霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第八章 常世闇(とこよやみ)〔一三〇二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第50巻 真善美愛 丑の巻 篇:第2篇 兇党擡頭 よみ(新仮名遣い):きょうとうたいとう
章:第8章 常世闇 よみ(新仮名遣い):とこよやみ 通し章番号:1302
口述日:1923(大正12)年01月21日(旧12月5日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年12月7日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
人間は自然愛と地獄愛が生み出す諸々の罪悪の間に生まれ出ているため、その内分は高天原に向かって完全には開けていない。そのため、大神は精霊を経て人間を統制し給う。人間と生まれた者は、惟神の順序の内に復活帰正すべき必要がある。そのためには、間接に聖霊を通さなくては成就が難しいのである。
初稚姫のような神人であれば、大神の直接内流に統制されるので、精霊を経て大神に統制される必要はない。
しかし現代の人間は高天原からその内分を閉ざし高天原から遠く離れてしまったそこで大神は、天人と精霊を各個の人間と共に居らしめ給い、天人すなわち本守護神、精霊すなわち正守護神を経て、統制する方法を取らせ給うことになった。
高姫の体に入った兇霊は、自分こそが本体であり、神界経綸の因縁ある機関と思っている。そして高姫の方が宿を借りに来ている精霊だと思っている。しかし高姫の言動から、もしかすると自分自身が高姫という得体のしれない動物の中に入っているのではないかとも感じだしている。
高姫も兇霊も、自分こそ万民の罪悪を救うために神が遣わした犠牲者であり救世主と信じているから始末が負えない。
動物は、精霊界からの内流によって統制されている。けだし、動物の生涯は宇宙本来の順序中に住するゆえに、理性を持っていない。理性がないゆえに神的順序を破壊することがないのである。
しかしスマートのような鋭敏な霊獣は、初稚姫のような地上天人の内流を受けることができる。スマートは肉体は動物なれども、神より特別に化相の法によって、初稚姫の身辺を守る必要から現れ給うたものだからである。
普通の人間が動物と和合してしまうと、それは畜生道に堕落した場合である。また人間が霊肉離脱の後、地獄界や精霊界にあるとき、現世にある敵に対して危害を加えようとの念が強い時には、動物の精霊に和合してその怨恨を晴らそうとするものである。
霊界のことに暗い智者学者は、動物が人間にうつって人語を用いるなどあり得ないというが、それこそ半可通的言説である。彼らは自分が駆使されている人霊の想念を借り、懸っている人間の記憶や想念に入って肉体と口舌を使用するのである。
動物や植物は惟神的順序にしたがい順応している。おのおのその決まった特性を備え、決まった時期に活動する。人間は理性を有するがゆえに、別の土地に行ったり環境が変わったりすると意志を変じる。
また自由に思想ならびに身体の色まで変じる便宜がある。その代わりまた、悪に移りやすく堕落もしやすい。そのため大神は特に予言者を下し、天的順序に従うことを教え給うのである。
しかしまた、人間には善悪両方面の世界が開かれてあるがゆえに、神の機関たることを得るのである。願わくは人間は神を愛し神を信じ、神に愛せられ、神の生き宮として大神の天地創造の御用に立ちたいものである。
さて、高姫は大杉の梢から落ちてイル、イク、サールなどに介抱され、ようやく居間に運ばれた。梟に目をこつかれて腫れ上がり、しばらく見えなくなっていた。イル、イク、サール、テルは高姫が弱っているときに、普段の高姫への不満を皮肉交じりに述べ立てた。
高姫は、初稚姫が帰ってきたら彼らのことを告げてやると言い返した。一同は観念してどやどやと帰って行った。
イルは高姫の身が心配だったので、ただ一人次の間に身を隠して控えて様子をうかがっていた。すると高姫の居間から唸り声が聞こえてくる。のぞいてみると、いつの間にか座敷にスマートが座っていた。
下駄の音が森の方から聞こえてきた。初稚姫は杢助を探しに行くと高姫に言ったが、この杢助は妖怪であることを知っていたから実際に探してきたわけではない。ただ高姫の気休めのために、しばらく森林を逍遥して帰ってきたのであった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-07-14 15:54:56 文字数:6335 OBC :rm5008
愛善世界社版:104頁 八幡書店版:第9輯 187頁 修補版: 校定版:109頁 普及版:54頁 初版: ページ備考:
派生[?]この文献を底本として書かれたと思われる文献です。[×閉じる]:出口王仁三郎全集 > 第二巻 宗教・教育編 > 第四篇 神霊世界 > 第二十章 神人和合と特有性
