霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一一章 鸚鵡(あうむ)返(がへし)〔一三〇五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第50巻 真善美愛 丑の巻 篇:第3篇 神意と人情 よみ(新仮名遣い):しんいとにんじょう
章:第11章 鸚鵡返 よみ(新仮名遣い):おうむがえし 通し章番号:1305
口述日:1923(大正12)年01月21日(旧12月5日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年12月7日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
祠の森に現れた偽杢助の正体は、八岐大蛇の片腕として名も高い、獅子と虎の忠誠を備えた怪しの動物であり、名を妖幻坊といった。
一方、高姫は祠の森の御社を蹂躙せんと出て来た悪霊に魂を奪われてしまった。妖幻坊は高姫をたぶらかして夫婦に成りすまし、生地を隠していた。しかし初稚姫の霊光と、お供の猛犬スマートに恐れて逃げ出し、スマートに眉間をかぶりつかれてひとまず逃げて行った。
妖幻坊と高姫が、珍彦夫婦を亡き者にしようとした毒殺の企みも、楓姫の枕元に現れた文殊菩薩が授けた霊薬によって何事もなく終わった。
スマートに傷つけられた妖幻坊を癒そうと、薬の茸を採ろうと大杉に梯子をかけた高姫も、梟にこつかれて墜落し、寝込んでしまった。高姫は、初稚姫の献身的な看病によって回復した。しかし高姫は初稚姫をねたみ、その神力をおそれて再び奸策を企みはじめた。
高姫は回復すると、一度も見舞いに来なかったと珍彦の館に文句を言いに上り込んできた。しかし対応した楓は逆に高姫の災難を嘲笑い、父母に毒を盛った罰だと非難してかかった。また珍彦と静子が、毒殺未遂の件を斎苑館に報告し行くと高姫を脅して帰そうとした。
高姫と楓は言い争いになり、怒った高姫はこぶしを固めて楓を打ち付けた。楓は大きな声で叫び、人を呼ぶ声が酒盛りをしていたイル、イク、サール、ハル、テルにまで届いて五人はその場にかけつけた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-07-18 19:56:59 文字数:4438 OBC :rm5011
愛善世界社版:149頁 八幡書店版:第9輯 204頁 修補版: 校定版:155頁 普及版:77頁 初版: ページ備考:
001祠(ほこら)の森(もり)の神館(みやかた)に
002現(あら)はれ来(きた)りし杢助(もくすけ)の
003其(その)正体(しやうたい)は月(つき)の国(くに)
004大雲山(たいうんざん)に蟠(わだか)まる
005八岐(やまた)大蛇(をろち)の片腕(かたうで)と
006妖魅(えうみ)の世界(せかい)に名(な)も高(たか)き
007獅子(しし)と虎(とら)との中性(ちうせい)を
008備(そな)へし怪(あや)しの動物(どうぶつ)ぞ
009妖幻坊(えうげんばう)と謳(うた)はれて
010彼方(あなた)此方(こなた)に出没(しゆつぼつ)し
011神出(しんしゆつ)鬼没(きぼつ)の妖術(えうじゆつ)を
012使(つか)ひて世人(よびと)をなやませつ
013地上(ちじやう)の世界(せかい)を魔界(まかい)とし
014所有(あらゆる)善(ぜん)を亡(ほろ)ぼして
015邪悪(じやあく)と虚偽(きよぎ)の世(よ)にせむと
016狂(くる)ひ廻(まは)るぞ由々(ゆゆ)しけれ
017三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)
018玉国別(たまくにわけ)が丹精(たんせい)を
019凝(こ)らして仕(つか)へまつりたる
020厳(いづ)の御霊(みたま)や瑞御霊(みづみたま)
