霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第六章 石槍(いしやり)の雨(あめ)〔五九六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第16巻 如意宝珠 卯の巻 篇:第1篇 神軍霊馬 よみ(新仮名遣い):しんぐんれいば
章:第6章 石槍の雨 よみ(新仮名遣い):いしやりのあめ 通し章番号:596
口述日:1922(大正11)年04月14日(旧03月18日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年12月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
神素盞嗚大神、国武彦命、また亀彦、英子姫、悦子姫らは桶伏山の蓮華台上に上り、天神地祇・八百万の神々を集えた。神々は皇大神の出でましを口々に讃えた。
神素盞嗚大神は、国武彦に何事かを密かに任命し、ミロク神政の三十五万年後の再会を約して、丹頂の鶴に乗って東を指して飛んでいった。
国武彦命は亀彦、英子姫、悦子姫らに何事かをささやき、万神に厳格な神示を与えた後、ひとり四王の峰の彼方に姿をお隠しになった。この神界の秘密は容易にうかがい知ることのできるものではない。
亀彦らは再び大江山に進むこととなった。
一方、秋山彦の館を襲った鬼彦らは、神素盞嗚大神を始め、秋山彦ら三五教の神人たちを生け捕ったと思い、囚人の駕籠を担ぎながら大江山の山道を登っていた。
すると、一行を石の槍雨が襲ってその場に打ち倒されてしまう。気がつくと、捕らえたはずの神素盞嗚大神らは駕籠を抜け出して、笑っている。鬼虎は気合を入れるが、今度は矢の雨が一同を襲った。
秋山彦は天の数歌を唱えた。すると魔神らの身体は癒え、あちこちに喜びの声が満ちた。秋山彦が三五教への帰順を促す宣伝歌を歌うと、鬼彦らは感謝の涙に咽んだ。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2024-08-30 17:27:59 文字数:4088 OBC :rm1606
愛善世界社版:78頁 八幡書店版:第3輯 429頁 修補版: 校定版:81頁 普及版:33頁 初版: ページ備考:
001大空(おほぞら)碧(あを)く澄(す)み渡(わた)り
002山河(やまかは)清(きよ)くさやかにて
003静(しづ)かに流(なが)るる和知(わち)の川(かは)
004枝(えだ)も鳴(な)らさぬ音無瀬(おとなせ)の
005川(かは)の流(なが)れは緩(ゆる)やかに
006幾千丈(いくせんぢやう)の青絹(あをぎぬ)を
007流(なが)すが如(ごと)くゆらゆらと
008水瀬(みなせ)も深(ふか)き由良(ゆら)の川(かは)
009神代(かみよ)も廻(めぐ)り北(きた)の風(かぜ)
010真帆(まほ)を膨(ふく)らせ登(のぼ)り来(く)る
011深(ふか)き恵(めぐみ)を河守駅(かうもりえき)や
012河(かは)の中央(なかば)に立(た)ち岩(いは)の
013関所(せきしよ)を越(こ)えて漸(やうや)うに
014足許(あしもと)早(はや)き長谷(はせ)の川(かは)
015水(みづ)の落合(おちあひ)右左(みぎひだり)
016左手(ゆんで)に向(むか)ひ舵(かぢ)をとり
017上(のぼ)る河路(かはぢ)も長砂(ながすな)や
018幾多(いくた)の村(むら)の瀬(せ)を越(こ)えて
019此処(ここ)は聖地(せいち)と白瀬橋(しらせばし)
020下(した)を潜(くぐ)つて上(のぼ)り来(く)る
021臥竜(ぐわりよう)の松(まつ)の川水(かはみづ)に
022枝(えだ)を浸(ひた)して魚(うを)躍(をど)り
023月(つき)は梢(こづゑ)に澄(す)み渡(わた)る
024向方(むかう)に見(み)ゆるは稲山(いねやま)か
025丹波(たんば)の富士(ふじ)と聞(きこ)えたる
026弥仙(みせん)の山(やま)は雲表(うんぺう)に
