霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一七章 偽筆(ぎひつ)〔一三一一〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第50巻 真善美愛 丑の巻 篇:第4篇 神犬の言霊 よみ(新仮名遣い):しんけんのことたま
章:第17章 偽筆 よみ(新仮名遣い):ぎひつ 通し章番号:1311
口述日:1923(大正12)年01月23日(旧12月7日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年12月7日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
高姫の機嫌が悪くなってきたので、イル以下四人は戻ってきてやけくそになり、またグイグイと酒を飲み始めた。イルは酔って神がかりの真似を始めた。義理天上日の出神が筆先を出すと怒鳴ると、サールは墨をすって綴じた紙と共にイルに差し出した。
イルは横柄な面をしながら筆をひったくって、首を振りながら何事か一生懸命に書きつけた。そして高姫の作り声で結構な筆先を腹に入れるように、と言って皆に差し出した。サールは笑いながら受け取り、他の者に拝読して聞かせた。
一同が高姫を滑稽に真似たイルの筆先に笑い興じていると、斎苑の館から出張した役員の安彦と国彦がやってきた。二人は珍彦に用があるとイルたちに伝えた。イルは二人を珍彦館に案内した。
残されたサールたちは、酒盛りの最中に本部の役員が訪ねてきたので、対応しながらバツの悪い思いをして来意を勘繰っている。そこにイルが帰ってきて、冗談を交えつつ、本部の使いの役員たちは、珍彦と初稚姫と奥の間で密かに会っていると報告したので、一同はてっきり高姫の沙汰についての訪問だと直感した。
そこへ高姫がやってきて、イルに自分の間にちょっと来てほしいと依頼した。しかしイルは諧謔で高姫を煙に巻くばかりだったので、ハルを代わりに連れて行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-07-24 16:40:58 文字数:5204 OBC :rm5017
愛善世界社版:237頁 八幡書店版:第9輯 236頁 修補版: 校定版:242頁 普及版:119頁 初版: ページ備考:
001 高姫(たかひめ)の形勢(けいせい)意外(いぐわい)にも不穏(ふおん)の景況(けいきやう)を呈(てい)し、002何時(いつ)低気圧(ていきあつ)の襲来(しふらい)するやも図(はか)り難(がた)き殺風景(さつぷうけい)の場面(ばめん)となつて来(き)た。003イル以下(いか)四(よ)人(にん)は自棄糞(やけくそ)になり、004グイグイと又(また)もや酒(さけ)を飲(の)み始(はじ)めた。005そしてイルは大(おほ)きな声(こゑ)で、
006イル『義理(ぎり)天上(てんじやう)日出(ひのでの)神(かみ)の生宮(いきみや)であるぞよ。007結構(けつこう)な結構(けつこう)な筆先(ふでさき)を生宮(いきみや)に書(か)かすによつて、008筆(ふで)と墨(すみ)と紙(かみ)との用意(ようい)を致(いた)されよ』
009と呶鳴(どな)り出(だ)した。010サールは矢庭(やには)に墨(すみ)をすり、011紙(かみ)を綴(と)ぢ筆(ふで)を洗(あら)つて恭(うやうや)しくイルに渡(わた)した。012イルは故意(わざ)と横柄面(わうへいづら)をしながら其(その)筆(ふで)をひつたくり、013木机(きづくゑ)を前(まへ)に置(お)き、014何事(なにごと)か首(くび)をふりながら一生(いつしやう)懸命(けんめい)に書(か)きつけた。015イルは高姫(たかひめ)の作(つく)り声(ごゑ)をして、
