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霊界物語
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
第68巻(未の巻)
序文
総説
第1篇 名花移植
第1章 貞操論
第2章 恋盗詞
第3章 山出女
第4章 茶湯の艶
第2篇 恋火狼火
第5章 変装太子
第6章 信夫恋
第7章 茶火酌
第8章 帰鬼逸迫
第3篇 民声魔声
第9章 衡平運動
第10章 宗匠財
第11章 宮山嵐
第12章 妻狼の囁
第13章 蛙の口
第4篇 月光徹雲
第14章 会者浄離
第15章 破粋者
第16章 戦伝歌
第17章 地の岩戸
第5篇 神風駘蕩
第18章 救の網
第19章 紅の川
第20章 破滅
第21章 祭政一致
余白歌
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霊界物語
>
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
>
第68巻(未の巻)
> 第4篇 月光徹雲 > 第14章 会者浄離
<<< 蛙の口
(B)
(N)
破粋者 >>>
第一四章
会者
(
ゑしや
)
浄離
(
じやうり
)
〔一七三八〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第68巻 山河草木 未の巻
篇:
第4篇 月光徹雲
よみ(新仮名遣い):
げっこうてつうん
章:
第14章 会者浄離
よみ(新仮名遣い):
えしゃじょうり
通し章番号:
1738
口述日:
1925(大正14)年01月30日(旧01月7日)
口述場所:
月光閣
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1926(大正15)年9月30日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
太子とスバール姫は、山奥の古寺に隠れ住み、国家を打ち捨て、恋愛至上主義の生活をしていた。
そこへ、みすぼらしい比丘姿のアリナが通りかかり、三人は再会する。
太子はアリナに、城に戻り、自分に代わって将来のタラハン国を担うよう勧めるが、アリナは政治欲・情欲から離れ、一生を雲水として過ごす覚悟を決めたと、太子に決心を伝える。
アリナはタラハン国の罪穢れの清めを歌い願いつつ、太子とスバール姫のもとを去っていく。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm6814
愛善世界社版:
189頁
八幡書店版:
第12輯 221頁
修補版:
校定版:
191頁
普及版:
69頁
初版:
ページ備考:
001
青春
(
せいしゆん
)
の
血
(
ち
)
に
燃
(
も
)
ゆる
若
(
わか
)
き
男女
(
だんぢよ
)
に
取
(
と
)
つては
002
恋愛
(
れんあい
)
なるものは
実
(
じつ
)
に
生命
(
せいめい
)
の
源泉
(
げんせん
)
である。
003
恋愛熱
(
れんあいねつ
)
の
高潮
(
かうてう
)
した
時
(
とき
)
は、
004
倫理
(
りんり
)
道徳
(
だうとく
)
の
覊絆
(
きはん
)
を
脱
(
だつ
)
し
理智
(
りち
)
を
捨
(
す
)
て、
005
富貴
(
ふうき
)
何物
(
なにもの
)
ぞ、
006
名誉
(
めいよ
)
何物
(
なにもの
)
ぞ、
007
尚
(
なほ
)
も
進
(
すす
)
んでは
親
(
おや
)
兄弟
(
きやうだい
)
を
忘
(
わす
)
れ、
008
朋友
(
ほういう
)
知己
(
ちき
)
を
忘
(
わす
)
るるに
至
(
いた
)
る。
009
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
恋愛
(
れんあい
)
其
(
その
)
ものより
見
(
み
)
る
時
(
とき
)
は、
010
理智
(
りち
)
や
道徳
(
だうとく
)
の
範囲内
(
はんゐない
)
に
入
(
い
)
る
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ぬ。
011
どこ
迄
(
まで
)
も
拡大性
(
くわくだいせい
)
を
帯
(
お
)
び、
012
且
(
か
)
つ
流通性
(
りうつうせい
)
を
備
(
そな
)
へて
居
(
ゐ
)
る。
013
もし
理智
(
りち
)
を
加味
(
かみ
)
した
恋愛
(
れんあい
)
ならば、
014
恋愛
(
れんあい
)
其
(
その
)
者
(
もの
)
の
生命
(
せいめい
)
は
既
(
すで
)
に
已
(
すで
)
に
滅亡
(
めつぼう
)
して
居
(
ゐ
)
るのである。
015
実
(
げ
)
にやタラハン
国
(
ごく
)
のスダルマン
太子
(
たいし
)
は、
016
尊貴
(
そんき
)
の
家
(
いへ
)
に
生
(
うま
)
れ
九五
(
きうご
)
の
位
(
くらゐ
)
に
上
(
のぼ
)
るべき
身
(
み
)
でありながら、
017
今年
(
ことし
)
十五
(
じふご
)
の
春
(
はる
)
を
迎
(
むか
)
へた
山奥
(
やまおく
)
育
(
そだ
