霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一九章 逆語(ぎやくご)〔一三一三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第50巻 真善美愛 丑の巻 篇:第4篇 神犬の言霊 よみ(新仮名遣い):しんけんのことたま
章:第19章 逆語 よみ(新仮名遣い):ぎゃくご 通し章番号:1313
口述日:1923(大正12)年01月23日(旧12月7日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年12月7日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
ハルは、通りすがりの者が受付に立ち寄ったのだととぼけたが、杢助と高姫は、斎苑の館から使いがやってきたことを感知していた。
杢助と高姫は、イルやハルたちが斎苑の館に手紙をやって、自分たちを放逐しようと役員を呼んだのだろうと気を回し、首謀者を白状させようとハルを手荒に責め立てた。
妖幻坊の杢助が拳骨を固めてハルを打ち据えようとしたとき、スマートの吠え声が聞こえてきた。妖幻坊は体がすくみ、青ざめて自分の居間に逃げ帰り、布団をかぶって震えている。高姫は自分もふるえながら、ハルの尋問を続けた。
ハルは、大方高姫たちに立ち退き命令を告げに来たのだろう、とやけになって答える。高姫は怒り、珍彦に直接談判すると言って珍彦館に向かおうとした。そこにイルとサールに案内された安彦と国彦が入ってきた。
イルは入ってくるなり、早く高姫に立ち退き命令を告げてくれと安彦と国彦に頼みこみ、高姫を嘲笑した。安彦と国彦は高姫に挨拶をし、来訪の目的は珍彦に伝えてあるから、やがて高姫たちに沙汰があるだろうと伝えた。
高姫は安彦と国彦を昔の名前で呼んで馬鹿にし、挑発する始末であった。安彦は、高姫は放っておいて隣の間で唸っている妖幻坊の様子を見ようとした。高姫の制止を聞かずに、イルと安彦は杢助の居間のふすまを開けた。
妖幻坊は樫の棒を振り上げ、安彦の頭を叩き割ろうとしたが、床下から聞こえてきたスマートの吠え声にたちまち手がしびれ、一目散に裏の森林指して逃げてしまった。高姫が居間に入ってみれば、そこはもぬけの殻だった。
妖幻坊がどこかに行ってしまったので、高姫は大声で自説を怒鳴りたて、安彦と国彦を煙に巻いてしまった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-07-27 15:15:20 文字数:4960 OBC :rm5019
愛善世界社版:264頁 八幡書店版:第9輯 247頁 修補版: 校定版:270頁 普及版:133頁 初版: ページ備考:
001 高姫(たかひめ)の居間(ゐま)には妖幻坊(えうげんばう)の杢助(もくすけ)、002高姫(たかひめ)両人(りやうにん)、003六ケ(むつか)しい顔(かほ)をして上座(じやうざ)に坐(すわ)り、004ハルをつかまへて油(あぶら)をとつてゐる。
005妖幻(えうげん)(妖幻坊の杢助)『オイ、006ハル、007今(いま)表口(おもてぐち)に参(まゐ)つて何(なに)かゴテゴテ申(まを)して居(を)つたのは何者(なにもの)だなア』
008ハル『ハイ、009何(なん)でも厶(ござ)いませぬ。010只(ただ)道通(みちどほり)が一寸(ちよつと)受付(うけつけ)へ立寄(たちよ)つたので厶(ござ)います』
011妖幻坊の杢助『馬鹿(ばか)を申(まを)せ。012其(その)方(はう)は吾々(われわれ)に隠(かく)し立(だ)てをするのだなア。013斎苑(いそ)の館(やかた)から直使(ちよくし)が来(き)たのであらうがな』
