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霊界物語
真善美愛(第49~60巻)
第50巻(丑の巻)
序文
総説
第1篇 和光同塵
第1章 至善至悪
第2章 照魔燈
第3章 高魔腹
第4章 御意犬
第2篇 兇党擡頭
第5章 霊肉問答
第6章 玉茸
第7章 負傷負傷
第8章 常世闇
第9章 真理方便
第3篇 神意と人情
第10章 据置貯金
第11章 鸚鵡返
第12章 敵愾心
第13章 盲嫌
第14章 虬の盃
第4篇 神犬の言霊
第15章 妖幻坊
第16章 鷹鷲掴
第17章 偽筆
第18章 安国使
第19章 逆語
第20章 悪魔払
第21章 犬嘩
余白歌
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霊界物語
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真善美愛(第49~60巻)
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第50巻(丑の巻)
> 第1篇 和光同塵 > 第4章 御意犬
<<< 高魔腹
(B)
(N)
霊肉問答 >>>
第四章
御意犬
(
ごいけん
)
〔一二九八〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第50巻 真善美愛 丑の巻
篇:
第1篇 和光同塵
よみ(新仮名遣い):
わこうどうじん
章:
第4章 御意犬
よみ(新仮名遣い):
ごいけん
通し章番号:
1298
口述日:
1923(大正12)年01月20日(旧12月4日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年12月7日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
後に残った初稚姫は、高姫が金毛九尾の悪孤に魅入られ、また父・杢助に化けた妖魅にだまされて狂惑されていることを憐れんだ。
しかし、高姫に憑依している悪孤は、杢助が兇霊の化け物であることを知らず、杢助に化けている兇霊も悪孤の正体を見ることができないために、互いに結託することができないでいた。
初稚姫は、精霊同士といえども、自然界の物性を通さなければ世界を認識することはできない、という神様のお仕組によって精霊の悪事が防がれていることに感謝した。
そこへ怪我を負ったスマートが戻ってきた。スマートは初稚姫に怪我を負った体を預けていたが、突然起き上がって唸り始めた。初稚姫はスマートにおとなしくするように命じた。そこへ高姫が帰ってきた。
高姫は、杢助が森林で転んで眉間を岩に打ち付け、たいへんな傷を負って谷川で休息していることを話した。高姫は、杢助はじきに戻ってくるだろうと言ったが、杢助が犬を神域に入れないように厳しく言いつけたとスマートを追い出そうとした。
初稚姫は、杢助に化けた妖怪がスマートに眉間を噛まれて怪我を負ったことを推知したが、とぼけて高姫の言にしたがい、スマートを館から連れ出した。
そしてスマートに、いったん隠れていて、日が暮れたら自分の居間の床下にそっと隠れているように、といいつけた。スマートは承諾の意を表し、二人は別れた。
初稚姫は館に帰ってきた。スマートは日が暮れた後にそっと初稚姫の居間の床下に身を忍ばせ、いいつけをよく守って初稚姫の保護の任に当たっていた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-07-10 14:40:08
OBC :
rm5004
愛善世界社版:
45頁
八幡書店版:
第9輯 165頁
修補版:
校定版:
48頁
普及版:
25頁
初版:
ページ備考:
001
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
高姫
(
たかひめ
)
の
往
(
い
)
つた
後
(
あと
)
で、
002
小
(
ちひ
)
さい
声
(
こゑ
)
で、
003
ホホホホホと
吹
(
ふ
)
き
出
(
だ
)
さずには
居
(
ゐ
)
られなかつた。
004
さうして
自分
(
じぶん
)
の
笑
(
わら
)
ひ
声
(
ごゑ
)
に
驚
(
おどろ
)
いて
小声
(
こごゑ
)
で
独言
(
ひとりごと
)
、
005
初稚姫
『
高姫
(
たかひめ
)
さまも
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
なものだなア。
006
さうして
金毛
(
きんまう
)
九尾
(
きうび
)
の
悪狐
(
あくこ
)
奴
(
め
)
、
007
又
(
また
)
もや
祠
(
ほこら
)
の
森
(
もり
)
に
頑張
(
ぐわんば
)
り、
008
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
の
御
(
ご
)
神業
(
しんげふ
)
を
妨害
(
ばうがい
)
し、
009
数多
(
あまた
)
の
精霊
(
せいれい
)
や
人民
(
じんみん
)
を
迷
(
まよ
)
はさうと
思
(
おも
)
つてゐる。
010
其
(
その
)
遣方
(
やりかた
)
の
奸黠
(
かんきつ
)
さ、
011
憎
(
にく
)
らしさよ。
012
高姫
(
たかひめ
)
さまは
熱心
(
ねつしん
)
な
人
(
ひと
)