)
ちの
乙女
(
をとめ
)
に
満身
(
まんしん
)
の
心血
(
しんけつ
)
を
注
(
そそ
)
ぎ、
018
十二分
(
じふにぶん
)
に
恋
(
こひ
)
を
味
(
あぢ
)
ははむとして
国家
(
こくか
)
の
危急
(
ききふ
)
を
忘
(
わす
)
れ、
019
父
(
ちち
)
が
瀕死
(
ひんし
)
の
状態
(
じやうたい
)
に
陥
(
おちい
)
りつつ
有
(
あ
)
る
事
(
こと
)
も
見捨
(
みす
)
てて、
020
大原山
(
おほはらやま
)
の
谷間
(
たにあひ
)
に
古
(
ふる
)
くより
立
(
た
)
てる
破
(
やぶ
)
れ
寺
(
でら
)
に
落
(
お
)
ち
延
(
の
)
び、
021
密
(
ひそ
)
かに
恋
(
こひ
)
を
味
(
あぢ
)
はつて
居
(
ゐ
)
る。
022
左守
(
さもり
)
の
悴
(
せがれ
)
アリナは
太子
(
たいし
)
の
品行
(
ひんかう
)
を
乱
(
みだ
)
したる
大罪人
(
だいざいにん
)
として、
023
逮捕
(
たいほ
)
命令
(
めいれい
)
を
出
(
だ
)
されたる
蔭裡
(
かげうら
)
の
身
(
み
)
、
024
遉
(
さすが
)
に
繁華
(
はんくわ
)
な
都大路
(
みやこおほぢ
)
にも
住
(
す
)
み
兼
(
か
)
ね
比丘
(
びく
)
の
姿
(
すがた
)
に
身
(
み
)
を
窶
(
やつ
)
し、
025
昼
(
ひる
)
は
山林
(
さんりん
)
に
伏
(
ふ
)
し、
026
夜
(
よ
)
はトボトボと
野路
(
のぢ
)
を
伝
(
つた
)
うて、
027
広
(
ひろ
)
い
世界
(
せかい
)
に
吾
(
わが
)
身
(
み
)
一
(
ひと
)
つの
置
(
お
)
き
所
(
どころ
)
もなく
彷徨
(
さまよ
)
ひ
廻
(
まは
)
りしが、
028
辛
(
から
)
うじて
大原山
(
おほはらやま
)
の
谷間
(
たにあひ
)
の
古
(
ふる
)
ぼけた
破
(
やぶ
)
れ
寺
(
でら
)
に
一夜
(
いちや
)
の
宿
(
やど
)
を
過
(
すご
)
さむと
立
(
た
)
ち
寄
(
よ
)
り
見
(
み
)
れば、
029
本堂
(
ほんだう
)
の
須弥壇
(
しゆみだん
)
の
後
(
うしろ
)
に
若
(
わか
)
き
男女
(
だんぢよ
)
の
囁
(
ささや
)
き
声
(
ごゑ
)
、
030
傷
(
きず
)
もつ
足
(
あし
)
のアリナは
暫
(
しば
)
し
佇
(
たたず
)
み
息
(
いき
)
を
凝
(
こ
)
らして
内
(
うち
)
の
様子
(
やうす
)
を
考
(
かんが
)
へてゐた。
031
因
(
ちなみ
)
に
云
(
い
)
ふ、
032
彼
(
かれ
)
アリナは
殿中
(
でんちう
)
を
逃
(
にげ
)
出
(
だ
)
す
時
(
とき
)
、
033
最愛
(
さいあい
)
のシノブに
囁
(
ささや
)
いて
云
(
い
)
ふ、
034
『
余
(
よ
)
は
是
(
これ
)
より
少時
(
しばし
)
の
間
(
あひだ
)
大宮山
(
おほみややま
)
の
盤古
(
ばんこ
)
神王
(
しんのう
)
の
社
(
やしろ
)
の
中
(
なか
)
に
潜伏
(
せんぷく
)
し、
035
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
の
稍
(
やや
)
治
(
をさ
)
まるをまつて
帰
(
かへ
)
り
来
(
きた
)
るべければ、
036
汝
(
なんぢ
)
はどこ
迄
(
まで
)
もこの
殿中
(
でんちう
)
を
離
(
はな
)
れな』
037
と
告
(
つ
)
げておいた。
038
シノブはそれ
故
(
ゆゑ
)
アリナは
依然
(
いぜん
)
として、
039
大宮山
(
おほみややま
)
の
社殿
(
しやでん
)
の
中
(
なか
)
に
居
(
ゐ
)
るものとのみ
信
(
しん
)
じて
居
(
ゐ
)
たのである。
040
彼
(
かれ
)
が
右守
(
うもり
)
の
耳
(
みみ
)
に
囁
(
ささや
)
いたのも
矢張
(
やはり
)
これである。
041
○
042
スバール『
太子
(
たいし
)
様
(
さま
)
、
043
貴方
(
あなた
)
どこ
迄
(
まで
)
も
妾
(
わらは
)
を
見捨
(
みす
)
てず
愛
(
あい
)
して
下
(
くだ
)
さるでせうなア』
044
太子
(
たいし
)
『ハヽヽヽ。
045
そんな
心配
(
しんぱい
)
はして
呉
(
く
)
れな。
046
お
前
(
まへ
)
との
恋愛
(
れんあい
)
を
遂
(
と
)
げむが
為
(
た
)
めに、
047
太子
(
たいし
)
の
位
(
くらゐ
)
迄
(
まで
)
捨
(
す
)
ててこんな
所
(
ところ
)
へ
匿
(
かく
)
れてゐるのぢやないか。
048
お
父
(
とう
)
様
(
さま
)
は
御
(
ご
)
大病
(
たいびやう
)
、
049
何時
(
いつ
)
御
(
ご
)
昇天
(
しようてん
)
遊
(
あそ
)
ばすかも
知
(
し
)
れない、
050
此
(
この
)
場合
(
ばあひ
)
にも
