霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第三章 グロスの島(しま)〔一九五九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第78巻 天祥地瑞 巳の巻 篇:第1篇 波濤の神光 よみ(新仮名遣い):はとうのしんこう
章:第3章 グロスの島 よみ(新仮名遣い):ぐろすのしま 通し章番号:1959
口述日:1933(昭和8)年12月20日(旧11月4日) 口述場所:大阪分院蒼雲閣 筆録者:谷前清子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1934(昭和9)年5月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
紫微天界はまだ国土が稚く、国の形も完全には定まっていなかったので、あちこちに妖邪の気が凝り固まって、種々の異様の動植物を生み、それがまた妖邪の気を四方に飛散させていた。
主の大神は、完全無欠の神の国を開設しようと、天之道立の神、太元顕津男の神の二柱に、霊界現界の神業を委任した。
天之道立の神は惟神の大道を宣布し、顕津男の神は国土を治める司神を造ろうと国土を巡った。
邪神の中には、数個の頭を持った竜や大蛇がおり、翼の生えた虎、狼、熊などが水陸両面に住んでいるものもおり、容易に正しい神の経綸を許さなかった。
そこで、主の大神は、これらの妖魔を根底的に言向け和し征服全滅しようと、英雄的な資質を持った神々を、紫微天界の四方に派遣していた。
御樋代神はすべて女神であったが、みな優美な姿とはうらはらに、勇猛剛直で神代の英雄神のみが選ばれていたので、その行動が雄々しいことは何も不思議なことでないのである。
朝香比女の神の乗った磐楠船は、日のたそがれるころ、曲津神が集まるというグロスの島に近づいた。曲神の島は、突然黒煙を四方に吹き散らし、海面を闇に包んで船さえも見えないほどになってしまった。
このグロスの島には、ゴロス、グロノスという二大曲津神があり、数多の醜神を使役して、隙あらば他の島を侵そうとかまえていた。
御樋代神の船が島に近づいてきたので、ゴロス、グロノスはあらゆる曲神を呼び集め、必死に船が近づくのを妨害しようと猛り狂っていた。
朝香比女の神は、いかに曲神が抵抗しようとも、真火と言霊により、征服しよう、と歌った。そして、闇が近づく黄昏時を避けて、明日の朝を待った。
すると、グロスの島から沸き立つ黒雲は次第次第に雲の峰が湧くように膨れ広がり、あたりの海面を真の闇と包んでしまった。そして、青白い火団が、船の周囲を蛍合戦のように飛び狂い、凄惨の気が漂ってきた。
朝香比女は少しも驚かず、平然として曲神の業を眺めながら、歌を歌った。最後に天晴比女の神が天の数歌を歌い、大空の月をあらわして曲神を照らし現そう、と歌うと、黒雲は風に吹き散らされ、天空に明るく清い月影が浮かび照らした。
グロノス、ゴロスは夜が明けるまでに船を滅ぼそうと死力を尽くし、長大な竜蛇の姿を現し、剣のような角をかざしながら、船に向かって火焔を吐いた。
朝香比女の神は平然として微笑みながら、暁まではこの船に休み安らう、と歌った。
各神々は、グロスの島に向かって明日の征途を楽しみながら歌を歌い、眠らずに船の上に安座して、さまざまなことを面白おかしく語り合い、夜明けを待っていた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ:天の数歌 データ凡例: データ最終更新日:2025-03-02 12:33:06 文字数:3570 OBC :rm7803
愛善世界社版: 八幡書店版:第14輯 41頁 修補版: 校定版:48頁 普及版: 初版: ページ備考:
001 紫微(しび)天界(てんかい)は未(いま)だ国土(くに)稚(わか)く、002国形(くにがた)も完全(くわんぜん)には端々(はしばし)に到(いた)りては定(さだ)まらざりければ、003あちこちの稚国原(わかくにはら)には妖邪(えうじや)の気(き)凝(こ)り固(かた)まりて種々(しゆじゆ)の動植物(どうしよくぶつ)を生(う)み、004特(とく)に異様(いやう)の動物(どうぶつ)数多(あまた)棲息(せいそく)して妖邪(えうじや)の気(き)を四方(よも)に飛散(ひさん)せしめ、005森羅(しんら)万象(ばんしやう)の発育(はついく)を妨(さまた)ぐるも是非(ぜひ)なき次第(しだい)なりける。
