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霊界物語
真善美愛(第49~60巻)
第50巻(丑の巻)
序文
総説
第1篇 和光同塵
第1章 至善至悪
第2章 照魔燈
第3章 高魔腹
第4章 御意犬
第2篇 兇党擡頭
第5章 霊肉問答
第6章 玉茸
第7章 負傷負傷
第8章 常世闇
第9章 真理方便
第3篇 神意と人情
第10章 据置貯金
第11章 鸚鵡返
第12章 敵愾心
第13章 盲嫌
第14章 虬の盃
第4篇 神犬の言霊
第15章 妖幻坊
第16章 鷹鷲掴
第17章 偽筆
第18章 安国使
第19章 逆語
第20章 悪魔払
第21章 犬嘩
余白歌
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>
真善美愛(第49~60巻)
>
第50巻(丑の巻)
> 第3篇 神意と人情 > 第14章 虬の盃
<<< 盲嫌
(B)
(N)
妖幻坊 >>>
第一四章
虬
(
みづち
)
の
盃
(
さかづき
)
〔一三〇八〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第50巻 真善美愛 丑の巻
篇:
第3篇 神意と人情
よみ(新仮名遣い):
しんいとにんじょう
章:
第14章 虬の盃
よみ(新仮名遣い):
みずちのさかずき
通し章番号:
1308
口述日:
1923(大正12)年01月21日(旧12月5日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年12月7日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
高姫はそれから、初稚姫、楓姫、珍彦、静子を憎むことはなはだしく、どうにかして彼らを亡ぼそうと考えるようになった。しかしこうなってはもはや初稚姫に言うことを聞かせることはできないだろうし、そうなると、彼らを害そうとすればスマートが飛び掛かってくるに違いなかった。
そこで高姫は、腹中の悪孤たちと相談し、一種の妖術をかけることにした。虬の血を絞って百虫を壺に封じ込み、血染めの絹を護摩の火で灰にして壺に封じる。この灰を四人に盃に塗って飲ませれば、飲んだ者は神徳を失い、人の怨みを受けて身を亡ぼすのだという。
高姫はそれから、悪孤の言うとおりに妖術の材料を集めて準備した。そして四人に怪しまれないようにおとなしく過ごし、すべてが整うと、珍彦館を訪れて自分の非を涙ながらに詫び、仲直りの酒宴を開くと言って招くのだった。
初稚姫は高姫の企みをすっかり見抜いていた。そしてその妖術も、兇霊の妄言であり何の効果もないことも看破していた。初稚姫はなんとかしてこの機会に高姫に改心してもらいたいと心に誓った。
高姫の誘いに楓は嫌悪の情を現したが、初稚姫が酒宴への参加を促したので、一同は危険がないことを暗に悟り、高姫の館に向かった。
初稚姫が毒見をし、一同は妖術を施してある御馳走をすっかり平らげてしまった。珍彦は厚く礼を述べて妻子を引き連れて帰って行った。また高姫は、楓と遊んでくるように初稚姫に言ったので、初稚姫も珍彦館に行くことになった。
後に残った高姫は、計略が当たったと一人喜んでいる。高姫の腹の中から、悪孤たちが計略の成功を自慢する笑い声が聞こえてきたので、高姫は滅多なことを言うなと憑霊たちをたしなめたが、まるで聞かない。
戸の外には、彼らが恐れるスマートの吠える声が聞こえてきた。高姫は頭をかかえて震えあがり、腹中の悪孤たちも一斉に黙ってしまった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-07-21 20:58:50
OBC :
rm5014
愛善世界社版:
189頁
八幡書店版:
第9輯 219頁
修補版:
校定版:
196頁
普及版:
97頁
初版:
ページ備考:
001
高姫
(
たかひめ
)
は、
002
それより
初稚姫
(
はつわかひめ
)
、
003
楓姫
(
かへでひめ
)
、
004
珍彦
(
うづひこ
)
、
005
静子
(
しづこ
)
を
憎
(
にく
)
むこと
甚
(
はなは
)
だしく、
006
如何
(
いかん
)
ともして
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
を
亡
(
ほろ
)
ぼさむと
夜着
(
よぎ
)
を
被
(
かぶ
)
つて
怖
(
おそ
)
ろしき
鬼心
(
おにごころ
)
を
辿
(
たど
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
007
されど
何
(
ど
)
う
考
(
かんが
)
へても
普通
(
ふつう
)
ではいかない。
008
又
(
また
)
まさかの
時
(
とき
)
になれば、
009
怖
(
おそ
)
ろしいスマートが
飛
(
と
)
び
出
(
だ
)
して
来
(
く
)
る。
010
これが
高姫
(
たかひめ
)
の
第一
(
だいいち
)
の
頭痛
(
づつう
)
である。
011
もうかうなつたら、
012
如何
(
いか
)
程
(
ほど
)
スマートを
帰
(
かへ
)
せと
云
(
い
)
つても
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
帰
(
かへ
)
すまい。
013
又
(
また
)
母
(
はは
)
としての
権利
(
けんり
)
を
振
(
ふる
)
ひ、
014
彼女
(
かのぢよ
)
を
強圧
(
きやうあつ
)
し
吾
(
わが
)
意
(
い
)
に
従
(
したが
)
はしむる
事
(
こと
)
も
到底
(
たうてい
)
駄目
(
だめ
)
だと
考
(
かんが
)
へた。
015
そこで
高姫
(
たかひめ
)
は
一計
(
いつけい
)
を
腹中
(
ふくちう
)
の
悪狐
(
あくこ
)
と
相談
(
さうだん
)
の
上
(
うへ
)
ねり
出
(
だ
)
した。
016
外
(
