霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二一章 御礼(おれい)参詣(まゐり)〔六一一〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第16巻 如意宝珠 卯の巻 篇:第3篇 真奈為ケ原 よみ(新仮名遣い):まないがはら
章:第21章 御礼参詣 よみ(新仮名遣い):おれいまいり 通し章番号:611
口述日:1922(大正11)年04月16日(旧03月20日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年12月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
お節は比治山の奥に閉じ込められていたが、悦子姫が助けてくれたことを知ると、平助とお楢は悦子姫に礼を言った。
悦子姫は、音彦ら一行を今晩泊めてくれるようにと平助に頼み、平助は承諾した。しかし鬼虎、鬼彦が居ることを知ると、平助はその二人だけは泊めることはならぬ、と言って聞かない。
鬼虎、鬼彦もかつて悪事をした手前、恥ずかしくてその晩は平助の家に泊まらず、先を急ぐことにした。平助の家には岩公、勘公、櫟公の三人が宿泊した。
晩のうちに平助、お楢、お節も相談して、真名井ケ原の豊国姫神の顕現地にお礼参りに行くことになった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2025-11-26 16:10:10 文字数:4983 OBC :rm1621
愛善世界社版:270頁 八幡書店版:第3輯 501頁 修補版: 校定版:275頁 普及版:124頁 初版: ページ備考:
001 天(てん)にも地(ち)にもかけ替(がへ)なき一人(ひとり)の娘(むすめ)を拐(かどはか)され、002爺(ぢい)と婆(ばば)との二人(ふたり)暮(ぐら)し此(この)世(よ)を果敢(はか)なみ詛(のろ)ひつつ、003不平(ふへい)たらだら世(よ)を送(おく)る渋面造(しぶづらつく)りの平助(へいすけ)は、004思(おも)いもよらぬ孫娘(まごむすめ)のお節(せつ)がゆくりなく帰(かへ)り来(きた)りしに歓(よろこ)び驚(おどろ)き、005手(て)の舞(ま)ひ足(あし)の踏(ふ)む処(ところ)を知(し)らず、006音沙汰(おとさた)無(な)かりし娘(むすめ)の便(たよ)り、007姿(すがた)は見(み)せぬ臭(くさ)い婆(ば)アさまのお楢(なら)と共(とも)に屈(かが)める腰(こし)をヘコヘコと揺(ゆす)りて飛立(とびた)つ可笑(をか)しさよ。
008平助(へいすけ)『これこれ、009お節(せつ)、010お前(まへ)は今(いま)まで何処(どこ)に如何(どう)して居(を)つたのだ、011明(あ)けても暮(く)れても婆(ばば)と二人(ふたり)、012お前(まへ)の事(こと)ばつかり、013噂(うはさ)をして泣(な)いて居(を)りました。014能(よ)う、015まア戻(もど)つて下(くだ)さつた、016もう之(これ)で此(この)平助(へいすけ)も、017何時(いつ)国替(くにがへ)しても心(こころ)の残(のこ)る事(こと)はない、018さアさ、019一寸(ちよつと)様子(やうす)を聞(き)かして呉(く)れ』
020お節(せつ)『ハイハイ』
021と嬉(うれ)し涙(なみだ)に声(こゑ)も得立(えた)てず、022僅(わづか)に、
023お節『妾(わたし)は比治山(ひぢやま)の奥(おく)の岩窟(いはや)に押(お)し込(こ)められて居(を)りました。024其処(そこ)へ神(かみ)さまの様(やう)なお方(かた)が現(あら)はれて妾(わらは)を救(すく)つて下(くだ)さいました、025今(いま)門口(かどぐち)まで親切(しんせつ)に送(おく)り届(とど)けて下(くだ)さりました。026何卒(どうぞ)、027お爺(ぢい)さま、028お婆(ば)アさま宜(よろ)しう御(お)礼(れい)を申(まを)して下(くだ)さい』
