霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
×
設定
URL:
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
話者名の追加表示 [?]セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。[×閉じる]
表示できる章
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
行間
ルビの表示


アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注[※]用語解説 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

脚注[*]編集用 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

外字の外周色 [?]一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。[×閉じる]
現在のページには外字は使われていません

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。

第四章 夢(ゆめ)か現(うつつ)か〔五九四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第16巻 如意宝珠 卯の巻 篇:第1篇 神軍霊馬 よみ(新仮名遣い):しんぐんれいば
章:第4章 夢か現か よみ(新仮名遣い):ゆめかうつつか 通し章番号:594
口述日:1922(大正11)年04月05日(旧03月09日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年12月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
亀彦は、二人の門番を足にぶらさげ引きずりながら、本宅の入口にまでやってきた。そこで英子姫と再会した。
そして足を蹴り上げると、二人の門番は空中を飛ばされて、ぷりんぷりんと、元の門番小屋に戻されてしまった。
門番たちは、偉い豪傑が来た、と思っていたら、それは夢であった。銀公と加米公は二人揃って、同じ夢を見ていたのであった。
するとそこへ、夢で見たとおりの美人の旅連れがやってきた。また後から、亀彦と名乗る宣伝使が夢の通りの出で立ちでやってきた。二人は逆らっては一大事と、門を開けて一行を迎え入れる。
英子姫と亀彦はようやく再会した。秋山彦は、亀彦を案内する。亀彦は敵地にて秋山彦の素性をよく知らないため、一瞬疑いの心に囚われるが、思い直して秋山彦の後を追った。
すると、通された居間には神素盞嗚大神、国武彦が厳然と控えていた。亀彦は神素盞嗚大神との再開に感激するまもなく、館には鬼彦が捕り手を従えて襲来した。
早速迎え撃とうとする亀彦に対して、国武彦が制止した。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-01-29 18:03:54 文字数:3468 OBC :rm1604
愛善世界社版:47頁 八幡書店版:第3輯 418頁 修補版: 校定版:49頁 普及版:20頁 初版: ページ備考:
001 亀彦(かめひこ)は二人(ふたり)の門番(もんばん)を、002靴(くつ)に穿(は)いたやうな心持(こころもち)で、003本宅(ほんたく)の入口(いりぐち)迄(まで)やつて来(き)た。004門口(もんぐち)の騒(さわ)がしさに中(なか)より戸(と)を引(ひ)き開(あ)けて現(あら)はれし二人(ふたり)の女(をんな)、
005二人『ヤア貴方(あなた)は亀彦(かめひこ)さま』
006亀彦(かめひこ)『ヨウ、007お二人(ふたり)様(さま)、008不思議(ふしぎ)な処(ところ)でお目(め)に掛(かか)りました』
