霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二一章 怪体(けたい)の島(しま)〔一九七七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第78巻 天祥地瑞 巳の巻 篇:第4篇 神戦妖敗 よみ(新仮名遣い):しんせんようはい
章:第21章 怪体の島 よみ(新仮名遣い):けたいのしま 通し章番号:1977
口述日:1933(昭和8)年12月25日(旧11月9日) 口述場所:大阪分院蒼雲閣 筆録者:森良仁 校正日: 校正場所: 初版発行日:1934(昭和9)年5月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
朝香比女の神一行は、葦原比女の神一行に送られ、常磐の浜辺で名残を惜しみつつ、万里の海へとふたたび船出をした。
朝香比女の神一行が舟を南へと進ませていくと、鷹巣の山の頂から黒煙がもうもうと噴出して天に立ち上り、海を指して迫ってきた。黒雲は、グロノス・ゴロスの竜蛇心の形を現して進んできた。
朝香比女の神、初頭比古の神がこの様子に警戒の歌を歌うおりしも、海上に旋風が起こり、一行の乗った磐楠舟は荒波に翻弄され、一進一退どうしようもない羽目に陥った。
しかし、朝香比女の神は平然として微笑しながらこの光景を静かに見つつ、心中に深い成算があるかのようであった。一行の神々は、おのおの少しも恐れずに勇気と祓いの歌を歌い、しばらく望見し落ち着きはらっていた。
すすと、百雷が一時にとどろくようなウーウーウーの唸り声が響き渡り、たちまちに波風は和らいで、あたりを包んでいた魔神の黒雲は薄らいで飛び散り、平静な天地と変わってしまった。
朝香比女の神は、ひそかに祈った言霊によって、鋭敏鳴出の神が現れ、その神力によって曲津神たちを追い払ってしまったことを歌った。従者神たちも、この出来事に述懐の歌をそれぞれ歌った。
しばらくして舟は、海路に横たわる巨大な巌島に近づいた。よくよく見れば、赤・黒さまざまの大蛇が何匹も巌から首を差し出し、大口から火焔の下を吐いて舟を襲おうとするごとくであった。
朝香比女の神はこのありさまに、心穏やかに微笑みながら、この巌島を火の島とするよう、言霊歌を歌った。
すると、高く切り立った周囲約三里の巌島は、たちまち一面が火焔に包まれ、海水は熱湯のように煮えたぎり、大蛇は焼かれ傷つき、あるいは雲を起こして鷹巣の山に逃げ去った。
従者神たちは、この様子を見て驚き感激し、朝香比女の神の言霊の働きを称える歌を歌った。そして、舟は東南に向けて進んでいった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:4272 OBC :rm7821
愛善世界社版: 八幡書店版:第14輯 131頁 修補版: 校定版:387頁 普及版: 初版: ページ備考:
001 朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)は、002葦原(あしはら)比女(ひめ)の神(かみ)一行(いつかう)に常磐(ときは)の浜辺(はまべ)まで送(おく)られ、003互(たがひ)に名残(なごり)りを惜(を)しみつつ、004朝日(あさひ)の照(て)らふ万里(まで)の海原(うなばら)を順風(じゆんぷう)に乗(じやう)じ、005南(みなみ)へ南(みなみ)へと舟(ふね)を進(すす)ませ給(たま)ふ折(をり)しもあれ、006晴(は)れ渡(わた)りたる大空(おほぞら)の彼方(かなた)に屹立(きつりつ)したる鷹巣(たかし)の山(やま)の頂(いただき)より、007黒煙(こくえん)濛々(もうもう)と噴火(ふんくわ)の如(ごと)くに噴(ふ)き出(だ)して天(てん)に冲(ちう)し、008次第(しだい)々々(しだい)に膨(ふく)れ拡(ひろ)ごり、009万里(まで)の海原(うなばら)さして押(お)し寄(よ)せ来(きた)る状(さま)、010もの凄(すご)きばかりなりける。011黒雲(くろくも)はグロノス、012ゴロスの竜蛇神(りうだしん)の形(かたち)を現(あら)はし、013真(ま)つ先(さき)に海原(うなばら)さして進(すす)み来(きた)る如(ごと)く見(み)えにける。
