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霊界物語
如意宝珠(第13~24巻)
第16巻(卯の巻)
序文
凡例
総説歌
第1篇 神軍霊馬
第1章 天橋立
第2章 暗夜の邂逅
第3章 門番の夢
第4章 夢か現か
第5章 秋山館
第6章 石槍の雨
第7章 空籠
第8章 衣懸松
第9章 法螺の貝
第10章 白狐の出現
第2篇 深遠微妙
第11章 宝庫の鍵
第12章 捜索隊
第13章 神集の玉
第14章 鵜呑鷹
第15章 谷間の祈
第16章 神定の地
第17章 谷の水
第3篇 真奈為ケ原
第18章 遷宅婆
第19章 文珠如来
第20章 思はぬ歓
第21章 御礼参詣
跋
霊の礎(一)
霊の礎(二)
余白歌
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霊界物語
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第16巻(卯の巻)
> 第1篇 神軍霊馬 > 第10章 白狐の出現
<<< 法螺の貝
(B)
(N)
宝庫の鍵 >>>
第一〇章
白狐
(
びやくこ
)
の
出現
(
しゆつげん
)
〔六〇〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第16巻 如意宝珠 卯の巻
篇:
第1篇 神軍霊馬
よみ(新仮名遣い):
しんぐんれいば
章:
第10章 白狐の出現
よみ(新仮名遣い):
びゃっこのしゅつげん
通し章番号:
600
口述日:
1922(大正11)年04月14日(旧03月18日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年12月25日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
鬼雲彦が無念の思いにその場に沈んでいると、鬼雲彦妻子の死体は巨大な白狐に還元し、這い出した。手下と見えた鬼彦らも、白狐の正体をあらわして、鬼雲彦を取り囲む。
鬼雲彦は暴れ狂い、鬼ケ城山を指して逃げていった。多くの従卒も鬼雲彦に続いた。しかし鬼ケ城山方面からは、亀彦宣伝使らが向かって来た。鬼雲彦は元来た道を逃げ戻り、大江山本城に逃げ込んだ。
本城で妻の鬼雲姫と合流したが、夫婦共に城内の井戸に落ち込んでしまった。そこを亀彦に引き上げられた。
一方、鬼武彦はさいぜん、鬼彦らを閉じ込めた洞窟の蓋岩を開けた。鬼彦一行は大江山本城に戻ってみると、鬼雲彦夫婦が、亀彦らに囲まれて説諭を受けていた。
鬼彦一行は亀彦らと宣伝歌を唱和した。いたたまれなくなった鬼雲彦夫婦は、一目散に駆け出して伊吹山方面指して逃げていった。
鬼武彦は、大江山は邪神の集まる霊界の四辻であるので、神政成就の暁まで、自分がここを守護することを宣言した。
亀彦、英子姫、悦子姫は鬼武彦の働きと神術を激賞した。そして東を指して進んで行った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-01-27 17:11:26
OBC :
rm1610
愛善世界社版:
126頁
八幡書店版:
第3輯 447頁
修補版:
校定版:
130頁
普及版:
56頁
初版:
ページ備考:
001
八洲
(
やしま
)
の
国
(
くに
)
を
駆
(
か
)
け
巡
(
めぐ
)
り
002
この
世
(
よ
)
を
曇
(
くも
)
らす
自在天
(
じざいてん
)
003
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
の
活動
(
くわつどう
)
を
004
続
(
つづ
)
けて
茲
(
ここ
)
に
婆羅門
(
ばらもん
)
の
005
大棟梁
(
だいとうりやう
)
と
仰
(
あふ
)
がれし
006
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
の
猛将
(
まうしやう
)
も、
007
最愛
(
さいあい
)
の
妻
(
つま
)
の
非業
(
ひがう
)
の
最後
(
さいご
)
に
又
(
また
)
もや
続
(
つづ
)
いて
子女
(
しぢよ
)
の
浅
(
あさ
)
ましき
此
(
この
)
