霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第五章 霊肉(れいにく)問答(もんだふ)〔一二九九〕

インフォメーション
著者: 巻: 篇: よみ(新仮名遣い):
章: よみ(新仮名遣い): 通し章番号:
口述日: 口述場所: 筆録者: 校正日: 校正場所: 初版発行日:
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: 文字数: OBC :rm5005
愛善世界社版: 八幡書店版: 修補版: 校定版: 普及版: 初版: ページ備考:
001 高姫(たかひめ)は初稚姫(はつわかひめ)のスマートを送(おく)つて出(で)た後(あと)に只(ただ)一人(ひとり)、002腹中(ふくちう)の兇霊(きようれい)に打向(うちむか)ひ、003握(にぎ)り拳(こぶし)を固(かた)めながら、004懐(ふところ)をパツと開(ひら)き、005布袋(ほて)つ腹(ぱら)を現(あら)はし、006両方(りやうはう)の手(て)で臍(へそ)のあたりを掴(つか)んだり擲(なぐ)つたりしながら、007稍(やや)声低(こゑびく)になつて、
008高姫『コリヤ、009其(その)方(はう)はあれ丈(だけ)注意(ちゆうい)を与(あた)へておくのに、010なぜ初稚姫(はつわかひめ)の前(まへ)で、011あんな不用意(ふようい)な事(こと)をいふのだ。012サア、013高姫(たかひめ)が承知(しようち)致(いた)さぬ。014一(いち)時(じ)も早(はや)く、015トツトと出(で)てくれ。016エー何(なん)と云(い)つてもモウ許(ゆる)さぬのだ。017汚(けが)らはしい、018コリヤ、019痰唾(たんつば)をはつかけてやらうか』
020と云(い)ひながら、021自分(じぶん)の臍(へそ)のあたりに向(むか)つて、022青洟(あをばな)をツンとかんでこれをかけ、023又々(またまた)唾(つば)をピユーピユーと頻(しき)りに吐(は)きかけてゐる。
024(腹の中から)『アハハハハ、025どれだけお前(まへ)が痰唾(たんつば)を吐(は)きかけようが、026腹(はら)を捻(ね)ぢようが、027チツともおれは痛(いた)くはない。028つまりお前(まへ)の腹(はら)をお前(まへ)が痛(いた)め、029お前(まへ)の唾(つば)をお前(まへ)の腹(はら)にかけるだけのものだ。030そんな他愛(たあい)もない馬鹿(ばか)を尽(つく)すよりも、031日出(ひのでの)神(かみ)義理(ぎり)天上(てんじやう)の申(まを)すことを神妙(しんめう)に服従(ふくじゆう)するがお前(まへ)の身(み)の為(ため)だぞ。032グヅグヅ申(まを)すと腹(はら)の中(なか)で暴(あば)れさがし、033盲腸(まうちやう)を破(やぶ)つてやらうか、034コラどうぢや』
035高姫『アイタタタタ、036コリヤコリヤそんな無茶(むちや)な事(こと)を致(いた)すものでないぞ。037結構(けつこう)な結構(けつこう)な常世姫(とこよひめ)の御(お)肉体(にくたい)だ。038左様(さやう)な不都合(ふつがふ)を致(いた)すと、039大神(おほかみ)様(さま)に御(お)届(とど)け致(いた)すが、040それでも苦(くる)しうないか』
041(腹の中から)『や、042そいつア一寸(ちよつと)困(こま)る、043何(なに)を云(い)うても我(が)の強(つよ)い肉体(にくたい)だから、044思(おも)ふやうに使(つか)へないので神(かみ)も聊(いささ)か迷惑(めいわく)を致(いた)して居(を)るぞよ。045チツと柔順(おとなし)くなつて御用(ごよう)を聞(き)いて下(くだ)されよ』
046高姫『何(なに)を吐(ぬか)しやがるのだ。047又(また)しても又(また)してもしようもない事(こと)を吐(ぬか)して、048人(ひと)に悟(さと)られたら何(なん)とするのだ。049本当(ほんたう)に馬鹿(ばか)だな。050これから此(この)方(はう)が厳(きび)しく審神(さには)を致(いた)すから、051一言(ひとこと)でも変(へん)なことを申(まを)したら、052此(この)生宮(いきみや)が承知(しようち)致(いた)さぬぞや』
