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霊界物語
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
第68巻(未の巻)
序文
総説
第1篇 名花移植
第1章 貞操論
第2章 恋盗詞
第3章 山出女
第4章 茶湯の艶
第2篇 恋火狼火
第5章 変装太子
第6章 信夫恋
第7章 茶火酌
第8章 帰鬼逸迫
第3篇 民声魔声
第9章 衡平運動
第10章 宗匠財
第11章 宮山嵐
第12章 妻狼の囁
第13章 蛙の口
第4篇 月光徹雲
第14章 会者浄離
第15章 破粋者
第16章 戦伝歌
第17章 地の岩戸
第5篇 神風駘蕩
第18章 救の網
第19章 紅の川
第20章 破滅
第21章 祭政一致
余白歌
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>
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
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第68巻(未の巻)
> 第2篇 恋火狼火 > 第8章 帰鬼逸迫
<<< 茶火酌
(B)
(N)
衡平運動 >>>
第八章
帰鬼
(
きき
)
逸迫
(
いつぱく
)
〔一七三二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第68巻 山河草木 未の巻
篇:
第2篇 恋火狼火
よみ(新仮名遣い):
れんかろうか
章:
第8章 帰鬼逸迫
よみ(新仮名遣い):
ききいっぱく
通し章番号:
1732
口述日:
1925(大正14)年01月29日(旧01月6日)
口述場所:
月光閣
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1926(大正15)年9月30日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
大火災はタラハン市の過半を焼き払い、城内にまで飛び火、茶寮一棟を全焼した。市内には不逞首陀団、主義者団が横行し、目も当てられぬ惨状を呈した。全消防隊、目付け侍を繰り出し、ようやく消化、暴徒の鎮撫を見た。
左守は邸宅を焼かれ、部下を指揮して騒動の収拾にあたっていたが、騒動が収まったのを見て、大王の間に伺候した。するとすでに王は、この騒ぎに驚きのあまり発熱し、人事不省に陥っていた。
左守はこの事態に際して太子に指揮を仰ごうと、太子殿にやってきた。左守は自分の辞任と息子アリナの行く末を頼み込む。
太子(アリナの変装)は、自分は父王の危篤に際して自分が動くことはできないと説く。そして王に代わって左守の職を解き、復興院の総裁に任じた。そして他の重臣と協議の上、復興に力を尽くすように諭す。
左守が帰った後、シノブがやってきて、化けの皮がはがれるのを心配するアリナに気合を入れる。シノブが下がると、入れ違いに右守がやってくる。
右守は、臨終の床の王から太子を呼ぶように言われて、太子を王の床に連れて行こうとやってきたのであった。太子は後からすぐに行くと言って先に右守を返すが、ここで途方にくれてしまう。
そこへシノブがやってきて、太子が帰ってきたことを伝える。太子は父王が臨終であることを聞くと、狼狽のあまり、労働服を着替えるのを忘れてしまう。部屋に戻ってからそれに気づくが、右守が再び父王の臨終を告げに来ると、我を忘れて汚れた労働服のまま、病床に駆けつけてしまう。極度の近眼の右守も、太子の身なりに気がつかなかった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm6808
愛善世界社版:
110頁
八幡書店版:
第12輯 191頁
修補版:
校定版:
110頁
普及版:
69頁
初版:
ページ備考:
001
タラハン
市
(
し
)
の
大火災
(
だいくわさい
)
は
市
(
し
)
の
過半
(
くわはん
)
を
焼
(
や
)
き
払
(
はら
)
ひ、
002
遂
(
つひ
)
には
城内
(
じやうない
)
迄
(
まで
)
飛火
(
とびひ
)
して
茶寮
(
ちやれう
)
一棟
(
ひとむね
)
を
烏有
(
ういう
)
に
帰
(
き
)
した。
003
城
(
しろ
)
の
内外
(
ないぐわい
)
は
阿鼻
(
あび
)
叫喚
(
けうくわん
)
の
地獄
(
ぢごく
)
と
化
(
くわ
)
し、
004
不逞
(
ふてい
)
首陀団
(
しゆだだん
)
や
主義者
(
しゆぎしや
)
団
(
だん
)
が
一致
(
いつち
)
協力
(
けふりよく
)
して、
005
強盗
(
がうたう
)
、
006
強姦
(
がうかん
)
、
007
殺人
(
さつじん
)
等
(
とう
)
の
悪業
(
あくげふ
)
を
逞
(
たくま
)
しふし
目
(
め
)
も
当
(
あ
)
てられぬ
惨状
(
さんじやう
)
を
演
(
えん
)
じた。
008
消防隊
(
せうばうたい
)
全部
(
ぜんぶ
)
、
009
並
(
ならび
)
に
目付
(
めつけ
)
侍
(
さむらい
)
迄
(
まで
)
も
繰出
(
くりだ
)
して、
010
漸
(
やうや
)
くに
火
(
ひ
)
を
消
(
け
)
し
止
(
と
)
め
暴徒
(
ばうと
)
の
乱業
(
らんげふ
)
を
喰
(
く
)
ひ
留
(
とど
)
むる
事
(
こと
)
を
得
(
え
)
た。
011
左守
(
さもり
)
は
吾
(
わが
)
邸宅
(
ていたく
)
を
焼
(
や
)
かれ、
012
命
(
いのち
)
辛々
(
からがら
)
部下
(
ぶか
)
を
指揮
(
しき
)
して
騒擾
(
さうぜう
)
鎮撫
(
ちんぶ
)
に
努
(
つと
)
めて
居
(
ゐ
)
たが、
013
やうやく
騒動
(
さうだう
)
が
治
(
をさ
)
まつたので
蒼皇
(
さうくわう
)
として
大王
(
だいわう
)
の
