霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
×
設定
URL:
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
話者名の追加表示 [?]セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。[×閉じる]
表示できる章
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
行間
ルビの表示


アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注[※]用語解説 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

脚注[*]編集用 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

外字の外周色 [?]一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。[×閉じる]
現在のページには外字は使われていません

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。

第一〇章 据置(すゑおき)貯金(ちよきん)〔一三〇四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第50巻 真善美愛 丑の巻 篇:第3篇 神意と人情 よみ(新仮名遣い):しんいとにんじょう
章:第10章 据置貯金 よみ(新仮名遣い):すえおきちょきん 通し章番号:1304
口述日:1923(大正12)年01月21日(旧12月5日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年12月7日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
誰言うともなく、祠の森に獅子・虎両性の怪物が現れて人間に化けて主管している、という噂が立ち、ここ二三日は祠の森に誰も立ちよらなくなってしまった。受付も事務室もきわめて閑散としていた。
珍彦は相変わらず至誠神に仕え、参拝者の有無にかかわらず朝と晩のお給仕を忠実に勤めている。イル、イク、サール、ハル、テルの五人は仕事をほったらかして、酒と肴を携えて祠の森のもっとも風景の良い場所で飲み始めた。
次第に一同は酔ってきて、イルが初稚姫と間違えてスマートの手を握って耳を噛まれた馬鹿話を披露した。また一同が話にふけっていると、森の彼方から楓が呼ぶ声がする。五人はバタバタと事務所をさして帰って行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-07-17 17:56:37 文字数:5306 OBC :rm5010
愛善世界社版:135頁 八幡書店版:第9輯 199頁 修補版: 校定版:141頁 普及版:70頁 初版: ページ備考:
001 祠(ほこら)の森(もり)には誰(たれ)云(い)ふとなく獅子(しし)、002虎(とら)両性(りやうせい)の怪物(くわいぶつ)が現(あら)はれ、003人間(にんげん)に化(ば)けてゐる。004その人間(にんげん)が祠(ほこら)の森(もり)の主管者(しゆくわんしや)だから、005ウツカリ詣(まゐ)らうものなら喰(く)はれて了(しま)ふと云(い)ふ評判(ひやうばん)がパツと立(た)つた。006それ故(ゆゑ)気(き)の弱(よわ)い連中(れんちう)は忽(たちま)ち恐怖心(きようふしん)にかられて、007ここ二三(にさん)日(にち)は誰(たれ)も寄(よ)りつかなかつた。008受付(うけつけ)も事務室(じむしつ)も極(きは)めて閑散(かんさん)である。009只(ただ)相変(あひかは)らず忙(いそが)しいのは珍彦(うづひこ)の神司(かむつかさ)のみである。