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霊界物語
如意宝珠(第13~24巻)
第16巻(卯の巻)
序文
凡例
総説歌
第1篇 神軍霊馬
第1章 天橋立
第2章 暗夜の邂逅
第3章 門番の夢
第4章 夢か現か
第5章 秋山館
第6章 石槍の雨
第7章 空籠
第8章 衣懸松
第9章 法螺の貝
第10章 白狐の出現
第2篇 深遠微妙
第11章 宝庫の鍵
第12章 捜索隊
第13章 神集の玉
第14章 鵜呑鷹
第15章 谷間の祈
第16章 神定の地
第17章 谷の水
第3篇 真奈為ケ原
第18章 遷宅婆
第19章 文珠如来
第20章 思はぬ歓
第21章 御礼参詣
跋
霊の礎(一)
霊の礎(二)
余白歌
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霊界物語
>
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第16巻(卯の巻)
> 第1篇 神軍霊馬 > 第3章 門番の夢
<<< 暗夜の邂逅
(B)
(N)
夢か現か >>>
第三章
門番
(
もんばん
)
の
夢
(
ゆめ
)
〔五九三〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第16巻 如意宝珠 卯の巻
篇:
第1篇 神軍霊馬
よみ(新仮名遣い):
しんぐんれいば
章:
第3章 門番の夢
よみ(新仮名遣い):
もんばんのゆめ
通し章番号:
593
口述日:
1922(大正11)年04月05日(旧03月09日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年12月25日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
亀彦は追っ手を切り立てて追い詰める。追い立てられた捕り手は、亀彦に英子姫・悦子姫のことを思い出させて窮地を脱する。亀彦は姫らの安否を気遣って、元来た道を走って戻っていく。
一方、英子姫と悦子姫は、由良の港の秋山彦の館の門前にたたずんでいた。しかし門番によって見つけられ、館の中に連れ込まれてしまう。
そこへ亀彦が追いついて、門を叩き始める。門番の銀公と加米公は、亀彦とおかしな問答を繰り広げる。
門番が門を開けると、亀彦は姫の行方を追って中にどんどん入ろうとする。二人の門番は亀彦の足に食らいついて止めようとするが、亀彦は二人を引きずりながら館に近づいていく。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-01-29 17:50:03
OBC :
rm1603
愛善世界社版:
38頁
八幡書店版:
第3輯 415頁
修補版:
校定版:
39頁
普及版:
16頁
初版:
ページ備考:
001
夜
(
よ
)
は
深々
(
しんしん
)
と
更
(
ふ
)
け
渡
(
わた
)
る
002
水
(
みづ
)
さへ
音
(
おと
)
なき
丑
(
うし
)
の
刻
(
こく
)
003
波
(
なみ
)
を
照
(
てら
)
して
一塊
(
いつくわい
)
の
004
巨大
(
きよだい
)
な
光
(
ひかり
)
嚠々
(
りうりう
)
と
005
呻
(
うな
)
りを
立
(
た
)
てて
竜灯
(
りうとう
)
の
006
松
(
まつ
)
を
目蒐
(
めが
)
けて
走
(
はし
)
り
来
(
く
)
る。
007
火光
(
くわくわう
)
は
一旦
(
いつたん
)
松
(
まつ
)
の
周囲
(
しうゐ
)
を
廻転
(
くわいてん
)
し、
008
梢
(
こづゑ
)
に
光
(
ひかり
)
皎々
(
かうかう
)
と
留
(
とど
)
まり
輝
(
かがや
)
きぬ。
009
樹下
(
じゆか
)
に
倒
(
たふ
)
れた
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
は、
010
吃驚
(
びつくり
)
仰天
(
ぎやうてん
)
目
(
め
)
を
覚
(
さ
)
まし、
011
アフンと
許
(
ばか
)
り
空
(
そら
)
を
眺
(
なが
)
め
鰐口
(
わにぐち
)
開
(
あ
)
けて、
012
天
(
てん