014 朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)は此(この)光景(くわうけい)を打仰(うちあふ)ぎながら、
015『鷹巣山(たかしやま)尾根(をね)に黒雲(くろくも)涌(わ)き立(た)ちて
016大空(おほぞら)高(たか)く拡(ひろ)ごれるがに見(み)ゆ
017鷹巣山(たかしやま)に立(た)つ黒雲(くろくも)は醜神(しこがみ)の
018吾(われ)に仇(あだ)せむ下心(したごころ)かも
019澄(す)みきらふ御空(みそら)の蒼(あを)を醜神(しこがみ)の
020醜(しこ)の黒雲(くろくも)ぬりつぶさむとす
021よしやよし万里(まで)の海原(うなばら)包(つつ)むとも
022吾(わが)言霊(ことたま)に伊吹(いぶ)き払(はら)はむ
023曲神(まがかみ)は棲処(すみか)焼(や)かれて鷹巣山(たかしやま)に
024忍(しの)びて雲(くも)となりて荒(すさ)ぶも
025吾(わが)舟(ふね)は魔神(まがみ)の黒雲(くろくも)に包(つつ)まれて
026行手(ゆくて)も見(み)えずなりにけらしな
027主(ス)の神(かみ)の御水火(みいき)に生(あ)れし吾(われ)にして
028如何(いか)でひるまむ曲津(まが)の荒(すさ)びに
029曲津(まがつ)神(かみ)荒(すさ)べば荒(すさ)べ千万(ちよろづ)の
030災(わざはひ)来(きた)るも吾(われ)はひるまじ』
031 初頭(うぶがみ)比古(ひこ)の神(かみ)は此(この)光景(くわうけい)を見(み)て御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
032『グロノスもゴロスも力(ちから)のありたけを
033尽(つく)して御舟(みふね)にさやらむとすも
034大空(おほぞら)の蒼海原(あをうなばら)をぬりつぶし
035万里(まで)の海(うみ)まで雲(くも)に包(つつ)める
036よしやよし黒雲(くろくも)如何(いか)に包(つつ)むとも
037海原(うなばら)分(わ)けていや進(すす)み行(ゆ)かむ
038曲神(まがかみ)の醜(しこ)の水火(いき)にや海風(うなかぜ)は
039吹(ふ)き乱(みだ)れつつ御舟(みふね)ゆするも』
040 斯(か)く歌(うた)ひ給(たま)ふ折(をり)しも、041海上(かいじやう)俄(にはか)に旋風(せんぷう)起(おこ)り、042雲(くも)は大(だい)なる輪(わ)を描(ゑが)きて前後(ぜんご)左右(さいう)に舞(ま)ひ狂(くる)ひ、043磐楠舟(いはくすぶね)は荒浪(あらなみ)に翻弄(ほんろう)され、044一進(いつしん)一退(いつたい)如何(いかん)ともすべからざる羽目(はめ)に陥(おちい)りぬ。045朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)は平然(へいぜん)として微笑(びせう)しながら此(この)光景(くわうけい)を静(しづか)に見給(みたま)ひつつ、046心中(しんちう)に深(ふか)き成算(せいさん)あるものの如(ごと)くに在(おは)し坐(ま)しける。
047 起立(おきたつ)比古(ひこ)の神(かみ)は咫尺(しせき)弁(べん)ぜぬ暴風(ばうふう)の海原(うなばら)を眺(なが)めながら、048儼然(げんぜん)として御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
049『曲神(まがかみ)はあらむ限(かぎ)りの暴力(ばうりよく)を
050ふるひて御舟(みふね)を顛覆(くつがへ)さむとす
051風(かぜ)も吹(ふ)け浪(なみ)も立(た)て立(た)て雲(くも)も起(お)きよ
052如何(いか)で恐(おそ)れむ神(かみ)なる吾(われ)は
053面白(おもしろ)く風(かぜ)の海原(うなばら)に御(おん)舟(ふね)は
054浮(う)きつ沈(しづ)みつ上(あが)りつ下(くだ)りつ
055荒浪(あらなみ)は鬣(たてがみ)振(ふる)ひ御(おん)舟(ふね)の
056舷(ふなばた)きびしく噛(か)みつき来(きた)るも
057主(ス)の神(かみ)と朝香(あさか)の比女(ひめ)に任(まか)せたる
058吾身(わがみ)は天(てん)に任(まか)すのみなる
