霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一三章 神集(かうづ)の玉(たま)〔六〇三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第16巻 如意宝珠 卯の巻 篇:第2篇 深遠微妙 よみ(新仮名遣い):しんえんびみょう
章:第13章 神集の玉 よみ(新仮名遣い):こうづのたま 通し章番号:603
口述日:1922(大正11)年04月15日(旧03月19日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年12月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
亀彦、英子姫、悦子姫は秋山彦の館に戻ってきたが、門番らは宣伝使は鍵盗人に違いない、と言い張って中に入れず、ちょっとした騒ぎになっていた。
秋山彦はそこへやってきて、亀彦らに宝庫の鍵が盗まれた経緯を知らせた。亀彦は鬼武彦に祈願をこらすと、鬼武彦はたちまち現れた。そして神力で、高姫らが冠島・沓島に向かって漕ぎ出していることを突き止めた。
さっそく、鬼武彦と亀彦は、秋山彦の家の郎党十数人を引率して、高姫を追いかけた。
高姫はすでに、冠島に上陸して、素盞嗚尊が秘め置いた如意宝珠を取り出し、木の根元に埋めて隠していた。
そして鰐に守られた沓島に近づき、鰐の背を渡って上陸した。そして頂上の岩窟に入り、金剛不壊の宝玉を盗ろうとしたが、この宝玉は巌に密着していてなかなか取れない。
そうしているうちに鬼武彦らは追いついて、岩窟に蓋をして、高姫と青彦を閉じ込めてしまった。
高姫と鬼武彦・亀彦は交渉の末、如意宝珠の玉を返す代わりに、岩窟から高姫らを出すこととなった。
高姫は冠島で如意宝珠の玉を隠し場所から掘り出すと、しっかりと握って、田辺の港で返すと言って船に乗り込んだ。
この如意宝珠の玉は、一名神集の玉と言い、近代の蓄音機の玉のような活動をする宝玉である。現在はウラナイ教の末流の悪神の手によって、ドイツのある地点に深く秘蔵されているという。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ:ドイツ(独逸) データ凡例: データ最終更新日:2021-01-27 17:26:42 文字数:4092 OBC :rm1613
愛善世界社版:157頁 八幡書店版:第3輯 458頁 修補版: 校定版:161頁 普及版:70頁 初版: ページ備考:
001 秋山館(あきやまやかた)の門番(もんばん)なる銀公(ぎんこう)、002加米公(かめこう)両人(りやうにん)は由良(ゆら)の港(みなと)に立出(たちいで)て船出(ふなで)の用意(ようい)致(いた)さむと表門(おもてもん)へ駆(か)け出(だ)す。003折(をり)から現(あら)はれし一男(いちなん)二女(にぢよ)の宣伝使(せんでんし)、004宣伝歌(せんでんか)を謳(うた)ひ乍(なが)ら悠々(いういう)として門内(もんない)に入(い)らむとする。005銀公(ぎんこう)、006加米公(かめこう)は大手(おほて)を拡(ひろ)げて、
