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霊界物語
真善美愛(第49~60巻)
第50巻(丑の巻)
序文
総説
第1篇 和光同塵
第1章 至善至悪
第2章 照魔燈
第3章 高魔腹
第4章 御意犬
第2篇 兇党擡頭
第5章 霊肉問答
第6章 玉茸
第7章 負傷負傷
第8章 常世闇
第9章 真理方便
第3篇 神意と人情
第10章 据置貯金
第11章 鸚鵡返
第12章 敵愾心
第13章 盲嫌
第14章 虬の盃
第4篇 神犬の言霊
第15章 妖幻坊
第16章 鷹鷲掴
第17章 偽筆
第18章 安国使
第19章 逆語
第20章 悪魔払
第21章 犬嘩
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霊界物語
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真善美愛(第49~60巻)
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第50巻(丑の巻)
> 第2篇 兇党擡頭 > 第9章 真理方便
<<< 常世闇
(B)
(N)
据置貯金 >>>
第九章
真理
(
しんり
)
方便
(
はうべん
)
〔一三〇三〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第50巻 真善美愛 丑の巻
篇:
第2篇 兇党擡頭
よみ(新仮名遣い):
きょうとうたいとう
章:
第9章 真理方便
よみ(新仮名遣い):
しんりほうべん
通し章番号:
1303
口述日:
1923(大正12)年01月21日(旧12月5日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年12月7日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
高姫は病床から、戻ってきた初稚姫を呼んだ。高姫の顔は怪物のように恐ろしく腫れ上がっていた。初稚姫は同情の声をかけた。
高姫は杢助の様子を尋ねた。初稚姫は、杢助と会えなかったと言えば高姫が心配を募らせると考えて、杢助は顔はひどく腫れ上がって苦しんでいたが、自分が尋ねて行くと嬉しそうに返事を返してくれたと答えた。
高姫は、誰か杢助を担いでくる人手を珍彦に手配してほしいと初稚姫に頼んだ。すると次の間に控えていたイルがふすまを開いて返事をし、初稚姫に声をかけた。高姫はイルに下心があるのだろうと予防線を張る。初稚姫はイルに珍彦への使いを頼んだ。
高姫は、自分の心配をしてくれる初稚姫に対して、杢助を世話する時とどっちが愛情が深いか、と意地悪な質問をした。初稚姫は思った通りに実父の杢助に対する方が愛情が深いように思うと答えた。すると高姫はそれを根に持って、初稚姫にきつく当たりだした。
初稚姫は真心から高姫の境遇を憐み、なんとかして霊肉共に助けてあげたいと思うほかの心はなかった。しかし根性のひがみきった高姫は、初稚姫の親切を汲み取ることはできなかった。
初稚姫も、そのとき相応の方便を使うことはあるが、宣伝使たるもの心にもない飾り言葉を使うべきでないと考えたので、正直に、実父と義理の母に対しては愛の程度に違いがあることを高姫に言って聞かせたのであった。
初稚姫は、教義を説くときには厳然として一歩も仮借しないのである。すべて真理というものは盤石のごとく鉄棒のごとく、屈曲自在することができないものだからである。もし宣伝使にして真理までも曲げて方便を乱用するなら、たちまち霊界および現界の秩序は乱れ、神の神格を破壊してしまうことを、初稚姫は恐れていたからである。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-07-15 11:36:55
OBC :
rm5009
愛善世界社版:
119頁
八幡書店版:
第9輯 193頁
修補版:
校定版:
125頁
普及版:
62頁
初版:
ページ備考:
001
高姫
(
たかひめ
)
は
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
帰
(
かへ
)
り
来
(
く
)
る
足音
(
あしおと
)
を
聞
(
き
)
き
付
(
つ
)
け、
002
待
(
ま
)
ち
遠
(
どほ
)
しげに、
003
高姫
『
初稚
(
はつわか
)
さま……ではないかな』
004
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は、
005
初稚姫
『ハイ』
006
と
答
(
こた
)
へ、
007
スツと
障子
(
しやうじ
)
をあけ、
008
見
(
み
)
れば
高姫
(
たかひめ
)
は
顔面
(
がんめん
)
全部
(
ぜんぶ
)
、
009
干瓢
(
かんぴやう
)
の
様
(
やう
)
にふくれ
上
(
あが
)
り、
010
どこが
目
(
め
)
だか
鼻
(
はな
)
だか
判別
(
はんべつ
)
し
難
(
がた
)
き
迄
(
まで
)
に
相好
(
さうがう
)
変
(
へん
)
じ、
011
丸
(
まる
)
つきり
妖怪
(
えうくわい
)
の
如
(
ごと
)
くであつた。
012
而
(
しか
)
して
腫
(
は
)
れた
目
(
め
)
は
額
(
ひたひ
)
の
方
(
はう
)
に
転宅
(
てんたく
)
し、
013
鼻
(
はな
)
は
無遠慮
(
ぶゑんりよ
)
に
霊衣
(
れいい
)
の
外
(
そと
)
に
突出
(
とつしゆつ
)
し、
014
恰
(
あだか
)
も
雲
(
くも
)
を
帯
(
おび
)
にした
山容
(
さんよう
)
の
正
(
ただ
)
しからざる
高山
(
たかやま
)
のやうに