居間
(
ゐま
)
に
伺候
(
しこう
)
し
見
(
み
)
れば、
014
大王
(
だいわう
)
は
老病
(
らうびやう
)
にて
臥床中
(
ぐわしやうちう
)
城下
(
じやうか
)
の
大変
(
たいへん
)
を
耳
(
みみ
)
にし、
015
驚
(
おどろ
)
きの
余
(
あま
)
り
発熱
(
はつねつ
)
甚
(
はなはだ
)
しく
遂
(
つひ
)
に
人事
(
じんじ
)
不省
(
ふせい
)
に
陥
(
おちい
)
つて
了
(
しま
)
つた。
016
かかる
混雑
(
こんざつ
)
の
際
(
さい
)
とて、
017
医者
(
いしや
)
も
思
(
おも
)
ふやうに
駆
(
か
)
けつけず、
018
重臣
(
ぢうしん
)
は
困
(
こま
)
り
切
(
き
)
つて
大王
(
だいわう
)
が
病室
(
びやうしつ
)
に
首
(
くび
)
を
鳩
(
あつ
)
め
前後策
(
ぜんごさく
)
を
講
(
かう
)
じて
居
(
を
)
る。
019
左守
(
さもり
)
は
最早
(
もはや
)
此
(
この
)
上
(
うへ
)
は
太子
(
たいし
)
の
君
(
きみ
)
に
拝謁
(
はいえつ
)
して
指揮
(
しき
)
を
仰
(
あふ
)
がむものと、
020
禿頭
(
はげあたま
)
をテカテカ
照
(
て
)
らし
乍
(
なが
)
ら、
021
太子殿
(
たいしでん
)
に
奉伺
(
ほうし
)
したのである。
022
左守
(
さもり
)
は
例
(
れい
)
の
如
(
ごと
)
く
二拍手
(
にはくしゆ
)
しながら、
023
垂簾
(
すゐれん
)
の
前
(
まへ
)
に
低頭
(
ていとう
)
平身
(
へいしん
)
し、
024
稍
(
やや
)
慄
(
ふる
)
ひを
帯
(
おび
)
たる
声
(
こゑ
)
にて、
025
『
太子
(
たいし
)
殿下
(
でんか
)
に
申上
(
まをしあ
)
げます。
026
本日
(
ほんじつ
)
は
微臣
(
びしん
)
の
不注意
(
ふちうい
)
より
城下
(
じやうか
)
に
大火災
(
だいくわさい
)
起
(
おこ
)
り、
027
不逞
(
ふてい
)
首陀団
(
しゆだだん
)
や
主義者
(
しゆぎしや
)
団
(
だん
)
其
(
その
)
他
(
た
)
の
暴徒
(
ばうと
)
、
028
暴威
(
ばうゐ
)
を
逞
(
たくまし
)
ふし
火
(
ひ
)
を
放
(
はな
)
つて
都
(
みやこ
)
の
大半
(
たいはん
)
を
烏有
(
ういう
)
に
帰
(
き
)
し、
029
尚
(
なほ
)
飽
(
あ
)
き
足
(
た
)
らず、
030
強盗
(
がうたう
)
、
031
強姦
(
がうかん
)
、
032
殺人
(
さつじん
)
など、
0321
所在
(
あらゆる
)
暴逆
(
ばうぎやく
)
を
逞
(
たくまし
)
ふし、
033
タラハン
市
(
し
)
は
蚊
(
か
)
の
鳴
(
な
)
くが
如
(
ごと
)
き
憐
(
あは
)
れな
有様
(
ありさま
)
で
厶
(
ござ
)
います。
034
大王
(
だいわう
)
様
(
さま
)
も
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
のあまり
俄
(
にはか
)
に
病気
(
びやうき
)
新
(
あらた
)
まり、
035
いつ
御
(
ご
)
昇天
(
しようてん
)
遊
(
あそ
)
ばすやも
計
(
はか
)
られない
悲惨事
(
ひさんじ
)
が
湧出
(
ゆうしゆつ
)
致
(
いた
)
しました。
036
かかる
惨状
(
さんじやう
)
を
招来
(
せうらい
)
致
(
いた
)
しましたのも、
037
全
(
まつた
)
く
小臣
(
せうしん
)
等
(
ら
)
が
輔弼
(
ほひつ
)
の
任
(
にん
)
を
全
(
まつた
)
ふせざりし
罪
(
つみ
)
で
厶
(
ござ
)
いますれば、
038
天下
(
てんか
)
万民
(
ばんみん
)
に
代
(
かは
)
り
闕下
(
けつか
)
に
伏
(
ふ
)
して
罪
(
つみ
)
を
謝
(
しや
)
し、
039
今日
(
こんにち
)
限
(
かぎ
)
り
骸骨
(
がいこつ
)
を
乞
(
こ
)
ひ
奉
(
たてまつ
)
りますれば、
040
何卒
(
なにとぞ
)
、
041
時代
(
じだい
)
に
目醒
(
めざ
)
めたる
新人物
(
しんじんぶつ
)
をば
登庸
(
とうよう
)
遊
(
あそ
)
ばされ、
042
国事
(
こくじ
)
の
大改革
(
だいかいかく
)
を
断行
(
だんかう
)
されむ
事
(
こと
)
を
希望
(
きばう
)
いたします。
043
左守
(
さもり
)
が
職
(
しよく
)
を
辞
(
じ
)
するに
当
(
あた
)
りまして、
044
太子
(
たいし
)
殿下
(
でんか
)
にお
願
(
ねが
)
ひ
致
(
いた
)
して
置
(
お
)
きたい
事
(
こと
)
は、
045
悴
(
せがれ
)
の
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
で
厶
(
ござ
)
います。
046
微臣
(
びしん
)
も
老齢
(
らうれい
)
加
(
くは
)
はり、
047
殿中
(
でんちう
)
に
入内
(
にふだい
)
致
(
いた
)
しますにも、
048
かくの
如
(
ごと
)
く
杖
(
つゑ
)
を
持
(
も
)
たねばならぬやうな
廃物
(
はいぶつ
)
で
厶
(
ござ
)
いますから、
049
大王
(
だいわう
)
殿下
(
でんか
)
の
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
うて
何時
(
いつ
)
国替
(
くにがへ
)
をするやらも
分
(
わか
)
りませぬ。
050
何卒
(
なにとぞ
)
悴
(
せがれ
)
の
