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霊界物語
真善美愛(第49~60巻)
第50巻(丑の巻)
序文
総説
第1篇 和光同塵
第1章 至善至悪
第2章 照魔燈
第3章 高魔腹
第4章 御意犬
第2篇 兇党擡頭
第5章 霊肉問答
第6章 玉茸
第7章 負傷負傷
第8章 常世闇
第9章 真理方便
第3篇 神意と人情
第10章 据置貯金
第11章 鸚鵡返
第12章 敵愾心
第13章 盲嫌
第14章 虬の盃
第4篇 神犬の言霊
第15章 妖幻坊
第16章 鷹鷲掴
第17章 偽筆
第18章 安国使
第19章 逆語
第20章 悪魔払
第21章 犬嘩
余白歌
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真善美愛(第49~60巻)
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第50巻(丑の巻)
> 第3篇 神意と人情 > 第12章 敵愾心
<<< 鸚鵡返
(B)
(N)
盲嫌 >>>
第一二章
敵愾心
(
てきがいしん
)
〔一三〇六〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第50巻 真善美愛 丑の巻
篇:
第3篇 神意と人情
よみ(新仮名遣い):
しんいとにんじょう
章:
第12章 敵愾心
よみ(新仮名遣い):
てきがいしん
通し章番号:
1306
口述日:
1923(大正12)年01月21日(旧12月5日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年12月7日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
楓の叫び声を聞いて、酔った五人はその場へやってきた。楓の頼みでイルが高姫を引き離そうとしたが、高姫に突かれて倒されてしまった。残りの者は高姫めがけて武者ぶりつこうとしたが、酔っていたので皆高姫に放り出されてしまった。
高姫は一人、座敷の真中で大声で見栄を切っていい気になっている。そのすきに楓が後ろから高姫の両足をすくったので、高姫は転回して五人の上にひっくり返ってしまった。高姫は膝頭とむこうずねをしたたか縁板に打ち付けて呻いている。楓はそのすきに両親にこのことを知らせようと裏口から神殿に駆けて行った。
五人は高姫が上に倒れかかってきたので、それぞれ悪態をついた。高姫は怒って五人に打ってかかろうとしたが、そこにスマートが現れて、高姫が怪我をしないように、しかし怪力にまかせて後ろ向きに森の方へ引きずっていってしまった。
高姫は五人に助けを求めたが、一同はただ高姫を見送るだけであった。そこへ楓が戻ってきて、高姫の行方を尋ねた。イルは、スマートが森に高姫を引きずって行ったので、大方喰われてしまったのだろうと答えた。
楓は呑気なことを言っていないで高姫を助けるように五人に指示した。そこへ初稚姫が、珍彦と静子を連れて現れた。珍彦と静子は、楓が高姫に食って掛かったことを注意するが、楓は、高姫が両親を毒殺しようとした、と抗弁する。
イルたち五人はそれを聞いて憤慨するが、初稚姫がとんちを利かせて、楓が夢を見たことにして五人をなだめた。初稚姫は、五人に高姫の救出に行かせた。
楓は、自分の言うことは夢でも嘘でもないと駄々をこねるが、初稚姫は何事も神様にお任せするようにと楓をなだめた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-07-19 16:06:32
OBC :
rm5012
愛善世界社版:
162頁
八幡書店版:
第9輯 209頁
修補版:
校定版:
168頁
普及版:
83頁
初版:
ページ備考:
001
楓
(
かへで
)
の
叫
(
さけ
)
び
声
(
ごゑ
)
に
取
(
と
)
る
物
(
もの
)
も
取
(
と
)
り
敢
(
あ
)
へず、
002
ヅブ
六
(
ろく
)
連中
(
れんちう
)
は
此
(
この
)
場
(
ば
)
へバラバラツとやつて
来
(
き
)
た。
003
高姫
(
たかひめ
)
は
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
酔
(
よひ
)
どれをグツと
睨
(
にら
)
み、
004
声
(
こゑ
)
を
荒
(
あら
)
らげて、
005
高姫
『コリヤ、
006
老耄
(
もうろく
)
奴
(
め
)
、
007
騒
(
さわ
)
がしい、
008
ドヤドヤと、
009
何
(
なに
)
しにうせたのだ。
010
不都合
(
ふつがふ
)
な
事
(
こと
)
を
申
(
まを
)
すによつて、
011
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
が
折檻
(
せつかん
)
を
致
(
いた
)
してをるのだ。
012
いらざるチヨツカイを
出
(
だ
)
し、
013
構
(
かま
)
ひ
立
(
だ
)
てを
致
(
いた
)
すと
了簡
(
れうけん
)
ならぬぞや』
014
楓
『コレ、
015
イルさま、
016
イクさま、
017
早
(
はや
)
う
天上
(
てんじやう
)
さまを
放
(
はな
)
して
下
(
くだ
)
さいなア』
018
イル『ハイ
宜
(
よろ
)
しい、
019
お
前
(
まへ
)
さまを
助
(
たす
)
けに
来
(
き
)
たのだ』
020
と
座敷
(
ざしき
)
へかけ
上
(
あが
)
る。
021
高姫
(
たかひめ
)
は、
022
高姫
『イーイ、
023
小癪
(
こしやく
)
な
老耄
(
もうろく
)
奴
(
め
)
』
024
と
胸倉
(
むなぐら
)
をドンと
突
(
つ
)
いた。
025
イルはヨロヨロとヨロめき、
026
縁側
(
えんがは
)
から
前
(
まへ
)
へ
仰向
(
あふむ
)
けにひつくり
返
