霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一五章 谷間(たにま)の祈(いのり)〔六〇五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第16巻 如意宝珠 卯の巻 篇:第2篇 深遠微妙 よみ(新仮名遣い):しんえんびみょう
章:第15章 谷間の祈 よみ(新仮名遣い):たにまのいのり 通し章番号:605
口述日:1922(大正11)年04月15日(旧03月19日) 口述場所: 筆録者:外山豊二 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年12月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
三人が聖地に上る途中、老若男女が列をなして山奥へ進んで行くのを目にした。聞いてみると、数日前から大江山の麓、剣尖山の谷あいに神様が現れ、霊験あらたかなのだという。
それは、逃げ出したウラナイ教の青彦だった。三人の宣伝使は、青彦を言向け和しに行くことになった。
青彦は人々を惑わしてウラナイ教への改心を進めている。悦子姫は青彦のいる滝の後ろの森林に隠れ、女神に扮して青彦を叱り始めた。青彦は姿の見えない悦子姫を見つけ出そうと焚き火をたく。
焚き火に驚いた雀蜂の群れが青彦を襲って、青彦はその場に倒れてしまった。蜂は参詣人たちにも襲い掛かり、その場は混乱してしまう。
悦子姫は三五教へ改心するように、と説き、一同が惟神霊幸倍坐世を唱えると、蜂の刺し傷はすっかり癒えた。悦子姫は一同に、綾の高天原に参詣するようにと諭すと、参詣人たちは喜び、拍手して帰って行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-02-06 18:03:09 文字数:3816 OBC :rm1615
愛善世界社版:187頁 八幡書店版:第3輯 470頁 修補版: 校定版:192頁 普及版:85頁 初版: ページ備考:
001 亀彦(かめひこ)、002英子姫(ひでこひめ)、003悦子姫(よしこひめ)の三(さん)人(にん)は、004由良(ゆら)の流(なが)れを遡(さかのぼ)り河守駅(かうもりえき)に辿(たど)り着(つ)き、005路傍(ろばう)の石(いし)に腰打(こしうち)掛(か)け息(いき)を休(やす)めゐる。006右(みぎ)も左(ひだり)も鬱蒼(うつさう)たる老樹(らうじゆ)繁茂(はんも)し、007昼(ひる)尚(な)ほ暗(くら)き谷(たに)の底(そこ)、008蟻(あり)の甘(あま)きにつくが如(ごと)く絡繹(らくえき)として数多(あまた)の老若(らうにやく)男女(なんによ)は山奥(やまおく)目蒐(めが)けて進(すす)み往(ゆ)く。
009 亀彦(かめひこ)はその中(なか)の一人(ひとり)を捉(とら)へ、
010亀彦『斯(か)う沢山(たくさん)に人(ひと)が北(きた)へ北(きた)へと行列(ぎやうれつ)を組(く)みて往(ゆ)くのは、011何(なに)か変(か)はつたことがあるのか。012様子(やうす)を聞(き)き度(た)いものだナア』
013男(をとこ)『ハイハイ何(なん)だか知(し)りませぬが、014二三(にさん)日(にち)以前(いぜん)から大江山(おほえやま)の麓(ふもと)の剣尖山(けんさきやま)の谷間(たにあひ)に結構(けつこう)な神(かみ)様(さま)が現(あら)はれたと云(い)ふことで、015何(いづ)れも病気(びやうき)平癒(へいゆ)や、016商売(しやうばい)繁昌(はんじやう)などの御(お)願(ねがひ)で参拝(さんぱい)を致(いた)すものでございます。017私(わたくし)も別(べつ)に願(ねがひ)とては無(な)いけれども、018余(あんま)り沢山(たくさん)の人(ひと)が詣(まゐ)るなり、019偉(えら)い評判(ひやうばん)だから、020ドンナ者(もの)か一(ひと)つ見(み)がてらに参(まゐ)る所(ところ)です』