ほか
)
でもない、
017
それは
一種
(
いつしゆ
)
の
妖術
(
えうじゆつ
)
である。
018
虬
(
みづち
)
の
血
(
ち
)
を
絞
(
しぼ
)
つて
百虫
(
ひやくちう
)
を
壺
(
つぼ
)
に
封
(
ふう
)
じ
込
(
こ
)
み、
019
当
(
たう
)
の
四
(
よ
)
人
(
にん
)
を
調伏
(
てうふく
)
の
為
(
ため
)
に
血染
(
ちぞめ
)
の
絹
(
きぬ
)
を
拵
(
こしら
)
へ、
020
護摩
(
ごま
)
の
火
(
ひ
)
にかけてこれを
焼
(
や
)
き
尽
(
つく
)
し、
021
壺
(
つぼ
)
の
中
(
なか
)
に
秘
(
ひ
)
めて
置
(
お
)
き、
022
和合
(
わがふ
)
の
酒宴
(
しゆえん
)
と
称
(
しよう
)
し、
023
ソツと
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
盃
(
さかづき
)
に
人
(
ひと
)
知
(
し
)
れず
塗
(
ぬ
)
りつけて
置
(
お
)
き、
024
甘
(
うま
)
く
其
(
その
)
酒
(
さけ
)
を
飲
(
の
)
ます
時
(
とき
)
は、
025
之
(
これ
)
を
飲
(
の
)
んだものは
自
(
おのづか
)
ら
神徳
(
しんとく
)
を
失
(
うしな
)
ひ、
026
又
(
また
)
人
(
ひと
)
の
心
(
こころ
)
に
逆
(
さか
)
らうて
恨
(
うら
)
みを
受
(
う
)
け、
027
遂
(
つひ
)
には
其
(
その
)
身
(
み
)
を
亡
(
ほろ
)
ぼすに
至
(
いた
)
るものだ……と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
教
(
をし
)
へられた。
028
それより
高姫
(
たかひめ
)
は
森
(
もり
)
の
中
(
なか
)
に
表面
(
へうめん
)
散歩
(
さんぽ
)
の
如
(
ごと
)
く
見
(
み
)
せかけ、
029
虬
(
みづち
)
を
探
(
さが
)
し
百虫
(
ひやくちう
)
を
漁
(
あさ
)
つてこの
怖
(
おそ
)
ろしい
計画
(
けいくわく
)
に
全力
(
ぜんりよく
)
を
尽
(
つく
)
した。
030
さうして
漸
(
やうや
)
く
註文通
(
ちゆうもんどほ
)
りの
品
(
しな
)
が
揃
(
そろ
)
うたので
自分
(
じぶん
)
の
床下
(
ゆかした
)
に
隠
(
かく
)
し
置
(
お
)
き、
031
時
(
とき
)
の
到
(
いた
)
るを
待
(
ま
)
ちつつあつた。
032
高姫
(
たかひめ
)
は
斯
(
か
)
くして、
033
何時
(
いつ
)
とはなしに
四
(
よ
)
人
(
にん
)
を
亡
(
ほろ
)
ぼさむと
思
(
おも
)
ひ、
034
ほくそ
笑
(
ゑ
)
みつつ、
035
表面
(
へうめん
)
柔順
(
じうじゆん
)
と
親切
(
しんせつ
)
を
装
(
よそほ
)
ひ、
036
あまり
小言
(
こごと
)
も
云
(
い
)
はず、
037
憎
(
にく
)
まれ
口
(
ぐち
)
もたたかず、
038
可成
(
かなり
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
が
自分
(
じぶん
)
を
信任
(
しんにん
)
し
且
(
かつ
)
心
(
こころ
)
を
許
(
ゆる
)
すやうにと
勤
(
つと
)
めて
居
(
ゐ
)
たのである。
039
実
(
じつ
)
に
女
(
をんな
)
の
悪霊
(
あくれい
)
に
迷
(
まよ
)
はされ、
040
狂熱
(
きやうねつ
)
の
極点
(
きよくてん
)
に
達
(
たつ
)
した
時
(
とき
)
位
(
くらゐ
)
怖
(
おそ
)
るべきものはない。
041
女
(
をんな
)
は
最
(
もつと
)
も
心
(
こころ
)
弱
(
よわ
)
きものの
又
(
また
)
最
(
もつと
)
も
強
(
つよ
)
きものである。
042
一旦
(
いつたん
)
決心
(
けつしん
)
した
上
(
うへ
)
は、
043
俗
(
ぞく
)
にいふ
女
(
をんな
)
の
一心
(
いつしん
)
岩
(
いは
)
でも
突
(
つ
)
き
貫
(
ぬ
)
くと
云
(
い
)
つて
中々
(
なかなか
)
容易
(
ようい
)
に
動
(
うご
)
くものではない。
044
高姫
(
たかひめ
)
はかくも
怖
(
おそ
)
ろしき
悪計
(
あくけい
)
を
敢行
(
かんかう
)
すべく
決心
(
けつしん
)
の
臍
(
ほぞ
)
を
固
(
かた
)
めてしまつた。
045
斯
(
かか
)
る
企
(
たく
)
みのありと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は、
046
初稚姫
(
はつわかひめ
)
を
除
(
のぞ
)
く
外
(
ほか
)
は
誰一人
(
たれひとり
)
として
悟
(
さと
)
り
得
(
う
)
るものはなかつたのである。
047
一切
(
いつさい
)
の
計略
(
けいりやく
)
の
準備
(
じゆんび
)
が
調
(
ととの
)
うたので、
048
高姫
(
たかひめ
)
は
自
(
みづか
)
ら
珍彦館
(
うづひこやかた
)
に
立
(
た
)
ち
出
(
い
)
で、
049
叮嚀
(
ていねい
)
に
笑顔
(
ゑがほ
)
を
作
(
つく
)
り
辞儀
(
じぎ
)
をしながら、
050
態
(
わざ
)
とに
優
(
やさ
)
しき
声
(
こゑ
)
を
絞
(
しぼ
)
り、
051
高姫
『ハイ
御免
(
ごめん
)
なさいませ。
052
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
は
