霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一八章 安国使(あんこくし)〔一三一二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第50巻 真善美愛 丑の巻 篇:第4篇 神犬の言霊 よみ(新仮名遣い):しんけんのことたま
章:第18章 安国使 よみ(新仮名遣い):あんこくし 通し章番号:1312
口述日:1923(大正12)年01月23日(旧12月7日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年12月7日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
珍彦館では、安彦と国彦が、珍彦、静子、楓、初稚姫らと懇談していた。安彦と国彦は、高姫が本部で副教主東野別に対して無礼を加え、あらゆる狂態を演じた上に、夜陰にまぎれて聖地を逃げ出したことを明かした。
そして、高姫が悪霊に左右されて祠の森にやってきて神業の妨害をすること甚だしいので、一時早く祠の森を放逐し、自転倒島に追い返すように、と教主八島主から命を受けてきたことを伝えた。
初稚姫は、高姫にきつく当たってはかえって心が荒んでしまうだろうから、ここは自分にまかせて今しばらく待ってほしい、そのように八島主に伝えてほしい、と安彦・国彦に懇願した。二人はひとまず、初稚姫の依頼を承諾した。
二人はまた、高姫がここに引っ張り込んでいる杢助と名乗る男についても尋ねた。それというのも、本物の初稚姫の父・杢助は、日々斎苑の館に出勤しているからだった。珍彦たち一同は、祠の森の杢助は、犬を嫌い、娘のはずの初稚姫にも会おうとせずに酒ばかり飲んでいると報告した。
楓は珍彦夫婦毒殺未遂について二人に報告した。初稚姫は正体を察しており、大雲山の妖幻坊という妖怪が自分の父に化けているのに間違いはないと明かした。しかしいきなり正体を暴いては高姫が恥をかくし、また追い散らしても他所で悪事を働くだろうから、時機を待っているのだと説明した。
安彦と国彦も、機会があれば妖怪を改心させようとしている初稚姫の意図を汲んで、その由を聖地に報告するために帰ることになった。そして沙汰があり次第、斎苑の館の決定を高姫に言い渡すよう、珍彦に念を押した。
安彦と国彦が、帰る前に祠の森を見て回りたいと言うので、珍彦は人を呼んだ。イルとサールがやってきて、二人を案内した。二人は宣伝歌を歌い神前に拝礼した。イルとサールの案内で森林を巡回し、妖幻坊が遭難した場所を実見し、こぼれ落ちた血糊が人間のものでないことを確認した。
その後、八尋殿で休憩し、杢助と高姫の居間を臨検しようと相談していた。一方杢助と高姫は、連れてきたハルを相手に、聖地からの使者について尋問を始めていた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-07-25 15:51:22 文字数:4893 OBC :rm5018
愛善世界社版:250頁 八幡書店版:第9輯 242頁 修補版: 校定版:255頁 普及版:126頁 初版: ページ備考:
001 珍彦館(うづひこやかた)には、002珍彦(うづひこ)、003静子(しづこ)、004楓(かへで)、005初稚姫(はつわかひめ)及(およ)び斎苑(いそ)の館(やかた)の直使(ちよくし)なる安彦(やすひこ)、006国彦(くにひこ)の六(ろく)人(にん)がヒソビソと首(かうべ)を鳩(あつ)めて懇談(こんだん)に耽(ふけ)つて居(ゐ)る。
007珍彦(うづひこ)『遥々(はるばる)と大神(おほかみ)様(さま)よりの御(おん)使(つかひ)、008御(ご)苦労(くらう)に存(ぞん)じます。009何分(なにぶん)至(いた)らぬ吾々(われわれ)、010大役(たいやく)を仰(おほ)せつけられ、011力(ちから)にあまり、012勤(つと)めも碌(ろく)に出来(でき)ませぬので、013定(さだ)めし八島主(やしまぬしの)命(みこと)様(さま)にも御(ご)迷惑(めいわく)の事(こと)で厶(ござ)いませう。014定(さだ)めて吾々(われわれ)の不都合(ふつがふ)をお叱(しか)りのためのお使(つかひ)で厶(ござ)いませうなア』
