霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二〇章 破滅(はめつ)〔一七四四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第68巻 山河草木 未の巻 篇:第5篇 神風駘蕩 よみ(新仮名遣い):しんぷうたいとう
章:第20章 破滅 よみ(新仮名遣い):はめつ 通し章番号:1744
口述日:1925(大正14)年01月30日(旧01月7日) 口述場所:月光閣 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年9月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
一方右守のサクレンスは、太子・アリナを亡き者にしたと思い、妻のサクラン姫と酒盛りをやっていた。
ところが、自分たちの計画をシノブに聞かれてしまう。シノブは、悪事を公にされたくなければ自分を女帝にすえるよう、サクレンス夫妻を脅す。
そこへカーク・サーマンが、陰謀の露見を知らせに来る。太子・スバール姫は助け出され、右守の弟のエールがすでに成敗されたと3人に告げる。
三人は身の破滅を悟る。折りしも、捕り手が館を取り囲み、3人は縛り上げられてしまった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2026-09-21 07:06:40 文字数:4266 OBC :rm6820
愛善世界社版:267頁 八幡書店版:第12輯 251頁 修補版: 校定版:272頁 普及版:69頁 初版: ページ備考:
001 蓄財(ちくざい)と名望欲(めいばうよく)と政治欲(せいぢよく)、002其(その)外(ほか)自己愛(じこあい)の道(みち)にかけては抜(ぬ)け目(め)のない右守(うもり)の司(かみ)サクレンスは、003日頃(ひごろ)の願望(ぐわんまう)成就(じやうじゆ)の時(とき)到(いた)れりとなし、004妻(つま)のサクラン姫(ひめ)と共(とも)に、005都下(とか)大騒擾(だいさうぜう)の跡仕末(あとしまつ)もつけず、006民衆(みんしう)怨嗟(ゑんさ)の声(こゑ)も空吹(そらふ)く風(かぜ)と聞(き)き流(なが)し、007珍味(ちんみ)佳肴(かかう)に酒(さけ)くみ交(か)はし得意(とくい)となつて008心(こころ)の埃芥(ごもく)を平気(へいき)の平左(へいざ)で吐(は)き散(ち)らしてゐる。009得意(とくい)の時(とき)、010図(づ)に乗(の)るは小人(せうじん)の常(つね)とは云(い)ひ乍(なが)ら、011あまりに智慧(ちゑ)の足(た)らぬ男(をとこ)である。012人心(じんしん)恟々(きようきよう)として物騒(ぶつさう)至極(しごく)の今日(けふ)此(この)頃(ごろ)、013而(しか)も玄関口(げんくわんぐち)に現(あら)はれ訪問客(はうもんきやく)を相手(あひて)にし乍(なが)ら、014已(すで)に国務(こくむ)総監(そうかん)になりすましたやうな気(き)で盛(さかん)にメートルを上(あ)げ、015いきりきつて居(ゐ)る。
016 右守(うもり)は女房(にようばう)の酌(しやく)でヘトヘトになり、017凹(へこ)んだ目(め)をボツとさせ乍(なが)ら018眼鏡(めがね)越(ご)しに女房(にようばう)の蜥蜴面(とかげづら)を打(うち)眺(なが)め、019出来損(できそこ)ねた今戸焼(いまどやき)の狸(たぬき)の人形(にんぎやう)のやうな不可解(ふかかい)千万(せんばん)の面(つら)をさらし020舌皷(したつづみ)を打(う)ち乍(なが)ら、