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
て
胸
(
むね
)
も
張
(
は
)
り
裂
(
さ
)
く
許
(
ばか
)
り、
008
魂
(
こん
)
消
(
き
)
え、
009
魄
(
はく
)
亡
(
ほろ
)
びる
如
(
ごと
)
き
心地
(
ここち
)
し
乍
(
なが
)
らドツカと
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
打倒
(
うちたふ
)
れ
無念
(
むねん
)
の
涙
(
なみだ
)
にくれ
居
(
ゐ
)
たり。
010
鬼彦
(
おにひこ
)
は
肩
(
かた
)
を
揺
(
ゆす
)
り
乍
(
なが
)
ら
大口
(
おほぐち
)
開
(
あ
)
けて
高笑
(
たかわら
)
ひ、
011
鬼彦(正体は鬼武彦)
『アハヽヽヽ、
012
吾
(
われ
)
こそは
鬼彦
(
おにひこ
)
とは
詐
(
いつは
)
り
誠
(
まこと
)
は
大江山
(
たいかうざん
)
に
現
(
あら
)
はれし
白狐
(
びやくこ
)
の
鬼武彦
(
おにたけひこ
)
、
013
汝
(
なんぢ
)
悪神
(
あくがみ
)
の
計略
(
けいりやく
)
を
根底
(
こんてい
)
より
覆
(
くつが
)
へさむと
千変
(
せんぺん
)
万化
(
ばんくわ
)
の
活動
(
くわつどう
)
を
続
(
つづ
)
け、
014
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのを
)
の
大神
(
おほかみ
)
の
大命
(
たいめい
)
を
奉
(
ほう
)
じ、
015
汝
(
なんぢ
)
が
一類
(
いちるゐ
)
を
征服
(
せいふく
)
に
向
(
むか
)
うたり、
016
汝
(
なんぢ
)
が
力
(
ちから
)
と
恃
(
たの
)
む
鬼彦
(
おにひこ
)
は
魔窟
(
まくつ
)
ケ
原
(
はら
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
に
匿
(
かくま
)
ひあれば
汝
(
なんぢ
)
が
神力
(
しんりき
)
を
以
(
もつ
)
て
索
(
もと
)
め
出
(
だ
)
せよ、
017
さり
乍
(
なが
)
ら
彼
(
かれ
)
は
最早
(
もはや
)
汝
(
なんぢ
)
の
意志
(
いし
)
に
従
(
したが
)
ふ
者
(
もの
)
に
非
(
あら
)
ず、
018
立派
(
りつぱ
)
なる
三五教
(
あななひけう
)
の
信者
(
しんじや
)
となりて
居
(
ゐ
)
るぞ、
019
汝
(
なんぢ
)
が
妻
(
つま
)
と
見
(
み
)
えしは
汝
(
なんぢ
)
が
眼
(
め
)
の
誤
(
あやま
)
り、
020
吾
(
わが
)
眷族
(
けんぞく
)
の
名
(
な
)
もなき
白狐
(
びやくこ
)
の
変化
(
へんげ
)
』
021
と
言葉
(
ことば
)
終
(
をは
)
らずに
鬼雲姫
(
おにくもひめ
)
は
忽
(
たちま
)
ち
巨大
(
きよだい
)
なる
白狐
(
びやくこ
)
となつてノソリノソリと
這
(
は
)
ひ
始
(
はじ
)
め、
022
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
に
向
(
むか
)
つて
眼
(
め
)
を
光
(
ひか
)
らせ
牙
(
きば
)
を
剥
(
む
)
き
飛
(
と
)
びかからむとする
勢
(
いきほひ
)
を
示
(
しめ
)
し
居
(
ゐ
)
る。
023
鬼虎
(
おにとら
)
は
又
(
また
)
もや
威丈
(
ゐだ
)
け
高
(
だか
)
に
胸
(
むね
)
を
打
(
う
)
ち
乍
(
なが
)
ら
大口
(
おほぐち
)
開
(
あ
)
けて
高笑
(
たかわら
)
ひ、
024
鬼虎(正体は旭)
『アハヽヽヽ、
025
吾
(
われ
)
こそは
大江山
(
たいかうざん
)
に
現
(
あら
)
はれて
四方
(
よも
)
の
魔神
(
まがみ
)
を
征服
(
せいふく
)
し
言向
(
ことむ
)
け
和
(
やは
)
す
神
(
かみ
)
の
使
(
つかひ
)
、
026
旭
(
あさひ
)
の