)
から
降
(
ふ
)
つた
牡丹餅
(
ぼたもち
)
を
頂
(
いただ
)
く
様
(
やう
)
な
為体
(
ていたらく
)
なり。
013
棚
(
たな
)
からさへも
牡丹餅
(
ぼたもち
)
は
容易
(
ようい
)
に
落
(
お
)
ちて
来
(
こ
)
ないのに、
014
木
(
き
)
から
落
(
お
)
ちたる
猿
(
さる
)
の
如
(
ごと
)
く、
015
老木
(
おいき
)
の
下
(
した
)
に
腰
(
こし
)
を
抜
(
ぬ
)
かし、
016
夜
(
よ
)
の
明
(
あ
)
け
行
(
ゆ
)
くを
松
(
まつ
)
の
下
(
した
)
、
017
可笑
(
をか
)
しかりける
次第
(
しだい
)
なり。
018
東
(
ひがし
)
の
方
(
かた
)
より
数十
(
すうじふ
)
人
(
にん
)
の
消魂
(
けたた
)
ましき
足音
(
あしおと
)
するに
眼
(
まなこ
)
を
転
(
てん
)
じて
眺
(
なが
)
むれば、
019
東雲
(
しののめ
)
近
(
ちか
)
き
薄明
(
うすあか
)
り、
020
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
の
手下
(
てした
)
の
者
(
もの
)
共
(
ども
)
、
021
一人
(
ひとり
)
の
男
(
をとこ
)
に
追
(
お
)
はれつつ、
022
生命
(
いのち
)
からがら
逃
(
に
)
げ
来
(
きた
)
る。
023
腰
(
こし
)
を
抜
(
ぬ
)
かした
五人
(
ごにん
)
連
(
づれ
)
に、
024
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
ちたる
四五
(
しご
)
人
(
にん
)
は、
025
足
(
あし
)
引
(
ひ
)
つかけて
顛倒
(
てんたふ
)
し、
026
次
(
つぎ
)
から
次
(
つぎ
)
へ
出
(
で
)
て
来
(
く
)
る
奴
(
やつ
)
は
折
(
を
)
り
重
(
かさ
)
なつて、
027
相互怨
(
かたみうら
)
みの
無
(
な
)
い
様
(
やう
)
に、
028
交際
(
つきあひ
)
の
良
(
よ
)
い
社会
(
しやくわい
)
主義
(
しゆぎ
)
、
029
民衆
(
みんしう
)
運動
(
うんどう
)
の
花
(
はな
)
咲
(
さ
)
きて、
030
転
(
ころ
)
んで
土
(
つち
)
食
(
く
)
ふ
奴
(
やつ
)
ばかりなり。
031
亀彦
(
かめひこ
)
『ヤア
其
(
そ
)
の
方
(
はう
)
等
(
ら
)
は
大江山
(
おほえやま
)
に
本拠
(
ほんきよ
)
を
構
(
かま
)
ふる
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
の
乾児
(
こぶん
)
の
奴輩
(
やつばら
)
、
032
片
(
かた
)
つ
端
(
ぱし
)
から
撫
(
な
)
で
切
(
ぎ
)
りに
致
(
いた
)
し
呉
(
く
)
れむ、
033
覚悟
(
かくご
)
をせよ』
034
と
両刃
(
もろは
)
の
剣
(
つるぎ
)
を
逆手
(
さかて
)
に
持
(
も
)
ち
真向
(
まつかう
)
上段
(
じやうだん
)
に
振
(
ふ
)
り
翳
(
かざ
)
したり。
035
石熊
(
いしくま
)
『ヤイ、
036
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
肝腎
(
かんじん
)
の
二人
(
ふたり
)
の
娘
(
むすめ
)
を
如何
(
どう
)
致
(
いた
)
した、
037
コンナ
処
(
ところ
)
へ
踏
(
ふ
)
ん
迷
(
まよ
)
うて
来
(
く
)
る
処
(
ところ
)
ぢやあるまいぞ、
038
二人
(
ふたり
)
の
女
(
をんな
)
を
早
(
はや
)
く
助
(
たす
)
けてやらぬか、
039
そしたら
吾々
(
われわれ
)
もお
蔭
(
かげ
)
で
助
(
たす
)
かる
哩
(
わい
)
、
040
アハヽヽヽ』
041
亀彦
(
かめひこ
)
『オー、
042