010珍彦(うづひこ)は至誠(しせい)神(かみ)に仕(つか)へ、011参拝者(さんぱいしや)の有無(うむ)に拘(かか)はらず、012朝(あさ)と晩(ばん)とのお給仕(きふじ)を忠実(ちうじつ)に行(や)つてゐる。013イル、014イク、015サール、016ハル、017テルの五(ご)人(にん)は、018受付(うけつけ)も事務室(じむしつ)もほつたらかしにして、019瓢(ひさご)と鯣(するめ)などを携(たづさ)へ、020祠(ほこら)の森(もり)の最(もつと)も風景(ふうけい)佳(よ)き日当(ひあた)りのよい場所(ばしよ)を選(えら)んで、021頻(しき)りに酒(さけ)を飲(の)み始(はじ)めた。
022イク『オイ、023御(ご)連中(れんちう)、024何(なん)とまア祠(ほこら)の森(もり)も淋(さび)しくなつたぢやないか。025エー、026杢助(もくすけ)さまが怪我(けが)をしたとか云(い)つて踪跡(そうせき)をくらまし、027あの悪(あく)たれ婆(ばあ)さまの義理(ぎり)天上(てんじやう)さまは杉(すぎ)の木(き)へ天上(てんじやう)して顛倒(てんたう)し、028腰骨(こしぼね)をしたたか打(う)ち、029梟鳥(ふくろどり)の奴(やつ)に両眼(りやうがん)をこつかれて顔面(がんめん)膨(ふく)れ上(あが)り、030丸(まる)でお化(ばけ)の様(やう)になつて了(しま)つたぢやないか。031あんまり嫌(いや)らしくなつて此(この)神聖(しんせい)なお館(やかた)も妖怪窟(えうくわいくつ)の様(やう)な心持(こころもち)になつて来(き)て、032ジツクリとして居(を)られないぢやないか。033酒(さけ)でも飲(の)んで元気(げんき)をつけなくちやアやりきれないからな。034おいイル、035貴様(きさま)は義理(ぎり)天上(てんじやう)さまのお世話(せわ)をして居(ゐ)たぢやないか。036随分(ずいぶん)気分(きぶん)が悪(わる)かつただらうな』
037イル『何(なに)、038そんな事(こと)に屁古垂(へこた)れるイルさまぢやないわ。039世(よ)の中(なか)は善悪(ぜんあく)相混(あひこん)じ美醜(びしう)互(たがひ)に相交(あひまじ)はると云(い)ふからな。040一方(いつぱう)には醜(しう)の醜(しう)、041悪(あく)の悪(あく)なる義理(ぎり)天上(てんじやう)さまの生宮(いきみや)の顔(かほ)を見(み)ながら、042又(また)一方(いつぱう)には善(ぜん)の善(ぜん)、043美(び)の美(び)なる天女(てんによ)のやうな初稚姫(はつわかひめ)様(さま)の紅顔(こうがん)麗容(れいよう)を拝(はい)してゐるのだから、044相当(さうたう)に調和(てうわ)がとれるよ。045美(うつく)しいものばかり見(み)てゐると、046何時(いつ)の間(ま)にか瞳孔(どうこう)の奴(やつ)、047増長(ぞうちよう)しやがつて美(うつく)しいものも美(うつく)しうない様(やう)になるものだが、048何(なん)と云(い)つても極端(きよくたん)な妖怪(えうくわい)的(てき)醜面(しこづら)と又(また)極端(きよくたん)な芙蓉(ふよう)の顔(かんばせ)月(つき)の眉(まゆ)、049雪(ゆき)の肌(はだへ)、050日月(じつげつ)の眼(まなこ)、051花(はな)の姿(すがた)の初稚姫(はつわかひめ)様(さま)を見返(みかへ)つた時(とき)には其(その)反動力(はんどうりよく)とでも云(い)はうか、052其(その)美(び)は益々(ますます)美(び)に見(み)え善(ぜん)は益々(ますます)善(ぜん)と映(えい)ずるのだ。053それだから辛抱(しんぼう)が出来(でき)たものだよ。054いや結句(けつく)、055辛抱(しんばう)どころか、056得(え)も云(い)はれぬ歓喜(くわんき)悦楽(えつらく)の気分(きぶん)が漂(ただよ)ふのだ。057イツヒヒヒヒヒ』
