霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第八章 帰鬼(きき)逸迫(いつぱく)〔一七三二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第68巻 山河草木 未の巻 篇:第2篇 恋火狼火 よみ(新仮名遣い):れんかろうか
章:第8章 帰鬼逸迫 よみ(新仮名遣い):ききいっぱく 通し章番号:1732
口述日:1925(大正14)年01月29日(旧01月6日) 口述場所:月光閣 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年9月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
大火災はタラハン市の過半を焼き払い、城内にまで飛び火、茶寮一棟を全焼した。市内には不逞首陀団、主義者団が横行し、目も当てられぬ惨状を呈した。全消防隊、目付け侍を繰り出し、ようやく消化、暴徒の鎮撫を見た。
左守は邸宅を焼かれ、部下を指揮して騒動の収拾にあたっていたが、騒動が収まったのを見て、大王の間に伺候した。するとすでに王は、この騒ぎに驚きのあまり発熱し、人事不省に陥っていた。
左守はこの事態に際して太子に指揮を仰ごうと、太子殿にやってきた。左守は自分の辞任と息子アリナの行く末を頼み込む。
太子(アリナの変装)は、自分は父王の危篤に際して自分が動くことはできないと説く。そして王に代わって左守の職を解き、復興院の総裁に任じた。そして他の重臣と協議の上、復興に力を尽くすように諭す。
左守が帰った後、シノブがやってきて、化けの皮がはがれるのを心配するアリナに気合を入れる。シノブが下がると、入れ違いに右守がやってくる。
右守は、臨終の床の王から太子を呼ぶように言われて、太子を王の床に連れて行こうとやってきたのであった。太子は後からすぐに行くと言って先に右守を返すが、ここで途方にくれてしまう。
そこへシノブがやってきて、太子が帰ってきたことを伝える。太子は父王が臨終であることを聞くと、狼狽のあまり、労働服を着替えるのを忘れてしまう。部屋に戻ってからそれに気づくが、右守が再び父王の臨終を告げに来ると、我を忘れて汚れた労働服のまま、病床に駆けつけてしまう。極度の近眼の右守も、太子の身なりに気がつかなかった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm6808
愛善世界社版:110頁 八幡書店版:第12輯 191頁 修補版: 校定版:110頁 普及版:69頁 初版: ページ備考:
001 タラハン()大火災(だいくわさい)()過半(くわはん)()(はら)ひ、002(つひ)には城内(じやうない)(まで)飛火(とびひ)して茶寮(ちやれう)一棟(ひとむね)烏有(ういう)()した。003(しろ)内外(ないぐわい)阿鼻(あび)叫喚(けうくわん)地獄(ぢごく)(くわ)し、004不逞(ふてい)首陀団(しゆだだん)主義者(しゆぎしや)(だん)一致(いつち)協力(けふりよく)して、005強盗(がうたう)006強姦(がうかん)007殺人(さつじん)(とう)悪業(あくげふ)(たくま)しふし()()てられぬ惨状(さんじやう)(えん)じた。008消防隊(せうばうたい)全部(ぜんぶ)009(ならび)目付(めつけ)(さむらい)(まで)繰出(くりだ)して、010(やうや)くに()()()暴徒(ばうと)乱業(らんげふ)()(とど)むる(こと)()た。