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霊界物語
真善美愛(第49~60巻)
第50巻(丑の巻)
序文
総説
第1篇 和光同塵
第1章 至善至悪
第2章 照魔燈
第3章 高魔腹
第4章 御意犬
第2篇 兇党擡頭
第5章 霊肉問答
第6章 玉茸
第7章 負傷負傷
第8章 常世闇
第9章 真理方便
第3篇 神意と人情
第10章 据置貯金
第11章 鸚鵡返
第12章 敵愾心
第13章 盲嫌
第14章 虬の盃
第4篇 神犬の言霊
第15章 妖幻坊
第16章 鷹鷲掴
第17章 偽筆
第18章 安国使
第19章 逆語
第20章 悪魔払
第21章 犬嘩
余白歌
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霊界物語
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真善美愛(第49~60巻)
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第50巻(丑の巻)
> 第2篇 兇党擡頭 > 第7章 負傷負傷
<<< 玉茸
(B)
(N)
常世闇 >>>
第七章
負傷
(
ふしやう
)
負傷
(
ぶしやう
)
〔一三〇一〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第50巻 真善美愛 丑の巻
篇:
第2篇 兇党擡頭
よみ(新仮名遣い):
きょうとうたいとう
章:
第7章 負傷負傷
よみ(新仮名遣い):
ふしょうぶしょう
通し章番号:
1301
口述日:
1923(大正12)年01月20日(旧12月4日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年12月7日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
初稚姫は珍彦の館を訪れた。門口の戸をそっとひらいて名乗りをすると、楓姫が迎え入れた。初稚姫が神丹のことを知っていたので、驚いた楓姫が尋ねると、神丹は言霊別命のお告げによって初稚姫が作り、スマートに持たせて楓姫に渡したものであったと明かした。
そこへ、神殿に神丹のお礼に行っていた珍彦と静子が帰ってきた。楓姫からいきさつを聞いた珍彦と静子は感激して初稚姫に礼を述べた。初稚姫は、自分は神様のご命令にしたがって行動しただけと答えた。
珍彦、静子、楓姫は、祠の森にやってきた杢助の行いが悪いので、そのことを不審に思って初稚姫に尋ねるが、初稚姫は言葉をにごし、三人は何事かを悟ったようであった。そして一同はここの杢助が本物ではないという秘密を歌に詠んでそれとなく確認し合った。
すると門口に、男の声で若い女性に恋の思いを告げる歌を歌う者がある。珍彦と静子は、誰かこの館に楓姫や初稚姫を思う者がいると心配するが、楓姫と初稚姫は、自分たちは気を付けもするし神様のご守護もあるから心配いらないと安堵させる。
そこへイルとハルがあわただしく入ってきて、高姫が大杉の梢から転落して怪我をしたと報告した。初稚姫は高姫のところに急いだ。
高姫は、自分は日の出神の御守護があるから大丈夫と、杢助のところに先に行くように初稚姫に懇願した。初稚姫は高姫の介抱をハルとイルに頼んで杢助のところに向かった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-07-13 12:08:41
OBC :
rm5007
愛善世界社版:
86頁
八幡書店版:
第9輯 180頁
修補版:
校定版:
90頁
普及版:
46頁
初版:
ページ備考:
001
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
静
(
しづか
)
に
歩
(
ほ
)
を
運
(
はこ
)
びながら
珍彦
(
うづひこ
)
の
館
(
やかた
)
を
訪
(
と
)
ひ、
002
門口
(
かどぐち
)
の
戸
(
と
)
をそつと
開
(
ひら
)
き、
003
初稚姫
『
御免
(
ごめん
)
なさいまし、
004
私
(
わたくし
)
は
初稚姫
(
はつわかひめ
)
で
厶
(
ござ
)
います。
005
ハルナの
都
(
みやこ
)
へ
宣伝使
(
せんでんし
)
として
参
(
まゐ
)
ります
途中
(
とちう
)
、
006
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
に
参拝
(
さんぱい
)
を
致
(
いた
)
し、
007
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
のお
世話
(
せわ
)
になりまして、
008
此処
(
ここ
)
に
暫
(
しばら
)
く
足
(
あし
)
を
留
(
とど
)
めて
居
(
を
)
るもので
厶
(
ござ
)
いますれば、
009
何卒
(
どうぞ
)
御
(
ご
)
入魂
(
じつこん
)
に
願
(
ねが
)
ひます』
010
と
云
(
い
)
つた。
011
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
に
驚
(
おどろ
)
いて
楓姫
(
かへでひめ
)
は
襖
(
ふすま
)
をそつと
開
(
ひら
)
いて
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
012
叮嚀
(
ていねい
)
に
辞儀
(
じぎ
)
をしながら
桐
(
きり
)
の
火鉢
(
ひばち
)
を
据
(
す
)
ゑ、
013
座蒲団
(
ざぶとん
)
を
敷
(
し
)
いて、
014
楓
『
貴女
(
あなた
)
様
(
さま
)
が
驍名
(
げうめい
)
高
(
たか
)
き
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
さまで
厶
(
ござ
)
いましたか。
015
それはそれはようまアお
訪
(
たづ
)
ね
下
(
くだ
)
さいました。
016
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は
貴女
(
あなた
)
様
(
さま
)
がお
越
(
こ
)
し
遊
(
あそ
)
ばしたと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を、
017
承
(
うけたま
)
はりまして、
018
一度
(
いちど
)
拝顔
(
はいがん
)
を
得
(
え
)
たいと
願
(
ねが
)
つて
居
(
を
)
りましたが、
019