恋
(
こひ
)
にはかへられず、
051
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
の
粋
(
すゐ
)
を
知
(
し
)
らぬ
人間
(
にんげん
)
は
定
(
さだ
)
めて
余
(
よ
)
を「
不孝
(
ふかう
)
ものだ、
052
馬鹿者
(
ばかもの
)
だ、
053
腰抜
(
こしぬ
)
け
男
(
をとこ
)
だ」と
笑
(
わら
)
つて
居
(
ゐ
)
るだらう。
054
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
笑
(
わら
)
はれてもお
前
(
まへ
)
の
愛
(
あい
)
には
換
(
か
)
へられないのだ』
055
ス『
殿下
(
でんか
)
が
其
(
その
)
お
心
(
こころ
)
なら
妾
(
わらは
)
はどこ
迄
(
まで
)
も
貴方
(
あなた
)
に
貞操
(
ていさう
)
を
捧
(
ささ
)
げます。
056
仮令
(
たとへ
)
野
(
の
)
の
末
(
すゑ
)
深山
(
みやま
)
の
奥
(
おく
)
、
057
猛獣
(
まうじう
)
毒蛇
(
どくじや
)
の
棲処
(
すみか
)
でも
殿下
(
でんか
)
と
共
(
とも
)
に
苦労
(
くらう
)
をするのなら
些
(
すこ
)
しも
厭
(
いと
)
ひませぬ。
058
山奥
(
やまおく
)
の
生活
(
せいくわつ
)
に
慣
(
な
)
れた
妾
(
わらは
)
で
厶
(
ござ
)
いますれば、
059
木
(
き
)
の
実
(
み
)
を
漁
(
あさ
)
り
芋
(
いも
)
を
掘
(
ほ
)
つてでもきつと
殿下
(
でんか
)
を
養
(
やしな
)
ひまする。
060
どうぞ
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
して
下
(
くだ
)
さいませ』
061
太子
(
たいし
)
はスバールの
優
(
やさ
)
しき
言葉
(
ことば
)
に
絆
(
ほだ
)
されて
思
(
おも
)
はず
知
(
し
)
らず
落涙
(
らくるゐ
)
した。
062
ス『いや
殿下
(
でんか
)
は
泣
(
な
)
いていらつしやいますの。
063
妾
(
わらは
)
が
云
(
い
)
つた
言葉
(
ことば
)
がお
気
(
き
)
に
障
(
さは
)
りましたか。
064
もし
障
(
さは
)
りましたら
065
どうか
御
(
ご
)
容赦
(
ようしや
)
下
(
くだ
)
さいませ』
066
太
(
たい
)
『いやいや、
067
気
(
き
)
に
障
(
さは
)
る
所
(
どころ
)
か
068
お
前
(
まへ
)
の
心
(
こころ
)
が
嬉
(
うれ
)
しうて
思
(
おも
)
はず
知
(
し
)
らず
感謝
(
かんしや
)
の
涙
(
なみだ
)
が
迸
(
ほとばし
)
つたのだよ』
069
ス『エヽ
勿体
(
もつたい
)
ない
事
(
こと
)
を
仰
(
おほせ
)
られますな。
070
殿下
(
でんか
)
の
為
(
た
)
めならば
命
(
いのち
)
を
捧
(
ささ
)
げても
満足
(
まんぞく
)
で
厶
(
ござ
)
います。
071
それにつけても
浅倉山
(
あさくらやま
)
の
谷間
(
たにあひ
)
に
残
(
のこ
)
しておいた
父上
(
ちちうへ
)
はどうしていらつしやるでせうか。
072
定
(
さだ
)
めて
都
(
みやこ
)
の
大変
(
たいへん
)
を
聞
(
き
)
き、
073
吾
(
わが
)
子
(
こ
)
はどうして
居
(
ゐ
)
るかと、
074
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
を
遊
(
あそ
)
ばして
厶
(
ござ
)
るでせう。
075
どうか
一度
(
いちど
)
父
(
ちち
)
に
廻
(
めぐ
)
り
会
(
あ
)
うて
076
二人
(
ふたり
)
が
無事
(
ぶじ
)
な
所
(
ところ
)
を
見
(
み
)
せたいもので
厶
(
ござ
)
いますわ』
077
太
(
たい
)
『お
前
(
まへ
)
がさう
思
(
おも
)
ふのも
無理
(
むり
)
もない。
078
余
(
よ
)
だつて
其
(
その
)
通
(
とほ
)
りだ。
079
殊
(
こと
)
に
病気
(
びやうき
)
の
父
(
ちち
)
を、
080
あの
混乱
(
こんらん
)
状態
(
じやうたい
)
の
危
(
あやふ
)
い
中
(
なか
)
に
残
(
のこ
)
して、
081
お
前
(
まへ
)
と
此処
(
ここ
)
に
忍
(
しの
)
んで
居
(
ゐ
)
る
心
(
こころ
)
はどれだけ
苦
(
くる
)
しいか。
082
スバール、
083
私
(
わし
)
の
心
(
こころ
)
も
推量
(
すゐりやう
)
して
呉
(
く
)
れ』
084
ス『
親
(
おや
)
も
大切
(
たいせつ
)
なり
085
又
(
また
)
恋愛
(
れんあい
)
も
猶
(
なほ
)
大切
(
たいせつ
)
なり、
086
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
思