021右守(うもり)『オイ、022奥(おく)さま否(いな)、023女房(にようばう)、024嬶(かか)んつ殿(どの)、025何(なん)と俺(おれ)の劃策(くわくさく)は水(みづ)も洩(も)らさぬ注意(ちうい)の届(とど)いたものだらう、026エーン』
027サク(サクラン)『旦那(だんな)様(さま)、028何(なん)ですか、029車夫(しやふ)か馬丁(ばてい)か何(なん)ぞのやうに嬶(かかあ)だの、030嬶(かか)んつだの嬶村屋(かかむらや)だのと、031こんな玄関口(げんくわんぐち)で見(み)つともないぢやありませぬか。032警固(けいご)の兵士(へいし)が若(も)しもこんな事(こと)を聞(き)きましたらキツト馬鹿(ばか)にしますよ。033何卒(どうぞ)之(これ)から妾(わらは)を呼(よ)ぶには奥(おく)とか、034後室(こうしつ)とか云(い)つて下(くだ)さい。035お願(ねがひ)ですから』
036右(う)(右守サクレンス)『イヤ、037之(これ)は失敬(しつけい)千万(せんばん)、038恐(おそ)れ入谷(いりや)の鬼子(きし)母神(ぼしん)殿(どの)、039釜(かま)の下(した)の燃杭(もえくひ)左衛門(ざゑもん)、040閻魔(えんま)大王(だいわう)之(の)介(すけ)、041嬶左衛門(かかざゑもんの)尉(じやう)挽臼(ひきうす)殿(どの)、042サクレンスが酒(さけ)の上(うへ)の暴言(ばうげん)、043真平(まつぴら)々々(まつぴら)御免(ごめん)候(さふら)へ、044何分(なにぶん)奥(おく)さまのお名前(なまへ)がサクラン姫(ひめ)だから、045チツト許(ばか)り此(この)右守(うもり)も精神(せいしん)がサクラン致(いた)し、046何(なん)となくボツと致(いた)したやうだ。047サクラン……ではない、048サフランでも煎(せん)じて一服(いつぷく)飲(の)まして貰(もら)ひたいものだな。049サフランが無(な)ければ朝鮮(てうせん)人参(にんじん)でも結構(けつこう)だ。050然(しか)し乍(なが)ら諺(ことわざ)にも云(い)ふ通(とほ)り……人参(にんじん)買(か)うて首(くび)を吊(つ)る……と云(い)ふ事(こと)もある。051右守(うもり)の貧乏(びんばふ)世帯(じよたい)では到底(たうてい)左様(さやう)な高価(かうか)な医薬品(いやくひん)は挺(てこ)には合(あ)ひ申(まを)さぬ。052それよりも奥方殿(おくがたどの)の御(お)麗(うるは)しきおん顔(かんばせ)を拝(はい)し奉(たてまつ)り、053恐悦(きようえつ)至極(しごく)に存(ぞん)じ奉(たてまつ)つておいた方(はう)が、054何(なに)程(ほど)愉快(ゆくわい)だか知(し)れないわ、055アツハヽヽヽ』
056サク(サクラン)『旦那(だんな)様(さま)、057いい加減(かげん)に妻(つま)を嘲弄(てうろう)しておきなさいませ。058口(くち)に関所(せきしよ)がないと云(い)つても、059あまりぢや厶(ござ)いませぬか。060時(とき)に旦那(だんな)様(さま)、061太子(たいし)殿下(でんか)やスバール姫(ひめ)は大丈夫(だいぢやうぶ)で厶(ござ)いませうかな』