016イル『これ皆(みな)の者(もの)共(ども)、017否(いな)八衢(やちまた)人足(にんそく)や、018今(いま)義理(ぎり)天上(てんじやう)日出(ひのでの)神(かみ)がお筆先(ふでさき)を書(か)いたによつて、019有難(ありがた)く拝読(はいどく)を致(いた)すがよいぞや。020斯(こ)んな結構(けつこう)な筆先(ふでさき)は又(また)と見(み)ることは出来(でき)ぬぞや。021此(この)筆先(ふでさき)さへ腹(はら)へ入(い)れこめて居(を)れば、022万劫(まんごふ)末代(まつだい)人(ひと)が叩(たた)き落(おと)しても落(お)ちぬお神徳(かげ)が頂(いただ)けるぞや。023イヒヒヒヒヒ、024此(この)筆先(ふでさき)は誰(たれ)にも読(よ)ます筆先(ふでさき)ではないぞや。025後(のち)の証拠(しようこ)に書(か)かして置(お)いたなれど、026受付(うけつけ)に居(を)る役員(やくゐん)が肝腎(かんじん)の事(こと)を知(し)らぬと話(はなし)がないから、027一寸(ちよつと)読(よ)ましてやるぞよ』
028サール『アハハハハハ、029何(なに)を吐(ぬか)しやがるのだい。030管(くだ)を巻(ま)きやがつて、031然(しか)し何(ど)んな事(こと)を書(か)きよつたか。032一寸(ちよつと)読(よ)んでやらうかい。033おい、034ハル、035テル、036イク、037謹聴(きんちやう)するのだぞ』
038と云(い)ひながら恭(うやうや)しく押戴(おしいただ)き、039故意(わざ)と剋面(こくめん)な顔(かほ)をして大(おほ)きな声(こゑ)で読(よ)み始(はじ)めた。
040サール『伊豆(いづ)の霊(みたま)変性(へんじやう)男子(なんし)がイルの肉体(にくたい)を借(か)りて三千(さんぜん)世界(せかい)の事(こと)を書(か)きおくぞよ。041しつかりと聞(き)いて置(お)かぬと後(あと)で後悔(こうくわい)致(いた)す事(こと)が出来(でき)るぞよ。042此(この)イルは伊豆(いづ)の霊(みたま)と申(まを)して湯本館(ゆもとくわん)の安藤(あんどう)唯夫(ただを)殿(どの)の身魂(みたま)が憑(うつ)りて居(を)るぞよ。043サールの身魂(みたま)は杉山(すぎやま)当一(たういち)殿(どの)のラマ教(けう)の時(とき)の身魂(みたま)であるぞよ。044今(いま)はバラモン教(けう)をやめて三五教(あななひけう)に這入(はい)りて居(を)るなれど、045何(なに)を申(まを)しても変性(へんじやう)女子(によし)のヤンチヤ身魂(みたま)が憑(うつ)りて居(を)るから、046過激(くわげき)な事(こと)を申(まを)して仕様(しやう)がないぞよ。047此(この)義理(ぎり)天上(てんじやう)日出(ひのでの)神(かみ)の伊豆(いづ)の身魂(みたま)が申(まを)した位(くらゐ)では中々(なかなか)聞(き)きは致(いた)さぬぞよ。048ラジオシンターでも飲(の)まして目(め)を覚(さま)してやらぬ事(こと)には駄目(だめ)だぞよ。049それでも治(なほ)らねば谷口(たにぐち)清水(しみづ)と申(まを)すドクトル・オブ・メヂチーネの御(ご)厄介(やつかい)になるが良(よ)いぞよ。050伊豆(いづ)の湯ケ島(ゆがしま)には因縁(いんねん)があるぞよ。051湯本館(ゆもとくわん)と云(い)ふ因縁(いんねん)の分(わか)りたものは此(この)高姫(たかひめ)、052オツト、053ドツコイ日出(ひのでの)神(かみ)の生宮(いきみや)のイルでないと分(わか)りは致(いた)さぬぞよ。054それぢやによつて沢山(たくさん)の人民(じんみん)が水晶(すいしやう)の温泉(をんせん)にイルの身魂(みたま)と申(まを)すぞよ。055今(いま)の内(うち)に改心(かいしん)を致(いた)さぬとサールもハルもテルもイクも、056皆(みな)アオ彦(ひこ)の身魂(みたま)の憑(うつ)りて居(を)る北村(きたむら)隆光(たかてる)に書(か)きとめさして置(お)いて、057末代(まつだい)名(な)を残(のこ)さして置(お)くぞよ。