私
(
わたし
)
の
両親
(
りやうしん
)
が
申
(
まを
)
しますには「お
前
(
まへ
)
のやうな
教育
(
けういく
)
のない
不作法
(
ぶさはふ
)
者
(
もの
)
が、
020
エンゼルのやうな
方
(
かた
)
の
前
(
まへ
)
に
出
(
で
)
るものぢやない、
021
御
(
ご
)
無礼
(
ぶれい
)
になるから
控
(
ひか
)
へて
居
(
を
)
れ」と
申
(
まを
)
しますので、
022
つひ
失礼
(
しつれい
)
を
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
りました。
023
ようまア
尊
(
たふと
)
き
御
(
おん
)
身
(
み
)
をもつてお
訪
(
たづ
)
ね
下
(
くだ
)
さいましたねえ。
024
サアどうぞ、
025
此処
(
ここ
)
へお
上
(
あが
)
り
下
(
くだ
)
さいませ。
026
お
茶
(
ちや
)
なりと
汲
(
く
)
まして
頂
(
いただ
)
きます』
027
初稚姫
『ハイ、
028
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
に
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
ります。
029
何彼
(
なにか
)
とお
世話
(
せわ
)
に
預
(
あづ
)
かりましてなア。
030
時
(
とき
)
に
珍彦
(
うづひこ
)
様
(
さま
)
、
031
静子
(
しづこ
)
様
(
さま
)
はどちらにお
出
(
い
)
でになりましたか、
032
お
顔
(
かほ
)
が
見
(
み
)
えないやうで
厶
(
ござ
)
いますなア』
033
楓
『ハイ、
034
一寸
(
ちよつと
)
両親
(
りやうしん
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
へお
礼参
(
れいまゐ
)
りと
云
(
い
)
つて
出
(
で
)
て
往
(
ゆ
)
きました。
035
大方
(
おほかた
)
御
(
ご
)
神前
(
しんぜん
)
に
参
(
まゐ
)
つて
居
(
を
)
られませう』
036
初稚姫
『
神丹
(
しんたん
)
のお
礼
(
れい
)
を
申
(
まを
)
しにお
出
(
い
)
でになつたのでせう』
037
楓姫
(
かへでひめ
)
は
此
(
この
)
言葉
(
ことば
)
に
吃驚
(
びつくり
)
して、
038
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
顔
(
かほ
)
を
見上
(
みあ
)
げながら、
039
少
(
すこ
)
しく
手
(
て
)
を
慄
(
ふる
)
はせ、
040
楓
『
貴女
(
あなた
)
はまア、
041
どうしてそんな
詳
(
くは
)
しい
事
(
こと
)
を
御存
(
ごぞん
)
じで
厶
(
ござ
)
いますか』
042
初稚姫
『ハイ、
043
御
(
ご
)
夫婦
(
ふうふ
)
の
危難
(
きなん
)
を
見
(
み
)
るに
見兼
(
みか
)
ねて、
044
妾
(
わらは
)
が
言霊別
(
ことたまわけの
)
命
(
みこと
)
様
(
さま
)
のお
告
(
つげ
)
により、
045
神丹
(
しんたん
)
と
云
(
い
)
ふ
霊薬
(
れいやく
)
を
造
(
つく
)
り、
046
スマートに
持
(
も
)
たせて
貴女
(
あなた
)
のお
手
(
て
)
に
渡
(
わた
)
した
筈
(
はず
)
で
厶
(
ござ
)
いますから』
047
楓
『ああ
左様
(
さやう
)
で
厶
(
ござ
)
いましたか。
048
さうすると
貴女
(
あなた
)
様
(
さま
)
は、
049
文珠
(
もんじゆ
)
菩薩
(
ぼさつ
)
様
(
さま
)
で
厶
(
ござ
)
いますか、
050
ああ
尊
(
たふと
)
や
有難
(
ありがた
)
やなア』
051
と
感謝
(
かんしや
)
の
涙
(
なみだ
)
に
咽
(
むせ
)
ぶ。
052
いつの
間
(
ま
)
にやらスマートは
床
(
ゆか
)
の
下
(
した
)
を
潜
(
くぐ
)
り、
053
尾
(
を
)
をふりながら
此処
(
ここ
)
に
現
(
あら
)
はれて
来
(
き
)
た。
054
初稚姫
『これスマートや、
055
うつかり
出歩
(
である
)
いちやいけませぬよ。
056
何
(
ど
)
うして
此処
(
ここ
)
へお
出
(
い
)
でたの。
057
お
前
(
まへ
)
は
本当
(
ほんたう
)
に
霊獣
(
れいじう
)
だねえ、
058
私
(
わたし
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
をよく
聞
(
き
)
いて、
059
御
(
ご
)
夫婦
(
ふうふ
)
の
危難
(
きなん
)
をよく
救
(
すく
)
うて
下
(
くだ
)
さつた。
060
ほんとにスマートの
名
(
な
)
に
背
(
そむ
)
かぬ
敏捷
(
びんせふ
)
なものだねえ』
061
と
讃美
(
ほめたた
)
へて
居
(
ゐ
)
る。
062
スマートは
嬉
(
うれ
)
しさうに
体
(
からだ
)
や
尾
(
を
)
をふつて
居
(
ゐ
)
る。
063
楓
(
かへで
)
は
漸
(
やうや
)
うに
顔
(
かほ
)
を
上
(
あ
)
げ、
064
スマートの
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
て
二度
(
にど
)
吃驚
(
びつくり
)
し、
065
楓
『アー、
066
昨夜
(
さくや
)
文珠
(
もんじゆ
)
菩薩
(
ぼさつ
)
様
(
さま
)
がお
連
(
つ
)
れ
遊
(
あそ
)
ばした
犬
(
いぬ
)
は、
067
これで
厶
(
ござ
)
いますわ、
068
この
犬
(
いぬ
)
の
口
(
くち
)
から
私
(
わたくし
)
の
手
(
て
)
へ
神丹
(
しんたん
)
を
三粒
(
みつぶ
)
渡
(
わた
)
して
呉
(
く
)
れました。
069
さうして
文珠
(
もんじゆ
)
菩薩
(
ぼさつ
)
様
(
さま
)
は
私
(
わたくし
)
に
神丹
(
しんたん
)
を
授
(
さづ
)
けて
直様
(
すぐさま
)
犬
(
いぬ
)
を
引
(
ひ
)
き
連
(
つ
)
れ、
070
どこかへお
帰
(
かへ
)
りになつたと
思
(
おも
)
へば
夢
(
ゆめ
)
は