見
(
み
)
えてゐる。
015
唇
(
くちびる
)
は
夜着
(
よぎ
)
の
裾
(
すそ
)
のやうに
厚
(
あつ
)
くふくれ
上
(
あが
)
り、
016
半
(
なか
)
ば
爛熟
(
らんじゆく
)
した
熟柿
(
じゆくし
)
の
様
(
やう
)
に
薄
(
うす
)
つぺらい
皮膚
(
ひふ
)
が
厭
(
いや
)
らしう、
017
赤
(
あか
)
く
且
(
かつ
)
紫
(
むらさき
)
を
帯
(
お
)
びて
幽
(
かす
)
かに
光
(
ひか
)
つてゐる。
018
初稚姫
(
はつわかひめ
)
はハツと
驚
(
おどろ
)
き、
019
早速
(
さつそく
)
に
言葉
(
ことば
)
も
出
(
で
)
なかつた。
020
而
(
しか
)
して
心
(
こころ
)
に
思
(
おも
)
ふ
様
(
やう
)
……ああ
何
(
なん
)
とした
恐
(
おそ
)
ろしい
顔
(
かほ
)
だらう、
021
丸
(
まる
)
で
地獄
(
ぢごく
)
に
棲
(
す
)
んでゐる
怪物
(
くわいぶつ
)
の
様
(
やう
)
だ。
022
高姫
(
たかひめ
)
さまの
内的
(
ないてき
)
生涯
(
しやうがい
)
の
発露
(
はつろ
)
かも
分
(
わか
)
らない。
023
否々
(
いないな
)
これが
事実
(
じじつ
)
だ、
024
ホンに
不愍
(
ふびん
)
なものだなア。
025
何
(
なん
)
とかして
早
(
はや
)
く
助
(
たす
)
けて
上
(
あ
)
げねばならないが、
026
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
罪業
(
ざいごふ
)
の
深
(
ふか
)
い
方
(
かた
)
だから……と
心
(
こころ
)
に
囁
(
ささや
)
きながら、
027
キチンと
足駄
(
あしだ
)
を
上
(
あが
)
り
口
(
ぐち
)
に
向
(
むか
)
ふむけに
揃
(
そろ
)
へて、
028
ハンケチにてポンポンと
塵
(
ちり
)
うち
払
(
はら
)
ひ、
029
静
(
しづか
)
に
高姫
(
たかひめ
)
の
側
(
そば
)
に
寄
(
よ
)
り
添
(
そ
)
ひながら、
030
さも
同情
(
どうじやう
)
ある
声
(
こゑ
)
にて、
031
初稚姫
『お
母
(
かあ
)
さま、
032
大変
(
たいへん
)
なお
怪我
(
けが
)
をなさいましたね。
033
私
(
わたし
)
が
力
(
ちから
)
一杯
(
いつぱい
)
介抱
(
かいほう
)
をさして
頂
(
いただ
)
きますから、
034
何卒
(
どうぞ
)
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
して
下
(
くだ
)
さいませ』
035
と
云
(
い
)
ひつつ、
036
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
に
来
(
き
)
たのかと
訝
(
いぶ
)
かりながら、
037
スマートの
頭
(
あたま
)
を
撫
(
な
)
でてゐる。
038
スマートは
嬉
(
うれ
)
しげに、
039
尾
(
を
)
を
打振
(
うちふ
)
り、
040
座敷
(
ざしき
)
をキリキリと
廻
(
まは
)
り
始
(
はじ
)
めた。
041
高姫
(
たかひめ
)
は
歪
(
ゆが
)
んだ
口
(
くち
)
の
横
(
よこ
)
の
方
(
はう
)
から、
042
半
(
なか
)
ば
破損
(
はそん
)
した
鞴
(
ふいご
)
のやうな
鼻声
(
はなごゑ
)
交
(
まじ
)
りの
声
(
こゑ
)
で、
043
高姫
『ハイ
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
に
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
044
そして
杢助
(
もくすけ
)
さまはまだ
帰
(
かへ
)
つて
厶
(
ござ
)
らぬかな。
045
御
(
ご
)
病気
(
びやうき
)
の
具合
(
ぐあひ
)
はチツと
宜
(
よろ
)
しいかな。
046
折
(
をり
)
も
折
(
をり
)
とて
二人
(
ふたり
)
の
親
(
おや
)
が、
047
一
(
いち
)
時
(
じ
)
に
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
大怪我
(
おほけが
)
をしたのだから、
048
お
前
(
まへ
)
もさぞ
心配
(
しんぱい
)
だらう。
049
偉
(
えら
)
いお
骨
(
ほね
)
を
折
(
を
)
らします』
050
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は、
051
杢助
(
もくすけ
)
が
居
(
ゐ
)
なかつたと
言
(
い
)
へば、
052
高姫
(
たかひめ
)
が
大変
(
たいへん
)
に
失望
(
しつばう
)
落胆
(
らくたん
)
するだらう、
053
目
(
め
)
が
見
(
み
)
えないのを
幸
(
さいは
)
ひ、
054
ここは
何
(
なん
)
とか
気休
(
きやす
)
めを
言
(
い
)
つておかねばなるまいと
決心
(
けつしん
)
し、
055
初稚姫
『ハイ、
056
お
父
(
とう
)
さまは
谷川
(
たにがは
)
の
側
(
そば
)
に
休
(
やす
)
んでゐられましたが、
057
私
(
わたし
)
がそこへ
参
(
まゐ
)
りまして……お
父
(
とう
)
さまお
父
(