だけれど、
013
常識
(
じやうしき
)
が
足
(
た
)
らないから、
014
いつも
狂妄
(
きやうまう
)
に
陥
(
おちい
)
り
易
(
やす
)
く、
015
あの
通
(
とほ
)
り
悪魔
(
あくま
)
の
擒
(
とりこ
)
となつて
了
(
しま
)
つたのだなア、
016
どうぞして
助
(
たす
)
けて
上
(
あ
)
げたいけれど、
017
一
(
ひと
)
つ
目
(
め
)
を
醒
(
さ
)
まさなければ、
018
到底
(
たうてい
)
復活
(
ふくくわつ
)
の
見込
(
みこみ
)
はない。
019
肉体
(
にくたい
)
をもつて
居
(
ゐ
)
る
獅子
(
しし
)
、
020
虎
(
とら
)
両性
(
りやうせい
)
の
妖魅
(
えうみ
)
に
誑惑
(
きやうわく
)
され、
021
父
(
ちち
)
の
杢助
(
もくすけ
)
と
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
るのはほんに
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
なものだ。
022
高姫
(
たかひめ
)
さまに
憑依
(
ひようい
)
して
居
(
ゐ
)
る
金毛
(
きんまう
)
九尾
(
きうび
)
の
悪狐
(
あくこ
)
は、
023
高姫
(
たかひめ
)
の
肉体
(
にくたい
)
を
通
(
とほ
)
してでなければ
現界
(
げんかい
)
を
見
(
み
)
る
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ないのだから、
024
あのやうな
怪物
(
くわいぶつ
)
にだまされて
居
(
ゐ
)
るのだ。
025
憑霊
(
ひようれい
)
自身
(
じしん
)
も
高姫
(
たかひめ
)
も、
026
其
(
その
)
怪物
(
くわいぶつ
)
たる
事
(
こと
)
を
知
(
し
)
らない。
027
高姫
(
たかひめ
)
自身
(
じしん
)
は
兇霊
(
きようれい
)
は
認
(
みと
)
めて
居
(
ゐ
)
るが、
028
あの
怪物
(
くわいぶつ
)
の
方
(
はう
)
からは、
029
高姫
(
たかひめ
)
に
憑依
(
ひようい
)
して
居
(
ゐ
)
る
金毛
(
きんまう
)
九尾
(
きうび
)
の
正体
(
しやうたい
)
は
見
(
み
)
る
事
(
こと
)
は
得
(
え
)
ないのだ。
030
つまり
妖怪
(
えうくわい
)
と
妖怪
(
えうくわい
)
とが
高姫
(
たかひめ
)
さまの
肉体
(
にくたい
)
を
隔
(
へだ
)
てて
暗中
(
あんちう
)
模索
(
もさく
)
的
(
てき
)
妄動
(
まうどう
)
をやつて
居
(
ゐ
)
るのだ。
031
併
(
しか
)
しこれが
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
水
(
みづ
)
も
漏
(
も
)
らさぬ
御
(
ご
)
注意
(
ちゆうい
)
の
点
(
てん
)
である。
032
杢助
(
もくすけ
)
さまに
化
(
ば
)
けた
怪物
(
くわいぶつ
)
と
高姫
(
たかひめ
)
身内
(
みうち
)
の
悪狐
(
あくこ
)
とが
互
(
たがひ
)
に
素性
(
すじやう
)
を
知
(
し
)
り
合
(
あ
)
ひ、
033
又
(
また
)
其
(
その
)
姿
(
すがた
)
を
認
(
みと
)
め
得
(
え
)
たならば、
034
内外
(
ないぐわい
)
相応
(
あひおう
)
じて
高姫
(
たかひめ
)
を
愈
(
いよいよ
)
悪化
(
あくくわ
)
せしめ、
035
如何
(
いか
)
なる
害毒
(
がいどく
)
を
天下
(
てんか
)
に
流
(
なが
)
すか
知
(
し
)
れたものぢやない。
036
ああ
有難
(
ありがた
)
い
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
思召
(
おぼしめ
)
し』
037
と
感涙
(
かんるゐ
)
に
咽
(
むせ
)
んで
居
(
ゐ
)
る。
038
スマートは
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
膝
(
ひざ
)
に
頭
(
かしら
)
を
横
(
よこ
)
たへ、
039
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
独言
(
ひとりごと
)
を
了解
(
れうかい
)
するものの
如
(
ごと
)
くであつた。
040
初稚姫
『これスマートや、
041
お
前
(
まへ
)
は
行儀
(
ぎやうぎ
)
の
悪
(
わる
)
い、
042
なぜきちんとお
坐
(
すわ
)
りなさらぬのだい』
043
スマートは
耳
(
みみ
)
をペロペロと
動
(
うご
)
かしながら、
044
まだ
起
(
お
)
きようともしない。
045
初稚姫
『ああさうさう、
046
スマートや
耐
(
こら
)
へてお
呉
(
く
)
れ。
047
お
前
(
まへ
)
さまは
足
(
あし
)
を
怪我
(
けが
)
したのだな、
048
坐
(
すわ
)
りなさいと
云
(
い
)
つたつて
坐
(
すわ
)
れないのは