(
かへ
)
つた。
027
此
(
この
)
態
(
てい
)
を
見
(
み
)
て、
028
イク、
029
サール、
030
ハル、
031
テルの
四
(
よ
)
人
(
にん
)
はヒヨロヒヨロしながらも、
032
気
(
き
)
ばかりは
勝
(
か
)
つてゐるので、
033
高姫
(
たかひめ
)
目
(
め
)
がけて
武者
(
むしや
)
振
(
ぶ
)
りつかうとする。
034
高姫
(
たかひめ
)
は
楓
(
かへで
)
を
放
(
はな
)
しおき、
035
両手
(
りやうて
)
を
拡
(
ひろ
)
げて、
036
出
(
で
)
て
来
(
く
)
る
奴
(
やつ
)
を
力
(
ちから
)
に
任
(
まか
)
せ、
037
ウンとつく。
038
何
(
いづ
)
れもヘベレケに
酔
(
よ
)
うてゐるのだからたまらない、
039
高姫
(
たかひめ
)
が
非力
(
ひりき
)
にも
敵
(
てき
)
し
難
(
がた
)
く、
040
将棋倒
(
しやうぎだふ
)
しに
放
(
ほ
)
り
出
(
だ
)
されて
了
(
しま
)
つた。
041
そして
五
(
ご
)
人
(
にん
)
は
目
(
め
)
がマクマクとしたと
見
(
み
)
え、
042
泡
(
あわ
)
をふいて
苦
(
くる
)
しんでゐる。
043
高姫
(
たかひめ
)
は
座敷
(
ざしき
)
の
中央
(
まんなか
)
に
大
(
だい
)
の
字形
(
じがた
)
に
立
(
た
)
ちはだかり、
044
大音声
(
だいおんじやう
)
、
045
高姫
『
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
、
046
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
の
生宮
(
いきみや
)
の
神力
(
しんりき
)
は、
047
マヅ
此
(
この
)
通
(
とほ
)
りだ。
048
仮令
(
たとへ
)
百
(
ひやく
)
人
(
にん
)
千
(
せん
)
人
(
にん
)
一万匹
(
いちまんびき
)
たりとも、
049
来
(
きた
)
らば
来
(
きた
)
れ、
050
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
の
今
(
いま
)
や
現
(
あら
)
はれ
時
(
どき
)
』
051
と
図
(
づ
)
にのつてホラを
吹立
(
ふきた
)
てる。
052
そして
楓
(
かへで
)
が
後
(
うしろ
)
にゐることは、
053
前
(
まへ
)
に
気
(
き
)
を
取
(
と
)
られて、
054
スツカリ
忘
(
わす
)
れてゐた。
055
楓
(
かへで
)
はソツと
後
(
うしろ
)
から
高姫
(
たかひめ
)
の
両足
(
りやうあし
)
を
掬
(
すく
)
つた。
056
アツと
叫
(
さけ
)
んで、
057
スツテンドウとひつくり
返
(
かへ
)
り、
058
勢
(
いきほひ
)
余
(
あま
)
つて
再
(
ふたた
)
び
転回
(
てんくわい
)
し、
059
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
上
(
うへ
)
にドスンと
倒
(
たふ
)
れた。
060
其
(
その
)
間
(
あひだ
)
に
楓
(
かへで
)
は
急
(
きふ
)
を
両親
(
りやうしん
)
に
報
(
ほう
)
ずべく、
061
真跣足
(
まつぱだし
)
となつて
裏口
(
うらぐち
)
から
神殿
(
しんでん
)
へとかけて
行
(
ゆ
)
く。
062
高姫
(
たかひめ
)
は
膝頭
(
ひざがしら
)
と
向脛
(
むかふずね
)
を
縁板
(
えんいた
)
に
打
(
う
)
ちつけ、
063
顔
(
かほ
)
をしかめて、
064
声
(
こゑ
)
さへえ
上
(
あ
)
げず「ウーンウーン」と
深
(
ふか
)
き
息
(
いき
)
をついてうめいてゐる。
065
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
酔
(
よひ
)
どれは
漸
(
やうや
)
くにして
起上
(
おきあが
)
り、
066
高姫
(
たかひめ
)
のそこに
倒
(
たふ
)
れたのを
見
(
み
)
て、
067
イル『コココリヤ、
068
高姫
(
たかひめ
)
、
069
俺
(
おれ
)
をどなたぢやと
心得
(
こころえ
)
てる、
070
イルさまだぞ。
071
貴様
(
きさま
)
は
神罰
(
しんばつ
)
が
当
(
あた
)
つて、
072
梟鳥
(
ふくろどり
)
の
奴
(
やつ
)
に
目
(
め
)
をコツかれ、
073
木
(
き
)
からバツサリと
落
(
お
)
ちて、
074
難儀
(
なんぎ
)
をさらしてゐたぢやないか。
075
其
(
その
)
時
(
とき
)
に
此
(
この
)
イルさまが
介抱
(
かいほう
)
してやつたことを
覚
(
おぼ
)
えてゐるか。
076
余
(
あんま
)
り
悪
(
あく
)
がすぎると、
077
此
(
この
)
通
(
とほ
)
りだ。
078
エエー、
079
オオ
俺
(
おれ
)
の
意中
(
いちう
)
の
愛人
(
あいじん
)
たる
楓
(
かへで
)
さまを、
080
何科
(
なにとが
)
があつて、
081
ぶんなぐりやがつたのだ。
082
ササ
貴様
(
きさま
)
、
083
そこに
倒
(
たふ
)
れてゐやがるのを
幸
(
さいは
)
ひ、
084
愛人
(
あいじん
)
の
敵
(
かたき
)
をうつてやるのだ。
085
エエー、
086
コレ
楓
(
かへで
)
さま、
087
今
(
いま
)
お
前
(
まへ
)
の
敵
(
かたき
)
をうつから
見
(
み
)
とりなさいや』