001 大抵(たいてい)の人間(にんげん)は、002高天原(たかあまはら)に向(むか)つて其(その)内分(ないぶん)が完全(くわんぜん)に開(ひら)けてゐない。003それ故(ゆゑ)に大神(おほかみ)は精霊(せいれい)を経(へ)て人間(にんげん)を統制(とうせい)し給(たま)ふのが普通(ふつう)である。004何(なん)となれば、005人間(にんげん)は自然愛(しぜんあい)と地獄愛(ぢごくあい)とより生(う)み出(だ)す所(ところ)の地獄界(ぢごくかい)の諸々(もろもろ)の罪悪(ざいあく)の間(あひだ)に生(うま)れ出(い)でて、006惟神(かむながら)即(すなは)ち神的(しんてき)順序(じゆんじよ)に背反(はいはん)せる情態(じやうたい)に居(を)るが故(ゆゑ)である。007されど一旦(いつたん)人間(にんげん)と生(うま)れた者(もの)は、008何(ど)うしても惟神(かむながら)の順序(じゆんじよ)の内(うち)に復活(ふくくわつ)帰正(きせい)すべき必要(ひつえう)がある。009而(しか)して此(この)復活(ふくくわつ)帰正(きせい)の道(みち)は、010間接(かんせつ)に精霊(せいれい)を通(とほ)さなくては到底(たうてい)成就(じやうじゆ)し難(がた)いものである。011併(しか)しながら此(この)物語(ものがたり)の主人公(しゆじんこう)たる初稚姫(はつわかひめ)の如(ごと)き神人(しんじん)ならば、012最初(さいしよ)より高天原(たかあまはら)の神的(しんてき)順序(じゆんじよ)に依(よ)る所(ところ)の諸々(もろもろ)の善徳(ぜんとく)の中(うち)に生(うま)れ出(い)でたるが故(ゆゑ)に、013決(けつ)して精霊(せいれい)を経(へ)て復活(ふくくわつ)帰正(きせい)するの必要(ひつえう)はない。014神人(しんじん)和合(わがふ)の妙境(めうきやう)に達(たつ)したる場合(ばあひ)の人間(にんげん)は、015精霊(せいれい)なるものを経(へ)て大神(おほかみ)の統制(とうせい)し給(たま)ふ所(ところ)とならず、016順序(じゆんじよ)即(すなは)ち惟神(かむながら)の摂理(せつり)により、017大神(おほかみ)の直接(ちよくせつ)内流(ないりう)に統制(とうせい)さるるのである。
018 大神(おほかみ)より来(きた)る直接(ちよくせつ)内流(ないりう)は、019神(かみ)の神的(しんてき)人格(じんかく)より発(はつ)して人間(にんげん)の意性中(いせいちう)に入(い)り、020之(これ)より其(その)智性(ちせい)に入(い)り、021斯(か)くて其(その)善(ぜん)に入(い)り又(また)其(その)善(ぜん)を経(へ)て真(しん)に入(い)る。022真(しん)に入(い)るとは要(えう)するに愛(あい)に入(い)るといふ事(こと)である。023此(この)愛(あい)を経(へ)て後(のち)聖(きよ)き信(しん)に入(い)る。024故(ゆゑ)にこの内流(ないりう)の愛(あい)なき信(しん)に入(い)り、025又(また)善(ぜん)のなき真(しん)に入(い)り、026又(また)意思(いし)よりせざる所(ところ)の智性(ちせい)に入(い)ることはないものである。027故(ゆゑ)に初稚姫(はつわかひめ)の如(ごと)きは清浄(せいじやう)無垢(むく)の神的(しんてき)人格者(じんかくしや)とも云(い)ふべき者(もの)なれば、028その思(おも)ふ所(ところ)、029云(い)ふ所(ところ)、030行(おこな)ふ所(ところ)は、031一(いつ)として神(かみ)の大御心(おほみこころ)に合一(がふいつ)せないものはないのである。032斯(か)かる神人(しんじん)を称(しよう)して真(しん)の生神(いきがみ)と云(い)ふのである。
033 天人(てんにん)及(およ)び精霊(せいれい)は何故(なにゆゑ)に人間(にんげん)と和合(わがふ)する事(こと)斯(かく)の如(ごと)く密接(みつせつ)にして、034人間(にんげん)に所属(しよぞく)せる一切(いつさい)のものを、035彼(かれ)等(ら)自身(じしん)の物(もの)の如(ごと)く思(おも)ふ理由(りいう)は、036人間(にんげん)なるものは霊界(れいかい)と現界(げんかい)との和合(わがふ)機関(きくわん)にして頗(すこぶ)る密着(みつちやく)の間(かん)に居(を)り、037殆(ほとん)ど両者(りやうしや)を一(ひと)つの物(もの)と看做(みな)し得(う)べきが故(ゆゑ)である。038されど現代(げんだい)の人間(にんげん)は高天原(たかあまはら)より物欲(ぶつよく)の為(ため)に自然(しぜん)に其(その)内分(ないぶん)を閉(とざ)し、039大神(おほかみ)のまします高天原(たかあまはら)と遠(とほ)く離(はな)るるに至(いた)つたが故(ゆゑ)に、040大神(おほかみ)は茲(ここ)に一(ひと)つの経綸(けいりん)を行(おこな)はせ給(たま)ひ、041天人(てんにん)と精霊(せいれい)とをして各個(かくこ)の人間(にんげん)と共(とも)に居(を)らしめ給(たま)ひ、042天人(てんにん)即(すなは)ち本(ほん)守護神(しゆごじん)及(およ)び精霊(せいれい)正(せい)守護神(しゆごじん)を経(へ)て人間(にんげん)を統制(とうせい)する方法(はうはふ)を執(と)らせ給(たま)ふ事(こと)となつたのである。