053(腹の中から)『イヤ、054肉体(にくたい)の言(い)ふのも尤(もつと)もだ、055キツト心得(こころえ)るから、056どうぞ仲(なか)ようしてくれ。057何(なん)と云(い)つても密着(みつちやく)不離(ふり)の関係(くわんけい)になつてゐるのだから、058お前(まへ)の肉体(にくたい)のある間(うち)は、059離(はな)れようといつたつて離(はな)れる訳(わけ)にも行(ゆ)かず、060お前(まへ)も亦(また)俺(おれ)を追(お)ひ出(だ)さうとすれば、061命(いのち)をすてる覚悟(かくご)でなくちや駄目(だめ)だぞ。062すぐに盲腸(まうちやう)でも十二(じふに)指腸(しちやう)でも、063空腸(くうちやう)、064回腸(くわいちやう)、065直腸(ちよくちやう)、066結腸(けつちやう)の嫌(きら)ひなく、067捻(ね)ぢて捻(ね)ぢて捩(ね)ぢ廻(まは)し、068肉体(にくたい)の命(いのち)を取(と)るのだから、069つまりお前(まへ)は俺(おれ)を大事(だいじ)にし、070俺(おれ)はお前(まへ)の肉体(にくたい)を唯一(ゆゐいつ)の機関(きくわん)とせなくちや、071悪(あく)の目的(もくてき)が成就(じやうじゆ)せぬのだからなア』
072高姫『コリヤ、073又(また)左様(さやう)なことを申(まを)す。074この高姫(たかひめ)は稚桜姫(わかざくらひめの)命(みこと)の身魂(みたま)の系統(ひつぽう)、075常世姫(とこよひめの)命(みこと)の再来(さいらい)だ。076悪(あく)といふ事(こと)は微塵(みぢん)でもしたくない、077大嫌(だいきら)ひなのだ。078其(その)方(はう)は悪(あく)を改(あらた)めて善(ぜん)に立復(たちかへ)つたと申(まを)したでないか。079どうしても此(この)方(はう)の肉体(にくたい)を使(つか)うて悪(あく)を致(いた)し、080変性(へんじやう)男子(なんし)様(さま)の御(ご)神業(しんげふ)を妨(さまた)げ致(いた)すのなれば、081此(この)高姫(たかひめ)は仮令(たとへ)其(その)方(はう)に腸(はらわた)をむしられて国替(くにがへ)をしても、082チツとも構(かま)はぬのだ。083サアどうだ、084返答(へんたふ)致(いた)せ』
085と審神者(さには)気分(きぶん)になつて呶鳴(どな)つてゐる。
086(腹の中から)『ヤア高姫(たかひめ)様(さま)、087真(まこと)に申(まを)し違(ちが)ひを致(いた)しました。088つひ悪(あく)を憎(にく)むの余(あま)り善(ぜん)と悪(あく)とを取違(とりちが)へまして、089あんな不都合(ふつがふ)なことを申(まを)しました。090今後(こんご)はキツと心得(こころえ)ますから、091どうぞ霊肉(れいにく)和合(わがふ)して下(くだ)さいませ』
092高姫『ウンよしツ、093それに間違(まちが)ひなくば許(ゆる)してやらう。094此(この)上(うへ)一言(ひとこと)でも金毛(きんまう)九尾(きうび)だの大蛇(をろち)だのと申(まを)したら了簡(れうけん)致(いた)さぬぞや』
095(腹の中から)『それなら、096何(なん)といひませうかな、097義理(ぎり)天上(てんじやう)日出(ひのでの)神(かみ)と名乗(なの)りませうか』
098高姫『畏(おそれおほ)い事(こと)を申(まを)すな。099義理(ぎり)天上(てんじやう)様(さま)は変性(へんじやう)男子(なんし)様(さま)の系統(ひつぽう)の御(お)身魂(みたま)ぢや。100其(その)方(はう)はヤツパリ、101ユラリ彦(ひこの)命(みこと)と申(まを)したがよからうぞ』
