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霊界物語
如意宝珠(第13~24巻)
第16巻(卯の巻)
序文
凡例
総説歌
第1篇 神軍霊馬
第1章 天橋立
第2章 暗夜の邂逅
第3章 門番の夢
第4章 夢か現か
第5章 秋山館
第6章 石槍の雨
第7章 空籠
第8章 衣懸松
第9章 法螺の貝
第10章 白狐の出現
第2篇 深遠微妙
第11章 宝庫の鍵
第12章 捜索隊
第13章 神集の玉
第14章 鵜呑鷹
第15章 谷間の祈
第16章 神定の地
第17章 谷の水
第3篇 真奈為ケ原
第18章 遷宅婆
第19章 文珠如来
第20章 思はぬ歓
第21章 御礼参詣
跋
霊の礎(一)
霊の礎(二)
余白歌
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霊界物語
>
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>
第16巻(卯の巻)
> 第3篇 真奈為ケ原 > 第20章 思はぬ歓
<<< 文珠如来
(B)
(N)
御礼参詣 >>>
第二〇章
思
(
おも
)
はぬ
歓
(
よろこび
)
〔六一〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第16巻 如意宝珠 卯の巻
篇:
第3篇 真奈為ケ原
よみ(新仮名遣い):
まないがはら
章:
第20章 思はぬ歓
よみ(新仮名遣い):
おもわぬよろこび
通し章番号:
610
口述日:
1922(大正11)年04月16日(旧03月20日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年12月25日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
落下した火団は大小無数の宝玉となると、悦子姫の体に吸収された。悦子姫は得も言われぬ神格と威厳を身につけた。そして、自分は日の出神の神霊を身に浴び、これより一人真名井ケ嶽に向かって進むと宣言して姿が見えなくなってしまった。
悦子姫に行かれてしまった一同は茫然とするが、鬼虎は仲間とおかしな掛け合いをしている。そのうちに夜が明けて、とにかく先へ進もうと一同は岩滝めがけて走り出した。
岩公は地理を知っているため、川から舟で先に回った。岩公の案内で、一行は日暮れ前に比治山の手前についた。
一行は近くの家に一夜の宿を乞いに行く。そこは去年、鬼虎たちが悪を働き、娘をさらっていった平助とお楢の家であった。平助爺は警戒して一行を泊めようとしない。
岩公は、鬼虎、鬼彦らの悪行のせいで断られるのだ、と非難する。そこへ、悦子姫が一人の娘を連れてやってきた。それはこの家のさらわれた娘・お節であった。平助とお楢は孫娘が帰ってきたのを見て喜んだ。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-02-10 17:31:48
OBC :
rm1620
愛善世界社版:
253頁
八幡書店版:
第3輯 495頁
修補版:
校定版:
258頁
普及版:
115頁
初版:
ページ備考:
001
竜灯松
(
りうとうまつ
)
の
麓
(
ふもと
)
に
落下
(
らくか
)
し
爆発
(
ばくはつ
)
したる
大火光
(
だいくわくわう
)
団
(
だん
)
は
大小
(
だいせう
)
無数
(
むすう
)
の
玉
(
たま
)
となり、
002
見
(
み
)
る
見
(
み
)
る
容積
(
ようせき
)
を
減
(
げん
)
じ
遂
(
つひ
)
には
小
(
ちひ
)
さき、
003
金
(
きん
)
、
004
銀
(
ぎん
)
、
005
水晶
(
すゐしやう
)
、
006
瑠璃
(
るり
)
、
007
瑪瑙
(
めなう
)
、
008
硨磲
(
しやこ
)
、
009
翡翠
(
ひすい
)
の
如
(
ごと
)
き
光玉
(
くわうぎよく
)
となり、
010
珠数繋
(
じゆずつな
)
ぎとなつて
悦子姫
(
よしこひめ
)
の
全身
(
ぜんしん
)
を
囲繞
(
ゐぜう
)
し
忽
(
たちま
)
ち
体内
(
たいない
)
に
吸収
(
きふしう
)
されし
如
(
ごと
)
く
残
(
のこ
)
らず
浸潤
(
しんじゆん
)
し
了
(
をは
)
りける。
011
其
(
その
)
刹那
(
せつな
)
悦子姫
(
よしこひめ
)
は
得
(
え
)
も
云
(
い
)
はれぬ
神格
(
しんかく
)
加
(
くは
)
はり
優
(
やさ
)
しき
中
(
うち
)
に
冒
(
をか
)
すべからざる
威厳
(
ゐげん
)
を
備
(
そな
)
へ、
012
言葉
(
ことば
)
さへ
頓
(
とみ
)
に
荘重
(
さうちよう
)
の
度
(
ど
)
を
加
(
くは
)
へて、
013
一見
(
いつけん
)
別人
(
べつじん
)
の
如
(
ごと
)
く
思
(
おも
)
はれ、
014
無限
(
むげん
)
の
霊光
(
れいくわう
)
を
全身
(
ぜんしん
)
より
発射
(
はつしや
)
するに
至
(
いた
)
りぬ。
015
一同
(
いちどう
)
は
驚異
(
きやうい
)
の
眼
(
まなこ
)
を
見張
(
みは
)
り
頭
(
あたま
)
を
傾
(
かたむ
)
け
口
(
くち
)
を
極
(
きは
)
めて
讃嘆
(
さんたん
)
する。
016
悦子姫
(
よしこひめ
)
は
儼然
(
げんぜん
)
として
立上
(
たちあが
)
り、
017
悦子姫
『ハア
一同
(
いちどう
)
の
方々
(
かたがた
)
、
018
妾
(
わらは
)
は
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
神霊
(
しんれい
)
を
身
(
み
)
に
浴
(
あ
)
びました。
019
之
(
これ
)
より
真名井
(
まなゐ
)
ケ
嶽
(
だけ
)
に
向
(
むか
)
つて
進
(
すす
)
みませう。
020
前途
(
ぜんと
)
には
大江山
(
おほえやま
)
の
魔神
(
まがみ
)
の
残党
(
ざんたう
)
、
021
処々
(
ところどころ
)
に
散在
(
さんざい
)
し
居
(
を
)
れば、
022
何
(
いづ
)
れも
十二分
(
じふにぶん
)
の
御
(
ご
)
注意
(
ちうい
)
あれ、
023
妾
(
わらは
)
は
之
(
これ
)
より
一足先
(
ひとあしさき
)
に
参
(
まゐ
)
ります、
024
左様
(
さやう
)
なら』
025
と
云
(
い
)
ふより
早
(
はや
)
く、
026
矢
(
や
)
を
射
(
い
)
る
如
(
ごと
)
く
見
(
み
)
る
見
(
み
)
る
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
したりける。
027
後
(
あと
)
見送
(
みおく
)
つて
一同
(
いちどう
)
は、
028
アーアーアーと
歎息
(
たんそく
)
の
息
(
いき
)
を
漏
(
もら
)
すのみなりき。
029
音彦
(
おとひこ
)
『
折角
(
せつかく
)
此処迄
(
ここまで
)
同道
(
どうどう
)
申
(
まを
)
して
来
(
き
)
たのに、
030
悦子姫
(
よしこひめ
)
さまは
無限
(
むげん
)
の
神徳
(
しんとく
)
を
身
(
み
)
に
浴
(
あ
)
び、
031
吾々
(
われわれ
)
を
後
(
あと
)
に
残
(
のこ
)
して
御
(
ご
)
出発
(
しゆつぱつ
)
になつた。
032
随分
(
ずゐぶん
)
拍子抜
(
へうしぬ
)
けのしたものだ。
033
万緑
(
ばんりよく
)
叢中
(
そうちう
)
紅一点
(
こういつてん
)
のナイス、