043 高姫(たかひめ)の身体(からだ)に侵入(しんにふ)したる精霊(せいれい)、044中(なか)にも最(もつと)も兇悪(きようあく)なる彼(かれ)兇霊(きようれい)は、045常(つね)に高姫(たかひめ)と言語(げんご)を交換(かうくわん)してゐるものの、046その実(じつ)高姫(たかひめ)が人間(にんげん)なる事(こと)を実際(じつさい)に信(しん)じてゐないのである。047高姫(たかひめ)の身体(からだ)は即(すなは)ち自分(じぶん)の肉体(にくたい)と固(かた)く信(しん)じてゐるのである。048故(ゆゑ)に高姫(たかひめ)が精霊(せいれい)に対(たい)して色々(いろいろ)と談判(だんぱん)をすると雖(いへど)も、049其(その)実(じつ)精霊(せいれい)の意思(いし)では他(た)に目(め)には見(み)えないけれども、050高姫(たかひめ)なる精霊(せいれい)があつて、051外部(ぐわいぶ)より自分(じぶん)に向(むか)つて談話(だんわ)の交換(かうくわん)をしてゐる様(やう)に思(おも)つて居(ゐ)るのである。052又(また)精霊(せいれい)の方(はう)に於(おい)ては、053高姫(たかひめ)の肉体(にくたい)は決(けつ)して何(なに)も知(し)つて居(ゐ)ない、054知(し)つてゐるのは只(ただ)精霊(せいれい)自身(じしん)の知識(ちしき)によるものと思(おも)ひ、055従(したが)つて高姫(たかひめ)が知(し)つてゐる所(ところ)の一切(いつさい)の事物(じぶつ)は、056皆(みな)自分(じぶん)の所為(しよゐ)と信(しん)じ居(を)るものである。057併(しか)しながら高姫(たかひめ)が余(あま)りに……俺(わし)の肉体(にくたい)にお前(まへ)は巣喰(すく)つて居(ゐ)るのだ……と、058精霊(せいれい)に向(むか)つて屡(しばしば)告(つ)ぐるによつて、059彼(かれ)に憑依(ひようい)せる精霊(せいれい)即(すなは)ち兇霊(きようれい)は、060うすうすながら自分(じぶん)以外(いぐわい)に高姫(たかひめ)といふ一種(いつしゆ)異様(いやう)の動物(どうぶつ)の肉体(にくたい)に這入(はい)つて居(ゐ)るのではあるまいか……位(ぐらゐ)に感(かん)じだしたのである。061高姫(たかひめ)は又(また)精霊(せいれい)の言(い)ふ所(ところ)、062知(し)る所(ところ)を、063自分(じぶん)の言(い)ふ所(ところ)、064知(し)る所(ところ)と思惟(しゐ)し、065而(しか)して精霊(せいれい)が、066自分(じぶん)の肉体(にくたい)は神界(しんかい)経綸(けいりん)の因縁(いんねん)のある機関(きくわん)として特別(とくべつ)に造(つく)られたのだから、067正(せい)守護神(しゆごじん)や副(ふく)守護神(しゆごじん)が宿(やど)を借(か)りに来(き)て居(を)るものと信(しん)じて居(ゐ)るのである。068而(しか)して面白(おもしろ)い事(こと)には、069高姫(たかひめ)の体内(たいない)に居(を)る精霊(せいれい)は、070高姫(たかひめ)の記憶(きおく)と想念(さうねん)を基(もとゐ)としていろいろと支離(しり)滅裂(めつれつ)な予言(よげん)をしたり、071筆先(ふでさき)を書(か)いたりしながら、072其(その)不合理(ふがふり)にして虚偽(きよぎ)に充(み)てる事(こと)を自覚(じかく)せず、073凡(すべ)てを善(ぜん)と信(しん)じ、074真理(しんり)と固(かた)く信(しん)じてゐるのだから、075自分(じぶん)が悪神(あくがみ)だと云(い)つたり、076或(あるひ)は悪(あく)を企(たく)まうなどと言(い)つてゐながらも、077決(けつ)して真(しん)の悪(あく)ではない、078実(じつ)は自分(じぶん)が或(ある)自己(じこ)以外(いぐわい)の何物(なにもの)かと揶揄(からか)つて居(ゐ)るやうな気(き)でゐるのだから不思議(ふしぎ)である。079又(また)高姫(たかひめ)自身(じしん)も、080少(すこ)し許(ばか)り悪(あく)の行(や)り方(かた)ではあるまいかと思(おも)うて見(み)たり、081或(ある)時(とき)は……イヤイヤ決(けつ)して自分(じぶん)の思(おも)ふ事(こと)、082行(おこな)ふ所(ところ)は微塵(みぢん)も悪(あく)がない、083只(ただ)訳(わけ)の分(わか)らぬ人間(にんげん)の目(め)から、084神格(しんかく)に充(みた)されたる吾々(われわれ)の言行(げんかう)を観察(くわんさつ)するのだから悪(あく)に見(み)えるだらう。085真(しん)の神(かみ)は必(かなら)ず自分(じぶん)が神(かみ)の為(ため)道(みち)の為(ため)に千騎(せんき)一騎(いつき)の活動(くわつどう)してゐる事(こと)をキツトお褒(ほ)め遊(あそ)ばすだらう。086神(かみ)に叶(かな)へるものとして、087神柱(かむばしら)とお使(つか)ひ遊(あそ)ばしてゐられるのであらう。