014ハル『ハイ、015エエ、016それは、017みえました。018併(しか)しながら決(けつ)して吾々(われわれ)に対(たい)して、019御用(ごよう)もなければ何(なん)とも仰(おほ)せられませぬ』
020妖幻坊の杢助『珍彦館(うづひこやかた)へ其(その)方(はう)は案内(あんない)をしたであらうがなア。021様子(やうす)は大抵(たいてい)知(し)つて居(を)るだらう』
022ハル『ヘーエ、023イルに……イン、024承(うけたま)はりますれば、025此(この)館(やかた)の総取締(そうとりしまり)にイルを致(いた)す………とか云(い)ふお使(つかひ)ださうで厶(ござ)います』
026妖幻坊の杢助『高姫(たかひめ)や此(この)杢助(もくすけ)を放逐(はうちく)すると申(まを)して居(を)らうがな』
027ハル『エー、028そんなこた、029一寸(ちよつと)も存(ぞん)じませぬ。030併(しか)しながら朝晩(あさばん)の御(お)給仕(きふじ)もせず、031酒(さけ)ばかり呑(の)んでる人物(じんぶつ)に対(たい)しては、032どういう御(ご)沙汰(さた)が下(さが)つたやら分(わか)りませぬな。033直接(ちよくせつ)私(わたし)は何(なん)にも聞(き)かないものですから、034かう申(まを)したと云(い)つて、035決(けつ)して之(これ)が事実(じじつ)だか事実(じじつ)でないか、036保証(ほしよう)の限(かぎ)りで厶(ござ)いませぬ。037併(しか)し何(なん)だか妙(めう)な空気(くうき)が漂(ただよ)うてゐますで。038何(なん)と云(い)つても杢助(もくすけ)さまともあらうものが、039スマート如(ごと)きが怖(こは)いと仰有(おつしや)るものだから、040ヘヘヘヘヘ、041皆(みな)の連中(れんちう)がチヨコチヨコと噂(うはさ)を致(いた)して居(を)ります。042それより外(ほか)は何(なに)も厶(ござ)いませぬ。043これは一文(いちもん)生中(きなか)の掛値(かけね)もない、044ハルの真心(まごころ)を吐露(とろ)したので厶(ござ)いますから、045此(この)上(うへ)の秘密(ひみつ)は何(なに)も存(ぞん)じませぬ』
046妖幻坊の杢助『馬鹿(ばか)を申(まを)せ。047まだ外(ほか)に何(なに)か秘密(ひみつ)があるだらう。048今(いま)の言葉(ことば)から考(かんが)へてみれば、049貴様(きさま)等(ら)は申合(まをしあは)せ、050此(この)方(はう)や高姫(たかひめ)の悪口(あくこう)を申(まを)して、051斎苑(いそ)の館(やかた)へ手紙(てがみ)をやつたのであらうがなア。052それでなければ直使(ちよくし)が出(で)て来(く)る筈(はず)がないぢやないか。053なに頭(あたま)を掻(か)いて居(ゐ)るのだ、054ヤツパリ都合(つがふ)が悪(わる)いとみえるな。055コリヤ白状(はくじやう)致(いた)さぬか』
056とハルの襟首(えりくび)をグツと取(と)り、057剛力(がうりき)に任(まか)せて、058座敷(ざしき)の中央(まんなか)に突(つ)き倒(たふ)し、059一方(いつぱう)の手(て)でグツと押(おさ)へ、060一方(いつぱう)の荒(あら)い毛(け)だらけの手(て)に拳骨(げんこつ)を固(かた)めて振上(ふりあ)げながら、
061妖幻坊の杢助『コリヤ、062白状(はくじやう)致(いた)せばよし、063隠(かく)し立(だ)てを致(いた)すと、064此(この)鉄拳(てつけん)が其(その)方(はう)の眉間(みけん)へ触(さは)るや否(いな)や、065其(その)方(はう)の脳天(なうてん)は木端(こつぱ)微塵(みぢん)になるが、066それでも白状(はくじやう)致(いた)さぬか』