058それでも改心(かいしん)を致(いた)さねば摩利支(まりし)天(てん)の身魂(みたま)の憑(うつ)りて居(を)る松村(まつむら)真澄(まさずみ)に細(こま)かう書(か)き残(のこ)さすぞよ。059それで足(た)らねば夕日(ゆふひ)の御影(みかげ)、060加藤(かとう)竿竹姫(さをだけひめ)の身魂(みたま)の手(て)を借(か)りて書(か)き残(のこ)さすぞよ。061義理(ぎり)天上(てんじやう)日出(ひのでの)神(かみ)の生宮(いきみや)は蟇(がま)の身魂(みたま)の憑(うつ)りた黒姫(くろひめ)と因縁(いんねん)ありて、062伊豆(いづ)の御魂(みたま)の御(お)屋敷(やしき)へ暫(しば)らく逗留(とうりう)致(いた)し、063昔(むかし)からの因縁(いんねん)を調(しら)べておいたぞよ。064開(あ)いた口(くち)がすぼまらぬ、065牛糞(うしくそ)が天下(てんか)をとると云(い)ふ事(こと)が出来(でき)るぞよ。066あんまり聞(き)かぬと浅田(あさだ)の様(やう)に首(くび)もまはらぬ様(やう)に致(いた)すぞよ。067浅田殿(あさだどの)は御(ご)苦労(くらう)な御(おん)役(やく)であるぞよ。068そして其(その)身魂(みたま)はテルの身魂(みたま)であるから、069ラジオシンターをつけ過(す)ぎて困(こま)りてをるぞよ。070それでも此(この)イルが申(まを)す様(やう)に致(いた)したならば、071直(すぐ)に癒(なほ)してやるかも知(し)れぬぞよ。072ハルの身魂(みたま)は福井(ふくゐ)の身魂(みたま)であるぞよ。073何時(いつ)も辛(から)い辛(から)い山葵(わさび)ばかりを作(つく)りて居(ゐ)るから、074顔(かほ)までが辛(から)さうにしがんで居(ゐ)るぞよ。075チツと改心(かいしん)致(いた)さぬと鼻(はな)が高(たか)いぞよ。076イクの身魂(みたま)は誠(まこと)に結構(けつこう)な身魂(みたま)でありたなれど、077あまり慢心(まんしん)を致(いた)したによつて守護神(しゆごじん)は現(あら)はしてやらぬぞよ。078此(この)方(はう)の申(まを)す事(こと)を誠(まこと)に致(いた)せばよし、079聞(き)かぬにおいては杉原(すぎはら)の身魂(みたま)をひきぬいて来(き)て、080佐久(さけ)に酔(よ)はして何(なに)も彼(か)も白状(はくじやう)致(いた)さすぞよ。081人民(じんみん)が何程(なにほど)シヤチになりても神(かみ)には叶(かな)はぬぞよ。082早(はや)く此(この)方(はう)の申(まを)す様(やう)に致(いた)して下(くだ)されよ。083改心(かいしん)致(いた)さぬと『霊界(れいかい)物語(ものがたり)』の種(たね)と致(いた)すぞよ。084そこになりたら何程(なにほど)地団駄(ぢだんだ)踏(ふ)みて口惜(くや)しがりても、085神(かみ)は許(ゆる)しは致(いた)さぬぞよ。086之(これ)は大神(おほかみ)が申(まを)すのではないぞよ。087妖幻坊(えうげんばう)の身魂(みたま)獅子虎(ししとら)の身魂(みたま)イルの肉体(にくたい)を一寸(ちよつと)借用(しやくよう)致(いた)して皆(みな)の八衢(やちまた)人間(にんげん)に気(き)をつけたのであるぞよ。088今(いま)に高姫(たかひめ)の様(やう)に斎苑(いそ)の館(やかた)から立退(たちの)き命令(めいれい)を蒙(かうむ)らねばならぬぞよ。089改心(かいしん)なされよ。090足(あし)もとから鳥(とり)が立(た)つぞよ。091アハハハハ』
092と笑(わら)ひ興(きよう)じてゐる。093そこへ斎苑(いそ)の館(やかた)より神勅(しんちよく)を帯(お)びて出張(しゆつちやう)した二人(ふたり)の役員(やくゐん)があつた。094一人(ひとり)は安彦(やすひこ)、095一人(ひとり)は国彦(くにひこ)であつた。