009英子姫(ひでこひめ)『亀彦(かめひこ)さま、010貴方(あなた)何(なに)を足(あし)に引(ひ)つかけてゐらつしやるの』
011亀彦(かめひこ)『ヤア、012何(なん)でも御座(ござ)らぬ、013糞(ふん)から生(わ)いた銀蠅(ぎんばへ)が一匹(いつぴき)と糞亀(くそがめ)が一匹(いつぴき)、014足(あし)に喰(く)ひつきました、015鰌(どぢやう)の生(なま)でもあつたら一(ひと)つやつて下(くだ)さいナ、016アハヽヽヽ』
017二女(にぢよ)『ホヽヽヽ』
018銀(ぎん)、019加米(かめ)『チエツ、020人(ひと)を馬鹿(ばか)にして居(ゐ)やがる、021此(この)銀公司(ぎんこうつかさ)を捉(つかま)へて銀蠅(ぎんばへ)だの、022加米(かめ)を糞亀(くそがめ)だのと虫(むし)の好(よ)い事(こと)を云(い)やがるワイ。023これや亀(かめ)の奴(やつ)、024今(いま)に、025一寸(いつすん)の虫(むし)でも五分(ごぶ)の魂(たましひ)だ、026むしかへしをやつてやるから、027其(その)覚悟(かくご)で居(ゐ)たらよからうぞ』
028 亀彦(かめひこ)は、029右(みぎ)の足(あし)を中天(ちうてん)に向(むか)つてピンと跳(はね)る途端(とたん)に、030銀公(ぎんこう)は七八間(しちはちけん)プリンプリンプリンと中天(ちうてん)に舞(ま)ひ上(あが)り、031表門(おもてもん)の自分(じぶん)の室(しつ)の前(まへ)に行儀(ぎやうぎ)よく落(お)ちたまま、032チヨコナンと坐(すわ)つて居(ゐ)る。033亀彦(かめひこ)は又(また)も左(ひだり)の足(あし)をピンと跳(はね)ると、034加米公(かめこう)は中空(ちうくう)を毬(まり)の如(ごと)く舞(ま)ひながら再(ふたた)び自分(じぶん)の門番(もんばん)小屋(ごや)にチヨコナンと坐(すわ)つて居(ゐ)る。
035銀公(ぎんこう)『アヽヽヽ、036淋(さび)しい事(こと)だ、037偉(えら)い奴(やつ)が来(き)よつて、038俺(おれ)を中天(ちうてん)に蹴(け)り上(あ)げよつたと思(おも)つたら、039何(な)んだ夢(ゆめ)を見(み)て居(ゐ)たのか、040それにしても怪体(けつたい)な夢(ゆめ)を見(み)たもんだワイ』
041加米公(かめこう)『ヤヤ銀公(ぎんこう)、042貴様(きさま)も夢(ゆめ)を見(み)たのか、043俺(おれ)も其(その)通(とほ)りだ。044亀(かめ)と云(い)ふ奴(やつ)が来(き)よつて、045俺(おれ)を足(あし)の先(さき)で中天(ちうてん)に蹴(け)りよつたと思(おも)つたら、046俺(おれ)も矢張(やつぱ)り夢(ゆめ)だつた。047アヽコンナ夢(ゆめ)を見(み)るやうでは、048碌(ろく)な事(こと)はない哩(わい)、049獏(ばく)に喰(く)はせ獏(ばく)に喰(く)はせ、050茫々(ばうばう)漠々(ばくばく)として夢(ゆめ)の如(ごと)しだアハヽヽ』
051 此(この)時(とき)門前(もんぜん)に声(こゑ)あつて、
052女『モシモシ門番(もんばん)様(さま)、053妾(わたし)は漂泊(さすらひ)の旅(たび)の女(をんな)、054何卒(どうぞ)お慈悲(じひ)に此(この)門(もん)開(ひら)いて下(くだ)さいませ。055悪神(わるがみ)に取巻(とりま)かれ、056命(いのち)からがら此処迄(ここまで)逃(に)げて参(まゐ)りました』
057門番(銀公または加米公)『ヤア聞(き)き慣(な)れぬ女(をんな)の声(こゑ)』
058と云(い)ひながら門(もん)をサラリと開(ひら)けば、059二人(ふたり)は丁寧(ていねい)に目礼(もくれい)しながら、060奥(おく)を目蒐(めが)けて足早(あしばや)に進(すす)み往(ゆ)く。
061銀公(ぎんこう)『オイ加米公(かめこう)、062夢(ゆめ)に見(み)た通(とほ)りの二人(ふたり)の美人(びじん)がやつて来(き)よつた。063夢(ゆめ)と云(い)ふものは馬鹿(ばか)にならぬなア』
