霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一六章 鷹鷲掴(たかわしづかみ)〔一三一〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第50巻 真善美愛 丑の巻 篇:第4篇 神犬の言霊 よみ(新仮名遣い):しんけんのことたま
章:第16章 鷹鷲掴 よみ(新仮名遣い):たかわしづかみ 通し章番号:1310
口述日:1923(大正12)年01月23日(旧12月7日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年12月7日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
イルは大速力で筆先を写し終おわると、三宝に乗せて高姫のところに持ってきた。そしてわざと荘重な言葉使いで神がかりの真似をして高姫をからかうが、高姫はイルが気違いになったと悪口して三宝をひったくろうとした。
イルはわざと三宝を握りしめたので、脚が音を立てて二つに割れた。その勢いで筆先は宙をかすめて炭火の中へぱっと落ち、たちまち三冊の筆先は煙となってしまった。高姫は怒ったが、イルは神徳が高いから筆先から煙の竜が出て天上に立ち上ったのだととっさにゴマをすった。高姫は勢いをそがれてしまった。
高姫は気を取り直して筆先の写しを持ってくるようにイルに命じたが、イルは、筆先のご神徳が高すぎて後光がさし、写せなかったと高姫をからかった。イルの上げては落とすからかいに、最後には高姫は顔を真っ赤にして去るようにと怒鳴った。
イルが受付に戻ると、ハル、テル、イク、サールの四人が筆先の写しをげらげら笑いながら読んでいる。イルは、高姫の態度が気に食わなかったから、筆先の元の本が燃えてしまっても、筆先を写してあることを言わなかったのだと伝えた。
それを聞いたハルたちは面白がって、ひとつここで筆先を大声で読んでやろうと言い出した。イルも賛成し、大声で読み始めた。筆先には、これは火にも焼けない水にも溺れないと書いてあったことを引いて、一同は面白がっている。
そこへ高姫が筆先の朗読の声を聞きつけてやってきて、今義理天上の悪口を言っていたのではないか、と声をかけた。筆先を読んでいたのではないかと問う高姫に対し、イルは日の出神様が体内に入り、しばらくするとあんなことを自分の口から仰ったのだととぼけた。
イルは、高姫の注意をそらしたすきに、尻の下に隠していた筆先の写しを懐に入れた。しかし高姫はそれに気が付いて懐から筆先の写しを掴みだすと、イルをやたらに打ち据えて、憎々しげに高笑いし、杢助と相談して処分すると捨て台詞をして去って行った。
五人をそれを見送って、頭をかき冷や汗を拭きながら笑っている。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-07-23 19:06:29 文字数:6285 OBC :rm5016
愛善世界社版:221頁 八幡書店版:第9輯 230頁 修補版: 校定版:226頁 普及版:111頁 初版: ページ備考:
001 イルは冷笑(れいせう)を泛(うか)べながら、002高姫(たかひめ)の御(ご)機嫌取(きげんと)りの為(ため)に、003一間(ひとま)に入(はい)つて大速力(だいそくりよく)にて書(か)き写(うつ)し、004直様(すぐさま)に直筆(ぢきひつ)を右(みぎ)の手(て)にひん握(にぎ)り、005左(ひだり)の手(て)に三宝(さんぱう)を掴(つか)んで高姫(たかひめ)の居間(ゐま)の前(まへ)まで到(いた)り、006元(もと)の通(とほ)りキチンと叮嚀(ていねい)にのせ、007目八分(めはちぶ)に捧(ささ)げ、008襖(ふすま)の外(そと)から言葉(ことば)もいと荘重(さうちよう)に、
009イル『日出(ひのでの)神(かみ)の義理(ぎり)天上(てんじやう)、010只今(ただいま)御(ご)入来(じゆらい)、011アイヤ、012高姫(たかひめ)殿(どの)、013此(この)襖(ふすま)をあけめされよ』
014と呼(よ)ばはつた。015高姫(たかひめ)は余(あま)り荘重(さうちよう)な言葉(ことば)に、016ハテ不思議(ふしぎ)と襖(ふすま)をサツとあけ見(み)れば、017イルは筆先(ふでさき)を載(の)せた三宝(さんぱう)を恭(うやうや)しく捧(ささ)げ立(た)つてゐる。