011左守(さもり)(わが)邸宅(ていたく)()かれ、012(いのち)辛々(からがら)部下(ぶか)指揮(しき)して騒擾(さうぜう)鎮撫(ちんぶ)(つと)めて()たが、013やうやく騒動(さうだう)(をさ)まつたので蒼皇(さうくわう)として大王(だいわう)居間(ゐま)伺候(しこう)()れば、014大王(だいわう)老病(らうびやう)にて臥床中(ぐわしやうちう)城下(じやうか)大変(たいへん)(みみ)にし、015(おどろ)きの(あま)発熱(はつねつ)(はなはだ)しく(つひ)人事(じんじ)不省(ふせい)(おちい)つて(しま)つた。016かかる混雑(こんざつ)(さい)とて、017医者(いしや)(おも)ふやうに()けつけず、018重臣(ぢうしん)(こま)()つて大王(だいわう)病室(びやうしつ)(くび)(あつ)前後策(ぜんごさく)(かう)じて()る。019左守(さもり)最早(もはや)(この)(うへ)太子(たいし)(きみ)拝謁(はいえつ)して指揮(しき)(あふ)がむものと、020禿頭(はげあたま)をテカテカ()らし(なが)ら、021太子殿(たいしでん)奉伺(ほうし)したのである。
022 左守(さもり)(れい)(ごと)二拍手(にはくしゆ)しながら、023垂簾(すゐれん)(まへ)低頭(ていとう)平身(へいしん)し、024(やや)(ふる)ひを(おび)たる(こゑ)にて、
025太子(たいし)殿下(でんか)申上(まをしあ)げます。026本日(ほんじつ)微臣(びしん)不注意(ふちうい)より城下(じやうか)大火災(だいくわさい)(おこ)り、027不逞(ふてい)首陀団(しゆだだん)主義者(しゆぎしや)(だん)(その)()暴徒(ばうと)028暴威(ばうゐ)(たくまし)ふし()(はな)つて(みやこ)大半(たいはん)烏有(ういう)()し、029(なほ)()()らず、030強盗(がうたう)031強姦(がうかん)032殺人(さつじん)など、0321所在(あらゆる)暴逆(ばうぎやく)(たくまし)ふし、033タラハン()()()くが(ごと)(あは)れな有様(ありさま)(ござ)います。034大王(だいわう)(さま)()心配(しんぱい)のあまり(にはか)病気(びやうき)(あらた)まり、035いつ()昇天(しようてん)(あそ)ばすやも(はか)られない悲惨事(ひさんじ)湧出(ゆうしゆつ)(いた)しました。036かかる惨状(さんじやう)招来(せうらい)(いた)しましたのも、037(まつた)小臣(せうしん)()輔弼(ほひつ)(にん)(まつた)ふせざりし(つみ)(ござ)いますれば、038天下(てんか)万民(ばんみん)(かは)闕下(けつか)()して(つみ)(しや)し、039今日(こんにち)(かぎ)骸骨(がいこつ)()(たてまつ)りますれば、040何卒(なにとぞ)041時代(じだい)目醒(めざ)めたる新人物(しんじんぶつ)をば登庸(とうよう)(あそ)ばされ、042国事(こくじ)大改革(だいかいかく)断行(だんかう)されむ(こと)希望(きばう)いたします。043左守(さもり)(しよく)()するに(あた)りまして、044太子(たいし)殿下(でんか)にお(ねが)(いた)して()きたい(こと)は、045(せがれ)()(うへ)(ござ)います。046微臣(びしん)老齢(らうれい)(くは)はり、047殿中(でんちう)入内(にふだい)(いた)しますにも、048かくの(ごと)(つゑ)()たねばならぬやうな廃物(はいぶつ)(ござ)いますから、049大王(だいわう)殿下(でんか)(あと)()うて何時(いつ)国替(くにがへ)をするやらも(わか)りませぬ。050何卒(なにとぞ)(せがれ)()(うへ)をよろしくお(ねが)(まをし)()げます』
051 アリナはわざと荘重(さうちよう)(こゑ)にて、