064加米公(かめこう)『ヨー其(その)夢(ゆめ)なら俺(おれ)も見(み)たのだ。065夢(ゆめ)に見(み)た美人(びじん)と些(ちつ)とも違(ちが)はぬ瓜二(うりふた)つだ、066併(しか)しながら、067斯(か)う夢(ゆめ)が当(あた)るとすれば、068今度目(こんどめ)に出(で)て来(く)る亀彦(かめひこ)と云(い)ふ強(つよ)い奴(やつ)は、069それこそ大変(たいへん)だぞ、070柔(おと)なしく下(した)に出(で)て無事(ぶじ)に門(もん)を通(とほ)すに限(かぎ)るぞ』
071銀公(ぎんこう)『オヽさうだ、072相手(あひて)にならぬやうに柔(おとな)しく開(あ)けてやらうかい』
073 斯(か)かる所(ところ)へ門前(もんぜん)に聞(きこ)ゆる男(をとこ)の声(こゑ)、074門(もん)をポンポンと叩(たた)いて、
075亀彦『モシモシ、076私(わたくし)は旅(たび)の男(をとこ)亀彦(かめひこ)と申(まを)します、077お邪魔(じやま)で有(あ)りませうが、078此(この)門(もん)を何(ど)うか開(あ)けて下(くだ)さいますまいか』
079加米公(かめこう)『それそれ夢(ゆめ)が本当(ほんたう)になつて来(き)たぞ、080加米(かめ)さんがよい相方(あひかた)だ』
081と又(また)もや門(もん)をサラリと開(ひら)き、
082加米公(かめこう)『これはこれはようこそお出(い)で下(くだ)さいました。083サアずつと奥(おく)へお通(とほ)り下(くだ)さい、084どうぞ中天(ちうてん)へ放(ほ)り上(あ)げる事(こと)だけは、085オツト、086ドツコイこれは夢(ゆめ)で御座(ござ)いました、087早(はや)く柔(おとな)しく暴(あば)れずにお入(はい)りなさいませ』
088亀彦(かめひこ)『私(わたくし)は決(けつ)して乱暴(らんばう)な事(こと)は致(いた)しませぬ、089御(ご)安心(あんしん)下(くだ)さいませ』
090と奥(おく)を目蒐(めが)けて悠々(いういう)と進(すす)み入(い)る。
091由良(ゆら)の港(みなと)の人子(ひとご)の司(つかさ)
092秋山彦(あきやまひこ)の門前(もんぜん)を
093サツと開(ひら)かせ入(い)り来(きた)る
094暗夜(やみよ)もはれて英子姫(ひでこひめ)
095四方(よも)の景色(けしき)も悦子姫(よしこひめ)
096小春(こはる)の朝日(あさひ)を身(み)にうけて
097冬(ふゆ)の初(はじめ)と云(い)ひながら
098まだ温(あたた)かき破風口(はふぐち)に
099猫(ねこ)の眠(ね)て居(ゐ)る長閑(のどか)さよ
100夜昼(よるひる)不寝身(ねずみ)の門番(もんばん)も
101主(しゆ)には尽(つく)す忠勤振(ちうきんぶり)
102中門(なかもん)サラリと引(ひ)き開(あ)けて
103何(なん)の躊躇(ちうちよ)も荒男(あらをとこ)
104門番役(もんばんやく)に送(おく)られて
105玄関口(げんくわんぐち)にさしかかり
106頼(たの)も頼(たの)もと訪(おとな)へば
107あいと応(こた)へて二人(ふたり)の女(をんな)
108襖(ふすま)押(お)しあけ出(い)で来(きた)る
109アツと見合(みあは)す顔(かほ)と顔(かほ)
110オヽ亀彦(かめひこ)か姫(ひめ)様(さま)か
111思(おも)はぬ所(ところ)で遇(あ)ひました
112魔神(まがみ)の様子(やうす)は如何(いか)にぞと
113問(と)はむとせしが待(ま)て暫(しば)し
114心(こころ)許(ゆる)せぬ此(この)館(やかた)
115如何(いか)なる魔神(まがみ)の潜(ひそ)むやら
116隙(ひま)行(ゆ)く駒(こま)のいつしかに
117漏(も)れてはならぬ壁(かべ)に耳(みみ)
118父(ちち)の便(たよ)りを菊月(きくづき)の
119九(く)月(ぐわつ)八日(やうか)の今朝(けさ)の秋(あき)
120目(め)と目(め)に物(もの)を云(い)はせつつ