029平助(へいすけ)『ナヽヽ何(なん)と言(い)ふ、030お前(まへ)を助(たす)けたお方(かた)が門(かど)に御座(ござ)るのか、031これや斯(か)うしては居(を)られぬ、032一言(ひとこと)お礼(れい)を申(まを)さねば済(す)むまい、033これこれ婆(ばば)、034お前(まへ)もお礼(れい)を申(まを)さぬか』
035 婆(ば)アは莞爾(にこ)々々(にこ)し乍(なが)ら耳(みみ)が聞(きこ)えぬので、
036お楢(なら)『爺(ぢい)さま、037結構(けつこう)ぢやな、038早(はや)う神(かみ)さまに御(お)礼(れい)を申(まを)しませう』
039平助(へいすけ)『神(かみ)さまも神(かみ)さまだが愚図(ぐづ)々々(ぐづ)して居(を)ると、040助(たす)けて下(くだ)さつたお方(かた)が帰(かへ)られるかも知(し)れぬ』
041とカンテラを点(つ)け門口(かどぐち)に立出(たちい)で、
042平助『誰方(どなた)か知(し)りませぬが、043娘(むすめ)を助(たす)けて下(くだ)さつて有難(ありがた)う御座(ござ)います、044御覧(ごらん)の通(とほ)り矮(いぶせ)き荒屋(あばらや)で御座(ござ)いますがお這入(はい)り下(くだ)さいませ、045外(そと)は此(この)通(とほ)り雪(ゆき)が溜(たま)つて居(ゐ)ます、046嘸(さぞ)お寒(さむ)い事(こと)でせう、047庭(には)で火(ひ)でも焚(た)きますから』
048悦子姫(よしこひめ)『ア、049貴方(あなた)がお節(せつ)殿(どの)のお爺(やぢ)さまでござりますか』
050平助(へいすけ)『へいへい、051平助(へいすけ)と言(い)ふ爺(おやぢ)で御座(ござ)います、052若夫婦(わかふうふ)には先立(さきだ)たれ、053たつた一人(ひとり)の孫(まご)を娘(むすめ)として育(そだ)て上(あ)げ、054引(ひ)き伸(の)ばす様(やう)に思(おも)うて居(を)りましたのに去年(きよねん)の冬(ふゆ)、055大江山(おほえやま)の鬼雲彦(おにくもひこ)の手下(てした)の悪者(わるもの)、056鬼彦(おにひこ)、057鬼虎(おにとら)と言(い)ふそれはそれは意地癖(いぢくせ)の悪(わる)い悪人(あくにん)に大切(たいせつ)の娘(むすめ)を攫(さら)はれ、058寝(ね)ても起(お)きてもそればつかりを苦(く)に病(や)みて泣(な)いて暮(くら)して居(を)りました。059婆(ばば)も私(わたくし)もそれが為(た)めに二十(にじふ)年(ねん)程(ほど)も生命(いのち)が縮(ちぢ)みました、060お蔭(かげ)さまでその孫娘(まごむすめ)に会(あ)はれまするのも全(まつた)く貴方(あなた)様(さま)のお蔭(かげ)、061何卒(どうぞ)這入(はい)つて悠(ゆる)りとお休(やす)み下(くだ)さいませ、062婆(ばば)も御(お)礼(れい)を申(まを)し上(あ)げ度(た)いと申(まを)して居(ゐ)ますから』
063悦子姫(よしこひめ)『アヽ御(ご)親切(しんせつ)は有難(ありがた)う御座(ござ)いまするが、064妾(わらは)は少(すこ)しく神界(しんかい)の御用(ごよう)が差(さ)し迫(せま)つて居(を)りますれば之(これ)にて御免(ごめん)を蒙(かうむ)ります、065就(つい)ては妾(わらは)より貴方(あなた)に強(た)つての御(お)願(ねが)ひが御座(ござ)います。066聞(き)いて下(くだ)さいますまいか』