007銀公、加米公『其(その)方(はう)は亀彦(かめひこ)の宣伝使(せんでんし)、008鍵盗人(かぎぬすびと)の同類(どうるゐ)であらう。009もうもうもう宣伝使(せんでんし)のせの字(じ)を聞(き)いても嫌(いや)になる哩(わい)、010最前(さいぜん)来(き)やがつた二人(ふたり)の宣伝使(せんでんし)奴(め)が、011大切(たいせつ)なる鍵(かぎ)をちよろまかして裏門(うらもん)より逃失(にげう)せやがつた。012それが為(た)めに当館(たうやかた)の中(うち)は上(うへ)を下(した)への大騒動(おほさうどう)だ、013貴様(きさま)ももう駄目(だめ)だ、014肝腎要(かんじんかなめ)の鍵(かぎ)は先(さき)の宣伝使(せんでんし)が持(も)つて帰(かへ)つた、015神秘(しんぴ)の鍵(かぎ)を盗(ぬす)まれ当館(たうやかた)は空前(くうぜん)絶後(ぜつご)の大混雑(だいこんざつ)、016之(これ)から沢山(たくさん)な番犬(ばんけん)でもかり集(あつ)めてかぎ探(さが)させる処(ところ)だ、017貴様(きさま)も宜(い)い加減(かげん)に帰(かへ)れ』
018亀彦(かめひこ)『之(これ)は心得(こころえ)ぬ其方(そなた)の言葉(ことば)、019吾々(われわれ)に対(たい)し盗人(どろぼう)扱(あつか)ひをなさるのか』
020加米公(かめこう)『極(きま)つた事(こと)だよ、021宣伝使(せんでんし)と言(い)へば鍵盗人(かぎぬすびと)の代名詞(だいめいし)だ、022通(とほ)る事(こと)罷(まか)りならぬ、023貴様(きさま)の様(やう)な者(もの)を奥(おく)へふみ込(こ)まさうものなら、024それこそ大変(たいへん)だ』
025亀彦(かめひこ)『一応(いちおう)合点(がてん)の往(ゆ)かぬ汝(なんじ)が言葉(ことば)、026二人(ふたり)の宣伝使(せんでんし)とはウラナイ教(けう)の宣伝使(せんでんし)であらう、027吾々(われわれ)は三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)だ、028神秘(しんぴ)の鍵(かぎ)を与(あた)へる者(もの)だ』
029銀公(ぎんこう)『何(なに)、030神秘(しんぴ)の鍵(かぎ)を与(あた)へるとな、031サア早(はや)く其(その)鍵(かぎ)を見(み)せて呉(く)れ、032鍵(かぎ)を渡(わた)せば通行(つうかう)を許(ゆる)して与(や)らう、033宣伝使(せんでんし)と言(い)へば何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も皆(みんな)鍵盗人(かぎぬすびと)の様(やう)な気(き)がする、034貴様(きさま)は何処(どこ)で神秘(しんぴ)の鍵(かぎ)とやらを盗(ぬす)みて来(き)たのだ、035サアサ早(はや)く手(て)に渡(わた)せ』
036亀彦(かめひこ)『アハヽヽヽ、037訳(わけ)の分(わか)からぬ門番(もんばん)だな、038サアサ英子姫(ひでこひめ)さま悦子姫(よしこひめ)さま参(まゐ)りませう』
039と行(ゆ)かむとする。040銀公(ぎんこう)、041加米公(かめこう)は大声(おほごゑ)をあげて呶鳴(どな)り立(た)てる。042此(この)声(こゑ)を聞(き)きつけたる秋山彦(あきやまひこ)は何事(なにごと)ならむと表(おもて)に飛(と)び出(だ)し到(いた)り見(み)れば亀彦(かめひこ)の宣伝使(せんでんし)一行(いつかう)なりけり。
043秋山彦(あきやまひこ)『ア、044之(これ)は之(これ)は亀彦(かめひこ)様(さま)、045英子姫(ひでこひめ)様(さま)、046悦子姫(よしこひめ)様(さま)克(よ)く入(い)らせられました。047少(すこ)し許(ばか)り取込(とりこみ)が出来(でき)ましたので大騒(おほさわ)ぎを致(いた)して居(を)ります、048素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)様(さま)よりお預(あづか)り申(まを)した大切(たいせつ)なる玉鍵(たまかぎ)を何者(なにもの)かに盗(ぬす)まれ、049唯今(ただいま)僕(しもべ)共(ども)を四方(しはう)に遣(つか)はし探索(たんさく)の最中(さいちう)で御座(ござ)います』