067ハル『イイ痛(いた)い痛(いた)い、068アア誰(たれ)か来(き)てくれぬかいな、069お直使(ちよくし)様(さま)、070早(はや)く、071来(き)て下(くだ)さるといいにな、072イイ痛(いた)い痛(いた)い』
073妖幻坊の杢助『サ、074痛(いた)くば早(はや)く申(まを)せ。075白状(はくじやう)さへすれば許(ゆる)してやらう』
076ハル『ハハ白状(はくじやう)せと云(い)つたつて、077種(たね)のない事(こと)が白状(はくじやう)出来(でき)ますか』
078高姫(たかひめ)『コレ、079ハルさま、080お前(まへ)は五(ご)人(にん)の中(なか)でも一番(いちばん)利巧(りかう)な男(をとこ)だ。081それだから私(わたし)がお前(まへ)をイルの野郎(やらう)の代(かは)りに受付頭(うけつけがしら)にして上(あ)げたぢやないか。082これ程(ほど)私(わたし)がお前(まへ)をヒイキにして居(ゐ)るのに、083なぜ隠(かく)し立(だ)てをなさるのだい。084サ、085早(はや)く言(い)つてみなさい。086決(けつ)してお前(まへ)さまの為(ため)に悪(わる)いやうにはせないからな』
087ハル『高姫(たかひめ)さま、088そんな無茶(むちや)な事(こと)、089あなた迄(まで)が言(い)つて貰(もら)つちや、090此(この)ハルが何(ど)うして立(た)ちますか。091よい加減(かげん)に疑(うたがひ)を晴(は)らして下(くだ)さいな』
092妖幻(えうげん)(妖幻坊の杢助)『此奴(こいつ)は何処(どこ)までもドシぶとい、093まてツ、094今(いま)に思(おも)ひ知(し)らしてやらう、095サどうぢや』
096と又(また)もや拳骨(げんこつ)を固(かた)めて、097力(ちから)限(かぎ)りに打下(うちおろ)さうとする一刹那(いつせつな)『ウーウー、098ワツウ ワツウ ワツウ』とスマートの声(こゑ)、099妖幻坊(えうげんばう)は体(からだ)がすくみ、100色(いろ)青(あを)ざめ、101其(その)儘(まま)ツイと立(た)つて自分(じぶん)の居間(ゐま)に逃(に)げ帰(かへ)り、102蒲団(ふとん)を被(かぶ)つて慄(ふる)うてゐる。103スマートの声(こゑ)は益々(ますます)烈(はげ)しくなつて来(き)た。
104 高姫(たかひめ)は少々(せうせう)慄(ふる)ひながら、
105高姫『コレ、106ハルさま、107お前(まへ)はいい子(こ)だ。108本当(ほんたう)に様子(やうす)を知(し)つて居(ゐ)るだらう。109サ、110チヤツと言(い)うてくれ、111其(その)代(かは)り、112お前(まへ)をここの神司(かむづかさ)にして上(あ)げるからなア』
113ハル『ハイ、114お前(まへ)さま、115用心(ようじん)しなされ。116どうやら立退(たちの)き命令(めいれい)が来(き)たやうな按配(あんばい)ですよ』
117高姫『ナアニ、118立退(たちの)き命令(めいれい)が、119そりや誰(たれ)に、120大方(おほかた)珍彦(うづひこ)にだらう』
121ハル『冗談(じようだん)云(い)つちやいけませぬよ。122珍彦(うづひこ)さまはここの御(ご)主人(しゆじん)です。123お前(まへ)さまは勝手(かつて)に義理(ぎり)天上(てんじやう)だとか云(い)つて坐(すわ)り込(こ)み、124自分(じぶん)免許(めんきよ)で日出(ひのでの)神(かみ)の生宮(いきみや)と威張(ゐば)つてゐるのでせう。125それだからお前(まへ)さまに立退(たちの)き命令(めいれい)が来(く)るのは当然(あたりまへ)ですワ』