(
おも
)
ふやうには
行
(
ゆ
)
かないもので
厶
(
ござ
)
いますなア』
087
太
(
たい
)
『
山
(
やま
)
はさけ
海
(
うみ
)
はあせなむ
世
(
よ
)
ありとも
088
汝
(
な
)
が
身
(
み
)
を
恋
(
こ
)
ふる
心
(
こころ
)
は
散
(
ち
)
らじ』
089
ス『
有難
(
ありがた
)
し
太子
(
よつぎ
)
の
君
(
きみ
)
のみことのり
090
わが
胸板
(
むないた
)
を
射抜
(
いぬ
)
くやうなる』
091
太
(
たい
)
『
父君
(
ちちぎみ
)
の
身
(
み
)
は
思
(
おも
)
はぬに
有
(
あ
)
らねども
092
恋
(
こひ
)
の
覊絆
(
きづな
)
に
引
(
ひ
)
かれてぞ
住
(
す
)
む』
093
ス『
恋衣
(
こひごろも
)
よしや
破
(
やぶ
)
るる
世
(
よ
)
ありとも
094
君
(
きみ
)
が
赤心
(
まごころ
)
如何
(
いか
)
で
忘
(
わす
)
れむ』
095
太
(
たい
)
『よしやよし
吾
(
わが
)
身
(
み
)
は
野辺
(
のべ
)
に
朽
(
く
)
つるとも
096
照
(
て
)
らして
行
(
ゆ
)
かむ
恋
(
こひ
)
の
暗路
(
やみぢ
)
は』
097
ス『
吾
(
わが
)
君
(
きみ
)
の
情
(
なさけ
)
の
露
(
つゆ
)
に
霑
(
うるほ
)
ひて
098
開
(
ひら
)
き
初
(
そ
)
めけり
梅
(
うめ
)
の
初花
(
はつはな
)
』
099
太
(
たい
)
『
野
(
の
)
に
咲
(
さ
)
ける
白梅
(
しらうめ
)
の
花
(
はな
)
手折
(
たを
)
りつつ
100
今日
(
けふ
)
山奥
(
やまおく
)
に
生
(
い
)
けて
見
(
み
)
るかな』
101
ス『
手折
(
たを
)
られて
生
(
い
)
けたる
花
(
はな
)
はいつの
世
(
よ
)
か
102
萎
(
しほ
)
れむためしあるぞ
悲
(
かな
)
しき』
103
太
(
たい
)
『
山奥
(
やまおく
)
の
匂
(
にほ
)
へる
梅
(
うめ
)
を
根
(
ね
)
こぎして
104
都大路
(
みやこおほぢ
)
に
植
(
うゑ
)
つけて
見
(
み
)
む』
105
ス『
土埃
(
つちぼこ
)
り
立
(
た
)
つ
都路
(
みやこぢ
)
は
梅
(
うめ
)
の
花
(
はな
)
も
106
匂
(
にほ
)
ひのあするためしあるべし。
107
いつまでも
此
(
この
)
山奥
(
やまおく
)
に
植
(
うゑ
)
られて
108
実
(
み
)
を
結
(
むす
)
ぶなる
春
(
はる
)
に
遇
(
あ
)
ひたし』
109
太
(
たい
)
『
恋
(
こひ
)
と
云
(
い
)
ふものの
辛
(
つら
)
きを
今
(
いま
)
ぞ
知
(
し
)
る
110
嬉
(
うれ
)
し
悲
(
かな
)
しの
中
(
なか
)
を
隔
(
へだ
)
てて』
111
ス『
嘆
(
なげ
)
きつつ
又
(
また
)
楽
(
たの
)
しみつ
喜
(
よろこ
)
びつ
112
恋
(
こひ
)
の
淵瀬
(
ふちせ
)
に
浮
(
う
)
きつ
沈
(
しづ
)
みつ』
113
太
(
たい
)
『
恋
(
こひ
)
と
云
(
い
)
ふものに
涙
(
なみだ
)
のなかりせば
114
枯木
(
かれき
)
の
如
(
ごと
)
く
淋
(
さび
)
しかるらむ』
115
ス『
遇
(
あ
)
ひ
見
(
み
)
ての
後
(
のち
)
の
心
(
こころ
)
は
猶更
(
なほさら
)
に
116
昔
(
むかし
)
にまさる
恋衣
(
こひごろも
)
かな』
117
太
(
たい
)
『
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
の
人
(
ひと
)
は
何
(
なん
)
とも
云
(
い
)
はば
云
(
い
)
へ
118
不思議
(
ふしぎ
)
極
(
きは
)
まる
恋
(
こひ
)
の
路芝
(
みちしば
)
』
119
ス『
恋
(
こひ
)
の
暗
(
やみ
)
わけ
行
(
ゆ
)
く
二人
(
ふたり
)
の
身
(
み
)
の
果
(
はて
)
は
120
天津
(
あまつ
)
御国
(
みくに
)
の
住
(
すま
)
ゐなるらむ』
121
太
(
たい
)
『
目
(
ま
)
の
当
(
あた
)
り
天津
(
あまつ
)
御国
(
みくに
)
に
遊
(
あそ
)
ぶなる
122
恋
(
こひ
)
の
広道
(
ひろみち
)
進
(
すす
)
む
吾
(
われ
)
なり』
123
アリナは
外
(
そと
)
より、
124
『
吾
(
わ
)
が
慕
(
した
)
ふ
太子
(
よつぎ
)
の
君
(
きみ
)
はこの
寺
(
てら
)
に
125
たしか
ありな
と
尋
(
たづ
)
ね
来
(
き
)
しかな。
126
都路
(
みやこぢ
)
の
百
(
もも
)
の
騒
(
さわ
)
ぎを
余所
(
よそ
)
にして
127
深山
(
みやま
)
の
奥
(
おく
)
に
居
(
ゐ
)
ます
君
(
きみ
)
かな。
128
スバールの
姫
(
ひめ
)
と
諸共
(
もろとも
)
ましますか
129
優
