霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一七章 地(ち)の岩戸(いはと)〔一七四一〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第68巻 山河草木 未の巻 篇:第4篇 月光徹雲 よみ(新仮名遣い):げっこうてつうん
章:第17章 地の岩戸 よみ(新仮名遣い):ちのいわと 通し章番号:1741
口述日:1925(大正14)年01月30日(旧01月7日) 口述場所:月光閣 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年9月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
宣伝歌を歌っていたのは、白馬にまたがった梅公別であった。
神示により、水車小屋の地下に立派な人が押し込められていることを知り、地下室に降りて行く。
梅公別は、天の数歌の神力により牢獄の岩戸を解き放ち、太子とスバール姫を救い出す。
太子は、スバール姫との恋愛を貫こうと、城へは戻りたくないと宣伝使に頼むが、事情を聞いた梅公別は、自分が仲人をしようと太子を諭す。
恋愛、父との和解、国家の建て直し、これらすべてを全うする道を、梅公別は示す。
太子・スバール姫は、梅公別にすべてを任せて、城に帰る決心をする。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2026-09-16 08:43:02 文字数:5184 OBC :rm6817
愛善世界社版:231頁 八幡書店版:第12輯 236頁 修補版: 校定版:235頁 普及版:69頁 初版: ページ備考:
001 三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)梅公別(うめこうわけ)は白馬(はくば)に跨(またが)り、002渺茫(べうばう)として天(てん)に続(つづ)くデカタン高原(かうげん)の大原野(だいげんや)を003東(ひがし)へ東(ひがし)へと那美山(なみやま)の南麓(なんろく)を目当(めあて)に進(すす)み来(きた)り、004古(ふる)ぼけた水車(すいしや)小屋(ごや)の前(まへ)に駒(こま)を留(とど)め独言(ひとりごと)、
005梅公(うめこう)『ハテ、006訝(いぶ)かしや、007今(いま)この附近(あたり)に人声(ひとごゑ)が確(たしか)に聞(きこ)えたやうだ。008駒(こま)を早(はや)めて近寄(ちかよ)り見(み)れば人(ひと)の住(す)みさうにもないこの破屋(あばらや)一(ひと)つ。009水車(すいしや)はあれど運転(うんてん)中止(ちうし)の有様(ありさま)、010何(なに)かこの小屋(こや)には秘密(ひみつ)が潜(ひそ)んでゐるに相違(さうゐ)ない。011どれ一(ひと)つ調(しら)べて見(み)よう』
012と駒(こま)をヒラリと飛(と)び下(お)り、013水車(すいしや)小屋(ごや)の柱(はしら)に縛(しば)りつけおき乍(なが)ら、014いろいろと四辺(あたり)を耳(みみ)をすまして伺(うかが)つて見(み)た。015どこともなしに人(ひと)の声(こゑ)が聞(きこ)えて来(く)る。016地(ち)の底(そこ)のやうでもあり、017又(また)上(うへ)の方(はう)から聞(きこ)えて来(く)る様(やう)でもあり、018声(こゑ)の出所(でどころ)が解(わか)らぬ。019梅公別(うめこうわけ)は菰(こも)を敷(し)きて端坐(たんざ)し瞑目(めいもく)して祈願(きぐわん)を籠(こ)めた其(その)結果(けつくわ)は、020「地下室(ちかしつ)に立派(りつぱ)な人(ひと)が投(な)げ込(こ)まれて居(ゐ)る」と云(い)ふ事(こと)が解(わか)つて来(き)た。021四辺(あたり)をよくよく調(しら)べ見(み)れば、022鞋(わらぢ)に摺(す)りみがかれた床板(ゆかいた)がある。023グツと手(て)をかけ一(いち)枚(まい)めくつて見(み)ると、024地下室(ちかしつ)へ相当(さうたう)の階段(かいだん)が通(とほ)つてゐる。025梅公別(うめこうわけ)はこの階段(かいだん)を四五間(しごけん)許(ばか)り右(みぎ)に左(ひだり)に折(を)れ曲(まが)り乍(なが)ら降(くだ)つて往(ゆ)くと、026其処(そこ)に二人(ふたり)の男(をとこ)が抱(だ)き合(あ)うて慄(ふる)つて居(ゐ)る。