034
花
(
はな
)
を
欺
(
あざむ
)
く
悦子姫
(
よしこひめ
)
さまに
放
(
ほ
)
つとけぼりを
喰
(
く
)
はされて
好
(
よ
)
い
面
(
つら
)
の
皮
(
かは
)
だ、
035
七
(
しち
)
尺
(
しやく
)
の
男子
(
だんし
)
殆
(
ほとん
)
ど
顔色
(
がんしよく
)
なしで
御座
(
ござ
)
る
哩
(
わい
)
』
036
岩公
(
いはこう
)
『
本当
(
ほんたう
)
にさうだなア、
037
せめて
岩公
(
いはこう
)
だけなりともお
伴
(
とも
)
につれて
行
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さりさうなものだのに、
038
余
(
あま
)
り
水臭
(
みづくさ
)
いなア』
039
音彦
(
おとひこ
)
『お
前
(
まへ
)
のやうな
純朴
(
じゆんぼく
)
な
人間
(
にんげん
)
は
間
(
ま
)
に
合
(
あ
)
はないから、
040
連
(
つ
)
れて
行
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さらないワ、
041
音彦
(
おとひこ
)
でさへも、
042
置去
(
おきざ
)
りに
遇
(
あ
)
うたのだもの』
043
岩公
(
いはこう
)
『
生
(
うま
)
れ
赤子
(
あかご
)
のやうな、
044
貴方
(
あなた
)
の
仰
(
おほせ
)
の
通
(
とほ
)
り
純朴
(
じゆんぼく
)
な
吾々
(
われわれ
)
を
何故
(
なぜ
)
連
(
つ
)
れて
行
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さらないのだらうなア』
045
鬼虎
(
おにとら
)
『
岩公
(
いはこう
)
、
046
貴様
(
きさま
)
は
余程
(
よほど
)
お
目出度
(
めでた
)
い
奴
(
やつ
)
だ、
047
音彦
(
おとひこ
)
さまが
純朴
(
じゆんぼく
)
と
仰有
(
おつしや
)
つたのは、
048
間
(
ま
)
の
抜
(
ぬ
)
けた
人
(
ひと
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
婉曲
(
ゑんきよく
)
に
善言
(
ぜんげん
)
美詞
(
びし
)
に
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
されたのだよ。
049
約
(
つま
)
り
純朴
(
じゆんぼく
)
と
云
(
い
)
ふのは
社会
(
しやくわい
)
の
訓練
(
くんれん
)
を
経
(
へ
)
ない、
050
元始
(
げんし
)
的
(
てき
)
の
犬猫
(
いぬねこ
)
同様
(
どうやう
)
の
人間
(
にんげん
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だよ』
051
岩公
(
いはこう
)
『
馬鹿
(
ばか
)
云
(
い
)
ふな、
052
音彦
(
おとひこ
)
さまは
蹴爪
(
けづめ
)
の
生
(
は
)
えた
宣伝使
(
せんでんし
)
だ、
053
三五教
(
あななひけう
)
の
骨董品
(
こつとうひん
)
的
(
てき
)
苔
(
こけ
)
の
生
(
は
)
えた、
054
洗錬
(
せんれん
)
に
洗錬
(
せんれん
)
を
加
(
くは
)
えた、
055
押
(
おし
)
も
押
(
おさ
)
れもせぬ
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
ぢや。
056
滅多
(
めつた
)
の
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
るものか、
057
オイ
鬼虎
(
おにとら
)
、
058
それはお
前
(
まへ
)
の
僻
(
ひが
)
み
根性
(
こんじやう
)
と
云
(
い
)
ふものだよ。
059
この
岩公
(
いはこう
)
は
斯
(
か
)
う
見
(
み
)
えても、
060
何事
(
なにごと
)
も
善意
(
ぜんい
)
に
解釈
(
かいしやく
)
するのだ、
061
物事
(
ものごと
)
を
悪意
(
あくい
)
に
取
(
と
)
れば
何
(
なに
)
も
皆
(
みな
)
悪
(
あく
)
になつて
仕舞
(
しま
)
ふワ、
062
貴様
(
きさま
)
は
改心
(
かいしん
)
の
坂
(
さか
)
が
越
(
こ
)
えられぬと
見
(
み
)
えるワイ』
063
鬼虎
(
おにとら
)
『それでも
岩公
(
いはこう
)
、
064
よく
考
(
かんが
)
へてみよ、
065
不思議
(
ふしぎ
)
千万
(
せんばん
)
の
事
(
こと
)
許
(
ばか
)
りぢやないか、
066
火
(
ひ
)
の
玉
(
たま
)
が
幾
(
いく
)
つとも
数
(
かず
)
限
(
かぎ
)
りなく
分離
(
ぶんり
)
して、
067
終
(
しまひ
)
の
果
(
はて
)
には
容貌
(
みめかたち
)
の
麗
(
うるは
)
しき
悦子姫
(
よしこひめ
)
さまに、
068
皆
(
みな
)
染着
(
せんちやく
)
して
仕舞
(
しま
)
つたぢやないか、
069
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御霊
(
みたま
)
でも
矢張
(
やはり
)
吾々
(
われわれ
)
のやうな
形
(
かたち
)
の
汚
(
きたな
)
い、
070
魂
(
たま
)
の
美
(
うつく
)
しい
奴
(
やつ
)
よりも、
071
姿
(
すがた
)
の
綺麗
(
きれい
)
なナイスがお
好
(
すき
)
だと
見
(
み
)
える、
072
あゝコンナ
事
(
こと
)
ならなぜ
女
(
をんな
)
に
生
(
うま
)
れて
来
(
こ
)
なかつたらう、
073
エヽ
天地
(
てんち
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
も
聞
(
きこ
)
えませぬ
哩
(
わい
)
、
074
父
(
とと
)
さま、
075
母
(
かか
)
さま、
076
何故
(
なぜ
)
私
(
わたくし
)
を
絶世
(
ぜつせい
)
のナイスに
生
(
う
)
みて
下
(
くだ
)
さらなかつたのです、
077
お
恨
(
うら
)
めしう
御座
(
ござ
)
います、
078
オンオンオン』
079
鬼彦
(
おにひこ
)
『アハヽヽヽ、
080
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬか
)
すのだい
鬼虎
(
おにとら
)
の
奴
(
やつ
)
、
081
お
岩
(
いは
)
の
幽霊
(
いうれい
)
の
様
(
やう
)
な
面
(
つら
)
をして、
082
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
申
(
まを
)
すに
及
(
およ
)
ばず、
083
大江山
(
おほえやま
)
のお
化
(
ばけ
)
だつて
貴様
(
きさま
)
の
御
(
ご
)
面相
(
めんさう
)
を
見
(
み
)
たら、
084
二
(
に
)
の
足
(
あし
)
も
三
(
さん
)
の
足
(
あし
)
もふむに
極
(
きま
)
つて
居
(
ゐ
)
るワイ、
085
ソンナ
謀反気
(
むほんぎ
)
を
出
(
だ
)
さずに、
086
神妙
(
しんめう
)
に、
087
醜面児
(
ひよつとこ
)
は
醜面児
(
ひよつとこ
)
らしくして
居
(
を
)
るのだよ』