病気上
(
びやうきあが
)
りの
事
(
こと
)
とて
頭
(
あたま
)
が
変
(
へん
)
な
工合
(
ぐあひ
)
になりまして、
053
つひ
皆
(
みな
)
さまに
御
(
ご
)
無礼
(
ぶれい
)
の
事
(
こと
)
を
申
(
まを
)
し
上
(
あ
)
げましたさうで
厶
(
ござ
)
います。
054
何分
(
なにぶん
)
逆上
(
ぎやくじやう
)
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
りましたので、
055
如何
(
いか
)
なる
不都合
(
ふつがふ
)
の
事
(
こと
)
を
致
(
いた
)
しましたやら
皆目
(
かいもく
)
存
(
ぞん
)
じませぬ。
056
今日
(
けふ
)
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が、
057
こんこんと
夢中
(
むちう
)
でした
事
(
こと
)
をお
話
(
はな
)
し
下
(
くだ
)
さいましたので
私
(
わたくし
)
も
吃驚
(
びつくり
)
致
(
いた
)
しまして、
058
真
(
まこと
)
に
済
(
す
)
まない
事
(
こと
)
を
致
(
いた
)
したと
悔
(
く
)
やんで
見
(
み
)
ても
後
(
あと
)
の
祭
(
まつ
)
り、
059
初稚
(
はつわか
)
さまにも
楓
(
かへで
)
さまにも
御
(
ご
)
夫婦
(
ふうふ
)
様
(
さま
)
にもえらい
失礼
(
しつれい
)
を
致
(
いた
)
したさうで
厶
(
ござ
)
います。
060
私
(
わたし
)
はそれを
天上
(
てんじやう
)
様
(
さま
)
から
承
(
うけたま
)
はり、
061
立
(
た
)
つても
居
(
ゐ
)
ても
居
(
ゐ
)
られなくなりましたので、
062
お
詫
(
わび
)
のため
恥
(
はぢ
)
を
忍
(
しの
)
んで
参
(
まゐ
)
りました。
063
何卒
(
どうぞ
)
私
(
わたくし
)
の
罪
(
つみ
)
をお
許
(
ゆる
)
し
下
(
くだ
)
さるやうお
願
(
ねが
)
ひ
致
(
いた
)
します』
064
と
泣
(
な
)
き
声
(
ごゑ
)
になつて
空涙
(
そらなみだ
)
をこぼして
詫
(
わ
)
び
入
(
い
)
るのであつた。
065
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
高姫
(
たかひめ
)
の
腹
(
はら
)
のどん
底
(
ぞこ
)
までよく
知
(
し
)
つて
居
(
ゐ
)
た。
066
さうしてその
魔術
(
まじゆつ
)
は
唯
(
ただ
)
兇霊
(
きようれい
)
の
妄言
(
まうげん
)
にして
何
(
なん
)
の
寸効
(
すんかう
)
なき
事
(
こと
)
を
看破
(
かんぱ
)
して
居
(
ゐ
)
たのである。
067
故
(
ゆゑ
)
に
高姫
(
たかひめ
)
の
悪計
(
あくけい
)
を
自分
(
じぶん
)
一人
(
ひとり
)
の
心
(
こころ
)
の
中
(
なか
)
に
包
(
つつ
)
んで
置
(
お
)
きさへすれば、
068
天下
(
てんか
)
泰平
(
たいへい
)
である。
069
併
(
しか
)
し
高姫
(
たかひめ
)
さまが
悪魔
(
あくま
)
に
嗾
(
そそのか
)
されて
斯様
(
かやう
)
な
心
(
こころ
)
を
起
(
おこ
)
されるのは
真
(
まこと
)
に
御
(
お
)
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
だ。
070
何
(
なん
)
とかして
此
(
この
)
際
(
さい
)
に
改心
(
かいしん
)
して
貰
(
もら
)
はねばならないと、
071
堅
(
かた
)
く
決心
(
けつしん
)
して
居
(
ゐ
)
たのである。
072
珍彦
(
うづひこ
)
『これはこれは
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
とした
事
(
こと
)
が、
073
何
(
なん
)
と
仰有
(
おつしや
)
います。
074
貴女
(
あなた
)
にお
詫
(
わび
)
を
云
(
い
)
はれて
何
(
ど
)
うして
私
(
わたし
)
が
耐
(
たま
)
りませう。
075
尻
(
しり
)
こそばゆくてなりませぬ。
076
何事
(
なにごと
)
も
吾々
(
われわれ
)
がいたらぬから
起
(
おこ
)
つた
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
います。
077
何卒
(
なにとぞ
)
今後
(
こんご
)
はよろしくお
叱
(
しか
)
り
下
(
くだ
)
さいますやうに』
078
高姫
『イエイエ
私
(
わたし
)
が
悪
(
わる
)
いので
厶
(
ござ
)
います。
079
つひ
私
(
わたし
)
には
神経病
(
しんけいびやう
)
が
厶
(
ござ
)
いまして、
080
時々
(
ときどき
)
脱線
(
だつせん
)
を
致
(
いた
)
しますので、
081
何時
(
いつ
)
も
人様
(
ひとさま
)
に
御
(
ご
)
迷惑
(
めいわく
)
をかけますので、
082
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
対
(
たい
)
しても
貴方
(
あなた
)
等
(
がた
)
に
対
(
たい
)
しても
済
(
す
)
みませぬ。
083
のめのめ
来
(
こ
)
られる
筋
(
すぢ
)
では
厶
(
ござ
)
いませぬが、
084
面
(
めん
)
を
被
(
かぶ
)
つて
怖
(
おそ
)
る
怖
(
おそ
)
る
参
(
まゐ
)
りました。
085
それに
