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霊界物語
真善美愛(第49~60巻)
第50巻(丑の巻)
序文
総説
第1篇 和光同塵
第1章 至善至悪
第2章 照魔燈
第3章 高魔腹
第4章 御意犬
第2篇 兇党擡頭
第5章 霊肉問答
第6章 玉茸
第7章 負傷負傷
第8章 常世闇
第9章 真理方便
第3篇 神意と人情
第10章 据置貯金
第11章 鸚鵡返
第12章 敵愾心
第13章 盲嫌
第14章 虬の盃
第4篇 神犬の言霊
第15章 妖幻坊
第16章 鷹鷲掴
第17章 偽筆
第18章 安国使
第19章 逆語
第20章 悪魔払
第21章 犬嘩
余白歌
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霊界物語
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真善美愛(第49~60巻)
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第50巻(丑の巻)
> 第3篇 神意と人情 > 第13章 盲嫌
<<< 敵愾心
(B)
(N)
虬の盃 >>>
第一三章
盲嫌
(
まうけん
)
〔一三〇七〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第50巻 真善美愛 丑の巻
篇:
第3篇 神意と人情
よみ(新仮名遣い):
しんいとにんじょう
章:
第13章 盲嫌
よみ(新仮名遣い):
もうけん
通し章番号:
1307
口述日:
1923(大正12)年01月21日(旧12月5日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年12月7日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
初稚姫と楓は、火鉢を囲んでお道の話をしていた。いつしか話は高姫の話になり、さまざまな悪霊に魅入られている高姫を、二人で協力してなんとか救いたいものだと語り合っていた。
そこへ高姫がふすまをけ破って闖入してきた。二人をにらみつけて怒りに声を震わせながら、初稚姫と楓が、自分を害する相談をしていたと非難した。そして自分の足を後ろからさらえた楓を怒鳴りつけた。
楓は高姫に詫びを入れ、初稚姫もなだめようとしたが、高姫は逆にスマートに加えられたことに怒りだし、初稚姫を棍棒で打ち据えようとした。するとまたしてもスマートが駆けこんできて、高姫を引き倒した。初稚姫はスマートをおとなしくさせたが、高姫はスマートを一つ殴りつけ、怒鳴り散らして狂乱の態であった。
初稚姫、楓はスマートと共に珍彦の館をさして出て行った。高姫が火鉢を投げつけ、戸棚の膳や椀を投げつけて荒れ狂っていると、腹の中から声がして、自分たちは初稚姫と楓の生霊で、高姫の肉体を亡ぼすために取り憑いたのだ、と言い出した。
これは高姫自身の悪霊が、高姫が初稚姫・楓をますます憎むように仕向けるための策略であった。すべて悪霊が人を傷つけ苦しめようとするときは、このような手段を取って人間同士を憎しみ合わせるものである。大本の役員たり信者たるものは、十分に霊界の消息に通じて、彼らの詐言に迷わされてはならない。
高姫が怒りだすと、腹の中の声は、高姫の霊格の高さに往生したように芝居を打って、ますます高姫を増長させた。高姫は棍棒を抱えて珍彦の館を指して荒れる勢いすさまじく進んで行った。
高姫は、初稚姫と楓が話しているところに現れて、二人に向かって棍棒を振りかざした。またもやスマートが駆けてきて、高姫をその場に押し倒した。高姫は怖気づいて自分の居間に逃げ帰り、夜具をかぶって震えていた。
スマートは高姫の後を追ってきて、扉を引っ掻きながら唸りたてている。高姫も、高姫の体内の悪霊も、スマートの声に縮み上がって固まり、ふるえていた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-07-20 21:04:47
OBC :
rm5013
愛善世界社版:
175頁
八幡書店版:
第9輯 214頁
修補版:
校定版:
182頁
普及版:
89頁
初版:
ページ備考:
001
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
居間
(
ゐま
)
には
初稚姫
(
はつわかひめ
)
、
002
楓姫
(
かへでひめ
)
の
二人
(
ふたり
)
が
丸火鉢
(
まるひばち
)
を
中
(
なか
)
に
置
(
お
)
いて、
003
やさしい
声
(
こゑ
)
で
談話
(
だんわ
)
が
始
(
はじ
)
まつてゐる。
004
初稚姫
『
楓
(
かへで
)
さま、
005
お
腹
(
はら
)
が
立
(
た
)
つでせうけど、
006
そこを
忍
(
しの
)
ぶのが
勇者
(
ゆうしや
)
と
云
(
い
)
ふものですよ。
007
なる
勘忍
(
かんにん
)
は
誰
(
たれ
)
もする、
008
ならぬ
勘忍
(
かんにん
)
するが
勘忍
(
かんにん
)
と
申
(
まを
)
しまして、
009
忍耐
(
にんたい
)
位
(
くらゐ
)
善徳
(
ぜんとく
)
はありませぬ。
010
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
の
一切
(
いつさい
)
の
事
(
こと
)
は
忍耐
(
にんたい
)
によつて
平和
(
へいわ
)
に
治
(
をさ
)
まり、
011
又
(
また
)
忍耐
(
にんたい
)
せざるによつて
騒動
(
さうだう
)
が
起
(
おこ
)
るのです。
012
忍
(
しの
)
ぶと
云
(
い
)
ふ
字
(
じ
)
は
刃
(
やいば
)
の
下
(
した
)
に
心
(
こころ
)
と
云
(
い
)
ふ
字
(
じ
)
を
書
(
か
)
きませうがな。
013
胸
(
むね
)
に
刃
(
やいば
)
を
呑
(
の
)
む
様
(
やう
)
な
苦
(
くる
)
しさ
残念
(
ざんねん
)
さも、
014
之
(
これ
)
に
耐
(
た
)
へ
得
(
う
)
るのが
之
(
これ
)
が
忍
(
しの
)
ぶです。
015
国祖
(
こくそ
)
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
は
此
(
この
)
広大
(
くわうだい
)
な
世界
(
せかい
)
をお
造
(
つく
)
り
遊
(
あそ
)
ばし
数多
(
あまた
)
の
神人
(
しんじん
)
を
安住
(
あんぢゆう
)
させ、
016
サアこれで
一息
(
ひといき
)
と
云
(
い
)
ふ
処
(
ところ
)
で、
017
金毛
(
きんまう
)
九尾
(
きうび
)
其
(
その
)
他
(
た
)
の
悪神
(
あくがみ
)
の
為
(
ため
)
に、
018
反対
(
はんたい
)
に
国治立
(
くにはるたちの
)
尊
(
みこと
)
は
悪神
(
あくがみ
)
だ、
019
祟
(
たた
)
り
神
(
がみ
)
だと
八百万
(
