霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第九章 真理(しんり)方便(はうべん)〔一三〇三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第50巻 真善美愛 丑の巻 篇:第2篇 兇党擡頭 よみ(新仮名遣い):きょうとうたいとう
章:第9章 真理方便 よみ(新仮名遣い):しんりほうべん 通し章番号:1303
口述日:1923(大正12)年01月21日(旧12月5日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年12月7日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
高姫は病床から、戻ってきた初稚姫を呼んだ。高姫の顔は怪物のように恐ろしく腫れ上がっていた。初稚姫は同情の声をかけた。
高姫は杢助の様子を尋ねた。初稚姫は、杢助と会えなかったと言えば高姫が心配を募らせると考えて、杢助は顔はひどく腫れ上がって苦しんでいたが、自分が尋ねて行くと嬉しそうに返事を返してくれたと答えた。
高姫は、誰か杢助を担いでくる人手を珍彦に手配してほしいと初稚姫に頼んだ。すると次の間に控えていたイルがふすまを開いて返事をし、初稚姫に声をかけた。高姫はイルに下心があるのだろうと予防線を張る。初稚姫はイルに珍彦への使いを頼んだ。
高姫は、自分の心配をしてくれる初稚姫に対して、杢助を世話する時とどっちが愛情が深いか、と意地悪な質問をした。初稚姫は思った通りに実父の杢助に対する方が愛情が深いように思うと答えた。すると高姫はそれを根に持って、初稚姫にきつく当たりだした。
初稚姫は真心から高姫の境遇を憐み、なんとかして霊肉共に助けてあげたいと思うほかの心はなかった。しかし根性のひがみきった高姫は、初稚姫の親切を汲み取ることはできなかった。
初稚姫も、そのとき相応の方便を使うことはあるが、宣伝使たるもの心にもない飾り言葉を使うべきでないと考えたので、正直に、実父と義理の母に対しては愛の程度に違いがあることを高姫に言って聞かせたのであった。
初稚姫は、教義を説くときには厳然として一歩も仮借しないのである。すべて真理というものは盤石のごとく鉄棒のごとく、屈曲自在することができないものだからである。もし宣伝使にして真理までも曲げて方便を乱用するなら、たちまち霊界および現界の秩序は乱れ、神の神格を破壊してしまうことを、初稚姫は恐れていたからである。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-07-15 11:36:55 文字数:4992 OBC :rm5009
愛善世界社版:119頁 八幡書店版:第9輯 193頁 修補版: 校定版:125頁 普及版:62頁 初版: ページ備考:
001 高姫(たかひめ)は初稚姫(はつわかひめ)の帰(かへ)り来(く)る足音(あしおと)を聞(き)き付(つ)け、002待(ま)ち遠(どほ)しげに、
003高姫『初稚(はつわか)さま……ではないかな』
004 初稚姫(はつわかひめ)は、
005初稚姫『ハイ』