096安彦(やすひこ)『祠(ほこら)の森(もり)の受付(うけつけ)の主任(しゆにん)は誰方(どなた)で厶(ござ)るかな。097拙者(せつしや)は斎苑(いそ)の館(やかた)より教主(けうしゆ)八島主(やしまぬしの)命(みこと)の命(めい)により出張(しゆつちやう)致(いた)したもので厶(ござ)る。098何卒(なにとぞ)一刻(いつこく)も早(はや)く当館(たうやかた)の神司(かむつかさ)珍彦(うづひこ)に面会(めんくわい)が致(いた)したい』
099イル『ヤー、100これはこれは直使(ちよくし)のおいで、101先(ま)づ先(ま)づ之(これ)にて御(ご)休息(きうそく)願上(ねがひあ)げ奉(たてまつ)りまする。102とり乱(みだ)したる処(ところ)を御覧(ごらん)に入(い)れ、103真(まこと)に赤面(せきめん)の至(いた)りで厶(ござ)りまする。104おい、105ハル、106テル、107サール、108イク、109早(はや)くお二人(ふたり)様(さま)のお足(あし)の湯(ゆ)を湧(わ)かして持(も)つて来(こ)ぬか』
110安彦『いや、111決(けつ)してお構(かま)ひなさるな。112珍彦(うづひこ)の司(つかさ)にお目(め)にかかりたければ、113直様(すぐさま)御(ご)案内(あんない)を願(ねが)ひたい。114沢山(たくさん)に徳利(とくり)が並(なら)んでゐられますな。115桜(さくら)の花(はな)の如(ごと)き盃(さかづき)が彼方(あちら)此方(こちら)に散(ち)つて居(ゐ)る風情(ふぜい)は何(なん)とも云(い)へぬ風流(ふうりう)で厶(ござ)る。116国彦(くにひこ)殿(どの)、117実(じつ)に羨望(せんばう)の至(いた)りでは厶(ござ)らぬか』
118国彦『如何(いか)にも、119落花(らくくわ)狼藉(らうぜき)、120夜半(よは)の嵐(あらし)に散(ち)らされて、121打落(うちおと)された桜木(さくらぎ)の麓(ふもと)の様(やう)で厶(ござ)る』
122イル『いや、123もう此(この)頃(ごろ)はチツとシーズンは早(はや)う厶(ござ)りますれど、124ここは日当(ひあた)りがよいので、125早(はや)くも桜(さくら)が散(ち)りかけまして厶(ござ)ります。126さア御(ご)案内(あんない)致(いた)しませう』
127安彦(やすひこ)『それは恐(おそ)れ入(い)ります』
128とイルの後(うしろ)に従(したが)ひ珍彦(うづひこ)の舘(やかた)に進(すす)み行(ゆ)く。129後(あと)四(よ)人(にん)は顔(かほ)見合(みあは)せ、130頭(あたま)を掻(か)きながら、
131テル『おい、132如何(どう)だ。133サツパリぢやないか。134エー、135こりや一通(ひととほ)りの事(こと)ぢやないぞ。136屹度(きつと)俺(おれ)達(たち)にキツーイお目玉(めだま)を頂戴(ちやうだい)するのかも知(し)れないぞ』
137サール『何(なに)、138俺(おれ)達(たち)にはチツとも関係(くわんけい)はないわ』
139テル『貴様(きさま)はラマ教(けう)だから放逐(はうちく)の命令(めいれい)に接(せつ)したかも知(し)れないぞ。140あの御(お)直使(ちよくし)がお前(まへ)の顔(かほ)を非常(ひじやう)に覗(のぞ)いて厶(ござ)つたぢやないか』
141サール『何(なに)、142そんな事(こと)があるものかい。143祠(ほこら)の森(もり)の受付(うけつけ)にサール者(もの)ありと聞(きこ)えたる敏腕家(びんわんか)は此(この)男(をとこ)だなアと、144感嘆(かんたん)の眼(まなこ)を以(もつ)て御覧(ごらん)になつて居(を)つたのだよ』
145テル『さう楽観(らくくわん)も出来(でき)ないぞ』