088
イク『おい、
089
イル、
090
楓
(
かへで
)
さまは
逃
(
に
)
げて
行
(
い
)
つたぢやないか』
091
イル
『ウーン、
092
肝腎
(
かんじん
)
の
御
(
ご
)
本人
(
ほんにん
)
がゐないと、
093
何
(
なん
)
だか
変哲
(
へんてつ
)
がないワイ。
094
お
馬
(
うま
)
の
前
(
さき
)
の
功名
(
こうみやう
)
でないと、
095
縁
(
えん
)
の
下
(
した
)
の
力持
(
ちからもち
)
ではつまらぬからのう』
096
サール『
此
(
この
)
婆
(
ばば
)
は、
097
又
(
また
)
しても
又
(
また
)
しても、
098
乱暴
(
らんばう
)
な
事
(
こと
)
ばかりしやがる
奴
(
やつ
)
だなア。
099
木
(
き
)
からブチヤだれやがつて、
100
大変
(
たいへん
)
に
苦
(
くる
)
しみ、
101
俺
(
おれ
)
たちに
厄介
(
やくかい
)
をかけておきながら、
102
チツと
病気
(
びやうき
)
が
癒
(
なほ
)
つたと
思
(
おも
)
へば、
103
又
(
また
)
もや
発動
(
はつどう
)
しやがつて、
104
あんな
可愛
(
かあい
)
い
娘
(
むすめ
)
を
打擲
(
ちやうちやく
)
するとは
怪
(
け
)
しからぬ
奴
(
やつ
)
だ。
105
大
(
おほ
)
いに
楓
(
かへで
)
さまの
肩
(
かた
)
をもつて、
106
此
(
この
)
婆
(
ばば
)
をイヤといふ
程
(
ほど
)
擲
(
なぐ
)
りつけてやりたいものだな。
107
コリヤ、
108
高姫
(
たかひめ
)
、
109
貴様
(
きさま
)
、
110
それ
程
(
ほど
)
、
111
キリキリ
上
(
あが
)
つたり、
112
おりたり、
113
魔法
(
まはふ
)
を
使
(
つか
)
ひよると、
114
俺
(
おれ
)
だとて
一寸
(
ちよつと
)
つかまへにくいわ。
115
チツと
静
(
しづか
)
にせぬかい。
116
こりや、
117
おい、
118
イク、
119
ハル、
120
イル、
121
テルの
奴
(
やつ
)
まで、
122
上
(
うへ
)
になつたり
下
(
した
)
になつたり、
123
まいまいこんこしてゐよる、
124
オヤ
家
(
いへ
)
までまはり
出
(
だ
)
したぞ。
125
コリヤ
大地震
(
おほぢしん
)
だ。
126
小
(
ちひ
)
さい
喧嘩
(
けんくわ
)
をやめて、
127
皆
(
みな
)
非常組
(
ひじやうぐみ
)
と
出
(
で
)
かけななるまい、
128
コリヤ
皆
(
みな
)
の
奴
(
やつ
)
、
129
そんな
所
(
ところ
)
にキリキリ
舞
(
まひ
)
しとる
時
(
とき
)
ぢやないぞよ』
130
高姫
(
たかひめ
)
は
打創
(
うちきず
)
の
大痛
(
おほいたみ
)
も
余程
(
よほど
)
軽減
(
けいげん
)
したので、
131
ムクムクと
起上
(
おきあが
)
り、
132
高姫
『コリヤ、
133
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
老耄
(
もうろく
)
、
134
貴様
(
きさま
)
は
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
の
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
様
(
さま
)
を
何
(
なん
)
と
心得
(
こころえ
)
とる。
135
許
(
ゆる
)
しもなしに
酒
(
さけ
)
に
喰
(
くら
)
ひ
酔
(
よ
)
うて、
136
其
(
その
)
上
(
うへ
)
に
生宮
(
いきみや
)
様
(
さま
)
に
刃向
(
はむ
)
かふとは
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
だ、
137
不心得
(
ふこころえ
)
にも
程
(
ほど
)
があるぞや』
138
テル『ナナナ
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬか
)
しよるのだい、
139
悪
(
あく
)
の
張本人
(
ちやうほんにん
)
奴
(
め
)
が。
140
爺
(
おやぢ
)
の
行方
(
ゆくへ
)
が
知
(
し
)
れぬので、
141
発狂
(
はつきやう
)
しよつたのだな。
142
オイ、
143
コラ、
144
皆
(
みな
)
の
奴
(
やつ
)
、
145
こんな
気違
(
きちがひ
)
に
相手
(
あひて
)
になるな』
146
高姫
『コーリヤ、
147
モウ
了簡
(
れうけん
)
せぬぞ、
148
みせしめの
為
(
ため
)
だ。
149
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
の
鉄拳
(
てつけん
)
をくらへ』
150
と
握
(
にぎ
)
り
拳
(
こぶし
)
を
固
(
かた
)
めて、
151
小口
(
こぐち
)
から
打
(
う
)
つて
行
(
ゆ
)
かうとする。
152
此
(
この
)
時
(
とき
)
後
(
うしろ
)
の
方
(
はう
)
から、
153
(スマート)
『ウーツ ウーツ』
154
と
唸
(
うな
)
つてやつて
来
(
き
)
たのは
例
(
れい
)
のスマートであつた。
155
そしてスマートは
高姫
(
たかひめ
)
の
怪我
(
けが
)
せないやうに
裾
(
すそ
)
を
食
(
く
)
はへて
怪力
(
くわいりき
)
に
任
(
まか
)
せ、
156
ドンドンドンと
後向
(
うしろむ
)
けに
引
(
ひ
)
きずつて
行
(
ゆ
)
く。
157
高姫
(