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
をよろしくお
願
(
ねが
)
ひ
申
(
まをし
)
上
(
あ
)
げます』
051
アリナはわざと
荘重
(
さうちよう
)
な
声
(
こゑ
)
にて、
052
『ヤ
左守
(
さもり
)
殿
(
どの
)
、
053
大変
(
たいへん
)
な
事
(
こと
)
であつたのう。
054
嘸
(
さぞ
)
人民
(
じんみん
)
が
困
(
こま
)
つて
居
(
ゐ
)
るであらう。
055
汝
(
なんぢ
)
は
国家
(
こくか
)
危急
(
ききふ
)
の
此
(
この
)
場合
(
ばあひ
)
に
当
(
あた
)
つて、
056
骸骨
(
がいこつ
)
を
乞
(
こ
)
ふなどとは
不心得
(
ふこころえ
)
千万
(
せんばん
)
にも
程
(
ほど
)
がある。
057
日頃
(
ひごろ
)
高禄
(
かうろく
)
を
与
(
あた
)
へておいたのは
斯様
(
かやう
)
の
際
(
さい
)
に
尽
(
つく
)
させむ
為
(
た
)
めの
父
(
ちち
)
大王
(
だいわう
)
の
思召
(
おぼしめし
)
ではないか。
058
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
059
不能
(
ふのう
)
をもつて
能
(
のう
)
を
強
(
し
)
ふるは
君
(
きみ
)
たるものの
道
(
みち
)
ではない。
060
汝
(
なんぢ
)
は
幸
(
さいは
)
ひに
061
時代
(
じだい
)
に
目醒
(
めざ
)
め
余
(
よ
)
が
意思
(
いし
)
をよく
悟
(
さと
)
りをる
賢明
(
けんめい
)
なる
悴
(
せがれ
)
あれば、
062
彼
(
かれ
)
アリナを
汝
(
なんぢ
)
と
思
(
おも
)
ひ
重
(
おも
)
く
用
(
もち
)
ふるであらう。
063
必
(
かなら
)
ず
心配
(
しんぱい
)
いたすな。
064
さうして
汝
(
なんぢ
)
の
家
(
いへ
)
は
無難
(
ぶなん
)
であつたかのう』
065
左
(
さ
)
『ハイ
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
によくお
尋
(
たづ
)
ね
下
(
くだ
)
さいます。
066
仁慈
(
じんじ
)
のお
言葉
(
ことば
)
、
067
何時
(
いつ
)
の
世
(
よ
)
にかは
忘却
(
ばうきやく
)
致
(
いた
)
しませうや。
068
吾
(
わが
)
邸宅
(
ていたく
)
は
不逞
(
ふてい
)
首陀団
(
しゆだだん
)
の
為
(
ため
)
に
包囲
(
はうゐ
)
され、
069
第一着
(
だいいちちやく
)
に
焼
(
や
)
きつくされて
了
(
しま
)
ひました。
070
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
071
ウラルの
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
加護
(
かご
)
によりて
生命
(
せいめい
)
は
助
(
たす
)
けて
頂
(
いただ
)
きました。
072
それよりも
恐
(
おそ
)
れ
多
(
おほ
)
いは、
073
大王
(
だいわう
)
様
(
さま
)
がいつも
愛玩
(
あいぐわん
)
してお
出
(
いで
)
になりました、
074
古今
(
ここん
)
の
珍器
(
ちんき
)
を
集
(
あつ
)
めた
茶寮
(
ちやれう
)
の
一棟
(
ひとむね
)
、
075
惜
(
をし
)
くも
焼
(
や
)
き
失
(
う
)
せました。
076
大王家
(
だいわうけ
)
歴代
(
れきだい
)
の
重宝
(
ぢうほう
)
は
此
(
この
)
茶寮
(
ちやれう
)
に
納
(
をさ
)
めてありました。
077
実
(
じつ
)
に
此
(
この
)
一事
(
いちじ
)
にても
微臣
(
びしん
)
は
責任
(
せきにん
)
を
帯
(
お
)
びて
骸骨
(
がいこつ
)
を
乞
(
こ
)
はねばなりませぬ。
078
何卒
(
なにとぞ
)
、
079
おゆるしを
願
(
ねが
)
ひ
奉
(
たてまつ
)
ります』
080
ア『や、
081
左守
(
さもり
)
其
(
その
)
方
(
はう
)
の
申
(
まを
)
す
言葉
(
ことば
)
も
一応
(
いちおう
)
道理
(
だうり
)
があるやうだ。
082
汝
(
なんぢ
)
は
是
(
これ
)
より
此処
(
ここ
)
を
引取
(
ひきと
)
り、
083
他
(
た
)
の
重臣
(
ぢうしん
)
共
(
ども
)
と
相談
(
さうだん
)
の
上
(
うへ
)
復興院
(
ふくこうゐん
)
を
創立
(
さうりつ
)
して、
084
再
(
ふたた
)
び
元
(
もと
)
のタラハン
市
(
し
)
に
復帰
(
ふくき
)
すべく
勉
(
つと
)
めて
呉
(
く
)
れ。
085
太子
(
たいし
)
、
086
汝
(
なんぢ
)
左守
(
さもり
)
の
職掌
(
しよくしやう
)
を
父
(
ちち
)
に
代
(
かは
)
つて
免除
(
めんぢよ
)
する。
087
臣間
(
しんかん
)
の
事業
(
じげふ
)
として
復興院
(
ふくこうゐん
)
の
総裁
(
そうさい
)
となれ』
088
左
(
さ
)
『
殿下
(
でんか
)
の
御
(
ご
)
台命
(
たいめい
)
誠
(
まこと
)
にもつて
有難
(
ありがた
)
く
感謝
(
かんしや
)
に
耐
(
た
)
へませぬが、
089
世
(
よ
)
に
後
(
おく
)
れたる
禿頭
(
はげあたま
)
をもつて
090
どうして、
0901
今日
(
こんにち
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