088訳(わけ)の分(わか)らぬ現界(げんかい)の人間(にんげん)が、089仮令(たとへ)悪魔(あくま)と言(い)はうとも、090そんな事(こと)は構(かま)つてゐられない、091吾(わ)がなす業(わざ)は神(かみ)のみぞ知(し)り給(たま)ふ……といふ様(やう)な冷静(れいせい)な態度(たいど)を構(かま)へ、092如何(いか)なる真(まこと)の教示(けうじ)も、093真理(しんり)も、094自己(じこ)以外(いぐわい)に説(と)くものはない、095又(また)行(おこな)ふ真(まこと)の人間(にんげん)もないのだから、096至善(しぜん)至愛(しあい)の標本(へうほん)を天下(てんか)に示(しめ)し、097千座(ちくら)の置戸(おきど)を負(お)うて万民(ばんみん)の罪悪(ざいあく)を救(すく)うてやらねばならぬ。098自分(じぶん)は神(かみ)の遣(つか)はし給(たま)ふ犠牲者(ぎせいしや)、099救世主(きうせいしゆ)だと信(しん)じて居(ゐ)るのだから始末(しまつ)に了(を)へぬのである。100高姫(たかひめ)のみならず、101世(よ)の中(なか)に雨後(うご)の筍(たけのこ)の如(ごと)く、102ムクムクと簇生(ぞくせい)する自称(じしよう)予言者(よげんしや)、103自称(じしよう)救世主(きうせいしゆ)なども、104すべては高姫(たかひめ)に類(るゐ)したものなることは言(い)ふ迄(まで)もない事(こと)である。
105 又(また)動物(どうぶつ)は、106精霊界(せいれいかい)よりする所(ところ)の一般(いつぱん)の内流(ないりう)の統制(とうせい)する所(ところ)となるものである、107蓋(けだ)し彼(かれ)等(ら)動物(どうぶつ)の生涯(しやうがい)は宇宙(うちう)本来(ほんらい)の順序中(じゆんじよちう)に住(ぢゆう)する者(もの)なるが故(ゆゑ)に、108動物(どうぶつ)はすべて理性(りせい)を有(いう)せないものである。109理性(りせい)なきが故(ゆゑ)に神的(しんてき)順序(じゆんじよ)に背戻(はいれい)し、110又(また)之(これ)を破壊(はくわい)することをなし得(え)ないのである。111人間(にんげん)と動物(どうぶつ)の異(こと)なる処(ところ)は此処(ここ)にあるのである。112併(しか)しスマートの如(ごと)き鋭敏(えいびん)なる霊獣(れいじう)は其(その)精霊(せいれい)が殆(ほとん)ど人間(にんげん)の如(ごと)く、113且(かつ)本来(ほんらい)の純朴(じゆんぼく)なる精神(せいしん)に人間(にんげん)と同様(どうやう)に理性(りせい)をも有(いう)するが故(ゆゑ)に、114よく神人(しんじん)の意思(いし)を洞察(どうさつ)し、115忠僕(ちうぼく)の如(ごと)くに仕(つか)ふる事(こと)を得(え)たのである。116動物(どうぶつ)はすべて人間(にんげん)の有(いう)する精霊(せいれい)の内流(ないりう)を受(う)けて活動(くわつどう)することがある。117されども普通(ふつう)の動物(どうぶつ)は其(その)霊魂(れいこん)に理性(りせい)を欠(か)くが故(ゆゑ)に、118初稚姫(はつわかひめ)の如(ごと)き地上(ちじやう)の天人(てんにん)の内流(ないりう)を受(う)くることは出来得(できえ)ないものである。119併(しか)し此(この)スマートは肉体(にくたい)は動物(どうぶつ)なれども、120神(かみ)より特別(とくべつ)の方法(はうはふ)に依(よ)つて、121即(すなは)ち化相(けさう)の法(はふ)によつて、122初稚姫(はつわかひめ)の身辺(しんぺん)を守(まも)るに必要(ひつえう)なるべく現(げん)じ給(たま)うたからである。123初稚姫(はつわかひめ)も此(この)消息(せうそく)をよく感知(かんち)してゐるから、124決(けつ)して普通(ふつう)の犬(いぬ)として遇(ぐう)せないのである。125只(ただ)神(かみ)が化相(けさう)に仍(よ)つて、126其(その)神格(しんかく)の一部(いちぶ)を現(あら)はし給(たま)ひしものなることを知(し)るが故(ゆゑ)に、127姉妹(きやうだい)の如(ごと)く下僕(げぼく)の如(ごと)く、128或(ある)時(とき)は朋友(ほういう)の如(ごと)くに和睦(わぼく)親愛(しんあい)し得(う)るのである。129普通(ふつう)の人間(にんげん)が動物(どうぶつ)と和合(わがふ)した時(とき)は、130全(まつた)く畜生道(ちくしやうだう)に堕落(だらく)した場合(ばあひ)である。131又(また)人間(にんげん)が霊肉(れいにく)脱離(だつり)の後(のち)、132地獄界(ぢごくかい)及(およ)び精霊界(せいれいかい)に在(あ)る時(とき)、133現世(げんせ)に在(あ)る吾(わが)敵人(てきじん)に対(たい)し、134危害(きがい)を加(くは)へむとするの念慮(ねんりよ)強(つよ)き時(とき)は、135動物(どうぶつ)の精霊(せいれい)に和合(わがふ)して其(その)怨恨(えんこん)を晴(はら)さむとするものである。136故(ゆゑ)に生霊(いきりやう)又(また)は死霊(しりやう)に憑依(ひようい)された人間(にんげん)には、137必(かなら)ず動物(どうぶつ)の霊(れい)が相伴(あひともな)うてゐるものである。138是(これ)は或(ある)大病(たいびやう)に苦(くる)しんでゐる人間(にんげん)を鎮魂(ちんこん)し、139又(また)は神言(かみごと)を奏上(そうじやう)して之(これ)を調(しら)べる時(とき)、140必(かなら)ず人間(にんげん)の生霊(いきりやう)又(また)は死霊(しりやう)の姓名(せいめい)を名乗(なの)るものである。