やほよろづ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
にまで
罵
(
ののし
)
られ、
020
又
(
また
)
千座
(
ちくら
)
の
置戸
(
おきど
)
を
負
(
お
)
はされて、
021
あるにあられぬ
苦労
(
くらう
)
を
遊
(
あそ
)
ばし、
022
口惜
(
くや
)
し
残念
(
ざんねん
)
を
耐
(
こば
)
りつめて
只
(
ただ
)
の
一言
(
ひとこと
)
も
御
(
ご
)
不足
(
ふそく
)
らしい
事
(
こと
)
は
仰有
(
おつしや
)
らなかつたのですよ。
023
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
の
生神
(
いきがみ
)
様
(
さま
)
、
024
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
様
(
さま
)
も、
025
あるにあられぬ
無実
(
むじつ
)
の
罪
(
つみ
)
をきせられ、
026
頭
(
あたま
)
の
毛
(
け
)
を
一本
(
いつぽん
)
一本
(
いつぽん
)
抜
(
ぬ
)
きとられ、
027
手足
(
てあし
)
の
爪
(
つめ
)
を
剥
(
は
)
がれ、
028
髭
(
ひげ
)
を
切
(
き
)
り、
029
其
(
その
)
上
(
うへ
)
に
尊
(
たふと
)
き
御
(
おん
)
身
(
み
)
を
漂浪人
(
さすらひびと
)
として
高天原
(
たかあまはら
)
より
放逐
(
はうちく
)
され
給
(
たま
)
ひながら、
030
少
(
すこ
)
しもお
恨
(
うら
)
み
遊
(
あそ
)
ばさず、
031
天下
(
てんか
)
万民
(
ばんみん
)
の
罪
(
つみ
)
を
一身
(
いつしん
)
に
引受
(
ひきう
)
けて、
032
瑞
(
みづ
)
の
御霊
(
みたま
)
と
顕現
(
けんげん
)
し
給
(
たま
)
ひ、
033
今
(
いま
)
や
不心得
(
ふこころえ
)
千万
(
せんばん
)
な
人間
(
にんげん
)
を
善道
(
ぜんだう
)
に
導
(
みちび
)
き、
034
天国
(
てんごく
)
の
生涯
(
しやうがい
)
をいや
永久
(
とこしへ
)
に
嬉
(
うれ
)
しく
楽
(
たの
)
しく、
035
一人
(
ひとり
)
もツツボに
落
(
おと
)
さず
助
(
たす
)
けてやらうとの
思召
(
おぼしめし
)
で、
036
三五教
(
あななひけう
)
を
天下
(
てんか
)
にお
開
(
ひら
)
き
遊
(
あそ
)
ばし、
037
妾
(
わらは
)
も
其
(
その
)
手足
(
てあし
)
となつて
天下
(
てんか
)
に
其
(
その
)
宣伝
(
せんでん
)
をしてゐるので
厶
(
ござ
)
ります。
038
貴女
(
あなた
)
も
亦
(
また
)
此
(
この
)
尊
(
たふと
)
き
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
にお
仕
(
つか
)
へ
遊
(
あそ
)
ばす
珍彦
(
うづひこ
)
様
(
さま
)
のお
娘子
(
むすめご
)
、
039
そして
貴女
(
あなた
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
清
(
きよ
)
き
尊
(
たふと
)
き
信者
(
しんじや
)
なれば、
040
何程
(
なにほど
)
高姫
(
たかひめ
)
さまが
無理
(
むり
)
難題
(
なんだい
)
を
仰有
(
おつしや
)
つても、
041
一言
(
ひとこと
)
も
怨
(
うら
)
んではなりませぬぞえ。
042
人間
(
にんげん
)
はチツとでも
腹
(
はら
)
を
立
(
た
)
てたり
致
(
いた
)
しますと、
043
悪魔
(
あくま
)
が
其
(
その
)
虚
(
きよ
)
に
乗
(
じやう
)
じて
其
(
その
)
霊
(
みたま
)
を
亡
(
ほろ
)
ぼし、
044
遂
(
つひ
)
には
肉体
(
にくたい
)
迄
(
まで
)
も
亡
(
ほろ
)
ぼしますから、
045
腹
(
はら
)
を
立
(
た
)
てる
位
(
くらゐ
)
恐
(
おそ
)
ろしいものの、
046
損
(
そん
)
なものは
厶
(
ござ
)
りませぬよ』
047
楓
『ハイ、
048
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
ります。
049
妾
(
わたし
)
も
父
(
ちち
)
から
忍耐
(
にんたい
)
の
最
(
もつと
)
も
必要
(
ひつえう
)
なること
及
(
およ
)
び
忍耐
(
にんたい
)
は
万事
(
ばんじ
)
成功
(
せいこう
)
の
基
(
もとゐ
)
であり、
050
人格
(
じんかく
)
の
基礎
(
きそ
)
であると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
かされて
居
(
を
)
りますが、
051
何分
(
なにぶん
)
はしたない
女
(
をんな
)
ですから、
052
つひ
心
(
こころ
)
の
海
(
うみ
)
に
荒波
(
あらなみ
)
が
立
(
た
)
ちまして、
053
柔順
(
じうじゆん
)
なるべき
女
(
をんな
)
の
身
(
み
)
として
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
に
対
(
たい
)
し
暴言
(
ばうげん
)
を
吐
(
は
)
きました。
054
今
(
いま
)
になつて
思
(
おも
)
へば
本当
(
ほんたう
)
に
恥
(
はづ
)
かしう
厶
(
ござ
)
ります。
055
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
妾
(
わたし
)
の
我情
(
がじやう
)
我慢
(
がまん
)
をさぞお
憎
(
にく
)
しみ
遊
(
あそ
)
ばすで
厶
(
ござ
)
んせうな』
056
初稚姫
『いえいえ、
057
決
(
けつ
)
してお
案
(
あん
)
じなさいますな。
058
貴女
(
あなた
)
に
其
(
その
)
お
気
(
き
)
がついて
今後
(
こんご
)
忍耐
(
にんたい
)
の
徳
(
とく
)
をお
養
(
やしな
)
ひなさいますれば、
059
決
(
けつ
)
して
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
はお
咎
(
とが
)
め
遊
(
あそ
)
ばす
所
(
どころ
)
か、
060
大変
(
たいへん
)
にお
喜
(
よろこ
)
び
遊
(
あそ
)
ばし、
061
貴女
(
あなた
)
の
霊
(
みたま
)
にも
肉
(
にく
)
にも
愛
(
あい
)
の
光明
(
くわうみやう
)
を
投
(
な
)
げ
与
(
あた
)
へ
給
(
たま
)
ひ、
062
此
(
この
)
世
(
よ
)
に
於
(
おい