059グロノスやゴロスも力(ちから)の種(たね)つきて
060やがて亡(ほろ)ばむ思(おも)へば悲(かな)しも
061葦原(あしはら)の国土(くに)永遠(とことは)に治(をさ)むべく
062此(この)曲津見(まがつみ)を罰(きた)めで止(や)まむや』
063 立世(たつよ)比女(ひめ)の神(かみ)は御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
064『奴婆玉(ぬばたま)の闇(やみ)の海原(うなばら)に荒浪(あらなみ)の
065立(た)ちたつ今日(けふ)の旅(たび)は勇(いさ)まし
066曲津見(まがつみ)の荒(すさ)ぶ限(かぎ)りを荒(すさ)ばせて
067吾(われ)面白(おもしろ)く眺(なが)めむと思(おも)ふ
068荒風(あらかぜ)の響(ひびき)も高(たか)き浪(なみ)の音(おと)も
069何(なに)か恐(おそ)れむ神(かみ)なる吾(われ)は
070グロノスもゴロスもここを玉(たま)の緒(を)の
071命(いのち)かぎりに荒(すさ)ぶと見(み)えたり
072荒(すさ)ぶだけ荒(すさ)ばせ狂(くる)はせ疲(つか)らせて
073さて其(そ)の後(のち)に言霊(ことたま)宣(の)らむか』
074 天晴(あめはれ)比女(ひめ)の神(かみ)は御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
075『久方(ひさかた)の天(あめ)を晴(は)らしの吾(われ)なれば
076御空(みそら)の黒雲(くろくも)直(ただ)に払(はら)はむ
077一(ひと)二(ふた)三(み)四(よ)五(いつ)六(むゆ)七(なな)八(や)九(ここの)十(たり)
078百(もも)千(ち)万(よろづ)八千万(やちよろづ)の
079神(かみ)よ集(あつ)まりましまして
080今日(けふ)の御舟(みふね)にさやりたる
081醜(しこ)の黒雲(くろくも)払(はら)はせ給(たま)へ
082ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
083吾(われ)等(ら)となふる言霊(ことたま)に
084命(いのち)あれかし光(ひかり)あれかし』
085 朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)は再(ふたた)び御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
086『面白(おもしろ)き醜(しこ)の猛(たけ)びを見(み)るものか
087万里(まで)の海原(うなばら)過(す)ぎ行(ゆ)く度(たび)に
088曲神(まがかみ)もやがて疲(つか)れむ斯(か)くの如(ごと)
089黒雲(くろくも)吐(は)けば力(ちから)尽(つ)きなむ
090黒雲(くろくも)を起(おこ)し荒風(あらかぜ)吹(ふ)かせつつ
091吾(わが)旅立(たびだち)を脅(おびや)かさむとするも
092斯(か)くの如(ごと)き醜(しこ)の災(わざはひ)何(なに)かあらむ
093暫(しばら)く待(ま)ちて吾(われ)は罰(きた)めむ』
094 斯(か)く神々(かみがみ)は各自(おのもおのも)御歌(みうた)詠(よ)ませつつ、095闇(やみ)の海(うみ)の暴風(ばうふう)怒濤(どたう)に舟(ふね)を翻弄(ほんろう)されながら、096神色(しんしよく)自若(じじやく)として少(すこ)しも恐(おそ)れず、097暫(しば)しを望見(ばうけん)し落着(おちつ)き居給(ゐたま)ひける。
098 斯(か)かる処(ところ)へ百雷(ひやくらい)の一(いち)時(じ)に轟(とどろ)く如(ごと)きウーウーウーの唸(うな)り声(ごゑ)響(ひび)き渡(わた)り、099忽(たちま)ちにして荒風(あらかぜ)は鉾先(ほこさき)を緩(ゆる)め、100浪(なみ)和(やは)らぎ渡(わた)り、101四辺(あたり)を包(つつ)みし魔神(まがみ)の黒雲(くろくも)は次第(しだい)々々(しだい)に薄(うす)らぎつつ四辺(しへん)に飛(と)び散(ち)り、102遂(つひ)には跡形(あとかた)も止(とど)めず、103浪(なみ)平(たひら)かに天津(あまつ)日(ひ)は晃々(くわうくわう)と輝(かがや)き給(たま)ふ平静(へいせい)なる天地(てんち)と変(かは)りけるぞ不思議(ふしぎ)なれ。