無理
(
むり
)
はない。
049
これは
私
(
わたし
)
が
悪
(
わる
)
かつた、
050
許
(
ゆる
)
してお
呉
(
く
)
れ』
051
とやさしく
頭
(
かしら
)
を
撫
(
な
)
でてやる。
052
スマートは
嬉
(
うれ
)
しさうに
尾
(
を
)
をふつて
感謝
(
かんしや
)
の
意
(
い
)
を
表
(
へう
)
するものの
如
(
ごと
)
くであつた。
053
スマートは
ムツク
と
起
(
お
)
き、
054
体
(
からだ
)
をプリプリと
振
(
ふ
)
りながら、
055
形相
(
ぎやうさう
)
凄
(
すさま
)
じく
前
(
まへ
)
の
足
(
あし
)
を
立
(
た
)
てて
何物
(
なにもの
)
にか
飛
(
と
)
びつくやうな
勢
(
いきほひ
)
を
示
(
しめ
)
した。
056
さうしてウーウーウと
小声
(
こごゑ
)
で
唸
(
うな
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
057
初稚姫
(
はつわかひめ
)
はスマートを
撫
(
な
)
でながら
声
(
こゑ
)
も
優
(
やさ
)
しく、
058
初稚姫
『これスマートや、
059
何
(
なに
)
が
来
(
き
)
たのか
知
(
し
)
らないが、
060
お
前
(
まへ
)
は
必
(
かなら
)
ず
イキリ
立
(
た
)
つてはいけませぬよ。
061
私
(
わたし
)
が
命令
(
めいれい
)
をするまで、
062
どんなものが
来
(
き
)
ても、
063
決
(
けつ
)
して
唸
(
うな
)
つたり
飛
(
と
)
びついたりする
事
(
こと
)
はなりませぬぞや。
064
私
(
わたし
)
だつて
何
(
なに
)
も
彼
(
か
)
もよく
知
(
し
)
つてゐるのだけれど、
065
これには
少
(
すこ
)
し
訳
(
わけ
)
があるのだから、
066
何卒
(
どうぞ
)
おとなしうして
居
(
ゐ
)
てお
呉
(
く
)
れや』
067
と
諭
(
さと
)
せば、
068
スマートは
首
(
くび
)
を
垂
(
た
)
れ
尾
(
を
)
をふつて
承諾
(
しようだく
)
の
旨
(
むね
)
を
表示
(
へうじ
)
した。
069
初稚姫
『ほんに
畜生
(
ちくしやう
)
ながら
賢
(
かしこ
)
いものだなア。
070
お
前
(
まへ
)
は
私
(
わたし
)
の
家来
(
けらい
)
だよ。
071
私
(
わたし
)
と
何処
(
どこ
)
までも
一緒
(
いつしよ
)
について
来
(
く
)
るのだ。
072
さうして
立派
(
りつぱ
)
な
御
(
ご
)
神業
(
しんげふ
)
を
完成
(
くわんせい
)
した
上
(
うへ
)
は、
073
再
(
ふたた
)
び
人間
(
にんげん
)
と
生
(
うま
)
れ
変
(
かは
)
り、
074
立派
(
りつぱ
)
な
宣伝使
(
せんでんし
)
となつて
世界
(
せかい
)
万民
(
ばんみん
)
を
導
(
みちび
)
き、
075
天国
(
てんごく
)
に
安楽
(
あんらく
)
な
生活
(
せいくわつ
)
を
送
(
おく
)
らして
頂
(
いただ
)
くやうに
忠実
(
ちうじつ
)
に
務
(
つと
)
めるのだよ。
076
ほんにお
前
(
まへ
)
は
何処
(
どこ
)
ともなしに
変
(
かは
)
つた
犬
(
いぬ
)
だ。
077
勇猛
(
ゆうまう
)
にして
且
(
かつ
)
柔順
(
じうじゆん
)
な
理想
(
りさう
)
的
(
てき
)
なお
前
(
まへ
)
は
犬
(
いぬ
)
だ』
078
と
頻
(
しきり
)
に
頭
(
あたま
)
や
首
(
くび
)
を
撫
(
な
)
で
可愛
(
かあい
)
がつて
居
(
ゐ
)
る。
079
スマートは
漸
(
やうや
)
くにして
足
(
あし
)
をかがめ、
080
畳
(
たたみ
)
に
顋
(
あご
)
をすりつけ、
081
目
(
め
)
を
塞
(
ふさ
)
いで
柔順
(
じうじゆん
)
な
態度
(
たいど
)
を
示
(
しめ
)
して
居
(
ゐ
)
る。
082
初稚姫
『あの
杢助
(
もくすけ
)
と
化相
(
けさう
)
した
怪物
(
くわいぶつ
)
を、
083
スマートがよく
看破
(
かんぱ
)
し、
084
最前
(
さいぜん
)
も
追
(
お
)
つ
駆
(
か
)
けていつて
格闘
(
かくとう
)
の
末
(
すゑ
)
、
085
こんな
傷
(
きず
)
を
負
(
お
)
つて
来
(
き
)
たのだな、
086
ほんに
勇敢
(
ゆうかん
)
なスマートだ』
087
と
激賞
(
げきしやう
)
して
居
(
ゐ
)
る
折
(
をり
)
もあれ、
088
例
(
れい
)
の
高姫
(
たかひめ
)
は
静々
(
しづしづ
)
と
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
た。
089
初稚姫
『アアお
母
(
かあ
)
さま、
090
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
様
(
さま
)
で
厶
(
ござ
)
いました。
091
父
(
ちち
)
は
居
(
を
)
られましたかな』