088
鬼虎
(
おにとら
)
『エヽ
一
(
ひと
)
つ
云
(
い
)
うては
一
(
ひと
)
つ
かち
込
(
こ
)
まれ、
089
俺
(
おれ
)
の
身
(
み
)
になつて
見
(
み
)
て
呉
(
く
)
れてもよいぢやないか。
090
隣
(
となり
)
のお
多福
(
かめ
)
には
肱鉄砲
(
ひぢでつぱう
)
を
喰
(
くら
)
ひ、
091
お
八
(
やつ
)
には
尻
(
しり
)
をふられ、
092
嬶
(
かかあ
)
にや
逃
(
に
)
げられ、
093
何
(
なん
)
とした
因果
(
いんぐわ
)
な
生
(
うま
)
れ
付
(
つき
)
だらう、
094
俺
(
おれ
)
が
三五教
(
あななひけう
)
の
信者
(
しんじや
)
になつたのもどうぞして
美
(
うつく
)
しい
男
(
をとこ
)
になり、
095
天下
(
てんか
)
のナイスをして、
096
此
(
この
)
鬼虎
(
おにとら
)
に
視線
(
しせん
)
を
集注
(
しふちう
)
させようと
思
(
おも
)
ふばかりに
入信
(
にふしん
)
したのだ。
097
アーアー、
098
神
(
かみ
)
さまも
顔
(
かほ
)
や
姿
(
すがた
)
ばかりは
何
(
ど
)
うする
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ぬのかなア、
099
情
(
なさけ
)
ない、
100
コンナ
事
(
こと
)
なら
死
(
し
)
ンだが
増
(
まし
)
だワイ』
101
一同
(
いちどう
)
『アハヽヽヽ』
102
鬼虎
(
おにとら
)
『ヤイヤイ、
103
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は
何
(
なに
)
を
笑
(
わら
)
ふのだ、
104
俺
(
おれ
)
はこれでも
真剣
(
しんけん
)
だぞ、
105
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
になつてるのだ、
106
余
(
あんま
)
り
馬鹿
(
ばか
)
にして
貰
(
もら
)
ふまいかい』
107
鬼彦
(
おにひこ
)
『
憂愁
(
いうしう
)
煩悶
(
はんもん
)
の
権利
(
けんり
)
は
貴様
(
きさま
)
の
自由
(
じいう
)
だ、
108
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
は
別
(
べつ
)
に
圧迫
(
あつぱく
)
もせなければ
干渉
(
かんせう
)
もせないよ、
109
力
(
ちから
)
一
(
いつ
)
ぱい
愁歎場
(
しうたんば
)
の
幕
(
まく
)
を
開
(
ひら
)
いて
吾々
(
われわれ
)
一同
(
いちどう
)
に、
110
永当
(
えいたう
)
々々
(
えいたう
)
御
(
ご
)
観覧
(
くわんらん
)
に
供
(
きよう
)
するのがよからうよ、
111
観覧
(
くわんらん
)
するのもせぬのも
吾々
(
われわれ
)
の、
112
これ
又
(
また
)
自由
(
じいう
)
権利
(
けんり
)
だ、
113
アハヽヽヽ』
114
音彦
(
おとひこ
)
『ヤア、
115
からりと
夜
(
よ
)
が
明
(
あ
)
けた、
116
サア
日輪
(
にちりん
)
様
(
さま
)
を
背
(
せ
)
に
負
(
お
)
うて、
117
又
(
また
)
テク
の
継続
(
けいぞく
)
事業
(
じげふ
)
をやらうかなア』
118
加米彦
(
かめひこ
)
『サア、
119
竜灯松
(
りうとうまつ
)
を
基点
(
きてん
)
として
岩滝
(
いはたき
)
迄
(
まで
)
、
120
マラソン
競争
(
きやうそう
)
だ。
121
腹帯
(
はらおび
)
を
確
(
しつか
)
り
締
(
し
)
めて、
122
草鞋
(
わらぢ
)
を
確
(
しつか
)
り
結
(
むす
)
び、
123
中途
(
ちうと
)
に
落伍
(
らくご
)
しないやうに、
124
駆歩
(
かけあし
)
だ。
125
オイチ
二
(
に
)
三
(
さん
)
』
126
一同
(
いちどう
)
は
岩滝
(
いはたき
)
目蒐
(
めが
)
けて
膝栗毛
(
ひざくりげ
)
に
鞭打
(
むちう
)
ち、
127
一目散
(
いちもくさん
)
に
走
(
はし
)
り
行
(
ゆ
)
く。
128
岩公
(
いはこう
)
、
129
後方
(
うしろ
)
より、
130
岩公
『オイオイ
待
(
ま
)
つて
呉
(
く
)
れ、
131
俺
(
おれ
)
一人
(
ひとり
)
遺
(
おと
)
して
行
(
ゆ
)
くのか、
132
折角
(
せつかく
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
がお
造
(
つく
)
り
遊
(
あそ
)
ばした
大切
(
たいせつ
)
な
人間
(
にんげん
)
様
(
さま
)
を、
133
粗末
(
そまつ
)
にして
道
(
みち
)
の
端
(
はた
)
に
零
(
こぼ
)
して
置
(
お
)
くと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるものかい、
134
オイオイ
人間
(
にんげん
)
一匹
(
いつぴき
)
袂
(
たもと
)
にでも
入
(
い
)
れて
一緒
(
いつしよ
)
に
走
(
はし
)
つて
呉
(
く
)
れい、
135
俺
(
おれ
)
は
何
(
ど
)
うしたものか
交通
(
かうつう
)
機関
(
きくわん
)
の
何処
(
どこ
)
かに
損傷
(
そんしやう
)
を
来
(
きた
)
したと
見
(
み
)
えて、
136
テクれない
哩
(
わい
)
』
137
一同(?)
『エイ
喧
(
やかま
)
しい
云
(
い
)
ふな、
138
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
して
居
(
ゐ
)
ると
決勝点
(
けつしようてん
)
を
人
(
ひと
)
に
して
やられる
哩
(
わい
)
』
139
と
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
後
(
あと
)
をも
見
(
み
)
ず
雲
(
くも
)
を
霞
(
かすみ
)
と
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
したり。
140
岩公
(
いはこう
)
『アヽ、
141
馬鹿
(
ばか
)
ぢやなア、
142
為
(
せ
)
いでも
好
(
よ
)
い
辛労
(
しんらう
)
をしよつて、
143
此処
(
ここ
)
から
船
(
ふね
)
に
乗
(
の
)
つて
天
(
あま
)
の
橋立
(
はしだて
)
を
越
(
こ
)
え
岩滝
(
いはたき
)
へお
先
(
さき
)
にご
安着
(
あんちやく
)
だ。
144
一
(
ひと
)
つ
皆
(
みな
)
の
奴
(
やつ
)
を
威嚇
(
おどか
)
して
度肝
(
どぎも
)
を
抜
(
ぬ
)
いてやらうかな』
145
と
云
(
い
)
ひつつ
岩公
(
いはこう
)
は
松
(
まつ
)
の
下
(
した
)
に
繋
(
つな
)
ぎある
船
(
ふね
)
の
綱
(
つな
)
を
解
(
ほど
)
き、
146
鱸
(
ろ
)
を
操
(
あやつ
)
りながら
岩滝
(
いはたき
)
指
(
さ
)
して
悠々
(
いういう
)
と
辷
(
すべ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
147
船
(
ふね
)
は
漸