021亀彦(かめひこ)『それは一体(いつたい)何(なん)と云(い)ふ神(かみ)様(さま)だ』
022男(をとこ)『ナンデも裏(うら)とか、023表(おもて)とか云(い)ふ名(な)の附(つ)いた畳屋(たたみや)の様(やう)な神(かみ)さまぢや相(さう)です。024さうして青彦(あをひこ)とか、025青蛙(あをがへる)とか、026青畳(あをだたみ)とか、027ナンデも青(あを)の附(つ)く名(な)の御(お)取次(とりつぎ)が居(を)つて、028樹(き)の枝(えだ)を以(もつ)て参拝者(さんぱいしや)を一々(いちいち)しばくと、029それで病気(びやうき)が立所(たちどころ)に癒(なほ)つたり、030願望(ぐわんばう)が成就(じやうじゆ)したりするとか云(い)つて、031それはそれは偉(えら)い人気(にんき)でございます。032流行神(はやりがみ)さまは、033何(なん)でも早(はや)う参(まゐ)らねば御(ご)神徳(しんとく)が無(な)いと、034皆(みな)剣尖山(けんさきやま)の麓(ふもと)へ指(さ)して弁当持(べんたうもち)で参拝(さんぱい)するのです。035マアお前(まへ)さまも妙(めう)な風(ふう)をしてござるが、036大方(おほかた)神(かみ)さまの取次(とりつぎ)ではありますまいか』
037亀彦(かめひこ)『さうぢや、038吾々(われわれ)も神(かみ)の道(みち)の取次(とりつぎ)ぢや』
039男(をとこ)『ヤア貴方(あなた)は取次(とりつぎ)と云(い)つても、040生臭(なまぐさ)取次(とりつぎ)ぢやろ。041此(こ)の奥(おく)の谷川(たにがは)に現(あら)はれた青(あを)い名(な)の附(つ)く御(お)取次(とりつぎ)は、042精進(しやうじん)潔斎(けつさい)、043女(をんな)などは傍(そば)にも寄(よ)せつけぬと云(い)ふ、044それはそれは偉(えら)い行者(ぎやうじや)ぢやさうな。045それにお前(まへ)は鶏(にはとり)か何(なん)ぞの様(やう)に三羽番(さんばつがひ)で、046誰(たれ)がお前(まへ)の言(い)ふことを聞(き)くものか、047笑(わら)ふに定(きま)つとるワ。048アハヽヽヽ』
049亀彦(かめひこ)『決(けつ)して決(けつ)して女房(にようばう)でも何(なん)でもござらぬ。050各自(めいめい)一個(いつこ)独立(どくりつ)の教(をしへ)の道(みち)の宣伝使(せんでんし)だ。051お前(まへ)達(たち)は男(をとこ)と女(をんな)と歩(ある)いて居(を)れば、052直(すぐ)にそれだから困(こま)る。053凡夫(ぼんぶ)と云(い)ふ者(もの)は浅猿(あさま)しいものだ』
054男(をとこ)『ヘエ、055うまいこと仰有(おつしや)いますワイ。056凡夫(ぼんぶ)の中(なか)にも聖人(せいじん)があり、057聖人(せいじん)らしう見(み)せても凡夫(ぼんぶ)がある世(よ)の中(なか)ぢや。058余(あんま)りボンボン言(い)つて貰(もら)ふまいかい。059ボンくら凡夫(ぼんぶ)のボンボン宣伝使(せんでんし)奴(め)が。060マア悠乎(ゆつくり)と路傍(みちばた)で三羽番(さんばつがひ)、061羽巻(はねまき)でもして狎戯(いちやつ)いたがよからう。062アーア、063コンナ偽(にせ)宣伝使(せんでんし)に掛(かか)り合(あ)つて、064伴(つれ)の奴(やつ)はモー何処(どこ)か先(さき)へ往(い)つて了(しま)ひやがつた』