就
(
つ
)
いては
詫
(
わ
)
びの
印
(
しるし
)
及
(
およ
)
び
貴方
(
あなた
)
等
(
がた
)
と
入魂
(
じつこん
)
に
願
(
ねが
)
ふ
喜
(
よろこ
)
びとして、
086
手製
(
てせい
)
の
御飯
(
ごはん
)
とお
酒
(
さけ
)
を
上
(
あ
)
げたいので
厶
(
ござ
)
いますが、
087
どうぞ
余
(
あま
)
り
遠
(
とほ
)
い
所
(
ところ
)
では
厶
(
ござ
)
いませぬから、
088
来
(
き
)
ては
下
(
くだ
)
さいませぬかなア。
089
何
(
なに
)
を
申
(
まを
)
しても
貴方
(
あなた
)
等
(
がた
)
は
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
なお
方
(
かた
)
ですから、
090
私
(
わたし
)
の
居間
(
ゐま
)
まで
位
(
くらゐ
)
は
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さることと
固
(
かた
)
く
信
(
しん
)
じて
参
(
まゐ
)
りました』
091
珍彦
『ヘイどう
致
(
いた
)
しまして、
092
貴女
(
あなた
)
に
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
頂
(
いただ
)
いては
済
(
す
)
みませぬ。
093
私
(
わたし
)
の
方
(
はう
)
から
実
(
じつ
)
は
差上
(
さしあ
)
げたいので
厶
(
ござ
)
います。
094
』
095
高姫
『さう
仰有
(
おつしや
)
らずに
私
(
わたし
)
の
願
(
ねがひ
)
を
聞
(
き
)
いて
下
(
くだ
)
さいませねえ。
096
私
(
わたし
)
がどうしてもお
気
(
き
)
に
召
(
め
)
さないので
厶
(
ござ
)
いますか、
097
さうすれば
是非
(
ぜひ
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬ。
098
私
(
わたし
)
は
喉
(
のど
)
でも
突
(
つ
)
いて
死
(
し
)
なうより
道
(
みち
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬ』
099
と
又
(
また
)
もや
巧妙
(
かうめう
)
に
空涙
(
そらなみだ
)
を
絞
(
しぼ
)
る。
100
静子
(
しづこ
)
『これ
珍彦
(
うづひこ
)
さま、
101
あれだけ
親切
(
しんせつ
)
に
仰有
(
おつしや
)
つて
下
(
くだ
)
さるのだもの、
102
お
世話
(
せわ
)
になつたらどうでせう』
103
珍彦
『ウンさうだな。
104
折角
(
せつかく
)
の
思召
(
おぼしめし
)
、
105
無
(
む
)
にするのも
却
(
かへつ
)
て
畏
(
おそ
)
れ
多
(
おほ
)
いから、
106
お
言葉
(
ことば
)
に
甘
(
あま
)
へて
伺
(
うかが
)
ひませうかなア』
107
楓
『お
父
(
とう
)
さま、
108
お
母
(
かあ
)
さま、
109
貴方
(
あなた
)
高姫
(
たかひめ
)
さまの
所
(
ところ
)
へいつてお
酒
(
さけ
)
や
御飯
(
ごはん
)
を
頂
(
いただ
)
くのなら、
110
神丹
(
しんたん
)
をもつてお
出
(
い
)
でなさいませよ。
111
又
(
また
)
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
二度目
(
にどめ
)
に
文珠
(
もんじゆ
)
菩薩
(
ぼさつ
)
様
(
さま
)
が
下
(
くだ
)
さいましたのねえ。
112
あれさへ
頂
(
いただ
)
けば、
113
どんな
毒
(
どく
)
が
入
(
はい
)
つて
居
(
ゐ
)
てもすつかり
消
(
き
)
えますからねえ。
114
高姫
(
たかひめ
)
さま、
115
毒散
(
どくさん
)
などは
今度
(
こんど
)
は
入
(
い
)
れてはありますまいな、
116
仮令
(
たとへ
)
入
(
い
)
れてあつても、
117
私
(
わたし
)
等
(
たち
)
は
神丹
(
しんたん
)
を
持
(
も
)
つて
居
(
を
)
るから
些
(
ちつと
)
も
構
(
かま
)
ひませぬけれどねえ』
118
と
態
(
わざ
)
とにあどけなき
小児
(
こども
)
の
態
(
てい
)
を
装
(
よそほ
)
ひ、
119
高姫
(
たかひめ
)
の
荒肝
(
あらぎも
)
を
挫
(
ひし
)
がうとした。
120
珍彦
(
うづひこ
)
『これ、
121
お
前
(
まへ
)
は
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
失礼
(
しつれい
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふのだい。
122
高姫
(
たかひめ
)
さまが
何
(
なに
)
そんな
事
(
こと
)
をなさる
理由
(
りいう
)
があらうか、
123
お
前
(
まへ
)
は
夢
(
ゆめ
)
を
見
(
み
)
たのだよ』
124
楓
『
何
(
なん
)
でも
夢
(
ゆめ
)
にして
置
(
お
)
けばよいのですなア、
125
初稚姫
(
はつわかひめ
)
さま、
126
貴女
(
あなた
)
もさう
仰有
(
おつしや
)
つたで
厶
(
ござ
)
いませう。
127
併
(
しか
)
し
私
(
わたし
)
は
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
さまの
所
(
ところ
)
へ
往
(
い
)
つて、
128
お
茶
(
ちや
)
一杯