058サール『おい、059イル、060それ程(ほど)高姫(たかひめ)さまの側(そば)が結構(けつこう)なら、061何故(なぜ)朝(あさ)から晩(ばん)までくつついてゐないのだ。062俺(おれ)等(たち)の様(やう)な醜面(しこづら)の処(ところ)へ来(き)て、063口賤(くちいや)しい酒(さけ)を喰(くら)はなくても、064初稚姫(はつわかひめ)様(さま)の顔(かほ)を見(み)て恍惚(くわうこつ)として心魂(しんこん)を蕩(とろ)かし、065酔(よ)うてゐたら宜(い)いぢやないか』
066イル『それもさうぢやが、067初稚姫(はつわかひめ)様(さま)が「あたえ、068一人(ひとり)でお世話(せわ)を致(いた)しますから、069イルさまは何卒(どうぞ)休(やす)んで頂戴(ちやうだい)ね、070又(また)御用(ごよう)が厶(ござ)りましたらお願(ねが)ひ致(いた)しますから」と、071それはそれは同情(どうじやう)のこもつた此(この)イルさまに……ヘヘヘヘヘ、072一寸(ちよつと)細(ほそ)い目(め)を向(む)けて優(やさ)しい声(こゑ)で仰有(おつしや)るのだもの、073なんぼ頑固(ぐわんこ)の俺(おれ)だとて、074君命(くんめい)もだし難(がた)く退却(たいきやく)仕(つかまつ)ると云(い)ふことになつて、075暫(しばら)く差控(さしひか)へてゐるのだ』
076テル『ハハハハハ、077馬鹿(ばか)だな。078本当(ほんたう)に貴様(きさま)はお目出度(めでた)い奴(やつ)だよ。079態(てい)よい辞令(じれい)で肱鉄(ひぢてつ)をかまされよつたのだ。080貴様(きさま)の面(つら)を水鏡(みづかがみ)で一寸(ちよつと)見(み)て見(み)よ、081薩張(さつぱり)顔(かほ)の詰(つめ)がぬけて了(しま)つてるぢやないか』
082イル『ナーニ吐(ぬか)しやがるのだい。083唐変木(たうへんぼく)の貴様(きさま)等(ら)に分(わか)つて堪(たま)るものかい。084初稚姫(はつわかひめ)様(さま)と俺(おれ)との関係(くわんけい)を貴様(きさま)知(し)つてるのか。085以心(いしん)伝心(でんしん)、086不言(ふげん)不語(ふご)の間(うち)に於(おい)て万世(ばんせい)不易(ふえき)の愛的(あいてき)連鎖(れんさ)が結(むす)ばれてあるのだ。087誠(まこと)に済(す)みませぬな、088エツヘヘヘヘヘ。089エー、090涎(よだれ)の奴(やつ)、091イルさまの許可(きよか)も無(な)くして勝手(かつて)気儘(きまま)に出(で)ると云(い)ふ事(こと)があるかい。092何程(なにほど)俺(おれ)がデレルと云(い)うても、093貴様(きさま)までが勝手(かつて)にデレルとはチツト越権(ゑつけん)だぞ。094ウツフフフフフ』
095と云(い)ひながら牛(うし)の様(やう)な粘液性(ねんえきせい)に富(と)んだ細(ほそ)い涎(よだれ)を手繰(たぐ)つてゐる。
096テル『ハハハハハ、097夢(ゆめ)でも見(み)てゐやがつたな。098貴様(きさま)と姫(ひめ)様(さま)との関係(くわんけい)と云(い)ふのは、099只(ただ)主(しゆ)と僕(ぼく)との関係(くわんけい)だ。100到底(たうてい)夫婦(ふうふ)なんぞと、101そんな事(こと)は柄(がら)にないわ』
102イル『実(じつ)の所(ところ)は、103初稚姫(はつわかひめ)様(さま)の美貌(びばう)を幻(うつつ)になつて眺(なが)めてゐたものだから、104義理(ぎり)天上(てんじやう)さまの命令(めいれい)も耳(みみ)に這入(はい)らず、105ポカンとして居(を)つた所(ところ)を、106高姫(たかひめ)の奴(やつ)目(め)も見(み)えない癖(くせ)に、107ポカンとやりやがつたのだ』
108テル『愈(いよいよ)三段目(さんだんめ)になつて来(き)たな。109さア一杯(いつぱい)グツと飲(の)んで、110正念場(しやうねんば)を聞(き)かして貰(もら)はうかい』
