霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一三章 盲嫌(まうけん)〔一三〇七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第50巻 真善美愛 丑の巻 篇:第3篇 神意と人情 よみ(新仮名遣い):しんいとにんじょう
章:第13章 盲嫌 よみ(新仮名遣い):もうけん 通し章番号:1307
口述日:1923(大正12)年01月21日(旧12月5日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年12月7日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
初稚姫と楓は、火鉢を囲んでお道の話をしていた。いつしか話は高姫の話になり、さまざまな悪霊に魅入られている高姫を、二人で協力してなんとか救いたいものだと語り合っていた。
そこへ高姫がふすまをけ破って闖入してきた。二人をにらみつけて怒りに声を震わせながら、初稚姫と楓が、自分を害する相談をしていたと非難した。そして自分の足を後ろからさらえた楓を怒鳴りつけた。
楓は高姫に詫びを入れ、初稚姫もなだめようとしたが、高姫は逆にスマートに加えられたことに怒りだし、初稚姫を棍棒で打ち据えようとした。するとまたしてもスマートが駆けこんできて、高姫を引き倒した。初稚姫はスマートをおとなしくさせたが、高姫はスマートを一つ殴りつけ、怒鳴り散らして狂乱の態であった。
初稚姫、楓はスマートと共に珍彦の館をさして出て行った。高姫が火鉢を投げつけ、戸棚の膳や椀を投げつけて荒れ狂っていると、腹の中から声がして、自分たちは初稚姫と楓の生霊で、高姫の肉体を亡ぼすために取り憑いたのだ、と言い出した。
これは高姫自身の悪霊が、高姫が初稚姫・楓をますます憎むように仕向けるための策略であった。すべて悪霊が人を傷つけ苦しめようとするときは、このような手段を取って人間同士を憎しみ合わせるものである。大本の役員たり信者たるものは、十分に霊界の消息に通じて、彼らの詐言に迷わされてはならない。
高姫が怒りだすと、腹の中の声は、高姫の霊格の高さに往生したように芝居を打って、ますます高姫を増長させた。高姫は棍棒を抱えて珍彦の館を指して荒れる勢いすさまじく進んで行った。
高姫は、初稚姫と楓が話しているところに現れて、二人に向かって棍棒を振りかざした。またもやスマートが駆けてきて、高姫をその場に押し倒した。高姫は怖気づいて自分の居間に逃げ帰り、夜具をかぶって震えていた。
スマートは高姫の後を追ってきて、扉を引っ掻きながら唸りたてている。高姫も、高姫の体内の悪霊も、スマートの声に縮み上がって固まり、ふるえていた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-07-20 21:04:47 文字数:5597 OBC :rm5013
愛善世界社版:175頁 八幡書店版:第9輯 214頁 修補版: 校定版:182頁 普及版:89頁 初版: ページ備考:
001 初稚姫(はつわかひめ)の居間(ゐま)には初稚姫(はつわかひめ)、002楓姫(かへでひめ)の二人(ふたり)が丸火鉢(まるひばち)を中(なか)に置(お)いて、003やさしい声(こゑ)で談話(だんわ)が始(はじ)まつてゐる。
004初稚姫『楓(かへで)さま、005お腹(はら)が立(た)つでせうけど、006そこを忍(しの)ぶのが勇者(ゆうしや)と云(い)ふものですよ。007なる勘忍(かんにん)は誰(たれ)もする、008ならぬ勘忍(かんにん)するが勘忍(かんにん)と申(まを)しまして、009忍耐(にんたい)位(くらゐ)善徳(ぜんとく)はありませぬ。010世(よ)の中(なか)の一切(いつさい)の事(こと)は忍耐(にんたい)によつて平和(へいわ)に治(をさ)まり、011又(また)忍耐(にんたい)せざるによつて騒動(さうだう)が起(おこ)るのです。012忍(しの)ぶと云(い)ふ字(じ)は刃(やいば)の下(した)に心(こころ)と云(い)ふ字(じ)を書(か)きませうがな。013胸(むね)に刃(やいば)を呑(の)む様(やう)な苦(くる)しさ残念(ざんねん)さも、014之(これ)に耐(た)へ得(う)るのが之(これ)が忍(しの)ぶです。