とう
)
さま……と
声
(
こゑ
)
をかけようとすれば、
058
ムツクと
起上
(
おきあが
)
り、
059
さも
愉快相
(
ゆくわいさう
)
な
顔
(
かほ
)
をして、
060
……ああお
前
(
まへ
)
は
初稚姫
(
はつわかひめ
)
か、
061
ようマア
来
(
き
)
てくれた。
062
わしは
思
(
おも
)
はぬ
怪我
(
けが
)
をして、
063
こんな
不細工
(
ぶさいく
)
な
顔
(
かほ
)
をお
前
(
まへ
)
に
見
(
み
)
らるるのは、
064
親
(
おや
)
として
本当
(
ほんたう
)
に
恥
(
はづ
)
かしい。
065
顔
(
かほ
)
は
瓢
(
ふくべ
)
のやうにふくれ
上
(
あが
)
り、
066
目
(
め
)
鼻
(
はな
)
口
(
くち
)
の
位置
(
ゐち
)
も、
067
俄
(
にはか
)
の
地異
(
ちい
)
転変
(
てんぺん
)
で
生
(
うま
)
れてから
行
(
い
)
つた
事
(
こと
)
もない
地方
(
ちはう
)
へ
転宅
(
てんたく
)
し、
068
口
(
くち
)
も
鼻
(
はな
)
も
殆
(
ほとん
)
ど
塞
(
ふさ
)
がつてかやうな
鼻声
(
はなごゑ
)
より
出
(
で
)
はせぬが、
069
併
(
しか
)
しながらようマア
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さつた……と
親
(
おや
)
が
子
(
こ
)
に
手
(
て
)
を
合
(
あは
)
して
拝
(
をが
)
むのですよ』
070
高姫
『ああさうだつたかな、
071
それは
何
(
なに
)
よりも
結構
(
けつこう
)
なことだ。
072
杢助
(
もくすけ
)
さまも
余
(
あま
)
り
我
(
が
)
が
強
(
つよ
)
いので、
073
見
(
み
)
せしめの
為
(
ため
)
に
神界
(
しんかい
)
から
怪我
(
けが
)
をさせなさつたのだろ。
074
これでチツとは
優
(
やさ
)
しうお
成
(
な
)
りなさるだらうから、
075
夫婦
(
ふうふ
)
が
病気
(
びやうき
)
全快
(
ぜんくわい
)
の
上
(
うへ
)
は
層一層
(
そういつそう
)
御
(
ご
)
神業
(
しんげふ
)
に、
076
家内
(
かない
)
和合
(
わがふ
)
して
尽
(
つく
)
すことが
出来
(
でき
)
るでせう、
077
ああ
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』
078
初稚姫
『お
母
(
かあ
)
さま、
079
お
塩梅
(
あんばい
)
はどうで
厶
(
ござ
)
いますか、
080
御
(
ご
)
気分
(
きぶん
)
に
障
(
さは
)
るでせうな』
081
高姫
『ナアニこれしきの
怪我
(
けが
)
に
気分
(
きぶん
)
が
悪
(
わる
)
いの、
082
何
(
ど
)
うのと
云
(
い
)
ふやうなことではないが、
083
チツと
許
(
ばか
)
り
目
(
め
)
が
見
(
み
)
えにくいので、
084
不便
(
ふべん
)
を
感
(
かん
)
ずること
一通
(
ひととほ
)
りで
厶
(
ござ
)
いませぬ。
085
併
(
しか
)
しながら
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
蔭
(
かげ
)
でホンノリとそこらが
見
(
み
)
えるやうだ。
086
此
(
この
)
塩梅
(
あんばい
)
なれば、
087
やがて
全快
(
ぜんくわい
)
するでせう』
088
初稚姫
『どうぞ、
089
何
(
なん
)
でも
早
(
はや
)
く
癒
(
なほ
)
つて
頂
(
いただ
)
きたいもので
厶
(
ござ
)
いますな、
090
何
(
なん
)
といふ
私
(
わたし
)
は
運
(
かた
)
の
悪
(
わる
)
いものでせう。
091
お
父
(
とう
)
さまといひ、
092
折角
(
せつかく
)
仁慈
(
じんじ
)
深
(
ふか
)
きお
母
(
かあ
)
さまが
出来
(
でき
)
て、
093
ヤレ
嬉
(
うれ
)
しやと
喜
(
よろこ
)
ぶ
間
(
ま
)
もなく、
094
かやうなキツイお
怪我
(
けが
)
を
遊
(
あそ
)
ばし、
095
これが
何
(
ど
)
うして
忍
(
しの
)
ばれませうか。
096
身
(
み
)
も
世
(
よ
)
もあられぬ
思
(
おも
)
ひが
致
(
いた
)
します』
097
高姫
『どうもお
前
(
まへ
)
さまの
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
、
098
仮令
(
たとへ
)
死
(
し
)
んでも
忘
(
わす
)
れませぬぞや。
099
併
(
しか
)
しながら
私
(
わたし
)
はかうして
結構
(
けつこう
)
な
畳
(
たたみ
)
の
上
(
うへ
)
に
坐
(
すわ
)
り、
100
暖
(
あたた
)
かい
火鉢
(
ひばち
)
の
前
(
まへ
)
に
手
(
て
)
をあぶりもつて
養生
(
やうじやう
)
をさして
戴
(
いただ
)
いてゐるが、
101
杢助
(
もくすけ
)
さまは
草
(
くさ
)
の
上
(
うへ
)
に
横
(
よこ
)
たはつて
厶
(
ござ
)
るのだから、
102
何
(
ど
)
うしても
私
(
わたし
)
の
心
(
こころ
)
が
治
(
をさ
)
まりませぬ。
103
何卒
(
どうぞ
)
初稚
(
はつわか
)
さま、
104
珍彦
(
うづひこ
)
さまに
言
(