104 朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)は御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
105『ひそやかにわが祈(いの)りたる言霊(ことたま)に
106鋭敏鳴出(うなりづ)の神(かみ)は現(あ)れましにけり
107鋭敏鳴出(うなりづ)の神(かみ)の言霊(ことたま)に破(やぶ)られて
108曲津見(まがつみ)の奸計(たくみ)は消(き)え失(う)せにけり
109荒風(あらかぜ)を起(おこ)し荒浪(あらなみ)振(ふる)はせし
110曲津(まが)は亡(ほろ)びむ憐(あは)れなるかも
111主(ス)の神(かみ)の厚(あつ)き守(まも)りと鋭敏鳴出(うなりづ)の
112神(かみ)の功(いさを)に曲津(まが)は逃(に)げたり
113黒雲(くろくも)は次第(しだい)々々(しだい)に薄(うす)らぎて
114其(その)影(かげ)さへも見(み)えずなりけり
115千重(ちへ)の浪(なみ)照(て)らして御空(みそら)ゆ日(ひ)の神(かみ)は
116わが行(ゆ)く舟(ふね)を守(まも)らせ給(たま)ふ
117曲神(まがかみ)は勢(いきほひ)強(つよ)く見(み)ぬれども
118真言(まこと)の神(かみ)には脆(もろ)きものかな
119葦原(あしはら)比女(ひめ)神(かみ)の神言(みこと)は曲津見(まがつみ)に
120襲(おそ)はれ給(たま)はむ思(おも)へば愛(いと)しき
121さりながら鋭敏鳴出(うなりづ)の神(かみ)わが魂(たま)の
122いつかひあれば国土(くに)安(やす)からむ
123海原(うなばら)は春(はる)の陽気(やうき)の漂(ただ)よひて
124水面(みのも)に跳(をど)る魚鱗(うろくづ)は光(ひか)れり』
125 初頭(うぶがみ)比古(ひこ)の神(かみ)は莞爾(くわんじ)として御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
126『神々(かみがみ)の稜威(いづ)の守(まも)りに曲津見(まがつみ)は
127見(み)るも哀(あは)れに亡(ほろ)び失(う)せける
128葦原(あしはら)の鷹巣(たかし)の山(やま)の谷(たに)深(ふか)く
129潜(ひそ)める曲(まが)の悪戯(いたづら)可笑(をか)しも
130黒雲(くろくも)の形(かたち)はさながらグロノスと
131ゴロスの走(はし)る姿(すがた)なりける
132斯(かく)の如(ごと)御空(みそら)は晴(は)れて浪(なみ)凪(な)ぎて
133公(きみ)の御舟(みふね)の安(やす)さ嬉(うれ)しさ
134目路(めぢ)遠(とほ)く水(み)の面(も)に浮(うか)ぶ島影(しまかげ)は
135しかと見(み)えねど巌山(いはやま)なるらし
136主(ス)の神(かみ)と鋭敏鳴出(うなりづ)の神(かみ)わが公(きみ)の
137御稜威(みいづ)に安(やす)き磐楠舟(いはくすぶね)かも』
138 起立(おきたつ)比古(ひこ)の神(かみ)は御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
139『面白(おもしろ)き曲津(まが)の芝居(しばゐ)の一幕(ひとまく)を
140今日(けふ)の浪路(なみぢ)の旅(たび)に見(み)しかな
141一時(ひととき)は如何(いかが)ならむかと村肝(むらきも)の
142吾(われ)は心(こころ)を悩(なや)ませにける
143強(つよ)き言(こと)言(い)ひつつありしが村肝(むらきも)の
144心(こころ)の奥(おく)は慄(ふる)ひ居(ゐ)たりき
145鋭敏鳴出(うなりづ)の神(かみ)の言霊(ことたま)なかりせば
146未(ま)だ黒雲(くろくも)はさやり居(ゐ)にけむ
147上下(うへした)に公(きみ)の召(め)します御(おん)舟(ふね)を
148翻弄(ほんろう)したる曲浪(まがなみ)凪(な)ぎしよ
149斯(か)くならば最早(もはや)安(やす)けし西方(にしかた)の
150曲津(まがつ)の国土(くに)にひたに進(すす)まむ』