062サクレ(右守サクレンス)『ウンウン、063大丈夫(だいぢやうぶ)大丈夫(だいぢやうぶ)、064不要緊(プヤオチン)不要緊(プヤオチン)。065あゝしておけば自然(しぜん)に餓死(がし)を為(す)るだらう、066さうすりやこつちの幸福(しあはせ)だ。067何(なに)程(ほど)辛抱(しんばう)が可(よ)いと云(い)つても、068十日(とをか)も二十日(はつか)も飲食(おんじき)を絶(た)たれたならば、069到底(たうてい)生命(いのち)は保(たも)て無(な)い、070寂滅(じやくめつ)為楽(ゐらく)とおいで遊(あそ)ばすは、071決(き)まりきつたる天地(てんち)の道理(だうり)だ。072エー、073俺(おれ)に子供(こども)があればバンナ姫(ひめ)に娶(めあわ)して、074うまく国政(こくせい)を自由(じいう)自在(じざい)に操(あやつ)るのだが、075惜(をし)い事(こと)にはお前(まへ)が石女(うまずめ)だから、076惜(をし)い乍(なが)らも他人(たにん)にやるよりマシだと思(おも)つて、077父違(ててちが)ひの弟(おとうと)に顕要(けんえう)の地位(ちゐ)を譲(ゆづ)り、078弟(おとうと)はやがて大王(だいわう)殿下(でんか)となり、079肝心(かんじん)の兄貴(あにき)は臣下(しんか)となつて、080アタ阿呆(あはう)らしい、081神妙(しんめう)に仕(つか)へねばならぬのだ。082然(しか)し乍(なが)ら弟(おとうと)は只(ただ)単(たん)に看板(かんばん)に立(た)てておくのみだ。083その実権(じつけん)はヤツパリ此(この)サクレンスの手(て)に握(にぎ)つておくのだから、084先(ま)づ芝居(しばゐ)だと思(おも)へば辛抱(しんばう)も出来(でき)やうかい、085エツヘヽヽヽ。086ても扨(さて)も愉快(ゆくわい)な事(こと)だわい』
087サクラ(サクラン)『旦那(だんな)様(さま)、088そしてあのアリナはシノブの云(い)つた通(とほ)り大宮山(おほみややま)の神殿(しんでん)に居(を)つたでせうか』
089サクレ(右守サクレンス)『イヤ、090彼奴(あいつ)は到頭(たうとう)風(かぜ)を喰(くら)つて逃(にげ)失(う)せ、091比丘(びく)の姿(すがた)となつて法螺貝(ほらがひ)を吹(ふ)き、092そこら中(ぢう)を深網笠(ふかあみがさ)で廻(めぐ)つて居(ゐ)ると云(い)ふ報告(はうこく)が来(き)たので093千(せん)円(ゑん)の懸賞付(けんしやうづき)で今(いま)捜索(そうさく)してる処(ところ)だ。094彼奴(あいつ)を捉(つかま)へたら、095否応(いやおう)云(い)はさず秋野(あきの)ケ原(はら)の水車(すいしや)小屋(ごや)の地底(ちてい)の牢獄(らうごく)に投(な)げ込(こ)み、096人知(ひとし)れず干(ほ)し殺(ころ)してやる計画(けいくわく)がチヤンと整(ととの)つてゐるのだ。097あんな奴(やつ)の事(こと)は、098さう意(い)に介(かい)するに足(た)らないよ。099何(なん)と云(い)つても肝腎要(かんじんかなめ)の太子(たいし)を、100あゝ仕(し)て置(お)いて○○して了(しま)へば最早(もはや)俺(おれ)の天下(てんか)だ。101エツヘヽヽヽ、102何(なん)と妙案(めうあん)奇策(きさく)だらう』
103サクラ(サクラン)『そりや本当(ほんたう)に心地(ここち)のよい事(こと)で厶(ござ)いますな。104流石(さすが)は右守(うもり)様(さま)、105いや大名(だいみやう)総監(そうかん)様(さま)、106天晴(あつぱれ)々々(あつぱれ)。107貴方(あなた)が御(ご)出世(しゆつせ)なされたならば、108麻(あさ)につれる蓬(よもぎ)も同然(どうぜん)、109妾(わらは)の地位(ちゐ)も高(たか)まる道理(だうり)。110然(しか)し女中頭(ぢよちうがしら)のシノブが聞(き)いたら、111さぞ失望(しつばう)落胆(らくたん)する事(こと)でせうね』