015安彦(やすひこ)『イヤイヤ決(けつ)して左様(さやう)では厶(ござ)らぬ。016貴方(あなた)の赤心(まごころ)は誰(たれ)知(し)らぬ者(もの)も厶(ござ)いませぬ。017教主(けうしゆ)様(さま)も大変(たいへん)にお喜(よろこ)びになつて居(ゐ)ますから、018御(ご)安心(あんしん)下(くだ)さいませ』
019珍彦『左様(さやう)で厶(ござ)いますか、020不都合(ふつがふ)な吾々(われわれ)を、021広(ひろ)き心(こころ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)し下(くだ)さいまして誠(まこと)に畏(おそ)れ多(おほ)い事(こと)で厶(ござ)います』
022静子(しづこ)『何分(なにぶん)とも宜(よろ)しく御(お)願(ねが)ひ致(いた)します』
023安彦『ハイ、024よきに取計(とりはか)らひませう。025先(ま)づ先(ま)づ御(ご)安心(あんしん)下(くだ)さいませ』
026初稚(はつわか)『安彦(やすひこ)様(さま)、027今度(こんど)お出(い)でになりましたのは、028あの高姫(たかひめ)さまの一件(いつけん)で厶(ござ)いませうな』
029安彦『お察(さつ)しの通(とほ)り、030彼(かれ)高姫(たかひめ)は斎苑(いそ)の館(やかた)に於(おい)て、031副教主(ふくけうしゆ)東野別(あづまのわけ)に対(たい)して無礼(ぶれい)を加(くは)へ、032其(その)上(うへ)所在(あらゆる)狂態(きやうたい)を演(えん)じ、033夜陰(やいん)に紛(まぎ)れて館(やかた)を抜(ぬ)け出(だ)し、034直様(すぐさま)此(この)館(やかた)に逃(に)げ来(きた)り、035又(また)もや悪霊(あくれい)に左右(さいう)されて、036神業(しんげふ)の妨害(ばうがい)を致(いた)すこと最(もつと)も甚(はなは)だしければ、037一(いち)時(じ)も早(はや)く此(この)館(やかた)を放逐(はうちく)し、038自転倒(おのころ)島(じま)へ追(お)つ帰(かへ)せとの御(ご)命令(めいれい)で厶(ござ)る』
039初稚姫『それは嘸(さぞ)高姫(たかひめ)様(さま)がお驚(おどろ)き遊(あそ)ばす事(こと)で厶(ござ)いませう。040何(なん)とか穏便(をんびん)に高姫(たかひめ)様(さま)に改心(かいしん)して貰(もら)ひ、041此処(ここ)に暫(しばら)く御用(ごよう)をさしてあげる事(こと)は出来(でき)ますまいかなア』
042安彦『貴女(あなた)のお言葉(ことば)ならば、043決(けつ)して違背(ゐはい)は厶(ござ)いますまい。044併(しか)しながら吾々(われわれ)は教主(けうしゆ)のお使(つかひ)にて参(まゐ)りしものなれば、045独断(どくだん)にて如何(いかん)ともする事(こと)は出来(でき)ませぬ』
046初稚姫『成程(なるほど)それは御尤(ごもつと)もで厶(ござ)います。047教主(けうしゆ)様(さま)の御(ご)命令(めいれい)とあらば致(いた)し方(かた)厶(ござ)りませぬ。048併(しか)しながら茲(ここ)暫(しばら)くの間(あひだ)私(わたし)にお任(まか)せ下(くだ)さるまいか。049何(なん)とか致(いた)して高姫(たかひめ)さまの身魂(みたま)を救(すく)ひたいもので厶(ござ)います。050今(いま)放逐(はうちく)すれば益々(ますます)心(こころ)荒(すさ)み、051上(あ)げも下(おろ)しもする事(こと)が出来(でき)ないやうになるかも知(し)れませぬ。052何卒(どうぞ)八島主(やしまぬし)様(さま)にお会(あ)ひでしたら、053茲(ここ)暫(しばら)く初稚姫(はつわかひめ)にお任(まか)せ下(くだ)さるやうお願(ねが)ひ下(くだ)さいませぬか』