092
高姫
『ハア、
093
やつとの
事
(
こと
)
でお
目
(
め
)
にかかつて
来
(
き
)
ましたよ。
094
杢助
(
もくすけ
)
さまは
森林
(
しんりん
)
を
逍遥
(
せうえう
)
なさる
際
(
さい
)
、
095
藤葛
(
ふじかづら
)
に
足
(
あし
)
を
引掛
(
ひつか
)
け、
096
岩石
(
がんせき
)
に
眉間
(
みけん
)
を
打
(
う
)
ちつけ、
097
大変
(
たいへん
)
な
傷
(
きず
)
をなさつて、
098
谷川
(
たにがは
)
で
傷
(
きず
)
を
洗
(
あら
)
つて
居
(
を
)
られました』
099
之
(
これ
)
を
聞
(
き
)
くよりスマートは
又
(
また
)
もや
ムツク
と
頭
(
かしら
)
を
上
(
あ
)
げ、
100
ウーウと
唸
(
うな
)
りかけた。
101
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
慌
(
あわ
)
てて
頭
(
かしら
)
を
撫
(
な
)
でながら、
102
初稚姫
『これスマート、
103
おとなしくするのだよ。
104
主人
(
しゆじん
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
きなさいや』
105
と
静
(
しづか
)
になだめながら、
106
初稚姫
『はてな、
107
怪物
(
くわいぶつ
)
はこのスマートに
眉間
(
みけん
)
を
噛
(
か
)
まれたのだな』
108
と
鋭敏
(
えいびん
)
の
頭脳
(
づなう
)
に
直覚
(
ちよくかく
)
した。
109
されど
素知
(
そし
)
らぬ
体
(
てい
)
を
装
(
よそほ
)
ひ、
110
言葉
(
ことば
)
柔
(
やさ
)
しく
満面
(
まんめん
)
に
笑
(
ゑみ
)
を
湛
(
たた
)
へながら、
111
初稚姫
『あのお
母
(
かあ
)
さま、
112
お
父
(
とう
)
さまは
本当
(
ほんたう
)
にお
危
(
あぶ
)
ない
事
(
こと
)
をなさいましたなア。
113
大
(
たい
)
した
事
(
こと
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬか。
114
私
(
わたくし
)
、
115
心配
(
しんぱい
)
でなりませぬわ。
116
そして
直
(
ぢき
)
に
帰
(
かへ
)
つて
下
(
くだ
)
さるのですか』
117
高姫
『
別
(
べつ
)
に
大
(
たい
)
したお
怪我
(
けが
)
でもありませぬが、
118
中々
(
なかなか
)
我
(
が
)
の
強
(
つよ
)
いお
方
(
かた
)
で、
119
お
前
(
まへ
)
さまがお
出
(
い
)
でだと
云
(
い
)
つても、
120
容易
(
ようい
)
にお
動
(
うご
)
き
遊
(
あそ
)
ばさぬのですよ』
121
初稚姫
『
父
(
ちち
)
は
私
(
わたくし
)
の
事
(
こと
)
を
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
ましたか、
122
定
(
さだ
)
めて
怒
(
おこ
)
つたでせうなア』
123
高姫
『
何
(
なに
)
、
124
初
(
はつ
)
さま、
125
自分
(
じぶん
)
の
娘
(
むすめ
)
が
来
(
き
)
て
居
(
ゐ
)
るのに
怒
(
おこ
)
る
人
(
ひと
)
がありますか。
126
そんな
事
(
こと
)
怒
(
おこ
)
るやうな
方
(
かた
)
だつたら
人間
(
にんげん
)
ぢやありませぬわ』
127
初稚姫
『それでも
私
(
わたくし
)
の
父
(
ちち
)
はハルナの
都
(
みやこ
)
の
御用
(
ごよう
)
が
済
(
す
)
むまで、
128
どんな
事
(
こと
)
があつても
面会
(
めんくわい
)
は
致
(
いた
)
さぬと、
129
それはそれは
厳
(
きび
)
しう
申
(
まを
)
して
居
(
ゐ
)
ましたよ』
130
高姫
『そこが
杢助
(
もくすけ
)
の
杢助
(
もくすけ
)
さまたる
所
(
ところ
)
だ。
131
ほんとにお
偉
(
えら
)
い
方
(
かた
)
ですよ。
132
母
(
はは
)
の
愛
(
あい
)
は
舐犢
(
しとく
)
の
愛
(
あい
)
、
133
父
(
ちち
)
の
愛
(
あい
)
は
秋霜
(
しうさう
)
の
愛
(
あい
)
と
云
(
い
)
つて、
134
云
(
い
)
ふに
云
(
い
)
はれぬ
所
(
ところ
)
があるのです。
135
何程
(
なにほど
)
厳
(
きび
)
しく
仰有
(
おつしや
)
つても、
136
本当
(
ほんたう
)
の
心
(
こころ
)
の
中
(
うち
)
は
母親
(
ははおや
)
の
愛
(
あい
)
に
優
(
まさ
)
る
千万
(
せんまん
)
無量
(
むりやう
)
の
涙
(
なみだ
)
を
湛
(
たた
)
へて
厶
(
ござ
)
るのだからな、
137
併
(
しか
)
しこの
高姫
(
たかひめ
)
は
切
(
き
)
つても
切
(
き
)
れぬ
身霊
(
みたま
)
の
親子
(
おやこ
)
でもあり、
138
肉体
(
にくたい
)
上
(
じやう