(
やうや
)
く
岩滝
(
いはたき
)
に
着
(
つ
)
きぬ。
148
岩公
(
いはこう
)
『アヽ
智慧
(
ちゑ
)
の
足
(
た
)
らぬ
奴
(
やつ
)
は
可憐
(
かはい
)
さうなものだワイ、
149
この
岩公
(
いはこう
)
は
昔
(
むかし
)
船頭
(
せんどう
)
をして
居
(
を
)
つたお
蔭
(
かげ
)
で
地理
(
ちり
)
に
精
(
くは
)
しい。
150
弓
(
ゆみ
)
と
弦
(
つる
)
程
(
ほど
)
違
(
ちが
)
ふ
道程
(
みちのり
)
、
151
何程
(
なにほど
)
走
(
はし
)
つたつて
追
(
お
)
ひ
着
(
つ
)
きつこがあるものか、
152
マア
悠
(
ゆつ
)
くりと
成相山
(
なりあひざん
)
にでも
登
(
のぼ
)
つて
股覗
(
またのぞ
)
きでもしてやらうかい』
153
斯
(
か
)
かる
所
(
ところ
)
へ
音彦
(
おとひこ
)
一行
(
いつかう
)
は
息
(
いき
)
せき
切
(
き
)
つて
走
(
はし
)
り
来
(
きた
)
り、
154
音彦
(
おとひこ
)
『サアサア
皆
(
みな
)
さま、
155
一寸
(
ちよつと
)
一服
(
いつぷく
)
致
(
いた
)
しませう、
156
随分
(
ずゐぶん
)
走
(
はし
)
りましたなア』
157
鬼彦
(
おにひこ
)
『
随分
(
ずゐぶん
)
汗
(
あせ
)
が
出
(
で
)
ましたよ、
158
それにつけても
岩公
(
いはこう
)
の
奴
(
やつ
)
、
159
今頃
(
いまごろ
)
は
途中
(
とちう
)
で
屁古垂
(
へこた
)
れてオイオイ
俺
(
おれ
)
を
零
(
こぼ
)
して
行
(
ゆ
)
くのかなぞと
怨言
(
うらみごと
)
を
並
(
なら
)
べて
居
(
ゐ
)
るぢやらう。
160
足弱
(
あしよわ
)
を
連
(
つ
)
れて
居
(
ゐ
)
ると
却
(
かへ
)
つて
迷惑
(
めいわく
)
だ、
161
彼奴
(
あいつ
)
は
性来
(
うまれつき
)
跛者
(
びつこ
)
だから、
162
マラソン
競争
(
きやうそう
)
は
不適任
(
ふてきにん
)
だ』
163
鬼彦
(
おにひこ
)
『
岩公
(
いはこう
)
の
奴
(
やつ
)
、
164
片方
(
かたつぽ
)
の
足
(
あし
)
が
短
(
みじか
)
いものだから、
165
彼奴
(
あいつ
)
を
走
(
はし
)
らすと
恰
(
まる
)
で
蛸
(
たこ
)
が
芋畑
(
いもばたけ
)
から
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
すやうなスタイルだ、
166
随分
(
ずゐぶん
)
奇妙
(
きめう
)
奇天烈
(
きてれつ
)
なものだナア、
167
アハヽヽヽ』
168
岩公
(
いはこう
)
、
169
木
(
き
)
の
茂
(
しげ
)
みの
中
(
なか
)
より
頭
(
あたま
)
ばかり
突
(
つ
)
き
出
(
だ
)
して、
170
岩公
(
いはこう
)
『
岩公
(
いはこう
)
の
足
(
あし
)
は
片方
(
かたつぽ
)
が
短
(
みじか
)
いのじやない、
171
片方
(
かたつぽ
)
が
長
(
なが
)
いのじやぞ』
172
鬼彦
(
おにひこ
)
『ヤ、
173
怪体
(
けたい
)
な、
174
岩公
(
いはこう
)
の
声
(
こゑ
)
じやないか、
175
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
に
来
(
き
)
よつたのだ、
176
化物
(
ばけもの
)
見
(
み
)
たやうな
奴
(
やつ
)
じやなア』
177
岩公
(
いはこう
)
『ヘン、
178
馬鹿
(
ばか
)
にするない、
179
片方
(
かたはう
)
の
足
(
あし
)
が
長
(
なが
)
いのだけ、
180
それだけ
貴様
(
きさま
)
等
(
ら
)
とは
行進
(
かうしん
)
が
早
(
はや
)
いのだ。
181
おまけに
悦子姫
(
よしこひめ
)
さまがソツと
俺
(
おれ
)
の
懐中
(
ふところ
)
へ
玉
(
たま
)
を
入
(
い
)
れて
下
(
くだ
)
さつたものだから、
182
宙
(
ちう
)
をたつやうに
此処迄
(
ここまで
)
無事
(
ぶじ
)
御
(
ご
)
安着
(
あんちやく
)
だよ。
183
アハヽヽヽ』
184
鬼彦
(
おにひこ
)
『ヤア
岩公
(
いはこう
)
、
185
嘘
(
うそ
)
を
云
(
い
)
ふな、
186
貴様
(
きさま
)
はマラソン
競争
(
きやうそう
)
の
規則
(
きそく
)
を
破
(
やぶ
)
つて
窃
(
そつ
)
と
船
(
ふね
)
に
乗
(
の
)
つて
来
(
き
)
よつたのだらう、
187
竜灯松
(
りうとうまつ
)
の
下
(
した
)
に
繋
(
つな
)
いであつた
船
(
ふね
)
が
此処
(
ここ
)
に
着
(
つ
)
いて
居
(
ゐ
)
るぢやないか、
188
条約
(
でうやく
)
違反
(
ゐはん
)
だ、
189
貴様
(
きさま
)
はこれから
三五教
(
あななひけう
)
を
除名
(
ぢよめい
)
するからさう
心得
(
こころえ
)
ろ、
190
ナアもし
音彦
(
おとひこ
)
さま、
191
加米彦
(
かめひこ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
さま、
192
吾々
(
われわれ
)
の
提案
(
ていあん
)
は
条理
(
でうり
)
整然
(
せいぜん
)
たるものでせう』
193
音彦、加米彦
『アハヽヽヽ、
194
オイ
岩公司
(
いはこうつかさ
)
、
195
アヽ
結構
(
けつこう
)
々々
(
けつこう
)
、
196
吾々
(
われわれ
)
は
智慧
(
ちゑ
)
の
文珠堂
(
もんじゆだう
)
に
休
(
やす
)
みながら、
197
其
(
その
)
智慧
(
ちゑ
)
を
使
(
つか
)
ひ
忘
(
わす
)
れた、
198
お
前
(
まへ
)
は
偉
(
えら
)
いものだ、
199
アヽこれから、
200
文珠
(
もんじゆ
)
の
岩公司
(
いはこんす
)
と
名
(
な
)
を
呼
(
よ
)
ぶ
事
(
こと
)
にして
遣
(
や
)
らう』
201
岩公
(
いはこう
)
肩
(
かた
)
を
聳
(
そび
)
やかしながら、
202
岩公
『ハイハイ
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います、
203
オイ
鬼彦
(
おにひこ
)
、
204
鬼虎
(
おにとら
)
其
(
その
)
他
(
た
)
の
端武者
(
はむしや
)
共
(
ども
)
、
205
あの
言葉
(
ことば
)
を
聞
(
き
)
いたか、
206
文珠
(
もんじゆ
)
の
智慧
(
ちゑ
)
の
文珠
(
もんじゆ
)
の
岩公司
(
いはこんす
)
だ、
207
之
(
これ
)
から
何
(
なん
)
でも
岩公司
(
いはこんす
)
に
智慧
(
ちゑ
)
を
借
(
か
)
るのだぞ、
208
オホン』
209
鬼彦
(
おにひこ
)
『これだから
馬鹿者
(
ばかもの
)
には
困
(
こま
)
ると
云
(
い
)
ふのだ、
210
一寸
(
ちよつと
)
褒
(
ほ
)
めて
貰
(
もら
)
へば
直
(
すぐ
)
に
興奮
(
こうふん
)
して、
211
華氏
(
くわし
)
の
百二十
(
ひやくにじふ
)
度
(
ど
)
以上
(
いじやう
)
に
逆上
(
のぼせ
)
よる、
212
一
(
ひと
)
つ
逆上
(
のぼせ
)
の