050亀彦(かめひこ)『ア、051それで分(わか)りました、052門番(もんばん)共(ども)が私(わたくし)に対(たい)し鍵盗人(かぎぬすびと)だとか何(なん)だとか大変(たいへん)な事(こと)を言(い)つて居(ゐ)ました、053然(しか)しそれは大事(おほごと)ですな、054何(なに)か心当(こころあた)りは御座(ござ)いますまいか』
055秋山彦(あきやまひこ)『先程(さきほど)ウラナイ教(けう)の高姫(たかひめ)、056青彦(あをひこ)と言(い)ふ二人(ふたり)の宣伝使(せんでんし)が玄関(げんくわん)まで来訪(らいはう)致(いた)し、057其(その)儘(まま)姿(すがた)を隠(かく)しました。058あとを見(み)れば玄関(げんくわん)の間(ま)の額(がく)の裏(うら)に匿(しま)ひ置(お)きたる大切(たいせつ)な玉鍵(たまかぎ)が紛失(ふんしつ)致(いた)して居(を)ります、059人(ひと)を疑(うたが)ふは決(けつ)して良(い)い事(こと)ではありませぬが、060よもやと思(おも)ひ心(こころ)の裡(うち)に罪(つみ)を作(つく)つて居(を)ります』
061亀彦(かめひこ)『ヤア、062それは御(ご)心配(しんぱい)、063お察(さつ)し申(まを)す、064吾々(われわれ)も共々(ともども)に力添(ちからぞへ)を致(いた)しまして、065鍵(かぎ)の所在(ありか)を捜索(そうさく)致(いた)しませう』
066秋山彦(あきやまひこ)『あの鍵(かぎ)は冠島(かむりじま)、067沓島(くつじま)の宝(たから)の鍵(かぎ)で御座(ござ)いますれば、068万々一(まんまんいち)其(その)鍵(かぎ)を以(もつ)て両島(りやうたう)に押(お)し渡(わた)り、069如意(によい)宝珠(ほつしゆ)の玉(たま)を盗(ぬす)み取(と)る様(やう)な事(こと)が御座(ござ)いましては、070折角(せつかく)の神政(しんせい)成就(じやうじゆ)の基礎(きそ)も滅茶(めちや)々々(めちや)になつて仕舞(しま)ひまする、071生命(いのち)に代(か)へても此(この)鍵(かぎ)と玉(たま)とは守(まも)らねばなりませぬ』
072亀彦(かめひこ)『アヽ、073さうぢや、074斯(か)ういふ時(とき)こそ鬼武彦(おにたけひこ)殿(どの)にお頼(たの)み申(まを)さねばなるまい』
075と大江山(たいこうざん)の方(はう)に向(むか)つて天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し救援(きうゑん)を求(もと)めたるに、076言下(げんか)に、
077『オウ』
078と答(こた)へて現(あら)はれ来(きた)る覆面(ふくめん)の大男(おほをとこ)、079能(よ)く能(よ)く見(み)れば鬼武彦(おにたけひこ)なりける。
080亀彦(かめひこ)『ヤア貴下(あなた)は鬼武彦(おにたけひこ)様(さま)、081能(よ)うこそ御(ご)入来(じゆらい)下(くだ)さいました、082お願(ねが)ひの筋(すぢ)は斯(か)く斯(か)く』
083と鍵(かぎ)の紛失(ふんしつ)せし事(こと)を詳細(しやうさい)に物語(ものがた)れば、084鬼武彦(おにたけひこ)は暫時(しばし)頭(かうべ)を傾(かたむ)け目(め)を閉(と)ぢ居(ゐ)たりしが忽(たちま)ち顔色(かほいろ)華(はなやか)に、