018高姫『何(なん)だ、019お前(まへ)はイルぢやないか。020腹(はら)の悪(わる)い、021私(わたし)を吃驚(びつくり)さしたがなア。022ヘン日出(ひのでの)神(かみ)なんて、023偉(えら)さうに云(い)ふものぢやないワ。024日出(ひのでの)神(かみ)様(さま)は此(この)高姫(たかひめ)の体内(たいない)にお鎮(しづ)まり遊(あそ)ばすぞや。025お前(まへ)さまのやうなお方(かた)に、026何(ど)うしてお鎮(しづ)まり遊(あそ)ばすものか』
027 イルは立(た)ちはだかつたまま、
028イル『アイヤ、029高姫(たかひめ)、030よつく承(うけたま)はれ。031日出(ひのでの)神(かみ)は汝(なんぢ)が体内(たいない)に宿(やど)ることもあり、032又(また)筆先(ふでさき)に宿(やど)る事(こと)もあるぞよ。033このイルに持(も)たせた筆先(ふでさき)は即(すなは)ち日出(ひのでの)神(かみ)の御(ご)神体(しんたい)であるぞよ。034或(ある)時(とき)は高姫(たかひめ)の体内(たいない)に宿(やど)り、035或(ある)時(とき)は筆先(ふでさき)に宿(やど)り、036イルの肉体(にくたい)を以(もつ)て之(これ)を守(まも)らせあれば、037只今(ただいま)のイルは即(すなは)ち義理(ぎり)天上(てんじやう)日出(ひのでの)神(かみ)の生宮(いきみや)であるぞよ。038粗末(そまつ)に致(いた)すと罰(ばち)が当(あた)るぞよ。039取違(とりちが)ひを致(いた)すでないぞよ。040アフンと致(いた)して目眩(めまひ)が来(く)るぞよ。041日出(ひのでの)神(かみ)に間違(まちが)ひはないぞよ。042おちぶれ者(もの)を侮(あなど)ることはならぬぞよ。043何(ど)んな御(お)方(かた)に御用(ごよう)がさしてあるか分(わか)らぬぞよ』
044高姫『あああ、045とうと、046日出(ひのでの)神(かみ)様(さま)の御(ご)神徳(しんとく)に打(う)たれて半気違(はんきちが)ひになりよつた。047これだから猫(ねこ)に小判(こばん)、048豚(ぶた)に真珠(しんじゆ)といふのだ。049サ早(はや)く此方(こちら)へかしなされ、050日出(ひのでの)神(かみ)が二人(ふたり)も出来(でき)たら治(をさ)まらぬからな』
051と矢庭(やには)にパツと引(ひつ)たくらうとする。052イルはワザとに三宝(さんぱう)を握(にぎ)り締(し)めた。053高姫(たかひめ)は力(ちから)をこめて、054グツと引(ひ)いた拍子(ひやうし)に、055三宝(さんぱう)の表(おもて)と脚(あし)とがメキメキと音(おと)を立(た)てて二(ふた)つになつた。056其(その)勢(いきほひ)に筆先(ふでさき)は宙(ちう)を掠(かす)めて、057ゴンゴンといこつてゐた[※「いこって」…「いこる」は関西の方言で、炭に火がついて赤くなった状態。]炭火(すみび)の中(なか)へパツと落(お)ちた。058忽(たちま)ち三冊(さんさつ)のお筆先(ふでさき)は黒(くろ)き煙(けむり)の竜(りう)となつて天(てん)に昇(のぼ)つて了(しま)つた。
059高姫『あああ、060何(なん)の事(こと)ぢや、061これ、062イル、063何(ど)うして下(くだ)さる。064折角(せつかく)神(かみ)様(さま)がお書(か)き遊(あそ)ばしたお直筆(ぢきひつ)を、065サツパリ煙(けむり)にして了(しま)つたぢやないか』
066イル『何(なん)と日出(ひのでの)神(かみ)様(さま)はえらいものですな。067たうとう結構(けつこう)な御(ご)神体(しんたい)が現(あら)はれました。068貴女(あなた)も御存(ごぞん)じの通(とほ)り、069火鉢(ひばち)から火(ひ)が出(で)て日出(ひのでの)神(かみ)となり、070あの通(とほ)り黒(くろ)い竜(りう)となり、071煙(けむり)に包(つつ)まれて天上(てんじやう)なされました。072イヤ煙(けむり)ではなからう、073朝霧(あさぎり)夕霧(ゆふぎり)といふギリでせう。074それだから義理(ぎり)天上(てんじやう)日出(ひのでの)神(かみ)が御(ご)竜体(りうたい)を現(あら)はして天上(てんじやう)なされました。075何(なん)とマア貴女(あなた)は御(ご)神徳(しんとく)が高姫(たかひめ)さまで厶(ござ)いますな。076エヘヘヘヘ、077イヤもう感(かん)じ入(い)りまして厶(ござ)います』
078と口(くち)から出任(でまか)せに高姫(たかひめ)を揶揄(からかひ)半分(はんぶん)に褒(ほ)めそやした。079高姫(たかひめ)は怒(おこ)らうと思(おも)つて居(を)つたが、080イルの頓智(とんち)に巻(ま)き込(こ)まれ、081嬉(うれ)しいやうな腹立(はらだ)たしいやうな、082妙(めう)な気分(きぶん)になつて、083胸(むね)を撫(な)でおろし、