の
人心
(
じんしん
)
を
治
(
をさ
)
め
復興
(
ふくこう
)
の
目的
(
もくてき
)
を
達成
(
たつせい
)
する
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ませうか。
091
此
(
この
)
儀
(
ぎ
)
は
何卒
(
なにとぞ
)
お
許
(
ゆる
)
し
下
(
くだ
)
さいませ。
092
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は
玉
(
たま
)
の
原
(
はら
)
の
別荘
(
べつさう
)
に
安臥中
(
あんぐわちう
)
、
093
火事
(
くわじ
)
と
聞
(
き
)
いて
驚
(
おどろ
)
き
石段
(
いしだん
)
より
転
(
ころ
)
げ
落
(
お
)
ち、
094
大変
(
たいへん
)
な
負傷
(
ふしやう
)
を
仕
(
つかまつ
)
りました。
095
これがつけ
入
(
い
)
りとなつて、
096
微臣
(
びしん
)
も
遠
(
とほ
)
からぬ
中
(
うち
)
帰幽
(
きいう
)
いたさねばなりますまい』
097
ア『ヤアそれは
思
(
おも
)
ひも
寄
(
よ
)
らぬ
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
な
事
(
こと
)
を
致
(
いた
)
した。
098
アリナが
居
(
を
)
れば
其
(
その
)
方
(
はう
)
の
介抱
(
かいはう
)
をさせたいのだが、
099
火災
(
くわさい
)
が
起
(
おこ
)
ると
共
(
とも
)
に
殿内
(
でんない
)
を
飛
(
と
)
び
出
(
だ
)
し、
100
未
(
ま
)
だ
何
(
なん
)
の
消息
(
せうそく
)
も
無
(
な
)
いのだから、
101
どうする
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ぬ。
102
余
(
よ
)
も
斯
(
かか
)
る
際
(
さい
)
には
泰然
(
たいぜん
)
自若
(
じじやく
)
として
軽挙
(
けいきよ
)
妄動
(
まうどう
)
を
謹
(
つつし
)
み、
103
万一
(
まんいち
)
の
時
(
とき
)
には
父王
(
ちちわう
)
殿下
(
でんか
)
の
後
(
あと
)
を
継
(
つ
)
がねばならぬ。
104
どうか
其
(
その
)
方
(
はう
)
より
右守
(
うもり
)
其
(
その
)
外
(
ほか
)
一同
(
いちどう
)
によきに
伝
(
つた
)
へて
呉
(
く
)
れ』
105
左
(
さ
)
『ハイ、
106
重
(
かさ
)
ね
重
(
がさ
)
ね
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
なお
言葉
(
ことば
)
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
107
そして
悴
(
せがれ
)
のアリナは
未
(
ま
)
だ
帰
(
かへ
)
らないと
承
(
うけたま
)
はりましたが、
108
もしやあの
騒動
(
さうだう
)
に
紛
(
まぎ
)
れ
人手
(
ひとで
)
にかかつたのでは
有
(
あ
)
りますまいか。
109
但
(
ただ
)
しは
火
(
ひ
)
に
囲
(
かこ
)
まれて
焼死
(
やけじに
)
でも
致
(
いた
)
したのでは
厶
(
ござ
)
いますまいか』
110
と
涙声
(
なみだごゑ
)
になる。
111
ア『
父上
(
ちちうへ
)
、
112
いやいや
父王
(
ちちわう
)
殿下
(
でんか
)
の
御
(
ご
)
大病
(
たいびやう
)
とあれば
余
(
よ
)
は
茲
(
ここ
)
に
謹慎
(
きんしん
)
を
守
(
まも
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
113
アリナも
可愛
(
かあい
)
さうだが、
114
彼
(
かれ
)
の
事
(
こと
)
だから
滅多
(
めつた
)
に
命
(
いのち
)
を
捨
(
す
)
つるやうな
事
(
こと
)
はあるまい。
115
安心
(
あんしん
)
したがよからう』
116
左
(
さ
)
『ハイ、
117
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
118
失礼
(
しつれい
)
な
事
(
こと
)
をお
尋
(
たづ
)
ね
致
(
いた
)
しますが、
119
殿下
(
でんか
)
には
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
お
声
(
こゑ
)
の
色
(
いろ
)
がお
違
(
ちが
)
ひ
遊
(
あそ
)
ばすやうで
厶
(
ござ
)
いますが、
120
お
風
(
かぜ
)
でもお
召
(
め
)
し
遊
(
あそ
)
ばしたのでは
厶
(
ござ
)
いますまいか。
121
尊貴
(
そんき
)
の
御
(
おん
)
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
、
122
何卒
(
なにとぞ
)
お
大切
(
たいせつ
)
にお
願
(
ねが
)
ひ
致
(
いた
)
します。
123
人間
(
にんげん
)
は
衛生
(
ゑいせい
)
が
第一
(
だいいち
)
で
厶
(
ござ
)
いますから』
124
アリナは
此
(
この
)
言葉
(
ことば
)
にギヨツとし
乍
(
なが
)
ら
飽
(
あく
)
迄
(
まで
)
図々
(
づうづう
)
しく
空呆
(
そらとぼ
)
け、
125
ア『イヤ、
126
別
(
べつ
)
に
病気
(
びやうき
)
でも
何
(
なん
)
でもない。
127
実
(
じつ
)
は
青春
(
せいしゆん
)
の
時期
(
じき