126高姫『エーエ、127まさかの時(とき)になつて、128杢助(もくすけ)さまも杢助(もくすけ)さまだ。129スマート位(くらゐ)な畜生(ちくしやう)が、130何程(なにほど)厭(いや)だと云(い)つても、131こんな正念場(しやうねんば)になつてから、132自分(じぶん)の居間(ゐま)へ這入(はい)つて寝(ね)て了(しま)ふといふ事(こと)があるものかいなア』
133ハル『ヘン、134誠(まこと)にお気(き)の毒(どく)様(さま)、135すんまへんな。136何(いづ)れ、137悪(あく)は永(なが)うは続(つづ)きませぬぞや』
138高姫『エーエ、139お前(まへ)迄(まで)が、140しようもない事(こと)を云(い)ふぢやないか。141サ、142とつとと出(で)ていつて下(くだ)さい。143この館(やかた)は仮令(たとへ)直使(ちよくし)が来(こ)うが何(なに)が来(こ)うが、144日出(ひのでの)神(かみ)の生宮(いきみや)が守護(しゆご)して居(を)れば、145誰一人(たれひとり)居(を)らいでもよいのだから、146何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も放(ほ)イ出(だ)してこまそ。147グヅグヅしてると先方(むかふ)の方(はう)から立退(たちの)き命令(めいれい)なんて吐(ぬか)しやがるから、148先(さき)んずれば人(ひと)を制(せい)すだから此方(こつち)の方(はう)から立退(たちの)かしてくれるツ』
149と珍彦館(うづひこやかた)をさして行(ゆ)かむと立(た)ち上(あが)る。150そこへ安彦(やすひこ)、151国彦(くにひこ)はイル、152サールに案内(あんない)され、153襖(ふすま)をサツと開(ひら)いて這入(はい)つて来(き)た。
154イル『エ、155もし直使(ちよくし)様(さま)、156ここが所謂(いはゆる)義理(ぎり)天上(てんじやう)の居間(ゐま)で厶(ござ)います。157何卒(どうぞ)早(はや)く立退(たちの)き命令(めいれい)を申(まを)し渡(わた)して下(くだ)さい。158コリヤ高姫(たかひめ)、159ザマア見(み)やがれ、160イヒヒヒヒ、161誠(まこと)に以(もつ)てお気(き)の毒(どく)千万(せんばん)なれど、162今日(けふ)限(かぎ)りだと思(おも)うて、163諦(あきら)めて帰(い)んだがよいぞや。164油揚(あぶらげ)の一(いち)枚(まい)も餞別(せんべつ)にやりたいけれど、165生憎(あひにく)今日(けふ)は油揚(あぶらげ)も小豆(あづき)もないワ。166サツパリ、167コーンと諦(あきら)めて、168ササ、169帰(かへ)つたり帰(かへ)つたり』
170高姫『エー喧(やかま)しい、171スツ込(こ)んでゐなさい。172ここは義理(ぎり)天上(てんじやう)日出(ひのでの)神(かみ)の神界(しんかい)から命令(めいれい)を受(う)けて守護(しゆご)致(いた)す大門(おほもん)ぢやぞえ。173そして直使(ちよくし)といふのは誰(たれ)だなア』
174安彦(やすひこ)『ヤア高姫(たかひめ)殿(どの)、175久(ひさ)しう厶(ござ)る』
176国彦『拙者(せつしや)は国彦(くにひこ)で厶(ござ)る。177此(この)度(たび)、178斎苑(いそ)の館(やかた)より一寸(ちよつと)様子(やうす)あつて参拝(さんぱい)致(いた)した者(もの)で厶(ござ)る。179境内(けいだい)の様子(やうす)を見(み)む為(ため)、180此処(ここ)まで調査(てうさ)に来(き)たのですよ。181そして直使(ちよくし)の趣(おもむき)は珍彦(うづひこ)に申渡(まをしわた)しあれば、182やがて其(その)方(はう)に対(たい)し、183何(なん)とか沙汰(さた)があるであらう』