084高姫『お直筆(ぢきひつ)は天上(てんじやう)なさつたが、085併(しか)しマアマア結構(けつこう)だ。086お前(まへ)が写(うつ)しておいてくれたから、087マ一度(いちど)書(か)き直(なほ)さして頂(いただ)かうかな。088滅多(めつた)にあんな結構(けつこう)なお筆先(ふでさき)は出(で)るものぢやないからな。089コレ、090イルや、091早(はや)くあのお筆先(ふでさき)の写(うつ)しを、092ここへ持(も)つて来(き)てくれ』
093イル『ヘーエ、094写(うつ)さして頂(いただ)かうと思(おも)ひましたが、095何分(なにぶん)御(ご)神徳(しんとく)が高(たか)いお筆先(ふでさき)だものですから、096後光(ごくわう)がさしまして、097サツパリ目(め)がくらみ、098一字(いちじ)々々(いちじ)其(その)文字(もじ)が鎌首(かまくび)を立(た)てて、099竜神(りうじん)さまになつて動(うご)くやうに見(み)えるものですもの、100到底(たうてい)吾々(われわれ)の如(ごと)き神徳(しんとく)のない者(もの)では、101写(うつ)すことは愚(おろ)か拝読(いただ)くでさへも目(め)がマクマク致(いた)します。102それでお前(まへ)さまに写(うつ)して頂(いただ)かうと思(おも)つて、103此(この)通(とほ)り御(ご)神体(しんたい)をここ迄(まで)送(おく)つて来(き)たので厶(ござ)います』
104と揶揄好(からかひずき)のイルは、105其(その)実(じつ)スツクリ写(うつ)し取(と)つて居(ゐ)ながら、106ワザとこんな事(こと)を云(い)ふ。
107高姫『エーエ、108気(き)の利(き)かぬことだなア、109お前(まへ)が能(よ)う写(うつ)さな、110なぜ他(ほか)の者(もの)に写(うつ)ささなかつたのだい』
111イル『それでもイルに写(うつ)せよと、112貴女(あなた)が御(ご)命令(めいれい)をお下(くだ)しになつたものですから、113日出(ひのでの)神(かみ)様(さま)のお言葉(ことば)には背(そむ)かれないと思(おも)うて、114他(ほか)の者(もの)には見(み)せもしませなんだのですよ』
115高姫『エーエ、116気(き)の利(き)かぬ男(をとこ)だな。117あああ、118どうしたらいいかしらぬて……お前(まへ)さまは暫(しばら)く謹慎(きんしん)の為(ため)、119彼方(あちら)へ控(ひか)へて居(を)りなさい。120そして受付(うけつけ)はハルに申付(まをしつ)ける。121こんな不調法(ぶてうはふ)を致(いた)して、122よい気(き)で居(を)るといふ事(こと)があるものかいな』
123イル『ハイ、124仕方(しかた)が厶(ござ)いませぬ。125併(しか)しながら私(わたし)の守護神(しゆごじん)が霊界(れいかい)で写(うつ)したかも知(し)れませぬから、126もし出(で)て来(き)ましたら、127勘忍(かんにん)して下(くだ)さるでせうなア』
128高姫『馬鹿(ばか)な事(こと)を言(い)ひなさるな。129お前(まへ)等(ら)の守護神(しゆごじん)がそんな事(こと)が書(か)けてたまりますか。130此(この)高姫(たかひめ)でさへも守護神(しゆごじん)が書(か)くといふ事(こと)は出来(でき)ぬ故(ゆゑ)に、131此(この)生宮(いきみや)の手(て)を通(とほ)してお書(か)きなさるのだ。132エエ気色(きしよく)の悪(わる)い、133彼方(あつちや)へ行(い)つて下(くだ)され。134お前(まへ)さまの面(つら)を見(み)るのも胸(むね)クソが悪(わる)い。135結構(けつこう)な結構(けつこう)なお筆先(ふでさき)を三冊(さんさつ)まで燃(も)やして了(しま)うて、136どうしてこれが神(かみ)様(さま)に申訳(まをしわけ)が立(た)ちますか』
137イル『霊国(れいごく)の天人(てんにん)に会(あ)はうと思(おも)うて、138義理(ぎり)天上(てんじやう)さまが化相(けさう)の術(じゆつ)を以(もつ)て、139天上(てんじやう)なさつたのかも知(し)れませぬよ。140さう気投(けな)げしたものぢや厶(ござ)いませぬワイ』
141高姫『エー喧(やかま)しい、142彼方(あつちや)へ行(ゆ)きなされ。143グヅグヅ致(いた)して居(を)ると、144此(この)箒(はうき)が御(お)見舞(みま)ひ申(まを)すぞや』
145と顔(かほ)を真赤(まつか)にし、146捨鉢(すてばち)気味(ぎみ)になり、147半狂乱(はんきやうらん)になつて呶鳴(どな)り散(ち)らすのであつた。148イルは、
149イル『ハイ』