(
やさ
)
しき
声
(
こゑ
)
の
吾
(
わが
)
耳
(
みみ
)
に
入
(
い
)
る』
130
太
(
たい
)
『
夢現
(
ゆめうつつ
)
あこがれ
居
(
ゐ
)
たりし
汝
(
なれ
)
の
声
(
こゑ
)
131
耳
(
みみ
)
に
入
(
い
)
るこそ
嬉
(
うれ
)
しかりけり。
132
村肝
(
むらきも
)
の
心
(
こころ
)
嬉
(
うれ
)
しく
吾
(
わが
)
胸
(
むね
)
の
133
高鳴
(
たかな
)
り
如何
(
いか
)
に
止
(
と
)
むるよしなし』
134
太子
(
たいし
)
はスバールと
共
(
とも
)
に
須弥壇
(
しゆみだん
)
の
裏
(
うら
)
より
表
(
おもて
)
に
出
(
い
)
で、
135
すつくと
立
(
た
)
てる
比丘
(
びく
)
姿
(
すがた
)
のアリナを
見
(
み
)
るより、
136
吾
(
われ
)
を
忘
(
わす
)
れて
駆
(
か
)
けより、
137
堅
(
かた
)
く
其
(
その
)
手
(
て
)
を
握
(
にぎ
)
り
涙
(
なみだ
)
を
腮辺
(
しへん
)
に
垂
(
た
)
らし
乍
(
なが
)
ら、
138
太子
(
たいし
)
『ヤア、
139
アリナ、
140
よく
尋
(
たづ
)
ねて
来
(
き
)
て
呉
(
く
)
れた。
141
遇
(
あ
)
ひたかつた、
142
見
(
み
)
たかつたぞや』
143
アリナ『ヤ
殿下
(
でんか
)
、
144
好
(
よ
)
くまア
無事
(
ぶじ
)
で
居
(
ゐ
)
て
下
(
くだ
)
さいました。
145
今
(
いま
)
の
殿下
(
でんか
)
の
安全
(
あんぜん
)
なる
御
(
ご
)
様子
(
やうす
)
を
見
(
み
)
て、
146
私
(
わたし
)
は
最早
(
もはや
)
此
(
こ
)
の
世
(
よ
)
に
思
(
おも
)
ひの
残
(
のこ
)
る
事
(
こと
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬ。
147
御覧
(
ごらん
)
の
如
(
ごと
)
く
私
(
わたくし
)
は
修験者
(
しゆげんじや
)
となり、
148
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
の
一切
(
いつさい
)
と
断
(
た
)
ち、
149
山
(
やま
)
に
伏
(
ふ
)
し
野
(
の
)
に
寝
(
い
)
ね、
150
一生
(
いつしやう
)
を
念仏
(
ねんぶつ
)
三昧
(
ざんまい
)
に
送
(
おく
)
る
考
(
かんが
)
へで
厶
(
ござ
)
います。
151
一笠
(
いつりふ
)
一蓑
(
いつさ
)
一杖
(
いちぢやう
)
の
雲水
(
うんすい
)
の
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
、
152
何処
(
どこ
)
の
並木
(
なみき
)
の
肥
(
こえ
)
にならうやら、
153
再
(
ふたた
)
び
殿下
(
でんか
)
の
御
(
ご
)
壮健
(
さうけん
)
のお
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
る
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ますやら、
154
味気
(
あぢき
)
なき
浮世
(
うきよ
)
で
厶
(
ござ
)
いますれば、
155
何事
(
なにごと
)
も
因縁
(
いんねん
)
づくだと
諦
(
あきら
)
め
156
どうか
私
(
わたし
)
にお
暇
(
ひま
)
を
下
(
くだ
)
さいませ。
157
そして
殿下
(
でんか
)
はスバール
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
と
末永
(
すゑなが
)
く
恋
(
こひ
)
を
味
(
あぢ
)
はつて
頂
(
いただ
)
きたう
厶
(
ござ
)
います』
158
太子
(
たいし
)
はほつと
一息
(
ひといき
)
吐
(
つ
)
き
乍
(
なが
)
ら、
159
青
(
あを
)
醒
(
ざ
)
めたる
顔
(
かほ
)
にて
力
(
ちから
)
なげにアリナの
手
(
て
)
を
揺
(
ゆ
)
すり
乍
(
なが
)
ら、
160
太
(
たい
)
『オイ、
161
アリナ、
162
も
一度
(
いちど
)
思
(
おも
)
ひ
直
(
なほ
)
して
都
(
みやこ
)
に
帰
(
かへ
)
つて
呉
(
く
)
れる
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ないか。
163
余
(
よ
)
は
最早
(
もはや
)
王位
(
わうゐ
)
を
捨
(
す
)
てて
妻
(
つま
)
と
共
(
とも
)
に
乞食
(
こじき
)
生活
(
せいくわつ
)
を
送
(
おく
)
る
決心
(
けつしん
)
ではあるが、
164
其方
(
そなた
)
は
時勢
(
じせい
)
を
解
(
かい
)
した
前途
(
ぜんと
)
有望
(
いうばう
)
の
青年
(
せいねん