白狐
(
びやくこ
)
が
化身
(
けしん
)
なるぞ、
027
汝
(
なんぢ
)
が
力
(
ちから
)
と
恃
(
たの
)
む
四天王
(
してんわう
)
の
随一
(
ずゐいつ
)
と
聞
(
きこ
)
えたる
鬼虎
(
おにとら
)
は
前非
(
ぜんぴ
)
を
悔
(
く
)
い
今
(
いま
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
信者
(
しんじや
)
となれり、
028
魔窟
(
まくつ
)
ケ
原
(
はら
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
に
匿
(
かくま
)
ひあれば
未練
(
みれん
)
あらば
汝
(
なんぢ
)
自由
(
じいう
)
に
岩戸
(
いはと
)
を
開
(
ひら
)
いて
面会
(
めんくわい
)
せよ、
029
汝
(
なんぢ
)
が
伜
(
せがれ
)
と
見
(
み
)
えたるは、
030
之
(
これ
)
も
白狐
(
びやくこ
)
の
化身
(
けしん
)
なり、
031
汝
(
なんぢ
)
が
妻子
(
さいし
)
は
手段
(
てだて
)
を
以
(
もつ
)
て、
032
或
(
ある
)
処
(
ところ
)
に
匿
(
かく
)
まひあれば
改心
(
かいしん
)
次第
(
しだい
)
にて
親子
(
おやこ
)
夫婦
(
ふうふ
)
の
対面
(
たいめん
)
を
許
(
ゆる
)
し
呉
(
く
)
れむ』
033
と
言葉
(
ことば
)
終
(
をは
)
らぬに
又
(
また
)
もや
一
(
ひと
)
つの
網代籠
(
あじろかご
)
よりノソノソ
這
(
は
)
ひ
出
(
で
)
た
巨大
(
きよだい
)
の
白狐
(
びやくこ
)
、
034
以前
(
いぜん
)
の
如
(
ごと
)
く
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
が
身辺
(
しんぺん
)
に
目
(
め
)
を
睜
(
いか
)
らし
牙
(
きば
)
を
剥
(
む
)
きつつ
進
(
すす
)
み
寄
(
よ
)
る。
035
熊鷹
(
くまたか
)
は
又
(
また
)
もや
立
(
た
)
ち
上
(
あが
)
り、
036
熊鷹(正体は高倉)
『
吾
(
われ
)
こそは
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのを
)
の
大神
(
おほかみ
)
の
立
(
た
)
てさせ
給
(
たま
)
ふ
三五
(
あななひ
)
の
教
(
をしへ
)
に
仕
(
つか
)
ふる
白狐
(
びやくこ
)
の
高倉
(
たかくら
)
、
037
熊鷹
(
くまたか
)
と
見
(
み
)
えしは
此
(
この
)
方
(
はう
)
が
化身
(
けしん
)
』
038
と
言葉
(
ことば
)
終
(
をは
)
らぬに
又
(
また
)
もや
這
(
は
)
ひ
出
(
で
)
た
巨大
(
きよだい
)
の
白狐
(
びやくこ
)
、
039
同
(
おな
)
じく
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
に
向
(
むか
)
つて
襲
(
おそ
)
ひ
行
(
ゆ
)
く。
040
石熊
(
いしくま
)
は
又
(
また
)
もや
立
(
た
)
ち
上
(
あが
)
り、
041
石熊(正体は月日明神)
『
吾
(
われ
)
こそは
月日
(
つきひ
)
明神
(
みやうじん
)
と
名
(
な
)
を
頂
(
いただ
)
きし
常夜
(
とこよ
)
の
国
(
くに
)
の
大江山
(
たいかうざん
)
に
現
(
あら
)
はれたる
白狐
(
びやくこ
)
なるぞ、
042
汝
(
なんぢ
)
は
今
(
いま
)
より
前非
(
ぜんぴ
)
を
悔
(
く
)
い
婆羅門
(
ばらもん
)
教
(
けう
)
を
振
(
ふ
)
り
棄
(
す
)
てて
三五
(
あななひ
)
の
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
に
信従
(
しんじゆう
)
するか、
043
違背
(
ゐはい
)
に
及
(
およ
)
ばば
