霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第五章 秋山(あきやま)(やかた)〔五九五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第16巻 如意宝珠 卯の巻 篇:第1篇 神軍霊馬 よみ(新仮名遣い):しんぐんれいば
章:第5章 秋山館 よみ(新仮名遣い):あきやまやかた 通し章番号:595
口述日:1922(大正11)年04月14日(旧03月18日) 口述場所:瑞祥閣 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年12月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
秋山彦は、鬼雲彦の手下・鬼彦らの一行に捕らえられてしまった。秋山彦を助けようと血気にはやる亀彦に対して、国武彦は「秋山彦一人の命くらいどうということはない」と挑発する。
怒った亀彦が表へ走ろうとするのを、英子姫が制止した。
しかし捕らえられたと思われた秋山彦は、無事に奥の間に戻ってきた。国武彦は、実は配下の白狐たちの神術によって鬼彦らを追い払っていたのだ、と明かす。
神素盞嗚大神は、亀彦の真心をその行いから知り、満足の意を表した。そして、大江山は国武彦と白狐たちに任せて、一行は聖地を指して進むこととした。
神素盞嗚大神は、聖地に入って三五教の教えを固める意を歌に歌った。また国武彦は、自分が国治立大神の分霊であり、瑞霊・神素盞嗚大神に仕え守る役割であることを明かした。
英子姫は大江山の悪神たちが、大神出立の後に秋山彦を襲うことを心配し、この館に残って鬼雲彦を言向け和す役を願い出るが、国武彦は後は自分に任せるようにと諭した。
一行は由良の港から、世継王丸に乗り込んで、河瀬をさかのぼり聖地に向かった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ:熊野樟毘命(熊野樟日命) データ凡例: データ最終更新日:2021-09-22 04:01:28 OBC :rm1605
愛善世界社版:58頁 八幡書店版:第3輯 422頁 修補版: 校定版:60頁 普及版:25頁 初版: ページ備考:
001高天原(たかあまはら)(やら)はれて
002千座(ちくら)置戸(おきど)()はせつつ
003八洲(やしま)(くに)漂浪(さすらひ)
004(たび)出立(いでた)(たま)ひたる
005(かむ)素盞嗚(すさのを)大神(おほかみ)
006行衛(ゆくゑ)如何(いかん)(あん)じつつ
007(あづま)(そら)打眺(うちなが)
008(こころ)にかかる村肝(むらきも)
009(くも)渦巻(うづまき)サラサラと
010()れて(うれ)しき今日(けふ)(あさ)
011(きみ)便(たよ)りを菊月(きくづき)
012上九日(かみここのか)(きく)(えん)
013親子(おやこ)主従(しゆじゆう)めぐり()
014(むね)岩戸(いはと)秋山彦(あきやまひこ)
015(かみ)(つかさ)真心(まごころ)
016(あや)(にしき)(はた)()
017(あか)(こころ)紅葉姫(もみぢひめ)
018万代(よろづよ)(いは)亀彦(かめひこ)
019(やみ)()らして英子姫(ひでこひめ)
020心地(ここち)もわけて悦子姫(よしこひめ)
021(めぐ)()うたる折柄(をりから)
022(おもて)(きこ)ゆる(とき)(こゑ)
023(たちま)(ひら)表門(おもてもん)
024秋山彦(あきやまひこ)立出(たちい)でて
025()()魔軍(まぐん)打向(うちむか)
026(あま)数歌(かずうた)(いさ)ましく
027力限(ちからかぎ)りに()りつれば
028(てき)人数(にんず)大江山(おほえやま)
029鬼雲彦(おにくもひこ)部下(てした)(ども)
030大地(だいち)にドツと打倒(うちたふ)
031(くるし)(もだ)ゆる状態(ありさま)
032()面白(おもしろ)(かぎ)りなり
033顔色(かほいろ)(あか)()(あを)
034棕櫚(しゆろ)赤髪(あかがみ)振紊(ふりみだ)
035(ろく)(しやく)(ばか)りも踏張(ふんば)つて
036ノソリノソリと()つて()
037鬼雲彦(おにくもひこ)(ふところ)
038(かたな)(たの)鬼彦(おにひこ)
039虎皮(こひ)(ふんどし)()(なが)
040(うし)(やう)なる角目(つのめ)()
041大口(おほぐち)()けて高笑(たかわら)ひ。