醒
(
さ
)
め、
071
堅
(
かた
)
く
握
(
にぎ
)
つて
居
(
ゐ
)
た
手
(
て
)
を
開
(
ひら
)
いて
見
(
み
)
れば、
072
あの
神丹
(
しんたん
)
が
厶
(
ござ
)
いました。
073
貴女
(
あなた
)
は
全
(
まつた
)
く
生神
(
いきがみ
)
様
(
さま
)
、
074
私
(
わたくし
)
がかうしてお
側
(
そば
)
へおいて
頂
(
いただ
)
くのも
恐
(
おそ
)
れ
多
(
おほ
)
い
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
います。
075
さうして
私
(
わたくし
)
が
何
(
ど
)
うしても
合点
(
がてん
)
が
参
(
まゐ
)
りませぬ
事
(
こと
)
が
一
(
ひと
)
つ
厶
(
ござ
)
います、
076
貴女
(
あなた
)
は
何故
(
なぜ
)
高姫
(
たかひめ
)
さまのやうな
余
(
あま
)
りよくないお
方
(
かた
)
のお
子
(
こ
)
さまになられましたのか』
077
初稚姫
(
はつわかひめ
)
はニツコと
笑
(
わら
)
ひ、
078
初稚姫
『ハイ、
079
いづれお
分
(
わか
)
りになる
事
(
こと
)
が
厶
(
ござ
)
いませう』
080
と
云
(
い
)
つたきり
答
(
こた
)
へなかつた。
081
楓
(
かへで
)
は
畳
(
たた
)
みかけて
又
(
また
)
問
(
と
)
うた。
082
楓
『
貴女
(
あなた
)
様
(
さま
)
は
承
(
うけたま
)
はれば、
083
杢助
(
もくすけ
)
様
(
さま
)
のお
娘子
(
むすめご
)
様
(
さま
)
で
厶
(
ござ
)
いますさうですねえ』
084
初稚姫
『ハイ
左様
(
さやう
)
で
厶
(
ござ
)
います。
085
併
(
しか
)
し
此処
(
ここ
)
の
杢助
(
もくすけ
)
さまは……』
086
と
云
(
い
)
つたきり、
087
口
(
くち
)
をつぐんで
仕舞
(
しま
)
つた。
088
楓
(
かへで
)
は
鋭敏
(
えいびん
)
の
頭脳
(
づなう
)
の
持主
(
もちぬし
)
であるから、
089
早
(
はや
)
くも
意中
(
いちう
)
を
悟
(
さと
)
つた。
090
さうして
小声
(
こごゑ
)
になり、
091
楓
『
本当
(
ほんたう
)
に
何
(
なん
)
ですねえ、
092
何
(
なに
)
も
云
(
い
)
はない
方
(
はう
)
が
無難
(
ぶなん
)
でよろしいわね』
093
と
以心
(
いしん
)
伝心
(
でんしん
)
的
(
てき
)
に、
094
目
(
め
)
と
目
(
め
)
で
話
(
はなし
)
の
交換
(
かうくわん
)
を
簡単
(
かんたん
)
に
済
(
す
)
まして
了
(
しま
)
つた。
095
かかる
所
(
ところ
)
へ
珍彦
(
うづひこ
)
夫婦
(
ふうふ
)
は
藜
(
あかざ
)
の
杖
(
つゑ
)
をつきながら
拝礼
(
はいれい
)
を
終
(
をは
)
り、
096
裏口
(
うらぐち
)
から
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
た。
097
其
(
その
)
足音
(
あしおと
)
を
早
(
はや
)
くも
悟
(
さと
)
つて
楓
(
かへで
)
は
裏口
(
うらぐち
)
の
戸
(
と
)
をあけ、
098
嬉
(
うれ
)
しさうな
声
(
こゑ
)
で、
099
楓
『お
父
(
とう
)
さま、
100
お
母
(
かあ
)
さま、
101
お
帰
(
かへ
)
りなさいませ。
102
夜前
(
やぜん
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
がお
越
(
こ
)
し
遊
(
あそ
)
ばしたのよ。
103
あの
神丹
(
しんたん
)
を
下
(
くだ
)
さつた
文珠
(
もんじゆ
)
菩薩
(
ぼさつ
)
様
(
さま
)
が』
104
と
小声
(
こごゑ
)
に
囁
(
ささや
)
いた。
105
珍彦
(
うづひこ
)
『
何
(
なに
)
、
106
文珠
(
もんじゆ
)
菩薩
(
ぼさつ
)
様
(
さま
)
が
此処
(
ここ
)
へお
出
(
い
)
で
遊
(
あそ
)
ばしたの。
107
それは
直様
(
すぐさま
)
お
礼
(
れい
)
を
申上
(
まをしあ
)
げねばなるまい』
108
静子
(
しづこ
)
『
余
(
あま
)
り
悪魔
(
あくま
)
が
蔓
(
はびこ
)
るので、
109
この
聖場
(
せいぢやう
)
に
居
(
ゐ
)
ながらも、
110
夜
(
よ
)
の
目
(
め
)
も
碌
(
ろく
)
に
眠
(
ねむ
)
られなかつた。
111
ああ
有難
(
ありがた
)
い、
112
文珠
(
もんじゆ
)
菩薩
(
ぼさつ
)
様
(
さま
)
がお
越
(
こ
)
し
下
(
くだ
)
さつたか』
113
と
早
(
はや
)
くも
涙声
(
なみだごゑ
)
になつて
居
(
ゐ
)
る。
114
楓
(
かへで
)
の
後
(
あと
)
に
従
(
つ
)
いて
夫婦
(
ふうふ
)
は
座敷
(
ざしき
)
に
上
(
あが
)
り、
115
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
前
(
まへ
)
に
頭
(
かしら
)
を
下
(
さ
)
げ、
116
歔欷泣
(
しやくりな
)
きしながら、
117
一言
(
いちごん
)
も
発
(
はつ
)
し
得
(
え
)
ず
感謝
(
かんしや
)
の
涙
(
なみだ
)
に
暮
(
く
)
れて
居
(
ゐ
)
る。
118
初稚姫
『もし
珍彦
(
うづひこ
)
様
(
さま
)
、
119
静子
(
しづこ
)
様
(
さま
)
、
120
日々
(
にちにち
)
御
(
ご
)
神務
(
しんむ
)
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
さまで
厶
(
ござ
)
いますなア。
121
妾
(
わらは
)
は
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
で
厶
(
ござ
)
います。
122
突然
(
とつぜん
)
参
(
まゐ
)
りましてお
邪魔
(
じやま
)
を
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