)
の
義理
(
ぎり
)
の
親子
(
おやこ
)
でもありますから、
139
其
(
その
)
愛
(
あい
)
の
分量
(
ぶんりやう
)
は、
140
到底
(
たうてい
)
生
(
う
)
みの
母
(
はは
)
の
及
(
およ
)
ぶ
所
(
ところ
)
ではありませぬ。
141
どうぞ
打
(
う
)
ちとけて
此
(
この
)
母
(
はは
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
守
(
まも
)
つて
下
(
くだ
)
されや』
142
初稚姫
『ハイ
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました。
143
何分
(
なにぶん
)
にも
宜敷
(
よろし
)
くお
願
(
ねが
)
ひ
申
(
まを
)
します』
144
高姫
『
早速
(
さつそく
)
ながら
初稚
(
はつわか
)
さま、
145
私
(
わたし
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
いて
貰
(
もら
)
へますまいかなア』
146
初稚姫
『これは
又
(
また
)
改
(
あらた
)
まつてのお
言葉
(
ことば
)
、
147
私
(
わたし
)
のやうなものにお
頼
(
たの
)
みとは、
148
どんな
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
いますか』
149
高姫
『
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は、
150
お
前
(
まへ
)
の
折角
(
せつかく
)
可愛
(
かあい
)
がつて
厶
(
ござ
)
るこの
犬
(
いぬ
)
を、
151
いなして
貰
(
もら
)
ひたいのだ。
152
杢助
(
もくすけ
)
さまは
犬
(
いぬ
)
が
大変
(
たいへん
)
お
嫌
(
きら
)
ひだから、
153
「この
神聖
(
しんせい
)
の
館
(
やかた
)
にそんな
四
(
よ
)
つ
足
(
あし
)
を
入
(
い
)
れることはならぬ。
154
聖場
(
せいぢやう
)
が
汚
(
けが
)
れるから、
155
いなして
呉
(
く
)
れ、
156
さうでなければ
私
(
わし
)
は
此処
(
ここ
)
には
居
(
ゐ
)
ない」と、
157
それはそれは
堅
(
かた
)
う
堅
(
かた
)
う
仰有
(
おつしや
)
るのだよ』
158
初稚姫
(
はつわかひめ
)
はそれと
感
(
かん
)
づきながら、
159
態
(
わざ
)
と
空惚
(
そらとぼ
)
けて、
160
初稚姫
『
何
(
なん
)
と
不思議
(
ふしぎ
)
な
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
いますなア、
161
私
(
わたくし
)
の
父
(
ちち
)
は
特別
(
とくべつ
)
犬
(
いぬ
)
が
好
(
す
)
きなので
厶
(
ござ
)
いますが、
162
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
でも、
163
往
(
ゆ
)
き
復
(
かへ
)
り、
164
犬
(
いぬ
)
を
離
(
はな
)
した
事
(
こと
)
はないので
厶
(
ござ
)
いますよ。
165
それに
心機
(
しんき
)
一転
(
いつてん
)
遊
(
あそ
)
ばすとは
不思議
(
ふしぎ
)
ぢや
厶
(
ござ
)
いませぬか。
166
それ
程
(
ほど
)
この
犬
(
いぬ
)
が
怖
(
こは
)
い、
167
イヤ
嫌
(
きら
)
ひなので
厶
(
ござ
)
いませうかなア』
168
高姫
『
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
此処
(
ここ
)
は
神聖
(
しんせい
)
なお
仕組
(
しぐみ
)
の
場所
(
ばしよ
)
、
169
汚
(
よご
)
れた
四足
(
よつあし
)
を
置
(
お
)
いておくと
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
のお
気障
(
きざは
)
りになるから、
170
杢助
(
もくすけ
)
が
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
対
(
たい
)
し
謹慎
(
きんしん
)
の
意
(
い
)
を
表
(
へう
)
し、
171
犬
(
いぬ
)
をいなせと
仰有
(
おつしや
)
つたのですよ』
172
初稚姫
『それでも
産土山
(
うぶすなやま
)
の
聖場
(
せいぢやう
)
には
沢山
(
たくさん
)
に
犬
(
いぬ
)
が
飼
(
か
)
つて
厶
(
ござ
)
います。
173
御
(
ご
)
本山
(
ほんざん
)
でさへもあれだけ
沢山
(
たくさん
)
の
犬
(
いぬ
)
が
居
(
ゐ
)
るのに、
174
何故
(
なぜ
)
此処
(
ここ
)
には
一匹
(
いつぴき
)
も
置
(
お
)
く
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ないのでせう。
175
私
(
わたし
)