027聳(そび)えて立(た)てる雄々(をを)しさよ
028敵(てき)も無(な)ければ味方郷(みかたがう)
029味方平(みかただひら)に船(ふね)留(と)めて
030四方(よも)の国形(くにがた)眺(なが)むれば
031青垣山(あをがきやま)を繞(めぐ)らせる
032下津(したつ)岩根(いはね)の竜宮館(りうぐうやかた)
033此処(ここ)は名(な)におふ小(せう)亜細亜(アジア)
034地上(ち)の高天(たかあま)と聞(きこ)えたる
035昔(むかし)の聖地(せいち)ヱルサレム
036橄欖山(かんらんざん)や由良(ヨルダン)の
037景色(けしき)に勝(まさ)る聖地(せいち)なり。
038 神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)、039国武彦(くにたけひこの)命(みこと)其(その)他(た)三(さん)人(にん)は、040桶伏山(をけふせやま)の蓮華台(れんげだい)上(じやう)に登(のぼ)らせ給(たま)ひ、041天神(てんしん)地祇(ちぎ)八百万(やほよろづ)の神(かみ)を神集(かむつど)へに集(つど)へ給(たま)へば、042命(みこと)の清(きよ)き言霊(ことたま)に先(さき)を争(あらそ)ひ寄(よ)り来(く)る百(もも)の神(かみ)等(たち)、043処(ところ)狭(せま)きまで集(あつ)まりて、044皇(すめ)大神(おほかみ)の出(い)でましを、045祝(いは)ひ寿(ことほ)ぐ有様(ありさま)は、046蓮花(はちすのはな)の一時(いつとき)に、047開(ひら)き初(そ)めたる如(ごと)くなり。
048 神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)は、049国武彦(くにたけひこの)命(みこと)に何事(なにごと)か、050密(ひそか)に依(よ)さし給(たま)ひ、051ミロク神政(しんせい)の暁(あかつき)迄(まで)三十五万(さんじふごまん)年(ねん)の其(その)後(のち)に再会(さいくわい)を約(やく)し、052忽(たちま)ち来(きた)る丹頂(たんちやう)の鶴(つる)にヒラリと跨(またが)り、053中空(ちうくう)高(たか)く東(ひがし)を指(さ)して飛(と)び去(さ)り給(たま)ふ。054国武彦(くにたけひこの)命(みこと)は亀彦(かめひこ)を始(はじ)め、055英子姫(ひでこひめ)、056悦子姫(よしこひめ)に何事(なにごと)か囁(ささや)き乍(なが)ら万司(ばんしん)に向(むか)ひ厳格(げんかく)なる神示(しんじ)を与(あた)へ、057茲(ここ)に別(わか)れて只一柱(ただひとはしら)、058四王(よつわう)の峰(みね)の彼方(あなた)に雄々(をを)しき姿(すがた)を隠(かく)したまひける。
059 後(あと)に残(のこ)されし一男(いちなん)二女(にぢよ)の宣伝使(せんでんし)は二神(にしん)の依(よ)さしの神言(かみごと)を心(こころ)の底(そこ)に秘(ひ)め置(お)きて、060又(また)もや此処(ここ)を立(た)ち出(い)でて、061大江(おほえ)の山(やま)を目蒐(めが)けて、062いそいそ進(すす)み行(ゆ)く。063嗟(ああ)此(こ)の山上(さんじやう)の五柱(いつはしら)は、064如何(いか)なる神策(しんさく)を提議(ていぎ)されしぞ。065神界(しんかい)の秘密(ひみつ)容易(ようい)に窺知(きち)すべからず、066月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも、067仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)むとも誠(まこと)の力(ちから)は世(よ)を救(すく)ふ、068誠(まこと)の神(かみ)が出現(しゆつげん)し再(ふたた)びミロクの御代(みよ)となり、069世界(せかい)悉(ことごと)く其(その)堵(と)に安(やす)むじて、070天地(てんち)の神(かみ)の恵(めぐ)みを寿(ことほ)ぎ、071喜(よろこ)び、072勇(いさ)む尊(たふと)き神代(かみよ)の来(きた)るまで、073云(い)うてはならぬ神(かみ)の道(みち)、074言(い)ふに言(い)はれぬ此(この)仕組(しぐみ)、075坊子頭(ぼうずあたま)か、076禿頭(はげあたま)、077頭(あたま)かくして尻尾(しつぽ)の先(さき)を些(すこ)し許(ばか)り述(の)べて置(お)く。