065と一目散(いちもくさん)に駆(か)け出(だ)し、066奥(おく)へ奥(おく)へと進(すす)み行(ゆ)く。
067亀彦(かめひこ)『英子姫(ひでこひめ)さま、068今(いま)の男(をとこ)の話(はなし)に依(よ)つて考(かんが)へて見(み)ると、069何(ど)うやらウラナイ教(けう)の青彦(あをひこ)のことらしい様(やう)に思(おも)はれます。070又(また)もやウラナイ教(けう)を弘(ひろ)めて世人(せじん)を迷(まよ)はし、071害毒(がいどく)を流(なが)す様(やう)なことがあつては神界(しんかい)へ対(たい)し、072吾々(われわれ)宣伝使(せんでんし)の役(やく)が済(す)みませぬから、073是(これ)から一(ひと)つ実地(じつち)調査(てうさ)に参(まゐ)りませうか』
074英子姫(ひでこひめ)『さうですなア、075別(べつ)に急(いそ)ぐ旅(たび)でも無(な)し、076調(しら)べて見(み)ませうか。077これも何(なに)かの神(かみ)様(さま)の御(お)仕組(しぐみ)かも知(し)れませぬ』
078悦子姫(よしこひめ)『それは面白(おもしろ)うございませう。079先日(せんじつ)より余(あんま)り沈黙(ちんもく)を守(まも)つて居(ゐ)ましたので、080口(くち)に虫(むし)が湧(わ)く様(やう)で不快(ふくわい)で堪(たま)りませぬ。081何卒(どうぞ)今度(こんど)は一(ひと)つ妾(わらは)に交渉(かうせふ)をさせて下(くだ)さい。082言霊(ことたま)の有(あ)らむ限(かぎ)り奮闘(ふんとう)してお目(め)にかけます』
083英子姫(ひでこひめ)『アーそれも面白(おもしろ)からう』
084亀彦(かめひこ)『サアサア参(まゐ)りませう。085悦子姫(よしこひめ)さまの雄弁(ゆうべん)振(ぶ)り、086奮戦(ふんせん)振(ぶ)りを拝見(はいけん)さして貰(もら)ひませう』
087と三(さん)人(にん)は群集(ぐんしふ)に紛(まぎ)れて昼(ひる)尚(な)ほ暗(くら)き山道(やまみち)を、088北(きた)へ北(きた)へと進(すす)み行(ゆ)く。
089 一行(いつかう)は群集(ぐんしふ)に紛(まぎ)れ漸(やうや)く剣尖山(けんさきやま)の麓(ふもと)を流(なが)るる谷川(たにがは)の畔(ほとり)に着(つ)きぬ。090此(こ)の谷川(たにがは)の岩壁(がんぺき)には産釜(うぶがま)、091産盥(うぶだらひ)と云(い)ふ美(うる)はしき水(みづ)を湛(たた)へた天然(てんねん)の水壺(みづつぼ)あり。092ウラナイ教(けう)の宣伝使(せんでんし)青彦(あをひこ)は厳(いかめし)き白装束(しろしやうぞく)の儘(まま)、093此(こ)の滝壺(たきつぼ)の側(そば)に立(た)ち、094谷川(たにがは)の水(みづ)を杓(しやく)で汲(く)み上(あ)げ柴(しば)の枝(えだ)に吹(ふ)きかけ、095数多(あまた)の老若(らうにやく)男女(なんによ)に向(むか)つて病(やまひ)を癒(なほ)し、096或(あるひ)はいろいろの神占(うらなひ)を為(な)し、097数多(あまた)の男女(だんぢよ)を誑惑(けうわく)しつつありける。098悦子姫(よしこひめ)は亀彦(かめひこ)、099英子姫(ひでこひめ)に向(むか)ひ、
100悦子姫『サア御(お)約束(やくそく)の通(とほ)り、101是(これ)から妾(わらは)が一人(ひとり)舞台(ぶたい)、102貴方(あなた)等(がた)は日(ひ)の暮(く)れたを幸(さいは)ひ、103木蔭(こかげ)に潜(ひそ)み妾(わらは)の活動(くわつどう)振(ぶ)りを御覧(ごらん)下(くだ)さい』
