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霊界物語
天祥地瑞(第73~81巻)
第78巻(巳の巻)
序文
第1篇 波濤の神光
第1章 浜辺の訣別
第2章 波上の追懐
第3章 グロスの島
第4章 焼野の行進
第5章 忍ケ丘
第6章 焼野の月
第2篇 焼野ケ原
第7章 四神出陣
第8章 鏡の沼
第9章 邪神征服
第10章 地異天変
第11章 初対面
第12章 月下の宿り
第3篇 葦原新国
第13章 春野の進行
第14章 花見の宴
第15章 聖地惜別
第16章 天降地上
第17章 天任地命
第18章 神嘉言
第19章 春野の御行
第20章 静波の音
第4篇 神戦妖敗
第21章 怪体の島
第22章 歎声仄聞
第23章 天の蒼雲河
第24章 国津神島彦
第25章 歓の島根
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霊界物語
>
天祥地瑞(第73~81巻)
>
第78巻(巳の巻)
> 第2篇 焼野ケ原 > 第8章 鏡の沼
<<< 四神出陣
(B)
(N)
邪神征服 >>>
第八章
鏡
(
かがみ
)
の
沼
(
ぬま
)
〔一九六四〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第78巻 天祥地瑞 巳の巻
篇:
第2篇 焼野ケ原
よみ(新仮名遣い):
やけのがはら
章:
第8章 鏡の沼
よみ(新仮名遣い):
かがみのぬま
通し章番号:
1964
口述日:
1933(昭和8)年12月21日(旧11月5日)
口述場所:
大阪分院蒼雲閣
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1934(昭和9)年5月5日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
一行が進んでいくと、血にまみれた老婆が行きも絶え絶えに横たわり、助けを乞うていた。
老婆は、自分は名もなき国津神で、沼の大蛇のために傷つけられたため、助けてほしい、と歌うが、初頭比古は邪神の罠と見破り、天の数歌と言霊歌を歌った。するとたちまち老婆は三角三頭の長蛇と身を表し、火焔・黒煙を吐きながら沼に逃げ込んでしまった。
起立比古の神以下三柱の神々は、この様を述懐の歌に歌った。
一行はグロス沼の汀に到着し、眺めてみればほとんど東西十里、南北二十里もある大きな沼であった。四柱の神は沼の周囲を四分し、東西南北に一柱づつ陣取っていっせいに天津祝詞を奏上し、七十五声の言霊を宣り上げた。
すると、グロノス、ゴロスの邪神は言霊の力に敵しかねて、グロノスは六角六頭、ゴロスは三角三頭の姿を現して水面をのたうちまわった。そしてついに黒雲を起こし、天高く立ち昇ると鷹巣(たかし)の山の方面さして、いかづちのような音をとどろかせながら逃げ去った。
このために沼の水の大半が雲となって空に舞い上ってしまい、再び雨となって激しく下った。邪神を容易に去らせることができたのは、朝香比女の神を陰ながら守護する、鋭敏鳴出(うなりづ)の神のウ声の力であった。
四柱の神は傘松の老木まで戻ってきて、この凄まじい戦況を歌に歌いあった。そして、忍ケ丘の朝香比女の本営にめでたく凱旋することとなった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm7808
愛善世界社版:
八幡書店版:
第14輯 64頁
修補版:
校定版:
137頁
普及版:
初版:
ページ備考:
001
初頭
(
うぶがみ
)
比古
(
ひこ
)
の
神
(
かみ
)
の
一行
(
いつかう
)
は、
002
際限
(
さいげん
)
もなき
焼野
(
やけの
)
ケ
原
(
はら
)
の
中央
(
まんなか
)
に、
003
天津
(
あまつ
)
日
(
ひ
)
に
輝
(
かがや