078もとより物語(ものがたり)する王仁(おに)も、079筆(ふで)執(と)る人(ひと)も聞(き)く人(ひと)も、080何(なん)だか拍子(へうし)の抜(ぬ)けたやうな心(こころ)いぶせき物語(ものがたり)、081今(いま)は包(つつ)みてかく言(い)ふになむ。
082 秋山彦(あきやまひこ)の門前(もんぜん)に数多(あまた)の魔人(まびと)を引連(ひきつ)れて、083現(あら)はれ出(い)でたる鬼彦(おにひこ)は、084第一着(だいいちちやく)に秋山彦(あきやまひこ)の口(くち)に石(いし)を捻込(ねぢこ)み、085猿轡(さるぐつわ)を箝(は)ませ、086高手(たかて)小手(こて)に縛(いまし)め置(お)き、087尚(なほ)も進(すす)みて奥殿(おくでん)深(ふか)く、088神(かむ)素盞嗚(すさのを)の大神(おほかみ)を始(はじ)め、089国武彦(くにたけひこ)、090紅葉姫(もみじひめ)、091英子姫(ひでこひめ)、092亀彦(かめひこ)諸共(もろとも)、093高手(たかて)小手(こて)に踏(ふ)ン縛(じば)り、094勝鬨(かちどき)あげて悠々(いういう)と大江山(おほえやま)の本城(ほんじやう)を指(さ)して勇(いさ)み帰(かへ)り行(ゆ)く。
095 千歳(ちとせ)の老松(らうしよう)生茂(おひしげ)れる山道(やまみち)を、096網代(あじろ)の駕籠(かご)を舁(か)つぎながら、097川(かは)を飛(と)び越(こ)え岩間(いはま)を伝(つた)ひ、098やつと出(で)て来(き)た魔窟(まくつ)ケ原(はら)、099一同(いちどう)網代(あじろ)の駕籠(かご)を下(お)ろし周囲(あたり)の岩(いは)に腰(こし)打(う)ち掛(か)け、100息(いき)を休(やす)めながら雑談(ざつだん)に耽(ふけ)る。
101甲(かふ)(熊鷹)『オイ鬼虎(おにとら)、102貴様(きさま)は竜燈松(りうとうまつ)の根本(ねもと)に於(おい)て、103さしも強敵(きやうてき)なる二人(ふたり)の女(をんな)にちやつちや、104もちやくにせられ、105鬼雲彦(おにくもひこ)の御(おん)大将(たいしやう)に目(め)から火(ひ)の出(で)るやうなお目玉(めだま)を頂戴(ちやうだい)致(いた)して真青(まつさを)になり、106縮上(ちぢみあが)つて居(ゐ)よつたが、107何(ど)うだい、108今日(けふ)は大(おほ)きな顔(かほ)をして帰(かへ)れるだらう、109帰(かへ)つたら一(ひと)つ奢(おご)らにやなるまいぞ』
110鬼虎(おにとら)『オヽさうだ、111熊鷹(くまたか)、112貴様(きさま)らも同(おな)じ事(こと)だ、113あの時(とき)の態(ざま)つたら見(み)られたものぢやなかつたよ。114何分(なにぶん)此(この)方様(はうさま)の御(ご)命令(めいれい)通(どほ)り服従(ふくじゆう)せないものだから、115ハーモニイ的(てき)行動(かうどう)を欠(か)いだ為(た)めに思(おも)はぬ失敗(しつぱい)を演(えん)じたのだ。116それにしても慎(つつし)むべきは酒(さけ)ではないか、117あの時(とき)に吾々(われわれ)は酒(さけ)さへ飲(の)みて居(ゐ)なかつたら、118アンナ失敗(しつぱい)は演(えん)じなかつたのだよ』