この
犬
(
いぬ
)
が
唯一
(
ゆゐいつ
)
のお
友達
(
ともだち
)
でもあり
力
(
ちから
)
でもあるのですからなア』
176
高姫
『
初稚
(
はつわか
)
さま、
177
お
前
(
まへ
)
さまはこの
犬
(
いぬ
)
を
離
(
はな
)
すのが
嫌
(
いや
)
と
仰有
(
おつしや
)
るのですか。
178
産土山
(
うぶすなやま
)
に
沢山
(
たくさん
)
の
犬
(
いぬ
)
が
居
(
ゐ
)
るのは、
179
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
様
(
さま
)
や
八島主
(
やしまぬし
)
さまや
東助
(
とうすけ
)
や
役員
(
やくゐん
)
の
方
(
かた
)
の
御霊
(
みたま
)
が
曇
(
くも
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだから、
180
結構
(
けつこう
)
な
聖地
(
せいち
)
に
四
(
よ
)
つ
足
(
あし
)
がうろついて
居
(
ゐ
)
るのだ。
181
又
(
また
)
狐
(
きつね
)
の
霊
(
みたま
)
や
豆狸
(
まめだぬき
)
が
入
(
い
)
り
込
(
こ
)
まないやうに
犬
(
いぬ
)
が
置
(
お
)
いてあるのだ。
182
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
さへあれば
犬
(
いぬ
)
の
力
(
ちから
)
を
借
(
か
)
らなくても、
183
狐
(
きつね
)
や
狸
(
たぬき
)
や
大蛇
(
をろち
)
や
蟇
(
がま
)
の
霊
(
みたま
)
が
出
(
で
)
て
来
(
く
)
るものぢやありませぬ。
184
産土山
(
うぶすなやま
)
に
犬
(
いぬ
)
が
置
(
お
)
いてあるのを
見
(
み
)
ても、
185
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
がないのが
分
(
わか
)
るぢやありませぬか』
186
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は、
187
高姫
(
たかひめ
)
の
暴言
(
ばうげん
)
に
呆
(
あき
)
れながら、
188
さあらぬ
態
(
てい
)
にて
柔
(
やさ
)
しく
空惚
(
そらとぼ
)
けて、
189
初稚姫
『
左様
(
さやう
)
で
厶
(
ござ
)
いますかなア、
190
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
と
云
(
い
)
ふものは
尊
(
たふと
)
いもので
厶
(
ござ
)
いますなア』
191
と
相槌
(
あひづち
)
を
打
(
う
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
192
高姫
『
遉
(
さすが
)
は
杢助
(
もくすけ
)
さまの
娘
(
むすめ
)
だけあつて、
193
何
(
なに
)
につけても
悟
(
さと
)
りがよいわい。
194
ほんに
水晶
(
すいしやう
)
の
御霊
(
みたま
)
だ。
195
さう
早
(
はや
)
く
もの
が
分
(
わか
)
つた
以上
(
いじやう
)
は、
196
此
(
この
)
犬
(
いぬ
)
を
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
へおつ
帰
(
かへ
)
して
下
(
くだ
)
さるだらうねえ』
197
スマートは
二人
(
ふたり
)
の
問答
(
もんだふ
)
を
聞
(
き
)
いて
不安
(
ふあん
)
に
堪
(
た
)
へ
兼
(
か
)
ねたやうな
形相
(
ぎやうさう
)
をしながら、
198
又
(
また
)
ウーウウーウと
小
(
ちひ
)
さく
唸
(
うな
)
り
出
(
だ
)
した。
199
初稚姫
(
はつわかひめ
)
はスマートの
頭
(
かしら
)
を
撫
(
な
)
でながら、
200
耳許
(
みみもと
)
に
口
(
くち
)
を
寄
(
よ
)
せ
何事
(
なにごと
)
か
小声
(
こごゑ
)
に
囁
(
ささや
)
いた。
201
スマートは
柔順
(
じうじゆん
)
に
頭
(
かしら
)
を
下
(
さ
)
げ
目
(
め
)
を
塞
(
ふさ
)
いで
仕舞
(
しま
)
つた。
202
高姫
『サア、
203
お
父
(
とう
)
さまの
云
(
い
)
ひつけだから、
204
どうぞ
早
(
はや
)
くいなして
下
(
くだ
)
さい。
205
それが
親
(
おや
)
に
対
(
たい
)
する
一番
(
いちばん
)
の
孝行
(
かうかう
)
だ。
206
そして
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
対
(
たい
)
する
麻柱
(
あななひ
)
の
大道
(
おほみち
)
だから、
207
きつと
柔順
(
じうじゆん
)
にかへして
下
(
くだ
)
さるだらうねえ』
208
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
打
(
う
)
ち
首肯
(
うなづ
)