067平助(へいすけ)『生命(いのち)の親(おや)の貴方(あなた)様(さま)、068何(なん)なつと仰有(おつしや)つて下(くだ)さいませ、069爺(おやぢ)の身(み)に叶(かな)ふ事(こと)なら生命(いのち)でも差(さ)し上(あ)げます』
070悦子姫(よしこひめ)『早速(さつそく)の御(ご)承知(しようち)、071有難(ありがた)う御座(ござ)います、072此処(ここ)に居(を)ります者(もの)は妾(わらは)の道連(みちづ)れ、073四五(しご)人(にん)の者(もの)を何卒(どうぞ)今晩(こんばん)丈(だ)け庭(には)の隅(すみ)でも宜(よ)いから泊(と)めてやつて下(くだ)さいませぬか』
074平助(へいすけ)『へいへい承知(しようち)致(いた)しました、075百(ひやく)人(にん)でも千(せん)人(にん)でも泊(とま)つて下(くだ)さい』
076悦子姫(よしこひめ)『百(ひやく)人(にん)も泊(とま)る処(ところ)はありますまい、077只(ただ)五六(ごろく)人(にん)泊(と)めて貰(もら)へば宜(よろ)しいのです』
078平助(へいすけ)『之(これ)は失礼(しつれい)致(いた)しまして、079あまり嬉(うれ)しうて爺(おやぢ)も脱線(だつせん)を致(いた)しました、080サアサ皆(みな)さま御(ご)遠慮(ゑんりよ)なくお這入(はい)り下(くだ)さい、081然(しか)し乍(なが)ら無茶(むちや)苦茶(くちや)に這入(はい)つて貰(もら)うと、082大江山(おほえやま)の鬼除(おによ)けの陥穽(おとしあな)が御座(ござ)いますから私(わたくし)の後(あと)に跟(つ)いてお通(とほ)り下(くだ)さい』
083と先(さき)に立(た)つ。
084悦子姫(よしこひめ)『左様(さやう)なら、085お節(せつ)殿(どの)に宜(よろ)しく言(い)つて下(くだ)さい、086御縁(ごえん)があれば又(また)お目(め)にかかります。087音彦(おとひこ)さま、088加米公(かめこう)さま、089貴方(あなた)は今晩(こんばん)お疲労(くたびれ)で御座(ござ)いませうが妾(わらは)に跟(つ)いて来(き)て下(くだ)さい。090少(すこ)しく御(ご)相談(さうだん)し度(た)い事(こと)が御座(ござ)いますから』
091音彦、加米公『委細(ゐさい)承知(しようち)仕(つかまつ)りました、092仰(あふ)せに従(したが)ひお伴(とも)致(いた)します』
093 悦子姫(よしこひめ)は二人(ふたり)を伴(ともな)ひ急(いそ)いで此(この)場(ば)を立(た)ち去(さ)りぬ。094岩公(いはこう)、095鬼彦(おにひこ)、096鬼虎(おにとら)、097勘(かん)、098櫟(いち)の五(ご)人(にん)[※青彦も一行の中に居たはずだが名前が無い。第17巻第4章の章末に「平助の門口にて別れたる音彦、青彦、加米彦は」と書いてあるので、ここで青彦も悦子姫と一緒に去ったようである。]は這入(はい)りも得(え)せず門口(かどぐち)に立(た)つてうろうろして居(ゐ)る。
099平助(へいすけ)『サアサア皆(みな)さま、100此処(ここ)を通(とほ)つてズツとお這入(はい)り下(くだ)さい』
101 岩公(いはこう)、102勘(かん)、103櫟(いち)の三(さん)人(にん)は平助(へいすけ)に跟(つ)いて奥(おく)に入(い)る。
104お楢(なら)『これはこれは皆(みな)さま、105寒(さむ)いのに能(よ)うまア娘(むすめ)を送(おく)つて来(き)て下(くだ)さつた、106何卒(どうぞ)今晩(こんばん)は悠(ゆつく)り泊(とま)つて下(くだ)さい』