006と答(こた)へ、007スツと障子(しやうじ)をあけ、008見(み)れば高姫(たかひめ)は顔面(がんめん)全部(ぜんぶ)、009干瓢(かんぴやう)の様(やう)にふくれ上(あが)り、010どこが目(め)だか鼻(はな)だか判別(はんべつ)し難(がた)き迄(まで)に相好(さうがう)変(へん)じ、011丸(まる)つきり妖怪(えうくわい)の如(ごと)くであつた。012而(しか)して腫(は)れた目(め)は額(ひたひ)の方(はう)に転宅(てんたく)し、013鼻(はな)は無遠慮(ぶゑんりよ)に霊衣(れいい)の外(そと)に突出(とつしゆつ)し、014恰(あだか)も雲(くも)を帯(おび)にした山容(さんよう)の正(ただ)しからざる高山(たかやま)のやうに見(み)えてゐる。015唇(くちびる)は夜着(よぎ)の裾(すそ)のやうに厚(あつ)くふくれ上(あが)り、016半(なか)ば爛熟(らんじゆく)した熟柿(じゆくし)の様(やう)に薄(うす)つぺらい皮膚(ひふ)が厭(いや)らしう、017赤(あか)く且(かつ)紫(むらさき)を帯(お)びて幽(かす)かに光(ひか)つてゐる。018初稚姫(はつわかひめ)はハツと驚(おどろ)き、019早速(さつそく)に言葉(ことば)も出(で)なかつた。020而(しか)して心(こころ)に思(おも)ふ様(やう)……ああ何(なん)とした恐(おそ)ろしい顔(かほ)だらう、021丸(まる)で地獄(ぢごく)に棲(す)んでゐる怪物(くわいぶつ)の様(やう)だ。022高姫(たかひめ)さまの内的(ないてき)生涯(しやうがい)の発露(はつろ)かも分(わか)らない。023否々(いないな)これが事実(じじつ)だ、024ホンに不愍(ふびん)なものだなア。025何(なん)とかして早(はや)く助(たす)けて上(あ)げねばならないが、026何(なん)と云(い)つても罪業(ざいごふ)の深(ふか)い方(かた)だから……と心(こころ)に囁(ささや)きながら、027キチンと足駄(あしだ)を上(あが)り口(ぐち)に向(むか)ふむけに揃(そろ)へて、028ハンケチにてポンポンと塵(ちり)うち払(はら)ひ、029静(しづか)に高姫(たかひめ)の側(そば)に寄(よ)り添(そ)ひながら、030さも同情(どうじやう)ある声(こゑ)にて、
031初稚姫『お母(かあ)さま、032大変(たいへん)なお怪我(けが)をなさいましたね。033私(わたし)が力(ちから)一杯(いつぱい)介抱(かいほう)をさして頂(いただ)きますから、034何卒(どうぞ)御(ご)安心(あんしん)して下(くだ)さいませ』
035と云(い)ひつつ、036何時(いつ)の間(ま)に来(き)たのかと訝(いぶ)かりながら、037スマートの頭(あたま)を撫(な)でてゐる。038スマートは嬉(うれ)しげに、039尾(を)を打振(うちふ)り、040座敷(ざしき)をキリキリと廻(まは)り始(はじ)めた。
041 高姫(たかひめ)は歪(ゆが)んだ口(くち)の横(よこ)の方(はう)から、042半(なか)ば破損(はそん)した鞴(ふいご)のやうな鼻声(はなごゑ)交(まじ)りの声(こゑ)で、
043高姫『ハイ御(ご)親切(しんせつ)に有難(ありがた)う厶(ござ)います。044そして杢助(もくすけ)さまはまだ帰(かへ)つて厶(ござ)らぬかな。045御(ご)病気(びやうき)の具合(ぐあひ)はチツと宜(よろ)しいかな。046折(をり)も折(をり)とて二人(ふたり)の親(おや)が、047一(いち)時(じ)に此(この)通(とほ)り大怪我(おほけが)をしたのだから、048お前(まへ)もさぞ心配(しんぱい)だらう。049偉(えら)いお骨(ほね)を折(を)らします』
050 初稚姫(はつわかひめ)は、051杢助(もくすけ)が居(ゐ)なかつたと言(い)へば、052高姫(たかひめ)が大変(たいへん)に失望(しつばう)落胆(らくたん)するだらう、053目(め)が見(み)えないのを幸(さいは)ひ、054ここは何(なん)とか気休(きやす)めを言(い)つておかねばなるまいと決心(けつしん)し、