119熊鷹(くまたか)『ナニ、120決(けつ)して失敗(しつぱい)でもない、121二人(ふたり)の女(をんな)を取(と)り逃(に)がした為(ため)に却(かへつ)て素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)の所在(ありか)が分(わか)り、122禍(わざはひ)転(てん)じて幸(さいはひ)となつたやうなものだ。123何事(なにごと)も世(よ)の中(なか)は人間(にんげん)万事(ばんじ)塞翁(さいをう)が馬(うま)の糞(くそ)だ、124併(しか)し今日(けふ)は鬼彦(おにひこ)の指揮(しき)宜(よろ)しきを得(え)たる為(ため)に、125かういう効果(かうくわ)を齎(もたら)したのだ、126何事(なにごと)も戦(たたか)ひは上下(じやうか)一致(いつち)ノーマル的(てき)の活動(くわつどう)でなくては駄目(だめ)だワイ、127何程(なにほど)ジヤンジヤヒエールが沢山(たくさん)揃(そろ)つて居(ゐ)たところで総(すべ)ての行動(かうどう)に統一(とういつ)を欠(か)いだならば失敗(しつぱい)は目前(まのあたり)だ。128総(すべ)て何事(なにごと)も大将(たいしやう)の注意(ちうい)周到(しうたう)なる指揮(しき)命令(めいれい)と、129吾々(われわれ)が大将(たいしやう)に対(たい)する忠実(ちうじつ)至誠(しせい)のベストを尽(つく)すにあるのだ、130サテ鬼彦(おにひこ)の御(おん)大将(たいしやう)、131今日(こんにち)の御(ご)成功(せいこう)お祝(いは)ひ申(まを)す、132之(これ)で鬼雲彦(おにくもひこ)の御(おん)大将(たいしやう)も御(ご)安心(あんしん)貴方(あなた)も安心(あんしん)皆(みな)の者(もの)も安心(あんしん)、133共(とも)に吾々(われわれ)も御(ご)安心(あんしん)だ、134アハヽヽヽ』
135 此(この)時(とき)頭上(づじやう)の松(まつ)の茂(しげ)みよりポトリポトリと石(いし)の団子(だんご)が雨(あめ)の如(ごと)く降(ふ)り来(きた)り、136鬼彦(おにひこ)始(はじ)め、137鬼虎(おにとら)、138熊鷹(くまたか)其(その)他(た)一同(いちどう)の体(からだ)に向(むか)つて叩(たた)きつけるやうに落(お)ち来(き)たり。139一同(いちどう)はアイタヽ、140コイタヽ、141イヽイタイと逃(に)げようとすれども、142石雨(いしあめ)の槍襖(やりぶすま)に隔(へだ)てられ、143些(すこ)しも身動(みうご)きならず頭部(とうぶ)面部(めんぶ)に団瘤(たんこぶ)を幾(いく)つとなく拵(こしら)へけり。144石熊(いしくま)は頭上(づじやう)を仰(あふ)ぐ途端(とたん)に鼻柱(はなばしら)にパチツと当(あた)つた拳骨大(げんこつだい)の石(いし)に鼻(はな)をへしやがれ、145血(ち)をたらたらと流(なが)し、146目(め)をしかめ、147ウンと其(その)場(ば)に倒(たふ)れたり。148網代(あじろ)駕籠(かご)の中(なか)に囚(とら)はれたる神々(かみがみ)は、149金城(きんじやう)鉄壁(てつぺき)極(きは)めて安全(あんぜん)無事(ぶじ)、150此(この)光景(くわうけい)を眺(なが)めて思(おも)はず一度(いちど)に高笑(たかわら)ひ、151アハヽヽヽ、152オヽホヽヽヽ。
153 石(いし)の雨(あめ)はピタリとやみぬ。154神(かむ)素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)を始(はじ)め、155一同(いちどう)七(しち)人(にん)はヌツと此(この)場(ば)に現(あら)はれたりと見(み)れば猿轡(さるぐつわ)も縛(いましめ)の縄(なは)も何時(いつ)の間(ま)にか解(と)かれ居(ゐ)たりける。
156悦子姫(よしこひめ)『オー皆様(みなさま)気(き)の毒(どく)な事(こと)が出来(でき)ましたナア。157此(この)峻嶮(しゆんけん)の難路(なんろ)を吾々(われわれ)を駕籠(かご)に乗(の)せて、158命辛々(いのちからがら)汗水(あせみづ)垂(た)らして送(おく)つて来(き)て呉(く)れました博愛(はくあい)無限(むげん)な人足(にんそく)を、159頭部(とうぶ)面部(めんぶ)の嫌(きら)ひなく、160支店(してん)を開業(かいげふ)して団子(だんご)販売(はんばい)営業(えいげふ)を盛(さかん)に奨励(しやうれい)致(いた)して居(を)ります。161何(ど)うか皆(みな)さま腹(おなか)も減(す)いたでせう、162あの出店(でみせ)の団瘤(たんこぶ)を一(ひと)つ宛(づつ)買(か)つてやつて下(くだ)さい、163アハヽヽヽ』