184高姫『ヘン、185阿呆(あはう)らしい、186人民(じんみん)の命令(めいれい)位(くらゐ)、187聞(き)くやうな生神(いきがみ)ぢやありませぬぞや。188勿体(もつたい)なくも高天原(たかあまはら)の霊国(れいごく)の天人(てんにん)、189義理(ぎり)天上(てんじやう)日出(ひのでの)神(かみ)の生宮(いきみや)ぢやぞえ。190此(この)肉体(にくたい)は常世姫(とこよひめの)命(みこと)の再来(さいらい)で、191変性(へんじやう)男子(なんし)の御(ご)系統(ひつぱう)だ。192何(なん)と心得(こころえ)てござる。193……ヤアお前(まへ)は北山村(きたやまむら)の本山(ほんざん)へやつて来(き)て、194トロロの丼鉢(どんぶりばち)を座敷中(ざしきちう)にブツつけた、195国公(くにこう)ぢやないか。196そしてお前(まへ)は安(やす)だらう。197ヘン、198阿呆(あはう)らしい、199直使(ちよくし)なんて、200笑(わら)はせやがるワイ、201イツヒヒヒヒ、202大(おほ)きに憚(はばか)りさま。203これなつと、204お喰(くら)へ』
205と焼糞(やけくそ)になつて、206大(おほ)きなだん尻(じり)を引(ひ)きまくり、207ポンポンと二(ふた)つ三(み)つ叩(たた)き、208体(からだ)を三(み)つ四(よ)つゆすり、209腮(あご)をしやくり、210舌(した)をニユツと出(だ)し、211両手(りやうて)を鳶(とび)が羽(は)ばたきしたやうにしてみせた。
212安彦(やすひこ)『仮令(たとへ)、213拙者(せつしや)は神力(しんりき)足(た)らぬ者(もの)にもせよ、214天晴(あつぱれ)三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)、215今日(こんにち)は又(また)八島主(やしまぬしの)命(みこと)様(さま)より直使(ちよくし)として参(まゐ)つた者(もの)で厶(ござ)る。216粗略(そりやく)な扱(あつかひ)をなさると、217斎苑(いそ)の館(やかた)へ一伍(いちぶ)一什(しじふ)を申(まを)し上(あ)げますぞ』
218高姫『ヘン、219仰有(おつしや)いますわい。220八島主(やしまぬし)の教主(けうしゆ)が何(なん)だ。221青(あを)い青(あを)い痩(や)せた顔(かほ)しやがつて、222まるで肺病(はいびやう)の親方(おやかた)みたやうな面(つら)をして、223此(この)方(はう)に立退(たちの)き命令(めいれい)、224ヘン、225尻(けつ)が呆(あき)れて雪隠(せつちん)が躍(をど)りますワイ。226お茶(ちや)の一杯(いつぱい)も上(あ)げたいは山々(やまやま)なれど、227左様(さやう)な分(わか)らぬ事(こと)を云(い)ふ奴(やつこ)さまには、228番茶(ばんちや)一(ひと)つ汲(く)む訳(わけ)には行(ゆ)きませぬワ。229サア、230トツトとお帰(かへ)りなさい。231高姫(たかひめ)は斯(か)う見(み)えても、232斎苑(いそ)館(やかた)の総務(そうむ)杢助(もくすけ)の妻(つま)で厶(ござ)るぞや。233何程(なにほど)安(やす)や国(くに)が立派(りつぱ)な宣伝使(せんでんし)だと云(い)つても、234吾(わが)夫(をつと)杢助(もくすけ)の家来(けらい)ぢやないか。235今(いま)こそ杢助(もくすけ)様(さま)は様子(やうす)あつて役(やく)を引(ひ)いて厶(ござ)るが、236ヤツパリ御(ご)神徳(しんとく)は三五教(あななひけう)切(き)つての偉者(えらもの)だ。237どうだ両人(りやうにん)、238義理(ぎり)天上(てんじやう)の申(まを)す事(こと)を聞(き)いて改心(かいしん)を致(いた)し、239此(この)方(はう)の部下(ぶか)となつて、240此処(ここ)で御用(ごよう)を致(いた)す気(き)はないかな』