027梅公『やア其(その)方(はう)は何者(なにもの)だ。028察(さつ)する所(ところ)029何(なに)か良(よ)からぬ秘密(ひみつ)の伏在(ふくざい)する魔窟(まくつ)と見(み)える。030有体(ありてい)に申(まをし)上(あ)げろ』
031サ『ハイ、032ワヽヽ私(わたし)はサヽサーマンと云(い)ふヒヽヽ一人(ひとり)の人間(にんげん)で厶(ござ)います。033何(なに)も別(べつ)に悪(わる)い悪事(あくじ)を致(いた)した覚(おぼ)えは更(さら)に厶(ござ)いませぬ。034右守(うもり)の司様(かみさま)の御(ご)命令(めいれい)に依(よ)りまして、035此処(ここ)に勤(つと)めて居(ゐ)るので厶(ござ)います。036どうぞ今日(けふ)の所(ところ)は見逃(みのが)して下(くだ)さいませ。037お慈悲(じひ)です、038お情(なさけ)です、039頼(たの)みます。040コヽコラ、041カーク、042貴様(きさま)もチヽ些(ちつ)と云(い)ひ訳(わけ)の弁解(べんかい)を致(いた)さぬか』
043カ『いや申(まを)し宣伝使(せんでんし)様(さま)、044私(わたし)はカークと申(まをし)まして余(あま)り悪(わる)くもない、045良(よ)くもない世間(せけん)並(なみ)の人間(にんげん)で厶(ござ)います。046実(じつ)の所(ところ)は右守(うもり)の司(かみ)が大変(たいへん)な謀叛(むほん)を企(たく)らみ、047カラピン王(わう)の太子(たいし)スダルマン太子(たいし)を、048二千(にせん)円(ゑん)の懸賞付(けんしやうつき)で取(と)つ捉(つか)まえて呉(く)れと、049内々(ないない)御(ご)命令(めいれい)が下(くだ)りましたので、050二十(にじふ)人(にん)のものが、051ソヽその百(ひやく)円(ゑん)づつ確(たしか)に儲(まう)けさして頂(いただ)きました。052どうぞ御(ご)量見(れうけん)下(くだ)さいませ。053何時(いつ)でも054取(と)る金(かね)は取(と)つたのですから、055太子(たいし)様(さま)は何時(いつ)でもお返(かへ)し申(まをし)ます。056のうサーマン、057ソヽさうぢやないか』
058サ『ソヽそれでも太子(たいし)様(さま)をコヽ此(この)人(ひと)に渡(わた)さうものなら、059俺(おれ)達(たち)のクヽ首(くび)が飛(と)ぶぢやないか』
060梅(うめ)『お前(まへ)等(たち)の云(い)ふ事(こと)は些(ちつ)とも要領(えうりやう)を得(え)ない。061要(えう)するにタラハン城(じやう)の太子(たいし)様(さま)を右守(うもり)に頼(たの)まれて何処(どこ)かへ匿(かく)したと申(まを)すのだな』
062サ『ハイ、063其(その)通(とほ)りで厶(ござ)います。064毛頭(まうとう)相違(さうゐ)は厶(ござ)いませぬ。065何処(どこ)かへ匿(かく)しまして厶(ござ)います』
066梅(うめ)『何処(どこ)かでは解(わか)らぬぢやないか。067かつきりと在所(ありか)を云(い)つたらどうだ』
068サ『ハイ、069たうとう……所(ところ)へ匿(かく)しました』
070梅(うめ)『何(なん)と云(い)ふ所(ところ)へ匿(かく)したのだ』
071サ『ハイ、072チヽチのつく所(ところ)です。073オイ、074カークお前(まへ)も半分(はんぶん)云(い)へ。075俺(おれ)も秘密(ひみつ)を明(あか)しては責任(せきにん)があるからなア。076一口(ひとくち)づつ云(い)はうぢやないか』