055初稚姫『ハイ、056お父(とう)さまは谷川(たにがは)の側(そば)に休(やす)んでゐられましたが、057私(わたし)がそこへ参(まゐ)りまして……お父(とう)さまお父(とう)さま……と声(こゑ)をかけようとすれば、058ムツクと起上(おきあが)り、059さも愉快相(ゆくわいさう)な顔(かほ)をして、060……ああお前(まへ)は初稚姫(はつわかひめ)か、061ようマア来(き)てくれた。062わしは思(おも)はぬ怪我(けが)をして、063こんな不細工(ぶさいく)な顔(かほ)をお前(まへ)に見(み)らるるのは、064親(おや)として本当(ほんたう)に恥(はづ)かしい。065顔(かほ)は瓢(ふくべ)のやうにふくれ上(あが)り、066目(め)鼻(はな)口(くち)の位置(ゐち)も、067俄(にはか)の地異(ちい)転変(てんぺん)で生(うま)れてから行(い)つた事(こと)もない地方(ちはう)へ転宅(てんたく)し、068口(くち)も鼻(はな)も殆(ほとん)ど塞(ふさ)がつてかやうな鼻声(はなごゑ)より出(で)はせぬが、069併(しか)しながらようマア来(き)て下(くだ)さつた……と親(おや)が子(こ)に手(て)を合(あは)して拝(をが)むのですよ』
070高姫『ああさうだつたかな、071それは何(なに)よりも結構(けつこう)なことだ。072杢助(もくすけ)さまも余(あま)り我(が)が強(つよ)いので、073見(み)せしめの為(ため)に神界(しんかい)から怪我(けが)をさせなさつたのだろ。074これでチツとは優(やさ)しうお成(な)りなさるだらうから、075夫婦(ふうふ)が病気(びやうき)全快(ぜんくわい)の上(うへ)は層一層(そういつそう)御(ご)神業(しんげふ)に、076家内(かない)和合(わがふ)して尽(つく)すことが出来(でき)るでせう、077ああ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』
078初稚姫『お母(かあ)さま、079お塩梅(あんばい)はどうで厶(ござ)いますか、080御(ご)気分(きぶん)に障(さは)るでせうな』
081高姫『ナアニこれしきの怪我(けが)に気分(きぶん)が悪(わる)いの、082何(ど)うのと云(い)ふやうなことではないが、083チツと許(ばか)り目(め)が見(み)えにくいので、084不便(ふべん)を感(かん)ずること一通(ひととほ)りで厶(ござ)いませぬ。085併(しか)しながら神(かみ)様(さま)のお蔭(かげ)でホンノリとそこらが見(み)えるやうだ。086此(この)塩梅(あんばい)なれば、087やがて全快(ぜんくわい)するでせう』
088初稚姫『どうぞ、089何(なん)でも早(はや)く癒(なほ)つて頂(いただ)きたいもので厶(ござ)いますな、090何(なん)といふ私(わたし)は運(かた)の悪(わる)いものでせう。091お父(とう)さまといひ、092折角(せつかく)仁慈(じんじ)深(ふか)きお母(かあ)さまが出来(でき)て、093ヤレ嬉(うれ)しやと喜(よろこ)ぶ間(ま)もなく、094かやうなキツイお怪我(けが)を遊(あそ)ばし、095これが何(ど)うして忍(しの)ばれませうか。096身(み)も世(よ)もあられぬ思(おも)ひが致(いた)します』
097高姫『どうもお前(まへ)さまの御(ご)親切(しんせつ)、098仮令(たとへ)死(し)んでも忘(わす)れませぬぞや。099併(しか)しながら私(わたし)はかうして結構(けつこう)な畳(たたみ)の上(うへ)に坐(すわ)り、100暖(あたた)かい火鉢(ひばち)の前(まへ)に手(て)をあぶりもつて養生(やうじやう)をさして戴(いただ)いてゐるが、101杢助(もくすけ)さまは草(くさ)の上(うへ)に横(よこ)たはつて厶(ござ)るのだから、102何(ど)うしても私(わたし)の心(こころ)が治(をさ)まりませぬ。103何卒(どうぞ)初稚(はつわか)さま、104珍彦(うづひこ)さまに言(い)ひつけて杢助(もくすけ)さまをここへ担(かつ)いで来(き)て下(くだ)さいな』