241国彦(くにひこ)『安彦(やすひこ)殿(どの)、242困(こま)つた者(もの)で厶(ござ)るな。243論(ろん)にも杭(くひ)にもかからぬでは厶(ござ)らぬか』
244高姫『コリヤ与太(よた)、245ソリヤ何(なに)を云(い)ふのだ。246勿体(もつたい)なくも日出(ひのでの)神(かみ)の生宮(いきみや)を目下(めした)に見下(みおろ)し、247直使面(ちよくしづら)をさげて、248馬鹿(ばか)らしい、249何(なに)を云(い)ふのだい。250弥次彦(やじひこ)、251与太彦(よたひこ)の両人(りやうにん)奴(め)、252又(また)一途(いちづ)の川(かは)の出刃(でば)庖丁(ばうちやう)を、253土手(どて)つ腹(ぱら)へつつ込(こ)んでやらうかな。254あの時(とき)は黒姫(くろひめ)と二人(ふたり)だつたが、255モウ、256今日(こんにち)は神力(しんりき)無双(むさう)の勇士(ゆうし)、257杢助(もくすけ)さまの女房(にようばう)ぢやぞ。258何(なん)だ、259糊(のり)つけもののやうに、260しやちこ張(ば)つて、261其(その)面(つら)は、262マアそこに坐(すわ)つたが宜(よ)からう』
263 隣(となり)の間(ま)にウンウンと唸(うな)る妖幻坊(えうげんばう)の声(こゑ)、264耳(みみ)をさす如(ごと)くに聞(きこ)えて来(く)る。
265イル『モシお直使(ちよくし)様(さま)、266こんな気違(きちが)ひは後(あと)まはしと致(いた)しまして、267杢助(もくすけ)の居間(ゐま)を取調(とりしら)べませう、268何(なん)だか唸(うな)つて居(ゐ)るやうですよ』
269安彦(やすひこ)『ヤ、270国彦(くにひこ)殿(どの)、271エー、272サール殿(どの)とハル殿(どの)と三(さん)人(にん)、273此(この)発狂者(はつきやうしや)を監督(かんとく)してゐて下(くだ)さい。274拙者(せつしや)は杢助(もくすけ)と称(しよう)する人物(じんぶつ)の正体(しやうたい)を見届(みとど)けて参(まゐ)りますから』
275と行(ゆ)かうとする。276高姫(たかひめ)は両手(りやうて)を拡(ひろ)げて、
277高姫『コリヤコリヤ安(やす)、278イヤ弥次彦(やじひこ)、279イル、280メツタに義理(ぎり)天上(てんじやう)さまの許(ゆる)しもなしに、281行(ゆ)くことはならぬぞや。282さやうな事(こと)を致(いた)すと、283忽(たちま)ち手足(てあし)も動(うご)かぬやうに致(いた)すから、284それでもよけら、285行(い)つたが宜(よ)からう』
286イル『モシ直使(ちよくし)様(さま)、287行(ゆ)きませう。288此(この)婆(ばば)は何時(いつ)もあんなこと言(い)つて嚇(おど)しが上手(じやうづ)ですからなア』
289安彦(やすひこ)『なる程(ほど)、290参(まゐ)りませう』
291と次(つぎ)の間(ま)の杢助(もくすけ)の居間(ゐま)をパツとあけた。292杢助(もくすけ)は樫(かし)の棒(ぼう)を頭上(づじやう)高(たか)くふりかざし、293力(ちから)をこめてウンと一打(ひとうち)、294今(いま)や安彦(やすひこ)の頭(あたま)は二(ふた)つに割(わ)れたと思(おも)ふ一刹那(いつせつな)、295床下(ゆかした)より響(ひび)き来(きた)るスマートの声(こゑ)、
296スマート『ウーツ、297ワアウ ワアウ ワアウ』
298 杢助(もくすけ)は忽(たちま)ち手(て)痺(しび)れ、299棍棒(こんぼう)をふり上(あ)げた儘(まま)、300一目散(いちもくさん)に裏(うら)の森林(しんりん)指(さ)して、301雲(くも)を霞(かすみ)と逃(に)げて行(ゆ)く。302高姫(たかひめ)は矢庭(やには)に杢助(もくすけ)の居間(ゐま)に入(はい)つて見(み)れば藻抜(もぬ)けの殻(から)。