112サクレ(右守サクレンス)『どうで彼奴(あいつ)は、113ドテンバの淫乱(いんらん)の両屏風(りやうびやうぶ)と来(き)てゐるのだからいい気味(きみ)だ。114いつもいつも大王(だいわう)様(さま)のお側(そば)近(ちか)く侍(はべ)りよつて115耳嗅(みみか)ぎ許(ばか)り得意(とくい)にしてゐる曲者(くせもの)だから、116あんな奴(やつ)ア臍(へそ)でも噛(か)んで死(し)んだ方(はう)が、117何(なに)程(ほど)国家(こくか)の為(ため)になるか知(し)れないわ、118エツヘヽヽヽ』
119サクラ(サクラン)『然(しか)し乍(なが)ら旦那(だんな)様(さま)、120謀(はかりごと)は密(みつ)なるを要(えう)すとか申(まを)しまして、121どこ迄(まで)も注意(ちうい)に注意(ちうい)を加(くは)へねばなりませぬ。122ヒヨツとすればあの女(をんな)は右守家(うもりけ)にとつて爆裂弾(ばくれつだん)かも知(し)れませぬから、123そこは、124うまく云(い)つて、125操(あやつ)つておいて下(くだ)されや』
126サクレ(右守サクレンス)『エー、127そんな事(こと)に抜目(ぬけめ)のあるサクレンスと思(おも)つてゐるか、128云(い)ふ丈(だ)け野暮(やぼ)だよ。129サア一杯(いつぱい)ゆかう。130今日(けふ)は土堤(どて)を切(き)らして充分(じゆうぶん)酔(よ)うて呉(く)れ。131目的(もくてき)成就(じやうじゆ)の前祝(まへいはひ)だからのう』
132 斯(か)かる処(ところ)へ玄関(げんくわん)の障子(しやうじ)の外(そと)からかん走(ばし)つた女(をんな)の声(こゑ)、
133シノブ『右守(うもり)様(さま)、134妾(わらは)はシノブで厶(ござ)います。135這入(はい)りましてもお差支(さしつかへ)は厶(ござ)いませぬかな』
136 右守(うもり)はギヨツとし乍(なが)ら顔色(かほいろ)をサツと変(か)へ、137女房(にようばう)と狸(たぬき)と蜥蜴(とかげ)の面合(つらあは)せをし乍(なが)ら、138唇(くちびる)で舌(した)を噛(か)み三(み)つ四(よ)つ腮(あご)をしやくり、139二人(ふたり)一(いち)時(じ)に、
140右守サクレンス、妻サクラン『ハイ、141差支(さしつかへ)は厶(ござ)いませぬ。142サアサアお這入(はい)り下(くだ)さい』
143シノブ『左様(さやう)なれば御免(ごめん)を蒙(かうむ)ります。144臍(へそ)でも噛(か)んで死(し)ねばいいのに、145憎(にく)まれ子(ご)世(よ)に覇張(はば)ると申(まを)しまして、146此(この)通(とほ)りピンピンしてゐます。147決(けつ)して爆裂弾(ばくれつだん)ではありませぬから御(ご)安心(あんしん)なさいませ。148何(なん)と云(い)つても太子(たいし)様(さま)を水車(すいしや)小屋(ごや)の地底(ちてい)の岩窟(いはや)に入(い)れて、149干(ほし)殺(ころ)さうと為(な)さる凄(すご)い御(お)腕前(うでまへ)、150実(じつ)に感心(かんしん)致(いた)しましたよ。151もしもし御(ご)夫婦(ふうふ)様(さま)、152別(べつ)に青(あを)い顔(かほ)して、153お慄(ふる)ひ遊(あそ)ばすには、154当(あた)らぬぢやありませぬか。155アリナさま迄(まで)引捕(ひつと)らまへて地底(ちてい)の牢獄(らうごく)に投(な)げ込(こ)み、156干(ほし)殺(ころ)さうとして厶(ござ)るのですもの、157本当(ほんたう)に呆(あき)れて了(しま)ひますわ。158如何(いかが)で厶(ござ)います。159梟(ふくろ)の宵企(よひだく)み、160うまく計劃(けいくわく)が成就(じやうじゆ)致(いた)す見込(みこみ)が厶(ござ)いますかな』