大江
(
おほえ
)
の
山
(
やま
)
は
木端
(
こつぱ
)
微塵
(
みぢん
)
に
踏
(
ふ
)
み
砕
(
くだ
)
き、
044
草
(
くさ
)
の
片葉
(
かきは
)
に
至
(
いた
)
る
迄
(
まで
)
焼
(
や
)
き
亡
(
ほろ
)
ぼさむ、
045
返答
(
へんたふ
)
如何
(
いか
)
に』
046
と
詰
(
つ
)
めかける。
047
又
(
また
)
もや
一
(
ひと
)
つの
駕籠
(
かご
)
よりは
巨大
(
きよだい
)
の
白狐
(
びやくこ
)
現
(
あら
)
はれて
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
を
前後
(
ぜんご
)
左右
(
さいう
)
より
取
(
と
)
り
巻
(
ま
)
きコンコンと
啼
(
な
)
き
立
(
た
)
て
乍
(
なが
)
ら
改心
(
かいしん
)
を
迫
(
せま
)
る。
048
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
は
忽
(
たちま
)
ち
精神
(
せいしん
)
錯乱
(
さくらん
)
して
大刀
(
だいたう
)
を
引
(
ひ
)
き
抜
(
ぬ
)
き
前後
(
ぜんご
)
左右
(
さいう
)
に
荒
(
あ
)
れ
狂
(
くる
)
ひ、
049
館
(
やかた
)
を
後
(
あと
)
に
木
(
き
)
の
茂
(
しげ
)
みを
指
(
さ
)
して
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
したり。
050
数多
(
あまた
)
の
従卒
(
じゆうそつ
)
共
(
ども
)
は
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
が
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
ひ、
051
山
(
やま
)
を
越
(
こ
)
え
谷
(
たに
)
を
渉
(
わた
)
り
鬼
(
おに
)
ケ
城
(
じやう
)
山
(
ざん
)
の
方面
(
はうめん
)
さして
力
(
ちから
)
限
(
かぎ
)
りに
遁走
(
とんそう
)
したりける。
052
鬼
(
おに
)
ケ
城
(
じやう
)
山
(
ざん
)
の
方面
(
はうめん
)
より
亀彦
(
かめひこ
)
を
先登
(
せんとう
)
に
英子姫
(
ひでこひめ
)
、
053
悦子姫
(
よしこひめ
)
は
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
謡
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
此方
(
こちら
)
に
向
(
むか
)
つて
前進
(
ぜんしん
)
し
来
(
きた
)
る。
054
流石
(
さすが
)
の
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
も
前後
(
ぜんご
)
に
敵
(
てき
)
を
受
(
う
)
け
死物狂
(
しにものぐるひ
)
の
勇気
(
ゆうき
)
を
現
(
あら
)
はし、
055
長刀
(
ちやうたう
)
を
引
(
ひ
)
き
抜
(
ぬ
)
いて
亀彦
(
かめひこ
)
目蒐
(
めが
)
けて
斬
(
き
)
つて
掛
(
かか
)
るを、
056
心得
(
こころえ
)
たりと
亀彦
(
かめひこ
)
は
右
(
みぎ
)
に
左
(
ひだり
)
に
身
(
み
)
を
躱
(
かは
)
し
飛鳥
(
ひてう
)
の
如
(
ごと
)
く
挑
(
いど
)
み
戦
(
たたか
)
へば
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
は
踵
(
きびす
)
を
返
(
かへ
)
し、
057
もと
来
(
き
)
し
道
(
みち
)
を
一目散
(
いちもくさん
)
に
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
058
数多
(
あまた
)
の
従卒
(
じゆうそつ
)
は
吾