104と云(い)ひ棄(す)て何処(どこ)ともなく深林(しんりん)の中(なか)に姿(すがた)を隠(かく)したり。105青彦(あをひこ)は儼然(げんぜん)として水壺(みづつぼ)の側(そば)に立(た)ち、106数多(あまた)の人々(ひとびと)に対(たい)して教訓(けうくん)を施(ほどこ)し居(ゐ)る。
107 甲(かふ)は拍手(はくしゆ)し乍(なが)ら、108恐(おそ)る恐(おそ)る青彦(あをひこ)の前(まへ)に蹲踞(しやが)み、
109甲『生神(いきがみ)様(さま)に一(ひと)つ御(お)願(ねが)ひがございます。110私(わたくし)は疝(せん)の病(やまひ)に、111年(ねん)が年中(ねんぢう)苦(くる)しみてゐます。112ナントか御(ご)神徳(しんとく)を以(もつ)て御(お)助(たす)け下(くだ)さいませ。113薬(くすり)で治(なを)ることなら何薬(なにぐすり)がよいか。114これも御(お)指図(さしづ)願(ねが)ひ度(た)うございます』
115青彦(あをひこ)『疝(せん)でも何(なん)でも治(なを)らぬことは無(な)い。116それはお前(まへ)の改心(かいしん)次第(しだい)ぢや。117一(いち)時(じ)も早(はや)く此(この)頃(ごろ)流行(はや)る三五教(あななひけう)を放(ほか)して、118ウラナイ教(けう)の神(かみ)様(さま)の信者(しんじや)になれ。119其(その)日(ひ)から疝(せん)の病気(びやうき)は嘘(うそ)を吐(つ)いた様(やう)に全快(ぜんくわい)間違(まちが)ひなしぢや』
120甲(かふ)『ハイハイ有(あ)り難(がた)うございます。121疝(せん)の治(なを)ることなら、122何時(いつ)でもウラナイ教(けう)になります』
123 後(うしろ)の方(はう)より疳高(かんだか)き女(をんな)の声(こゑ)、
124女(悦子姫)『ウラナイ教(けう)を見切(みき)つて三五教(あななひけう)に誠(まこと)に尽(つ)くせ、125疝気(せんき)の虫(むし)は三五教(あななひけう)の神力(しんりき)に怖(おそ)れて滅(ほろ)びて了(しま)ふぞ。126此奴(こいつ)は金毛(きんまう)九尾(きうび)の狐(きつね)に使(つか)はれて居(ゐ)る曲津(まがつ)の容器(いれもの)だ。127ホヽヽヽ』
128甲(かふ)『モシモシ生神(いきがみ)様(さま)、129男(をとこ)の声(こゑ)を出(だ)したり、130女(をんな)の声(こゑ)を出(だ)したりなさいまして、131先(さき)に仰有(おつしや)つた事(こと)と後(あと)から仰有(おつしや)つた事(こと)とは全然(ぜんぜん)裏表(うらおもて)ぢやありませぬか』
132青彦(あをひこ)『此(この)方(はう)は誠(まこと)の道(みち)の宣伝使(せんでんし)だ。133決(けつ)して決(けつ)して二言(にごん)は申(まを)さぬ』
134甲(かふ)『それでも今(いま)妙(めう)な声(こゑ)を出(だ)してござつたぢやありませぬか』
135又(また)もや暗黒(くらがり)より女(をんな)の声(こゑ)、
136女(悦子姫)『妾(わらは)こそは天上(てんじやう)より降(くだ)り来(きた)れる天照(あまてらす)大神(おほかみ)の御(おん)使(つかひ)、137瑞(みづ)の御魂(みたま)の教(をし)へ給(たま)へる三五教(あななひけう)の生神(いきがみ)なるぞ。138青彦(あをひこ)の如(ごと)き体主(たいしゆ)霊従(れいじう)の教(をしへ)を耳(みみ)に入(い)れるな』