)
くグロスの
沼
(
ぬま
)
を
目
(
め
)
あてに
駒
(
こま
)
を
速
(
はや
)
めて
進
(
すす
)
ませ
給
(
たま
)
ひける。
004
折
(
をり
)
しもあれ、
005
血
(
ち
)
にまみれたる
老媼
(
をぐな
)
の
一人
(
ひとり
)
路傍
(
ろばう
)
に
横
(
よこた
)
はり、
006
息
(
いき
)
も
絶
(
た
)
え
絶
(
だ
)
えに
四柱神
(
よはしらがみ
)
に
向
(
むか
)
つて
両手
(
りやうて
)
を
合
(
あは
)
せ、
007
救
(
すく
)
ひを
乞
(
こ
)
ふ
事
(
こと
)
頻
(
しきり
)
なりければ、
008
初頭
(
うぶがみ
)
比古
(
ひこ
)
の
神
(
かみ
)
は
駒
(
こま
)
を
止
(
とど
)
め、
009
馬上
(
ばじやう
)
より
老媼
(
をぐな
)
に
向
(
むか
)
ひ、
010
声
(
こゑ
)
も
涼
(
すず
)
しく
宣
(
の
)
らせ
給
(
たま
)
ふ。
011
『
曲津見
(
まがつみ
)
の
征途
(
きため
)
に
進
(
すす
)
む
道
(
みち
)
の
辺
(
べ
)
に
012
何
(
なに
)
を
悩
(
なや
)
むかこれの
老媼
(
をぐな
)
は
013
よく
見
(
み
)
れば
汝
(
なれ
)
が
面
(
おもて
)
は
無惨
(
いぢら
)
しく
014
血
(
ち
)
のただれあり
理由
(
ことわけ
)
聞
(
き
)
かむ
015
言霊
(
ことたま
)
の
水火
(
いき
)
の
力
(
ちから
)
に
汝
(
な
)
が
悩
(
なや
)
み
016
ただに
救
(
すく
)
はむ
名
(
な
)
をなのれかし』
017
老媼
(
をぐな
)
は
息
(
いき
)
も
絶
(
た
)
え
絶
(
だ
)
えに
歌
(
うた
)
もて
答
(
こた
)
ふ。
018
『
吾
(
われ
)
こそは
荒野
(
あらの
)
の
奥
(
おく
)
に
潜
(
ひそ
)
み
住
(
す
)
む
019
名
(
な
)
もなき
小
(
ち
)
さき
国津
(
くにつ
)
神
(
かみ
)
ぞや
020
グロス
沼
(
ぬま
)
に
棲
(
す
)
まへる
大蛇
(
をろち
)
はかくのごと
021
吾
(
われ
)
を
傷
(
きず
)
つけ
逃
(
に
)
げ
去
(
さ
)
りにけり
022
この
病
(
やまひ
)
癒
(
いや
)
させたまへ
天津
(
あまつ
)
神
(
かみ
)
023
大蛇
(
をろち
)
の
言向
(
ことむ
)
け
取
(
と
)
り
止
(
や
)
めたまひて
024
天津
(
あまつ
)
神
(
かみ
)
進
(
すす
)
ませたまふも
詮
(
せん
)
なけれ
025
曲神
(
まがみ
)
の
去
(
さ
)
りしあとの
沼辺
(
ぬまべ
)
は
026
吾
(
われ
)
こそは
焼野
(
やけの
)
の
雉子
(
きぎす
)
と
言
(
い
)
へるもの
027
夫
(
つま
)
も
子
(
こ
)
も
皆
(
みな
)
殺
(
ころ
)
されにけり
028
沼底
(
ぬまそこ
)
にひそみし
曲津
(
まが
)
は
天津
(
あまつ
)
神
(
かみ
)
の
029
出
(
い
)
でましと
聞
(
き
)
きて
逃
(
に
)
げ
失
(
う
)
せしはや
030
この
先
(
さき
)
は
醜
(
しこ
)
の
曲神
(
まがみ
)
の
罠
(
わな
)
多
(
おほ
)
し
031
進
(
すす
)
ませたまふな
危
(
あやふ
)
かりせば』
032
初頭
(
うぶがみ
)
比古
(
ひこ
)
の
神
(
かみ
)
は
儼然
(
げんぜん
)
として
御歌
(
みうた
)
宣
(
の
)
らせ
給
(
たま
)
ふ。
033
『
汝
(
なれ
)
