霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二章 暗夜(やみよ)の邂逅(かいこう)〔五九二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第16巻 如意宝珠 卯の巻 篇:第1篇 神軍霊馬 よみ(新仮名遣い):しんぐんれいば
章:第2章 暗夜の邂逅 よみ(新仮名遣い):やみよのかいこう 通し章番号:592
口述日:1922(大正11)年04月05日(旧03月09日) 口述場所: 筆録者:藤津久子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年12月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
英子姫と悦子姫は、バラモンの捕り手から逃げて由良の港の手前の山道までやってきた。そこで偶然、亀彦の宣伝使と再会する。
その場には源洲、金洲という追いはぎがいた。亀彦は追いはぎたちを追い払い、三人はこれまでの旅の様子や神素盞嗚大神の行方について、情報を交換し合う。
そこへ再びバラモンの捕り手たちが大人数でやってきた。三人は奮戦して血路を開く。バラモンの捕り手たちはその勢いに辟易して逃げ散っていく。亀彦は西へ、英子姫と悦子姫は東へと走り去る。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-01-27 16:14:48 文字数:3002 OBC :rm1602
愛善世界社版:29頁 八幡書店版:第3輯 411頁 修補版: 校定版:30頁 普及版:12頁 初版: ページ備考:
001大江颪(おほえおろし)の凩(こがらし)に
002吹(ふ)かれて進(すす)む英子姫(ひでこひめ)
003神(かみ)に任(まか)せた身魂(みたま)には
004如何(いか)になろとも悦子姫(よしこひめ)
005爪先(つまさき)上(のぼ)りの山道(やまみち)を
006転(こけ)つまろびつ四辺(あたり)に心(こころ)を配(くば)りつつ
007鬼(おに)や大蛇(をろち)や曲津(まがつ)神(かみ)
008二人(ふたり)の乙女(おとめ)に怖(おそ)れてや
009谷(たに)の彼方(あなた)にコンコンと
010響(ひび)く狐(きつね)の叫(さけ)び声(ごゑ)
011人(ひと)も出(で)て来(こ)ん鬼(おに)も来(こ)ん
012こん輪奈落(りんならく)の底(そこ)迄(まで)も
013探(さが)し索(もと)めて父上(ちちうへ)に
014逢(あ)はずに此(この)儘(まま)置(お)くべきか
015運(はこ)ぶ足並(あしなみ)ゆらゆらと
016由良(ゆら)の港(みなと)の手前(てまへ)迄(まで)
017辿(たど)り来(きた)れる折柄(をりから)に
018闇(やみ)を通(とほ)して鳴(な)り響(ひび)く
019声(こゑ)も涼(すず)しき宣伝歌(せんでんか)
020道(みち)の傍(かたへ)の物影(ものかげ)に
021二人(ふたり)は立(た)ち寄(よ)り身(み)を忍(しの)び
022何人(なにびと)ならむと窺(うかが)へば
023夜目(よめ)には確(しか)と分(わか)らねど
024顕恩郷(けんおんきやう)にて別(わか)れたる
025印象(いんしやう)深(ふか)き宣伝使(せんでんし)
026万代(よろづよ)祝(いは)ふ亀彦(かめひこ)が
027神(かむ)素盞嗚(すさのを)の行衛(ゆくゑ)をば
028尋(たづ)ねて来(き)たる益良夫(ますらを)の
029凛々(りり)しき姿(すがた)の面影(おもかげ)に
030飛(と)び立(た)つ許(ばか)り英子姫(ひでこひめ)
031折(をり)も悦子(よしこ)の姫(ひめ)二人(ふたり)
032闇(やみ)の中(なか)より淑(しと)やかに
033かくる言葉(ことば)も震(ふる)ひ声(ごゑ)。