ります。
123
楓様
(
かへでさま
)
が
親切
(
しんせつ
)
に
仰有
(
おつしや
)
つて
下
(
くだ
)
さるので、
124
つひ
長居
(
ながゐ
)
を
致
(
いた
)
しました』
125
と、
126
鈴
(
すず
)
のやうな
柔
(
やさ
)
しい
声
(
こゑ
)
で
挨拶
(
あいさつ
)
をした。
127
珍彦
(
うづひこ
)
はハツと
頭
(
かしら
)
を
上
(
あ
)
げ、
128
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
霊気
(
れいき
)
に
満
(
み
)
てる
其
(
その
)
容貌
(
ようばう
)
に
感
(
かん
)
じ
入
(
い
)
り、
129
珍彦
『
貴女
(
あなた
)
は
文珠
(
もんじゆ
)
菩薩
(
ぼさつ
)
の
御
(
ご
)
化身
(
けしん
)
様
(
さま
)
、
130
よくまアお
助
(
たす
)
けに
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいました。
131
これ
静子
(
しづこ
)
、
132
早
(
はや
)
く
御
(
お
)
礼
(
れい
)
を
申
(
まを
)
さないか』
133
静子
『
初稚姫
(
はつわかひめ
)
様
(
さま
)
、
134
文珠
(
もんじゆ
)
菩薩
(
ぼさつ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
化身
(
けしん
)
様
(
さま
)
、
135
よくまアお
助
(
たす
)
け
下
(
くだ
)
さいました。
136
この
御恩
(
ごおん
)
は
決
(
けつ
)
して
忘
(
わす
)
れは
致
(
いた
)
しませぬ』
137
とハンケチに
霑
(
うる
)
んだ
目
(
め
)
を
拭
(
ぬぐ
)
ふ。
138
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
迷惑
(
めいわく
)
な
顔
(
かほ
)
をして
細
(
ほそ
)
い
手
(
て
)
を
左右
(
さいう
)
に
振
(
ふ
)
りながら、
139
初稚姫
『イエイエお
礼
(
れい
)
を
云
(
い
)
はれては
済
(
す
)
みませぬ。
140
妾
(
わらは
)
の
立場
(
たちば
)
が
厶
(
ござ
)
いませぬ。
141
実
(
じつ
)
は
言霊別
(
ことたまわけ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
妾
(
わらは
)
に
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
遊
(
あそ
)
ばしたので
厶
(
ござ
)
いますよ。
142
どうぞ
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
にお
礼
(
れい
)
を
申
(
まを
)
して
下
(
くだ
)
さい。
143
妾
(
わらは
)
は
決
(
けつ
)
して
貴方
(
あなた
)
等
(
がた
)
をお
助
(
たす
)
けするやうな
力
(
ちから
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬ』
144
珍彦
『なんと
御
(
ご
)
謙遜
(
けんそん
)
な
貴女
(
あなた
)
様
(
さま
)
、
145
実
(
じつ
)
に
感
(
かん
)
じ
入
(
い
)
りました。
146
時
(
とき
)
に
初稚姫
(
はつわかひめ
)
様
(
さま
)
は、
147
昨日
(
さくじつ
)
見
(
み
)
えました
杢助
(
もくすけ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
令嬢
(
れいぢやう
)
と
承
(
うけたま
)
はりましたが、
148
左様
(
さやう
)
で
厶
(
ござ
)
いますかなア』
149
初稚姫
『イエ……ハイ』
150
と
煮
(
に
)
え
切
(
き
)
らぬ
返事
(
へんじ
)
をして
居
(
ゐ
)
る。
151
楓
(
かへで
)
は
両親
(
りやうしん
)
に
向
(
むか
)
ひ、
152
楓
『お
父
(
とう
)
さま、
153
お
母
(
かあ
)
さま、
154
そんな
失礼
(
しつれい
)
な
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
つてはいけませぬよ。
155
何
(
なに
)
、
156
あんな
方
(
かた
)
が
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
のお
父
(
とう
)
さまであつて
耐
(
たま
)
りませう。
157
これには
深
(
ふか
)
い
訳
(
わけ
)
がおありなさるので
厶
(
ござ
)
いますよ。
158
併
(
しか
)
しながら、
159
これきりで
何
(
なに
)
も
仰有
(
おつしや
)
らないやうにして
下
(
くだ
)
さい。
160
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
迷惑
(
めいわく
)
になつては
済
(
す
)
みませぬからなア』
161
珍彦
(
うづひこ
)
夫婦
(
ふうふ
)
は
楓
(
かへで
)
の
言葉
(
ことば
)
に
打
(
う
)
ち
首肯
(
うなづ
)
き、
162
珍彦
『ウンウン、
163
成程
(
なるほど
)
々々
(
なるほど
)
、
164
いや
解
(
わか
)
りました。
165
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
さまで
厶
(
ござ
)
います。
166
どうぞ
貴女
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
神力
(
しんりき
)
で
悪魔
(
あくま
)
をお
取
(
と
)
り
払
(
はら
)
ひ
下
(
くだ
)
さるやうにお
願
(
ねが
)
ひ
申
(
まを
)
します』
167
と
夫婦
(
ふうふ
)
は
手
(
て
)
を
合
(
あは
)
せ、
168
又
(
また
)
もや
伏
(
ふ
)
し
拝
(
をが
)
むのであつた。
169
楓
(
かへで
)
『
余
(
あま
)
り
斯様
(
かやう
)
なお
話
(
はなし
)
は、
170
誰
(
たれ
)
が
聞
(
き
)
くか
分
(
わか
)