こそはゴロスの
化身
(
けしん
)
よ
惟神
(
かむながら
)
034
吾
(
わが
)
さとき
目
(
め
)
を
濁
(
にご
)
さむとするか
035
グロノスの
曲
(
まが
)
の
言葉
(
ことば
)
を
畏
(
かしこ
)
みて
036
吾
(
われ
)
を
止
(
とど
)
めむ
心
(
こころ
)
なるべし
037
グロノスもゴロスも
神
(
かみ
)
の
言霊
(
ことたま
)
に
038
射向
(
いむか
)
ふ
力
(
ちから
)
あらざるべきを
039
汝
(
なれ
)
は
今
(
いま
)
雉子
(
きぎす
)
老媼
(
をぐな
)
と
身
(
み
)
を
変
(
へん
)
じ
040
吾
(
わが
)
神軍
(
みいくさ
)
を
止
(
とど
)
めむとすも。
041
一
(
ひと
)
二
(
ふた
)
三
(
み
)
四
(
よ
)
五
(
いつ
)
六
(
むゆ
)
七
(
なな
)
八
(
や
)
九
(
ここの
)
十
(
たり
)
042
百
(
もも
)
千
(
ち
)
万
(
よろづ
)
千万
(
ちよろづ
)
の
043
神
(
かみ
)
の
言霊
(
ことたま
)
幸
(
さち
)
はひて
044
これの
曲神
(
まがみ
)
の
化身
(
けしん
)
なる
045
雉子
(
きぎす
)
の
老媼
(
をぐな
)
の
正体
(
しやうたい
)
を
046
現
(
あら
)
はせたまへ
惟神
(
かむながら
)
047
真言
(
まこと
)
の
水火
(
いき
)
の
言霊
(
ことたま
)
を
048
清
(
きよ
)
く
打
(
う
)
ち
出
(
い
)
で
願
(
ね
)
ぎまつる
049
ああ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
050
生言霊
(
いくことたま
)
に
光
(
ひかり
)
あれ
051
吾
(
わが
)
言霊
(
ことたま
)
に
生命
(
いのち
)
あれ』
052
かく
歌
(
うた
)
ひたまふや、
053
雉子
(
きぎす
)
と
言
(
い
)
へる
老媼
(
をぐな
)
は
忽
(
たちま
)
ち
三角
(
さんかく
)
三頭
(
さんとう
)
の
長蛇
(
ちやうだ
)
と
変
(
へん
)
じ、
054
三箇
(
さんこ
)
の
口
(
くち
)
より
火焔
(
くわえん
)
を
吐
(
は
)
き
黒煙
(
こくえん
)
を
吐
(
は
)
き、
055
前後
(
ぜんご
)
左右
(
さいう
)
に
のたうち
廻
(
まは
)
り、
056
グロス
沼
(
ぬま
)
の
方
(
かた
)
をさして
一目散
(
いちもくさん
)
に
雲
(
くも
)
を
霞
(
かすみ
)
と
逃
(
に
)
げ
去
(
さ
)
りにける。
057
起立
(
おきたつ
)
比古
(
ひこ
)
の
神
(
かみ
)
は
驚
(
おどろ
)
きながら
御歌
(
みうた
)
詠
(
よ
)
ませ
給
(
たま
)
ふ。
058
『
巧
(
たくみ
)
なる
大蛇
(
をろち
)
の
化身
(
けしん
)
も
汝
(
な
)
が
神
(
かみ
)
の
059
生言霊
(
いくことたま
)
に
逃
(
に
)
げ
失
(
う
)
せにけり
060
曲津見
(
まがつみ
)
はいろいろさまざまに
身
(
み
)
をやつし
061
吾
(
わが
)
行
(
ゆ
)
く
道
(
みち
)
を
遮
(
さへぎ
)
らむとすも
062
神軍
(
みいくさ
)
の
出立
(
いでた
)
ち
恐
(
おそ
)
れ
曲津見
(
まがつみ
)
は
063
かくも
姿
(
すがた
)
を
変
(
へん
)
じたりけむ
064
傷
(
きず
)
つきし
彼
(
かれ
)
の
面
(
おもて
)
は
燃
(
も
)
えさかる
065
野火
(
のび
)
に
焼
(
や
)
かれしあとなりにけむ