054安彦『ハイ承知(しようち)致(いた)しました。055直様(すぐさま)立(た)ち帰(かへ)り御(ご)猶予(いうよ)を願(ねが)つて見(み)ませう』
056初稚姫『早速(さつそく)の御(ご)承知(しようち)、057有難(ありがた)う存(ぞん)じます』
058国彦(くにひこ)『イヤ珍彦(うづひこ)殿(どの)、059高姫(たかひめ)殿(どの)は何(なん)だか怪(あや)しき男(をとこ)を引(ひ)き入(い)れて居(ゐ)られるとか聞(き)きましたが、060それは何者(なにもの)で厶(ござ)いますか』
061珍彦『ハイ、062真偽(しんぎ)の程(ほど)は吾々(われわれ)には分(わか)りませぬが、063どうも怪(あや)しいもので厶(ござ)います。064斎苑(いそ)の館(やかた)から参(まゐ)つた、065杢助(もくすけ)だと云(い)つて居(を)られますが、066どうしても初稚姫(はつわかひめ)様(さま)にお会(あ)ひなさらぬので厶(ござ)います。067それが第一(だいいち)私(わたし)の不思議(ふしぎ)とする所(ところ)、068一度(いちど)初稚姫(はつわかひめ)様(さま)にお尋(たづ)ねして見(み)たいと思(おも)うて居(ゐ)ますが、069余(あま)り失礼(しつれい)だと思(おも)ひ、070お尋(たづ)ねも致(いた)さず控(ひか)へて居(を)りました』
071国彦『ハテナ、072杢助(もくすけ)総務(そうむ)は日々(にちにち)斎苑(いそ)の館(やかた)へ御(ご)出勤(しゆつきん)になつてゐます。073弥(いよいよ)もつて不思議(ふしぎ)の至(いた)りで厶(ござ)る。074何(なに)か怪(あや)しい点(てん)はお認(みと)めになりませぬかな』
075珍彦『ハイ、076何(なん)だか存(ぞん)じませぬが、077大変(たいへん)に犬(いぬ)がお嫌(きら)ひださうで厶(ござ)います。078此(この)間(あひだ)も森(もり)を散歩(さんぽ)して躓(つまづ)き眉間(みけん)を石(いし)で打(う)つたと仰(おほ)せられましたが、079一寸(ちよつと)私(わたし)が窺(うかが)ひますのに、080顛倒(こけ)て打(う)つた傷(きず)ではなく、081犬(いぬ)に噛(か)まれたやうな深(ふか)い歯形(はがた)が附(つ)いて居(を)りました』
082国彦『成程(なるほど)、083そいつは益々(ますます)怪(あや)しう厶(ござ)る。084安彦(やすひこ)殿(どの)、085如何(いかが)思召(おぼしめ)されますか。086こりや聞(き)き捨(ず)てにはなりますまい。087一(ひと)つ正体(しやうたい)を調(しら)べたいものですなア』
088安彦『サア、089吾々(われわれ)はお使(つかひ)に参(まゐ)つたのは、090何(なに)も彼(か)も一切(いつさい)を調(しら)べて来(こ)いとの事(こと)なれば、091高姫(たかひめ)は申(まを)すに及(およ)ばず、092杢助(もくすけ)と名乗(なの)る人物(じんぶつ)を能(よ)く調(しら)べて報告(はうこく)を致(いた)さねばなりますまい』
093国彦(くにひこ)『左様(さやう)で厶(ござ)る、094直様(すぐさま)着手(ちやくしゆ)致(いた)しませう』
095珍彦(うづひこ)『一寸(ちよつと)お待(ま)ち下(くだ)さいませ。096余程(よほど)考(かんが)へなくては、097先方(せんぱう)に悟(さと)られては又(また)逃(に)げ出(だ)すかも知(し)れませぬから、098一寸(ちよつと)私(わたし)が様子(やうす)を伺(うかが)つて参(まゐ)りませう』