034英子姫(ひでこひめ)『モシモシ旅(たび)の御(お)方(かた)、035突然(とつぜん)乍(なが)ら物(もの)を御(お)尋(たづ)ねいたします。036妾(わらは)は女(をんな)の二人(ふたり)連(づれ)、037様子(やうす)あつて遠(とほ)き国(くに)より、038此(この)自転倒(おのころ)島(じま)の中心地(ちうしんち)にやうやう渡(わた)り着(つ)いたる、039孱弱(かよわ)き女(をんな)で御座(ござ)います。040貴方(あなた)は三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)では御座(ござ)いませぬか』
041 暗(くら)がりより突然(とつぜん)聞(きこ)ゆる女(をんな)の声(こゑ)に亀彦(かめひこ)は、042不審(ふしん)の眉(まゆ)を顰(ひそ)め乍(なが)らツト立(た)ち止(どま)り、043暫(しば)らく無言(むごん)の儘(まま)、044坂道(さかみち)に双手(もろで)を組(く)んで首(かうべ)を左(ひだり)に傾(かたむ)けながら、045糸(いと)の縺(もつ)れをとく心地(ここち)して、046古(ふる)き記憶(きおく)をたぐつてゐる。047たぐれどたぐれど容易(ようい)にとけぬ胸(むね)の縺(もつ)れ、048百条(ももすぢ)千条(ちすぢ)八千条(やちすぢ)の辻(つじ)に佇(たたず)み行手(ゆくて)に迷(まよ)ふが如(ごと)くなり。
049 暗(くら)がりより二人(ふたり)の女(をんな)の声(こゑ)として、
050二人『モシ旅(たび)の御(お)方(かた)、051御(ご)返事(へんじ)なきは妾(わらは)が知人(ちじん)に在(おは)さざりしか、052但(ただし)は女(をんな)盗賊(たうぞく)の出現(しゆつげん)と御(お)思召(ぼしめ)しての御(お)見違(みちが)ひか、053妾(わらは)は決(けつ)して怪(あや)しき女(をんな)には候(さふら)はず、054少(すこ)し以前(いぜん)、055竜燈松(りうとうまつ)の麓(ふもと)に於(おい)て怪(あや)しき人影(ひとかげ)に出会(であ)ひ、056漸(やうや)く此処(ここ)に遁(のが)れ来(きた)りし者(もの)で御座(ござ)います。057御(お)差支(さしつかへ)無(な)くば御(おん)名(な)を名告(なのら)せ給(たま)へ』
058亀彦(かめひこ)『何(なん)となく聞(き)き覚(おぼ)えのある御(お)声(こゑ)なれど、059少(すこ)しく心(こころ)の沈(しづ)む事(こと)有之候(これありさふら)へば、060容易(ようい)に記憶(きおく)の浮(う)かび出(い)で申(まを)さず、061願(ねが)はくは御(お)二人(ふたり)のネームを名告(なのら)せ給(たま)へ』
062 暗(くら)がりの中(なか)より頓狂(とんきやう)な声(こゑ)、
063金州(きんしう)『やア何(なん)ぢや、064道(みち)の真中(まんなか)に立(た)ちはだかりやがつて、065ネームぢやの、066ねるだのと怪体(けつたい)な代物(しろもの)だ。067オイ源州(げんしう)、068一寸(ちよつと)起(お)きぬかい。069怪体(けつたい)な奴(やつ)が来居(きを)つたぢやないか』
070源州(げんしう)『ウウ、071ムニヤムニヤムニヤムニヤ』
072金州(きんしう)『オイ源州(げんしう)、073大変(たいへん)だぞ』
074源州(げんしう)『ウヽヽヽウン何(なん)だ、075喧(やかま)しい哩(わい)。076金州(きんしう)の奴(やつ)、077葬礼(さうれん)の家(いへ)へ出会(でくは)して沢山(どつさり)と御(ご)馳走(ちそう)を頂(いただ)き掛(かか)つた最中(さいちう)に揺(ゆす)り起(お)こしやがつて、078さア罰金(ばつきん)だ、079御(ご)馳走(ちそう)の損害(そんがい)賠償(ばいしやう)を請求(せいきう)するぞ。080アヽ眠(ねむ)い眠(ねむ)い』