たかひめ
)
は
腰
(
こし
)
から
下
(
した
)
を
丸出
(
まるだ
)
しにして、
158
高姫
『オーイ、
159
イル、
160
イク、
161
サール、
162
助
(
たす
)
けに
来
(
こ
)
ぬか、
163
オーイオーイ』
164
と
云
(
い
)
ひながら、
165
ドンドンドンと
森
(
もり
)
の
中
(
なか
)
へと
引
(
ひ
)
かれて
行
(
ゆ
)
く。
166
五
(
ご
)
人
(
にん
)
は
此
(
この
)
恐
(
おそ
)
ろしきスマートの
働
(
はたら
)
きに
肝
(
きも
)
を
潰
(
つぶ
)
し、
167
酒
(
さけ
)
の
酔
(
よ
)
ひもさめ、
168
ポカンと
口
(
くち
)
を
開
(
あ
)
けて、
169
高姫
(
たかひめ
)
の
叫
(
さけ
)
びながら
引張
(
ひつぱ
)
られて
行
(
ゆ
)
く
森
(
もり
)
の
方
(
はう
)
を
背伸
(
せの
)
びをしながら、
170
心地
(
ここち
)
よげに
見送
(
みおく
)
つて
居
(
ゐ
)
た。
171
楓
(
かへで
)
は
慌
(
あわただ
)
しく
走
(
はし
)
り
帰
(
かへ
)
り、
172
楓
『ア、
173
皆
(
みな
)
さま、
174
よう
助
(
たす
)
けて
下
(
くだ
)
さいました。
175
お
蔭
(
かげ
)
で
高姫
(
たかひめ
)
の
毒牙
(
どくが
)
を
逃
(
のが
)
れました。
176
一番
(
いちばん
)
がけに
駆
(
か
)
けつけて
下
(
くだ
)
さいましたのは
何方
(
どなた
)
で
厶
(
ござ
)
いましたいなア』
177
イル『ヘーエ、
178
拙者
(
せつしや
)
で
厶
(
ござ
)
います。
179
吾々
(
われわれ
)
五
(
ご
)
人
(
にん
)
は
受付
(
うけつけ
)
に
於
(
おい
)
て
酒
(
さけ
)
の
酔
(
よひ
)
をさます
折
(
をり
)
しも、
180
(
芝居
(
しばゐ
)
口調
(
くてう
)
)
忽
(
たちま
)
ち
聞
(
きこ
)
ゆる
怪
(
あや
)
しの
声
(
こゑ
)
、
181
しかも
妙齢
(
めうれい
)
の
美人
(
びじん
)
の
叫
(
さけ
)
び
声
(
ごゑ
)
……と
聞
(
き
)
くより、
182
気
(
き
)
も
狂乱
(
きやうらん
)
、
183
救
(
すく
)
ひ……
出
(
だ
)
さねばなるまいと、
184
後
(
うしろ
)
鉢巻
(
はちまき
)
リンとしめ、
185
襷十字
(
たすきじふじ
)
にあや
取
(
ど
)
り、
186
袴
(
はかま
)
の
股立
(
ももだち
)
ヂンと
上
(
あ
)
げ、
187
此方
(
こなた
)
を
指
(
さ
)
して、
188
一目散
(
いちもくさん
)
に、
189
タツタツタツと
一散走
(
いつさんばし
)
り、
190
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
虎狼
(
こらう
)
にも
等
(
ひと
)
しき、
191
馬鹿
(
ばか
)
の
天上
(
てんじやう
)
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
、
192
おのれ、
193
最愛
(
さいあい
)
の
楓姫
(
かへでひめ
)
様
(
さま
)
を
打擲
(
ちやうちやく
)
いたすとは
不埒
(
ふらち
)
千万
(
せんばん
)
、
194
切
(
き
)
つてすてむとかけよる
折
(
をり
)
しも、
195
敵
(
てき
)
の
力
(
ちから
)
やまさりけむ、
196
グツと
胸
(
むね
)
をつかれ、
197
ヨーロヨロヨロヨロと
三間
(
さんげん
)
ばかり、
198
たあちまち、
199
縁側
(
えんがは
)
より
仰向
(
あふむけ
)
にスツテンドウと
顛落
(
てんらく
)
し、
200
頭蓋骨
(
づがいこつ
)
をシタタカ
砕
(
くだ
)
き、
201
腰
(
こし
)
の
骨
(
ほね
)
を
幾
(
いく
)
らか
痛
(
いた
)
めたれど、
202
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
つても
最愛
(
さいあい
)
の
楓姫
(
かへでひめ
)
の
身代
(
みがは
)
りと
思
(
おも
)
へば、
203
死
(
し
)
しても
冥
(
めい
)
すべし……と
覚悟
(
かくご
)
をきはめました。
204
実
(
げ
)
に
勇
(
いさ
)
ましき
勇士
(
ゆうし
)
でげせうがなア』
205
楓
『ホホホあのマア
御
(
お
)
元気
(
げんき
)
なこと、
206
男
(
をとこ
)
さまはお
酒
(
さけ
)
に
酔
(
よ
)
ふと、
207
それだから
厭
(
いや
)
なのよ』
208
サール『アハハハハ、
209
コリヤ、
210
イル、
211
どこに
捻鉢巻
(
ねぢはちまき
)
をしてるのだい。
212
襷
(
たすき
)
十文字
(
じふもんじ
)
も、
213
袴
(
はかま
)
の
股立
(
ももだち
)
も、
214
どこにあるのだ。
215
あまり
馬鹿
(
ばか
)
にするない。
216
そんな
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふから、
217
楓
(
かへで
)
さまに
笑
(
わら
)
はれるのだ』
218
イル『ナアニ、
219
一寸
(
ちよつと
)
芝居
(
しばゐ
)
をして
見
(
み
)
たのだよ。
220
アツハハハハ』
221
楓
『
時
(
とき
)
に
皆
(
みな
)
さま、
222
高姫
(
たかひめ
)
さまは
何処
(
どこ
)
へ
行
(
ゆ
)
かれましたの』
223
イル『ナアニ
心配