りませぬから、
171
ちつとハンナリと
歌
(
うた
)
でも
歌
(
うた
)
ひませうかねえ』
172
初稚姫
『さうですね、
173
楓
(
かへで
)
さま、
174
一
(
ひと
)
つ
歌
(
うた
)
つて
下
(
くだ
)
さいな』
175
楓
(
かへで
)
は
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
言葉
(
ことば
)
をいなみ
兼
(
か
)
ね……お
恥
(
はづ
)
かしながら……と
前置
(
まへお
)
きして、
176
楓
『
人
(
ひと
)
の
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
深
(
ふか
)
く
177
千尋
(
ちひろ
)
の
浪
(
なみ
)
を
分
(
わ
)
け
往
(
ゆ
)
けば
178
見
(
み
)
る
目
(
め
)
たなびく
岩蔭
(
いはかげ
)
に
179
醜
(
みにく
)
き
鰐
(
わに
)
の
住
(
す
)
めるかな』
180
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
幾度
(
いくたび
)
も
諾
(
うなづ
)
きながら、
181
にやりと
笑
(
わら
)
ひ、
182
初稚姫
『
成程
(
なるほど
)
ねえ。
183
よく
出来
(
でき
)
ましたよ。
184
妾
(
わらは
)
も
腰折
(
こしをれ
)
を
読
(
よ
)
まして
頂
(
いただ
)
きませうかねえ。
185
ホホホ』
186
と
笑
(
わら
)
ひながら、
187
初稚姫
『
木
(
こ
)
の
花
(
はな
)
一度
(
いちど
)
に
咲
(
さ
)
き
満
(
み
)
つる
188
天津
(
あまつ
)
御国
(
みくに
)
へ
誘
(
いざな
)
ひて
189
常住
(
じやうぢう
)
不断
(
ふだん
)
の
法楽
(
ほふらく
)
を
190
与
(
あた
)
へたまはる
瑞御霊
(
みづみたま
)
191
誠
(
まこと
)
にお
恥
(
はづ
)
かしい
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
います。
192
ホホホホ』
193
と
梅花
(
ばいくわ
)
の
露
(
つゆ
)
に
綻
(
ほころ
)
ぶ
如
(
ごと
)
き
小
(
ちひ
)
さい
唇
(
くちびる
)
から
笑
(
ゑみ
)
を
漏
(
も
)
らして
居
(
ゐ
)
る。
194
此
(
この
)
時
(
とき
)
、
195
門口
(
かどぐち
)
に
男
(
をとこ
)
の
声
(
こゑ
)
として、
196
(男の声)
『○○
恋
(
こひ
)
しや
春
(
はる
)
の
夜
(
よ
)
の
197
闇
(
やみ
)
に
立
(
た
)
ちたる
面影
(
おもかげ
)
は
198
消
(
き
)
えてあとなく
吾
(
わが
)
声
(
こゑ
)
の
199
只
(
ただ
)
木霊
(
こだま
)
する
淋
(
さび
)
しさよ』
200
と
歌
(
うた
)
つて
通
(
とほ
)
るものがあつた。
201
又
(
また
)
かはつた
男
(
をとこ
)
の
声
(
こゑ
)
で、
202
(男の声)
『
楽
(
たの
)
しからずや
恋
(
こひ
)
の
夢
(
ゆめ
)
203
唯
(
ただ
)
力
(
ちから
)
なく
君
(
きみ
)
が
手
(
て
)
に
204
抱
(
いだ
)
かるる
時
(
とき
)
吾
(
わが
)
涙
(
なみだ
)
205
ほほ
笑
(
ゑ
)
む
眼
(
まなこ
)
をぬらすかな
206
○
207
神
(
かみ
)
の
光
(
ひかり
)
に
包
(
つつ
)
まるる
208
尊
(
たふと
)
き
君
(
きみ
)
を
偲
(
しの
)
びつつ
209
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
の
恋
(
こひ
)
に
幸
(
さち
)
あれと
210
涙
(
なみだ
)
流
(
なが
)
して
祈
(
いの
)
るかな
211
○
212
悲
(
かな
)
しき
夢
(
ゆめ
)
のさめし
時
(
とき
)
213
涙
(
なみだ
)
にしめる
目
(
め
)
をあげて
214
独
(
ひと
)
り
寝
(
ぬ
)
る
夜
(
よ
)
の
淋
(
さび
)
しさを
215
神
(
かみ
)
の
御前
(
みまへ
)
にかきくどく』
216
と
歌
(
うた
)
ひながら
珍彦館
(
うづひこやかた
)
の
門口
(
かどぐち
)
を
通
(
とほ
)
り、
217
神殿
(
しんでん
)
の
方
(
はう
)
へ
足音
(
あしおと
)
が
消
(
き
)
えて
往
(
ゆ
)
く。
218
楓
(
かへで
)
は、
219
楓
『
何
(
なん
)
とまア
誰
(
たれ
)
か
知
(
し
)
りませぬが、
220
調
(
てう
)
のよい
歌
(
うた
)
ですこと、
221
ねえ、
222
初稚姫
(
はつわかひめ
)
さま』
223
初稚姫
『ほんにさうですねえ。
224
私
(
わたし
)
なんかの
歌
(
うた
)
から
見
(
み
)
れば、
225
比
(
くら
)
べものになりませぬわ。
226
このお
館
(
やかた
)
には
風雅人
(
ふうがじん
)
が
沢山
(
たくさん
)
居
(
を
)
られるとみえますなア』
227
と
斯
(
か
)
く
話
(
はな
)
す
時
(
とき
)
、
228
又
(
また
)
もや
聞
(
きこ
)
ゆる
歌
(
うた
)
の
声
(
こゑ
)
、
229
(男の声)
『
桜
(
さくら
)
の
花
(
はな
)
咲
(
さ
)
く
春
(
はる
)
の
野
(
の
)
に
230
君
(
きみ
)
とまみゆる
嬉
(
うれ
)
しさよ
231
○
232
祠
(
ほこら
)
の
森
(
もり
)
にます
神
(
かみ
)
の
233
守
(
まも
)
らせ
給
(
たま
)
ふ
恋
(
こひ
)
の
幸
(
さち
)
234
○
235
恋
(
こひ
)
しき
人
(
ひと
)
を
待
(
ま
)
ち
暮
(
く
)
らす
236
男心
(
をとこごころ
)
の
淋
(
さび
)
しさを
237
知
(
し
)
るや
知
(
し
)
らずや
東雲
(
しののめ
)
の
238
光
(
ひかり
)
はさしぬほのぼのと』
239
初稚
(
はつわか
)
『
何
(
なん
)
とまア
情緒
(
じやうしよ
)
の
深
(
ふか
)
い
風流
(
ふうりう
)
な
歌
(
うた
)
ですなア』
240
珍彦
(
うづひこ
)