(
いつぱい
)
でもよばれるのは
否
(
いや
)
ですわ』
129
静子
(
しづこ
)
『これ
楓
(
かへで
)
、
130
お
前
(
まへ
)
はそれだから
困
(
こま
)
ると
云
(
い
)
ふのだ。
131
ほんにほんに
仕方
(
しかた
)
がないなア、
132
ちつと
初稚姫
(
はつわかひめ
)
さまの
爪
(
つめ
)
の
垢
(
あか
)
でも
煎
(
せん
)
じて
頂
(
いただ
)
かして
貰
(
もら
)
ひなさい』
133
高姫
(
たかひめ
)
は
態
(
わざ
)
とニコニコしながら、
134
何気
(
なにげ
)
なき
態
(
てい
)
にて
心
(
こころ
)
の
驚
(
おどろ
)
きを
隠
(
かく
)
しながら
俄
(
には
)
かに
作
(
つく
)
り
笑
(
わら
)
ひ、
135
高姫
『ホホホホホ、
136
やつぱりお
若
(
わか
)
い
方
(
かた
)
は
夢
(
ゆめ
)
を
御覧
(
ごらん
)
になつても
現実
(
げんじつ
)
だと
思
(
おも
)
つてゐらつしやるのですねえ。
137
ほんとに
可愛
(
かあい
)
い
正直
(
しやうぢき
)
な
楓
(
かへで
)
さまだこと、
138
これ
楓
(
かへで
)
さま、
139
何卒
(
どうぞ
)
皆
(
みな
)
さまと
一緒
(
いつしよ
)
に
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいな』
140
楓
『それなら
叔母
(
をば
)
さま、
141
往
(
ゆ
)
きませう。
142
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
姉
(
ねえ
)
さまも
御
(
ご
)
一緒
(
いつしよ
)
でせうねえ』
143
高姫
『お
前
(
まへ
)
さまの
好
(
す
)
きな
初稚
(
はつわか
)
さまも
一緒
(
いつしよ
)
だから、
144
何卒
(
どうぞ
)
一緒
(
いつしよ
)
にお
膳
(
ぜん
)
を
並
(
なら
)
べて、
145
仲
(
なか
)
ようこの
婆
(
ばば
)
が
心
(
こころ
)
を
召
(
め
)
し
上
(
あが
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
146
そして
私
(
わたし
)
も
一緒
(
いつしよ
)
に
頂
(
いただ
)
きますから』
147
初稚姫
『
皆
(
みな
)
さま、
148
お
母
(
かあ
)
さまがあすこ
迄
(
まで
)
親切
(
しんせつ
)
に
仰有
(
おつしや
)
つて
下
(
くだ
)
さるのだから、
149
サア
参
(
まゐ
)
りませう』
150
と
勧
(
すす
)
める。
151
親子
(
おやこ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
言葉
(
ことば
)
に
確証
(
かくしよう
)
を
与
(
あた
)
へられたる
如
(
ごと
)
く、
152
安心
(
あんしん
)
して
高姫
(
たかひめ
)
の
居間
(
ゐま
)
に
列
(
れつ
)
する
事
(
こと
)
となつた。
153
高姫
(
たかひめ
)
は
追従
(
つゐしよう
)
たらだら、
154
あらゆる
媚
(
こび
)
を
呈
(
てい
)
しながら、
155
心
(
こころ
)
の
裡
(
うち
)
に、
156
(高姫)
『いよいよ
願望
(
ぐわんまう
)
成就
(
じやうじゆ
)
の
時
(
とき
)
が
来
(
き
)
た、
157
この
時
(
とき
)
を
逸
(
いつ
)
しては、
158
またとよい
機会
(
きくわい
)
はあるまい』
159
と
思
(
おも
)
ひながら
他人
(
たにん
)
に
膳部
(
ぜんぶ
)
を
扱
(
あつか
)
はせず、
160
今日
(
けふ
)
は
高姫
(
たかひめ
)
の
赤心
(
まごころ
)
を
現
(
あら
)
はすのだからと
云
(
い
)
つて、
161
いそいそと
唯
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
台所
(
だいどころ
)
を
立
(
た
)
ち
廻
(
まは
)
つて
居
(
ゐ
)
るのが
怪
(
あや
)
しい。
162
高姫
(
たかひめ
)
は
漸
(
やうや
)
く
膳部
(
ぜんぶ
)
を
五人前
(
ごにんまへ
)
揃
(
そろ
)
へ、
163
酒
(
さけ
)
の
燗
(
かん
)
迄
(
まで
)
ちやんとして
虬
(
みづち
)
の
血
(
ち
)
を
塗
(
ぬ
)
つた
盃
(
さかづき
)
を
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
膳
(
ぜん
)
に
一
(
ひと
)
つづつ
配
(
くば
)
り
置
(
お
)
き、
164
高姫
『サア
皆
(
みな
)
さま、
165
お
待
(
ま
)
たせ
致
(
いた
)
しました。
166
どうぞ
何
(
なに
)
も
厶
(
ござ
)
いませぬけれど、
167
どつさりお
食
(
あが
)
り
下
(
くだ
)
さいませや、
168
今日
(
けふ
)
は
初稚
(
はつわか
)
、
169
お
前
(
まへ
)
もお
客
(
きやく
)
さまだよ』
170
初稚姫
『お
母
(
かあ
)
さま、
171
本当
(
ほんたう
)
に
済
(
す
)
みませぬねえ。
172
子
(
こ
)
が
親
(
おや
)
にお
給仕
(
きふじ
)
をして
貰
(
もら
)
つたり、
173
御飯
(
ごはん
)
をたいて
頂
(
いただ
)
いたりするとは、
174
ほんに
世
(
よ
)
が
転倒
(
さかさま
)
ですわ。
175
勿体
(
もつたい
)
なくて
冥加
(
みやうが
)
に
尽
(
つ
)
きるかも
知
(
し
)
れませぬが、
