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霊界物語
真善美愛(第49~60巻)
第50巻(丑の巻)
序文
総説
第1篇 和光同塵
第1章 至善至悪
第2章 照魔燈
第3章 高魔腹
第4章 御意犬
第2篇 兇党擡頭
第5章 霊肉問答
第6章 玉茸
第7章 負傷負傷
第8章 常世闇
第9章 真理方便
第3篇 神意と人情
第10章 据置貯金
第11章 鸚鵡返
第12章 敵愾心
第13章 盲嫌
第14章 虬の盃
第4篇 神犬の言霊
第15章 妖幻坊
第16章 鷹鷲掴
第17章 偽筆
第18章 安国使
第19章 逆語
第20章 悪魔払
第21章 犬嘩
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第50巻(丑の巻)
> 第4篇 神犬の言霊 > 第15章 妖幻坊
<<< 虬の盃
(B)
(N)
鷹鷲掴 >>>
第一五章
妖幻坊
(
えうげんばう
)
〔一三〇九〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第50巻 真善美愛 丑の巻
篇:
第4篇 神犬の言霊
よみ(新仮名遣い):
しんけんのことたま
章:
第15章 妖幻坊
よみ(新仮名遣い):
ようげんぼう
通し章番号:
1309
口述日:
1923(大正12)年01月23日(旧12月7日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年12月7日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
春雨の降りしきる頃、高姫は腹中の憑霊たちと斎苑館を占領する空想を描いてひとり笑壺に入っている。初稚姫はこのごろ、高姫の命令によって珍彦館に籠り、神殿や大広間にしばらく姿を現すことを禁じられていた。
スマートも姿を見せないために、悪孤たちは元気がよかった。高姫は一弦琴を取り出して歌い始めた。高姫は琴を引く芸は持っていなかったが、憑依している蟇先生が肉体を使って琴を弾じていた。
妖幻坊は厠から戻ってきた。そして高姫の琴芸に感心し、ひとしきりからかった。高姫は、日の出神のお筆先を書くからといって、酒をあてがって杢助を自室に帰した。高姫は筆と墨を用意し、一時ばかりかかって筆先を書きあげた。
そしてイルにこれを大声で拝読させて、珍彦館にいる初稚姫にも聞かせて改心させてやろうと思い立ち、書き上げたばかりの筆先三冊を三宝に乗せて受付にやってきた。高姫はイルたちにこの筆先を書写して、それを初稚姫に聞こえるように拝読せよと命じると、自分の居間に帰って行った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-07-22 15:39:06
OBC :
rm5015
愛善世界社版:
205頁
八幡書店版:
第9輯 225頁
修補版:
校定版:
211頁
普及版:
104頁
初版:
ページ備考:
001
春雨
(
はるさめ
)
の
降
(
ふ
)
りしきるシンミリとした
窓
(
まど
)
の
中
(
うち
)
、
002
四辺
(
あたり
)
の
空気
(
くうき
)
も
和
(
やは
)
らいで、
003
物
(
もの
)
に
熱
(
ねつ
)
し
易
(
やす
)
い
高姫
(
たかひめ
)
の
頭
(
あたま
)
はどことはなしにポカポカと
助炭
(
じよたん
)
の
上
(
うへ
)
に
坐
(
すわ
)
つた
様
(
やう
)
な
心持
(
こころもち
)
がする。
004
高姫
(
たかひめ
)
は
腹中
(
ふくちう
)
に
潜
(
ひそ
)
める
沢山
(
たくさん
)
のお
客
(
きやく
)
さまと、
005
徒然
(
つれづれ
)
の
余
(
あま
)
り、
006
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
を
占領
(
せんりやう
)
すべき
空想
(
くうさう
)
を
描
(
ゑが
)
いて、
007
独
(
ひと
)
り
笑壺
(
ゑつぼ
)
に
入
(
い
)
つてゐる。
008
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
から
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
と
称
(
しよう
)
する
兇霊
(
きようれい
)
は、
009
何
(
なん
)
とはなしに
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
は
元気
(
げんき
)
がよい。
010
それは
初稚姫
(
はつわかひめ
)
が
高姫
(
たかひめ
)
の
命令
(
めいれい
)
によつて、
011
珍彦館
(
うづひこやかた
)
に
籠居
(
ろうきよ
)
し、
012
暫
(
しばら
)
く
神殿
(
しんでん
)
又
(
また
)
は
大広前
(
おほひろまへ
)
に
姿
(
すがた
)
を
現
(
あら
)
はす
事
(
こと
)
を
禁
(
きん
)
じられ、
013
且
(
かつ
)
スマートを
追
(
お
)
ひ
返
(
かへ
)
したと
云
(
い
)
ふ
喜
(
よろこ
)
びからである。
014
併
(
しか
)
しながらスマートは
変現
(
へんげん
)
出没
(
しゆつぼつ
)
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
の
霊獣
(
れいじう
)
なれば、
015
決
(
けつ
)
して
何処
(
どこ
)
へも
行
(
い
)
つては
居
(
ゐ
)
ない。
016
只
(
ただ
)
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
身辺
(
しんぺん
)
近
(
ちか
)
く
侍
(
じ
)
し、
017
人
(
ひと
)
の
足音
(
あしおと
)
が
聞
(
きこ
)
えた
時
(
とき
)
は、
018
早
(
はや
)
くも
悟
(
さと
)
つて
床下
(
ゆかした
)
に
身
(
み
)
を
隠
(
かく
)
すことを
努
(
つと
)
めてゐたのである。
019