)
だから
声変
(
こゑがは
)
りが
致
(
いた
)
したのだ。
128
そして
余
(
よ
)
も
昨夜
(
さくや
)
の
大火事
(
おほくわじ
)
に
些
(
すこ
)
しばかり
気
(
き
)
を
揉
(
も
)
んだものだから、
129
声
(
こゑ
)
が
少
(
すこ
)
しく
変
(
かは
)
つたのだらうよ。
130
必
(
かなら
)
ず
必
(
かなら
)
ず
心配
(
しんぱい
)
して
呉
(
く
)
れるな。
131
又
(
また
)
汝
(
なんぢ
)
の
悴
(
せがれ
)
アリナも
屹度
(
きつと
)
無事
(
ぶじ
)
で
居
(
ゐ
)
るだらう』
132
左
(
さ
)
『ハイ、
133
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
134
どうか
衛生
(
ゑいせい
)
に
御
(
ご
)
注意
(
ちうい
)
下
(
くだ
)
さいませ。
135
偏
(
ひとへ
)
にお
願
(
ねが
)
ひ
申上
(
まをしあ
)
げます』
136
ア『
爺
(
おやぢ
)
、
137
否
(
いな
)
左守
(
さもり
)
138
心配
(
しんぱい
)
致
(
いた
)
すな。
139
人間
(
にんげん
)
の
生涯
(
しやうがい
)
を
衛生
(
ゑいせい
)
の
二字
(
にじ
)
に
威喝
(
ゐかつ
)
されて、
140
自分
(
じぶん
)
から
半病人
(
はんびやうにん
)
になるやうな
事
(
こと
)
は
致
(
いた
)
さない。
141
人間
(
にんげん
)
は
気
(
き
)
の
持
(
も
)
ちやう
一
(
ひと
)
つで
病気
(
びやうき
)
なんか
起
(
おこ
)
るものではない。
142
其
(
その
)
方
(
はう
)
も
気
(
き
)
を
確
(
たしか
)
に
持
(
も
)
つて
長生
(
ながいき
)
をしたがよからうぞ』
143
左
(
さ
)
『
何彼
(
なにか
)
とお
取込
(
とりこ
)
みの
中
(
なか
)
、
144
いつ
迄
(
まで
)
お
邪魔
(
じやま
)
を
致
(
いた
)
しても
済
(
す
)
みませぬから、
145
微臣
(
びしん
)
は
引
(
ひ
)
き
下
(
さが
)
りませう。
146
此
(
この
)
際
(
さい
)
御
(
ご
)
自愛
(
じあい
)
あらむ
事
(
こと
)
を
懇願
(
こんぐわん
)
致
(
いた
)
します』
147
と
云
(
い
)
ひ
捨
(
す
)
て、
148
恭
(
うやうや
)
しく
敬意
(
けいい
)
を
表
(
あら
)
はし
乍
(
なが
)
ら
杖
(
つゑ
)
を
力
(
ちから
)
に
下
(
さが
)
り
行
(
ゆ
)
く。
149
左守
(
さもり
)
は
道々
(
みちみち
)
思
(
おも
)
ふやう、
150
『どうも
殿下
(
でんか
)
のお
声変
(
こゑがは
)
り、
151
これは
何
(
なん
)
かの
原因
(
げんいん
)
が
有
(
あ
)
るだらう。
152
どこともなしに
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
とは
荘重
(
さうちよう
)
を
欠
(
か
)
き、
153
さうして
今日
(
けふ
)
は
懸河
(
けんが
)
の
弁舌
(
べんぜつ
)
、
154
ハテ
合点
(
がてん
)
の
行
(
ゆ
)
かぬ
事
(
こと
)
だなア。
155
あの
口調
(
くてう
)
は
悴
(
せがれ
)
のアリナにそつくりだ。
156
然
(
しか
)
し
何時
(
いつ
)
もアリナが
悪智慧
(
わるぢゑ
)
を
かう
ものだから、
157
言葉
(
ことば
)
づき
迄
(
まで
)
が
殿下
(
でんか
)
に
感染
(
かんせん
)
したのだらう。
158
恐
(
おそ
)
れ
多
(
おほ
)
い
事
(
こと
)
だわい』
159
と
独語
(
ひとりご
)
ちつつ
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
160
アリナはほつと
一息
(
ひといき
)
し
乍
(
なが
)
ら、
161
『アヽ
危
(
あぶ
)
ない
事
(
こと
)
だつた。
162
又
(
また
)
しても
爺
(
おやぢ
)
に
訪問
(
はうもん
)
され
肝玉
(
きもたま
)
がでんぐり
返
(
がへ
)
つて
仕舞
(
しま
)
つた。
163
幸
(
さいは
)
ひ
爺
(
おやぢ
)
は
胡麻
(
ごま
)
かしたが、
164
やがて
右守
(
うもり
)
がやつて
来
(
く
)
るだらう。
165
こいつは
困
(
こま
)
つたものだなア』
166
と
腕
(
うで
)
を
組
(
く
)
んで
思案
(
しあん
)
の
折柄
(
をりから
)
、
167
足早
(
あしばや
)
に
簾
(
みす
)
を
上
(
あ
)
げて
入
(
い
)
り
来
(
く
)
るは
夜前
(
やぜん
)
情約
(
じやうやく
)
締結
(
ていけつ
)
を
終
(
を
)
へたシノブであつた。
168
シノブ『
殿下
(
でんか
)
、
169
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
なさいますな。
170
あの
調子
(
てうし
)
なれば
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
で
厶
(
ござ
)
いますよ。
171
現在
(
げんざい
)
の
父上
(
ちちうへ
)
でさへも
化
(
ばけ
)
の
皮
(
かは
)
を
剥
(
は
)
ぐ
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ず、
172
スダルマン
太子
(
たいし
)
と
信
(
しん
)
じ
切
(
き
)
つて
帰
(
かへ
)
られた
位
(