161右(う)(右守サクレンス)『これはこれは思(おも)ひがけなきシノブ殿(どの)のお言葉(ことば)、162どうして、163さやうな無道(ぶだう)な事(こと)が出来(でき)るものですか。164人間(にんげん)として、1641恐(おそ)れ多(おほ)くも太子(たいし)様(さま)を干(ほし)殺(ころ)さうなんて、165人間(にんげん)の面(つら)を被(かぶ)つたものがする事(こと)ぢや厶(ござ)いませぬ。166実(じつ)は酒(さけ)に酔(よ)うたまぎれに、167嬶左ヱ門(かかざえもん)に向(むか)つて揶揄(からか)つてゐたのですよ。168もとより根(ね)なし草(ぐさ)の戯(たはむ)れ言(ごと)、169気(き)にかけて下(くだ)さつては困(こま)ります』
170シ(シノブ)『人間(にんげん)として出来(でき)ないやうな、171大(だい)それた畏(おそ)れ多(おほ)い事(こと)を平気(へいき)でおやり遊(あそ)ばす右守(うもり)様(さま)だもの、172到底(たうてい)妾(わらは)の如(ごと)き耳嗅(みみかぎ)のお転婆(てんば)女(をんな)では側(そば)へも寄(よ)れませぬわ。173どうか爪(つめ)の垢(あか)でも頂(いただ)いて煎(せん)じて飲(の)みたいもので厶(ござ)いますわ』
174右(う)(右守サクレンス)『こりや怪(け)しからぬ、175さう疑(うたが)つて貰(もら)つちや、176右守(うもり)も一切(いつさい)事情(じじやう)を逐一(ちくいち)弁明(べんめい)せなくちやなりますまい。177マアゆつくりと気(き)を落付(おちつ)けて、178忠臣(ちうしん)義士(ぎし)たる拙者(せつしや)の言葉(ことば)をお聞(き)き下(くだ)さい』
179シ(シノブ)『貴方(あなた)はもうお忘(わす)れになりましたか。180先日(せんじつ)妾(わらは)がお直使(ちよくし)に化(ば)けて参(まゐ)りました時(とき)、181太子(たいし)様(さま)を○○せうとお約束(やくそく)なさつたぢや厶(ござ)りませぬか。182そしてアリナさまを王位(わうゐ)に上(のぼ)らせ、183妾(わらは)を王妃(わうひ)にしてやらうと、184うまく誤魔化(ごまくわ)しましたね。185貴方(あなた)の腹(はら)の中(なか)はエールさまを王位(わうゐ)に上(のぼ)らせ、186王女(わうぢよ)のバンナさまを王妃(わうひ)とし、187勝手(かつて)気儘(きまま)に国政(こくせい)を料理(れうり)せうと云(い)ふ、188大(たい)した陰謀(いんぼう)を劃策(くわくさく)してゐらしたのでせう。189何(なに)もかも一伍(いちぶ)一什(しじふ)、190只今(ただいま)、1901玄関先(げんくわんさき)にて承(うけたま)はりました。191然(しか)し妾(わたし)が、192かう云(い)つたと申(まを)して驚(おどろ)きには及(およ)びませぬ。193物(もの)も相談(さうだん)ですが194どうです。195一層(いつさう)の事(こと)妾(わらは)を女帝(によてい)にして下(くだ)さつては。196若(も)しゴテゴテ仰有(おつしや)るなら何(なに)もかも上(かみ)は大王(だいわう)様(さま)へ、197下(しも)は国民(こくみん)一般(いつぱん)へ、198貴方(あなた)の陰謀(いんぼう)の次第(しだい)を吹聴(ふいちやう)致(いた)しますが、199それでも貴方(あなた)にとつてお差支(さしつかへ)は厶(ござ)いますまいか。200若(も)しそんな事(こと)は出来(でき)ないと仰有(おつしや)るなら、201サア此(この)場(ば)でキツパリと言明(げんめい)して下(くだ)さい。202一寸(いつすん)の虫(むし)も五分(ごぶ)の魂(たましひ)とやら、203妾(わらは)にも考(かんが)へが厶(ござ)いますからな』