さうじや、
043
余
(
あま
)
り
勢
(
いきほひ
)
に
乗
(
じやう
)
じて
英子姫
(
ひでこひめ
)
様
(
さま
)
を
念頭
(
ねんとう
)
より
遺失
(
ゐしつ
)
して
仕舞
(
しま
)
つた、
044
此奴
(
こいつ
)
堪
(
たま
)
らぬ。
045
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
して
居
(
を
)
れば
磨滅
(
まめつ
)
の
厄
(
やく
)
に
遭
(
あ
)
ひ
給
(
たま
)
ふやも
図
(
はか
)
り
難
(
がた
)
い、
046
オイ
敵
(
かたき
)
の
奴輩
(
やつばら
)
、
047
木端
(
こつぱ
)
武者
(
むしや
)
能
(
よ
)
く
注意
(
ちうい
)
して
呉
(
く
)
れた、
048
汝
(
なんぢ
)
の
手柄
(
てがら
)
に
免
(
めん
)
じて
今日
(
けふ
)
は
之
(
これ
)
にて
許
(
ゆる
)
してやらう』
049
と
云
(
い
)
ふより
早
(
はや
)
く
踵
(
きびす
)
を
返
(
かへ
)
し、
050
矢
(
や
)
を
射
(
い
)
る
如
(
ごと
)
くもと
来
(
き
)
し
道
(
みち
)
に
引
(
ひ
)
き
返
(
かへ
)
す。
051
石熊
(
いしくま
)
『オイ、
052
鬼虎
(
おにとら
)
、
053
熊鷹
(
くまたか
)
の
阿兄
(
あにい
)
、
054
何
(
ど
)
うだ、
055
此
(
この
)
方
(
はう
)
の
文珠
(
もんじゆ
)
の
智慧
(
ちゑ
)
、
056
貴様
(
きさま
)
の
様
(
やう
)
な
天
(
あま
)
の
橋立
(
はしだて
)
ない
智慧
(
ちゑ
)
の
持主
(
もちぬし
)
では
仕方
(
しかた
)
がない、
057
斯
(
こ
)
んな
時
(
とき
)
に、
058
ちつとも
間
(
ま
)
に
合
(
あ
)
はぬ。
059
当意
(
たうい
)
即妙
(
そくめう
)
、
060
智謀
(
ちぼう
)
絶倫
(
ぜつりん
)
、
061
文珠
(
もんじゆ
)
菩薩
(
ぼさつ
)
も
石熊
(
いしくま
)
親分
(
おやぶん
)
の
無量智
(
むりやうち
)
には
尻
(
しり
)
はし
居
(
を
)
つてスタコラ、
062
ヨイヤサと
御
(
ご
)
遁走
(
とんさう
)
、
063
持
(
も
)
つべきものは
知識
(
ちしき
)
なりけりだ、
064
アハヽヽヽ、
065
オホヽヽヽ、
066
エヘヽヽヽ』
067
不思議
(
ふしぎ
)
なる
哉
(
かな
)
、
068
此
(
この
)
樹下
(
じゆか
)
に
来
(
き
)
たものは
一人
(
ひとり
)
も
残
(
のこ
)
らず
一蓮
(
いちれん
)
托生
(
たくしやう
)
、
069
腰
(
こし
)
が
薩張
(
さつぱ
)
り
抜
(
ぬ
)
けて
仕舞
(
しま
)
つた。
070
一同
(
いちどう
)
の
魔神
(
まがみ
)
は
叶
(
かな
)
はぬときの
神頼
(
かみだの
)
み、
071
悪
(
あく
)
にも
三分
(
さんぶ
)
の
理屈
(
りくつ
)
がある、
072
神
(
かみ
)
の
救
(
すく
)
ひを
求
(
もと
)
めむと
十能
(
じうのう
)
の
様
(
やう
)
な
大
(
おほ
)
きい
手
(
て
)
を
合
(
あは
)
し、
073
一同
『
阿耨
(
あのく
)
多羅
(
たら
)
三藐
(
さんみやく
)
三菩提
(
さんぼだい
)
、
074
南無
(
なむ
)
与仏
(
よぶつ
)
有縁
(
うえん
)
与仏
(
よぶつ
)
、
075
有縁
(
うえん
)
仏法僧
(
ぶつぽふそう
)
、
076
縁
(
えん
)
常
(
じやう
)
楽
(
らく
)
我
(
が
)
長
(
ちやう
)
、
077
朝念
(
てうねん
)
観世音
(
くわんぜおん
)
、
078
暮念
(
ぼねん
)
観世音
(
くわんぜおん
)
、
079
念々
(
ねんねん
)
従信起
(
じうしんき
)
、
080
念々
(
ねんねん
)
不離心
(
ふりしん
)
』
[
※
仏典の『十句観音経』だと思われるが、一部語句が異なる。