164亀彦(かめひこ)『吾々(われわれ)も大変(たいへん)腹(はら)が減(す)きました。165支店(してん)の売品(ばいひん)では面白(おもしろ)くない、166一層(いつそう)の事(こと)本店(ほんてん)の背(せ)から上(うへ)の目鼻(めはな)の附(つ)いた団瘤(だんこぶ)を捩(ねぢ)ちぎつて頂戴(ちやうだい)致(いた)しませうか。167アハヽヽヽ』
168一同(いちどう)『ホヽヽヽヽ』
169 鬼虎(おにとら)は顔(かほ)を顰(しか)めながら、
170鬼虎『ヤイヤイ皆(みな)の奴(やつ)確(しつか)りせぬかい、171石(いし)の雨(あめ)が降(ふ)つたつてさう屁古垂(へこた)れるものぢやない。172俺(おれ)は除外例(ぢよがいれい)だが、173貴様(きさま)達(たち)は早(はや)く元気(げんき)をつけて此奴(こいつ)を踏(ふ)ン縛(じば)つて仕舞(しま)はねば、174ドンナ事(こと)が出来(しゆつたい)致(いた)すも分(わか)らぬぞ。175エイ、176何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も腰抜(こしぬ)けばかりだナア、177鬼掴(おにつかみ)の奴(やつ)、178敵(てき)と味方(みかた)と感違(かんちが)ひを仕(し)よつて、179味方(みかた)の頭上(づじやう)に石弾(いしだま)を降(ふ)らしよつたのだ。180敵(てき)の石弾(せきだん)に打(う)たれたと云(い)ふのならまだしもだが、181味方(みかた)の石弾(いしだま)に打(う)たれてこの谷川(たにがは)の露(つゆ)と消(き)えるかと思(おも)へば、182俺(おれ)ア死(し)ンでも死(し)なれぬ哩(わい)。183アヽヽ何(ど)うやら息(いき)が切(き)れさうだ、184オイ貴様(きさま)達(たち)、185俺(おれ)の女房(にようばう)を呼(よ)ンで来(き)て呉(く)れ、186最後(いまは)の際(きは)に唯(ただ)一目(ひとめ)会(あ)うて死(し)にたい顔(かほ)見(み)たい、187そればつかりが黄泉(よみぢ)の迷(まよ)ひだ。188アンアンアン』
189熊鷹(くまたか)『ヤイヤイ何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も確(しつか)りせぬかい、190何(なん)ぢや、191地獄(ぢごく)から火(ひ)を取(と)りに来(き)たやうな真青(まつさを)な顔(かほ)をしよつて、192ソンナ弱(よわ)い事(こと)でこの役目(やくめ)が勤(つと)まらうか、193確(しつか)りせぬかい、194アイタヽヽ、195矢張(やつぱ)り俺(おれ)も苦(くる)しい哩(わい)、196苦(くる)しい時(とき)の鬼頼(おにだの)みだ、197南無(なむ)鬼雲彦(おにくもひこ)大明神(だいみやうじん)様(さま)、198吾(われ)等(ら)が精忠(せいちう)無比(むひ)の真心(まごころ)を憐(あは)れみ給(たま)ひ、199一(いち)時(じ)も早(はや)く痛(いた)みを止(とど)め、200其(その)反対(はんたい)に素盞嗚(すさのを)一派(いつぱ)の奴(やつ)の頭(あたま)の上(うへ)に鋼鉾(まがねのほこ)の雨(あめ)でも降(ふ)らして滅(ほろ)ぼし給(たま)へ。201それも矢張(やつぱり)貴方(あなた)の為(ため)ぢや、202一挙(いつきよ)両得(りやうとく)自分(じぶん)が助(たす)かりや家来(けらい)も助(たす)かる、203コンナ好(よ)い事(こと)が何処(どこ)にあるものか、204エヽナンボ頼(たの)みても聞(き)き分(わ)けのないバラモン教(けう)の大神(おほかみ)様(さま)だワイ』