(
しんぱい
)
なさいますな。
224
今頃
(
いまごろ
)
にや
猛犬
(
まうけん
)
に
喰
(
く
)
はれて
居
(
ゐ
)
るに
違
(
ちが
)
ひありませぬワ。
225
あの
犬
(
いぬ
)
だつて、
226
あんな
大
(
おほ
)
きな
体
(
からだ
)
をスツカリ
食
(
く
)
うて
了
(
しま
)
ふ
筈
(
はず
)
もありますまいから、
227
腕
(
うで
)
の
一本
(
いつぽん
)
でも
残
(
のこ
)
つて
居
(
を
)
れば、
228
其奴
(
そいつ
)
を
葬
(
はうむ
)
つてやればいいのだ。
229
マア
貴女
(
あなた
)
の
強敵
(
きやうてき
)
が
亡
(
ほろ
)
びまして
結構
(
けつこう
)
ですよ、
230
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
なさいませ。
231
かくの
如
(
ごと
)
き
万夫
(
ばんぷ
)
不当
(
ふたう
)
の
大丈夫
(
ますらを
)
が
此
(
この
)
館
(
やかた
)
に
立籠
(
たてこも
)
る
以上
(
いじやう
)
は、
232
如何
(
いか
)
なる
敵
(
てき
)
が
押
(
お
)
しよせ
来
(
きた
)
るとも、
233
何条
(
なんでう
)
ひるむべき、
234
忽
(
たちま
)
ち
木端
(
こつぱ
)
微塵
(
みぢん
)
と
踏
(
ふ
)
み
砕
(
くだ
)
き、
235
蹴倒
(
けたふ
)
し
薙
(
な
)
ぎ
倒
(
たふ
)
し、
236
天晴
(
あつぱれ
)
功名
(
こうみやう
)
手柄
(
てがら
)
を
現
(
あら
)
はし、
237
勝鬨
(
かちどき
)
あぐるは
瞬
(
またた
)
く
間
(
うち
)
、
238
姫君
(
ひめぎみ
)
様
(
さま
)
、
239
必
(
かなら
)
ず
必
(
かなら
)
ず
御
(
ご
)
煩慮
(
はんりよ
)
なされますなや』
240
と
芝居
(
しばゐ
)
がかりになつてゐる。
241
楓
『そんな
気楽
(
きらく
)
な
事
(
こと
)
云
(
い
)
つて
居
(
を
)
らず、
242
早
(
はや
)
く
高姫
(
たかひめ
)
さまを
助
(
たす
)
けて
上
(
あ
)
げて
下
(
くだ
)
さいな』
243
イル『ハイ、
244
私
(
わたし
)
にお
頼
(
たの
)
みですか。
245
但
(
ただし
)
はイクにですか。
246
又
(
また
)
はサール、
247
ハル、
248
テル、
249
何
(
いづ
)
れに
御
(
ご
)
指定
(
してい
)
下
(
くだ
)
さいますかなア』
250
楓
『エーエ、
251
お
酒
(
さけ
)
に
酔
(
よ
)
うて、
252
困
(
こま
)
つた
人
(
ひと
)
だなア。
253
皆
(
みな
)
さま、
254
早
(
はや
)
う
行
(
い
)
つて
助
(
たす
)
けて
下
(
くだ
)
さいな。
255
マゴマゴしてゐちや、
256
高姫
(
たかひめ
)
さまの
命
(
いのち
)
がなくなりますよ』
257
イル『ヘヘヘ、
258
何
(
なに
)
仰有
(
おつしや
)
います。
259
あんな
奴
(
やつ
)
ア、
260
犬
(
いぬ
)
に
食
(
く
)
はれた
方
(
はう
)
が、
261
余程
(
よつぽど
)
都合
(
つがふ
)
が
宜
(
よろ
)
しいよ。
262
のう
皆
(
みな
)
の
連中
(
れんちう
)
』
263
サール『それでも
女王
(
ぢよわう
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
だから、
264
ともかく、
265
見
(
み
)
るだけでもいいから
往
(
い
)
つて
来
(
こ
)
うぢやないか』
266
と
下
(
くだ
)
らぬクダを
巻
(
ま
)
いてゐる。
267
そこへ
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
珍彦
(
うづひこ
)
夫婦
(
ふうふ
)
を
伴
(
ともな
)
ひ、
268
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
269
初稚姫
『あ、
270
貴女
(
あなた
)
は
楓
(
かへで
)
さま、
271
お
怪我
(
けが
)
は
厶
(
ござ
)
いませなんだか、
272
危
(
あぶ
)
ない
事
(
こと
)
だつたさうですね』
273
楓
『ハイ
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
274
チツとばかり
頭
(
あたま
)
が
痛
(
いた
)
みますけれど、
275
大
(
たい
)
した
事
(
こと
)
も
厶
(
ござ
)
いますまい』
276
珍彦
(
うづひこ
)
『
余
(
あま
)
り
楓
(
かへで
)
は
口
(
くち
)
がいいものですから、
277
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
さまのお
怒
(
いか
)
りに
触
(
ふ
)
れたのでせうよ』
278
楓
『それだつてお
父
(
とう
)
さま、
279
毒殺
(
どくさつ
)
を
企
(
たく
)
んでおいて、
280
あべこべに
私
(
わたし
)
をとつちめるのですもの、
281
私
(
わたし
)
だつて、
282
余
(
あんま
)
りで
言
(
い
)
はぬと
居
(
を
)
る
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
きませぬワ』
283
静子
(
しづこ
)
『あの
通
(
とほ
)
りのお
転婆
(
てんば
)
で
厶
(
ござ
)
いますから、
284
本当