303高姫『コレ杢助(もくすけ)さま、304何処(どこ)へ行(い)つたのだい。305卑怯(ひけふ)未練(みれん)にも程(ほど)があるぢやないか、306サ早(はや)く帰(かへ)つて下(くだ)さいな。307エーエ、308何(なん)と云(い)ふ気(き)の弱(よわ)い人(ひと)だらう、309本当(ほんたう)に優(やさ)しい人(ひと)は、310こんな時(とき)になると仕方(しかた)がないワ。311併(しか)し無抵抗(むていかう)主義(しゆぎ)の三五教(あななひけう)だから、312相手(あひて)になつてはならない。313こんな奴(やつ)に掛(かか)り合(あ)うて居(を)つたら、314カツタイと棒打(ぼうう)ちするやうなものだと思(おも)つて、315逃(に)げなさつたのかな。316兵法(へいはふ)三十六(さんじふろく)計(けい)の奥(おく)の手(て)は、317逃(に)げるが一番(いちばん)ぢやといふ事(こと)だ。318ヤツパリ杢助(もくすけ)さまは、319どこともなしに賢明(けんめい)な方(かた)だなア。320到底(たうてい)ここらに居(を)るガラクタには比(くら)べものにはなりませぬワイ。321日出(ひのでの)神(かみ)も杢助(もくすけ)さまには感心(かんしん)致(いた)したぞや。322コレ弥次彦(やじひこ)、323与太彦(よたひこ)、324どうだい。325感心(かんしん)したかい。326チツトお筆先(ふでさき)を頂(いただ)いたらどうだい。327結構(けつこう)なお筆先(ふでさき)が出(で)てるぞや。328此(この)イルも知(し)つて居(ゐ)る通(とほ)り、329一字(いちじ)々々(いちじ)文字(もじ)が動(うご)くのだから、330そして正体(しやうたい)を現(あら)はして竜(りう)となり、331天上(てんじやう)をするといふ生(い)きたお筆先(ふでさき)ぢやぞえ。332どうだ、333折角(せつかく)此処(ここ)まで来(き)たのだから、334頂(いただ)いて帰(かへ)る気(き)はないか。335頂(いただ)くというても筆先(ふでさき)は直筆(ぢきひつ)でも写(うつ)しでもやりませぬぞや。336お前(まへ)の耳(みみ)の中(なか)へ容(い)れて帰(かへ)ればいいのだから……』
337安彦(やすひこ)『ああ困(こま)つたものだなア、338上(あ)げも下(おろ)しもならぬ奴(やつ)だ。339阿呆(あはう)と気違(きちが)ひにかかつたら、340どうも手(て)のつけやうのないものだ』
341高姫『ヘン、342お前(まへ)もお筆先(ふでさき)をチツとは頂(いただ)いてをるだらう。343変性(へんじやう)男子(なんし)様(さま)が……阿呆(あはう)になりてをりて下(くだ)されよ。344此(この)方(はう)は三千(さんぜん)世界(せかい)の大気違(おほきちが)ひであるぞよ。345気違(きちが)ひになりて居(を)らねば此(この)大望(たいまう)は成就(じやうじゆ)致(いた)さぬぞよ。346此(この)方(はう)は誰(たれ)の手(て)にも合(あ)はぬ身魂(みたま)であるぞよ。347鬼門(きもん)の金神(こんじん)でさへも往生(わうじやう)致(いた)すぞよ。348中(なか)にも義理(ぎり)天上(てんじやう)日出(ひのでの)神(かみ)の神力(しんりき)は艮(うしとら)の金神(こんじん)も側(そば)へもよれぬぞよ。349結構(けつこう)の身魂(みたま)が世(よ)におとしてありたぞよ。350余(あま)り神(かみ)を侮(あなど)りて居(を)りたら、351赤恥(あかはぢ)をかいて、352大(おほ)きな声(こゑ)で物(もの)も言(い)へぬぞよ。353日出(ひのでの)神(かみ)を地(ぢ)に致(いた)して三千(さんぜん)世界(せかい)の御用(ごよう)をさしてあるぞよ。