081金州(きんしう)『あちらにも眠(ねむ)い、082こちらにも眠(ねむ)い、083やア一向(いつかう)訳(わけ)が分(わか)らぬ様(やう)になつて来(き)た哩(わい)。084如何(いか)に夢(ゆめ)の浮世(うきよ)だと云(い)つても、085大江山(おほえやま)に鬼雲彦(おにくもひこ)と云(い)ふ変(へん)な奴(やつ)が現(あら)はれた世(よ)の中(なか)だから、086夜中(やちう)は化物(ばけもの)が現(あら)はれて、087天(てん)を枕(まくら)に縦(たて)に寝(ね)る奴(やつ)が出(で)て来(き)たのかな。088オイ源州(げんしう)、089起(おき)ぬかい、090幸(さいは)ひ夜半(よなか)の事(こと)であり、091対方(むかふ)は只(たつた)一人(ひとり)、092片一方(かたいつぱう)は壁(かべ)の様(やう)な絶壁(ぜつぺき)だ。093片一方(かたいつぱう)は断崖(だんがい)、094おまけに荒波(あらなみ)猛(たけ)る海(うみ)と来(き)てるのだから、095斯(か)う云(い)う時(とき)に一(ひと)つ追剥(おひはぎ)の練習(れんしふ)でもやらねば、096やる時(とき)が無(な)いぞ。097サア起(お)きた起(お)きた。098コラコラ、099ネーム、100貴様(きさま)の持物(もちもの)を綺麗(きれい)薩張(さつぱり)と此(この)場(ば)で脱(ぬ)いて金(きん)さまに呉(く)れないか』
101亀彦(かめひこ)『生憎(あひにく)長(なが)の道中(だうちう)で懐中(くわいちゆう)欠乏(けつぼふ)、102金(きん)サンに縁(えん)が薄(うす)い哩(わい)。103アハヽヽヽ』
104二人(ふたり)の女(をんな)『オホヽヽヽ、105オホヽヽヽ』
106 源州(げんしう)は、107ヌツと起(お)き上(あが)り乍(なが)ら、
108源州『そら薩張(さつぱり)源助(げんすけ)だ、109何(なん)だ、110男(をとこ)の声(こゑ)かと思(おも)へば忽(たちま)ち変(へん)じて女(をんな)の声(こゑ)、111曲神(まがかみ)の奴(やつ)、112味(あぢ)好(よ)うやり居(を)る哩(わい)』
113亀彦(かめひこ)『源(げん)、114金(きん)は持(も)つて居(を)らぬ。115其(その)代(かは)りに拳骨(げんこ)を呉(く)れてやらうかい』
116(拳骨(げんこ)といへば此(この)地方(ちはう)では、117固(かた)い握(にぎ)り飯(めし)の代名詞(だいめいし)である)
118源州(げんしう)『ヤアそりや気(き)がきいて居(を)る。119有難(ありがた)い、120いくらでも遠慮(ゑんりよ)は致(いた)さぬ。121一体(いつたい)いくら持(も)つて居(を)るか、122ヤイ金州(きんしう)、123貴様(きさま)も金(かね)の代(かは)りに拳骨(げんこ)でも沢山(どつさり)と頂戴(ちやうだい)したらどうだ』
124金州(きんしう)『よう、125そりや有難(ありがた)いな、126モシモシ旅(たび)の御(お)方(かた)、127本当(ほんたう)に下(くだ)さいますか。128貰(もら)ふのは私(わたくし)は結構(けつこう)だが、129貴方(あなた)のお腹(なか)が空(す)きませう。130二(ふた)つ三(み)つ残(のこ)して、131残(あと)は下(くだ)さいませ』
132亀彦(かめひこ)『やア俺(おれ)の拳骨(げんこ)は無尽蔵(むじんざう)だ。133望(のぞ)みとあらば百(ひやく)でも千(せん)でも一万(いちまん)でも呉(く)れてやらう。134さア顔(かほ)を出(だ)せ、135頬(ほほ)ぺたを向(む)け、136近(ちか)く寄(よ)れ、137何(なん)だか薄暗(うすぐら)くて見当(けんたう)がとれない様(やう)だ』
138(この地方(ちはう)にては間食(かんしよく)を、139けんとうといふ)
140源州(げんしう)『見当(けんたう)が之(これ)でやつと取(と)れました。141成(な)るべくは手(て)に下(くだ)さいな。142頬(ほほ)ぺたに貰(もら)ふのは、143口(くち)に近(ちか)うて好(よ)い様(やう)なものの、144若(も)しも転(ころ)げて落(お)ちたら勿体(もつたい)ないからな』
145 亀彦(かめひこ)は、146声(こゑ)する方(はう)に向(むか)つて拳骨(げんこつ)を固(かた)め、
147亀彦(かめひこ)『サア盗賊(どろばう)奴(め)、148これを喰(くら)へ』