052『ヤ左守(さもり)殿(どの)053大変(たいへん)(こと)であつたのう。054(さぞ)人民(じんみん)(こま)つて()るであらう。055(なんぢ)国家(こくか)危急(ききふ)(この)場合(ばあひ)(あた)つて、056骸骨(がいこつ)()ふなどとは不心得(ふこころえ)千万(せんばん)にも(ほど)がある。057日頃(ひごろ)高禄(かうろく)(あた)へておいたのは斯様(かやう)(さい)(つく)させむ()めの(ちち)大王(だいわう)思召(おぼしめし)ではないか。058(しか)(なが)ら、059不能(ふのう)をもつて(のう)()ふるは(きみ)たるものの(みち)ではない。060(なんぢ)(さいは)ひに061時代(じだい)目醒(めざ)()意思(いし)をよく(さと)りをる賢明(けんめい)なる(せがれ)あれば、062(かれ)アリナを(なんぢ)(おも)(おも)(もち)ふるであらう。063(かなら)心配(しんぱい)いたすな。064さうして(なんぢ)(いへ)無難(ぶなん)であつたかのう』
065()『ハイ()親切(しんせつ)によくお(たづ)(くだ)さいます。066仁慈(じんじ)のお言葉(ことば)067何時(いつ)()にかは忘却(ばうきやく)(いた)しませうや。068(わが)邸宅(ていたく)不逞(ふてい)首陀団(しゆだだん)(ため)包囲(はうゐ)され、069第一着(だいいちちやく)()きつくされて(しま)ひました。070(しか)(なが)ら、071ウラルの(かみ)(さま)()加護(かご)によりて生命(せいめい)(たす)けて(いただ)きました。072それよりも(おそ)(おほ)いは、073大王(だいわう)(さま)がいつも愛玩(あいぐわん)してお(いで)になりました、074古今(ここん)珍器(ちんき)(あつ)めた茶寮(ちやれう)一棟(ひとむね)075(をし)くも()()せました。076大王家(だいわうけ)歴代(れきだい)重宝(ぢうほう)(この)茶寮(ちやれう)(をさ)めてありました。077(じつ)(この)一事(いちじ)にても微臣(びしん)責任(せきにん)()びて骸骨(がいこつ)()はねばなりませぬ。078何卒(なにとぞ)079おゆるしを(ねが)(たてまつ)ります』
080ア『や、081左守(さもり)(その)(はう)(まを)言葉(ことば)一応(いちおう)道理(だうり)があるやうだ。082(なんぢ)(これ)より此処(ここ)引取(ひきと)り、083()重臣(ぢうしん)(ども)相談(さうだん)(うへ)復興院(ふくこうゐん)創立(さうりつ)して、084(ふたた)(もと)のタラハン()復帰(ふくき)すべく(つと)めて()れ。085太子(たいし)086(なんぢ)左守(さもり)職掌(しよくしやう)(ちち)(かは)つて免除(めんぢよ)する。087臣間(しんかん)事業(じげふ)として復興院(ふくこうゐん)総裁(そうさい)となれ』
088()殿下(でんか)()台命(たいめい)(まこと)にもつて有難(ありがた)感謝(かんしや)()へませぬが、089()(おく)れたる禿頭(はげあたま)をもつて090どうして、0901今日(こんにち)()(なか)人心(じんしん)(をさ)復興(ふくこう)目的(もくてき)達成(たつせい)する(こと)出来(でき)ませうか。091(この)()何卒(なにとぞ)(ゆる)(くだ)さいませ。092(じつ)(ところ)(たま)(はら)別荘(べつさう)安臥中(あんぐわちう)093火事(くわじ)()いて(おどろ)石段(いしだん)より(ころ)()ち、094大変(たいへん)負傷(ふしやう)(つかまつ)りました。095これがつけ()りとなつて、096微臣(びしん)(とほ)からぬ(うち)帰幽(きいう)いたさねばなりますまい』
097ア『ヤアそれは(おも)ひも()らぬ()(どく)(こと)(いた)した。098アリナが()れば(その)(はう)介抱(かいはう)をさせたいのだが、099火災(くわさい)(おこ)ると(とも)殿内(でんない)()()し、100()(なん)消息(せうそく)()いのだから、101どうする(こと)出来(でき)ぬ。102()(かか)(さい)には泰然(たいぜん)自若(じじやく)として軽挙(けいきよ)妄動(まうどう)(つつし)み、103万一(まんいち)(とき)には父王(ちちわう)殿下(でんか)(あと)()がねばならぬ。104どうか(その)(はう)より右守(うもり)(その)(ほか)一同(いちどう)によきに(つた)へて()れ』