107岩公(いはこう)『へい、108如何(どう)致(いた)しまして、109お節(せつ)さまの御存(ごぞん)じの通(とほ)り私(わたくし)は悦子姫(よしこひめ)様(さま)の家来(けらい)で御座(ござ)います、110お礼(れい)を言(い)つて貰(もら)うと却(かへつ)て困(こま)ります、111何卒(どうぞ)今晩(こんばん)丈(だ)け泊(と)めて下(くだ)さらば有難(ありがた)う御座(ござ)います。112ヤア鬼彦(おにひこ)、113鬼虎(おにとら)の奴(やつ)、114這入(はい)つて来(こ)ぬかい、115何(なに)愚図(ぐづ)々々(ぐづ)して居(ゐ)るのだ』
116平助(へいすけ)『ヤアお前(まへ)は大江山(おほえやま)の鬼雲彦(おにくもひこ)の同類(どうるゐ)ぢやな、117鬼彦(おにひこ)や鬼虎(おにとら)が這入(はい)つて来(き)て堪(たま)るものかい、118折角(せつかく)だが帰(かへ)りて呉(く)れ帰(かへ)りて呉(く)れ』
119岩公(いはこう)『モシモシお爺(ぢい)さま、120其(その)鬼彦(おにひこ)と鬼虎(おにとら)と云(い)ふ奴(やつ)は、121お節(せつ)さまを助(たす)けた悦子姫(よしこひめ)さまの家来(けらい)だよ、122二人(ふたり)の奴(やつ)、123到頭(たうとう)悪(あく)を後悔(こうくわい)しよつて悦子姫(よしこひめ)さまの家来(けらい)となり、124お節(せつ)さまの所在(ありか)を知(し)らせたものだから娘(むすめ)が助(たす)かつたのだよ。125今迄(いままで)の怨恨(うらみ)は水(みづ)に流(なが)し悦子姫(よしこひめ)さまに免(めん)じて泊(と)めてやつて下(くだ)さいナ』
126平助(へいすけ)『何(なん)と言(い)つてもお前(まへ)さま達(たち)三(さん)人(にん)は泊(と)めるが二人(ふたり)の餓鬼(がき)は泊(と)められませぬ、127這入(はい)り度(た)ければ勝手(かつて)に這入(はい)つて来(き)たが宜(よ)い、128勝手(かつて)を知(し)らずに陥穽(おとしあな)にはまるだらう』
129岩公(いはこう)『これはしたり、130お爺(ぢい)さま、131年(とし)が老(よ)つても敵愾心(てきがいしん)の強(つよ)い人(ひと)だな、132今迄(いままで)の事(こと)は水(みづ)に流(なが)すのだよ』
133平助(へいすけ)『水(みづ)に流(なが)せと言(い)つたつて、134此(この)怨恨(うらみ)が流(なが)されやうか、135俺(わし)の身(み)にも、136チツトは成(な)つて呉(く)れたが宜(よ)い哩(わい)』
137勘公(かんこう)『それやさうぢや、138尤(もつと)もぢや。139お爺(ぢい)さまの仰有(おつしや)る通(とほ)り、140拙者(せつしや)の聞(き)く通(とほ)りぢや、141ナア櫟公(いちこう)』
142櫟公(いちこう)『オヽ、143さうともさうとも、144誰(たれ)だつて可愛(かはい)い娘(むすめ)を仮令(たとへ)一(いち)年(ねん)でも苦(くる)しめられた親(おや)の身(み)として誰(たれ)だつて黙(だま)つて居(を)れようかい、145爺(ぢい)さまの仰有(おつしや)るのは至極(しごく)尤(もつと)もだ。146鬼彦(おにひこ)、147鬼虎(おにとら)の奴(やつ)、148因縁(いんねん)が報(むく)うて来(き)たのだから仕方(しかた)が無(な)い、149今晩(こんばん)は外(そと)で立番(たちばん)でもするのが却(かへつ)て今迄(いままで)の罪亡(つみほろ)ぼしになつて良(よ)いかも知(し)れぬ』
150平助(へいすけ)『アヽお前(まへ)さま等(ら)三(さん)人(にん)のお方(かた)、151能(よ)う言(い)つて下(くだ)さつた、152此(この)爺(ぢい)も大変(たいへん)気(き)に入(い)つた、153サアサ泊(とま)つて下(くだ)さい、154誰(たれ)が何(なん)と言(い)つても二人(ふたり)の餓鬼(がき)は泊(と)める事(こと)は出来(でき)ませぬ哩(わい)』
155 家(いへ)の外(そと)にて、