204 夫婦(ふうふ)はシノブの言葉(ことば)に一(ひと)つ一(ひと)つ錐(きり)で胸先(むなさき)を、205揉(も)まるる如(ごと)き苦(くるし)みを感(かん)じ乍(なが)ら、
206右(う)(右守サクレンス)『イヤ、207恐(おそ)れ入(い)りました。208明日(あす)とも言(い)はず今日(けふ)只今(ただいま)より貴女(あなた)を主君(しゆくん)と崇(あが)め奉(まつ)り209女帝(によてい)様(さま)と申(まをし)上(あ)げますから、210何卒(なにとぞ)さう腹(はら)を立(た)てず落付(おちつ)いて下(くだ)さいませ』
211サクラ(サクラン)『夫(をつと)の申(まをし)上(あ)げました通(とほ)り妾(わたくし)も女帝(によてい)殿下(でんか)と尊敬(そんけい)し、212今日(けふ)只(ただ)今(いま)より臣下(しんか)の礼(れい)を以(もつ)て仕(つか)へませう』
213シノブ『ホヽヽヽヽうまい事(こと)仰有(おつしや)いますな。214そんな事(こと)を云(い)つて妾(わらは)を安心(あんしん)させ、215暗打(やみうち)でも遊(あそ)ばす御(ご)計画(けいくわく)でせう。216今日(こんにち)迄(まで)の貴方(あなた)等(がた)のやり方(かた)から推定(すいてい)しても、217その位(くらゐ)の事(こと)は、218貴方(あなた)にとつては宵(よひ)の口(くち)ですからね』
219 かかる処(ところ)へカーク、220サーマンの二人(ふたり)は慌(あわただ)しく帰(かへ)り来(き)て、
221カーク、サーマン『右守(うもり)様(さま)に申(まをし)上(あ)げます。222タヽヽ大変(たいへん)な事(こと)が突発(とつぱつ)致(いた)しました』
223 右守(うもり)は此(この)言葉(ことば)に二度(にど)ビツクリし乍(なが)ら、224俄(にはか)に酒(さけ)の酔(よひ)も醒(さ)め、225片膝(かたひざ)を立直(たてなほ)して、
226右守サクレンス『何(なに)、227大変(たいへん)が起(おこ)つたとは、228何処(どこ)にだ。229サア早(はや)く言(い)はないか』
230カ(カーク)『ハイ申(まをし)上(あ)げるつもりで吾々(われわれ)両人(りやうにん)がスタスタと慌(あわ)てて帰(かへ)つて参(まゐ)つたのです。231申(まをし)上(あ)げなくて何(なん)と致(いた)しませう。232太子(たいし)殿下(でんか)を初(はじ)めスバール姫(ひめ)は、233三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)に助(たす)けられ、234駒(こま)に跨(またが)つて堂々(だうだう)と城内(じやうない)にお帰(かへ)り遊(あそ)ばす事(こと)になりました。235そしてエールの君様(きみさま)は岩山(いはやま)の神(かみ)の森(もり)に於(おい)て、236大女(おほをんな)のバランスに、237首筋(くびすぢ)をつまんでインデス川(がは)へ投(な)げ込(こ)まれ、238川中(かはなか)の岩石(がんせき)に頭(あたま)を打(うち)割(わ)られ、239川水(かはみづ)を紅(あけ)に染(そ)めて、240ブカンブカン[*プPではなくブB]と流(なが)れて了(しま)はれました。241グヅグヅしとる時(とき)ぢや厶(ござ)いますまい。242右守(うもり)様(さま)、243貴方(あなた)のお首(くび)が危(あやふ)う厶(ござ)いますよ』
244サクレ(右守サクレンス)『嘘(うそ)ぢやないか、245そんな事(こと)のあらう筈(はず)がない』
246サ(サーマン)『決(けつ)して決(けつ)して、247誰(たれ)が嘘(うそ)なんか申(まを)しませうぞ。248正真(しやうしん)正銘(しやうめい)、249ありのままの事実(じじつ)の注進(ちうしん)で厶(ござ)います』