(
われ
)
後
(
おく
)
れじと
三十六
(
さんじふろく
)
計
(
けい
)
の
奥
(
おく
)
の
手
(
て
)
を
出
(
だ
)
して
散
(
ち
)
り
散
(
ち
)
りバラバラ、
059
足
(
あし
)
に
任
(
まか
)
せて
逃
(
に
)
げて
行
(
ゆ
)
く。
060
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にやら
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
は
又
(
また
)
もや
本城
(
ほんじやう
)
の
門前
(
もんぜん
)
に
帰
(
かへ
)
り
来
(
き
)
たりぬ。
061
門内
(
もんない
)
には
鬼雲姫
(
おにくもひめ
)
が
叫
(
さけ
)
び
声
(
ごゑ
)
、
062
鬼雲姫
『
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
の
夫
(
をつと
)
はあらざるか、
063
虎彦
(
とらひこ
)
、
064
亀彦
(
かめひこ
)
、
065
山姫
(
やまひめ
)
、
066
河姫
(
かはひめ
)
は
何所
(
いづこ
)
ぞ』
067
と
身
(
み
)
を
藻掻
(
もが
)
き
声
(
こゑ
)
を
限
(
かぎ
)
りに
叫
(
さけ
)
び
居
(
を
)
る。
068
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
は
息
(
いき
)
も
絶
(
た
)
え
絶
(
だ
)
え
門戸
(
もんこ
)
を
敲
(
たた
)
き、
069
鬼雲彦
『ヤアさう
言
(
い
)
ふ
声
(
こゑ
)
は
女房
(
にようばう
)
なるか、
070
俺
(
おれ
)
は
無事
(
ぶじ
)
に
此処
(
ここ
)
まで
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
たぞよ。
071
鬼武彦
(
おにたけひこ
)
は
如何
(
どう
)
なつた、
072
白狐
(
びやくこ
)
の
奴
(
やつ
)
等
(
ら
)
は
何処
(
どこ
)
へ
行
(
い
)
つた、
073
返答
(
へんたふ
)
せよ』
074
と
呶鳴
(
どな
)
り
立
(
た
)
てる。
075
鬼雲姫
(
おにくもひめ
)
は
門内
(
もんない
)
より、
076
鬼雲姫
『アヽ
恋
(
こひ
)
しき
吾
(
わが
)
夫
(
をつと
)
、
077
能
(
よ
)
くも
無事
(
ぶじ
)
に
帰
(
かへ
)
らせ
給
(
たま
)
ひしぞ』
078
と
中
(
なか
)
より
門
(
もん
)
を
颯
(
さつ
)
と
押
(
お
)
し
開
(
ひら
)
き
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
が
手
(
て
)
を
執
(
と
)
つて
奥
(
おく
)
へ
奥
(
おく
)
へと
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
079
余
(
あま
)
りの
嬉
(
うれ
)
しさに
足許
(
あしもと
)
見
(
み
)
えず
鬼雲姫
(
おにくもひめ
)
は
夫
(
をつと
)
の
手
(
て
)
を
携
(
たづさ
)
へたる
儘
(
まま
)
、
080
かねて
穿
(
うが
)
ち
置
(
お
)
いたる
城内
(
じやうない
)
の
井戸
(
ゐど
)
に
夫婦
(
ふうふ
)
共々
(
ともども
)
にドスンと
許
(
ばか
)
り
陥
(
おちこ
)
みぬ。
081
大江山
(
おほえやま
)
の
本城
(
ほんじやう
)
は
敵
(
てき
)
も
味方
(
みかた
)
も
影
(
かげ
)
を
隠
(
かく
)
し
幽
(
かす
)
かに
鼠
(
ねずみ
)
の
泣
(
な
)
き
声
(
ごゑ
)
のみ
聞
(
きこ
)
え
居
(
ゐ
)
る。
082
門前
(
もんぜん
)
には
大江山
(
おほえやま
)
の
山颪
(
やまおろし
)
、
083
岩
(
いは
)
も
飛
(
と
)
べよと
許
(
ばか
)
り
吹
(
ふ
)
き
荒
(