くらゐ
)
ですから
173
右守
(
うもり
)
位
(
ぐらゐ
)
は
何
(
なん
)
でもありませぬ。
174
そして
右守
(
うもり
)
は
名代
(
なだい
)
の
近眼
(
きんがん
)
で
厶
(
ござ
)
いますから
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
なさいますな』
175
アリナ『いや
誰
(
たれ
)
かと
思
(
おも
)
へば、
176
汝
(
なんぢ
)
は
女中頭
(
ぢよちうがしら
)
のシノブぢやないか。
177
今日
(
こんにち
)
の
場合
(
ばあひ
)
178
陽気
(
やうき
)
な
事
(
こと
)
は
云
(
い
)
つて
居
(
を
)
れない。
179
居間
(
ゐま
)
に
下
(
さが
)
つて
来客
(
らいきやく
)
の
接待
(
もてなし
)
でも
致
(
いた
)
したが
好
(
よ
)
からうぞ』
180
シ『ホヽヽヽ、
181
殿下
(
でんか
)
182
よう
白々
(
しらじら
)
しいそんな
事
(
こと
)
が
仰
(
おほ
)
せられますなア。
183
妾
(
わらは
)
はどこ
迄
(
まで
)
も
殿下
(
でんか
)
のお
傍
(
そば
)
は
離
(
はな
)
れませぬ。
184
殿下
(
でんか
)
の
挙措
(
きよそ
)
動作
(
どうさ
)
は
一々
(
いちいち
)
次
(
つぎ
)
の
間
(
ま
)
から
調
(
しら
)
べて
居
(
を
)
りますから』
185
ア『
大変
(
たいへん
)
な
警戒線
(
けいかいせん
)
を
張
(
は
)
つたものだなア、
186
まるきり
監視附
(
かんしづき
)
のやうなものだわい。
187
アヽ
太子
(
たいし
)
の
役
(
やく
)
も
窮屈
(
きうくつ
)
なものだなア』
188
シ『
一国
(
いつこく
)
の
王者
(
わうじや
)
にならうと
思
(
おも
)
へば
189
少々
(
せうせう
)
位
(
ぐらゐ
)
の
窮屈
(
きうくつ
)
は
忍
(
しの
)
ばなければなりますまい。
190
茲
(
ここ
)
二三
(
にさん
)
日
(
にち
)
は
特別
(
とくべつ
)
訪問者
(
はうもんしや
)
が
多
(
おほ
)
う
厶
(
ござ
)
いませうから、
191
確
(
しつか
)
りして
居
(
ゐ
)
て
下
(
くだ
)
さいませ』
192
ア『アヽ、
193
スダルマン
太子
(
たいし
)
は
何
(
なん
)
だつて
帰
(
かへ
)
つて
厶
(
ござ
)
らぬのだらう。
194
「
半日
(
はんにち
)
でよいから
代
(
かは
)
つて
貰
(
もら
)
ひたい」と
仰有
(
おつしや
)
つたが、
195
こんな
所
(
ところ
)
へ
右守
(
うもり
)
や
重臣
(
ぢうしん
)
がどしどしやつて
来
(
きた
)
ら
196
終
(
しま
)
ひには
化
(
ば
)
けの
皮
(
かは
)
が
現
(
あら
)
はれて
了
(
しま
)
ふがなア』
197
シ『これだけの
騒動
(
さうだう
)
、
198
如何
(
いか
)
に
呑気
(
のんき
)
の
太子
(
たいし
)
様
(
さま
)
だとて
悠々
(
いういう
)
スバール
姫
(
ひめ
)
に
現
(
うつつ
)
を
抜
(
ぬ
)
かしてお
出
(
いで
)
になる
筈
(
はず
)
はありませぬ。
199
もう
帰
(
かへ
)
つてお
出
(
いで
)
になるでせうから、
200
もう
暫
(
しばら
)
く
辛抱
(
しんばう
)
して
下
(
くだ
)
さいませ。
201
天下
(
てんか
)
分目
(
わけめ
)
の
関ケ原
(
せきがはら
)
、
202
王者
(
わうじや
)
になるか、
203
平民
(
へいみん
)
に
下
(
さが
)
るかの
分水嶺
(
ぶんすいれい
)
ですから』
204
ア『それもさうだ。
205
誰
(
たれ
)
が
来
(
く
)
るか
分
(
わか
)
らないから、
206
其方
(
そなた
)
は
早
(
はや
)
く
簾
(
みす
)
の
外
(
そと
)
へ
罷
(
まか
)
り
下
(
さが
)
つたがよからう。
207
余
(
よ
)
は
心配
(
しんぱい
)
でならないわ』
208
シ『ホヽヽヽ、
209
「
余
(
よ
)
は
心配
(
しんぱい
)
でならないわ」などと、
210
たうとう
本当
(
ほんたう
)
の
太子
(
たいし
)
に
言葉
(
ことば
)
つきだけはなつて
仕舞
(
しま
)
はれましたなア。
211
左様
(
さやう
)
なれば
邪魔者
(
じやまもの
)
は
罷
(
まか
)
り
下
(
さが
)
るで
厶
(
ござ
)
いませう』
212
と、
213
つんと
立
(
た
)
ち、
214
ぷりんとして
畳
(
たたみ
)
をぽんぽんと
二
(
ふた
)
つ
三
(
み
)
つ
蹴
(
け
)
つて
一間
(
ひとま
)
の
内
(
うち
)
に
姿
(
すがた
)
をかくした。
215
それと
入
(
い
)
れ
違
(
ちが
)
ひに
慌
(
あわ
)
ただしくやつて
来
(
き
)
たのは
右守
(
うもり
)
であつた。
216
右守
(
うもり
)
は
型
(
かた
)
の
如
(
ごと
)
く
二拍手
(
にはくしゆ
)
し、
217
頭
(
かしら
)
を
床
(
ゆか
)
に
下
(
さ
)
げ
乍
(
なが
)
ら、
218
『
恐
(
おそ
)
れ
乍
(
なが
)
ら
右守
(
うもり
)
の
司
(
かみ
)
、
219
太子
(
たいし
)
殿下
(
でんか
)
に
申
(
まをし
)
上
(
あ
)
げます。
220
昨夜
(
さくや
)
以来
(
いらい
)
221
城下
(
じやうか
)
大混乱
(
だいこんらん
)
の
状況
(
じやうきやう
)
は
222
左守
(
さもり
)
の
司
(
かみ
)
より
上申
(
じやうしん
)
致
(
いた
)
したで
厶