105()『ハイ、106(かさ)(がさ)()親切(しんせつ)なお言葉(ことば)有難(ありがた)(ござ)います。107そして(せがれ)のアリナは()(かへ)らないと(うけたま)はりましたが、108もしやあの騒動(さうだう)(まぎ)人手(ひとで)にかかつたのでは()りますまいか。109(ただ)しは()(かこ)まれて焼死(やけじに)でも(いた)したのでは(ござ)いますまいか』
110涙声(なみだごゑ)になる。
111ア『父上(ちちうへ)112いやいや父王(ちちわう)殿下(でんか)()大病(たいびやう)とあれば()(ここ)謹慎(きんしん)(まも)つて()る。113アリナも可愛(かあい)さうだが、114(かれ)(こと)だから滅多(めつた)(いのち)()つるやうな(こと)はあるまい。115安心(あんしん)したがよからう』
116()『ハイ、117有難(ありがた)(ござ)います。118失礼(しつれい)(こと)をお(たづ)(いた)しますが、119殿下(でんか)には(この)(ごろ)(こゑ)(いろ)がお(ちが)(あそ)ばすやうで(ござ)いますが、120(かぜ)でもお()(あそ)ばしたのでは(ござ)いますまいか。121尊貴(そんき)(おん)()(うへ)122何卒(なにとぞ)大切(たいせつ)にお(ねが)(いた)します。123人間(にんげん)衛生(ゑいせい)第一(だいいち)(ござ)いますから』
124 アリナは(この)言葉(ことば)にギヨツとし(なが)(あく)(まで)図々(づうづう)しく空呆(そらとぼ)け、
125ア『イヤ、126(べつ)病気(びやうき)でも(なん)でもない。127(じつ)青春(せいしゆん)時期(じき)だから声変(こゑがは)りが(いた)したのだ。128そして()昨夜(さくや)大火事(おほくわじ)(すこ)しばかり()()んだものだから、129(こゑ)(すこ)しく(かは)つたのだらうよ。130(かなら)(かなら)心配(しんぱい)して()れるな。131(また)(なんぢ)(せがれ)アリナも屹度(きつと)無事(ぶじ)()るだらう』
132()『ハイ、133有難(ありがた)(ござ)います。134どうか衛生(ゑいせい)()注意(ちうい)(くだ)さいませ。135(ひとへ)にお(ねが)申上(まをしあ)げます』
136ア『(おやぢ)137(いな)左守(さもり)138心配(しんぱい)(いた)すな。139人間(にんげん)生涯(しやうがい)衛生(ゑいせい)二字(にじ)威喝(ゐかつ)されて、140自分(じぶん)から半病人(はんびやうにん)になるやうな(こと)(いた)さない。141人間(にんげん)()()ちやう(ひと)つで病気(びやうき)なんか(おこ)るものではない。142(その)(はう)()(たしか)()つて長生(ながいき)をしたがよからうぞ』
143()何彼(なにか)とお取込(とりこ)みの(なか)144いつ(まで)邪魔(じやま)(いた)しても()みませぬから、145微臣(びしん)()(さが)りませう。146(この)(さい)()自愛(じあい)あらむ(こと)懇願(こんぐわん)(いた)します』
147()()て、148(うやうや)しく敬意(けいい)(あら)はし(なが)(つゑ)(ちから)(さが)()く。149左守(さもり)道々(みちみち)(おも)ふやう、