150と一言(ひとこと)残(のこ)し、151匆々(さうさう)に襖(ふすま)を開(あ)け閉(し)めし、152首(くび)をすくめ、153舌(した)を出(だ)し、154腮(あご)をしやくりながら受付(うけつけ)へ足音(あしおと)を忍(しの)ばせ帰(かへ)つて来(き)た。155受付(うけつけ)にはハル、156テル、157イク、158サールの四(よ)人(にん)が筆先(ふでさき)の写(うつ)しをゲラゲラ笑(わら)ひながら読(よ)んでゐる。
159イル『オイ、160そんな大(おほ)きな声(こゑ)で笑(わら)つてくれな、161今(いま)義理(ぎり)天上(てんじやう)が大変(たいへん)に怒(おこ)つてゐるからな』
162ハル『ナアニ、163怒(おこ)る事(こと)があらうかい。164早(はや)く写(うつ)して腹(はら)へ締(し)め込(こ)みておいて下(くだ)されよ……と云(い)つて帰(かへ)つたぢやないか。165今(いま)一生(いつしやう)懸命(けんめい)に他人(たにん)の褌(ふんどし)を締(し)めこみてゐる所(ところ)だ。166アハハハハ』
167サール『これ程(ほど)分(わか)りにくい文字(もじ)を写(うつ)させておいて、168何(なん)の為(ため)に高姫(たかひめ)さまが、169それ程(ほど)怒(おこ)るのだい。170怒(おこ)る位(くらゐ)ならなぜ写(うつ)せと云(い)つたのだ。171本当(ほんたう)に訳(わけ)の分(わか)らぬ事(こと)をぬかすじやないか』
172イル『ナアニ、173そりやそれでいいのだが、174高姫(たかひめ)の奴(やつ)、175とうと、176過(あやま)つて三冊(さんさつ)の筆先(ふでさき)を火(ひ)の中(なか)へおとし、177焼(や)いて了(しま)ひよつたのだ。178それで大変(たいへん)に御(ご)機嫌(きげん)が悪(わる)いのだよ』
179サール『イヒヒヒヒ、180そりやいい気味(きみ)だねえ、181随分(ずいぶん)妙(めう)な面(つら)をしただらう』
182イル『丸(まる)きり、183竈(かまど)の上(うへ)の不動(ふどう)さまを焼杭(やけぐひ)でくらはした時(とき)のやうな面(つら)をしよつて、184きつく睨(にら)みよつた。185そして其(その)写(うつ)しがあるだらうから、186すぐ持(も)つて来(こ)いと云(い)ひよつたので、187俺(おれ)は余(あんま)り劫腹(ごふはら)だから、188あのお筆先(ふでさき)は御(ご)威勢(ゐせい)が高(たか)うて後光(ごくわう)がさし、189一字(いちじ)々々(いちじ)文字(もじ)が活躍(くわつやく)して、190鎌首(かまくび)を立(た)て竜神(りうじん)になつて這(は)ひ廻(まは)るやうに見(み)えたから、191能(よ)う写(うつ)しませなんだ……とやつた所(ところ)、192流石(さすが)の高姫(たかひめ)も真青(まつさを)の面(つら)して、193其(その)失望(しつばう)、194落胆(らくたん)さ加減(かげん)、195実(じつ)に痛快(つうくわい)だつたよ。196それだから大(おほ)きな声(こゑ)で読(よ)むなと云(い)ふのだ』
197サール『アハハハハ、198成程(なるほど)、199其奴(そいつ)ア面白(おもしろ)い。200オイ皆(みな)の奴(やつ)、201此処(ここ)で一(ひと)つ大声(おほごゑ)を張上(はりあ)げて読(よ)んだろかい』
202イル『そんな事(こと)したら、203高姫(たかひめ)がガンづくぢやないか』
204サール『なアに、205俺(おれ)が廊下(らうか)に見張(みはり)をしてゐるから、206向(むか)ふへ聞(きこ)えるやうに読(よ)むのだ。207そして高姫(たかひめ)が来(き)よつたら、208筆先(ふでさき)を尻(しり)の下(した)へかくし、209素知(そし)らぬ顔(かほ)してるのだ。210今(いま)読(よ)んで居(を)つたぢやないかと云(い)ひよつたら、211イルの腹(はら)の中(なか)へ義理(ぎり)天上(てんじやう)さまがお這入(はい)りになつて、212あんな大(おほ)きな声(こゑ)でお筆先(ふでさき)を読(よ)まれた……とかませばいいぢやないか』
213イル『なアる程(ほど)、214妙案(めうあん)だ、215それでは俺(おれ)が一(ひと)つ読(よ)んでやらうかなア』
216とサールを廊下(らうか)に立番(たちばん)させ、217ハル、218テル、219イクを前(まへ)に坐(すわ)らせ、220イルはワザとに大声(おほごゑ)を出(だ)して読(よ)み始(はじ)めた。