354何(なに)も知(し)らぬ人民(じんみん)が、355ゴテゴテ申(まを)せど、356何(なに)も心配(しんぱい)致(いた)さいでもよいぞよ。357訳(わけ)の分(わか)らぬ人民(じんみん)からいろいろと申(まを)されるぞよ。358それを構(かま)うて居(を)つたら御用(ごよう)が勤(つと)まらぬぞよ。359神(かみ)はいろいろと気(き)をひくぞよ。360トコトン気(き)を引(ひ)いて、361これなら動(うご)かぬ身魂(みたま)と知(し)りぬいた上(うへ)、362誠(まこと)の御用(ごよう)に使(つか)ふぞよ……といふ事(こと)をお前(まへ)達(たち)は知(し)つて居(ゐ)るかい。363知(し)らな言(い)うてやろ、364そこに坐(すわ)りなさい。365あああ一人(ひとり)の霊(みたま)を改心(かいしん)ささうと思(おも)へば、366随分(ずいぶん)骨(ほね)の折(を)れた事(こと)だわい。367誠(まこと)を聞(き)かしてやれば面(つら)をふくらすなり、368ぢやと申(まを)してお気(き)に合(あ)ふやうなことを申(まを)せば、369すぐに慢心(まんしん)を致(いた)すなり、370今(いま)の人民(じんみん)は手(て)のつけやうがないぞよ。371神(かみ)も誠(まこと)に声(こゑ)をあげて苦(くる)しみて居(を)るぞよ。372中(なか)にも与太彦(よたひこ)、373弥次彦(やじひこ)のやうな八衢(やちまた)人間(にんげん)が、374善(ぜん)の面(めん)をかぶりて、375宣伝使(せんでんし)などと申(まを)して歩(ある)く世(よ)の中(なか)だから、376困(こま)つたものであるぞよ。377八島主(やしまぬしの)命(みこと)も言依別(ことよりわけの)命(みこと)も、378学(がく)で智慧(ちゑ)の出来(でき)た途中(とちう)の鼻高(はなだか)であるから、379霊国(れいごく)の天人(てんにん)の霊(みたま)の申(まを)すことはチツとも耳(みみ)へ入(はい)らず、380誠(まこと)に神(かみ)も迷惑(めいわく)致(いた)すぞよ。381これから義理(ぎり)天上(てんじやう)の肉宮(にくみや)が、382斎苑(いそ)の館(やかた)へ参(まゐ)りて、383何(なに)も彼(か)も根本(こつぽん)から立替(たてかへ)を致(いた)してやるぞよ。384そこになりたら、385今(いま)まで偉(えら)さうに申(まを)してをりた御(おん)方(かた)、386首尾(しゆび)悪(わる)き事(こと)が出来(でき)るぞよ。387神(かみ)の申(まを)す中(うち)に聞(き)かねば、388後(あと)になりて何程(なにほど)苦(くる)しみ悶(もだ)えたとて神(かみ)は聞(き)き済(ず)みはないぞよ。389改心(かいしん)が一等(いつとう)ぞよ。390神(かみ)は人民(じんみん)が助(たす)けたさに夜(よ)の目(め)もロクによう寝(ね)ずに、391苦労(くらう)艱難(かんなん)を致(いた)して居(を)るぞよ。392神(かみ)の事(こと)は人民(じんみん)等(など)の分(わか)ることでないぞよ。393早(はや)く帰(かへ)つて下(くだ)されよ。394四(よ)つ足(あし)霊(みたま)がウロウロ致(いた)すと、395神(かみ)の気障(きざわり)が出来(でき)るぞよ。396早(はや)く帰(かへ)つて下(くだ)されよ』
397とのべつ幕(まく)なしに大声(おほごゑ)で呶鳴(どな)り立(た)て、398安彦(やすひこ)、399国彦(くにひこ)の直使(ちよくし)を烟(けむり)にまいて了(しま)つた。
400(大正一二・一・二三 旧一一・一二・七 松村真澄録)
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