150『どうも殿下(でんか)のお声変(こゑがは)り、151これは(なん)かの原因(げんいん)()るだらう。152どこともなしに(いま)(まで)とは荘重(さうちよう)()き、153さうして今日(けふ)懸河(けんが)弁舌(べんぜつ)154ハテ合点(がてん)()かぬ(こと)だなア。155あの口調(くてう)(せがれ)のアリナにそつくりだ。156(しか)何時(いつ)もアリナが悪智慧(わるぢゑ)かうものだから、157言葉(ことば)づき(まで)殿下(でんか)感染(かんせん)したのだらう。158(おそ)(おほ)(こと)だわい』
159独語(ひとりご)ちつつ(かへ)()く。
160 アリナはほつと一息(ひといき)(なが)ら、
161『アヽ(あぶ)ない(こと)だつた。162(また)しても(おやぢ)訪問(はうもん)され肝玉(きもたま)がでんぐり(がへ)つて仕舞(しま)つた。163(さいは)(おやぢ)胡麻(ごま)かしたが、164やがて右守(うもり)がやつて()るだらう。165こいつは(こま)つたものだなア』
166(うで)()んで思案(しあん)折柄(をりから)167足早(あしばや)(みす)()げて()()るは夜前(やぜん)情約(じやうやく)締結(ていけつ)()へたシノブであつた。
168シノブ『殿下(でんか)169()心配(しんぱい)なさいますな。170あの調子(てうし)なれば大丈夫(だいぢやうぶ)(ござ)いますよ。171現在(げんざい)父上(ちちうへ)でさへも(ばけ)(かは)()(こと)出来(でき)ず、172スダルマン太子(たいし)(しん)()つて(かへ)られた(くらゐ)ですから173右守(うもり)(ぐらゐ)(なん)でもありませぬ。174そして右守(うもり)名代(なだい)近眼(きんがん)(ござ)いますから()心配(しんぱい)なさいますな』
175アリナ『いや(たれ)かと(おも)へば、176(なんぢ)女中頭(ぢよちうがしら)のシノブぢやないか。177今日(こんにち)場合(ばあひ)178陽気(やうき)(こと)()つて()れない。179居間(ゐま)(さが)つて来客(らいきやく)接待(もてなし)でも(いた)したが()からうぞ』
180シ『ホヽヽヽ、181殿下(でんか)182よう白々(しらじら)しいそんな(こと)(おほ)せられますなア。183(わらは)はどこ(まで)殿下(でんか)のお(そば)(はな)れませぬ。184殿下(でんか)挙措(きよそ)動作(どうさ)一々(いちいち)(つぎ)()から調(しら)べて()りますから』
185ア『大変(たいへん)警戒線(けいかいせん)()つたものだなア、186まるきり監視附(かんしづき)のやうなものだわい。187アヽ太子(たいし)(やく)窮屈(きうくつ)なものだなア』
188シ『一国(いつこく)王者(わうじや)にならうと(おも)へば189少々(せうせう)(ぐらゐ)窮屈(きうくつ)(しの)ばなければなりますまい。190(ここ)二三(にさん)(にち)特別(とくべつ)訪問者(はうもんしや)(おほ)(ござ)いませうから、191(しつか)りして()(くだ)さいませ』
192ア『アヽ、193スダルマン太子(たいし)(なん)だつて(かへ)つて(ござ)らぬのだらう。194半日(はんにち)でよいから(かは)つて(もら)ひたい」と仰有(おつしや)つたが、195こんな(ところ)右守(うもり)重臣(ぢうしん)がどしどしやつて(きた)196(しま)ひには()けの(かは)(あら)はれて(しま)ふがなア』
197シ『これだけの騒動(さうだう)198如何(いか)呑気(のんき)太子(たいし)(さま)だとて悠々(いういう)スバール(ひめ)(うつつ)()かしてお(いで)になる(はず)はありませぬ。199もう(かへ)つてお(いで)になるでせうから、200もう(しばら)辛抱(しんばう)して(くだ)さいませ。201天下(てんか)分目(わけめ)関ケ原(せきがはら)202王者(わうじや)になるか、203平民(へいみん)(さが)るかの分水嶺(ぶんすいれい)ですから』