高姫
(
たかひめ
)
は
一絃琴
(
いちげんきん
)
を
取出
(
とりだ
)
して
歌
(
うた
)
ひ
始
(
はじ
)
めた。
020
無論
(
むろん
)
高姫
(
たかひめ
)
は
琴
(
こと
)
などを
弾
(
ひ
)
く
様
(
やう
)
な
芸
(
げい
)
は
持
(
も
)
つてゐない。
021
憑依
(
ひようい
)
してゐる
蟇
(
がま
)
先生
(
せんせい
)
が
肉体
(
にくたい
)
を
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
に
使
(
つか
)
つて、
022
琴
(
こと
)
を
弾
(
だん
)
ずるのであつた。
023
(高姫)
『チンチンシヤン、
024
シヤツチンシヤツチン、
025
シヤツチン、
026
チンチン
027
春雨
(
はるさめ
)
にしつぽり
濡
(
ぬ
)
るる
露
(
つゆ
)
の
袖
(
そで
)
028
こつちが
恋
(
こ
)
ふれば
杢助
(
もくすけ
)
さまも
029
同
(
おな
)
じ
思
(
おも
)
ひの
恋心
(
こひごころ
)
030
チンチンチン、
031
シヤン……シヤンシヤン、
032
シヤツチン、
033
チンチリチン、
034
チンーチンー
035
すれつ、
036
もつれつ、
037
袖
(
そで
)
と
袖
(
そで
)
038
会
(
あ
)
うて
嬉
(
うれ
)
しき
此
(
この
)
館
(
やかた
)
039
玉国別
(
たまくにわけ
)
の
身魂
(
みたま
)
をば
040
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
を
守護
(
しゆご
)
する
041
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
042
深
(
ふか
)
い
仕組
(
しぐみ
)
に
操
(
あやつ
)
られ
043
やうやう
此処
(
ここ
)
に
宮柱
(
みやばしら
)
044
太
(
ふと
)
しき
建
(
た
)
てて
神々
(
かみがみ
)
を
045
斎
(
いつ
)
きまつりて
珍彦
(
うづひこ
)
や
046
静子
(
しづこ
)
の
方
(
かた
)
を
後
(
あと
)
におき
047
宮
(
みや
)
の
司
(
つかさ
)
と
相定
(
あひさだ
)
め
048
後白浪
(
あとしらなみ
)
と
道晴別
(
みちはるわけ
)
049
其
(
その
)
他
(
た
)
の
家来
(
けらい
)
を
引連
(
ひきつ
)
れて
050
何処
(
どこ
)
をあてとも
永
(
なが
)
の
旅
(
たび
)
051
出
(
い
)
で
行
(
ゆ
)
く
後
(
あと
)
に
入
(
い
)
り
来
(
きた
)
る
052
神力
(
しんりき
)
無双
(
むさう
)
の
杢助
(
もくすけ
)
さま
053
身魂
(
みたま
)
の
合
(
あ
)
うた
高姫
(
たかひめ
)
が
054
昔
(
むかし
)
の
昔
(
むかし
)
の
大昔
(
おほむかし
)
055
神
(
かみ
)
の
結
(
むす
)
びし
縁
(
えにし
)
にて
056
やうやう
此処
(
ここ
)
に
巡
(
めぐ
)
り
会
(
あ
)
ひ
057
其
(
その
)
神徳
(
しんとく
)
を
世
(
よ
)
の
人
(
ひと
)
に
058
鼻高姫
(
はなたかひめ
)
とホコラの
森
(
もり
)
059
二世
(
にせ
)
も
三世
(
さんせ
)
も
先
(
さき
)
の
世
(
よ
)
かけて
060
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
の
麻邇
(
まに
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
061
厳
(
いづ
)
の
身魂
(
みたま
)
の
玉椿
(
たまつばき
)
062
八千代
(
やちよ
)
の
春
(
はる
)
を
楽
(
たの
)
しみに
063
二人
(
ふたり
)
の
仲
(
なか
)
は
岩
(
いは
)
と
岩
(
いは
)
064
堅
(
かた
)
き
契
(
ちぎり
)
を
結
(
むす
)
び
昆布
(
こぶ
)
065
神楽舞
(
かぐらまひ
)
をば
鯣
(
するめ
)
の
夫婦
(
ふうふ
)
066
実
(
げ
)
にも
楽
(
たの
)
しき
吾
(
わが
)
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
067
杢助
(
もくすけ
)
さまも
嘸
(
さぞ
)
や
嘸
(
さぞ
)
068
嬉
(
うれ
)
しい
事
(
こと
)
で……あらう
程
(
ほど
)
に
069
思
(
おも
)
へば
思
(
おも
)
へば
惟神
(
かむながら
)
070
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
の
引合
(
ひきあは
)
せ
071
厳
(
いづ
)
の
御霊
(
みたま
)
の
御
(
おん
)
守
(
まも
)
り
072
瑞
(
みづ
)
の
御霊
(
みたま
)
の
悪神
(
わるがみ
)
が
073
千々
(
ちぢ
)
に
心
(
こころ
)
を
配
(
くば
)
りつつ
074
妨
(
さまた
)
げなせど
神力
(
しんりき
)
の
075
充
(
み
)
ちたらひたる
夫婦
(
ふうふ
)
が
企
(
たく
)
み
076
とても
破
(
やぶ
)
れぬ
悲
(
かな
)
しさに
077
今
(
いま
)
は
火
(
ひ
)
となり
蛇
(
じや
)
となりて
078
心
(
こころ
)
をいらち
胸
(
むね
)
こがし
079
騒
(
さわ
)
ぎまはるぞ……いぢらしき。
080
シヤツチン シヤツチン、
081
シヤツチンチン シヤツチンチン、
082
チーンリンチン、
083
チンリン チンリン チンツ、
084
シヤーン シヤーン』
085
と
弾
(
ひ
)
き
終
(
をは
)
り、
086
一絃琴
(
いちげんきん
)
を
傍
(
かたはら
)
に
直
(
なほ
)
し、
087
膝