156鬼彦(おにひこ)『おい兄弟(きやうだい)何程(なにほど)泊(と)めてやると言(い)つても、157如何(どう)もてれ臭(くさ)くて這入(はい)れぬぢやないか』
158鬼虎(おにとら)『さうだ、159昔(むかし)の因果(いんぐわ)が廻(めぐ)つて来(き)て心(こころ)の鬼(おに)に身(み)を責(せ)められ、160暢気(のんき)に泊(と)めて貰(もら)ふ訳(わけ)にも往(ゆ)かず、161大(おほ)きな顔(かほ)をして爺(ぢい)さまや婆(ば)アさまに会(あ)ふ訳(わけ)にも往(ゆ)かず、162エー仕方(しかた)がない、163音彦(おとひこ)さま加米公(かめこう)さまでさへも此(この)雪道(ゆきみち)を歩(ある)いて行(ゆ)かれた位(くらゐ)だもの、164無理(むり)に行(い)つたら行(ゆ)けぬ事(こと)はない、165此処(ここ)ばかりが家(いへ)ぢやない哩(わい)、166三(さん)人(にん)の奴(やつ)は此処(ここ)で悠(ゆつく)り泊(と)めて貰(もら)ふ事(こと)にし、167俺(おれ)達(たち)二人(ふたり)はも少(すこ)してくる事(こと)に仕様(しやう)かい』
168鬼彦(おにひこ)『アヽ、169それが上分別(じやうふんべつ)だ、170オイ岩公(いはこう)、171勘公(かんこう)、172櫟公(いちこう)、173俺(おれ)は一足先(ひとあしさき)へ行(い)つて比治山(ひぢやま)の麓(ふもと)で待(ま)つて居(を)るから、174夜(よ)が明(あ)けたら貴様(きさま)等(ら)三(さん)人(にん)は出(で)て来(こ)い、175左様(さやう)なら、176お先(さき)へ御免(ごめん)だ、177貴様(きさま)等(ら)はお節(せつ)さまの顔(かほ)でも見(み)て涎(よだれ)でもくるが宜(よ)い哩(わい)』
178と捨台詞(すてぜりふ)を残(のこ)し、179すたすたと此(この)場(ば)を後(あと)に比治山(ひぢやま)の方面(はうめん)指(さ)して走(はし)り行(ゆ)く。
180平助(へいすけ)『サア三(さん)人(にん)さま、181奥(おく)に炬燵(こたつ)がしてある、182寒(さむ)からうからお這入(はい)りなさい、183俺(わし)は今晩(こんばん)はあまり嬉(うれ)しうて寝(ね)られぬから、184娘(むすめ)と久(ひさ)し振(ぶ)りに三(さん)人(にん)が話(はなし)をするから、185茶漬(ちやづけ)なつと食(く)つて早(はや)くお寝(やす)み下(くだ)さい、186又(また)明日(あす)は祝(いは)ひに御(ご)馳走(ちそう)をして上(あ)げます』
187岩公(いはこう)『これはこれはお爺(ぢい)さま、188お婆(ば)アさま、189奇麗(きれい)な娘(むすめ)さま有難(ありがた)う御座(ござ)います、190ソンナラお先(さき)へ御免(ごめん)を蒙(かうむ)ります、191お弁当(べんたう)は沢山(たくさん)持(も)つて居(ゐ)ますから御(ご)心配(しんぱい)下(くだ)さいますな、192今(いま)道々(みちみち)握(にぎ)り飯(めし)を頬張(ほほば)つて来(き)ましたので余(あんま)り腹(はら)は減(へ)つて居(を)りませぬ、193寝(やす)まして貰(もら)へば結構(けつこう)です』
194お節(せつ)『サアサ皆(みな)さま、195お寝(やす)み下(くだ)さいませ、196妾(わたくし)が御(ご)案内(あんない)致(いた)しませう』
197と次(つぎ)の室(ま)へ案内(あんない)する。
198岩公(いはこう)『アヽ有難(ありがた)い、199勘公(かんこう)、200櫟公(いちこう)、201世界(せかい)に鬼(おに)は無(な)いなア、202マア悠(ゆつく)り寝(やす)まして貰(もら)はうかい』
203勘公(かんこう)『何(なん)だか目(め)がパチパチして寝(ね)られないワ』
204岩公(いはこう)『寝(ね)られなくても、205此(この)暖(あたた)かい炬燵(こたつ)へ這入(はい)つて、206明日(あす)の朝(あさ)迄(まで)ゆつくり休息(きうそく)すれば宜(よ)いのだ』