)
、
165
今
(
いま
)
から
修験者
(
しゆげんじや
)
となつて
朽
(
く
)
ち
果
(
は
)
つるは
国家
(
こくか
)
の
為
(
た
)
め
惜
(
を
)
しい
事
(
こと
)
だ。
166
どうか
父
(
ちち
)
を
助
(
たす
)
けて
再
(
ふたた
)
びタラハン
城
(
じやう
)
の
柱石
(
ちうせき
)
となり、
167
余
(
よ
)
が
意志
(
いし
)
を
継
(
つ
)
いでは
呉
(
く
)
れまいか』
168
アリナは
声
(
こゑ
)
を
湿
(
うる
)
ませ
乍
(
なが
)
ら、
169
涙
(
なみだ
)
を
両眼
(
りやうがん
)
にしたたらして、
170
『
殿下
(
でんか
)
の
思召
(
おぼしめし
)
は
実
(
じつ
)
に
有難
(
ありがた
)
う
存
(
ぞん
)
じます。
171
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
最早
(
もはや
)
今日
(
こんにち
)
の
私
(
わたくし
)
は
刑状
(
けいじやう
)
持
(
もち
)
で
厶
(
ござ
)
います。
172
仮令
(
たとへ
)
大赦
(
たいしや
)
を
蒙
(
かうむ
)
つて
再
(
ふたた
)
び
都
(
みやこ
)
の
地
(
ち
)
へ
無事
(
ぶじ
)
に
帰
(
かへ
)
りませうとも、
173
民心
(
みんしん
)
を
失
(
うしな
)
つた
父
(
ちち
)
左守
(
さもり
)
の
悴
(
せがれ
)
で
厶
(
ござ
)
いますれば、
174
どうして
国民
(
こくみん
)
が
私
(
わたくし
)
の
赤心
(
まごころ
)
を
認
(
みと
)
めて
呉
(
く
)
れませう。
175
最早
(
もはや
)
私
(
わたくし
)
は
政治欲
(
せいぢよく
)
に
放
(
はな
)
れました。
176
そして
情欲
(
じようよく
)
も
断
(
た
)
ちました。
177
雲水
(
うんすい
)
を
友
(
とも
)
として
天下
(
てんか
)
の
民情
(
みんじやう
)
を
視察
(
しさつ
)
し
一生
(
いつしやう
)
を
送
(
おく
)
る
考
(
かんが
)
へで
厶
(
ござ
)
いますから、
178
どうか
此
(
この
)
事
(
こと
)
許
(
ばか
)
りは
仰
(
おほ
)
せられないやうにお
願
(
ねが
)
ひ
致
(
いた
)
します』
179
太子
(
たいし
)
は
太
(
ふと
)
き
吐息
(
といき
)
をつき
乍
(
なが
)
ら、
180
『あゝ
是非
(
ぜひ
)
もない。
181
タラハンの
国家
(
こくか
)
は
最早
(
もはや
)
滅亡
(
めつぼう
)
したのかなア』
182
スバールはアリナの
前
(
まへ
)
に
進
(
すす
)
み
出
(
い
)
で、
183
悲嘆
(
ひたん
)
の
涙
(
なみだ
)
にくれながら、
184
『アリナ
様
(
さま
)
、
185
貴方
(
あなた
)
はまア
何
(
なん
)
と
見
(
み
)
すぼらしいお
姿
(
すがた
)
におなり
遊
(
あそ
)
ばしたのですか、
186
おいとしう
厶
(
ござ
)
います』
187
アリナ『いや、
188
是
(
これ
)
は
是
(
これ
)
は
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
189
必
(
かなら
)
ず
必
(
かなら
)
ず
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
下
(
くだ
)
さいますな。
190
私
(
わたくし
)
の
心
(
こころ
)
から
斯様
(
かやう
)
に
零落
(
おちぶれ
)
たので
厶
(
ござ
)
います。
191
今
(
いま
)
の
境遇
(
きやうぐう
)
は
私
(
わたくし
)
の
身
(
み
)
にとつて
結局
(
けつきよく
)
幸福
(
かうふく
)
で
厶
(
ござ
)
います。
192
一箪
(
いつたん
)
の
食
(
しい
)
一瓢
(
いつぺう
)
の
飲
(
いん
)
、
193
山水
(
さんすい
)
を
友
(
とも
)
として
天下
(
てんか
)
を
遍歴
(
へんれき
)
するのも
亦
(
また
)
一興
(
いつきよう
)
で
厶
(
ござ
)
います。
194
どうぞ
私
(
わたくし
)
の
身
(
み
)
については
御
(
ご
)
懸念
(
けねん
)
下
(
くだ
)
さいますな』
195
ス『
待
(
ま
)
ち
詫
(
わび
)
し
親
(
した
)
しき
友
(
とも
)
と
廻
(
めぐ
)
り
会
(
あ
)
ひ
196
またも
嘆
(
なげ
)
きの
種
(
たね
)
をまくかな。
197
如何
(
いか
)
にせむ
逸
(
はや
)
り
男
(
をのこ
)
の
敏心
(
とごころ
)
を
198
止
(
とど
)
めむ
力
(
ちから
)
の
欠
(
か
)
けし
吾
(
わが
)
身
(
み
)
は』
199
ア『
何事
(
なにごと
)
も
神
(
かみ
)
の
守
(
まも
)
らす
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