077カ『ハイ、078宣伝使(せんでんし)様(さま)、079包(つつ)まず隠(かく)さず申上(まをしあ)げます。080カーに匿(かく)しました』
081サ『シーに匿(かく)しました』
082カ『ツーに匿(かく)しました』
083梅(うめ)『何(なに)、084チーとカーとシーとツーと、085アヽ地下室(ちかしつ)か。086地下室(ちかしつ)と云(い)へば此処(ここ)ではないか』
087サ『サーで厶(ござ)います』
088カ『ヨーで厶(ござ)います』
089梅(うめ)『オイ、090邪魔(じやま)臭(くさ)い。091左様(さやう)で厶(ござ)いますと云(い)へば可(よ)いぢやないか』
092サ『こんな秘密(ひみつ)を申(まをし)上(あげ)やうものなら、093右守(うもり)の司(かみ)から打(う)ち首(くび)に合(あ)はされますから、094夫(そ)れで態(わざ)と解(わか)らぬやうに言葉(ことば)を分(わ)けて申(まを)しました。095御(ご)推察(すいさつ)下(くだ)さいませ、096貴方(あなた)の明敏(めいびん)の頭脳(づなう)でお考(かんが)へ下(くだ)されば解(わか)るでせう』
097梅(うめ)『成程(なるほど)、098それも一理(いちり)がある、099面白(おもしろ)い。100それでは二人(ふたり)が分(わ)けて話(はな)して呉(く)れ。101自分(じぶん)は言霊別(ことたまわけ)だから一言(ひとこと)聞(き)けば大抵(たいてい)解(わか)る。102さうして此(この)地下室(ちかしつ)に押(お)し込(こ)まれて居(ゐ)る方(かた)は一人(ひとり)か二人(ふたり)かどうだ』
103 二人(ふたり)は互(たがひ)に一言(ひとこと)づつ、
104カーク、サーマン『フ、105タ、106リ、107サ、108マ、109デ、110ゴ、111ザ、112リ、113マ、114ス。115ソ、116シ、117テ、118ヒ、119ト、120リ、121ハ、122ス、123ダ、124ル、125マ、126ン、127タ、128イ、129シ、130サ、131マ、132ヒ、133ト、134リ、135ハ、136ス、137バー、138ル、139ヒ、140メ、141サ、142マ、143デ、144ゴ、145ザ、146イ、147マ、148ス。149ミ、150ツ、151カ、152マ、153ヘ、154カ、155ラ、156ナ、157ニ、158モ、159ク、160ハ、161ズ、162ノ、163マ、164ズ、165ニ、166オ、167シ、168コ、169メ、170ラ、171レ、172ク、173ル、174シ、175ン、176デ、177イ、178ラ、179レ、180マ、181ス』
182梅(うめ)『ヤ、183もう解(わか)つた。184貴様(きさま)達(たち)は此処(ここ)を些(ちつ)とも動(うご)く事(こと)はならぬぞ』
185カ『ハイ動(うご)けと仰有(おつしや)いましても此(この)通(とほ)り腰(こし)が抜(ぬ)けて仕舞(しま)つたものですから、186動(うご)く事(こと)は出来(でき)ませぬ』
187梅(うめ)『荒金(あらがね)の土(つち)の洞穴(ほらあな)底(そこ)深(ふか)く
188繋(つな)がれ給(たま)ふ君(きみ)を救(すく)はむ。
189吾(われ)こそは三五(あななひ)の道(みち)の神司(かむつかさ)
190君(きみ)を救(すく)はむと忍(しの)び来(き)にけり』
191 太子(たいし)は石牢(いしらう)の中(なか)よりさも爽(さはや)かなる声(こゑ)にて、
192太子『惟神(かむながら)神(かみ)の恵(めぐみ)の幸(さち)はひて
193岩戸(いはと)の開(ひら)く時(とき)は来(き)にけり。
194三五(あななひ)の神(かみ)の司(つかさ)の御恵(みめぐみ)の
195露(つゆ)に霑(うるほ)ふ若緑(わかみどり)かな。