い
)
ひつけて
杢助
(
もくすけ
)
さまをここへ
担
(
かつ
)
いで
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいな』
105
初稚姫
『
左様
(
さやう
)
で
厶
(
ござ
)
いますな。
106
私
(
わたし
)
が
何程
(
なにほど
)
お
勧
(
すす
)
め
致
(
いた
)
しましても、
107
中々
(
なかなか
)
容易
(
ようい
)
に
帰
(
かへ
)
らうとは
致
(
いた
)
しませぬ。
108
ヤツパリ、
109
スマートが
怖
(
こは
)
いとみえます』
110
高姫
『
杢助
(
もくすけ
)
さまは
決
(
けつ
)
して
犬
(
いぬ
)
が
怖
(
こは
)
いのではない、
111
犬
(
いぬ
)
がお
嫌
(
きら
)
ひなのだよ』
112
初稚姫
『
怖
(
こは
)
いものは、
113
つひ
嫌
(
きら
)
ひになるものですからなア、
114
併
(
しか
)
しお
母
(
かあ
)
さまの
仰
(
おほ
)
せに
従
(
したが
)
ひ、
115
これから
珍彦
(
うづひこ
)
さまに
頼
(
たの
)
んで
来
(
き
)
ませう』
116
高姫
『ああ
何卒
(
どうぞ
)
さうして
下
(
くだ
)
さい。
117
夫婦
(
ふうふ
)
枕
(
まくら
)
を
並
(
なら
)
べて
養生
(
やうじやう
)
をさして
頂
(
いただ
)
けば、
118
こんな
結構
(
けつこう
)
な
事
(
こと
)
はありませぬわ』
119
初稚姫
『それなら、
120
頑固
(
ぐわんこ
)
な
父
(
ちち
)
で
厶
(
ござ
)
いますけれど、
121
娘
(
むすめ
)
の
私
(
わたし
)
が
行
(
い
)
つても
聞
(
き
)
きませぬから、
122
珍彦
(
うづひこ
)
さまに
御
(
お
)
願
(
ねがひ
)
申
(
まを
)
して、
123
此処
(
ここ
)
へ
帰
(
かへ
)
つて
来
(
く
)
るやうにして
貰
(
もら
)
ひませう。
124
さうすれば
私
(
わたし
)
が
御
(
ご
)
両親
(
りやうしん
)
の
真中
(
まんなか
)
にすわつて、
125
御
(
ご
)
介抱
(
かいはう
)
を
申上
(
まをしあ
)
げますわねえ。
126
夜分
(
やぶん
)
に
寝
(
ね
)
る
時
(
とき
)
は、
127
お
二人
(
ふたり
)
さまの
中
(
なか
)
に
挟
(
はさ
)
まつて
川
(
かは
)
と
云
(
い
)
ふ
字
(
じ
)
に
寝
(
ね
)
ませうね。
128
併
(
しか
)
しお
母
(
かあ
)
アさま、
129
私
(
わたし
)
が
此処
(
ここ
)
を
出
(
で
)
て
行
(
ゆ
)
きますとお
一人
(
ひとり
)
になりますが、
130
どう
致
(
いた
)
しませうか』
131
高姫
『さうだなア、
132
誰
(
たれ
)
か
呼
(
よ
)
んで
貰
(
もら
)
ひたいものだ』
133
イル
『ヘー、
134
何
(
なん
)
ぞ
御用
(
ごよう
)
で
厶
(
ござ
)
いますか』
135
とイルは
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
顔
(
かほ
)
がみたさに、
136
呼
(
よ
)
びもせぬ
先
(
さき
)
に、
137
慌
(
あわ
)
てて
襖
(
ふすま
)
をスツと
開
(
ひら
)
き、
138
次
(
つぎ
)
の
間
(
ま
)
からニユツと
首
(
くび
)
をつき
出
(
だ
)
した。
139
初稚姫
『アレまア、
140
イルさま、
141
私
(
わたし
)
、
142
余
(
あま
)
り
突然
(
とつぜん
)
なので、
143
ビツクリしたのよ』
144
イル
『ハイ、
145
別
(
べつ
)
にビツクリ
遊
(
あそ
)
ばすには
及
(
およ
)
ばぬぢや
厶
(
ござ
)
いませぬか。
146
目元
(
めもと
)
涼
(
すず
)
しく
鼻筋
(
はなすぢ
)
通
(
とほ
)
り、
147
口元
(
くちもと
)
の
締
(
しま
)
つた
軍人上
(
ぐんじんあが
)
りの
此
(
この
)
イルですもの。
148
高姫
(
たかひめ
)
さまのやうな、
149
そんなボテ
南瓜
(
かぼちや
)
みたやうな、
150
化物
(
ばけもの
)
じみたお
顔
(
かほ
)
を
御覧
(
ごらん
)
になるよりも、
151
イルの
顔
(
かほ
)
を
御覧
(
ごらん
)
になつた
方
(
はう
)
が
余程
(
よほど
)
御
(
ご
)
愉快
(
ゆくわい
)
でせう、
152
エヘヘヘヘヘ』
153
初稚姫
『
陀羅尼助
(
だらにすけ
)
を
嘗
(
な
)
めた
後
(
あと
)
で
三盆白
(
さんぼんしろ
)
をなめると、
154
いいかげんに
調和
(
てうわ
)
の
取
(
と
)
れるものですからね』
155
高姫
『コレ、
156
お
前
(
まへ
)
はイルぢやないか。
157
わしの
顔
(
かほ
)
を
化物
(
ばけもの
)
と
言
(
い
)
うたな、
158
そして
大事
(
だいじ
)
の
大事
(
だいじ
)
の
娘
(
むすめ
)
に、
159
此
(
この
)
親
(
おや
)
の
許
(
ゆる
)
しも
受
(
う
)
けずに、
160
若
(
わか
)
い
者
(
もの
)
が
言葉
(
ことば
)
をかはすといふ
事
(
こと
)
があるものかいなア。
161
未来
(
みらい
)
の
聖人
(
せいじん
)
が
言
(
い
)
はしやつただろ……
男女
(
だんぢよ
)
七
(
しち
)
歳