221イル『義理(ぎり)天上(てんじやう)日出(ひのでの)神(かみ)の誠(まこと)正(しやう)まつの、222生粋(きつすゐ)の五六七(みろく)神政(しんせい)の筆先(ふでさき)であるぞよ。223高姫(たかひめ)の肉宮(にくみや)は、224昔(むかし)の昔(むかし)の根本(こつぽん)の神代(かみよ)から、225因縁(いんねん)ありて、226神(かみ)が御用(ごよう)に使(つか)うて居(を)りたぞよ。227この肉体(にくたい)は高天原(たかあまはら)の第一(だいいち)の霊国(れいごく)の天人(てんにん)の身魂(みたま)であるぞよ。228高姫(たかひめ)の身魂(みたま)と引添(ひつそ)うて、229三千(さんぜん)世界(せかい)の守護(しゆご)がさしてありたぞよ。230それについては杢助殿(もくすけどの)の身魂(みたま)もヤツパリ霊国(れいごく)天人(てんにん)の生粋(きつすゐ)の身魂(みたま)であるぞよ。231霊国(れいごく)の天人(てんにん)の霊(みたま)は結構(けつこう)な神(かみ)の教(をしへ)を致(いた)す御(おん)役(やく)であるぞよ。232祭典(さいてん)や拝礼(はいれい)などを致(いた)す霊(みたま)は、233天国(てんごく)天人(てんにん)の御用(ごよう)であるぞよ。234併(しか)し乍(なが)ら世(よ)が曇(くも)りて、235天人(てんにん)の霊(みたま)は一人(ひとり)もなくなり、236八衢(やちまた)人間(にんげん)が神(かみ)の御用(ごよう)を致(いた)して居(を)るぞよ。237世界(せかい)の人民(じんみん)は皆(みな)地獄(ぢごく)の餓鬼(がき)の霊(みたま)や畜生道(ちくしやうだう)の霊(みたま)ばかりであるから、238此(この)世(よ)がサツパリ曇(くも)りて了(しま)うたぞよ。239夜(よる)の守護(しゆご)であるぞよ。240此(この)暗(やみ)くもの世(よ)を日(ひ)の出(で)の守護(しゆご)といたす為(ため)に、241義理(ぎり)天上(てんじやう)が因縁(いんねん)のある高姫(たかひめ)の身魂(みたま)を生宮(いきみや)と致(いた)して、242三千(さんぜん)世界(せかい)を構(かま)ふ時節(じせつ)が参(まゐ)りたぞよ。243変性(へんじやう)男子(なんし)の霊(みたま)は日出(ひのでの)神(かみ)が現(あら)はれるについて、244神(かみ)から先走(さきばし)りに出(だ)してありたぞよ。245そして変性(へんじやう)女子(によし)の霊(みたま)は此(この)世(よ)を曇(くも)らす霊(みたま)であるぞよ。246此(この)儘(まま)にしておいたなれば、247此(この)世(よ)は泥海(どろうみ)になるより仕様(しやう)がないぞよ。248三千(さんぜん)世界(せかい)の救世主(きうせいしゆ)は此(この)高姫(たかひめ)より外(ほか)にないぞよ。249それについては杢助殿(もくすけどの)の霊(みたま)は夫婦(ふうふ)の霊(みたま)であるから、250高姫(たかひめ)と引添(ひつそ)うて御用(ごよう)させるやうに天(てん)の大神(おほかみ)からの御(お)仕組(しぐみ)であるぞよ。251初稚姫(はつわかひめ)は杢助(もくすけ)の御(おん)子(こ)であるけれども、252霊(みたま)の親子(おやこ)ではないぞよ。253高姫(たかひめ)も肉体(にくたい)上(じやう)母子(おやこ)となりて居(を)るなれど、254霊(みたま)から申(まを)せば天地(てんち)の相違(さうゐ)があるぞよ。255高姫(たかひめ)は一番(いちばん)高(たか)い霊国(れいごく)の天人(てんにん)の霊(みたま)であるなれど、256初稚姫(はつわかひめ)は八衢(やちまた)の霊(みたま)であるから、257到底(たうてい)、258一通(ひととお)りでは側(そば)へも寄(よ)りつけぬなれども、259肉体(にくたい)が何(なに)を云(い)うても、260憐(あは)れみ深(ぶか)い結構(けつこう)な人間(にんげん)ぢやによつて、261初稚姫(はつわかひめ)を吾(わが)子(こ)と致(いた)して居(を)るぞよ。262初稚姫(はつわかひめ)殿(どの)も改心(かいしん)を致(いた)されよ。263杢助(もくすけ)の子(こ)ぢやと申(まを)して慢心(まんしん)致(いた)すでないぞよ。264それについてはイル、265イク、266サール、267ハル、268テル殿(どの)に結構(けつこう)な御用(ごよう)を致(いた)さすぞよ。269此(この)筆先(ふでさき)は火(ひ)にも焼(や)けず水(みづ)にも溺(おぼ)れぬ金剛(こんがう)不壊(ふゑ)の如意(によい)宝珠(ほつしゆ)であるから、270粗末(そまつ)に致(いた)したら目眩(めまひ)が来(く)るぞよ。271珍彦(うづひこ)の霊(みたま)も静子(しづこ)の霊(みたま)も誠(まこと)に因縁(いんねん)の悪(わる)い霊(みたま)であるぞよ。272其(その)中(なか)から生(うま)れた楓(かへで)は、273誠(まこと)に了簡(れうけん)の悪(わる)い豆狸(まめだぬき)の守護神(しゆごじん)であるから、274三(さん)人(にん)共(とも)に神(かみ)が国替(くにがへ)を致(いた)さして、275神界(しんかい)でそれぞれの御用(ごよう)を仰(おほ)せつけるぞよ。