207 次(つぎ)の室(ま)には三(さん)人(にん)の家内(かない)ひそびそと何(なに)か話(はな)して居(ゐ)る。
208平助(へいすけ)『マア何(なん)とした嬉(うれ)しい事(こと)だらう、209ナアお楢(なら)、210之(これ)でもう俺(おれ)は死(し)ンでも得心(とくしん)だよ』
211お楢(なら)『親爺(おやぢ)どの、212それや何(なに)を言(い)はつしやるのだい、213二(ふた)つ目(め)には死(し)ぬ死(し)ぬつて、214ソンナ縁起(えんぎ)の悪(わる)い事(こと)を言(い)ふものぢやない、215娘(むすめ)が戻(もど)つた嬉(うれ)しさに元気(げんき)を出(だ)して、216之(これ)から気(き)を若(わか)う持(も)ち千(せん)年(ねん)も万(まん)年(ねん)も生延(いきの)びると言(い)ふ気(き)になりなさらぬかいな』
217平助(へいすけ)『オーお楢(なら)、218お前(まへ)は耳(みみ)がよう聞(きこ)える様(やう)になつたぢやないか、219此奴(こいつ)は不思議(ふしぎ)だ、220如何(どう)したものだ、221殺(ころ)されたと思(おも)ふ娘(むすめ)は帰(かへ)るし、222一生(いつしやう)聾耳(かなつん)ぢやと諦(あきら)めて居(ゐ)た婆(ばば)の耳(みみ)は聞(きこ)え出(だ)す、223アヽコンナ有難(ありがた)い事(こと)があらうか、224之(これ)と言(い)ふも全(まつた)く真名井(まなゐ)ケ原(はら)に今度(こんど)現(あら)はれ給(たま)うた豊国姫(とよくにひめ)の神(かみ)様(さま)の御(ご)利益(りやく)だ、225ちつと雪(ゆき)が溶(と)けたら親子(おやこ)三(さん)人(にん)お礼詣(れいまゐ)りに行(ゆ)かうかい』
226お楢(なら)『行(ゆ)かうとも行(ゆ)かうとも、227道(みち)があかいでも今晩(こんばん)でも直(すぐ)に行(ゆ)きたいのだが、228三(さん)人(にん)のお客(きやく)さまが居(ゐ)らつしやるのだから、229今晩(こんばん)夜(よ)が明(あ)けたら三(さん)人(にん)のお客(きやく)さまと一緒(いつしよ)に非(ひ)が邪(じや)でも詣(まゐ)りませう、230ナアお節(せつ)、231さう仕様(しやう)ぢやないか』
232お節(せつ)『はいはい妾(わたし)が案内(あんない)致(いた)しますから御(お)礼(れい)参詣(まゐり)をして下(くだ)さい、233然(しか)し明日(あす)のお客(きやく)さまの御(ご)馳走(ちそう)を考(かんが)へて置(お)かねばなりますまい、234ナアお爺(ぢい)さま』
235平助(へいすけ)『オヽ、236さうだつたな、237何(なん)の御(ご)馳走(ちそう)をして上(あ)げようか、238砂混(すなま)ぜの御飯(ごはん)をして上(あ)げようか、239栗石(くりいし)の混(ま)ぜ御飯(ごはん)にして上(あ)げようか、240どちらが宜(よ)からうか、241ナアお楢(なら)』
242お楢(なら)『娘(むすめ)が無事(ぶじ)に帰(かへ)つて呉(く)れたのだから祝(いは)ひがてら御(ご)馳走(ちそう)を半殺(はんごろ)しにしませうか、243一層(いつそう)の事(こと)皆殺(みなごろ)しにして上(あ)げようかナア』
244お節(せつ)『皆殺(みなごろ)しにするのは大層(たいそう)だから一層(いつそう)の事(こと)お爺(ぢい)さま、245半殺(はんごろ)しが宜(よろ)しからうぜ』
246平助(へいすけ)『アヽ、247さうじや、248半殺(はんごろ)しが手間(てま)が要(い)らぬで宜(よ)いワ、249それでは半殺(はんごろ)しに定(き)めようか、250サア之(これ)からそろそろ婆(ば)アさま、251用意(ようい)に掛(かか)らうかな』