102(腹の中から)『コレ高姫(たかひめ)さま、103さうイロイロと沢山(たくさん)の名(な)を言(い)つちや、104娑婆(しやば)の亡者(まうじや)が本当(ほんたう)に致(いた)しませぬぞや』
105高姫『コリヤ、106何(なん)と云(い)ふことを申(まを)す。107人間(にんげん)は結構(けつこう)な神(かみ)の生宮(いきみや)だ。108天(あめ)が下(した)に神(かみ)様(さま)のお守(まも)りを受(う)けないものは一人(ひとり)もないぞや。109言(い)はば結構(けつこう)な天(てん)の神(かみ)様(さま)の直々(ぢきぢき)の、110人間(にんげん)は御子(みこ)だ。111何(なに)を以(もつ)て娑婆(しやば)亡者(まうじや)などと申(まを)すのか、112なぜ善言(ぜんげん)美詞(びし)の言霊(ことたま)を使(つか)はぬ。113ヤツパリ其(その)方(はう)はまだ本当(ほんたう)の改心(かいしん)が出来(でき)て居(を)らぬと見(み)えるなア。114改心(かいしん)致(いた)さな致(いた)すやうにして改心(かいしん)を致(いた)さして見(み)せうぞや』
115(腹の中から)『高姫(たかひめ)さま、116一旦(いつたん)入(にふ)の入(い)つた瀬戸物(せともの)は何程(なにほど)甘(うま)く焼(やき)つぎをしても、117其(その)疵(きず)は元(もと)の通(とほ)りになほらないと同様(どうやう)に、118元来(ぐわんらい)が身魂(みたま)にヒビが入(い)つてゐるのだから、119本当(ほんたう)の善(ぜん)に還(かへ)る事(こと)は辛(つら)うて出来(でき)ませぬぞや。120お前(まへ)さまの肉体(にくたい)だつて、121ヤツパリさうぢやないか。122入(にふ)が入(い)つて居(を)ればこそ、123此(この)方(はう)が這入(はい)れたのだ。124お前(まへ)さまは立派(りつぱ)な大和(やまと)魂(だましひ)の生粋(きつすゐ)だと思(おも)つてゐるだらうが、125此(この)金毛(きんまう)九尾(きうび)から見(み)れば、126大和(やまと)魂(だましひ)どころか山子(やまこ)だましの身魂(みたま)だよ。127相応(さうおう)の理(り)によつて、128破鍋(われなべ)にトヂ蓋式(ぶたしき)に自然(しぜん)に結(むす)ばれた因縁(いんねん)だから、129何程(なにほど)もがいても何(ど)うしても、130此(この)悪縁(あくえん)は切(き)ることは出来(でき)ませぬぞや、131お前(まへ)さまも是非(ぜひ)なき事(こと)と断念(だんねん)して、132吾(わが)身(み)の因縁(いんねん)を怨(うら)めるより仕方(しかた)がないぢやありませぬか。133霊肉(れいにく)不二(ふじ)の関係(くわんけい)を持(も)つてゐる肉体(にくたい)と此(この)方(はう)とが、134何時(いつ)もこれだけ衝突(しようとつ)をして居(を)つては互(たがひ)の迷惑(めいわく)……否(いな)大損害(だいそんがい)ですよ。135チツとはお前(まへ)さまも大目(おほめ)に見(み)て貰(もら)はなくちや、136わしだつて、137さう苛(いぢ)められてばかり居(を)つても、138立(た)つ瀬(せ)がないぢやないか』
139高姫『今(いま)迄(まで)なれば少々(せうせう)のことは大目(おほめ)にみておくが、140お前(まへ)も知(し)つて居(を)るだらう、141斎苑(いそ)館(やかた)に厶(ござ)つた三五教(あななひけう)の三羽烏(さんばがらす)杢助(もくすけ)様(さま)がお出(い)でになり、142此(この)肉体(にくたい)の夫(をつと)となられ、143又(また)立派(りつぱ)な娘(むすめ)の初稚姫(はつわかひめ)が此処(ここ)へ私(わし)の子(こ)となつて来(き)たのだから、144余程(よほど)心得(こころえ)て貰(もら)はなくては、145今(いま)迄(まで)とは違(ちが)ひますぞや。146今(いま)迄(まで)は此(この)高姫(たかひめ)も殆(ほとん)ど独身(どくしん)同様(どうやう)であつた。147大将軍(だいしやうぐん)様(さま)の肉宮(にくみや)はあの通(とほ)りお人(ひと)よしだから、148どうでもよい様(やう)なものだつたが、149今度(こんど)は摩利支天(まりしてん)様(さま)の肉宮(にくみや)が、150此(この)肉体(にくたい)の夫(をつと)とお成(な)り遊(あそ)ばしたのだから、151お前(まへ)さまの自由(じいう)ばかりになつてゐる訳(わけ)には行(ゆ)かぬから、152其(その)積(つも)りで居(を)つて下(くだ)されや』