(
ひざ
)
の
上
(
うへ
)
に
両手
(
りやうて
)
をキチンとついて、
088
床
(
とこ
)
の
間
(
ま
)
の
自筆
(
じひつ
)
の
掛軸
(
かけぢく
)
を
眺
(
なが
)
めながら、
089
高姫
『ホホホホ』
090
と
嬉
(
うれ
)
しげに
笑
(
わら
)
ひ
興
(
きよう
)
ずる。
091
妖幻坊
(
えうげんばう
)
は
廁
(
かはや
)
から
廊下
(
らうか
)
をドシンドシンと、
092
きつい
足音
(
あしおと
)
させながら
襖
(
ふすま
)
をあけて
入
(
い
)
り
来
(
きた
)
り、
093
妖幻坊の杢助
『
高姫
(
たかひめ
)
、
094
お
前
(
まへ
)
は
不思議
(
ふしぎ
)
な
隠
(
かく
)
し
芸
(
げい
)
を
持
(
も
)
つてゐるのだな。
095
俺
(
おれ
)
は
又
(
また
)
そんな
陽気
(
やうき
)
な
事
(
こと
)
はチツとも
知
(
し
)
らない、
096
信仰
(
しんかう
)
一途
(
いちづ
)
の
熱狂女
(
ねつきやうぢよ
)
だと
思
(
おも
)
うてゐたよ。
097
イヤもう
感心
(
かんしん
)
した』
098
高姫
『ホホホホ、
099
能
(
のう
)
ある
鷹
(
たか
)
は
爪
(
つめ
)
かくすと
云
(
い
)
ひましてな。
100
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
此
(
この
)
高
(
たか
)
ちやまも、
101
爪
(
つめ
)
をかくして
居
(
を
)
つたのだが、
102
今日
(
けふ
)
は
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
春雨
(
はるさめ
)
で、
103
何
(
なん
)
とはなしに
心
(
こころ
)
が
淋
(
さび
)
しいやうでもあり、
104
花
(
はな
)
やかなやうでもあり、
105
お
琴
(
こと
)
をひくには
大変
(
たいへん
)
に
天地
(
てんち
)
と
調和
(
てうわ
)
が
取
(
と
)
れるやうな
気分
(
きぶん
)
になつたものですから、
106
久
(
ひさ
)
し
振
(
ぶり
)
で
一寸
(
ちよつと
)
爪弾
(
つまび
)
きをやつてみましたのよ』
107
妖幻坊の杢助
『
情趣
(
じやうしゆ
)
こまやかに
四辺
(
あたり
)
の
空気
(
くうき
)
を
動揺
(
どうえう
)
させ、
108
次
(
つ
)
いで
此
(
この
)
杢助
(
もくすけ
)
の
心臓
(
しんざう
)
迄
(
まで
)
が
非常
(
ひじやう
)
に
動揺
(
どうえう
)
したよ。
109
俺
(
おれ
)
も
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
永
(
なが
)
らくの
間
(
あひだ
)
、
110
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
に
御用
(
ごよう
)
をして
居
(
を
)
つたが、
111
二絃琴
(
にげんきん
)
の
音
(
おと
)
はいつも
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
るけれど、
112
一絃琴
(
いちげんきん
)
はまだ
聞
(
き
)
き
始
(
はじ
)
めだ。
113
一筋
(
ひとすぢ
)
の
糸
(
いと
)
の
方
(
はう
)
が
余程
(
よほど
)
雅味
(
がみ
)
があるねえ。
114
一筋縄
(
ひとすぢなは
)
ではいかぬお
前
(
まへ
)
だと
思
(
おも
)
つてゐたが、
115
到頭
(
たうとう
)
正体
(
しやうたい
)
が
現
(
あら
)
はれよつたなア。
116
アツハハハハ』
117
高姫
『コレ
杢助
(
もくすけ
)
さま、
118
余
(
あんま
)
り
揶揄
(
からか
)
つて
下
(
くだ
)
さるなや』
119
妖幻坊の杢助
『カラが
勝
(
か
)
たうが
日本
(
にほん
)
が
勝
(
か
)
たうが、
120
そんなこたチツとも
頓着
(
とんちやく
)
ないのだ。
121
兎角
(
とかく
)
浮世
(
うきよ
)
は
色
(
いろ
)
と
酒
(
さけ
)
だからなア。
122
オイ
高
(
たか
)
ちやま、
123
一杯
(
いつぱい
)
注
(
つ
)
いでくれないか』
124
高姫
『
杢助
(
もくすけ
)
さま、
125
貴郎
(
あなた
)
は
酒
(
さけ
)
ばかり
呑
(
の
)
んで
居
(
を
)
つて、
126
一度
(
いちど
)
も
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
拝礼
(
はいれい
)
をなさつた
事
(
こと
)
はないぢやありませぬか。
127
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
にお
仕
(
つか
)
へする
者
(
もの
)
が、
128
それ
程
(
ほど
)
無性
(
ぶしやう
)
では、
129
皆
(
みな
)
の
者
(
もの
)
の
信仰
(
しんかう
)
をつなぐ
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ぬぢやありませぬか。
130
貴郎
(
あなた
)
が
模範
(
もはん
)
を
示
(
しめ
)
さなくちや、
131
役員
(
やくゐん
)
や
信者
(
しんじや
)
迄
(
まで
)
が
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
拝礼
(
はいれい
)
をおろそかにして
困
(
こま
)
るぢやありませぬか』
132
妖幻坊の杢助
『
俺
(
おれ
)
は
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
に
居
(
を
)
つても
総務
(
そうむ
)
をやつて
居
(
を
)
つたのだ。
133
総務
(
そうむ
)