)
て
最
(
もつと
)
も
清
(
きよ
)
き
美
(
うる
)
はしき
大
(
おほ
)
いなるものと
成
(
な
)
さしめ
給
(
たま
)
ふもので
厶
(
ござ
)
ります』
063
楓
『いろいろの
御
(
ご
)
教訓
(
けうくん
)
、
064
身
(
み
)
に
沁
(
し
)
み
渡
(
わた
)
つて
嬉
(
うれ
)
し
涙
(
なみだ
)
が
思
(
おも
)
はず
零
(
こぼ
)
れて
参
(
まゐ
)
ります。
065
扨
(
さ
)
て
初稚姫
(
はつわかひめ
)
様
(
さま
)
、
066
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
は
今
(
いま
)
の
悪心
(
あくしん
)
を
改良
(
かいりやう
)
して
下
(
くだ
)
さいますでせうか。
067
さうでなくては
吾々
(
われわれ
)
は
父母
(
ふぼ
)
両親
(
りやうしん
)
の
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
案
(
あん
)
じられてなりませぬがな』
068
初稚姫
『
御尤
(
ごもつと
)
もで
厶
(
ござ
)
ります。
069
貴女
(
あなた
)
が
子
(
こ
)
として
御
(
ご
)
両親
(
りやうしん
)
をそこ
迄
(
まで
)
お
思
(
おも
)
ひ
遊
(
あそ
)
ばすのは
実
(
じつ
)
に
感
(
かん
)
じ
入
(
い
)
つた
御
(
お
)
心掛
(
こころが
)
けで
厶
(
ござ
)
ります。
070
然
(
しか
)
しながら
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
には
御
(
お
)
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
ながら、
071
いろいろの
悪霊
(
あくれい
)
が
体内
(
たいない
)
に
群居
(
ぐんきよ
)
して
居
(
を
)
りますから、
072
到底
(
たうてい
)
吾々
(
われわれ
)
の
力
(
ちから
)
では
及
(
およ
)
びませぬ。
073
それだと
申
(
まを
)
して
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
を
魔道
(
まだう
)
へ
落
(
おと
)
したくはありませぬ。
074
飽
(
あく
)
まで
仁慈
(
じんじ
)
と
忍耐
(
にんたい
)
とを
以
(
もつ
)
て
立派
(
りつぱ
)
なお
方
(
かた
)
にして
上
(
あ
)
げなくては、
075
吾々
(
われわれ
)
三五教
(
あななひけう
)
に
仕
(
つか
)
ふるものの
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
対
(
たい
)
する
役
(
やく
)
が
勤
(
つと
)
まりませぬからな』
076
楓
『
如何
(
どう
)
致
(
いた
)
しましたら、
077
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
を
救
(
すく
)
ふ
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ませうかな』
078
初稚姫
『この
上
(
うへ
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
神力
(
ちから
)
を
借
(
か
)
るより
外
(
ほか
)
に
道
(
みち
)
は
厶
(
ござ
)
りませぬ。
079
そして
何
(
なん
)
と
仰有
(
おつしや
)
つても、
080
此方
(
こちら
)
は
誠
(
まこと
)
と
親切
(
しんせつ
)
と
実意
(
じつい
)
と
忍耐
(
にんたい
)
とを
以
(
もつ
)
て
相対
(
あひたい
)
する
時
(
とき
)
は、
081
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
恵
(
めぐみ
)
によりまして
屹度
(
きつと
)
よいお
方
(
かた
)
になつて
下
(
くだ
)
さるでせう。
082
吾々
(
われわれ
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
から
試験
(
しけん
)
問題
(
もんだい
)
を
与
(
あた
)
へられた
様
(
やう
)
なものですからな。
083
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
を
改心
(
かいしん
)
させる
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ない
様
(
やう
)
だつたら、
084
妾
(
わらは
)
は
宣伝使
(
せんでんし
)
等
(
など
)
と
云
(
い
)
つて
歩
(
ある
)
く
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ませぬ』
085
楓
『
本当
(
ほんたう
)
に
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
様
(
さま
)
で
厶
(
ござ
)
りますな。
086
妾
(
わたし
)
もこれから
忍耐
(
にんたい
)
を
第一
(
だいいち
)
とし、
087
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
をわが
父母
(
ちちはは
)
同様
(
どうやう
)
に
敬
(
うやま
)
ひ
愛
(
あい
)
する
事
(
こと
)
に
致
(
いた
)
しませう』
088
初稚姫
『ああよう
云
(
い
)
うて
下
(
くだ
)
さいました。
089
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
ります。
090
サア
楓
(
かへで
)
さま、
091
お
父
(
とう
)
さまやお
母
(
かあ
)
さまがお
待
(
ま
)
ち
兼
(
か
)
ねで
厶
(
ござ
)
りませうから、
092
追
(
お
)
ひ
立
(
た
)
てた
様
(
やう
)
で
済
(
す
)
みませぬが
一先
(
ひとま
)
づお
帰
(
かへ
)
り
下
(
くだ
)
さつて、
093
又
(
また
)
改
(
あらた
)
めて
遊
(
あそ
)
びにおいで
下
(
くだ
)
さいませ。
094
高姫
(
たかひめ
)
さまが
今
(
いま
)
スマートに
引
(
ひ
)
きずられ、
095
大変
(
たいへん
)
に
逆上
(
ぎやくじやう
)
して
居
(
を
)
られますから、
096
貴女
(
あなた
)
のお
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
られたら、
097
何時
(
いつ
)
もの
病気
(