105初稚姫『左様(さやう)で厶(ござ)いますな。106私(わたし)が何程(なにほど)お勧(すす)め致(いた)しましても、107中々(なかなか)容易(ようい)に帰(かへ)らうとは致(いた)しませぬ。108ヤツパリ、109スマートが怖(こは)いとみえます』
110高姫『杢助(もくすけ)さまは決(けつ)して犬(いぬ)が怖(こは)いのではない、111犬(いぬ)がお嫌(きら)ひなのだよ』
112初稚姫『怖(こは)いものは、113つひ嫌(きら)ひになるものですからなア、114併(しか)しお母(かあ)さまの仰(おほ)せに従(したが)ひ、115これから珍彦(うづひこ)さまに頼(たの)んで来(き)ませう』
116高姫『ああ何卒(どうぞ)さうして下(くだ)さい。117夫婦(ふうふ)枕(まくら)を並(なら)べて養生(やうじやう)をさして頂(いただ)けば、118こんな結構(けつこう)な事(こと)はありませぬわ』
119初稚姫『それなら、120頑固(ぐわんこ)な父(ちち)で厶(ござ)いますけれど、121娘(むすめ)の私(わたし)が行(い)つても聞(き)きませぬから、122珍彦(うづひこ)さまに御(お)願(ねがひ)申(まを)して、123此処(ここ)へ帰(かへ)つて来(く)るやうにして貰(もら)ひませう。124さうすれば私(わたし)が御(ご)両親(りやうしん)の真中(まんなか)にすわつて、125御(ご)介抱(かいはう)を申上(まをしあ)げますわねえ。126夜分(やぶん)に寝(ね)る時(とき)は、127お二人(ふたり)さまの中(なか)に挟(はさ)まつて川(かは)と云(い)ふ字(じ)に寝(ね)ませうね。128併(しか)しお母(かあ)アさま、129私(わたし)が此処(ここ)を出(で)て行(ゆ)きますとお一人(ひとり)になりますが、130どう致(いた)しませうか』
131高姫『さうだなア、132誰(たれ)か呼(よ)んで貰(もら)ひたいものだ』
133イル『ヘー、134何(なん)ぞ御用(ごよう)で厶(ござ)いますか』
135とイルは初稚姫(はつわかひめ)の顔(かほ)がみたさに、136呼(よ)びもせぬ先(さき)に、137慌(あわ)てて襖(ふすま)をスツと開(ひら)き、138次(つぎ)の間(ま)からニユツと首(くび)をつき出(だ)した。
139初稚姫『アレまア、140イルさま、141私(わたし)、142余(あま)り突然(とつぜん)なので、143ビツクリしたのよ』
144イル『ハイ、145別(べつ)にビツクリ遊(あそ)ばすには及(およ)ばぬぢや厶(ござ)いませぬか。146目元(めもと)涼(すず)しく鼻筋(はなすぢ)通(とほ)り、147口元(くちもと)の締(しま)つた軍人上(ぐんじんあが)りの此(この)イルですもの。148高姫(たかひめ)さまのやうな、149そんなボテ南瓜(かぼちや)みたやうな、150化物(ばけもの)じみたお顔(かほ)を御覧(ごらん)になるよりも、151イルの顔(かほ)を御覧(ごらん)になつた方(はう)が余程(よほど)御(ご)愉快(ゆくわい)でせう、152エヘヘヘヘヘ』
153初稚姫『陀羅尼助(だらにすけ)を嘗(な)めた後(あと)で三盆白(さんぼんしろ)をなめると、154いいかげんに調和(てうわ)の取(と)れるものですからね』