(
さい
)
にして
席
(
せき
)
を
同
(
おな
)
じうせず……とかや、
162
然
(
しか
)
るに
何
(
なん
)
ぞや、
163
呼
(
よ
)
びもせないのに、
164
ヌツケリと
若
(
わか
)
い
者
(
もの
)
の
居間
(
ゐま
)
へやつて
来
(
く
)
るとは、
165
何
(
なに
)
か
之
(
これ
)
には
訳
(
わけ
)
がなくてはならぬ。
166
お
前
(
まへ
)
は
大方
(
おほかた
)
初稚
(
はつわか
)
にスヰートハートしてゐるのだろ。
167
杢助
(
もくすけ
)
さまや
私
(
わたし
)
が
病気
(
びやうき
)
だと
思
(
おも
)
つて、
168
娘
(
むすめ
)
に
無体
(
むたい
)
な
事
(
こと
)
でも
言
(
い
)
はうものなら、
169
承知
(
しようち
)
しませぬぞや』
170
イル
『メツソーな、
171
誰
(
たれ
)
が
左様
(
さやう
)
な
事
(
こと
)
考
(
かんが
)
へて
居
(
を
)
りますものか。
172
そんな
下劣
(
げれつ
)
な
人格者
(
じんかくしや
)
だと
思
(
おも
)
つて
貰
(
もら
)
ひましては、
173
エヘヘヘヘ
聊
(
いささ
)
か
此
(
この
)
イルも
迷惑
(
めいわく
)
千万
(
せんばん
)
で
厶
(
ござ
)
いますよ。
174
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は、
175
イク、
176
サール、
177
ハル、
178
テルの
奴
(
やつ
)
、
179
余
(
あま
)
り
剛情
(
がうじやう
)
な
婆
(
ば
)
アさまだから
構
(
かま
)
うてやるな、
180
放
(
ほ
)
つとけ
放
(
ほ
)
つとけと
云
(
い
)
つて、
181
廊下
(
らうか
)
を
走
(
はし
)
つて
表
(
おもて
)
へ
行
(
い
)
つて
了
(
しま
)
ひました。
182
それにも
拘
(
かかは
)
らず、
183
拙者
(
せつしや
)
は
貴女
(
あなた
)
のお
目
(
め
)
が
不自由
(
ふじゆう
)
なと
存
(
ぞん
)
じ
次
(
つぎ
)
の
間
(
ま
)
に
控
(
ひか
)
へて、
184
御用
(
ごよう
)
があらば
早速
(
さつそく
)
の
間
(
ま
)
に
合
(
あ
)
ふやうと、
185
此処
(
ここ
)
に
行儀
(
ぎやうぎ
)
よく
控
(
ひか
)
へて
居
(
を
)
つたのです。
186
お
目
(
め
)
が
見
(
み
)
えぬのでお
疑
(
うたが
)
ひも
無理
(
むり
)
とは
申
(
まを
)
しませぬが、
187
さう
安
(
やす
)
い
人間
(
にんげん
)
と
見
(
み
)
られちや、
188
イルの
男前
(
をとこまへ
)
が
下
(
さが
)
りますからなア』
189
高姫
『どないでも
理屈
(
りくつ
)
はつくものだ。
190
口
(
くち
)
といふものは
調法
(
てうはふ
)
なものだから、
191
鷺
(
さぎ
)
を
烏
(
からす
)
と、
192
烏
(
からす
)
を
鷺
(
さぎ
)
と
言
(
い
)
ひくるめるのは
現代人
(
げんだいじん
)
の
特色
(
とくしよく
)
だ。
193
お
前
(
まへ
)
さまのいふ
事
(
こと
)
を
強
(
あなが
)
ち
否定
(
ひてい
)
するのではないけれど、
194
マア
十分
(
じふぶん
)
の
一
(
いち
)
位
(
くらゐ
)
認
(
みと
)
めておきませうかな』
195
イル
『
認
(
みと
)
めると
仰有
(
おつしや
)
つても、
196
そんな
目
(
め
)
で
分
(
わか
)
りますかな』
197
初稚姫
『イルさま、
198
お
母
(
かあ
)
アさまは
御
(
ご
)
病気
(
びやうき
)
なのだから、
199
何卒
(
どうぞ
)
揶揄
(
からか
)
つて、
200
お
気
(
き
)
を
揉
(
も
)
ませないやうにして
下
(
くだ
)
さいねえ』
201
イル
『ハイ、
202
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました。
203
外
(
ほか
)
ならぬ
貴女
(
あなた
)
のお
言葉
(
ことば
)
でございますから、
204
一
(
いち
)
も
二
(
に
)
もなく
服従
(
ふくじゆう
)
致
(
いた
)
します。
205
併
(
しか
)
しながら
初稚姫
(
はつわかひめ
)
様
(
さま
)
、
206
貴女
(
あなた
)
本当
(
ほんたう
)
に
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
さまを、
207
お
母
(
かあ
)
アさまと
思
(
おも
)
つて
厶
(
ござ
)
るのですか』
208
初稚姫
『さうですとも、
209
父
(
ちち
)
の
世話
(
せわ
)
をして
下
(
くだ
)
さる
高姫
(
たかひめ
)
さまだもの、
210
お
母
(
かあ
)
アさまに
間違
(
まちが
)
ひありませぬワ』
211
イル
『ヘーエツ、
212
何
(
なん
)
とマア
気
(
き
)
のよいお
方
(
かた
)
ですな。
213
ヤツパリ、
214
姿
(
すがた
)
のいい
人
(
ひと
)
は
心
(
こころ
)
まで
美
(
うつく
)
しいかな。
215
ヤもう
実
(
じつ
)
に
感心
(
かんしん
)
致
(
いた
)
しました。
216
私
(
わたくし
)
もこれから
貴女
(
あなた
)
の
真心
(
まごころ
)