042鬼彦(おにひこ)『アハヽヽヽ、043猪口才(ちよこざい)千万(せんばん)な、044秋山彦(あきやまひこ)言霊(ことたま)防戦(ばうせん)045左様(さやう)(こと)でたぢつく(やう)鬼彦(おにひこ)(おも)うて()るか。046此方(こちら)には雲霞(うんか)(ごと)きジヤンジヤヒエールが、047(かず)(かぎ)りもなく(ひか)へて()るぞ。048仮令(たとへ)(なんじ)獅子王(ししわう)(いきほひ)あるとも、049(この)鬼彦(おにひこ)片腕(かたうで)(ふる)ふや(いな)や、050(なんぢ)身体(からだ)()()微塵(みじん)051今日(けふ)()(ぐわつ)九日(ここのか)052大江山(おほえやま)本城(ほんじやう)(おい)ては、053鬼雲彦(おにくもひこ)(おん)大将(たいしやう)054バラモンの大祭典(だいさいてん)()執行(しつかう)(いけにへ)として、055神前(しんぜん)(あたた)かき人肉(じんにく)(そな)へ、056()(さけ)(たてまつ)らねばならぬ。057それに(つい)ては、058バラモン(けう)()(かたき)(ねら)三五教(あななひけう)張本人(ちやうほんにん)059素盞嗚(すさのをの)(みこと)一族(いちぞく)(もの)060(なんぢ)(やかた)(かく)(しの)ぶと()く、061()()(ぬか)さず、062(すみやか)主人(しゆじん)(わが)面前(めんぜん)(ひき)ずり(いだ)せ。063ゴテゴテ(ぬか)さば、064それがし(みづか)()()みて、065(かた)(ぱし)から(うで)()ぢ、066(あし)()り、067(かさ)(ひく)(いた)して(この)網代籠(あじろかご)()()み、068(なんぢ)諸共(もろとも)(かみ)神饌(しんせん)(きよう)してくれむ』
069()ふより(はや)く、070秋山彦(あきやまひこ)襟首(えりくび)をグツと(にぎ)り、071()()けたり。072秋山彦(あきやまひこ)豪力(がうりき)無双(むさう)鬼彦(おにひこ)()()せられ(なが)ら、073委細(ゐさい)(かま)はず言霊(ことたま)奏上(そうじやう)せむとするや、074手頃(てごろ)(いし)(ひろ)つて秋山彦(あきやまひこ)(くち)()()み、075(その)(うへ)猿轡(さるぐつわ)()ませ、
076鬼彦(おにひこ)『アツハヽヽヽ、077最早(もはや)大丈夫(だいぢやうぶ)だ、078サア秋山彦(あきやまひこ)079(なんぢ)唯一(ゆゐいつ)武器(ぶき)(たの)言霊(ことたま)も、080モウ()うなつては(かな)ふまい。081オイ言霊(ことたま)はどうだい……ヤアヤア(みな)(もの)(ども)082最早(もはや)心配(しんぱい)()らぬ。083(すみやか)立上(たちあが)れ』
084()()もなく、085言霊(ことたま)()たれて苦悶(くもん)()たる部下(ぶか)魔神(まがみ)(ども)は、086やうやう立上(たちあ)がり、087()(さを)(かほ)に、088空元気(からげんき)()け、089ガタガタ(ぶる)ひの空威張(からゐば)(ごゑ)
090『ウワア ウワア』
091(とき)(つく)つて、092(さかん)示威(じゐ)運動(うんどう)開始(かいし)するこそ可笑(をかし)かりける。
093 (おく)には糸竹(しちく)管絃(くわんげん)(ひびき)094長閑(のどか)(うた)(こゑ)095(この)()光景(くわうけい)()らず(がほ)(ひび)(わた)りける。096魔軍(まぐん)(ちから)(かぎ)りに(とき)(こゑ)()呶鳴(どな)()()たり。097此方(こなた)奥殿(おくでん)には、098(この)(こゑ)(みね)(あらし)(おと)()(なが)酒宴(しゆえん)真最中(まつさいちう)099(あは)ただしく()けつけ(きた)門番(もんばん)銀公(ぎんこう)100加米公(かめこう)はピタリと両手(りやうて)をつき、101(かしら)(たたみ)()()(なが)ら、
102加米公申上(まをしあ)げます、103表門(おもてもん)はタタ大変(たいへん)御座(ござ)います』
104紅葉姫(もみぢひめ)『ヤア(なんぢ)加米(かめ)105(ぎん)両人(りやうにん)106大変(たいへん)とは何事(なにごと)なるぞ。107委曲(つぶさ)物語(ものがた)れ』
108加米公(かめこう)『ハイハイ申上(まをしあ)げます、109あのモシ……あの……(なん)御座(ござ)います。110()れは()れは申上(まをしあ)(にく)(こと)で……マアマア大変(たいへん)(こと)出来(でき)ました……()()へば、111申上(まをしあ)げずとも大抵(たいてい)112()判断(はんだん)()きませう』
113紅葉姫(もみぢひめ)(はや)くしつかり(まを)しなさい』