(
ござ
)
いませうから、
223
私
(
わたくし
)
は
重
(
かさ
)
ねて
申
(
まをし
)
上
(
あげ
)
ませぬ。
224
殿下
(
でんか
)
におかせられても
御
(
ご
)
壮健
(
さうけん
)
の
御
(
おん
)
顔
(
かほ
)
を
拝
(
はい
)
し
225
右守
(
うもり
)
身
(
み
)
に
取
(
と
)
つて
恐悦
(
きようえつ
)
至極
(
しごく
)
に
存
(
ぞん
)
じ
奉
(
たてまつ
)
ります。
226
就
(
つ
)
きましては
大王
(
だいわう
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
容態
(
ようたい
)
俄
(
にはか
)
に
新
(
あらた
)
まり、
227
幽
(
かすか
)
の
息
(
いき
)
の
下
(
した
)
より「
殿下
(
でんか
)
を
呼
(
よ
)
べ」と
仰
(
おほ
)
せられます。
228
どうか
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
大王
(
だいわう
)
のお
居間
(
ゐま
)
迄
(
まで
)
御
(
ご
)
賁臨
(
ふんりん
)
を
願
(
ねが
)
ひ
奉
(
たてまつ
)
ります』
229
アリナは
一
(
ひと
)
つ
脱
(
のが
)
れて
又
(
また
)
一
(
ひと
)
つ、
230
『アヽ
偽太子
(
にせたいし
)
もつらいものだ。
231
大王
(
だいわう
)
殿下
(
でんか
)
の
傍
(
そば
)
には
沢山
(
たくさん
)
の
看病人
(
かんびやうにん
)
も
居
(
を
)
るだらう、
232
重臣
(
ぢうしん
)
共
(
ども
)
も
居
(
を
)
るだらう。
233
そんな
所
(
ところ
)
へ
往
(
ゆ
)
かうものなら
忽
(
たちま
)
ち
秘密
(
ひみつ
)
が
露見
(
ろけん
)
して、
234
フン
縛
(
じば
)
られて
了
(
しま
)
ふかも
知
(
し
)
れない』
235
と
心
(
こころ
)
に
非常
(
ひじやう
)
な
驚
(
おどろ
)
きを
感
(
かん
)
じたが、
236
横着者
(
わうちやくもの
)
の
事
(
こと
)
とてわざと
素知
(
そし
)
らぬ
顔
(
かほ
)
をして、
237
『
何
(
なん
)
と
申
(
まを
)
す、
238
父王
(
ちちわう
)
殿下
(
でんか
)
が
御
(
ご
)
危篤
(
きとく
)
と
云
(
い
)
ふのか。
239
それでは
早速
(
さつそく
)
参上
(
さんじやう
)
致
(
いた
)
さねばなるまい、
240
余
(
よ
)
は
是
(
これ
)
より
衣服
(
いふく
)
を
着替
(
きか
)
へ
241
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
拝礼
(
はいれい
)
致
(
いた
)
し
父王
(
ちちわう
)
殿下
(
でんか
)
の
平癒
(
へいゆ
)
を
祈
(
いの
)
り
242
直
(
ただ
)
ちに
参上
(
さんじやう
)
いたすによつて
其
(
その
)
由
(
よし
)
を
父王
(
ちちわう
)
に
伝
(
つた
)
へて
呉
(
く
)
れ』
243
右守
(
うもり
)
『
殿下
(
でんか
)
のお
言葉
(
ことば
)
で
厶
(
ござ
)
いますが、
244
錦衣
(
きんい
)
のお
着替
(
きか
)
へも
結構
(
けつこう
)
、
245
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
へのお
祈
(
いの
)
りも
結構
(
けつこう
)
で
厶
(
ござ
)
いますが、
246
最早
(
もはや
)
御
(
ご
)
臨終
(
りんじう
)
で
厶
(
ござ
)
いますから、
247
直
(
ただ
)
ちにお
越
(
こ
)
し
下
(
くだ
)
さいませ。
248
私
(
わたくし
)
がお
供
(
とも
)
を
致
(
いた
)
します。
249
早
(
はや
)
く
親子
(
おやこ
)
の
御
(
ご
)
対面
(
たいめん
)
を
遊
(
あそ
)
ばしませ。
250
後
(
あと
)
で
如何
(
いか
)
程
(
ほど
)
お
悔
(
く
)
やみ
遊
(
あそ
)
ばしても
返
(
かへ
)
らぬ
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
いますから』
251
アリナ『
余
(
よ
)
は
直
(
ただち
)
に
参
(
まゐ
)
る。
252
サ
早
(
はや
)
く
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
余
(
よ
)
に
構
(
かま
)
はず
父
(
ちち
)
のお
側
(
そば
)
に
行
(
い
)
つて
呉
(
く
)
れ。
253
余
(
よ
)
はどうしても
神
(
かみ
)
に
祈
(
いの
)
らねば
気
(
き
)
が
済
(
す
)
まぬ。
254
早
(
はや
)
くこの
場
(
ば
)
を
立
(
た
)
ちのき
父王
(
ちちわう
)
の
傍
(
そば
)
に
行
(
ゆ
)
かぬか』
255
と
声
(
こゑ
)
に
力
(
ちから
)
を
籠
(
こ
)
めて
呶鳴
(
どな
)
りつけたり。
256
右守
(
うもり
)
は
鶴
(
つる
)
の
一声
(
ひとこゑ
)
に
止
(
や
)
むなく
立
(
た
)
つて
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
257
後
(
あと
)
にアリナは、
258
『アヽ
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
たものだ。
259
やつぱり
左守
(
さもり
)
の
悴
(
せがれ
)
のアリナで