085鬼武彦『アハヽヽヽ、086此(この)鍵(かぎ)の掠奪者(りやくだつしや)はウラナイ教(けう)の宣伝使(せんでんし)高姫(たかひめ)、087青彦(あをひこ)と言(い)ふ奴(やつ)、088只今(ただいま)由良(ゆら)の港(みなと)より船(ふね)に乗(の)り博奕(ばくち)ケ岬(さき)迄(まで)漕(こ)ぎ出(だ)して居(を)りまする、089サア吾々(われわれ)がお伴(とも)致(いた)しませう、090船(ふね)を出(だ)しなさいませ、091秋山彦(あきやまひこ)殿(どの)、092御(ご)心配(しんぱい)御(ご)無用(むよう)だ』
093秋山彦(あきやまひこ)『有難(ありがた)う御座(ござ)います、094何卒(なにとぞ)何卒(なにとぞ)宜(よろ)しく御(お)願(ねがひ)申(まを)します』
095鬼武彦(おにたけひこ)『某(それがし)は之(これ)より亀彦(かめひこ)と共(とも)に船(ふね)を準備(しつら)へ冠島(かむりじま)、096沓島(くつじま)に向(むか)ひませう、097秋山彦(あきやまひこ)を始(はじ)め英子姫(ひでこひめ)、098悦子姫(よしこひめ)は当館(たうやかた)にあつて吾々(われわれ)が帰(かへ)るを待(ま)ち受(う)けられよ、099亀彦(かめひこ)来(きた)れ』
100と言(い)ふより早(はや)く、101加米公(かめこう)その他(た)秋山彦(あきやまひこ)の家(いへ)の子(こ)郎党(らうたう)十数(じふすう)人(にん)を引率(いんそつ)し三艘(さんそう)の小船(こぶね)を艤装(ぎさう)して由良(ゆら)の港(みなと)の月(つき)照(て)る海原(うなばら)を艪櫂(ろかい)の音(おと)勇(いさ)ましく漕(こ)ぎ出(だ)したり。102三五(さんご)の月(つき)は海底(かいてい)深(ふか)く姿(すがた)を浮(う)かべ、103船(ふね)の動揺(どうえう)につれて忽(たちま)ち上下(じやうげ)左右(さいう)に延長(えんちやう)し海底(かいてい)に銀竜(ぎんりう)の姿(すがた)を現(げん)じつつ、104うつ波(なみ)の博奕(ばくち)ケ岬(さき)を後(あと)に見(み)て潮(しほ)の飛沫(ひまつ)をカブラ岩(いは)、105経(けう)ケ岬(みさき)を左手(ゆんで)に眺(なが)め高雲山(かううんざん)を右手(めて)に望(のぞ)み矢(や)を射(い)る如(ごと)く高姫(たかひめ)の後(あと)を追(お)ひしき行(ゆ)きぬ。
106 高姫(たかひめ)は二時(ふたとき)ばかり以前(いぜん)に冠島(かむりじま)に上陸(じやうりく)し玉鍵(たまかぎ)を以(もつ)て素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)が秘(ひ)め置(お)かれたる如意(によい)宝珠(ほつしゆ)を取(と)り出(だ)し、107山上(さんじやう)の大桑樹(だいさうじゆ)の根元(ねもと)に密(ひそか)に埋(うづ)め目標(めじるし)をなし、108又(また)もや青彦(あをひこ)と共(とも)に船(ふね)に乗(の)り沓島(くつじま)に向(むか)ひける。