114加米公(かめこう)『オイ銀公(ぎんこう)115(まへ)上役(うはやく)だ。116(くは)しい(こと)は、117(まへ)()つとる(はず)だ。118()主人(しゆじん)()容子(ようす)を……』
119銀公(ぎんこう)『ヤア此方(こちら)折悪(をりあし)雪隠(せつちん)()つて()つたのだから、120実状(じつじやう)承知(しようち)して()らぬ。121加米(かめ)122貴様(きさま)実地(じつち)目撃(もくげき)して()つたのだ。123(すぐ)申上(まをしあ)げぬか』
124加米公(かめこう)上役(うはやく)分際(ぶんざい)として、125()主人(しゆじん)(さま)危急(ききふ)存亡(そんばう)場合(ばあひ)126雪隠(せつちん)(かく)れよつて、127(ふる)うて()つたぢやないか。128(おれ)何分(なにぶん)大勢(おほぜい)()()に、129(きも)(つぶ)し、130()(くら)み、131実地(じつち)目撃(もくげき)不充分(ふじゆうぶん)132貴様(きさま)安全(あんぜん)地帯(ちたい)()(かく)し、133雪隠(せんち)(まど)から(のぞ)いて()よつたのだ。134(はや)(まを)さぬと、135()主人(しゆじん)(さま)(くち)(いし)()()み、136猿轡(さるぐつわ)()め、137高手(たかて)小手(こて)(いま)しめて、138網代籠(あじろかご)に、139手足(てあし)をもぎとり(かさ)(ひく)うして、140今日(けふ)祭典(まつり)大江山(おほえやま)本城(ほんじやう)()(かへ)り、141犠牲(ぎせい)にするかも()れぬぞや、142(はや)実地(じつち)(まを)さぬかい』
143銀公(ぎんこう)『ハア申上(まをしあ)げます。144加米公(かめこう)(まを)した(とほ)り、145寸分(すんぶん)(ちがひ)御座(ござ)いませぬ。146(はや)何々(なになに)をなさらぬと、147鬼彦(おにひこ)()主人(しゆじん)(さま)何々(なになに)して、148何々(なになに)何々(なになに)するかも()れませぬ。149どうぞ一時(いつとき)(はや)表門(おもてもん)立向(たちむか)ひ、150()主人(しゆじん)(さま)をお(たす)(くだ)さいませ』
151素尊(すそん)『ハヽヽヽヽ』
152国武彦(くにたけひこ)『ヤア面白(おもしろ)(こと)出来(でき)ました。153鬼彦(おにひこ)とやらの軍勢(ぐんぜい)を、154当館(たうやかた)開放(かいはう)奥深(おくふか)侵入(しんにふ)させて、155(かれ)()手振(てぶ)足振(あしぶ)りを(なが)(なが)ら、156(ゆつ)くりと菊見(きくみ)(えん)()りませう』
157亀彦(かめひこ)『これはこれは国武彦(くにたけひこ)()言葉(ことば)とも(おぼ)えぬ。158(いま)(うけたま)はれば、159秋山彦(あきやまひこ)(てき)(ため)(とら)はれの()となり、160危機(きき)一髪(いつぱつ)場合(ばあひ)161チツトは紅葉姫(もみぢひめ)()心中(しんちう)(さつ)()げねばなりますまい。162それだから(この)亀彦(かめひこ)が、163()()(てき)(むか)つて(すす)まむと(いた)せし(とき)164横合(よこあひ)から()行動(かうどう)()めさせられたは、165(その)()()ぬ。166冷淡(れいたん)至極(しごく)貴下(きか)振舞(ふるまひ)167秋山彦(あきやまひこ)見殺(みごろ)しになさる所存(しよぞん)返答(へんたふ)()かう』
168()(いか)らし、169(うで)()つて()()せたれば、170国武彦(くにたけひこ)はニツコリしながら、
171国武彦秋山彦(あきやまひこ)一人(ひとり)二人(ふたり)犠牲(ぎせい)にした(ところ)で、172(なに)(さわ)(こと)があるか。173一人(ひとり)(ころ)して吾々(われわれ)数人(すうにん)(たす)かると()ふものだ。174一人(ひとり)(そん)するか、175(われ)()一同(いちどう)(そん)するか、176利害(りがい)得失(とくしつ)()(むね)()()て、177算段(さんだん)をして()よ。178(なさけ)()つるか、179理智(りち)()つるか、180(ふた)つに(ひと)つの性念場(しやうねんば)だ。181(なさけ)()かされ、182大事(だいじ)(あやま)天下(てんか)痴呆者(うつけもの)183仮令(たとへ)秋山彦(あきやまひこ)(さん)(にん)184()(にん)(ころ)されようとも、185(かむ)素盞嗚(すさのをの)(みこと)(さま)さへ()無事(ぶじ)ならば、186(われ)()()れにて満足(まんぞく)(いた)す。187マアマアゆつくりと、188(さけ)でも()みて、189今日(けふ)酒宴(しゆえん)(にぎ)やかに(いた)せ。190喜悦(よろこび)座席(ざせき)血腥(ちなまぐさ)(はなし)持込(もちこ)まれては、191サツパリお()()める』