176
お
母
(
かあ
)
さまのお
言葉
(
ことば
)
に
従
(
したが
)
ひ、
177
今日
(
けふ
)
だけはお
客
(
きやく
)
さまにならして
頂
(
いただ
)
きます』
178
高姫
『アアさうさう、
179
さう
打解
(
うちと
)
けて
下
(
くだ
)
されば、
180
この
母
(
はは
)
もどれだけ
嬉
(
うれ
)
しいぢや
分
(
わか
)
りませぬ』
181
珍彦
(
うづひこ
)
『どうもお
手間
(
てま
)
の
入
(
い
)
りました
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
をして
下
(
くだ
)
さいまして、
182
実
(
じつ
)
に
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います』
183
静子
(
しづこ
)
『
大勢
(
おほぜい
)
がおよばれに
参
(
まゐ
)
りまして、
184
真
(
まこと
)
に
済
(
す
)
みませぬ』
185
高姫
『サア
初稚姫
(
はつわかひめ
)
さま、
186
お
前
(
まへ
)
さまから
毒試
(
どくみ
)
をするのだよ』
187
と
燗徳利
(
かんどくり
)
を
差出
(
さしだ
)
した。
188
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は、
189
初稚姫
『
皆
(
みな
)
さま、
190
お
先
(
さき
)
に
失礼
(
しつれい
)
致
(
いた
)
します』
191
と
会釈
(
ゑしやく
)
し、
192
盃
(
さかづき
)
を
両手
(
りやうて
)
の
掌
(
てのひら
)
にきちんとのせ、
193
初稚姫
『お
母
(
かあ
)
さま、
194
虬
(
みづち
)
の
血
(
ち
)
の
色
(
いろ
)
のしたお
盃
(
さかづき
)
は、
195
ほんに
気分
(
きぶん
)
が
宜
(
よろ
)
しう
厶
(
ござ
)
いますね。
196
百虫
(
ひやくちう
)
を
壺
(
つぼ
)
に
封
(
ふう
)
じたやうなお
酒
(
さけ
)
の
味
(
あぢ
)
がするでせう』
197
と
云
(
い
)
ひながら
高姫
(
たかひめ
)
の
顔
(
かほ
)
を
一寸
(
ちよつと
)
覗
(
のぞ
)
いた。
198
高姫
(
たかひめ
)
は
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
言葉
(
ことば
)
に
驚
(
おどろ
)
いて
燗徳利
(
かんどくり
)
をパタリと
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
落
(
おと
)
した。
199
瀬戸物
(
せともの
)
の
燗徳利
(
かんどくり
)
は
忽
(
たちま
)
ち
切腹
(
せつぷく
)
の
刑
(
けい
)
を
仰
(
おほ
)
せつけられ、
200
腹
(
はら
)
一杯
(
いつぱい
)
呑
(
の
)
んでゐた
酒
(
さけ
)
を
残
(
のこ
)
らず
吐
(
は
)
き
出
(
だ
)
して
了
(
しま
)
つた。
201
初稚姫
『お
母
(
かあ
)
さまとした
事
(
こと
)
が、
202
えらい
事
(
こと
)
をして
見
(
み
)
せて
下
(
くだ
)
さいますなア。
203
これは
何
(
なん
)
の
法式
(
はふしき
)
で
厶
(
ござ
)
いますか』
204
高姫
『これはなア、
205
高姫
(
たかひめ
)
の
腹
(
はら
)
には
何
(
なに
)
もない、
206
この
通
(
とほ
)
り
清
(
きよ
)
い
清
(
きよ
)
い
混
(
まじ
)
りのないお
酒
(
さけ
)
のやうなものだと
云
(
い
)
ふ
赤心
(
まごころ
)
を
示
(
しめ
)
すための、
207
昔
(
むかし
)
から
伝
(
つた
)
はつた
一
(
ひと
)
つの
法式
(
はふしき
)
ですよ』
208
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
態
(
わざ
)
と
空惚
(
そらとぼ
)
けて、
209
感心
(
かんしん
)
さうな
顔
(
かほ
)
をしながら、
210
初稚姫
『
何
(
なん
)
とお
母
(
かあ
)
さまは
故実
(
こじつ
)
に
通達
(
つうたつ
)
したお
方
(
かた
)
ですねえ。
211
何卒
(
どうぞ
)
、
212
このお
盃
(
さかづき
)
に
一杯
(
いつぱい
)
注
(
つ
)
いで
下
(
くだ
)
さいませ』
213
とわざとに
突
(
つ
)
き
出
(
だ
)
す。
214
高姫
(
たかひめ
)
はヤツと
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
何気
(
なにげ
)
なき
言葉
(
ことば
)
に
安心
(
あんしん
)
の
胸
(
むね
)
を
撫
(
な
)
で
下
(
おろ
)
し、
215
笑顔
(
ゑがほ
)
を
作
(
つく
)
つて、
216
高姫
『アアよしよし、
217
初
(
はつ
)
ちやまから
注
(
つ
)
いで
上
(
あ
)
げませう。
218
サア
盃
(
さかづき
)
をお
出
(
だ
)
しよ』
219
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
嬉
(
うれ
)
しさうに
盃
(
さかづき
)
に
酒
(
さけ
)
を
注
(
つ
)
いで
貰
(
もら
)
ひ、
220
グウグウと
飲
(
の
)
んで
見
(
み
)
せた。
221
それから
来客
(
らいきやく
)
一同
(
いちどう
)
に
盃
(
さかづき
)
を
廻
(
まは
)
し、
222
又
(
また
)
毒
(
どく
)
の
禁厭
(
まじなひ
)