といふものは
一切
(
いつさい
)
の
事務
(
じむ
)
を
総理
(
そうり
)
するものだ。
134
祭典
(
さいてん
)
や
拝礼
(
はいれい
)
などは、
135
又
(
また
)
それ
相当
(
さうたう
)
の
役員
(
やくゐん
)
にさせばいいのだ。
136
ここには
珍彦
(
うづひこ
)
といふ
神司
(
かむつかさ
)
が
置
(
お
)
いてあるのだから、
137
俺
(
おれ
)
はマア
遠慮
(
ゑんりよ
)
しておこかい。
138
何
(
なん
)
だか
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
前
(
まへ
)
へ
行
(
ゆ
)
くと
恐
(
おそ
)
ろしい……イヤイヤ
恐
(
おそ
)
ろしく
霊
(
れい
)
がかかるので、
139
又
(
また
)
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
でも
出
(
だ
)
しちや
皆
(
みな
)
の
者
(
もの
)
がビツクリするからなア。
140
それで
実
(
じつ
)
は
拝
(
をが
)
みたくつて
仕方
(
しかた
)
がないのだが、
141
辛抱
(
しんばう
)
して
御
(
ご
)
遠慮
(
ゑんりよ
)
して
居
(
ゐ
)
るのだ。
142
吾々
(
われわれ
)
の
身魂
(
みたま
)
は
霊国
(
れいごく
)
の
天人
(
てんにん
)
だから、
143
神教
(
しんけう
)
宣伝
(
せんでん
)
の
天職
(
てんしよく
)
が
備
(
そな
)
はつてをるのだ。
144
祭典
(
さいてん
)
や
拝礼
(
はいれい
)
は
天国
(
てんごく
)
天人
(
てんにん
)
の
身魂
(
みたま
)
の
御用
(
ごよう
)
だ。
145
神界
(
しんかい
)
には、
146
お
前
(
まへ
)
も
知
(
し
)
つてゐるだらうが、
147
互
(
たがひ
)
に
其
(
その
)
範囲
(
はんゐ
)
を
犯
(
おか
)
す
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ない
厳
(
きび
)
しい
規則
(
きそく
)
が
惟神
(
かむながら
)
的
(
てき
)
に
定
(
さだ
)
められてあるからな』
148
高姫
『
成程
(
なるほど
)
、
149
それでお
前
(
まへ
)
さまは
拝礼
(
はいれい
)
をなさらぬのだな。
150
さうすると
私
(
わたし
)
は
霊国
(
れいごく
)
天人
(
てんにん
)
ですか、
151
天国
(
てんごく
)
天人
(
てんにん
)
ですか、
152
何方
(
どちら
)
だと
思
(
おも
)
ひますか』
153
妖幻坊の杢助
『
勿論
(
もちろん
)
お
前
(
まへ
)
だつて、
154
ヤツパリ
霊国
(
れいごく
)
の
天人
(
てんにん
)
だよ。
155
それならばこそ
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
さまが、
156
毎日
(
まいにち
)
守護神
(
しゆごじん
)
人民
(
じんみん
)
に
教
(
をし
)
ふる
為
(
ため
)
に、
157
神諭
(
しんゆ
)
をお
書
(
か
)
きなさるぢやないか。
158
其
(
その
)
生宮
(
いきみや
)
たるお
前
(
まへ
)
はヤツパリ
相応
(
さうおう
)
の
理
(
り
)
によつて、
159
肉体
(
にくたい
)
的
(
てき
)
霊国
(
れいごく
)
天人
(
てんにん
)
だからなア』
160
高姫
『
流石
(
さすが
)
は
杢助
(
もくすけ
)
さま、
161
偉
(
えら
)
いものだなア。
162
何
(
なん
)
だか
私
(
わたし
)
も
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
から
拝礼
(
はいれい
)
が
厭
(
いや
)
になつて
仕方
(
しかた
)
がないのよ。
163
又
(
また
)
曲津
(
まがつ
)
が
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
へ
這入
(
はい
)
つて
来
(
き
)
やがつて、
164
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
を
恐
(
おそ
)
れるので、
165
こんな
気
(
き
)
になつたのかと
心配
(
しんぱい
)
して
居
(
を
)
りました。
166
併
(
しか
)
し、
167
貴郎
(
あなた
)
の
説明
(
せつめい
)
に
依
(
よ
)
つて
何
(
なに
)
も
彼
(
か
)
も
身魂
(
みたま
)
の
因縁
(
いんねん
)
がハツキリと
分
(
わか
)
りました。
168
ヤツパリさうすると、
169
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
は
偉
(
えら
)
いものだなア』
170
妖幻坊の杢助
『そりやさうとも、
171
杢助
(
もくすけ
)
さまの
女房
(
にようばう
)
になる
位
(
くらゐ
)
な
神格者
(
しんかくしや
)
だからなア、
172
お
前
(
まへ
)
も
亦
(
また
)
これでチツと
筆先
(
ふでさき
)
の
材料
(
ざいれう
)
が
出来
(
でき
)
ただらう』
173
高姫
『ヘン、
174
馬鹿
(
ばか
)
にして
下
(
くだ
)
さいますなや。
175
人
(
ひと
)
に
教
(
をし
)
へて
貰
(
もら
)
うて、
176
筆先
(
ふでさき
)
なんか
書
(
か
)
きますものか』
177
妖幻坊の杢助
『それでも
見
(
み
)
てゐよ。
178
キツとお
前
(
まへ
)
の
筆先
(
ふでさき
)
に
現
(
あら
)
はれて
来
(
く
)
るよ。
179
俺
(
おれ
)
がこれだけお
前
(
まへ
)
に
聞
(
き
)
かしておくと、
180
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