192亀彦(かめひこ)(なんぢ)国武彦(くにたけひこ)とは真赤(まつか)(いつは)り、193大江山(おほえやま)(あら)はれたる、194鬼雲彦(おにくもひこ)(おに)片腕(かたうで)195国武彦(くにたけひこ)()(いつは)り、196三五教(あななひけう)(しの)()()たり、197内外(ないぐわい)相応(あひおう)じ、198(かむ)素盞嗚(すさのをの)(みこと)(そこな)はむとする(もの)ならむ、199首途(かどで)血祭(ちまつ)り、200亀彦(かめひこ)一刀(いつたう)(もと)()りつけ、201蹴散(けち)らかして()れむ』
202短剣(たんけん)ヒラリと引抜(ひきぬ)いて、203()つて()かるを、204国武彦(くにたけひこ)(すこ)しも(さわ)がず、205(たい)左右(さいう)(かは)し、206あしらひ(なが)ら、
207国武彦『アハヽヽヽヽ、208(かめ)(をどり)格別(かくべつ)面白(おもしろ)御座(ござ)る、209ヤア素盞嗚(すさのを)大神殿(おほかみどの)210()愉快(ゆくわい)では御座(ござ)らぬか』
211素尊『ワハヽヽヽヽ面白(おもしろ)面白(おもしろ)い』
212亀彦(かめひこ)()れは()しからぬ、213利己(りこ)主義(しゆぎ)中心(ちうしん)214個人主義(われよし)行方(やりかた)……高天原(たかあまはら)神退(かむやら)ひに退(やら)はれたは、215(むし)当然(たうぜん)成行(なりゆき)216(この)亀彦(かめひこ)今迄(いままで)貴神(きしん)悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)心中(しんちう)()らず、217至善(しぜん)至美(しび)至仁(しじん)至愛(しあい)大神(おほかみ)(しん)じて()たは残念(ざんねん)だ。218モウ()うなる(うへ)は、219天下(てんか)(ため)(なんぢ)(ほろぼ)し、220()れも生命(いのち)()てて、221宇宙(うちう)悪魔(あくま)(のぞ)かむ』
222()つて(かか)るを、223英子姫(ひでこひめ)224悦子姫(よしこひめ)(その)(まへ)立塞(たちふさ)がり、
225英子姫、悦子姫『オホヽヽヽヽあの亀彦(かめひこ)元気(げんき)(こと)226さぞお草臥(くたびれ)でせう。227(わらは)(かは)つて一芝居(ひとしばゐ)(いた)しませう。228マアマアお(やす)(あそ)ばせ』
229 紅葉姫(もみぢひめ)(こゑ)()げて泣伏(なきふ)しける。
230亀彦(かめひこ)()れは()れは紅葉姫(もみぢひめ)(さま)231(なげ)御尤(ごもつと)も、232主人(しゆじん)災難(さいなん)()(なが)ら、233女房(にようばう)として()れがどう(しの)ばれませう。234あかの他人(たにん)亀彦(かめひこ)さへも、235残念(ざんねん)残念(ざんねん)(たま)りませぬワイ。236()()(とき)(たす)けて(もら)はうと(おも)つて、237秋山彦(あきやまひこ)日頃(ひごろ)親切(しんせつ)238イヤモウ気楽(きらく)千万(せんばん)素盞嗚(すさのを)(おん)大将(たいしやう)(あき)(がへる)(つら)(みづ)(まを)さうか、239馬耳(ばじ)東風(とうふう)()はうか、240味方(みかた)危難(きなん)対岸(たいがん)火災視(くわさいし)し、241一臂(いつぴ)(ちから)()へざるのみか、242愉快気(ゆくわいげ)(さけ)()むで(たは)むれむとするは、243人情(にんじやう)軽薄(けいはく)(かみ)(ごと)く、244イヤもう(じつ)(あき)()てて御座(ござ)る。245サア紅葉姫(もみぢひめ)殿(どの)246()かる連中(れんぢう)斟酌(しんしやく)なく、247亀彦(かめひこ)(とも)(おもて)()()し、248秋山彦(あきやまひこ)弔戦(とむらひいくさ)249(この)細腕(ほそうで)(つづ)かむ(かぎ)り、250(つるぎ)目釘(めくぎ)(つづ)(だけ)251縦横(じうわう)無尽(むじん)()()て、252()()て、253(てき)奴輩(やつばら)一人(ひとり)(のこ)さず、254(あき)紅葉(もみぢ)()らせし(ごと)く、255大地(だいち)血汐(ちしほ)()めなし、256血河(けつか)屍山(しざん)大活動(だいくわつどう)(つかまつ)らう、257紅葉姫(もみぢひめ)258サア亀彦(かめひこ)(つづ)かせ(たま)へ』