015国祖(こくそ)大神(おほかみ)様(さま)は此(この)広大(くわうだい)な世界(せかい)をお造(つく)り遊(あそ)ばし数多(あまた)の神人(しんじん)を安住(あんぢゆう)させ、016サアこれで一息(ひといき)と云(い)ふ処(ところ)で、017金毛(きんまう)九尾(きうび)其(その)他(た)の悪神(あくがみ)の為(ため)に、018反対(はんたい)に国治立(くにはるたちの)尊(みこと)は悪神(あくがみ)だ、019祟(たた)り神(がみ)だと八百万(やほよろづ)の神(かみ)様(さま)にまで罵(ののし)られ、020又(また)千座(ちくら)の置戸(おきど)を負(お)はされて、021あるにあられぬ苦労(くらう)を遊(あそ)ばし、022口惜(くや)し残念(ざんねん)を耐(こば)りつめて只(ただ)の一言(ひとこと)も御(ご)不足(ふそく)らしい事(こと)は仰有(おつしや)らなかつたのですよ。023斎苑(いそ)の館(やかた)の生神(いきがみ)様(さま)、024素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)様(さま)も、025あるにあられぬ無実(むじつ)の罪(つみ)をきせられ、026頭(あたま)の毛(け)を一本(いつぽん)一本(いつぽん)抜(ぬ)きとられ、027手足(てあし)の爪(つめ)を剥(は)がれ、028髭(ひげ)を切(き)り、029其(その)上(うへ)に尊(たふと)き御(おん)身(み)を漂浪人(さすらひびと)として高天原(たかあまはら)より放逐(はうちく)され給(たま)ひながら、030少(すこ)しもお恨(うら)み遊(あそ)ばさず、031天下(てんか)万民(ばんみん)の罪(つみ)を一身(いつしん)に引受(ひきう)けて、032瑞(みづ)の御霊(みたま)と顕現(けんげん)し給(たま)ひ、033今(いま)や不心得(ふこころえ)千万(せんばん)な人間(にんげん)を善道(ぜんだう)に導(みちび)き、034天国(てんごく)の生涯(しやうがい)をいや永久(とこしへ)に嬉(うれ)しく楽(たの)しく、035一人(ひとり)もツツボに落(おと)さず助(たす)けてやらうとの思召(おぼしめし)で、036三五教(あななひけう)を天下(てんか)にお開(ひら)き遊(あそ)ばし、037妾(わらは)も其(その)手足(てあし)となつて天下(てんか)に其(その)宣伝(せんでん)をしてゐるので厶(ござ)ります。038貴女(あなた)も亦(また)此(この)尊(たふと)き大神(おほかみ)様(さま)にお仕(つか)へ遊(あそ)ばす珍彦(うづひこ)様(さま)のお娘子(むすめご)、039そして貴女(あなた)は三五教(あななひけう)の清(きよ)き尊(たふと)き信者(しんじや)なれば、040何程(なにほど)高姫(たかひめ)さまが無理(むり)難題(なんだい)を仰有(おつしや)つても、041一言(ひとこと)も怨(うら)んではなりませぬぞえ。042人間(にんげん)はチツとでも腹(はら)を立(た)てたり致(いた)しますと、043悪魔(あくま)が其(その)虚(きよ)に乗(じやう)じて其(その)霊(みたま)を亡(ほろ)ぼし、044遂(つひ)には肉体(にくたい)迄(まで)も亡(ほろ)ぼしますから、045腹(はら)を立(た)てる位(くらゐ)恐(おそ)ろしいものの、046損(そん)なものは厶(ござ)りませぬよ』
047楓『ハイ、048有難(ありがた)う厶(ござ)ります。049妾(わたし)も父(ちち)から忍耐(にんたい)の最(もつと)も必要(ひつえう)なること及(およ)び忍耐(にんたい)は万事(ばんじ)成功(せいこう)の基(もとゐ)であり、050人格(じんかく)の基礎(きそ)であると云(い)ふ事(こと)を聞(き)かされて居(を)りますが、051何分(なにぶん)はしたない女(をんな)ですから、052つひ心(こころ)の海(うみ)に荒波(あらなみ)が立(た)ちまして、053柔順(じうじゆん)なるべき女(をんな)の身(み)として高姫(たかひめ)様(さま)に対(たい)し暴言(ばうげん)を吐(は)きました。054今(いま)になつて思(おも)へば本当(ほんたう)に恥(はづ)かしう厶(ござ)ります。055神(かみ)様(さま)は妾(わたし)の我情(がじやう)我慢(がまん)をさぞお憎(にく)しみ遊(あそ)ばすで厶(ござ)んせうな』