006 ここに主(ス)の大神(おほかみ)は完全(くわんぜん)無欠(むけつ)の神(かみ)の国(くに)を開設(かいせつ)し給(たま)はむとして、007天之(あめの)道立(みちたつ)の神(かみ)、008太元(おほもと)顕津男(あきつを)の神(かみ)の二柱(ふたはしら)に霊界(れいかい)現界(げんかい)の神業(みわざ)を委任(ゐにん)し給(たま)ひければ、009天之(あめの)道立(みちたつ)の神(かみ)は惟神(かむながら)の大道(だいだう)を宣布(せんぷ)し、010日夜(にちや)倦(う)ませ給(たま)はず、011顕津男(あきつを)の神(かみ)は国土(くに)を治(をさ)むべき司神(つかさがみ)を造(つく)らむとして、012国土(くに)のあちこちを経廻(へめぐ)り給(たま)ひ、013主(ス)の神(かみ)の生(う)ませ配(くば)り置(お)き給(たま)ひし御樋代(みひしろ)神(がみ)と見合(みあ)ひまして、014国魂神(くにたまがみ)生(う)みの神業(みわざ)にいそしみ給(たま)ふ神定(かむさだ)めとはなりける。
015 邪神(じやしん)の中(なか)には数箇(すうこ)の頭(かしら)をもてる竜(りう)あり、016大蛇(をろち)あり、017又(また)翼(つばさ)の生(は)えし虎(とら)あり、018狼(おほかみ)、019熊(くま)等(など)ありて島(しま)の中(なか)に棲息(せいそく)し、020水陸(すゐりく)両方面(りやうはうめん)を兼(か)ねて棲(す)まへるなどありて、021容易(ようい)に正(ただ)しき神(かみ)の日々(にちにち)の経綸(けいりん)を許(ゆる)さざりける。022故(ゆゑ)に主(ス)の大神(おほかみ)はこの妖魔(えうま)を根底(こんてい)的(てき)に言向(ことむ)けやはし、023征服(せいふく)し、024全滅(ぜんめつ)せしめむとして英雄(えいゆう)的(てき)素質(そしつ)を持(も)たせる神々(かみがみ)を紫微(しび)天界(てんかい)の四方(しはう)に派遣(はけん)し給(たま)へるなりける。
025 御樋代(みひしろ)の神(かみ)は総(すべ)て女神(めがみ)にましませども、026いづれも優美(いうび)なる容姿(ようし)に似(に)ず、027勇猛(ゆうまう)剛直(がうちよく)にして神代(じんだい)の英雄神(えいゆうしん)のみを選(えら)まし給(たま)ひければ、028その御(ご)行動(かうどう)の雄々(をを)しくましますことは自然(しぜん)の道理(だうり)におはしましけるぞ畏(かしこ)けれ。
029万里(まで)の島根(しまね)を永久(とこしへ)に
030基礎(きそ)を固(かた)むる御樋代(みひしろ)の
031八柱神(やはしらがみ)と生(あ)れませる
032朝香(あさか)比女神(ひめがみ)は雄々(をを)しくも
033長(なが)の旅路(たびぢ)に立(た)ち給(たま)ひ
034百(もも)の艱(なや)みをしのびつつ
035あなたこなたの国形(くにがた)を
036𪫧怜(うまら)に委曲(つばら)に固(かた)めつつ
037狭野(さぬ)の島ケ根(しまがね)生(う)み終(を)へて
038天中(あめなか)比古(ひこ)を司(つかさ)とし
039いよいよ進(すす)んで万里(まで)の島(しま)
040この稚国土(わかぐに)を固(かた)めむと
041御樋代(みひしろ)神(がみ)に迎(むか)へられ
042万里(まで)ケ丘(をか)なる聖所(すがどこ)に
043生言霊(いくことたま)をとり交(かは)し
044国土(くに)の宝(たから)と燧石(ひうちいし)
045田族(たから)の比女(ひめ)に贈(おく)らせつ
046七日(なぬか)七夜(ななよ)の逗留(とうりう)を
047漸(やうや)く終(を)へて御来矢(みくりや)の
048浜(はま)より舟(ふね)に乗(の)らせつつ
049永久(とは)の別(わか)れを惜(を)しみまし
050万里(まで)の海原(うなばら)静々(しづしづ)と
051波路(なみぢ)を分(わ)けて進(すす)みます
052ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