すさ
)
みゐる。
084
月
(
つき
)
は
早
(
はや
)
西
(
にし
)
に
没
(
ぼつ
)
し
黒雲
(
こくうん
)
四辺
(
しへん
)
を
包
(
つつ
)
み
咫尺
(
しせき
)
を
弁
(
べん
)
ぜず、
085
暗黒
(
あんこく
)
の
帳
(
とばり
)
は
下
(
おろ
)
されたり。
086
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
夫婦
(
ふうふ
)
は
千仭
(
せんじん
)
の
井戸
(
ゐど
)
の
底
(
そこ
)
に
数多
(
あまた
)
の
蝮
(
まむし
)
と
諸共
(
もろとも
)
に
世間
(
せけん
)
知
(
し
)
らずの
楽隠居
(
らくいんきよ
)
、
087
否
(
いな
)
蝮
(
まむし
)
地獄
(
ぢごく
)
の
苦
(
くるし
)
き
生活
(
せいくわつ
)
哀
(
あは
)
れなりける
次第
(
しだい
)
なり。
088
かかる
処
(
ところ
)
へ
後
(
あと
)
追
(
お
)
ひ
来
(
き
)
たる
亀彦
(
かめひこ
)
はツカツカと
門内
(
もんない
)
に
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
り
城内
(
じやうない
)
隈
(
くま
)
なく
探
(
さが
)
せども
人影
(
ひとかげ
)
さへも
見
(
み
)
えざれば
如何
(
いかが
)
せしやと
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
四辺
(
あたり
)
に
心
(
こころ
)
を
配
(
くば
)
りつつ
窺
(
うかが
)
ふ
折
(
をり
)
しも
井戸
(
ゐど
)
の
底
(
そこ
)
より
怪
(
あや
)
しき
叫
(
さけ
)
び
声
(
ごゑ
)
、
089
はて
訝
(
いぶ
)
かしやと
手燭
(
てしよく
)
を
点
(
とぼ
)
して
覗
(
うかが
)
へば
紛
(
まぎ
)
ふ
方
(
かた
)
なき
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
が
夫婦
(
ふうふ
)
の
者
(
もの
)
、
090
九死
(
きうし
)
一生
(
いつしやう
)
の
此
(
この
)
苦
(
くるし
)
みを
見
(
み
)
るに
見
(
み
)
かね
館
(
やかた
)
の
井桁
(
ゐげた
)
に
太縄
(
ふとなは
)
を
打
(
う
)
ち
掛
(
か
)
けツルツルと
井中
(
ゐなか
)
に
釣
(
つ
)
り
下
(
おろ
)
せば、
091
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
夫婦
(
ふうふ
)
は
無我
(
むが
)
夢中
(
むちう
)
になつて
手早
(
てばや
)
く
此
(
この
)
綱
(
つな
)
に
跳
(
と
)
び
付
(
つ
)
くや
否
(
いな
)
や
綱
(
つな
)
はツルツルと
何物
(
なにもの
)
にか
引
(
ひ
)
き
上
(
あ
)
げられて
再
(
ふたた
)
び
旧
(
もと
)
の
処
(
ところ
)
へ
帰
(
かへ
)
り
行
(
い
)
きぬ。
092
暗
(
やみ
)
を
通
(
とほ
)
して
聞
(
きこ
)
ゆる
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝歌
(
せんでんか
)
、
093
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
夫婦
(
ふうふ
)
は
叶
(
かな
)
はぬ
時
(
とき
)
の
神頼
(
かみだの
)
み、
094
婆羅門
(
ばらもん
)
教
(
けう
)
の
神歌
(
しんか
)
を
唱
(
とな
)
へ
声
(
こゑ
)
を
限
(
かぎ
)
りに
哀願
(
あいぐわん
)
する。
095
一方
(
いつぱう
)
鬼武彦
(
おにたけひこ
)
は
先
(
さき
)
に
据
(
す
)
ゑ
置
(
お
)
きたる
千引
(
ちびき
)
の
岩
(
いは
)
を
取
(
と
)
り
除
(
のぞ
)
き
岩蓋
(
いはぶた