121二人(ふたり)の女(をんな)は静々(しづしづ)と
122奥(おく)の間(ま)さして入(い)りにける
123後(あと)にしよんぼり亀彦(かめひこ)は
124両手(りやうて)を組(く)みて思案顔(しあんがほ)
125あゝ訝(いぶ)かしや訝(いぶ)かしや
126様子(やうす)ありげの此(この)館(やかた)
127英子(ひでこ)の姫(ひめ)の御(おん)眼(め)つき
128只事(ただごと)ならぬ気配(けはい)なり
129戸(と)を押(お)し明(あ)けて踏(ふ)み込(こ)もか
130待(ま)て待(ま)て暫(しば)し待(ま)て暫(しば)し
131大事(だいじ)の前(まへ)の一(いち)小事(せうじ)
132もしも仕損(しそん)じた其(その)時(とき)は
133長(なが)の苦労(くらう)も水(みづ)の泡(あわ)
134遇(あ)はぬは遇(あ)ふに弥(いや)まさる
135例(ためし)も数多(あまた)ある月日(つきひ)
136暫(しば)しは此処(ここ)に佇(たたず)みて
137家(いへ)の内外(うちと)の様子(やうす)をば
138事(こと)細(こま)やかに探(さぐ)らむと
139直日(なほひ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)し
140思(おも)ひ直(なほ)すぞ雄々(をを)しけれ。
141 玄関(げんくわん)に佇(たたず)みし亀彦(かめひこ)は、142さし上(のぼ)る朝日(あさひ)に向(むか)つて合掌(がつしやう)し、143何事(なにごと)か沁々(しみじみ)と暗祈(あんき)黙祷(もくたう)を続(つづ)けて居(ゐ)る。144此(この)時(とき)玄関(げんくわん)の襖(ふすま)を颯(さつ)と開(ひら)いて現(あら)はれ出(い)でたる二人(ふたり)の娘(むすめ)は、145亀彦(かめひこ)に向(むか)つて丁寧(ていねい)に会釈(ゑしやく)し、
146二人の娘『これはこれは遠方(ゑんぱう)のお客様(きやくさま)、147奥(おく)へ案内(あんない)致(いた)しませう、148サアこうお出(い)でなさいませ』
149と廊下(らうか)を指(さ)して、150ニコニコしながら先(さき)に立(た)つて進(すす)み入(い)る。
151 亀彦(かめひこ)は、
152亀彦『ヤア有難(ありがた)い有難(ありがた)い、153一(ひと)つ違(ちが)へば門前(もんぜん)払(ばら)ひの憂目(うきめ)に遇(あ)ふ所(ところ)だつた。154アヽ世間(せけん)に鬼(おに)はない、155此処(ここ)には広(ひろ)いお庭(には)がある。156鬼(おに)は外々(そとそと)福(ふく)は内(うち)、157家(いへ)の様子(やうす)は何処(どこ)となく物床(ものゆか)しげに、158一弦(いちげん)の琴(こと)の音(ね)さへも聞(きこ)えて居(ゐ)る。159あの声(こゑ)は確(たしか)に英子姫(ひでこひめ)の御(お)手(て)すさび、160此(この)家(いへ)は自(おのづ)と平和(へいわ)な風(かぜ)も福(ふく)の神(かみ)、161上下(かみしも)揃(そろ)うて睦(むつ)まじく月日(つきひ)を送(おく)る其(その)様子(やうす)、162もしや此(この)家(いへ)に、163吾(わ)が慕(した)ふ神(かむ)素盞嗚(すさのを)の大神(おほかみ)の隠(かく)れ在(いま)すには非(あら)ざるか、164神(かみ)ならぬ身(み)の心(こころ)にも、165物穏(ものおだや)かな内外(うちと)の空気(くうき)』
166と独(ひと)り言(ご)ちつつ娘(むすめ)の後(あと)に従(したが)ひて、167長(なが)き廊下(らうか)を伝(つた)ひ行(ゆ)く。
168 此(この)家(や)の主人(しゆじん)と見(み)えて、169人品(じんぴん)骨柄(こつがら)卑(いや)しからぬ、170五十(ごじふ)前後(ぜんご)の男(をとこ)、171服装(みなり)正(ただ)しく衣紋(えもん)繕(つくろ)ひ出(い)で迎(むか)へ、