099楓(かへで)『あのお直使(ちよくし)様(さま)、100高姫(たかひめ)さまと夫婦(ふうふ)だと云(い)つて、101それはそれは朝(あさ)から晩(ばん)迄(まで)、102酒(さけ)ばかり呑(の)んで一寸(ちよつと)も事務(じむ)は見(み)ないのですよ。103そしてお父(とう)さまやお母(かあ)さまを毒散(どくさん)と云(い)ふ薬(くすり)で殺(ころ)さうとしたのですよ。104けれども文珠(もんじゆ)菩薩(ぼさつ)様(さま)が夢(ゆめ)に現(あら)はれて神丹(しんたん)を下(くだ)さいましたので、105お蔭(かげ)で毒(どく)が利(き)かなかつたのです。106さうでなければ、107私(わたし)の両親(りやうしん)はとうの昔(むかし)になくなつて居(を)るのです。108彼(あ)んな奴(やつ)は早(はや)くどうかして貰(もら)はなくては、109本当(ほんたう)の事(こと)、110一目(ひとめ)も寝(ね)られないのです。111初稚姫(はつわかひめ)のお父(とう)さまだなんて云(い)ひながら、112正体(しやうたい)が現(あら)はれるのが怖(おそ)ろしさに一度(いちど)も姫(ひめ)様(さま)に会(あ)はず、113此(この)頃(ごろ)は初稚姫(はつわかひめ)様(さま)を此(この)館(やかた)に閉(と)ぢ込(こ)めて了(しま)ひ、114自分(じぶん)の居間(ゐま)には高姫(たかひめ)と二人(ふたり)で誰(たれ)も通(とほ)さないのです。115きつとあいつは妖怪(ばけもの)に違(ちが)ひありませぬ。116そして高姫(たかひめ)さまは、117妖怪(ばけもの)を杢助(もくすけ)さまと思(おも)つて居(ゐ)るのです。118斎苑(いそ)の館(やかた)の杢助(もくすけ)さまが彼方(あちら)にもあり、119此方(こちら)にもある道理(だうり)がないぢやありませぬか』
120安彦(やすひこ)『ハテ、121聞(き)けば聞(き)く程(ほど)不思議(ふしぎ)千万(せんばん)で厶(ござ)る。122これはテツキリ妖怪(ばけもの)に間違(まちが)ひ厶(ござ)いますまい。123初稚姫(はつわかひめ)殿(どの)、124貴女(あなた)のお考(かんが)へは如何(いかが)で厶(ござ)います』
125初稚姫『私(わたし)の考(かんが)へでは杢助(もくすけ)と名乗(なの)る怪物(くわいぶつ)は、126大雲山(たいうんざん)に居(を)る妖幻坊(えうげんばう)と云(い)ふ悪魔(あくま)に違(ちが)ひないと考(かんが)へます。127何(なん)と云(い)つても妾(わたし)の愛犬(あいけん)スマートが怖(こは)くて仕様(しやう)がないので厶(ござ)いますもの』
128 安彦(やすひこ)は二歩(ふたあし)三歩(みあし)ニジリ寄(よ)り、129目(め)を見張(みは)り、130口(くち)を尖(とが)らしながら、
131安彦『姫(ひめ)様(さま)、132それがお分(わか)りになつて居(を)るのに、133何故(なぜ)今(いま)まで放任(はうにん)しておかれたのですか。134早(はや)くスマートを使嗾(けし)かけて亡(ほろ)ぼしてやつたらどうですか。135さうしたら高姫(たかひめ)も目(め)が醒(さ)めるでは厶(ござ)いませぬか』
136初稚姫『さうして見(み)ようかとも思(おも)ひましたが、137俄(にはか)に左様(さやう)な事(こと)を致(いた)せば、138高姫(たかひめ)様(さま)が大変(たいへん)な恥(はぢ)をお掻(か)き遊(あそ)ばすなり、139又(また)失望(しつばう)落胆(らくたん)の程(ほど)が計(はか)り知(し)られないと思(おも)ひまして、140ボツボツと気(き)のつくやうと、141忙(いそ)がしい体(からだ)をここに留(とど)めて、142時機(じき)を待(ま)つて居(を)るので厶(ござ)います』
143安彦『姫(ひめ)様(さま)、144そんな、145グヅグヅして居(ゐ)る場合(ばあひ)では厶(ござ)いませぬぞ。146吾々(われわれ)両人(りやうにん)が承(うけたま)はりました以上(いじやう)、147此(この)儘(まま)帰(かへ)る訳(わけ)には参(まゐ)りませぬ、148サア是(これ)から妖怪(えうくわい)征伐(せいばつ)に着手(ちやくしゆ)致(いた)しますから、149何卒(どうぞ)拙者(せつしや)等(ら)両人(りやうにん)にお任(まか)せを願(ねが)ひます』