056初稚姫『いえいえ、057決(けつ)してお案(あん)じなさいますな。058貴女(あなた)に其(その)お気(き)がついて今後(こんご)忍耐(にんたい)の徳(とく)をお養(やしな)ひなさいますれば、059決(けつ)して神(かみ)様(さま)はお咎(とが)め遊(あそ)ばす所(どころ)か、060大変(たいへん)にお喜(よろこ)び遊(あそ)ばし、061貴女(あなた)の霊(みたま)にも肉(にく)にも愛(あい)の光明(くわうみやう)を投(な)げ与(あた)へ給(たま)ひ、062此(この)世(よ)に於(おい)て最(もつと)も清(きよ)き美(うる)はしき大(おほ)いなるものと成(な)さしめ給(たま)ふもので厶(ござ)ります』
063楓『いろいろの御(ご)教訓(けうくん)、064身(み)に沁(し)み渡(わた)つて嬉(うれ)し涙(なみだ)が思(おも)はず零(こぼ)れて参(まゐ)ります。065扨(さ)て初稚姫(はつわかひめ)様(さま)、066高姫(たかひめ)様(さま)は今(いま)の悪心(あくしん)を改良(かいりやう)して下(くだ)さいますでせうか。067さうでなくては吾々(われわれ)は父母(ふぼ)両親(りやうしん)の身(み)の上(うへ)案(あん)じられてなりませぬがな』
068初稚姫『御尤(ごもつと)もで厶(ござ)ります。069貴女(あなた)が子(こ)として御(ご)両親(りやうしん)をそこ迄(まで)お思(おも)ひ遊(あそ)ばすのは実(じつ)に感(かん)じ入(い)つた御(お)心掛(こころが)けで厶(ござ)ります。070然(しか)しながら高姫(たかひめ)様(さま)には御(お)気(き)の毒(どく)ながら、071いろいろの悪霊(あくれい)が体内(たいない)に群居(ぐんきよ)して居(を)りますから、072到底(たうてい)吾々(われわれ)の力(ちから)では及(およ)びませぬ。073それだと申(まを)して高姫(たかひめ)様(さま)を魔道(まだう)へ落(おと)したくはありませぬ。074飽(あく)まで仁慈(じんじ)と忍耐(にんたい)とを以(もつ)て立派(りつぱ)なお方(かた)にして上(あ)げなくては、075吾々(われわれ)三五教(あななひけう)に仕(つか)ふるものの神(かみ)様(さま)に対(たい)する役(やく)が勤(つと)まりませぬからな』
076楓『如何(どう)致(いた)しましたら、077高姫(たかひめ)様(さま)を救(すく)ふ事(こと)が出来(でき)ませうかな』
078初稚姫『この上(うへ)は神(かみ)様(さま)の御(お)神力(ちから)を借(か)るより外(ほか)に道(みち)は厶(ござ)りませぬ。079そして何(なん)と仰有(おつしや)つても、080此方(こちら)は誠(まこと)と親切(しんせつ)と実意(じつい)と忍耐(にんたい)とを以(もつ)て相対(あひたい)する時(とき)は、081神(かみ)様(さま)のお恵(めぐみ)によりまして屹度(きつと)よいお方(かた)になつて下(くだ)さるでせう。082吾々(われわれ)は神(かみ)様(さま)から試験(しけん)問題(もんだい)を与(あた)へられた様(やう)なものですからな。083高姫(たかひめ)様(さま)を改心(かいしん)させる事(こと)が出来(でき)ない様(やう)だつたら、084妾(わらは)は宣伝使(せんでんし)等(など)と云(い)つて歩(ある)く事(こと)は出来(でき)ませぬ』
085楓『本当(ほんたう)に御(ご)苦労(くらう)様(さま)で厶(ござ)りますな。086妾(わたし)もこれから忍耐(にんたい)を第一(だいいち)とし、087高姫(たかひめ)様(さま)をわが父母(ちちはは)同様(どうやう)に敬(うやま)ひ愛(あい)する事(こと)に致(いた)しませう』
088初稚姫『ああよう云(い)うて下(くだ)さいました。089有難(ありがた)う厶(ござ)ります。090サア楓(かへで)さま、091お父(とう)さまやお母(かあ)さまがお待(ま)ち兼(か)ねで厶(ござ)りませうから、092追(お)ひ立(た)てた様(やう)で済(す)みませぬが一先(ひとま)づお帰(かへ)り下(くだ)さつて、093又(また)改(あらた)めて遊(あそ)びにおいで下(くだ)さいませ。094高姫(たかひめ)さまが今(いま)スマートに引(ひ)きずられ、095大変(たいへん)に逆上(ぎやくじやう)して居(を)られますから、096貴女(あなた)のお顔(かほ)を見(み)られたら、097何時(いつ)もの病気(びやうき)が又(また)再発(さいはつ)するかも知(し)れませぬからな』