下
(
さが
)
るやうに
海水
(
かいすゐ
)
でも
呑
(
の
)
ましてやらうか、
213
ア、
214
ドンブリコとやつて
遣
(
や
)
らうか』
215
岩公
(
いはこう
)
『
大
(
おほ
)
きに
憚
(
はばか
)
りさま、
216
又
(
また
)
今度
(
こんど
)
お
世話
(
せわ
)
に
預
(
あづか
)
ります、
217
サアサア
音彦
(
おとひこ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
218
之
(
これ
)
から
先
(
さき
)
は
勝手
(
かつて
)
知
(
し
)
つたる
道程
(
みちのり
)
だ、
219
私
(
わたくし
)
が
猿田彦
(
さだひこ
)
の
御用
(
ごよう
)
を
勤
(
つと
)
めませう』
220
音彦
(
おとひこ
)
『ヤアそれは
調法
(
てうはふ
)
だ。
221
先頭
(
せんとう
)
は
岩公司
(
いはこんす
)
にお
願
(
ねが
)
ひ
致
(
いた
)
さう』
222
岩公
(
いはこう
)
『これはこれは
不束
(
ふつつか
)
な
岩公司
(
いはこんす
)
に
対
(
たい
)
し
格外
(
かくぐわい
)
の
抜擢
(
ばつてき
)
をして
下
(
くだ
)
さいました。
223
此
(
この
)
上
(
うへ
)
は
恩命
(
おんめい
)
に
報
(
むく
)
ゆるため
粉骨
(
ふんこつ
)
砕身
(
さいしん
)
と
迄
(
まで
)
は
行
(
ゆ
)
きますまいが、
224
可成
(
かなり
)
道案内
(
みちあんない
)
に
対
(
たい
)
して
可及
(
かきふ
)
的
(
てき
)
のベストを
尽
(
つく
)
します。
225
何
(
ど
)
うぞ
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
下
(
くだ
)
さいませ』
226
鬼虎
(
おにとら
)
『
岩公司
(
いはこんす
)
の
御
(
ご
)
先頭
(
せんとう
)
か、
227
ねつから
葉
(
は
)
から
安心
(
あんしん
)
なものだ。
228
アハヽヽヽ』
229
岩公
(
いはこう
)
の
案内
(
あんない
)
につれ
音彦
(
おとひこ
)
一行
(
いつかう
)
は
黄昏前
(
たそがれまへ
)
、
230
比治山
(
ひぢやま
)
の
手前
(
てまへ
)
に
辿
(
たど
)
り
着
(
つ
)
きける。
231
音彦
(
おとひこ
)
『
何
(
ど
)
うやら
今日
(
けふ
)
も
之
(
これ
)
でお
終
(
しま
)
ひらしい、
232
何処
(
どこ
)
かの
家
(
うち
)
へ
入
(
はい
)
つて
一夜
(
いちや
)
の
宿
(
やど
)
を
願
(
ねが
)
ひ、
233
明日
(
みやうにち
)
早朝
(
そうてう
)
真名井
(
まなゐ
)
ケ
原
(
はら
)
の
豊国姫
(
とよくにひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
降臨地
(
かうりんち
)
を
探
(
さが
)
しませう、
234
悦子姫
(
よしこひめ
)
さまも
定
(
さだ
)
めしお
待
(
ま
)
ちかねでせうからねえ』
235
岩公
(
いはこう
)
『
少
(
すこ
)
し
手前
(
てまへ
)
に
幽
(
かす
)
かな
火
(
ひ
)
が
見
(
み
)
えませう、
236
彼処
(
あすこ
)
に
行
(
ゆ
)
けば
大
(
おほ
)
きな
藁葺
(
わらぶ
)
きの
家
(
いへ
)
が
御座
(
ござ
)
います。
237
戸
(
と
)
を
叩
(
たた
)
いて
一夜
(
いちや
)
の
宿
(
やど
)
を
貸
(
か
)
して
貰
(
もら
)
ふ
事
(
こと
)
にしませう、
238
サアもう
一息
(
ひといき
)
です』
239
と
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
ち
潔
(
いさぎよ
)
く
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
し、
240
一同
(
いちどう
)
漸
(
やうや
)
くとある
一
(
ひと
)
つ
家
(
や
)
の
前
(
まへ
)
に
着
(
つ
)
きたり。
241
岩公
(
いはこう
)
は
門口
(
かどぐち
)
に
立
(
た
)
ち、
242
岩公
『もしもしお
爺
(
ぢい
)
さま、
243
お
婆
(
ば
)
アさま、
244
私
(
わたくし
)
は
比沼
(
ひぬ
)
の
真名井
(
まなゐ
)
や
比治山
(
ひぢやま
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
参詣
(
さんけい
)
する
者
(
もの
)
で
御座
(
ござ
)
います、
245
竜灯松
(
りうとうまつ
)
から
此処迄
(
ここまで
)
テクつて
来
(
き
)
ましたが、
246
日
(
ひ
)
はすつぽりと
暮
(
く
)
れ、
247
膝坊主
(
ひざばうず
)
は
吾々
(
われわれ
)
の
命令
(
めいれい
)
を
肯
(
がへん
)
ぜなくなりました。
248
何
(
ど
)
うぞ
庭
(
には
)
の
隅
(
すみ
)
でも
宜敷
(
よろし
)
いから
一夜
(
いちや
)
の
雨露
(
うろ
)
を
凌
(
しの
)
がせて
下
(
くだ
)
さいませ』
249
爺
(
ぢい
)
『これお
楢
(
なら
)
、
250
何
(
なん
)
だか
門口
(
かどぐち
)
に
人声
(
ひとごゑ
)
がするやうだ、
251
門
(
もん
)
を
開
(
あ
)
けて
調
(
しら
)
べてお
出
(
い
)
で』
252
お
楢
(
なら
)
『
平
(
へい
)
サン、
253
お
前
(
まへ
)
あれだけ
酒
(
さけ
)
を
呑
(
の
)
みてもまだ
買
(
か
)
うて
来
(
こ
)
いと
云
(
い
)
ふのかい、
254
かう
闇
(
くら
)
くなつてから
私
(
わたし
)
だつて
堪
(
たま
)
らないぢやないか、
255
去年
(
きよねん
)
のやうに
大江山
(
おほえやま
)
の
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
の
家来
(
けらい
)
の
鬼虎
(
おにとら
)
にでも
出遇
(
であ
)
つたら、
256
ドンナ
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
ふか
分
(
わか
)
つたものぢやない、
257
家
(
うち
)
の
娘
(
むすめ
)
もとうとう
鬼虎
(
おにとら
)
に
攫
(
さら
)
はれて
仕舞
(
しま
)
つたぢやないか、
258
オンオンオン』
259
平助
(
へいすけ
)
『アヽ、
260
年
(
とし
)
が
寄
(
よ
)
つて
耳
(
みみ
)
の
聞
(
きこ
)
えぬ
奴
(
やつ
)
も
困
(
こま
)
つたものだ。
261
アヽ
仕方
(
しかた
)
がない、
262
私
(
わし
)
が
行
(
い
)
つて
開
(
あ
)
けてやらうかな、
263
ドツコイシヨ、
264
アイタヽヽ、
265
腰
(
こし
)
の
骨
(
ほね
)
が
強
(
こは
)
ばつていやもう
庭
(
には
)
を
歩
(
ある
)
くのも
大抵
(
たいてい
)
の
事
(
こと
)
ぢやないワイ』
266
と
傍
(
かたはら
)
の
杖
(
つゑ
)
を
取
(
と
)
りエチエチと
表
(
おもて
)
に
出
(
で
)
て
戸
(
と
)
をガラリと
開
(
あ
)
け、
267
平助
『この
闇