200
人
(
ひと
)
の
思
(
おも
)
ひの
通
(
とほ
)
るべしやは。
201
行
(
ゆ
)
く
雲
(
くも
)
の
空
(
そら
)
を
眺
(
なが
)
めて
折々
(
をりをり
)
に
202
吾
(
わが
)
身
(
み
)
の
末
(
すゑ
)
を
偲
(
しの
)
び
来
(
き
)
にけり』
203
太
(
たい
)
『
右
(
みぎ
)
左
(
ひだり
)
互
(
たがひ
)
に
袂
(
たもと
)
を
別
(
わか
)
つとも
204
魂
(
たま
)
は
互
(
たがひ
)
に
添
(
そ
)
ひてありけむ』
205
ア『
有難
(
ありがた
)
し
忝
(
かたじけ
)
なしと
拝
(
をが
)
むより
206
外
(
ほか
)
に
術
(
すべ
)
なき
今日
(
けふ
)
の
吾
(
われ
)
かな。
207
吾
(
わが
)
君
(
きみ
)
の
貴
(
うづ
)
の
御心
(
みこころ
)
いつもながら
208
身
(
み
)
に
染
(
し
)
み
渡
(
わた
)
り
涙
(
なみだ
)
こぼるる』
209
太
(
たい
)
『
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
汝
(
なれ
)
とスバール
姫
(
ひめ
)
おきて
210
外
(
ほか
)
に
力
(
ちから
)
と
頼
(
たの
)
むものなし。
211
片腕
(
かたうで
)
をもがれし
如
(
ごと
)
き
心地
(
ここち
)
して
212
今
(
いま
)
別
(
わか
)
れ
行
(
ゆ
)
く
胸
(
むね
)
の
苦
(
くる
)
しさ』
213
ス『
如何
(
いか
)
にしてアリナの
君
(
きみ
)
の
御心
(
みこころ
)
を
214
翻
(
ひるがへ
)
さむか
果敢
(
はか
)
なきの
世
(
よ
)
や』
215
ア『
姫君
(
ひめぎみ
)
よ
心
(
こころ
)
やすけく
思召
(
おぼしめ
)
せ
216
汝
(
なれ
)
には
神
(
かみ
)
の
守
(
まも
)
りありせば。
217
吾
(
わが
)
君
(
きみ
)
も
汝
(
なれ
)
も
吾
(
わが
)
身
(
み
)
も
神
(
かみ
)
の
御子
(
みこ
)
218
神
(
かみ
)
の
捨
(
す
)
てさせたまふべしやは。
219
いざさらば
太子
(
よつぎ
)
の
御子
(
みこ
)
と
姫君
(
ひめぎみ
)
に
220
惜
(
を
)
しき
袂
(
たもと
)
を
別
(
わか
)
ち
行
(
ゆ
)
かなむ。
221
いつ
迄
(
まで
)
も
安
(
やす
)
く
健在
(
まさきく
)
おはしませ
222
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
の
露
(
つゆ
)
に
濡
(
ぬ
)
れつつ』
223
斯
(
か
)
く
別
(
わか
)
れの
歌
(
うた
)
を
残
(
のこ
)
してアリナは
又
(
また
)
もや
法螺貝
(
ほらがひ
)
を
吹
(
ふ
)
き、
224
山野
(
さんや
)
の
邪気
(
じやき
)
を
清
(
きよ
)
め
乍
(
なが
)
ら、
225
何処
(
どこ
)
を
当
(
あて
)
ともなく
山奥
(
やまおく
)
さして
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
る。
226
後
(
あと
)
見送
(
みおく
)
つて
太子
(
たいし
)
、
227
スバールは
大地
(
だいち
)
に
転
(
ころ
)
び
伏
(
ふ
)
し、
228
『オーイオーイ、
229
アリナよアリナよ、
230
も
一度
(
いちど
)
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
せてたべ』
231
と
呼
(
よ
)
べど
叫
(
さけ
)
べど
法螺
(
ほら
)
の
音
(
ね
)
の
響
(
ひびき
)
に
遮
(
さへぎ
)
られて、
232
二人
(
ふたり
)
の
声
(
こゑ
)
は
彼
(
かれ
)
の
耳
(
みみ
)
に
入
(
い
)
らぬものの
如
(
ごと
)
く、
233
後
(
あと
)
をも
振
(
ふ
)
り
返
(
かへ
)
らず、
234
足早
(
あしばや
)
に
密樹
(
みつじゆ
)
の
蔭
(
かげ
)
に
姿
(
すがた
)
を
没
(
ぼつ
)
した。
235
アリナは
道々
(
みちみち
)
歌
(
うた
)
ふ、
236
『
雲霧
(
くもきり
)
四方
(
よも
)
にふさがりて
237
黒白
(
あやめ
)
も
分
(
わ
)
かぬ
常暗
(
とこやみ
)
の
238
獣
(
けもの
)
の
世
(
よ
)
とはなりにけり
239
朝日
(
あさひ
)
は
空
(
そら
)
に
昇
(
のぼ
)
れども
240
下界
(
げかい
)
を
照
(
て
)
らすよしもなく
241
月
(
つき
)
は
地中
(
ちちう
)
に
潜
(
ひそ
)
めども
242
世
(
よ
)
をあかすべき
術
(
すべ
)
もなし
243
雲井
(
くもゐ
)
の
空
(
そら
)
は
日
(
ひ
)
に
月
(
つき
)
に
244
怪
(
あや
)
しき
星
(
ほし
)
の
出没
(
しゆつぼつ
)