098楓『左様(さやう)なれば御免(ごめん)を蒙(かうむ)ります。099貴女(あなた)と妾(わたし)と心(こころ)を合(あは)せて高姫(たかひめ)様(さま)を、100ねー、101……』
102と言葉(ことば)終(をは)らぬに、103高姫(たかひめ)は襖(ふすま)を蹴破(けやぶ)り夜叉(やしや)の如(ごと)き勢(いきほひ)にて、104闖入(ちんにふ)し来(きた)り、105怒(いか)りの面色(めんしよく)物凄(ものすご)く、106二人(ふたり)をハツタと睨(ね)めつけ、107声(こゑ)を震(ふる)はせながら、
108高姫『隠(かく)れたるより現(あら)はるるはなしとかや。109お前(まへ)等(たち)両人(りやうにん)は何(なに)を相談(さうだん)して厶(ござ)つた。110貴女(あなた)と妾(わたし)と心(こころ)を協(あは)して高姫(たかひめ)を、111ねー……とか狙(ねら)ふとか現(げん)に今(いま)云(い)つて居(ゐ)ただらう。112其(その)様(やう)な悪(わる)い企(たく)みを致(いた)して居(を)ると、113天罰(てんばつ)で忽(たちま)ち現(あら)はれませうがな。114誰(たれ)知(し)らぬかと思(おも)うても天(てん)知(し)る、115地(ち)知(し)る、116人(ひと)も知(し)る、117吾(われ)も知(し)る、118サア二人(ふたり)の方(かた)、119もう、120了簡(れうけん)がなりませぬ。121何(なに)を企(たく)んで厶(ござ)つた、122サア、123キツパリと白状(はくじやう)なさいませ。124これ楓(かへで)、125お前(まへ)は大(だい)それた義理(ぎり)天上(てんじやう)の生宮(いきみや)を騙討(だましうち)に致(いた)して、126後(うしろ)から小股(こまた)を攫(さら)へ、127私(わし)を前栽(ぜんさい)へおつ放(ぽ)り出(だ)し、128これ此(この)通(とほ)り向脛(むかふずね)を擦(す)り剥(む)かせ、129膝頭(ひざがしら)から血(ち)を出(だ)さしたぢやないか。130サア如何(どう)して下(くだ)さる。131もう了簡(れうけん)はしませぬぞや』
132楓『真(まこと)に済(す)まない事(こと)を致(いた)しました。133何卒(どうぞ)御(ご)了簡(れうけん)して下(くだ)さいませ。134妾(わたし)が悪(わる)う厶(ござ)りました』
135高姫『ヘン、136よう仰有(おつしや)いますわい。137「妾(わたし)が悪(わる)う厶(ござ)いました」とは、138それは何(なん)の事(こと)だい。139悪(わる)いと云(い)つて謝(あやま)つて事(こと)が済(す)むのなら世(よ)の中(なか)は悪(あく)の仕放題(しはうだい)だ。140売言葉(うりことば)に買言葉(かひことば)、141貰(もら)つたものは必(かなら)ず返礼(へんれい)せなくちやならない。142お前(まへ)さまも、143蟻(あり)一匹(いつぴき)とまつてもならぬと云(い)ふ大切(たいせつ)な向脛(むかふずね)を擦(す)り剥(む)かして下(くだ)さつたのだから、144私(わし)も此(この)儘(まま)で措(お)いちや真(まこと)に義理(ぎり)が済(す)みませぬ。145之(これ)から返礼(へんれい)に思(おも)ふ存分(ぞんぶん)こついて上(あ)げるから向脛(むかふずね)を出(だ)しなさい。146世(よ)の中(なか)は義理(ぎり)が大切(たいせつ)だ。147此(この)義理(ぎり)天上(てんじやう)が充分(じうぶん)にお礼(れい)を申(まを)しますぞや』
148と震(ふる)ひ声(ごゑ)に怒(いか)りを帯(お)び、149涙交(なみだまじ)りに喚(わめ)き立(た)てる。
150初稚姫『もし、151お母(かあ)様(さま)、152何卒(どうぞ)許(ゆる)してあげて下(くだ)さいませ。153まだお年(とし)も行(ゆ)かぬなり、154何卒(どうぞ)神直日(かむなほひ)、155大直日(おほなほひ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)し、156以後(いご)お慎(つつし)みなさるやうに妾(わたし)からも御(ご)注意(ちゆうい)を申上(まをしあ)げますから』