141而(しか)して熟練(じゆくれん)したる審神者(さには)が之(これ)を厳(きび)しく責立(せめた)つる時(とき)は、142遂(つひ)に人霊(じんれい)と動物霊(どうぶつれい)と和合(わがふ)して其(その)人霊(じんれい)の先駆者(せんくしや)となつたことを自白(じはく)するものである。143狐狸(こり)や蛇(へび)、144蟇(がま)、145犬(いぬ)、146猫(ねこ)其(その)他(た)の動物(どうぶつ)の霊(れい)が人間(にんげん)に来(きた)る時(とき)は、147人間(にんげん)の記憶(きおく)及(およ)び想念中(さうねんちう)に入(い)つて其(その)肉体(にくたい)の口舌(こうぜつ)を使用(しよう)し、148或(あるひ)は自分(じぶん)が駆使(くし)され合一(がふいつ)されてゐる人霊(じんれい)の想念(さうねん)をかつて、149人間(にんげん)の如(ごと)く言語(げんご)を発(はつ)するに至(いた)るものである。150霊界(れいかい)の消息(せうそく)に暗(くら)き学者(がくしや)は、151狐狸(こり)其(その)他(た)の動物(どうぶつ)が人間(にんげん)に憑(うつ)つて、152人語(じんご)を用(もち)ふるなどはあり得(う)べからざる事(こと)である、153斯(かく)の如(ごと)き事(こと)を信(しん)ずる者(もの)は太古(たいこ)未開(みかい)の野蛮人(やばんじん)である、154斯(かく)の如(ごと)く人文(じんぶん)の発達(はつたつ)したる現代(げんだい)に於(おい)て尚(なほ)動物(どうぶつ)が人間(にんげん)に憑依(ひようい)して人語(じんご)を発(はつ)するなどの不合理(ふがふり)を信(しん)ずるは実(じつ)に癲狂(てんきやう)痴呆(ちはう)の極(きは)みであると嘲笑(てうせう)するは、155現代(げんだい)の半可通(はんかつう)的(てき)学者(がくしや)の言説(げんせつ)である。156何(なん)ぞ知(し)らむ、157彼(かれ)等(ら)こそ霊界(れいかい)より見(み)て実(じつ)に憐(あは)れむべき頑愚者(ぐわんぐしや)にして、158且(かつ)癲狂者(てんきやうしや)となつてゐるのである。159自分(じぶん)の眼(まなこ)が自分(じぶん)で見(み)られ又(また)自分(じぶん)の頭部(とうぶ)や頸部(けいぶ)、160背部(はいぶ)などが自身(じしん)に於(おい)て見(み)ることを得(え)ない人間(にんげん)が、161何(ど)うして霊界(れいかい)の幽玄(いうげん)微妙(びめう)なる真理(しんり)真相(しんさう)が分(わか)るべき道理(だうり)があらう。162須(すべか)らく人間(にんげん)は神(かみ)の前(まへ)に拝跪(はいき)し、163其(その)迂愚(うぐ)と不明(ふめい)と驕慢(けうまん)とを鳴謝(めいしや)すべきものである。
164○
165 動物(どうぶつ)例(たと)へば犬(いぬ)、166猫(ねこ)、167鹿(しか)、168牛(うし)、169馬(うま)などは、170惟神(かむながら)即(すなは)ち神的(しんてき)順序(じゆんじよ)に従(したが)つて交尾期(かうびき)なども一定(いつてい)し、171決(けつ)して人間(にんげん)の如(ごと)く、172何時(なんどき)なしに発情(はつじやう)をするなどの自堕落(じだらく)な事(こと)はないものである。173又(また)植物(しよくぶつ)なども霊界(れいかい)と自然界(しぜんかい)の順序(じゆんじよ)に順応(じゆんおう)して、174惟神(かむながら)的(てき)に時(とき)を定(さだ)めて花(はな)開(ひら)き実(み)を結(むす)び、175嫩芽(どんが)を生(しやう)じ落葉(らくえう)するものであつて、176実(じつ)に其(その)順序(じゆんじよ)を誤(あやま)らない事(こと)は吾々(われわれ)人間(にんげん)の到底(たうてい)足許(あしもと)へもよれない程(ほど)、177秩序(ちつじよ)整然(せいぜん)たるものである。178而(しか)して犬(いぬ)は犬(いぬ)、179猫(ねこ)は猫(ねこ)、180馬(うま)は馬(うま)と各(かく)天稟(てんぴん)の特性(とくせい)を発揮(はつき)し、181よく其(その)境遇(きやうぐう)に適応(てきおう)せる本性(ほんしやう)を発揮(はつき)するものである。182又(また)植物(しよくぶつ)などは各(かく)其(その)特性(とくせい)を備(そな)へ、183自己(じこ)特有(とくいう)の甘(あま)さ、184辛(から)さ、185酸(すい)さ、186苦(にが)さ等(とう)の本能(ほんのう)を発揮(はつき)し、187幾万(いくまん)年(ねん)の昔(むかし)より其(その)味(あぢ)を変(か)へないのである。188要(えう)するに芋(いも)は茄子(なす)の味(あぢ)に代(かは)る事(こと)を得(え)ない、189又(また)唐辛(たうがらし)は蜜柑(みかん)の味(あぢ)に決(けつ)してなるものでない。190又(また)同(おな)じ畑(はたけ)に植付(うゑつ)けられ、191同(おな)じ地味(ちみ)を吸収(きふしう)しながらも、192依然(いぜん)として西瓜(すいくわ)は西瓜(すいくわ)の味(あぢ)、193唐辛(たうがらし)は唐辛(たうがらし)の味(あぢ)、194栗(くり)は栗(くり)、195柿(かき)は柿(かき)の特有(とくいう)の形体(けいたい)及(およ)び味(あぢ)を有(も)つて居(ゐ)るものである。