155高姫『コレ、156お前(まへ)はイルぢやないか。157わしの顔(かほ)を化物(ばけもの)と言(い)うたな、158そして大事(だいじ)の大事(だいじ)の娘(むすめ)に、159此(この)親(おや)の許(ゆる)しも受(う)けずに、160若(わか)い者(もの)が言葉(ことば)をかはすといふ事(こと)があるものかいなア。161未来(みらい)の聖人(せいじん)が言(い)はしやつただろ……男女(だんぢよ)七(しち)歳(さい)にして席(せき)を同(おな)じうせず……とかや、162然(しか)るに何(なん)ぞや、163呼(よ)びもせないのに、164ヌツケリと若(わか)い者(もの)の居間(ゐま)へやつて来(く)るとは、165何(なに)か之(これ)には訳(わけ)がなくてはならぬ。166お前(まへ)は大方(おほかた)初稚(はつわか)にスヰートハートしてゐるのだろ。167杢助(もくすけ)さまや私(わたし)が病気(びやうき)だと思(おも)つて、168娘(むすめ)に無体(むたい)な事(こと)でも言(い)はうものなら、169承知(しようち)しませぬぞや』
170イル『メツソーな、171誰(たれ)が左様(さやう)な事(こと)考(かんが)へて居(を)りますものか。172そんな下劣(げれつ)な人格者(じんかくしや)だと思(おも)つて貰(もら)ひましては、173エヘヘヘヘ聊(いささ)か此(この)イルも迷惑(めいわく)千万(せんばん)で厶(ござ)いますよ。174実(じつ)の所(ところ)は、175イク、176サール、177ハル、178テルの奴(やつ)、179余(あま)り剛情(がうじやう)な婆(ば)アさまだから構(かま)うてやるな、180放(ほ)つとけ放(ほ)つとけと云(い)つて、181廊下(らうか)を走(はし)つて表(おもて)へ行(い)つて了(しま)ひました。182それにも拘(かかは)らず、183拙者(せつしや)は貴女(あなた)のお目(め)が不自由(ふじゆう)なと存(ぞん)じ次(つぎ)の間(ま)に控(ひか)へて、184御用(ごよう)があらば早速(さつそく)の間(ま)に合(あ)ふやうと、185此処(ここ)に行儀(ぎやうぎ)よく控(ひか)へて居(を)つたのです。186お目(め)が見(み)えぬのでお疑(うたが)ひも無理(むり)とは申(まを)しませぬが、187さう安(やす)い人間(にんげん)と見(み)られちや、188イルの男前(をとこまへ)が下(さが)りますからなア』
189高姫『どないでも理屈(りくつ)はつくものだ。190口(くち)といふものは調法(てうはふ)なものだから、191鷺(さぎ)を烏(からす)と、192烏(からす)を鷺(さぎ)と言(い)ひくるめるのは現代人(げんだいじん)の特色(とくしよく)だ。193お前(まへ)さまのいふ事(こと)を強(あなが)ち否定(ひてい)するのではないけれど、194マア十分(じふぶん)の一(いち)位(くらゐ)認(みと)めておきませうかな』
195イル『認(みと)めると仰有(おつしや)つても、196そんな目(め)で分(わか)りますかな』
197初稚姫『イルさま、198お母(かあ)アさまは御(ご)病気(びやうき)なのだから、199何卒(どうぞ)揶揄(からか)つて、200お気(き)を揉(も)ませないやうにして下(くだ)さいねえ』
201イル『ハイ、202承知(しようち)致(いた)しました。203外(ほか)ならぬ貴女(あなた)のお言葉(ことば)でございますから、204一(いち)も二(に)もなく服従(ふくじゆう)致(いた)します。205併(しか)しながら初稚姫(はつわかひめ)様(さま)、206貴女(あなた)本当(ほんたう)に此(この)高姫(たかひめ)さまを、207お母(かあ)アさまと思(おも)つて厶(ござ)るのですか』
208初稚姫『さうですとも、209父(ちち)の世話(せわ)をして下(くだ)さる高姫(たかひめ)さまだもの、210お母(かあ)アさまに間違(まちが)ひありませぬワ』