109 巨大(きよだい)なる鰐(わに)は数(かず)限(かぎ)りなく沓島(くつじま)の周辺(しうへん)を取(と)り囲(かこ)み堅(かた)く守(まも)り居(ゐ)る、110鰐(わに)の群(むれ)に圧(あつ)せられて、111船(ふね)は最早(もは)や一(いつ)尺(しやく)も進(すす)む事(こと)能(あた)はず、112高姫(たかひめ)は船(ふね)の綱(つな)を腰(こし)に結(むす)び付(つ)け鰐(わに)の背(せ)を渡(わた)つて青彦(あをひこ)諸共(もろとも)漸(やうや)く断崖(だんがい)に登(のぼ)り着(つ)きぬ。113此(この)間(かん)殆(ほとん)ど二時(ふたとき)許(ばか)りを要(えう)したりける。114鬼武彦(おにたけひこ)、115亀彦(かめひこ)の一行(いつかう)は忽(たちま)ち此(この)場(ば)に追(お)ひつきける。116数多(あまた)の鰐(わに)は左右(さいう)に分(わか)れ船路(ふなぢ)を開(ひら)く。117一同(いちどう)は直(ただち)に島(しま)に駆(か)け上(あが)り頂上(ちやうじやう)の岩窟(がんくつ)に向(むか)つて登(のぼ)り行(ゆ)く。118釣鐘岩(つりがねいは)の絶頂(ぜつちやう)に直立(ちよくりつ)一丈(いちぢやう)許(ばか)りの岩窟(がんくつ)あり。119其処(そこ)には黄(き)、120紅(くれなゐ)、121青(あを)、122赤(あか)、123紫(むらさき)其(その)他(た)色々(いろいろ)の光彩(くわうさい)を放(はな)てる金剛(こんがう)不壊(ふゑ)の宝玉(ほうぎよく)が匿(かく)されあり。124二人(ふたり)は余念(よねん)なく其(その)岩窟(がんくつ)に跳(と)び込(こ)み玉(たま)を取(と)らむとて汗(あせ)み泥(どろ)になつて働(はたら)き居(ゐ)る。125鍵(かぎ)は穴(あな)の端(ふち)に大切相(だいじさう)に木葉(このは)を敷(し)いて置(お)きありぬ。126亀彦(かめひこ)は手早(てばや)く其(その)鍵(かぎ)をとり上(あ)げ懐中(ふところ)に捻(ね)ぢ込(こ)みける。127金剛(こんがう)不壊(ふゑ)の此(この)玉(たま)は、128地底(ちてい)の世界(せかい)より突出(とつしゆつ)せしものにして巌(いはほ)の尖端(せんたん)に密着(みつちやく)しあれば容易(ようい)に摂取(せつしゆ)する事(こと)能(あた)はず、129鬼武彦(おにたけひこ)は密(ひそか)に傍(かたはら)の大岩石(だいがんせき)を引(ひ)き抜(ぬ)き来(きた)り岩穴(いはあな)の上(うへ)にドスンと載(の)せたり。130二人(ふたり)は徳利口(とくりぐち)を塞(ふさ)がれて如何(いかん)ともする事(こと)能(あた)はず悲鳴(ひめい)をあげて泣(な)き叫(さけ)ぶ。
131 鬼武彦(おにたけひこ)始(はじ)め一同(いちどう)は此処(ここ)に悠然(いうぜん)として天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し宣伝歌(せんでんか)を唱(とな)へ且(かつ)その周囲(しうゐ)に蝟集(ゐしふ)して休息(きうそく)し雑談(ざつだん)に耽(ふけ)りぬ。132岩(いは)と岩(いは)との隙間(すきま)より二人(ふたり)の藻掻(もが)く態(さま)は歴然(れきぜん)と見(み)え居(ゐ)たり。133亀彦(かめひこ)は隙間(すきま)よりヌツと中(なか)を覗(のぞ)けば、134穴(あな)の中(なか)より高姫(たかひめ)は亀彦(かめひこ)の顔(かほ)を見上(みあ)げ、
135高姫(たかひめ)『ヤア汝(なんぢ)は三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)、136吾々(われわれ)は神勅(しんちよく)を奉(ほう)じて此(この)玉(たま)をお迎(むか)へに参(まゐ)つたもの、137神業(しんげふ)の妨害(ばうがい)すると地獄(ぢごく)の釜(かま)に真逆(まつさか)様(さま)に落(おと)されるぞ、138早(はや)く悪戯(いたづら)をやめて誠(まこと)の道(みち)に立(た)ち復(かへ)り、139此(この)岩(いは)を除(の)けて日(ひ)の出神(でのかみ)にお詫(わび)を申(まを)さぬか、140不届(ふとどき)な奴(やつ)めが』