111イル『酒(さけ)の一杯(いつぱい)や二杯(にはい)では、112神秘(しんぴ)の鍵(かぎ)は渡(わた)す事(こと)は出来(でき)ないわ。113此(この)上(うへ)話(はな)して聞(き)かした処(ところ)で、114下根(げこん)のお前(まへ)等(ら)、115所謂(いはゆる)八衢(やちまた)人間(にんげん)には到底(たうてい)解(かい)し得(え)ないから、116まア云(い)はぬが花(はな)として筐底(きやうてい)深(ふか)く秘(ひ)めて置(お)かう。117開(あ)けて口惜(くや)しき玉手箱(たまてばこ)でなくて、118ぶちあけて嬉(うれ)しい玉手箱(たまてばこ)、119折角(せつかく)握(にぎ)つた運命(うんめい)の鍵(かぎ)を貴様(きさま)等(ら)に占領(せんりやう)されちやア、120折角(せつかく)の苦心(くしん)が水泡(すいはう)に帰(き)するからな』
121テル『おい、122そんな出(だ)し惜(を)しみをするものぢやない。123其(その)先(さき)の一寸(ちよつと)小意気(こいき)な所(ところ)を窺(のぞ)かしてくれないかい。124刀(かたな)の鑑定人(めきき)は、125チツト許(ばか)り砥石(といし)でといで窓(まど)をあけ、126柄元(つかもと)の匂(にほ)ひを見(み)れば、127直(すぐ)に其(その)名刀(めいたう)たり或(あるひ)は鈍刀(どんたう)たる事(こと)を知(し)る如(ごと)く、128此(この)テルさまは名(な)の如(ごと)く、129心(こころ)の底(そこ)までよくテルさまだからな』
130イル『実(じつ)の所(ところ)は、131其(その)先(さき)は余(あま)りで云(い)ふに忍(しの)びないのだ』
132テル『忍(しの)びないとは何(なん)だ、133ヤツパリやり損(そこ)ねたのだな。134玉茸(たまたけ)を採(と)り損(ぞこ)なつて梟(ふくろ)の宵企(よひだく)みに目玉(めだま)をこつかれた口(くち)だらう。135ウフフフフフ』
136イル『秘密(ひみつ)にして呉(く)れたら言(い)つてやるが、137お前(まへ)等(ら)四(よ)人(にん)は一生涯(いつしやうがい)他言(たごん)はせぬと云(い)ふ誓(ちか)ひをするか。138さうすれば一部分(いちぶぶん)位(くらゐ)はお祝(いはひ)に表示(へうじ)してやらぬ事(こと)もない』
139 四(よ)人(にん)声(こゑ)を揃(そろ)へて、
140(イク、サール、ハル、テルの四人)『よし誓(ちか)つた。141誓(ちか)つた以上(いじやう)は大丈夫(だいぢやうぶ)だからね』
142イル『それなら云(い)つてやらう。143初稚姫(はつわかひめ)さまが、144それはそれは何(なん)とも知(し)れぬ情緒(じやうちよ)のこもつたお声(こゑ)で、145柔(やはら)かい細(ほそ)いお手々(てて)を出(だ)して、146「これイルさまえ、147お前(まへ)もお母(かあ)さまのお世話(せわ)をして下(くだ)さるので、148さぞお疲(つか)れでせう。149何卒(どうぞ)コーヒーなつと一杯(いつぱい)お飲(あが)り下(くだ)さいませ」……ヘヘヘヘヘなーんて仰有(おつしや)つて、150それはそれは情(じやう)のこもつた笑(ゑみ)を湛(たた)へて注(つ)いで下(くだ)さるのだ。151それから頭脳(づなう)鋭敏(えいびん)の某(それがし)、152チヤーンと相手(あひて)方(がた)の心(こころ)の底(そこ)まで見(み)てとり、153例(れい)の軍隊(ぐんたい)式(しき)で身体(からだ)をキチンと整理(せいり)し、154コーヒーを左手(ゆんで)に一寸(ちよつと)持(も)ち、155貴様(きさま)等(ら)が酒(さけ)を飲(の)む様(やう)なしだらない事(こと)はなさらないな。156第一(だいいち)姿勢(しせい)を正(ただ)しうし、157気(き)を付(つ)け「一(オイチ)、158二(ニ)、159三(サン)」と、160斯(か)う空中(くうちう)に角度(かくど)を描(ゑが)いて、161わが口中(こうちう)へ徐(おもむろ)に注入(ちゆうにふ)した。162さア、163さうすると流石(さすが)の初稚姫(はつわかひめ)さまも堪(た)へきれない様(やう)な笑(ゑみ)を洩(もら)して、164「ホホホホホ」と鶯(うぐひす)のさね渡(わた)りの様(やう)な美声(びせい)妙音(めうおん)を放(はな)つて笑(わら)ひ遊(あそ)ばしたのだ。