]
081
と
手
(
て
)
と
口
(
くち
)
とは
自由権
(
じいうけん
)
を
許
(
ゆる
)
されて、
082
甲乙
(
かふおつ
)
の
区別
(
くべつ
)
もなく
平等
(
べうどう
)
に
言霊
(
ことたま
)
を
連続
(
れんぞく
)
発射
(
はつしや
)
して
居
(
を
)
る。
083
話
(
はなし
)
変
(
かは
)
つて
英子姫
(
ひでこひめ
)
は
器量
(
きりやう
)
も
愛想
(
あいさう
)
も
悦子姫
(
よしこひめ
)
、
084
由良
(
ゆら
)
の
港
(
みなと
)
の
国司
(
くにつかさ
)
秋山彦
(
あきやまひこ
)
の
門前
(
もんぜん
)
に
佇
(
たたず
)
み
乍
(
なが
)
ら
夜
(
よ
)
の
明
(
あ
)
け
行
(
ゆ
)
くを
待
(
ま
)
ち
居
(
ゐ
)
たりしが、
085
忽
(
たちま
)
ちガラリと
開
(
あ
)
いた
表門
(
おもてもん
)
、
086
門番
(
もんばん
)
は
二人
(
ふたり
)
の
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
るより
顔色
(
かほいろ
)
を
変
(
か
)
へて
一散走
(
いちさんばし
)
り、
087
彼方
(
かなた
)
を
指
(
さ
)
して
隠
(
かく
)
れ
行
(
ゆ
)
く。
088
忽
(
たちま
)
ち
四五
(
しご
)
の
荒男
(
あらをとこ
)
、
089
十手
(
じつて
)
打
(
う
)
ち
振
(
ふ
)
り
打
(
う
)
ち
振
(
ふ
)
りつ、
090
二人
(
ふたり
)
の
前
(
まへ
)
に
塞
(
ふさ
)
がりて
有無
(
うむ
)
を
言
(
い
)
はせず
手
(
て
)
とり
足
(
あし
)
とり、
091
口
(
くち
)
には
嵌
(
は
)
ます
猿轡
(
さるぐつわ
)
、
092
何
(
なに
)
と
応答
(
いらへ
)
もなくばかり、
093
身
(
み
)
を
藻掻
(
もが
)
けども
容赦
(
ようしや
)
なく、
094
竈
(
かまど
)
の
下
(
した
)
の
灰猫
(
はひねこ
)
が、
095
小鼠
(
こねずみ
)
を
喰
(
く
)
はへて
行
(
ゆ
)
く
様
(
やう
)
に、
096
二人
(
ふたり
)
を
奥
(
おく
)
へ
担
(
かつ
)
ぎ
入
(
い
)
る。
097
○
098
又
(
また
)
もや
続
(
つづ
)
いて
一人
(
ひとり
)
の
男
(
をとこ
)
、
099
此
(
この
)
門前
(
もんぜん
)
に
現
(
あら
)
はれて、
100
割
(
わ
)
るる
許
(
ばか
)
りに
戸
(
と
)
を
敲
(
たた
)
き、
101
男(亀彦)
『
開
(
ひら
)
け
開
(
ひら
)
け』と
呶鳴
(
どな
)
り
居
(
を
)
る。
102
門番
(
もんばん
)
は
不性
(
ふしよう
)
不性
(
ぶしよう
)
に、
103
門番(銀公)
『アヽア
今日
(
けふ
)
は
怪
(
け
)
つ
体
(
たい
)
な
日
(
ひ
)
ぢや、
104
朝
(
あさ
)
つぱらから
門
(
もん
)
を
開
(
あ
)
けるなり、
105
弁才天
(
べんざいてん
)
の
様
(
やう
)
な
別嬪
(
べつぴん
)
が
来
(
き
)
よつて、
106
ヤレしてやつたりと
喜
(
よろこ
)
ぶ
間
(
ま
)
もなく
館
(
やかた
)
の
御
(
おん
)
大将
(
たいしやう
)
、
107
有無
(
うむ
)
を
言
(
い
)
はせず
奥
(
おく
)
へ
連
(
つ
)
れて
行
(
い
)
つて
仕舞
(
しま
)
つた。
108
アヽ
之
(
これ
)
を
思
(
おも
)
へば
大将
(
たいしやう
)
になりたいものだな。
109
何処
(
どこ
)
の
唐変木
(
たうへんぼく
)
か
知
(
し
)
らぬが
怪
(
け
)
つ
体
(
たい
)
な
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
しよつて、
110
腹
(
はら
)
が
立
(
た
)
つ
程
(
ほど
)
門
(