150初稚姫『あれしきの妖怪(ばけもの)を倒(たふ)す位(くらゐ)は朝飯前(あさめしまへ)の仕事(しごと)で厶(ござ)います。151スマートだけでも立派(りつぱ)に追(お)ひ散(ち)らすでせう。152併(しか)しながら彼(かれ)を追(お)ひ散(ち)らしてみた所(ところ)で、153又(また)他(た)の地方(ちはう)へ往(い)つて悪事(あくじ)をなすに違(ちが)ひありませぬ。154それ故(ゆゑ)に暫(しばら)く此処(ここ)に留(と)め置(お)き、155心(こころ)の底(そこ)から彼(か)の妖怪(えうくわい)を改心(かいしん)させようと存(ぞん)じ、156光(ひかり)を和(やは)らげて時機(じき)を待(ま)つて居(ゐ)るのですよ』
157国彦(くにひこ)『どうも腕(うで)が鳴(な)つて仕方(しかた)がないぢやないか。158もし初稚姫(はつわかひめ)様(さま)、159そんな気(き)の永(なが)い事(こと)を云(い)はずに、160私(わたし)にお任(まか)せ下(くだ)さいませ。161きつと私(わたし)が退治(たいぢ)てお目(め)にかけませう』
162初稚姫『短気(たんき)は損気(そんき)、163まア待(ま)つて下(くだ)さいませ。164お直使(ちよくし)様(さま)のお言葉(ことば)を背(そむ)いては済(す)みませぬが、165何(なん)と云(い)つても妾(わたし)の父(ちち)と云(い)つて現(あら)はれたので厶(ござ)いますから、166仮令(たとへ)怪物(くわいぶつ)と雖(いへど)も吾(わが)父(ちち)と名(な)のついたものを、167さう無闇(むやみ)に苦(くる)しめる事(こと)は情(じやう)に於(おい)てすみませぬ。168仮令(たとへ)贋者(にせもの)にもせよ、169父(ちち)の名(な)に於(おい)てどうして敵対(てきた)へませうか。170仮令(たとへ)貴方(あなた)が退治(たいぢ)なさつても、171この初稚(はつわか)の耳(みみ)に入(い)つた以上(いじやう)は何処(どこ)迄(まで)もお止(と)め致(いた)します。172妾(わらは)が知(し)らぬ間(ま)に退治(たいぢ)遊(あそ)ばすのなら已(や)むを得(え)ませぬが、173もう只今(ただいま)となつては、174貴方(あなた)も妾(わらは)に対(たい)し左様(さやう)な惨酷(ざんこく)な事(こと)は出来(でき)ますまい』
175安彦(やすひこ)『何(なん)と親(おや)と云(い)ふものは偉(えら)いものだな。176仮令(たとへ)如何(いか)なる悪魔(あくま)でも親(おや)の名(な)を名乗(なの)つて居(を)るものを苦(くる)しめる事(こと)は出来(でき)ないとは、177実(じつ)に人情(にんじやう)の深(ふか)いお方(かた)だ。178いや孝行(かうかう)の御(ご)精神(せいしん)だ。179いやもう感(かん)じ入(い)りました』
180初稚姫『それ故(ゆえ)何処(どこ)迄(まで)も赤心(まごころ)を尽(つく)して其(その)妖怪(ばけもの)を改心(かいしん)させ、181救(すく)うてやりたいものです。182妾(わらは)もあの妖怪(ばけもの)から吾(わが)娘(むすめ)と云(い)はれたのですから、183娘(むすめ)としての赤心(まごころ)を尽(つく)したいと存(ぞん)じます。184斯様(かやう)な妖怪(ばけもの)に、185仮令(たとへ)言葉(ことば)の上(うへ)でも娘(むすめ)と云(い)はれるのは何(なに)か因縁(いんねん)があるのでせう。186何(ど)うか愛善(あいぜん)の徳(とく)を以(もつ)て彼(かれ)を救(すく)ふべく、187試験(しけん)問題(もんだい)をお与(あた)へ下(くだ)さつたのだらうと存(ぞん)じます』
188安彦『然(しか)らば是非(ぜひ)に及(およ)びませぬ。189イヤ国彦(くにひこ)殿(どの)、190これにてお別(わか)れ致(いた)さうぢやないか』
191初稚姫『何(ど)うも遠方(ゑんぱう)を御(ご)苦労(くらう)様(さま)で厶(ござ)いました。192高姫(たかひめ)さまの件(けん)については今(いま)一応(いちおう)妾(わらは)の意見(いけん)を申上(まをしあ)げ、193御(ご)詮議(せんぎ)の上(うへ)暫(しば)しの御(ご)猶予(いうよ)あらむ事(こと)をお願(ねが)ひ申(まを)します。194そして否(いな)やの御(ご)返事(へんじ)は、195無線(むせん)霊話(れいわ)をもつて妾(わらは)の耳(みみ)迄(まで)お達(たつ)し下(くだ)さいますれば、196結構(けつこう)で厶(ござ)います』
