ)だつたさうですな。209そんなに悪口(わるくち)を云(い)ふものぢやありませぬよ。210父(ちち)の杢助(もくすけ)に比(くら)ぶれば、211幾層倍(いくそうばい)人格(じんかく)が上(うへ)だか知(し)れぬぢやありませぬか』
212高姫『ヤツパリ子供(こども)だな。213然(しか)し子供(こども)は正直(しやうぢき)ぢや。214何(なん)と云(い)つても水晶魂(すいしやうだま)だから心(こころ)に罪(つみ)がないので、215表面(うはべ)から良(よ)く見(み)える人(ひと)を信用(しんよう)なさるのだ。216そこが本当(ほんたう)に尊(たふと)い処(ところ)だよ。217然(しか)し高姫(たかひめ)の云(い)ふ事(こと)はチツとも違(ちが)ひませぬぞや』
218初稚姫『さうで厶(ござ)りますかな。219一遍(いつぺん)父(ちち)に会(あ)つてみたいものですがな。220もし小母(をば)さま、221長上(ちやうじやう)をお使(つか)ひ申(まを)して真(まこと)に済(す)みませぬが、222一度(いちど)お父(とう)さまに会(あ)ひたう厶(ござ)りますから、223探(さが)して来(き)て下(くだ)さいませ』
224高姫『アアさうだろさうだろ、225無理(むり)もない。226親子(おやこ)の情(じやう)と云(い)ふものは本当(ほんたう)に尊(たふと)いものだな。227吾(わが)身(み)を捨(す)てる藪(やぶ)はあつても吾(わが)子(こ)を捨(す)てる藪(やぶ)はないと云(い)ふ事(こと)だが、228杢助(もくすけ)さまも何(なに)も彼(か)も天眼通(てんがんつう)で知(し)つて居(を)りながら、229こんな可愛(かあい)い娘(むすめ)が来(き)て居(ゐ)るのに、230そしらぬ顔(かほ)して森(もり)に散歩(さんぽ)してゐなさるとは本当(ほんたう)に水臭(みづくさ)い方(かた)だな。231子(こ)の心(こころ)、232親(おや)知(し)らずだ。233然(しか)し初稚(はつわか)さま、234此(この)高姫(たかひめ)は斯(か)う見(み)えても本当(ほんたう)にやさしいものですよ。235杢助(もくすけ)さまに比(くら)べて幾百倍(いくひやくばい)も可愛(かあい)がつてやりますから、236何卒(どうぞ)私(わたし)を本当(ほんたう)の母(おや)だと思(おも)つて下(くだ)さいや』
237初稚姫『ハイ、238御(ご)親切(しんせつ)有難(ありがた)う厶(ござ)ります』
239と俯向(うつむ)いて見(み)せた。
240高姫『これ初稚(はつわか)さま、241一寸(ちよつと)待(ま)つてゐて下(くだ)さい。242お父(とう)さまのあとを探(さが)して今(いま)直(すぐ)に屹度(きつと)連(つ)れて参(まゐ)りますから』
243と云(い)ひながら羽(は)ばたきしつつ欣々(いそいそ)として森林(しんりん)の方(はう)に行(ゆ)く。244高姫(たかひめ)は森(もり)の茂(しげ)みに隠(かく)れて後(あと)ふり返(かへ)り舌(した)をニユツと出(だ)し、245いやらしい笑(ゑ)みを漏(もら)しながら独言(ひとりごと)、
246高姫『何(なん)と云(い)つてもヤツパリ子供(こども)だな。247然(しか)しながらあの娘(こ)は何処(どこ)ともなしに気高(けだか)い処(ところ)もあり、248中々(なかなか)シヤンとした事(こと)を云(い)ふ。249あれをうまくチヨロまかし自分(じぶん)の子(こ)として置(お)けば、250三五教(あななひけう)は吾(わが)手(て)に握(にぎ)つた様(やう)なものだ。251何(なん)と都合(つがふ)のいい事(こと)になつたものだな。252これから一(ひと)つでも、253うまい物(もの)があつたら、254あの娘(こ)に呉(く)れてやり、255そして十分(じふぶん)懐(なつ)かして置(お)かねばならぬ。256然(しか)し都合(つがふ)のいい事(こと)には杢助(もくすけ)さまが私(わたし)の夫(をつと)だから、257切(き)つても切(き)れぬ仲(なか)だ。258ああ有難(ありがた)う厶(ござ)ります、259八岐(やまた)の大蛇(をろち)様(さま)、260金毛(きんまう)九尾(きうび)の大神(おほかみ)様(さま)』
261と口(くち)の中(なか)から囁(ささや)いた。262高姫(たかひめ)は此(この)声(こゑ)に驚(おどろ)いて目(め)を怒(いか)らし、263臍(へそ)の辺(あたり)を握(にぎ)り拳(こぶし)でトントンと打(う)ちながら、
264高姫『こりや、265金毛(きんまう)九尾(きうび)の悪狐(あくこ)奴(め)、266何(なん)と云(い)ふ事(こと)を申(まを)すのだ。267左様(さやう)な事(こと)を申(まを)すと、268もう此(この)高姫(たかひめ)は肉体(にくたい)を借(か)さぬぞや。269杢助(もくすけ)さまや初稚姫(はつわかひめ)の傍(そば)で、270そんな事(こと)でも云(い)うて見(み)よれ。271此(この)高姫(たかひめ)は立場(たちば)がないぢやないか。272改心(かいしん)致(いた)したと云(い)うたぢやないか』
273 腹(はら)の中(なか)から、
274(高姫に憑依している悪狐)『ここは誰(たれ)も居(ゐ)ないから一寸(ちよつと)云(い)つて見(み)たのだから、275さう怒(おこ)るものぢやない。276メツタに人(ひと)の居(を)る処(ところ)で正体(しやうたい)は現(あら)はさぬから安心(あんしん)しておくれ』
277高姫『よし、278屹度(きつと)守(まも)るか、279うつかりした事(こと)を申(まを)すと常世姫(とこよひめ)の生宮(いきみや)が承知(しようち)しませぬぞや。280これから八岐(やまた)大蛇(をろち)や金毛(きんまう)九尾(きうび)はスツカリ改心(かいしん)致(いた)して、281あとへ日出(ひのでの)神(かみ)の義理(ぎり)天上(てんじやう)が這入(はい)つてゐると何処(どこ)までも主張(しゆちやう)するのだよ。282よいか、283分(わか)つたか。284馬鹿(ばか)な守護神(しゆごじん)だな』
285 腹(はら)の中(なか)から、
286(高姫に憑依している悪狐)『何(なん)とまア、287我(が)の強(つよ)い、288向(むか)ふ息(いき)のきつい肉体(にくたい)だな、289アハハハハ』
290(大正一二・一・二〇 旧一一・一二・四 北村隆光録)
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