もん
)
を
敲
(
たた
)
きよる、
111
エー
仕方
(
しかた
)
がない、
112
之
(
これ
)
も
門番
(
もんばん
)
の
職務
(
しよくむ
)
だ。
113
朝
(
あさ
)
つぱらから
酒
(
さけ
)
に
喰
(
くら
)
ひ
酔
(
よ
)
うて
呶鳴
(
どな
)
つて
居
(
ゐ
)
よるが、
114
まだちつと
位
(
くらゐ
)
瓢箪
(
へうたん
)
に
残
(
のこ
)
して
居
(
ゐ
)
よるかも
知
(
し
)
れぬ、
115
それでも
奪
(
ひつたく
)
つて
埋
(
うづ
)
め
合
(
あは
)
せをやらうかい。
116
オイ
加米公
(
かめこう
)
、
117
何
(
なに
)
を
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
して
居
(
を
)
るのだ、
118
貴様
(
きさま
)
も
可
(
い
)
い
加減
(
かげん
)
に
起
(
お
)
きぬかい、
119
それだから
夜遊
(
よあそ
)
びをするなと
言
(
い
)
ふのだ。
120
夜遊
(
よあそ
)
びするのなら
人
(
ひと
)
に
起
(
お
)
こされぬ
様
(
やう
)
に、
121
起
(
お
)
きる
時分
(
じぶん
)
には
起
(
お
)
きて
勤
(
つと
)
めるのだぞ』
122
門
(
もん
)
を
敲
(
たた
)
く
声
(
こゑ
)
、
123
益々
(
ますます
)
猛烈
(
まうれつ
)
になつて
来
(
き
)
た。
124
銀公
(
ぎんこう
)
『オイ、
125
加米公
(
かめこう
)
、
126
早
(
はや
)
う
起
(
お
)
きて
貴様
(
きさま
)
開
(
あ
)
けてやれ』
127
亀彦
(
かめひこ
)
、
128
門前
(
もんぜん
)
にて、
129
亀彦
『ヤア、
130
何
(
なん
)
だ、
131
此奴
(
こいつ
)
は
怪
(
あや
)
しいぞ、
132
コンナ
遠国
(
ゑんごく
)
に
吾々
(
われわれ
)
の
名
(
な
)
を
知
(
し
)
つてる
奴
(
やつ
)
は
無
(
な
)
い
筈
(
はず
)
だが、
133
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ、
134
一
(
ひと
)
つ
掛合
(
かけあ
)
うて
見
(
み
)
よう……………………
亀公
(
かめこう
)
は
門外
(
もんぐわい
)
に
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだ、
135
勝手
(
かつて
)
に
開
(
ひら
)
けと
言
(
い
)
うた
所
(
ところ
)
で、
136
其方
(
そちら
)
から
開
(
あ
)
けて
呉
(
く
)
れなくちや
這入
(
はい
)
れないワイ』
137
銀公
(
ぎんこう
)
『これや
加米
(
かめ
)
の
奴
(
やつ
)
、
138
上役
(
うはやく
)
に
向
(
むか
)
つて
何
(
なん
)
と
言
(
い
)
ふ
無礼
(
ぶれい
)
な
事
(
こと
)
を
申
(
まを
)
す、
139
俺
(
おれ
)
は
命令権
(
めいれいけん
)
を
有
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだ、
140
貴様
(
きさま
)
は
開
(
あ
)
ける
役
(
やく
)
だ、
141
開
(
あ
)
けて
呉
(
く
)
れとは
何
(
なん
)
だ、
142
何
(
なん
)
の
為
(
た
)
めに
結構
(
けつこう
)
な
扶持
(
ふち
)
を
頂
(
いただ
)
いて
居
(
ゐ
)
るのだい』
143
加米公
(
かめこう
)
『アーン、
144
アンアンアン、
145
さう
叱
(
しか
)
つて
呉
(
く
)
れないやい。
146
俺
(
おれ
)
は
何
(
なに
)
もまだ
一言
(
ひとこと
)
も
言
(
い
)
つては
居
(
ゐ
)
ないワ』
147
銀公
(
ぎんこう
)
『それでも
今
(
いま
)
、
148
加米
(
かめ
)
だと
言
(
い
)
つたぢやないか、
149
俺
(
おれ
)
の