153(腹の中から)『それは肉体(にくたい)のすることだから敢(あ)へて干渉(かんせふ)はしないが、154併(しか)しながら、155初稚姫(はつわかひめ)といふ女(をんな)は何(なん)だか虫(むし)の好(す)かぬ女(をんな)だ。156お前(まへ)も物好(ものずき)な、157他人(ひと)の子(こ)を吾(わが)子(こ)にせなくてもよいぢやないか』
158高姫『馬鹿(ばか)だなア、159あの初稚姫(はつわかひめ)は本当(ほんたう)に掘出(ほりだ)し物(もの)だよ。160柔順(じうじゆん)で賢明(けんめい)で而(しか)して人(ひと)には信用(しんよう)があるなり、161あんな娘(むすめ)を使(つか)はずに、162どうして神業(しんげふ)が完全(くわんぜん)に出来(でき)るのだ。163お前(まへ)も改心(かいしん)して五六七(みろく)神政(しんせい)成就(じやうじゆ)の為(ため)に活動(くわつどう)するならば、164これ程(ほど)大慶(たいけい)の事(こと)はないぢやないか。165変性(へんじやう)男子(なんし)様(さま)が永(なが)らくの間(あひだ)御(ご)苦労(くらう)御(ご)艱難(かんなん)遊(あそ)ばして、166此処(ここ)まで麻柱(あななひ)の道(みち)をお開(ひら)き遊(あそ)ばし、167又(また)都合(つがふ)によつてウラナイ教(けう)も御(お)開(ひら)き遊(あそ)ばしたのだから、168悪(あく)が微塵(みじん)でもあつたら、169此(この)事(こと)は成就(じやうじゆ)致(いた)しませぬぞや』
170(腹の中から)『それでも、171お前(まへ)、172三五教(あななひけう)をやめてウラナイ教(けう)を立(た)てようと、173昨日(きのふ)もいつたぢやないか。174どちらを立(た)てて行(ゆ)くのだ。175それからきめて貰(もら)はなくちや、176此方(こつち)も困(こま)るぢやないか』
177高姫『変性(へんじやう)男子(なんし)のお筆(ふで)には……三五教(あななひけう)ばかりでないぞよ。178此(この)神(かみ)はまだ外(ほか)にも仕組(しぐみ)が致(いた)してあるぞよ。179ウツカリ致(いた)して居(を)ると、180結構(けつこう)な神徳(しんとく)を外(ほか)へ取(と)られて了(しま)ふぞよ……とお示(しめ)しになつて居(ゐ)るだろ、181此(この)頃(ごろ)の斎苑(いそ)館(やかた)の役員(やくゐん)共(ども)の行(や)り方(かた)と云(い)つたら、182サツパリ変性(へんじやう)女子(によし)の教(をしへ)ばかり致(いた)して、183男子(なんし)様(さま)の御(ご)苦労(くらう)を水(みづ)の泡(あわ)に致(いた)さうとするによつて、184お筆(ふで)に書(か)いてある通(とほ)り、185系統(ひつぽう)の身魂(みたま)の此(この)方(はう)が、186已(や)むを得(え)ずしてウラナイ教(けう)を立(た)てるのだ、187併(しか)しながら秘密(ひみつ)は何処(どこ)までも秘密(ひみつ)だから、188表(おもて)はヤツパリ三五教(あななひけう)を標榜(へうばう)し、189其(その)内実(ないじつ)はウラナイ教(けう)を立(た)てるのだよ。190よいか、191合点(がてん)がいただらうなア』