197安彦『イヤ委細(ゐさい)承知(しようち)致(いた)しました。198珍彦(うづひこ)殿(どの)、199然(しか)らばこれにて御免(ごめん)蒙(かうむ)りませう。200随分(ずいぶん)貴方(あなた)も御(ご)苦労(くらう)で厶(ござ)います。201初稚姫(はつわかひめ)様(さま)に御(ご)返事(へんじ)のあり次第(しだい)、202貴方(あなた)は祠(ほこら)の森(もり)の神司(かむづかさ)の職権(しよくけん)を以(もつ)て高姫(たかひめ)に申渡(まをしわた)しをなさるやうに、203呉(く)れ呉(ぐ)れも申渡(まをしわた)しますぞや。204決(けつ)して遠慮(ゑんりよ)はいりませぬから、205どしどしおやりなさいませ』
206珍彦『ハイ委細(ゐさい)承知(しようち)致(いた)しました。207それを承(うけたま)はらば、208拙者(せつしや)も職権(しよくけん)を以(もつ)て御(ご)命令(めいれい)通(どほ)り、209何(なん)の憚(はばか)る所(ところ)なく断行(だんかう)致(いた)しますから、210何卒(どうぞ)御(ご)安心(あんしん)下(くだ)さいませ。211此(この)珍彦(うづひこ)も何分(なにぶん)神(かみ)様(さま)のお道(みち)が充分(じうぶん)に分(わか)つてゐないものですから、212つひ高姫(たかひめ)さまの口先(くちさき)に操(あやつ)られ、213いつも屁古(へこ)まされ通(どほ)しですが、214お直使(ちよくし)を通(とほ)しての教主(けうしゆ)様(さま)のお言葉(ことば)、215決(けつ)して背(そむ)きは致(いた)しませぬ』
216安彦『イヤそれ聞(き)いて安心(あんしん)致(いた)しました』
217国彦(くにひこ)『イヤ安彦(やすひこ)殿(どの)、218折角(せつかく)出張(しゆつちやう)致(いた)したのだから、219御(ご)本殿(ほんでん)は申(まを)すに及(およ)ばず、220此(この)館(やかた)は一間(ひとま)も残(のこ)らず見分(けんぶん)致(いた)し、221境内(けいだい)を一巡(いちじゆん)致(いた)して帰(かへ)らうでは厶(ござ)らぬか』
222珍彦(うづひこ)『然(しか)らば幹部(かんぶ)の役員(やくゐん)に申付(まをしつ)けて御(ご)案内(あんない)を致(いた)させませう』
223安彦(やすひこ)『イヤそれは有難(ありがた)い。224然(しか)らば二人(ふたり)許(ばか)り案内(あんない)を願(ねが)ひませうかなア』
225珍彦『承知(しようち)致(いた)しました』
226と云(い)ひながら、227磬板(けいばん)をカンカンと打(う)つた。228イル、229サールの両人(りやうにん)は暫(しばら)くして装束(しやうぞく)をつけ珍彦(うづひこ)が館(やかた)に入(い)り来(きた)り、
230イル、サール『今(いま)「二人(ふたり)来(こ)い」と云(い)ふお報(しら)せで厶(ござ)いましたので、231直様(すぐさま)装束(しやうぞく)を調(ととの)へ罷(まか)り出(で)ました。232お直使(ちよくし)様(さま)に対(たい)し何(なに)か御用(ごよう)が厶(ござ)いますれば、233承(うけたま)はりませう』
234珍彦(うづひこ)『いや、235イル、236サール両人(りやうにん)様(さま)、237御(ご)苦労(くらう)で厶(ござ)いました。238外(ほか)でもありませぬが、239お直使(ちよくし)様(さま)お二人(ふたり)を一度(いちど)御(ご)本殿(ほんでん)に御(ご)案内(あんない)申上(まをしあ)げて下(くだ)さい。240そして境内(けいだい)を叮嚀(ていねい)に御(ご)案内(あんない)申上(まをしあ)げ、241最後(さいご)に杢助(もくすけ)様(さま)の御(お)居間(ゐま)や、242高姫(たかひめ)様(さま)のお居間(ゐま)へ御(ご)案内(あんない)なさるが宜(よろ)しいぞや』