211イル『ヘーエツ、212何(なん)とマア気(き)のよいお方(かた)ですな。213ヤツパリ、214姿(すがた)のいい人(ひと)は心(こころ)まで美(うつく)しいかな。215ヤもう実(じつ)に感心(かんしん)致(いた)しました。216私(わたくし)もこれから貴女(あなた)の真心(まごころ)に倣(なら)ひまして、217どつかで親(おや)を捜(さが)して、218孝行(かうかう)してみたいものでございます。219そして天下一(てんかいち)の孝行者(かうかうもの)と名(な)を揚(あ)げたいものでございます』
220初稚姫『貴方(あなた)は孝行(かうかう)を世間(せけん)に知(し)られたいと思(おも)ひますか、221それでは真(まこと)の孝(かう)ぢやありますまい。222自己(じこ)を広告(くわうこく)するための手段(しゆだん)でせう。223要(えう)するに自己愛(じこあい)で、224偽善者(ぎぜんしや)の好(この)んで行(おこな)ふべき手段(しゆだん)で厶(ござ)いますよ。225真(まこと)の孝行(かうかう)は決(けつ)して人(ひと)に知(し)らるる事(こと)を望(のぞ)むものぢやありませぬ。226本当(ほんたう)に心(こころ)の底(そこ)からこもつた情愛(じやうあい)でなければ、227到底(たうてい)行(おこな)へるものぢや厶(ござ)いませぬ』
228イル『成程(なるほど)、229イヤもうズンと合点(がつてん)が参(まゐ)りました。230併(しか)し初稚姫(はつわかひめ)様(さま)、231貴女(あなた)は杢助(もくすけ)様(さま)に対(たい)する場合(ばあひ)と、232高姫(たかひめ)様(さま)に対(たい)する場合(ばあひ)とは、233愛(あい)の情動(じやうどう)に於(おい)て幾分(いくぶん)かの相違(さうゐ)があるでせうなア』
234初稚姫『さうで厶(ござ)います。235何程(なにほど)高姫(たかひめ)様(さま)を本当(ほんたう)のお母(かあ)ア様(さま)だと思(おも)つても、236ヤツパリ肉身(にくしん)の父(ちち)に対(たい)する時(とき)の方(はう)が、237何(なん)とはなしに愛情(あいじやう)が深(ふか)い様(やう)な心持(こころもち)が致(いた)します』
238イル『成程(なるほど)、239貴女(あなた)は正直(しやうぢき)なお方(かた)だ。240世間(せけん)の奴(やつ)は自分(じぶん)の親(おや)より義理(ぎり)の親(おや)が大切(たいせつ)だと、241心(こころ)にもない詐(いつは)りをいひ、242又(また)世間(せけん)の継母(ままはは)は、243義理(ぎり)の子(こ)だから吾(わが)子(こ)よりも大切(たいせつ)にしなくてはならぬ、244何(なん)だか知(し)らぬが此(この)子(こ)は自分(じぶん)の生(う)んだ子(こ)よりも可愛(かあい)て仕方(しかた)がないなどと、245人前(ひとまへ)で言(い)ひながら、246蔭(かげ)へまはつて、247抓(つね)つたり叩(たた)いたり虐待(ぎやくたい)するものですが、248貴女(あなた)は実(じつ)に天真(てんしん)爛漫(らんまん)虚偽(きよぎ)もなく一点(いつてん)の陰影(いんえい)もなき水晶玉(すゐしやうだま)の大聖人(だいせいじん)で厶(ござ)います。249私(わたくし)も今日(こんにち)まで随分(ずいぶん)沢山(たくさん)の人(ひと)につき合(あ)つて来(き)ましたが、250貴女(あなた)のやうな方(かた)は、251未(いま)だ一度(いちど)も会(あ)つたことは厶(ござ)いませぬ。252本当(ほんたう)に神(かみ)様(さま)で厶(ござ)いますなア』
253と切(しき)りに感歎(かんたん)の声(こゑ)を漏(も)らしてゐる。