『
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
は
申
(
まを
)
すに
及
(
およ
)
ばず、
241
楓
(
かへで
)
其方
(
そなた
)
も
気
(
き
)
をつけなくてはなりますまい。
242
きつと
貴女
(
あなた
)
方
(
がた
)
二人
(
ふたり
)
に
心
(
こころ
)
を
寄
(
よ
)
せて
居
(
ゐ
)
る
男
(
をとこ
)
があるのでせうよ。
243
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
花
(
はな
)
の
莟
(
つぼみ
)
の
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
又
(
また
)
楓姫
(
かへでひめ
)
、
244
美
(
うつく
)
しい
花
(
はな
)
には
害虫
(
がいちう
)
のつき
纒
(
まと
)
ふものですからなア』
245
初稚姫
『
仰
(
おほせ
)
の
通
(
とほ
)
りで
厶
(
ござ
)
います。
246
妾
(
わらは
)
もあの
歌
(
うた
)
によつて、
247
吾
(
わが
)
身辺
(
しんぺん
)
に
容易
(
ようい
)
ならざる
恋
(
こひ
)
の
魔
(
ま
)
の
付纏
(
つきまと
)
うて
居
(
ゐ
)
る
事
(
こと
)
を
悟
(
さと
)
りました。
248
併
(
しか
)
しながら
決
(
けつ
)
して
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
下
(
くだ
)
さいますな。
249
左様
(
さやう
)
な
事
(
こと
)
に
心
(
こころ
)
を
動
(
うご
)
かすやうな
私
(
わたし
)
では
厶
(
ござ
)
いませぬ。
250
楓
(
かへで
)
さま、
251
貴女
(
あなた
)
も
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
でせう』
252
楓
『
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
のお
言葉
(
ことば
)
の
通
(
とほ
)
り、
253
妾
(
わたし
)
は
何処
(
どこ
)
までも
注意
(
ちゆうい
)
を
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
ります。
254
何分
(
なにぶん
)
お
父
(
とう
)
さまやお
母
(
かあ
)
さまが、
255
若
(
わか
)
い
娘
(
むすめ
)
をもつて
居
(
ゐ
)
ると
云
(
い
)
うて
非常
(
ひじやう
)
に
心配
(
しんぱい
)
をして
下
(
くだ
)
さるのですもの、
256
有難
(
ありがた
)
迷惑
(
めいわく
)
を
感
(
かん
)
じます、
257
ホホホホホ』
258
珍彦
(
うづひこ
)
『それはさうだらうが、
259
あの
高姫
(
たかひめ
)
さまだつて、
260
あれだけ
歳
(
とし
)
が
寄
(
よ
)
つてから、
261
コテコテと
白粉
(
おしろい
)
をつけたり
白髪
(
しらが
)
を
染
(
そ
)
めたり、
262
日
(
ひ
)
に
何度
(
なんど
)
も
着物
(
きもの
)
を
着
(
き
)
かへた
揚句
(
あげく
)
、
263
杢助
(
もくすけ
)
さまとやらを
喰
(
くわ
)
へこんで、
264
夫婦
(
ふうふ
)
気取
(
きどり
)
で
浮
(
う
)
かれてゐらつしやるのですもの。
265
若
(
わか
)
い
娘
(
むすめ
)
をもつた
親
(
おや
)
はどれだけ
気
(
き
)
が
揉
(
も
)
めるか
知
(
し
)
れたものぢやありませぬ。
266
これ
楓
(
かへで
)
、
267
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
様
(
やう
)
なお
方
(
かた
)
なれば
大磐石
(
だいばんじやく
)
だが、
268
お
前
(
まへ
)
はまだ
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
事
(
こと
)
がよく
分
(
わか
)
らないのだから、
269
両親
(
りやうしん
)
が
心配
(
しんぱい
)
するのも
無理
(
むり
)
ではありませぬよ、
270
アハハハハハ』
271
楓
『あのまアお
父
(
とう
)
さまとしたことわいのう。
272
それ
程
(
ほど
)
私
(
わたし
)
に
信用
(
しんよう
)
が
置
(
お
)
けませぬか。
273
私
(
わたし
)
だつて
道晴別
(
みちはるわけ
)
の
妹
(
いもうと
)
、
274
祠
(
ほこら
)
の
森
(
もり
)
の
神司
(
かむつかさ
)
珍彦
(
うづひこ
)
の
娘
(
むすめ
)
で
厶
(
ござ
)
います。
275
必
(
かなら
)
ず
必
(
かなら
)
ずお
心
(
こころ
)
を
悩
(
なや
)
ませ
下
(
くだ
)
さいますな。
276
きつと
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
名
(
な
)
を
汚
(
けが
)
したり、
277
親
(
おや
)
兄弟
(
きやうだい
)
の
御
(
お
)
面
(
かほ
)
を
汚
(
よご
)
すやうなことは
致
(
いた
)
しませぬ。
278
ねえ
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
、
279
貴女
(
あなた
)
私
(
わたし
)
の
心
(
こころ
)
をよく
御存
(
ごぞん
)
じでせう』
280
初稚姫
『
御
(
ご
)
夫婦
(
ふうふ
)
様
(
さま
)
、
281
必
(
かなら
)
ず
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
なさいますな。
282
楓様
(
かへでさま
)
は、
283
本当
(
ほんたう
)
に
見上
(
みあ
)
げたお
方
(
かた
)
で
厶
(
ござ
)
いますよ。
284
きつと
妾
(
わらは
)
が
保証
(
ほしよう
)
致
(
いた
)
します。
285
如何
(
いか
)
なる
魔
(
ま
)
がさしましても
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
がお
守
(
まも
)
り