151 立世(たつよ)比女(ひめ)の神(かみ)は御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
152『朝香(あさか)比女(ひめ)神(かみ)は驚(おどろ)きましまさず
153微笑(ほほゑ)みいませし雄々(をを)しさ健気(けなげ)さ
154海原(うなばら)を闇(やみ)に包(つつ)みて御(おん)舟(ふね)を
155浪(なみ)に弄(なぶ)りし曲津見(まがつ)の悪戯(いたづら)よ
156如何(いか)ならむ曲津(まが)の災(わざはひ)重(かさ)ぬとも
157神(かみ)の御稜威(みいづ)にひたに進(すす)まむ
158鷹巣山(たかしやま)に忍(しの)びてグロノス、ゴロスの曲津(まが)は
159黒雲(くろくも)となりて御舟(みふね)艱(なや)めぬ』
160 天晴(あめはれ)比女(ひめ)の神(かみ)は御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
161『久方(ひさかた)の天晴(あめは)れ渡(わた)り月(つき)も日(ひ)も
162水面(みのも)に浮(うか)びて湯気(ゆげ)立(た)つ海(うみ)なり
163御(おん)舟(ふね)は吹(ふ)く春風(はるかぜ)にすくすくと
164進(すす)みましけり万里(まで)の海原(うなばら)を
165朝香(あさか)比女(ひめ)神(かみ)に仕(つか)へて種々(くさぐさ)の
166曲津(まが)の悪戯(いたづら)面白(おもしろ)く見(み)し
167闇(やみ)の海(うみ)に荒風(あらかぜ)も浪(なみ)も駿馬(はやこま)は
168恐(おそ)れず静(しづ)かに嘶(いなな)きて居(ゐ)し
169吾(われ)は今(いま)無心(むしん)の駒(こま)の幸(さち)はひを
170つくづく覚(さと)りぬ荒浪(あらし)の海(うみ)に
171幾度(いくたび)も御舟(みふね)あやふき浪(なみ)の上(へ)を
172無心(むしん)の駒(こま)は嘶(いなな)き歓(ゑら)ぎつ
173海路(うなぢ)走(はし)るその苦(くる)しさに引替(ひきか)へて
174駒(こま)は御舟(みふね)を喜(よろこ)びけるにや
175漸(やうや)くに島影(しまかげ)近(ちか)くなりにけり
176魔神(まがみ)よ永遠(とは)に潜(ひそ)めるらしも』
177 舟(ふね)は漸(やうや)くにして海路(うなぢ)に横(よこた)はる巨大(きよだい)なる巌島(いはしま)に近(ちか)づきぬ。178よくよく見(み)れば、179赤黒(あかくろ)さまざまの大蛇(をろち)幾筋(いくすぢ)となく巌(いは)より首(くび)をさし出(い)で、180長大(ちやうだい)なる身体(からだ)をうねらせながら、181大口(おほぐち)を開(ひら)き火焔(くわえん)の舌(した)を吐(は)き、182御舟(みふね)に向(むか)つて襲(おそ)はむとする勢(いきほひ)を全力(ぜんりよく)を尽(つく)し見(み)せ居(ゐ)たりければ、183朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)はこの状(さま)を御覧(みそなは)して、184心(こころ)穏(おだ)ひに微笑(ほほゑ)みつつ御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
185『此処(ここ)も亦(また)魔神(まがみ)の巣(す)ぐふ巌島(いはしま)の
186醜(しこ)の大蛇(をろち)はさやらむとすも
187醜神(しこがみ)は如何(いか)にさやぐも猛(たけ)ぶとも
188神(かみ)なる吾(われ)は恐(おそ)るべきやも
189曲神(まがかみ)を言向(ことむ)けまたは罰(きた)めつつ
190神(かみ)のまにまに進(すす)む吾(われ)なり
191千丈(せんぢやう)の巌(いは)の上(うへ)より長々(ながなが)と
192大口(おほぐち)開(あ)けて大蛇(をろち)は火(ひ)を吹(ふ)けり
193千百(せんひやく)の大蛇(をろち)が一度(いちど)に吐(は)き出(いだ)す
194炎(ほのほ)は青(あを)く真火(まひ)にはあらず
195吾(わが)伊行(いゆ)く道(みち)にさやらむ曲津見(まがつみ)は
196生言霊(いくことたま)に放(はふ)りて行(ゆ)かむ
197草木(くさき)一(ひと)つ無(な)き巌山(いはやま)に真火(まひ)を避(さ)けて
198ここを先途(せんど)と曲津見(まがつみ)潜(ひそ)める