のしてある
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
を
遠慮
(
ゑんりよ
)
会釈
(
ゑしやく
)
もなく、
223
心地
(
ここち
)
よく
平
(
たひら
)
げてしまつた。
224
さうして
珍彦
(
うづひこ
)
は
妻子
(
つまこ
)
を
引
(
ひ
)
き
連
(
つ
)
れ、
225
厚
(
あつ
)
く
礼
(
れい
)
を
述
(
の
)
べて
館
(
やかた
)
へ
帰
(
かへ
)
つた。
226
初稚姫
(
はつわかひめ
)
も
高姫
(
たかひめ
)
が「ゆつくり
楓
(
かへで
)
さまと
遊
(
あそ
)
んで
来
(
こ
)
い」と
云
(
い
)
ふので、
227
これ
幸
(
さいはひ
)
と
珍彦館
(
うづひこやかた
)
に
至
(
いた
)
り、
228
素知
(
そし
)
らぬ
顔
(
かほ
)
をしていろいろのお
道
(
みち
)
の
話
(
はなし
)
をして
居
(
ゐ
)
た。
229
高姫
(
たかひめ
)
は、
230
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
出
(
で
)
て
往
(
い
)
つた
後
(
あと
)
を
篤
(
とつく
)
りと
見送
(
みおく
)
り、
231
再
(
ふたた
)
び
障子襖
(
しやうじふすま
)
をたて
切
(
き
)
り
独
(
ひと
)
り
言
(
ごと
)
、
232
高姫
『ああ、
233
たうとう
願望
(
ぐわんまう
)
成就
(
じやうじゆ
)
の
曙光
(
しよくわう
)
を
認
(
みと
)
めた。
234
やつぱり
常世姫
(
とこよひめ
)
の
御魂
(
みたま
)
は
偉
(
えら
)
いものだなア、
235
ああしておけば
自然
(
しぜん
)
弱
(
よわ
)
りに
智慧
(
ちゑ
)
は
鈍
(
にぶ
)
り
体
(
からだ
)
は
潰
(
つひ
)
え、
236
人望
(
じんばう
)
は
落
(
お
)
ちるのは
目
(
ま
)
のあたりだ。
237
ああ
気味
(
きみ
)
のよい
事
(
こと
)
だなア。
238
ああ
今日
(
けふ
)
より
此
(
この
)
常世姫
(
とこよひめ
)
は
枕
(
まくら
)
を
高
(
たか
)
うして
寝
(
ね
)
る
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
る。
239
ああ
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
。
240
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
、
241
あなたの
御
(
ご
)
神力
(
しんりき
)
によつて
邪魔者
(
じやまもの
)
が
亡
(
ほろ
)
びますれば、
242
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
は
千騎
(
せんき
)
一騎
(
いつき
)
の
活動
(
くわつどう
)
を
致
(
いた
)
しまして、
243
天晴
(
あつぱれ
)
手柄
(
てがら
)
を
致
(
いた
)
して
御
(
お
)
目
(
め
)
にかけませう。
244
ああ
何
(
なん
)
だか
今日
(
けふ
)
位
(
くらゐ
)
心地
(
ここち
)
のよい
日
(
ひ
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬわい』
245
とほくほく
喜
(
よろこ
)
び、
246
嫌
(
いや
)
らしき
笑
(
ゑみ
)
を
漏
(
も
)
らして
居
(
ゐ
)
る。
247
腹中
(
ふくちう
)
より、
248
高姫の腹中より
『オイ
高姫
(
たかひめ
)
の
肉体
(
にくたい
)
、
249
どうだ。
250
此
(
この
)
方
(
はう
)
の
智略
(
ちりやく
)
縦横
(
じうわう
)
のやり
方
(
かた
)
には
降参
(
かうさん
)
しただらうなア』
251
高姫
『シツ、
252
又
(
また
)
しても
出
(
で
)
しやばるのか。
253
秘密
(
ひみつ
)
は
何処
(
どこ
)
迄
(
まで
)
も
秘密
(
ひみつ
)
ぢやないか。
254
肝腎
(
かんじん
)
の
時
(
とき
)
になつて
仕様
(
しやう
)
もない
事
(
こと
)
を
口走
(
くちばし
)
つて
見
(
み
)
よ、
255
この
肉体
(
にくたい
)
が
承知
(
しようち
)
を
致
(
いた
)
さぬから』
256
高姫の腹中より
『イヒヒヒヒヒ、
257
オイ
黒
(
くろ
)
、
258
八
(
はち
)
、
259
テク、
260
蟇
(
がま
)
、
261
大蛇
(
をろち
)
、
262
猿
(
さる
)
の
連中
(
れんちう
)
、
263
どうだ、
264
この
金毛
(
きんまう
)
九尾
(
きうび
)
のやり
方
(
かた
)
は
実
(
じつ
)
に
偉
(
えら
)
いものだらう。
265
水
(
みづ
)
も
漏
(
も
)
らさぬ
此
(
この
)
方
(
はう
)
の
仕組
(
しぐみ
)
、
266
サアこれから
瑞
(
みづ
)
の
御霊
(
みたま
)
の
教
(
をしへ
)
を
片端
(
かたつぱし
)
から
打
(
う
)
ち
砕
(
くだ
)
き、
267
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
世界
(
せかい
)
にするのだ。
268
何
(
なん
)
と
心地
(
ここち
)
よき
事
(
こと
)
ではあるまいかなア、
269
エヘヘヘヘヘ』
270
又
(
また
)
腹中
(
ふくちう
)
より
種々
(
いろいろ
)
の
声
(
こゑ
)
が
出
(
で
)
て、
271
高姫の腹中より