196而(しか)して、197此(この)特有性(とくいうせい)はすべて霊的(れいてき)より来(きた)り、198其(その)成長(せいちやう)繁茂(はんも)の度合(どあひ)は自然界(しぜんかい)の光熱(くわうねつ)や土地(とち)の肥痩(ひそう)等(とう)に依(よ)るものである。199然(しか)るに人間(にんげん)は理性(りせい)なるものを有(いう)するが故(ゆゑ)に少々(せうせう)土地(とち)が変(かは)つた時(とき)又(また)は気候(きこう)の激変(げきへん)したる土地(とち)に移住(いぢゆう)する時(とき)は、200忽(たちま)ち其(その)意思(いし)を変移(へんい)し、201十(じふ)年(ねん)も外国(ぐわいこく)へ行(い)つて来(き)た者(もの)は、202其(その)思想(しさう)全(まつた)く外人(ぐわいじん)と同様(どうやう)になつて了(しま)ふものである。203これが人間(にんげん)と動物(どうぶつ)又(また)は植物(しよくぶつ)と異(こと)なる点(てん)である。204斯(かく)の如(ごと)く人間(にんげん)は理性(りせい)によつて自由(じいう)に思想(しさう)並(ならび)に身体(しんたい)の色(いろ)迄(まで)も多少(たせう)変(へん)ずる便宜(べんぎ)あると共(とも)に、205又(また)悪(あく)に移(うつ)り易(やす)く堕落(だらく)し易(やす)きものである。206故(ゆゑ)に動物(どうぶつ)植物(しよくぶつ)に対(たい)しては大神(おほかみ)は決(けつ)して教(をしへ)を垂(た)れ給(たま)ふ面倒(めんだう)もなく、207極(きは)めて安心(あんしん)遊(あそ)ばし給(たま)へども、208人間(にんげん)は到底(たうてい)動植物(どうしよくぶつ)の如(ごと)く神的(しんてき)順序(じゆんじよ)を守(まも)らない悪(あく)の性(せい)を帯(お)びてゐるが故(ゆゑ)に、209特(とく)に予言者(よげんしや)を下(くだ)し、210天的(てんてき)順序(じゆんじよ)に従(したが)ふ事(こと)を教(をし)へ給(たま)うたのである。211併(しか)しながら人間(にんげん)に善悪(ぜんあく)両方面(りやうはうめん)の世界(せかい)が開(ひら)かれてあるが故(ゆゑ)に、212又(また)一方(いつぱう)から言(い)へば神(かみ)の機関(きくわん)たる事(こと)を得(う)るのである。213願(ねが)はくは吾々(われわれ)人間(にんげん)は神(かみ)を愛(あい)し神(かみ)を信(しん)じ、214而(しか)して神(かみ)に愛(あい)せられ、215神(かみ)の生宮(いきみや)として大神(おほかみ)の天地(てんち)創造(さうざう)の御用(ごよう)に立(た)ちたいものである。
216 却説(さて)高姫(たかひめ)が玉茸(たまたけ)を採(と)らむとしてソツと大杉(おほすぎ)の枝(えだ)に登(のぼ)り、217梟(ふくろ)にクワンクワンと鋭(するど)き嘴(くちばし)にて両眼(りやうがん)をコツかれ、218アツと叫(さけ)んで地上(ちじやう)に盲猿(めくらざる)の如(ごと)く顛落(てんらく)し、219腰骨(こしぼね)を打(う)つて堪(た)へ難(がた)き苦痛(くつう)に呻吟(しんぎん)しながら、220イル、221イク、222サールなどに介抱(かいほう)され、223漸(やうや)くにして其(その)居間(ゐま)に運(はこ)ばれた。224されど高姫(たかひめ)は元来(ぐわんらい)剛(がう)の者(もの)なれば少々(せうせう)腰骨(こしぼね)の歪(ゆが)んだ位(くらゐ)は苦(く)にする様(やう)な女(をんな)ではなかつた。225そして容易(ようい)に痛(いた)いとか苦(くる)しいとか云(い)ふ様(やう)な事(こと)は、226其(その)性質(せいしつ)上(じやう)絶対(ぜつたい)に口外(こうぐわい)せない。227併(しか)しながら両眼(りやうがん)をこつかれ、228眼瞼(がんけん)忽(たちま)ち充血(じうけつ)して腫(は)れ塞(ふさ)がり、229光明(くわうみやう)を見(み)る事(こと)を得(え)ざるに至(いた)りしには、230流石(さすが)の高姫(たかひめ)も余程(よほど)迷惑(めいわく)をしたのである。
231 イルは、
232イル『サア、233高姫(たかひめ)さま、234此処(ここ)が貴女(あなた)のお居間(ゐま)ですよ。235マアゆつくり本復(ほんぷく)するまでお休(やす)みなさいませ。236イル、237イク、238サール、239ハル、240テルのやうな屈強(くつきやう)な男(をとこ)も居(を)りますから、241どこ迄(まで)もお世話(せわ)を致(いた)します、242どうぞ安心(あんしん)して使(つか)つて下(くだ)さいや』