252 隣(となり)の室(ま)に寝(ね)て居(ゐ)る岩公(いはこう)は真青(まつさを)の顔(かほ)をして小声(こごゑ)になり、
253岩公『オイ、254勘公(かんこう)、255櫟公(いちこう)、256あれ聞(き)いたか』
257勘公、櫟公『オ、258聞(き)いた、259何(なん)と恐(おそ)ろしい家(うち)ぢやないか、260砂(すな)を混(ま)ぜて御飯(ごはん)に食(く)はさうとか、261栗石(くりいし)を入(い)れて御(ご)馳走(ちそう)にしようとか、262偉(えら)い事(こと)を言(い)ひよつたぢやないか、263一体(いつたい)如何(どう)なるのだらう』
264岩公(いはこう)『ソンナへどろい事(こと)かい、265今(いま)三(さん)人(にん)がひそびそ話(はなし)をしてるのを聞(き)いて見(み)れば半殺(はんごろ)しにしようか、266皆殺(みなごろ)しにしようかと言(い)うて居(を)つたぢやないか、267コンナ処(ところ)に愚図(ぐづ)々々(ぐづ)して居(を)ると生命(いのち)がないぞ、268何(なん)とかして逃(に)げ出(だ)す工夫(くふう)はあるまいか、269門口(かどぐち)には陥穽(おとしあな)を掘(ほ)つて居(ゐ)よるし裏(うら)は絶壁(ぜつぺき)だし進退(しんたい)維(これ)谷(きはま)るとは此処(ここ)の事(こと)だ、270エ、271仕方(しかた)が無(な)い、272逃出(にげだ)そかい、273爺(ぢい)の歩(ある)きよつた処(ところ)を覚(おぼ)えて居(ゐ)るから其処(そこ)へ添(そ)つて通(とほ)れば宜(よ)い、274皆(みな)の奴(やつ)、275用意(ようい)をせい、276勘(かん)、277櫟(いち)、278皆(みな)来(き)た、279三十六(さんじふろく)計(けい)の奥(おく)の手(て)だ』
280と起(お)き上(あが)りそろりそろりとカンテラの火影(ほかげ)を忍(しの)びて庭(には)の面(おもて)を這(は)ひ出(だ)したり。281平助(へいすけ)はフツと庭(には)を見(み)る途端(とたん)に黒(くろ)い者(もの)がのさのさ這(は)うて居(を)る。
282平助(へいすけ)『ヤイ、283何者(なにもの)ぢや、284盗人(ぬすびと)か』
285岩公(いはこう)『ハイ、286盗人(ぬすびと)でも何(なん)でも御座(ござ)いませぬ、287夜前(やぜん)の三(さん)人(にん)の客(きやく)で御座(ござ)います』
288平助(へいすけ)『お前(まへ)さまは寝惚(ねとぼ)けたのかい、289そこは庭(には)ぢやぜ、290さあさ早(はや)くお炬燵(こた)へ這入(はい)つて寝(やす)みなさい』
291岩公(いはこう)『こら、292やいやい、293鬼爺(おにぢぢ)、294鬼婆(おにばば)、295鬼娘(おにむすめ)、296貴様(きさま)の計略(けいりやく)はチヤンと知(し)つて居(を)るのだ、297貴様(きさま)の様(やう)な鬼(おに)は飯(めし)に砂(すな)を入(い)れたり、298栗石(くりいし)を入(い)れて喰(く)ふか知(し)らぬが、299人間(にんげん)様(さま)は砂(すな)や栗石(くりいし)は食(あが)らないぞ、300お前(まへ)、301半殺(はんごろ)しにしようとか、302皆殺(みなごろ)しにしようとか、303それや何事(なにごと)だ、304老耄爺(おいぼれぢい)奴(め)が』
305平助(へいすけ)『ハヽヽヽ、306ア、307お前(まへ)さまは聞(き)き違(ちが)ひしたのか、308砂(すな)混(ま)ぜの御飯(ごはん)と言(い)ふのはお米(こめ)と栗(くり)との御飯(ごはん)ぢや、309栗石(くりいし)を混(ま)ぜると言(い)ふのはお米(こめ)と麦(むぎ)との混(ま)ぜ御飯(ごはん)ぢやわいナ』[※「お米と栗(くり)」「お米と麦(むぎ)」は間違いで、「お米と粟(あは)」「お米と栗(くり)」が正しいと、初版の正誤表で訂正されているが、なぜかその後の版で文字が修正されていない。オニペディア「霊界物語第16巻の諸本相違点」参照。]