199さりながら生言霊(いくことたま)の御功(みいさを)に
200この巌山(いはやま)を火(ひ)の島(しま)とせむ。
201いろはにほへとちりぬるを
202わかよたれそつねならむ
203うゐのおくやまけふこえて
204あさきゆめみしゑひもせす
205きやうの浪路(なみぢ)の旅立(たびだ)ちに
206さやらむ曲津(まが)は悉(ことごと)く
207生言霊(いくことたま)の御功(みいさを)に
208伊吹(いぶ)き払(はら)ひて追(お)ひそけつ
209神(かみ)の依(よ)さしの神業(かむわざ)に
210仕(つか)へ奉(まつ)らむ惟神(かむながら)
211神(かみ)の御前(みまへ)に生言霊(いくことたま)を
212捧(ささ)げて祈(いの)り奉(たてまつ)る
213もしも曲神(まがかみ)吾(わが)言霊(ことたま)に
214従(まつろ)はずしてさやりなば
215この巌島(いはしま)は悉(ことごと)く
216真火(まひ)を起(おこ)して灼熱(しやくねつ)の
217炎(ほのほ)に残(のこ)らず焼(や)き尽(つく)し
218曲津(まが)の在処(ありか)を絶(たや)すべし
219カコクケキ
220カの言霊(ことたま)に真火(まひ)出(い)でて
221さしもに堅(かた)き巌山(いはやま)も
222火(ひ)の海(うみ)とならむ惟神(かむながら)
223曲津見(まがつみ)心(こころ)を改(あらた)めて
224弥永久(いやとこしへ)に此(この)島(しま)の
225守(まも)りの神(かみ)となれよかし
226ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
227生言霊(いくことたま)に光(ひかり)あれ
228吾(わが)言霊(ことたま)に命(いのち)あれよ。
229海中(わだなか)に聳(そそ)り立(た)ちたる巌島(いはしま)に
230潜(ひそ)む大蛇(をろち)を焼(や)きて進(すす)まむ
231巌島(いはしま)はカの言霊(ことたま)の輝(かがや)きに
232残(のこ)らず火(ひ)となれ炎(ほのほ)となれよ』
233 斯(か)く歌(うた)ひ給(たま)ふや、234千尋(ちひろ)の海底(かいてい)より御空(みそら)に高(たか)く屹立(きつりつ)したる周囲(しうゐ)約(やく)三(さん)里(り)の巌島(いはしま)も、235忽(たちま)ち一面(いちめん)に火焔(くわえん)に包(つつ)まれ、236海水(かいすゐ)は熱湯(ねつたう)の如(ごと)く煮(に)えくり返(かへ)り、237湯気(ゆげ)と煙(けむり)は四辺(しへん)を包(つつ)みて其(その)壮観(さうくわん)譬(たと)ふるに物(もの)なく、238大蛇(をろち)は或(あるひ)は焼(や)かれ或(あるひ)は傷(きずつ)き或(あるひ)は命(いのち)からがら雲(くも)を吐(は)き出(だ)し、239辛(から)うじて是(これ)に乗(じやう)じ、240鷹巣(たかし)の山(やま)の空(そら)を指(さ)して逃(に)げ行(ゆ)きにける。241巌島(いはしま)は瞬(またた)く間(うち)に根底(こんてい)より焼(や)き尽(つく)され、242海水(かいすゐ)は熱湯(ねつたう)の如(ごと)く沸騰(ふつとう)し湯気(ゆげ)立(た)ち昇(のぼ)りぬ。243此(この)光景(くわうけい)を見(み)て初頭(うぶがみ)比古(ひこ)の神(かみ)は感激(かんげき)に堪(た)へず、244御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
245『今更(いまさら)に吾(われ)驚(おどろ)きぬ御樋代(みひしろ)神(がみ)の
246生言霊(いくことたま)に島(しま)は滅(ほろ)びぬ
247八千尋(やちひろ)の底(そこ)の巌根(いはね)も火(ひ)となりて
248焼滅(せうめつ)しにけり公(きみ)の御稜威(みいづ)に
249いつまでもグロノス、ゴロスの執拗(しつえう)さ
250思(おも)へば吾(われ)は憐(あは)れを催(もよほ)す
251永遠(とことは)に動(うご)かぬ巌根(いはね)も吾(わが)公(きみ)の
252生言霊(いくことたま)にかなはざりしよ
253巌ケ根(いはがね)は残(のこ)らず火(ひ)となり湯気(ゆげ)となり
254煙(けむり)となりし時(とき)の見事(みごと)さ