さまが
成程
(
なるほど
)
と
合点
(
がつてん
)
して、
181
キツと
明日
(
あす
)
あたりから、
182
霊国
(
れいごく
)
の
天人
(
てんにん
)
といふお
筆先
(
ふでさき
)
を
御
(
お
)
書
(
か
)
きなさるに
違
(
ちがひ
)
ないワ。
183
何
(
なに
)
せよ、
184
模倣
(
もはう
)
するのに
長
(
ちやう
)
じてゐる
肉宮
(
にくみや
)
だからなア』
185
高姫
『お
前
(
まへ
)
さまが
今
(
いま
)
言
(
い
)
つた
言葉
(
ことば
)
は、
186
決
(
けつ
)
してお
前
(
まへ
)
さまの
力
(
ちから
)
ぢやありませぬぞや。
187
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
さまがお
前
(
まへ
)
さまの
身魂
(
みたま
)
を
使
(
つか
)
うて
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
に
気
(
き
)
をつけなさつたのだよ。
188
これ
位
(
くらゐ
)
な
道理
(
だうり
)
が
分
(
わか
)
らぬ
様
(
やう
)
な
杢助
(
もくすけ
)
さまぢやありますまい。
189
お
前
(
まへ
)
さまが、
190
こんな
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
るやうになつたのもヤツパリ
時節
(
じせつ
)
だ。
191
高姫
(
たかひめ
)
に
筆先
(
ふでさき
)
を
書
(
か
)
かす
為
(
ため
)
に、
192
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
様
(
さま
)
が、
193
お
前
(
まへ
)
さまの
口
(
くち
)
を
借
(
か
)
つて
一寸
(
ちよつと
)
言
(
い
)
はせなさつたのだから、
194
これからの
筆先
(
ふでさき
)
はよつぽど
奇抜
(
きばつ
)
なものが
現
(
あら
)
はれますで、
195
マア
見
(
み
)
てゐなさい。
196
お
前
(
まへ
)
さまだけにはソツと
見
(
み
)
せて
上
(
あ
)
げますワ』
197
妖幻坊の杢助
『ハツハハハ、
198
また
出来上
(
できあが
)
りましたら
拝読
(
はいどく
)
を
願
(
ねが
)
ひませうかい』
199
高姫
『
杢助
(
もくすけ
)
さま、
200
一寸
(
ちよつと
)
俄
(
にはか
)
に
神界
(
しんかい
)
の
御用
(
ごよう
)
が
忙
(
いそ
)
がしうなつたから、
201
貴郎
(
あなた
)
はお
居間
(
ゐま
)
へ
行
(
い
)
つて、
202
お
酒
(
さけ
)
でもあがつて
休
(
やす
)
んでゐて
下
(
くだ
)
さい。
203
お
前
(
まへ
)
さまが
側
(
そば
)
にゐられると、
204
思
(
おも
)
はし
筆先
(
ふでさき
)
が
書
(
か
)
けませぬからなア』
205
妖幻坊の杢助
『ハツハハハ、
206
お
筆先
(
ふでさき
)
の
偽作
(
ぎさく
)
を
遊
(
あそ
)
ばすのに、
207
私
(
わたし
)
が
居
(
を
)
るとお
邪魔
(
じやま
)
になりますかな。
208
それなら
謹
(
つつし
)
んで
罷
(
まか
)
りさがりませう。
209
御用
(
ごよう
)
が
厶
(
ござ
)
いましたら、
210
御
(
ご
)
遠慮
(
ゑんりよ
)
なくお
召
(
め
)
し
出
(
だ
)
し
下
(
くだ
)
さいますれば、
211
鶴
(
つる
)
の
一声
(
ひとこゑ
)
、
212
宙
(
ちう
)
を
飛
(
と
)
んで
御前
(
ごぜん
)
に
伺候
(
しこう
)
致
(
いた
)
しまする。
213
ハハハハ、
214
高
(
たか
)
ちやま、
215
アバヨ』
216
と
腮
(
あご
)
をしやくり
腰
(
こし
)
を
振
(
ふ
)
り、
217
ピシヤツと
襖
(
ふすま
)
を
締
(
し
)
めて、
218
吾
(
わが
)
居間
(
ゐま
)
へ
帰
(
かへ
)
りゆく。
219
そして
中
(
なか
)
から
突張
(
つつぱ
)
りをかへ、
220
怪物
(
くわいぶつ
)
の
正体
(
しやうたい
)
を
現
(
あら
)
はしてグウグウと
鼾
(
いびき
)
をかいて
寝
(
ね
)
て
了
(
しま
)
つた。
221
高姫
(
たかひめ
)
は
俄
(
にはか
)
に
墨
(
すみ
)
をすり、
222
先
(
さき
)
のちびれた
筆
(
ふで
)
をキシヤ キシヤとしがみ、
223
墨
(
すみ
)
をダブツとつけて
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
書
(
か
)
き
始
(
はじ
)
めた。
224
一時
(
ひととき
)
ばかりかかつて
書
(
か
)
き
終
(
をは
)
り、
225
キチンと
机
(
つくゑ
)
の
上
(
うへ
)
に
載
(
の
)
せ
独言
(
ひとりごと
)
、
226
高姫
『
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
さまも
追々
(
おひおひ
)
御
(
ご
)
出世
(
しゆつせ
)
を
遊
(
あそ
)
ばし、
227
お
書
(
か
)
きなさる
事
(
こと
)
が
大変
(
たいへん
)
に
変
(
かは
)
つて
来
(
き
)
た。
228
こんな
結構
(
けつこう
)
な
教
(
をしへ
)
は
人
(
ひと
)
に
見
(
み
)
せるのも
惜
(
を
)
しいやうだ。
229
併
(
しか
)
し
之
(
これ
)
をイル、
230
イク、
231
サール、
232
ハル、
233
テルの
幹部
(
かんぶ
)
に
読
(
よ
)
ましておかぬと、
234
高姫
(
たかひめ
)
の
肉宮
(
にくみや
)
を
安
(
やす
)
く
思
(
おも
)
つて
仕方
(
しかた
)