141亀彦(かめひこ)『アハヽヽヽ、142末代(まつだい)上(あが)れぬ岩穴(いはあな)に放(ほ)り込(こ)まれて減(へ)らず口(ぐち)を叩(たた)くな、143此(この)岩(いは)は巨大(きよだい)なる千引岩(ちびきいは)、144仮令(たとへ)百(ひやく)人(にん)千(せん)人(にん)来(きた)るとも容易(ようい)に動(うご)かぬ代物(しろもの)だ、145マアマア悠(ゆる)りと此処(ここ)に安居(あんきよ)して沈思(ちんし)黙考(もくかう)なされませ、146吾々(われわれ)は之(これ)より聖地(せいち)を指(さ)してお先(さき)へ御免(ごめん)蒙(かうむ)る』
147高姫(たかひめ)『岩石(がんせき)を取(と)らぬなら取(と)らぬで宜(よ)い、148其(その)代(かは)りに冠島(かむりじま)の玉(たま)の所在(ありか)は分(わか)るまい、149玉(たま)の所在(ありか)が知(し)り度(た)くば此(この)岩(いは)を取(と)り除(の)けて吾々(われわれ)二人(ふたり)を救(すく)ひ上(あ)げ船(ふね)に乗(の)せ鄭重(ていちよう)に田辺(たなべ)の港(みなと)まで送(おく)り帰(かへ)せ、150如意(によい)宝珠(ほつしゆ)の玉(たま)は欲(ほ)しくは無(な)いか』
151亀彦(かめひこ)『エー、152抜(ぬ)け目(め)のない奴(やつ)だ、153鬼武彦(おにたけひこ)さま、154如何(どう)致(いた)しませうか、155貴方(あなた)の天眼力(てんがんりき)で、156玉(たま)の所在(ありか)をお探(さが)し下(くだ)さらぬか』
157鬼武彦(おにたけひこ)『一旦(いつたん)悪神(あくがみ)の手(て)に渡(わた)つた如意(によい)宝珠(ほつしゆ)なれば外部(ぐわいぶ)は穢(けが)れ曇(くも)り一向(いつかう)霊気(れいき)を放射(はうしや)致(いた)さぬ、158あの玉(たま)を再(ふたた)び用(もち)ひむとすれば七日(なぬか)七夜(ななよ)の間(あひだ)、159和知(わち)の清泉(せいせん)に清(きよ)めて磨(みが)かねばなりませぬ、160さりとて、161所在(ありか)が分(わか)らねばこれ亦(また)素盞嗚(すさのを)の大神(おほかみ)に対(たい)して申(まを)し訳(わけ)が立(た)たぬ、162エー仕方(しかた)がない、163高姫(たかひめ)、164青彦(あをひこ)両人(りやうにん)に白状(はくじやう)させるより外(ほか)に道(みち)はありますまい』
165亀彦(かめひこ)『困(こま)つたな、166万劫(まんがふ)末代(まつだい)此(この)岩穴(いはあな)に封(ふう)じ込(こ)めて与(や)らうと思(おも)つたに惜(を)しい事(こと)だ、167オイ、168高姫(たかひめ)、169青彦(あをひこ)の両人(りやうにん)、170貴様(きさま)は余(よ)つ程(ぽど)幸福者(しあはせもの)だ、171玉(たま)の所在(ありか)を逐一(ちくいち)申(まを)せ、172然(しか)らば此(この)岩(いは)を取(と)り除(のぞ)いて与(や)らう』
173高姫(たかひめ)『ドツコイ、174さうは往(ゆ)きませぬぞ、175岩石(がんせき)を除(のぞ)いて吾々(われわれ)を冠島(かむりじま)迄(まで)送(おく)り届(とど)けなければ仲々(なかなか)白状(はくじやう)致(いた)さぬ、176万一(まんいち)迂濶(うつかり)所在(しよざい)を知(し)らすが最後(さいご)此(この)儘(まま)にして置(お)かれては吾々(われわれ)の立(た)つ瀬(せ)が無(な)い、177吾々(われわれ)を救(すく)ふ方法(はうはふ)は玉(たま)の所在(ありか)を知(し)らさぬ一法(いつぱふ)あるのみだ、178ホヽヽヽ』