066
グロノスもゴロスも
野火
(
のび
)
にやかれつつ
067
水底
(
みそこ
)
に
潜
(
ひそ
)
みて
苦
(
くる
)
しみ
居
(
を
)
るらむ
068
かくなれば
醜
(
しこ
)
の
曲神
(
まがみ
)
の
雄猛
(
をたけ
)
びも
069
憐
(
あは
)
れ
催
(
もよほ
)
し
躊躇心
(
ためらひごころ
)
わく
070
さりながら
吾
(
わが
)
雄心
(
をごころ
)
に
躊躇
(
ためらひ
)
の
071
わくも
曲神
(
まがみ
)
の
経綸
(
しぐみ
)
なるべし
072
御樋代
(
みひしろ
)
の
神
(
かみ
)
の
依
(
よ
)
さしを
飽
(
あ
)
くまでも
073
仕
(
つか
)
へまつらで
帰
(
かへ
)
るべきやは
074
数々
(
かずかず
)
の
罠
(
わな
)
のありとは
偽
(
いつは
)
りか
075
ゴロスの
化身
(
けしん
)
の
言
(
こと
)
の
葉
(
は
)
怪
(
あや
)
し』
076
立世
(
たつよ
)
比女
(
ひめ
)
の
神
(
かみ
)
は
御歌
(
みうた
)
詠
(
よ
)
ませ
給
(
たま
)
ふ。
077
『
面白
(
おもしろ
)
き
今日
(
けふ
)
の
首途
(
かどで
)
よ
曲津見
(
まがつみ
)
は
078
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
を
道
(
みち
)
に
伊迎
(
いむか
)
へまつりぬ
079
天日
(
てんじつ
)
の
下
(
もと
)
にゴロスは
身
(
み
)
を
変
(
へん
)
じ
080
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
を
迎
(
むか
)
ふることの
雄々
(
をを
)
しさ
081
何事
(
なにごと
)
の
奸計
(
たくみ
)
あるかは
知
(
し
)
らねども
082
神
(
かみ
)
と
倶
(
とも
)
なる
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
は
恐
(
おそ
)
れじ
083
恐
(
おそ
)
るべきものは
心
(
こころ
)
にわきたてる
084
躊躇心
(
ためらひごころ
)
の
曇
(
くもり
)
なりける
085
いざさらば
公
(
きみ
)
の
神言
(
みこと
)
を
畏
(
かしこ
)
みて
086
ただ
一筋
(
ひとすぢ
)
の
道
(
みち
)
進
(
すす
)
むのみ』
087
天晴
(
あめはれ
)
比女
(
ひめ
)
の
神
(
かみ
)
は
御歌
(
みうた
)
詠
(
よ
)
ませ
給
(
たま
)
ふ。
088
『
天
(
あめ
)
清
(
きよ
)
く
大地
(
だいち
)
は
広
(
ひろ
)
く
遠
(
とほ
)
の
野
(
の
)
に
089
陽炎
(
かげろひ
)
立
(
た
)
ちて
春風
(
はるかぜ
)
渡
(
わた
)
れり
090
春風
(
はるかぜ
)
に
吹
(
ふ
)
かれて
進
(
すす
)
む
駒
(
こま
)
の
背
(
せ
)
の
091
吾
(
わが
)
気魂
(
からたま
)
の
心地
(
ここち
)
よきかも
092
春
(
はる
)
の
野
(
の
)
を
行
(
ゆ
)
く
心地
(
ここち
)
して
曲津見
(
まがつみ
)
の
093
罰
(
きた
)
めの
戦
(
いくさ
)
の
首途
(
かどで
)
と
思
(
おも
)
へじ
094
綽々
(
しやくしやく
)
として
余裕
(
よゆう
)
ある
此
(
この
)
戦
(
いくさ
)
095
曲
(
まが
)
の
滅
(
ほろ
)
びは
夢
(
ゆめ
)
のごとけむ
096
張
(
は
)
り
切
(
き
)
りし
心
(
こころ
)
も
俄
(