259(おもて)()して()かむとす。260英子姫(ひでこひめ)(こし)紐帯(ひもおび)()るより(はや)く、261亀彦(かめひこ)(くび)にヒラリと(うち)かけ、262グイと引戻(ひきもど)せば、263亀彦(かめひこ)細紐(ほそひも)喉笛(のどぶえ)()められ、264(もろ)くも仰向(あふむけ)(その)()にパタリと(たふ)れたり。265(おもて)(きこ)ゆる人声(ひとごゑ)は、266刻々(こくこく)(やかた)(おく)目蒐(めが)けて(ちか)づき(きた)る。
267 紅葉姫(もみぢひめ)は、
268(こころ)(たま)(ささ)げたる
269(かむ)素盞嗚(すさのを)大神(おほかみ)
270(ちから)(かぎ)()(かぎ)
271(つか)へまつるか(ただ)(また)
272(この)()()てて(わが)(つま)
273秋山彦(あきやまひこ)(すく)はむか。
274 神命(しんめい)(おも)(また)(をつと)()(うへ)は、275(つま)()として坐視(ざし)するに(しの)びず、276千思(せんし)万慮(ばんりよ)とつおいつ、277(こころ)(うち)紅葉姫(もみぢひめ)278(かほ)()らした唐紅(からくれなゐ)血汐(ちしほ)(みなぎ)(とき)(こゑ)279(むね)はドキドキ、280刻々(こくこく)に、281近付(ちかづ)(きた)(てき)(ぜい)282(ひめ)(こころ)(あは)れなる。
283 (この)()近付(ちかづ)(きた)るかと(きこ)えし(こゑ)は、284何時(いつ)しか()えて(あと)なき小春空(こはるぞら)285秋山彦(あきやまひこ)悠然(いうぜん)(さわ)がず、286(あせ)らず、287(おく)()()して(かへ)()る。288亀彦(かめひこ)289紅葉姫(もみぢひめ)両人(りやうにん)は、290(あま)りの(うれ)しさに、291ハツと(むね)(せま)り、292ものをも()はず、293(その)()打倒(うちたふ)れ、294(ゆめ)(うつつ)(まぼろし)かと、295(われ)()(こころ)(うたが)ひ、296思案(しあん)(とき)(うつ)すのみ。297国武彦(くにたけひこ)()ちあがり、
298国武彦亀彦(かめひこ)299紅葉姫(もみぢひめ)300心配(しんぱい)(いた)すな。301(われ)()眷族(けんぞく)鬼武彦(おにたけひこ)をして、302鬼雲彦(おにくもひこ)悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)(こら)(ため)神変(しんぺん)不思議(ふしぎ)神術(かむわざ)(もち)ひ、303(てき)本城(ほんじやう)(しの)ばせたれば、304(すこ)しも(あん)ずる(こと)(なか)れ』
305(はじ)めて事情(じじやう)打明(うちあ)けたるにぞ、306亀彦(かめひこ)307紅葉姫(もみぢひめ)は、
308亀彦、紅葉姫『ハヽア、309ハツ』
310(ばか)りに(うれ)()き、311(しば)しは(かほ)得上(えあ)げざりしが、312素盞嗚(すさのをの)(みこと)亀彦(かめひこ)(むか)ひ、
313素尊『ヤア亀彦(かめひこ)314(なんぢ)(こころ)(うち)(うる)はしさ、315()れは満足(まんぞく)(いた)したぞよ、316イザ()れより賑々(にぎにぎ)しく酒宴(しゆえん)(もよほ)し、317大江山(おほえやま)本城(ほんじやう)(かれ)()眷族(けんぞく)打任(うちまか)せ、318吾々(われわれ)一行(いつかう)由良(ゆら)(みなと)より(ふね)()(あや)高天原(たかま)(すす)まむ』
319宣示(せんじ)(たま)へば、320亀彦(かめひこ)(いさ)()ち、
321亀彦(かめひこ)『アヽ、322ハツハヽヽヽ芽出(めで)たし芽出(めで)たし、323(いよいよ)()れより大神(おほかみ)()(とも)(いた)し、324聖地(せいち)()して逸早(いちはや)(すす)(のぼ)り、325神政(しんせい)成就(じやうじゆ)(もとい)(ひら)かむ、326ヤア秋山彦(あきやまひこ)327紅葉姫(もみぢひめ)328(よろこ)びあれ。329貴下(きか)誠忠(せいちう)330至誠(しせい)331至愛(しあい)真心(まごころ)天地(てんち)(つう)じたり。332(しか)(なが)吾々(われわれ)一同(いちどう)当家(たうけ)()らば、333(ふたた)大江山(おほえやま)より鬼雲彦(おにくもひこ)部下(ぶか)(もの)334(また)もや()()(きた)るも(はか)(がた)し、335随分(ずゐぶん)(こころ)()()されよ』
336 秋山彦(あきやまひこ)夫婦(ふうふ)(なみだ)(ふる)ひ、