053神(かみ)の言霊(ことたま)幸(さち)はひて
054朝香(あさか)の比女(ひめ)の恙(つつが)なく
055瑞(みづ)の御霊(みたま)の現(あ)れませる
056雲霧(くもきり)深(ふか)き西方(にしかた)の
057国土(くに)に出(い)でます物語(ものがたり)
058𪫧怜(うまら)に委曲(つばら)に落(お)ちもなく
059述(の)べさせ給(たま)へと瑞月(ずゐげつ)が
060蒼雲閣(さううんかく)に端坐(たんざ)して
061生言霊(いくことたま)の幸(さち)はひを
062大本皇(おほもとすめら)大神(おほかみ)の
063御前(みまへ)に畏(かしこ)み願(ね)ぎ奉(まつ)る
064うすき冬陽(ふゆび)の輝(かがや)ける
065蒼雲閣(さううんかく)の清庭(すがには)に
066吾(われ)立(た)ち居(を)れば大空(おほぞら)を
067轟(とどろ)かせつつ三台(さんだい)の
068飛行機(ひかうき)来(きた)りて舞(ま)ひ狂(くる)ひ
069非常時(ひじやうじ)日本(につぽん)の光景(くわうけい)を
070しみじみ吾(われ)に思(おも)はせり
071ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
072わが述(の)べてゆく物語(ものがたり)
073生言霊(いくことたま)の幸(さち)はひて
074非常時(ひじやうじ)日本(につぽん)を救(すく)ふべき
075よすがとなれば道(みち)の為(ため)
076御国(みくに)の為(ため)の幸(さち)はひと
077謹(つつし)み敬(ゐやま)ひ述(の)べてゆく
078吾(わが)言霊(ことたま)に幸(さち)あれよ
079吾(わが)言霊(ことたま)に生命(いのち)あれ。
080 朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)の乗(の)らせ給(たま)へる磐楠舟(いはくすぶね)は、081大小(たいせう)の島々(しまじま)を右(みぎ)に左(ひだり)に縫(ぬ)ひながら日(ひ)の黄昏(たそが)るる頃(ころ)、082曲神(まがかみ)の集(あつ)まると聞(きこ)えたるグロスの島(しま)に近(ちか)より給(たま)へば、083名(な)にし負(お)ふ曲神(まがかみ)の島(しま)は俄(にはか)に黒烟(こくえん)を四方(よも)に吐(は)き散(ち)らし、084海面(うみのも)を闇(やみ)に包(つつ)みて御舟(みふね)さへ見(み)えずなりにける。
085 このグロスの島(しま)には、086ゴロスと言(い)ふ猛悪(まうあく)なる大蛇(をろち)の神(かみ)棲息(せいそく)して、087数多(あまた)の醜神(しこがみ)を使役(しえき)し、088隙(すき)あらば総(すべ)ての島々(しまじま)を侵(をか)さむとしつつ待(ま)ちかまへ居(ゐ)たるに、089今(いま)ぞ御樋代(みひしろ)神(がみ)の御舟(みふね)、090この島(しま)に近(ちか)づきければ、091グロスの島(しま)の曲津(まがつ)神(かみ)グロノス、092ゴロスの二巨頭(にきよとう)は、093あらゆる曲神(まがかみ)を呼(よ)び集(あつ)め、094必死(ひつし)となりて御舟(みふね)の近(ちか)づくを妨害(ばうがい)せむと伊猛(いたけ)り狂(くる)ひける。
095 朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)は御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
096『二百浬(にひやくカイリ)吾(われ)渡(わた)り来(き)て黄昏(たそが)れつ
097グロスの島(しま)に近(ちか)づきしはや
098此(この)島(しま)にグロノス、ゴロスの曲津(まがつ)神(かみ)
099潜(ひそ)むと聞(き)きて舟(ふね)よせにける
100曲津見(まがつみ)はここを先途(せんど)と黒烟(こくえん)を
101吐(は)き散(ち)らしつつ四方(よも)を包(つつ)めり
102言霊(ことたま)の水火(いき)の光(ひか)りと鋭敏鳴出(うなりづ)の
103神(かみ)のたまひし燧石(ひうち)にかためむ
104曲神(まがかみ)の勢(いきほひ)如何(いか)に猛(たけ)くとも