耳
(
みみ
)
はまだ
隠居
(
いんきよ
)
はして
居
(
を
)
らぬぞ』
150
加米公
(
かめこう
)
は、
151
門
(
もん
)
の
閂
(
かんぬき
)
の
前
(
まへ
)
に
進
(
すす
)
み
寄
(
よ
)
り、
152
加米公
『アヽア、
153
銀公
(
ぎんこう
)
の
大将
(
たいしやう
)
、
154
無茶
(
むちや
)
ばかり
云
(
い
)
ひよる、
155
もの
言
(
い
)
へば
唇
(
くちびる
)
寒
(
さむ
)
し
秋
(
あき
)
の
風
(
かぜ
)
、
156
ものも
言
(
い
)
はぬのに
言
(
い
)
うたと
云
(
い
)
うて
因縁
(
いんねん
)
をつけられ、
157
本当
(
ほんたう
)
に
馬鹿
(
ばか
)
らしい
哩
(
わい
)
、
158
俺
(
おれ
)
の
心
(
こころ
)
の
中
(
うち
)
を
開
(
ひら
)
いて
見
(
み
)
せてやり
度
(
た
)
い
もん
だな』
159
外
(
そと
)
より
亀彦
(
かめひこ
)
、
160
亀彦
『すつた、
161
もん
だ
吐
(
ぬか
)
さず、
162
亀公
(
かめこう
)
さまの
御
(
お
)
出
(
い
)
でだ、
163
早
(
はや
)
く
開
(
あ
)
けぬか』
164
銀公
(
ぎんこう
)
『
貴様
(
きさま
)
はまだ
此
(
この
)
銀公司
(
ぎんこうつかさ
)
に
命令
(
めいれい
)
をするのか、
165
「
開
(
あ
)
けて
見
(
み
)
たい
もん
だな」ナンテ
当然
(
あたりまへ
)
だ、
166
早
(
はや
)
く
門
(
もん
)
を
開
(
あ
)
けてやらぬかい』
167
と
拳骨
(
げんこつ
)
を
固
(
かた
)
めて
頭
(
あたま
)
を
三
(
み
)
つ
四
(
よ
)
つポカポカと
喰
(
くら
)
はしたり。
168
加米公
『アイタヽ、
169
アイタ アイタ アイタ、
170
あかんもん
だ。
171
コンナ
奴
(
やつ
)
に
三
(
み
)
つ
四
(
よ
)
つ
殴
(
なぐ
)
られて、
172
でけ
もん
が
出来
(
でき
)
るとは
余
(
よ
)
つ
程
(
ぽど
)
、
173
引
(
ひ
)
き
合
(
あ
)
はぬ
もん
だな』
174
銀公
(
ぎんこう
)
『あいたあいたと
吐
(
ぬか
)
すがまだ
門
(
もん
)
は
開
(
あ
)
いて
居
(
を
)
らぬぢやないか、
175
弱
(
よわ
)
い
もん
だとは、
176
それや
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬか
)
す、
177
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
様
(
さま
)
が
心魂
(
しんこん
)
を
錬
(
ね
)
つて
選
(
よ
)
りに
選
(
よ
)
つて
立派
(
りつぱ
)
な
材木
(
ざいもく
)
で
拵
(
こしら
)
へになつた、
178
コンナ
綺麗
(
きれい
)
な
表門
(
おもてもん
)
が
何
(
なん
)
で
弱
(
よわ
)
いのだい』
179
と
酒
(
さけ
)
の
酔
(
よ
)
ひに
舌
(
した
)
も
廻
(
まは
)
らずぐぜつて
居
(
ゐ
)
る。
180
加米公
(
かめこう
)
は
泣
(
な
)
き
泣
(
な
)
き
閂
(
かんぬき
)
を
外
(
はづ
)
し、
181
加米公
『さア、
182
何処
(
どこ
)
のお
方
(
かた
)
か
存
(
ぞん
)
じませぬが、
183
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
致
(
いた
)
さずとトツトと
這入
(
はい
)
りやがれ』
184
亀彦
(
かめひこ
)
『アハヽヽヽ、
185
之
(
これ
)
は
之
(
これ
)
は
門番
(
もんばん
)
どの、
186
朝
(
あさ
)
早
(
はや
)
くからお
邪魔
(
じやま
)
を
致
(
いた
)
しました、
187
貴方
(
あなた
)
は
初
(
はじ
)
めは
非常
(
ひじやう
)
に
御
(
ご
)
丁寧
(