204ア『それもさうだ。205(たれ)()るか(わか)らないから、206其方(そなた)(はや)(みす)(そと)(まか)(さが)つたがよからう。207()心配(しんぱい)でならないわ』
208シ『ホヽヽヽ、209()心配(しんぱい)でならないわ」などと、210たうとう本当(ほんたう)太子(たいし)言葉(ことば)つきだけはなつて仕舞(しま)はれましたなア。211左様(さやう)なれば邪魔者(じやまもの)(まか)(さが)るで(ござ)いませう』
212と、213つんと()ち、214ぷりんとして(たたみ)をぽんぽんと(ふた)()()つて一間(ひとま)(うち)姿(すがた)をかくした。215それと()(ちが)ひに(あわ)ただしくやつて()たのは右守(うもり)であつた。216右守(うもり)(かた)(ごと)二拍手(にはくしゆ)し、217(かしら)(ゆか)()(なが)ら、
218(おそ)(なが)右守(うもり)(かみ)219太子(たいし)殿下(でんか)(まをし)()げます。220昨夜(さくや)以来(いらい)221城下(じやうか)大混乱(だいこんらん)状況(じやうきやう)222左守(さもり)(かみ)より上申(じやうしん)(いた)したで(ござ)いませうから、223(わたくし)(かさ)ねて(まをし)(あげ)ませぬ。224殿下(でんか)におかせられても()壮健(さうけん)(おん)(かほ)(はい)225右守(うもり)()()つて恐悦(きようえつ)至極(しごく)(ぞん)(たてまつ)ります。226()きましては大王(だいわう)(さま)()容態(ようたい)(にはか)(あらた)まり、227(かすか)(いき)(した)より「殿下(でんか)()べ」と(おほ)せられます。228どうか(いち)()(はや)大王(だいわう)のお居間(ゐま)(まで)()賁臨(ふんりん)(ねが)(たてまつ)ります』
229 アリナは(ひと)(のが)れて(また)(ひと)つ、
230『アヽ偽太子(にせたいし)もつらいものだ。231大王(だいわう)殿下(でんか)(そば)には沢山(たくさん)看病人(かんびやうにん)()るだらう、232重臣(ぢうしん)(ども)()るだらう。233そんな(ところ)()かうものなら(たちま)秘密(ひみつ)露見(ろけん)して、234フン(じば)られて(しま)ふかも()れない』
235(こころ)非常(ひじやう)(おどろ)きを(かん)じたが、236横着者(わうちやくもの)(こと)とてわざと素知(そし)らぬ(かほ)をして、
237(なん)(まを)す、238父王(ちちわう)殿下(でんか)()危篤(きとく)()ふのか。239それでは早速(さつそく)参上(さんじやう)(いた)さねばなるまい、240()(これ)より衣服(いふく)着替(きか)241(かみ)(さま)拝礼(はいれい)(いた)父王(ちちわう)殿下(でんか)平癒(へいゆ)(いの)242(ただ)ちに参上(さんじやう)いたすによつて(その)(よし)父王(ちちわう)(つた)へて()れ』
243右守(うもり)殿下(でんか)のお言葉(ことば)(ござ)いますが、244錦衣(きんい)のお着替(きか)へも結構(けつこう)245(かみ)(さま)へのお(いの)りも結構(けつこう)(ござ)いますが、246最早(もはや)()臨終(りんじう)(ござ)いますから、247(ただ)ちにお()(くだ)さいませ。248(わたくし)がお(とも)(いた)します。249(はや)親子(おやこ)()対面(たいめん)(あそ)ばしませ。250(あと)如何(いか)(ほど)()やみ(あそ)ばしても(かへ)らぬ(こと)(ござ)いますから』
251アリナ『()(ただち)(まゐ)る。252(はや)(その)(はう)()(かま)はず(ちち)のお(そば)()つて()れ。253()はどうしても(かみ)(いの)らねば()()まぬ。254(はや)くこの()()ちのき父王(ちちわう)(そば)()かぬか』