165さうすると一方(いつぱう)に控(ひか)へて居(ゐ)る義理(ぎり)天上(てんじやう)の怪物(くわいぶつ)奴(め)、166目(め)が見(み)えないものだから初稚姫(はつわかひめ)様(さま)に喰(く)つてかかり「これ初稚(はつわか)、167お前(まへ)は之(これ)程(ほど)親(おや)が苦(くる)しんでゐるのに、168何(なに)面白(おもしろ)さうに笑(わら)ふのだい。169小気味(こぎみ)がよいのかい」等(など)と意地苦根(いぢくね)の悪(わる)い、170あの優(やさ)しいお姫(ひめ)さまに毒(どく)ついてゐるのだ。171憎(にく)いの何(なん)のと、172此(この)時(とき)こそは愛人(あいじん)の為(ため)に敵(かたき)を討(う)つてお目(め)にかけむと奮然(ふんぜん)として立上(たちあが)り、173高姫(たかひめ)の横(よこ)つ面(つら)目(め)がけて骨(ほね)も挫(くじ)けよと許(ばか)り「ウーン」と叩(たた)いたと思(おも)へば火鉢(ひばち)の角(かど)だつた、174アハハハハ。175よくよく見(み)れば指(ゆび)から血(ち)が滲(にじ)んでゐる。176そこで「痛(いた)い」と云(い)はむとせしが待(ま)て暫(しば)しだ。177それはそれ、178初稚姫(はつわかひめ)様(さま)が監視(かんし)して厶(ござ)るだらう。179千軍(せんぐん)万馬(ばんば)の中(なか)を命(いのち)を的(まと)に勇往(ゆうわう)邁進(まいしん)し、180砲煙(はうえん)弾雨(だんう)を物(もの)ともしない軍人(ぐんじん)の某(それがし)、181マサカ弱音(よわね)を吹(ふ)く訳(わけ)にも行(ゆ)かず、182痛(いた)さうな顔(かほ)も出来(でき)ないのだから随分(ずいぶん)我慢(がまん)したね。183さうすると、184又(また)もや初稚姫(はつわかひめ)様(さま)が梅花(ばいくわ)の唇(くちびる)を開(ひら)いて、185鶯(うぐひす)でも囀(さへづ)つてゐるやうに「ホホホホホ」と笑(わら)ひ声(ごゑ)をお洩(もら)し遊(あそ)ばしたのだ。186そこで此(この)イルさまが「これはしたり、187初稚姫(はつわかひめ)殿(どの)」とやつたね』
188テル『うーん面白(おもしろ)いね。189談(だん)益々(ますます)佳境(かきやう)に入(い)りけりだ。190謹聴(きんちやう)々々(きんちやう)』
191イル『さうすると初稚姫(はつわかひめ)様(さま)が仰有(おつしや)るのに「あのまあイルさまの勇壮(ゆうさう)なお顔(かほ)、192口(くち)をへの字(じ)に結(むす)び眉間(みけん)に迄(まで)皺(しわ)を寄(よ)せて厶(ござ)るお姿(すがた)は、193ビリケンの化相(けさう)した山門(さんもん)の仁王(にわう)さま見(み)た様(やう)だわ」と仰有(おつしや)るのだ、194エヘヘヘヘヘ。195ここに初(はじ)めて某(それがし)のヒーロー豪傑(がうけつ)たる真相(しんさう)を認(みと)められたと思(おも)つた時(とき)の嬉(うれ)しさ、196勇(いさ)ましさ、197イヤ早(はや)形容(けいよう)すべき言語(げんご)もない位(くらゐ)だつた』
198サール『馬鹿(ばか)、199貴様(きさま)、200馬鹿(ばか)にしられ居(を)つてそれが嬉(うれ)しいのか。201恋(こひ)に恍(とぼ)けた奴(やつ)の目(め)には、202何(なん)でもかんでも愛(あい)に映(えい)ずるのだから堪(たま)らぬのだ。203本当(ほんたう)に此奴(こいつ)は睾玉(きんたま)を落(おと)して来(き)よつたのだよ』
204イル『こりや、205サール、206黙(だま)つて聞(き)かう。207聴講者(ちやうかうしや)の妨害(ばうがい)となるのを知(し)らぬか。208あまり騒擾(さうぜう)致(いた)すと会堂外(くわいだうぐわい)へ退去(たいきよ)を命(めい)ずるぞ』
209サール『ヘヘヘヘヘ、210あーあ、211あーあ、212化物(ばけもの)屋敷(やしき)ぢやないが、213アークビが出(で)るわい』