139青彦(あをひこ)『ヤアこれは怪(け)しからぬ。140何者(なにもの)とも知(し)れず空中(くうちう)に声(こゑ)を出(だ)して、141某(それがし)が宣伝(せんでん)を妨害(ばうがい)致(いた)す魔神(まがみ)現(あら)はれたりと覚(おぼ)ゆ。142コラコラ悪神(あくがみ)の奴(やつ)、143この青彦(あをひこ)が言霊(ことたま)の威力(ゐりよく)を以(もつ)て、144汝(なんぢ)が正体(しやうたい)を現(あら)はし呉(く)れむ』
145と拍手(はくしゆ)し、146言霊(ことたま)濁(にご)れる神言(かみごと)を奏上(そうじやう)し始(はじ)めたり。147又(また)もや暗黒(くらがり)の中(なか)より女(をんな)の声(こゑ)、
148女(悦子姫)『ホヽヽヽ、149面白(おもしろ)い面白(おもしろ)い、150彼(あ)の青彦(あをひこ)の青(あを)い顔(かほ)わいな』
151青彦(あをひこ)『エー又(また)しても又(また)しても曲津(まがつ)神(かみ)が出(で)て来(き)よつて。152コラコラ今(いま)に往生(わうじやう)さしてやるぞ』
153と汗(あせ)みどろになり、154一生(いつしやう)懸命(けんめい)に天津(あまつ)祝詞(のりと)を何回(なんくわい)となく奏上(そうじやう)する。155後方(うしろ)の山(やま)の小高(こだか)き暗中(あんちう)より、156又(また)もや女(をんな)の声(こゑ)、
157女(悦子姫)『オホヽヽヽ、158青彦(あをひこ)、159汝(なんぢ)は秋山彦(あきやまひこ)の館(やかた)に於(おい)て三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)亀彦(かめひこ)に悩(なや)まされ、160生命(いのち)辛々(からがら)此処(ここ)まで遁(に)げ延(の)び、161又(また)もや悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)の継続(けいぞく)事業(じげふ)を開始(かいし)してゐるのか。162好(よ)い加減(かげん)に改心(かいしん)致(いた)さぬと汝(なんぢ)が霊魂(みたま)を引抜(ひきぬ)き、163根(ね)の国(くに)、164底(そこ)の国(くに)に落(おと)してやらうか』
165青彦(あをひこ)『ナンダ、166誠(まこと)の道(みち)の妨害(ばうがい)致(いた)す悪魔(あくま)ども、167容赦(ようしや)は致(いた)さぬ。168今(いま)青彦(あをひこ)が神徳(しんとく)無限(むげん)のウラナイ教(けう)の言霊(ことたま)を以(もつ)て、169汝(なんぢ)が身魂(みたま)を破滅(はめつ)せしめむ。170速(すみや)かに退散(たいさん)致(いた)さばよし、171愚図(ぐづ)々々(ぐづ)致(いた)さば容赦(ようしや)はならぬぞ』
172とぶるぶる慄(ふる)ひ乍(なが)ら空元気(からげんき)を附(つ)けて呶鳴(どな)りゐる。173暗中(あんちう)より、174又(また)もや女(をんな)の声(こゑ)、
175女(悦子姫)『オホヽヽヽ、176可笑(をか)しい哩(わい)。177汝(なんぢ)が力(ちから)と思(おも)ふ高姫(たかひめ)は今(いま)フサの国(くに)に遁(に)げ帰(かへ)り、178黒姫(くろひめ)は行方(ゆくへ)不明(ふめい)となりし今日(こんにち)、179何程(なにほど)汝(なんぢ)、180力味返(りきみかへ)るとも斯(かく)の如(ごと)き誠(まこと)の神(かみ)の使(つかひ)現(あら)はれし上(うへ)は最早(もはや)汝(なんぢ)が運(うん)の尽(つ)き、181一刻(いつこく)も早(はや)く此(こ)の場(ば)を退却(たいきやく)致(いた)せよ』