172秋山彦『これはこれは噂(うはさ)に聞(き)き及(およ)ぶ三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)亀彦(かめひこ)様(さま)、173よくも入(い)らせられました。174私(わたくし)は此(この)郷(さと)の人子(ひとご)の司(つかさ)、175秋山彦(あきやまひこ)と申(まを)すもの、176サアサア遠慮(ゑんりよ)なくズツと大奥(おほおく)へお通(とほ)り下(くだ)さいませ、177御(ご)案内(あんない)致(いた)しませう』
178と先(さき)に立(た)つて進(すす)み往(ゆ)く。179亀彦(かめひこ)は不審(ふしん)の首(かうべ)を傾(かたむ)けながら、180前後(ぜんご)左右(さいう)に目(め)を配(くば)り、181心(こころ)を注(そそ)ぎ、
182亀彦『ヤア、183嫌(いや)らしき程(ほど)の鄭重(ていちよう)なもてなしだ。184愚図(ぐづ)々々(ぐづ)して居(を)ると抱(だ)き落(おと)しにかけられて、185醜(しこ)の窟(いはや)のやうに陥穽(おとしあな)にでも落(おと)されるのではあるまいか。186否々(いないな)人(ひと)を疑(うたが)ふは罪(つみ)の最(もつと)も大(だい)なるもの、187心(こころ)に曇(くも)りあれば人(ひと)を疑(うたが)ふとやら、188アヽ恥(はづ)かしい、189未(いま)だ副(ふく)守護神(しゆごじん)の奴(やつ)、190身体(からだ)の一部(いちぶ)に割拠(かつきよ)して猜疑心(さいぎしん)の矢(や)を放(はな)ち猛威(まうゐ)を逞(たくま)しうせむと計画(けいくわく)して居(ゐ)るらしい、191恐(おそ)るべきは心(こころ)の内(うち)の敵(てき)だ』
192と思(おも)はず大声(おほごゑ)を出(だ)した。
193 秋山彦(あきやまひこ)は此(この)声(こゑ)を聞(き)いて後(あと)振(ふ)り返(かへ)り、
194秋山彦『これはこれは亀彦(かめひこ)様(さま)、195貴方(あなた)は今(いま)敵(てき)だと仰(おほ)せられましたが、196決(けつ)して敵(てき)では御座(ござ)いませぬ、197御(ご)心配(しんぱい)なくお通(とほ)り下(くだ)さい』
198亀彦『イヤ誠(まこと)に済(す)みませぬ、199吾々(われわれ)の心中(しんちゆう)に潜(ひそ)む副守(ふくしゆ)の奴(やつ)が囁(ささや)いたのです、200心(こころ)の鬼(おに)が身(み)を責(せめ)るとやら、201いやもう神(かみ)ならぬ身(み)の吾々(われわれ)人間(にんげん)は、202宣伝使(せんでんし)と云(い)ふ立派(りつぱ)なレツテルは貼(は)つて居(を)りますが、203実(じつ)にお恥(はづ)かしい代物(しろもの)です』
204と歩(あゆ)み歩(あゆ)み語(かた)り居(ゐ)る。
205秋山彦『サアこれが大奥(おほおく)の間(ま)で御座(ござ)います、206貴方(あなた)にお会(あ)はせ申度(まをした)き御(おん)方(かた)も御座(ござ)いますれば、207何卒(どうぞ)お入(はい)り下(くだ)さいませ』
208と腰(こし)を屈(かが)め、209淑(しと)やかに襖(ふすま)を押(お)しあけ案内(あんない)する。210亀彦(かめひこ)は不審(ふしん)の雲(くも)に包(つつ)まれながら進(すす)み入(い)り、211上座(じやうざ)を見(み)れば、212こは如何(いか)に、213正面(しやうめん)の高座(かうざ)には、214神(かむ)素盞嗚(すさのを)の大神(おほかみ)、215厳然(げんぜん)として控(ひか)へさせたまひ、216少(すこ)しく下(さ)がつて国武彦(くにたけひこ)、217右側(みぎがは)には英子姫(ひでこひめ)、218ズツと下(さ)がつて悦子姫(よしこひめ)、219此(この)家(や)の妻(つま)と見(み)えて四十(しじつ)歳(さい)許(ばか)りの麗(うるは)しき女(をんな)、220行儀(ぎやうぎ)よく控(ひか)へ居(ゐ)る。221亀彦(かめひこ)は一目(ひとめ)見(み)るより打(う)ち驚(おどろ)き、