192(腹の中から)『コレ肉体(にくたい)さま、193ソリヤ二股(ふたまた)膏薬(かうやく)といふものではないかなア。194いつも悪(あく)は嫌(いや)だ嫌(いや)だと云(い)ふ癖(くせ)に、195なぜ其(その)様(やう)な謀反(むほん)を起(おこ)すのだい。196善(ぜん)一(ひと)つを立(た)てぬくのなれば、197お前(まへ)が舎身(しやしん)的(てき)活動(くわつどう)をして三五教(あななひけう)の過(あやま)つてゐる行方(やりかた)を改良(かいりやう)さして、198一(ひと)つの道(みち)でやつて行(い)つたらいいぢやないか。199さうするとヤツパリ肉体(にくたい)も善(ぜん)を表(おもて)に標榜(へうばう)し、200自我(じが)を立(た)て通(とほ)す為(ため)に結局(けつきよく)悪(あく)を企(たく)んでゐるのだなア。201サウすりや何(なに)も、202わしのすることや言(い)ふことをゴテゴテいふには及(およ)ばぬぢやないか。203同(おな)じ穴(あな)の狼(おほかみ)だ。204怪狼(くわいらう)同狐(どうけつ)の間柄(あひだがら)ぢやないか。205お前(まへ)が善(ぜん)か、206俺(おれ)が悪(あく)か、207衡(はかり)にかけたら何方(どちら)が上(あが)るやら、208僅(わづ)かに五十歩(ごじつぽ)と五十一(ごじふいつ)歩(ぽ)との違(ちが)ひだらう。209どうぢや肉体(にくたい)、210これでも返答(へんたふ)が厶(ござ)るかな、211ウツフツフ』
212高姫『コリヤ、213喧(やかま)しいワイ。214そこは、215それ、216神(かみ)の奥(おく)には奥(おく)があり、217其(その)又(また)奥(おく)には奥(おく)があるのだ。218切(き)れてバラバラ扇(あふぎ)の要(かなめ)……といふ謎(なぞ)を、219お前(まへ)は知(し)らぬのか……十五夜(じふごや)に片(かた)われ月(づき)があるものか、220雲(くも)にかくれてここに半分(はんぶん)……だ』
221(腹の中から)『ハツハハ、222イヤ、223チツとばかり了解(れうかい)した。224……此(この)腹(はら)の黒(くろ)き尉殿(じやうどの)が一旦(いつたん)改心(かいしん)の坂(さか)を通(とほ)り越(こ)し、225又(また)もや慢心(まんしん)と申(まを)す元(もと)の屋敷(やしき)にお直(なほ)り候(さふらふ)……だな、226イツヒツヒ。227それならさうと、228なぜ初(はじ)めから云(い)つてくれないのだ。229コツチにも方針(はうしん)があるのだから……俺(おれ)も昔(むかし)から金毛(きんまう)九尾(きうび)といつて、230随分(ずいぶん)悪(あく)は尽(つく)して来(き)たのだが、231腹(はら)の黒(くろ)い人間(にんげん)の腹中(ふくちう)は、232自分(じぶん)が現在(げんざい)這入(はい)つて居(を)りながら、233分(わか)らぬものだ。234いかにも人間(にんげん)といふものは重宝(ちようほう)なものだなア。235偽善(ぎぜん)を徹底(てつてい)的(てき)に遂行(すゐかう)するには、236本当(ほんたう)に重宝(ちようはう)な唯一(ゆゐいつ)無二(むに)のカラクリだ、237イツヒヒヒ。238それを聞(き)いて此(この)金毛(きんまう)九尾(きうび)もスツカリと安心(あんしん)を致(いた)したぞや。239サア始(はじ)めてお前(まへ)が打(う)ち解(と)けてくれたのだから、240今日(けふ)位(くらゐ)心地(ここち)よいことはないワ、241のう大蛇(をろち)よ、242猿(さる)よ、243狸(くろ)よ、244蟇(がま)よ、245豆(まめ)よ、246本当(ほんたう)に岩戸(いはと)が開(ひら)けたやうな気分(きぶん)がするぢやないか』
247 腹(はら)の中(なか)から違(ちが)うた声(こゑ)で、
248(腹の中から違う声で)『ウン ウン ウン ウン、249さうさう、250これでこそ、251私(わし)たちも安心(あんしん)だ。252流石(さすが)は金毛(きんまう)九尾(きうび)さまだけあつて、253よくマア肉体(にくたい)と、254其処(そこ)まで談判(だんぱん)して下(くだ)さつた。255ああ有難(ありがた)い有難(ありがた)い』