びやうき
)
が
又
(
また
)
再発
(
さいはつ
)
するかも
知
(
し
)
れませぬからな』
098
楓
『
左様
(
さやう
)
なれば
御免
(
ごめん
)
を
蒙
(
かうむ
)
ります。
099
貴女
(
あなた
)
と
妾
(
わたし
)
と
心
(
こころ
)
を
合
(
あは
)
せて
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
を、
100
ねー、
101
……』
102
と
言葉
(
ことば
)
終
(
をは
)
らぬに、
103
高姫
(
たかひめ
)
は
襖
(
ふすま
)
を
蹴破
(
けやぶ
)
り
夜叉
(
やしや
)
の
如
(
ごと
)
き
勢
(
いきほひ
)
にて、
104
闖入
(
ちんにふ
)
し
来
(
きた
)
り、
105
怒
(
いか
)
りの
面色
(
めんしよく
)
物凄
(
ものすご
)
く、
106
二人
(
ふたり
)
をハツタと
睨
(
ね
)
めつけ、
107
声
(
こゑ
)
を
震
(
ふる
)
はせながら、
108
高姫
『
隠
(
かく
)
れたるより
現
(
あら
)
はるるはなしとかや。
109
お
前
(
まへ
)
等
(
たち
)
両人
(
りやうにん
)
は
何
(
なに
)
を
相談
(
さうだん
)
して
厶
(
ござ
)
つた。
110
貴女
(
あなた
)
と
妾
(
わたし
)
と
心
(
こころ
)
を
協
(
あは
)
して
高姫
(
たかひめ
)
を、
111
ねー……とか
狙
(
ねら
)
ふとか
現
(
げん
)
に
今
(
いま
)
云
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
ただらう。
112
其
(
その
)
様
(
やう
)
な
悪
(
わる
)
い
企
(
たく
)
みを
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
ると、
113
天罰
(
てんばつ
)
で
忽
(
たちま
)
ち
現
(
あら
)
はれませうがな。
114
誰
(
たれ
)
知
(
し
)
らぬかと
思
(
おも
)
うても
天
(
てん
)
知
(
し
)
る、
115
地
(
ち
)
知
(
し
)
る、
116
人
(
ひと
)
も
知
(
し
)
る、
117
吾
(
われ
)
も
知
(
し
)
る、
118
サア
二人
(
ふたり
)
の
方
(
かた
)
、
119
もう、
120
了簡
(
れうけん
)
がなりませぬ。
121
何
(
なに
)
を
企
(
たく
)
んで
厶
(
ござ
)
つた、
122
サア、
123
キツパリと
白状
(
はくじやう
)
なさいませ。
124
これ
楓
(
かへで
)
、
125
お
前
(
まへ
)
は
大
(
だい
)
それた
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
の
生宮
(
いきみや
)
を
騙討
(
だましうち
)
に
致
(
いた
)
して、
126
後
(
うしろ
)
から
小股
(
こまた
)
を
攫
(
さら
)
へ、
127
私
(
わし
)
を
前栽
(
ぜんさい
)
へおつ
放
(
ぽ
)
り
出
(
だ
)
し、
128
これ
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
向脛
(
むかふずね
)
を
擦
(
す
)
り
剥
(
む
)
かせ、
129
膝頭
(
ひざがしら
)
から
血
(
ち
)
を
出
(
だ
)
さしたぢやないか。
130
サア
如何
(
どう
)
して
下
(
くだ
)
さる。
131
もう
了簡
(
れうけん
)
はしませぬぞや』
132
楓
『
真
(
まこと
)
に
済
(
す
)
まない
事
(
こと
)
を
致
(
いた
)
しました。
133
何卒
(
どうぞ
)
御
(
ご
)
了簡
(
れうけん
)
して
下
(
くだ
)
さいませ。
134
妾
(
わたし
)
が
悪
(
わる
)
う
厶
(
ござ
)
りました』
135
高姫
『ヘン、
136
よう
仰有
(
おつしや
)
いますわい。
137
「
妾
(
わたし
)
が
悪
(
わる
)
う
厶
(
ござ
)
いました」とは、
138
それは
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
だい。
139
悪
(
わる
)
いと
云
(
い
)
つて
謝
(
あやま
)
つて
事
(
こと
)
が
済
(
す
)
むのなら
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
悪
(
あく
)
の
仕放題
(
しはうだい
)
だ。
140
売言葉
(
うりことば
)
に
買言葉
(
かひことば
)
、
141
貰
(
もら
)
つたものは
必
(
かなら
)
ず
返礼
(
へんれい
)
せなくちやならない。
142
お
前
(
まへ
)
さまも、
143
蟻
(
あり
)
一匹
(
いつぴき
)
とまつてもならぬと
云
(
い
)
ふ
大切
(
たいせつ
)
な
向脛
(
むかふずね
)
を
擦
(
す
)
り
剥
(
む
)
かして
下
(
くだ
)
さつたのだから、
144
私
(
わし
)
も
此
(
この
)
儘
(
まま
)
で
措
(
お
)
いちや
真
(
まこと
)
に
義理
(
ぎり
)
が
済
(
す
)
みませぬ。
145
之
(
これ
)
から
返礼
(
へんれい
)
に
思
(
おも
)
ふ
存分
(
ぞんぶん
)
こついて
上
(
あ
)
げるから
向脛
(
むかふずね
)
を
出
(
だ
)
しなさい。
146
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
義理
(
ぎり
)
が
大切
(
たいせつ
)
だ。
147
此
(
この
)
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
が
充分
(
じうぶん
)
にお
礼
(
れい
)
を
申
(
まを
)
しますぞや』
148
と
震
(
ふる
)
ひ
声
(
ごゑ
)
に
怒
(
いか
)
りを
帯
(
お
)
び、
149
涙交
(
なみだまじ
)
りに
喚
(
わめ
)
き
立
(
た
)
てる。
150
初稚姫
『もし、
151
お
母
(
かあ
)
様
(
さま
)
、
152
何卒
(
どうぞ
)
許
(
ゆる
)
してあげて
下
(
くだ
)
さいませ。
153
まだお
年
(
とし
)
も
行
(
ゆ
)
かぬなり、
154
何卒
(
どうぞ
)
神直日
(
かむなほひ
)
、
155
大直日
(
おほなほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
聞直
(
ききなほ
)
し、
156
以後
(
いご
)
お
慎
(
つつし
)
みなさるやうに
妾
(
わたし
)
からも
御
(
ご
)
注意
(
ちゆうい
)
を
申上
(
まをしあ
)
げますから』
157
高姫