(
ほんたう
)
に
親
(
おや
)
が
困
(
こま
)
ります。
285
初稚姫
(
はつわかひめ
)
様
(
さま
)
、
286
親
(
おや
)
の
教育
(
けういく
)
が
悪
(
わる
)
いものですから、
287
こんな
時
(
とき
)
にアラが
見
(
み
)
えまして、
288
お
恥
(
はづか
)
しう
厶
(
ござ
)
います』
289
イル『ナーニ、
290
高姫婆
(
たかひめばば
)
奴
(
め
)
、
291
毒害
(
どくがい
)
をしようと
企
(
たく
)
みよつたのか、
292
其奴
(
そいつ
)
ア
聞
(
き
)
き
捨
(
ず
)
てならぬ。
293
オイ
家来
(
けらい
)
共
(
ども
)
、
294
悪人
(
あくにん
)
の
征伐
(
せいばつ
)
だ、
295
サア
来
(
こ
)
いツ。
296
腕
(
うで
)
をねぢ
切
(
き
)
り
股
(
また
)
を
引
(
ひ
)
きさき、
297
首
(
くび
)
をチヨン
切
(
ぎ
)
つてこらしめてやらう。
298
いざ
来
(
こ
)
い、
299
来
(
きた
)
れ』
300
と
尻
(
しり
)
ひつからげ
早
(
はや
)
くも
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
さうとする。
301
四
(
よ
)
人
(
にん
)
も、
302
(イク、サール、ハル、テル)
『ヨーシ、
303
合点
(
がつてん
)
だ、
304
突貫
(
とつくわん
)
々々
(
とつくわん
)
』
305
と
云
(
い
)
ひながら、
306
尻
(
しり
)
ひつからげ、
307
かけ
出
(
だ
)
さうとするのを
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
声
(
こゑ
)
を
励
(
はげ
)
まし、
308
初稚姫
『
皆
(
みな
)
さま、
309
お
待
(
ま
)
ちなさい』
310
と
制止
(
せいし
)
した。
311
イル『それぢやと
申
(
まを
)
して、
312
斯
(
かく
)
の
如
(
ごと
)
き
悪人
(
あくにん
)
を、
313
どうノメノメと
見
(
み
)
のがす
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ませう。
314
どうぞ
私
(
わたし
)
に
天上
(
てんじやう
)
の
命
(
いのち
)
をとらして
下
(
くだ
)
さい。
315
日頃
(
ひごろ
)
鍛
(
きた
)
へた
武術
(
ぶじゆつ
)
の
手前
(
てまへ
)
、
316
二尺
(
にしやく
)
八寸
(
はつすん
)
伊達
(
だて
)
にはささぬ』
317
と
又
(
また
)
もや
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
さうとする。
318
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
両手
(
りやうて
)
を
拡
(
ひろ
)
げて
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
前
(
まへ
)
に
立塞
(
たちふさ
)
がり、
319
初稚姫
『
待
(
ま
)
つた
待
(
ま
)
つた、
320
お
待
(
ま
)
ちなさいませ。
321
楓
(
かへで
)
さまが
夢
(
ゆめ
)
を
御覧
(
ごらん
)
になつたのですよ。
322
サツパリ
嘘
(
うそ
)
ですからな、
323
メツタな
事
(
こと
)
をしては
可
(
い
)
けませぬ』
324
と
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
早速
(
さつそく
)
の
頓智
(
とんち
)
に
五
(
ご
)
人
(
にん
)
は
張切
(
はりき
)
つた
勢
(
いきほひ
)
も
抜
(
ぬ
)
け、
325
互
(
たがひ
)
に
顔
(
かほ
)
を
見合
(
みあは
)
せ、
326
(五人)
『ナーンダ、
327
馬鹿
(
ばか
)
らしい、
328
夢
(
ゆめ
)
だつたか』
329
と
手持
(
てもち
)
無沙汰
(
ぶさた
)
に、
330
又
(
また
)
もやしやがんで
了
(
しま
)
つた。
331
楓
『それだつて、
332
私
(
わたし
)
、
333
チツトも
嘘
(
うそ
)
は
云
(
い
)
はないワ』
334
初稚姫
『
楓
(
かへで
)
さま、
335
夢
(
ゆめ
)
の
浮世
(
うきよ
)
といふ
事
(
こと
)
がありますよ。
336
お
前
(
まへ
)
さまは
夢
(
ゆめ
)
をみてゐたのですよ。
337
夢
(
ゆめ
)
と
思
(
おも
)
ひさへすりやすむ
事
(
こと
)
ですからね』
338
楓
『だつて
頭
(
あたま
)
が
痛
(
いた
)
みますもの、
339
夢
(
ゆめ
)
になぐられても
矢張
(
やつぱり
)
こんなに
痛
(
いた
)
いでせうかな』
340
と
頭
(
あたま
)
を
抱
(
かか
)
へて、
341
恨
(
うら
)
めしさうにしやがんで
了
(
しま
)
つた。
342
珍彦
(
うづひこ
)
『
初稚姫
(
はつわかひめ
)
様
(
さま
)
、
343
仕方
(
しかた
)
のない
娘
(
むすめ
)
でせうがな。
344
時々
(
ときどき
)
大
(
だい
)
それた、
345
あんな
嘘
(
うそ
)
を
申
(
まを
)
しましてな、
346
両親
(
りやうしん
)
も
困
(
こま
)
りますの』
347
楓
『お
父
(
とう
)
さま、
348
わたえ、
349
嘘
(
うそ
)
は
嫌
(
きら
)
ひといふのに……そんな
事
(
こと
)
云
(
い
)
つて
貰