337秋山彦夫婦(なに)から(なに)まで、338貴下(あなた)()親切(しんせつ)339骨身(ほねみ)(てつ)して(かたじけ)なう(ぞん)じます。340(しか)(なが)(われ)()(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)()(まも)りあれば、341(かなら)()心配(しんぱい)(くだ)さいますな、342(いち)()(はや)聖地(せいち)()して()(のぼ)(くだ)され。343神政(しんせい)成就(じやうじゆ)基礎(きそ)樹立(じゆりつ)する(ため)344()奮励(ふんれい)(ほど)(ひとへ)(こひねが)()(たてまつ)る』
345慇懃(いんぎん)謝辞(しやじ)()べける。
346素尊(すそん)『ヤア秋山彦(あきやまひこ)夫婦(ふうふ)347多大(いか)いお世話(せわ)になりしよ。348()れは(これ)より一先(ひとま)聖地(せいち)立向(たちむか)ひ、349天下(てんか)悪神(あくがみ)掃蕩(さうたう)すべき準備(じゆんび)をなさむ、350(ふね)用意(ようい)(いた)せ』
351秋山彦(あきやまひこ)『ハハア委細(ゐさい)承知(しようち)(つかまつ)りました。352……銀公(ぎんこう)353加米公(かめこう)354(なんぢ)(いち)()(はや)(みなと)()で、355御船(みふね)用意(ようい)にかかれ』
356銀公(ぎんこう)『ハヽア委細(ゐさい)承知(しようち)(つかまつ)りました。357(しか)(なが)(ふね)敵軍(てきぐん)(ため)(ほとん)占領(せんりやう)せられたるやも(はか)られませぬ。358万々一(まんまんいち)(ふね)なき(とき)は、359如何(いかが)取計(とりはか)らひませうや』
360 秋山彦(あきやまひこ)双手(もろて)()(かうべ)(かたむ)思案(しあん)にくるるを、361国武彦(くにたけひこ)は、
362国武彦『ナニ心配(しんぱい)(およ)ばぬ、363御船(みふね)(のこ)らず国武彦(くにたけひこ)眷属(けんぞく)(もつ)(まも)らせあれば大丈夫(だいぢやうぶ)なり。364安心(あんしん)(いた)せ。365(かつ)(また)当邸(たうてい)周囲(しうゐ)には、366最早(もはや)(てき)片影(へんえい)だもなし、367(いさ)出船(しゆつせん)用意(ようい)をせよ』
368 銀公(ぎんこう)369加米公(かめこう)は、
370銀公、加米公『ハイ』
371(こた)へて(この)()立去(たちさ)りぬ。372(また)もや糸竹(しちく)管絃(くわんげん)(ひびき)屋外(をくぐわい)()るる陽気(やうき)一変(いつぺん)したりけり。
373 (かむ)素盞嗚(すさのをの)(みこと)突立(つつたち)(あが)り、374(こゑ)(すず)しく(うた)はせ(たま)ひぬ。
375素尊高天原(たかあまはら)立出(たちい)でて
376四方(よも)国々(くにぐに)島々(しまじま)
377世人(よびと)(たす)(まも)らむと
378彼方(あちら)こちらと漂浪(さすらひ)
379(たび)(かさ)ねて西蔵(チベツト)
380フサの荒野(あらの)打渡(うちわた)
381ウブスナ(さん)立籠(たてこも)
382イソ山峠(やまたうげ)絶頂(ぜつちやう)
383(かり)(やかた)(かま)へつつ
384熊野(くまの)樟毘(くすびの)(みこと)をば
385留守居(るすゐ)(かみ)(さだ)めおき
386()れは(かな)しき(かく)()
387(いと)しき(むすめ)四方(よも)八方(やも)
388四鳥(してう)(わか)釣魚(てうぎよ)(なみだ)
389(うき)(かさ)ねてやうやうに
390(わた)りて(きた)和田(わだ)(はら)
391(しこ)曲津(まがつ)大江山(おほえやま)
392鬼雲彦(おにくもひこ)言向(ことむ)けて
393世人(よびと)(なや)みを(すく)はむと
394(ふね)()られて由良湊(ゆらみなと)
395(こころ)(あか)秋山彦(あきやまひこ)
396(やかた)(しば)()(やす)
397四方(よも)国形(くにがた)(うかが)へば
398(じふ)()四方(しはう)(みや)(うち)
399(うち)(そと)との(さかひ)なる
400大江(おほえ)(やま)にバラモンの
401(かみ)(つかさ)鬼雲彦(おにくもひこ)
402(また)もや(とりで)(きづ)きつつ
403(しこ)(すさ)びの最中(さいちう)
404(たづ)ねて(きた)(うしとら)
405(かみ)(みこと)分霊(わけみたま)
406国武彦(くにたけひこ)(あら)はれて
407()れに附添(つきそ)右左(みぎひだり)
408(まへ)(うしろ)(かま)ひつつ
409鬼武彦(おにたけひこ)伊猛(いたけ)るの
410(かみ)(したが)白狐(びやくこ)(ども)
411暗夜(やみよ)()らす朝日子(あさひこ)