105火(ひ)をもて焼(や)かば容易(ようい)に滅(ほろ)びむ
106曲神(まがかみ)は如何(いか)に勢(いきほひ)強(つよ)くとも
107真言(まこと)の力(ちから)なきものぞかし
108黄昏(たそがれ)の闇(やみ)に戦(たたか)ふ不便(ふべん)さに
109波(なみ)にうかびて朝(あした)を待(ま)たばや』
110 初頭(うぶがみ)比古(ひこ)の神(かみ)は御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
111『比女神(ひめがみ)の神言(みこと)畏(かしこ)し曲神(まがかみ)は
112朝日(あさひ)を待(ま)ちて滅(ほろぼ)すぞよき
113天界(かみくに)にさやる曲津(まがつ)の種(たね)をたやし
114安(やす)き神国(みくに)と定(さだ)め奉(まつ)らむ
115黄昏(たそがれ)の闇(やみ)は海原(うなばら)悉(ことごと)く
116包(つつ)めど吾(われ)には火(ひ)をもてりけり
117御(おん)舟(ふね)に真火(まひ)を照(て)らして明方(あけがた)を
118静(しづか)に待(ま)たむ魔(ま)の島(しま)近(ちか)く
119面白(おもしろ)き海路(うなぢ)の旅(たび)よ曲神(まがかみ)の
120百(もも)のいたづら見(み)つつ進(すす)むも』
121 起立(おきたつ)比古(ひこ)の神(かみ)は御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
122『狭野(さぬ)の島(しま)の魔神(まがみ)もここに集(あつ)まりて
123行手(ゆくて)にさやると伊猛(いたけ)るならむ
124黒雲(くろくも)の幕(まく)に包(つつ)めど吾(わが)舟(ふね)は
125真火(まひ)の光(ひか)りに安(やす)かりにけり
126明(あ)け方(がた)を待(ま)ちていよいよ魔(ま)の島(しま)を
127焼(や)き滅(ほろぼ)すと思(おも)へば楽(たの)しき
128曲神(まがかみ)よ吾(わが)上陸(じやうりく)に先(さ)き立(だ)ちて
129服従(まつろ)ひ来(きた)れしからば許(ゆる)さむ
130比女神(ひめがみ)に汝(なれ)等(ら)が生命(いのち)乞(こ)ひうけて
131真言(まこと)の道(みち)に救(すく)ひ助(たす)けむ
132一夜(ひとよさ)の生命(いのち)と思(も)へば曲神(まがかみ)の
133身(み)こそあはれになりにけるかな』
134 グロスの島(しま)より湧(わ)き立(た)つ黒雲(くろくも)は、135次第(しだい)々々(しだい)に雲(くも)の峰(みね)の湧(わ)く如(ごと)くふくれ上(あが)り、136拡(ひろ)ごり、137四辺(あたり)の海面(うみのも)を真(しん)の闇(やみ)と包(つつ)み、138青白(あをじろ)き火団(くわだん)は御舟(みふね)の周囲(しうゐ)を螢合戦(ほたるがつせん)の如(ごと)く飛(と)び交(か)ひ狂(くる)ひめぐり、139凄惨(せいさん)の気(き)闇(やみ)と共(とも)に漂(ただよ)ひにける。
140 朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)は少(すこ)しも驚(おどろ)き給(たま)はず、141平然(へいぜん)として曲神(まがかみ)の種々(くさぐさ)の業(わざ)を御覧(みそなは)しながら、142御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
143『面白(おもしろ)き曲神(まがみ)なるかも闇(やみ)の海(うみ)に
144青白(あをじろ)き火(ひ)となりて飛(と)べるも
145曲神(まがかみ)の火(ひ)は青白(あをじろ)く光(ひか)りなし
146鬼火(おにび)か陰火(いんくわ)か熱(あつ)からぬかな
147火(ひ)の玉(たま)と見(み)れども光(ひか)らず熱(あつ)からず
148海月(くらげ)の如(ごと)くただよへるかも
149明日(あす)さらばグロノス、ゴロスを言向(ことむ)けて
150この魔(ま)の島(しま)を清(きよ)めむと思(おも)ふ
151八潮路(やしほぢ)の長(なが)き旅路(たびぢ)に疲(つか)れはてて
152曲津(まが)のすさびを見(み)るは楽(たの)しき
153百千万(ひやくせんまん)の火団(くわだん)となりて猛(たけ)り狂(くる)ふ