254初稚姫『イルさま、255お母(かあ)さまが大変(たいへん)お急(せ)きになつてゐるのだから、256御(お)心(こころ)の休(やす)まるやうに、257早(はや)くお父(とう)さまを呼(よ)んで来(き)て下(くだ)さいませ。258珍彦(うづひこ)さまにお頼(たの)み申(まを)せば、259キツと其(その)様(やう)に取計(とりはか)らつて下(くだ)さるでせう』
260 イルは、
261イル『ハイ、262承知(しようち)致(いた)しました』
263と表(おもて)へ駆(か)け出(だ)した。
264高姫『コレ初稚(はつわか)さまや、265何(なん)だかガサガサと騒(さわ)がしい音(おと)がするぢやありませぬか、266誰(たれ)か又(また)貴女(あなた)の美貌(びばう)に心(こころ)をとろかし、267悪性(あくしやう)男(をとこ)がガサガサと、268昼這(ひるばひ)にでも来(き)てゐるのぢやあるまいかな。269偉(えら)う不思議(ふしぎ)な音(おと)が致(いた)しますぞや』
270初稚姫『別(べつ)に何(なに)も居(を)りませぬが、271大方(おほかた)お母(かあ)さまのお頭(つむ)が痛(いた)むので、272さうお感(かん)じ遊(あそ)ばすのでせう』
273高姫『ああさう聞(き)けばさうかも知(し)れませぬ。274何分(なにぶん)頭(あたま)を金槌(かなづち)でこつかれる程(ほど)痛(いた)く感(かん)ずるのだからなア』
275初稚姫『お母(かあ)さま、276少(すこ)し按摩(あんま)をさして戴(いただ)きませうか』
277高姫『イヤどうぞお構(かま)ひ下(くだ)さいますな。278何(なん)と云(い)つても、279血肉(ちにく)を分(わ)けた親(おや)の方(はう)が、280愛情(あいじやう)の程度(ていど)が違(ちが)ふさうですからなア』
281と意地悪(いぢわる)いことを姑流(しうとめりう)にほざき出(だ)した。
282初稚姫『余(あま)り正直(しやうぢき)な事(こと)を申(まを)しまして、283お気(き)を揉(も)ませましたねえ。284併(しか)し此(この)初稚(はつわか)は、285決(けつ)して薄情(はくじやう)な女(をんな)で厶(ござ)いませぬから、286さう仰有(おつしや)らずに按摩(あんま)をさして下(くだ)さいませな』
287 高姫(たかひめ)は一寸(ちよつと)すねたやうな口吻(こうふん)で、288体(からだ)の自由(じいう)も利(き)かぬ癖(くせ)に、289ろくに舌(した)もまはらない口(くち)から、
290高姫『ハイ、291有難(ありがた)う、292何(いづ)れ又(また)お頼(たの)み申(まを)します。293まだお前(まへ)さまに撫(な)でて貰(もら)ふ所(ところ)まで耄碌(まうろく)はしてゐないのだから、294御縁(ごえん)があつたら頼(たの)みますワ。295イ、296ヒ、297ヒ、298ヒ』
299初稚姫『お母(か)アさま、300どうぞ立腹(りつぷく)して下(くだ)さいますなや。301何分(なにぶん)年(とし)が行(ゆ)かないものですから、302お気(き)にさはる事(こと)を申(まを)しまして……どうぞ神直日(かむなほひ)大直日(おほなほひ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)し下(くだ)さいませ』
303高姫『かくしても隠(かく)されぬのは心(こころ)の色(いろ)、304言霊(ことたま)にチヤンと現(あら)はれて居(を)りますぞや。305ああああ、306ヤツパリ自分(じぶん)の腹(はら)を痛(いた)めた子(こ)でなうては気(き)が術(じゆつ)無(な)うて、307お世話(せわ)になる訳(わけ)には行(ゆ)かないワ、308虚偽(きよぎ)と阿諛(あゆ)諂侫(てんねい)の流行(りうかう)する世(よ)の中(なか)だから、309何程(なにほど)キレイなシヤツ面(つら)をして居(を)つても、310心(こころ)は豺狼(さいらう)に等(ひと)しき人物(じんぶつ)ばかりだ』