243高姫『お前(まへ)はイルかな、244イヤ御(ご)親切(しんせつ)に有難(ありがた)う。245モウ斯(か)うなつては目(め)が腫上(はれあが)つて、246一寸(ちよつと)も見(み)えないのだから、247お前(まへ)達(たち)のお世話(せわ)になるより仕方(しかた)がない。248やがて此(この)腫(はれ)が引(ひ)いたら目(め)も見(み)えるだらうから、249どうぞすまないが二三(にさん)日(にち)介抱(かいはう)して下(くだ)さい。250あああ何(なん)とした不仕合(ふしあは)せな事(こと)だらうなア。251折(をり)も折(をり)とて杢助(もくすけ)さまは躓(つまづ)いて倒(たふ)れ、252眉間(みけん)を破(やぶ)つて苦(くる)しむで厶(ござ)るなり、253其(その)痛(いた)みを直(なほ)したさに、254玉茸(たまたけ)を採(と)りに上(あが)つて、255又(また)もや私(わし)は大杉(おほすぎ)に棲(す)んで居(を)つた天狗(てんぐ)の奴(やつ)に両眼(りやうがん)をコツかれ、256木(き)からおちた猿(さる)のやうなみじめな目(め)に遇(あ)ふとは……ああ神(かみ)様(さま)も何(ど)うして厶(ござ)つたのだらうかな、257義理(ぎり)天上(てんじやう)さまも余(あんま)りだ……』
258と慨然(がいぜん)として悲痛(ひつう)の涙(なみだ)をこぼしてゐる。
259サール『高姫(たかひめ)さま、260本当(ほんたう)に不思議(ふしぎ)な事(こと)ですな。261玉国別(たまくにわけ)さまも此(この)河鹿(かじか)峠(たうげ)で猿(さる)の奴(やつ)に両眼(りやうがん)を破(やぶ)られて、262永(なが)らく御(ご)難儀(なんぎ)を遊(あそ)ばしましたが、263到頭(たうとう)御(ご)神徳(しんとく)を頂(いただ)いて全快(ぜんくわい)遊(あそ)ばし、264機嫌(きげん)よく宣伝(せんでん)の旅(たび)に出(で)られた後(あと)へ貴女(あなた)がお出(い)でになり、265又(また)もや天狗(てんぐ)に目(め)をこつかれて同(おな)じ眼病(がんびやう)に悩(なや)むとは、266何(なん)といふ不思議(ふしぎ)な事(こと)で厶(ござ)いませう。267何(なに)か神(かみ)様(さま)にお気障(きざはり)でもあるのぢや厶(ござ)いますまいかな』
268高姫『ああさうだなア。269玉国別(たまくにわけ)さまと云(い)ひ、270高姫(たかひめ)と云(い)ひ、271頭(あたま)にタの字(じ)のつく者(もの)は能(よ)く目(め)に祟(たた)られるとみえる。272これから神(かみ)様(さま)にお詫(わび)を申(まを)して、273一(いち)日(にち)も早(はや)く此(この)目(め)を直(なほ)して頂(いただ)かぬ事(こと)には、274かう世(よ)の中(なか)が真暗闇(まつくらやみ)では仕方(しかた)がない。275一(いち)時(じ)も早(はや)く天(あま)の岩戸(いはと)開(びら)きをして、276元(もと)の如(ごと)く明(あか)るい光明(くわうみやう)世界(せかい)に捻(ね)ぢ直(なほ)したいものだなア、277ああ惟神(かむながら)霊(たま)幸(ち)はへませ』
278 イクは、
279イク『高姫(たかひめ)さま、280あなた今(いま)、281暗(くら)い世界(せかい)と云(い)ひましたね、282ソラ貴女(あなた)の目(め)が塞(ふさ)がつてるからですよ。283日天(にちてん)様(さま)が嚇々(くわくくわく)として輝(かがや)いてゐらつしやるのですから、284決(けつ)して御(ご)心配(しんぱい)にや及(およ)びませぬ。285のうハルよ、286さうぢやないか』
287高姫『ホホホホ、288お前(まへ)も分(わか)らぬ男(をとこ)だなア。289此(この)世(よ)の中(なか)が暗(くら)がりだと言(い)つたのは人間(にんげん)の心(こころ)が真暗(まつくら)がりだと云(い)つたのだよ。290決(けつ)して肉体(にくたい)で見(み)る世界(せかい)が暗(くら)くなつたと云(い)ふのぢやない』
291イク『それでも、292何(なん)ですよ、293肉体(にくたい)で見(み)る世界(せかい)でも、294時々(ときどき)真暗(まつくら)になりますからなア』
295高姫『きまつた事(こと)だよ。296夜(よる)になれば真暗(まつくら)になるのは当前(あたりまへ)だ、297お前(まへ)も割(わり)とは馬鹿(ばか)だなア』
298イク『何(なん)とマア目(め)も見(み)えぬ態(ざま)をして居(を)つて、299剛情(がうじやう)な婆(ば)アさまだな。300まだ悪口(あくこう)をついてゐる。301コレ高姫(たかひめ)さま、302私(わたし)は夜(よる)もある代(かは)り、303又(また)新(あたら)しい日天(につてん)様(さま)を毎日(まいにち)拝(をが)んで光明(くわうみやう)世界(せかい)もありますよ。304お前(まへ)さまはモウ斯(か)うなつちや、305常夜(とこよ)行(ゆ)く暗(やみ)の世界(せかい)に彷徨(さまよ)うてゐるやうなものだ。306夜(よる)ばかりだなア』
307 サールはしたり顔(がほ)に、
308サール『ソラさうだとも、309ヨルの受付(うけつけ)を邪魔物(じやまもの)扱(あつか)ひにして厶(ござ)つたのぢやもの、310其(その)報(むく)いが忽(たちま)ち到来(たうらい)して、311自分(じぶん)が、312ヨルの世界(せかい)へお這入(はい)りなさつたのだ。313どうも自業(じごう)自得(じとく)だから仕方(しかた)がないワ。314何程(なにほど)お気(き)の毒(どく)でも、315吾々(われわれ)が如何(いかん)ともする訳(わけ)には行(い)かないワ』