276此(この)筆先(ふでさき)に書(か)いた事(こと)は間違(まちがひ)はないぞよ。277初稚姫(はつわかひめ)も改心(かいしん)を致(いた)して下(くだ)さらぬと、278何時(いつ)舟(ふね)が覆(かへ)るか分(わか)らぬぞよ。279可哀相(かあいさう)な者(もの)なれど、280霊(みたま)で御用(ごよう)さすより仕様(しやう)がないぞよ。281虬(みづち)の霊(みたま)であるから、282今(いま)迄(まで)はばりてをりたなれど、283善悪(ぜんあく)の立別(たてわ)かる時節(じせつ)が参(まゐ)りて、284高姫(たかひめ)が此処(ここ)へ現(あら)はれた以上(いじやう)は、285到底(たうてい)叶(かな)はぬぞよ。286皆(みな)の者(もの)よ、287此(この)筆先(ふでさき)をよく腹(はら)へ締(し)め込(こ)みておいて下(くだ)されよ。288杢助殿(もくすけどの)と高姫(たかひめ)と夫婦(ふうふ)になりたと申(まを)して、289チヨコチヨコとせせら笑(わら)ひを致(いた)して居(を)るなれど、290人民(じんみん)の知(し)りた事(こと)でないぞよ。291神(かみ)は何処(どこ)迄(まで)も気(き)を引(ひ)くから、292取違(とりちがひ)を致(いた)さぬやうに御(ご)用心(ようじん)なされよ。293義理(ぎり)天上(てんじやう)日出(ひのでの)神(かみ)の筆先(ふでさき)は一分(いちぶ)一厘(いちりん)間違(まちが)ひはないぞよ。294高天原(たかあまはら)の霊国(れいごく)の天人(てんにん)の一番(いちばん)天上(てんじやう)の身魂(みたま)であるぞよ。295又(また)杢助殿(もくすけどの)には大広木(おほひろき)正宗(まさむね)殿(どの)の霊(みたま)が授(さづ)けてあるぞよ。296今(いま)迄(まで)は摩利支(まりし)天(てん)の霊(みたま)が憑(かか)りて居(を)りたなれど、297神界(しんかい)の都合(つがふ)により、298義理(ぎり)天上(てんじやう)の命令(めいれい)により、299大広木(おほひろき)正宗(まさむね)の御用(ごよう)をさして、300常世姫(とこよひめ)の肉宮(にくみや)と、301末代(まつだい)の結構(けつこう)な御用(ごよう)を致(いた)させるから、302杢助殿(もくすけどの)が何事(なにごと)を致(いた)しても申(まを)してもゴテゴテ申(まを)すでないぞよ。303又(また)初稚姫(はつわかひめ)は我(が)の強(つよ)き霊(みたま)なれども、304日出(ひのでの)神(かみ)の神力(しんりき)に、305トウトウ往生(わうじやう)致(いた)して、306四(よ)つ足(あし)のスマートを斎苑(いそ)の館(やかた)へ追(お)ひ返(かへ)したのは、307まだしも結構(けつこう)であるぞよ。308これからスマートを一息(ひといき)でも、309此(この)祠(ほこら)の森(もり)の大門(おほもん)へよこしてみよれ、310初稚姫(はつわかひめ)の体(からだ)はビクとも動(うご)かぬやうに致(いた)してみせるぞよ。311杢助殿(もくすけどの)は霊(みたま)が水晶(すいしやう)であるから、312四(よ)つ足(あし)が来(く)るのは大変(たいへん)御(お)嫌(きら)ひ遊(あそ)ばすぞよ。313初稚姫(はつわかひめ)が四(よ)つ足(あし)を連(つ)れて参(まゐ)りたトガメに依(よ)つて神罰(しんばつ)を蒙(かうむ)り、314命(いのち)がなくなる所(ところ)でありたなれど、315神(かみ)の慈悲(じひ)によりて、316杢助殿(もくすけどの)を身代(みがは)りに立(た)て、317チツと許(ばか)り疵(きず)を致(いた)させ許(ゆる)してやりたぞよ。318これをみて初稚姫(はつわかひめ)殿(どの)改心(かいしん)致(いた)されよ。319神(かみ)の御恩(ごおん)と親(おや)の御恩(ごおん)とが分(わか)らぬやうな事(こと)では、320誠(まこと)の神(かみ)の側(そば)へは寄(よ)りつけぬぞよ。321余(あま)り慢心(まんしん)が強(つよ)いので親(おや)の側(そば)へ寄(よ)れぬぞよ。322其方(そなた)の改心(かいしん)が出来(でき)たなれば、323義理(ぎり)天上(てんじやう)が取持(とりもち)致(いた)して、324杢助殿(もくすけどの)に会(あ)はしてやるぞよ。325早(はや)く霊(みたま)を研(みが)いて下(くだ)されよ、326神(かみ)が前(まへ)つ前(まへ)つに気(き)をつけるぞよ。327義理(ぎり)天上(てんじやう)日出(ひのでの)神(かみ)の申(まを)す事(こと)に間違(まちが)ひはないぞよ。