243イル『ハイ承知(しようち)致(いた)しました。244サア御(お)直使(ちよくし)様(さま)、245吾々(われわれ)両人(りやうにん)が御(ご)案内(あんない)致(いた)しませう』
246 安彦(やすひこ)、247国彦(くにひこ)両人(りやうにん)は軽(かる)く目礼(もくれい)しながら、248イル、249サールの後(あと)に従(したが)ひ御(ご)本殿(ほんでん)に案内(あんない)された。
250 茲(ここ)に両人(りやうにん)は恭(うやうや)しく神言(かみごと)を奏上(そうじやう)し、251終(をは)つて宣伝歌(せんでんか)を手向(たむ)けた。252安彦(やすひこ)は歌(うた)ふ。
253安彦『厳(いづ)の御霊(みたま)や瑞御霊(みづみたま)
254清(きよ)き尊(たふと)き大御(おほみ)稜威(いづ)
255現(あら)はれまして今(いま)此処(ここ)に
256河鹿(かじか)峠(たうげ)に名(な)も高(たか)き
257祠(ほこら)の森(もり)の真秀良場(まほらば)に
258千木(ちぎ)高(たか)知(し)りて現(あ)れませる
259国治立(くにはるたち)の大御神(おほみかみ)
260月(つき)の大神(おほかみ)日(ひ)の御神(みかみ)
261バラモン教(けう)の司神(つかさがみ)
262大国彦(おほくにひこ)を初(はじ)めとし
263盤古(ばんこ)神王(しんわう)塩長(しほなが)の
264彦(ひこ)の命(みこと)や其(その)外(ほか)の
265百(もも)の神(かみ)等(たち)斎(いつ)かひて
266常世(とこよ)の暗(やみ)を晴(は)らさむと
267顕(あ)れませるこそ尊(たふと)けれ
268朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
269月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
270仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)むとも
271曲津(まがつ)は如何(いか)に荒(すさ)ぶとも
272皇(すめ)大神(おほかみ)の御稜威(みいづ)もて
273此(この)世(よ)の曲(まが)を悉(ことごと)く
274伊吹(いぶき)払(はら)ひに払(はら)ひのけ
275浦安国(うらやすくに)の浦安(うらやす)く
276守(まも)らせ給(たま)へ惟神(かむながら)
277神(かみ)の詔(みこと)を畏(かしこ)みて
278産土山(うぶすなやま)の聖場(せいぢやう)より
279参(まゐ)り来(き)ませる安彦(やすひこ)や
280国彦司(くにひこつかさ)と諸共(もろとも)に
281御前(みまへ)に畏(かしこ)み願(ね)ぎまつる
282ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
283御霊(みたま)幸倍(さちはへ)ましませよ』
284 国彦(くにひこ)は又(また)歌(うた)ふ。
285国彦『吾(われ)は国彦(くにひこ)宣伝使(せんでんし)
286高取村(たかとりむら)の与太彦(よたひこ)と
287名(な)を知(し)られたる与太(よた)男(をとこ)
288弥次彦(やじひこ)さまと諸共(もろとも)に
289コーカス参(まゐ)りの其(その)途中(とちう)
290お竹(たけ)の宿(やど)に泊(とま)る折(をり)
291日出(ひので)の別(わけ)の宣伝使(せんでんし)
292部下(ぶか)に仕(つか)へる神司(かむづかさ)
293此処(ここ)に現(あら)はれましまして
294駒(こま)に跨(また)がりいそいそと
295小鹿峠(こじかたうげ)の麓(ふもと)まで
296来(きた)る折(をり)しも音彦(おとひこ)の
297神(かみ)の司(つかさ)と諸共(もろとも)に
298吾(われ)等(ら)二人(ふたり)は残(のこ)されて
299ウラルの道(みち)の目付(めつけ)等(ら)に
300取囲(とりかこ)まれて逃(に)ぐる折(をり)
301小鹿峠(こじかたうげ)の峻坂(しゆんぱん)に
302前後(ぜんご)に敵(てき)を受(う)けしより