149と滅多(めつた)矢鱈(やたら)に乱打(らんだ)すれば、
150源州(げんしう)『アイタヽヽヽ、151之(これ)は又(また)大変(たいへん)な固(かた)い拳骨(げんこ)で御座(ござ)いますナ。152暗(くら)がりで何処(どこ)へ落(お)ちよつたか薩張(さつぱり)分(わか)らぬ様(やう)になつて了(しま)つた。153同(おな)じ貰(もら)ふのならソツと手(て)に乗(の)せて下(くだ)さると宜(よ)いになア』
154亀彦(かめひこ)『不届(ふとどき)な泥坊(どろばう)奴(め)、155グヅグヅ吐(ぬか)すと踏(ふ)み蹂(にじ)り握(にぎ)り潰(つぶ)してやらうか』
156源州(げんしう)『アヽ勿体(もつたい)ない、157目(め)が潰(つぶ)れますぜ。158結構(けつこう)な握(にぎ)り飯(めし)を踏(ふ)み蹂(にじ)つたり、159握(にぎ)り潰(つぶ)したりすると、160百姓(ひやくしやう)が汗水(あせみづ)垂(た)らして、161やつと作(つく)つた其(その)米(こめ)を、162そう粗末(そまつ)にするものぢやありませぬで』
163英子姫(ひでこひめ)『ホヽヽヽヽ』
164悦子姫(よしこひめ)『ホヽヽヽヽ』
165金州(きんしう)『イヤ何(なに)だ、166此奴(こいつ)化物(ばけもの)だな。167声(こゑ)を三(みつ)つにも使(つかひ)分(わ)けしやがつて、168男(をとこ)になつたり女(をんな)になつたり、169莫迦(ばか)にするない。170大方(おほかた)団子石(だんごいし)を、171握(にぎ)り飯(めし)だナンテ吐(ぬか)して、172俺(おれ)に打付(ぶつつ)けよつたのだな、173道理(だうり)で痛(いた)いと思(おも)つた』
174亀彦(かめひこ)『アハヽヽヽヽ』
175二女(にぢよ)『ホヽヽヽヽ』
176金州(きんしう)『ヤア此奴(こいつ)は愈(いよいよ)バの字(じ)にケの字(じ)だ。177オイ源州(げんしう)、178命(いのち)あつての物種(ものだね)だ、179逃(に)げろ逃(に)げろ』
180と暗(くら)がりの中(なか)を横(よこ)になつて、181団子(だんご)を転(ころ)がした様(やう)に転(ころ)げ逃(に)げ行(ゆ)く。
182亀彦(かめひこ)『アハヽヽヽ、183妙(めう)な乞食(こじき)が居(を)つたものだ、184イヤ併(しか)し乍(なが)ら是(これ)から先(さき)は危険(きけん)区域(くゐき)だ、185気(き)を付(つ)けねばなるまい。186モシモシお女中(ぢよちう)さま、187貴女(あなた)は何(いづ)れの方(かた)で御座(ござ)るかナ』
188英子姫(ひでこひめ)『是非(ぜひ)に及(およ)ばぬ、189申上(まをしあ)げませう。190妾(わらは)は素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)の娘(むすめ)英子姫(ひでこひめ)で御座(ござ)います。191一人(ひとり)は召使(めしつかひ)の悦子姫(よしこひめ)で御座(ござ)います』
192亀彦(かめひこ)『如何(いか)にも紛(まが)ふ方(かた)なき其(その)御(おん)声(こゑ)、193これはこれは暗夜(やみよ)の事(こと)とて失礼(しつれい)を致(いた)しました。194私(わたくし)は御存(ごぞん)じの亀彦(かめひこ)で御座(ござ)います』
195英子姫(ひでこひめ)『ソンナラ貴方(あなた)は、196妹(いもうと)菊子姫(きくこひめ)の夫(をつと)、197思(おも)はぬ処(ところ)でお目(め)に掛(かか)り大(おほ)いに力(ちから)を得(え)ました。198して又(また)こちらへ御(お)出(い)でになつたのは、199如何(どう)いふお考(かんが)へで』