214テル『おい、215イル公(こう)、216サールなどに構(かま)はずドシドシと長口舌(ちやうこうぜつ)を運転(うんてん)さしてくれ。217機関(きくわん)の油(あぶら)がきれたら又(また)このアルコールをグツと注(さ)してやるからな』
218イル『竹林(ちくりん)の七賢人(しちけんじん)でなくて、219森林(しんりん)の四賢(しけん)一(いち)愚人(ぐじん)がここに集(あつ)まつて林間酒(りんかんさけ)を暖(あたた)めながら、220田原峠(たぱるたうげ)の実戦(じつせん)の状況(じやうきやう)を実地(じつち)に臨(のぞ)んだ其(その)勇士(ゆうし)から聞(き)くのだから、221随分(ずいぶん)勇壮(ゆうさう)なものだぞ。222謹(つつし)んで聞(き)かないと、223再(ふたた)び斯様(かやう)な面白(おもしろ)き趣味(しゆみ)津々(しんしん)たるローマンスは一生涯(いつしやうがい)聞(き)く事(こと)は出来(でき)ないぞ』
224テル『うん、225さうだろ さうだろ。226之(これ)からが正念場(しやうねんば)だ』
227と捻鉢巻(ねぢはちまき)をしながら肱(ひぢ)を張(は)り、228自分(じぶん)がやつた様(やう)な気(き)で二足(ふたあし)三足(みあし)前(まへ)へニジリ寄(よ)り、229咬(か)み犬(いぬ)の様(やう)な顔(かほ)をしてイルの顔(かほ)をグツと見上(みあ)げてゐる。230イルは演説(えんぜつ)口調(くてう)になつて、231四辺(あたり)の木(き)の幹(みき)に片手(かたて)を支(ささ)へ、232右(みぎ)の手(て)を腰(こし)の辺(あた)りに置(お)き、233稍(やや)反身(そりみ)になつて喋々(てふてふ)と虚実(きよじつ)交々(こもごも)取(と)りまぜて、234講談師(かうだんし)気分(きぶん)で喋(しやべ)り始(はじ)めた。
235イル『扨(さ)て、236前席(ぜんせき)に引続(ひきつづ)きまして御(ご)静聴(せいちやう)を煩(わづら)はしまする。237愈(いよいよ)祠(ほこら)の森(もり)、238高姫(たかひめ)の段(だん)、239三五教(あななひけう)に其(その)人(ひと)ありと聞(きこ)えたるイルの勇将(ゆうしやう)に、240一方(いつぱう)は古今(ここん)無双(むさう)のナイス、241初稚姫(はつわかひめ)との面白(おもしろ)き物語(ものがたり)で厶(ござ)ります。242そこへ勇猛(ゆうまう)なる義犬(ぎけん)スマートをあしらつた物語(ものがたり)で厶(ござ)りますれば、243益々(ますます)佳境(かきやう)に入(い)り、244お臍(へそ)の宿替(やどがへ)は申(まを)すに及(およ)ばず、245睾玉(きんたま)の洋行(やうかう)致(いた)さない様(やう)、246十二分(じふにぶん)の御(ご)注意(ちゆうい)を払(はら)はれむ事(こと)を希望(きばう)する次第(しだい)であります』
247ハル『おい、248そんな長口上(ながこうじやう)は如何(どう)でもいいわ。249早(はや)く本問題(ほんもんだい)に移(うつ)らないか』
250イル『お客様(きやくさま)の仰(おほ)せ、251御尤(ごもつと)もには候(さふら)へど、252今(いま)申(まを)したのは今夕(こんせき)の添物(そへもの)と致(いた)しまして、253愈(いよいよ)本問題(ほんもんだい)に差(さ)しかかりまする』
254テル『おい、255最前(さいぜん)の様(やう)に坐(すわ)つて酒(さけ)を飲(の)みながらやつてくれないか。256何(なん)だか学術(がくじゆつ)講演会(かうえんくわい)へ出席(しゆつせき)してる様(やう)な気(き)がして、257酒(さけ)を飲(の)んでる気分(きぶん)がせないわ』
258イル『御(ご)註文(ちゆうもん)とあれば仰(おほ)せに従(したが)ひ、259それでは一寸(ちよつと)天降(あまくだ)りを致(いた)し、260光(ひかり)を和(やは)らげ塵(ちり)に同(まじ)はつて、261下賤(げせん)の人物(じんぶつ)と共(とも)に兄弟(きやうだい)の如(ごと)く、262朋友(ほういう)の如(ごと)く、263打解(うちと)けて御(ご)相談(さうだん)を致(いた)しませう。264ハハハハハ』