021尊(たふと)き神(かみ)の御社(みやしろ)を
022蹂躙(じうりん)せむと出(い)で来(きた)る
023悪魔(あくま)に御魂(みたま)を奪(うば)はれし
024高姫司(たかひめつかさ)を誑(たぶら)かし
025茲(ここ)に夫婦(ふうふ)となりすまし
026生地(きぢ)を隠(かく)して居(ゐ)たる折(をり)
027忽(たちま)ち来(きた)る三五(あななひ)の
028道(みち)に名高(なだか)き宣伝使(せんでんし)
029初稚姫(はつわかひめ)の霊光(れいくわう)と
030伴(ともな)ひ来(きた)る猛犬(まうけん)に
031恐(おそ)れて逃(に)げ出(だ)すその途端(とたん)
032神(かみ)に仕(つか)ふるスマートが
033其(その)正体(しやうたい)を看破(みやぶ)りて
034忽(たちま)ち勇気(ゆうき)を振(ふ)り起(おこ)し
035幾層倍(いくそうばい)の巨体(きよたい)をば
036有(いう)する曲津(まがつ)に取(と)りついて
037眉間(みけん)のあたりを一噛(ひとか)ぶり
038森(もり)を流(なが)るる谷水(たにみづ)の
039傍(かた)へに鎬(しのぎ)を削(けづ)りつつ
040妖魅(えうみ)は忽(たちま)ち驚愕(きやうがく)し
041雲(くも)を霞(かすみ)と山(やま)の尾(を)を
042指(さ)して一先(ひとま)づ逃(に)げて行(ゆ)く
043スマートは足(あし)を傷(きず)つけて
044チガチガしながら立帰(たちかへ)り
045初稚姫(はつわかひめ)の居間(ゐま)に入(い)り
046暫(しば)し痛手(いたで)を舐(な)めながら
047自分(じぶん)療治(れうぢ)の巧妙(かうめう)さ
048高姫司(たかひめつかさ)は杢助(もくすけ)を
049兇暴(きようばう)不敵(ふてき)の曲神(まががみ)と
050知(し)らぬ悲(かな)しさ吾(わが)夫(つま)と
051恋(こ)ひ慕(した)ひつつひそびそと
052よからぬ事(こと)を計画(けいくわく)し
053まづ第一(だいいち)に目上(めうへ)の瘤(こぶ)と
054心(こころ)にかかる珍彦(うづひこ)や
055静子(しづこ)の方(かた)を毒殺(どくさつ)し
056楓(かへで)の姫(ひめ)を吾(わが)子(こ)ぞと
057偽(いつは)りすまして聖場(せいぢやう)に
058いや永久(とこしへ)に陣(ぢん)を取(と)り
059斎苑(いそ)の館(やかた)にましませる
060神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)の
061世界(せかい)救治(きうぢ)の神策(しんさく)を
062妨害(ばうがい)せむと首(かうべ)をば
063鳩(あつ)めて囁(ささや)く恐(おそ)ろしさ。
064○
065楓(かへで)の姫(ひめ)の枕辺(まくらべ)に
066現(あら)はれ給(たま)ひしエンゼルは
067言霊別(ことたまわけ)の化身(けしん)なる
068文珠(もんじゆ)菩薩(ぼさつ)と厳(いか)めしく
069さしも雄々(をを)しきスマートを
070伴(ともな)ひ来(きた)り両親(ふたおや)の
071危難(きなん)を救(すく)ひ与(あた)へよと
072百毒(ひやくどく)解散(げさん)の神丹(しんたん)を
073与(あた)へて雲(くも)に身(み)を隠(かく)し
074何処(いづく)ともなく出(い)でましぬ
075楓(かへで)はハツと目(め)を醒(さ)まし
076吾(わが)手(て)の拳(こぶし)を調(しら)ぶれば
077夢(ゆめ)に受(う)けたる霊薬(れいやく)を
078握(にぎ)り居(ゐ)たるぞ不思議(ふしぎ)なれ
079妖幻坊(えうげんばう)の杢助(もくすけ)が
080意思(いし)に従(したが)ひスマートを
081一先(ひとま)づここを追(お)ひ出(いだ)し
082やつと安心(あんしん)する間(ま)なく
083杢助司(もくすけつかさ)の瘡傷(さうしやう)を
084癒(いや)さむために大杉(おほすぎ)の