250サクラ(サクラン)『それだから、251いつも貴方(あなた)に気(き)をつけなさいませと御(ご)意見(いけん)を申(まを)したではありませぬか。252一体(いつたい)貴方(あなた)の頭脳(づなう)は、253余(あま)り粗末(そまつ)過(す)ぎますから、254こんな失敗(しつぱい)が出来(でき)るのですよ、255エー口惜(くやし)い、256どうしたら宜(よろ)しいのかな』
257シ(シノブ)『イツヒヽヽヽヽ右守(うもり)さま、258もう斯(か)うなりや妾(わらは)の女帝(によてい)も、259貴方(あなた)の大名(だいみやう)総監(そうかん)もサツパリ駄目(だめ)です。260男(をとこ)らしく覚悟(かくご)なさいませ。261否(いな)自決(じけつ)遊(あそ)ばせ。262実(じつ)の所(ところ)は王女(わうぢよ)のバンナ姫(ひめ)様(さま)も妾(わたし)が、263うまくちよろまかして、264城内(じやうない)からおびき出(だ)し、265インデス川(がは)の辺(ほとり)で首(くび)を締(し)め、266川中(かはなか)へ投(な)げ込(こ)んでおきましたから、267エールさまと一緒(いつしよ)に同(おな)じインデス川(がは)で水盃(みづさかづき)でもしてゐらつしやるでせうよ。268もう斯(か)うなつた以上(いじやう)は気(き)の毒(どく)乍(なが)ら、269貴方(あなた)のお家(いへ)は断絶(だんぜつ)、270罪(つみ)が軽(かる)うて切腹(せつぷく)、271まさか違(ちが)へば逆磔刑(さかはりつけ)ですよ。272妾(わらは)だつて、273最早(もはや)安閑(あんかん)としては居(を)られませぬ。274サア右守(うもり)さま、275介錯(かいしやく)をして上(あ)げますから腹(はら)をお切(き)りなさいませ。276そして奥様(おくさま)は首(くび)でも吊(つ)るか、277溜池(ためいけ)にでも身(み)を投(な)げて、278早(はや)くその製糞器(せいふんき)を片付(かたづ)けなさいませ。279グヅグヅしてゐると死後(しご)迄(まで)も恥(はぢ)をさらされますよ。280私(わたくし)も冥土(めいど)のお伴(とも)を致(いた)します。281已(すで)に既(すで)に懐剣(くわいけん)は用意(ようい)して参(まゐ)りました。282この鋭利(えいり)な短刀(たんたう)で喉笛(のどぶえ)を切(き)るが最後(さいご)、283結構(けつこう)な結構(けつこう)な天国(てんごく)へ国替(くにがへ)と云(い)ふ段取(だんどり)ですわ』
284 かく互(たがひ)に身(み)の終(をは)りの相談(さうだん)をやつてゐる所(ところ)へ門前(もんぜん)俄(にはか)に騒(さわ)がしく、285目付頭(めつけがしら)は数百(すうひやく)の部下(ぶか)を従(したが)へ、286右守(うもり)の館(やかた)を十重(とへ)二十重(はたへ)に取巻(とりま)き、2861頭役(かしらやく)自(みづか)ら数名(すうめい)の目付(めつけ)と共(とも)に入(い)り来(きた)り、
287目付頭『サクレンス、288サクラン、289シノブ三(さん)人(にん)とも御用(ごよう)だ。290神妙(しんめう)に手(て)を廻(まは)せ』
291と呶鳴(どな)り乍(なが)ら292懐(ふところ)より捕縄(とりなは)を出(だ)し無雑作(むざふさ)に三(さん)人(にん)を厳(きび)しく固(かた)く縛(しば)り上(あ)げてしまつた。
293(大正一四・一・七 新一・三〇 於月光閣 北村隆光録)
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