にはか
)
にゆるみけり
097
ゴロスの
曲津
(
まが
)
の
姿
(
すがた
)
見
(
み
)
しより
098
種々
(
くさぐさ
)
に
心
(
こころ
)
しゆかばや
曲津見
(
まがつみ
)
は
099
身
(
み
)
を
変
(
へん
)
じつつ
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
らむ
100
遠
(
とほ
)
の
野
(
の
)
をふりさけ
見
(
み
)
れば
彼方
(
あち
)
此方
(
こち
)
に
101
曲神
(
まがみ
)
の
息
(
いき
)
か
黒雲
(
くろくも
)
立
(
た
)
ちたつ
102
陽炎
(
かげろひ
)
のもえ
立
(
た
)
つ
春野
(
はるの
)
の
奥
(
おく
)
にして
103
黒雲
(
くろくも
)
立
(
た
)
つは
怪
(
あや
)
しかりけり
104
見
(
み
)
の
限
(
かぎ
)
り
焼野
(
やけの
)
は
広
(
ひろ
)
し
醜雲
(
しこぐも
)
の
105
影
(
かげ
)
は
見
(
み
)
ゆれどかたまりもせず
106
いざさらばグロスの
沼
(
ぬま
)
に
進
(
すす
)
むべし
107
吾
(
わが
)
駿馬
(
はやこま
)
も
勇
(
いさ
)
み
出
(
い
)
でつつ』
108
茲
(
ここ
)
に
四柱
(
よはしら
)
の
神々
(
かみがみ
)
はグロスの
沼
(
ぬま
)
をさして
急
(
いそ
)
がせ
給
(
たま
)
ひ、
109
汀
(
みぎは
)
に
立
(
た
)
ちて
眺
(
なが
)
め
給
(
たま
)
へば、
110
殆
(
ほと
)
んど
東西
(
とうざい
)
十
(
じふ
)
里
(
り
)
南北
(
なんぼく
)
二十
(
にじふ
)
里
(
り
)
に
余
(
あま
)
る
大沼
(
おほぬま
)
なりければ、
111
四柱
(
よはしら
)
の
神
(
かみ
)
は
沼
(
ぬま
)
の
周囲
(
めぐり
)
を
四分
(
しぶん
)
し、
112
東西
(
とうざい
)
南北
(
なんぼく
)
に
一柱
(
ひとはしら
)
づつ
陣
(
ぢん
)
どり
一斉
(
いつせい
)
に
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し、
113
七十五
(
しちじふご
)
声
(
せい
)
の
言霊
(
ことたま
)
を
宣
(
の
)
りあげ、
114
『
一
(
ひと
)
二
(
ふた
)
三
(
み
)
四
(
よ
)
五
(
いつ
)
六
(
むゆ
)
七
(
なな
)
八
(
や
)
九
(
ここの
)
十
(
たり
)
、
115
百
(
もも
)
千
(
ち
)
万
(
よろづ
)
千万
(
ちよろづ
)
の
神
(
かみ
)
、
116
この
言霊軍
(
ことたまいくさ
)
に
加
(
くは
)
はりたまへ、
117
援
(
たす
)
けたまへ、
118
守
(
まも
)
らせたまへ』
119
と
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
宣
(
の
)
り
上
(
あ
)
げ
給
(
たま
)
ふにぞ、
120
遉
(
さすが
)
にグロノス、
121
ゴロスの
曲神
(
まがかみ
)
も
言霊
(
ことたま
)
の
力
(
ちから
)
に
敵
(
てき
)
し
兼
(
か
)
ね、
122
苦
(
くる
)
しみ
悶
(
もだ
)
えながら
沼底
(
ぬまそこ
)
より
大噴火
(
だいふんくわ
)
の
如
(
ごと
)
き
水泡
(
みなわ
)
を
吹
(
ふ
)
き
出
(
だ
)
し、
123
六角
(
ろくかく
)
六頭
(
ろくとう
)
の
巨大
(
きよだい
)
なる
悪竜
(
あくりう
)
となり、
124
グロノスは