200亀彦(かめひこ)『申上(まをしあ)げ難(にく)い事(こと)乍(なが)ら、201御(おん)父上(ちちうへ)様(さま)は高天原(たかあまはら)の事変(じへん)より、202千座(ちくら)の置戸(おきど)を負(お)はせ給(たま)ひ、203世界(せかい)漂泊(さすらひ)の旅(たび)にお出(で)ましになりました。204私(わたくし)は斎苑(いそ)の山(やま)の頂(いただき)に於(おい)て、205御(おん)父上(ちちうへ)の御(ご)消息(せうそく)を知(し)り、206自転倒(おのころ)島(じま)にお下(くだ)り遊(あそ)ばしたと聞(き)いた故(ゆゑ)、207はるばると荒海(あらうみ)を渡(わた)り、208漸(やうや)く由良(ゆら)の港(みなと)に着(つ)いて御(おん)所在(ありか)を尋(たづ)ねむものと此処迄(ここまで)参(まゐ)りました途中(とちう)で御座(ござ)います。209噂(うはさ)に聞(き)けば、210父(ちち)大神(おほかみ)様(さま)は大江山(おほえやま)の魔神(まがみ)の捕手(とりて)に御(おん)捕(とら)はれの御(お)身(み)の上(うへ)、211併(しか)し乍(なが)ら亀彦(かめひこ)が参(まゐ)りました以上(いじやう)は必(かなら)ず御(ご)心配(しんぱい)なさいますな。212屹度(きつと)救(すく)ひ出(だ)して御覧(ごらん)に入(い)れます』
213 此(この)時(とき)傍(かたはら)の木(き)の茂(しげ)みの中(なか)より、214二三十(にさんじふ)人(にん)の男(をとこ)が三(さん)人(にん)の前(まへ)に立(た)ち現(あら)はれ、
215男『ヤア其(その)方(はう)は素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)の一味(いちみ)の奴(やつ)ばら、216最前(さいぜん)からの汝(なんぢ)等(ら)三(さん)人(にん)が囁(ささや)き話(ばなし)、217木蔭(こかげ)に忍(しの)び残(のこ)らず聞(き)いた。218さア此(この)上(うへ)は搦(から)め取(と)つて大江山(おほえやま)の砦(とりで)に連(つ)れ帰(かへ)らむ、219覚悟(かくご)を致(いた)せ』
220と闇(やみ)に閃(ひらめ)く氷(こほり)の刃(やいば)、221四方(しはう)八方(はつぱう)より突(つ)き掛(かか)る。222三(さん)人(にん)は両刃(もろは)の短刀(たんたう)をヒラリと抜(ぬ)き放(はな)ち、
223三人『何(なに)猪口才(ちよこざい)な、224木(こ)ツ端(ぱ)武者(むしや)』
225と獅子(しし)奮迅(ふんじん)の勢(いきほひ)にて防(ふせ)ぎ戦(たたか)ふ。226数十(すうじふ)人(にん)の捕手(とりて)はドツと寄(よ)せては、227又(また)もやドツと逃(に)げ、228寄(よ)せては返(かへ)す磯(いそ)の波(なみ)、229四辺(あたり)に響(ひび)く剣戟(けんげき)の音(おと)。
230亀彦(かめひこ)『斯(か)かる悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)の魔神(まがみ)に対(たい)しては、231善言(ぜんげん)美詞(びし)の言霊(ことたま)を以(もつ)て打(う)ち向(むか)ふは勿体(もつたい)なし、232懲(こら)しめの為(ため)、233斬(き)つて斬(き)つて斬(き)り捨(す)てむ』
234と阿修羅(あしゆら)王(わう)の如(ごと)く暴(あ)れ狂(くる)ふ。235敵(てき)は二(ふた)つに別(わか)れて、236雲(くも)を霞(かすみ)と逃(に)げて行(ゆ)く。
237 亀彦(かめひこ)は坂(さか)を下(くだ)つて西(にし)へ西(にし)へと走(はし)り行(ゆ)く。238一方(いつぱう)英子姫(ひでこひめ)、239悦子姫(よしこひめ)は攻(せ)め来(く)る敵(てき)に向(むか)つて華々(はなばな)しく戦(たたか)へば流石(さすが)の魔神(まがみ)も敵(てき)しかね、240東(ひがし)を指(さ)して駆(か)け出(だ)したり。241二人(ふたり)は一生(いつしやう)懸命(けんめい)後(あと)を追(お)ひ行(ゆ)きぬ。242アヽ此(この)結果(けつくわ)はどうなるであらう。
243(大正一一・四・五 旧三・九 藤津久子録)
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