がない。
235
又
(
また
)
肝腎
(
かんじん
)
の
事
(
こと
)
が
分
(
わか
)
らいではお
仕組
(
しぐみ
)
の
成就
(
じやうじゆ
)
が
遅
(
おそ
)
くなつて、
236
どもならぬから、
237
惜
(
を
)
しいけれど、
238
一
(
ひと
)
つ
此処
(
ここ
)
へ
呼
(
よ
)
んで
来
(
き
)
て
拝読
(
はいどく
)
させてやらうかな。
239
初稚姫
(
はつわかひめ
)
にも
聞
(
き
)
かしてやれば
改心
(
かいしん
)
するであらうか……イヤイヤ
待
(
ま
)
て
待
(
ま
)
てモウ
暫
(
しばら
)
く
隠
(
かく
)
しておかう、
240
発根
(
ほつごん
)
と
改心
(
かいしん
)
が
出来
(
でき
)
たら
読
(
よ
)
むやうになるだらう。
241
何
(
なん
)
だか
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は、
242
私
(
わたし
)
の
筆先
(
ふでさき
)
を
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
から
信用
(
しんよう
)
してゐない
様
(
やう
)
な
心持
(
こころもち
)
がするから、
243
読
(
よ
)
めと
云
(
い
)
つたら
読
(
よ
)
むではあらうが、
244
身魂
(
みたま
)
の
性来
(
しやうらい
)
が
悪
(
わる
)
いから、
245
充分
(
じうぶん
)
に
腹
(
はら
)
へは
這入
(
はい
)
るまい。
246
杢助
(
もくすけ
)
さまの
教
(
をしへ
)
だと
云
(
い
)
へば、
247
聞
(
き
)
くかも
知
(
し
)
れぬが、
248
さうすると
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
の
神力
(
しんりき
)
がないやうにあつて、
249
都合
(
つがふ
)
が
悪
(
わる
)
いなり……
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
だなア。
250
待
(
ま
)
て
待
(
ま
)
て、
251
一
(
ひと
)
つこれは
考
(
かんが
)
へねばなろまい。
252
ウーン
成程
(
なるほど
)
々々
(
なるほど
)
、
253
イルに
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
で
拝読
(
はいどく
)
さしてやらう。
254
そして
珍彦
(
うづひこ
)
の
館
(
やかた
)
へ、
255
あの
受付
(
うけつけ
)
からならば
突
(
つ
)
き
抜
(
ぬ
)
けるやうに
聞
(
きこ
)
えるのだから、
256
此
(
この
)
結構
(
けつこう
)
なお
筆
(
ふで
)
を
耳
(
みみ
)
に
入
(
い
)
れたならば、
257
イツカな
分
(
わか
)
らぬ
初稚姫
(
はつわかひめ
)
も、
258
成程
(
なるほど
)
と
耳
(
みみ
)
をすませ
改心
(
かいしん
)
するに
違
(
ちが
)
ひない、
259
此
(
この
)
筆先
(
ふでさき
)
で
押
(
おさ
)
へつけるに
限
(
かぎ
)
る』
260
とニコニコしながら、
261
書
(
か
)
いた
筆先
(
ふでさき
)
二十
(
にじふ
)
枚綴
(
まいとぢ
)
を
三冊
(
さんさつ
)
ばかり、
262
三宝
(
さんぱう
)
に
載
(
の
)
せ、
263
目八分
(
めはちぶ
)
に
捧
(
ささ
)
げ、
264
襖
(
ふすま
)
をスツと
開
(
あ
)
け、
265
ソロリソロリと
勿体
(
もつたい
)
らしく
受付
(
うけつけ
)
指
(
さ
)
して
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
266
受付
(
うけつけ
)
では
担当者
(
たんたうしや
)
のイルを
始
(
はじ
)
め、
267
ハル、
268
テル、
269
其
(
その
)
他
(
た
)
の
連中
(
れんちう
)
が
胡坐
(
あぐら
)
をかいて
自慢話
(
じまんばなし
)
に
耽
(
ふけ
)
つてゐる。
270
ハル『オイ、
271
イルさま、
272
お
前
(
まへ
)
一体
(
いつたい
)
此
(
この
)
受付
(
うけつけ
)
で
偉
(
えら
)
さうにシヤチ
張
(
ば
)
つて
居
(
ゐ
)
るが、
273
月給
(
げつきふ
)
は
幾
(
いく
)
ら
貰
(
もら
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだい』
274
イル
『まだ
珍彦
(
うづひこ
)
さまが、
275
定
(
き
)
めて
下
(
くだ
)
さらぬのだ。
276
ナアニ
別
(
べつ
)
に
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御用
(
ごよう
)
するのだから、
277
何
(
なん
)
なつとヒダルないやうにして
貰
(
もら
)
へさへすりや、
278
月給
(
げつきふ
)
なんかいらないよ。
279
結構
(
けつこう
)
な
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御用
(
ごよう
)
をするならば、
280
献労
(
けんらう
)
の
積
(
つもり
)
で、
281
無報酬
(
むほうしう
)
で
御用
(
ごよう
)
さして
頂
(
いただ
)
きたい。
282
併
(
しか
)
しながら
高姫
(
たかひめ
)
なんかの
指図
(
さしづ
)
を
受
(
う
)
けねばならぬとすれば、
283
相当
(
さうたう
)
の
給料
(
きふれう
)
を
貰
(
もら
)
はないと
厭
(
いや
)
だなア』
284
ハル
『それなら
幾
(
いく
)
ら
欲
(
ほ
)
しいと
云
(
い
)
ふのだい』
285
イル
『マア
一
(
いつ
)
ケ
月
(
げつ
)
十
(
じふ