水面
(
すゐめん
)
高
(
たか
)
く
立
(
た
)
ち
昇
(
のぼ
)
り、
125
ゴロスは
三角
(
さんかく
)
三頭
(
さんとう
)
の
長大
(
ちやうだい
)
なる
蛇身
(
じやしん
)
と
還元
(
くわんげん
)
し、
126
水面
(
すゐめん
)
を
のたうち
廻
(
まは
)
り、
127
遂
(
つひ
)
には
黒雲
(
くろくも
)
を
起
(
おこ
)
し
中天
(
ちうてん
)
高
(
たか
)
く
立
(
た
)
ちのぼり、
128
鷹巣
(
たかし
)
の
山
(
やま
)
の
方面
(
はうめん
)
さして
雷鳴
(
いかづち
)
のとどろく
如
(
ごと
)
き
音響
(
おんきやう
)
を
立
(
た
)
てて
馳
(
か
)
け
出
(
だ
)
し
逃
(
に
)
げ
失
(
う
)
せける。
129
其
(
その
)
為
(
ため
)
に
沼
(
ぬま
)
の
水
(
みづ
)
は
大半
(
たいはん
)
雲
(
くも
)
となりて
御空
(
みそら
)
に
舞
(
ま
)
ひ
昇
(
のぼ
)
り、
130
再
(
ふたた
)
び
雨
(
あめ
)
となつて
地
(
ち
)
に
下
(
くだ
)
る
勢
(
いきほひ
)
は、
131
高照山
(
たかてるやま
)
の
中津滝
(
なかつたき
)
を
数百千
(
すうひやくせん
)
集
(
あつ
)
めたるが
如
(
ごと
)
く、
132
広
(
ひろ
)
く
激
(
はげ
)
しく、
133
到底
(
たうてい
)
晏然
(
あんぜん
)
として
起立
(
きりつ
)
し
得
(
え
)
ざる
凄
(
すさ
)
まじき
光景
(
くわうけい
)
とはなりにける。
134
斯
(
かく
)
の
如
(
ごと
)
く
大蛇
(
をろち
)
の
脆
(
もろ
)
くも
逃
(
に
)
げ
失
(
う
)
せたるは、
135
朝香
(
あさか
)
比女
(
ひめ
)
の
神
(
かみ
)
を
蔭
(
かげ
)
ながら
守
(
まも
)
らせたまふ
鋭敏鳴出
(
うなりづ
)
の
神
(
かみ
)
のウ
声
(
ごゑ
)
の
力
(
ちから
)
なりけるぞ
畏
(
かしこ
)
けれ。
136
四柱
(
よはしら
)
の
神
(
かみ
)
は
各自
(
おのもおのも
)
駒
(
こま
)
を
速
(
はや
)
めて
元来
(
もとき
)
し
道
(
みち
)
を
駈
(
かけ
)
りつつ
傘松
(
かさまつ
)
の
蔭
(
かげ
)
にやうやくにして
集
(
つど
)
はせ
給
(
たま
)
ひ、
137
勇
(
いさ
)
ましく
凄
(
すさ
)
まじかりし
戦況
(
せんきやう
)
を
互
(
たがひ
)
に
語
(
かた
)
り
合
(
あ
)
ひつつ
哄笑
(
こうせう
)
の
幕
(
まく
)
をつづかせ
給
(
たま
)
ひける。
138
初頭
(
うぶがみ
)
比古
(
ひこ
)
の
神
(
かみ
)
は
御歌
(
みうた
)
詠
(
よ
)
ませ
給
(
たま
)
ふ。
139
『
千早振
(
ちはやぶ
)
る
神世
(
かみよ
)
も
聞
(
き
)
かず
例
(
ためし
)
なき
140
曲津
(
まが
)
の
軍
(
いくさ
)
に
向
(
むか
)
ひぬるかな
141
四柱
(
よはしら
)
の
神
(
かみ
)
の
言霊
(
ことたま
)
の
幸
(
さち
)
はひに
142
曲津見
(
まがつ
)
の
神
(
かみ
)
は
稍
(
やや
)
おとろへぬ
143
さりながら
大蛇
(
をろち
)
の
神
(
かみ
)
の
執拗
(
しつえう
)
さ
144
生言霊
(
いくことたま
)
に
容易
(
ようい
)
に
亡
(
ほろ
)
びず
145
百雷
(
ひやくらい
)
の
一度
(
いちど
)
に
轟
(
とどろ
)
く
如
(
ごと
)
くなる
146
ウ