222亀彦『ヤア貴神(あなた)は尊様(みことさま)』
223と一言(ひとこと)云(い)つたきり後(あと)は涙(なみだ)にかき曇(くも)り、224袖(そで)に顔(かほ)をば覆(おほ)ひつつ暫(しば)しが間(あひだ)は平伏(へいふく)沈黙(ちんもく)を持続(ぢぞく)し居(ゐ)たりける。225四十(しじふ)許(ばか)りの女(をんな)は亀彦(かめひこ)の頭(あたま)を上(あ)ぐるを待(ま)ちかねたやうな調子(てうし)で、
226紅葉姫『これはこれは亀彦(かめひこ)様(さま)とやら、227よく来(き)て下(くだ)さいました。228妾(わらは)は秋山彦(あきやまひこ)の妻(つま)紅葉姫(もみぢひめ)と申(まを)す者(もの)、229御存(ごぞん)じの通(とほ)り不便(ふべん)の土地(とち)、230お構(かま)ひも出来(でき)ませぬが、231どうぞ、232ゆるりと御(ご)逗留(とうりう)下(くだ)さいませ』
233亀彦(かめひこ)『これはこれは痛(いた)み入(い)つたる御(ご)挨拶(あいさつ)、234何分(なにぶん)宜敷(よろし)くお願(ねが)ひ致(いた)します。235ヤア貴神(あなた)は尊様(みことさま)で御座(ござ)いましたか、236好(よ)うまア無事(ぶじ)で居(ゐ)て下(くだ)さいました。237嬉(うれ)しう存(ぞん)じます』
238素尊(すそん)『其(その)方(はう)は亀彦(かめひこ)なりしか、239無事(ぶじ)で先(ま)づ目出度(めでた)い。240英子姫(ひでこひめ)が途中(とちう)に於(おい)ていかいお世話(せわ)になつたさうだナア』
241亀彦(かめひこ)『どう致(いた)しまして』
242英子姫(ひでこひめ)『亀彦(かめひこ)さま貴方(あなた)も無事(ぶじ)でお目出度(めでた)う、243妾(わらは)は今(いま)の今迄(いままで)お案(あん)じ申(まをし)て居(を)りました、244安心(あんしん)安心(あんしん)』
245と喜(よろこ)ぶ折(をり)しも、246門外(もんぐわい)俄(にはか)に騒(さわ)がしく数多(あまた)の人声(ひとごゑ)、247秋山彦(あきやまひこ)は慌(あはただ)しく入(い)り来(きた)り、
248秋山彦『アヽ皆様(みなさま)、249お静(しづ)かにして下(くだ)さいませ、250表(おもて)は私(わたくし)が引受(ひきう)けます、251一寸(ちよつと)した事(こと)が起(おこ)つて来(き)ました』
252素尊(すそん)『アハヽヽヽ、253其(その)方(はう)好(よ)きに取計(とりはか)らへ』
254亀彦(かめひこ)『秋山彦(あきやまひこ)殿(どの)、255事(こと)が起(おこ)つたとは鬼雲彦(おにくもひこ)の襲来(しふらい)したのでせう、256何卒(どうぞ)私(わたくし)も連(つ)れて行(い)つて下(くだ)さい、257ヤア面白(おもしろ)い面白(おもしろ)い、258日頃(ひごろ)鍛(きた)へし言霊(ことたま)の力(ちから)を試(ため)すは今(いま)此(この)時(とき)』
259と先(さき)に立(た)つて行(ゆ)かむとす。260国武彦(くにたけひこ)は初(はじ)めて口(くち)を開(ひら)き、
261国武彦『ヤア亀彦(かめひこ)暫(しばら)く待(ま)たれよ、262尊(みこと)の御(お)許(ゆる)しあるまでは、263一寸(いつすん)も此(この)場(ば)を動(うご)く事(こと)罷(まか)りなりませぬぞ』
264 亀彦(かめひこ)右(みぎ)の手(て)にて頭(あたま)を掻(か)きながら、
265亀彦『ヘエヘエヘヽヽヽヘイ、266シシ仕方(しかた)がありませぬ、267ハイ、268鳴(な)るは鳴(な)るは此(この)腕(うで)が、269ウンウンと云(い)つて仕方(しかた)が無(な)いワイ』
270一同(いちどう)『アハヽヽヽ、271オホヽヽヽ』
272(大正一一・四・五 旧三・九 加藤明子録)
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【メールアドレス】
合言葉「みろく」を入力して下さい→