085梢(こずゑ)に生(は)えし玉茸(たまたけ)を
086密(ひそか)に取(と)らむと高姫(たかひめ)は
087人目(ひとめ)をしのび梯子(はしのこ)を
088大木(おほき)の幹(みき)に立(た)てかけて
089重(おも)い体(からだ)をたわたわと
090さしもに高(たか)き一(いち)の枝(えだ)
091やつと手(て)をかけ蜘蛛(くも)の巣(す)に
092引(ひ)つかかりつつ右左(みぎひだり)
093梢(こずゑ)を探(さが)し居(ゐ)たりしが
094忽(たちま)ち梟(ふくろ)の両眼(りやうがん)を
095認(みと)めてこれぞ玉茸(たまたけ)と
096喜(よろこ)び勇(いさ)み手(て)を出(だ)せば
097梟(ふくろ)は驚(おどろ)き高姫(たかひめ)が
098二(ふた)つの眼(まなこ)を容赦(ようしや)なく
099鈎(かぎ)のやうなる嘴(くちばし)で
100力(ちから)限(かぎ)りについばめば
101不意(ふい)を打(う)たれて高姫(たかひめ)は
102スツテンドウと高所(かうしよ)より
103忽(たちま)ち地上(ちじやう)に顛落(てんらく)し
104眼(まなこ)は眩(くら)み腰(こし)痛(いた)み
105息(いき)絶(た)えだえとなりにける
106受付役(うけつけやく)に仕(つか)へたる
107イルは見(み)るより仰天(ぎやうてん)し
108忽(たちま)ち館(やかた)にふれ廻(まは)る
109珍彦(うづひこ)、静子(しづこ)を初(はじ)めとし
110イル、イク、サール、ハル、テルの
111若(わか)き男(をとこ)は高姫(たかひめ)を
112担(かつ)いで居間(ゐま)に運(はこ)び入(い)れ
113初稚姫(はつわかひめ)の熱心(ねつしん)な
114其(その)介抱(かいはう)に高姫(たかひめ)は
115暫(しば)し息(いき)をばつきながら
116杢助(もくすけ)さまを逸早(いちはや)く
117招(まね)き来(きた)れとせきたつる
118其(その)心根(こころね)ぞ不愍(ふびん)なれ
119顔面(がんめん)忽(たちま)ち腫(は)れ上(あが)り
120二目(ふため)と見(み)られぬ醜面(しこづら)と
121変(かは)り果(は)てたる恐(おそ)ろしさ
122祠(ほこら)の森(もり)の妖怪(えうくわい)と
123怖(おそ)れて近(ちか)づくものもなし
124さはさりながら三五(あななひ)の
125教(をしへ)を守(まも)る宣伝使(せんでんし)
126初稚姫(はつわかひめ)は懇切(こんせつ)に
127高姫司(たかひめつかさ)をいたはりて
128介抱(かいはう)なせば七八日(ななやうか)
129月日(つきひ)を重(かさ)ねて両眼(りやうがん)は
130忽(たちま)ちパツと元(もと)の如(ごと)
131開(ひら)けて痛(いた)みも頓(とみ)にやみ
132顔(かほ)の腫(はれ)まで減退(げんたい)し
133悦(よろこ)ぶ間(ま)もなく高姫(たかひめ)は
134初稚姫(はつわかひめ)の神力(しんりき)を
135怖(おそ)れて再(ふたた)び奸策(かんさく)を
136企(たく)み初(そ)めしぞうたてけれ。
137 高姫(たかひめ)は懇切(こんせつ)なる初稚姫(はつわかひめ)の介抱(かいはう)に漸(やうや)く腰(こし)の痛(いた)みも全快(ぜんくわい)し、138顔(かほ)の腫(はれ)も引(ひ)き両眼(りやうがん)は元(もと)の如(ごと)く隼(はやぶさ)の如(ごと)く光(ひか)り出(だ)した。139喉元(のどもと)過(す)ぎて熱(あつ)さ忘(わす)るるは小人(せうじん)の常(つね)とかや、140兇霊(きようれい)に憑依(ひようい)されたる高姫(たかひめ)は、141前(まへ)に倍(ばい)して悪垂(あくた)れ口(ぐち)をつき始(はじ)め、142遉(さすが)の初稚姫(はつわかひめ)、143珍彦(うづひこ)を手(て)こずらすこと一通(ひととほ)りではなかつた。