に
倣
(
なら
)
ひまして、
217
どつかで
親
(
おや
)
を
捜
(
さが
)
して、
218
孝行
(
かうかう
)
してみたいものでございます。
219
そして
天下一
(
てんかいち
)
の
孝行者
(
かうかうもの
)
と
名
(
な
)
を
揚
(
あ
)
げたいものでございます』
220
初稚姫
『
貴方
(
あなた
)
は
孝行
(
かうかう
)
を
世間
(
せけん
)
に
知
(
し
)
られたいと
思
(
おも
)
ひますか、
221
それでは
真
(
まこと
)
の
孝
(
かう
)
ぢやありますまい。
222
自己
(
じこ
)
を
広告
(
くわうこく
)
するための
手段
(
しゆだん
)
でせう。
223
要
(
えう
)
するに
自己愛
(
じこあい
)
で、
224
偽善者
(
きぜんしや
)
の
好
(
この
)
んで
行
(
おこな
)
ふべき
手段
(
しゆだん
)
で
厶
(
ござ
)
いますよ。
225
真
(
まこと
)
の
孝行
(
かうかう
)
は
決
(
けつ
)
して
人
(
ひと
)
に
知
(
し
)
らるる
事
(
こと
)
を
望
(
のぞ
)
むものぢやありませぬ。
226
本当
(
ほんたう
)
に
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
からこもつた
情愛
(
じやうあい
)
でなければ、
227
到底
(
たうてい
)
行
(
おこな
)
へるものぢや
厶
(
ござ
)
いませぬ』
228
イル
『
成程
(
なるほど
)
、
229
イヤもうズンと
合点
(
がつてん
)
が
参
(
まゐ
)
りました。
230
併
(
しか
)
し
初稚姫
(
はつわかひめ
)
様
(
さま
)
、
231
貴女
(
あなた
)
は
杢助
(
もくすけ
)
様
(
さま
)
に
対
(
たい
)
する
場合
(
ばあひ
)
と、
232
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
に
対
(
たい
)
する
場合
(
ばあひ
)
とは、
233
愛
(
あい
)
の
情動
(
じやうどう
)
に
於
(
おい
)
て
幾分
(
いくぶん
)
かの
相違
(
さうゐ
)
があるでせうなア』
234
初稚姫
『さうで
厶
(
ござ
)
います。
235
何程
(
なにほど
)
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
を
本当
(
ほんたう
)
のお
母
(
かあ
)
ア
様
(
さま
)
だと
思
(
おも
)
つても、
236
ヤツパリ
肉身
(
にくしん
)
の
父
(
ちち
)
に
対
(
たい
)
する
時
(
とき
)
の
方
(
はう
)
が、
237
何
(
なん
)
とはなしに
愛情
(
あいじやう
)
が
深
(
ふか
)
い
様
(
やう
)
な
心持
(
こころもち
)
が
致
(
いた
)
します』
238
イル
『
成程
(
なるほど
)
、
239
貴女
(
あなた
)
は
正直
(
しやうぢき
)
なお
方
(
かた
)
だ。
240
世間
(
せけん
)
の
奴
(
やつ
)
は
自分
(
じぶん
)
の
親
(
おや
)
より
義理
(
ぎり
)
の
親
(
おや
)
が
大切
(
たいせつ
)
だと、
241
心
(
こころ
)
にもない
詐
(
いつは
)
りをいひ、
242
又
(
また
)
世間
(
せけん
)
の
継母
(
ままはは
)
は、
243
義理
(
ぎり
)
の
子
(
こ
)
だから
吾
(
わが
)
子
(
こ
)
よりも
大切
(
たいせつ
)
にしなくてはならぬ、
244
何
(
なん
)
だか
知
(
し
)
らぬが
此
(
この
)
子
(
こ
)
は
自分
(
じぶん
)
の
生
(
う
)
んだ
子
(
こ
)
よりも
可愛
(
かあい
)
て
仕方
(
しかた
)
がないなどと、
245
人前
(
ひとまへ
)
で
言
(
い
)
ひながら、
246
蔭
(
かげ
)
へまはつて、
247
抓
(
つね
)
つたり
叩
(
たた
)
いたり
虐待
(
ぎやくたい
)
するものですが、
248
貴女
(
あなた
)
は
実
(
じつ
)
に
天真
(
てんしん
)
爛漫
(
らんまん
)
虚偽
(
きよぎ
)
もなく
一点
(
いつてん
)
の
陰影
(
いんえい
)
もなき
水晶玉
(
すゐしやうだま
)
の
大聖人
(
だいせいじん
)
で
厶
(
ござ
)
います。
249
私
(
わたくし
)
も
今日
(
こんにち
)
まで
随分
(
ずいぶん
)
沢山
(
たくさん
)
の
人
(
ひと
)
につき
合
(
あ
)
つて
来
(
き
)
ましたが、
250
貴女
(
あなた
)
のやうな
方
(
かた
)
は、
251
未
(
いま
)
だ
一度
(
いちど
)
も
会
(
あ
)
つたことは
厶
(
ござ
)
いませぬ。
252
本当
(
ほんたう
)
に
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
で
厶
(
ござ
)
いますなア』
253
と
切
(
しき
)
りに
感歎
(
かんたん
)
の
声
(
こゑ
)
を
漏
(
も
)
らしてゐる。
254
初稚姫
『イルさま、
255
お
母
(
かあ
)
さまが
大変
(
たいへん
)
お
急
(
せ
)
きになつてゐるのだから、
256
御
(
お
)
心
(
こころ
)
の
休
(
やす
)
まるやうに、
257
早
(
はや
)
くお
父
(
とう
)
さまを
呼
(
よ
)
んで
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいませ。