412月日(つきひ)明神(みやうじん)神徳(しんとく)
413高倉(たかくら)稲荷(いなり)活動(はたらき)
414(なや)ませられて悪神(あくがみ)
415(いよいよ)今日(けふ)(うん)(つき)
416(つき)村雲(むらくも)(はな)(かぜ)
417(こころ)(にしき)秋山彦(あきやまひこ)
418(かみ)(つかさ)真心(まごころ)
419紅葉(もみぢ)(ひめ)(ごと)くなり
420(ひかり)(まば)ゆき英子姫(ひでこひめ)
421すべての用意(ようい)悦子姫(よしこひめ)
422万代(よろづよ)(かた)むる亀彦(かめひこ)
423忠義(ちうぎ)(やいば)()ぎすまし
424さしもに(たけ)曲神(まがかみ)
425言向和(ことむけやは)すは目前(まのあたり)
426(あゝ)面白(おもしろ)面白(おもしろ)
427さはさりながら神心(かみごころ)
428(すべ)ての(てき)(すく)はむと
429(ぜん)をば(たす)曲神(まがかみ)
430(こら)して(すく)(かみ)(みち)
431青垣山(あをがきやま)(めぐ)らせる
432天津(あまつ)神籬(ひもろぎ)磐境(いはさか)
433(あら)はれませる世継王(よつわう)(ざん)
434(ふか)仕組(しぐみ)(しばら)くは
435(くも)(つつ)みて弥仙山(みせんざん)
436本宮山(ほんぐうやま)(あら)はれて
437はちすの(やま)蓮華台(れんげだい)
438三五教(あななひけう)御教(みをしへ)
439常磐(ときは)堅磐(かきは)搗固(つきかた)
440(おに)大蛇(をろち)丸山(まるやま)
441(かみ)稜威(みいづ)桶伏(をけぶせ)
442(けが)れを(なが)由良(ゆら)(かは)
443言霊(ことたま)(ひび)五十鈴(いすず)(がは)
444(まが)(たけ)びは音無瀬(おとなせ)
445(みづ)(なが)して(きよ)()
446科戸(しなど)(かぜ)福知山(ふくちやま)
447めぐりて此処(ここ)鬼城山(きじやうざん)
448(おに)悪魔(あくま)()()ぞと
449(をさ)むる御代(みよ)こそ(たの)しけれ
450(をさ)むる御代(みよ)こそ(たの)しけれ』
451 国武彦(くにたけひこ)()ちあがり(うた)ひけり。452その(うた)
453国武彦宇宙(うちう)(つく)(かた)めたる
454大国治立(おほくにはるたちの)(かみ)(すゑ)
455国治立(くにはるたち)大神(おほかみ)
456(あや)高天原(たかま)(あら)はれて
457天地(てんち)律法(りつぱう)制定(せいてい)
458天地(てんち)(きよ)(てら)さむと
459(おも)ひし(こと)(みづ)(あわ)
460天足(あだる)(ひこ)胞場姫(えばひめ)
461邪気(じやき)より()れる(おに)大蛇(をろち)
462(しこ)(きつね)悪神(わるがみ)
463(すさ)びの(いき)四方(よも)(くに)
464充塞(みちふさ)がりて(つき)()
465(ひかり)(うしな)山河(やまかは)
466木草(きくさ)()てに(いた)るまで
467(ところ)()ずしてサワサワに
468(さわ)(はげ)しき(しこ)(かぜ)
469(まこと)(あらし)()(すさ)
470()稚宮(わかみや)()しませる
471()大神(おほかみ)思召(おぼしめ)
472根底(ねそこ)(くに)退(やら)はれて
473百千万(ももちよろづ)(くる)しみを
474()(つく)したる()()ては
475野立彦(のだちひこ)(かみ)(あら)はれて
476天教山(てんけうざん)胞衣(えな)となし
477猛火(まうくわ)(なか)出入(しゆつにふ)
478(この)()(まも)()身魂(みたま)
479()(うしとら)神国(しんこく)
480()(ひび)きたる中津国(なかつくに)
481自転倒(おのころ)(じま)中央(まんなか)
482姿(すがた)(かく)して(いま)(はや)
483国武彦(くにたけひこ)となり(さが)
484五六七(みろく)御代(みよ)(きた)(まで)
485(こころ)(つく)(まも)らむと
486(かむ)素盞嗚(すさのを)大神(おほかみ)
487(みづ)御霊(みたま)諸共(もろとも)
488(いよいよ)此処(ここ)厳御霊(いづみたま)
489(みづ)(いづ)との組合(くみあは)
490八洲(やしま)(くに)三五(あななひ)
491(をしへ)(のり)(をさ)めむと
492(こころ)(つく)しの益良夫(ますらを)
493(はな)()(はる)(まつ)()
494(まつ)(みどり)(はな)()
495一度(いちど)(ひら)白梅(しらうめ)
496(はな)(かをり)天地(あめつち)
497()ぐる(とき)こそ()たれける