144 高姫(たかひめ)は病気(びやうき)が癒(なほ)つたのを幸(さいは)ひ、145いそいそとして珍彦(うづひこ)の館(やかた)を訪(と)うた。
146高姫『ハイ御免(ごめん)なさいませ。147珍彦(うづひこ)さまは御(ご)機嫌(きげん)宜敷(よろし)う厶(ござ)いますかな。148静子(しづこ)さまも御(ご)無事(ぶじ)ですかな。149私(わたし)も長(なが)らく怪我(けが)を致(いた)しまして困(こま)つて居(を)りましたが、150御(ご)親切(しんせつ)の貴方(あなた)様(さま)、151あれ程(ほど)私(わたし)が苦(くる)しんで居(ゐ)るのに、152只(ただ)の一度(いちど)もお訪(たづ)ね下(くだ)さいませず、153真(まこと)に御(ご)親切(しんせつ)な程(ほど)、154有難(ありがた)う存(ぞん)じます。155遉(さすが)は大神(おほかみ)様(さま)に直々(ぢきぢき)お仕(つか)へ遊(あそ)ばす御(ご)夫婦(ふうふ)の事(こと)とて、156何(なに)から何(なに)迄(まで)お気(き)のつく事(こと)で厶(ござ)いますわい。157この御(ご)親切(しんせつ)をお報(むく)い申(まを)さねば済(す)みませぬから、158御(ご)迷惑(めいわく)ながらちつとばかり、159いなやつとばかりお邪魔(じやま)になるかも知(し)れませぬよ』
160と門口(かどぐち)から喋(しやべ)りながら「お上(あが)りなさいませ」とも云(い)はぬに早(はや)くも座敷(ざしき)に上(あが)り込(こ)み、161火鉢(ひばち)の前(まへ)にどつかと坐(すわ)り、162柱(はしら)を背(せ)に、163煙草(たばこ)を燻(くゆ)らしながら、164傲然(がうぜん)と構(かま)へて居(ゐ)るその憎(にく)らしさ。165楓姫(かへでひめ)は淑(しと)やかに襖(ふすま)を開(あ)けて高姫(たかひめ)の前(まへ)に現(あら)はれ、
166楓『ヤ、167お前(まへ)さまは義理(ぎり)天上(てんじやう)さまぢやな。168此(この)間(あひだ)は真(まこと)にお気(き)の毒(どく)さま、169イヒヒヒヒヒ、170貴女(あなた)もあれでよい修業(しゆげふ)をなさつたでせうね。171お父(とう)さまやお母(かあ)さまに大切(たいせつ)な毒散(どくさん)を振(ふ)れ舞(ま)つて下(くだ)さいまして、172真(まこと)にお気(き)の毒(どく)さまで厶(ござ)いましたなア。173ホホホホホ』
174 高姫(たかひめ)は、175ぎよつとしながら左(さ)あらぬ体(てい)にて、
176高姫『これ楓(かへで)さま、177なんぼ年(とし)が若(わか)いと云(い)つても、178その悪言(あくげん)は聞(き)き捨(ず)てなりませぬぞや。179お前(まへ)さまは此(この)義理(ぎり)天上(てんじやう)が、180御(ご)両親(りやうしん)に毒(どく)を盛(も)つたと云(い)ひましたな。181何(なに)を証拠(しようこ)にそんな事(こと)を仰有(おつしや)る。182この義理(ぎり)天上(てんじやう)に、183あらぬ悪名(あくめい)をつけ、184無実(むじつ)の咎(とが)を負(お)はせて追(お)ひ出(だ)さうとの企(たく)みであらうがな。185何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も悪人(あくにん)ばかりで、186挺(てこ)にも棒(ぼう)にもおへた代物(しろもの)ぢやないわい。187これ程(ほど)此(この)お館(やかた)に悪魔(あくま)が蔓(はびこ)る以上(いじやう)は、188いつかな いつかな此(この)高姫(たかひめ)は、189お前(まへ)達(たち)が追(お)ひ出(だ)さうと云(い)つたつてびくとも動(うご)きはしませぬぞえ。190そして珍彦(うづひこ)さま、191静子(しづこ)さまは何(なに)をして厶(ござ)るのだ。192「毒(どく)を呑(の)ました」と、193こんな失礼(しつれい)な事(こと)を現在(げんざい)自分(じぶん)の娘(むすめ)が云(い)つて居(ゐ)るのに断(ことわ)りにも来(こ)ず、194揃(そろ)ひも揃(そろ)つた四(よ)つ足(あし)身魂(みたま)ぢやな。