『ヘン、
158
これ
初稚
(
はつわか
)
、
159
ようまあツベコベとそんな
白々
(
しらじら
)
しい
事
(
こと
)
が
云
(
い
)
はれますな。
160
お
前
(
まへ
)
さまは
今
(
いま
)
楓
(
かへで
)
と
二人
(
ふたり
)
で、
161
現
(
げん
)
に
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
を
二人
(
ふたり
)
が
心
(
こころ
)
を
協
(
あは
)
して
狙
(
ねら
)
うてやらうと
云
(
い
)
つて
居
(
を
)
つたぢやありませぬか。
162
そんな
事
(
こと
)
に
誤魔化
(
ごまくわ
)
される
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
ぢやありませぬぞや。
163
お
前
(
まへ
)
は
杢助
(
もくすけ
)
さまの
命令
(
めいれい
)
を
聞
(
き
)
くと
云
(
い
)
つて、
164
あの
悪
(
わる
)
い
犬
(
いぬ
)
を
追
(
お
)
ひ
返
(
かへ
)
したと
云
(
い
)
うたのぢやないか。
165
それに
何処
(
どこ
)
かへ
隠
(
かく
)
して
置
(
お
)
いて、
166
私
(
わし
)
をあんな
非道
(
ひど
)
い
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
はし、
167
森
(
もり
)
の
奥
(
おく
)
まで
引張
(
ひつぱ
)
つてやらしたのも、
168
お
前
(
まへ
)
さまの
企
(
たく
)
みだらう。
169
イル、
170
イク、
171
サールやハル、
172
テルが
来
(
き
)
て
呉
(
く
)
れなかつたら
私
(
わし
)
は
殺
(
ころ
)
されて
居
(
ゐ
)
る
所
(
ところ
)
だ。
173
大悪人
(
だいあくにん
)
奴
(
め
)
が、
174
美
(
うつく
)
しい
顔
(
かほ
)
して、
175
心
(
こころ
)
に
針
(
はり
)
を
包
(
つつ
)
んでをるお
前
(
まへ
)
は
悪魔
(
あくま
)
だ。
176
もう
今日
(
けふ
)
から
暇
(
ひま
)
をやります。
177
アタ
穢
(
けが
)
らはしい、
178
お
母
(
かあ
)
さま
等
(
など
)
と
仰有
(
おつしや
)
つて
下
(
くだ
)
さいますな。
179
人殺
(
ひとごろし
)
の
張本人
(
ちやうほんにん
)
奴
(
め
)
が、
180
鬼娘
(
おにむすめ
)
奴
(
め
)
が、
181
此
(
この
)
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
はもう
承知
(
しようち
)
しませぬぞや』
182
初稚姫
『お
母
(
かあ
)
さま、
183
さう
無息
(
むいき
)
に
怒
(
おこ
)
つて
下
(
くだ
)
さいますな。
184
何卒
(
どうぞ
)
一通
(
ひととほ
)
り
聞
(
き
)
いて
下
(
くだ
)
さいませ』
185
高姫
(
たかひめ
)
はニユツと
舌
(
した
)
を
出
(
だ
)
し、
186
赤
(
あか
)
ベイをしながら
腮
(
あご
)
を
三
(
み
)
つ
四
(
よ
)
つシヤくつて
見
(
み
)
せ、
187
冷笑
(
れいせう
)
を
浮
(
うか
)
べて、
188
嘲
(
あざけ
)
るやうな
口吻
(
くちぶり
)
で、
189
高姫
『ヘン、
190
仰有
(
おつしや
)
りますわい。
191
中々
(
なかなか
)
劫
(
ごふ
)
経
(
へ
)
た
狸
(
たぬき
)
だな。
192
ここへ
来
(
き
)
た
時
(
とき
)
から
只
(
ただ
)
の
狸
(
たぬき
)
ぢやないと
思
(
おも
)
うてゐたのだ。
193
けれど、
194
恋
(
こひ
)
しい
恋
(
こひ
)
しい
杢助
(
もくすけ
)
さまの
娘
(
むすめ
)
だと
思
(
おも
)
つて、
195
今
(
いま
)
まで
可愛
(
かあい
)
がつてやれば
増長
(
ぞうちよう
)
しよつて、
196
大
(
だい
)
それた
事
(
こと
)
を
企
(
たく
)
むとは、
197
言語
(
ごんご
)
道断
(
だうだん
)
な
大悪党
(
だいあくたう
)
ではないか。
198
それ
程
(
ほど
)
お
前
(
まへ
)
さまが
親切
(
しんせつ
)
さうに
云
(
い
)
ふのなら、
199
何故
(
なぜ
)
私
(
わし
)
があの
犬畜生
(
いぬちくしやう
)
に
引張
(
ひつぱ
)
られてゐた
時
(
とき
)
に
助
(
たす
)
けに
来
(
こ
)
なかつたのだ。
200
お
前
(
まへ
)
は
仮令
(
たとへ
)
名義
(
めいぎ
)
上
(
じやう
)
から
云
(
い
)
つても
私
(
わし
)
の
娘
(
むすめ
)
ぢやないか。
201
チツと
位
(
くらゐ
)
誠
(
まこと
)
があれば
義理
(
ぎり
)
人情
(
にんじやう
)
も
弁
(
わきま
)
へて
居
(
ゐ
)
る
筈
(
はず
)
だ。
202
イル、
203
イク、
204
サールのやうな
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬヤンチヤでさへも、
205
マサカの
時
(
とき
)
は
私
(
わし
)
を
助
(
たす
)
けに
来
(
き
)
たぢやないか。
206
それに
何事
(
なにごと
)
ぢやい。
207
ヌツケリコと、
208
現在
(
げんざい
)
母
(
はは
)
の
私
(
わし
)
を
大怪我
(
おほけが
)
さした
楓
(
かへで
)
の
阿魔
(
あま
)
を
自分
(
じぶん
)
の
部屋
(
へや
)
に
引張
(
ひつぱ
)
り
込
(
こ
)
み、
209
気楽
(
きらく
)
さうに
私
(
わし
)
を○○しよう
等
(
など
)
と、
210
大
(
だい
)
それた
陰謀
(
いんぼう
)
を
企
(
くはだ
)
てて
居
(
を
)
つたぢやないか。
211
エー、
212
グヅグヅしておればお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
にしてやられるかも
知
(
し
)
れぬ、
213
先
(
さき
)
んずれば
人
(
ひと
)
を
制
(
せい
)
すだ。
214
覚悟
(
かくご
)
なされ』
215
と
言
(
い
)
ひながら
棍棒
(
こんぼう
)
を
打振
(
うちふ
)
り、
216
初稚姫
(
はつわかひめ
)
を
打伸
(
うちの
)
めさうとする
一刹那
(
いつせつな
)
、
217
俄
(
にはか
)
に
駆
(
か
)
け
込
(
こ
)
んで
来
(
き
)
たスマートは「ワン」と
一声
(
ひとこゑ
)
、
218
高姫
(
たかひめ
)
の
裾
(
すそ
)
を
喰
(
く
)
はへて
又
(
また
)
もや
後
(
うしろ
)
へ
引倒
(
ひきたふ