し
245
妖邪
(
えうじや
)
の
空気
(
くうき
)
を
地
(
ち
)
の
上
(
うへ
)
に
246
散布
(
さんぷ
)
しながら
火
(
ひ
)
の
雨
(
あめ
)
や
247
剣
(
つるぎ
)
の
雨
(
あめ
)
を
吹
(
ふ
)
きおろす
248
風
(
かぜ
)
の
響
(
ひび
)
きも
何
(
なん
)
となく
249
滅
(
ほろ
)
びの
声
(
こゑ
)
と
聞
(
きこ
)
ゆなり
250
虎
(
とら
)
狼
(
おほかみ
)
や
獅子
(
しし
)
熊
(
くま
)
の
251
吠
(
ほえ
)
猛
(
たけ
)
る
野
(
の
)
を
進
(
すす
)
み
往
(
ゆ
)
く
252
吾
(
わが
)
身
(
み
)
は
神
(
かみ
)
に
守
(
まも
)
られて
253
いや
永久
(
とこしへ
)
の
臥床
(
ふしど
)
をば
254
求
(
もと
)
めて
進
(
すす
)
む
修験者
(
しうげんじや
)
255
神
(
かみ
)
が
此
(
この
)
世
(
よ
)
にましまさば
256
曇
(
くも
)
り
果
(
は
)
てたる
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
を
257
一度
(
いちど
)
は
照
(
て
)
らさせたまふべし
258
如何
(
いか
)
に
権威
(
けんゐ
)
があればとて
259
神
(
かみ
)
ならぬ
身
(
み
)
の
人草
(
ひとぐさ
)
の
260
如何
(
いか
)
でか
此
(
この
)
世
(
よ
)
が
治
(
をさ
)
まらむ
261
抑
(
そも
)
人間
(
にんげん
)
は
神
(
かみ
)
の
子
(
こ
)
と
262
誇
(
ほこ
)
りまつれど
実際
(
じつさい
)
は
263
夏
(
なつ
)
の
草葉
(
くさば
)
に
宿
(
やど
)
りたる
264
旭
(
あさひ
)
の
前
(
まへ
)
の
露
(
つゆ
)
の
身
(
み
)
ぞ
265
永遠
(
えいゑん
)
無窮
(
むきう
)
の
神業
(
しんげふ
)
に
266
如何
(
いか
)
でか
仕
(
つか
)
へまつるべき
267
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
268
霊
(
みたま
)
幸倍
(
さちはへ
)
ましませよ
269
吾
(
わが
)
行
(
ゆ
)
く
後
(
あと
)
のタラハンの
270
神
(
かみ
)
の
造
(
つく
)
りし
御
(
おん
)
国
(
くに
)
を
271
いとも
平
(
たひら
)
に
安
(
やす
)
らかに
272
守
(
まも
)
らせたまひて
大王
(
だいわう
)
の
273
万機
(
ばんき
)
の
政
(
まつり
)
を
助
(
たす
)
けませ
274
心
(
こころ
)
汚
(
きたな
)
き
吾
(
わが
)
父
(
ちち
)
の
275
深
(
ふか
)
き
罪
(
つみ
)
をば
赦
(
ゆる
)
しませ
276
右守
(
うもり
)
の
司
(
かみ
)
の
逆心
(
ぎやくしん
)
を
277
戒
(
いまし
)
めたまひて
御代
(
みよ
)
の
為
(
た
)
め
278
天
(
あめ
)
が
下
(
した
)
なる
人草
(
ひとぐさ
)
を
279
労
(
いたは
)
り
助
(
たす
)
けタラハンの
280
国
(
くに
)
の
司
(
つかさ
)
と
歌
(
うた
)
はれて
281
名
(
な
)
を
万世
(
ばんせい
)
に
残
(
のこ
)
すべく
282
鞭
(
むちう
)
ちたまへ
大御神
(
おほみかみ
)
283
偏
(
ひとへ
)
に
祈
(
いの
)
り
奉
(
たてまつ
)
る
284
先
(
ま
)
づ
第一
(
だいいち
)
にタラハンの
285
君
(
きみ
)
の
太子
(
よつぎ
)
とましませる
286
若君
(
わかぎみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
287
守
(
まも
)
らせたまひて
永久
(
とこしへ
)
に
288
国
(
くに
)
の
柱
(
はしら
)
と
立
(
た
)
ちたまひ
289
吾
(
わが
)
国民
(
くにたみ
)
の
幸福
(
かうふく
)
を
290
来
(
きた
)
させたまふ
名君
(
めいくん
)
と
291
ならしめたまへ
大御神
(
おほみかみ
)
292
深
(
ふか
)
く
包
(
つつ
)
みし
恋雲
(
こひぐも
)
を
293
科戸
(
しなど
)
の
風
(
かぜ
)
に
吹
(
ふ
)
き
払
(
はら
)
ひ
294
天
(
あめ
)
と
地
(
つち
)
とは
清
(
きよ
)
らけく
295
明
(
あ
)
け
渡
(
わた
)
りたる
御心
(
みこころ
)
に
296
かへし
玉
(
たま
)
へよ
惟神
(
かむながら
)
297
偏
(
ひとへ
)
に
祈
(
いの
)
り
奉
(
たてまつ
)
る
298
偏
(
ひとへ
)
に
願
(
ねが
)
ひ
奉
(
たてまつ
)
る』
299
(
大正一四・一・七
新一・三〇
於月光閣
加藤明子
録)
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