258
珍彦
(
うづひこ
)
さまにお
頼
(
たの
)
み
申
(
まを
)
せば、
259
キツと
其
(
その
)
様
(
やう
)
に
取計
(
とりはか
)
らつて
下
(
くだ
)
さるでせう』
260
イルは、
261
イル
『ハイ、
262
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました』
263
と
表
(
おもて
)
へ
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
した。
264
高姫
『コレ
初稚
(
はつわか
)
さまや、
265
何
(
なん
)
だかガサガサと
騒
(
さわ
)
がしい
音
(
おと
)
がするぢやありませぬか、
266
誰
(
たれ
)
か
又
(
また
)
貴女
(
あなた
)
の
美貌
(
びばう
)
に
心
(
こころ
)
をとろかし、
267
悪性
(
あくしやう
)
男
(
をとこ
)
がガサガサと、
268
昼這
(
ひるばひ
)
にでも
来
(
き
)
てゐるのぢやあるまいかな。
269
偉
(
えら
)
う
不思議
(
ふしぎ
)
な
音
(
おと
)
が
致
(
いた
)
しますぞや』
270
初稚姫
『
別
(
べつ
)
に
何
(
なに
)
も
居
(
を
)
りませぬが、
271
大方
(
おほかた
)
お
母
(
かあ
)
さまのお
頭
(
つむ
)
が
痛
(
いた
)
むので、
272
さうお
感
(
かん
)
じ
遊
(
あそ
)
ばすのでせう』
273
高姫
『ああさう
聞
(
き
)
けばさうかも
知
(
し
)
れませぬ。
274
何分
(
なにぶん
)
頭
(
あたま
)
を
金槌
(
かなづち
)
でこつかれる
程
(
ほど
)
痛
(
いた
)
く
感
(
かん
)
ずるのだからなア』
275
初稚姫
『お
母
(
かあ
)
さま、
276
少
(
すこ
)
し
按摩
(
あんま
)
をさして
戴
(
いただ
)
きませうか』
277
高姫
『イヤどうぞお
構
(
かま
)
ひ
下
(
くだ
)
さいますな。
278
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても、
279
血肉
(
ちにく
)
を
分
(
わ
)
けた
親
(
おや
)
の
方
(
はう
)
が、
280
愛情
(
あいじやう
)
の
程度
(
ていど
)
が
違
(
ちが
)
ふさうですからなア』
281
と
意地悪
(
いぢわる
)
いことを
姑流
(
しうとめりう
)
にほざき
出
(
だ
)
した。
282
初稚姫
『
余
(
あま
)
り
正直
(
しやうぢき
)
な
事
(
こと
)
を
申
(
まを
)
しまして、
283
お
気
(
き
)
を
揉
(
も
)
ませましたねえ。
284
併
(
しか
)
し
此
(
この
)
初稚
(
はつわか
)
は、
285
決
(
けつ
)
して
薄情
(
はくじやう
)
な
女
(
をんな
)
で
厶
(
ござ
)
いませぬから、
286
さう
仰有
(
おつしや
)
らずに
按摩
(
あんま
)
をさして
下
(
くだ
)
さいませな』
287
高姫
(
たかひめ
)
は
一寸
(
ちよつと
)
すねたやうな
口吻
(
こうふん
)
で、
288
体
(
からだ
)
の
自由
(
じいう
)
も
利
(
き
)
かぬ
癖
(
くせ
)
に、
289
ろく
に
舌
(
した
)
もまはらない
口
(
くち
)
から、
290
高姫
『ハイ、
291
有難
(
ありがた
)
う、
292
何
(
いづ
)
れ
又
(
また
)
お
頼
(
たの
)
み
申
(
まを
)
します。
293
まだお
前
(
まへ
)
さまに
撫
(
な
)
でて
貰
(
もら
)
ふ
所
(
ところ
)
まで
耄碌
(
まうろく
)
はしてゐないのだから、
294
御縁
(
ごえん
)
があつたら
頼
(
たの
)
みますワ。
295
イ、
296
ヒ、
297
ヒ、
298
ヒ』
299
初稚姫
『お
母
(
か
)
アさま、
300
どうぞ
立腹
(
りつぷく
)
して
下
(
くだ
)
さいますなや。
301
何分
(
なにぶん
)
年
(
とし
)
が
行
(
ゆ
)
かないものですから、
302
お
気
(
き
)
にさはる
事
(
こと
)
を
申
(
まを
)
しまして……どうぞ
神直日
(
かむなほひ
)
大直日
(
おほなほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
聞直
(
ききなほ
)
し
下
(
くだ
)
さいませ』
303
高姫
『かくしても
隠
(
かく
)
されぬのは
心
(
こころ
)
の
色
(
いろ
)
、
304
言霊
(
ことたま
)
にチヤンと
現
(
あら
)
はれて
居
(
を
)
りますぞや。
305
ああああ、
306
ヤツパリ
自分
(
じぶん
)
の
腹
(
はら
)
を
痛
(
いた
)
めた
子
(
こ
)
でなうては
気
(
き
)
が
術
(
じゆつ
)
無
(
な
)
うて、
307
お
世話
(
せわ
)
になる
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
かないワ、
308
虚偽
(
きよぎ
)
と
阿諛
(
あゆ
)
諂侫
(
てんねい
)
の
流行
(
りうかう
)
する
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だから、
309
何程
(
なにほど
)
キレイなシヤツ
面
(
つら
)
をして
居
(
を
)
つても、
310
心
(