(
くら
)
いのにお
前
(
まへ
)
さま
達
(
たち
)
は
何用
(
なによう
)
あつて
御座
(
ござ
)
つた』
268
音彦
(
おとひこ
)
『ハイ、
269
吾々
(
われわれ
)
は
比治山
(
ひぢやま
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
参詣
(
さんけい
)
を
致
(
いた
)
すもので
御座
(
ござ
)
います、
270
御覧
(
ごらん
)
の
通
(
とほ
)
り
日
(
ひ
)
も
暮
(
く
)
れました、
271
何
(
ど
)
うぞ
庭
(
には
)
の
隅
(
すみ
)
つこでも
宜敷
(
よろし
)
いから
一夜
(
いちや
)
だけおとめ
下
(
くだ
)
さい、
272
お
弁当
(
べんたう
)
も
持参
(
ぢさん
)
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
ります、
273
唯
(
ただ
)
とめてさへ
貰
(
もら
)
へばそれで
宜敷
(
よろし
)
い』
274
平助
(
へいすけ
)
『
見
(
み
)
れば
随分
(
ずゐぶん
)
沢山
(
たくさん
)
の
同勢
(
どうぜい
)
だが
野中
(
のなか
)
の
一
(
ひと
)
つ
家
(
や
)
だと
思
(
おも
)
つて
当
(
あ
)
て
込
(
こ
)
みて
来
(
き
)
たのだな、
275
とめる
事
(
こと
)
は
金輪際
(
こんりんざい
)
出来
(
でき
)
ませぬ
哩
(
わい
)
、
276
サアサア
とつと
と
帰
(
かへ
)
つて
下
(
くだ
)
さい、
277
爺
(
おやぢ
)
と
婆
(
ばば
)
と
二人
(
ふたり
)
暮
(
ぐら
)
しの
家
(
いへ
)
ぢや、
278
不都合
(
ふつがふ
)
だらけ
平
(
ひら
)
にお
断
(
ことわ
)
り
申
(
まをし
)
ます』
279
音彦
(
おとひこ
)
『
左様
(
さやう
)
で
御座
(
ござ
)
いませうが、
280
折入
(
をりい
)
つてお
頼
(
たの
)
み
申
(
まを
)
す、
281
吾々
(
われわれ
)
は
決
(
けつ
)
して
怪
(
あや
)
しいものでは
御座
(
ござ
)
いませぬ』
282
平助
(
へいすけ
)
『
去年
(
きよねん
)
の
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
だつた、
283
お
前
(
まへ
)
のやうな
日
(
ひ
)
が
暮
(
く
)
れてから
家
(
うち
)
の
門口
(
かどぐち
)
に
立
(
た
)
ち、
284
庭
(
には
)
の
隅
(
すみ
)
でもよいからとめてくれと
云
(
い
)
うて
二人
(
ふたり
)
の
旅人
(
たびびと
)
が
出
(
で
)
てきよつた、
285
其奴
(
そいつ
)
が
又
(
また
)
どえらい
悪魔
(
あくま
)
で
大江山
(
おほえやま
)
の
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
の
家来
(
けらい
)
とやらで
何
(
なん
)
でも
鬼彦
(
おにひこ
)
、
286
鬼虎
(
おにとら
)
と
云
(
い
)
ふそれはそれは
悪
(
わる
)
い
奴
(
やつ
)
ぢや、
287
其奴
(
そいつ
)
めが
爺
(
ぢい
)
と
婆
(
ばば
)
とが
爪
(
つめ
)
に
火
(
ひ
)
を
点
(
とも
)
して
蓄
(
た
)
めた
沢山
(
たくさん
)
のお
金
(
かね
)
を
掠奪
(
ふんだく
)
り、
288
天
(
てん
)
にも
地
(
ち
)
にも
掛
(
か
)
け
替
(
が
)
へのない
一人
(
ひとり
)
の
娘
(
むすめ
)
を
掻攫
(
かつさら
)
うて、
289
今
(
いま
)
に
行方
(
ゆくへ
)
が
分
(
わか
)
らぬのだ、
290
お
前
(
まへ
)
さまも
大方
(
おほかた
)
ソンナ
連中
(
れんちう
)
だらう、
291
皺
(
しわ
)
の
寄
(
よ
)
つた
爺
(
おやぢ
)
と
婆
(
ばば
)
とが
細
(
ほそ
)
い
煙
(
けぶり
)
を
立
(
た
)
て
暮
(
くら
)
して
居
(
ゐ
)
るのだが、
292
婆
(
ばば
)
は
爺
(
ぢい
)
が
頼
(
たよ
)
り
爺
(
ぢい
)
は
婆
(
ばば
)
が
頼
(
たよ
)
りだ、
293
婆
(
ばば
)
とは
云
(
い
)
ひながら
矢張
(
やつぱり
)
女
(
をんな
)
だ、
294
昔
(
むかし
)
の
別嬪
(
べつぴん
)
だ。
295
もし
婆
(
ばば
)
でも
夜
(
よさ
)
の
間
(
ま
)
に
掻攫
(
かつさら
)
へられて
仕舞
(
しま
)
ふものなら、
296
この
爺
(
おやぢ
)
は
蟹
(
かに
)
の
手足
(
てあし
)
を
もが
れたやうなものだ、
297
エヽ
気分
(
きぶん
)
の
悪
(
わる
)
い、
298
帰
(
かへ
)
りて
下
(
くだ
)
され』
299
とピシヤツと
戸
(
と
)
を
締
(
し
)
める。
300
音彦
(
おとひこ
)
『アヽ
困
(
こま
)
つたなア、
301
何
(
ど
)
うしたら
宜
(
よ
)
からうか、
302
今晩
(
こんばん
)
は
野宿
(
のじゆく
)
でもして
一夜
(
いちや
)
を
明
(
あ
)
かさねば
仕方
(
しかた
)
があるまい』
303
岩公
(
いはこう
)
『もしもし
音彦
(
おとひこ
)
さま、
304
千本桜
(
せんぼんざくら
)
の
鮓屋
(
すしや
)
の
段
(
だん
)
ぢやないが、
305
愛想
(
あいさう
)
のないが
愛想
(
あいさう
)
となると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
がありますが、
306
此処
(
ここ
)
の
爺
(
おやぢ
)
さまは
一旦
(
いつたん
)
此
(
この
)
鬼彦
(
おにひこ
)
、
307
鬼虎
(
おにとら
)
に
偉
(
えら
)
い
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
つたものだから、
308
人
(
ひと
)
さへ
見
(
み
)
れば
怖
(
こわ
)
い
怖
(
こわ
)
いと
思
(
おも
)
うて
居
(
ゐ
)
るのですよ、
309
日
(
ひ
)
の
暮
(
くれ
)
に
宿
(
やど
)
を
頼
(
たの
)
む
奴
(
やつ
)
は
人奪
(
ひとと
)
りだと
云
(
い
)
ふ
先入
(
せんにふ
)
思想
(
しさう
)
に
左右
(
さいう
)
されて
居
(
ゐ
)
るものぢやから、
310
アンナ
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふのでせう、
311
誠
(
まこと
)
の
力
(
ちから
)
は
世
(
よ
)
を
救
(
すく
)
ふと
云
(
い
)
ふから、
312
も
一
(
ひと
)
つ
頼
(
たの
)
みて
見
(
み
)
ませう』
313
と
又
(
また
)
もや
戸
(
と
)
を
叩
(
たた
)
き、
314
岩公
(
いはこう
)
『もしもし、
315
お
爺
(
ぢい
)
さま、
316
吾々
(
われわれ
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
のお
伴
(
とも
)
して
来
(
き
)
た
誠
(
まこと
)
一
(
ひと
)
つの
人間
(
にんげん
)
で
御座
(
ござ
)
います。
317
何卒
(
どうぞ
)
一晩
(