196吾(わぎ)妹子(もこ)は隣(となり)の牢屋(ひとや)に繋(つな)がれぬ
197とく救(すく)ひませ吾(われ)より先(さき)に』
198 スバール姫(ひめ)は最前(さいぜん)から此(この)様子(やうす)を考(かんが)へて居(ゐ)たが、199地獄(ぢごく)で仏(ほとけ)に遇(あ)うたる心地(ここち)、200喜(よろこ)びに堪(た)えず、201さも嬉(うれ)し気(げ)に、
202スバール姫『訝(いぶ)かしきこれの牢屋(ひとや)にとらはれて
203泣(な)き暮(く)らしけり吾(われ)等(ら)二人(ふたり)は。
204皇神(すめかみ)の珍(うづ)の御光(みひかり)現(あら)はれて
205常夜(とこよ)の暗(やみ)を照(て)らす嬉(うれ)しさ』
206 梅公別(うめこうわけ)は牢獄(らうごく)の鍵(かぎ)を探(さが)せども207何処(どこ)にも鍵(かぎ)らしきものが見当(みあた)らないので、208両人(りやうにん)に向(むか)ひ厳(きび)しく訊問(じんもん)して見(み)ると209牢獄(らうごく)の鍵(かぎ)は右守(うもり)の司(かみ)が持(も)つて帰(かへ)つたとの答(こたへ)である。210梅公別(うめこうわけ)は途方(とはう)に暮(く)れ乍(なが)ら一生(いつしやう)懸命(けんめい)に天(あま)の数歌(かずうた)を奏上(そうじやう)し祈(いの)り初(はじ)めた。211不思議(ふしぎ)や牢獄(らうごく)の岩(いは)の戸(と)は自然(しぜん)にパツと開(ひら)けて212五色(ごしき)の光明(くわうみやう)が室内(しつない)を射照(いてら)した。213太子(たいし)もスバール姫(ひめ)も転(ころ)ぶが如(ごと)く牢獄(らうごく)を走(はし)り出(い)で、214梅公別(うめこうわけ)の体(からだ)に前後(ぜんご)より喰(くら)ひつき嬉(うれ)し涙(なみだ)にかきくれ、215少時(しばし)言葉(ことば)さえ出(だ)し得(え)なかつた。
216梅(うめ)『承(うけたま)はれば殿下(でんか)はタラハン城(じやう)の太子(たいし)様(さま)、217又(また)貴女(あなた)はスバール姫(ひめ)様(さま)との事(こと)、218どうしてまア斯(か)様(やう)な所(ところ)へ押(お)し籠(こ)められ玉(たま)うたので厶(ござ)いますか』
219太(たい)『恥(はづか)し乍(なが)ら吾々(われわれ)二人(ふたり)は恋(こひ)におち城内(じやうない)を密(ひそか)に脱(ぬ)け出(い)で、220山奥(やまおく)の破(やぶ)れ寺(でら)に入(はい)つて匿(かく)れ忍(しの)んで居(を)りました所(ところ)、221心(こころ)汚(きた)なき右守(うもり)のサクレンスなるもの、222王家(わうけ)を奪(うば)はむ企(たく)みより、223吾々(われわれ)を邪魔者(じやまもの)と見做(みな)し、224悪漢(わるもの)に命(めい)じ金(かね)を与(あた)へてふん縛(じば)らせ、225斯様(かやう)な所(ところ)へ連(つ)れ参(まゐ)り、226吾(われ)等(ら)二人(ふたり)を干(ほ)し殺(ころ)さむとの企(たく)み、227もはや決心(けつしん)の臍(ほぞ)は極(き)めて居(を)りましたが、228思(おも)ひも寄(よ)らぬ貴方(あなた)のお助(たす)け、229斯様(かやう)な嬉(うれ)しい事(こと)は厶(ござ)いませぬ』
230ス『宣伝使(せんでんし)様(さま)、231有難(ありがた)う厶(ござ)います。232お蔭(かげ)で命(いのち)を救(すく)うて頂(いただ)きました。233此(この)御恩(ごおん)はミロクの世(よ)迄(まで)も忘(わす)れは致(いた)しませぬ。234命(いのち)の親(おや)の神司(かむづかさ)様(さま)、235辱(かたじけ)なふ存(ぞん)じます』