498(われ)(これ)より世継王(よつわう)
499(やま)(ふもと)()(しの)
500弥勒(みろく)御代(みよ)(さきがけ)
501(つと)むる(うしとら)(かね)(かみ)
502(かむ)素盞嗚(すさのを)大神(おほかみ)
503一旦(いつたん)聖地(せいち)(あら)はれて
504三五教(あななひけう)(いしずゑ)
505築固(つきかた)めたる(その)(うへ)
506(また)もや海原(うなばら)打渡(うちわた)
507大地(だいち)(くま)なく言向(ことむ)けて
508五六七(みろく)御代(みよ)(さきがけ)
509(ひら)神業(みわざ)真心(まごころ)
510(そそ)がせ(たま)瑞御霊(みづみたま)
511三五(さんご)(つき)のキラキラと
512(あか)神代(かみよ)(もち)()
513(つき)より(まる)(をさ)めませ
514(をさ)まる御代(みよ)()(もと)
515(まこと)(ひと)つの(ひかり)なり
516(まこと)(ひと)つの(ひかり)なり』
517 英子姫(ひでこひめ)立上(たちあが)り、
518英子姫(ちち)大神(おほかみ)御言(みこと)もて
519(わらは)姉妹(おとどひ)八乙女(やおとめ)
520豊葦原(とよあしはら)中津国(なかつくに)
521メソポタミヤの顕恩(けんおん)
522(さと)(こも)れる曲神(まがかみ)
523鬼雲彦(おにくもひこ)(たひら)げて
524三五教(あななひけう)(かみ)(みち)
525八洲(やしま)(くに)(てら)さむと
526(おも)(をり)しも曲神(まがかみ)
527(しこ)(たく)みの捨小船(すてをぶね)
528(なみ)のまにまに(なが)されて
529(なが)(なみだ)(うみ)(うへ)
530(あら)汐路(しほぢ)()()けて
531やうやう此処(ここ)()られつつ
532由良(ゆら)(みなと)()()れば
533秋山彦(あきやまひこ)真心(まごころ)
534(われ)()二人(ふたり)(てら)されて
535(こころ)(やみ)()れわたる
536(かか)浮世(うきよ)(おに)()しと
537世人(よびと)()へど大江山(おほえやま)
538(おに)棲家(すみか)のいと(ちか)
539(ひと)生血(いきち)(しぼ)()
540(この)有様(ありさま)()(なが)
541どうして(この)()()られうか
542(ちち)大神(おほかみ)国武彦(くにたけひこ)
543(かみ)(みこと)出立(いでたち)
544是非(ぜひ)(およ)ばず()(なが)
545(わらは)(あと)(のこ)()
546鬼雲彦(おにくもひこ)一類(いちるゐ)
547言向和(ことむけやわ)()(なか)
548(しこ)災禍(わざはひ)()()ちて
549聖地(せいち)(すす)むも(おそ)からじ
550(ゆる)させ(たま)(ちち)(かみ)
551国武彦(くにたけひこ)大神(おほかみ)
552(ひとへ)(ねが)(たてまつ)
553(ひとへ)(をが)(たてまつ)る』
554両手(りやうて)(あは)せ、555二神(にしん)(むか)つて拝礼(はいれい)し、556(なみだ)(とも)(たの)()る。
557国武彦(くにたけひこ)英子姫(ひでこひめ)(ねがひ)558一応(いちおう)(もつと)もなれども、559多寡(たくわ)()れたる鬼雲彦(おにくもひこ)一派(いつぱ)560(なん)(おそ)るる(こと)かあらむ。561神力(しんりき)無限(むげん)鬼武彦(おにたけひこ)をして、562()悪神(わるがみ)征討(せいたう)(むか)はせたれば安心(あんしん)あれ、563サアサア(いち)()(はや)聖地(せいち)()して(すす)()かむ。564躊躇(ちうちよ)(およ)ばば、565鬼雲彦(おにくもひこ)一派(いつぱ)鬼掴(おにつかみ)眷属(けんぞく)(ども)566(われ)()到着(たうちやく)先立(さきだ)ち、567聖地(せいち)(けが)すの(おそれ)あり、568イザ(はや)く……』
569()()つれば、570(かむ)素盞嗚(すさのを)大神(おほかみ)は、571装束(しやうぞく)(ととの)へ、572一行(いつかう)(とも)悠然(いうぜん)として(この)()立出(たちい)で、573由良(ゆら)(みなと)渡船場(とせんば)574世継王(よつわう)(まる)()(まか)せ、575(をり)から()()北風(きたかぜ)真帆(まほ)(はら)ませ、576悠々(いういう)河瀬(かはせ)(さかのぼ)(たま)ふこそ(たふと)けれ。
577大正一一・四・一四 旧三・一八 於瑞祥閣 松村真澄録)
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