154状(さま)面白(おもしろ)く舟(ふね)の上(へ)に見(み)つ
155吾(わ)が舟(ふね)は波(なみ)に浮(うか)べど動(うご)かざり
156生言霊(いくことたま)の錨(いかり)につなげば』
157 立世(たつよ)比女(ひめ)の神(かみ)は御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
158『炎々(えんえん)と御空(みそら)の月(つき)をかくしつつ
159魔(ま)の島ケ根(しまがね)ゆ黒雲(くろくも)立(た)ちたつ
160曲神(まがかみ)は黒雲(くろくも)起(おこ)しおく深(ふか)く
161しのびつ怖(お)ぢつ狂(くる)ふなるらむ
162曲神(まがかみ)の数多(あまた)集(つど)へるグロスの島(しま)を
163今日(けふ)珍(めづら)しく黄昏(たそが)れて見(み)つ
164黄昏(たそがれ)の海(うみ)にうつらぬ火(ひ)の玉(たま)は
165正(まさ)しく陰火(いんくわ)のしるしなりけり
166真火(まひ)なれば波(なみ)の底(そこ)まで輝(かがや)かむを
167青白(あをじろ)きのみ光(ひか)りだになし
168言霊(ことたま)の生(い)ける光(ひかり)に照(て)らされて
169グロノス、ゴロスも滅(ほろ)び失(う)すべし
170御樋代(みひしろ)の神(かみ)の出(い)でましに魔(ま)の島(しま)は
171清(きよ)きすがしき国土(くに)と生(うま)れむ』
172 天晴(あめはれ)比女(ひめ)の神(かみ)は御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
173『吾(われ)こそは御供(みとも)に仕(つか)ふる天晴(あめはれ)の
174比女神(ひめがみ)なるよ御空(みそら)晴(は)らさむ
175一(ひと)二(ふた)三(み)四(よ)五(いつ)六(むゆ)七(なな)八(や)九(ここの)十(たり)
176百千万(ももちよろづ)の神(かみ)集(つど)ひませ
177大空(おほぞら)の月(つき)を照(て)らして魔(ま)の島(しま)の
178曲津見(まがつみ)の頭(かしら)を現(あら)はさむかも』
179 斯(か)く歌(うた)ひ給(たま)ふや、180魔(ま)の島(しま)の上空(じやうくう)を包(つつ)みし黒雲(くろくも)は次第(しだい)々々(しだい)に科戸(しなど)の風(かぜ)に吹(ふ)き散(ち)らされて、181天空(てんくう)明(あか)く清(きよ)く円満(ゑんまん)清朗(せいらう)の月影(つきかげ)は浮(うか)ばせ給(たま)ひ、182波(なみ)の底(そこ)深(ふか)く輝(かがや)き給(たま)ひける。
183 ここにグロノス、184ゴロスの曲津(まがつ)神(かみ)は夜(よ)の明(あ)くるまでに御舟(みふね)の神(かみ)等(たち)を滅(ほろぼ)しくれむと死力(しりよく)を尽(つく)し一百有余(いつぴやくいうよ)旬(じゆん)の竜蛇(りうだ)の姿(すがた)を現(あらは)し、185数頭(すうとう)の頭(かしら)には各自(おのもおのも)太刀(たち)の如(ごと)き角(つの)をかざしながら、186頻(しき)りに御舟(みふね)に向(むか)つて火焔(くわえん)を吹(ふ)く光景(くわうけい)はもの凄(すご)きまでに見(み)えにける。
187 朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)は平然(へいぜん)として微笑(ほほゑ)みながら御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
188『勇(いさ)ましやグロノス、ゴロスの雄猛(をたけ)びは
189吾(わが)行(ゆ)く旅(たび)をなぐさめにける
190火(ひ)を吐(は)けど角(つの)はふれども眼(め)は光(て)れど
191吾(われ)には何(なん)の艱(なや)み覚(おぼ)えず
192力(ちから)限(かぎ)り雄猛(をたけ)び狂(くる)ふ曲神(まがかみ)の
193心(こころ)思(おも)へばあはれなるかも
194兎(と)も角(かく)も暁(あかつき)まではこの舟(ふね)に
195吾(われ)休(やす)らはむ心(こころ)安(やす)けく』
196 初頭(うぶがみ)比古(ひこ)の神(かみ)は御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