声
(
ごゑ
)
の
言霊
(
ことたま
)
にひるむ
曲津見
(
まがつみ
)
147
御樋代
(
みひしろ
)
の
神
(
かみ
)
を
守
(
まも
)
らす
鋭敏鳴出
(
うなりづ
)
の
148
神
(
かみ
)
の
言霊
(
ことたま
)
に
逃
(
に
)
げ
失
(
う
)
せにけり
149
名
(
な
)
にし
負
(
お
)
ふグロスの
沼
(
ぬま
)
の
曲神
(
まがかみ
)
も
150
今日
(
けふ
)
を
限
(
かぎ
)
りと
逃
(
に
)
げ
失
(
う
)
せにけり
151
曲神
(
まがかみ
)
は
野火
(
のび
)
に
焼
(
や
)
かれて
傷
(
きず
)
つきしか
152
その
面
(
おも
)
見
(
み
)
れば
糜爛
(
ただ
)
れゐたりぬ
153
恐
(
おそ
)
ろしき
六角
(
ろくかく
)
六頭
(
ろくとう
)
の
巨大
(
きよだい
)
なる
154
悪竜
(
あくりう
)
水
(
み
)
の
面
(
も
)
にのたうち
廻
(
まは
)
りし
155
三頭
(
さんとう
)
三角
(
さんかく
)
の
長蛇
(
ちやうだ
)
となりて
曲津見
(
まがつみ
)
の
156
ゴロスは
腹
(
はら
)
を
真白
(
ましろ
)
く
見
(
み
)
せたり
157
大
(
おほ
)
き
小
(
ち
)
さき
数限
(
かずかぎ
)
りなき
竜蛇神
(
りうだしん
)
の
158
狂
(
くる
)
へるさまは
見物
(
みもの
)
なりけり
159
初
(
はじ
)
めての
曲津
(
まが
)
の
征途
(
きため
)
に
向
(
むか
)
ひつつ
160
如何
(
いか
)
になるかと
危
(
あや
)
ぶみしはや』
161
起立
(
おきたつ
)
比古
(
ひこ
)
の
神
(
かみ
)
は
御歌
(
みうた
)
詠
(
よ
)
ませ
給
(
たま
)
ふ。
162
『
山岳
(
さんがく
)
の
如
(
ごと
)
き
荒浪
(
あらなみ
)
立
(
た
)
てながら
163
狂
(
くる
)
ひ
立
(
た
)
ちたる
曲津見
(
まがつみ
)
あはれ
164
水柱
(
みづばしら
)
天
(
てん
)
に
冲
(
ちう
)
して
噴水
(
ふんすゐ
)
の
165
吐
(
は
)
き
出
(
だ
)
す
如
(
ごと
)
き
曲津
(
まが
)
のすさびよ
166
曲神
(
まがかみ
)
の
苦
(
くる
)
しき
息
(
いき
)
より
迸
(
ほとばし
)
る
167
水
(
みづ
)
は
御空
(
みそら
)
に
高
(
たか
)
くのぼりぬ
168
かくのごと
勇
(
いさ
)
ましき
軍
(
いくさ
)
は
見
(
み
)
ざりけり
169
生言霊
(
いくことたま
)
の
比
(
ひ
)
なき
力
(
ちから
)
に』
170
立世
(
たつよ
)
比女
(
ひめ
)
の
神
(
かみ
)
は
御歌
(
みうた
)
詠
(
よ
)
ませ
給
(
たま
)
ふ。
171
『
女神
(
めがみ
)
吾
(
われ
)
もいかがなるよと
束
(
つか
)
の
間
(
ま
)
は
172
危
(
あや
)
ぶみにけり
曲津
(
まが
)
の
荒
(
すさ
)
びに
173
曲神
(
まがかみ
)
の
逃
(
に
)
げ
去
(
さ
)
りしより
沼
(
ぬま
)
の
面
(
も
)
は
174
鏡
(
かがみ
)
の
如
(
ごと
)
く
光
(
て
)
りかがやけり
175
この
沼
(
ぬま
)
を
鏡
(
かがみ
)
の
沼
(
ぬま
)
と
改
(
あらた
)
めて
176
この
食国
(
をすくに
)
のしめりとなさばや
177
莽々
(
ばうばう
)
と
生
(
は
)
え
繁
(
しげ
)
りたる
醜草
(
しこぐさ
)
も
178
焼
(
や
)
き
払
(
はら
)
はれて
沼
(
ぬま
)
のみ
照