)
をサツと
開
(
ひら
)
けば
待
(
ま
)
ちかねたる
如
(
ごと
)
く
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
る
鬼彦
(
おにひこ
)
、
096
鬼虎
(
おにとら
)
、
097
熊鷹
(
くまたか
)
、
098
石熊
(
いしくま
)
其
(
その
)
他
(
た
)
数多
(
あまた
)
の
帰順
(
きじゆん
)
せし
人々
(
ひとびと
)
は、
099
枯木
(
かれき
)
に
花
(
はな
)
の
咲
(
さ
)
きしが
如
(
ごと
)
く
喜
(
よろこ
)
び
勇
(
いさ
)
み、
100
大江山
(
おほえやま
)
の
本城
(
ほんじやう
)
目蒐
(
めが
)
けて
帰
(
かへ
)
り
来
(
き
)
たりぬ。
101
東
(
あづま
)
の
空
(
そら
)
はホンノリと
白
(
しら
)
み
初
(
そ
)
め、
102
明
(
あ
)
けの
鵲
(
からす
)
がカアカアと
啼
(
な
)
き
初
(
はじ
)
めたり。
103
漸
(
やうや
)
く
山上
(
さんじやう
)
の
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
が
門前
(
もんぜん
)
に
立
(
た
)
ち
帰
(
かへ
)
れば
亀彦
(
かめひこ
)
、
104
英子姫
(
ひでこひめ
)
、
105
悦子姫
(
よしこひめ
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
に
取
(
と
)
り
巻
(
ま
)
かれ、
106
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
夫婦
(
ふうふ
)
は
何事
(
なにごと
)
か
説諭
(
せつゆ
)
を
受
(
う
)
けつつありぬ。
107
鬼彦
(
おにひこ
)
初
(
はじ
)
め
一同
(
いちどう
)
は
亀彦
(
かめひこ
)
一行
(
いつかう
)
に
一礼
(
いちれい
)
し
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
声
(
こゑ
)
を
揃
(
そろ
)
へて
宣
(
の
)
りつれば、
108
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
夫婦
(
ふうふ
)
は
居
(
ゐ
)
たたまらず
館
(
やかた
)
を
捨
(
す
)
てて
一目散
(
いちもくさん
)
に
雲
(
くも
)
を
霞
(
かすみ
)
と
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
し
伊吹山
(
いぶきやま
)
の
方面
(
はうめん
)
を
目蒐
(
めが
)
けて
天
(
あま
)
の
岩船
(
いはふね
)
に
手早
(
てばや
)
く
打乗
(
うちの
)
り
夫婦
(
ふうふ
)
諸共
(
もろとも
)
中空
(
ちうくう
)
を
翔
(
かけ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
109
亀彦
(
かめひこ
)
、
110
英子姫
(
ひでこひめ
)
、
111
悦子姫
(
よしこひめ
)
は、
112
鬼武彦
(
おにたけひこ
)
の
神
(
かみ
)
を
言霊
(
ことたま
)
を
以
(
もつ
)
てさし
招
(
まね
)
けば
忽
(
たちま
)
ち
昼
(
ひる
)
の
天
(
てん
)
を
掠
(
かす
)
め
白煙
(
はくえん
)
となりて
南方
(
なんぱう
)
より
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り
忽
(
たちま
)
ち
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
前
(
まへ
)
に
英姿
(
えいし
)
を
現
(
あら
)
はしたり。
113
亀彦
(
かめひこ
)
『ヤア
鬼武彦
(
おにたけひこ
)
殿
(
どの
)
、
114
貴下
(
きか
)
の
活動
(
くわつどう
)
天晴
(
あつぱ
)
れ
天晴
(
あつぱ
)