)
した。
219
初稚姫
(
はつわかひめ
)
はスマートに
向
(
むか
)
ひ、
220
初稚姫
『これ、
221
お
前
(
まへ
)
、
222
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
乱暴
(
らんばう
)
の
事
(
こと
)
をなさるのだい。
223
早
(
はや
)
くお
放
(
はな
)
しなさらぬか』
224
とたしなめた。
225
スマートはビリビリと
腹立
(
はらだ
)
たしさうに
震
(
ふる
)
うてゐた。
226
けれども
主人
(
しゆじん
)
の
命令
(
めいれい
)
には
背
(
そむ
)
き
難
(
がた
)
く、
227
素直
(
すなほ
)
にパツと
裾
(
すそ
)
を
放
(
はな
)
した。
228
高姫
(
たかひめ
)
はツと
立上
(
たちあが
)
り、
229
棕櫚箒
(
しゆろばうき
)
を
以
(
もつ
)
てスマートの
頭
(
あたま
)
をガンと
殴
(
なぐ
)
つた。
230
スマートは
怒
(
いか
)
つて
飛
(
と
)
びつかうとするのを
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は「これ」と
一声
(
ひとこゑ
)
かくれば、
231
スマートは
残念
(
ざんねん
)
さうにして
俯向
(
うつむ
)
いて
了
(
しま
)
つた。
232
初稚姫
『これ、
233
スマートや、
234
決
(
けつ
)
してお
母
(
かあ
)
さまに
対
(
たい
)
し、
235
嚇
(
おど
)
かしちやなりませぬよ。
236
然
(
しか
)
しお
前
(
まへ
)
は
賢
(
かしこ
)
い
犬
(
いぬ
)
だから、
237
お
母
(
かあ
)
さまを
引
(
ひ
)
きずつて
行
(
い
)
つても、
238
何処
(
どこ
)
も
咬
(
か
)
まなかつた
事
(
こと
)
だけは
偉
(
えら
)
かつたね』
239
と
頭
(
あたま
)
や
首
(
くび
)
を
撫
(
な
)
でスマートの
心
(
こころ
)
を
和
(
なご
)
めて
居
(
ゐ
)
る。
240
高姫
(
たかひめ
)
は
声
(
こゑ
)
荒
(
あら
)
らげて、
241
高姫
『エー、
242
汚
(
けが
)
らわしい
初
(
はつ
)
、
243
楓
(
かへで
)
の
阿魔
(
あま
)
、
244
ド
畜生
(
ちくしやう
)
をつれて、
245
其方
(
そつち
)
行
(
い
)
つてくれ。
246
グヅグヅしてゐると
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
は
死物狂
(
しにものぐるひ
)
だ。
247
どんな
事
(
こと
)
を
致
(
いた
)
すか
知
(
し
)
りませぬぞや』
248
と
殆
(
ほとん
)
ど
発狂
(
はつきやう
)
の
態
(
てい
)
である。
249
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
余
(
あま
)
り
怒
(
おこ
)
らしては
却
(
かへ
)
つて
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
と
思
(
おも
)
ひ
言葉
(
ことば
)
優
(
やさ
)
しく
両手
(
りやうて
)
をついて、
250
初稚姫
『お
母
(
かあ
)
さま、
251
えらい
済
(
す
)
まない
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
りました。
252
左様
(
さやう
)
なれば
仰
(
おほ
)
せに
従
(
したが
)
ひ、
253
彼方
(
あちら
)
に
控
(
ひか
)
へてゐますから、
254
御用
(
ごよう
)
が
厶
(
ござ
)
りますれば
何卒
(
どうぞ
)
お
手
(
て
)
をお
打
(
う
)
ち
下
(
くだ
)
さいませ』
255
高姫
『ヘン、
256
そんな、
257
諂
(
へつら
)
ひ
言葉
(
ことば
)
を
喰
(
く
)
ふやうな
私
(
わし
)
ぢや
厶
(
ござ
)
りませぬわいの。
258
さアさア
早
(
はや
)
く
珍彦
(
うづひこ
)
さまの
処
(
ところ
)
へでも
行
(
い
)
つて、
259
シツポリと
高姫
(
たかひめ
)
征伐
(
せいばつ
)
の
相談会
(
さうだんくわい
)
でも
開
(
ひら
)
いたがよいわいのう。
260
シーツ シーツ シーツこん
畜生
(
ちくしやう
)
』
261
と
云
(
い
)
ひながら
歯
(
は
)
の
脱
(
ぬ
)
けた
口
(
くち
)
から
啖唾
(
たんつば
)
を
吐
(
は
)
きかけ、
262
箒
(
はうき
)
を
振
(
ふ
)
り
廻
(
まは
)
し、
263
掃出
(
はきだ
)
さうとした。
264
初稚姫
(
はつわかひめ
)
、
265
楓
(
かへで
)
はスマートと
共
(
とも
)
に、
266
初稚姫、楓
『
御免
(
ごめん
)
なさいませ』
267
と
云
(
い
)
ひ
捨
(
す
)
て、
268
匆々
(
さうさう
)
に
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
辞
(
じ
)
し
珍彦
(
うづひこ
)
の
館
(
やかた
)
をさして
出
(
い
)
でて
行
(
ゆ
)
く。
269
後
(
あと
)
に
高姫
(
たかひめ
)
は
無念
(
むねん
)
の
歯
(
は
)
をかみしめ、
270
虎狼
(
こらう
)
の
如
(
ごと
)
き
蛮声
(
ばんせい
)
を
張上
(
はりあ
)
げて、
271
高姫
『エー、
272
ザ
残念
(
ざんねん
)
や、
273
口惜
(
くちを
)
しやな。
274
悪神
(
あくがみ
)
共
(
ども
)
の
計略
(
けいりやく
)
にかかり、
275
肝腎
(
かんじん
)
の
杢助
(
もくすけ
)
様
(
さま
)
は
怪我
(
けが
)
を
遊
(
あそ
)
ばし
何処
(
どこ
)
かへお
出
(
い
)
でになり、
276
此
(
この
)
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
は
神
(
かみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
と
云
(
い
)
ひながら、
277
珍彦
(
うづひこ
)
の
魔法使
(
まはふづかひ
)
のために
目
(
め
)
をこつかれ、
278
腰
(
こし
)
を
挫
(
くじ
)
かれ、
279
其
(
その
)
上
(
うへ
)
あんな
楓
(
かへで
)
の
様
(
やう
)
な
阿魔
(
あま
)
ツチヨに
投
(
な
)
げつけられ、
280
ドン
畜生
(
ちくしやう
)
には
引
(
ひ
)
きずられ、
281
実
(
ほん
)
に
之
(
これ
)
が
黙
(
だま
)
つて
辛抱
(
しんばう
)
が
出来
(
でき