157高姫『ヘン、158これ初稚(はつわか)、159ようまあツベコベとそんな白々(しらじら)しい事(こと)が云(い)はれますな。160お前(まへ)さまは今(いま)楓(かへで)と二人(ふたり)で、161現(げん)に此(この)高姫(たかひめ)を二人(ふたり)が心(こころ)を協(あは)して狙(ねら)うてやらうと云(い)つて居(を)つたぢやありませぬか。162そんな事(こと)に誤魔化(ごまくわ)される義理(ぎり)天上(てんじやう)ぢやありませぬぞや。163お前(まへ)は杢助(もくすけ)さまの命令(めいれい)を聞(き)くと云(い)つて、164あの悪(わる)い犬(いぬ)を追(お)ひ返(かへ)したと云(い)うたのぢやないか。165それに何処(どこ)かへ隠(かく)して置(お)いて、166私(わし)をあんな非道(ひど)い目(め)に遇(あ)はし、167森(もり)の奥(おく)まで引張(ひつぱ)つてやらしたのも、168お前(まへ)さまの企(たく)みだらう。169イル、170イク、171サールやハル、172テルが来(き)て呉(く)れなかつたら私(わし)は殺(ころ)されて居(ゐ)る所(ところ)だ。173大悪人(だいあくにん)奴(め)が、174美(うつく)しい顔(かほ)して、175心(こころ)に針(はり)を包(つつ)んでをるお前(まへ)は悪魔(あくま)だ。176もう今日(けふ)から暇(ひま)をやります。177アタ穢(けが)らはしい、178お母(かあ)さま等(など)と仰有(おつしや)つて下(くだ)さいますな。179人殺(ひとごろし)の張本人(ちやうほんにん)奴(め)が、180鬼娘(おにむすめ)奴(め)が、181此(この)義理(ぎり)天上(てんじやう)はもう承知(しようち)しませぬぞや』
182初稚姫『お母(かあ)さま、183さう無息(むいき)に怒(おこ)つて下(くだ)さいますな。184何卒(どうぞ)一通(ひととほ)り聞(き)いて下(くだ)さいませ』
185 高姫(たかひめ)はニユツと舌(した)を出(だ)し、186赤(あか)ベイをしながら腮(あご)を三(み)つ四(よ)つシヤくつて見(み)せ、187冷笑(れいせう)を浮(うか)べて、188嘲(あざけ)るやうな口吻(くちぶり)で、
189高姫『ヘン、190仰有(おつしや)りますわい。191中々(なかなか)劫(ごふ)経(へ)た狸(たぬき)だな。192ここへ来(き)た時(とき)から只(ただ)の狸(たぬき)ぢやないと思(おも)うてゐたのだ。193けれど、194恋(こひ)しい恋(こひ)しい杢助(もくすけ)さまの娘(むすめ)だと思(おも)つて、195今(いま)まで可愛(かあい)がつてやれば増長(ぞうちよう)しよつて、196大(だい)それた事(こと)を企(たく)むとは、197言語(ごんご)道断(だうだん)な大悪党(だいあくたう)ではないか。198それ程(ほど)お前(まへ)さまが親切(しんせつ)さうに云(い)ふのなら、199何故(なぜ)私(わし)があの犬畜生(いぬちくしやう)に引張(ひつぱ)られてゐた時(とき)に助(たす)けに来(こ)なかつたのだ。200お前(まへ)は仮令(たとへ)名義(めいぎ)上(じやう)から云(い)つても私(わし)の娘(むすめ)ぢやないか。201チツと位(くらゐ)誠(まこと)があれば義理(ぎり)人情(にんじやう)も弁(わきま)へて居(ゐ)る筈(はず)だ。202イル、203イク、204サールのやうな訳(わけ)の分(わか)らぬヤンチヤでさへも、205マサカの時(とき)は私(わし)を助(たす)けに来(き)たぢやないか。206それに何事(なにごと)ぢやい。207ヌツケリコと、208現在(げんざい)母(はは)の私(わし)を大怪我(おほけが)さした楓(かへで)の阿魔(あま)を自分(じぶん)の部屋(へや)に引張(ひつぱ)り込(こ)み、209気楽(きらく)さうに私(わし)を○○しよう等(など)と、210大(だい)それた陰謀(いんぼう)を企(くはだ)てて居(を)つたぢやないか。211エー、212グヅグヅしておればお前(まへ)達(たち)にしてやられるかも知(し)れぬ、213先(さき)んずれば人(ひと)を制(せい)すだ。214覚悟(かくご)なされ』
215と言(い)ひながら棍棒(こんぼう)を打振(うちふ)り、216初稚姫(はつわかひめ)を打伸(うちの)めさうとする一刹那(いつせつな)、217俄(にはか)に駆(か)け込(こ)んで来(き)たスマートは「ワン」と一声(ひとこゑ)、218高姫(たかひめ)の裾(すそ)を喰(く)はへて又(また)もや後(うしろ)へ引倒(ひきたふ)した。219初稚姫(はつわかひめ)はスマートに向(むか)ひ、