303千尋(ちひろ)の谷間(たにま)に落(お)ち込(こ)んで
304忽(たちま)ち幽冥(いうめい)の人(ひと)となり
305三途(せうづ)の川(かは)まで到着(たうちやく)し
306脱衣婆(だついば)さまにいろいろと
307小言(こごと)八百(はつぴやく)並(なら)べられ
308河(かは)を渡(わた)りて銅木像(どうもくざう)
309其(その)外(ほか)怪(あや)しき者(もの)共(ども)に
310二度(ふたたび)三度(みたび)出会(しゆつくわい)し
311茲(ここ)に漸(やうや)く身魂(みたま)をば
312研(みが)きすまして宣伝使(せんでんし)
313仕(つか)へまつりし国彦(くにひこ)ぞ
314ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
315神(かみ)の恵(めぐみ)を身(み)に浴(あ)びて
316今(いま)は尊(たふと)き斎苑(いそ)館(やかた)
317司(つかさ)の群(むれ)に加(くは)はりて
318教(をしへ)の道(みち)を宣伝(せんでん)し
319帰(かへ)りて見(み)れば此(この)度(たび)の
320祠(ほこら)の森(もり)の直使(ちよくし)をば
321云(い)ひつけられし尊(たふと)さよ
322此(この)御社(みやしろ)に現(あ)れませる
323皇(すめ)大神(おほかみ)よ百神(ももがみ)よ
324何卒(なにとぞ)吾(わが)身(み)の使命(しめい)をば
325完全(うまら)に委曲(つばら)に復(かへ)り命(ごと)
326申(まを)させたまへ惟神(かむながら)
327尊(たふと)き神(かみ)の御(おん)前(まへ)に
328安彦(やすひこ)国彦(くにひこ)両人(りやうにん)が
329畏(かしこ)み畏(かしこ)み願(ね)ぎまつる
330ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
331神(かみ)のみたまの幸(さち)はひて
332これの館(やかた)に住(す)まひたる
333妖幻坊(えうげんばう)の醜霊(しこたま)や
334金毛(きんまう)九尾(きうび)の醜狐(しこぎつね)
335一日(ひとひ)も早(はや)く大神(おほかみ)の
336誠(まこと)の道(みち)に目(め)を醒(さ)まし
337悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)をひるがへし
338世界(せかい)に曲(まが)を行(おこな)はず
339世人(よびと)を救(すく)ふ御柱(みはしら)と
340ならさせたまへ惟神(かむながら)
341神(かみ)かけ念(ねん)じ奉(たてまつ)る』
342と歌(うた)ひ終(をは)り、343恭(うやうや)しく拝礼(はいれい)をして階段(かいだん)を下(くだ)り、344又(また)もやイル、345サールの案内(あんない)に連(つ)れて広(ひろ)き森林内(しんりんない)を隈(くま)なく巡視(じゆんし)し、346妖幻坊(えうげんばう)が遭難場(さうなんば)をも詳(くは)しく実見(じつけん)し、347落(お)ちこぼれたる血糊(ちのり)の、348人間(にんげん)の血(ち)にあらざる事(こと)迄(まで)よく確(たしか)め、349終(をは)つて八尋殿(やひろどの)に上(あが)り、350暫(しば)し休憩(きうけい)の後(のち)、351杢助(もくすけ)、352高姫(たかひめ)の居間(ゐま)を臨検(りんけん)せむと相談(さうだん)しながら茶(ちや)を啜(すす)つて居(ゐ)た。
353 杢助(もくすけ)、354高姫(たかひめ)は安彦(やすひこ)、355国彦(くにひこ)が今(いま)や吾(わが)居間(ゐま)に臨検(りんけん)に来(きた)るとは、356神(かみ)ならぬ身(み)の知(し)る由(よし)もなく、357ハルを相手(あひて)にいろいろと訊問(じんもん)を始(はじ)めて居(ゐ)た。
358(大正一二・一・二三 旧一一・一二・七 加藤明子録)
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