256 腹中(ふくちう)より又(また)もや以前(いぜん)の声(こゑ)で、
257(腹の中から)『さうだから、258此(この)金毛(きんまう)九尾(きうび)さまに従(したが)へと云(い)ふのだ。259これから高姫(たかひめ)の肉体(にくたい)をかつて、260三千(さんぜん)世界(せかい)を自由(じいう)自在(じざい)に致(いた)すのだ。261それに就(つ)いては先(ま)づ第一(だいいち)に三五教(あななひけう)を崩壊(ほうくわい)し、262ウラナイ教(けう)を立(た)てて善(ぜん)の仮面(かめん)を被(かぶ)り、263現界(げんかい)の人間(にんげん)を片(かた)つ端(ぱし)から兇党界(きようたうかい)に引張(ひつぱ)り込(こ)んで了(しま)ふのだ。264最早(もはや)肉体(にくたい)が心(こころ)を打(う)ち開(あ)けた以上(いじやう)は、265何(なん)と云(い)つても宣(の)り直(なほ)しはささない。266若(も)しも最前(さいぜん)の言葉(ことば)に肉体(にくたい)が反(そむ)きよつたら、267お前(まへ)たちはおれの命令(めいれい)一下(いつか)と共(とも)に、268そこら中(ぢう)を引張(ひつぱ)りまはし苦(くるし)めてやるのだよ』
269高姫『コラ、270そんな無茶(むちや)な相談(さうだん)を致(いた)すといふことがあるか、271表(おもて)は表(おもて)、272裏(うら)は裏(うら)だ。273さうお前(まへ)のやうに露骨(ろこつ)に云(い)つちや、274肝腎(かんじん)の大望(たいまう)が成就(じやうじゆ)せぬぢやないか』
275(腹の中から)『何(なに)、276お前(まへ)の耳(みみ)に内部(ないぶ)から伝(つた)はるだけのもので、277決(けつ)して外部(ぐわいぶ)へは洩(も)れる気遣(きづか)ひはない。278お前(まへ)さへ喋(しやべ)らなかつたら、279それでいいのだ』
280高姫『ソリヤさうだな、281それならマア、282十分(じふぶん)にお前(まへ)も千騎(せんき)一騎(いつき)の活動(くわつどう)を致(いた)すがよいぞや。283この高姫(たかひめ)も乗(の)りかけた舟(ふね)だ、284何処(どこ)までも初心(しよしん)を貫徹(くわんてつ)せなくちやおかないのだからな。285ドレドレ、286モウ初稚(はつわか)が帰(かへ)つて来(く)る時分(じぶん)だ。287思(おも)はず守護神(しゆごじん)と談判(だんぱん)をして居(を)つたものだから、288つひ時(とき)の経(た)つのも忘(わす)れてゐた。289併(しか)し初稚姫(はつわかひめ)が聞(き)いてゐやせなんだか知(し)らぬて、290何(なん)だか気掛(きがか)りでならないワ』
291といひながら、292サツと障子(しやうじ)をあけて長廊下(ながらうか)を眺(なが)めた。293初稚姫(はつわかひめ)は芒(すすき)の枯(か)れた穂(ほ)を一(ひと)つかみ握(にぎ)りながら、294他愛(たあい)もなく遊(あそ)び戯(たはむ)れ、295廊下(らうか)に一本(いつぽん)一本(いつぽん)さして遊(あそ)んでゐる。296その無邪気(むじやき)な光景(くわうけい)を眺(なが)めて、297高姫(たかひめ)はホツと一息(ひといき)し、
298高姫『何(なん)とマア無邪気(むじやき)な娘(こ)だこと、299枯尾花(かれをばな)を板(いた)の間(ま)の隙間(すきあひ)に立(た)て並(なら)べて遊(あそ)んでゐるのだもの。300大(おほ)きな図体(づうたい)をしながら、301そして十七(じふしち)にもなりながら、302未通(おぼ)こい娘(むすめ)だなア。303本当(ほんたう)に水晶魂(すいしやうだま)だ。304この高姫(たかひめ)がうまく仕込(しこ)んでやれば、305完全(くわんぜん)に改悪(かいあく)して立派(りつぱ)なウラナイ教(けう)の宣伝使(せんでんし)になるだらう。