146サール『俺(おれ)の考(かんが)へでは、147如何(どう)も高姫(たかひめ)の身(み)の上(うへ)に関(くわん)してぢやなからうかと愚考(ぐかう)するのだ』
148イク『そら、149さうだ。150それに決(き)まつてるわ。151兎(と)に角(かく)、152誰(たれ)の事(こと)でもよい。153高姫(たかひめ)の事(こと)としておけば安心(あんしん)ぢやないか。154俺(おれ)等(たち)には、155よく勤(つと)めたによつて賞状(しやうじやう)を遣(つか)はすと云(い)ふ恩命(おんめい)に預(あづ)かるのかも知(し)れないぞ、156何(なん)と云(い)つても、157あれだけ八釜(やかま)し家(や)の高姫(たかひめ)に、158おとなしく仕(つか)へてゐるのだからな』
159 斯(か)く話(はな)す所(ところ)へ、160イルはニコニコしながら帰(かへ)つて来(き)た。
161サール『おい、162イル、163何(なん)ぞよい事(こと)があるのか。164大変(たいへん)嬉(うれ)しさうな顔(かほ)ぢやないか』
165イル『ウツフフフフ(声色(こわいろ))某(それがし)は斎苑(いそ)の館(やかた)の教主(けうしゆ)八島主(やしまぬしの)命(みこと)の直命(ちよくめい)により、166祠(ほこら)の森(もり)を主管(しゆくわん)する珍彦(うづひこ)の館(やかた)に神命(しんめい)を伝達(でんたつ)するものなり。167確(たしか)に承(うけたま)はれ。
168一、169此(この)度(たび)、170イル事(こと)、171義理(ぎり)天上(てんじやう)日出(ひのでの)神(かみ)の生宮(いきみや)と現(あら)はれし上(うへ)は、172汝(なんぢ)をして斎苑(いそ)の館(やかた)の総監督(そうかんとく)に任(にん)ずべし。173水晶魂(すいしやうだま)の生粋(きつすゐ)の其(その)方(はう)なれば、174義理(ぎり)天上(てんじやう)日出(ひのでの)神(かみ)の生宮(いきみや)として、175決(けつ)して恥(はづ)かしくなき人格者(じんかくしや)也(なり)。176神命(しんめい)ならば謹(つつし)んでお受(う)け致(いた)されよ。177(笑声)ウエーヘエツヘヘヘヘヘ。
178一、179サールなる者(もの)、180朝(あさ)から晩(ばん)まで事務(じむ)を忽(おろそ)かに致(いた)し酒(さけ)を呷(あふ)り管(くだ)を巻(ま)き、181イルの命令(めいれい)を奉(ほう)ぜず、182同僚(どうれう)が事務(じむ)の妨害(ばうがい)をなすこと、183以(もつ)ての外(ほか)の悪者(しれもの)也(なり)。184故(ゆゑ)に逸早(いちはや)く鞭(むち)を加(くは)へて放逐(はうちく)致(いた)す可(べ)きもの也(なり)。185イツヒヒヒヒヒ。
186一、187イク事(こと)、188サールに次(つ)ぐ不届者(ふとどきもの)にしてバラモン教(けう)を失敗(しくじ)り、189行(ゆ)く所(ところ)なくして已(や)むを得(え)ず祠(ほこら)の森(もり)に座敷(ざしき)乞食(こじき)を勤(つと)むる段(だん)、190中々(なかなか)以(もつ)て許(ゆる)し難(がた)き不届者(ふとどきもの)なれば、191之(これ)亦(また)鞭(むち)を加(くは)へて放逐(はうちく)す可(べ)きもの也(なり)。
192一、193ハル事(こと)、194大胆(だいたん)不敵(ふてき)の曲者(くせもの)にして、195頭(あたま)をハル事(こと)此(この)上(うへ)なき名人(めいじん)なり。196否(いな)侫人(ねいじん)也(なり)。197斯(か)くの如(ごと)きもの聖場(せいぢやう)にあつては神(かみ)の名(な)を汚(けが)し、198教(をしへ)を傷(きず)つくる事(こと)最(もつと)も大(だい)也(なり)、199且(かつ)酒癖(さけくせ)悪(わる)く、200上(あ)げも下(おろ)しもならぬ動物(どうぶつ)なれば、201これには箒(はうき)を以(もつ)て頭(かしら)を百(ひやく)打叩(うちたた)き、202一(いち)時(じ)も早(はや)く放逐(はうちく)す可(べ)きもの也(なり)。203キユツツツツツ、204ウツフフフフフ。