236梅(うめ)『人(ひと)を救(すく)ふは宣伝使(せんでんし)の役(やく)、237其(その)様(やう)に礼(れい)を云(い)はれては却(かへ)つて迷惑(めいわく)を致(いた)します。238神(かみ)様(さま)が私(わたし)の体(たい)を通(とほ)して貴方(あなた)等(がた)をお救(すく)ひ遊(あそ)ばしたのですから、239国祖(こくそ)国常立(くにとこたちの)大神(おほかみ)様(さま)、240豊雲野(とよくもぬの)大神(おほかみ)様(さま)にお礼(れい)を仰有(おつしや)つて下(くだ)さいませ。241サア私(わたし)と一緒(いつしよ)に声(こゑ)を揃(そろ)へてお礼(れい)を致(いた)しませう』
242太子、スバール姫『ハイ、243有難(ありがた)う』
244と両人(りやうにん)は梅公別(うめこうわけ)司(つかさ)と共(とも)に、245心(こころ)のどん底(ぞこ)より満腔(まんこう)の赤誠(せきせい)を捧(ささ)げて、246感謝(かんしや)の辞(じ)を大神(おほかみ)に奏上(そうじやう)し終(をは)り、247梅公別(うめこうわけ)は両人(りやうにん)に向(むか)ひ、
248梅(うめ)『サア皆(みな)さま、249かやうな所(ところ)に永居(ながゐ)は恐(おそ)れが厶(ござ)います。250これから私(わたし)がタラハン城(じやう)へお送(おく)り致(いた)しませう。251今(いま)迄(まで)の間違(まちが)つた心(こころ)を取(と)り直(なほ)し城内(じやうない)へお帰(かへ)り遊(あそ)ばし、252大王(だいわう)殿下(でんか)の宸襟(しんきん)をお安(やす)め遊(あそ)ばしませ』
253太(たい)『ハイ、254何(なに)から何(なに)迄(まで)、255御(ご)親切(しんせつ)に有難(ありがた)う厶(ござ)います。256併(しか)し乍(なが)ら此(この)女(をんな)は父(ちち)には内証(ないしよう)で連(つ)れて居(を)りますので、257此女(これ)を連(つ)れて帰(かへ)る訳(わけ)には参(まゐ)りませぬ。258それだと云(い)つて今更(いまさら)捨(す)ててゆく事(こと)も可愛(かあい)さうで出来(でき)ませぬ。259又(また)私(わたし)の恋愛(れんあい)至上(しじやう)主義(しゆぎ)より見(み)ても捨(す)てる訳(わけ)には行(ゆ)きませぬから、260何卒(どうぞ)お慈悲(じひ)に此処(ここ)から二人(ふたり)をお見捨(みす)て下(くだ)さいませ。261一生(いつしやう)のお願(ねがひ)で厶(ござ)います』
262梅(うめ)『アーそれは間違(まちが)つたお考(かんが)へ、263どうあつても私(わたし)がお伴(とも)を致(いた)しませう。264さうしてお二人(ふたり)の恋愛(れんあい)は敗(やぶ)れないやうに私(わたくし)が媒介(なかうど)となつて、265父王(ちちわう)殿下(でんか)の御(ご)承諾(しようだく)を得(う)る事(こと)に致(いた)しませう。266必(かなら)ず御(ご)心配(しんぱい)なくお館(やかた)へお帰(かへ)りなさいませ』
267太(たい)『父(ちち)は大変(たいへん)に頑固(ぐわんこ)で厶(ござ)いますから、268神司(かむつかさ)のお言葉(ことば)と雖(いへど)も到底(たうてい)承知(しようち)は致(いた)しますまい』
269梅(うめ)『それは貴方(あなた)の心(こころ)の偏見(ひがみ)と申(まを)すもの。270天(あめ)の下(した)に子(こ)を愛(あい)せない親(おや)が厶(ござ)いませうか。271貴方(あなた)がこのスバール様(さま)を愛(あい)して居(を)られるよりも百層倍(ひやくそうばい)増(まし)て272貴方(あなた)の父上(ちちうへ)は貴方(あなた)を愛(あい)して居(を)られますよ。273愛(あい)する貴方(あなた)の心(こころ)を慰(なぐさ)むる恋人(こひびと)をどうしてお憎(にく)み遊(あそ)ばしませう。274宣伝使(せんでんし)の言葉(ことば)に二言(にごん)はありませぬ。275生命(せいめい)を賭(と)しても貴方(あなた)の恋(こひ)を完全(くわんぜん)に成功(せいこう)させませう。276承(うけたま)はればタラハン国(ごく)は紛擾(ふんぜう)絶間(たえま)無(な)く277国家(こくか)は危機(きき)に瀕(ひん)して居(ゐ)るやうです。