居
(
ゐ
)
る
方
(
はう
)
がよい。
260
アヽどうしてこの
難関
(
なんくわん
)
を
切
(
き
)
り
抜
(
ぬ
)
けようか』
261
と
項垂
(
うなだ
)
れて
居
(
ゐ
)
る。
262
そこへ
女中頭
(
ぢよちうがしら
)
のシノブが
走
(
はし
)
り
来
(
きた
)
り、
263
『もし、
264
アリナ
様
(
さま
)
、
265
殿下
(
でんか
)
が
帰
(
かへ
)
られました。
266
サアサア
早
(
はや
)
く
衣裳
(
いしやう
)
をお
着替
(
きか
)
へなさいませ』
267
『
何
(
なに
)
268
殿下
(
でんか
)
がお
帰
(
かへ
)
りか、
269
それや
結構
(
けつこう
)
だ。
270
や、
271
助
(
たす
)
け
船
(
ぶね
)
が
帰
(
かへ
)
つたやうなものだ。
272
何処
(
どこ
)
に
居
(
ゐ
)
られるか』
273
シノブ『
労働服
(
らうどうふく
)
を
着
(
き
)
た
儘
(
まま
)
裏口
(
うらぐち
)
に
立
(
た
)
つて
居
(
を
)
られます』
274
アリナは
急
(
いそ
)
いで
裏口
(
うらぐち
)
に
走
(
はし
)
り
出
(
い
)
で、
275
『ヤ
殿下
(
でんか
)
、
276
よう
帰
(
かへ
)
つて
下
(
くだ
)
さいました。
277
今
(
いま
)
や
私
(
わたくし
)
の
化
(
ばけ
)
の
皮
(
かは
)
の
現
(
あら
)
はれむとする
所
(
ところ
)
、
278
父王
(
ちちわう
)
殿下
(
でんか
)
には
今
(
いま
)
や
御
(
ご
)
臨終
(
りんじう
)
で
厶
(
ござ
)
います。
279
サア
早
(
はや
)
くお
会
(
あ
)
ひ
下
(
くだ
)
さいませ。
280
さうして
私
(
わたし
)
は
錦衣
(
きんい
)
を
脱
(
ぬ
)
ぎ
捨
(
す
)
て
元
(
もと
)
のアリナに
帰
(
かへ
)
つて
了
(
しま
)
ひます。
281
今
(
いま
)
が
危機
(
きき
)
一髪
(
いつぱつ
)
の
正念場
(
しやうねんば
)
、
282
サ
早
(
はや
)
く
錦衣
(
きんい
)
にお
着替
(
きか
)
へ
下
(
くだ
)
さいませ。
283
何時
(
いつ
)
重臣
(
ぢうしん
)
共
(
ども
)
が
来
(
く
)
るかも
分
(
わか
)
りませぬ』
284
太子
(
たいし
)
は
父
(
ちち
)
の
臨終
(
りんじう
)
と
聞
(
き
)
き
着物
(
きもの
)
を
着替
(
きか
)
へる
事
(
こと
)
を
忘
(
わす
)
れ、
285
又
(
また
)
アリナも
狼狽
(
らうばい
)
の
余
(
あま
)
り、
286
太子
(
たいし
)
に
錦衣
(
きんい
)
を
着
(
き
)
せる
事
(
こと
)
を
忘
(
わす
)
れて
了
(
しま
)
つた。
287
太子
(
たいし
)
はそのまま
駆
(
か
)
けつけ
火鉢
(
ひばち
)
の
前
(
まへ
)
に
坐
(
すわ
)
つて
見
(
み
)
た。
288
太
(
たい
)
『ヤ、
289
これや
大変
(
たいへん
)
だ。
290
労働服
(
らうどうふく
)
の
儘
(
まま
)
だ。
291
何
(
なん
)
とかして
早
(
はや
)
く
錦衣
(
きんい
)
と
着
(
き
)
かへねばなるまい。
292
オイ、
293
アリナその
錦衣
(
きんい
)
を
早
(
はや
)
く
持
(
も
)
つて
来
(
こ
)
い』
294
と
呼
(
よ
)
べど
叫
(
さけ
)
べど
295
アリナは
狼狽
(
らうばい
)
の
余
(
あま
)
り
錦衣
(
きんい
)
を
女中
(
ぢよちう
)
部屋
(
べや
)
に
投
(
な
)
げ
捨
(
す
)
て、
296
トランクの
中
(
なか
)
より
有合
(
ありあは
)
せの
寝衣
(
ねまき
)
を
取
(
と
)
り
出
(
だ
)
して
着替
(
きか
)
へ、
297
便所
(
べんじよ
)
の
中
(
なか
)
に
潜
(
ひそ
)
んで
慄
(
ふる
)
つて
居
(
ゐ
)
た。
298
一方
(
いつぱう
)
太子
(
たいし
)
は
如何
(
いかが
)
はせむと
焦慮
(
せうりよ
)
して
居
(
ゐ
)
る。
299
其所
(
そこ
)
へ
慌
(
あわ
)
ただしく
右守
(
うもり
)
の
司
(
かみ
)
がやつて
来
(
き
)
て、
300
簾
(
みす
)
の
外
(
そと
)
より
泣声
(
なきごゑ
)
を
絞
(
しぼ
)
り
乍
(
なが
)
ら、
301
『
殿下
(
でんか
)
302
早
(
はや
)
くお
出
(
いで
)
下
(
くだ
)
さいませ。
303
御
(
ご
)
臨終
(
りんじう
)
で
厶
(
ござ
)
います』
304
この
声
(
こゑ
)
に
太子
(
たいし
)
は
父
(
ちち
)
の
臨終
(
りんじう
)
と
聞
(
き
)
いて
何
(
なに
)
も
彼
(
か
)
も
打
(
う
)
ち
忘
(
わす
)
れ、
305
汚
(
きたな
)
い
労働服
(
らうどうふく
)
の
儘
(
まま
)
、
306
右守
(
うもり
)
の
後
(
あと
)
に
跟
(
つ
)
いて
大王
(
だいわう
)
の
病床
(
びやうしやう
)
に
駆
(
か
)
けつけたり。
307
右守
(
うもり
)
は
近眼
(
きんがん
)
の
事
(
こと
)
なり
308
余
(
あま
)
り
慌
(
あわ
)
てて
居
(
ゐ
)
るので、
3081
太子
(
たいし
)
の
労働服
(
らうどうふく
)
が
目
(
め
)
につかざりけり。
309
(
大正一四・一・六
新一・二九
於月光閣
加藤明子
録)
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