205一、206テル事(こと)、207比較(ひかく)的(てき)好々爺(かうかうや)にして、208よくイルの申(まを)す事(こと)を服従(ふくじゆう)するにより、209之(これ)は少(すこ)しく教(をしへ)を説(と)き聞(き)かした上(うへ)、210汝(なんぢ)が僕(しもべ)に使用(しよう)すべきもの也(なり)。211ウエヘツヘヘヘヘヘ、212ホホホホホ、213エヘヘヘヘヘ』
214テル『こりや、215イル、216馬鹿(ばか)にするない』
217イル『あいや、218決(けつ)して馬鹿(ばか)には致(いた)さぬ。219八島主(やしまぬしの)命(みこと)の御(ご)直命(ちよくめい)なれば、220襟(えり)を正(ただ)して行儀(ぎやうぎ)よく承(うけたま)はりなされ』
221サール『おい、222イル、223杢助(もくすけ)、224高姫(たかひめ)は如何(どう)だ』
225イル『やア者(もの)共(ども)、226騒(さわ)ぐな騒(さわ)ぐな、227静(しづ)かに致(いた)せ。228杢助(もくすけ)は誠(まこと)に以(もつ)て完全(くわんぜん)無欠(むけつ)なる悪魔(あくま)なれば、229一刻(いつこく)も早(はや)く放逐(はうちく)すべし。230又(また)高姫(たかひめ)は自転倒(おのころ)島(じま)の生田(いくた)の森(もり)に追返(おひかへ)すべし。231珍彦(うづひこ)は一切(いつさい)の事務(じむ)をイルに引継(ひきつ)ぎ、232逸早(いちはや)く此(この)場(ば)を退却(たいきやく)す可(べ)きもの也(なり)。
233右(みぎ)の条々(でうでう)決(けつ)して相違(さうゐ)これあるもの也(なり)。234オツホホホホホ』
235サール『ナーンダ、236馬鹿(ばか)にしてゐやがる。237俺(おれ)の胸(むね)が雨蛙(あまがへる)の様(やう)になりよつた。238のうイク、239ハル、240テル。241イルの奴(やつ)、242あまり馬鹿(ばか)にするぢやないか。243一(ひと)つここらで袋叩(ふくろだた)きにやつてやらうぢやないか』
244イク『そりや面白(おもしろ)い、245併(しか)しながらお直使(ちよくし)の御(ご)入来(じゆらい)だから、246まアまア今日(けふ)は見逃(みのが)しておけ。247おい、248イルの奴(やつ)、249貴様(きさま)は仕合(しあは)せものだ。250今日(けふ)から、251しようもない芸当(げいたう)をやると叩(たた)きのばすぞ』
252イル『叩(たた)き伸(の)ばして太(ふと)るのは鍛冶屋(かぢや)さまだ。253然(しか)しながら貴様(きさま)等(たち)も本当(ほんたう)に形勢(けいせい)不穏(ふおん)だぞ。254確(しつか)り致(いた)さぬと、255どんな御(ご)沙汰(さた)が下(さが)るやら分(わか)らぬから気(き)をつけたが宜(よ)からうぞ。256本当(ほんたう)の事(こと)は俺(おれ)等(たち)には分(わか)らぬのだ。257初稚姫(はつわかひめ)と珍彦(うづひこ)さまが奥(おく)の間(ま)でソツと御用(ごよう)を承(うけたま)はつて厶(ござ)るのだ』
258イク『成程(なるほど)、259大方(おほかた)タ印(じるし)の事(こと)だらうよ。260何卒(どうぞ)うまく行(ゆ)くといいがな』