)
ようか』
282
と
云
(
い
)
ひながら
火鉢
(
ひばち
)
を
投
(
な
)
げつけ、
283
戸棚
(
とだな
)
の
膳
(
ぜん
)
椀
(
わん
)
鉢
(
はち
)
等
(
など
)
を
引
(
ひ
)
つ
張
(
ぱ
)
り
出
(
だ
)
しては
戸外
(
こぐわい
)
へ
投
(
な
)
げつけ、
284
「ガタンビシヤン、
285
ガチヤガチヤ」と
神楽舞
(
かぐらまひ
)
を
遺憾
(
ゐかん
)
なく
演
(
えん
)
じ
終
(
をは
)
り、
286
再
(
ふたた
)
び
座敷
(
ざしき
)
の
中央
(
まんなか
)
にドツカと
坐
(
すわ
)
り、
287
首
(
くび
)
を
上下
(
じやうげ
)
左右
(
さいう
)
に
振
(
ふ
)
り、
288
泣
(
な
)
きしやくつてゐる。
289
忽
(
たちま
)
ち
高姫
(
たかひめ
)
の
腹中
(
ふくちう
)
より、
290
(高姫の腹中より)
『ワツハハハハハ、
291
俺
(
おれ
)
は
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
守護神
(
しゆごじん
)
だ。
292
初稚姫
(
はつわかひめ
)
に
頼
(
たの
)
まれて
此
(
この
)
肉体
(
にくたい
)
を
亡
(
ほろ
)
ぼすべく
入
(
い
)
り
込
(
こ
)
んだのだぞよ。
293
もう
一人
(
ひとり
)
は
楓
(
かへで
)
の
守護神
(
しゆごじん
)
だ。
294
何
(
なん
)
と
小気味
(
こぎみ
)
のよいことだわいのう、
295
ウフフフフフ』
296
と
ひとり
でに
笑
(
わら
)
ひ
出
(
だ
)
した。
297
然
(
しか
)
し
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
は
決
(
けつ
)
して
初稚姫
(
はつわかひめ
)
に
頼
(
たの
)
まれて
這入
(
はい
)
つた
守護神
(
しゆごじん
)
でもない、
298
又
(
また
)
楓
(
かへで
)
の
守護神
(
しゆごじん
)
でもなかつた。
299
依然
(
いぜん
)
として
高姫
(
たかひめ
)
の
体内
(
たいない
)
に
潜居
(
せんきよ
)
してゐる
悪狐
(
あくこ
)
の
声
(
こゑ
)
である。
300
されど
高姫
(
たかひめ
)
は
全
(
まつた
)
く
両人
(
りやうにん
)
が
高姫
(
たかひめ
)
の
肉体
(
にくたい
)
を
亡
(
ほろ
)
ぼすべく、
301
吾
(
わが
)
肉体
(
にくたい
)
に
隙
(
すき
)
を
窺
(
うかが
)
うて
侵入
(
しんにふ
)
して
来
(
き
)
たものと
思
(
おも
)
うてゐるから
堪
(
たま
)
らない。
302
これから
両人
(
りやうにん
)
を
憎
(
にく
)
む
事
(
こと
)
蛇蝎
(
だかつ
)
の
如
(
ごと
)
く、
303
隙
(
すき
)
さへあれば
両人
(
りやうにん
)
を
懲
(
こら
)
してやらねばおかぬと
決心
(
けつしん
)
したのである。
304
凡
(
すべ
)
て
悪霊
(
あくれい
)
が
人
(
ひと
)
を
傷
(
きず
)
つけ
又
(
また
)
人
(
ひと
)
を
苦
(
くる
)
しましめむとする
時
(
とき
)
は、
305
右
(
みぎ
)
の
如
(
ごと
)
き
手段
(
しゆだん
)
を
採
(
と
)
るものである。
306
例
(
たと
)
へば
大本教
(
おほもとけう
)
を
破壊
(
はくわい
)
せむとする
悪霊
(
あくれい
)
は、
307
或
(
ある
)
社会
(
しやくわい
)
的
(
てき
)
勢力
(
せいりよく
)
を
有
(
いう
)
する
人間
(
にんげん
)
の
体内
(
たいない
)
にソツと
入
(
い
)
り、
308
内部
(
ないぶ
)
より
大本教
(
おほもとけう
)
に
対
(
たい
)
する
悪口
(
あくこう
)
を
囁
(
ささや
)
き、
309
之
(
これ
)
等
(
ら
)
の
手
(
て
)
によつて
破壊
(
はくわい
)
せむとするものも
魔
(
ま
)
の
中
(
なか
)
には
沢山
(
たくさん
)
あるのである。
310
又
(
また
)
稍
(
やや
)
小
(
せう
)
なる
魔
(
ま
)
に
至
(
いた
)
つては
病人
(
びやうにん
)
の
体
(
たい
)
に
入
(
い
)
り
込
(
こ
)
み「
此
(
この
)
方
(
はう
)
は
大本
(
おほもと
)
から
頼
(
たの
)
まれて
其
(
その
)
方
(
はう
)
の
命
(
いのち
)
を
取
(
と
)
りに
来
(
き
)
たものだ」
等
(
など
)
と
口走
(
くちばし
)
り、
311
名
(
な
)
を
悪
(
わる
)
くせむと
企
(
たく
)
むものである。
312
斯
(
かく
)
の
如
(
ごと
)
き
悪魔
(
あくま
)
は
何時
(
いつ
)
の
世
(
よ
)
にも
頻々
(
ひんぴん
)
として
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
るものである。
313
故
(
ゆゑ
)
に
役員
(
やくゐん
)
たり
信者
(
しんじや
)
たりするものは、
314
充分
(
じうぶん
)
に
霊界
(
れいかい
)
の
消息
(
せうそく
)
に
通
(
つう
)
じ、
315
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
の
詐言
(
さげん
)
に
迷
(
まよ
)
はされてはならぬのである。
316
扨
(
さ
)
て
高姫
(
たかひめ
)
は
自分
(
じぶん
)
の
腹
(
はら
)
を
例
(
れい
)
の
如
(
ごと
)
く
握
(
にぎ
)
り
拳
(
こぶし
)
で
三
(
み
)
つ
四
(
よ
)
つ
打叩
(
うちたた
)
きながら、
317
狂乱
(
きやうらん
)
の
如
(
ごと
)
く
怒
(
いか
)
りの
声
(
こゑ
)
を
張
(
は
)
り
上
(
あ
)
げて、
318
高姫
『こりや、
319
悪神
(
あくがみ
)
の
張本
(
ちやうほん
)
、
320
初稚姫
(
はつわかひめ
)
、
321
楓姫
(
かへでひめ
)
の
生霊
(
いきりやう
)
奴
(
め
)
、
322
何
(
なん
)
と
心得
(
こころえ
)
てる。
323
そんな
事
(
こと
)
に
往生
(
わうじやう
)
致
(
いた
)
す
常世姫
(
とこよひめ
)
の
身魂
(
みたま
)
、
324
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
ではないぞよ。
325
サア
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
企
(
たく
)
みの
次第
(
しだい
)
を
逐一
(
ちくいち
)
白状
(
はくじやう
)
致
(
いた
)