179亀彦(かめひこ)『エー、180酢(す)でも蒟蒻(こんにやく)でも往(ゆ)かぬ奴(やつ)だ、181一歩(いつぽ)譲(ゆづ)つて此(この)岩(いは)を取(と)り除(の)けて助(たす)けて与(や)ろか、182打(う)たぬ博奕(ばくち)に負(まけ)たと思(おも)うて辛抱(しんばう)するかなア』
183と呟(つぶや)き乍(なが)ら鬼武彦(おにたけひこ)に目配(めくば)せすれば鬼武彦(おにたけひこ)はウンと一声(ひとこゑ)、184力(ちから)をこめて岩(いは)を蹴(け)る、185岩石(がんせき)はガラガラガラツ、186ドドンツと音響(おんきやう)を立(た)て眼下(がんか)の紫色(むらさきいろ)の海中(かいちう)に向(むか)つて水柱(みづばしら)をたてつつドブンと落(お)ち込(こ)みぬ。187高姫(たかひめ)、188青彦(あをひこ)は漸(やうや)く這(は)ひ上(あが)り、
189高姫、青彦『ヤア皆(みな)さま、190御(ご)心配(しんぱい)を掛(か)けました。191お蔭(かげ)さまで助(たす)けて貰(もら)ひました。192サアサ、193帰(かへ)りませう』
194亀彦(かめひこ)『コレヤコレヤさうは往(ゆ)かぬ、195何処(どこ)に隠(かく)した、196白状(はくじやう)致(いた)さぬか』
197 高姫(たかひめ)『如意(によい)宝珠(ほつしゆ)の玉(たま)は冠島(かむりじま)に隠(かく)してある。198此処(ここ)では無(な)い、199早(はや)く船(ふね)を出(だ)しなさい、200愚図(ぐづ)々々(ぐづ)して居(ゐ)ると荒風(あらかぜ)が吹(ふ)いて帰(かへ)る事(こと)が出来(でき)なくなる』
201 鬼武彦(おにたけひこ)一行(いつかう)は釣鐘岩(つりがねいは)を辛(から)うじて下(くだ)り船(ふね)に乗(の)り込(こ)みぬ。202高姫(たかひめ)、203青彦(あをひこ)は鬼武彦(おにたけひこ)、204亀彦(かめひこ)の船(ふね)に分乗(ぶんじやう)せしめ彼(かれ)が乗(の)り来(きた)りし船(ふね)には秋山彦(あきやまひこ)の僕(しもべ)を乗(の)せ、205艪櫂(ろかい)の音(おと)勇(いさ)ましく冠島(かむりじま)に向(むか)つて漕(こ)ぎ帰(かへ)る。206高姫(たかひめ)は冠島(かむりじま)へ着(つ)くや否(いな)や、207猿(ましら)の如(ごと)く山上(さんじやう)に駆(か)け上(のぼ)り、208手早(てばや)く珠(たま)を掘(ほ)り出(だ)し懐中(ふところ)に捻込(ねぢこ)み、
209高姫『サア如意(によい)宝珠(ほつしゆ)は之(これ)で御座(ござ)る、210今(いま)お渡(わた)しすると貴方(あなた)は都合(つがふ)が宜(よろ)しからうが妾(わたし)の都合(つがふ)が一寸(ちよつと)悪(わる)い、211万一(まんいち)船中(せんちう)に於(おい)て海中(かいちう)に放(ほ)り込(こ)まれでもしては大変(たいへん)だ、212もし放(ほ)り込(こ)まれたら懐中(ふところ)の玉(たま)と一緒(いつしよ)に沈(しづ)む覚悟(かくご)だ、213サアサ田辺(たなべ)の港(みなと)でお渡(わた)し申(まを)す』