182青彦(あをひこ)『エーナント云(い)つても一旦(いつたん)思(おも)ひ立(た)つた拙者(それがし)が宣伝(せんでん)、183たとへ此(こ)の身(み)は八裂(やつざき)に遭(あ)はうとも、184いつかないつかな心(こころ)を飜(ひるがへ)すやうな腰抜(こしぬ)けではないぞ。185何(いづ)れの魔神(まがみ)か知(し)らねども、186人(ひと)を見損(みそこな)ふにも程(ほど)がある。187サア正体(しやうたい)を此処(ここ)に現(あら)はせ。188誠(まこと)の道(みち)を説(と)いて聞(き)かして改心(かいしん)させてやらう程(ほど)に』
189暗中(あんちう)より『オホヽヽヽ』
190 乙(おつ)は拍手(かしはで)を打(う)ち、
191乙『モシモシ生神(いきがみ)様(さま)、192ナンダか貴方(あなた)が仰有(おつしや)いますと、193後(うしろ)の中空(ちうくう)の方(はう)に妙(めう)な声(こゑ)が聞(きこ)えます、194ナンデも貴方(あなた)様(さま)に反対(はんたい)の神(かみ)様(さま)らしうございます。195此(こ)の暗(くら)いのに神(かみ)様(さま)が喧嘩(けんくわ)遊(あそ)ばして吾々(われわれ)なにも知(し)らぬものが側杖(そばづゑ)を喰(くら)ひまして誠(まこと)に迷惑(めいわく)。196何卒(どうぞ)此(こ)の声(こゑ)を止(と)めて下(くだ)さいませぬか』
197 又(また)もや女(をんな)の声(こゑ)、
198女(悦子姫)『オホヽヽヽ、199止(と)めて止(と)まらぬ声(こゑ)の道(みち)、200道(みち)は二筋(ふたすぢ)善(ぜん)と悪(あく)、201善(ぜん)に服(まつ)らふか、202悪(あく)に従(したが)ふか、203何(いづ)れも今(いま)ここでハツキリと返答(へんたふ)を致(いた)せよ』
204青彦(あをひこ)『何(いづ)れの神(かみ)かは知(し)らねども、205拙者(それがし)が宣伝(せんでん)を妨害(ばうがい)致(いた)す曲者(くせもの)、206了見(れうけん)致(いた)さぬぞ』
207 暗中(あんちう)より、208又(また)もや、
209女(悦子姫)『オホヽヽヽ、210彼(あ)のマア青彦(あをひこ)の空威張(からいば)り』
211青彦(あをひこ)『ヤア何(なん)とはなしに聞(き)き覚(おぼ)えのある声(こゑ)だ。212其(その)方(はう)は三五教(あななひけう)の女(をんな)宣伝使(せんでんし)であらう。213後(うしろ)の山(やま)に潜(ひそ)み、214拙者(せつしや)が宣伝(せんでん)を妨害(ばうがい)致(いた)すと覚(おぼ)えたり。215今(いま)に正体(しやうたい)現(あら)はし呉(く)れむ』
216と火打(ひうち)を取出(とりだ)しカチカチと火(ひ)を打(う)ち四辺(あたり)の枯柴(かれしば)を集(あつ)めて盛(さか)ンに火(ひ)を焚(た)きつけたり。
217 一同(いちどう)の顔(かほ)は昼(ひる)の如(ごと)く照(て)らされたれど、218木(き)の茂(しげ)みに隠(かく)れたる悦子姫(よしこひめ)の姿(すがた)は見(み)えざりける。219悦子姫(よしこひめ)は尚(なほ)も屈(くつ)せず、
220悦子姫『オホヽヽヽ、221ウラナイ教(けう)の阿呆彦(あはうひこ)の宣伝使(せんでんし)、222畏(おそ)れ多(おほ)くも昔(むかし)天照(あまてらす)大御神(おほみかみ)様(さま)の御(お)生(う)まれ遊(あそ)ばした時(とき)に、223産湯(うぶゆ)を取(と)らせ給(たま)うた産釜(うぶがま)、224産盥(うぶだらひ)の側(そば)に立(た)ち宣伝(せんでん)を致(いた)すとは、225僣越(せんゑつ)至極(しごく)の汝(なんぢ)が振舞(ふるまひ)、226今(いま)に数多(あまた)の蜂(はち)現(あら)はれ来(きた)つて汝(なんぢ)が眼(まなこ)を潰(つぶ)すであらう。227オホヽヽヽ』