ひとばん
)
だけとめて
下
(
くだ
)
さいな』
318
平助
(
へいすけ
)
『ナニツ、
319
三五教
(
あななひけう
)
だと、
320
ソンナ
教
(
をしへ
)
は
未
(
ま
)
だ
聞
(
き
)
いた
事
(
こと
)
もないワ、
321
穴
(
あな
)
が
無
(
な
)
うて
彼岸過
(
ひがんすぎ
)
の
蛇
(
へび
)
のやうに
探
(
さが
)
して
歩
(
ある
)
いとるのか、
322
ソンナ
人
(
ひと
)
には
尚更
(
なほさら
)
宿
(
やど
)
つて
貰
(
もら
)
ふ
事
(
こと
)
はお
断
(
ことわ
)
りぢや、
323
一人
(
ひとり
)
よりないお
楢
(
なら
)
を
掻攫
(
かつさら
)
つて
去
(
い
)
なれては
耐
(
たま
)
らぬからなア、
324
ゴテゴテ
云
(
い
)
はずにお
帰
(
かへ
)
りなさい』
325
岩公
(
いはこう
)
『アヽ、
326
仕方
(
しかた
)
がない、
327
これ
程
(
ほど
)
事
(
こと
)
をわけてお
頼
(
たの
)
みするのに
聞
(
き
)
いて
下
(
くだ
)
さらぬ、
328
世界
(
せかい
)
に
鬼
(
おに
)
はある。
329
鬼
(
おに
)
と
悪魔
(
あくま
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だ、
330
慈悲
(
じひ
)
も
情
(
なさけ
)
も
知
(
し
)
らぬ
奴
(
やつ
)
許
(
ばか
)
りだ。
331
オイ
鬼彦
(
おにひこ
)
、
332
鬼虎
(
おにとら
)
の
両人
(
りやうにん
)
、
333
偉
(
えら
)
う
沈黙
(
ちんもく
)
して
居
(
ゐ
)
よるな、
334
貴様
(
きさま
)
の
古疵
(
ふるきず
)
が
物
(
もの
)
を
云
(
い
)
うて
今晩
(
こんばん
)
の
難儀
(
なんぎ
)
だ、
335
貴様
(
きさま
)
一
(
ひと
)
つ
謝罪
(
あやま
)
らぬかい』
336
鬼彦
(
おにひこ
)
『もしもし
音彦
(
おとひこ
)
様
(
さま
)
、
337
一晩
(
ひとばん
)
位
(
くらゐ
)
寝
(
ね
)
なかつたつて
好
(
い
)
いぢやありませぬか、
338
これも
修業
(
しうげふ
)
だと
思
(
おも
)
つて
野宿
(
のじゆく
)
を
致
(
いた
)
しませうかい』
339
鬼虎
(
おにとら
)
『アヽさうだ、
340
一晩
(
ひとばん
)
や
二晩
(
ふたばん
)
野宿
(
のじゆく
)
して
斃
(
くた
)
ばるやうな
事
(
こと
)
では
三五教
(
あななひけう
)
の
信仰
(
しんかう
)
は
出来
(
でき
)
ない、
341
ねえ
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
342
如何
(
どう
)
で
御座
(
ござ
)
いませう』
343
音彦
(
おとひこ
)
『ソンナラマアさうするかなア』
344
岩公
(
いはこう
)
『ヘン
旨
(
うま
)
い
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
やがらア、
345
爺婆
(
ぢいばば
)
に
会
(
あ
)
はす
顔
(
かほ
)
があるまい、
346
旧悪
(
きうあく
)
露見
(
ろけん
)
の
恐
(
おそ
)
れがあるから、
347
貴様
(
きさま
)
としては
無理
(
むり
)
もないが、
348
綺麗
(
きれい
)
薩張
(
さつぱり
)
と
爺様
(
ぢいさん
)
婆様
(
ばさん
)
にお
断
(
ことわ
)
りを
申
(
まをし
)
たら
何
(
ど
)
うだ、
349
何時迄
(
いつまで
)
も
悪
(
あく
)
を
包
(
つつ
)
みて
居
(
ゐ
)
ると
罪
(
つみ
)
は
取
(
と
)
れぬぞ、
350
罪
(
つみ
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
包
(
つつ
)
みと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だ、
351
何卒
(
どうぞ
)
改心
(
かいしん
)
の
証拠
(
しようこ
)
に
爺
(
ぢい
)
さまに
一
(
ひと
)
つお
詫
(
わび
)
をして
思
(
おも
)
ふざま
十能
(
じふのう
)
で
頭
(
あたま
)
を
打
(
たた
)
いて
貰
(
もら
)
つたら、
352
ちつとは
罪
(
つみ
)
が
亡
(
ほろ
)
びるだらうよ』
353
鬼彦
(
おにひこ
)
、
354
鬼虎
(
おにとら
)
、
355
両手
(
りやうて
)
を
組
(
く
)
み
首
(
くび
)
を
傾
(
かたむ
)
け、
356
大
(
おほ
)
きな
息
(
いき
)
を
漏
(
も
)
らし
居
(
ゐ
)
る。
357
此
(
この
)
時
(
とき
)
前方
(
ぜんぱう
)
より
二人
(
ふたり
)
の
女
(
をんな
)
走
(
はし
)
り
来
(
く
)
るあり。
358
一同
(
いちどう
)
は
目
(
め
)
を
円
(
まる
)
くし、
359
よくよく
見
(
み
)
れば、
360
悦子姫
(
よしこひめ
)
と
一人
(
ひとり
)
の
娘
(
むすめ
)
なりけり。
361
娘
(
むすめ
)
『これはこれはお
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
、
362
いかいお
世話
(
せわ
)
になりました、
363
これが
妾
(
わたし
)
のお
祖父
(
ぢい
)
さま、
364
お
祖母
(
ばあ
)
さまの
家
(
うち
)
で
御座
(
ござ
)
います、
365
サア
何卒
(
どうぞ
)
お
入
(
はい
)
り
下
(
くだ
)
さいませ、
366
嘸
(
さぞ
)
や
祖父
(
そふ
)
や
祖母
(
そぼ
)
が
喜
(
よろこ
)
ぶ
事
(
こと
)
で
御座
(
ござ
)
いませう』
367
悦子姫
(
よしこひめ
)
『ヤア
妾
(
わたし
)
は
此処迄
(
ここまで
)
送
(
おく
)
り
届
(
とど
)
けたならばこれで
安心
(
あんしん
)
してお
暇
(
いとま
)
致
(
いた
)
しませう』
368
娘
(
むすめ
)
『
何卒
(
どうぞ
)
さう
仰有
(
おつしや
)
らぬと
見苦
(
みぐる
)
しい
破家
(
あばらや
)
なれど、
369
渋茶
(
しぶちや
)
なりと
上
(
あ
)
げたう
御座
(
ござ
)
います、
370
一寸
(
ちよつと
)
でも
宜敷
(
よろし
)
いからお
入
(
はい
)
り
下
(
くだ
)
さいませいナ』
371
闇
(
やみ
)
の
中
(
なか
)
より、
372
男(音彦)
『ヤア
貴女
(
あなた
)
は
悦子姫
(
よしこひめ
)
様
(
さま
)
では
御座
(
ござ
)
いませぬか』
373
悦子姫
(
よしこひめ
)
『さう
云
(
い
)
ふお
声
(
こゑ
)
は
音彦
(
おとひこ
)
さま。
374
この
闇
(
くら
)
がりに
何
(
なに
)
をして
居
(
ゐ
)
らつしやるの』
375
音彦
(
おとひこ
)
『
余
(
あま
)
り
暗
(
くら
)
くなりましたので
一夜
(
いちや
)
の
宿
(
やど
)
をお
強請
(
ねだ
)
りして
居
(
を
)
るのですが、
376
お
爺
(
ぢい
)
さま
仲々
(
なかなか
)
許
(
ゆる
)
して
呉
(
く
)
れないのですよ』
377
悦子姫
(
よしこひめ
)
『ヤア、
378
委細
(
ゐさい
)
の
様子
(
やうす