214亀彦(かめひこ)『何処迄(どこまで)も注意(ちうい)周到(しうたう)な奴(やつ)だナア、215吾々(われわれ)は決(けつ)して汝(なんぢ)等(ら)を苦(くる)しめる考(かんが)へでは無(な)い、216今(いま)直(すぐ)に渡(わた)して呉(く)れよ。217屹度(きつと)田辺(たなべ)に送(おく)り着(つ)けてやる』
218高姫(たかひめ)『滅相(めつさう)もない、219其方(そちら)の出様(でやう)次第(しだい)に依(よ)つて此(この)玉(たま)を岩石(がんせき)に打付(ぶつつ)けて砕(くだ)いて仕舞(しま)ふか、220疵(きず)をつけるか、221海中(かいちう)に投(な)げ込(こ)むか、222未(いま)だ見当(けんたう)が付(つ)いて居(を)らぬ。223渡(わた)す渡(わた)さぬは田辺(たなべ)へ着(つ)いた上(うへ)の事(こと)だ、224オホヽヽヽ』
225亀彦(かめひこ)『ソンナラ貴様(きさま)だけ船(ふね)に乗(の)せてやる、226青彦(あをひこ)は此(この)島(しま)に暫時(ざんじ)居(を)つて修業(しうげふ)をしたが宜(よろ)しからう』
227高姫(たかひめ)『滅相(めつさう)な、228車(くるま)の両輪(りやうりん)、229二本(にほん)の脚(あし)、230御(お)神酒(みき)徳利(どつくり)、231鑿(のみ)と槌(つち)、232二人(ふたり)居(を)らねば何事(なにごと)も一人(ひとり)では物事(ものごと)成就(じやうじゆ)致(いた)さぬ、233一本(いつぽん)では歩(ある)けない。234青彦(あをひこ)も一緒(いつしよ)に連(つ)れて帰(かへ)れ』
235亀彦(かめひこ)『何処迄(どこまで)も図々(づづ)しい奴(やつ)だ、236それ位(くらゐ)でなくては三五教(あななひけう)の切(き)り崩(くづ)しは到底(たうてい)出来(でき)よまい、237アア感心(かんしん)感心(かんしん)、238韓信(かんしん)の股潜(またくぐ)りだ、239アハヽヽヽ』
240鬼武彦(おにたけひこ)『サア亀彦(かめひこ)さま、241話(はなし)は悠(ゆる)りと船中(せんちう)でなさいませ、242東北(とうほく)の天(てん)に当(あた)つて怪雲(くわいうん)が現(あら)はれました。243暴風(ばうふう)の襲来(しふらい)刻々(こくこく)に迫(せま)つて来(き)ました。244サア早(はや)く早(はや)く』
245と急(せ)き立(た)てる。246亀彦(かめひこ)、247高姫(たかひめ)其(その)他(た)一同(いちどう)は四艘(しさう)の船(ふね)に分乗(ぶんじやう)し艪櫂(ろかい)の音(おと)勇(いさ)ましく田辺(たなべ)を指(さ)して帰(かへ)り来(く)る。248アヽ此(この)宝珠(ほつしゆ)は如何(どう)なるであらうか。
249 因(ちなみ)に言(い)ふ、250此(この)如意(によい)宝珠(ほつしゆ)の玉(たま)は一名(いちめい)言霊(ことたま)と称(しよう)し又(また)神集(かうづ)の玉(たま)とも言(い)ひ言語(げんご)を発(はつ)する不可思議(ふかしぎ)の生玉(いきたま)である。251丁度(ちやうど)近代(きんだい)流行(りうかう)の蓄音器(ちくおんき)の玉(たま)の様(やう)な活動(くわつどう)をする宝玉(ほうぎよく)にして今(いま)はウラナイ教(けう)の末流(まつりう)たる悪神(あくがみ)の手(て)に保存(ほぞん)せられ独逸(ドイツ)の或(ある)地点(ちてん)に深(ふか)く秘蔵(ひざう)されありと言(い)ふ。
252(大正一一・四・一五 旧三・一九 北村隆光録)
253(昭和一〇・五・二六 天恩郷 王仁校正)
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