220初稚姫『これ、221お前(まへ)、222何(なん)と云(い)ふ乱暴(らんばう)の事(こと)をなさるのだい。223早(はや)くお放(はな)しなさらぬか』
224とたしなめた。225スマートはビリビリと腹立(はらだ)たしさうに震(ふる)うてゐた。226けれども主人(しゆじん)の命令(めいれい)には背(そむ)き難(がた)く、227素直(すなほ)にパツと裾(すそ)を放(はな)した。228高姫(たかひめ)はツと立上(たちあが)り、229棕櫚箒(しゆろばうき)を以(もつ)てスマートの頭(あたま)をガンと殴(なぐ)つた。230スマートは怒(いか)つて飛(と)びつかうとするのを初稚姫(はつわかひめ)は「これ」と一声(ひとこゑ)かくれば、231スマートは残念(ざんねん)さうにして俯向(うつむ)いて了(しま)つた。
232初稚姫『これ、233スマートや、234決(けつ)してお母(かあ)さまに対(たい)し、235嚇(おど)かしちやなりませぬよ。236然(しか)しお前(まへ)は賢(かしこ)い犬(いぬ)だから、237お母(かあ)さまを引(ひ)きずつて行(い)つても、238何処(どこ)も咬(か)まなかつた事(こと)だけは偉(えら)かつたね』
239と頭(あたま)や首(くび)を撫(な)でスマートの心(こころ)を和(なご)めて居(ゐ)る。240高姫(たかひめ)は声(こゑ)荒(あら)らげて、
241高姫『エー、242汚(けが)らわしい初(はつ)、243楓(かへで)の阿魔(あま)、244ド畜生(ちくしやう)をつれて、245其方(そつち)行(い)つてくれ。246グヅグヅしてゐると義理(ぎり)天上(てんじやう)は死物狂(しにものぐるひ)だ。247どんな事(こと)を致(いた)すか知(し)りませぬぞや』
248と殆(ほとん)ど発狂(はつきやう)の態(てい)である。249初稚姫(はつわかひめ)は余(あま)り怒(おこ)らしては却(かへ)つて気(き)の毒(どく)と思(おも)ひ言葉(ことば)優(やさ)しく両手(りやうて)をついて、
250初稚姫『お母(かあ)さま、251えらい済(す)まない事(こと)で厶(ござ)りました。252左様(さやう)なれば仰(おほ)せに従(したが)ひ、253彼方(あちら)に控(ひか)へてゐますから、254御用(ごよう)が厶(ござ)りますれば何卒(どうぞ)お手(て)をお打(う)ち下(くだ)さいませ』
255高姫『ヘン、256そんな、257諂(へつら)ひ言葉(ことば)を喰(く)ふやうな私(わし)ぢや厶(ござ)りませぬわいの。258さアさア早(はや)く珍彦(うづひこ)さまの処(ところ)へでも行(い)つて、259シツポリと高姫(たかひめ)征伐(せいばつ)の相談会(さうだんくわい)でも開(ひら)いたがよいわいのう。260シーツ シーツ シーツこん畜生(ちくしやう)』
261と云(い)ひながら歯(は)の脱(ぬ)けた口(くち)から啖唾(たんつば)を吐(は)きかけ、262箒(はうき)を振(ふ)り廻(まは)し、263掃出(はきだ)さうとした。
264 初稚姫(はつわかひめ)、265楓(かへで)はスマートと共(とも)に、
266初稚姫、楓『御免(ごめん)なさいませ』
267と云(い)ひ捨(す)て、268匆々(さうさう)に此(この)場(ば)を辞(じ)し珍彦(うづひこ)の館(やかた)をさして出(い)でて行(ゆ)く。
269 後(あと)に高姫(たかひめ)は無念(むねん)の歯(は)をかみしめ、270虎狼(こらう)の如(ごと)き蛮声(ばんせい)を張上(はりあ)げて、
271高姫『エー、272ザ残念(ざんねん)や、273口惜(くちを)しやな。274悪神(あくがみ)共(ども)の計略(けいりやく)にかかり、275肝腎(かんじん)の杢助(もくすけ)様(さま)は怪我(けが)を遊(あそ)ばし何処(どこ)かへお出(い)でになり、276此(この)義理(ぎり)天上(てんじやう)は神(かみ)の生宮(いきみや)と云(い)ひながら、277珍彦(うづひこ)の魔法使(まはふづかひ)のために目(め)をこつかれ、278腰(こし)を挫(くじ)かれ、279其(その)上(うへ)あんな楓(かへで)の様(やう)な阿魔(あま)ツチヨに投(な)げつけられ、280ドン畜生(ちくしやう)には引(ひ)きずられ、281実(ほん)に之(これ)が黙(だま)つて辛抱(しんばう)が出来(でき)ようか』