ていねい
)
で
後
(
あと
)
ほどお
言葉
(
ことば
)
が
荒
(
あら
)
くなりますなア』
188
加米公
『きまつた
事
(
こと
)
だい、
189
先
(
さき
)
の
半分
(
はんぶん
)
は
加米
(
かめ
)
の
本
(
ほん
)
守護神
(
しゆごじん
)
だ、
190
後
(
あと
)
から
言
(
い
)
うた
奴
(
やつ
)
は
副
(
ふく
)
守護神
(
しゆごじん
)
が
言
(
い
)
つたのだ、
191
閂
(
かんぬき
)
もん
の
かん
懸
(
がか
)
りだよ』
192
亀彦
(
かめひこ
)
『アハヽヽヽ、
193
お
前
(
まへ
)
も
矢張
(
やつぱり
)
カメサンと
言
(
い
)
ふのだな、
194
同
(
おな
)
じ
名
(
な
)
が
門
(
もん
)
の
内
(
うち
)
と
外
(
そと
)
とにあつて
大変
(
たいへん
)
に
面倒
(
めんだう
)
臭
(
くさ
)
いワ』
195
加米公
『お
前
(
まへ
)
は
亀
(
かめ
)
さまだから
千
(
せん
)
年
(
ねん
)
も
万
(
まん
)
年
(
ねん
)
も
門
(
もん
)
の
外
(
そと
)
で
長立
(
ながだ
)
ちをさして
上
(
あ
)
げやうと
思
(
おも
)
つたが、
196
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
は
世界中
(
せかいぢう
)
不景気
(
ふけいき
)
風
(
かぜ
)
が
吹
(
ふ
)
き
廻
(
まは
)
つて、
197
物価
(
ぶつか
)
下落
(
げらく
)
で
俺
(
おれ
)
も
投売
(
なげうり
)
をする
考
(
かんが
)
へで
安
(
やす
)
く
開
(
ひら
)
いてやつたのだ、
198
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
能
(
よ
)
くも
行
(
ゆ
)
き
詰
(
つま
)
つた
もん
ぢやなア』
199
亀彦
(
かめひこ
)
『アハヽヽヽ、
200
貴様
(
きさま
)
は
余
(
よ
)
つ
程
(
ぽど
)
、
201
能
(
よ
)
く
洒落
(
しやれ
)
る
もん
だなア。
202
問答
(
もん
だふ
)
も、
203
もう
之
(
これ
)
位
(
くらゐ
)
で
廃
(
や
)
めて
置
(
お
)
かう、
204
此処
(
ここ
)
へ
二人
(
ふたり
)
の
女
(
をんな
)
は
出
(
で
)
て
来
(
こ
)
なかつたか』
205
加米公
『ヤアお
前
(
まへ
)
はあの
女
(
をんな
)
の
これ
だなア』
206
と
親指
(
おやゆび
)
をニユツと
出
(
だ
)
して
見
(
み
)
せる。
207
亀彦
『それや
何
(
なん
)
だ、
208
指
(
ゆび
)
ぢやないか』
209
加米
(
かめ
)
『
何
(
なん
)
だか
ゆび
ありげな
汝
(
なんぢ
)
の
顔付
(
かほつき
)
、
210
ゆび
にも
忘
(
わす
)
れぬ
れこ
の
後
(
あと
)
を
何
(
なに
)
しようと
思
(
おも
)
うて
来
(
き
)
たのだらう。
211
二人
(
ふたり
)
の
女
(
をんな
)
は、
212
とつくの
昔
(
むかし
)
に
何々
(
なになに
)
が
何々
(
なになに
)
して
今頃
(
いまごろ
)
は
何々
(
なになに
)
の
何々
(
なになに
)
ぢや、
213
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
も
何々
(
なになに
)
し
度
(
た
)
いと
思
(
おも
)
つて
居
(
を
)
つたのに
何々
(
なになに
)
が
来
(
き
)
よつて
何々
(
なになに
)
して
何々
(
なになに
)
しよつたもんだから
薩張
(
さつぱり
)
駄目
(
だめ
)
だよ』
214
亀彦
『
貴様
(
きさま
)
の
言
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
何
(
なに
)
が
何
(
なん
)
ぢややら
薩張
(
さつぱ
)
り
訳
(
わけ
)
が
分
(
わか
)