下
(
くだ
)
さる
上
(
うへ
)
は、
286
楓様
(
かへでさま
)
のお
心
(
こころ
)
が
極
(
きは
)
めて
堅実
(
けんじつ
)
に
居
(
を
)
られますから、
287
何程
(
なにほど
)
仇
(
あだ
)
し
男
(
をとこ
)
が
云
(
い
)
ひ
寄
(
よ
)
りましても、
288
楓
(
かへで
)
さまに
取
(
と
)
つては
鎧袖
(
がいしう
)
一触
(
いつしよく
)
の
感
(
かん
)
もありませぬ。
289
どうぞお
心
(
こころ
)
を
悩
(
なや
)
めないやうにして
御
(
ご
)
神務
(
しんむ
)
にお
尽
(
つく
)
し
下
(
くだ
)
さいませ』
290
珍彦
(
うづひこ
)
『ハイ
有難
(
ありがた
)
う、
291
ようまア
云
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さいました』
292
静子
(
しづこ
)
『そのお
言葉
(
ことば
)
を
承
(
うけたま
)
はり、
293
私
(
わたし
)
も
安心
(
あんしん
)
を
致
(
いた
)
しました。
294
ああ
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』
295
と
合掌
(
がつしやう
)
する。
296
斯
(
か
)
く
話
(
はな
)
す
折
(
をり
)
しも、
297
又
(
また
)
もや
門口
(
かどぐち
)
に
恋
(
こひ
)
の
擒
(
とりこ
)
となりし
人
(
ひと
)
の
歌
(
うた
)
ふ
声
(
こゑ
)
、
298
隔
(
へだ
)
ての
戸
(
と
)
をすかして
聞
(
きこ
)
え
来
(
きた
)
る。
299
(男の声)
『ひそびそと
銀
(
ぎん
)
の
雨
(
あめ
)
300
絶間
(
たえま
)
もなしに
降
(
ふ
)
りそそぐ
301
うらぶれし
叢
(
くさむら
)
のなげかひ
302
ああかかる
日
(
ひ
)
は
303
一入
(
ひとしほ
)
痛
(
いた
)
みも
出
(
い
)
づれ
304
毒
(
どく
)
の
爪
(
つめ
)
をもて
305
永久
(
とこしへ
)
に
癒
(
い
)
え
難
(
がた
)
く
306
刻
(
ほ
)
りつけられし
307
胸
(
むね
)
の
痛手
(
いたで
)
よ』
308
と
哀
(
あは
)
れな
声調
(
せいてう
)
で
聞
(
きこ
)
えて
来
(
く
)
る。
309
又
(
また
)
続
(
つづ
)
いて、
310
(男の声)
『
静
(
しづか
)
に
静
(
しづか
)
に
瞳
(
ひとみ
)
をつぶつて
311
目
(
め
)
にも
見
(
み
)
えない
或物
(
あるもの
)
を
312
見
(
み
)
るとき
吾
(
われ
)
は
銀色
(
ぎんいろ
)
の
313
夢
(
ゆめ
)
の
中
(
うち
)
にぞ
浸
(
ひた
)
り
入
(
い
)
る
314
素裸体
(
すはだか
)
の
人間
(
にんげん
)
は
315
温
(
あたた
)
かい
暖
(
あたた
)
かい
316
桃色
(
ももいろ
)
の
雰囲気
(
ふんゐき
)
に
包
(
つつ
)
まれながら
317
歌
(
うた
)
ひつつ
踊
(
をど
)
る
318
心
(
こころ
)
を
蕩
(
とろ
)
かすやうな
319
メロデイーが
流
(
なが
)
れ
320
総
(
すべ
)
てのものが
321
やすらかに
息
(
いき
)
づく
322
吾
(
われ
)
は
夢
(
ゆめ
)
の
為
(
ため
)
に
働
(
はたら
)
き
323
夢
(
ゆめ
)
によつて
働
(
はたら
)
く
324
そして
又
(
また
)
325
夢
(
ゆめ
)
によつて、
326
はぐくまれてゆく』
327
斯
(
かか
)
る
所
(
ところ
)
へ
慌
(
あわただ
)
しくやつて
来
(
き
)
たのは、
328
受付
(
うけつけ
)
のイル、
329
ハルの
両人
(
りやうにん
)
であつた。
330
遠慮
(
ゑんりよ
)
会釈
(
ゑしやく
)
もなく
門口
(
かどぐち
)
の
戸
(
と
)
を
押
(
お
)
し
開
(
ひら
)
き、
331
イル『もし
珍彦
(
うづひこ
)
様
(
さま
)
、
332
大変
(
たいへん
)
な
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ました。
333
どうぞ
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さい、
334
タタ
大変
(
たいへん
)
で
厶
(
ござ
)
います』
335
珍彦
『
慌
(
あわただ
)
しき
其
(
その
)
言葉
(
ことば
)
、
336
大変
(
たいへん
)
とは
何
(
なん
)
で
厶
(
ござ
)
るかな』
337
ハル『ハイ、
338
タタタ
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
が
大変
(
たいへん
)
な
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
います。
339
どうぞ
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さい。
340
到底
(
たうてい
)
私
(
わたくし
)
等
(
ら
)
の
挺
(
てこ
)
には
合
(
あ
)
ひませぬから』
341
静子
(
しづこ
)
『
何
(
なに
)
か
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
が
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
でも
損
(
そこ
)
ねて
御
(
ご
)
立腹
(
りつぷく
)
して
厶
(
ござ
)
るのかな』
342
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は、
343
初稚姫
『イエイエさうぢや
厶
(
ござ
)
いませぬ。
344
玉茸
(
たまたけ
)
を
取
(
と
)
らむとして
梟鳥
(
ふくろどり
)
に
目
(
め
)
をこつかれ、
345
大杉
(
おほすぎ
)
の
梢
(
こずゑ
)
から
顛落
(
てんらく
)
遊
(
あそ
)
ばし、
346
腰
(
こし
)
の
骨
(
ほね
)
を
些
(
すこ
)
し
挫
(
くじ
)
かれたのでせう。
347
決
(
けつ
)
して