れ、
115
吾
(
われ
)
は
之
(
これ
)
より
聖地
(
せいち
)
に
向
(
むか
)
つて
再
(
ふたた
)
び
進
(
すす
)
まむ。
116
貴下
(
きか
)
は
此処
(
ここ
)
に
留
(
とど
)
まり
給
(
たま
)
ひて、
117
旭
(
あさひ
)
、
118
高倉
(
たかくら
)
、
119
月日
(
つきひ
)
の
諸使
(
しよし
)
と
共
(
とも
)
に
悪魔
(
あくま
)
征服
(
せいふく
)
の
守護
(
しゆご
)
をなし
給
(
たま
)
へ』
120
鬼武彦
(
おにたけひこ
)
『
委細
(
ゐさい
)
承知
(
しようち
)
仕
(
つかまつ
)
る、
121
当山
(
たうざん
)
は
天下
(
てんか
)
の
邪神
(
じやしん
)
集
(
あつ
)
まり
来
(
きた
)
る
霊界
(
れいかい
)
の
四辻
(
よつつじ
)
なれば
国武彦
(
くにたけひこ
)
の
大神
(
おほかみ
)
、
122
以前
(
いぜん
)
の
如
(
ごと
)
く
国治立
(
くにはるたち
)
の
大神
(
おほかみ
)
と
現
(
あら
)
はれ
給
(
たま
)
ひ、
123
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのをの
)
大神
(
おほかみ
)
、
124
瑞
(
みづ
)
の
御霊
(
みたま
)
と
現
(
あら
)
はれて、
125
神政
(
しんせい
)
成就
(
じやうじゆ
)
の
暁
(
あかつき
)
まで
代
(
かは
)
る
代
(
がは
)
る
当山
(
たうざん
)
を
守護
(
しゆご
)
し
奉
(
たてまつ
)
らむ、
126
吾々
(
われわれ
)
此処
(
ここ
)
にあらむ
限
(
かぎ
)
りは
豊葦原
(
とよあしはら
)
の
中津国
(
なかつくに
)
なる
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
は
先
(
ま
)
づ
先
(
ま
)
づ
安心
(
あんしん
)
なされ
度
(
た
)
し、
127
貴下
(
きか
)
は
素盞嗚
(
すさのを
)
の
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
おん
)
後
(
あと
)
に
従
(
したが
)
ひ
天下
(
てんか
)
に
蟠
(
わだかま
)
る
八岐
(
やまた
)
の
大蛇
(
をろち
)
を
言向
(
ことむ
)
けて
神政
(
しんせい
)
復古
(
ふくこ
)
の
神業
(
しんげふ
)
に
奉仕
(
ほうし
)
されよ、
128
万一
(
まんいち
)
御
(
おん
)
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
に
危急
(
ききふ
)
の
事
(
こと
)
あらば
土地
(
とち
)
の
遠近
(
をちこち
)
を
問
(
と
)
はず、
129
鬼武彦
(
おにたけひこ
)
、
130
旭
(
あさひ
)
、
131
高倉
(
たかくら
)
、
132
月日
(
つきひ
)
の
名
(
な
)
を
呼
(
よ
)
ばせ
給
(
たま
)
へば、
133
時刻
(
じこく
)
を
移
(
うつ
)
さず
出張
(
しゆつちやう
)
応援
(
おうゑん
)
仕
(
つかまつ
)
らむ』
134
亀彦
(
かめひこ
)
、
135
英子姫
(
ひでこひめ
)
、
136
悦子姫
(
よしこひめ
)
は
一度
(
いちど
)
に
満足
(
まんぞく
)
の
意
(
い
)
を
表
(
へう
)
し
鬼武彦
(
おにたけひこ
)
の
千変
(
せんぺん
)
万化
(
ばんくわ
)
の
神業
(
かむわざ
)
を
激賞
(
げきしやう
)
し
此処
(
ここ
)
に
目出度
(
めでた
)
く
袂
(
たもと
)
を
分
(
わか
)
ち
東
(
ひがし
)
を
指
(
さ
)
して
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
137
(
大正一一・四・一四
旧三・一八
北村隆光
録)
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