)
円
(
ゑん
)
位
(
くらゐ
)
で
結構
(
けつこう
)
だ』
286
ハル
『
貴様
(
きさま
)
、
287
バラモン
教
(
けう
)
ではモチと
沢山
(
たくさん
)
に
貰
(
もら
)
うてゐたぢやないか』
288
イル
『さうだ、
289
五十
(
ごじふ
)
円
(
ゑん
)
に
一
(
いち
)
円
(
ゑん
)
足
(
た
)
らずで、
290
四十九
(
しじふく
)
円
(
ゑん
)
の
月給
(
げつきふ
)
だ。
291
アハハハハ、
292
ハル……
併
(
しか
)
しお
前
(
まへ
)
は
幾
(
いく
)
ら
頂戴
(
ちやうだい
)
して
居
(
を
)
つた』
293
ハル
『
俺
(
おれ
)
かい、
294
俺
(
おれ
)
はザツと
十八
(
じふはち
)
円
(
ゑん
)
だ』
295
イル
『
成程
(
なるほど
)
、
296
それでは
毎日
(
まいにち
)
九円
(
くゑん
)
々々
(
くゑん
)
の
泣暮
(
なきぐら
)
しだな、
297
エヘヘヘヘ』
298
と
他愛
(
たあい
)
もなく
話
(
はなし
)
に
耽
(
ふけ
)
つてゐる。
299
そこへ
高姫
(
たかひめ
)
は
三宝
(
さんぱう
)
に
今
(
いま
)
書
(
か
)
いたばかりの、
300
まだ
墨
(
すみ
)
も
乾
(
かわ
)
いてゐないボトボトした
筆先
(
ふでさき
)
を
目八分
(
めはちぶ
)
に
捧
(
ささ
)
げて
入
(
い
)
り
来
(
きた
)
り、
301
高姫
『コレ、
302
皆
(
みな
)
さま、
303
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだい。
304
お
前
(
まへ
)
さま
達
(
たち
)
は、
305
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
精神
(
せいしん
)
がチツとも
分
(
わか
)
らぬ
八衢
(
やちまた
)
人間
(
にんげん
)
だから
困
(
こま
)
つて
了
(
しま
)
ふ。
306
受付
(
うけつけ
)
といふものは、
307
一番
(
いちばん
)
大切
(
たいせつ
)
なお
役
(
やく
)
ぢやぞえ。
308
奥
(
おく
)
に
居
(
ゐ
)
る
大将
(
たいしやう
)
は
仮令
(
たとへ
)
少々
(
せうせう
)
位
(
ぐらゐ
)
天保銭
(
てんぱうせん
)
でも、
309
受付
(
うけつけ
)
さへシツカリしてさへ
居
(
を
)
れば、
310
立派
(
りつぱ
)
な
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
が
現
(
あら
)
はれるのだ。
311
ここへ
立寄
(
たちよ
)
る
人民
(
じんみん
)
が、
312
受付
(
うけつけ
)
の
立派
(
りつぱ
)
なのを
見
(
み
)
て……あああ、
313
受付
(
うけつけ
)
でさへもこんな
立派
(
りつぱ
)
な
人間
(
にんげん
)
が
居
(
を
)
るのだから、
314
ここの
教主
(
けうしゆ
)
は
偉
(
えら
)
い
者
(
もの
)
だらう……と
直覚
(
ちよくかく
)
する
様
(
やう
)
になるのだ。
315
をかしげな、
316
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
人間
(
にんげん
)
が
受付
(
うけつけ
)
に
居
(
を
)
らうものなら、
317
何程
(
なにほど
)
教主
(
けうしゆ
)
が
立派
(
りつぱ
)
な
神徳
(
しんとく
)
があつてもサツパリ
駄目
(
だめ
)
だからな。
318
今
(
いま
)
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
様
(
さま
)
から、
319
結構
(
けつこう
)
な
結構
(
けつこう
)
なお
筆先
(
ふでさき
)
が
出
(
で
)
たによつて、
320
ここで
之
(
これ
)
を
拝読
(
いただ
)
いて、
321
ギユツと
腹
(
はら
)
に
締
(
し
)
め
込
(
こ
)
みておきなされ。
322
そして
立寄
(
たちよ
)
る
人民
(
じんみん
)
に
此
(
この
)
お
筆先
(
ふでさき
)
を
読
(
よ
)
んで
聞
(
き
)
かすのだよ。
323
併
(
しか
)
しお
直筆
(
ぢきひつ
)
は
勿体
(
もつたい
)
ないから、
324
お
前
(
まへ
)
さまがここで
写
(
うつ
)
して
控
(
ひかへ
)
をとり、
325
お
直筆
(
ぢきひつ
)
をすぐ
返
(
かへ
)
して
下
(
くだ
)
され。
326
結構
(
けつこう
)
な
事
(
こと
)
が
書
(
か
)
いてあるぞや』
327
イル『ハイ、
328
それは
何
(
なに
)
より
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
ります。
329
早速
(
さつそく
)
写
(
うつ
)
さして
頂
(
いただ
)
きまして、
330
拝読
(
はいどく
)
さして
貰
(
もら
)
ひます』
331
高姫
『ヨシヨシ、
332
併
(
しか
)
しながら
読
(
よ
)
む
時
(
とき
)
には、
333
珍彦
(
うづひこ
)
さまの
館
(
やかた
)
へ
透
(
す
)
き
通
(
とほ
)
るやうな
声
(
こゑ
)
で、
334
読
(
よ
)
んで
下
(
くだ
)
されや』
335
イル
『
此
(
この
)
お
筆先
(
ふでさき
)
はまだズクズクに
濡
(
ぬ
)
れて
居
(
を
)
りますな、
336
只今
(
ただいま
)
お
書
(
か
)
きになつたのですか』
337
高姫
『ああさうだよ。
338
今
(
いま
)
書
(
か
)
いたとこだ。
339
結構
(
けつこう
)
なお
蔭
(
かげ
)
を、
340
ぢきぢきにお
前
(
まへ
)
に
授
(
さづ
)
けるのだから、
341