255面白(おもしろ)き公(きみ)の神業(かむわざ)伏(ふ)し拝(をが)み
256この天地(あめつち)の不思議(ふしぎ)を悟(さと)りぬ
257吾(わが)公(きみ)の功績(いさをし)見(み)れば初頭(うぶがみ)比古(ひこ)
258吾(われ)は小(ちひ)さき神(かみ)にぞありける
259曲津見(まがつみ)は巌(いはほ)の山(やま)と変(へん)じつつ
260公(きみ)の海路(うなぢ)の旅(たび)にさやりし
261心地(ここち)よく曲(まが)の化身(けしん)の巌島(いはしま)は
262生言霊(いくことたま)に滅(ほろ)びぬるかな
263カコクケキ生言霊(いくことたま)の幸(さち)はひに
264堅磐(かきは)常磐(ときは)の巌(いはほ)も焼(や)けたり』
265 起立(おきたつ)比古(ひこ)の神(かみ)は御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
266『尊(たふと)さに吾(われ)は言葉(ことば)も口籠(くちごも)り
267あきれ慄(をのの)くばかりなりけり
268今更(いまさら)に生言霊(いくことたま)の尊(たふと)さを
269思(おも)ひけるかな海路(うなぢ)の旅(たび)に
270炎々(えんえん)と巌島(いはしま)焼(も)ゆる状(さま)見(み)つつ
271今更(いまさら)の如(ごと)驚(おどろ)き止(や)まずも
272巌(いは)の上(へ)に千万(ちよろづ)の大蛇(をろち)垂(た)れかかり
273大口(おほぐち)開(あ)けて炎(ほのほ)を吐(は)きける
274斯(かく)の如(ごと)き曲津(まが)の猛(たけ)びも平然(へいぜん)と
275公(きみ)は微笑(ほほゑ)み御覧(みそなは)しける
276曲津見(まがつみ)は四度(よたび)破(やぶ)れて同輩(ともがら)を
277数多(あまた)失(うしな)ひ逃(に)げ去(さ)りにける
278いや広(ひろ)に神(かみ)の御稜威(みいづ)の幸(さち)はひて
279この天地(あめつち)は拓(ひら)け行(ゆ)くらむ』
280 立世(たつよ)比女(ひめ)の神(かみ)は御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
281『今更(いまさら)に朝香(あさか)の比女(ひめ)の吾(わが)公(きみ)の
282いみじき功(いさを)を驚(おどろ)きにけり
283斯(かく)の如(ごと)光(ひかり)と功(いさを)の吾(わが)公(きみ)に
284仕(つか)へて進(すす)まむ思(おも)へば嬉(うれ)しき
285心(こころ)弱(よわ)き女神(めがみ)の吾(われ)も魂(たま)太(ふと)り
286いみじき力(ちから)を賜(たま)はりにける』
287 天晴(あめはれ)比女(ひめ)の神(かみ)は御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
288『跡形(あとかた)もなく滅(ほろ)びたる曲津見(まがつみ)の
289化身(けしん)の巌(いは)の跡(あと)に湯気(ゆげ)立(た)つ
290曲津見(まがつみ)は万里(まで)の海原(うなばら)に浪(なみ)を立(た)て
291雲(くも)を起(おこ)して雄猛(をたけ)びにける
292曲津見(まがつみ)の雄猛(をたけ)び煙(けむり)となりにけり
293御樋代(みひしろ)神(がみ)の生言霊(いくことたま)に
294浪路(なみぢ)はるけき万里(まで)の海原(うなばら)安々(やすやす)と
295公(きみ)に仕(つか)へて渡(わた)らふ楽(たの)しさ
296カコクケキ生言霊(いくことたま)の御光(みひかり)は
297千引(ちびき)の巌ケ根(いはがね)さへも焼(や)きたり
298巌島(いはしま)の燃(も)ゆる火影(ひかげ)はあかあかと
299海底(うなぞこ)までも輝(かがや)きしはや』
300 斯(か)く各自(おのもおのも)御歌(みうた)詠(よ)ませつつ、301順風(じゆんぷう)に乗(の)り舟(ふね)の舳(へさき)を東南(とうなん)に向(む)け進(すす)ませ給(たま)ふ。
302(昭和八・一二・二五 旧一一・九 於大阪分院蒼雲閣 森良仁謹録)
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