らぬぢやないか、
215
も
少
(
すこ
)
し、
216
はつきりと
打明
(
うちあ
)
けて
言
(
い
)
はないか』
217
銀公
(
ぎんこう
)
『やい、
218
カメカメの
両人
(
りやうにん
)
、
219
何々
(
なになに
)
が
聞
(
き
)
きたければ
何々
(
なになに
)
を
出
(
だ
)
せ、
220
さうしたら
俺
(
おれ
)
が
何々
(
なになに
)
に
何々
(
なになに
)
して
何々
(
なになに
)
の
何々
(
なになに
)
を
何々
(
なになに
)
してやらう。
221
ナント
言
(
い
)
つても
銀行
(
ぎんかう
)
いや
銀公
(
ぎんこう
)
が
肝心
(
かんじん
)
だ』
222
亀彦
(
かめひこ
)
『
益々
(
ますます
)
分
(
わか
)
らぬ
奴
(
やつ
)
だナ、
223
エー
無理
(
むり
)
もない、
224
門番
(
もんばん
)
位
(
くらゐ
)
に
尋
(
たづ
)
ね
様
(
やう
)
とするのが
此方
(
こつち
)
の
不覚
(
ふかく
)
だ』
225
と
奥
(
おく
)
へ
進
(
すす
)
まむとする。
226
銀公
(
ぎんこう
)
『
何
(
なに
)
、
227
深
(
ふか
)
く
、
228
さう
深
(
ふか
)
く
進
(
すす
)
んでは
無礼
(
ぶれい
)
だぞ。
229
暫時
(
しばらく
)
待
(
ま
)
つて、
230
俺
(
おれ
)
が
何々
(
なになに
)
に
会
(
あ
)
うて
何々
(
なになに
)
の
様子
(
やうす
)
を
何々
(
なになに
)
して
来
(
き
)
てやらう、
231
地獄
(
ぢごく
)
の
沙汰
(
さた
)
も
何々
(
なになに
)
次第
(
しだい
)
だからノウ』
232
と
手
(
て
)
を
重
(
かさ
)
ねて
前
(
まへ
)
に
突
(
つ
)
き
出
(
だ
)
す。
233
亀彦
(
かめひこ
)
『ハヽヽヽヽ、
234
何処迄
(
どこまで
)
も
物質
(
ぶつしつ
)
主義
(
しゆぎ
)
だな、
235
黄金
(
わうごん
)
万能
(
ばんのう
)
主義
(
しゆぎ
)
の
悪風
(
あくふう
)
は
神聖
(
しんせい
)
なる
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
まで
吹
(
ふ
)
き
荒
(
すさ
)
むで
居
(
を
)
るか、
236
吁
(
あゝ
)
、
237
世
(
よ
)
も
終
(
をは
)
りじや、
238
尾張
(
をはり
)
大根
(
だいこん
)
だ。
239
形
(
かたち
)
ばつかり
立派
(
りつぱ
)
でも
味
(
あぢ
)
も
しや
しやりもない、
240
水
(
みづ
)
臭
(
くさ
)
い
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
になつたものだ
哩
(
わい
)
』
241
亀彦
(
かめひこ
)
は
委細
(
ゐさい
)
構
(
かま
)
はず
奥
(
おく
)
へ
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
かむとする。
242
二人
(
ふたり
)
は
亀彦
(
かめひこ
)
の
両足
(
りやうあし
)
にグツと
喰
(
くら
)
ひ
付
(
つ
)
き、
243
二人
『
何々
(
なになに
)
する
迄
(
まで
)
通
(
とほ
)
す
事
(
こと
)
罷
(
まか
)
りならぬ』
244
と
噛
(
しが
)
み
付
(
つ
)
く。
245
亀彦
(
かめひこ
)
は
二人
(
ふたり
)
の
男
(
をとこ
)
に
足
(
あし
)
を
捉
(
とら
)
へられ
乍
(
なが
)
ら、
246
ノソリノソリと
二人
(
ふたり
)
を
小付
(
こづ
)
けにして
奥
(
おく
)
を
目蒐
(
めが
)
けて
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
247
(
大正一一・四・五
旧三・九
北村隆光
録)
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