282と云(い)ひながら火鉢(ひばち)を投(な)げつけ、283戸棚(とだな)の膳(ぜん)椀(わん)鉢(はち)等(など)を引(ひ)つ張(ぱ)り出(だ)しては戸外(こぐわい)へ投(な)げつけ、284「ガタンビシヤン、285ガチヤガチヤ」と神楽舞(かぐらまひ)を遺憾(ゐかん)なく演(えん)じ終(をは)り、286再(ふたた)び座敷(ざしき)の中央(まんなか)にドツカと坐(すわ)り、287首(くび)を上下(じやうげ)左右(さいう)に振(ふ)り、288泣(な)きしやくつてゐる。289忽(たちま)ち高姫(たかひめ)の腹中(ふくちう)より、
290(高姫の腹中より)『ワツハハハハハ、291俺(おれ)は初稚姫(はつわかひめ)の守護神(しゆごじん)だ。292初稚姫(はつわかひめ)に頼(たの)まれて此(この)肉体(にくたい)を亡(ほろ)ぼすべく入(い)り込(こ)んだのだぞよ。293もう一人(ひとり)は楓(かへで)の守護神(しゆごじん)だ。294何(なん)と小気味(こぎみ)のよいことだわいのう、295ウフフフフフ』
296とひとりでに笑(わら)ひ出(だ)した。297然(しか)し此(この)声(こゑ)は決(けつ)して初稚姫(はつわかひめ)に頼(たの)まれて這入(はい)つた守護神(しゆごじん)でもない、298又(また)楓(かへで)の守護神(しゆごじん)でもなかつた。299依然(いぜん)として高姫(たかひめ)の体内(たいない)に潜居(せんきよ)してゐる悪狐(あくこ)の声(こゑ)である。300されど高姫(たかひめ)は全(まつた)く両人(りやうにん)が高姫(たかひめ)の肉体(にくたい)を亡(ほろ)ぼすべく、301吾(わが)肉体(にくたい)に隙(すき)を窺(うかが)うて侵入(しんにふ)して来(き)たものと思(おも)うてゐるから堪(たま)らない。302これから両人(りやうにん)を憎(にく)む事(こと)蛇蝎(だかつ)の如(ごと)く、303隙(すき)さへあれば両人(りやうにん)を懲(こら)してやらねばおかぬと決心(けつしん)したのである。304凡(すべ)て悪霊(あくれい)が人(ひと)を傷(きず)つけ又(また)人(ひと)を苦(くる)しましめむとする時(とき)は、305右(みぎ)の如(ごと)き手段(しゆだん)を採(と)るものである。306例(たと)へば大本教(おほもとけう)を破壊(はくわい)せむとする悪霊(あくれい)は、307或(ある)社会(しやくわい)的(てき)勢力(せいりよく)を有(いう)する人間(にんげん)の体内(たいない)にソツと入(い)り、308内部(ないぶ)より大本教(おほもとけう)に対(たい)する悪口(あくこう)を囁(ささや)き、309之(これ)等(ら)の手(て)によつて破壊(はくわい)せむとするものも魔(ま)の中(なか)には沢山(たくさん)あるのである。310又(また)稍(やや)小(せう)なる魔(ま)に至(いた)つては病人(びやうにん)の体(たい)に入(い)り込(こ)み「此(この)方(はう)は大本(おほもと)から頼(たの)まれて其(その)方(はう)の命(いのち)を取(と)りに来(き)たものだ」等(など)と口走(くちばし)り、311名(な)を悪(わる)くせむと企(たく)むものである。312斯(かく)の如(ごと)き悪魔(あくま)は何時(いつ)の世(よ)にも頻々(ひんぴん)として現(あら)はれ来(きた)るものである。313故(ゆゑ)に役員(やくゐん)たり信者(しんじや)たりするものは、314充分(じうぶん)に霊界(れいかい)の消息(せうそく)に通(つう)じ、315彼(かれ)等(ら)の詐言(さげん)に迷(まよ)はされてはならぬのである。
316 扨(さ)て高姫(たかひめ)は自分(じぶん)の腹(はら)を例(れい)の如(ごと)く握(にぎ)り拳(こぶし)で三(み)つ四(よ)つ打叩(うちたた)きながら、317狂乱(きやうらん)の如(ごと)く怒(いか)りの声(こゑ)を張(は)り上(あ)げて、
318高姫『こりや、319悪神(あくがみ)の張本(ちやうほん)、320初稚姫(はつわかひめ)、321楓姫(かへでひめ)の生霊(いきりやう)奴(め)、322何(なん)と心得(こころえ)てる。323そんな事(こと)に往生(わうじやう)致(いた)す常世姫(とこよひめ)の身魂(みたま)、324義理(ぎり)天上(てんじやう)日出(ひのでの)神(かみ)の生宮(いきみや)ではないぞよ。325サア其(その)方(はう)は企(たく)みの次第(しだい)を逐一(ちくいち)白状(はくじやう)致(いた)せばよし、326致(いた)さぬに於(おい)ては此(この)方(はう)にも了簡(れうけん)があるぞよ。327どうだ、328返答(へんたふ)致(いた)せ』