こころ
)
は
豺狼
(
さいらう
)
に
等
(
ひと
)
しき
人物
(
じんぶつ
)
ばかりだ』
311
と
妙
(
めう
)
に
当
(
あ
)
てこすり、
312
焼糞
(
やけくそ
)
になり、
313
悪垂口
(
あくたれぐち
)
を
叩
(
たた
)
き
始
(
はじ
)
めた。
314
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
真心
(
まごころ
)
より
高姫
(
たかひめ
)
の
境遇
(
きやうぐう
)
を
憐
(
あは
)
れみ、
315
何
(
なん
)
とかして
霊肉
(
れいにく
)
共
(
とも
)
に
完全
(
くわんぜん
)
に
助
(
たす
)
けてやりたいものと
思
(
おも
)
ふより
外
(
ほか
)
に
何
(
なに
)
もなかつたのである。
316
そして
病気中
(
びやうきちう
)
は
成
(
な
)
るべく
気
(
き
)
を
揉
(
も
)
ませないやう、
317
腹
(
はら
)
を
立
(
た
)
てさせないやう、
318
能
(
あた
)
ふ
限
(
かぎ
)
りの
慰安
(
ゐあん
)
を
与
(
あた
)
へたいものと
真心
(
まごころ
)
に
念
(
ねん
)
じてゐたのである。
319
されど
根性
(
こんじやう
)
のひがみ
切
(
き
)
つた
高姫
(
たかひめ
)
は、
320
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
親切
(
しんせつ
)
を
汲
(
く
)
み
取
(
と
)
る
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
なかつた。
321
初稚姫
(
はつわかひめ
)
はイルに
質問
(
しつもん
)
された
時
(
とき
)
、
322
高姫
(
たかひめ
)
の
喜
(
よろこ
)
ぶ
様
(
やう
)
に
言葉
(
ことば
)
を
飾
(
かざ
)
つて、
323
一
(
いち
)
時
(
じ
)
なりとも、
324
安心
(
あんしん
)
させたいと、
325
瞬間
(
しゆんかん
)
に
心
(
こころ
)
に
閃
(
ひらめ
)
いたけれども、
326
見
(
み
)
えすいた
嘘
(
うそ
)
を
云
(
い
)
ふことは
到底
(
たうてい
)
初稚姫
(
はつわかひめ
)
には
出来
(
でき
)
なかつた。
327
苟
(
いやし
)
くも
宣伝使
(
せんでんし
)
たるものが、
328
心
(
こころ
)
にもなき
飾
(
かざ
)
り
言葉
(
ことば
)
を
用
(
もち
)
ふる
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ない。
329
それ
故
(
ゆゑ
)
正直
(
しやうぢき
)
に
愛
(
あい
)
の
程度
(
ていど
)
に
関
(
くわん
)
し、
330
少
(
すこ
)
しばかり
差等
(
さとう
)
のある
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
つて
聞
(
き
)
かしたのが、
331
無理解
(
むりかい
)
な
高姫
(
たかひめ
)
に
恨
(
うら
)
まるる
種
(
たね
)
となつたのは
是非
(
ぜひ
)
もない
事
(
こと
)
である。
332
それだと
云
(
い
)
つて、
333
初稚姫
(
はつわかひめ
)
も
高姫
(
たかひめ
)
を
改心
(
かいしん
)
させる
為
(
ため
)
には
其
(
その
)
時相応
(
ときさうおう
)
の
方便
(
はうべん
)
を
使
(
つか
)
つて
居
(
ゐ
)
たことは
前記
(
ぜんき
)
の
物語
(
ものがたり
)
によつても
散見
(
さんけん
)
する
所
(
ところ
)
である。
334
併
(
しか
)
し
教義
(
けうぎ
)
を
説
(
と
)
く
時
(
とき
)
に
於
(
おい
)
ては、
335
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
儼然
(
げんぜん
)
として
一歩
(
いつぽ
)
も
仮借
(
かしやく
)
せないのである。
336
すべて
真理
(
しんり
)
といふものは
磐石
(
ばんじやく
)
の
如
(
ごと
)
く
鉄棒
(
てつぼう
)
の
如
(
ごと
)
く、
337
屈曲
(
くつきよく
)
自在
(
じざい
)
ならしむるを
得
(
え
)
ざるが
故
(
ゆゑ
)
である。
338
もし
宣伝使
(
せんでんし
)
にして
真理
(
しんり
)
迄
(
まで
)
も
曲
(
ま
)
げて
方便
(
はうべん
)
を
乱用
(
らんよう
)
せむか、
339
忽
(
たちま
)
ち
霊界
(
れいかい
)
及
(
およ
)
び
現界
(
げんかい
)
の
秩序
(
ちつじよ
)
は
茲
(
ここ
)
に
紊乱
(
ぶんらん
)
し、
340
神
(
かみ
)
の
神格
(
しんかく
)
を
破壊
(
はくわい
)
する
事
(
こと
)
を
恐
(
おそ
)
るるが
故
(
ゆゑ
)
である。
341
ああ
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
。
342
(
大正一二・一・二一
旧一一・一二・五
松村真澄
録)
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【第9章 真理方便|第50巻|真善美愛|霊界物語|/rm5009】
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