き、
209
初稚姫
『お
母
(
かあ
)
さまやお
父
(
とう
)
さまのお
言葉
(
ことば
)
、
210
背
(
そむ
)
いてなりませうか。
211
大事
(
だいじ
)
の
大事
(
だいじ
)
のスマートで
厶
(
ござ
)
いますけれど、
212
御
(
ご
)
両親
(
りやうしん
)
の
仰
(
おほせ
)
とあれば、
213
背
(
そむ
)
く
訳
(
わけ
)
には
往
(
ゆ
)
きませぬ。
214
アア
残念
(
ざんねん
)
ながらスマートに
別
(
わか
)
れませう』
215
高姫
『
何
(
なん
)
とまア
柔順
(
じうじゆん
)
なよい
娘
(
こ
)
だこと。
216
ほんたうに
杢助
(
もくすけ
)
さまは、
217
どうしてこんな
立派
(
りつぱ
)
な
娘
(
こ
)
をお
持
(
も
)
ちなさつたのだらう。
218
八島主
(
やしまぬし
)
さまが
宣伝使
(
せんでんし
)
になさつたのも
無理
(
むり
)
はないわい』
219
と
初稚姫
(
はつわかひめ
)
を
無性
(
むしやう
)
矢鱈
(
やたら
)
に
褒
(
ほ
)
めちぎつて
居
(
ゐ
)
る。
220
初稚姫
『お
母
(
かあ
)
さま、
221
犬
(
いぬ
)
位
(
くらゐ
)
いなしたつて、
222
さう
褒
(
ほ
)
めて
貰
(
もら
)
ふやうな
事
(
こと
)
が
厶
(
ござ
)
いませうか。
223
どうぞお
気遣
(
きづか
)
ひ
下
(
くだ
)
さいますな。
224
併
(
しか
)
し
畜生
(
ちくしやう
)
とはいへ
折角
(
せつかく
)
此処
(
ここ
)
まで
連
(
つ
)
れて
来
(
き
)
たのですから、
225
門口
(
かどぐち
)
か
又
(
また
)
は
一二町
(
いちにちやう
)
許
(
ばか
)
り
送
(
おく
)
つてやりまして、
226
そこで
篤
(
とつく
)
り
云
(
い
)
ひ
聞
(
き
)
かせ、
227
再
(
ふたた
)
びここへ
帰
(
かへ
)
つて
来
(
こ
)
ないやうに
申
(
まを
)
し
聞
(
き
)
かせます』
228
高姫
『オホホホ、
229
何
(
なん
)
とまア
御
(
ご
)
叮嚀
(
ていねい
)
な
御
(
お
)
子
(
こ
)
だこと、
230
門口
(
かどぐち
)
から
追
(
お
)
ひ
出
(
だ
)
せばよいものを、
231
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
か
何
(
なん
)
ぞのやうに、
232
お
前
(
まへ
)
さまが
送
(
おく
)
つてやるとは、
233
些
(
ちつ
)
と
分
(
ぶん
)
に
過
(
す
)
ぎはしませぬか、
234
オイ
畜生
(
ちくしやう
)
、
235
お
前
(
まへ
)
は
冥加
(
みやうが
)
に
尽
(
つ
)
きるぞや、
236
私
(
わたし
)
の
娘
(
むすめ
)
に
送
(
おく
)
つて
貰
(
もら
)
ふなぞとは
果報者
(
くわはうもの
)
だ。
237
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
も
何
(
なん
)
だか
此
(
この
)
犬
(
いぬ
)
が
怖
(
おそ
)
ろしい、
238
イヤイヤ
怖
(
こは
)
い
嫌
(
きら
)
ひなやうな
気
(
き
)
がして
居
(
ゐ
)
たのよ、
239
アアこれでやつと
安心
(
あんしん
)
した。
240
金毛
(
きんまう
)
九尾
(
きうび
)
も……』
241
と
口
(
くち
)
から
云
(
い
)
ひかけてグツと
口
(
くち
)
をつまへ、
242
自分
(
じぶん
)
の
腹
(
はら
)
をギユーギユーと
揉
(
も
)
みながら、
243
高姫
『こりや、
244
気
(
き
)
をつけぬか』
245
と
吾
(
われ
)
と
吾
(
わが
)
身
(
み
)
をきめつけて
居
(
ゐ
)
る。
246
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
又
(
また
)
空惚
(
そらとぼ
)
けて、
247
初稚姫
『お
母
(
かあ
)
さま、
248
「
気
(
き
)
をつけぬか」と
仰有
(
おつしや
)
いましたが、
249
何
(
なに
)
か
不都合
(
ふつがふ
)
が
厶
(
ござ
)
いますか。
250
何卒
(
どうぞ
)
至
(
いた
)
らぬもので
厶
(
ござ
)
いますから、
251
御
(
ご
)
注意
(
ちゆうい
)
を
下
(
くだ
)
さいませ』
252
高姫
『エエ、
253
イヤ
何
(
なん
)
でもありませぬ、
254
つひ
一寸
(
ちよつと
)
何
(
なん
)
です……
此
(
この
)
聖地
(
せいち
)
は
何彼
(
なにか
)
につけて
神聖
(
しんせい
)
な
所
(
ところ
)
だから、
255
万事
(
ばんじ
)
気
(
き
)
をつけねばならぬと
云
(
い
)
つたのですよ』
256
初稚姫
『ハイ
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
257
一寸
(
ちよつと
)
其処
(
そこ
)
まで
犬
(
いぬ
)
を
送
(
おく
)
つて
参
(
まゐ