329と喚(わめ)き立(た)てる。330腹中(ふくちう)より、
331(高姫の腹中より)『はい、332真(まこと)に済(す)まない事(こと)を致(いた)しました。333私(わたし)は初稚姫(はつわかひめ)の生霊(いきりやう)で厶(ござ)ります。334そしても一人(ひとり)は楓姫(かへでひめ)の生霊(いきりやう)で厶(ござ)ります。335どうかして吾々(われわれ)二人(ふたり)が力(ちから)を協(あは)せ、336日出(ひのでの)神(かみ)の生宮(いきみや)を亡(ほろ)ぼしてやらうと企(たく)んで這入(はい)りました。337併(しか)しながら貴女(あなた)の御(ご)神徳(しんとく)があまり強(つよ)いので、338如何(どう)する事(こと)も出来(でき)ませぬ。339ああ苦(くる)しい苦(くる)しい許(ゆる)して下(くだ)さいませな許(ゆる)して下(くだ)さいませな』
340と初稚姫(はつわかひめ)、341楓姫(かへでひめ)の声色(こわいろ)を使(つか)つて腹(はら)の中(なか)から詫(わ)び出(だ)した。342然(しか)し其(その)実(じつ)は依然(いぜん)として、343もとの兇霊(きようれい)の言葉(ことば)であり、344其(その)兇霊(きようれい)が初稚姫(はつわかひめ)の威光(ゐくわう)に畏(おそ)れ、345何(なん)とかして高姫(たかひめ)の肉体(にくたい)と喧嘩(けんくわ)をさせ、346ここを両人(りやうにん)とも追(お)ひ出(だ)し、347悠々(いういう)閑々(かんかん)として高姫(たかひめ)の体内(たいない)に棲(す)み、348わが目的(もくてき)を達(たつ)せむと企(たく)んだのである。349高姫(たかひめ)は之(これ)を聞(き)くより、
350高姫『うん、351よし、352悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)の四足(よつあし)身魂(みたま)、353了簡(れうけん)ならぬ』
354と喚(わめ)きながら棍棒(こんぼう)を小脇(こわき)に掻(か)い込(こ)み、355珍彦(うづひこ)の館(やかた)をさして阿修羅(あしゆら)王(わう)の荒(あ)れたる如(ごと)き勢(いきほひ)凄(すさま)じく、356火焔(くわえん)の熱(ねつ)を吐(は)きながら頭髪(とうはつ)を逆立(さかだ)て進(すす)み行(ゆ)く。357初稚姫(はつわかひめ)、358楓(かへで)の二人(ふたり)はヒソビソと話(はなし)をしてゐた。359そこへ高姫(たかひめ)は現(あら)はれ来(きた)り、
360高姫『悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)の四足(よつあし)、361思(おも)ひ知(し)れ』
362と樫(かし)の棍棒(こんぼう)を真向(まつかう)にふり翳(かざ)し、363今(いま)や打下(うちおろ)さむとする一刹那(いつせつな)、364何処(どこ)ともなくスマートは宙(ちう)を駆(かけ)りて飛(と)んで来(きた)り、365強力(がうりき)に任(まか)せて高姫(たかひめ)をトンと其(その)場(ば)に押倒(おしたふ)した。366高姫(たかひめ)はこの猛犬(まうけん)を見(み)て怖気(おぢけ)づき、367細(ほそ)くなつて再(ふたた)びわが居間(ゐま)に逃(に)げ帰(かへ)り、368中(なか)から戸障子(としやうじ)に突張(つつぱ)りをして、369夜具(やぐ)をひつ被(かぶ)つて震(ふる)へてゐた。370スマートは高姫(たかひめ)の後(あと)を追(お)つ駆(か)け来(きた)り、371戸(と)の外(そと)に足掻(あが)きをしながら、
372スマート『ウーウ ウーウ、373ワウワウワウ』
374と頻(しき)りに呻(うな)り立(た)ててゐる。375高姫(たかひめ)も体内(たいない)の悪霊(あくれい)も此(この)声(こゑ)に縮(ちぢ)み上(あが)り、376小(ちひ)さくなつて梢(こずゑ)に残(のこ)つた柴栗(しばぐり)の様(やう)に固(かた)まつて震(ふる)うてゐる。
377(大正一二・一・二一 旧一一・一二・五 北村隆光録)
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