278御(おん)父(ちち)殿下(でんか)も御(ご)心配(しんぱい)の折柄(をりから)、279天(てん)にも地(ち)にも一人子(ひとりご)の太子(たいし)様(さま)のお行衛(ゆくゑ)が分(わか)らないやうな事(こと)では280層一層(そういつそう)父殿下(ちちでんか)の御(ご)心配(しんぱい)は増(ま)す許(ばか)り、281国家(こくか)の擾乱(ぜうらん)は日(ひ)を逐(お)うて激烈(げきれつ)を増(ま)す計(ばか)りです。282その虚(きよ)に乗(じやう)じて悪臣(あくしん)共(ども)が非望(ひばう)を企(くはだ)て283世(よ)は一(いち)日(にち)と修羅(しゆら)の巷(ちまた)となる許(ばか)りでせう。284是非(ぜひ)私(わたくし)に跟(つ)いてお帰(かへ)りなさいませ』
285太(たい)『ハイ重(かさ)ね重(がさ)ねの御(ご)教訓(けうくん)有難(ありがた)う厶(ござ)います。286そんならお言葉(ことば)に従(したが)ひ一先(ひとま)づ城内(じやうない)に帰(かへ)る事(こと)に決心(けつしん)致(いた)します。287真(まこと)に済(す)みませぬが、288どうか送(おく)つて下(くだ)さいますやう』
289梅(うめ)『やア早速(さつそく)の御(ご)承知(しようち)、290遉(さすが)はタラハン国(ごく)の太子(たいし)様(さま)、291私(わたくし)も満足(まんぞく)致(いた)しました』
292ス『妾(わらは)もお言葉(ことば)に甘(あま)へ、293宣伝使(せんでんし)様(さま)のお伴(とも)を致(いた)しまして294太子(たいし)様(さま)と共(とも)に参(まゐ)らして頂(いただ)きませう。295どうか宜敷(よろし)うお願(ねが)ひ致(いた)します』
296梅(うめ)『や、297御(ご)心配(しんぱい)遊(あそ)ばすな。298きつと円満(ゑんまん)に解決(かいけつ)をつけてお目(め)にかけませう。299何事(なにごと)も神(かみ)様(さま)にお任(まか)せ申(まを)せば大丈夫(だいぢやうぶ)ですから。300併(しか)し太子(たいし)様(さま)、301此(この)両人(りやうにん)はどう遊(あそ)ばしますか』
302太(たい)『ハイ、303許(ゆる)し難(がた)い悪人(あくにん)で厶(ござ)いますれば、304此(この)両人(りやうにん)を牢獄(らうごく)へぶち込(こ)み懲(こら)しめてやり度(た)いは山々(やまやま)で厶(ござ)いますが、305私(わたし)も牢獄(らうごく)生活(せいくわつ)の苦(くる)しみを味(あぢ)はひましたので、306吾(わが)身(み)を抓(つめ)つて人(ひと)の痛(いた)さを知(し)れとやら、307どうも可憐(かはい)さうで放(ほ)り込(こ)んでやる気(き)も致(いた)しませぬ。308この処置(しよち)については宣伝使(せんでんし)様(さま)の御(ご)判断(はんだん)に任(まか)せませう』
309カ『アヽ、310もしもし宣伝使(せんでんし)様(さま)、311決(けつ)して私(わたし)は此(この)後(ご)に於(おい)て悪事(あくじ)は致(いた)しませぬから、312どうぞ牢獄(らうごく)へ入(い)れる事(こと)だけは許(ゆる)して下(くだ)さいませ。313その代(かは)りお馬(うま)の別当(べつたう)でも何(なん)でも致(いた)します』
314梅(うめ)『人(ひと)を救(たす)けるは宣伝使(せんでんし)の役(やく)だ。315併(しか)し乍(なが)ら恐(おそ)れ多(おほ)くも太子(たいし)殿下(でんか)を苦(くる)しめ奉(たてまつ)つた其(その)方(はう)共(ども)なれば、316一人(ひとり)だけ助(たす)けてやらう。317一人(ひとり)は気(き)の毒(どく)ながら此(この)牢獄(らうごく)に打(ぶ)ち込(こ)んでおく積(つも)りだ。318太子(たいし)様(さま)319どちらが比較(ひかく)的(てき)善人(ぜんにん)で厶(ござ)いますか』