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
なさいますな、
348
直
(
すぐ
)
に
癒
(
なほ
)
りませうから』
349
イル『もしもし
初稚姫
(
はつわかひめ
)
様
(
さま
)
、
350
貴女
(
あなた
)
そんな
平気
(
へいき
)
な
顔
(
かほ
)
してよう
居
(
ゐ
)
られますなあ。
351
義理
(
ぎり
)
あるお
母
(
かあ
)
さまぢやありませぬか、
352
サア
早
(
はや
)
くお
出
(
い
)
でなさいませ。
353
お
父
(
とう
)
さまはお
怪我
(
けが
)
をなさるなり、
354
お
母
(
かあ
)
さまは
木
(
き
)
から
落
(
お
)
ちて
苦
(
くる
)
しんで
厶
(
ござ
)
るなり、
355
何
(
なに
)
どころぢやありますまい』
356
初稚姫
『ハイ
直
(
すぐ
)
に
参
(
まゐ
)
りますから、
357
お
母
(
かあ
)
さまにさう
仰有
(
おつしや
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
358
これスマートや、
359
早
(
はや
)
く
何処
(
どこ
)
かへお
隠
(
かく
)
れ』
360
と
云
(
い
)
ひながら、
361
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
倉皇
(
さうくわう
)
として
高姫
(
たかひめ
)
の
危難
(
きなん
)
を
救
(
すく
)
ふべく
館
(
やかた
)
を
立
(
た
)
ち
出
(
い
)
で、
362
大杉
(
おほすぎ
)
の
許
(
もと
)
へと
歩
(
ほ
)
を
急
(
いそ
)
いだ。
363
高姫
(
たかひめ
)
は
苦
(
くる
)
しげな
息
(
いき
)
をつきながら、
364
高姫
『アア、
365
其方
(
そなた
)
は
初稚
(
はつわか
)
だつたか、
366
よう
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さつた。
367
お
母
(
かあ
)
さまは、
368
つひお
父
(
とう
)
さまの
病気
(
びやうき
)
を
直
(
なほ
)
したいばかりに
玉茸
(
たまたけ
)
を
取
(
と
)
りに
登
(
のぼ
)
つてこんな
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
つたのだよ。
369
お
父
(
とう
)
さまは
誰
(
たれ
)
にも
知
(
し
)
れないやうにして
取
(
と
)
つて
呉
(
く
)
れと
仰有
(
おつしや
)
つたのだが、
370
こんな
不調法
(
ぶてうはふ
)
をして
人
(
ひと
)
に
見
(
み
)
つけられたから、
371
もう
利
(
き
)
かう
筈
(
はず
)
がない。
372
どうぞ
私
(
わたし
)
には
構
(
かま
)
はず、
373
あの
森
(
もり
)
の
木
(
き
)
の
下
(
もと
)
にゐらつしやるのだから、
374
早
(
はや
)
く
行
(
い
)
つて
介抱
(
かいほう
)
して
上
(
あ
)
げて
下
(
くだ
)
さい。
375
私
(
わたし
)
は
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
の
御
(
ご
)
守護
(
しゆご
)
があるから
心配
(
しんぱい
)
は
要
(
い
)
りませぬ。
376
サア
早
(
はや
)
く
往
(
い
)
つて
上
(
あ
)
げて
下
(
くだ
)
さい、
377
気
(
き
)
が
気
(
き
)
ぢやありませぬから』
378
初稚姫
『さうだと
云
(
い
)
つてお
母
(
かあ
)
さまの
危難
(
きなん
)
を
見捨
(
みす
)
てて、
379
これがどうして
往
(
ゆ
)
けませうか。
380
一旦
(
いつたん
)
親子
(
おやこ
)
の
縁
(
えん
)
を
結
(
むす
)
んだ
上
(
うへ
)
からは、
381
そんな
水臭
(
みづくさ
)
い
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
らずに、
382
どうぞ
介抱
(
かいほう
)
さして
下
(
くだ
)
さい、
383
これが
貴女
(
あなた
)
に
対
(
たい
)
する
孝行
(
かうかう
)
のし
初
(
はじ
)
めですから』
384
と、
385
高姫
(
たかひめ
)
が
妖幻坊
(
えうげんばう
)
に
云
(
い
)
つた
言葉
(
ことば
)
其
(
その
)
儘
(
まま
)
を
応用
(
おうよう
)
して
居
(
ゐ
)
る。
386
高姫
『エイ、
387
お
前
(
まへ
)
は
親
(
おや
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
かないのかい、
388
さうであらう。
389
お
腹
(
なか
)
を
痛
(
いた
)
めた
子
(
こ
)
でないから
恩
(
おん
)
も
義理
(
ぎり
)
もありませぬわい。
390
聞
(
き
)
いて
下
(
くだ
)
さらないのも
仕方
(
しかた
)
がありませぬ。
391
もう
諦
(
あきら
)
めます』
392
初稚姫
『お
母
(
かあ
)
さま、
393
それでは
済
(
す
)
みませぬが、
394
お
父
(
とう
)
さまの
介抱
(
かいほう
)
に
参
(
まゐ
)
ります。
395
不孝
(
ふかう
)
の
奴
(
やつ
)
とお
卑
(
さげす
)
みなきやうにお
願
(
ねが
)
ひ
申
(
まを
)
します。
396
これ、
397
ハルさま、
398
イルさま、
399
どうぞお
母
(
かあ
)
さまの
介抱
(
かいほう
)
を
頼
(
たの
)
みますよ。
400
お
母
(
かあ
)
さま
左様
(
さやう
)
なら』
401
と
云
(
い
)
ひながら
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
立
(
た
)
ち
去
(
さ
)
つた。
402
高姫
(
たかひめ
)
は
相変
(
あひかは
)
らず
苦悶
(
くもん
)
の
息
(
いき
)
を
漏
(
も
)
らして
居
(
ゐ
)
る。
403
(
大正一二・一・二〇
旧一一・一二・四
加藤明子
録)
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