(
もら
)
つちや、
350
私
(
わたし
)
の
立瀬
(
たつせ
)
がないワ。
351
アンアンアンアン』
352
静子
(
しづこ
)
『
何
(
なん
)
でもいいぢやないか。
353
おとなしくしてゐなさい』
354
楓
『それでも
痛
(
いた
)
くてたまらないワ』
355
初稚
(
はつわか
)
『サ、
356
イルさま、
357
イクさま、
358
外
(
ほか
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
さま、
359
早
(
はや
)
く
高姫
(
たかひめ
)
さまを
救
(
すく
)
ひ
出
(
だ
)
しに
行
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さいな』
360
イル『ハイ、
361
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました。
362
サ、
363
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
者
(
もの
)
共
(
ども
)
、
364
天下
(
てんか
)
無双
(
むさう
)
の
勇士
(
ゆうし
)
、
365
イルに
続
(
つづ
)
けツ、
366
前
(
まへ
)
へ
進
(
すす
)
めツ、
367
一
(
いち
)
二
(
に
)
三
(
さん
)
ツ』
368
と
軍隊
(
ぐんたい
)
式
(
しき
)
にチヨクチヨクと
地上
(
ちじやう
)
を
刻
(
きざ
)
みながら、
369
高姫
(
たかひめ
)
の
引
(
ひ
)
きずられて
行
(
い
)
つた
木
(
き
)
の
茂
(
しげ
)
みを
探
(
たづ
)
ねて
走
(
はし
)
り
行
(
ゆ
)
く。
370
後見送
(
あとみおく
)
つて
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
両手
(
りやうて
)
を
合
(
あは
)
せ、
371
神界
(
しんかい
)
に
高姫
(
たかひめ
)
の
無事
(
ぶじ
)
ならむ
事
(
こと
)
を
祈
(
いの
)
つた。
372
楓
(
かへで
)
『
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
、
373
本当
(
ほんたう
)
に
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
といふあの
婆
(
ば
)
アさまは、
374
無茶
(
むちや
)
な
人
(
ひと
)
ですよ。
375
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
すと、
376
余
(
あんま
)
りの
業託
(
ごふたく
)
をいふので、
377
腹
(
はら
)
が
立
(
た
)
つてたまりませぬワ。
378
貴女
(
あなた
)
様
(
さま
)
がお
助
(
たす
)
け
下
(
くだ
)
さらなかつたならば、
379
モウ
今頃
(
いまごろ
)
はお
父
(
とう
)
さまもお
母
(
かあ
)
さまも
亡
(
な
)
くなつてゐるのですもの。
380
私
(
わたし
)
は
子
(
こ
)
として、
381
何
(
ど
)
うしてこれが
黙
(
だま
)
つてゐられませうかねえ。
382
チツと
戒
(
いまし
)
めておいてやらなければ、
383
何時
(
なんどき
)
、
384
お
父
(
とう
)
さまやお
母
(
かあ
)
さまを
毒害
(
どくがい
)
するか
分
(
わか
)
つたものぢやありませぬ。
385
私
(
わたし
)
、
386
ここ
一
(
いつ
)
週間
(
しうかん
)
程
(
ほど
)
といふものは、
387
夜分
(
やぶん
)
もロクに
寝
(
ね
)
た
事
(
こと
)
はありませぬのよ。
388
両親
(
りやうしん
)
の
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
が
気
(
き
)
にかかつて
仕方
(
しかた
)
がないのですもの』
389
初稚姫
『ああそれは
御尤
(
ごもつと
)
もで
厶
(
ござ
)
います。
390
併
(
しか
)
しながら
何事
(
なにごと
)
も
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
御
(
お
)
任
(
まか
)
せなさいませ。
391
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝歌
(
せんでんか
)
にも
厶
(
ござ
)
いませうがな……
神
(
かみ
)
が
表
(
おもて
)
に
現
(
あら
)
はれて、
392
善
(
ぜん
)
と
悪
(
あく
)
とを
立別
(
たてわ
)
ける……とお
示
(
しめ
)
しになつてゐますから、
393
キツと
悪人
(
あくにん
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
仇
(
かたき
)
を
討
(
う
)
つて
下
(
くだ
)
さいますよ。
394
人間
(
にんげん
)
は
何事
(
なにごと
)
も
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
にお
任
(
まか
)
せする
方
(
はう
)
が
安全
(
あんぜん
)
ですからね』
395
楓
『ハイ、
396
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います』
397
珍彦
(
うづひこ
)
『
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
、
398