205 此(この)時(とき)又(また)もや鋭利(えいり)なる切尖(きつさき)の付(つ)いた矢(や)は雨(あめ)の如(ごと)く降(ふ)り来(きた)り、206鬼彦(おにひこ)以下(いか)の魔神(まがみ)の身体(しんたい)に遠慮(ゑんりよ)会釈(ゑしやく)もなく突(つ)き立(た)ちにける。
207熊鷹(か?)『アヽまたか、208大神(おほかみ)様(さま)は感違(かんちがひ)をなされたか、209敵(てき)はあの通(とほ)り無事(ぶじ)、210味方(みかた)には激(はげ)しき征矢(そや)の集注(しふちう)、211好(よ)く間違(まちが)へば間違(まちが)ふものだなア、212アイタヽヽヽ耐(たま)らぬ真実(ほんと)に此(この)度(たび)は息(いき)が切(き)れるぞ、213仕方(しかた)が無(な)い死(し)ンだら最後(さいご)地獄(ぢごく)の鬼(おに)となつて此奴(こいつ)共(ども)の来(く)るのを待(ま)ち受(う)け、214返報(へんぱう)がへしをしてこます、215ヤイ素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)、216其(その)他(た)の奴(やつ)等(ら)覚(おぼ)えて居(を)れ、217貴様(きさま)が死(し)ンだら目(め)が潰(つぶ)れるやうに、218口(くち)が利(き)けぬやうに、219びくとも動(うご)けぬやうにしてやるぞや』
220亀彦(かめひこ)『アハヽヽヽ、221吐(ほざ)くな吐(ほざ)くな、222目(め)が潰(つぶ)れる口(くち)が利(き)けぬ、223体(からだ)が動(うご)かぬやうにしてやらうとは好(よ)くも言(い)へたものだワイ、224天下(てんか)一品(いつぴん)の珍言(ちんげん)妙語(めうご)だ、225モシモシ英子姫(ひでこひめ)さま、226悦子姫(よしこひめ)さま、227舞(まひ)でも舞(ま)うたらどうでせう、228コンナ面白(おもしろ)い光景(くわうけい)は滅多(めつた)に、229大江山(おほえやま)でなくては見(み)られませぬよ』
230英子姫、悦子姫『ホヽヽヽヽ』
231 秋山彦(あきやまひこ)は両手(りやうて)を組(く)み、232声(こゑ)も涼(すず)しく一(ひと)二(ふた)三(み)四(よ)と天(あま)の数歌(かずうた)を唱(とな)ふるや、233一同(いちどう)の魔神(まがみ)の創所(きずしよ)は忽(たちま)ち拭(ぬぐ)ふが如(ごと)くに癒(い)え来(き)たり、234彼方(あちら)にも此方(こちら)にも喜(よろこ)びの声(こゑ)、235充(み)ち充(み)ちにける。
236『アヽ助(たす)かつた』
237『妙(めう)だ』
238『不思議(ふしぎ)だ』
239『怪体(けたい)の事(こと)があるものだワイ』
240と囁(ささや)き始(はじ)めたり。241秋山彦(あきやまひこ)は一同(いちどう)に向(むか)ひ声(こゑ)も涼(すず)しく宣伝歌(せんでんか)を謡(うた)ふ。
242秋山彦『朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
243月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
244鬼雲彦(おにくもひこ)は強(つよ)くとも
245大江(おほえ)の山(やま)は深(ふか)くとも
246数多(あまた)の部下(てした)はあるとても
247虱(しらみ)の如(ごと)き弱虫(よわむし)の
248人(ひと)の生血(いきち)を朝夕(あさゆふ)に
249漁(あさ)りて喰(くら)ふ奴(やつ)ばかり
250沢山(たくさん)絞(しぼ)つて蓄(たくは)へた
251身体(からだ)の中(なか)の生血(いきち)をば
252吐(は)き出(だ)すための神(かみ)の業(わざ)
253頭(あたま)を砕(くだ)く石(いし)の雨(あめ)
254血(ち)を絞(しぼ)り出(だ)す征矢(そや)の先(さき)
255潮(うしほ)の如(ごと)く流(なが)れ出(い)でぬ