197『一夜(ひとよさ)の生命(いのち)と思(おも)へば曲神(まがかみ)も
198最後(いまは)の荒(すさ)びあはれなるかな
199常闇(とこやみ)をうすら照(て)らして曲神(まがかみ)は
200あまたの口(くち)より焔(ほのほ)を吐(は)くも
201光(ひかり)にぶき松明(たいまつ)と思(も)へば面白(おもしろ)し
202月(つき)は御空(みそら)に輝(かがや)き給(たま)へど
203月読(つきよみ)の光(ひか)りますますさやかにて
204魔(ま)の島ケ根(しまがね)の雲(くも)はあせたり
205ところどころ魔神(まがみ)の吐(は)き出(だ)す黒雲(くろくも)は
206次第(しだい)々々(しだい)にうすらぎしはや
207斯(か)くの如(ごと)浅(あさ)き奸計(たくみ)の曲神(まがかみ)の
208雄猛(をたけ)び見(み)れば雄心(をごころ)わくも
209明日(あす)さればこの島ケ根(しまがね)を悉(ことごと)く
210焼(や)き清(きよ)むべし曲神(まがみ)退(しりぞ)け』
211 起立(おきたつ)比古(ひこ)の神(かみ)は御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
212『海中(わだなか)に永久(とは)に浮(うか)べる魔(ま)の島(しま)の
213雲(くも)は晴(は)れけり月(つき)の光(ひか)りに
214月(つき)冴(さ)ゆる万里(まで)の海原(うなばら)に浮(うか)びたる
215グロスの島(しま)は全(また)く現(あ)れけり
216この島(しま)も思(おも)ひしよりは広(ひろ)くして
217あまたの曲神(まがみ)騒(さわ)ぎ廻(まは)れり
218この島(しま)も主(ス)の大神(おほかみ)の生(う)みませる
219生島(いくしま)なれば清(きよ)め奉(まつ)らむ
220日並(けなら)べて神(かみ)の神業(みわざ)に仕(つか)へつつ
221又(また)も楽(たの)しき明日(あす)を迎(むか)へつ』
222 立世(たつよ)比女(ひめ)の神(かみ)は御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
223『黒雲(くろくも)は島(しま)のあちこちに太(ふと)く高(たか)く
224立(た)てども明日(あす)は跡形(あとかた)もなけむ
225黒雲(くろくも)を時(とき)じく起(おこ)して天地(あめつち)の
226水火(いき)を濁(にご)せる曲神(まがみ)の島(しま)かも
227この島(しま)の曲神(まがみ)ことごと言向(ことむ)けて
228稚(わか)き国原(くにはら)生(う)むは楽(たの)しも
229この島(しま)に御樋代(みひしろ)神(がみ)の籠(こも)らすと
230聞(き)きしは夢(ゆめ)か黒雲(くろくも)立(た)ちたつ
231御樋代(みひしろ)の神(かみ)も悪魔(あくま)の雄猛(をたけ)びに
232暫(しば)し御姿(みかげ)をかくし給(たま)ふか』
233 天晴(あめはれ)比女(ひめ)の神(かみ)は御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
234『天(あめ)も地(つち)も生言霊(いくことたま)の御光(みひか)りに
235照(て)らして稚(わか)き国土(くに)を生(う)まばや
236天晴(あめはれ)比女(ひめ)神(かみ)の御供(みとも)に仕(つか)へつつ
237この島ケ根(しまがね)の雲(くも)を晴(は)らさむ』
238 各(かく)神々(かみがみ)はグロスの島(しま)に向(むか)つて明日(あす)の征途(きため)を楽(たの)しみながら御歌(みうた)詠(よ)ませつつ、239一目(ひとめ)も眠(ねむ)らせ給(たま)はず磐楠舟(いはくすぶね)の上(うへ)に安坐(あんざ)して、240種々(くさぐさ)のことを面白(おもしろ)可笑(をか)しく語(かた)り合(あ)ひつつ夜(よ)の明方(あけがた)を静(しづか)に待(ま)たせ給(たま)ひけるぞ畏(かしこ)けれ。
241(昭和八・一二・二〇 旧一一・四 於大阪分院蒼雲閣 谷前清子謹録)
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