195これだからこの義理(ぎり)天上(てんじやう)が骨(ほね)が折(を)れるのだ。196こんな分(わか)らずやの悪人(あくにん)が結構(けつこう)な結構(けつこう)なお館(やかた)を汚(けが)して居(ゐ)るものだから、197神力(しんりき)無双(むさう)の杢助(もくすけ)さま迄(まで)、198お前(まへ)達(たち)の犠牲(ぎせい)となつてあんな深傷(ふかで)を負(お)ひ、199今(いま)ではお姿(すがた)も見(み)えない。200大方(おほかた)お前(まへ)達(たち)が汚(よご)れて居(を)るので、201清浄(せいじやう)無垢(むく)の杢助(もくすけ)様(さま)はお嫌(きら)ひ遊(あそ)ばし、202斎苑(いそ)の館(やかた)へお帰(かへ)りなさつたのだらう。203エエ仕方(しかた)のない曲津(まがつ)が寄(よ)つたものだなア。204変性(へんじやう)女子(によし)のしようもない教(をしへ)にとぼけて居(ゐ)る八島主(やしまぬし)を初(はじ)め、205玉国別(たまくにわけ)、206五十子(いそこ)姫(ひめ)などと云(い)ふ阿婆摺(あばずれ)女(をんな)が肝腎(かんじん)の義理(ぎり)天上(てんじやう)様(さま)に相談(さうだん)も致(いた)さず、207許(ゆる)しもうけず、208勝手(かつて)気儘(きまま)に大神(おほかみ)様(さま)のお鎮(しづ)まり遊(あそ)ばす御(ご)聖場(せいぢやう)に、209鷹(たか)か鳶(とんび)か狸(たぬき)か鼬(いたち)か分(わか)りもしない御霊(みたま)の宿(やど)つた珍彦(うづひこ)夫婦(ふうふ)を、210大(だい)それた神司(かむつかさ)に任(にん)じ、211其(その)上(うへ)バラモン教(けう)の落武者(おちむしや)、212箸(はし)にも棒(ぼう)にもかからないガラクタ人足(にんそく)を半(はん)ダースも引張(ひつぱ)り込(こ)み、213聖場(せいぢやう)を日(ひ)に月(つき)に汚(けが)すものだから、214杢助(もくすけ)様(さま)の犠牲(ぎせい)ではまだ足(た)らぬと見(み)え、215女房(にようばう)の義理(ぎり)天上(てんじやう)迄(まで)が長(なが)らくの苦(くる)しみ、216是(これ)もやつぱりお前(まへ)達(たち)親子(おやこ)の為(ため)に千座(ちくら)の置戸(おきど)を負(お)うたのだ。217あの病気中(びやうきちう)にせめて一度(いちど)位(くらゐ)、218「義理(ぎり)天上(てんじやう)様(さま)、219御(お)気分(きぶん)はどうですか、220お薬(くすり)は如何(どう)か」と義理(ぎり)一遍(いつぺん)の挨拶(あいさつ)にでも来(き)たらよささうなものだなア。221本当(ほんたう)に恩(おん)知(し)らずと云(い)つても、222犬畜生(いぬちくしやう)にも劣(おと)つたどたほし者(もの)だ。223珍彦(うづひこ)、224静子(しづこ)夫婦(ふうふ)は、225私(わたし)の神徳(しんとく)に怖(おそ)れて何処(どこ)へ潜伏(せんぷく)したのだ。226サア楓(かへで)さま、227一遍(いつぺん)御(ご)意見(いけん)をして上(あ)げねばならぬから、228ここへ連(つ)れて来(き)なさい』
229楓『イヤですよ。230お前(まへ)さまは杢助(もくすけ)の妖幻坊(えうげんばう)と腹(はら)を合(あは)せて、231毒散(どくさん)と云(い)ふ悪(わる)い薬(くすり)をお父(とう)さまやお母(かあ)さまに呑(の)ました怖(おそ)ろしい大悪魔(だいあくま)だから、232何程(なにほど)お前(まへ)さまが苦(くる)しんで居(ゐ)ても、233よい罰(ばち)だと思(おも)つて誰(たれ)も訪(たづ)ねに往(ゆ)くものがないのよ。234気(き)の毒(どく)ですねえ。235ホホホホホ』