320太(たい)『ハイ、321私(わたし)としては甲(かふ)乙(おつ)の区別(くべつ)がつきませぬ。322揃(そろ)ひも揃(そろ)つて悪(わる)い奴(やつ)で厶(ござ)いますから』
323サ『もし太子(たいし)様(さま)324私(わたし)は何時(いつ)も貴方(あなた)に対(たい)し同情(どうじやう)を持(も)つて居(ゐ)たぢや厶(ござ)いませぬか。325このカークと云(い)ふ奴(やつ)、326私(わたし)が「太子(たいし)様(さま)にお腹(なか)が空(す)くだらうから、327焼甘藷(やきいも)の蔕(へた)でも買(か)つて来(き)てソツと上(あ)げたらどうだらう」と云(い)うた所(ところ)、328大悪党(だいあくたう)のカークの奴(やつ)、329「私(わし)はそんな宋襄(そうぜう)の仁(じん)はやらない、330断乎(だんこ)として水(みづ)一杯(いつぱい)も呑(の)ます事(こと)は出来(でき)ない。331右守(うもり)の司(かみ)にそんな事(こと)が聞(きこ)えたら、332俺(おれ)の首(くび)が飛(と)ぶ」と極端(きよくたん)に自己愛(じこあい)を発揮(はつき)した奴(やつ)で厶(ござ)いますから、333どうか私(わたし)をお助(たす)け下(くだ)さいませ』
334梅(うめ)『アツハヽヽヽ、335オイ、336カーク、337お前(まへ)はサーマンが今(いま)云(い)つたやうな事(こと)を申(まを)したのか』
338カ『ハイ、339是非(ぜひ)は厶(ござ)いませぬ。340神(かみ)様(さま)の前(まへ)で匿(かく)したつて駄目(だめ)で厶(ござ)います。341あの通(とほ)り申(まを)しました。342誠(まこと)に今(いま)となつて思(おも)へば申訳(まをしわけ)のない事(こと)を致(いた)しました。343どうか私(わたし)を牢獄(らうごく)に投(な)げ込(こ)んで帰(かへ)つて下(くだ)さいませ。344サーマンは女房(にようばう)も有(あ)る事(こと)なり、345私(わたし)は一人身(ひとりみ)、346どうなつても構(かま)ひませぬ。347妻(つま)も無(な)く、348子(こ)も無(な)く、349何時(いつ)死(し)んでも泣(な)く者(もの)さえ厶(ござ)いませぬから』
350梅(うめ)『ハヽヽヽ、351割(わり)とは正直(しやうぢき)な奴(やつ)だ。352どうやらお前(まへ)の方(はう)が善人(ぜんにん)らしい。353さう有体(ありてい)に白状(はくじやう)した上(うへ)はお前(まへ)の罪(つみ)は消(き)えて了(しま)つた。354気(き)の毒(どく)乍(なが)らサーマンを牢屋(らうや)に投(な)げ込(こ)むより仕方(しかた)が無(な)からう。355太子(たいし)様(さま)、356殿下(でんか)のお考(かんが)へは如何(いかが)で厶(ござ)いますかなア』
357太(たい)『や、358それは面白(おもしろ)いでせう。359人(ひと)の秘密(ひみつ)を明(あか)して自分(じぶん)が助(たす)からうと云(い)ふやうな悪人(あくにん)は懲(こら)しめの為(た)め360何時(いつ)迄(まで)も冷(つめ)たい牢獄(らうごく)に投(な)げ込(こ)んでおくが宜敷(よろし)いでせう』
361サ『もし太子(たいし)様(さま)、362殿下(でんか)様(さま)、363どうぞ今(いま)迄(まで)の悪事(あくじ)は大目(おほめ)にみて下(くだ)さいませ。364其(その)代(かは)り殿下(でんか)の為(た)めならば、365今(いま)死(し)ねと仰有(おつしや)つても死(し)にますから』
366太(たい)『やア面白(おもしろ)い。367然(しか)らば牢獄(らうごく)に投(な)げ込(こ)む事(こと)は許(ゆる)してやらう。368どうぢや嬉(うれ)しいか』
369サ『ハイ嬉(うれ)しう厶(ござ)います。370ようまアお助(たす)け下(くだ)さいました。371今後(こんご)は殿下(でんか)の為(た)めなら何時(いつ)でも命(いのち)を差(さ)し出(だ)します』