256吾(われ)は此(この)世(よ)を救(すく)ふてふ
257人子(ひとご)の司(つかさ)三五(あななひ)の
258神(かみ)の教(をしへ)のまめ人(ひと)ぞ
259鬼(おに)や悪魔(あくま)となり果(は)てし
260汝(なんぢ)が身魂(みたま)を谷川(たにがは)の
261清(きよ)き流(なが)れに禊(みそぎ)して
262天津(あまつ)御神(みかみ)のたまひたる
263もとの身魂(みたま)に立(た)て直(なほ)し
264今迄(いままで)犯(をか)せし罪咎(つみとが)を
265直日(なほひ)に見直(みなほ)し聞(き)き直(なほ)し
266百千万(ももちよろづ)の過(あやま)ちを
267直日(なほひ)の御霊(みたま)に宣(の)り直(なほ)す
268神(かむ)素盞嗚(すさのを)の大神(おほかみ)の
269恵(めぐみ)も深(ふか)き御(おん)教(をしへ)
270胆(きも)に銘(めい)じて忘(わす)れなよ
271石熊(いしくま)、熊鷹(くまたか)、鬼虎(おにとら)[*底本では「鬼熊」だが誤字だと思われる。]よ
272心(こころ)猛(たけ)しき鬼彦(おにひこ)も
273此処(ここ)で心(こころ)を取(と)り直(なほ)せ
274如何(いか)なる敵(てき)も敵(てき)とせず
275救(すく)ひ助(たす)くる神(かみ)の道(みち)
276誠(まこと)の力(ちから)は身(み)を救(すく)ふ
277救(すく)ひの神(かみ)に従(したが)ふか
278曲津(まがつ)の神(かみ)に心服(まつろ)ふか
279善(ぜん)と悪(あく)との国境(くにざかひ)
280栄(さか)え久(ひさ)しき天国(てんごく)の
281神(かみ)の御魂(みたま)となり変(か)はり
282誠(まこと)一(ひと)つの三五(あななひ)の
283教(をしへ)にかへれ百人(ももびと)よ
284元(もと)は天地(てんち)の分霊(わけみたま)
285善(ぜん)もなければ悪(あく)もない
286善悪(ぜんあく)邪正(じやせい)を超越(てうゑつ)し
287生(うま)れ赤子(あかご)の気(き)になりて
288天地(てんち)の法則(のり)に従(したが)へば
289鬼(おに)や大蛇(をろち)の荒(すさ)ぶなる
290魔窟(まくつ)ケ原(はら)も忽(たちま)ちに
291メソポタミヤの顕恩郷(けんおんきやう)
292栄(さか)えの花(はな)は永久(とこしへ)に
293木(こ)の実(み)は熟(じゆく)し味(あぢ)もよく
294心(こころ)を砕(くだ)いて世(よ)の人(ひと)を
295苦(くる)しめ悩(なや)め吾(わが)身(み)亦(また)
296苦(くる)しむ事(こと)は要(い)らぬもの
297サア諸人(もろびと)よ諸人(もろびと)よ
298心(こころ)の底(そこ)より改(あらた)めて
299真(まこと)の道(みち)に帰(かへ)るなら
300神(かみ)は救(すくひ)の御手(みて)を延(の)べ
301栄(さかえ)に充(み)てる永久(とこしへ)の
302高天(たかま)に救(すく)ひ玉(たま)ふべし
303応(こたへ)は如何(いか)にサア如何(いか)に
304心(こころ)を定(き)めて返(かへ)り言(ごと)
305声(こゑ)も涼(すず)しく宣(の)れよかし
306神(かみ)は汝(なんぢ)の身(み)に添(そ)ひて
307厚(あつ)く守(まも)らせ給(たま)ふらむ
308あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
309霊(みたま)幸倍(さちはへ)坐世(ましませ)よ』
310と謡(うた)ひ終(をは)れば、311鬼彦(おにひこ)始(はじ)め一同(いちどう)は大地(だいち)にはたと身(み)を伏(ふ)せて、312感謝(かんしや)の涙(なみだ)に咽(むせ)びつつ山岳(さんがく)も揺(ゆる)ぐばかりに声(こゑ)を放(はな)つて泣(な)き叫(さけ)びける。
313(大正一一・四・一四 旧三・一八 加藤明子録)
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