265と云(い)ひながらドスンと腰(こし)を卸(おろ)した拍子(ひやうし)に、266細(ほそ)い木(き)の角杭(かくくひ)の削(そ)ぎ口(くち)が槍(やり)の様(やう)に劣(とが)つて居(ゐ)る其(その)上(うへ)に尻(しり)を下(お)ろしたのだから堪(たま)らない。267忽(たちま)ちブスツと肛門(こうもん)に突入(とつにふ)し、268恰(あだか)も粉(こな)ひき臼(うす)の上臼(うはうす)の様(やう)になつて了(しま)つた。
269イル『アイタタタ、270然(しか)し丸(まる)いものと云(い)ふものは誰(たれ)でも狙(ねら)ふものと見(み)えるわい。271木(き)の株(かぶ)迄(まで)が俺(おれ)の尻(しり)を狙(ねら)つて居(ゐ)やがる。272何程(なにほど)株(かぶ)が流行(はや)る世(よ)の中(なか)でも、273此(この)株(かぶ)ばつかりは御免(ごめん)だ。274然(しか)し節季(せつき)になつて尻拭(しりぬぐ)ひが出来(でき)ぬと困(こま)るから、275今(いま)の内(うち)に倹約(けんやく)して此処(ここ)にチヤンと据置(すゑおき)貯金(ちよきん)だ。276イヒヒヒヒヒ』
277と少(すこ)し許(ばか)り肛門(こうもん)を破(やぶ)り血(ち)をたらしながら、278ズブ六(ろく)に酔(よ)うて居(ゐ)るので、279そんな事(こと)に頓着(とんちやく)なく滔々(たうたう)として弁(べん)じ始(はじ)めた。
280イル『さて、281初稚姫(はつわかひめ)様(さま)のお顔(かほ)が目(め)にちらつき、282日(ひ)が暮(く)れても、283寝(ね)ても起(お)きても、284雪隠(せつちん)の中(なか)にでも俺(おれ)の目(め)の前(まへ)に現(あら)はれるのだ。285何(なん)とまアよく初稚姫(はつわかひめ)さまも惚(ほ)れたものだな。286何処(どこ)に行(い)つてもついて来(き)てゐる。287据膳(すゑぜん)喰(く)はぬは男(をとこ)でないと思(おも)ひ、288轟(とどろ)く胸(むね)をグツと抑(おさ)へ、289勇気(ゆうき)を鼓(こ)してその優(やさ)しい手(て)をグツと握(にぎ)つた途端(とたん)に、290「ウー、291ワンワン」と云(い)つて俺(おれ)の耳(みみ)たぼに噛(か)振(ぶ)りつき、292これ、293此(この)通(とほ)り傷(きず)をさせよつたのだ』
294テル『何(なん)と顔(かほ)にも似合(にあ)はぬ恐(おそ)ろしい女(をんな)だな』
295イル『何(なに)、296姫(ひめ)様(さま)だと思(おも)つたら猛犬(まうけん)の手(て)を力(ちから)一杯(いつぱい)握(にぎ)つたものだから、297畜生(ちくしやう)吃驚(びつくり)して喰(く)ひつきよつたのだ、298アハハハハハ』
299サール『何(なん)だ。300大方(おほかた)、301そこらが落(お)ちだと思(おも)つてゐたのだ。302貴様(きさま)は一霊(いちれい)四魂(しこん)の活動(くわつどう)が不完全(ふくわんぜん)だから、303そんな頓馬(とんま)な事(こと)ばかりやりよるのだ。304チツと霊学(れいがく)の研究(けんきう)でもしたら如何(どう)だい、305男爵(だんしやく)様(さま)が気(き)をつけるぞや』
306イル『ヘン、307男爵(だんしやく)、308馬鹿(ばか)にするない。309貴様(きさま)は首陀(しゆだ)の生(うま)れぢやないか』
310サール『男(をとこ)が酌(しやく)をして飲(の)むのが男爵(だんしやく)だ。311私(わし)が勝手(かつて)に酌(しやく)をして飲(の)むのが私爵(ししやく)だ。312小酌(こしやく)な事(こと)を申(まを)すと承知(しようち)致(いた)さぬぞ』
313イル『俺(おれ)は酒(さけ)を飲(の)んで口(くち)から嘔吐(へど)と一緒(いつしよ)に吐(は)いたから吐(は)く酌(しやく)様(さま)だ。314吐(は)く酌(しやく)として余裕(よゆう)ある一(いち)丈(ぢやう)七(しち)尺(しやく)の男子(だんし)だからな』