372太(たい)『やア愛(う)い奴(やつ)だ。373そんなら余(よ)の身代(みがは)りとなつて今(いま)此処(ここ)で死(し)んで呉(く)れ。374汝(なんぢ)の首(くび)を提(さ)げて右守司(うもりのかみ)の前(まへ)に差出(さしだ)し、375スダルマン太子(たいし)の生首(なまくび)と申(まを)し、376首桶(くびをけ)に入(い)れて進物(しんもつ)にいたす考(かんが)へだから』
377サ『メメ滅相(めつさう)な、378今(いま)此処(ここ)で命(いのち)を取(と)られては助(たす)けて貰(もら)つた甲斐(かひ)が厶(ござ)いませぬ』
379太(たい)『ハヽヽヽヽ、380汝(きさま)の如(ごと)き生首(なまくび)がどうして余(よ)の身代(みがは)りにならうか。381瓦(かはら)は金(きん)の代(かは)りにはなるまい。382あゝ総(すべ)て人間(にんげん)の心(こころ)は皆(みな)こんなものだらう。383父王(ちちわう)殿下(でんか)の御(お)側(そば)に親(した)しく仕(つか)へ侍(はべ)る老臣(らうしん)共(ども)は「大王(だいわう)殿下(でんか)の為(た)めならば何時(いつ)でも命(いのち)を的(まと)に働(はたら)きます」と、384臆面(おくめん)もなく口癖(くちぐせ)のやうに申(まをし)て居(ゐ)たが、385五月(ごぐわつ)五日(いつか)の大騒擾(だいさうぜう)の勃発(ぼつぱつ)した時(とき)は、386左守(さもり)、387右守(うもり)を始(はじ)め重臣(ぢうしん)共(ども)は四方(よも)に逃(にげ)散(ち)り、388唯(ただ)の一(いち)人(にん)も参内(さんだい)したものは無(な)かつた。389高禄(かうろく)に養(やしな)はれた重臣(ぢうしん)でさへも其(その)通(とほ)りだから、390匹夫(ひつぷ)の汝(なんぢ)が命(いのち)を惜(をし)むのは無理(むり)もない。391余(よ)は宣伝使(せんでんし)に救(すく)はれた祝(いはひ)として、392汝(なんぢ)等(ら)両人(りやうにん)を立派(りつぱ)に放免(はうめん)する。393何処(どこ)へなりと勝手(かつて)に行(い)つたがよからうぞ』
394 太子(たいし)のこの情(なさけ)の籠(こ)もつた言葉(ことば)を聞(き)くより、395今(いま)迄(まで)腰(こし)を抜(ぬ)かして居(ゐ)た両人(りやうにん)はムクムクと起(お)き上(あが)り、396長居(ながゐ)は恐(おそ)れ又(また)もや御意(ぎよい)の変(かは)らぬ内(うち)にと云(い)つたやうな調子(てうし)で、397「ア、398リ、399ガ、400ト、401ウ、402サ、403マ」と互(たがひ)に一言(ひとこと)づつ謝辞(しやじ)を述(の)べながら、404一目散(いちもくさん)に階段(かいだん)を昇(のぼ)り405雲(くも)を霞(かすみ)と吾(わが)家(や)をさして馳(はせ)帰(かへ)り行(ゆ)く。406梅公別(うめこうわけ)は遥(はるか)の原野(げんや)に遊(あそ)んで居(ゐ)る二頭(にとう)の野馬(やば)を捉(とら)へ来(きた)つて両人(りやうにん)に勧(すす)めた。407スバール姫(ひめ)は騎馬(きば)の経験(けいけん)がないので、408梅公別(うめこうわけ)が乗(の)り来(きた)つた鞍付(くらつき)の馬(うま)に乗(の)せ、409二人(ふたり)の男(をとこ)は荒馬(あらうま)に跨(またが)り乍(なが)ら駒(こま)の蹄(ひづめ)に土埃(つちぼこり)を立(た)て、410東北(とうほく)の空(そら)を目当(めあて)に駆(か)けて行(ゆ)く。
411捉(とら)はれし太子(よつぎ)の御子(みこ)も三五(あななひ)の
412神(かみ)の恵(めぐみ)に放(はな)たれてけり。
413(大正一四・一・七 新一・三〇 於月光閣 加藤明子録)
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