236高姫『これ阿魔(あま)つちよ。237何(なん)だ小(こ)ちつぺの態(ざま)をして、238毒散(どくさん)を呑(の)ましたなぞと、239何(なに)を証拠(しようこ)にそんな事(こと)を云(い)ふのだ。240毒(どく)でない証拠(しようこ)には、241お前(まへ)の両親(りやうしん)達(たち)は何(なん)の事(こと)もないぢやないか。242熱(ねつ)が一(ひと)つ出(で)たと云(い)ふのぢやなし、243咳(せき)を一(ひと)つしたと云(い)ふのぢやなし、244そんな無体(むたい)の事(こと)を云(い)ふと、245此(この)お館(やかた)には居(を)つて貰(もら)ひませぬぞや』
246楓『大(おほ)きに憚(はばか)りさま。247お前(まへ)さまのやうな怖(おそ)ろしい人(ひと)は顔(かほ)を見(み)るのもいやだと云(い)つて、248お父(とう)さまやお母(かあ)さまは、249昨夜(さくや)の中(うち)に斎苑(いそ)の館(やかた)へ、250そつとお参(まゐ)りになりましたよ。251ここは珍彦(うづひこ)の監督権(かんとくけん)内(ない)、252お前(まへ)さまが義理(ぎり)天上(てんじやう)か不義理(ふぎり)の天上(てんじやう)か知(し)らぬけれど、253まア二三(にさん)日(にち)待(ま)つて居(ゐ)なされ、254きつと立退(たちの)き命令(めいれい)が、255斎苑(いそ)の館(やかた)から下(さが)つて来(く)るのに違(ちが)ひありませぬわ、256エヘヘヘヘ、257お気(き)の毒(どく)さまねえ』
258高姫『ほんにほんに年歯(としは)も往(ゆ)かぬ阿魔(あま)つちよの癖(くせ)に、259何(なん)とした謀叛(むほん)を企(たく)らむのだらう。260毒害(どくがい)を致(いた)したなぞと、261此(この)生宮(いきみや)を大(だい)それた斎苑(いそ)の館(やかた)迄(まで)讒言(ざんげん)しに往(ゆ)きよつたのだな。262エー、263アタ小面(こづら)の憎(にく)い、264今(いま)に思(おも)ひ知(し)らしてやる程(ほど)に、265仮令(たとへ)立退(たちの)き命令(めいれい)が来(き)たとて、266いつかないつかな日出(ひのでの)神(かみ)の御(ご)命令(めいれい)の下(くだ)らぬ以上(いじやう)は動(うご)きは致(いた)さぬぞや』
267楓『オホホホホ、268日出(ひのでの)神(かみ)様(さま)、269嘘(うそ)だよ嘘(うそ)だよ、270あんまりお前(まへ)さまが悪(わる)い事(こと)を企(たく)むから、271お父(とう)さまとお母(かあ)さまがとてもやり切(き)れないから、272斎苑(いそ)の館(やかた)へ注進(ちゆうしん)に往(ゆ)かうかと云(い)つて居(ゐ)たのだよ。273まだ行(い)つて居(ゐ)ないから、274お社(やしろ)へでも御(ご)祈念(きねん)にいらしたのだらう。275今(いま)の間(うち)に改心(かいしん)して、276お父(とう)さまやお母(かあ)さまに毒(どく)を呑(の)ましたお詫(わび)をなされば、277私(わたし)が取(と)り持(も)つて斎苑(いそ)の館(やかた)往(ゆ)きを留(と)めて上(あ)げませう。278天上(てんじやう)さま、279どうですな。280この事(こと)を注進(ちゆうしん)されたら、281何程(なにほど)日出(ひのでの)神(かみ)様(さま)でもちつとは困(こま)るでせう』
282高姫『無実(むじつ)の罪(つみ)を着(き)せられて困(こま)る者(もの)が何処(どこ)にあるか。283無実(むじつ)の咎(とが)でおめおめと親子(おやこ)が四方(しはう)に流(なが)され、284泣(な)いて一生(いつしやう)を暮(くら)した未来(みらい)の菅公(くわんこう)見(み)たやうな人間(にんげん)とは、285ヘンちつと違(ちが)ひますぞや。286誣告(ぶこく)の罪(つみ)で、287此方(こつち)の方(はう)から訴(うつた)へてやるのだ。288何(なん)と云(い)つても承知(しようち)はせないぞや。289さあ早(はや)く両親(りやうしん)をここへ引(ひ)きずり出(だ)して、290義理(ぎり)天上(てんじやう)様(さま)に、291頭(かしら)を地(ち)に摺(す)りつけ、292尻(しり)を花瓶(はなたて)にしてあやまりなさい。293さうしたら都合(つがふ)によつたら、294虫(むし)を押(おさ)へこらへてやらぬものでもない』