)
は
此
(
この
)
娘
(
むすめ
)
さまから
聞
(
き
)
きました、
379
済
(
す
)
みた
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふぢやないが、
380
随分
(
ずゐぶん
)
鬼彦
(
おにひこ
)
さまも
鬼虎
(
おにとら
)
さまも
罪
(
つみ
)
な
事
(
こと
)
をなさつたものぢやナア、
381
お
爺
(
ぢい
)
さまが
泊
(
と
)
めて
呉
(
く
)
れないのも
無理
(
むり
)
はありませぬ、
382
妾
(
わたし
)
がこれからお
爺
(
ぢい
)
さまに
此
(
この
)
娘
(
むすめ
)
を
渡
(
わた
)
し、
383
願
(
ねが
)
つて
見
(
み
)
ませう』
384
娘
(
むすめ
)
『お
祖父
(
ぢい
)
さま、
385
お
祖母
(
ばあ
)
さま、
386
節
(
せつ
)
で
御座
(
ござ
)
います、
387
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
助
(
たす
)
けられ
無事
(
ぶじ
)
に
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
ました。
388
何卒
(
どうぞ
)
開
(
あ
)
けて
下
(
くだ
)
さいませ』
389
平助
(
へいすけ
)
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
に
驚
(
おどろ
)
き、
390
平助
『ヤア
何
(
なに
)
、
391
節
(
せつ
)
が
帰
(
かへ
)
つた。
392
オイオイお
楢
(
なら
)
、
393
節
(
せつ
)
が
帰
(
かへ
)
つたといなア』
394
お
楢
(
なら
)
『
爺
(
おやぢ
)
さま
耳
(
みみ
)
が
確
(
しつか
)
り
聞
(
きこ
)
えぬが、
395
節
(
せつ
)
が
帰
(
かへ
)
つたと
云
(
い
)
うたのか、
396
ハテ
合点
(
がてん
)
の
行
(
ゆ
)
かぬ
事
(
こと
)
だ、
397
大方
(
おほかた
)
大江山
(
おほえやま
)
の
悪神
(
あくがみ
)
の
眷族
(
けんぞく
)
奴
(
め
)
が
節
(
せつ
)
の
作
(
つく
)
り
声
(
ごゑ
)
をして
此
(
この
)
家
(
や
)
に
入
(
い
)
り
込
(
こ
)
み、
398
一
(
ひと
)
つ
家
(
や
)
を
幸
(
さいは
)
ひに
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
夫婦
(
ふうふ
)
の
者
(
もの
)
を
引
(
ひ
)
つ
張
(
ぱ
)
つて
去
(
い
)
ぬ
計略
(
けいりやく
)
かも
知
(
し
)
れぬ、
399
迂闊
(
うつか
)
り
開
(
あ
)
けなさるなや』
400
門口
(
かどぐち
)
より、
401
お
節
(
せつ
)
は
優
(
や
)
さしひ
声
(
こゑ
)
で、
402
お節
『お
祖父
(
ぢい
)
さま、
403
お
祖母
(
ばあ
)
さま、
404
何卒
(
どうぞ
)
開
(
あ
)
けて
下
(
くだ
)
さい、
405
節
(
せつ
)
で
御座
(
ござ
)
います』
406
平助
(
へいすけ
)
『
何
(
なに
)
吐
(
ぬか
)
しよるのだ、
407
其
(
その
)
手
(
て
)
は
食
(
く
)
はぬぞ、
408
作
(
つく
)
り
声
(
ごゑ
)
をしよつて、
409
お
祖父
(
ぢい
)
さま、
410
お
祖母
(
ばあ
)
さま、
411
節
(
せつ
)
で
御座
(
ござ
)
います……ナアーンテ
大江山
(
おほえやま
)
に
捕
(
とら
)
へられて
鬼
(
おに
)
の
餌食
(
ゑじき
)
になつた
娘
(
むすめ
)
が
戻
(
もど
)
つて
来
(
き
)
て
耐
(
たま
)
るかい、
412
これやこれや
門口
(
かどぐち
)
の
奴
(
やつ
)
共
(
ども
)
、
413
ソンナ
計略
(
けいりやく
)
に
乗
(
の
)
る
平助
(
へいすけ
)
ぢやないぞ、
414
入
(
はい
)
れるなら
入
(
はい
)
つて
見
(
み
)
よ、
415
陥穽
(
おとしあな
)
が
拵
(
こしら
)
へて
釘
(
くぎ
)
が
一面
(
いちめん
)
に
植
(
う
)
ゑてあるから、
416
命
(
いのち
)
が
惜
(
をし
)
く
無
(
な
)
ければ
無理
(
むり
)
に
入
(
はい
)
つて
来
(
こ
)
い』
417
娘
(
むすめ
)
は
無理
(
むり
)
に
戸
(
と
)
を
押
(
お
)
し
破
(
やぶ
)
り
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
みたるを、
418
爺
(
ぢい
)
は、
419
これを
見
(
み
)
て、
420
平助
『ヤア
紛
(
まが
)
ふ
方
(
かた
)
なき
娘
(
むすめ
)
のお
節
(
せつ
)
、
421
好
(
よ
)
うまア
帰
(
かへ
)
つて
呉
(
く
)
れた。
422
オイ、
423
ぢつとしてぢつとして、
424
動
(
うご
)
くと
危
(
あぶ
)
ないぞ、
425
一
(
ひと
)
つ
踏
(
ふ
)
み
外
(
はづ
)
せば
陥穽
(
おとしあな
)
に
陥
(
はま
)
る、
426
大江山
(
おほえやま
)
の
鬼
(
おに
)
の
来
(
き
)
た
時
(
とき
)
の
用意
(
ようい
)
に
陥穽
(
おとしあな
)
が
拵
(
こしら
)
へてあるのぢや、
427
今
(
いま
)
お
祖父
(
ぢい
)
が
指揮
(
さしづ
)
をしてやるから、
428
其
(
その
)
外
(
ほか
)
は
歩
(
ある
)
く
事
(
こと
)
はならぬぞや』
429
と
云
(
い
)
ひながら
杖
(
つゑ
)
をもつて
庭
(
には
)
に
線
(
すぢ
)
を
引張
(
ひつぱ
)
つた。
430
お
節
(
せつ
)
は
線
(
すぢ
)
の
上
(
うへ
)
を
歩
(
ある
)
いて、
431
爺
(
ぢい
)
の
居間
(
ゐま
)
に
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
る。
432
お
楢
(
なら
)
『ヤア、
433
お
前
(
まへ
)
はお
節
(
せつ
)
、
434
好
(
よ
)
う
帰
(
かへ
)
つて
下
(
くだ
)
さつたナア』
435
と
嬉
(
うれ
)
し
泣
(
な
)
きに
泣
(
な
)
き
伏
(
ふ
)
しぬ。
436
平助
(
へいすけ
)
もお
節
(
せつ
)
の
体
(
からだ
)
に
獅噛
(
しが
)
みつき、
437
平助
『ヤア
戻
(
もど
)
つたか、
438
どうして
居
(
を
)
つた』
439
お
節
(
せつ
)
『お
祖父
(
ぢい
)
さま、
440
お
祖母
(
ばあ
)
さま、
441
会
(
あ
)
ひたかつた
哩
(
わい
)
な』
442
と
三
(
さん
)
人
(
にん
)
一度
(
いちど
)
に
声
(
こゑ
)
を
放
(
はな
)
つて
泣
(
な
)
き
崩
(
くづ
)
れける。
443
(
大正一一・四・一六
旧三・二〇
加藤明子
録)
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【第20章 思はぬ歓|第16巻|如意宝珠|霊界物語|/rm1620】
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