328此(この)筆先(ふでさき)は義理(ぎり)天上(てんじやう)の生神(いきがみ)が高姫(たかひめ)の生宮(いきみや)に這入(はい)りて書(か)いたのであるから、329日出(ひのでの)神(かみ)の御(ご)神体(しんたい)其(その)儘(まま)であるから、330粗末(そまつ)には致(いた)されぬぞよ。331もし疑(うたが)ふなら、332火鉢(ひばち)にくべてみよれ、333焼(や)けは致(いた)さぬぞよ。334それで誠(まこと)の生神(いきがみ)といふ事(こと)が分(わか)るぞよ。335ぢやと申(まを)して、336汚(けが)れた人民(じんみん)の手(て)で、337いらうたら、338焼(や)けぬとも限(かぎ)らぬから、339余程(よほど)大切(たいせつ)に清(きよ)らかにして下(くだ)されよ』
340と読(よ)み了(をは)り、
341イル『ハツハハハ、342甘(うま)い事(こと)仰有(おつしや)るワイ、343火(ひ)にも焼(や)けぬ水(みづ)にも溺(おぼ)れぬと仰有(おつしや)つた筆先(ふでさき)が、344パツと焼(や)けたのだからたまらぬワイ。345イヒヒヒヒ、346これでは日出(ひのでの)神(かみ)も、347サツパリ駄目(だめ)だなア』
348サール『それでも……汚(けが)れた人民(じんみん)が触(さは)りたら、349焼(や)けるかも知(し)れぬぞよ……と書(か)いてあつたぢやないか』
350イル『ハハハ、351そこが高姫(たかひめ)の予防線(よばうせん)だ。352引掛戻(ひつかけもど)しの所謂(いはゆる)仕組(しぐみ)をやつてゐよるのだ。353兎(と)も角(かく)小気味(こぎみ)のよい事(こと)だなア』
354 サールは、355いつの間(ま)にやら廊下(らうか)の見張(みはり)を忘(わす)れて、356イルの前(まへ)に頭(かしら)を鳩(あつ)め聞(き)いて居(ゐ)た。357そこへ高姫(たかひめ)が筆先(ふでさき)の声(こゑ)を聞付(ききつ)けて、358足音(あしおと)忍(しの)ばせ、359半分(はんぶん)余(あま)り末(すゑ)の方(はう)を障子(しやうじ)の外(そと)から聞(き)き終(をは)り、
360高姫『コレ、361お前(まへ)達(たち)、362今(いま)何(なに)を言(い)うてゐたのだい』
363 この声(こゑ)に、364イルは驚(おどろ)いて尻(しり)の下(した)に隠(かく)し、365素知(そし)らぬ顔(かほ)して其(その)上(うへ)に坐(すわ)つてゐる。
366高姫『コレ、367此(この)障子(しやうじ)一寸(ちよつと)あけておくれ、368今(いま)何(なに)を云(い)つてゐたのだい。369お筆先(ふでさき)を拝読(いただ)いて居(を)つたのだらう。370そして大変(たいへん)に義理(ぎり)天上(てんじやう)さまの悪口(わるくち)を云(い)つて居(を)つたぢやないか』
371 イルは小声(こごゑ)で、
372イル『オイ、373サール、374貴様(きさま)番(ばん)をすると吐(ぬか)しよつて、375こんな所(ところ)へ這入(はい)つてけつかるものだから、376これ見(み)ろ、377とうと見付(みつ)けられたでないか』
378サール『ウン、379マア仕方(しかた)がないサ、380……ヤア高姫(たかひめ)様(さま)、381ようこそお出(い)で下(くだ)されました。382サ、383お這入(はい)り下(くだ)さいませ』
384と突張(つつぱり)のかうてあつた障子(しやうじ)をサツと開(ひら)いた。385高姫(たかひめ)は受付(うけつけ)の間(ま)へヌツと這入(はい)つて来(き)た。
386高姫『コレ、387イルさま、388お前(まへ)、389筆先(ふでさき)を写(うつ)さぬと云(い)つたぢないか。390今(いま)読(よ)んで居(を)つたのは何(なん)だいなア』
391イル『ハイ、392日出(ひのでの)神(かみ)様(さま)が、393お前(まへ)の体内(たいない)にイルと仰有(おつしや)いまして、394暫(しばら)くすると、395あんな事(こと)を私(わたし)の口(くち)から仰有(おつしや)つたので厶(ござ)います。396誠(まこと)に結構(けつこう)な御(ご)神勅(しんちよく)で厶(ござ)いましたよ。397そして又(また)蟇(がま)の守護神(しゆごじん)が私(わたし)の肉体(にくたい)に這入(はい)り、398高姫(たかひめ)様(さま)や天上(てんじやう)様(さま)の悪(わる)い事(こと)を申(まを)しますので、399イヤもう困(こま)りました。400何卒(どうぞ)一(ひと)つ鎮魂(ちんこん)をして下(くだ)さいな』