(
て
)
れる
179
御樋代
(
みひしろ
)
神
(
がみ
)
の
持
(
も
)
たせる
真火
(
まひ
)
のなかりせば
180
この
曲津見
(
まがつみ
)
は
亡
(
ほろ
)
びざりけむ
181
葦原
(
あしはら
)
比女
(
ひめ
)
の
御樋代
(
みひしろ
)
神
(
がみ
)
の
御
(
おん
)
艱
(
なや
)
み
182
今日
(
けふ
)
の
戦
(
いくさ
)
にはじめて
覚
(
さと
)
りぬ
183
手
(
て
)
も
足
(
あし
)
も
出
(
だ
)
す
隙
(
ひま
)
もなき
此
(
この
)
島
(
しま
)
に
184
御樋代
(
みひしろ
)
神
(
がみ
)
のおはす
雄々
(
をを
)
しさ』
185
天晴
(
あめはれ
)
比女
(
ひめ
)
の
神
(
かみ
)
は
御歌
(
みうた
)
詠
(
よ
)
ませ
給
(
たま
)
ふ。
186
『
曲津見
(
まがつみ
)
は
黒雲
(
くろくも
)
に
乗
(
の
)
りて
逃
(
に
)
げゆきし
187
あとの
御空
(
みそら
)
は
晴
(
は
)
れ
渡
(
わた
)
りけり
188
言霊
(
ことたま
)
の
軍
(
いくさ
)
の
功
(
いさを
)
詳細
(
まつぶさ
)
に
189
わが
公許
(
きみがり
)
に
復命
(
かへりごと
)
せむ
190
吾
(
わが
)
公
(
きみ
)
の
功
(
いさを
)
尊
(
たふと
)
し
曲神
(
まがかみ
)
の
191
罰
(
きた
)
めの
軍
(
いくさ
)
に
光
(
ひかり
)
をたまへり
192
神光
(
みひかり
)
は
忍ケ丘
(
しのぶがをか
)
の
御空
(
みそら
)
より
193
いや
輝
(
かがや
)
きて
曲津
(
まが
)
亡
(
ほろ
)
びけり
194
葦原
(
あしはら
)
比女
(
ひめ
)
神
(
かみ
)
のまします
聖場
(
すがには
)
は
195
またもや
曲津
(
まが
)
に
襲
(
おそ
)
はれにけむ
196
中野河
(
なかのがは
)
の
広
(
ひろ
)
き
流
(
なが
)
れにささへられ
197
野火
(
のび
)
はここにて
止
(
とど
)
まりにけむ
198
曲津見
(
まがつみ
)
は
中野
(
なかの
)
河原
(
がはら
)
の
空
(
そら
)
渡
(
わた
)
り
199
鷹巣
(
たかし
)
の
山
(
やま
)
に
棲処
(
すみか
)
定
(
さだ
)
めむ
200
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
も
忍ケ丘
(
しのぶがをか
)
に
急
(
いそ
)
ぎつつ
201
公
(
きみ
)
が
御前
(
みまへ
)
に
復命
(
かへりごと
)
申
(
まを
)
さむ』
202
かく
歌
(
うた
)
ひ
給
(
たま
)
へば、
203
初頭
(
うぶがみ
)
比古
(
ひこ
)
の
神
(
かみ
)
は、
204
『
天晴
(
あめはれ
)
比女
(
ひめ
)
神
(
かみ
)
の
言霊
(
ことたま
)
諾
(
うべな
)
ひて
205
いざや
帰
(
かへ
)
らむ
忍ケ丘
(
しのぶがをか
)
に』
206
茲
(
ここ
)
に
四柱
(
よはしら
)
の
神
(
かみ
)
は
轡
(
くつわ
)
を
並
(
なら
)
べて、
207
忍ケ丘
(
しのぶがをか
)
の
朝香
(
あさか
)
比女
(
ひめ
)
の
神
(
かみ
)
の
本営
(
ほんえい
)
に
凱旋
(
がいせん
)
し
給
(
たま
)
ひけるこそ、
208
目出度
(
めでた
)
けれ。
209
(
昭和八・一二・二一
旧一一・五
於大阪分院蒼雲閣
加藤明子
謹録)
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