295楓『オホホホホ、296オイ馬鹿(ばか)の天上(てんじやう)さま、297悪(あく)の天上(てんじやう)さま、298どつこい不義理(ふぎり)の天上(てんじやう)さま、299さうは往(ゆ)きませぬぞや。300お前(まへ)さまが妖幻坊(えうげんばう)と相談(さうだん)をして、301印度(ツキ)の国(くに)から持(も)つて来(き)た毒散(どくさん)をお酒(さけ)の中(なか)や御飯(ごはん)の中(なか)にまぜて喰(く)はしたのだ。302けれど、303家(うち)のお母(かあ)さまやお父(とう)さまは言霊別(ことたまわけの)命(みこと)様(さま)の御(ご)化身(けしん)、304いやお使(つか)ひ、305文珠(もんじゆ)菩薩(ぼさつ)さまから、306結構(けつこう)な結構(けつこう)な神丹(しんたん)と云(い)ふ霊薬(れいやく)を頂(いただ)いてゐらつしやつたのだから、307其(その)毒散(どくさん)が利(き)かなかつたのよ。308サアどうですか。309若(も)し楓(かへで)の云(い)ふ事(こと)が違(ちが)ふなら、310今(いま)文珠(もんじゆ)菩薩(ぼさつ)様(さま)を念(ねん)じて此処(ここ)に現(あら)はれて貰(もら)ふから、311さうしたらお前(まへ)さまも往生(わうじやう)しなくちやなりますまい』
312高姫『そんな事(こと)は知(し)らぬわい。313子供(こども)だてらツベコベ言(い)ふものぢやない。314苟(いやし)くも日出(ひのでの)神(かみ)の生宮(いきみや)たる善一条(ぜんひとすぢ)の高姫(たかひめ)が、315夢(ゆめ)にもそんな事(こと)を致(いた)すものか。316それはお前(まへ)達(たち)の僻(ひが)みから、317そんな夢(ゆめ)を見(み)たのだ。318そして許(ゆる)し難(がた)い事(こと)は、319吾(わが)夫(をつと)杢助(もくすけ)様(さま)を捉(つか)まへて妖幻坊(えうげんばう)だと云(い)つたらう。320サア何(なに)を証拠(しようこ)にそんな事(こと)を云(い)ふのか、321誹謗(ひばう)の罪(つみ)で訴(うつた)へますぞや』
322楓『ホホホホホ、323未丁(みてい)年者(ねんしや)や少女(せうぢよ)の言葉(ことば)は法律(はふりつ)にはかかりませぬぞや。324真(まこと)にお気(き)の毒(どく)さま、325毒散(どくさん)の効能(かうのう)も、326神力(しんりき)の前(まへ)にはサツパリ駄目(だめ)ですなア。327サアサア早(はや)く帰(かへ)つて頂戴(ちやうだい)』
328 高姫(たかひめ)は大(おほ)いに怒(いか)り、329楓(かへで)の胸倉(むなぐら)をグツと取(と)り、330拳(こぶし)を固(かた)めて、
331高姫『エエ、332ツベコベとよく囀(さへづ)る燕(つばくろ)め、333この栄螺(さざえ)の壺焼(つぼやき)をお見舞(みま)ひ申(まを)すぞ』
334と云(い)ひながら、335可憐(かれん)なる少女(せうぢよ)の頭(かしら)を三(み)つ四(よ)つ続(つづ)け打(う)ちに打(う)つた。
336(楓)『アレー、337人殺(ひとごろし)ー』
338と楓(かへで)が叫(さけ)ぶ声(こゑ)を耳(みみ)にし、339バラバラと駆(か)けつけて来(き)たのはイル、340イク、341サール、342ハル、343テルの五(ご)人(にん)であつた。
344(大正一二・一・二一 旧一一・一二・五 加藤明子録)
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