よう
言
(
い
)
うて
聞
(
き
)
かして
下
(
くだ
)
さいました。
399
吾々
(
われわれ
)
夫婦
(
ふうふ
)
もこれでヤツと
安心
(
あんしん
)
致
(
いた
)
しました。
400
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
、
401
吾々
(
われわれ
)
夫婦
(
ふうふ
)
も
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
から
一目
(
ひとめ
)
も
能
(
よ
)
う
寝
(
ね
)
なかつたのです。
402
何時
(
なんどき
)
此
(
この
)
楓
(
かへで
)
が
懐剣
(
くわいけん
)
を
持
(
も
)
つて、
403
親
(
おや
)
の
敵
(
かたき
)
だと
云
(
い
)
つて、
404
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
に
切
(
き
)
りかけるやら
分
(
わか
)
らない
形勢
(
けいせい
)
で
厶
(
ござ
)
いましたので、
405
茲
(
ここ
)
七八日
(
ななやうか
)
といふものは、
406
夫婦
(
ふうふ
)
の
者
(
もの
)
が
夜分
(
やぶん
)
になれば
一睡
(
いつすゐ
)
もせなかつたのです。
407
どうぞ
不調法
(
ぶてうはふ
)
がないやうと
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
に
祈
(
いの
)
つてゐました。
408
先
(
ま
)
づ
先
(
ま
)
づそのお
蔭
(
かげ
)
で
無事
(
ぶじ
)
に
今日
(
けふ
)
迄
(
まで
)
暮
(
く
)
れました。
409
誠
(
まこと
)
に
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
410
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
大病中
(
たいびやうちう
)
にも
夫婦
(
ふうふ
)
の
者
(
もの
)
がお
尋
(
たづ
)
ねせなくちやなりませぬのだが、
411
娘
(
むすめ
)
が
聞
(
き
)
きませぬので、
412
心
(
こころ
)
ならずも、
413
いかい
失礼
(
しつれい
)
を
致
(
いた
)
しました。
414
又
(
また
)
娘
(
むすめ
)
は
娘
(
むすめ
)
として、
415
高姫
(
たかひめ
)
さまにお
見舞
(
みまひ
)
にやつてくれと
申
(
まを
)
しましたが、
416
どうも
懐剣
(
くわいけん
)
を
放
(
はな
)
さないので、
417
剣呑
(
けんのん
)
でたまりませず、
418
娘
(
むすめ
)
も
見舞
(
みまひ
)
にやらず、
419
吾々
(
われわれ
)
夫婦
(
ふうふ
)
もお
見舞
(
みまひ
)
にゆかず、
420
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
がお
不足
(
ふそく
)
仰有
(
おつしや
)
るのも
無理
(
むり
)
も
厶
(
ござ
)
いませぬ。
421
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
親
(
おや
)
の
敵
(
かたき
)
を
討
(
う
)
つと
云
(
い
)
つて、
422
あのイヤらしい
山口
(
やまぐち
)
の
森
(
もり
)
へ
丑
(
うし
)
の
時
(
とき
)
参
(
まゐ
)
りをするといふ
娘
(
むすめ
)
で
厶
(
ござ
)
いますからな。
423
本当
(
ほんたう
)
に
敵愾心
(
てきがいしん
)
の
強
(
つよ
)
い、
424
女子
(
をなご
)
だてら
仕方
(
しかた
)
のない
難物
(
なんぶつ
)
で
厶
(
ござ
)
います。
425
どうぞ
貴女
(
あなた
)
様
(
さま
)
のお
力
(
ちから
)
で、
426
トツクリと
言
(
い
)
ひ
聞
(
き
)
かしてやつて
下
(
くだ
)
さいませ』
427
初稚姫
『
楓
(
かへで
)
さま、
428
お
腹
(
はら
)
が
立
(
た
)
ちませうが、
429
どうぞ
私
(
わたし
)
の
居間
(
ゐま
)
迄
(
まで
)
御
(
お
)
遊
(
あそ
)
びに
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいませ。
430
又
(
また
)
面白
(
おもしろ
)
い
歌
(
うた
)
でも
歌
(
うた
)
つて
遊
(
あそ
)
びませう。
431
サ、
432
お
出
(
い
)
でなさいませ』
433
と
優
(
やさ
)
しく
楓
(
かへで
)
の
手
(
て
)
を
曳
(
ひ
)
いて、
434
十七
(
じふしち
)
才
(
さい
)
の
女
(
をんな
)
同士
(
どうし
)
が
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
居間
(
ゐま
)
を
指
(
さ
)
して
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
435
(
大正一二・一・二一
旧一一・一二・五
松村真澄
録)
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<<< 鸚鵡返
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【第12章 敵愾心|第50巻|真善美愛|霊界物語|/rm5012】
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