316 テルは、
317テル『高姫(たかひめ)さま、318貴女(あなた)は日出(ひのでの)神(かみ)の義理(ぎり)天上(てんじやう)さまが御(ご)守護(しゆご)して厶(ござ)るのだから、319夜(よる)でも決(けつ)して暗(くら)いこたアありますまい。320何(なん)と云(い)つても義理(ぎり)天上(てんじやう)日出(ひのでの)神(かみ)様(さま)の生宮(いきみや)だ、321つまりいへば日出(ひのでの)神(かみ)御(ご)自身(じしん)だから、322見(み)えるでせうなア。323今日(けふ)は殊更(ことさら)に、324トコギリ、325天上(てんじやう)の日出(ひのでの)神(かみ)さまは御(ご)機嫌(きげん)よく嚇々(くわくくわく)の光明(くわうみやう)を輝(かがや)かしてゐられますからなア』
326高姫『ソラさうだとも、327肉(にく)の目(め)が何程(なにほど)塞(ふさ)がつて居(を)つたとて、328日出(ひのでの)神(かみ)の生宮(いきみや)だもの……なん……にもかもよく見(み)えすいてゐるのだ。329本当(ほんたう)に神(かみ)様(さま)の御(ご)神力(しんりき)といふものは偉(えら)いものだらう』
330 テルは、
331テル『高姫(たかひめ)さま、332そんなら吾々(われわれ)は心配(しんぱい)する必要(ひつえう)はありませぬな。333私(わたし)は又(また)お目(め)が見(み)えないと思(おも)つて、334何(なに)くれとお世話(せわ)をして上(あ)げねばなるまいと思(おも)うてゐたが、335お目(め)が見(み)えるとあらば殊更(ことさら)に気(き)をつけて、336お世話(せわ)をして上(あ)げる心要(ひつえう)も厶(ござ)いますまい。337おい、338イク、339イル、340ハル、341サール、342お前(まへ)等(たち)も安心(あんしん)せい。343流石(さすが)は高姫(たかひめ)さまだ、344目(め)をふさいで居(を)つても、345よく見(み)えるといのう、346イツヒヒヒヒヒ』
347と小(ちひ)さく笑(わら)ひ、348腮(あご)をしやくり、349肩(かた)をゆすつて見(み)せる。350四(よ)人(にん)は一度(いちど)にふき出(だ)し、
351(イク、イル、ハル、サール)『プツプツプツク ワツハハハハハ』
352高姫『これ、353お前(まへ)等(たち)は私(わし)がこれ程(ほど)負傷(ふしやう)をして困(こま)つてゐるのに、354それ程(ほど)面白(おもしろ)いのかなア。355不人情(ふにんじやう)者(もの)奴(め)が。356待(ま)つてゐなさい、357今(いま)に初稚姫(はつわかひめ)が帰(かへ)つて来(き)たら、358告(つ)げて上(あ)げるから……』
359テル『オイ、360形勢(けいせい)不穏(ふおん)になつて来(き)たぞ。361地震(ぢしん)雷(かみなり)火(ひ)の雨(あめ)の勃発(ぼつぱつ)せない間(うち)に退却(たいきやく)々々(たいきやく)、362全体(ぜんたい)進(すす)め、363一(いち)二(に)三(さん)』
364と云(い)ひながら、365ドヤドヤと長廊下(ながらうか)を伝(つた)ひ、366受付(うけつけ)の方面(はうめん)を指(さ)して走(はし)り行(ゆ)く。
367 イルは只(ただ)一人(ひとり)次(つぎ)の間(ま)に身(み)をかくし、368高姫(たかひめ)の容子(ようす)を考(かんが)へて居(ゐ)た。369これは決(けつ)して悪意(あくい)ではない。370もしも高姫(たかひめ)が一人(ひとり)で困(こま)つた時(とき)には助(たす)けてやらうといふ親切(しんせつ)な考(かんが)へからであつた。371忽(たちま)ちウーといふ唸(うな)り声(ごゑ)が聞(きこ)えて来(き)た。372イルは何物(なにもの)ならむとソツと襖(ふすま)を開(あ)けて高姫(たかひめ)の居間(ゐま)を覗(のぞ)き込(こ)んだ。373どこから来(き)たか締(し)め切(き)つてある座敷(ざしき)へ、374スマートがヌツと現(あら)はれ、375高姫(たかひめ)の前(まへ)三尺(さんじやく)許(ばか)り隔(へだ)てて、376チヨコナンと坐(すわ)つてゐる。377カラコロと下駄(げた)の足音(あしおと)が近(ちか)づいて来(く)る。378これは云(い)ふ迄(まで)もなく初稚姫(はつわかひめ)が森林内(しんりんない)を暫(しばら)く逍遥(せうえう)して帰(かへ)つて来(き)たのである。379初稚姫(はつわかひめ)は元(もと)より杢助(もくすけ)の妖幻坊(えうげんばう)なることを知(し)つてゐたから、380高姫(たかひめ)の依頼(いらい)によつて、381正直(しやうぢき)に杢助(もくすけ)を探(さが)しに行(ゆ)くやうな馬鹿(ばか)ではない。382されど高姫(たかひめ)の気休(きやす)めの為(ため)に暫(しばら)くの間(あひだ)、383森林内(しんりんない)を逍遥(せうえう)して帰(かへ)つて来(き)たのである。
384(大正一二・一・二一 旧一一・一二・五 松村真澄録)
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