401高姫『日出(ひのでの)神(かみ)さまなどと、402悪神(あくがみ)がお前(まへ)を騙(だま)して真似(まね)を致(いた)すのだらう。403それだからシツカリ致(いた)さぬと悪魔(あくま)に狙(ねら)はれると、404何時(いつ)も申(まを)してあらうがな。405エーエ困(こま)つた事(こと)だ、406サ、407そこを一寸(ちよつと)お立(た)ちなされ。408日出(ひのでの)神(かみ)が鎮魂(ちんこん)をして上(あ)げるから……』
409イル『イー、410ウーン、411一寸(ちよつと)ここは退(の)く訳(わけ)には行(ゆ)きませぬ、412尻(しり)に白根(しらね)が下(お)りましたので、413痺(しびれ)が切(き)れて何(ど)うする事(こと)も出来(でき)ませぬ。414何卒(どうぞ)又(また)後(あと)から鎮魂(ちんこん)して下(くだ)さいな。415ああ高姫(たかひめ)さま、416あの外(そと)を御覧(ごらん)なさいませ、417大(おほ)きな鷲(わし)が子供(こども)をくはへて、418それそれ通(とほ)ります』
419と高姫(たかひめ)の視線(しせん)を外(そと)へ向(む)け、420手早(てばや)く尻(しり)に敷(し)いた写(うつ)しの筆先(ふでさき)を懐(ふところ)へ捻(ね)ぢ込(こ)み、421席(せき)を替(か)へようとした。422されど余(あま)り慌(あわ)てて、423二冊(にさつ)は甘(うま)く懐(ふところ)へ這入(はい)つたが、424まだ一冊(いつさつ)尻(しり)の下(した)に残(のこ)つて居(ゐ)る。
425高姫『コレ、426イル、427そんな事(こと)を申(まを)して、428此(この)高姫(たかひめ)を外(そと)を向(む)かせておき、429其(その)間(ま)に何(なん)だか懐(ふところ)へ隠(かく)したぢやらう、430サ、431其(その)懐(ふところ)を見(み)せて御覧(ごらん)』
432イル『ヘー、433此(こ)の懐(ふところ)は私(わたし)の懐(ふところ)で厶(ござ)います。434何程(なにほど)一軒(いつけん)の内(うち)に住居(ぢゆうきよ)して居(を)つても、435懐(ふところ)は別(べつ)ですからな。436珍彦(うづひこ)様(さま)が会計(くわいけい)して下(くだ)さるので、437私(わたし)の懐(ふところ)まで御(ご)詮議(せんぎ)は要(い)りますまい』
438高姫『一寸(ちよつと)、439お前(まへ)さま、440妙(めう)なものが憑(うつ)つてゐるから、441鎮魂(ちんこん)して上(あ)げよう。442私(わたし)が坐(すわ)らにやならぬから、443一寸(ちよつと)退(の)いて下(くだ)さい。444お前(まへ)さまが一番(いちばん)正座(しやうざ)へ坐(すわ)ると云(い)ふ事(こと)は道(みち)が違(ちが)ひますぞや』
445イル『ハイ、446承知(しようち)致(いた)しました。447ああ杢助(もくすけ)さまが門(かど)を通(とほ)らつしやるわいな』
448と云(い)ひながら、449尻(しり)の下(した)の残(のこ)りの筆先(ふでさき)をグツと取(と)り、450懐(ふところ)へ入(い)れようとした。451高姫(たかひめ)は今度(こんど)は其(その)手(て)に乗(の)らず、452イルの態度(たいど)を熟視(じゆくし)して居(を)つたから、453たまらぬ。454矢庭(やには)にイルの懐(ふところ)へ手(て)を入(い)れ、455三冊(さんさつ)の写(うつ)しの筆先(ふでさき)を掴(つか)み出(だ)し、456キリキリと丸(まる)めて、457イルの鼻(はな)といはず、458目(め)と云(い)はず、459滅多打(めつたうち)に打据(うちす)ゑ、
460高姫『オホホホホ、461悪(あく)の企(たく)みの現(あら)はれ口(ぐち)、462日出(ひのでの)神(かみ)には叶(かな)ひますまいがな。463頓(やが)て沙汰(さた)を致(いた)すから、464其処(そこ)に待(ま)つて居(ゐ)るがよからうぞ。465イク、466ハル、467テル、468サールも同類(どうるゐ)だ。469今(いま)に杢助(もくすけ)さまと相談(さうだん)して、470沙汰(さた)を致(いた)すから待(ま)つてゐなさい』
471と憎々(にくにく)しげに睨(にら)みつけ、472懐(ふところ)に捻(ね)ぢ込(こ)んで、473サツサと吾(わが)居間(ゐま)に帰(かへ)り行(ゆ)く。474後(あと)見送(みおく)つて五(ご)人(にん)は頭(あたま)を掻(か)き、475冷汗(ひやあせ)を拭(ふ)きながら、
476五人(イル、イク、ハル、テル、サール)『あああ、477サーツパリ源助(げんすけ)だ、478ウンウン、479イヒヒヒヒ』
480(大正一二・一・二三 旧一一・一二・七 松村真澄録)
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