306何(なん)と云(い)つても杢助(もくすけ)さまと云(い)ふ父親(てておや)を掌中(しやうちう)に握(にぎ)つてゐるのだから大丈夫(だいぢやうぶ)だ。307東助(とうすけ)さまに肱鉄(ひぢてつ)をかまされ、308大勢(おほぜい)の前(まへ)で恥(はぢ)をかかされて、309悔(くや)し残念(ざんねん)さをこばつて、310此処(ここ)まで来(き)て見(み)れば、311こんな都合(つがふ)の好(い)いことが出来(でき)て来(き)た。312あああ、313人間(にんげん)万事(ばんじ)塞翁(さいをう)の馬(うま)の糞(くそ)とやら、314苦(くる)しい後(あと)には楽(たの)しみがあり、315楽(たの)しみの後(あと)には苦(くる)しみが来(く)るぞよ、316改心(かいしん)なされよ……と男子(なんし)様(さま)のお筆先(ふでさき)にチヤンと出(で)て居(ゐ)る。317高姫(たかひめ)もまだ天運(てんうん)が尽(つ)きないと……あ……見(み)えるワイ、318エツヘヘヘ、319変性(へんじやう)男子(なんし)様(さま)、320大国治立(おほくにはるたちの)命(みこと)様(さま)、321守(まも)り給(たま)へ幸(さきは)へ給(たま)へ』
322(腹の中から)『オツホツホホホ、323オイ肉体(にくたい)、324大変(たいへん)な元気(げんき)だなア、325甘(うま)く行(ゆ)きさうだのう。326吾々(われわれ)一団体(いちだんたい)の兇霊(きようれい)連中(れんちう)も満足(まんぞく)してゐる。327どうだ、328チツと歌(うた)でもうたつたら面白(おもしろ)からうに……のう』
329高姫『コリヤ、330何(なん)と云(い)ふ不心得(ふこころえ)なことをいふか。331世界(せかい)は暗雲(やみくも)になり、332殆(ほとん)ど泥海(どろうみ)のやうになつてゐるのに、333そんな陽気(やうき)なことで、334どうして誠(まこと)が貫(つらぬ)けるか。335変性(へんじやう)男子(なんし)様(さま)のお筆先(ふでさき)を何(なん)と心得(こころえ)てゐる、336チツと改心(かいしん)したがよからうぞ』
337(腹の中から)『アハハハハ、338善悪(ぜんあく)不二(ふじ)、339正邪(せいじや)一如(いちによ)といふ甘(うま)い筆法(ひつぱふ)だなア。340一(いち)枚(まい)の紙(かみ)にも裏表(うらおもて)のあるものだから……』
341高姫『シーツ、342今(いま)そこへ初稚姫(はつわかひめ)が出(で)て来(く)るぢやないか、343チツと心得(こころえ)ないか』
344(腹の中から)『声(こゑ)がせないと、345チツとも姿(すがた)が見(み)えぬものだから、346これはエライ不調法(ぶてうはふ)を致(いた)しました。347オオ怖(こ)はオオ怖(こ)は、348肉体(にくたい)の権幕(けんまく)には俺(おれ)も往生(わうじやう)致(いた)したワイ』
349 初稚姫(はつわかひめ)は何気(なにげ)なき態(てい)を装(よそほ)ひ、350ニコニコしながら出(い)で来(きた)り、
351初稚姫『お母(か)アさま、352とうとうスマートをぼつ帰(かへ)して来(き)ましたよ。353妙(めう)な犬(いぬ)でしてね、354何程(なにほど)追(お)つかけても後(あと)へ帰(かへ)つて来(き)て仕方(しかた)がありませぬので、355私(わたし)も困(こま)りましたよ』
356高姫『ああさうだろさうだろ、357あれ丈(だけ)お前(まへ)につき纒(まと)うて居(を)つたのだから、358離(はな)れともなかつただらう。359何(なん)と云(い)つても畜生(ちくしやう)だから人間(にんげん)の云(い)ふこた分(わか)らず、360嘸(さぞ)お骨折(ほねをり)だつたろ。361併(しか)しマアよう帰(い)にましたなア』
362初稚姫『ハイ、363仕方(しかた)がないので、364石(いし)を拾(ひろ)つて五(いつ)つ六(むつ)つ頭(あたま)にかちつけてやりましたの。365そしたら頭(あたま)が二(ふた)つにポカンと割(わ)れて大変(たいへん)な血(ち)を出(だ)し、366厭(いや)らしい声(こゑ)を出(だ)して逃(に)げて帰(かへ)りましたの』