261イル『あんな奴(やつ)がけつかると参詣者(さんけいしや)も碌(ろく)に詣(まゐ)つて来(こ)ないからな。262然(しか)し小(ちひ)さい声(こゑ)で襖(ふすま)の間(あひだ)から初稚姫(はつわかひめ)の声(こゑ)で、263イルさまイルさまと仰有(おつしや)るのが聞(きこ)えたよ。264イヒヒヒヒヒ何(なに)か此奴(こいつ)ア、265宜(よ)い事(こと)があるに違(ちが)ひない。266何(なに)せよ昨夜(ゆうべ)の夢(ゆめ)が乙(おつ)だからな。267その声(こゑ)を聞(き)くと忽(たちま)ち俺(おれ)の胸(むね)は躍(をど)る、268腕(うで)は鳴(な)る、269俺(おれ)の精神(せいしん)は生(うま)れ変(かは)つた様(やう)になつて来(き)た。270人間(にんげん)は一代(いちだい)に一度(いちど)や二度(にど)は運命(うんめい)の神(かみ)が見舞(みま)ふものだから、271此(この)風雲(ふううん)に乗(じやう)ぜなくちや人生(じんせい)は嘘(うそ)だ。272之(これ)からこのイルさまは立派(りつぱ)な立派(りつぱ)な宣伝使(せんでんし)になつて驍名(げうめい)を天下(てんか)に輝(かがや)かし、273月(つき)の国(くに)へでも行(い)つて大国(たいこく)の刹帝利(せつていり)になるのかも知(し)れぬぞ。274さうすれば貴様(きさま)らを右守(うもり)、275左守(さもり)の司(かみ)に任命(にんめい)してやるからな』
276サール『ヘン、277梟鳥(ふくろどり)の又(また)宵企(よひだく)みだらう。278初稚姫(はつわかひめ)様(さま)が何程(なにほど)イルさまと仰有(おつしや)つたつて、279あの男(をとこ)は受付(うけつけ)にイルか、280要(い)らないものか、281或(あるひ)は道楽者(だうらくもの)だから此処(ここ)にイル事(こと)はイルさまと仰有(おつしや)つたかも分(わか)らないぞ。282兎(と)も角(かく)貴様(きさま)も用心(ようじん)せないと駄目(だめ)だ。283気(き)をつけよ』
284イル『ヘン、285何(なん)と云(い)つても一富士(いちふじ)、286二鷹(にたか)、287三茄子(さんなすび)と云(い)ふ結構(けつこう)な夢(ゆめ)を見(み)たのだからな。288こんな夢(ゆめ)は出世(しゆつせ)する運(うん)のいいものでなければ、289メツタに見(み)られぬからのう』
290サール『そんな夢(ゆめ)が何(なに)いいのだ。291よく考(かんが)へて見(み)ろ。292富士(ふじ)の山(やま)程(ほど)借金(しやくきん)があつて、293如何(どう)にも斯(か)うにも首(くび)が廻(まは)らず、294鷹(たか)い息(いき)もようせず、295高姫(たかひめ)には喚(わめ)かれ、296箒(はうき)で叩(たた)かれ、297又(また)その借金(しやくきん)は茄子(なす)(済(な)す)事(こと)も出来(でき)ず、298高姫(たかひめ)の圧迫(あつぱく)に対(たい)しても如何(いかん)とも茄子(なす)ことが出来(でき)ない貴様(きさま)は腰抜(こしぬ)けだよと天教山(てんけうざん)の木花姫(このはなひめ)さまが夢(ゆめ)のお告(つ)げだよ。299アツハハハハハ、300お気(き)の毒様(どくさま)、301のうイク、302ハル、303テル、304俺(おれ)の判断(はんだん)は当(あた)つとるだらう』
305テル『そりや貴様(きさま)、306当(あた)るに定(きま)つてらア。307当一(たういち)と云(い)ふぢやないか。308ウヘツエエエエエ』
309 斯(か)く話(はな)す所(ところ)へ足音(あしおと)高(たか)くやつて来(き)たのは高姫(たかひめ)であつた。
310高姫『これ、311イルさま、312お前(まへ)一寸(ちよつと)此方(こちら)へ来(き)てお呉(く)れ。313御用(ごよう)が出来(でき)たから』