)
ります。
258
お
母
(
かあ
)
さま、
259
此処
(
ここ
)
に
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
て
下
(
くだ
)
さい。
260
やがてお
父
(
とう
)
さまも
帰
(
かへ
)
つて
下
(
くだ
)
さるでせう』
261
と
言葉
(
ことば
)
を
残
(
のこ
)
し、
262
スマートを
伴
(
ともな
)
ひ
一二町
(
いちにちやう
)
ばかり
坂
(
さか
)
の
彼方
(
かなた
)
に
進
(
すす
)
み、
263
山
(
やま
)
の
裾
(
すそ
)
に
隠
(
かく
)
れて
館
(
やかた
)
の
見
(
み
)
えない
地点
(
ちてん
)
までスマートを
伴
(
ともな
)
ひ
往
(
ゆ
)
き、
264
頭
(
かしら
)
や
首背
(
くびせな
)
を
撫
(
な
)
でながら、
265
初稚姫
『これスマートや、
266
お
前
(
まへ
)
は
偉
(
えら
)
いものだなア、
267
杢助
(
もくすけ
)
に
化
(
ば
)
けて
居
(
ゐ
)
る
怪物
(
くわいぶつ
)
や、
268
高姫
(
たかひめ
)
の
身内
(
みうち
)
に
潜
(
ひそ
)
んで
居
(
ゐ
)
る
悪
(
わる
)
い
狐
(
きつね
)
がお
前
(
まへ
)
を
大変
(
たいへん
)
怖
(
こは
)
がつて
居
(
ゐ
)
る。
269
それだからあのやうに
二人
(
ふたり
)
が
私
(
わたし
)
に「お
前
(
まへ
)
をいなして
呉
(
く
)
れ」と
迫
(
せま
)
るのだよ。
270
併
(
しか
)
し
私
(
わたし
)
はお
前
(
まへ
)
と
主従
(
しゆじゆう
)
の
約束
(
やくそく
)
を
結
(
むす
)
んだ
以上
(
いじやう
)
は、
271
仮令
(
たとへ
)
半時
(
はんとき
)
の
間
(
ま
)
だつて
離
(
はな
)
れるのは
嫌
(
いや
)
だよ。
272
お
前
(
まへ
)
だつてさうだらう。
273
併
(
しか
)
し
今
(
いま
)
の
場合
(
ばあひ
)
どうする
訳
(
わけ
)
にも
往
(
ゆ
)
かないから、
274
一旦
(
いつたん
)
お
前
(
まへ
)
は
帰
(
い
)
んだ
事
(
こと
)
にして、
275
日
(
ひ
)
が
暮
(
く
)
れたらそつと
私
(
わたし
)
の
居間
(
ゐま
)
の
床下
(
ゆかした
)
に
隠
(
かく
)
れて
居
(
ゐ
)
て
下
(
くだ
)
さい。
276
御飯
(
ごはん
)
をソツとお
前
(
まへ
)
の
腹
(
はら
)
の
減
(
へ
)
らないやうに
上
(
あ
)
げるから』
277
と
懇々
(
こんこん
)
と
諭
(
さと
)
せば、
278
スマートは
尾
(
を
)
をふり
首
(
くび
)
を
数回
(
すうくわい
)
も
縦
(
たて
)
にゆりながら「
万事
(
ばんじ
)
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました」と
云
(
い
)
ふ
心意気
(
こころいき
)
を
表情
(
へうじやう
)
に
示
(
しめ
)
して
居
(
ゐ
)
る。
279
初稚姫
『
分
(
わか
)
つたかな、
280
アアそれで
私
(
わたし
)
も
安心
(
あんしん
)
した。
281
きつと
私
(
わたし
)
が
此処
(
ここ
)
に
居
(
ゐ
)
る
間
(
あひだ
)
は
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
せないやうにして
下
(
くだ
)
さい。
282
併
(
しか
)
し
又
(
また
)
、
283
夜分
(
やぶん
)
には
恋
(
こひ
)
しいお
前
(
まへ
)
さまと
抱合
(
だきあ
)
つて
遊
(
あそ
)
びませう。
284
お
前
(
まへ
)
さまは
雌犬
(
めんいぬ
)
だから、
285
私
(
わたし
)
と
抱擁
(
はうよう
)
したつてキツスをしたつて、
286
構
(
かま
)
ひはしないわネー、
287
ホホホ』
288
と
笑
(
わら
)
ひながら
別
(
わか
)
れて
館
(
やかた
)
に
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
た。
289
スマートは
日
(
ひ
)
の
暮
(
く
)
るるを
待
(
ま
)
ち
兼
(
か
)
ね、
290
ソツと
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
居間
(
ゐま
)
の
床下
(
ゆかした
)
に
身
(
み
)
を
忍
(
しの
)
ばせ、
291
主人
(
しゆじん
)
の
言
(
い
)
ひつけをよく
守
(
まも
)
り、
292
且
(
かつ
)
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
保護
(
ほご
)
の
任
(
にん
)
に
当
(
あた
)
る
事
(
こと
)
となつた。
293
(
大正一二・一・二〇
旧一一・一二・四
加藤明子
録)
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