255(こゑ)(ちから)()めて呶鳴(どな)りつけたり。256右守(うもり)(つる)一声(ひとこゑ)()むなく()つて(かへ)()く。257(あと)にアリナは、
258『アヽ(こま)つた(こと)出来(でき)たものだ。259やつぱり左守(さもり)(せがれ)のアリナで()(はう)がよい。260アヽどうしてこの難関(なんくわん)()()けようか』
261項垂(うなだ)れて()る。262そこへ女中頭(ぢよちうがしら)のシノブが(はし)(きた)り、
263『もし、264アリナ(さま)265殿下(でんか)(かへ)られました。266サアサア(はや)衣裳(いしやう)をお着替(きか)へなさいませ』
267(なに)268殿下(でんか)がお(かへ)りか、269それや結構(けつこう)だ。270や、271(たす)(ぶね)(かへ)つたやうなものだ。272何処(どこ)()られるか』
273シノブ『労働服(らうどうふく)()(まま)裏口(うらぐち)()つて()られます』
274 アリナは(いそ)いで裏口(うらぐち)(はし)()で、
275『ヤ殿下(でんか)276よう(かへ)つて(くだ)さいました。277(いま)(わたくし)(ばけ)(かは)(あら)はれむとする(ところ)278父王(ちちわう)殿下(でんか)には(いま)()臨終(りんじう)(ござ)います。279サア(はや)くお()(くだ)さいませ。280さうして(わたし)錦衣(きんい)()()(もと)のアリナに(かへ)つて(しま)ひます。281(いま)危機(きき)一髪(いつぱつ)正念場(しやうねんば)282(はや)錦衣(きんい)にお着替(きか)(くだ)さいませ。283何時(いつ)重臣(ぢうしん)(ども)()るかも(わか)りませぬ』
284 太子(たいし)(ちち)臨終(りんじう)()着物(きもの)着替(きか)へる(こと)(わす)れ、285(また)アリナも狼狽(らうばい)(あま)り、286太子(たいし)錦衣(きんい)()せる(こと)(わす)れて(しま)つた。287太子(たいし)はそのまま()けつけ火鉢(ひばち)(まへ)(すわ)つて()た。
288(たい)『ヤ、289これや大変(たいへん)だ。290労働服(らうどうふく)(まま)だ。291(なん)とかして(はや)錦衣(きんい)()かへねばなるまい。292オイ、293アリナその錦衣(きんい)(はや)()つて()い』
294()べど(さけ)べど295アリナは狼狽(らうばい)(あま)錦衣(きんい)女中(ぢよちう)部屋(べや)()()て、296トランクの(なか)より有合(ありあは)せの寝衣(ねまき)()()して着替(きか)へ、297便所(べんじよ)(なか)(ひそ)んで(ふる)つて()た。298一方(いつぱう)太子(たいし)如何(いかが)はせむと焦慮(せうりよ)して()る。299其所(そこ)(あわ)ただしく右守(うもり)(かみ)がやつて()て、300(みす)(そと)より泣声(なきごゑ)(しぼ)(なが)ら、
301殿下(でんか)302(はや)くお(いで)(くだ)さいませ。303()臨終(りんじう)(ござ)います』
304 この(こゑ)太子(たいし)(ちち)臨終(りんじう)()いて(なに)()()(わす)れ、305(きたな)労働服(らうどうふく)(まま)306右守(うもり)(あと)()いて大王(だいわう)病床(びやうしやう)()けつけたり。307右守(うもり)近眼(きんがん)(こと)なり308(あま)(あわ)てて()るので、3081太子(たいし)労働服(らうどうふく)()につかざりけり。
309大正一四・一・六 新一・二九 於月光閣 加藤明子録)

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