『
有難
(
ありがた
)
う
存
(
ぞん
)
じます
有難
(
ありがた
)
う
存
(
ぞん
)
じます、
272
金毛
(
きんまう
)
九尾
(
きうび
)
様
(
さま
)
、
273
畏
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
つて
厶
(
ござ
)
ります。
274
これから
何事
(
なにごと
)
も
九尾
(
きうび
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
に
従
(
したが
)
ひます。
275
此
(
この
)
蟇公
(
がまこう
)
も
一切
(
いつさい
)
万事
(
ばんじ
)
今後
(
こんご
)
は
御
(
お
)
指揮
(
さしづ
)
に
従
(
したが
)
ひまアす』
276
と
一句
(
いつく
)
々々
(
いつく
)
声
(
こゑ
)
のいろが
変
(
かは
)
つて
聞
(
きこ
)
えて
来
(
く
)
る。
277
高姫
『こりや、
278
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
の
我羅苦多
(
がらくた
)
共
(
ども
)
、
279
何
(
なに
)
をつべこべと
大事
(
だいじ
)
の
事
(
こと
)
を
吐
(
ほざ
)
くのか。
280
沈黙
(
ちんもく
)
致
(
いた
)
さぬか』
281
高姫の腹中より
『アハハハハハ、
282
どうもはや
常世姫
(
とこよひめ
)
の
肉体
(
にくたい
)
には、
283
此
(
この
)
方
(
はう
)
も
畏
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
つたぞや。
284
ほんに
確
(
しつか
)
りした
肉体
(
にくたい
)
ぢや。
285
この
肉体
(
にくたい
)
さへあれば
五六七
(
みろく
)
神政
(
しんせい
)
を
妨害
(
ばうがい
)
し、
286
忽
(
たちま
)
ち
悪魔
(
あくま
)
の
世
(
よ
)
と
立替
(
たてか
)
へるのは
火
(
ひ
)
を
睹
(
み
)
るよりも
明
(
あきら
)
かな
事実
(
じじつ
)
だ。
287
思
(
おも
)
へば
思
(
おも
)
へば
心地
(
ここち
)
よやなア、
288
エヘヘヘヘヘ』
289
高姫
『こりや、
290
皆
(
みな
)
の
守護神
(
しゆごじん
)
共
(
ども
)
、
291
静
(
しづか
)
にせいと
申
(
まを
)
せばなぜ
静
(
しづか
)
に
致
(
いた
)
さぬのか。
292
困
(
こま
)
つた
奴
(
やつ
)
だなア。
293
さうして
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
今
(
いま
)
の
五六七
(
みろく
)
の
世
(
よ
)
を
妨害
(
ばうがい
)
して
闇
(
やみ
)
の
世界
(
せかい
)
にすると
申
(
まを
)
したな、
294
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
不心得
(
ふこころえ
)
の
事
(
こと
)
を
申
(
まを
)
す……サアもう
常世姫
(
とこよひめ
)
の
肉体
(
にくたい
)
は
貴様
(
きさま
)
等
(
たち
)
には
借
(
か
)
さぬから、
295
エー
出
(
で
)
て
呉
(
く
)
れ、
296
シツシツシツ』
297
高姫の腹中より
『イヒヒヒヒヒ、
298
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
此
(
この
)
肉宮
(
にくみや
)
を
帰
(
い
)
ぬ
事
(
こと
)
は
嫌
(
いや
)
だよ』
299
高姫
『それなら
早
(
はや
)
く
改心
(
かいしん
)
を
致
(
いた
)
して、
300
五六七
(
みろく
)
神政
(
しんせい
)
の
御
(
ご
)
神業
(
しんげふ
)
に
参加
(
さんか
)
致
(
いた
)
すと
申
(
まを
)
すか。
301
サア
早
(
はや
)
く
返答
(
へんたふ
)
を
聞
(
き
)
かせ』
302
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
より、
303
七八種
(
ななやいろ
)
の
声
(
こゑ
)
、
304
一
(
いち
)
時
(
じ
)
に
起
(
おこ
)
り、
305
高姫の腹中より
『アハハハ、
306
イヒヒヒ、
307
ウフフフ、
308
エヘヘヘ、
309
オホホホ、
310
カカカカ、
311
キキキキ、
312
クククク、
313
ケケケケ、
314
ココココ、
315
パパパパ、
316
チチチチ、
317
キヒヒヒヒヒ』
318
戸
(
と
)
の
外
(
そと
)
にはウウーウーウーワウワウワウと、
319
怖
(
おそ
)
ろしきスマートの
吠
(
ほ
)
える
声
(
こゑ
)
、
320
高姫
(
たかひめ
)
は
頭
(
かしら
)
をかかへて
慄
(
ふる
)
ひ
上
(
あが
)
る。
321
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
の
沢山
(
たくさん
)
の
声
(
こゑ
)
は
水
(
みづ
)
を
打
(
う
)
つた
様
(
やう
)
に
一
(
いち
)
時
(
じ
)
にピタリと
止
(
と
)
まつてしまつた。
322
スマートは
益々
(
ますます
)
戸外
(
こぐわい
)
にウウウーと
唸
(
うな
)
り
立
(
た
)
てて
居
(
ゐ
)
る。
323
(
大正一二・一・二一
旧一一・一二・五
加藤明子
録)
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