311と妙(めう)に当(あ)てこすり、312焼糞(やけくそ)になり、313悪垂口(あくたれぐち)を叩(たた)き始(はじ)めた。314初稚姫(はつわかひめ)は真心(まごころ)より高姫(たかひめ)の境遇(きやうぐう)を憐(あは)れみ、315何(なん)とかして霊肉(れいにく)共(とも)に完全(くわんぜん)に助(たす)けてやりたいものと思(おも)ふより外(ほか)に何(なに)もなかつたのである。316そして病気中(びやうきちう)は成(な)るべく気(き)を揉(も)ませないやう、317腹(はら)を立(た)てさせないやう、318能(あた)ふ限(かぎ)りの慰安(ゐあん)を与(あた)へたいものと真心(まごころ)に念(ねん)じてゐたのである。319されど根性(こんじやう)のひがみ切(き)つた高姫(たかひめ)は、320初稚姫(はつわかひめ)の親切(しんせつ)を汲(く)み取(と)る事(こと)は出来(でき)なかつた。321初稚姫(はつわかひめ)はイルに質問(しつもん)された時(とき)、322高姫(たかひめ)の喜(よろこ)ぶ様(やう)に言葉(ことば)を飾(かざ)つて、323一(いち)時(じ)なりとも、324安心(あんしん)させたいと、325瞬間(しゆんかん)に心(こころ)に閃(ひらめ)いたけれども、326見(み)えすいた嘘(うそ)を云(い)ふことは到底(たうてい)初稚姫(はつわかひめ)には出来(でき)なかつた。327苟(いやし)くも宣伝使(せんでんし)たるものが、328心(こころ)にもなき飾(かざ)り言葉(ことば)を用(もち)ふる事(こと)は出来(でき)ない。329それ故(ゆゑ)正直(しやうぢき)に愛(あい)の程度(ていど)に関(くわん)し、330少(すこ)しばかり差等(さとう)のある事(こと)を言(い)つて聞(き)かしたのが、331無理解(むりかい)な高姫(たかひめ)に恨(うら)まるる種(たね)となつたのは是非(ぜひ)もない事(こと)である。332それだと云(い)つて、333初稚姫(はつわかひめ)も高姫(たかひめ)を改心(かいしん)させる為(ため)には其(その)時相応(ときさうおう)の方便(はうべん)を使(つか)つて居(ゐ)たことは前記(ぜんき)の物語(ものがたり)によつても散見(さんけん)する所(ところ)である。334併(しか)し教義(けうぎ)を説(と)く時(とき)に於(おい)ては、335初稚姫(はつわかひめ)は儼然(げんぜん)として一歩(いつぽ)も仮借(かしやく)せないのである。336すべて真理(しんり)といふものは磐石(ばんじやく)の如(ごと)く鉄棒(てつぼう)の如(ごと)く、337屈曲(くつきよく)自在(じざい)ならしむるを得(え)ざるが故(ゆゑ)である。338もし宣伝使(せんでんし)にして真理(しんり)迄(まで)も曲(ま)げて方便(はうべん)を乱用(らんよう)せむか、339忽(たちま)ち霊界(れいかい)及(およ)び現界(げんかい)の秩序(ちつじよ)は茲(ここ)に紊乱(ぶんらん)し、340神(かみ)の神格(しんかく)を破壊(はくわい)する事(こと)を恐(おそ)るるが故(ゆゑ)である。341ああ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)。
342(大正一二・一・二一 旧一一・一二・五 松村真澄録)
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