315サール『ヘン、316一(いち)丈(ぢやう)七(しち)尺(しやく)なんて七(しち)尺(しやく)にも足(た)らぬ小男(こをとこ)奴(め)、317偉(えら)さうに云(い)ふない』
318イル『八(はつ)尺(しやく)と九(く)尺(しやく)とよせて八九(はつく)尺(しやく)だ。319一(いち)丈(ぢやう)七(しち)尺(しやく)と云(い)つたのが何処(どこ)が算盤(そろばん)が違(ちが)ふのだ。320何(なん)と粗雑(そざつ)な頭脳(づなう)の持主(もちぬし)だな。321一霊(いちれい)四魂(しこん)が如何(どう)だのかうだのと、322偉(えら)さうに云(い)ふない。323それ程(ほど)偉(えら)さうに云(い)ふのなら、324一(ひと)つ解釈(かいしやく)して見(み)よ』
325サール『貴様(きさま)の様(やう)な木耳耳(きくらげみみ)には聞(き)かしてやるのは惜(を)しけれど、326俺(おれ)が無学者(むがくしや)と思(おも)はれちや片腹(かたはら)痛(いた)い。327云(い)ひがかり上(じやう)、328男子(だんし)として説明(せつめい)の労(らう)を与(あた)へないのも、329学者(がくしや)の估券(こけん)を傷付(きずつ)くる事(こと)になるから、330一(ひと)つはりこんで教訓(けうくん)してやらう。331エヘン、332抑々(そもそも)一霊(いちれい)四魂(しこん)と云(い)ふのは、333直霊(ちよくれい)、334荒魂(あらみたま)、335奇魂(くしみたま)、336幸魂(さちみたま)、337和魂(にぎみたま)を云(い)ふのだ。338さうして荒魂(あらみたま)は勇(ゆう)なり、339幸魂(さちみたま)は愛(あい)なり、340奇魂(くしみたま)は智(ち)なり、341和魂(にぎみたま)は親(しん)なり、342分(わか)つたか、343随分(ずいぶん)よく学理(がくり)に明(あか)るいものだらう』
344イル『勇(ゆう)とは何(なん)だ。345勇(ゆう)の説明(せつめい)をせぬかい』
346サール『マ男(をとこ)を即(すなは)ち勇者(ゆうしや)と云(い)ふのだ。347どうだ、348分(わか)つたか。349それから親(しん)の講釈(かうしやく)だ。350親(しん)と云(い)ふ事(こと)は親(おや)と云(い)ふ字(じ)だ。351辛(つら)い目(め)を八度(はちど)見(み)せるのを親(おや)と云(い)ふのだ。352それから愛(あい)だ。353どんな事(こと)でも有利(いうり)なものであつたならば喉(のど)を鳴(な)らして受(う)ける心(こころ)、354之(これ)を愛(あい)と云(い)ふ。355ヘン、356又(また)日々(にちにち)貴様(きさま)のやうに口(くち)で失策(しつさく)する奴(やつ)を智(ち)と云(い)ふのだ。357十目(じふもく)一様(いちやう)に見(み)るのを直霊(ちよくれい)の直(ちよく)といふのだ。358何(なん)といつてもサールさまだらう。359俺(おれ)の知識(ちしき)には、360誰一人(たれひとり)天下(てんか)に手(て)をサールものがないのだから、361サールさまと申(まを)すのだ、362エヘン』
363テル『成程(なるほど)、364妙々(めうめう)、365如何(いか)にもよく徹底(てつてい)した。366文字(もんじ)と云(い)ふものは感心(かんしん)な意味(いみ)を含(ふく)んだものだね』
367 斯(か)く話(はな)す折(をり)しも楓(かへで)は森(もり)の彼方(あなた)より、
368楓『イルさま、369皆(みな)さま、370早(はや)う帰(かへ)つて下(くだ)さい』
371とありきりの声(こゑ)を出(だ)して呼(よ)ばはつた。
372 五(ご)人(にん)は取(と)る物(もの)も取(と)り敢(あ)へず、373バタバタと事務所(じむしよ)をさして帰(かへ)り行(ゆ)く。
374(大正一二・一・二一 旧一一・一二・五 北村隆光録)
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【メールアドレス】
合言葉「みろく」を入力して下さい→