314イル『はい、315行(ゆ)かぬ事(こと)は厶(ござ)いませぬが、316一体(いつたい)何(なん)の用(よう)で厶(ござ)りますかな。317御用(ごよう)の筋(すぢ)を承(うけたま)はらねばさう軽々(かるがる)しく行(ゆ)く訳(わけ)には行(ゆ)きませぬ。318此(この)イルさまに畏(おそ)れ多(おほ)くも今日(けふ)只今(ただいま)より、319斎苑(いそ)の館(やかた)の八島主(やしまぬし)さまより祠(ほこら)の森(もり)の神司(かむづかさ)と任命(にんめい)されたかも知(し)れませぬぞや。320それぢやによつて、321今(いま)迄(まで)のイルとはチツと位(くらゐ)が違(ちが)ひますから、322御用(ごよう)があればお前(まへ)さまの方(はう)から、323言葉(ことば)を低(ひく)う頭(かしら)を下(さ)げて尾(を)をふつて賄賂(わいろ)でも喰(く)はへて御(お)出(い)でなさらぬと、324貴女(あなた)の地位(ちゐ)は殆(ほとん)ど砂上(さじやう)の楼閣(ろうかく)も同様(どうやう)で厶(ござ)りますぞや』
325高姫『エーエ、326辛気(しんき)なこと。327早(はや)く来(き)なさらぬかいな。328誰(たれ)も斎苑(いそ)館(やかた)から来(き)てゐないぢやないか』
329イル『高姫(たかひめ)さま、330貴女(あなた)「エー辛気(しんき)」と仰有(おつしや)いましたね。331そら、332さうでせう。333蜃気楼(しんきろう)的(てき)空想(くうさう)を描(ゑが)いて、334此(この)館(やかた)を独占(どくせん)せむとする泡沫(はうまつ)の如(ごと)き企(たく)みだから、335蜃気楼(しんきろう)が立(た)つのも無理(むり)はありませぬわい。336イツヒヒヒヒ』
337高姫『エーエ、338仕方(しかた)のない男(をとこ)だな。339又(また)酒(さけ)に酔(よ)うてゐるのだな。340それならイルは今日(けふ)限(かぎ)り此処(ここ)を帰(かへ)つて貰(もら)ひませう。341其(その)代(かは)りにハルや、342一寸(ちよつと)私(わし)の傍(そば)へ来(き)ておくれ。343御用(ごよう)を云(い)ひ聞(き)かしたい事(こと)があるから。344お前(まへ)は一寸(ちよつと)見(み)ても賢(かしこ)かりさうな、345よう間(ま)に合(あ)ひさうな顔付(かほつき)きだ』
346ハル『はい、347参(まゐ)る事(こと)は参(まゐ)りますが、348何卒(どうぞ)箒(はうき)で叩(たた)かぬやうに願(ねが)ひますよ。349私(わたし)も国(くに)には妻子(つまこ)が残(のこ)してあり……ませぬから、350箒(はうき)なんかで叩(たた)かれちや、351まだ持(も)たぬ妻子(つまこ)がホーキに迷惑(めいわく)致(いた)し、352宅(うち)の大切(だいじ)の夫(をつと)やお父(とう)さまを虐待(ぎやくたい)したと云(い)つて悔(くや)みますからな』
353高姫『エーエ、354文句(もんく)を仰有(おつしや)らずに出(で)て来(く)るのだよ』
355ハル『おい、356俺(おれ)が行(い)つたら屹度(きつと)貴様(きさま)等(たち)ア、357首(くび)だからな。358其(その)用意(ようい)をして居(を)れよ。359然(しか)し大抵(たいてい)の事(こと)なら、360俺(おれ)の高姫(たかひめ)様(さま)が信認(しんにん)の力(ちから)によつて、361千言(せんげん)万語(ばんご)を費(つひや)し、362弁護(べんご)の結果(けつくわ)助(たす)けてやるかも知(し)れないから、363俺(おれ)の後姿(うしろすがた)を義理(ぎり)天上(てんじやう)さまだと思(おも)うて、364恭敬(きようけい)礼拝(らいはい)してゐるがよからうぞ。365エヘン』
366と肩肱(かたひぢ)怒(いか)らし、367高姫(たかひめ)の後(うしろ)から握(にぎ)り拳(こぶし)を固(かた)めて空(くう)を打(う)ちながら、368一寸(ちよつと)後(うしろ)を振(ふ)り返(かへ)り、369長(なが)い舌(した)をニユツと出(だ)して四(よ)人(にん)に見(み)せ、370腮(あご)をしやくり尻(しり)を振(ふ)り従(つ)いて行(ゆ)く。
371(大正一二・一・二三 旧一一・一二・七 北村隆光録)
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