228 焚火(たきび)の光(ひかり)に驚(おどろ)いて傍(かたはら)に巣(す)を喰(く)つてゐた雀蜂(すずめばち)の群(むれ)、229火焔(くわえん)の舌(した)に巣(す)を嘗(な)められ堪(たま)り兼(か)ね、230青彦(あをひこ)の底光(そこびか)りのする目玉(めだま)を目(め)がけて、231一生(いつしやう)懸命(けんめい)幾百千(いくひやくせん)ともなく襲撃(しふげき)し始(はじ)めたるにぞ、232青彦(あをひこ)は、
233青彦『アイター』
234と其(そ)の場(ば)に倒(たふ)れける。235蜂(はち)の群(むれ)は青彦(あをひこ)の身体(しんたい)一面(いちめん)に空地(あきぢ)もなく噛(か)み付(つ)きける。
236 数多(あまた)の参詣人(さんけいにん)は蜂(はち)に光(ひか)つた目(め)を刺(さ)され、237苦(くる)しむもの彼方(あなた)此方(こなた)に現(あら)はれ、238泣(な)くもの、239喚(わめ)くもの、240忽(たちま)ち阿鼻(あび)叫喚(けうくわん)の巷(ちまた)となりぬ。241又(また)もや暗中(あんちう)より、
242悦子姫『ヤアヤア此処(ここ)に集(あつ)まる老若(らうにやく)男女(なんによ)、243穢(けが)らはしき肉体(にくたい)を持(も)ち乍(なが)ら、244此(こ)の聖場(せいぢやう)を汚(けが)すこと不届(ふとどき)千万(せんばん)な、245一(いち)時(じ)も早(はや)く神界(しんかい)に謝罪(しやざい)をせよ。246三五教(あななひけう)の宣伝歌(せんでんか)を唱(とな)へ奉(たてまつ)り、247蜂(はち)の災禍(わざはひ)を払(はら)ひ与(あた)へむ。248惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』
249と唱(とな)ふる声(こゑ)につれ、250一同(いちどう)は一生(いつしやう)懸命(けんめい)になりて、
251一同『惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)、252惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』
253と唱(とな)へ始(はじ)めける。
254 此(こ)の声(こゑ)は四辺(あたり)の山岳(さんがく)をも揺(ゆる)がす許(ばか)りなり。255暗中(あんちう)より、
256悦子姫『ヤアヤ、257汝(なんぢ)等(ら)蜂(はち)に刺(さ)された目(め)は、258これで全快(ぜんくわい)したであらう。259聖場(せいぢやう)を汚(けが)してはならないから、260一刻(いつこく)も早(はや)く此(こ)の場(ば)を立去(たちさ)り、261綾(あや)の高天(たかま)へ御(お)礼(れい)のために時(とき)を移(うつ)さず参詣(さんけい)致(いた)せよ。262夢々(ゆめゆめ)疑(うたが)ふな。263惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』
264 一同(いちどう)は此(こ)の声(こゑ)に驚(おどろ)き、265且(か)つ歓(よろこ)び、266声(こゑ)する方(かた)に向(むか)つて拍手(はくしゆ)し乍(なが)ら、267長居(ながゐ)は恐(おそ)れと一目散(いちもくさん)に河伝(かはづた)ひに帰(かへ)り往(ゆ)く。268アヽ青彦(あをひこ)の運命(うんめい)は如何(いかん)。
269(大正一一・四・一五 旧三・一九 外山豊二録)
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