310岩公(いはこう)『それでも貴様(きさま)、311半殺(はんごろ)しにするの、312皆殺(みなごろ)しにするのと言(い)つたぢやないか』
313平助(へいすけ)『ハヽヽヽ、314半殺(はんごろ)しと言(い)つたら牡丹餅(ぼたもち)の事(こと)ぢや、315皆殺(みなごろ)しと言(い)つたら搗(つ)いて搗(つ)いて搗(つ)ききつた餅(もち)の事(こと)だ、316心配(しんぱい)しなさるな』
317岩公(いはこう)『何(なん)だ、318ソンナ事(こと)だつたかい、319いや、320これやお爺(ぢい)さまの折角(せつかく)の思召(おぼしめし)、321半殺(はんごろ)しでも皆殺(みなごろ)しでも結構(けつこう)です、322どしどし拵(こしら)へて下(くだ)さい。323おい、324櫟(いち)、325勘(かん)、326心配(しんぱい)するな、327牡丹餅(ぼたもち)に餡転餅(あんころもち)の御(ご)馳走(ちそう)の事(こと)だつたよ、328アハヽヽヽ』
329櫟(いち)、330勘(かん)『ア、331それで安心(あんしん)した、332何(ど)れ丈(だ)け胆(きも)を潰(つぶ)したか知(し)れたものぢやない、333団子(だんご)も餅(もち)も食(よば)れぬ先(さき)に胸元(むなもと)に三(み)つ四(よ)つ餡転餅(あんころもち)の固(かた)まりが出来(でき)よつたワ、334アハヽヽヽ』
335お楢(なら)『サアサ皆様(みなさま)、336御(ご)心配(しんぱい)なしに御(お)寝(やす)み下(くだ)さい、337妾(わたし)は之(これ)から皆殺(みなごろ)しを拵(こしら)へます』
338岩彦(いはひこ)『何分(なにぶん)宜(よろ)しう御(お)頼(たの)み申(まを)します、339同(おな)じ事(こと)なら半殺(はんごろ)しと、340皆殺(みなごろ)しと両方(りやうはう)頂(いただ)き度(た)いものですな』
341お節(せつ)『ホヽヽヽ』
342 三(さん)人(にん)はやつと安心(あんしん)の上(うへ)、343他愛(たあい)もなく寝(しん)に就(つ)きける。344ふと目(め)を覚(さま)せば小鶏(ちやぼ)の声(こゑ)。
345岩公(いはこう)『ヤア、346グツと寝(ね)た間(ま)にもう夜明(よあ)けだ。347おい皆(みな)の奴(やつ)、348早(はや)う起(お)きて御(ご)馳走(ちそう)を頂戴(ちやうだい)しようかい』
349 お節(せつ)此(この)場(ば)に現(あら)はれ、
350お節(せつ)『サアサ皆(みな)さま、351御(お)手洗(てうず)をお使(つか)ひ遊(あそ)ばせ、352半殺(はんごろ)しと皆殺(みなごろ)しとが出来(でき)ましたから、353どつさりお食(あが)り下(くだ)さいませ。354今日(けふ)は真名井(まなゐ)ケ原(はら)の豊国姫(とよくにひめ)の神(かみ)さまの出現場(しゆつげんば)にお礼(れい)に詣(まゐ)りますから何卒(どうぞ)一緒(いつしよ)にお願(ねがひ)申(まを)します』
355 岩彦(いはひこ)外(ほか)二人(ふたり)は『ハイ』と答(こた)へて跳起(はねお)き、356手洗(ちようづ)をつかひ牡丹餅(ぼたもち)と餡転餅(あんころもち)をウンと胃(ゐ)の腑(ふ)に格納(かくなふ)し、357六(ろく)人(にん)打連(うちつ)れ立(だ)つて真名井(まなゐ)ケ原(はら)に宣伝歌(せんでんか)を謡(うた)ひ乍(なが)ら進(すす)み行(ゆ)く。
358(大正一一・四・一六 旧三・二〇 北村隆光録)
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