367高姫『それは本当(ほんたう)に、368気味(きみ)のよいこと……ウン、369オツトドツコイ、370気味(きみ)の悪(わる)いことだつたね。371大変(たいへん)にお前(まへ)を恨(うら)んで居(を)つただらうなア』
372初稚姫『何程(なにほど)ウラナイ教(けう)だとて、373怨(うら)みも致(いた)しますまい、374ホホホ』
375高姫『や、376初稚(はつわか)さま、377お前(まへ)は今(いま)ウラナイ教(けう)と言(い)ひましたね、378誰(たれ)にそんなことをお聞(き)きになつたのだえ』
379初稚姫『お母(か)アさま、380表(おもて)はね、381三五教(あななひけう)で、382其(その)内実(ないじつ)は、383お母(か)アさまのお開(ひら)き遊(あそ)ばしたウラナイ教(けう)の方(はう)が良(い)いぢやありませぬか。384私(わたし)、385ウラナイ教(けう)が大好(だいす)きなのよ』
386高姫『オホホホホ、387ヤツパリお前(まへ)は私(わし)の大事(だいじ)の子(こ)だ、388何(なん)と賢(かしこ)い者(もの)だなア。389これでこそ三五教(あななひけう)崩壊(ほうくわい)の……ウン……トコドツコイ、390法界(ほふかい)の危急(ききふ)を完全(くわんぜん)に救済(きうさい)することが出来(でき)ませうぞや』
391初稚姫『さうですなア。392誠(まこと)さへ立(た)てば、393名(な)は何(ど)うでもいいぢやありませぬか』
394 高姫(たかひめ)は首(くび)を頻(しき)りにシヤクリながら、395笑(ゑみ)を満面(まんめん)に湛(たた)へて、
396高姫『コレ初稚(はつわか)さま、397お母(か)アさまは、398これからお父(とう)さまをお迎(むか)へ申(まを)してくるから、399お前(まへ)さまは暫(しばら)く事務所(じむしよ)へでも行(い)つて遊(あそ)んで来(き)て下(くだ)さい。400こんな所(ところ)に一人(ひとり)置(お)いとくのも気(き)の毒(どく)だからなア』
401初稚姫『お母(か)アさま、402そんなに永(なが)く時間(じかん)がかかるのですか』
403高姫『さう永(なが)くもかからない積(つもり)だが、404何(なん)と云(い)つてもあの通(とほ)り、405云(い)ひかけたら後(あと)へ引(ひ)かぬ杢助(もくすけ)さまだから、406犬(いぬ)を帰(い)なしたことから、407其(その)外(ほか)お前(まへ)さまの腹(はら)の底(そこ)を、408トツクリと御(ご)得心(とくしん)なさるやうに申上(まをしあ)げねばならぬから、409チツとばかり暇(ひま)が要(い)るかも知(し)れませぬからなア』
410初稚姫『お母(か)アさま、411私(わたし)もお供(とも)致(いた)しませうか』
412高姫『イヤイヤそれには及(およ)びませぬ。413又(また)杢助(もくすけ)様(さま)に、414どんな御(ご)意見(いけん)があるか知(し)れませぬから、415却(かへ)つてお前(まへ)さまが側(そば)にゐない方(はう)が、416双方(さうはう)の為(ため)に都合(つがふ)がいいかも知(し)れませぬ。417一寸(ちよつと)其処(そこ)まで行(い)つて参(まゐ)ります』
418とイソイソとして出(い)でて行(ゆ)く。419後(あと)見送(みおく)つて初稚姫(はつわかひめ)はニツコと笑(わら)ひ、420イソイソとして珍彦(うづひこ)の居間(ゐま)を訪(たづ)ね、421同年輩(どうねんぱい)の楓姫(かへでひめ)とあどけなき話(はなし)を交換(かうくわん)しながら時(とき)を移(うつ)してゐる。
422(大正一二・一・二〇 旧一一・一二・四 松村真澄録)
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