せばよし、
326
致
(
いた
)
さぬに
於
(
おい
)
ては
此
(
この
)
方
(
はう
)
にも
了簡
(
れうけん
)
があるぞよ。
327
どうだ、
328
返答
(
へんたふ
)
致
(
いた
)
せ』
329
と
喚
(
わめ
)
き
立
(
た
)
てる。
330
腹中
(
ふくちう
)
より、
331
(高姫の腹中より)
『はい、
332
真
(
まこと
)
に
済
(
す
)
まない
事
(
こと
)
を
致
(
いた
)
しました。
333
私
(
わたし
)
は
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
生霊
(
いきりやう
)
で
厶
(
ござ
)
ります。
334
そしても
一人
(
ひとり
)
は
楓姫
(
かへでひめ
)
の
生霊
(
いきりやう
)
で
厶
(
ござ
)
ります。
335
どうかして
吾々
(
われわれ
)
二人
(
ふたり
)
が
力
(
ちから
)
を
協
(
あは
)
せ、
336
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
を
亡
(
ほろ
)
ぼしてやらうと
企
(
たく
)
んで
這入
(
はい
)
りました。
337
併
(
しか
)
しながら
貴女
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
があまり
強
(
つよ
)
いので、
338
如何
(
どう
)
する
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ませぬ。
339
ああ
苦
(
くる
)
しい
苦
(
くる
)
しい
許
(
ゆる
)
して
下
(
くだ
)
さいませな
許
(
ゆる
)
して
下
(
くだ
)
さいませな』
340
と
初稚姫
(
はつわかひめ
)
、
341
楓姫
(
かへでひめ
)
の
声色
(
こわいろ
)
を
使
(
つか
)
つて
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
から
詫
(
わ
)
び
出
(
だ
)
した。
342
然
(
しか
)
し
其
(
その
)
実
(
じつ
)
は
依然
(
いぜん
)
として、
343
もとの
兇霊
(
きようれい
)
の
言葉
(
ことば
)
であり、
344
其
(
その
)
兇霊
(
きようれい
)
が
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
威光
(
ゐくわう
)
に
畏
(
おそ
)
れ、
345
何
(
なん
)
とかして
高姫
(
たかひめ
)
の
肉体
(
にくたい
)
と
喧嘩
(
けんくわ
)
をさせ、
346
ここを
両人
(
りやうにん
)
とも
追
(
お
)
ひ
出
(
だ
)
し、
347
悠々
(
いういう
)
閑々
(
かんかん
)
として
高姫
(
たかひめ
)
の
体内
(
たいない
)
に
棲
(
す
)
み、
348
わが
目的
(
もくてき
)
を
達
(
たつ
)
せむと
企
(
たく
)
んだのである。
349
高姫
(
たかひめ
)
は
之
(
これ
)
を
聞
(
き
)
くより、
350
高姫
『うん、
351
よし、
352
悪逆
(
あくぎやく
)
無道
(
ぶだう
)
の
四足
(
よつあし
)
身魂
(
みたま
)
、
353
了簡
(
れうけん
)
ならぬ』
354
と
喚
(
わめ
)
きながら
棍棒
(
こんぼう
)
を
小脇
(
こわき
)
に
掻
(
か
)
い
込
(
こ
)
み、
355
珍彦
(
うづひこ
)
の
館
(
やかた
)
をさして
阿修羅
(
あしゆら
)
王
(
わう
)
の
荒
(
あ
)
れたる
如
(
ごと
)
き
勢
(
いきほひ
)
凄
(
すさま
)
じく、
356
火焔
(
くわえん
)
の
熱
(
ねつ
)
を
吐
(
は
)
きながら
頭髪
(
とうはつ
)
を
逆立
(
さかだ
)
て
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
357
初稚姫
(
はつわかひめ
)
、
358
楓
(
かへで
)
の
二人
(
ふたり
)
はヒソビソと
話
(
はなし
)
をしてゐた。
359
そこへ
高姫
(
たかひめ
)
は
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
360
高姫
『
悪逆
(
あくぎやく
)
無道
(
ぶだう
)
の
四足
(
よつあし
)
、
361
思
(
おも
)
ひ
知
(
し
)
れ』
362
と
樫
(
かし
)
の
棍棒
(
こんぼう
)
を
真向
(
まつかう
)
にふり
翳
(
かざ
)
し、
363
今
(
いま
)
や
打下
(
うちおろ
)
さむとする
一刹那
(
いつせつな
)
、
364
何処
(
どこ
)
ともなくスマートは
宙
(
ちう
)
を
駆
(
かけ
)
りて
飛
(
と
)
んで
来
(
きた
)
り、
365
強力
(
がうりき
)
に
任
(
まか
)
せて
高姫
(
たかひめ
)
をトンと
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
押倒
(
おしたふ
)
した。
366
高姫
(
たかひめ
)
はこの
猛犬
(
まうけん
)
を
見
(
み
)
て
怖気
(
おぢけ
)
づき、
367
細
(
ほそ
)
くなつて
再
(
ふたた
)
びわが
居間
(
ゐま
)
に
逃
(
に
)
げ
帰
(
かへ
)
り、
368
中
(
なか
)
から
戸障子
(
としやうじ
)
に
突張
(
つつぱ
)
りをして、
369
夜具
(
やぐ
)
をひつ
被
(
かぶ
)
つて
震
(
ふる
)
へてゐた。
370
スマートは
高姫
(
たかひめ
)
の
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
つ
駆
(
か
)
け
来
(
きた
)
り、
371
戸
(
と
)
の
外
(
そと
)
に
足掻
(
あが
)
きをしながら、
372
スマート
『ウーウ ウーウ、
373
ワウワウワウ』
374
と
頻
(
しき
)
りに
呻
(
うな
)
り
立
(
た
)
ててゐる。
375
高姫
(
たかひめ
)
も
体内
(
たいない
)
の
悪霊
(
あくれい
)
も
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
に
縮
(
ちぢ
)
み
上
(
あが
)
り、
376
小
(
ちひ
)
さくなつて
梢
(
こずゑ
)
に
残
(
のこ
)
つた
柴栗
(
しばぐり
)
の
様
(
やう
)
に
固
(
かた
)
まつて
震
(
ふる
)
うてゐる。
377
(
大正一二・一・二一
旧一一・一二・五
北村隆光
録)
Δこのページの一番上に戻るΔ
<<< 敵愾心
(B)
(N)
虬の盃 >>>
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