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
御
(
お
)
礼
(
れい
)
を
申
(
まを
)
しなさいや』
342
イル
『エエ
一寸
(
ちよつと
)
高姫
(
たかひめ
)
さまにお
伺
(
うかが
)
ひしておきますが、
343
此
(
この
)
お
筆先
(
ふでさき
)
は
今
(
いま
)
書
(
か
)
いたと
仰有
(
おつしや
)
いましたね。
344
それに
日附
(
ひづけ
)
は
去年
(
きよねん
)
の
八
(
はち
)
月
(
ぐわつ
)
ぢやありませぬか。
345
貴女
(
あなた
)
は
八月頃
(
はちぐわつごろ
)
には
此処
(
ここ
)
に
居
(
を
)
られたやうに
思
(
おも
)
ひませぬがなア』
346
高姫
『そこは
神界
(
しんかい
)
のお
仕組
(
しぐみ
)
があつて、
347
日日
(
ひにち
)
が
去年
(
きよねん
)
にしてあるのだよ』
348
イル
『さうすると、
349
貴女
(
あなた
)
は
杢助
(
もくすけ
)
さまに
教
(
をし
)
へて
貰
(
もら
)
つたのですな。
350
それを
教
(
をし
)
へて
貰
(
もら
)
うてから
書
(
か
)
いたと
云
(
い
)
はれちや、
351
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
が
落
(
お
)
ちると
思
(
おも
)
うて、
352
杢助
(
もくすけ
)
さまに
聞
(
き
)
くより
先
(
さき
)
に
知
(
し
)
つて
居
(
を
)
つたといふお
仕組
(
しぐみ
)
ですな。
353
成程
(
なるほど
)
流石
(
さすが
)
は
抜目
(
ぬけめ
)
のない
高姫
(
たかひめ
)
さまだワイ』
354
高姫
『コレ、
355
訳
(
わけ
)
も
知
(
し
)
らずに
何
(
なに
)
を
言
(
い
)
ふのだい。
356
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
様
(
さま
)
が、
357
去年
(
きよねん
)
からチヤンと
神界
(
しんかい
)
で
書
(
か
)
いて
置
(
お
)
かれたのだ。
358
肉体
(
にくたい
)
が
忙
(
いそが
)
しいものだから、
359
肉体
(
にくたい
)
の
方
(
はう
)
が
遅
(
おく
)
れて
居
(
を
)
つたのだよ。
360
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は
霊界
(
れいかい
)
の
事
(
こと
)
が
分
(
わか
)
らぬからそんな
理窟
(
りくつ
)
を
言
(
い
)
ふのだよ。
361
何事
(
なにごと
)
も
素直
(
すなほ
)
にいたすが
結構
(
けつこう
)
だぞえ。
362
それが
改心
(
かいしん
)
と
申
(
まを
)
すのだからな』
363
イル
『エツヘヘヘヘ、
364
さうでがすかなア、
365
イヤもう
恐
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
りました、
366
感心
(
かんしん
)
致
(
いた
)
しました、
367
驚
(
おどろ
)
きました、
368
呆
(
あき
)
れました、
369
愛想
(
あいさう
)
が……
尽
(
つ
)
きませぬでした。
370
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
いました』
371
高姫
『コレ、
372
イルさま、
373
ました ましたと、
374
そら
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
つてるのだい』
375
イル
『エーン、
376
あの、
377
何
(
なん
)
で
厶
(
ござ
)
います、
378
ましだ……と
云
(
い
)
うたのです。
379
つまり
要
(
えう
)
するに、
380
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
筆先
(
ふでさき
)
は、
381
厳
(
いづ
)
の
御霊
(
みたま
)
のお
筆先
(
ふでさき
)
よりも
幾層倍
(
いくそうばい
)
マシだと
思
(
おも
)
ひまして、
382
ヘヘヘヘ
一寸
(
ちよつと
)
口
(
くち
)
が
辷
(
すべ
)
りまして
厶
(
ござ
)
ります。
383
余
(
あま
)
り
立派
(
りつぱ
)
な
事
(
こと
)
が
書
(
か
)
いてあるので、
384
呆
(
あき
)
れたので
厶
(
ござ
)
います』
385
高姫
『コレ、
386
まだ
読
(
よ
)
みもせない
癖
(
くせ
)
に、
387
どんな
事
(
こと
)
が
書
(
か
)
いてある……
分
(
わか
)
るかなア』
388
イル
『ヘ、
389
エ、
390
そこがそれ、
391
天眼通
(
てんがんつう
)
が
利
(
き
)
くものですから、
392
眼光
(
がんくわう
)
紙背
(
しはい
)
に
徹
(
てつ
)
すと
申
(
まを
)
しまして、
393
チヤンと
分
(
わか
)
つて
居
(
を
)
ります』
394
高姫
『さう
慢心
(
まんしん
)
するものぢやありませぬぞや。
395
サ、
396
早
(
はや
)
く
写
(
うつ
)
していただきなさい』
397
と
少
(
すこ
)
しく
顔面
(
がんめん
)
に
誇
(
ほこ
)
りを
見
(
み
)
せて、
398
反身
(
そりみ
)
になつてゾロリゾロリと
天下
(
てんか
)
を
握
(
にぎ
)
つた
様
(
やう
)
な
態度
(
たいど
)
で、
399
おのが
居間
(
ゐま
)
へと
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
くのであつた。
400
(
大正一二・一・二三
旧一一・一二・七
松村真澄
録)
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